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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】飲料水の供給装置
(51)【国際特許分類】
   E03B 3/28 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
E03B3/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018531868
(86)(22)【出願日】2017-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2017027486
(87)【国際公開番号】W WO2018025770
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2016153623
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513075696
【氏名又は名称】有限会社テル
(73)【特許権者】
【識別番号】000129194
【氏名又は名称】株式会社カンキョー
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 正弘
(72)【発明者】
【氏名】池 英俊
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-329268(JP,A)
【文献】特開2007-107273(JP,A)
【文献】特開2004-190235(JP,A)
【文献】特許第4271705(JP,B2)
【文献】特開昭54-047354(JP,A)
【文献】特公昭62-021566(JP,B2)
【文献】特開2016-121529(JP,A)
【文献】国際公開第2006/028287(WO,A1)
【文献】特開2015-027370(JP,A)
【文献】特開2009-079783(JP,A)
【文献】特表2009-503293(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185401(WO,A1)
【文献】特表2008-519189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03B 1/00-11/16
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を吸着または脱着しつつ空気を透過する着脱フィルターと、
該着脱フィルターを収容すると共に該着脱フィルターへ空気を誘導して、該着脱フィルターへ水蒸気を吸着させる第一区画と該着脱フィルターから水蒸気を脱着させる第二区画とを有するフィルターケースと、
該第一区画と該第二区画との間で該着脱フィルターを連続的または断続的に移動させる電動機と、
大気中に開口している吸気口から該第一区画を経て大気中へ開口している排気口まで連なる第一流路と、
該第一流路内の空気を流動させる第一電動ファンと、
該第二区画の下流側から上流側へ帰還する第二流路と、
該第二流路内の作動空気を流動させる第二電動ファンと、
該第二区画へ流入する作動空気を加熱する電熱ヒータと、
該第二区画から流出した作動空気を該第一流路を通過する空気により冷却して凝縮水を得るコンデンサと、
該凝縮水を貯水する貯水タンクと、
該貯水タンクの貯水に含まれる菌または不純物を除去する浄水フィルターと、
該貯水タンクの貯水を取水または止水するコックと、
を備える飲料水の供給装置。
【請求項2】
前記第二区画と前記コンデンサの中間に配設され、該第二区画から流出した作動空気で該コンデンサから流出した作動空気を加温する熱交換器を備える請求項1に記載の飲料水の供給装置。
【請求項3】
ソーラー発電装置および/または蓄電池を備える請求項1または2に記載の飲料水の供給装置。
【請求項4】
造水モードの終了後に乾燥モードを行う請求項1~のいずれかに記載の飲料水の供給装置。
【請求項5】
前記乾燥モードは、前記電熱ヒータを作動させず、少なくとも前記第一電動ファンと前記第二電動ファンを作動させてなされる請求項に記載の飲料水の供給装置。
【請求項6】
さらに、空気中に含まれる塵埃、粒子、細菌またはウイルスを捕集する空気清浄フィルターを備える請求項1~のいずれかに記載の飲料水の供給装置。
【請求項7】
前記空気清浄フィルターは、前記着脱フィルターの上流側に配設される請求項に記載の飲料水の供給装置。
【請求項8】
前記空気清浄フィルターは、多層フィルターである請求項またはに記載の飲料水の供給装置。
