(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】スプリングガイド及びサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20220302BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
F16F9/32 B
F16F1/12 N
(21)【出願番号】P 2018235807
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健太
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第202017106124(DE,U1)
【文献】独国特許出願公開第102016200307(DE,A1)
【文献】特開2005-257066(JP,A)
【文献】特開2014-9774(JP,A)
【文献】特開2018-203175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
F16F 1/00- 6/00
9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバの外周面に取り付けられ、前記車体を弾性支持するコイルスプリングを支持するスプリングガイドであって、
前記コイルスプリングを支持するベース部と、
前記ベース部を貫通するように設けられ、前記ショックアブソーバが挿入される開口部と、を備え、
前記開口部には、前記開口部の内周面から突出し前記ショックアブソーバを支持する凸部と、前記開口部の内周面から窪む凹部と、が設けられ、
前記凸部は、前記開口部の周方向に沿って複数配置され、
前記凹部には、射出成形金型のゲートカット跡が形成される
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項2】
請求項1に記載のスプリングガイドにおいて、
前記ゲートカット跡の先端は、前記凸部の先端よりも径方向外側に位置する
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項3】
請求項2に記載のスプリングガイドにおいて、
前記凹部の深さは、前記ゲートカット跡の突出高さよりも大きい
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のスプリングガイドにおいて、
前記凹部は、前記ショックアブソーバが挿入される前記開口部の軸方向一方の開口端から軸方向に延在する
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項5】
請求項4に記載のスプリングガイドにおいて、
前記凹部は、前記開口部の前記軸方向一方の開口端から軸方向他方の開口端近傍まで延在し、
前記開口部の内周面における前記軸方向他方の開口端から前記軸方向他方の開口端近傍までの領域には、前記凹部が形成されていない
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のスプリングガイドにおいて、
前記凹部は、前記開口部の周方向に沿って等間隔で複数配置される
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のスプリングガイドにおいて、
前記凸部の先端は、前記ショックアブソーバが挿入される軸方向一方の開口端側から軸方向他方の開口端側に向かって徐々に前記凸部の突出高さが高くなるように、傾斜している
ことを特徴とするスプリングガイド。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のスプリングガイドと、
前記ショックアブソーバと、
前記ショックアブソーバのロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、
前記スプリングガイドと前記アッパーマウントとの間に設けられる前記コイルスプリングと、を備える
ことを特徴とするサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングガイド及びサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝装置(ショックアブソーバ)のまわりに同心円状に配設されるコイルスプリングを備えたストラット型のダンパ(サスペンション装置)が知られている(特許文献1参照)。コイルスプリングは、ダンパのアッパースプリングシートとロアスプリングシートとの間に配置される。