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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】変速機付き乗物
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/32 20060101AFI20220302BHJP
   B60W 50/08 20200101ALI20220302BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20220302BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 59/54 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 59/56 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 63/30 20060101ALI20220302BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
F16H61/32
B60W50/08
B60W50/10
F16H59/18
F16H59/42
F16H59/54
F16H59/56
F16H61/02
F16H63/30
F16H63/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018147447
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020023977
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
(72)【発明者】
【氏名】河合 大輔
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-074424(JP,A)
【文献】特開平08-093915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00
61/00
63/00
F16D 29/00
B60W 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の回転動力を変速する変速機を備えた乗物であって、
運転者が操作する変速操作子と、
運転者による前記変速操作子の操作力を変速動作のための変速動力として前記変速機に伝達する手動変速動力伝達機構と、
変速アクチュエータと、
前記変速アクチュエータの駆動力を前記変速動力として前記手動変速動力伝達機構に伝達する自動変速動力伝達機構と、
前記変速アクチュエータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
所定の自動変速指令に応じて前記変速アクチュエータを駆動する自動変速制御を実行する自動変速制御部と、
所定のアシスト条件の成立時において、運転者の前記変速操作子の操作による前記手動変速動力伝達機構の動作を補助するように、前記変速アクチュエータを駆動するアシスト制御を実行するアシスト制御部と、を有する、変速機付き乗物。
【請求項2】
前記コントローラは、前記アシスト条件の非成立時において手動操作検出器で検出される前記変速操作子の操作パターンを学習する学習部を更に有し、
前記自動変速制御部は、前記学習部の学習結果に基づいて前記変速アクチュエータの駆動パターンを決定する、請求項1に記載の変速機付き乗物。
【請求項3】
アクセル操作子、ブレーキ操作子又はクラッチ操作子を含む運転操作子の操作状態を検出する運転操作検出器を更に備え、
前記コントローラは、前記運転操作検出器の検出結果に基づいて運転者の変速意図の存在を判定する変速意図判定部を更に有し、
前記変速意図判定部は、運転者の変速意図の存在を判定すると前記自動変速指令を出力する、請求項1又は2に記載の変速機付き乗物。
【請求項4】
前記変速機は、1速位置と2速位置との間にニュートラル位置を有し、
前記コントローラは、前記乗物が走行中であるか停車中であるかを判定する走行/停止判定部を更に有し、
前記自動変速制御部及び前記アシスト制御部の少なくとも一方は、前記乗物が走行中であると判定されているとき、前記1速位置から加速側への変速時及び前記2速位置から減速側への変速時に、前記ニュートラル位置を飛ばすように前記変速アクチュエータを制御する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機付き乗物。