【請求項9】
前記飲料水を冷却および/または加熱する水温調整器を備える請求項1~8のいずれかに記載の飲料水の供給装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の空気を原料として水を得ることができ、特に、家庭内等への設置が容易で、かつ飲料水等に適した水を安定して得ることができる造水装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の生存に水は不可欠であるが、水(特に飲料水に適した水)の安定供給が可能な地域は限られる。砂漠等の乾燥地帯は勿論、一見、水が豊富にあるような地域や国であっても、飲料水に適した水の入手が困難な場所も多い。例えば、衛生環境が悪かったり河川が汚染されている地域、上水道が完備されていない離島等である。
【0003】
このような場所で、飲料水に適した水を得る方策として、汚水等の再生、海水の淡水化等がある。しかし、そのような処理は、大型の設備等が必要となり、導入が容易ではない。また、そもそも原料となる水(液体)が必要となるため、導入可能な地域も限定的である。
【0004】
そこで、大気中に存在する水蒸気から水(液体)を得ることが提案されており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭62-21566号公報
【文献】特許第4271705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1も特許文献2も、空気中の水蒸気を吸着させた吸着剤へ加熱空気を通過させ、得られた湿り空気を冷却して造水している。特許文献1では、吸着剤へ導入される空気の流路と吸着剤から導出された湿り空気の冷却流路とを分離した造水装置を提案している。特許文献2では、水蒸気を吸着させた吸着剤へ導入する空気の加熱や、各流路内にある空気の送気を太陽熱により行い、電力供給なしで作動可能な造水装置を提案している。
【0007】
特許文献1のような造水装置は、大型であり、一般家庭等へ普及させ難い。また特許文献2のような造水装置は、日々の生活に不可欠な水の生成量が、気候変動の影響を受け易くなって好ましくない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、コンパクト化と造水量の安定化とを両立でき、家庭内等にも導入し易い造水装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、吸着剤の移動、空気の送気および加熱を電力で行うと共に、吸着剤から流出した湿り空気の冷却構造を工夫することにより、コンパクト化と造水量の安定化を図れる造水装置を新たに開発した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《造水装置》
(1)本発明の造水装置は、水蒸気を吸着または脱着しつつ空気を透過する着脱フィルターと、該着脱フィルターを収容すると共に該着脱フィルターへ空気を誘導して、該着脱フィルターへ水蒸気を吸着させる第一区画と該着脱フィルターから水蒸気を脱着させる第二区画とを有するフィルターケースと、該第一区画と該第二区画との間で該着脱フィルターを連続的または断続的に移動させる電動機と、大気中に開口している吸気口から該第一区画を経て大気中へ開口している排気口まで連なる第一流路と、該第一流路内の空気を流動させる第一電動ファンと、該第二区画の下流側から上流側へ帰還する第二流路と、該第二流路内の作動空気を流動させる第二電動ファンと、該第二区画へ流入する作動空気を加熱する電熱ヒータと、該第二区画から流出した作動空気を該第一流路を通過する空気により冷却して凝縮水を得るコンデンサと、該凝縮水を貯水する貯水タンクと、を備える。
【0011】
(2)本発明の造水装置によれば、先ず、着脱フィルターの駆動、原料となる空気の吸排気、作動空気の加熱と流動を電力を用いて行っている。このため、商用電源や蓄電池等から電力供給が可能である限り、本発明の造水装置は作動し続け、安定した造水量の確保が可能となる。
【0012】
次に、本発明の造水装置では、水蒸気を吸着した着脱フィルターへ加熱した作動空気を透過させて得られる空気(「湿空気」という。)を冷却して凝縮水を得る際に、着脱フィルターへ水蒸気を吸着させるために取り込まれる空気(「原料空気」という。)を利用している。これにより、装置全体としてのコンパクト化が図れ、また、コンデンサ専用の電動ファン等も不要であるため、装置の簡素化や消費電力の抑制も図れる。
【0013】
《ウォーターサーバー》