ロアスプリングシート(スプリングガイド)には、緩衝装置のハウジングを受けるための穴(開口部)が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロアスプリングシートを射出成形により形成する場合において、射出成形金型のゲートカット跡(バリ)が穴の内周面に形成されると、ロアスプリングシートの穴に緩衝装置を挿入する際に、ゲートカット跡が緩衝装置のハウジングに接触するおそれがある。その結果、ロアスプリングシートの穴に緩衝装置を挿入するのに手間がかかってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、スプリングガイドの開口部へのショックアブソーバの挿入性を向上すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ショックアブソーバの外周面に取り付けられ、車体を弾性支持するコイルスプリングを支持するスプリングガイドであって、コイルスプリングを支持するベース部と、ベース部を貫通するように設けられ、ショックアブソーバが挿入される開口部と、を備え、開口部には、開口部の内周面から突出しショックアブソーバを支持する凸部と、開口部の内周面から窪む凹部と、が設けられ、凸部は、開口部の周方向に沿って複数配置され、凹部には、射出成形金型のゲートカット跡が形成されることを特徴とする。
【0007】
この発明では、ゲートカット跡が開口部の内周面から窪む凹部に形成されるので、スプリングガイドの開口部にショックアブソーバを挿入する際、ゲートカット跡がショックアブソーバの外周面に接触することに起因して、ショックアブソーバの挿入が妨げられることを防止できる。
【0008】
本発明は、ゲートカット跡の先端が、凸部の先端よりも径方向外側に位置することを特徴とする。
【0009】
この発明では、ゲートカット跡の先端が凸部の先端よりも径方向内側に位置する場合に比べて、スプリングガイドの開口部へのショックアブソーバの挿入性を向上することができる。また、ゲートカット跡の先端が、ショックアブソーバの外周面に接触することにより、ショックアブソーバの外周面が傷つけられることを防止することができる。
【0010】
本発明は、凹部の深さが、ゲートカット跡の突出高さよりも大きいことを特徴とする。
【0011】
この発明では、ゲートカット跡が凹部内に収まっているので、スプリングガイドの開口部にショックアブソーバを挿入する際、ゲートカット跡がショックアブソーバの外周面に接触することを、より効果的に防止できる。
【0012】
本発明は、凹部が、ショックアブソーバが挿入される開口部の軸方向一方の開口端から軸方向に延在することを特徴とする。
【0013】
この発明では、射出成形金型の構成を簡素な構成とすることができる。
【0014】
本発明は、凹部が、開口部の軸方向一方の開口端から軸方向他方の開口端近傍まで延在し、開口部の内周面における軸方向他方の開口端から軸方向他方の開口端近傍までの領域には、凹部が形成されていないことを特徴とする。
【0015】
この発明では、凹部を開口部の軸方向一方の開口端から軸方向他方の開口端まで延在させる場合に比べて、スプリングガイドの強度を向上することができる。
【0016】
本発明は、凹部が、開口部の周方向に沿って等間隔で複数配置されることを特徴とする。
【0017】
この発明では、単一の凹部を設ける場合に比べて、スプリングガイドを軽量化することができるとともに、周方向の強度のバランスをとることができる。
【0018】
本発明は、凸部の先端が、ショックアブソーバが挿入される軸方向一方の開口端側から軸方向他方の開口端側に向かって徐々に凸部の突出高さが高くなるように、傾斜していることを特徴とする。
【0019】
この発明では、スプリングガイドの開口部にショックアブソーバを挿入する際、凸部の先端によってショックアブソーバに対するスプリングガイドの径方向の位置決めがスムーズになされる。
【0020】
本発明は、サスペンション装置であって、スプリングガイドと、ショックアブソーバと、ショックアブソーバのロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、スプリングガイドとアッパーマウントとの間に設けられるコイルスプリングと、を備えることを特徴とする。
【0021】
この発明では、上記スプリングガイドの開口部へのショックアブソーバの挿入性が向上されたサスペンション装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スプリングガイドの開口部へのショックアブソーバの挿入性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るサスペンション装置の部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスプリングガイドの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るスプリングガイドの開口部の断面図である。