【請求項5】
前記変速機は、ニュートラル位置を有し、
前記原動機と前記変速機との間には、メインクラッチが設けられており、
前記コントローラは、前記変速機のギヤ位置を判定するギヤ位置判定部と、前記メインクラッチの状態を判定するクラッチ状態判定器と、前記乗物が走行中であるか停車中であるかを判定する走行/停止判定部と、を更に有し、
前記自動変速制御部及び前記アシスト制御部の少なくとも一方は、前記乗物が停車中であると判定され且つ前記メインクラッチが接続状態であると判定されているとき、前記ニュートラル位置からの変速を禁止するように前記変速アクチュエータを制御する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機付き乗物。
【請求項6】
運転者に操作されて前記自動変速指令を前記コントローラに入力する操作入力装置を更に備え、
前記変速機は、ドッグクラッチ式の変速機であり、
前記コントローラは、前記原動機を制御する原動機制御部を更に有し、
前記原動機制御部は、前記原動機が加速中の場合に前記操作入力装置による前記自動変速指令が検出されると、前記原動機への指令値を減速側に補正し、且つ、前記原動機が減速中の場合に前記操作入力装置による前記自動変速指令が検出されると、前記原動機への指令値を加速側に補正する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の変速機付き乗物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機の回転動力を変速する変速機を備えた乗物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動変速モード及び手動変速モードを含む変速システムが開示されている。自動変速モードでは、車速等が所定の条件を満たすとシフト制御モータが駆動されて変速機が動作する。手動変速モードでは、シフトセレクトスイッチが運転者により操作されるとシフト制御モータが駆動されて変速機が動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-237347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、手動変速モードのときであっても、変速機を変速動作させる変速動力は、運転者の操作力ではなくシフト制御モータの駆動力となる。そうすると、運転者は手動変速モードでの変速操作の際に変速機からの反力を受けることがないため、変速機を機械的に変速操作するフィーリングを得ることができず、運転の楽しみが減少してしまう。
【0005】
他方、運転者により操作される変速操作子(例えば、変速操作レバー)を変速機に機械的に接続したとすると、変速操作子はシフト制御モータにも機械的に接続されることになるため、運転者が変速操作子を操作する際に、モータによる機械抵抗が生じ、運転者に操作負担が生じる。また、仮に運転者による変速操作子の操作時にモータの機械抵抗が生じない構成にできたとしても、運転者がより小さい力で楽に手動変速を行いたいと考える場合もある。
【0006】
そこで本発明は、手動変速及び自動変速の両方の機能を有する乗物において、手動変速時における運転者の操作フィーリングを向上させながらも、運転者が小さい力で楽に変速操作子を操作することも可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る変速機付き乗物は、原動機の回転動力を変速する変速機を備えた乗物であって、運転者が操作する変速操作子と、運転者による前記変速操作子の操作力を変速動作のための変速動力として前記変速機に伝達する手動変速動力伝達機構と、変速アクチュエータと、前記変速アクチュエータの駆動力を前記変速動力として前記手動変速動力伝達機構に伝達する自動変速動力伝達機構と、前記変速アクチュエータを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、所定の自動変速指令に応じて前記変速アクチュエータを駆動する自動変速制御を実行する自動変速制御部と、所定のアシスト条件の成立時において、運転者の前記変速操作子の操作による前記手動変速動力伝達機構の動作を補助するように、前記変速アクチュエータを駆動するアシスト制御を実行するアシスト制御部と、を有する。