本発明は上述した造水装置を利用したウォーターサーバーとしても把握できる。すなわち本発明は、水源と、該水源からの導水を注水する注水器とを備え、前記水源は上述した造水装置からなるウォーターサーバーでもよい。
【0014】
本発明のウォーターサーバーは、造水装置(その貯水タンク)から供給される導水を、冷却および/または加熱する水温調整器を備えると好適である。冷却は、例えば、電子冷却器(例えばペルチェ素子)による吸熱(熱移動)等を利用して行える。加熱は、例えば、電熱やペルチェ素子による放熱(熱移動)等を利用して行える。こうして装置全体のコンパクト化等を図りつつ、造水装置で得られた凝縮水を冷水および/または温水として供給できる。水温調整器は、そのような加熱器(ヒータ)と冷却器(クーラ)の少なくとも一方を備えればよいが、両者間の熱移動を利用して水温調整器の熱効率を高めることもできる。注水器は、例えば、温水および/または冷水をコップ等に注ぐ際に用いる注水コック(レバー、ダイヤル)等である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例である造水装置の回路構成図である。
図2】その造水装置を前方から見た分解斜視図である。
図3】その造水装置に内蔵されている本体の分解斜視図である。
図4】その本体を後方から見た分解斜視図である。
図5】その本体に内蔵されているフィルターケースの正面図である。
図6】整流板を設けた変形例を示すフィルターケースの正面図である。
図7】空気清浄フィルターを設けた変形例を示すA-A断面図である。
図8】ウォーターサーバーの回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を、上述した本発明の構成要素に付加し得る。方法的な構成要素であっても、一定要件下で本発明の造水装置に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、要求性能、用途等により異なる。
【0017】
(1)熱交換器
本発明の造水装置は、フィルターケースの第二区画とコンデンサの中間に配設され、第二区画から流出した作動空気(高温な湿空気)によりコンデンサから流出した作動空気(低温な乾空気)を加温する熱交換器を備えると好適である。
【0018】
第二区画から流出した作動空気(湿空気)は、着脱フィルターを通過した加熱空気であるため高温状態である。この湿空気は、熱交換器で、低温なコンデンサから流出した作動空気(「乾空気」という。)により予め冷却されてからコンデンサへ導かれる。このため、その湿空気はコンデンサで露点まで十分に冷却される結果、十分な凝縮水が安定的に生成され得る。
【0019】
逆に、低温な乾空気は、高温な湿空気により加温されてから電熱ヒータへ導かれる。このため、電熱ヒータによる消費電力を抑制しつつ、より高温な加熱空気を第二区画にある着脱フィルターへ流入させて水蒸気量の多い湿空気を得ることが可能となる。
【0020】
(2)電源
本発明の造水装置は、着脱フィルターの移動、原料空気や作動空気の流動および作動空気の加熱を電力により行っている。この電源は、家庭等で容易に調達できる電源で十分である。電源は、電力会社から供給される商用電源でも良い。また、電源として、ソーラー発電および/または蓄電池を備えると、本発明の造水装置を、様々な地域や場所、種々の条件下で利用できるようになって好ましい。特に、商用電源を主電源、ソーラー発電および/または蓄電池を予備電源として兼備することが可能であると、造水装置を利用できる範囲が拡大して好ましい。
【0021】
(3)コックとフィルター
本発明の造水装置で生じた凝縮水は、貯水タンクに貯められる。貯水タンク内の貯水量が一定以上となったとき、貯水タンクを交換したり、貯水タンク内の貯水を他の容器等へ移動させられるように、貯水タンクは着脱式であると好ましい。また、貯水タンクの貯水を、適宜、取水または止水できるコックを備えると、ユーザーは本発明の造水装置を水道源等としてそのまま使用できて好都合である。
【0022】
本発明の造水装置により得られる凝縮水は、水蒸気から得られた精製水であるため、基本的に清浄である。造水装置が載置される雰囲気(本明細書では「大気」ともいう。)の環境が汚染されていない限り、貯水タンクの貯水をそのまま飲料水として使用することもできる。もっとも本発明の造水装置は、貯水タンクの貯水に含まれる菌または不純物を除去する浄水フィルターを備えると、より好ましい。これにより、様々な場所や環境でも、貯水タンクの貯水を飲料用として、より安全に利用できるようになる。
【0023】
