(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】作業車輌
(51)【国際特許分類】
B60K 23/00 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
B60K23/00 Z
(21)【出願番号】P 2018217470
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 武二
(72)【発明者】
【氏名】内田 恵三
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-354086(JP,A)
【文献】特開2003-211992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源からの動力によって走行する走行部を備えた走行機体と、
複数の変速ギヤを備え、これら複数の変速ギヤの噛合状態を変更することによって、前記駆動源からの回転を変速して前記走行部へと出力可能に構成されたミッションユニットと、
前記駆動源から前記ミッションユニットへの動力伝達を断接する主クラッチと、
前記ミッションユニットの変速を行う際に作業者が操作をして、前記主クラッチを、駆動力を伝達する係合状態から駆動力を伝達しない切断状態へと切り換えるクラッチ操作具と、
前記ミッションユニットから前記走行部へ伝達される駆動力の回転方向を前進時の第1回転方向とする第1状態と、前記ミッションユニットから前記走行部へ伝達される駆動力の回転方向を後進時の前記第1回転方向とは反対の第2回転方向とする第2状態と、の間で切り換わる前後進切換ユニットと、
作業者が操作して前記前後進切換ユニットを前記第1状態と前記第2状態との間で切り換える前後進切り換え操作具と、
前記走行機体の機体制御を行う第1制御部と、
前記前後進切り換え操作具が前進位置となったことに基づいて、前記前後進切換ユニットを前記第1状態とし、前記前後進切り換え操作具が後進位置となったことに基づいて、前記前後進切換ユニットを前記第2状態とする第2制御部と、
前記前後進切換ユニットの故障を報知するチェックユニットと、を備え、
前記チェックユニットは、前記第2制御部とは別体に形成され、かつ、前記第2制御部とは離間した位置に配置された、
ことを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
前記走行機体は、作業者が前記走行機体の操舵を行うステアリングユニットを備え、
前記チェックユニットは、前記ステアリングユニットの下方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車輌。
【請求項3】
前記走行機体の前後方向において、前記チェックユニットは、前記ステアリングユニットよりも後方側に位置し、前記第2制御部は、前記ステアリングユニットよりも前方側に位置している、
ことを特徴とする請求項2記載の作業車輌。
【請求項4】
前記チェックユニットは、前記前後進切換ユニットの状態を報知するランプ装置と、前記前後進切換ユニットの故障診断を実行させるための入力スイッチと、を備えている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の作業車輌。
【請求項5】
前記チェックユニットは、前記前後進切換ユニットの故障診断内容に応じて、前記ランプ装置の点灯時間と点滅回数のいずれか一方または両方を変更する、
ことを特徴とする請求項4記載の作業車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、農業用のトラクタに代表される作業車輌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業車輌の一例である農業用のトラクタは、走行機体の前部にエンジンを搭載し、エンジンより後方の走行機体に設置された運転室に乗り込んだ作業者の操作により、走行機体を走行させながら作業機による種々の作業を行うようにしている。運転室には、作業者が着座する座席のほか、前後進切換レバー、クラッチペダル、ブレーキペダル、作業機を昇降させる昇降レバー、車速を変更する変速レバー、走行操作を行うステアリングホイール等が設置されている。
【0003】
従来、特許文献1に記載されているように、運転室の後方に後部カバーで覆われたスペースを形成し、このスペース内に車輌全体の油圧機器類や電装機器類等を制御する制御用マイコンを設置すると共に、後部カバーに制御用マイコンの操作を開放させる開口を穿設したものが知られている。ここで、開口には可撓性を有するキャップが着脱自在に取付けられており、キャップを開口から取り外して制御用マイコンとアクセス可能な状態にすれば、制御用マイコンのメンテナンス作業や故障診断等を容易に行うことができるようになっている。