【0008】
前記構成によれば、運転者による変速操作子の操作力は、変速動作のための変速動力として手動変速動力伝達機構を介して変速機に伝達されるため、運転者は変速機からの反力を受けることができ、手動変速時における運転者の操作フィーリングが向上する。また、運転者による変速操作子の操作が検出されると手動変速動力伝達機構の動作が変速アクチュエータにより補助されるため、運転者は小さい力で楽に変速操作子を操作できると共に変速動作の確実性も向上する。従って、手動変速及び自動変速の両方の機能を有する乗物において、手動変速時における運転者の操作フィーリングを向上させながらも、運転者が小さい力で楽に変速操作子を操作することも可能とすることができる。
【0009】
前記コントローラは、前記アシスト条件の非成立時において前記手動操作検出器で検出される前記変速操作子の操作パターンを学習する学習部を更に有し、前記自動変速制御部は、前記学習部の学習結果に基づいて前記変速アクチュエータの駆動パターンを決定する構成としてもよい。
【0010】
前記構成によれば、自動変速制御部による自動変速が行われる際に、運転者による変速操作子の操作パターンを学習した内容で変速アクチュエータの駆動パターンが決定されるので、運転者の癖を反映した自動変速を実現できる。なお、操作パターンは、変速操作子の動きの傾向(例えば、操作力、操作速度、操作加速度等の傾向)でもよいし、変速操作子の操作時の車両状態の傾向(例えば、運転者が変速操作するときのエンジン回転数や車速等の傾向)でもよい。
【0011】
アクセル操作子、ブレーキ操作子又はクラッチ操作子を含む運転操作子の操作状態を検出する運転操作検出器を更に備え、前記コントローラは、前記運転操作検出器の検出結果に基づいて運転者の変速意図の存在を判定する変速意図判定部を更に有し、前記変速意図判定部は、運転者の変速意図の存在を判定すると前記自動変速指令を出力する構成としてもよい。
【0012】
前記構成によれば、運転者が自動変速専用の入力ボタン等を操作せずとも運転者の変速意図を推定して自動変速するため、運転者の操作負担を軽減できる。
【0013】
前記変速機は、1速位置と2速位置との間にニュートラル位置を有し、前記コントローラは、前記変速機のギヤ位置を判定するギヤ位置判定部と、前記乗物が走行中であるか停車中であるかを判定する走行/停止判定部と、を更に有し、前記自動変速制御部及び前記アシスト制御部の少なくとも一方は、前記乗物が走行中であると判定されているとき、前記1速位置から加速側への変速時及び前記2速位置から減速側への変速時に、前記ニュートラル位置を飛ばすように前記変速アクチュエータを制御する構成としてもよい。
【0014】
前記構成によれば、走行中及び停車中の両方において不適切な変速を防止することができる。なお、走行/停止判定部は、車速に基づいて判定してもよいし、サイドスタンドやクラッチの状態に基づいて判定してもよい。
【0015】
前記原動機と前記変速機との間には、メインクラッチが設けられており、前記コントローラは、前記メインクラッチの状態を判定するクラッチ状態判定器と、前記乗物が走行中であるか停車中であるかを判定する走行/停止判定部と、を更に有し、前記自動変速制御部及び前記アシスト制御部の少なくとも一方は、前記乗物が停車中であると判定され且つ前記メインクラッチが接続状態であると判定されているとき、前記ニュートラル位置からの変速を禁止するように前記変速アクチュエータを制御する構成としてもよい。
【0016】
前記構成によれば、走行中及び停車中の両方において不適切な変速を防止することができる。なお、走行/停止判定部は、車速に基づいて判定してもよいし、サイドスタンドやクラッチの状態に基づいて判定してもよい。
【0017】
運転者に操作されて前記自動変速指令を前記コントローラに入力する操作入力装置を更に備え、前記変速機は、ドッグクラッチ式の変速機であり、前記コントローラは、前記原動機を制御する原動機制御部を更に有し、前記原動機制御部は、前記原動機が加速中の場合に前記操作入力装置による前記自動変速指令が検出されると、前記原動機への指令値を減速側に補正し、且つ、前記原動機が減速中の場合に前記操作入力装置による前記自動変速指令が検出されると、前記原動機への指令値を加速側に補正する構成としてもよい。
【0018】