なお、浄水フィルターは市販されている汎用フィルターでもよいし、特定の菌または不純物を除去する専用フィルターでもよい。また浄水フィルターは、凝縮水が生成する下流側に配置されればよく、例えば、貯水タンク内でもよいし、コックの上流側または下流側でもよい。
【0024】
(4)空気清浄フィルター
空気清浄フィルターは、造水装置が配設される周囲の空気中から、ゴミ、塵埃、粒子、細菌またはウイルス等を除去して、空気を清浄化する。空気清浄フィルターは、例えば、造水装置の内部や筐体の壁面等に配設される。空気清浄フィルターへの空気の取り込みは、それ専用のファンを利用してもよいが、本発明に係る第一電動ファンや第二電動ファンを兼用すれば、造水装置の簡素化・コンパクト化を図れて好ましい。
【0025】
空気清浄フィルターは、着脱フィルターの上流側に配設されると好ましい。これにより造水装置内へ取り込まれる原料空気が浄化され、外界の空気清浄と併せて、凝縮水の浄化や造水装置の汚染対策等も行える。
【0026】
空気清浄フィルターは、捕集物に応じた一種以上が選択される。例えば、サイズが比較的大きいゴミ、塵埃、花粉等を除去する粗目フィルター(プレフィルター)、PM2.5等の微粒子を除去する細目フィルター、細菌やウイルス等を除去(除菌、殺菌等)する微細フィルター等を適宜組合わせて用いてもよい。空気清浄フィルターを多層フィルターとすることにより、空気流の圧損を抑制しつつ、空気の浄化を効率的に行える。多層フィルターは、複数の個別なフィルターを重ねてもよいし、予め複層構造に成形されたフィルターを用いてもよい。
【0027】
このようなフィルターは、例えば、JIS(Z8122)にも規定されており、HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルター (Ultra Low Penetration Air Filter) 等がある。なお、除菌や殺菌の効果を高めるために、空気清浄フィルターの下流側等にオゾン発生器をさらに設けてもよい。
【実施例
【0028】
[造水装置]
本発明の一実施例(第一実施例)である造水装置1を図1図5に示した。図1は造水装置1の回路構成図であり、図2は造水装置1を前方から見た分解斜視図であり、図3は造水装置1に内蔵されている本体30の分解斜視図であり、図4は本体30を後方から見た分解斜視図であり、図5は、本体30に内蔵されているフィルターケース31を正面から観た概要図である。なお、図3図4では、説明の便宜上、外側にある材部の一部を破断して内側にある部材を示した。
【0029】
《概要》
(1)構成
造水装置1は、図1からわかるように、着脱フィルター2へ吸着させる水蒸気の供給源となる原料空気の流路である原料流路X(第一流路)と、着脱フィルター2から水蒸気を脱着(放出)させて凝縮水を生成する生成流路Y(第二流路)とを備える。
【0030】
着脱フィルター2は、円盤状のロータからなり、フィルターケース31内に回転可能に収容されている。原料流路Xの原料空気は、電動の吸排気ファン3(第一電動ファン)により大気中から吸気され、フィルターケース31の吸着開口部38(第一区画)にある着脱フィルター2を通過した後、大気中へ排気される。生成流路Yの作動空気は、電動の循環ファン4(第二電動ファン)によりフィルターケース31の脱着開口部39(第二区画)にある着脱フィルター2の下流側から上流側へ帰還して閉循環している。
【0031】
生成流路Yには、脱着開口部39の上流側(着脱フィルター2の通過前)の作動空気(乾空気)を加熱する電熱ヒータ5と、脱着開口部39の下流側(着脱フィルター2の通過後)の作動空気(湿空気)を冷却して凝縮させるコンデンサ6とが配設されている。さらに生成流路Yには、脱着開口部39とコンデンサ6の中間に、熱回収用の熱交換器7が配設されている。
【0032】
熱交換器7では、着脱フィルター2を通過した高温の作動空気(湿空気)が流れる生成流路Yの高温部9と、着脱フィルター2を通過する前の低温の作動空気(乾空気)が流れる生成流路Yの低温部8との間で熱交換がなされる。これにより、脱着開口部39へ流入する作動空気(乾空気)は、電熱ヒータ5への導入前に予熱(加温)させる。この結果、電熱ヒータ5の消費電力を抑制しつつ、脱着開口部39の着脱フィルター2を通過させる作動空気を効率的に昇温でき、ひいては省エネルギー化と造水性能の向上とを両立できる。
【0033】
(2)作動
着脱フィルター2は、フィルターケース31内で、例えば3分間で1回転程度の緩やか速度で電動モータ(減速機を含む)により駆動され、連続的に回転している。吸排気ファン3によって造水装置1の原料流路Xへ吸い込まれた原料空気は、着脱フィルター2の所定回転領域に亘って開口する扇形状の吸着開口部38へ導入される。これにより原料空気中の水蒸気がその開口領域内を回転している着脱フィルター2へ吸着され、着脱フィルター2を透過した原料空気は大気中へ排気される。
