(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】免疫寛容応答を生成する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/19 20060101AFI20220302BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20220302BHJP
A61K 35/39 20150101ALI20220302BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220302BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220302BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20220302BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220302BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220302BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220302BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220302BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220302BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20220302BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220302BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A61K38/19
A61K47/61
A61K35/39
A61K38/16
A61K38/02
A61K38/18
A61P37/06
A61P3/10
A61P25/00
A61P43/00 121
A61L27/38
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/54
(21)【出願番号】P 2018535329
(86)(22)【出願日】2017-01-05
(86)【国際出願番号】 IL2017050013
(87)【国際公開番号】W WO2017118979
(87)【国際公開日】2017-07-13
【審査請求日】2019-11-06
(32)【優先日】2016-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518286264
【氏名又は名称】ビー.ジー.ネゲブ テクノロジーズ アンド アプリケーションズ リミテッド, アット ベン‐グリオン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン、スマダール
(72)【発明者】
【氏名】モンソネゴ、アロン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/078990(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/043050(WO,A2)
【文献】Biomaterials, (2016), 80, p.11-19
【文献】J. Neuroimmunol., (1997), 75, [1-2], p.169-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
A61K 48/00
A61K 50/00-51/12
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/33-33/44
C07K 1/00-19/00
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
アルギン酸硫酸塩と、前記アルギン酸硫酸塩の硫酸基に対して非共有的に結合するトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)ポリペプチドとを含み、
対象における免疫寛容応答の誘導に使用される、組成物。
【請求項2】
前記免疫寛容応答が、末梢免疫寛容、前記組成物の投与領域に限局される免疫寛容応答、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記免疫寛容応答が、同種移植成功の向上、アロ細胞移植に対する免疫応答の抑制、アロ細胞アポトーシスの抑制、アロ細胞生存の増加、アロ細胞移植の血管新生の促進、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記免疫寛容応答が、前記TGF-β1ポリペプチドの長期間の提示、炎症性シグナル伝達の抑制、樹状細胞成熟の抑制、CD8+T細胞の細胞傷害性応答の抑制、制御性T細胞分化の促進、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
組成物であって、
アルギン酸硫酸塩と、前記アルギン酸硫酸塩の硫酸基に対して非共有的に結合されるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)ポリペプチドとを含み、
対象における自己免疫疾患または障害の治療または抑制に使用される、組成物。
【請求項6】
前記自己免疫疾患または傷害が、多発性硬化症、乾癬、及びI型糖尿病を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記自己免疫疾患または傷害がI型糖尿病である場合には、当該組成物は、膵臓β細胞をさらに含み、
前記自己免疫疾患または傷害が多発性硬化症である場合には、当該組成物は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物であって、
アルギン酸硫酸塩と、前記アルギン酸硫酸塩の硫酸基に対して非共有的に結合されるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)ポリペプチドとを含み、
対象における同種移植拒絶の減少または防止に使用される、組成物。
【請求項9】
当該組成物が、前記アルギン酸硫酸塩の硫酸基に対して非共有的に結合する少なくとも1つの生物活性ポリペプチドをさらに含む、請求項1ないし8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの生物活性ポリペプチドが、正に帯電したポリペプチド、ヘパリン結合性ポリペプチド、血管新生活性を示すヘパリン結合性ポリペプチド、自己抗原、またはそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの生物活性ポリペプチドが、