【0004】
また、この種のトラクタでは、エンジンの動力をミッションケースに内蔵された変速装置や差動装置を介して前輪や後輪に伝達して走行を行うと共に、PTO変速装置を介して走行機体の後部に連結した作業機を駆動するようにしている。
【0005】
これらの変速装置は、クラッチペダルの踏み込みにより主クラッチを切断した状態で、例えば、常時噛み合い式の歯車変速装置をシフトフォークのスライド操作により手動で切り換える機械式の歯車変速装置や、油圧クラッチの選択接合により歯車の噛み合い状態を変更する油圧クラッチ式の歯車変速装置等が採用されている。
【0006】
なお、後者の油圧クラッチ式では、クラッチペダルを踏み込んで主クラッチを切断しなくても変速できるため、変速操作をスムーズに行うことができるが、油圧クラッチや油圧制御回路等を必要とするため、一般的には前者の機械式に比べると高価になる。
【0007】
そこで、特許文献2に記載されているように、ユーザの好みによって機械式の歯車変速装置を採用する仕様と、油圧クラッチ式の歯車変速装置を採用する仕様のいずれかを選択できるように、仕様が異なる2種類のトラクタを用意しておき、これら仕様の異なる両方に兼用できるミッションケースを用いることにより、金型費を含めたコストダウンを図ることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-88189号公報
【文献】特開2001-105911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、機械式の前後進切換装置のクラッチ部分を油圧クラッチ式に変更する場合、後付けされる前後進切換ユニットを制御するマイコンユニットを走行機体の任意箇所に設置する必要があるが、トラクタにおける設置スペースは限られているため、マイコンユニットを既設の制御用マイコンのようなアクセスし易い位置に設置することは困難となる。
【0010】
そのため、前後進切換ユニットを制御するマイコンユニットは、例えば、運転席前方のステアリングシャフト等が収納された収納空間の奥まった位置に設置する必要があり、その場合、マイコンユニットの故障診断をチェックすることが難しくなるという問題が発生する。
【0011】
そこで、本発明は、後付け用の前後進切換ユニットを制御する制御部の設置場所に関わらず、前後進切換ユニットや制御部の故障診断を容易にチェックできる作業車輌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
駆動源(61)と、
前記駆動源(61)からの動力によって走行する走行部(2,3)を備えた走行機体(4)と、
複数の変速ギヤを備え、これら複数の変速ギヤの噛合状態を変更することによって、前記駆動源(61)からの回転を変速して前記走行部(2,3)へと出力可能に構成されたミッションユニットと、
前記駆動源(61)から前記ミッションユニットへの動力伝達を断接する主クラッチと、
前記ミッションユニットの変速を行う際に作業者が操作をして、前記主クラッチを、駆動力を伝達する係合状態から駆動力を伝達しない切断状態へと切り換えるクラッチ操作具(12)と、
前記ミッションユニットから前記走行部(2,3)へ伝達される駆動力の回転方向を前進時の第1回転方向とする第1状態と、前記ミッションユニットから前記走行部(2,3)へ伝達される駆動力の回転方向を後進時の前記第1回転方向とは反対の第2回転方向とする第2状態と、の間で切り換わる前後進切換ユニット(21)と、
作業者が操作して前記前後進切換ユニット(21)を前記第1状態と前記第2状態との間で切り換える前後進切り換え操作具(63)と、
前記走行機体(4)の機体制御を行う第1制御部(22)と、
前記前後進切り換え操作具(63)が前進位置となったことに基づいて、前記前後進切換ユニット(21)を前記第1状態とし、前記前後進切り換え操作具(63)が後進位置となったことに基づいて、前記前後進切換ユニット(21)を前記第2状態とする第2制御部(19)と、
前記前後進切換ユニット(21)の故障を報知するチェックユニット(20)と、を備え、
前記チェックユニット(20)は、前記第2制御部(19)とは別体に形成され、かつ、前記第2制御部(19)とは離間した位置に配置された、
ことを特徴とする作業車輌(1)にある。
【0013】
例えば
図3を参照して、前記走行機体(4)は、作業者が前記走行機体(4)の操舵を行うステアリングユニット(90)を備え、前記チェックユニット(20)は、前記ステアリングユニット(90)の下方に配置されている。
【0014】
例えば
図3を参照して、前記走行機体(4)の前後方向において、前記チェックユニット(20)は、前記ステアリングユニット(90)よりも後方側に位置し、前記第2制御部(19)は、前記ステアリングユニット(90)よりも前方側に位置している.