【0034】
水蒸気を吸着した着脱フィルター2は、吸着開口部38に隣接して形成されている脱着開口部39へ進入する。脱着開口部39も着脱フィルター2の所定回転領域に亘って開口する扇形状をしている。循環ファン4によって生成流路Yを循環する作動空気は、熱交換器7および電熱ヒータ5で加熱されて、脱着開口部39へ導入され、着脱フィルター2から水蒸気を脱着(発散または放出)させる。こうして水蒸気が脱着(再生)された着脱フィルター2は、再び吸着開口部38へ進入して、上述したように原料空気中の水蒸気を吸着する。
【0035】
脱着開口部39にある着脱フィルター2から脱着された水蒸気を含む作動空気(湿空気)は、熱交換器7で一次冷却された後に、コンデンサ6でさらに冷却されて凝縮水を生成する。この凝縮水はドレインパン34(図2図3参照)に滴下されて、貯水タンク26に貯水される。コック27の開閉により、その貯水の取水または止水が可能となっている。なお、コンデンサ6を通過した作動空気は、熱交換器7で予熱された後に電熱ヒータ5で加熱されて、再び、脱着開口部39へ導入される。
【0036】
《詳細》
以下に、造水装置1の具体的な構造をより詳細に説明する。なお、後述する他の実施例(変形例)も含めて、既述した部材または構造と同様なものには、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。また、図2~5では、原料空気の流動経路(原料流路X)は中抜太矢印で、作動空気の流動経路(生成流路Y)は実線の太矢印でそれぞれ示した。
【0037】
ちなみに、コンデンサ6と熱交換器7における原料空気と作動空気の流動方向は、向流でも並流でも直流でもよい。流動方向を向流とすることにより熱交換効率の向上を図れ、並流または直流とすることによりコンパクト化を図れる。図1では、説明の便宜上、それらの流動方向が向流となる場合を示したが、実際の流動方向は並流または直流とした。向流よりも並流とする方が、着脱フィルター2近傍における空気のリーク量を低減できるからである。
【0038】
(1)構造
造水装置1は、図2に示すように、フロントカバー231とケース232とトップカバー233からなる縦長横広の筐体23内に、本体30が収容されてなる。フロントカバー231の上方側には、造水装置1の電源スイッチとその作動状態を示すインジケータを有する操作盤21が設けられている。ケース232の一方側面(図2中の左側面)には、内部へ大気中から原料空気を吸い込む吸気口24が形成されている。トップカバー233の上面には、水蒸気を吸着した後の原料空気を排出する排気口25が形成されている。排気口25は、ケース232の内部上方に設けられたダクト22により、後述する吸排気ファン収容室49の排出口51と連通している。筐体23の下部には、前方へ引き出して取り外せる貯水タンク26が収容されている。貯水タンク26には、浄水フィルター28とコック27が設けられている。貯水タンク26内の凝縮水は、浄水フィルター28を通過した清浄な飲料水として、コック27を通じて供給される。
【0039】
本体30は、図2~5に示すように、フィルターケース31に収容された着脱フィルター2、ファンケーシング32に収容された吸排気ファン3および循環ファン4、コンデンサ6、熱交換器7およびドレインパン34を有する。
【0040】
着脱フィルター2は、回転軸方向に空気を挿通し得る円板状の基体(ハニカム、濾紙、不織布等)と、その表面や内部に担持させた吸着剤(ゼオライト、シリカゲル、塩化リチウム、塩化カルシウム等)と、その基体を収容するリング状の枠体とからなる。着脱フィルター2は、その枠体の回転軸がフィルターケース31に枢支されており、減速機構(図略)を介してモータ37により転駆動される。着脱フィルター2は、例えば、約3分間でほぼ1回転する程度の緩やかな速度で、前方から見て反時計回り回転する(図5参照)。
【0041】
フィルターケース31は、ケース232の側面(吸気口24側)に対向配置される平板部35と、平板部35の後面側で着脱フィルター2を回転自在に収容するフィルター収容部36とを有する。またフィルターケース31は、原料空気が通過する吸着開口部38と、作動空気が通過する脱着開口部39とを有する。吸着開口部38と脱着開口部39は、フィルターケース31を前後方向(着脱フィルター2の回転軸方向)に貫通する扇形状の開口であり、着脱フィルター2の回転方向に関して隣接して配設されている。それらの開口領域に対応して、着脱フィルター2の前面2aと後面2bの所定範囲がそれぞれ露出している。具体的にいうと、吸着開口部38は、着脱フィルター2の約2/3の範囲(中心角で約240°)に亘って開口しており、脱着開口部39は、着脱フィルター2の残り約1/3の範囲(中心角で約120°)に亘って開口している。
