(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】鑑識用シート
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1172 20160101AFI20220302BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220302BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20220302BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20220302BHJP
C09J 175/06 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A61B5/1172
C09J7/38
C09J7/40
C09J133/00
C09J175/06
(21)【出願番号】P 2018501000
(86)(22)【出願日】2016-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2016085304
(87)【国際公開番号】W WO2017145478
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2019-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2016032234
(32)【優先日】2016-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井元 崇
(72)【発明者】
【氏名】西尾 昭徳
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】蔵田 真彦
【審判官】井上 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181599(JP,A)
【文献】特開2015-63107(JP,A)
【文献】特開2015-51625(JP,A)
【文献】特開2009-187065(JP,A)
【文献】特開2007-182483(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056761(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/1172
B42D15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1識別マークがマーキングされている支持シートと、
前記支持シートに対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有し、且つ、第2識別マークがマーキングされている、粘着シートと、を備える鑑識用シートであって、
前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、それぞれ、凹タイプマークまたは印刷マークであり、
前記粘着剤層は主剤としてポリウレタ
ン又はアクリル系ポリマーを含み
、
前記支持シートは記入面を有し、
前記粘着シートは記入面を有しない、鑑識用シート。
【請求項2】
第1識別マークがマーキングされている第1外面、および、当該第1外面とは反対の側の支持面、を有する支持シートと、
前記支持シートの前記支持面に対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有し、且つ、前記基材層における前記粘着剤層とは反対の側に、第2識別マークがマーキングされている第2外面を有する、粘着シートと、を備える鑑識用シートであって、
前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、それぞれ、凹タイプマークまたは印刷マークであり、
前記粘着剤層は主剤としてポリウレタ
ン又はアクリル系ポリマーを含
み、
前記支持シートは記入面を有し、
前記粘着シートは記入面を有しない、鑑識用シート。
【請求項3】
前記凹タイプマークはレーザーマークまたはエアペンマークである、
請求項1または2に記載の鑑識用シート。
【請求項4】
前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、同じパターン形状を有する、
請求項1から3のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項5】
前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、異なるパターン形状を有する、
請求項1から3のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項6】
前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、それぞれ、数字、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、記号、バーコード、およびQRコード(登録商標)から選択される少なくとも一種を含む、
請求項1から5のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項7】
前記基材層は、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリオレフィンフィルムを含む、
請求項1から6のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項8】
前記基材層は、2.5~500μmの厚さを有する、
請求項1から7のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項9】
鑑識資料を採取するために使用される、
請求項1から8のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【請求項10】
前記ポリウレタンは、190~280℃の軟化温度を有する、
請求項1から9のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鑑識資料の採取や保持に使用することのできる鑑識用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
犯罪現場等においては、鑑識の対象とされる指紋や毛髪等の鑑識資料が採取される場合がある。その採取には、いわゆる鑑識用シートが使用されることがある。鑑識用シートは、例えば、台紙と、粘着面を有して台紙に貼り合わされた透明粘着シートとからなる。台紙における、透明粘着シートとは反対の側の面には、鑑識資料の採取に関する各種の情報が記録されるための記入欄が設けられている。
【0003】
このような鑑識用シートを使用して鑑識資料を採取するには、透明粘着シートを台紙から剥離した後、その粘着シートの粘着面に鑑識資料を付着させる。犯罪現場等に残る遺留指紋のうち肉眼では見えない潜在指紋を鑑識資料として採取する場合には、例えば、まず、潜在指紋の存在が見当付けられた所定の表面ないし領域に対し、アルミパウダー等の微粉末を使用した処理を施す。当該領域に潜在指紋が存在する場合には、この処理によって潜在指紋に微粉末が付着して当該指紋のパターン形状(複数の隆線よりなる)が顕在化する。そして、台紙から剥離された透明粘着シートの粘着面を当該領域に押し当て、その後に当該領域から粘着シートを剥がすことにより、顕在化指紋を透明粘着シートの粘着面に転写させる。例えばこのようにして指紋等の鑑識資料が付着された透明粘着シートは、鑑識資料を伴う粘着面の側にて元の台紙に再び貼り合わせられる。台紙にある記入欄には、当該鑑識資料の採取に関し、年月日や、場所、採取物件名、整理番号等が記入されるとともに、採取者等による署名捺印がなされる。これら記入事項等は、当該鑑識用シートによって採取および保持されている鑑識資料を特定するのに利用され得るものであり、当該鑑識資料が刑事事件等の証拠として使用される場合には、その証拠能力を確保するのに必要な情報となる。
【0004】
以上のような鑑識用シートについては、例えば、下記の特許文献1~4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-40299号公報
【文献】特開2003-89776号公報
【文献】特開2007-181525号公報
【文献】特開2007-181526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鑑識用シートによって採取および保持されている鑑識資料にとり、それが刑事事件等の証拠とされる場合に求められる証拠能力を確保されることは、重要である。しかしながら、真正の鑑識資料を粘着面に伴って台紙に貼着している透明粘着シートが、別の鑑識資料を伴う別の透明粘着シートで貼り代えられると、当該別の鑑識資料は、客観的事実上、台紙側に記入済みの各種情報等が特定するものではなくなる。また、真正の鑑識資料を伴う透明粘着シートが貼着し且つ当該資料のための各種情報等の記された台紙が、別の各種情報等の記された別の台紙で貼り代えられると、別台紙の当該情報等は、客観的事実上、粘着シート側の鑑識資料を特定するものではなくなる。透明粘着シートに付着している鑑識資料と台紙に記入されている鑑識資料特定情報等との間のこれら客観的事実上の不整合は、当該鑑識資料について、刑事事件等の証拠とされる場合の証拠価値を毀損し、ひいては証拠能力を毀滅させ得る。鑑識用シートにおける鑑識資料と台紙上特定情報等との間の客観的事実上の不整合は、鑑識資料を保持する鑑識用シートに対する改竄行為の結果として、或いは、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での透明粘着シートまたは台紙の取り違えの結果として、生じ得る。
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、採取された鑑識資料について証拠能力を確保し続けるのに適した鑑識用シートを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面により提供される鑑識用シートは、支持シートおよび粘着シートを備える。支持シートには、第1識別マークがマーキングされている。粘着シートは、支持シートに対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有する。粘着シートには、第2識別マークがマーキングされている。
【0009】
本鑑識用シートは、互いの間が分離され得る支持シートと粘着シートを備えるところ、支持シートの側に第1識別マークがマーキングされ、この第1識別マークは第1識別情報として利用可能である。粘着シートの側には第2識別マークがマーキングされ、この第2識別マークは第2識別情報として利用可能である。そして、これら識別マークについて互いの間で対応付けられるように設計することにより、両識別マークを、第1識別マーク付き支持シートと第2識別マーク付き粘着シートの相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として機能させるように、構成することが可能である。一対の相互照合情報として機能する第1および第2識別マークは、互いに、同じパターン形状を有してもよいし、異なるパターン形状を有してもよい。また、第1および第2識別マークは、それぞれ、例えば、数字、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、記号、バーコード、およびQRコードから選択される少なくとも一種を含む。バーコードには、一次元バーコードおよび二次元バーコードが含まれる。
【0010】
このように構成された本鑑識用シートを使用して鑑識資料を採取するには、例えば、第1識別マークを有する支持シートから、第2識別マークを有する粘着シートを剥離した後、当該粘着シートの粘着剤層ないし粘着面に鑑識資料を付着させる。そして、鑑識資料を伴う第2識別マーク付き粘着シートは、鑑識資料の付着する粘着面の側にて、元の第1識別マーク付き支持シートに対して再び貼り合わせられる。支持シートの所定の箇所に設けられ得る記入面には、当該鑑識資料の採取に関し、年月日や、場所、採取物件名、整理番号等が記入されるとともに、採取者等による署名捺印がなされる。例えばこのようにして使用される本鑑識用シートにおいては、相互に対応付けられた支持シート側の第1識別マークと粘着シート側の第2識別マークとが単一鑑識用シート内で対をなすことによって、当該支持シートおよび粘着シートの相互対応性が保証される。鑑識資料採取後の本鑑識用シートにおいて、真正の鑑識資料を伴って支持シートに貼着している粘着シートが別の粘着シート(支持シートの第1識別マークに対応付けられた第2識別マークを伴わない粘着シート)で貼り代えられると、貼り代え後の粘着シートと支持シートについては相互対応性なしとの判別が可能となる。支持シートの第1識別マークに対応付けられた第2識別マークが粘着シートにないからである。鑑識資料採取後の本鑑識用シートにおいて、真正の鑑識資料を伴う粘着シートが貼着し且つ当該資料のための各種情報等の記された支持シートが別の支持シート(粘着シートの第2識別マークに対応付けられた第1識別マークを伴わない支持シート)で貼り代えられると、貼り代え後の支持シートと粘着シートについては相互対応性なしとの判別が可能となる。粘着シートの第2識別マークに対応付けられた第1識別マークが支持シートにないからである。すなわち、一対の相互照合情報の一方たる第1識別マークを伴う支持シートと、一対の相互照合情報の他方たる第2識別マークを伴う粘着シートとを具備する本鑑識用シートにおいては、上記のような貼り代えを経た場合にその貼り代えが覚知可能なのである。このような本鑑識用シートは、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シートまたは支持シートの取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保するのに適する。
【0011】