【0015】
例えば
図5を参照して、前記チェックユニット(20)は、前記前後進切換ユニット(21)の状態を報知するランプ装置(23)と、前記前後進切換ユニット(21)の故障診断を実行させるための入力スイッチ(24)と、を備えている。
【0016】
前チェックユニット(20)は、前記前後進切換ユニット(21)の故障診断内容に応じて、前記ランプ装置(23)の点灯時間と点滅回数のいずれか一方または両方を変更する。
【0017】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によると、前後進切換ユニットの故障診断を出力するチェックユニットを第2制御部と別ユニットとして構成し、このチェックユニットを第2制御部から離れた別の位置に設置するようにしたので、第2制御部の設置場所の自由度が広がると共に、前後進切換ユニットの故障診断を容易に行うことができる。
【0019】
請求項2に係る発明によると、上記チェックユニットが走行機体の操舵を行うステアリングユニットの下方に配置されているので、チェックユニットに容易にアクセスすることができる。
【0020】
請求項3に係る発明によると、上記チェックユニットがステアリングユニットよりも後方側に位置し、上記第2制御部がステアリングユニットよりも前方側に位置しているので、第2制御部を収納スペースに比較的余裕があるステアリングユニットの前方に設置することができる。
【0021】
請求項4に係る発明によると、上記チェックユニットは、上記前後進切換ユニットの状態を報知するランプ装置と、上記前後進切換ユニットの故障診断を実行させるための入力スイッチとを備えているので、入力スイッチを用いてランプ装置の動作モードを切り換えることにより、複数の故障箇所や故障内容を判断することができる。
【0022】
請求項5に係る発明によると、上記チェックユニットは、上記前後進切換ユニットの故障診断内容に応じて、上記ランプ装置の点灯時間と点滅回数のいずれか一方または両方を変更するので、1つのランプ装置を用いて複数の故障箇所や故障内容を報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係るトラクタの側面図。
【
図2】上記トラクタの運転席を上方から視た斜視図。
【
図3】運転席およびパネルカバーの内部構造を側方から視た側面図。
【
図4】上記トラクタに搭載された制御装置のブロック図。
【
図6】パネルカバーの一部を省略して内部構造を上方から視た斜視図。
【
図7】リアカバーを取り外してチェックユニットを露出させた状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の作業車輌を適用したトラクタ1の側面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るトラクタ1は、左右一対の前輪2および後輪3を有する走行機体4を備えており、この走行機体4の前方には、上記走行機体4の走行部としての前輪2及び後輪3を駆動させる駆動源としてのエンジン61が収容されたボンネット6が設けられ、その後方には各種の作業機(図示せず)が選択的に連結されるよう構成された昇降リンク5が設けられている。
【0025】
また、走行機体4の底部にはミッションケース7が設けられており、このミッションケース7の内部には、エンジン61からの回転を変速するミッションユニット、エンジン61からミッションユニットへの動力伝達を断接する主クラッチ(いずれも図示せず)などが設けられている。なお、本実施の形態において、上記ミッションユニットは、複数の変速ギヤを備えた多段変速のミッションユニットとして構成されており、これら複数の変速ギヤの噛合状態を変更することによってエンジン61からの回転を変速して上記前輪2及び後輪3に出力可能に構成されている。
【0026】
また、走行機体4において、上記ボンネット6の後方には、作業者が着座してトラクタ1を操作する運転操作部8が設けられている。
図2及び
図3に示すように、運転操作部8は、エンジン61が収納されたエンジンルームとは隔壁を挟んで仕切られており、この隔壁の後方には、操舵輪である前輪2を操舵するためのステアリングユニット90や、車輌の走行速度、エンジン61の回転速度、作業機の状態などの車輌状態を表示するメータパネル140などが設けられている。
【0027】
また、