【0042】
熱交換器7は、低温部8と高温部9を有し、フィルターケース31の上部にある熱交換器収容室40に収容される。低温部8と高温部9は、対向する支持壁41間を貫通して、所定間隔で横方向(略水平方向)に保持された複数の並設されたパイプ42(仕切壁部)により構成されている。具体的にいうと、パイプ42によって、脱着開口部39へ流入する作動空気が通過する低温部8(パイプ42内側)と、脱着開口部39から流出する作動空気が通過する高温部9(パイプ42外側)とが形成されている。なお、熱交換器収容室40は、その上部が蓋体43で閉塞されることにより、高温部9からコンデンサ6へ至る連通路の一部を形成している。
【0043】
電熱ヒータ5は、電源の供給を受けて発熱し、脱着開口部39へ流入する作動空気を加熱する。電熱ヒータ5は、フィルターケース31の前側に配設され、上流カバー部材44内に収容される。なお、上流カバー部材44は、フィルターケース31の前側で、吸着開口部38と脱着開口部39の間を仕切ると共に熱交換器収容室40の低温部8と脱着開口部39の上流側との間を連通させている。
【0044】
コンデンサ6は、吸着開口部38の前方に配設されており、対向する支持壁45間を貫通して、所定間隔で上下方向(鉛直斜め方向)に保持された複数本の並設されたパイプ46からなる。コンデンサ6の上部は、熱交換器収容室40の高温部9に連通しており、脱着開口部39の着脱フィルター2を通過して熱交換器7を経た作動空気(湿空気)がパイプ46内側へ流入する。一方、パイプ46外側は、大気中から吸い込まれた原料空気(吸着開口部38の流入前の原料空気)が通過する。
【0045】
こうして作動空気(湿空気)はパイプ46内を通過する際に低温な原料空気により冷却され、そこに含まれる水蒸気がパイプ46内で凝縮水となる。ここでコンデンサ6のパイプ46は、鉛直方向に対して若干傾斜した姿勢状態(例えば、約15°の傾斜角)でフィルターケース31に取り付けられている。このためパイプ46内の凝縮水は、パイプ46内に留まらずに流下する。
【0046】
パイプ46内を流下する凝縮水は、コンデンサ6の下部に設けられたドレインパン34で受けられる。ドレインパン34は、溜まった凝縮水を貯水タンク26に導くドレイン孔47と、ドレインパン34内に流入した作動空気(乾空気)を、熱交換器7のパイプ42側へ導くダクト48とを有する。なお、ドレイン孔47は、その作動空気を通過させずに、凝縮水だけを貯水タンク26に回収する機構を備える。
【0047】
フィルターケース31の後側には、下流カバー部材50とファンケーシング32が配設されている。下流カバー部材50は、吸着開口部38と脱着開口部39の間を仕切り、脱着開口部39の下流側と熱交換器収容室40の高温部9とを連通している。ファンケーシング32は、フィルターケース31と協働して、吸排気ファン3を収容する吸排気ファン収容室49を形成している。吸排気ファン収容室49は、着脱フィルター2を通過した原料空気を排出する排出口51を上部に有し、排出口51は筐体23の排気口25へ連通している。
【0048】
ファンケーシング32の後面とファンカバー33とにより循環ファン4を収容する循環ファン収容室52が形成されている。循環ファン収容室52の上部は、熱交換器収容室40に連通している。循環ファン収容室52の下部は、ドレインパン34のダクト48に連通している(図4参照)。なお、吸排気ファン3と循環ファン4はそれぞれファンケーシング32の前側と後側に配設されていると共に、両者は同軸で連結されて一つの電動モータ(図示せず)により回転駆動される。
【0049】
(2)気流
先ず、吸排気ファン3の作動により、吸気口24から筐体23内へ原料空気が吸い込まれる。原料空気はコンデンサ6のパイプ46の隙間を通過して、吸着開口部38(第一区画)にある着脱フィルター2へ流入する。着脱フィルター2を通過した原料空気は、吸排気ファン収容室49内へ流入し、その上部にある排出口51から排気口25を経て、大気中へ排気される。このような原料空気の経路により、各図中に中抜太矢印で示した原料流路X(図1参照)が形成される。
【0050】