前記構成によれば、操作入力装置の入力操作による自動変速時において、変速動力伝達機構の動作開始を検出してから原動機の指令値補正を開始するのではなく、操作入力装置の入力操作を検出した時点で原動機の指令値補正を開始するので、原動機の指令値補正を早期に開始でき、円滑な変速を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、手動変速及び自動変速の両方の機能を有する乗物において、手動変速時における運転者の操作フィーリングを向上させながらも、運転者が小さい力で楽に変速操作子を操作することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る変速機付き車両の模式図である。
図2図1に示す車両の変速システムの変速動力伝達機構の模式図である。
図3図2に示す変速システムの制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0022】
図1は、実施形態に係る変速機付き車両1の模式図である。図1に示すように、車両1は、原動機E(例えば、内燃機関又は電動モータ)と、原動機Eが生成した回転動力を変速する変速機2と、原動機Eと変速機2との間に介設されたメインクラッチ3(例えば、多板クラッチ)とを備える。車両1は、原動機Eの回転動力を変速機2で変速して走行動力として利用する乗物であればよく、例えば自動二輪車等である。変速機2は、減速比の異なる複数組のギヤ列4を介して入力軸5から出力軸6に動力伝達可能に構成され、ギヤ列4のうち任意の一組を選択して変速を行う変速機である。例えば、変速機2は、ドッグクラッチ式の変速機である。変速機2は、1速位置と2速位置との間にニュートラル位置を有する。
【0023】
変速機2の入力軸5には、原動機Eのクランク軸Eaからの回転動力が伝達される。出力軸6には、駆動輪(図示せず)に動力を伝達する動力出力機構(例えば、チェーン又はベルト)が接続されている。変速機2では、入力軸5及び出力軸6に平行に設けられた支軸7にシフトフォーク8~10がスライド自在に支持されている。シフトフォーク8の一端部が入力軸5のドッグギヤ4aに接続され、別のシフトフォーク9,10の一端部が出力軸6のドッグギヤ4b,4cに接続されている。
【0024】
シフトフォーク8~10の他端部は、シフトドラム11の案内溝Gに嵌合している。シフトドラム11の一端部に操作動力が伝達されてシフトドラム11が回転すると、案内溝Gに案内されたシフトフォーク8~10が対応するドッグギヤ4a~cを出力軸6に沿ってスライドさせ、ギヤ列4のうち所望の減速比の1組が動力伝達状態となり、所望の変速段の動力伝達経路が選択されることになる。
【0025】
図2は、図1に示す車両1の変速システム20の変速動力伝達機構の模式図である。図2に示すように、変速システム20では、変速機2は、運転者による変速操作レバー21(変速操作子)の操作力によって回転可能であり、且つ、変速アクチュエータ22(例えば、電動モータ)の駆動力によっても回転可能である。即ち、運転者による変速操作レバー21の操作力と変速アクチュエータ22の駆動力とが、変速機2を動作させるための変速動力として利用され得る。具体的には、運転者に操作される変速操作レバー21がシフトドラム11(図1参照)を回転させ、且つ、変速アクチュエータ22がシフトドラム11を回転させる。
【0026】
変速システム20は、運転者による変速操作レバー21の操作力を変速機2のシフトドラム11(図1参照)に伝達する手動変速動力伝達機構23と、変速アクチュエータ22の駆動力を手動変速動力伝達機構23に伝達する自動変速動力伝達機構24とを備える。手動変速動力伝達機構23は、変速操作レバー21をシフトドラム11の一端部に機械的に接続している。変速操作レバー21は、揺動支軸25を揺動支点として運転者(例えば、足)により揺動操作される。手動変速動力伝達機構23は、第1ロッド26、荷重センサ42(手動変速動作検出器)、第2ロッド28、揺動アーム29、及び回動部材30を備える。
【0027】
第1ロッド26の一端部は、変速操作レバー21に一体化された揺動部21aに接続されている。揺動部21aは、変速操作レバー21が操作されると揺動支軸25を支点として揺動する。第2ロッド28は、第1ロッド26と同一直線上に配置され、第1ロッド26の他端部と第2ロッド28の一端部とが荷重センサ42を介して接続されている。第2ロッド28の他端部は、揺動アーム29の一端部に連結されている。揺動アーム29の他端部は、回動部材30に固定されている。回動部材30は、シフトドラム11(図1参照)の一端部に共回転するように取り付けられている。