【
図4A】本発明の実施形態に係るスプリングガイドの開口部を周方向に展開した展開図である。
【
図5】金型位置決め工程を説明するための射出成形金型の断面模式図である。
【
図6】樹脂充填工程及び硬化工程を説明するための射出成形金型の断面模式図である。
【
図7】金型分離工程を説明するための射出成形金型の断面模式図である。
【
図8】本発明の実施形態の変形例3に係るスプリングガイドの開口部を周方向に展開した展開図である。
【
図9】本発明の実施形態の変形例4に係るスプリングガイドの溝から突出するゲートカット跡を示す開口部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るスプリングガイド100及びサスペンション装置10について説明する。
【0025】
図1に示すように、サスペンション装置10は、自動車(図示せず)に取り付けられ、車輪(図示せず)を位置決めするとともに減衰力を発生させて車両走行中に路面から受ける衝撃や振動を吸収して車体を安定的に懸架する装置である。
【0026】
サスペンション装置10は、車体と車輪との間に設けられるストラット式のショックアブソーバ1と、ショックアブソーバ1のピストンロッド(以下、ロッドと記す)1aの先端に取り付けられるアッパーマウント2と、ショックアブソーバ1のシリンダ1bの外周面に取り付けられるスプリングガイド100と、スプリングガイド100とアッパーマウント2との間に設けられ、車体を弾性支持するコイルスプリング4と、ロッド1aに嵌装されショックアブソーバ1の縮み側のストロークを規制するバンプストッパ5と、シリンダ1bのロッド1a側の端部に嵌装されるキャップ部材としてのバンプキャップ6と、ロッド1aを保護する筒状のカバー部材としてのダストブーツ7と、を備える。
【0027】
シリンダ1bのロッド1a側とは反対側の端部には、車輪を保持するハブキャリア(図示せず)とショックアブソーバ1とを連結するためのブラケット1cが設けられる。説明の便宜上、アッパーマウント2側をサスペンション装置10の上側、ブラケット1c側をサスペンション装置10の下側として上下方向を図示するように規定する。なお、サスペンション装置10の上下方向は、サスペンション装置10の軸方向(中心軸方向)であり、ショックアブソーバ1の伸縮方向である。また、サスペンション装置10の径方向(ショックアブソーバ1の径方向)は、サスペンション装置10の軸方向に直交する。
【0028】
ショックアブソーバ1は、アッパーマウント2を介して車体に連結されるとともに、ブラケット1cによりハブキャリアに連結されて車両に組み付けられる。このように構成されたショックアブソーバ1は、ロッド1aがシリンダ1bに対して軸方向(
図1の上下方向)に移動したときに、減衰力が発生するように構成されている。サスペンション装置10は、このショックアブソーバ1の減衰力によって車体の振動を素早く減衰させる。
【0029】
コイルスプリング4は、アッパーマウント2とスプリングガイド100との間に圧縮状態で挟持され、ショックアブソーバ1を伸長方向に付勢する。アッパーマウント2とコイルスプリング4との間にはラバーシート8が設けられる。これにより、アッパーマウント2とコイルスプリング4とが直接当接しないようになっている。スプリングガイド100とコイルスプリング4との間には円弧状のラバーシート40が設けられる。これにより、スプリングガイド100とコイルスプリング4とが直接当接しないようになっている。
【0030】
図1及び
図2に示すように、スプリングガイド100は、シリンダ1bの外周に固定される樹脂製の皿状の部材である。スプリングガイド100は、コイルスプリング4を支持する円板状のベース部110と、ベース部110の外縁から上側(アッパーマウント2側)に延在する側壁111と、ベース部110をサスペンション装置10の軸方向(上下方向)に貫通するように設けられ、ショックアブソーバ1のシリンダ1bが挿入される開口部120と、ベース部110から上方及び下方に突出し開口部120を囲むように形成される円筒状の筒部112と、有底円筒形状のハブ113と、を備える。
【0031】
ベース部110におけるハブ113の周囲は、ラバーシート40が取り付けられる取付領域とされる。ベース部110には、ラバーシート40の位置を規制する位置規制部(不図示)が設けられる。ラバーシート40は、ゴムなどの弾性を有する材料によって形成される。ラバーシート40には、その断面がコイルスプリング4の断面形状に沿うように湾曲して形成される着座部40a(
図1参照)が設けられる。スプリングガイド100には、軽量化、及びベース部110に溜まった水を抜くために複数の貫通孔(不図示)が形成される。
【0032】
ベース部110から軸方向に突出する筒部112は、その内周が円形状の開口部120とされている。