図3に示すように、上記ステアリングユニット90及びメータパネル140は、パネルカバー14に覆われていると共に、ステアリングユニット90は、作業者が操舵操作を行うステアリングホイール9、その上端にステアリングホイール9が取り付けられたステアリングシャフト16、ステアリングシャフト16に連結されると共に作業者の操舵操作を補助するパワーステアリングユニット17などを備えて構成されている。
【0028】
更に、運転操作部8は、上記ステアリングユニット90に対向する形で、作業者が着座する座席10を備えており、座席10の前方の床面には、クラッチペダル12、ブレーキペダル13などが設置されている。また、座席10の側方には、上述したミッションユニットの主変速部を操作する主変速レバー31、ミッションユニットの副変速部を操作する副変速レバー32が設けられている。ミッションユニットは、作業者がクラッチペダル12を踏み込み、主クラッチによってエンジン61からミッションユニットへの動力伝達が切断された状態で、上記主変速レバー31もしくは副変速レバー32を操作することによって変速される。即ち、本実施の形態において、上記クラッチペダル12は、ミッションユニットの変速を行う際に作業者が操作をして、主クラッチを、駆動力を伝達する係合状態から駆動力を伝達しない切断状態へと切り換えるクラッチ操作具となっている。また、上記主変速レバー31及び副変速レバー32によって、ミッションユニットの変速状態を操作する変速操作具が構成されている。
【0029】
更に、
図3に示すように、パネルカバー14の内部空間S内において、ステアリングユニット90よりもエンジン側、即ち、ステアリングユニット90よりも機体前方側の空間に前後進切換ユニット21用のマイコンユニット19が設けられている。
【0030】
図4に示すように、上記前後進切換用マイコンユニット19は、車輌全体の油圧機器類や電装機器類等を制御しているマイコンユニットである車輌制御部22に接続されて、この車輌制御部22と共にトラクタ1の制御装置を構成している。より具体的には、第1制御部としての車輌制御部22は、演算部としてのCPUや、ROM、RAMなどの記憶装置等を含んで構成されており、走行機体4の走行部2,3、エンジン61、エンジンの出力を調整するエンジンコントロールレバー62(
図2参照)、昇降リンク5などが接続されて走行機体4の機体制御を行っている。なお、本実施の形態における機体制御には、走行機体4の姿勢制御、エンジンの出力制御、作業機の昇降制御、メータパネル140の表示制御などが含まれる。
【0031】
また、第2制御部である前後進切換用マイコンユニット19は、前後進切換ユニット21を制御するための専用のマイコンユニットである。本実施の形態に係るトラクタ1のミッションケース7は、前後進切り換えを含んだすべての変速操作時に、クラッチペダル12を踏み込んで主クラッチを切断状態とする必要のある変速機械式のミッション部を搭載したトラクタと部品が共通化されて構成されており、本実施の形態に係るミッション部は、上記変速機械式のミッション部に対して、走行機体4の前後進を決定する前後進切換部分の構成が油圧クラッチ式に構成されている点で異なっている。
【0032】
より詳しくは、本実施の形態において、上述した走行機体4の前後進を決定する前後進切換部分の構成である前後進切換ユニット21は、
図4に示すように、前進油圧クラッチ21Fと、後進油圧クラッチ21Rとを備えて構成されている。これら前進及び後進油圧クラッチ21F,21Rは、それぞれリニアソレノイドバルブによって制御される湿式多板クラッチによって構成されており、前後進切換用マイコンユニット19により上述したリニアソレノイドバルブが制御されて、前進時には、上記前進油圧クラッチ21Fが係合され、かつ、後進油圧クラッチ21Rが解放された第1状態となり、後進時には、上記前進油圧クラッチ21Fが解放され、かつ、後進油圧クラッチ21Rが係合された第2状態となる。
【0033】
前後進切換用マイコンユニット19は、前後進操作レバー63が前進位置に位置していることに基づいて、前後進切換ユニット21を上記第1状態とし、この第1状態となるとミッションユニットから走行部2,3へ伝達される駆動力の回転方向が前進時の第1回転方向となる。また、前後進操作レバー63が後進位置に位置していることに基づいて、前後進切換ユニット21を上記第2状態とし、この第2状態では、ミッションユニットから走行部2,3へ伝達される駆動力の回転方向を後進時の第1回転方向とは反対の第2回転方向となる。即ち、本実施の形態において、前後進操作レバー63は、走行機体4の前後進を決定する際に作業者が操作して、前後進切換ユニット21を第1状態と第2状態との間で切り換える前後進切り換え操作具となっている。