アンチトロンビンIII(AT III)、トロンボポエチン(TPO)、セリンプロテアーゼ阻害剤(SLP1)、C1エステラーゼ阻害剤(C1 INH)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、FGF受容体、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、骨形成タンパク質(BMP)、上皮増殖因子(EGF)、CXCケモカインリガンド4(CXCL4)、ストロマ細胞由来因子-1(SDF-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、血小板やT細胞由来の好酸球走化性物質(RANTES)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性ペプチド-1(MIP-1)、リンホタクチン、フラクタルカイン、アネキシン、アポリポタンパク質E(ApoE)、免疫不全ウイルス1型(HIV-1)コートタンパク質gp120、シクロフィリンA(CypA)、Tatタンパク質、単純ヘルペスウイルス(HSV)のウイルスコート糖タンパク質gC、gB、またはgD、デングウイルスの外被タンパク質、熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲(CS)タンパク質、細菌表面接着タンパク質OpaA、1-セレクチン、P-セレクチン、ヘパリン結合性増殖関連分子(HB-GAM)、トロンボスポンジンI型反復(TSR)、アミロイドP(AP)、PDGF-AA、BMP-2、BMP-4、BMP-7、またはインターロイキン-10(IL-10)を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
血管新生活性を示す前記ヘパリン結合性ポリペプチドが、VEGF、bFGF、aFGF、PDGF-ββ、IGF、HGF、BMP、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
血管新生活性を示す前記ヘパリン結合性ポリペプチドが、VEGF及びPDGF-ββの両方を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記自己抗原が、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
当該組成物が、支持マトリックスをさらに含む、請求項1ないし14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記支持マトリックスが、多糖類、タンパク質、細胞外マトリックス成分、合成ポリマー、及びそれらの任意の混合物からなる群より選択されるポリマーを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記多糖類が、アルギン酸塩と硫酸化アルギン酸塩との組み合わせを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アルギン酸硫酸塩が、ウロン酸残基を含む、請求項1ないし17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
I型糖尿病を治療するための細胞移植デバイスであって、
バイオコンジュゲートを含み、
前記バイオコンジュゲートが、アルギン酸硫酸塩と、
前記アルギン酸硫酸塩の硫酸基に対して非共有的に結合されるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)と、同種異系または同系の膵臓β細胞とを含む、
細胞移植デバイス。
【請求項20】
少なくとも1つの生物活性ポリペプチドをさらに含む、請求項19に記載の
細胞移植デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、免疫寛容応答を生成する組成物及び方法に関する。詳細には、本発明は、免疫寛容応答を生成するための、硫酸化多糖類及び生物活性ポリペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞同種移植拒絶の防止は、現在の細胞治療ストラテジーにおける大きな課題である。このような拒絶反応は、同種移植反応性エフェクターであるCD4細胞及びCD8T細胞によってもたらされる。免疫抑制薬による生涯にわたる治療は、アロ反応及び移植拒絶を減弱させることができるが、感染及び悪性腫瘍のリスク増加と関係がある。近年、栄養素及び老廃物に対して透過性を有する膜カプセル内の細胞カプセル化に依存する、同種異系細胞移植の免疫拒絶を防止するためのいくつかの生体材料ベースのストラテジーが開発されている。しかしながら、カプセルは、細胞侵入及び血管新生も阻害するため、デバイスのサイズは、200μmの酸素拡散距離に制限される。
【0003】
理想的な細胞移植デバイスは、移植した細胞の生存能力を維持するためにその全体積の血管新生を可能にし、かつ宿主との移植片同化を促進すべきである。しかしながら、デバイスの血管新生は、しばしば、血液循環による白血球の広範な浸潤に起因して、同種移植拒絶のリスク増加と関連する。
【0004】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)は、免疫調節性サイトカインであり、それは、自己免疫疾患及び癌において明らかであるように炎症過程を抑制するように作用するので、免疫寛容微小環境の生成を促進することができる。TGF-βリッチ環境では、抗原を取り込む樹状細胞(DC)が免疫寛容原性となり、CD4+T細胞の抗炎症調節性T細胞への分化をもたらし、エフェクターCD4+T細胞の産生だけでなく、細胞傷害性CD8+T細胞の活性化及び増殖も抑制する。
【0005】
したがって、望ましくない全身的作用を回避しつつ、局所的な免疫寛容微小環境を生成するための改善された組成物及び方法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様では、対象における免疫寛容応答を誘導する方法であって、前記対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有する方法に関する。一実施形態では、前記生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である。
【0007】
別の態様では、本発明は、対象における同種移植拒絶を減少させるかまたは防止する方法であって、前記対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有する方法に関する。一実施形態では、前記生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)ある。
【0008】
また、本発明は、対象における自己免疫疾患または障害を治療する方法であって、