図1に示すように、開口部120は、スプリングガイド100をシリンダ1bの外周に固定したときに、スプリングガイド100の中心から車体側に偏心した位置になるように形成される。シリンダ1bの外周には、金属製の支持リング3が溶接により固定されている。スプリングガイド100は、開口部120がシリンダ1bの外周に嵌合され、スプリングガイド100の筒部112の下端部が支持リング3によって支持されることで、シリンダ1bの外周に固定される。なお、シリンダ1bと開口部120のはめあい、具体的にはシリンダ1bと開口部120に形成されるリブ122(
図2~
図4B参照)とのはめあいは、「すきまばめ」であってもよいし、「しまりばめ」であってもよい。「しまりばめ」を採用する場合、開口部120とシリンダ1bとの間のガタがなくなり、ガタによる異音の発生を防止することができる。また、サスペンション装置10の動作の応答性を向上することもできる。
【0033】
スプリングガイド100は、上方からシリンダ1bに嵌め込まれ、支持リング3に当接することで、シリンダ1bに取り付けられる。換言すれば、シリンダ1bは、スプリングガイド100の開口部120の下部開口端125Lから挿入される。つまり、下部開口端125Lは、シリンダ1bが挿入される入口であり、下部開口端125Lの反対側の開口端である上部開口端125Uからシリンダ1bの上端部が突出する。
【0034】
図2~
図4Bを参照して、円形状の内周面を有する開口部120の形状について具体的に説明する。
図2~
図4Bに示すように、開口部120には、開口部120の内周面121から径方向内側に向かって突出する凸部としてのリブ122と、開口部120の内周面121から径方向外側に向かって窪む凹部としての溝123と、が設けられる。リブ122は、ショックアブソーバ1のシリンダ1bの外周面を支持する支持部として機能し、溝123は、射出成形により形成される射出成形金型150(
図5~
図7参照)のゲートカット跡(バリ)130を収容する収容部として機能する。
【0035】
リブ122は、例えば、その断面形状が丸みを帯びた台形状あるいは半円形状となるように形成され、シリンダ1bの外周面に線接触する。リブ122は、開口部120の周方向に沿って等間隔で複数配置される。このため、スプリングガイド100は、開口部120の中心軸がシリンダ1bの中心軸に一致するように位置決めされる。
【0036】
溝123は、例えば、その断面形状が台形状となるように形成される。溝123は、平坦な底面123aと、底面123aの周方向両端から内周面121に向かって延在する傾斜面123bと、を有する。溝123は、開口部120の周方向に沿って等間隔で複数配置される。これにより、単一の溝123を設ける場合に比べて、スプリングガイド100を軽量化することができるとともに、周方向の強度のバランスをとることができる。
【0037】
各リブ122は、開口部120の軸方向(すなわち、サスペンション装置10の軸方向)に沿って直線状に設けられる。同様に、各溝123は、開口部120の軸方向(すなわち、サスペンション装置10の軸方向)に沿って直線状に設けられる。本実施形態では、リブ122と溝123が交互に等間隔で配置される。つまり、溝123は、隣り合うリブ122間に配置される。
【0038】
図2及び
図4Aに示すように、各溝123は、開口部120の軸方向一方の開口端である下部開口端125Lから、開口部120の軸方向他方の開口端である上部開口端125Uの近傍まで軸方向に延在する。つまり、開口部120の内周面121における上部開口端125Uから上部開口端125Uの近傍(上部開口端125Uから所定距離だけ離れた位置)までの領域121aには、凹部としての溝123が形成されていない。このため、溝123を開口部120の下部開口端125Lから上部開口端125Uまで延在させる場合に比べて、スプリングガイド100の強度を向上することができる。
【0039】
図1に示すように、スプリングガイド100は、筒部112の下端部が金属製の支持リング3によって支持され、コイルスプリング4の下端部がハブ113の周囲に配置されている。このため、コイルスプリング4を介してスプリングガイド100に荷重が作用すると、開口部120は、上部開口端125Uが拡がるように変形する。本実施形態では、上部開口端125Uから上部開口端125Uの近傍までの領域121aに溝123が形成されていない。つまり、筒部112における上部の開口端部の肉厚は周方向に均一である。このため、コイルスプリング4を介して上方からスプリングガイド100に荷重が作用したときに、開口部120が拡がるように変形することを抑制し、引張応力を小さく抑えることができる。
【0040】
図4Aに示すように、各リブ122は、スプリングガイド100の上部開口端125Uから下部開口端125Lの近傍まで軸方向に延在する。