加えて、本鑑識用シートにおいて、第1識別マークは、支持シートに対し、第2識別マークとは別個にマーキングされたものであり、第2識別マークは、粘着シートに対し、第1識別マークとは別個にマーキングされたものである。支持シートにおける第1識別マークのマーキング箇所は、支持シートにおいて粘着シートが貼着される支持面であってもよいし、支持シートにおいて前記支持面とは反対の側の外表面であってもよいし、或いは、支持シートの内部であってもよい。支持シート内部に第1識別マークを設けるには、例えば、支持シートとして多層構造を有するシートを採用したうえで、当該支持シートを積層形成する過程において、多層構造内に位置することとなる所定面に第1識別マークをマーキングする。粘着シートにおける第2識別マークのマーキング箇所は、粘着シートにおける透明な基材層の粘着剤層側表面であってもよいし、基材層において粘着剤層とは反対の側の外表面であってもよいし、或いは、基材層の内部であってもよい。基材層内部に第2識別マークを設けるには、例えば、基材層として多層構造を有する積層体を採用したうえで、当該基材層を積層形成する過程において、多層構造内に位置することとなる所定面に第2識別マークをマーキングする。本鑑識用シートにおける第1識別マークは、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。本鑑識用シートにおける第2識別マークは、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。第1および第2識別マークは、本鑑識用シートにおいて個別にマーキングないし刻印形成されたものなのである。このような構成は、第1および第2識別マークの劣化を抑制ないし回避するうえで好適であり、従って、第1識別マーク付き支持シートと第2識別マーク付き粘着シートの相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として両識別マークを機能させ続けるのに好適である。
【0012】
以上のように、本鑑識用シートは、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シートまたは支持シートの取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保し続けるのに適するのである。
【0013】
本発明の第2の側面により提供される鑑識用シートは、支持シートおよび粘着シートを備える。支持シートは、第1識別マークがマーキングされている第1外面、および、当該第1外面とは反対の側の支持面を有する。粘着シートは、支持シートの支持面に対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有し、且つ、基材層における粘着剤層とは反対の側に、第2識別マークがマーキングされている第2外面を有する。
【0014】
本鑑識用シートは、互いの間が分離され得る支持シートと粘着シートを備えるところ、支持シートの側に一の外表面たり得る第1外面を有し、且つ、粘着シートの側に他の外表面たり得る第2外面を有する。支持シート側の第1外面には第1識別マークがマーキングされ、この第1識別マークは第1識別情報として利用可能である。第1識別マークのマーキングされた第1外面は、透明な保護膜で覆われてもよい。粘着シート側の第2外面には第2識別マークがマーキングされ、この第2識別マークは第2識別情報として利用可能である。第2識別マークのマーキングされた第2外面は、透明な保護膜で覆われてもよい。そして、本鑑識用シートにおいては、第1および第2識別マークについて互いの間で対応付けられるように設計することにより、両識別マークを、第1識別マーク付き支持シートと第2識別マーク付き粘着シートの相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として機能させるように、構成することが可能である。一対の相互照合情報として機能する第1および第2識別マークは、互いに、同じパターン形状を有してもよいし、異なるパターン形状を有してもよい。また、第1および第2識別マークは、それぞれ、例えば、数字、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、記号、バーコード、およびQRコードから選択される少なくとも一種を含む。バーコードには、一次元バーコードおよび二次元バーコードが含まれる。
【0015】
このように構成された本鑑識用シートを使用して鑑識資料を採取するには、例えば、第1識別マークを第1外面に有する支持シートの支持面から、第2識別マークを第2外面に有する粘着シートを剥離した後、当該粘着シートの粘着剤層ないし粘着面に鑑識資料を付着させる。そして、鑑識資料を伴う第2識別マーク付き粘着シートは、鑑識資料の付着する粘着面の側にて、元の第1識別マーク付き支持シートの支持面に対して再び貼り合わせられる。支持シートの所定の箇所に設けられ得る記入面には、当該鑑識資料の採取に関し、年月日や、場所、採取物件名、整理番号等が記入されるとともに、採取者等による署名捺印がなされる。例えばこのようにして使用される本鑑識用シートにおいては、相互に対応付けられた支持シート側の第1識別マークと粘着シート側の第2識別マークとが単一鑑識用シート内で対をなすことによって、当該支持シートおよび粘着シートの相互対応性が保証される。鑑識資料採取後の本鑑識用シートにおいて、真正の鑑識資料を伴って支持シートに貼着している粘着シートが別の粘着シート(支持シートの第1識別マークに対応付けられた第2識別マークを伴わない粘着シート)で貼り代えられると、貼り代え後の粘着シートと支持シートについては相互対応性なしとの判別が可能となる。支持シートの第1識別マークに対応付けられた第2識別マークが粘着シートにないからである。鑑識資料採取後の本鑑識用シートにおいて、真正の鑑識資料を伴う粘着シートが貼着し且つ当該資料のための各種情報等の記された支持シートが別の支持シート(粘着シートの第2識別マークに対応付けられた第1識別マークを伴わない支持シート)で貼り代えられると、貼り代え後の支持シートと粘着シートについては相互対応性なしとの判別が可能となる。粘着シートの第2識別マークに対応付けられた第1識別マークが支持シートにないからである。すなわち、一対の相互照合情報の一方たる第1識別マークを伴う支持シートと、一対の相互照合情報の他方たる第2識別マークを伴う粘着シートとを具備する本鑑識用シートにおいては、上記のような貼り代えを経た場合にその貼り代えが覚知可能なのである。このような本鑑識用シートは、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シートまたは支持シートの取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保するのに適する。
【0016】
加えて、本鑑識用シートにおいて、第1識別マークは、支持シートの第1外面に対し、第2識別マークとは別個にマーキングされたものであり、第2識別マークは、粘着シートの第2外面に対し、第1識別マークとは別個にマーキングされたものである。本鑑識用シートにおける第1識別マークは、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。本鑑識用シートにおける第2識別マークは、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。第1および第2識別マークは、本鑑識用シートにおいて個別にマーキングないし刻印形成されたものなのである。このような構成は、第1および第2識別マークの劣化を抑制ないし回避するうえで好適であり、従って、第1識別マーク付き支持シートと第2識別マーク付き粘着シートの相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として両識別マークを機能させ続けるのに好適である。
【0017】
以上のように、本鑑識用シートは、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シートまたは支持シートの取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保し続けるのに適するのである。
【0018】
好ましくは、第1識別マークおよび第2識別マークは、それぞれ、凹タイプマークまたは印刷マークである。凹タイプマークとは、マーキング対象面に凹形状の生ずる刻印方式でマーキングされたマークをいうものとする。そのような刻印方式としては、例えば、レーザーマーキングおよびエアペンマーキングが挙げられる。第1識別マークおよび第2識別マークは、それぞれ、より好ましくは、レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークであるレーザーマーク、または、エアペンマーキングによって形成される凹タイプマークであるエアペンマークである。これら構成は、第1および第2識別マークの劣化を抑制ないし回避するうえで好適であり、従って、第1識別マーク付き支持シートと第2識別マーク付き粘着シートの相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として両識別マークを機能させ続けるのに好適である。また、凹タイプマークは、形成された識別マーク以外の形状変化(例えば擦過痕の発生)の抑制されたマーキング対象面を得るうえで好適である。これに加え、レーザーマーキングによって形成されるレーザーマークは、形成対象の識別マークのパターン形状について自由度高く設定可能であるという点でも好適である。これは、鑑識用シートの生産性向上に資する。
【0019】
更に、レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークは、支持シートと粘着シートの間の剥離性を確保するうえでも好適である。支持シートと粘着シートが貼り合わされてなる鑑識用シートに対し、支持シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングが支持シート側からのレーザー照射によって形成される場合や、粘着シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングが粘着シート側からのレーザー照射によって形成される場合、鑑識用シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングがレーザー照射によって形成される場合には、粘着シートの粘着剤層における支持シート側表面すなわち粘着面の当該貫通孔形成箇所にて粘着剤が軟化溶融を経て、当該箇所にて粘着剤層が支持シートに融着しやすい。この融着が生ずると、支持シートと粘着シートとの間の分離すなわち剥離をすることができない場合や、剥離時に粘着剤層の当該融着部分が支持シートに引っ張られて粘着剤層が破損する場合がある。レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークを本鑑識用シートが第1識別マークおよび/または第2識別マークとして具備するという構成は、支持シートと粘着シートとの間での局所的な融着の発生を回避して、両シート間の剥離性を確保するうえで、好適なのである。また、粘着面での粘着剤の軟化溶融は、粘着剤層における当該軟化溶融箇所での変形を招くところ、粘着面に生じた変形ないし凹凸は、剥離を経た支持シートおよび粘着シートが再び貼り合せられた場合の両シート間の密着性を低下させる傾向にある。レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークを本鑑識用シートが第1識別マークおよび/または第2識別マークとして具備するという構成は、粘着面にそのような変形ないし凹凸が生ずるのを回避して、再貼り合せ後の支持シートと粘着シートの間の密着性を確保するうえで、好適である。
【0020】
好ましくは、粘着シートの基材層は、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリオレフィンフィルムを含む。好ましくは、基材層は、2.5~500μmの厚さを有する。これら構成は、粘着シートの支持体として基材層が機能するうえで好適である。
【0021】
好ましくは、粘着剤層は主剤としてポリウレタンを含む。ポリウレタンは、水素供与性基と水素受容性基とを併有する水素結合性官能基であるウレタン結合を有するところ、このような官能基を有するポリウレタンは、分子鎖間で水素結合を形成して凝集し得て、その凝集エネルギーは比較的に高い。そのため、ポリウレタンにおいては、高い軟化温度や高いガラス転移温度、即ち高い熱安定性を実現しやすい。このようなポリウレタンが粘着剤層中の主剤として含まれるという構成によると、本鑑識用シートにおける粘着剤層にて高い熱安定性や低い流動性を実現しやすい。本鑑識用シートにおける粘着剤層について、熱安定性が高いことや、流動性が低いことは、当該鑑識用シートに保持されている鑑識資料を長期間にわたって安定して保存するのに資する。また、本鑑識用シートにおいて粘着剤層の熱安定性ないし耐熱性が高いことは、鑑識用シート製造過程での識別マークマーキング時に粘着剤層への伝熱や粘着剤層内での発熱が生じた場合に、当該熱に起因する粘着剤層の変形・破損を防止するのにも資する。本鑑識用シートにおける粘着剤層に含まれるポリウレタンないし粘着剤の軟化温度は、好ましくは190~280℃である。粘着剤の軟化温度については、例えば、熱機械分析装置(商品名「TMA/SS7100」,エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使用して測定することができる。本測定では、例えば、ポリエチレンテレフタレート基材と粘着剤層(厚さ290μm)との積層構造を有する粘着シートから切り出された試料片(6mm×6mm)が用意される。本測定では、測定モードは針入法とされ、試料片の粘着剤面中央部がプローブ先端当接箇所とされ、プローブ先端径は1mmとされ、測定加重は1470mNとされる。本測定では、流量200ml/分での窒素気流下で開始温度150℃から終了温度320℃までの間を昇温速度10℃/分で昇温させる。また、粘着剤のガラス転移温度については、JIS規格(JIS K 7121:プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。