次に、循環ファン4の作動により、循環ファン収容室52内の作動空気は循環ファン収容室52の上部から送り出されて、熱交換器収容室40の低温部8(パイプ42内側)を通過して、フィルターケース31の後面側から前面側へ移動し、上流カバー部材44内へ流入する。上流カバー部材44内の作動空気は、電熱ヒータ5により加熱された後、脱着開口部39(第二区画)にある着脱フィルター2の前面2a側から後面2b側へ流動する。着脱フィルター2を通過した作動空気は、下流カバー部材50内を上昇して、熱交換器収容室40へ下方から流入し、熱交換器7の高温部9(パイプ42外側)の長手方向に亘って通過する。その後、作動空気は高温部9の下流部9bから流出して、コンデンサ6のパイプ46内へ流入し、パイプ46の隙間を前側から後側へ通過する原料空気により冷却される。冷却された作動空気(乾空気)は、ダクト48を通って再び循環ファン収容室52に戻る。このような作動空気の経路により、各図中に実線の太矢印で示した生成流路Y(図1参照)が形成される。
【0051】
(3)熱交換
造水装置1の場合、図5に示すように、脱着開口部39にある着脱フィルター2を通過した作動空気は、着脱フィルター2に沿って熱交換器7の側面部7Aから高温部9へ流入し、着脱フィルター2の外周側にあるパイプ42間の隙間を流動した後、熱交換器7の長手方向の下流端面部7Bから流出する。
【0052】
ところで、着脱フィルター2は、高温部9内を流動する作動空気の流動方向と反対方向(図5に示す反時計回り)に回転している。このため脱着開口部39において、着脱フィルター2の回転方向の前方に位置する先行領域Hを通過した作動空気は、側面部7Aの上流部9a側へ流入する。一方、着脱フィルター2の回転方向の後方に位置する後行領域Cを通過した作動空気は、側面部7Aの下流部9b側へ流入して熱交換器7を短時間で通過する。
【0053】
ここで、先行領域Hは後行領域Cよりも、脱着開口部39内における滞在時間が長く、蒸発量も少なく気化熱も奪われ難い。従って、先行領域Hは後行領域Cよりも高温となり、先行領域Hを通過する作動空気は、後行領域Cを通過する作動空気よりも温度が高い。
【0054】
従って、本実施例の造水装置1では、高温の作動空気は熱交換器7の通過時間が長く、低温の作動空気は熱交換器7の通過時間が短くなっており、熱交換器7の効率向上が図られている。この結果、電熱ヒータ5の通過前の作動空気は熱交換器7で効率的に加温され、電熱ヒータ5の消費電力を抑制しつつ、十分に高温な作動空気が脱着開口部39にある着脱フィルター2へ導かれる。このため造水装置1は、消費電力を抑制しつつも、高い造水性能を発揮する。
【0055】
《変形例》
(1)造水装置1は、図6に示すように、脱着開口部39の下流側にある下流カバー部材50内に、整流板53を設けてもよい。整流板53は、着脱フィルター2の中心近傍から外周側を経て、高温部9の上流部9a付近まで弓状に湾曲した仕切りである。整流板53により、下流カバー部材50内は、先行領域H側と後行領域C側とに仕切られる。これにより、先行領域Hを通過した高温の作動空気は、熱交換器7の高温部9へ到達する前に、後行領域Cを通過した低温の作動空気と混合して温度が低下することが防止される。つまり、先行領域Hを通過した高温の作動空気のみが、高温部9の上流部9aへ積極的に誘導され、上流部9aへ確実に流入する。
【0056】
(2)着脱フィルター2は、上述したように、鉛直方向に配置する他、水平方向に配置されてもよい。また、コンデンサ6または熱交換器7は、直流型に限らず、向流型でも並流型でもよい。
【0057】
(3)造水装置1は、電源スイッチ(造水モード)をOFFにした後に、カビの発生等を防止するために、内部を乾燥させる乾燥モードで運転を継続すると好ましい。乾燥モードは、例えば、電熱ヒータ5をOFF状態として、吸排気ファン3、循環ファン4およびモータ37を所定の時間だけ作動させることにより行える。運転停止時、生成流路Y(第二流路)内は原料流路X(第一流路)内よりも湿度が高くなっているが、上述の乾燥モードで運転することにより、生成流路Y(第二流路)内の水蒸気は着脱フィルター2により吸収された後、原料流路X(第一流路)から放出される。
【0058】
この他、乾燥モードとして、ドレイン孔47に開閉弁を設け、乾燥時にその弁を全面開放等してもよい。このとき、吸排気ファン3と循環ファン4を作動させるだけで、造水装置1外の空気がドレイン孔47から生成流路Y(第二流路)へ吸い込まれ、着脱フィルター2の周囲にある隙間を介して原料流路X(第一流路)から排出される。こうして生成流路Y内は、その外部から吸い込まれた空気により乾燥される。この場合、ドレイン孔47が大きいほど、乾燥モードを迅速に行える。但し、ドレイン孔47が過大になると、造水時に装置外から装置内へ空気が流入し易くなる。そこで、開閉弁によってドレイン孔47の開口具合を調整すると好ましい。例えば、造水時は水膜ができる程度にドレイン孔47の開口を絞り、乾燥モード時にはドレイン孔47の開口を全面開放できると好ましい。