前記対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対してそれぞれ非共有的に結合する第1の生物活性ポリペプチド及び第2の生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有し、前記組成物が、支持マトリックスをさらに含み、前記支持マトリックスが、多糖類、タンパク質、細胞外マトリックス成分、合成ポリマー、及びそれらの任意の混合物からなる群より選択されるポリマーを含む方法に関する。一実施形態では、前記第1の生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である。一実施形態では、前記第2の生物活性ポリペプチドは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】アルギン酸硫酸塩/アルギン酸塩スキャフォールドの作製プロセスを示す。90%のアルギン酸塩と10%のアルギン酸硫酸塩との混合物を、カルシウムイオンを用いて架橋させた。次いで、その混合物を、96ウェルプレートに注入し、凍結乾燥させ、マクロ多孔質スキャフォールドを作製した。TGF-β及び血管新生因子を、スキャフォールドのアルギン酸硫酸塩に親和結合させた。
【
図1B】アルギン酸硫酸塩スキャフォールドに親和結合したとき、及び元のスキャフォールドに吸収されたときの、残存したTGF-βの割合を表すグラフ。割合は、ELISAで検出した、7日間の総入力TGF-βから計算した。
【
図1C】0.5ng/mlのTGF-βに曝露させてから40分後のNIH-3T3線維芽細胞の細胞株の溶解物を用いた、p-SMAD2及びp-SMAD3のウェスタンブロットのプロット。
【
図1D】P-SMAD2/アクチンのウェスタンブロットの分析を示すグラフ。レーン1:培地、TGF-βなし;レーン2:培地+TGF-β;レーン3:スキャフォールドから経時的に放出されたTGF-β;レーン4:酸性pHでAlg/AlgSスキャフォールドから分離した後のafTGF-β;レーン5:EDTAでアルギン酸硫酸塩/アルギン酸塩スキャフォールドを溶解させた後のafTGF-β。データは、3回の反復実験の平均値及びSDを表す。
【
図2A】インビトロ実験のタイムラインを示す:afTGF-β(50ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないOTII脾細胞を、スキャフォールド内に播種した。播種から2時間後、OVAペプチド(20μg/ml)を培地に添加して脾細胞を活性化し、その後、サイトカインを測定した。
【
図2B】TGF-OVA対照群と比較した、IL-17(72時間)のサイトカイン分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図2C】TGF-OVA対照群と比較した、IL-10(48時間)のサイトカイン分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図2D】TGF-OVA対照群と比較した、IL-2(24時間)のサイトカイン分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図2E】TGF-OVA対照群と比較した、IFN-γ(48時間)のサイトカイン分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図3】活性化後3日目の、リンパ球を示すFACSプロット及びCD4T細胞ゲーティングの代表的なFACSプロット。
【
図4A】活性化後3日目の、CD25及びFoxp3を発現するCD4+T細胞の代表的なFACSプロット。
【
図4B】TGF-β欠損構築物の代表的なFACSヒストグラムと比較した、afTGF-β構築物内のTregの頻度の増加を示すFACSヒストグラム。
【
図4C】-TGF-OVA対照と比較した、afTGF-βを含む及び含まない全CD4+T細胞に対するTregの割合を測定したグラフ。赤:afTGF-β;青:TGF-β欠損;黒:対照。データは、3回の反復実験の平均値及び3つの別個の実験のSEMを表す。結果は、不対t検定により比較した(
**p<0.01)。
【
図5A】播種後3日目の、CD25及びFoxp3を発現するCD4+T細胞の代表的なFACSプロット。脾細胞をafTGF-β構築物及びTGF-β欠損構築物中で培養し、抗IL-10(1ng/ml)の存在下で、OVAによって刺激した。赤:afTGF-β;青:TGF-β欠損;黒:対照。
【
図5B】afTGF-β構築物とTGF-β欠損構築物との間にTregの頻度の差がないことを示す代表的なFACSヒストグラム。赤:afTGF-β;青:TGF-β欠損;黒:対照。
【
図5C】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まない全CD4+T細胞に対するTregの割合を示す。
【
図5D】TGF-OVA対照と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIL-2分泌の倍率変化を示す。
【
図5E】TGF-OVA対照と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIFN-γ分泌の倍率変化を示す。
【
図5F】TGF-OVA対照と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIL-17分泌の倍率変化を示す。
【
図5G】共培養後3日目の、CD25及びFoxp3を発現するCD4+T細胞の代表的なFACSプロット。OVAT細胞を、afTGF-β構築物及びTGF-β欠損構築物中で、CD11c
dnrTgマウス由来の脾細胞と共培養した。赤:afTGF-β;青:TGF-β欠損;黒:対照。
【
図5H】afTGF-β構築物とTGF-β欠損構築物との間に、Treg集団の差異がないことを示す代表的なFACSヒストグラム。赤:afTGF-β;青:TGF-β欠損;黒:対照。
【
図6A】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まない全CD4+T細胞に対するTregの割合を測定したグラフ。
【
図6B】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIL-2分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図6C】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIFN-γ分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図6D】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIL-17分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図6E】TGF-OVA対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まないIL-10分泌の倍率変化を測定したグラフ。