【0022】
粘着剤層中のポリウレタンは、好ましくは、ポリエステルポリウレタンである。ポリエステルポリウレタンは、上述のようなウレタン結合に加えて、水素受容性基であるエステル結合を有するところ、ポリエステルポリウレタンにおいて、エステル結合は、ウレタン結合よりも、分子鎖間を凝集させる作用が穏やかである。ポリエステルポリウレタンにおけるエステル結合の含有割合の調整は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ウレタン結合に加えてそのようなエステル結合を有するポリエステルポリウレタンにおいては、高い熱安定性を得られる範囲において分子鎖間凝集力を制御しやすい。また、ポリエステルポリウレタンを生成させるための原料モノマーについては、実際上、入手しやすい高純度モノマーの選択肢が多い。原料モノマーの純度が高いほど、それを用いて生成されるポリマーの透明性は高い傾向にあるところ、入手しやすい高純度原料モノマーの選択肢が多いポリエステルポリウレタンについては、高い透明性を実現しやすい。以上のようなポリエステルポリウレタンが粘着剤層中の主剤として含まれるという構成によると、本鑑識用シートにおける粘着剤層にて高い熱安定性や低い流動性を確保しつつ当該粘着剤層の凝集性を制御しやすく、且つ、当該粘着剤層にて高い透明性を実現しやすい。本鑑識用シートにおける粘着剤層について、熱安定性が高いことや、流動性が低いことは、当該鑑識用シートに保持されている鑑識資料を長期間にわたって安定して保存するのに資する。本鑑識用シートにおいて粘着剤層の熱安定性ないし耐熱性が高いことは、鑑識用シート製造過程での識別マークマーキング時に粘着剤層への伝熱や粘着剤層内での発熱が生じた場合に、当該熱に起因する粘着剤層の変形・破損を抑制するのにも資する。粘着剤層の凝集性の制御は、粘着剤層における良好な粘着力の実現や、被着体から粘着シートないし粘着剤層を剥離した後の被着体上の糊残りを抑制するのに、資する。また、本鑑識用シートにおける粘着剤層の透明性が高いことは、本鑑識用シートの製造過程でレーザーマーキングによって識別マークが形成される場合に、粘着剤層内でのレーザー光吸収に因る発熱を抑制して粘着剤層の熱変形・熱破損を防止するのに資する。
【0023】
粘着剤層中のポリエステルポリウレタンは、好ましくは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、および、第1の多価アルコール由来のユニットを含む。このような構成によると、上述の技術的効果を伴うポリエステルポリウレタンを適切に得ることが可能である。
【0024】
粘着剤層中のポリエステルポリウレタンは、好ましくは、ポリエステルポリエーテルポリウレタンである。ポリエステルポリエーテルポリウレタンは、上述のようなウレタン結合とエステル結合に加えて、ポリエーテル骨格を有する。ポリエーテル骨格に含まれるエーテル結合は、光吸収性が低く、且つ、炭素-炭素-炭素の結合よりも可動性ないし運動性に富む。ウレタン結合とエステル結合に加えてこのようなポリエーテル骨格を有するポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいては、高い熱安定性を得られる範囲において分子鎖間凝集力を制御しつつ、高い透明性と良好な柔軟性を実現しやすい。また、ポリエステルポリエーテルポリウレタンの属するポリエステルポリウレタンを生成させるための原料モノマーについては、実際上、入手しやすい高純度モノマーの選択肢が多い。入手しやすい高純度原料モノマーの選択肢が多いポリエステルポリウレタンに属するポリエステルポリエーテルポリウレタンについては、高い透明性を実現しやすい。以上のようなポリエステルポリエーテルポリウレタンが粘着剤層中の主剤として含まれるという構成によると、本鑑識用シートにおける粘着剤層にて、高い熱安定性や低い流動性を確保しつつ凝集性を制御しやすいのに加えて、高い透明性と良好な柔軟性を併せて実現しやすい。本鑑識用シートにおける粘着剤層について、熱安定性が高いことや、流動性が低いことは、当該鑑識用シートに保持されている鑑識資料を長期間にわたって安定して保存するのに資する。本鑑識用シートにおいて粘着剤層の熱安定性ないし耐熱性が高いことは、鑑識用シート製造過程での識別マークマーキング時に粘着剤層への伝熱や粘着剤層内での発熱が生じた場合に、当該熱に起因する粘着剤層の変形・破損を抑制するのにも資する。粘着剤層の凝集性の制御は、粘着剤層における良好な粘着力の実現や、被着体から粘着シートないし粘着剤層を剥離した後の被着体上の糊残りを抑制するのに、資する。本鑑識用シートにおける粘着剤層の透明性が高いことは、本鑑識用シートの製造過程でレーザーマーキングによって識別マークが形成される場合に、粘着剤層内でのレーザー光吸収に因る発熱を抑制して粘着剤層の熱変形・熱破損を防止するのに資する。本鑑識用シートにおける粘着剤層の柔軟性が高いほど、粘着剤層粘着面が鑑識資料に押し当てられた場合に当該資料の表面凹凸形状等に粘着面ないし粘着剤層が追従して変形しやすく、鑑識資料の凹凸形状を粘着剤層に写し取りやすい。また、本鑑識用シートにおける粘着剤層の熱安定性・低流動性と柔軟性とのバランスをとることにより、当該粘着剤層ないし粘着面について良好な上記凹凸追従を伴って密着する粘着性を実現しつつ、被着体から当該粘着剤層を剥離する際の被着体と粘着面との間における粘着剤のいわゆる糸引きを抑制することが、可能である。
【0025】
粘着剤層中のポリエステルポリエーテルポリウレタンは、好ましくは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、第1の多価アルコール由来のユニット、および、エーテル結合を含有する第2の多価アルコール由来のユニットを含む。このような構成によると、上述の技術的効果を伴うポリエステルポリエーテルポリウレタンを適切に得ることが可能である。
【0026】
粘着剤層中のポリエステルポリウレタンにおいて、多官能イソシアネート由来ユニットに帰属されるイソシアネート基の総数(即ち、多官能イソシアネート由来ユニットをなすこととなる多官能イソシアネートのイソシアネート基総数)と多価カルボン酸由来ユニットに帰属されるカルボキシ基の総数(即ち、多価カルボン酸由来ユニットをなすこととなる多価カルボン酸のカルボキシ基総数)との和に対する、多価アルコール由来ユニットに帰属される水酸基の総数(即ち、多価アルコール由来ユニットをなすこととなる多価アルコールの水酸基総数)の比の値は、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2である。この比の値が1に近いほど、ポリエステルポリウレタンの分子量は大きい傾向にあり、従って、ポリエステルポリウレタン間の高分子量に依る凝集性は高い傾向にある。当該比の値が1を下回って小さいほど、ポリエステルポリウレタンの総分子末端に存在する数について、イソシアネート基とカルボキシ基の総数の方が水酸基数よりも大きい傾向にあり、従って、比較的に大きく分極する高極性基たるイソシアネート基やカルボキシ基の存在に依るポリエステルポリウレタン間の凝集性は高い傾向にある。当該比の値が1を上回って大きいほど、ポリエステルポリウレタンの総分子末端に存在する数について、イソシアネート基やカルボキシ基よりも光吸収性の低い水酸基の数の方が、イソシアネート基とカルボキシ基の総数よりも大きい傾向にあり、従って、ポリエステルポリウレタンの透明性は高い傾向にある。ポリエステルポリウレタンにおけるこれら凝集性および透明性のバランスの観点から、ひいては、当該ポリエステルポリウレタンを含有する粘着剤層の凝集性および透明性のバランスの観点から、粘着剤層中のポリエステルポリウレタンにおいて、多官能イソシアネートのイソシアネート基総数と多価カルボン酸のカルボキシ基総数との和に対する、多価アルコールの水酸基総数の比の値は、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2なのである。
【0027】
粘着剤層中のポリエステルポリウレタンにおいて、多価カルボン酸由来ユニットに帰属されるカルボキシ基の総数(即ち、多価カルボン酸由来ユニットをなすこととなる多価カルボン酸のカルボキシ基総数)に対する、多官能イソシアネート由来ユニットに帰属されるイソシアネート基の総数(即ち、多官能イソシアネート由来ユニットをなすこととなる多官能イソシアネートのイソシアネート基総数)の比の値は、好ましくは0.5~1.0である。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層にて、高い透明性と良好な凝集性を併せて実現するうえで好適である。
【0028】
粘着剤層中のポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、第2の多価アルコール由来ユニットに帰属される水酸基の総数(即ち、第2の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第2の多価アルコールの水酸基総数)に対する、第1の多価アルコール由来ユニットに帰属される水酸基の総数(即ち、第1の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第1の多価アルコールの水酸基総数)の比の値は、好ましくは1.5~9.0である。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層にて、高い熱安定性、低い流動性、および高い透明性を確保しつつ、良好な凝集性と良好な柔軟性とを併せて実現するうえで、好適である。
【0029】
粘着剤層中のポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、好ましくは、第2の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第2の多価アルコールは同種モノマーの重合物たる多量体であり、当該第2の多価アルコール由来ユニットないし第2の多価アルコールにおける同種モノマー由来のユニットの総数に対する、第1の多価アルコール由来ユニットに帰属される水酸基の総数(即ち、第1の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第1の多価アルコールの水酸基総数)の比の値は、0.1~0.4である。このような構成は、第1の多価アルコール由来ユニットに因る技術的効果と第2の多価アルコール由来ユニットに因る技術的効果とのバランスを図るうえで好適である。加えて、このような構成は、粘着剤層中のポリエステルポリエーテルポリウレタンひいては粘着剤層において親水性が過剰となるのを抑制して鑑識用シートにおける粘着面による疎水性成分(例えば、指紋を形成する分泌物中の油脂成分)の採取性を確保するうえで好適である。
【0030】
好ましくは、上記の多官能イソシアネートは、脂肪族または脂環式の多官能イソシアネートである。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該多官能イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、および、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも一種である。ヘキサメチレンジイソシアネートは、ポリエステルポリウレタンにおいて高い透明性とともに適度な凝集性を実現するうえで、ひいては本鑑識用シートにおける粘着剤層において高い透明性とともに適度な凝集性を実現するうえで、多官能イソシアネートとして特に好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートは、これを用いて得られるポリエステルポリウレタンにおいて親水性のウレタン結合をなすこととなるイソシアネート基の数と疎水性骨格をなすこととなるメチレン基の数とのバランスが、鑑識用シートの粘着剤層のためのポリエステルポリウレタンにとっては適度なためであると考えられる。
【0031】
好ましくは、上記の多価カルボン酸は、脂肪族または脂環式の多価カルボン酸である。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該多価カルボン酸はアジピン酸である。上記のポリエステルポリウレタンがヘキサメチレンジイソシアネート由来のユニット(第1ユニット)とアジピン酸由来のユニット(第2ユニット)とを含む場合、第1ユニットにおける一対のウレタン結合間距離と第2ユニットにおける一対のエステル結合間距離が近似するので、当該第1および第2ユニットにおけるウレタン結合対とエステル結合対とは二組の水素結合を形成しやすい。このような相互作用は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのモノマーとしてヘキサメチレンジイソシアネートおよびアジピン酸を共に用いることは、ポリエステルポリウレタンないしこれを含有する粘着剤層の凝集性制御の観点から好ましい。
【0032】
好ましくは、上記の第1の多価アルコールは、脂肪族または脂環式の多価アルコールである。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該第1の多価アルコールは、ネオペンチルグリコールである。分岐鎖構造を有するネオペンチルグリコールは、直鎖状ポリオールと比較して、ポリエステルポリウレタンに組み込まれている状態においてポリエステルポリウレタン分子鎖間の凝集性を緩和する作用を期待できる。このような凝集性緩和作用は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのポリオール成分としてネオペンチルグリコールを用いることは、ポリエステルポリウレタンないしこれを含有する粘着剤層の凝集性制御の観点から好ましい。
【0033】
好ましくは、上記の第2の多価アルコールは、エーテル結合を含有する脂肪族または脂環式の多価アルコールである。このような構成は、本鑑識用シートにおける粘着剤層において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、上記の第2の多価アルコールは、ポリプロピレングリコールである。ポリプロピレングリコールは、柔軟性に富むのに加えて多官能化や高分子量化を図りやすい。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのポリオール成分としてポリプロピレングリコールを用いることは、ポリエステルポリウレタンについて柔軟性を付与しつつ自由度高く分子設計するうえで好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一の実施形態に係る鑑識用シートの一の平面図である。