【0028】
変速操作レバー21が一方向に操作されると、第1ロッド26、荷重センサ42、第2ロッド28及び揺動アーム29を介して回動部材30が一方向に回動し、シフトドラム11がシフトアップ側に回転する。他方、変速操作レバー21が反対方向に操作されると、回動部材30が反対方向に回動し、シフトドラム11がシフトダウン側に回転する。変速操作レバー21が操作されると、当該操作が荷重センサ42により検出される。なお、手動変速操作検出器として荷重センサ42を例示したが、手動変速操作検出器は他のセンサでもよく、例えば、変速操作レバー21又はシフトドラム11の角変位を検出する変位センサでもよいし、運転者(の足)の動作を検出するモーションセンサ又はカメラ等でもよい。
【0029】
自動変速動力伝達機構24は、変速アクチュエータ22の駆動力を回動部材30に伝達して回動部材30を回動させる機構である。本実施形態では、自動変速動力伝達機構24は、変速アクチュエータ22と回動部材30との間に介設された逃げ部31を備えるが、逃げ部31を備えない構成としてもよい。逃げ部31は、変速アクチュエータ22の回転駆動力を回動部材30に伝達可能であり、且つ、変速操作レバー21の操作による手動変速動力伝達機構23の動作が変速アクチュエータ22に伝達されることを阻止する。
【0030】
具体的には、逃げ部31は、被係合部材32及び係合部材33を備える。被係合部材32は、被係合部32aを有し、変速アクチュエータ22に連動する。例えば、被係合部材32は、変速アクチュエータ22により駆動される回転軸34より回動する板状部材であり、被係合部32aは、被係合部材32に形成された長穴状の被係合穴である。係合部材33は、被係合部32aに係合する係合部33aを有し、手動変速動力伝達機構23(具体的には、回動部材30)の動作に連動する。例えば、係合部材33は、回動部材30から突出したアーム状部材であり、係合部33aは、係合部材33の先端部から被係合部32aの被係合穴に挿入された係合ピンである。
【0031】
逃げ部31は、手動変速動力伝達機構23の動作に連動した係合部材33の動作方向において被係合部32aと係合部33aとの間に形成された遊び部35を有する。遊び部35は、手動変速動力伝達機構23の動作に伴う係合部33aの移動範囲の全体を含む領域に形成されている。これにより、変速操作レバー21の操作により変速機2が手動変速される際には、回動部材30の回動に伴って係合部材33が回動しても、係合部33aは遊び部35の範囲内で変位(空動)して被係合部材32に干渉しない。即ち、手動変速動力伝達機構23からの動力の伝達が遊び部35において切断され、当該動力が被係合部材32を介して変速アクチュエータ22に伝達されることが阻止される。よって、変速操作レバー21の操作時に運転者に変速アクチュエータ22の機械抵抗が伝わらない。
【0032】
変速システム20は、コントローラ36、操作入力装置37及び各種検出器38~44を備え、コントローラ36は、操作入力装置37及び各種検出器38~44からの信号に基づいて、変速アクチュエータ22及び原動機Eを制御する。変速アクチュエータ22の駆動力により変速機2が自動変速される際には、変速アクチュエータ22による回転軸34の回転により被係合部32aが係合部33aに当接するまで被係合部材32が揺動し、それに続いて更に変速アクチュエータ22により被係合部材32が揺動することで被係合部32aにより係合部33aが押される。これにより、回動部材30が回動してシフトドラム11が回転し、自動変速が実現される。変速アクチュエータ22による変速操作が完了すると、係合部33aがその動作方向における被係合部材32の穴の中心に戻るように変速アクチュエータ22が制御される。
【0033】
運転者による変速操作レバー21の操作力は、変速動作のための変速動力として手動変速動力伝達機構23を介して変速機2のシフトドラム11に伝達されるため、運転者は変速機2からの反力を受けることができ、手動変速時における運転者の操作フィーリングが向上する。よって、手動変速及び自動変速の両方の機能を有する車両1において、運転者は手動変速時に適度な操作感を得ることができ、運転者の操作フィーリングが良好となる。
【0034】