【
図7A】移植後の10日目の線維芽細胞を含有する回収されたデバイスのPECAM(CD31)染色された凍結切片の、スキャフォールドへの宿主内皮細胞浸透を示す。
【
図7B】移植後の15日目の、アロ線維芽細胞(緑色)を含有するTGF-β欠損構築物内に形成された血管(赤色)の共焦点イメージングを示す。
【
図7C】移植後の15日目の、アロ線維芽細胞(緑色)を含有するafTGF-β欠損構築物内に形成された血管(赤色)の共焦点イメージングを示す。
【
図8】PECAM染色が占める面積を切片の総面積で割ることにより求めた血管密度を表すグラフ。データは、PECAM免疫染色断面スライドから無作為に選択した15の異なるフィールドから収集した。n=5;結果は、不対t検定により比較した(p<0.05)。
【
図9A】afTGF-βを含まない構築物への浸透細胞を示す、CD11c+細胞ゲーティングを示す代表的なFACSプロット。
【
図9B】afTGF-β構築物と比較した、TGF-β欠損構築物中の成熟CD11c+CD86+DCの増加レベルを示すFACSプロット。
【
図9C】全CD11c+細胞由来のCD11c+CD86+集団の割合が、TGF-β欠損構築物において有意に高かったことを示すグラフ。
【
図9D】TGF-β欠損構築物に浸透するCD4T細胞のゲーティングを示すFACSプロット。
【
図9E】afTGF-β構築物及びTGF-β欠損構築物でゲートされた全浸透CD4+T細胞に対するTregs割合を示すFACSプロット。
【
図9F】移植後の10日目のafTGF-β構築物中のデバイスに浸透する全CD4+T細胞において、Tregs集団が有意に大きかったことを示すグラフ。
【
図9G】TGF-β欠損構築物中の浸透性リンパ球のゲーティングを示すFACSプロット。
【
図9H】afTGF-βを含むまたは含まない構築物中のCD6+浸透性T細胞を示すFACSプロット。
【
図9I】afTGF-β構築物及びTGF-β欠損構築物における全浸透性リンパ球に対する浸透性CD8+集団の割合を示すグラフ。
【
図9J】TGF-β欠損構築物における浸透性CD8+T細胞のゲーティングを示すFACSプロット。
【
図9K】afTGF-βを含むまたは含まない構築物における活性CD8+CD69+浸透性T細胞を示すFACSプロット。
【
図9L】afTGF-βを有する全CD8+浸透性T細胞に対する活性CD8+CD69+T細胞の割合が、TGF-β欠損構築物よりも低かったことを示すグラフ。
【
図10A】移植後15日目:afTGF-β構築物におけるGFP+線維芽細胞集団のゲーティングを示すFACSプロット。
【
図10B】移植後3日目に残存する線維芽細胞由来のGFP+線維芽細胞の割合を示すグラフ。
【
図10C】構築物の内部に残存したannexinV及びPI染色GFP+細胞を測定するFACSプロットを示す。
【
図10D】生存線維芽細胞(GFP+AnnexinV-PI-)の割合がafTGF-βを有するデバイスにおいて有意に高かったことを示すグラフ。
【
図10E】アポトーシス線維芽細胞(GFP+AnnexinV+PI-)の割合がTGF-β欠損構築物において有意に高かったことを示すグラフ。
【
図10F】TGF-β欠損構築物中の死亡線維芽細胞(GFP+AnnexinV+PI+)の割合が有意に高かったことを示すグラフ。n=12、各時点で結果を不対t検定により比較した(
*p<0.05)。
【
図11A】野生型(WT)マウス対照群と比較した、移植後の15日目及び30日目におマウスから単離し、培養し、アロ線維芽細胞溶解物を用いて活性化させた脾細胞によるIL-17(72時間)の分泌の変化倍率を測定したグラフ。
【
図11B】野生型(WT)マウス対照群と比較した、移植後の15日目及び30日目におマウスから単離し、培養し、アロ線維芽細胞溶解物を用いて活性化させた脾細胞によるIL-2(24時間)の分泌の変化倍率を測定したグラフ。
【
図11C】野生型(WT)マウス対照群と比較した、移植後の15日目及び30日目におマウスから単離し、培養し、アロ線維芽細胞溶解物を用いて活性化させた脾細胞によるIFN-γ(48時間)の分泌の変化倍率を測定したグラフ。
【
図11D】野生型(WT)マウス対照群と比較した、移植後の15日目及び30日目におマウスから単離し、培養し、アロ線維芽細胞溶解物を用いて活性化させた脾細胞によるIL-10(48時間)の分泌の変化倍率を測定したグラフ。
【
図11E】細胞傷害アッセイ中にキャプチャした、インビトロでアロ繊維芽細胞とシナプスを形成する細胞傷害性CD8(Granzyme B染色CD8+、青色)T細胞の代表的な共焦点画像を示す。CD8+T細胞は、afTGF-β及び移植したまたは移植しなかった宿主及びWTマウスの全脾細胞から移植後の15日目及び30日目に磁気的に単離し、次いで、アロ繊維芽細胞と1:4の比率で共培養した。
【
図11F】細胞毒性アッセイにおいて線維芽細胞と共培養したCD8+CD107+細胞の代表的なFACSプロット。
【
図12A】TGF-β欠損構築物を移植した宿主から生成された場合、全CD8+細胞に対する細胞傷害性CD8+CD107+T細胞の割合が、fTGF-β構築物及びWTマウスと比較して有意に高かったことを示すグラフ。
【
図12B】TGF-β欠損構築物を移植された宿主から生成された場合、全CD8+細胞に対する細胞傷害性CD8+CD107+T細胞の割合が、afTGF-β構築物及びWTマウスと比較して有意に高かったことを示すFACSプロット。
【
図12C】細胞毒性アッセイ後の全共培養線維芽細胞に対するアポトーシス性GFP+AnnexinV+PI-線維芽細胞の割合を測定したグラフ。結果は、2元配置分散分析(two-way ANOVA)により比較した、3回の反復実験の平均値と2つの別個の実験のSEMを表す。Tukeyの事後検定を行い、処置間の差異を決定した(
*p<0.05)。
【
図13A】OTIIマウスの脾臓から単離し、OVAペプチド(最終ペプチド濃度:20μg/ml)を含むまたは含まないアルギン酸骨格内に播種した脾細胞の活性化72時間後の共焦点画像を示す。
【
図13B】播種日及び活性化3日後のリンパ球の代表的なFACSプロット。
【
図14】上段の(A)は、OVA活性化が培養中のCD4+T細胞の維持に有効であることを示す、活性化したまたは活性化しなかった、播種前及び播種後3日目に発見されたCD4+T細胞集団のFACSプロット。下段の(B)は、OVA活性化の有無にかかわらず、播種前及び播種後3日目に発見されたCD4+CD25+Foxp3+ Tregs集団のFACSプロットであり、OVAペプチドによるCD4+活性化を示す。
【
図15A】骨髄DCを有し、afTGF-β(50ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないアルギン酸スキャフォールド内で共培養した(0.5×10