【
図2】
図1に示す鑑識用シートの他の平面図である。
【
図3】
図1に示す鑑識用シートの部分拡大断面図である。
【
図4】
図1に示す鑑識用シートの一の変形例を表す。
【
図5】本発明の一の実施形態に係る鑑識用シートの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1から
図3は、本発明の一の実施形態に係る鑑識用シートX1を表す。
図1は、鑑識用シートX1の一の平面図であり、
図2は、鑑識用シートX1の他の平面図である。
図3は、鑑識用シートX1の部分拡大断面図である。
【0036】
鑑識用シートX1は、互いの間が分離され得る支持シート10および粘着シート20を備える。また、鑑識用シートX1は、支持シート10側の外面10a、および、粘着シート20側の外面20aを有する。
【0037】
支持シート10側の外面10aには、識別情報を担う識別マークM1がマーキングされている。識別マークM1のマーキングされた外面10aは、透明保護膜で覆われてもよい。粘着シート20側の外面20aには、識別情報を担う識別マークM2がマーキングされている。識別マークM2のマーキングされた外面20aは、透明保護膜で覆われてもよい。識別マークM1,M2は、それぞれ、凹タイプマークである。凹タイプマークとは、マーキング対象面に凹形状の生ずる刻印方式でマーキングされたマークをいうものとする。そのような刻印方式としては、例えば、レーザーマーキングおよびエアペンマーキングが挙げられる。レーザーマーキングには、例えば、CO2レーザー、UVレーザー、グリーンレーザー、およびファイバーレーザーを使用することができる。エアペンマーキングとは、高速振動する超硬針による点加圧を利用したマーキングである。
【0038】
これら識別マークM1,M2は、識別マークM1付き支持シート10と識別マークM2付き粘着シート20の相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として機能するように互いの間で対応付けられて設計されている。具体的には、識別マークM1,M2は、互いに同じパターン形状を有して一対の相互照合情報をなす。或いは、識別マークM1,M2は、互いに異なるパターン形状を有して一対の相互照合情報をなす。或いは、鑑識用シートX1がその厚さ方向の全域にわたって透明な部分領域を有するように設計されている場合には、識別マークM1は外面10aにおける前記部分領域上にマーキングされ且つ識別マークM2は外面20aにおける前記部分領域上にマーキングされ、これら識別マークM1,M2は、外面10a側から又は外面20a側から同時的に視認可能な状態をとって一対の相互照合情報をなす。このような識別マークM1,M2のそれぞれのパターン形状に含まれる素形状としては、例えば、数字、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、記号、バーコード、QRコード、およびその他の二次元コードが挙げられる。バーコードには、一次元バーコードおよび二次元バーコードが含まれる。識別マークM1,M2のそれぞれは、同種の素形状からなるパターン形状を有してもよいし、異種の素形状を含むパターン形状を有してもよい。
図1から
図3には、識別マークM1,M2が、共にレーザーマークであり、且つ、数字列からなる同じパターン形状を有して一対の相互照合情報をなす場合を、例示する。
【0039】
支持シート10は、
図3に示されるように、基材層11と、筆記層12と、バックグラウンド層13と、剥離層14とを含む積層構造を有する。
【0040】
支持シート10の基材層11は、支持シート10において支持体として機能する部位である。基材層11の構成材料としては、例えば、合成紙、上質紙、ケント紙、ポリエステルフィルム、およびポリオレフィンフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびポリブチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。ポリオレフィンフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムが挙げられる。基材層11の厚さは、例えば2.5~500μmであり、好ましくは25~300μm、より好ましくは50~200μm、より好ましくは100~150μmである。
【0041】
支持シート10の筆記層12は、書き込み可能な記入面を提供する部位であり、筆記層12の外表面は、支持シート10ないし鑑識用シートX1の一外表面たり得る外面10aをなし、本実施形態では、鑑識用シートX1ないし支持シート10の記入面である。筆記層12の提供する記入面には、
図1に示されるように、鑑識資料の採取に関する一組の情報が記録等されるための少なくとも一つの記入枠が設けられている。各記入枠には、例えば、年月日記入欄、採取番号記入欄、事件名記入欄、採取場所記入欄、採取物件名記入欄、採取者署名捺印欄、および立会人署名捺印欄が設けられている。このような記入枠は、例えば、筆記層12上に印刷形成されたものである。筆記層12の構成材料としては、例えば、白色系に着色されたポリウレタン系インキ、ポリエステル系インキ、アクリル系インキ、およびポリスチレン系インキが挙げられる。筆記層12の高耐熱性の観点からは、筆記層12の構成材料はポリウレタン系インキが好ましい。例えば、外面10aに対する上述の識別マークM1の形成手法としてレーザーマーキングを採用する場合において、レーザーマーキング時に筆記層構成材料の過溶融に因って描線等が潰れてしまうのを抑制するためには、筆記層構成材料の耐熱性は高いほど好ましい。このような筆記層12の厚さは、例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.5~10μmである。
【0042】
支持シート10のバックグラウンド層13は、着色された層であり、例えば黒色または白色である。バックグラウンド層13の構成材料としては、例えば、ポリウレタン系インキ、ポリエステル系インキ、アクリル系インキ、およびポリスチレン系インキが挙げられる。このようなバックグラウンド層13の厚さは、例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.5~30μmである。
【0043】
支持シート10の剥離層14は、支持シート10と粘着シート20との間の剥離性を確保するための層であり、例えば透明である。剥離層14の構成材料としては、透明なプラスチックフィルムが挙げられる。当該プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。剥離層14の厚さは、例えば2.5~500μmであり、好ましくは10~250μm、より好ましくは20~125μmである。このような剥離層14における粘着シート20側の表面は、支持シート10の支持面10bをなす。
【0044】
鑑識用シートX1の粘着シート20は、
図3に示されるように、基材層21および粘着剤層22を含む積層構造を有する。
【0045】
粘着シート20の基材層21は、粘着シート20において支持体として機能する部位であり、基材層21の外表面は、粘着シート20ないし鑑識用シートX1の一外表面たり得る外面20aをなす。鑑識用シートX1の支持シート10と粘着シート20の間に保持されることとなる鑑識資料に対する粘着シート20側からの視認性確保の観点から、基材層21の透明性は高いほど好ましい。また、外面20aに対する上述の識別マークM2の形成手法としてレーザーマーキングを採用する場合、基材層21の透明性が高いほど、レーザーマーキング時に描線等が着色しにくい傾向にある。この着色の抑制・防止が要求される場合にも、基材層21の透明性は高いほど好ましい。このような基材層21の構成材料としては、例えば、ポリエステルフィルムおよびポリオレフィンフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびポリブチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。ポリオレフィンフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムが挙げられる。基材層21において高い透明性を得るという観点からは、基材層21の構成材料はポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。このような基材層21の厚さは、好ましくは2.5~500μm、より好ましくは25~250μm、より好ましくは50~125μmである。
【0046】
粘着シート20の粘着剤層22は、粘着面22aを有し、支持シート10の支持面10bに対して着剥可能である。粘着剤層22は、主剤として粘着剤を含む粘着剤組成物によって形成され得る。主剤とは、含有成分中で最も大きな重量割合を占める成分とする。粘着剤層22に含まれる粘着剤としては、例えば、ウレタン系粘着剤としてのポリウレタン、アクリル系粘着剤としてのアクリル系ポリマー、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、およびゼラチン系粘着剤が挙げられる。また、鑑識用シートX1の支持シート10と粘着シート20の間に保持されることとなる鑑識資料に対する粘着シート20側からの視認性確保の観点から、粘着剤層22の透明性は高いほど好ましい。このような粘着剤層22の貯蔵弾性率は、例えば3×103~9×106Paであり、好ましくは3×103~9×105Pa、より好ましくは3×103~9×104Paである。粘着剤層22の粘着力は、例えば0.01~10N/20mmであり、好ましくは0.03~5N/20mm、より好ましくは0.05~2N/20mm、より好ましくは0.07~0.7N/20mmである。粘着剤層22の厚さは、例えば10~1000μmであり、より好ましくは150~800μm、より好ましくは200~500μmである。
【0047】
粘着剤層22に含まれる粘着剤は、好ましくは、ウレタン系粘着剤としてのポリウレタンである。ポリウレタンは、多数のウレタン結合を分子鎖中に有するポリマーであるところ、ポリマーグリコールや低分子グリコール等の多価アルコール、ジイソシアネート等の多官能イソシアネート、および、必要に応じて用いられる活性水素基含有化合物の重合体である。このようなポリウレタンは、例えば、二段階合成のいわゆるプレポリマー法または一段階合成のいわゆるワンショット法において、溶液重合、エマルション重合、または塊状重合によって合成することが可能である。ポリウレタンの有するウレタン結合は、水素供与性基と水素受容性基とを併有する水素結合性官能基であるところ、そのような水素結合性官能基を有するポリウレタンは、分子鎖間で水素結合を形成して凝集し得て、その凝集エネルギーは比較的に高い。そのため、ポリウレタンにおいては、高い軟化温度や高いガラス転移温度、即ち高い熱安定性を実現しやすい。このようなポリウレタンが粘着剤層22中の主剤として含まれるという構成によると、鑑識用シートX1における粘着剤層22にて高い熱安定性や低い流動性を実現しやすい。粘着剤層22について、熱安定性が高いことや、流動性が低いことは、鑑識用シートX1に保持されることとなる鑑識資料を長期間にわたって安定して保存するのに資する。また、粘着剤層22の熱安定性ないし耐熱性が高いことは、鑑識用シート製造過程での識別マークマーキング時に粘着剤層22への伝熱や粘着剤層22内での発熱が生じた場合に、当該熱に起因する粘着剤層22の変形・破損を防止するのにも資する。粘着剤層22に含まれる粘着剤たるポリウレタンの軟化温度は、好ましくは190~280℃、より好ましくは200~270℃、好ましくは210~260℃である。粘着剤の軟化温度については、例えば、熱機械分析装置(商品名「TMA/SS7100」,エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使用して測定することができる。本測定では、例えば、ポリエチレンテレフタレート基材と粘着剤層(厚さ290μm)との積層構造を有する粘着シートから切り出された試料片(6mm×6mm)が用意される。本測定では、測定モードを針入法とし、試料片の粘着剤面中央部がプローブ先端当接箇所とされ、プローブ先端径は1mmとされ、測定加重は1470mNとされる。本測定では、流量200ml/分での窒素気流下で開始温度150℃から終了温度320℃までの間を昇温速度10℃/分で昇温させる。一方、粘着剤のガラス転移温度については、JIS規格(JIS K 7121:プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。
【0048】
粘着剤層22に含まれる粘着剤たるポリウレタンは、好ましくは、ポリエステルポリウレタンである。ポリエステルポリウレタンは、上述のようなウレタン結合に加えて、水素受容性基であるエステル結合を有するところ、ポリエステルポリウレタンにおいて、エステル結合は、ウレタン結合よりも、分子鎖間を凝集させる作用が穏やかである。ポリエステルポリウレタンにおけるエステル結合の含有割合の調整は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ウレタン結合に加えてそのようなエステル結合を有するポリエステルポリウレタンにおいては、高い熱安定性を得られる範囲において分子鎖間凝集力を制御しやすい。また、ポリエステルポリウレタンを生成させるための原料モノマーについては、実際上、入手しやすい高純度モノマーの選択肢が多い。原料モノマーの純度が高いほど、それを用いて生成されるポリマーの透明性は高い傾向にあるところ、入手しやすい高純度原料モノマーの選択肢が多いポリエステルポリウレタンについては、高い透明性を実現しやすい。以上のようなポリエステルポリウレタンが粘着剤層22中の主剤として含まれるという構成によると、粘着剤層22において高い熱安定性や低い流動性を確保しつつ凝集性を制御しやすく、且つ、粘着剤層22において高い透明性を実現しやすい。粘着剤層22の凝集性の制御は、粘着剤層22における良好な粘着力の実現や、被着体から粘着シート20ないし粘着剤層22を剥離した後の被着体上の糊残りを抑制するのに、資する。また、粘着剤層22の透明性が高いことは、鑑識用シートX1の製造過程でレーザーマーキングによって識別マークM1や識別マークM2が形成される場合に、粘着剤層22内でのレーザー光吸収に因る発熱を抑制して粘着剤層22の熱変形・熱破損を防止するのに資する。