図3は、図2に示す変速システム20の制御ブロック図である。図3に示すように、コントローラ36の入力側には、操作入力装置37、クラッチスイッチ38(クラッチ状態検出器:運転操作検出器)、ブレーキセンサ39(運転操作検出器)、車速センサ40、回転数センサ41、荷重センサ42(手動変速操作検出器)、アクセルセンサ43(運転操作検出器)、及び、ギヤポジションセンサ44(変速動作検出器)が接続されている。
【0035】
操作入力装置37は、運転者(例えば、手)により操作されるものであり、例えば、タッチパネルディスプレイ、入力ボタン又は入力レバーである。クラッチスイッチ38は、メインクラッチ3の状態(接続状態又は切断状態)を検出する。クラッチスイッチ38は、例えば、運転者が操作する図示しないクラッチレバー等のクラッチ操作子(運転操作子)の操作状態(クラッチ接続状態又は切断状態)を検出するものでもよいし、メインクラッチ3の状態(接続状態又は切断状態)を検出するものでもよい。なお、クラッチ状態検出器としてスイッチを用いる代わりにセンサを用いてもよい。
【0036】
ブレーキセンサ39は、車両1を制動するための図示しないブレーキ操作子(運転操作子)の操作状態(制動状態又は非制動状態)を検出する。ブレーキセンサ39は、例えば、図示しないブレーキレバー等のブレーキ操作子(運転操作子)の位置を検出する位置センサでもよいし、ブレーキ圧を検出する圧力センサでもよい。車速センサ40は、車両1の走行速度を検出し、例えば、非駆動輪の回転速度を検出する。回転数センサ41は、原動機Eの回転数を検出する。
【0037】
荷重センサ42は、手動変速動力伝達機構23に負荷される荷重を検出することで、運転者による変速操作レバー21の操作の有無を検出する。アクセルセンサ43は、図示しないアクセルグリップ等のアクセル操作子(運転操作子)の操作量を検出する。なお、原動機Eが内燃機関である場合には、アクセル操作子に連動するスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサをアクセルセンサ43として代用してもよい。ギヤポジションセンサ44は、変速機2のギヤ列4のうち動力伝達状態に選ばれた組を検出することで、変速位置を検出する。ギヤポジションセンサ44は、変速機2の変速位置を連続的に検出してもよいし段階的に検出してもよい。
【0038】
コントローラ36は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を備える。コントローラ36は、ソフトウェア面において、自動変速制御部51、アシスト制御部52、原動機制御部53、変速意図判定部54、走行/停止判定部55及び学習部56を備える。即ち、コントローラ36の各部51~56は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0039】
自動変速制御部51は、所定の自動変速指令に応じて変速アクチュエータ22を駆動してシフトドラム11を回動させて自動変速制御を実行する。前記自動変速指令は、種々のソースから自動変速制御部51に入力し得る。例えば、前記自動変速指令は、運転者が操作入力装置37に対して自動変速を行う旨の入力操作を行うことで自動変速制御部51に入力される。また、前記自動変速指令は、後述の変速意図判定部54により運転者が変速する意図を有すると判定されたとき変速意図判定部54から自動変速制御部51に入力される。
【0040】
コントローラ36は、自動変速制御部51が自動変速制御を実行するときには、出力装置(例えば、表示装置、音発生装置、バイブレータ等)に指令し、自動変速制御を実行中であることを運転者が識別可能な出力(例えば、表示、音出力、振動発生等)を行わせてもよい。
【0041】
自動変速制御部51は、車体状態が特定状態にあると判定されると、自動変速制御を禁止してもよい。例えば、自動変速制御部51は、車両1が車体を傾斜させてコーナリングするリーン車両(例えば、自動二輪車)である場合には、リーン角が所定値を超えた状態(バンク状態)であると判定されると、自動変速制御を禁止してもよい。自動変速制御部51は、車両1がウィリー状態又はスリップ状態であると判定されると、自動変速制御を禁止してもよい。
【0042】
アシスト制御部52は、所定のアシスト条件の成立時に、運転者の変速操作レバー21の操作による手動変速動力伝達機構23の動作を補助するように、荷重センサ42の検出信号に応じて変速アクチュエータ22を駆動するアシスト制御を実行する。即ち、アシスト制御部52は、運転者が変速操作レバー21を操作するのに要する力が少なくて済むように、運転者による変速動力に対して変速アクチュエータ22による変速動力を重畳させる。アシスト制御部52は、荷重センサ42又はギヤポジションセンサ44の検出信号から手動変速が完了したと判定されると、アシスト制御を終了する。