6細胞/培養物)CD4+T細胞(OTIIマウスから磁気的に分離した)に対するIL-2の分泌レベルを測定したグラフ。T細胞がOVAペプチドによって活性化されたことが示された。
【
図15B】骨髄DCを有し、afTGF-β(50ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないアルギン酸スキャフォールド内で共培養した(0.5×10
6細胞/培養物)CD4+T細胞(OTIIマウスから磁気的に分離した)に対するIFN-γの分泌レベルを測定したグラフ。T細胞がOVAペプチドによって活性化されたことが示された。
【
図15C】骨髄DCを有し、afTGF-β(50ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないアルギン酸骨格内で共培養した(0.5×10
6細胞/培養物)CD4+T細胞(OTIIマウスから磁気的に分離した)に対するIL-17の分泌レベルを測定したグラフ。T細胞がOVAペプチドによって活性化されたことが示された。afTGF-βの存在下でのIFN-γ及びIL-17レベルの有意な減少は、afTGF-βの免疫調節を示す。
【
図15D】骨髄DCを有し、afTGF-β(50ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないアルギン酸スキャフォールド内で共培養した(0.5×10
6細胞/培養物)CD4+T細胞(OTIIマウスから磁気的に分離した)に対するIL-10の分泌レベルを測定したグラフ。T細胞がOVAペプチドによって活性化されたことが示された。
【
図15E】CD4+CD25+Foxp3+Tregのレベルを測定したグラフであり、afTGF-β処置を受けた培養物において明らかなTregレベルの増加傾向を示す。結果は、2元配置分散分析により比較した、3回の反復実験の平均値及びSDを表す。Tukeyの事後検定を行い、処置間の差異を決定した(
*p<0.05)。
【
図16A】OTIIマウスから単離し、培養物に100ng/ml(0.5mlの培地の50ng/スキャフォールドのafTGF-β濃度に対応する)の最終濃度で添加した可溶性TGF-βの存在下で培養し、2Dペトリ皿内でOVAペプチド(最終濃度20μg/mL)によって活性化させた全脾細胞によるIL-2の分泌の倍数変化を、TGF-β及びOVAを含まない対照群と比較して示す。これにより、脾細胞が、OVAペプチドにより活性されたことが示された。
【
図16B】OTIIマウスから単離し、培養物に100ng/ml(0.5mlの培地の50ng/スキャフォールドのafTGF-β濃度に対応する)の最終濃度で添加した可溶性TGF-βの存在下で培養し、2Dペトリ皿内でOVAペプチド(最終濃度20μg/mL)によって活性化させた全脾細胞によるIFN-γの分泌の倍数変化を、TGF-β及びOVAを含まない対照群と比較して示す。これにより、TGF-βの免疫調節作用が示された。IL-10の分泌の変化(d)は、TGF-βを含むまたは含まない培地間の差異によるものではなく、CD4+CD25+Foxp3+Treg集団に差異がないことによる。
【
図16C】OTIIマウスから単離し、培養物に100ng/ml(0.5mlの培地の50ng/スキャフォールドのafTGF-β濃度に対応する)の最終濃度で添加した可溶性TGF-βの存在下で培養し、2Dペトリ皿内でOVAペプチド(最終濃度20μg/mL)によって活性化させた全脾細胞によるIL-17の分泌の倍数変化を、TGF-β及びOVAを含まない対照群と比較して示す。これにより、TGF-βの免疫調節作用が示された。IL-10の分泌の変化(d)は、TGF-βを含むまたは含まない培地間の差異によるものではなく、CD4+CD25+Foxp3+Treg集団に差異がないことによる。
【
図16D】OTIIマウスから単離し、培養物に100ng/ml(0.5mlの培地の50ng/スキャフォールドのafTGF-β濃度に対応する)の最終濃度で添加した可溶性TGF-βの存在下で培養し、2Dペトリ皿内でOVAペプチド(最終濃度20μg/mL)によって活性化させた全脾細胞によるIL-10の分泌の倍数変化を、TGF-β及びOVAを含まない対照群と比較して示す。これにより、TGF-βの免疫調節作用が示された。IL-10の分泌の変化(d)は、TGF-βを含むまたは含まない培地間の差異によるものではなく、CD4+CD25+Foxp3+Treg集団に差異がないことによる。
【
図16E】2D培養物中に播種後3日目の、CD4+T細胞のCD25及びFoxp3発現の代表的なFACSプロット。
【
図17A】代表的なFACSヒストグラムであり、可溶性TGF-βの存在下では、Tregが増加しないことを示している。赤:TGF-β、青:TGF-β無し、黒:対照群(Tregは検出されなかった)。
【
図17B】TGF-β及びOVAを含まない対照群と比較した、afTGF-βを含むまたは含まない全CD4+T細胞のCD4+CD25+Foxp3+の割合の変化を表したグラフ。棒グラフは、3回の反復実験の平均値及び3つの別個の実験のSEMを表し、不対t検定により比較した(
*p<0.05)。
【
図17C】親和結合VEGF及びPDGF-ββ(それぞれ、200ng/スキャフォールド)を含み、afTGF-β(100ng/スキャフォールド)を含むまたは含まないスキャフォールドから単離し、GFP+アロ線維芽細胞(0.5×10
6細胞/スキャフォールド)と共に初期播種したGFP+細胞のFACSプロットを示す。構築物は、マウスの腎臓被膜下に移植し、移植から3日後に回収した。
【
図17D】移植から3日後に、afTGF-β構築物とTGF-β欠損構築物との間に、播種した全細胞におけるGFP+細胞の割合に有意差(p>0.05)が見られなかったことを示すグラフである。n=5、結果は、不対t検定により比較した。
【
図17E】TGF-β構築物またはTGF-β欠損構築物を移植した宿主の脾細胞から磁気的に分離し、CD8+細胞毒性アッセイのためにアロ繊維芽細胞と共培養したCD8+細胞のFACSプロットを示す。磁気的分離したものは、CD8を発現する細胞の純度が93%を超えた。
【
図18】線維芽細胞と、afTGF-β構築物またはTGF-β欠損構築物を移植した宿主マウスの脾臓から単離したCD8+T細胞とを1:4の比率で共培養することによって行ったCD8+毒性アッセイのライブイメージングを示す。対照群は、移植を受けていない野生型マウスから単離されたCD8+T細胞であった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するために、多数の具体的詳細が記載されている。しかしながら、本発明はこれらの具体的詳細がなくとも実施できることは、当業者であれば理解できるであろう。他の場合では、本発明を不明瞭にしないために、周知の方法、手順、及び構成要素については詳細に説明していない。
【0011】
本発明は、一態様では、対象における免疫寛容応答を生成する方法であって、対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有する方法に関する。一実施形態では、生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である。