【0049】
粘着剤層22に含まれる粘着剤たるポリエステルポリウレタンは、好ましくは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、および、第1の多価アルコール由来のユニットを含む。このような構成によると、上述の技術的効果を伴うポリエステルポリウレタンを適切に得ることが可能である。
【0050】
粘着剤層22に含まれる粘着剤たるポリエステルポリウレタンは、好ましくは、ポリエステルポリエーテルポリウレタンである。ポリエステルポリエーテルポリウレタンは、上述のようなウレタン結合とエステル結合に加えて、ポリエーテル骨格を有する。ポリエーテル骨格に含まれるエーテル結合は、光吸収性が低く、且つ、炭素-炭素-炭素の結合よりも可動性ないし運動性に富む。ウレタン結合とエステル結合に加えてこのようなポリエーテル骨格を有するポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいては、高い熱安定性を得られる範囲において分子鎖間凝集力を制御しつつ、高い透明性と良好な柔軟性を実現しやすい。ポリエステルポリエーテルポリウレタンの属するポリエステルポリウレタンを生成させるための原料モノマーについては、実際上、入手しやすい高純度モノマーの選択肢が多い。入手しやすい高純度原料モノマーの選択肢が多いポリエステルポリウレタンに属するポリエステルポリエーテルポリウレタンについては、高い透明性を実現しやすい。以上のようなポリエステルポリエーテルポリウレタンが粘着剤層22中の主剤として含まれるという構成によると、鑑識用シートX1における粘着剤層22にて、高い熱安定性や低い流動性を確保しつつ凝集性を制御しやすいのに加えて、高い透明性と良好な柔軟性を併せて実現しやすい。粘着剤層22の柔軟性が高いほど、粘着剤層22ないしその粘着面22aが鑑識資料に押し当てられた場合に当該資料の表面凹凸形状等に粘着面22aが追従して変形しやすく、鑑識資料の凹凸形状を粘着剤層22に写し取りやすい。また、鑑識用シートX1における粘着剤層22の熱安定性・低流動性と柔軟性とのバランスをとることにより、粘着剤層22ないし粘着面22aについて良好な上記凹凸追従を伴って密着する粘着性を実現しつつ、被着体から粘着剤層22を剥離する際の被着体と粘着面22aとの間における粘着剤のいわゆる糸引きを抑制することが、可能である。
【0051】
粘着剤層22に含まれる粘着剤たるポリエステルポリエーテルポリウレタンは、好ましくは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、第1の多価アルコール由来のユニット、および、エーテル結合を含有する第2の多価アルコール由来のユニットを含む。このような構成によると、上述の技術的効果を伴うポリエステルポリエーテルポリウレタンを適切に得ることが可能である。
【0052】
上記の多官能イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素添加MDI、およびTDIアダクト体があげられる。上記の多官能イソシアネートは、好ましくは、脂肪族または脂環式の多官能イソシアネートである。当該構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該多官能イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、および、水素添加MDIからなる群より選択される少なくとも一種である。ヘキサメチレンジイソシアネートは、ポリエステルポリウレタンにおいて高い透明性とともに適度な凝集性を実現するうえで、ひいては鑑識用シートX1における粘着剤層22において高い透明性とともに適度な凝集性を実現するうえで、多官能イソシアネートとして特に好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートは、これを用いて得られるポリエステルポリウレタンにおいて親水性のウレタン結合をなすこととなるイソシアネート基の数と疎水性骨格をなすこととなるメチレン基の数とのバランスが、鑑識用シート用途の粘着剤層のためのポリエステルポリウレタンにとっては適度なためであると考えられる。
【0053】
上記の多価カルボン酸としては、例えば、脂肪族または脂環式の多価カルボン酸や、芳香族多価カルボン酸が挙げられる。脂肪族または脂環式の多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、およびセバシン酸が挙げられる。芳香族多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸およびトリメリット酸が挙げられる。上記の多価カルボン酸は、好ましくは、脂肪族または脂環式の多価カルボン酸である。当該構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該多価カルボン酸はアジピン酸である。上記のポリエステルポリウレタンがヘキサメチレンジイソシアネート由来のユニット(第1ユニット)とアジピン酸由来のユニット(第2ユニット)とを含む場合、第1ユニットにおける一対のウレタン結合間距離と第2ユニットにおける一対のエステル結合間距離が近似するので、当該第1および第2ユニットにおけるウレタン結合対とエステル結合対とは二組の水素結合を形成しやすい。このような相互作用は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのモノマーとしてヘキサメチレンジイソシアネートおよびアジピン酸を共に用いることは、ポリエステルポリウレタンないしこれを含有する粘着剤層22の凝集性制御の観点から好ましい。
【0054】
上記の第1の多価アルコールとしては、例えば、脂肪族または脂環式の多価アルコールや、芳香族多価アルコールが挙げられる。脂肪族または脂環式の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびシクロヘキサンジオールが挙げられる。芳香族多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールAおよびレゾルシノールが挙げられる。上記の第1の多価アルコールは、好ましくは、脂肪族または脂環式の多価アルコールである。当該構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、当該第1の多価アルコールは、ネオペンチルグリコールである。分岐鎖構造を有するネオペンチルグリコールは、直鎖状ポリオールと比較して、ポリエステルポリウレタンに組み込まれている状態においてポリエステルポリウレタン分子鎖間の凝集性を緩和する作用を期待できる。このような凝集性緩和作用は、ポリエステルポリウレタンの凝集性の一制御手段として利用することができる。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのポリオール成分としてネオペンチルグリコールを用いることは、ポリエステルポリウレタンないしこれを含有する粘着剤層22の凝集性制御の観点から好ましい。
【0055】
上記の第2の多価アルコールは、好ましくは、脂肪族または脂環式のエーテル結合含有多価アルコールである。脂肪族または脂環式のエーテル結合含有多価アルコールは、グリセロールやエチレングリコール等で架橋されたものであってもよい。当該第2の多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールが挙げられる。このような第2の多価アルコールの数平均分子量は、好ましくは300~50000、より好ましくは500~10000、より好ましくは500~5000、より好ましくは500~4000、より好ましくは1000~3000である。数平均分子量は、標準ポリマー試料としてポリエチレンオキサイド(PEO)を使用して行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定で得られる値(PEO換算値)とする。第2の多価アルコールに関する以上の構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22において高い透明性を実現するうえで好適である。より好ましくは、上記の第2の多価アルコールは、ポリプロピレングリコールである。ポリプロピレングリコールは、柔軟性に富むのに加えて多官能化や高分子量化を図りやすい。そのため、ポリエステルポリウレタンを形成するためのポリオール成分としてポリプロピレングリコールを用いることは、ポリエステルポリウレタンについて柔軟性を付与しつつ自由度高く分子設計するうえで好適である。
【0056】
粘着剤層22中のポリエステルポリウレタン(ポリエステルポリエーテルポリウレタンである場合を含む)において、多官能イソシアネートのイソシアネート基総数(即ち、多官能イソシアネート由来ユニットをなすこととなる多官能イソシアネートのイソシアネート基の総数)と多価カルボン酸のカルボキシ基総数(即ち、多価カルボン酸由来ユニットをなすこととなる多価カルボン酸のカルボキシ基の総数)との和に対する、多価アルコールの水酸基総数(即ち、多価アルコール由来ユニットをなすこととなる多価アルコールの水酸基の総数)の比の値(第1の比の値)は、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2である。この比の値が1に近いほど、ポリエステルポリウレタンの分子量は大きい傾向にあり、従って、ポリエステルポリウレタン間の高分子量に依る凝集性は高い傾向にある。当該比の値が1を下回って小さいほど、ポリエステルポリウレタンの総分子末端に存在する数について、イソシアネート基とカルボキシ基の総数の方が水酸基数よりも大きい傾向にあり、従って、比較的に大きく分極する高極性基たるイソシアネート基やカルボキシ基の存在に依るポリエステルポリウレタン間の凝集性は高い傾向にある。当該比の値が1を上回って大きいほど、ポリエステルポリウレタンの総分子末端に存在する数について、イソシアネート基やカルボキシ基よりも光吸収性の低い水酸基の数の方が、イソシアネート基とカルボキシ基の総数よりも大きい傾向にあり、従って、ポリエステルポリウレタンの透明性は高い傾向にある。ポリエステルポリウレタンにおけるこれら凝集性および透明性のバランスの観点から、ひいては、当該ポリエステルポリウレタンを含有する粘着剤層22の凝集性および透明性のバランスの観点から、粘着剤層22中のポリエステルポリウレタンにおいて、多官能イソシアネートのイソシアネート基総数と多価カルボン酸のカルボキシ基総数との和に対する、多価アルコールの水酸基総数の比の値は、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2なのである。
【0057】
粘着剤層22中のポリエステルポリウレタン(ポリエステルポリエーテルポリウレタンである場合を含む)において、多価カルボン酸のカルボキシ基総数(即ち、多価カルボン酸由来ユニットをなすこととなる多価カルボン酸のカルボキシ基の総数)に対する、多官能イソシアネートのイソシアネート基総数(即ち、多官能イソシアネート由来ユニットをなすこととなる多官能イソシアネートのイソシアネート基の総数)の比の値(第2の比の値)は、好ましくは0.5~1.0である。このような構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22にて、高い透明性と良好な凝集性を併せて実現するうえで好適である。
【0058】
粘着剤層22中のポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、第2の多価アルコールの水酸基総数(即ち、第2の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第2の多価アルコールの水酸基の総数)に対する、第1の多価アルコールの水酸基総数(即ち、第1の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第1の多価アルコールの水酸基の総数)の比の値(第3の比の値)は、好ましくは1.5~9.0である。このような構成は、鑑識用シートX1における粘着剤層22にて、高い熱安定性、低い流動性、および高い透明性を確保しつつ、良好な凝集性と良好な柔軟性とを併せて実現するうえで、好適である。
【0059】
粘着剤層22中のポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、第2の多価アルコールがポリプロピレングリコールやポリエチレングリコールのような同種モノマーの重合物たる多量体である場合、そのような多量体たる第2の多価アルコールにおける同種モノマー由来のユニットの総数に対する、第1の多価アルコールの水酸基総数(即ち、第1の多価アルコール由来ユニットをなすこととなる第1の多価アルコールの水酸基の総数)の比の値(第4の比の値)は、好ましくは0.1~0.4、より好ましくは0.12~0.34である。第1の多価アルコールに関して上述した技術的効果と第2の多価アルコールに関して上述した技術的効果とのバランスを図るうえでは、ポリエステルポリエーテルポリウレタンをなす第1および第2の多価アルコールに関する前記第4の比の値は、好ましくは0.1~0.4、より好ましくは0.12~0.34なのである。加えて、粘着剤層22中のポリエステルポリエーテルポリウレタンひいては粘着剤層22において親水性が過剰となるのを抑制して鑑識用シートX1における粘着面22aによる疎水性成分(例えば、指紋を形成する分泌物中の油脂成分)の採取性を確保するうえでは、前記第4の比の値は0.1以上であるのが好ましい。
【0060】