【0043】
前記アシスト条件は、運転者が変速操作レバー21を操作開始することが検知された場合に成立する。本実施形態では、荷重センサ42が検出する荷重が所定の閾値を超えると、前記アシスト条件が成立する。また、前記アシスト条件は、原動機Eの回転数と駆動輪の回転数とに基づいて、変速機2のドッグクラッチの係合側と被係合側との回転数差が所定値を超えていると判定された場合に成立してもよい。この場合、前記回転数差が大きいことでドッグクラッチが非係合状態から係合状態になる際の抵抗が大きくても、変速アクチュエータ22のアシスト力により変速ショックや変速ミスを防止できる。
【0044】
コントローラ36は、アシスト制御部52がアシスト制御を実行するときには、出力装置(例えば、表示装置、音発生装置、バイブレータ等)に指令し、アシスト制御を実行中であることを運転者が識別可能な出力(例えば、表示、音出力、振動発生等)を行わせてもよい。
【0045】
コントローラ36は、アシスト制御部52によるアシスト制御を有効とするアシスト制御有効モードと、アシスト制御部52によるアシスト制御を無効にするアシスト制御無効モードとを有し、これらモードを運転者の選択により互いに切り替え可能な構成としてもよい。その場合には、アシスト制御有効モードが選択された状態において荷重センサ42が検出する荷重が所定の閾値を超えると、前記アシスト条件が成立するが、アシスト制御無効モードが選択された状態において荷重センサ42が検出する荷重が所定の閾値を超えても、前記アシスト条件は成立しない。
【0046】
運転者による変速操作レバー21の操作が荷重センサ42により検出されると、手動変速動力伝達機構23の動作が変速アクチュエータ22により補助されるため、運転者は小さい力で楽に変速操作レバー21を操作できると共に変速動作の確実性も向上する。従って、手動変速及び自動変速の両方の機能を有する車両1において、手動変速時における運転者の操作フィーリングを向上させながらも、運転者が小さい力で楽に変速操作レバー21を操作できる。
【0047】
原動機制御部53は、アクセルセンサ43、回転数センサ41及びギヤポジションセンサ44の検出信号と操作入力装置37からの入力信号とに基づいて原動機Eを制御する。原動機制御部53は、回転数センサ41の検出信号に基づいて原動機Eが加速中であると判定されるときに操作入力装置37による自動変速指令が検出されると、原動機Eへの指令値を減速側に補正する(例えば、内燃機関の場合にはイグニッションを一時的に停止させる又はスロットル開度を一時的に減少させる)。また、原動機制御部53は、回転数センサ41の検出信号に基づいて原動機Eが減速中であると判定されるときに操作入力装置37による自動変速指令が検出されると、原動機Eへの指令値を加速側に補正する(例えば、内燃機関の場合にはスロットル開度を一時的に増加させる)。
【0048】
このような制御により、変速時において変速機2のドッグギヤ4a~c(図1参照)のうち係合中のドッグギヤへの回転方向の負荷が一時的に解かれるため、原動機Eと変速機2との間の動力伝達を切断せずともドッグクラッチを動作させることができ、運転者はメインクラッチ3を操作せずとも簡単かつ迅速な変速操作を行うことが可能となる。しかも、自動変速時において、自動変速動力伝達機構24の動作開始を検出してから原動機Eの指令値補正を開始するのではなく、操作入力装置37の入力操作を検出した時点で原動機Eの指令値補正を開始するので、原動機Eの指令値補正を早期に開始でき、円滑な変速が実現される。
【0049】
変速意図判定部54は、運転者が操作入力装置37を操作せずとも、運転者に変速意図があることを推定して自動変速制御部51に自動変速を実施させるためのものである。変速意図判定部54は、クラッチスイッチ38、ブレーキセンサ39及びアクセルセンサ43のうち少なくとも1つのセンサの検出結果に基づいて運転者の変速意図の有無を判定し、運転者に変速意図があると判定すると自動変速制御部51に自動変速指令を出力する。
【0050】
例えば、変速意図判定部54は、クラッチスイッチ38によりメインクラッチ3が切断されたことが検出され、且つ、アクセルセンサ43によりアクセル操作子が非操作位置(全閉位置)であることが検出されると、運転者に変速意図があると判定する。変速意図判定部54は、アクセルセンサ43によりアクセル操作子の操作量が増減を繰り返すブリッピング操作が検出されると、運転者に変速意図があると判定してもよい。変速意図判定部54は、クラッチスイッチ38によりメインクラッチ3が切断されたことが検出されたことのみをもって運転者に変速意図があると判定してもよい。