【0034】
上述したように前後進切換ユニット21がシフトフォークのスライド操作によって切り換わる機械式ではなく油圧式によって構成されているため、作業者は圃場における作業中に頻繁に繰り返される前後進の切り換えについては、クラッチペダル12を用いた主クラッチの操作を必要とせずに、前後進操作レバー63の切り換えのみにて行えるようになっている。
【0035】
また、本実施の形態では、ミッションケース7を油圧制御式のクラッチを備えていない機械式のミッション部を備えたトラクタ(いわゆるギヤ車)と共通仕様とし、前後進切換ユニットを機械式にするか油圧式にするかの違いで、トラクタのラインナップとしてギヤ車と前後進切り換え時にクラッチ操作の必要のないノンクラ車と、を安価に設けることができるようになっている。
【0036】
加えて、上述した油圧式の前後進切換用マイコンユニット19を、ギヤ車仕様のトラクタと共通して仕様される車輌制御部22とは別体に形成したため、これらギヤ車仕様及びノンクラ仕様のトラクタの共通仕様部分の制御のみを車輌制御部22が担当すれば良くなり、設計負荷が軽くなると共に、ギヤ車仕様のトラクタの車輌制御部にわざわざノンクラ仕様特有の制御データを入れ込む必要がなく、更なるコストダウンを可能としている。
【0037】
しかしながら、ギヤ車仕様と共通の車輌制御部22については、作業者がアクセス容易な運転操作部8の後方のスペース内にカバー等で覆われて配置されているが、ノンクラ仕様のトラクタにしか搭載されない前後進切換用マイコンユニット19については、搭載スペースが限られる関係上、上述したようにパネルカバー14の内部空間Sにおいて、ステアリングユニット90よりも奥側(前方側)に配置されている(
図3参照)。このため、例えばトラクタ1の走行に異常が生じた際に、車輌制御部22が制御を担当している部分については、車輌制御部22自体に備わっているランプ等のインジケータを確認することによって、機体の何処に故障が生じているのか否かを判断することができるが、上述したように前後進切換用マイコンユニット19については、パネルカバー14内の奥まった場所に設けられているため、直接、後進切換用マイコンユニット19にアクセスして前後進切換ユニット21に関連した機構に故障が発生しているか否かを確認することが困難であるという問題があった。
【0038】
そこで、本実施の形態では、
図3に示すように、前後進切換ユニット21の故障を報知するチェックユニット20を、後進切換用マイコンユニット19とは別体に構成し、このチェックユニット20を後進切換用マイコンユニット19とは離間した位置に配置している。より詳しくは、チェックユニット20は、前後進切換用マイコンユニット19とは別体に構成され、かつ、前後進切換用マイコンユニット19と通信可能に接続されており、内部空間Sにおける手前側(後方側)に配置されている。即ち、チェックユニット20は、ステアリングユニット90の下方でかつ、走行機体4の前後方向において、ステアリングユニット90よりも前方側に配置されている。
【0039】
また、
図4及び
図5に示すように、チェックユニット20は、作業者に異常を報知するランプ装置23と、チェックユニット20に故障診断を実行させるための入力スイッチ24と、を備えている。本実施の形態では、上記ランプ装置23として、LEDを用いている。前後進切換用マイコンユニット19は故障診断内容に応じた動作信号をランプ装置23に出力し、ランプ装置23は、その動作信号に基づいて種々の点灯時間や点滅回数で動作する。即ち、チェックユニット20は、前後進切換ユニット21の故障診断内容に応じて、ランプ装置23の点灯時間と点滅回数のいずれか一方または両方を変更する。入力スイッチ24は作業者により押圧操作され、入力スイッチ24の押圧回数や押圧時間に応じてランプ装置23の動作モードを切り換えることができる。
【0040】
例えば、前後進切換ユニット21や前後進切換用マイコンユニット19の任意部品に故障が発生した場合に、前後進切換用マイコンユニット19からチェックユニット20にランプ装置23を点灯させる動作信号を出力すれば、作業者は点灯状態のランプ装置23を見ることで故障発生を容易に確認することができる。そして、作業者が故障発生の確認後に入力スイッチ24を1回押圧して故障診断モードにしたり、入力スイッチ24を複数回押圧して故障履歴確認モード等の他のモードに切り換えることにより、前後進切換用マイコンユニット19からチェックユニット20に対して、故障発生部位(対象部品)や故障内容に応じた動作信号を出力してランプ装置23を種々の点滅パターンで動作させれば、1つのランプ装置23を用いて多くの故障診断内容を報知することができる。