図4Bに示すように、各リブ122の下端部には、案内部122aが設けられる。案内部122aは、その先端が下部開口端125L側から上部開口端125U側に向かって徐々にリブ122の突出高さが高くなるように、傾斜している。
【0041】
シリンダ1bにスプリングガイド100を取り付ける際、シリンダ1bは、スプリングガイド100の下部開口端125Lから挿入される。したがって、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、リブ122の先端によって、開口部120の中心軸がショックアブソーバ1の中心軸に一致するように、シリンダ1bに対してスプリングガイド100が移動する。このため、シリンダ1bに対するスプリングガイド100の径方向の位置決めが、スムーズになされる。
【0042】
図3は、スプリングガイド100の開口部120の断面図である。
図3では、シリンダ1bにスプリングガイド100が取り付けられたときのシリンダ1bの外周面11を二点鎖線で示している。また、
図3では、開口部120の内周面121を周方向に延長させた仮想上の基準面121bを破線で示している。
【0043】
図3に示すように、シリンダ1bは、リブ122によって支持されるため、開口部120の内周面121とシリンダ1bの外周面11との間には隙間129が形成される。ここで、内周面121にゲートカット跡(バリ)930が形成されていると、開口部120にシリンダ1bを挿入する際に、ゲートカット跡930がシリンダ1bの外周面11に接触するおそれがある。ゲートカット跡930は、表面に凹凸のある歪な形状となる場合がある。また、射出成形金型150の経時劣化により、ゲート部の切断処理の精度が悪くなり、ゲートカット跡930の突出高さが、射出成形金型150の使用初期よりも高くなってしまうこともある。このため、ゲートカット跡930がシリンダ1bの外周面11に接触すると、開口部120に対するシリンダ1bの挿入が妨げられ、開口部120にシリンダ1bを挿入するのに手間がかかってしまう。また、ゲートカット跡930の先端がシリンダ1bの外周面11に接触することにより、シリンダ1bの外周面11を構成する塗装面が傷つけられてしまうおそれもある。
【0044】
ここで、開口部120の内周面121に形成されるゲートカット跡930がシリンダ1bの外周面11に接触することを防止するために、リブ122の突出高さを高くすると(例えば、リブ122の周方向の幅よりもリブ122の突出高さを大きくすると)、リブ122が周方向に折れやすくなってしまうという問題が生じる。
【0045】
これに対して、本実施形態では、射出成形金型150(
図5~
図7参照)のゲートカット跡130が、開口部120の内周面121から窪む凹部としての溝123に形成される。溝123にゲートカット跡130を形成することにより、その先端を、内周面121にゲートカット跡930を形成する場合に比べて、径方向外側に位置させることができる。これにより、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、ゲートカット跡130がショックアブソーバ1の外周面に接触することに起因して、ショックアブソーバ1の挿入が妨げられることを防止できる。つまり、本実施形態によれば、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態では、リブ122の突出高さを高くする必要がない。例えば、リブ122の突出高さをリブ122の周方向の幅よりも大きくする必要がない。このため、シリンダ1bを開口部120に挿入する際に、リブ122が折れてしまうことを防止することができる。
【0047】
溝123の深さD、すなわち溝123の底面123aから内周面121(基準面121b)までの径方向距離は、スプリングガイド100がショックアブソーバ1に取り付けられる前の状態において、ゲートカット跡130の先端がシリンダ1bの外周面11の位置よりも径方向内側に位置することがないように設定される。つまり、ゲートカット跡130の先端は、スプリングガイド100がショックアブソーバ1に取り付けられる前の状態において、リブ122の先端よりも径方向外側に位置するように、溝123の深さが設定されていればよい。これにより、ゲートカット跡130の先端がリブ122の先端よりも径方向内側に位置する場合に比べて、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性を向上することができる。また、ゲートカット跡130の先端が、ショックアブソーバ1の外周面11に接触することにより、ショックアブソーバ1の外周面(塗装面)11が傷つけられることを防止することができる。
【0048】