上述の第1の比の値、第2の比の値、第3の比の値、および第4の比の値は、それぞれ、ポリマー中の上記各種の部分構造ないし官能基の存在比率ないし相対数に基づいて求められ得る値である。ポリマー中の各種の部分構造ないし官能基の存在比率ないし相対数は、当該ポリマーの合成のために用いられる各種原料モノマーの相対量の調整によって制御可能であるところ、合成されたポリマーにおける各種の部分構造ないし官能基の存在比率ないし相対数は、それぞれ、例えば次のような過程を経て求められる。
【0061】
まず、分析対象のポリマーを精製する。例えば、分析対象ポリマーを含有する粘着剤層構成材料を所定の溶媒中で撹拌して得た粗ポリマー溶液から溶媒不溶分を濾過によって除去した後、当該溶液から、溶媒可溶性の低分子量の非ポリマー成分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を利用して除去し、そして、これによって得られたポリマー含有溶液から溶媒を留去する。溶媒は、ポリマーの溶解性等の性状に応じて決定され、例えば、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、トルエン、または水が当該溶媒として使用される。次に、精製を経た分析対象ポリマーについて、NMR測定用の所定の重水素化溶媒に溶解させて、試料溶液を調製する。これに代えて、分析対象ポリマー内のエステル結合やウレタン結合を加水分解するための加水分解処理を経て得られる分析対象ポリマー由来の各種フラグメントないし各種モノマーを重水素化溶媒に溶解させて、試料溶液を調製してもよい。或いは、分析対象ポリマー内のエステル結合やウレタン結合を加溶媒分解し得る重水素化溶媒を用いて分析対象ポリマーを加溶媒分解処理し、これによって得られる分析対象ポリマー由来の各種フラグメントないし各種モノマーを含有する重水素化溶媒から試料溶液を調製してもよい。加水分解処理や加溶媒分解処理によって得られる分析対象ポリマー由来の各種フラグメントないし各種モノマーについては、GPCによって複数の画分に分けたうえで、画分ごとにNMR測定用の試料溶液を調製してもよい。重水素化溶媒は、ポリマーの溶解性等の性状に応じて決定され、例えば、重水素化クロロホルム、重水素化塩化メチレン、重水素化塩化テトラヒドロフラン、重水素化アセトン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化N,N-ジメチルホルムアミド、重水素化メタノール、重水素化エタノール、または重水が当該重水素化溶媒として使用される。次に、試料溶液を1H-NMR測定に付し、1H-NMRスペクトルを得る。得られたスペクトルにおいては、波形分離を経たうえで、各種の部分構造ないし官能基に帰属されるシグナルの強度比(シグナルの積分比)が求められる。そして、当該シグナル強度比に基づき、ポリマー中の各種の部分構造ないし官能基の存在比率ないし相対数が求められる。例えば以上のようにして、分析対象ポリマー中の各種の部分構造ないし官能基の存在比率ないし相対数を求めることができる。
【0062】
粘着剤層22がアクリル系粘着剤としてのアクリル系ポリマーを含む場合、当該アクリル系ポリマーは、例えば、炭素数1~4のアルキル基を有する第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するユニットと、炭素数6~14のアルキル基を有する第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するユニットとを含む。「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味する。第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、および(メタ)アクリル酸t-ブチルが挙げられる。アクリル系ポリマーの形成のためには、一種類の第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられてもよいし、二種類以上の第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられてもよい。第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸イソヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸イソウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸イソトリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、および(メタ)アクリル酸イソテトラデシルが挙げられる。アクリル系ポリマーの形成のためには、一種類の第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられてもよいし、二種類以上の第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられてもよい。また、アクリル系ポリマーは、極性基含有モノマーに由来するユニットを含むのが好ましい。そのような極性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、およびシアノ基含有モノマーが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、および(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシルが挙げられる。アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、およびN-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、および(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチルが挙げられる。シアノ基含有モノマーとしては、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが挙げられる。アクリル系ポリマーの形成のためには、一種類の極性基含有モノマーが用いられてもよいし、二種類以上の極性基含有モノマーが用いられてもよい。
【0063】
粘着剤層22がゴム系粘着剤を含む場合、当該ゴム系粘着剤としては、例えば、ジエン系合成ゴムや非ジエン系合成ゴム等の合成ゴム、および天然ゴムが挙げられる。ジエン系合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、およびクロロプレンゴムが挙げられる。非ジエン系ゴムとしては、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、およびシリコーンゴムが挙げられる。
【0064】
粘着剤層22は、粘着剤に加えて酸化防止剤やいわゆる光安定剤を含んでもよい。
【0065】
以上のような構成を有する鑑識用シートX1の製造においては、例えば、まず、支持シート10および粘着シート20をそれぞれ作製する。支持シート10については、基材層11に対する筆記層12の積層形成、および、基材層11に対するバックグラウンド層13および剥離層14の積層形成によって、作製することができる。筆記層12およびバックグラウンド層13は、例えば印刷法によって形成することができる。剥離層14は、例えば、ドライラミネートや押出しラミネートの手法によって形成することができる。粘着シート20については、例えば、基材層21上に粘着剤組成物を塗布した後に当該粘着剤組成物を乾燥させることによって、作製することができる。鑑識用シートX1の製造においては、次に、支持シート10における支持面10bと粘着シート20における粘着面22aとを貼り合わせる。次に、支持シート10側の外面10aに対する識別マークM1のマーキング、および、粘着シート20側の外面20aに対する識別マークM2のマーキングを、それぞれ行う。マーキングとしては、例えば、レーザーマーキングおよびエアペンマーキングが挙げられる。レーザーマーキングには、例えば、CO2レーザー、UVレーザー、グリーンレーザー、およびファイバーレーザーを使用することができる。エアペンマーキングとは、高速振動する超硬針による点加圧を利用したマーキングである。識別マークM1のマーキングの後、支持シート10の外面10aを覆う透明保護膜を形成してもよい。識別マークM2のマーキングの後、粘着シート20の外面20aを覆う透明保護膜を形成してもよい。例えば以上のようにして、鑑識用シートX1を製造することができる。
【0066】
鑑識用シートX1を使用して鑑識資料を採取するには、例えば、識別マークM1を外面10aに有する支持シート10の支持面10bから、識別マークM2を外面20aに有する粘着シート20を剥離した後、粘着シート20の粘着剤層22ないし粘着面22aに鑑識資料を付着させる。鑑識資料としては、指紋、足跡、タイヤ痕、毛髪などが挙げられる。犯罪現場等に残る遺留指紋のうち肉眼では見えない潜在指紋を鑑識資料として採取する場合には、例えば、まず、潜在指紋の存在が見当付けられた所定の表面ないし領域に対し、アルミパウダー等の微粉末を使用した処理を施す。当該領域に潜在指紋が存在する場合には、この処理によって潜在指紋に微粉末が付着して当該指紋のパターン形状(複数の隆線よりなる)が顕在化する。そして、支持シート10から剥離された粘着シート20における粘着面22aを当該領域に押し当て、その後に当該領域から粘着シート20を剥がすことにより、顕在化指紋を粘着シート20の粘着面22aに転写させる。指紋の採取については、粘着シート20の粘着面22aに潜在指紋を採取した後に当該指紋に所定の処理液を作用させることによって当該指紋のパターン形状を発色・顕在化させる方法(EB法)を採用することもできる。例えば以上のようにして指紋等の鑑識資料が付着された識別マークM2付き粘着シート20は、鑑識資料を伴う粘着面22aの側にて、元の識別マークM1付き支持シート10の支持面10bに対して再び貼り合わせられる。支持シート10の外面10aにおける上述の記入枠内には、当該鑑識資料の採取に関し、年月日記、採取番号、事件名、採取場所、および採取物件名が記入され、且つ、採取者による署名捺印および立会人による署名捺印がなされる。
【0067】
鑑識用シートX1においては、相互に対応付けられた支持シート10側の識別マークM1と粘着シート20側の識別マークM2とが単一鑑識用シート内で対をなすことによって、これら支持シート10および粘着シート20の相互対応性が保証される。鑑識資料採取後の鑑識用シートX1において、真正の鑑識資料を伴って支持シート10に貼着している粘着シート20が別の粘着シート20(支持シート10の識別マークM1に対応付けられた識別マークM2を伴わない粘着シート)で貼り代えられると、貼り代え後の粘着シートと支持シート10については相互対応性なしとの判別が可能となる。支持シート10の識別マークM1に対応付けられた識別マークM2が当該粘着シートにないからである。鑑識資料採取後の鑑識用シートX1において、真正の鑑識資料を伴う粘着シート20が貼着し且つ当該資料のための各種情報等の記された支持シートが別の支持シート(粘着シート20の識別マークM2に対応付けられた識別マークM1を伴わない支持シート)で貼り代えられると、貼り代え後の支持シートと粘着シート20については相互対応性なしとの判別が可能となる。粘着シート20の識別マークM2に対応付けられた識別マークM1が支持シートにないからである。すなわち、一対の相互照合情報の一方たる識別マークM1を伴う支持シート10と、一対の相互照合情報の他方たる識別マークM2を伴う粘着シート20とを具備する鑑識用シートX1においては、上記のような貼り代えを経た場合にその貼り代えが覚知可能なのである。このような鑑識用シートX1は、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シート20または支持シート10の取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保するのに適する。
【0068】
また、鑑識用シートX1において、識別マークM1は、支持シート10の外面10aに対し、識別マークM2とは別個にマーキングされたものであり、識別マークM2は、粘着シート20の外面20aに対し、識別マークM1とは別個にマーキングされたものである。鑑識用シートX1における識別マークM1は、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。鑑識用シートX1における識別マークM2は、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。識別マークM1,M2は、鑑識用シートX1において個別にマーキングないし刻印形成された凹タイプマークなのである。このような構成は、識別マークM1,M2の劣化を抑制ないし回避するうえで好適であり、従って、識別マークM1付き支持シート10と識別マークM2付き粘着シート20の相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として識別マークM1,M2を機能させ続けるのに好適である。
【0069】
以上のように、鑑識用シートX1は、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シート20または支持シート10の取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保し続けるのに適するのである。
【0070】
また、鑑識用シートX1において識別マークM1,M2が凹タイプマークであるという構成は、形成された識別マークM1,M2以外の形状変化(例えば擦過痕の発生)の抑制されたマーキング対象面(外面10a,20a)を得るうえで好適である。例えば、透明な粘着シート20側の外面20aに擦過痕が存在すると、鑑識用シートX1に採取されている鑑識資料(例えば指紋)の鑑識作業を阻害する場合がある。
【0071】
加えて、識別マークM1および/または識別マークM2の形成手法としてレーザーマーキングを採用する場合には、形成対象の識別マークのパターン形状について自由度高く設定することが可能である。これは、鑑識用シートの生産性向上に資する。
【0072】