【0041】
ここで、チェックユニット20は内部空間Sの手前位置に設置されているため、現在発生している故障診断の確認を行う場合は、
図6及び
図7に示すように、リアカバー18をパネルカバー14から取り外して内部空間Sを開放することにより、運転操作部8側からチェックユニット20に容易にアクセスすることができる。したがって、前後進切換用マイコンユニット19が内部空間Sの奥側のアクセスしにくい位置に設置されていても、前後進切換用マイコンユニット19と別ユニットとして構成したチェックユニット20を見やすい位置に設置することにより、前後進切換用マイコンユニット19の故障診断を容易に行うことができる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係るトラクタ1は、変速機械式のミッション部に対して、走行機体4の前後進を決定する前後進部分の構成を油圧クラッチ式に変更する際に、後付けされた前後進切換ユニット21を制御する前後進切換用マイコンユニット19を、パネルカバー14で覆われた内部空間Sの奥側位置のように見えにくい箇所に設置したとしても、前後進切換ユニット21やマイコンユニット19の故障診断を出力するチェックユニット20を別ユニットとして構成し、このチェックユニット20をマイコンユニット19から離れた内部空間Sの手前の見やすい位置に設置したので、前後進切換ユニット21やマイコンユニット19の故障診断を容易に行うことができる。
【0043】
また、チェックユニット20が、前後進切換ユニット21やマイコンユニット19の故障診断内容をランプ装置23の動作で報知するランプ装置23と、ランプ装置23の動作モードを切り換え可能な入力スイッチ24とを有しているので、入力スイッチ24を用いてランプ装置23の動作モードを切り換えることにより、複数の故障箇所や故障内容を判断することができる。
【0044】
なお、チェックユニット20の報知手段として、上記したランプ装置23だけでなくブザー(図示せず)を併用することも可能である。このように構成すると、前後進切換ユニット21や前後進切換用マイコンユニット19に故障が発生した時に、ランプ装置23を点灯させると共にブザーを鳴動させることにより、故障発生が視覚的だけでなく聴覚的にも報知されるため、リアカバー18を取り外さなくても故障発生を知ることができる。また、ランプ装置23の点滅パターンとブザーの鳴動回数を組み合わせることにより、より多くの故障診断内容を報知することができる。
【0045】
また、上記実施の形態では、運転操作部8の前方に設けられたパネルカバー14の内部空間Sの奥側に前後進切換用マイコンユニット19を設置すると共に、この内部空間Sの手前位置にチェックユニット20を設置したが、これら前後進切換用マイコンユニット19とチェックユニット20の設置位置はこれに限定されず、収納スペースがあれば任意位置に設置することができる。更に、本実施の形態では、前後進切換用マイコンユニット19によって故障診断を行い、その診断結果をチェックユニット20に出力していたが、チェックユニット20側に上述した診断機能自体を持たせるように構成しても良い。
【0046】
また、上記実施の形態では、本発明の作業車輌をトラクタ1に適用したが、これに限らず、機械式の前後進切換装置のクラッチ部分を油圧クラッチ式に変更可能なあらゆる作業車輌、例えば乗用型田植機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 トラクタ(作業車輌)
2 前輪(走行部)
3 後輪(走行部)
4 走行機体
5 昇降リンク
6 ボンネット
7 ミッションケース
8 運転操作部
9 ステアリングホイール
10 座席
12 クラッチペダル
14 パネルカバー
15 エンジンルーム
16 ステアリングシャフト
17 パワーステアリングユニット
18 リアカバー
19 マイコンユニット(第2制御部)
20 チェックユニット
21 前後進切換ユニット
21F 前進油圧クラッチ
21R 後進油圧クラッチ
22 車輌制御部(第1制御部)
23 ランプ装置
24 入力スイッチ
31 主変速レバー
32 副変速レバー
63 前後進操作レバー
61 エンジン(駆動源)
90 ステアリングユニット
S 内部空間