なお、図示するように、溝123の深さDは、ゲートカット跡130の突出高さH、すなわち溝123の底面123aからゲートカット跡130の先端までの径方向距離よりも大きいことが好ましい。つまり、ゲートカット跡130の先端が、基準面121bよりも径方向外側に位置することが好ましい。これにより、ゲートカット跡130が、溝123の開口面から突出することなく、溝123内に収められることになる。ゲートカット跡130が溝123内に収まっているので、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、ゲートカット跡130がショックアブソーバ1の外周面に接触することを、より効果的に防止できる。このような構成によれば、開口部120にシリンダ1bが圧入される場合であっても、ゲートカット跡130がシリンダ1bの外周面11に接触することが防止される。
【0049】
次に、スプリングガイド100の製造方法の一例について説明する。スプリングガイド100は、射出成形法により一体成形される。
【0050】
図5~
図7を参照して、射出成形に用いられる射出成形金型150の構成について説明する。射出成形金型150は、上側の金型である上型151と、下側の金型である下型152と、を備える。上型151及び下型152は、少なくとも一方が上下方向に昇降可能とされる。上型151は、開口部120を成形するための上側円柱部151aを有し、下型152は、開口部120を成形するための下側円柱部152aを有する。
【0051】
射出成形金型150には、樹脂が流れる流路153が形成される。流路153は、上型151において、上下方向に直線状に延在するスプルー153aと、スプルー153aの下端から90度屈曲して径方向外方に直線状に延在するランナー153bと、ランナー153bの先端から筒部112を成形するための樹脂充填部159aに連通するゲート153cと、を有する。ゲート153cは、成形されるスプリングガイド100の開口部120の溝123の底面123aに位置するように設定される。なお、ゲート153cの流路断面積は、ランナー153bの流路断面積に比べて小さい。
【0052】
ランナー153bは、上型151のランナー溝151bと下型152のランナー溝152bとによって画成される。ゲート153cは、上型151のゲート溝151cと下型152の下側円柱部152aの平坦な端面とによって画成される。
【0053】
スプリングガイド100の製造方法は、金型位置決め工程と、樹脂充填工程と、硬化工程と、金型分離工程と、を含む。
図5に示すように、金型位置決め工程では、上型151と下型152とを位置決めして樹脂充填空間159を形成する。金型位置決め工程が完了したら、樹脂充填工程を行う。
【0054】
図6に示すように、樹脂充填工程では、溶融した樹脂170をスプルー153a、ランナー153b、ゲート153cを通じて樹脂充填空間159に流し込み、樹脂充填空間159に樹脂170を充填する。樹脂充填工程が完了したら、硬化工程を行う。硬化工程では、射出成形金型150の熱を除去し、樹脂170を冷却することで、樹脂170を硬化させる。硬化工程が完了したら、金型分離工程を行う。
【0055】
図7に示すように、金型分離工程では、上型151と下型152とを離隔させるように、上型151または下型152を移動させる。上型151と下型152とを離隔させることにより、ランナー部172よりも断面積が小さいゲート部173が切断される。ゲート部173が切断されることにより、スプリングガイド100には、ゲート部173の残部であるゲートカット跡(バリ)130が形成される。なお、射出成形金型150の分離によりゲート部173を切断するのではなく、ニッパー等の工具によりゲート部173を切断してもよい。この場合も、ゲートカット跡130がスプリングガイド100に形成される。ゲートカット跡130は、開口部120の溝123の底面123aに形成されるので(
図3参照)、ゲートカット跡130を除去する処理は省略することができる。以上で、スプリングガイド100が完成する。
【0056】
本実施形態では、開口部120の軸方向一方の開口端(下部開口端125L)から軸方向に延在するように溝123を形成し、開口部120の軸方向他方の開口端(上部開口端125U)から軸方向に延在するようにリブ122を形成した。このため、スライドコア等を設ける必要がなく、射出成形金型150を簡素な構成とすることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0057】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0058】
射出成形により形成されるスプリングガイド100において、射出成形金型150のゲートカット跡130が、開口部120の内周面から窪む凹部としての溝123に形成される。これにより、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、ゲートカット跡130がショックアブソーバ1の外周面に接触することに起因して、ショックアブソーバ1の挿入が妨げられることを防止できる。つまり、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性を向上することができる。したがって、本実施形態によれば、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性が向上されたサスペンション装置10を提供することができる。