更に、レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークを鑑識用シートX1が識別マークM1および/または識別マークM2として具備するという構成は、支持シート10と粘着シート20の間の剥離性を確保するうえでも好適である。支持シートと粘着シートとが貼り合わされてなる鑑識用シートに対し、支持シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングが支持シート側からのレーザー照射によって形成される場合や、粘着シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングが粘着シート側からのレーザー照射によって形成される場合、鑑識用シートを貫通する貫通孔タイプのレーザーマーキングがレーザー照射によって形成される場合には、粘着シートの粘着剤層における支持シート側表面すなわち粘着面の当該貫通孔形成箇所にて粘着剤が軟化溶融を経て、当該箇所にて粘着剤層が支持シートに融着しやすい。この融着が生ずると、支持シートと粘着シートとの間の分離すなわち剥離をすることができない場合や、剥離時に粘着剤層の当該融着部分が支持シートに引っ張られて粘着剤層が破損する場合がある。レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークを鑑識用シートX1が識別マークM1および/または識別マークM2として具備するという構成は、支持シート10と粘着シート20との間での局所的な融着の発生を回避して、両シート間の剥離性を確保するうえで、好適なのである。また、粘着面での粘着剤の軟化溶融は、粘着剤層における当該軟化溶融箇所での変形を招くところ、粘着面に生じた変形ないし凹凸は、剥離を経た支持シートおよび粘着シートが再び貼り合せられた場合の両シート間の密着性を低下させ得る。レーザーマーキングによって形成される凹タイプマークを鑑識用シートX1が識別マークM1および/または識別マークM2として具備するという構成は、粘着シート20における粘着面22aにそのような変形ないし凹凸が生ずるのを回避して、再貼り合せ後の支持シート10と粘着シート20の間の密着性を確保するうえで、好適である。
【0073】
以上のような鑑識用シートX1については、
図4に示すように、複数の鑑識用シートX1が連なって一体化した構成をとってもよい。
図4には、6枚の鑑識用シートX1が連なって一体化した構成を例示する。このような構成においては、外面10a側において記入欄ごとに識別マークM1がマーキングされている。複数の識別マークM1は、互いに異なるパターン形状を有する。外面20a(図示せず)の側には、外面10a側の識別マークM1ごとに識別マークM2(図示せず)がマーキングされている。外面20a側の複数の識別マークM2も、互いに異なるパターン形状を有する。一対の相互照合情報として機能する識別マークM1,M2は、記入欄ごとに存在する。複数の鑑識用シートX1が連なって一体化した当該鑑識用シートについては、必要なサイズに切り出したうえで使用してもよい。複数の鑑識用シートが連なって一体化した構成をとり得ることについては、後述の実施形態に係る鑑識用シートに関しても同様である。
【0074】
図5は、本発明の一の実施形態に係る鑑識用シートX2の部分拡大断面図である。鑑識用シートX2は、互いの間が分離され得る支持シート10および粘着シート20を備える。支持シート10は、基材層11と、筆記層12と、バックグラウンド層13と、剥離層14とを含む積層構造を有する。粘着シート20は、基材層21および粘着剤層22を含む積層構造を有する。また、鑑識用シートX2は、支持シート10側の外表面たり得る外面10a、および、粘着シート20側の外表面たり得る外面20aを有する。支持シート10側の外面10aには、識別情報を担う識別マークM3がマーキングされている。粘着シート20側の外面20aには、識別情報を担う識別マークM4がマーキングされている。このような鑑識用シートX2は、識別マークM1に代えて識別マークM3を有する点、および、識別マークM2に代えて識別マークM4を有する点において、上述の鑑識用シートX1と異なる。鑑識用シートX2は、識別マークM3,M4以外について、鑑識用シートX1に関して上述したのと同様の構成を有する。
【0075】
識別マークM3,M4は、それぞれ、印刷マークである。印刷マークとは、マーキング対象面に印刷手法でマーキングされたマークをいうものとする。印刷手法としては、例えば、インクジェット印刷、熱転写印刷、グラビア印刷、凸版印刷、シルク印刷、スタンプ印刷、および焼付印刷が挙げられる。識別マークM3,M4は、それぞれの背景色とのコントラスト差の大きなインキによって印刷形成されてもよいし、背景色とのコントラスト差の小さなインキによって印刷形成されてもよい。或いは、識別マークM3,M4は、例えば紫外線照射時に発色するインキによって印刷形成されてもよい。
【0076】
これら識別マークM3,M4は、識別マークM3付き支持シート10と識別マークM4付き粘着シート20の相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として機能するように互いの間で対応付けられて設計されている。具体的には、識別マークM3,M4は、互いに同じパターン形状を有して一対の相互照合情報をなす。或いは、識別マークM3,M4は、互いに異なるパターン形状を有して一対の相互照合情報をなす。或いは、鑑識用シートX2がその厚さ方向の全域にわたって透明な部分領域を有するように設計されている場合には、識別マークM3は外面10aにおける前記部分領域上にマーキングされ且つ識別マークM4は外面20aにおける前記部分領域上にマーキングされ、これら識別マークM3,M4は、外面10a側から又は外面20a側から同時的に確認可能な状態をとって一対の相互照合情報をなす。このような識別マークM3,M4のそれぞれのパターン形状に含まれ得る素形状については、例えば、鑑識用シートX1の識別マークM1,M2のパターン形状に含まれ得る素形状について上述したのと同様である。
【0077】
以上のような構成を有する鑑識用シートX2については、例えば、鑑識用シートX1に関して上述した製造過程において、外面10a,20aに対する凹タイプマークの形成に代えて印刷マークの形成を行うことによって、製造することができる。また、鑑識用シートX2の使用方法については、鑑識用シートX1の使用方法について上述したのと同様である。
【0078】
鑑識用シートX2においては、相互に対応付けられた支持シート10側の識別マークM3と粘着シート20側の識別マークM4とが単一鑑識用シート内で対をなすことによって、これら支持シート10および粘着シート20の相互対応性が保証される。これは、上述の鑑識用シートX1において識別マークM1,M2が対をなすことによって支持シート10と粘着シート20の相互対応性が保証されるのと同様であり、鑑識用シートにおける上述の改竄行為やシートの取り違えを抑制するうえで好適である。また、鑑識用シートX2において、識別マークM3は、支持シート10の外面10aに対し、識別マークM4とは別個にマーキングされたものであり、識別マークM4は、粘着シート20の外面20aに対し、識別マークM3とは別個にマーキングされたものである。識別マークM3,M4は、それぞれ、着色成分で形成された別の識別マークの一部たる着色成分の転写作用の結果として複写形成されたものではなく、また、別の識別マーク形成時の局所的な加熱や、加圧、光照射等に対する物理的・化学的な感応作用の結果として複写形成されたものでもない。このような構成は、識別マークM3,M4の劣化を抑制ないし回避するうえで好適であり、従って、識別マークM3付き支持シート10と識別マークM4付き粘着シート20の相互対応性を判別するための一対の相互照合情報として識別マークM3,M4を機能させ続けるのに好適である。
【0079】
以上のように、鑑識用シートX2は、鑑識資料採取後の鑑識用シートに対する改竄行為の抑制、および、鑑識資料の採取過程や鑑識作業での粘着シート20または支持シート10の取り違えの抑制に適し、ひいては、採取された鑑識資料について刑事事件等で求められる証拠能力を確保し続けるのに適するのである。
【0080】
鑑識用シートX2においては、支持シート10側の外面10aに識別マークM3をマーキングする代わりに、鑑識用シートX1に関して上述した識別マークM1をマーキングしてもよい。また、鑑識用シートX2においては、粘着シート20側の外面20aに識別マークM4をマーキングする代わりに、鑑識用シートX1に関して上述した識別マークM2をマーキングしてもよい。
【実施例】
【0081】
〔実施例1〕
〈ウレタン系粘着剤溶液の作製〉
環流冷却器と、窒素ガス導入管と、撹拌機と、温度計とを備えたフラスコ内に、アジピン酸(和光純薬株式会社製)0.096molと、ネオペンチルグリコール(和光純薬株式会社製)0.127molと、数平均分子量1000のポリプロピレングリコール(和光純薬株式会社製)0.071molと、溶媒としてのデカヒドロナフタレン(和光純薬株式会社製)100gとを投入した。そして、フラスコ内に窒素ガスを導入しつつ、前記投入成分について、180~200℃の温度範囲に維持して12時間の撹拌を行った(脱水縮合反応)。次に、フラスコ内の当該反応溶液について、溶媒を留去した後、溶媒としてのテトラヒドロフラン100gを加えた。次に、フラスコ内の溶液温度を90℃に変更した後、ヘキサメチレンジイソシアネート(和光純薬株式会社製)0.064molと、ウレタン合成用触媒であるジブチルスズジラウリン酸エステル(和光純薬株式会社製)0.001molとを、フラスコ内に加え、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコ内の溶液について15時間の撹拌を行った(ポリウレタン化反応)。次に、反応溶液から溶媒を留去し、これによって得られた固形物とトルエンとを混合することによって、粘着剤たるポリエステルポリウレタンを含む粘着剤溶液(粘着剤溶液S1)を得た。粘着剤溶液S1中の固形分濃度は55質量%である。
【0082】
〈鑑識用シートの製造〉
透明な粘着シート側の基材層をなすこととなる厚さ75μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「ルミラーT60」,東レ株式会社製)上に、上記の粘着剤溶液S1を塗工した後に乾燥させて、厚さ280μmの透明粘着剤層を形成した。このようにして、本実施例の鑑識用シートのための透明粘着シートを作製した。次に、この透明粘着シートを、その粘着剤層ないし粘着面の側にて支持シートの支持面に貼り合せた。支持シートは、合成紙(商品名「ユポFPG」,130μm,株式会社ユポコーポレーション製)よりなる基材層と、ラミネート用インキ(商品名「ラミオールマークIII」,サカタインクス株式会社製)の塗工によって形成された記入面提供用の筆記層と、白色インキ(商品名「ラミックF220」,大日精化工業株式会社製)によってベタ印刷形成されたバックグラウンド層と、厚さ60μmの透明なOPPフィルム(2軸延伸ポリプロピレンフィルム)よりなって支持シートの支持面をなす剥離層とを含む積層構造を有する。こうして得られたシート積層体(支持シートおよび透明粘着シート)において、支持シートの筆記層側の外表面は第1外面をなし、且つ、透明粘着シートの基材層側の外表面は第2外面をなす。
【0083】
次に、前記のシート積層体の第1外面および第2外面のそれぞれに対して識別マークを形成した。具体的には、CO2レーザーマーキング装置(商品名「LP-420」,パナソニック デバイスSUNX株式会社製)を使用して、第1外面に第1識別マークとしての数字列「1243567890」をレーザーマーキングし、また、第2外面に第2識別マークとしての数字列「1243567890」をレーザーマーキングした。このレーザーマーキングにおいて、使用装置のエネルギー出力は50%とし、スキャン速度は500mm/秒とした。第1外面および第2外面のそれぞれにおいて、着色させずにレーザーマーキングすることができた。
【0084】
以上のようにして、実施例1の鑑識用シート、即ち、一対の相互照合情報の一方として機能するレーザーマークを支持シート側外表面に有し且つ一対の相互照合情報の他方として機能するレーザーマークを透明粘着シート側外表面に有する鑑識用シートを、製造することができた。
【0085】
〔実施例2〕
透明粘着シート用の基材層として厚さ75μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて厚さ60μmの透明ポリエチレンフィルム(商品名「NSOフィルム」,大倉工業株式会社製)を採用したこと以外は、実施例1の鑑識用シートと同様にして、実施例2の鑑識用シートを製造した。本実施例におけるマーキング手法および形成識別マークは、実施例1と同様のレーザーマーキングおよび数字列である。本実施例においても、第1外面および第2外面のそれぞれに、着色させずにレーザーマーキングすることができた。
【0086】
〔実施例3〕
透明粘着シート用の基材層として厚さ75μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて厚さ25μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「ルミラーT60」,東レ株式会社製)を採用したこと以外は、実施例1の鑑識用シートと同様にして、実施例3の鑑識用シートを製造した。本実施例におけるマーキング手法および形成識別マークは、実施例1と同様のレーザーマーキングおよび数字列である。本実施例においても、第1外面および第2外面のそれぞれに、着色させずにレーザーマーキングすることができた。
【0087】
〔実施例4〕
透明粘着シート用の基材層として厚さ75μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて厚さ188μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「ルミラーT60」,東レ株式会社製)を採用したこと以外は、実施例1の鑑識用シートと同様にして、実施例4の鑑識用シートを製造した。本実施例におけるマーキング手法および形成識別マークは、実施例1と同様のレーザーマーキングおよび数字列である。本実施例においても、第1外面および第2外面のそれぞれに、着色させずにレーザーマーキングすることができた。