【0012】
本発明は、一態様では、対象における免疫寛容応答を生成する方法であって、対象に対して、硫酸化多糖類と、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)とを含む組成物を投与するステップを有する方法に関する。このような組成物を哺乳類、一実施形態ではヒトに対して投与することは、TGF-β1の局所放出に有用であり、これによって、自己免疫応答を含む免疫応答の高度に限局された抑制が達成される。別の態様では、免疫抑制は、樹状細胞(DC)成熟の阻害、Treg頻度の増加、IL-10依存態様でのCD4及びCD8細胞傷害性T細胞のエフェクター機能の低下、及び炎症性サイトカインのレベルの減少を含む、いくつかのTGF-β1媒介作用を通じて実現される。さらに別の態様では、afTGF-βの局所免疫調節作用は脾臓に投射され、アロ線維芽細胞特異的CD4及びCD8T細胞のエフェクター機能を著しく低下させる。さらなる態様では、投与される組成物は、さらに高度に限局された作用を発揮し得る別の生物活性ポリペプチドを含む。このアプローチは、従来の経路を介した全身投与に起因する大規模な副作用を回避できるという利点を有する。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、対象における同種移植成功を向上させる方法であって、対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有し、それによって、対象における同種移植成功を向上させる。一実施形態では、生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である。
【0014】
本発明はさらに、アロ細胞移植に対する宿主免疫応答の局所的抑制による、同種移植の成功の向上、または同種移植片拒絶を減少させるかまたは防止する方法に関する。免疫応答は、移植血管新生の結果であり、宿主との移植片同化にも重要である。下記の実施例は、免疫調節性サイトカインであるTGFβ1の局所放出によって、最終的に抗同種移植細胞傷害性をもたらす炎症性シグナル伝達を局所的に抑制する(例えばIL-17Aにより)免疫調節性微小環境が生成されることを示す。
【0015】
さらに、本発明は、アロ細胞アポトーシスの抑制及びアロ細胞生存の増加による、同種移植成功を向上させる方法または同種移植拒絶を減少させるかまたは防止する方法を提供する。下記で示されるように、TGFβ1スキャフォールド(足場)により、驚くべきことに及び予期せぬことに、長期間の移植の後でさえも、アロ細胞のアポトーシスの割合が低く、かつアロ細胞の生存の割合が高いという結果が得られた。
【0016】
一実施形態では、本発明は、対象における同種移植拒絶を減少させるかまたは防止する方法であって、対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有し、生物活性ポリペプチドが、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である、方法を提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、対象における同種移植拒絶を減少させるかまたは防止する方法であって、対象に対して、PDGF-ββ-アルギン酸硫酸塩、VEGF-アルギン酸塩硫酸塩、及びTGF-β1-アルギン酸塩硫酸塩を含む組成物を投与するステップを有し、該組成物が支持マトリックスをさらに含み、支持マトリックスが、多糖類、タンパク質、細胞外マトリックス成分、合成ポリマー、及びそれらの任意の混合物からなる群より選択されるポリマーである、方法を提供する。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、宿主による抗同種移植免疫応答を引き起こすことなく、アロ細胞移植片の血管新生を促すことによって、同種移植片の宿主との同化を促進する方法に関する。したがって、本発明は、血管新生因子をTGF-β1と同時に局所放出することによって、同種移植片内の血管新生を促進する方法を提供する。例えば、動物に対して、硫酸化アルギン酸塩と、TGFβ及び血管新生因子VEGF・PDGF-βの混合物とを含むバイオコンジュゲートを投与することにより、血管新生因子の持続的放出を促進し、血管新生及び成熟血管の形成をもたらす。
【0019】
また、本発明は、樹状細胞成熟の抑制によって免疫寛容応答を生成する方法に関する。いくつかの実施形態では、下記で示されるように、TGF-β1の放出により、未成熟のままであるスキャフォールドに浸潤する樹状細胞の割合を高くし、それによって、Treg頻度を増加させて、細胞傷害性CD8T細胞の活性化を抑制する。
【0020】
本発明はさらに、生物活性ポリペプチド(これに限定しないが、TGF-β1を含む)の長期間の提示を提供する。下記でより詳細に説明するように、本発明の組成物は、正に帯電したポリペプチド及び/またはヘパリン結合性ポリペプチド、例えばTGF-β1と可逆的及び特異的に相互作用することができる。この可逆的結合により、上記ポリペプチドの徐放をもたらし、その徐放を長期間持続することができる。本発明は、投与後に約10日間にわたって維持されるポリペプチドの持続放出(徐放)を意図する。別の実施形態では、持続放出期間は、約15日間である。別の実施形態では、持続放出期間は、約30日間である。別の実施形態では、持続放出期間は、約60日間である。別の実施形態では、持続放出期間は、60日以上である。別の実施形態では、持続放出期間は、約10日間ないし約15日間、若しくは10日間ないし15日間、または約15日間ないし約30日間、若しくは15日間ないし30日間、または約30日間ないし約60日間、若しくは30日間ないし60日間、または投与後の10日間、15日間、30日間、60日間、またはそれらの間の任意の整数の日の間である。本発明はさらに、10日間未満のポリペプチドの持続放出を意図する。別の実施形態では、持続放出期間は、15日間未満である。別の実施形態では、持続放出期間は、30日未満である。別の実施形態では、持続放出期間は、60日未満である。別の実施形態では、持続放出期間は、90日未満である。別の実施形態では、持続放出期間は、120日未満である。一実施形態では、本発明の組成物及び方法は、ポリペプチドの全身放出(例えば、対象の血流内への放出)を促進する。別の実施形態では、本発明の組成物及び方法は、ポリペプチドの局所放出を促進する。
【0021】
一実施形態では、本発明は、自己免疫疾患または障害を治療する方法であって、対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有し、生物活性ポリペプチドが、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である、方法を提供する。
【0022】