【0059】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0060】
<変形例1>
上記実施形態では、溝123が複数設けられ、そのうちの一つの溝123にゲートカット跡130が形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ランナー153b及びゲート153cを複数設ける場合、スプリングガイド100にはゲートカット跡130も複数形成されることになる。この場合、全てのゲートカット跡130が溝123に形成されるように、ゲート153cを設定すればよい。
【0061】
<変形例2>
上記実施形態では、溝123が複数設けられる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、射出成形金型150のゲート153cが一つである場合、ゲートカット跡130が形成される溝123を一つ形成するようにしてもよい。
【0062】
<変形例3>
上記実施形態では、ゲートカット跡130が形成される凹部が、ショックアブソーバ1の軸方向一方の開口端から軸方向に延在する溝123である例について説明したが(
図4A参照)、本発明はこれに限定されない。
図8に示すように、例えば、溝123に代えて、ゲートカット跡130が配置される円形状の凹部323を設けてもよい。射出成形金型150にスライドコア等を設けることにより、円形状の凹部323を形成することができる。なお、上記実施形態のように、軸方向一方の開口端から軸方向に延在するように凹部(溝123)を形成する場合、スライドコアが不要であるので、射出成形金型150を簡素な構成とすることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0063】
<変形例4>
上記実施形態では、溝123の深さDが、ゲートカット跡130の突出高さHよりも大きい例について説明したが(
図3参照)、本発明はこれに限定されない。
図9に示すように、溝423の深さは、ゲートカット跡430の突出高さよりも小さくてもよい。ただし、この場合、スプリングガイド100がショックアブソーバ1に取り付けられる前の状態において、ゲートカット跡430の先端が、リブ122の先端よりも径方向外側に位置していることが好ましい。このような構成によれば、リブ122に対してシリンダ1bを「すきまばめ」によって取り付ける場合に、ゲートカット跡430がシリンダ1bに接触することを防止することができる。
【0064】
<変形例5>
スプリングガイド100を成形する際のゲート153cの形状は、上記実施形態に限定されず、種々の形状を採用することができる。例えば、斜め方向から直線状にダイレクトゲートを設け、ダイレクトゲートの先端が溝123の底面123aに配置されるようにしてもよい。また、ランナー153bから円弧状のバナナゲートを形成し、バナナゲートの先端が溝123の底面123aに配置されるようにしてもよい。ランナー153bから円錐状のサブマリンゲートを形成し、サブマリンゲートの先端が溝123の底面123aに配置されるようにしてもよい。
【0065】
<変形例6>
リブ122の断面形状は、上記実施形態に限定されない。リブ122の断面形状は、種々の形状を採用することができる。例えば、リブ122の断面形状は、三角形状、長方形等の四角形状であってもよい。また、リブ122の角部は、丸みを帯びていてもよいし、丸みを帯びていなくてもよい。
【0066】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0067】
スプリングガイド100は、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバ1の外周面に取り付けられ、車体を弾性支持するコイルスプリング4を支持するスプリングガイド100であって、コイルスプリング4を支持するベース部110と、ベース部110を貫通するように設けられ、ショックアブソーバ1が挿入される開口部120と、を備え、開口部120には、開口部120の内周面121から突出しショックアブソーバ1を支持する凸部としてのリブ122と、開口部120の内周面121から窪む凹部(溝123,凹部323,溝423)と、が設けられ、リブ122は、開口部120の周方向に沿って複数配置され、凹部(溝123,凹部323,溝423)には、射出成形金型150のゲートカット跡130,430が形成される。