【0059】
(4)造水装置1は、図7に示すように、ケース232の側面にある吸気口24の内側に、空気清浄フィルターFを設けてもよい。空気清浄フィルターFは、造水装置1の周囲の空気から塵埃や花粉等を捕集する目の粗い第一清浄フィルターf1と、第一清浄フィルターf1を通過した空気からPM2.5等の微細粒子を捕集する目の細かい第二清浄フィルターf2とが積層された多層フィルターである。第一清浄フィルターf1は、例えば、プレフィルター、脱臭フィルター等であり、第二清浄フィルターf2は、例えば、中性能フィルター、HEPAフィルター等である。
【0060】
空気清浄フィルターFは、ケース232の内側に設けられた窓枠241内に収容される。空気清浄フィルターFは、フロントカバー231側から出し入れできるようにしてもよいし、図7に示すようにケース232の外側から着脱できるようにしてもよい。いずれの場合でも、交換可能なカートリッジ状であると、メンテナンスが容易となり好ましい。
【0061】
このような空気清浄フィルターFを造水装置1に設けることにより、原料流路Xには清浄な空気が供給されると共に、浄化された空気が排気口25から造水装置1の外部へ放出される。その結果、生成される凝縮水や造水装置1内の汚染抑止と共に、造水装置1が設置される空間の空気清浄も併せて可能となる。
【0062】
《補足》
上述した実施例を踏まえて、本発明は次のようにも把握できる。
(1)着脱フィルターと、
該着脱フィルターを回転可能に収容すると共に、原料空気が通過する着脱フィルターの第一領域に対応して開口している吸着開口部と作動空気が通過する着脱フィルターの第二領域に対応して開口している脱着開口部とを有するフィルターケースと、
該脱着開口部を通過する前の作動空気が通過する低温部と該脱着開口部を通過した後の作動空気が通過する高温部とに仕切られた仕切壁部を有する熱交換器と、
該熱交換器の下流側にあり該脱着開口部を通過する前の作動空気を加熱する電熱ヒータと、
該熱交換器の上流側にあり該脱着開口部を通過した作動空気を原料空気により冷却して凝縮水を得るコンデンサと、
吸排気ファンによって外部から吸い込まれた原料空気が該吸着開口部を通過した後に再び外部へ排出される原料流路と、
循環ファンにより送気される作動空気が該低温部、該電熱ヒータ、該脱着開口部、該高温部の順序で流動する生成流路とを備え、
前記着脱フィルターの回転方向に沿って、前記脱着開口部の先行領域を通過した後の作動空気が前記高温部の上流部へ流入すると共に、該脱着開口部の後行領域を通過した後の作動空気が該高温部の下流部へ流入する造水装置。
【0063】
(2)さらに、前記先行領域を通過した作動空気を前記高温部の上流部に誘導し、前記後行領域を通過した作動空気を前記高温部の下流部へ誘導する整流板を、前記脱着開口部の下流側に設けた造水装置。
【0064】
(3)さらに、造水モードの終了後に前記乾燥モードを行う制御装置を備えた造水装置。
【0065】
[ウォーターサーバー]
造水装置1を水源としたウォーターサーバーWSの回路構成図を図8に示した。なお、ウォーターサーバーWSでは、造水装置1の貯水タンク26に設けていたコック27を後述する配管pに変更している。造水装置1の各構成部材については、既述した符号をそのまま付して、それらの説明は省略した。
【0066】
ウォーターサーバーWSは、造水装置1に加えて、冷水タンクtcと、温水タンクthと、冷水タンクtc内の水を冷却するクーラcと、温水タンクth内の水を加熱するヒータhと、冷水タンクtcから冷水を注水できる冷水コックccと、温水タンクthから温水を注水できる温水コックchと、貯水タンク26から冷水タンクtcおよび温水タンクthへ導水する配管pを備える。
【0067】
クーラcは冷水タンクtcの側面に貼着されたペルチェ素子等である。ヒータhは温水タンクthの側面に貼着された電熱バンド(バンドヒータ)、温水タンクthに挿入された電熱金属棒、ペルチェ素子等のいずれかである。冷水コックccと温水コックchが本発明でいう注水器に相当し、クーラcとヒータhが本発明でいう水温調整器に相当する。
【符号の説明】
【0068】
1 造水装置
2 着脱フィルター
3 吸排気ファン(第一電動ファン)
4 循環ファン(第二電動ファン)
5 電熱ヒータ
6 コンデンサ
7 熱交換器
8 低温部
9 高温部
26 貯水タンク
27 コック
31 フィルターケース
38 吸着開口部(第一区画)
39 脱着開口部(第二区画)
H 先行領域
C 後行領域
X 原料流路(第一流路)
Y 生成流路(第二流路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8