本発明はさらに、対象における自己免疫疾患または障害を治療する方法であって、
対象に対して、硫酸化多糖類と、該硫酸化多糖類の硫酸基に対して非共有的に結合する第1の生物活性ポリペプチド及び第2の生物活性ポリペプチドとを含む組成物を投与するステップを有し、該組成物が、支持マトリックスをさらに含み、支持マトリックスが、多糖類、タンパク質、細胞外マトリックス成分、合成ポリマー、及びそれらの任意の混合物からなる群より選択されるポリマーである、方法に関する。一実施形態では、第1の生物活性ポリペプチドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)である。一実施形態では、第2の生物活性ポリペプチドは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)である。
【0023】
本発明はさらに、全身的免疫抑制の副作用を回避しつつ、対象における自己免疫疾患または障害を抑制または治療する方法に関する。したがって、本発明は、生物活性ポリペプチド(これに限定しないが、局所的免疫抑制をもたらす自己免疫シグナル伝達を阻害するTGF-β1を含む)の局所放出を提供する。本発明により意図される自己免疫疾患及び障害としては、これに限定しないが、多発性硬化症、I型糖尿病、及び乾癬が挙げられる。
【0024】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患または障害の抑制に関する。上記の自己免疫疾患または障害は、多発性硬化症、乾癬、及びI型糖尿病からなる群より選択される。
【0025】
したがって、本発明の一態様は、これに限定しないが、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を含む、多発性硬化症(MS)自己抗原に対して特異的なCD4+T細胞において免疫寛容を誘導する方法を提供する。一実施形態では、本発明は、硫酸化多糖類、TGF-β1、及びMOG、またはそれらの自己免疫原性断片を含むバイオコンジュゲートを投与することによって、MOGまたはその自己免疫原性断片に対して特異的なCD4+T細胞において免疫寛容作用を誘導する方法を提供する。いくつかの自己免疫原性MOG断片が当分野で既知であり、マウスMOGアミノ酸1-22、35-55、及び64-96に対応するペプチドが含まれる(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2009/0053249号明細書参照)。一実施形態では、MOG自己免疫原性断片は、ペプチドMEVGWYRSPFSRV-VHLYRNGK(マウスMOG35-55;配列番号:1)である。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、膵臓β細胞に対して特異的なCD4+T細胞において免疫寛容を誘導することによって、膵臓β細胞(一実施形態では、I型糖尿病の根底にある)の自己免疫破壊を防止する方法を提供する。一実施形態では、本発明は、硫酸化多糖類、TGF-β1、及び同種異系または同系のβ細胞を含むバイオコンジュゲートの投与によって、膵臓β細胞に対して特異的なCD4+T細胞において免疫寛容作用を誘導する方法を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、真皮CD4+T細胞における免疫寛容を誘導することによって、ケラチノサイトの異常増殖(乾癬の根底にある)に関連する自己免疫炎症性シグナル伝達を抑制する方法を提供する。一実施形態では、本発明は、硫酸化多糖類、TGF-β1、及び組織に相当する細胞または分子調製物(例えば、皮膚生検から得られた材料など)を含むバイオコンジュゲートの皮内投与によって、真皮CD4+T細胞において免疫寛容作用を誘導する方法を提供する。
【0028】
本明細書で使用される「生物活性ポリペプチド」という用語は、インビボで様々な薬理学的活性を示すポリペプチドを指し、これに限定しないが、増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、血管新生因子、免疫調節物質、ホルモンなどを含む。本出願では、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互互換的に使用される。少なくとも1つの生物活性ポリペプチドは、正に帯電したポリペプチド及び/またはヘパリン結合性ポリペプチドであり得る。
【0029】
一実施形態では、生物活性ポリペプチドは、TGFβである。本発明は、TGF(TGFβ1-TGFβ5;TGFβ1-β3は哺乳類、TGFβ4はニワトリ、TGFβ5はカエルに見られる)の既知のアイソフォーム、並びにそれらの断片、突然変異体、相同体、類似体、及び対立遺伝子変異体を包含する。一実施形態では、TGFβは、哺乳類のTGFβである。一実施形態では、TGFβは、TGFβ1である。別の実施形態では、TGFβは、TGFβ2である。別の実施形態では、TGFβは、TGFβ3である。別の実施形態では、TGFβは、ヒトTGFβ1(遺伝子銀行アクセス番号X02812)、またはマウスTGFβ1(遺伝子銀行アクセス番号AJ00986)のいずれかである。
【0030】
一実施形態では、「正に荷電したポリペプチド」という用語は、約7.5の生理的pHで正の正味電荷を有するポリペプチド/タンパク質を指す。正に帯電したタンパク質の例としては、これに限定しないが、インスリン、グラチラマー酢酸塩(コポリマー1またはCop1としても知られている)、抗トロンビンIII、インターフェロン(IFN)-γ(ヘパリン結合性タンパク質としても知られている)、IGF、ソマトスタチン、エリスロポエチン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)、及びインターロイキン(例えば、IL-2、IL-6など)が挙げられる。
【0031】
一実施形態では、「ヘパリン結合性タンパク質またはポリペプチド」という用語は、正に荷電した塩基性アミノ酸のクラスタを有し、特別に規定された負に帯電したスルホ基またはカルボキシル基を有するイオン対をヘパリン鎖上に形成するタンパク質を指す(「Capila and Linhardt, 2002」参照)。