【0068】
この構成では、ゲートカット跡130,430が開口部120の内周面121から窪む凹部(溝123,凹部323,溝423)に形成されるので、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、ゲートカット跡130,430がショックアブソーバ1の外周面に接触することに起因して、ショックアブソーバ1の挿入が妨げられることを防止できる。つまり、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性を向上することができる。
【0069】
スプリングガイド100は、ゲートカット跡130,430の先端が、リブ122の先端よりも径方向外側に位置する。
【0070】
この構成では、ゲートカット跡130,430の先端がリブ122の先端よりも径方向内側に位置する場合に比べて、スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性を向上することができる。また、ゲートカット跡130,430の先端が、ショックアブソーバ1の外周面11に接触することにより、ショックアブソーバ1の外周面11が傷つけられることを防止することができる。
【0071】
スプリングガイド100は、凹部(溝123,凹部323,溝423)の深さDが、ゲートカット跡130,430の突出高さHよりも大きい。
【0072】
この構成では、ゲートカット跡が凹部(溝123,凹部323,溝423)内に収まっているので、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、ゲートカット跡130,430がショックアブソーバ1の外周面に接触することを、より効果的に防止できる。
【0073】
スプリングガイド100は、凹部としての溝123,423が、ショックアブソーバ1が挿入される開口部120の軸方向一方の開口端(下部開口端125L)から軸方向に延在する。
【0074】
この構成では、射出成形金型150の構成を簡素な構成とすることができる。
【0075】
スプリングガイド100は、凹部としての溝123,423が、開口部120の軸方向一方の開口端(下部開口端125L)から軸方向他方の開口端(上部開口端125U)近傍まで延在し、開口部120の内周面121における軸方向他方の開口端(上部開口端125U)から軸方向他方の開口端(上部開口端125U)近傍までの領域121aには、凹部としての溝123,423が形成されていない。
【0076】
この構成では、凹部を開口部120の軸方向一方の開口端(下部開口端125L)から軸方向他方の開口端(上部開口端125U)まで延在させる場合に比べて、スプリングガイド100の強度を向上することができる。
【0077】
スプリングガイド100は、凹部(溝123,溝423)が、開口部120の周方向に沿って等間隔で複数配置される。
【0078】
この構成では、単一の凹部を設ける場合に比べて、スプリングガイド100を軽量化することができるとともに、周方向の強度のバランスをとることができる。
【0079】
スプリングガイド100は、リブ122の先端が、ショックアブソーバ1が挿入される軸方向一方の開口端(下部開口端125L)側から軸方向他方の開口端(上部開口端125U)側に向かって徐々にリブ122の突出高さが高くなるように、傾斜している。
【0080】
この構成では、スプリングガイド100の開口部120にショックアブソーバ1を挿入する際、リブ122の先端によってショックアブソーバ1に対するスプリングガイド100の径方向の位置決めがスムーズになされる。
【0081】
サスペンション装置10は、スプリングガイド100と、ショックアブソーバ1と、ショックアブソーバ1のロッド1aの先端に取り付けられるアッパーマウント2と、スプリングガイド100とアッパーマウント2との間に設けられるコイルスプリング4と、を備える。
【0082】
この構成では、上記スプリングガイド100の開口部120へのショックアブソーバ1の挿入性が向上されたサスペンション装置10を提供することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0084】
1・・・ショックアブソーバ、1a・・・ロッド、2・・・アッパーマウント、4・・・コイルスプリング、10・・・サスペンション装置、100・・・スプリングガイド、110・・・ベース部、120・・・開口部、121・・・内周面、121a・・・領域、122・・・リブ(凸部)、123・・・溝(凹部)、125L・・・下部開口端(軸方向一方の開口端)、125U・・・上部開口端(軸方向他方の開口端)、130・・・ゲートカット跡、150・・・射出成形金型、323・・・凹部、423・・・溝(凹部)、430・・・ゲートカット跡、D・・・溝の深さ(凹部の深さ)、H・・・ゲートカット跡の突出高さ