【0088】
〔実施例5〕
〈アクリル系粘着剤溶液の作製〉
環流冷却器と、窒素ガス導入管と、撹拌機と、温度計とを備えたフラスコ内に、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)100質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)4質量部と、重合溶媒たる酢酸エチル30質量部とを投入した。そして、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら前記投入成分を23~27℃で6時間撹拌し、これによって反応系内の酸素を除去した。次に、フラスコ内に2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を加えた後、80℃に昇温し、12時間の重合反応を行った。これによりアクリル系ポリマーを含む溶液を得た。このようにして得られたアクリル系ポリマー溶液に対し、アクリル系ポリマー100質量部に対して架橋剤たる芳香族ポリイソシアネート(商品名「コロネートHL」,日本ポリウレタン工業株式会社製)1質量部を添加した。そして、この混合溶液を酢酸エチルで希釈して固形分濃度を30質量%に調整した。このようにして、粘着剤たるアクリル系ポリマーを含む粘着剤溶液(粘着剤溶液S2)を得た。
【0089】
〈鑑識用シートの製造〉
透明粘着シートの粘着剤層を形成するうえで、ポリエステルポリウレタン含有の上記粘着剤溶液S1の代わりにアクリル系ポリマー含有の上記粘着剤溶液S2を用いた以外は実施例1と同様にして、シート積層体(支持シートおよび透明粘着シート)を作製した。そして、当該シート積層体の支持シート側の第1外面および透明粘着シート側の第2外面のそれぞれに対し、実施例1と同様にして識別マークを形成した。本実施例におけるマーキング手法および形成識別マークは、実施例1と同様のレーザーマーキングおよび数字列である。本実施例においても、第1外面および第2外面のそれぞれに、着色させずにレーザーマーキングすることができた。以上のようにして、実施例5の鑑識用シート、即ち、一対の相互照合情報の一方として機能するレーザーマークを支持シート側外表面に有し且つ一対の相互照合情報の他方として機能するレーザーマークを透明粘着シート側外表面に有する鑑識用シートを、製造することができた。
【0090】
〔実施例6〕
〈ウレタン系粘着剤溶液の作製〉
環流冷却器と、窒素ガス導入管と、撹拌機と、温度計とを備えたフラスコ内に、数平均分子量2000のポリプロピレングリコール(和光純薬株式会社製)0.07molと、ヘキサメチレンジイソシアネート(和光純薬株式会社製)0.064molと、ウレタン合成用触媒であるジブチルスズジラウリン酸エステル(和光純薬株式会社製)0.001molと、溶媒としてのテトラヒドロフラン(和光純薬株式会社製)100gとを投入した。そして、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら、前記投入成分について90℃で15時間の撹拌を行った(ポリウレタン化反応)。次に、反応溶液から溶媒を留去し、これによって得られた固形物と酢酸エチルとを混合することによって、粘着剤たるポリエーテルポリウレタンを含む粘着剤溶液(粘着剤溶液S3)を得た。粘着剤溶液S3中の固形分濃度は55質量%である。
【0091】
〈鑑識用シートの製造〉
透明粘着シートの粘着剤層を形成するうえで、ポリエステルポリウレタン含有の上記粘着剤溶液S1の代わりにポリエーテルポリウレタン含有の上記粘着剤溶液S3を用いた以外は実施例1と同様にして、シート積層体(支持シートおよび透明粘着シート)を作製した。そして、当該シート積層体の支持シート側の第1外面および透明粘着シート側の第2外面のそれぞれに対し、実施例1と同様にして識別マークを形成した。本実施例におけるマーキング手法および形成識別マークは、実施例1と同様のレーザーマーキングおよび数字列である。本実施例においても、第1外面および第2外面のそれぞれに、着色させずにレーザーマーキングすることができた。以上のようにして、実施例6の鑑識用シート、即ち、一対の相互照合情報の一方として機能するレーザーマークを支持シート側外表面に有し且つ一対の相互照合情報の他方として機能するレーザーマークを透明粘着シート側外表面に有する鑑識用シートを、製造することができた。
【0092】
〔実施例7〕
識別マークのマーキング手法としてレーザーマーキングに代えて印刷マーキングを採用したこと以外は実施例1の鑑識用シートと同様の過程を経て、実施例7の鑑識用シートを製造した。本実施例では、実施例1に関して上述したシート積層体の第1外面および第2外面のそれぞれに対し、UV硬化型の凸版印刷によって識別マークをマーキングした。具体的には、UV硬化型印刷機(岩崎鉄工株式会社製)を使用して、第1外面に第1識別マークとしての第1バーコード(一次元バーコード)を印刷マーキングし、また、第2外面に第2識別マークとしての第2バーコード(第1バーコードと同じ一次元バーコード)を印刷マーキングした。凸版印刷によるこの印刷マーキングにおいて、使用装置のUV出力は1.5kVとし、印刷インキとして白色のUVインキ(商品名「UV161」,株式会社T&K TOKA製)を使用した。このようにして、実施例7の鑑識用シート、即ち、一対の相互照合情報の一方として機能する印刷マーク(バーコード)を支持シート側外表面に有し且つ一対の相互照合情報の他方として機能する印刷マーク(バーコード)を透明粘着シート側外表面に有する鑑識用シートを、製造することができた。
【0093】
〔実施例8〕
識別マークのマーキング手法としてレーザーマーキングに代えて印刷マーキングを採用したこと以外は実施例1の鑑識用シートと同様の過程を経て、実施例8の鑑識用シートを製造した。本実施例では、上記のシート積層体の第1外面および第2外面のそれぞれに対し、熱転写印刷によって識別マークをマーキングした。具体的には、サーマルプリンター(商品名「デュラプリンターSI600」,日東電工株式会社製)を使用して、第1外面に第1識別マークとしての第1QRコードを印刷マーキングし、また、第2外面に第2識別マークとしての第2QRコード(第1QRコードと同じ)を印刷マーキングした。熱転写印刷によるこの印刷マーキングにおいては、印刷インキとして黒色の熱転写用インキ(商品名「デュラインクH20」,日東電工株式会社製)を使用した。このようにして、実施例8の鑑識用シート、即ち、一対の相互照合情報の一方として機能する印刷マーク(QRコード)を支持シート側外表面に有し且つ一対の相互照合情報の他方として機能する印刷マーク(QRコード)を透明粘着シート側外表面に有する鑑識用シートを、製造することができた。
【0094】
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
【0095】
〔付記1〕第1識別マークがマーキングされている支持シートと、
前記支持シートに対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有し、且つ、第2識別マークがマーキングされている、粘着シートと、を備える鑑識用シート。
〔付記2〕第1識別マークがマーキングされている第1外面、および、当該第1外面とは反対の側の支持面、を有する支持シートと、
前記支持シートの前記支持面に対して着剥可能な粘着剤層および基材層を含む積層構造を有し、且つ、前記基材層における前記粘着剤層とは反対の側に、第2識別マークがマーキングされている第2外面を有する、粘着シートと、を備える鑑識用シート。
〔付記3〕前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、それぞれ、凹タイプマークまたは印刷マークである、付記1または2に記載の鑑識用シート。
〔付記4〕前記凹タイプマークはレーザーマークまたはエアペンマークである、付記3に記載の鑑識用シート。
〔付記5〕前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、同じパターン形状を有する、付記1から4のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記6〕前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、異なるパターン形状を有する、付記1から4のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記7〕前記第1識別マークおよび前記第2識別マークは、それぞれ、数字、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、記号、バーコード、およびQRコードから選択される少なくとも一種を含む、付記1から6のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記8〕前記支持シートは記入面を有する、付記1から7のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記9〕前記基材層は、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリオレフィンフィルムを含む、付記1から8のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記10〕前記基材層は、2.5~500μmの厚さを有する、付記1から9のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記11〕鑑識資料を採取するために使用される、付記1から10のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記12〕前記粘着剤層は主剤としてポリウレタンを含む、付記1から11のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記13〕前記ポリウレタンは、190~280℃の軟化温度を有する、付記12に記載の鑑識用シート。
〔付記14〕前記ポリウレタンは、ポリエステルポリウレタンである、付記12または13に記載の鑑識用シート。
〔付記15〕前記ポリエステルポリウレタンは、ポリエステルポリエーテルポリウレタンである、付記14に記載の鑑識用シート。
〔付記16〕前記粘着剤層は主剤としてアクリル系ポリマーを含む、付記1から11のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記17〕前記ポリエステルポリウレタンは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、および、第1の多価アルコール由来のユニットを含む、付記14または15に記載の鑑識用シート。
〔付記18〕前記ポリエステルポリエーテルポリウレタンは、多官能イソシアネート由来のユニット、多価カルボン酸由来のユニット、第1の多価アルコール由来のユニット、および、エーテル結合を含有する第2の多価アルコール由来のユニットを含む、付記15に記載の鑑識用シート。
〔付記19〕前記ポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、前記第2の多価アルコールの水酸基総数に対する、前記第1の多価アルコールの水酸基総数の比の値は、1.5~9.0である、付記18に記載の鑑識用シート。
〔付記20〕前記ポリエステルポリエーテルポリウレタンにおいて、前記第2の多価アルコールは同種モノマーの重合物たる多量体であり、当該第2の多価アルコールにおける同種モノマー由来のユニットの総数に対する、前記第1の多価アルコールの水酸基総数の比の値は、0.1~0.4である、付記18または19に記載の鑑識用シート。
〔付記21〕前記第2の多価アルコールは、エーテル結合を含有する脂肪族または脂環式の多価アルコールである、付記18から20のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記22〕前記第2の多価アルコールは、ポリプロピレングリコールである、付記21に記載の鑑識用シート。
〔付記23〕前記ポリエステルポリウレタンにおいて、前記多官能イソシアネートのイソシアネート基総数と前記多価カルボン酸のカルボキシ基総数との和に対する、前記多価アルコールの水酸基総数の比の値は、0.5~1.5である、付記17から22のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記24〕前記ポリエステルポリウレタンにおいて、前記多価カルボン酸のカルボキシ基総数に対する、前記多官能イソシアネートのイソシアネート基総数の比の値は、0.5~1.0である、付記17から23のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記25〕前記多官能イソシアネートは、脂肪族または脂環式の多官能イソシアネートである、付記17から24のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記26〕前記多官能イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、および、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも一種である、付記25に記載の鑑識用シート。
〔付記27〕前記多価カルボン酸は、脂肪族または脂環式の多価カルボン酸である、付記17から26のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記28〕前記多価カルボン酸は、アジピン酸である、付記27に記載の鑑識用シート。
〔付記29〕前記第1の多価アルコールは、脂肪族または脂環式の多価アルコールである、付記17から28のいずれか一つに記載の鑑識用シート。
〔付記30〕前記第1の多価アルコールは、ネオペンチルグリコールである、付記29に記載の鑑識用シート。
【符号の説明】
【0096】
X1,X2 鑑識用シート
M1,M2,M3,M4 識別マーク
10 支持シート
10a 外面
10b 支持面
11 基材層
12 筆記層
13 バックグラウンド層
14 剥離層
20 粘着シート
20a 外面
21 基材層
22 粘着剤層
22a 粘着面