【0051】
更に、変速意図判定部54は、運転者に変速意図があると判定すると、車速センサ40の検出信号に基づいて変速の向き(シフトアップ又はシフトダウン)も判定する。例えば、変速意図判定部54は、車速変化から加速中であると判定されると、運転者はシフトアップの意図があると判定する一方、車速変化から減速中であると判定されると、運転者はシフトダウンの意図があると判定する。車両1の加減速状態は、車速センサ40の検出信号に代えて加速度センサ(例えば、ジャイロセンサ)の検出信号に基づいて判定されてもよい。
【0052】
変速意図判定部54は、運転者に変速意図があると判定すると、ブレーキセンサ39の検出信号に基づいて変速の向き(シフトアップ又はシフトダウン)も判定する構成としてもよい。具体的には、変速意図判定部54は、運転者に変速意図があると判定されたときにブレーキ操作が検出されると、運転者にシフトダウンの意図があると判定してもよい。
【0053】
走行/停止判定部55は、車速センサ40の検出信号に基づいて車両1が走行中であるか停車中であるかを判定する。走行/停止判定部55により車両1が走行中であると判定されている場合、自動変速制御部51及びアシスト制御部52は、変速機2において1速位置から加速側への変速時及び2速位置から減速側への変速時にギヤポジションセンサ44の検出信号を参照しながらニュートラル位置を飛ばすように変速アクチュエータ22を制御する。
【0054】
原動機Eが内燃機関である場合、走行/停止判定部55により車両1が停車中であると判定されて且つクラッチスイッチ38によりメインクラッチ3が接続状態であることが検出されている場合、自動変速制御部51及びアシスト制御部52は、ニュートラル位置からの変速を禁止するように変速アクチュエータ22を制御する。即ち、停車中に原動機Eと駆動輪との間の動力伝達経路が接続されて原動機Eがストールすることが防止される。よって、走行中及び停車中の両方において不適切な変速を防止することができる。なお、走行/停止判定部55は、車速に基づいて判定してもよいし、サイドスタンドの使用時に停車状態と判定し且つサイドスタンドの不使用時に走行状態と判定してもよい。
【0055】
学習部56は、前記アシスト条件の非成立時において、少なくとも荷重センサ42で検出される変速操作レバー21の操作パターン、即ち、変速操作レバー21の動きの傾向(例えば、操作力、操作速度、操作加速度等の傾向)を学習する。自動変速制御部51は、学習部56の学習結果に基づいて変速アクチュエータ22の駆動パターンを決定する。これによれば、自動変速制御部51による自動変速が行われる際に、手動変速時の運転者による変速操作レバー21の操作パターンを学習した内容で変速アクチュエータ22の駆動パターンが決定されるので、手動変速時における運転者の癖を反映した自動変速を実現できる。
【0056】
学習部56は、前記操作パターンとして、変速操作レバー21の手動操作時の車両状態の傾向を学習してもよい。例えば、学習部56は、手動変速時における車速センサ40の検出信号に基づいて、運転者が手動変速操作するときの車速の傾向を学習し、自動変速制御部51による自動変速の実施時期を決定してもよい。学習部56は、手動変速時における回転数センサ41の検出信号に基づいて、運転者が手動変速操作するときの原動機Eの回転数の傾向を学習し、自動変速制御部51による自動変速の実施時期を決定してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
2 変速機
3 メインクラッチ
21 変速操作レバー(変速操作子)
22 変速アクチュエータ
23 手動変速動力伝達機構
24 自動変速動力伝達機構
36 コントローラ
37 操作入力装置
38 クラッチスイッチ(運転操作検出器:クラッチ状態検出器)
39 ブレーキセンサ(運転操作検出器)
40 車速センサ
41 回転数センサ
42 荷重センサ(手動変速動作検出器)
43 アクセルセンサ(運転操作検出器)
44 ギヤポジションセンサ
51 自動変速制御部
52 アシスト制御部
53 原動機制御部
54 変速意図判定部
55 走行/停止判定部
56 学習部
E 原動機
図1
図2
図3