ヘパリン結合性タンパク質の例としては、これに限定しないが、トロンボポエチン(TPO);プロテアーゼ/エステラーゼ、例えば、アンチトロンビンIII(AT III)、セリンプロテアーゼ阻害剤(SLP1)、C1エステラーゼ阻害剤(C1 INH)、及びワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)など;増殖因子、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF:例えば、aFGF、bFGF)、FGF受容体、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)、血小板由来増殖因子(PDGF:例えば、PDGF-α、PDGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、及び骨形成タンパク質(BMP:例えば、BMP-2、BMP-4、BMP-7)など;ケモカイン、例えば、血小板第4因子(PF-4、現在はCXCケモカインリガンド4またはCXCL4と呼ばれている)、ストロマ細胞由来因子-1(SDF-1)、IL-6、IL-8、RANTES(血小板やT細胞由来の好酸球走化性物質)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性ペプチド-1(MIP-1)、リンホタクチン、フラクタルカインなど;脂質または膜結合性タンパク質、例えば、アネキシン、アポリポタンパク質E(ApoE)など;病原体タンパク質、例えば、免疫不全ウイルス1型(HIV-1)コートタンパク質(例えば、HIV-1 gp120)、シクロフィリンA(CypA)、Tatタンパク質、単純ヘルペスウイルス(HSV)のウイルスコート糖タンパク質gC、gB、またはgD、デングウイルスの外被タンパク質、熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲(CS)タンパク質、細菌表面接着タンパク質OpaAなど;並びに、接着タンパク質、例えば、1-セレクチン、P-セレクチン、ヘパリン結合性増殖関連分子(HB-GAM)、トロンボスポンジンI型反復(TSR)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、アミロイドP(AP)などが挙げられる。
【0032】
したがって、一実施形態では、本発明の組成物及び方法における生物活性ポリペプチドは、第1の生物活性ポリペプチド、別の生物活性ポリペプチド、第2の生物活性ポリペプチド、または第3の生物活性ポリペプチドに関わらず、アンチトロンビンIII(AT III)、トロンボポエチン(TPO)、セリンプロテアーゼ阻害剤(SLP1)、C1エステラーゼ阻害剤(C1 INH)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、FGF受容体、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、骨形成タンパク質(BMP)、上皮増殖因子(EGF)、CXCケモカインリガンド4(CXCL4)、ストロマ細胞由来因子-1(SDF-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、血小板やT細胞由来の好酸球走化性物質(RANTES)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性ペプチド-1(MIP-1)、リンホタクチン、フラクタルカイン、アネキシン、アポリポタンパク質E(ApoE)、免疫不全ウイルス1型(HIV-1)コートタンパク質gp120、シクロフィリンA(CypA)、Tatタンパク質、単純ヘルペスウイルス(HSV)のウイルスコート糖タンパク質gC、gB、またはgD、デングウイルスの外被タンパク質、熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲(CS)タンパク質、細菌表面接着タンパク質OpaA、1-セレクチン、P-セレクチン、ヘパリン結合性増殖関連分子(HB-GAM)、トロンボスポンジンI型反復(TSR)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、アミロイドP(AP)、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0033】
別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、PDGF-BB、PDGF-AA、bFGF、aFGF、VEGF、IL-6、TPO、SDF-1、HGF、EGF、MOG、BMP-2、BMP-4、BMP-7、IGF、またはそれらの任意の組み合わせを含む。別の実施形態では、本発明の方法で使用される組成物は、生物活性ポリペプチドとして、TGF-β、VEGF、及びPDGF-ββを含む。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、少なくとも1つのヘパリン結合性ポリペプチドは、PDGF-β、PDGF-α、bFGF、aFGF、VEGF、TGF-β1、IL-6、TPO、SDF-1、HGF、EGF、BMP、及びIGFからなる群より選択される。本発明の他の実施形態では、少なくとも1つの生物活性ポリペプチドは、血管新生因子または血管形成活性を示す増殖因子、例えば、TGF-β1、VEGF、bFGF、aFGF、PDGF-β、IGF、及びそれらの任意の組み合わせである。
【0035】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの血管新生因子は、VEGF、PDGF-β、または、VEGF、PDGF-BB、及びTGF-β1の組み合わせである。
【0036】
一実施形態では、本発明の組成物及び方法における生物活性ポリペプチドは、サイトカインである。一実施形態では、生物活性ポリペプチドは、TGF-βである。別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、インターロイキン(IL)-10である。別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、IL-4である。別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、IL-5である。別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、IL-13である。別の実施形態では、生物活性ポリペプチドは、ケモカインである。一実施形態では、ケモカインは、(C-X-Cモチーフ)リガンド(CXCL)12である。別の実施形態では、ケモカインは、CXCL11である。
【0037】
本発明によれば、バイオコンジュゲートを形成する硫酸化多糖類は、互いに異なるモノサッカライド反復単位から構成してもよいし、互いに異なる長さであってもよいし、互いに異なる種類の結合で上記単位を連結してもよい。硫酸化多糖類は、例えば硫酸化セルロースのように線状であってもよいし、例えば硫酸化グリコーゲンのように分枝状であってもよいし、長さが互いに異なっていてもよく、例えば、硫酸化された四糖類または三糖類と同程度に短くてもよい。好適な硫酸化多糖類はホモ多糖類であり得、ホモ多糖類としては、これに限定しないが、例えば、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キトサン、キチン、またはヘテロ多糖類(これに限定しないが、例えば、アルギン酸塩(アルジネート)、ヒアルロン酸)が挙げられる。
【0038】
本発明の一実施形態では、硫酸化多糖類は、ウロン酸残基、例えば、D-グルクロン酸、D-ガラクツロン酸、D-マンヌロン酸、L-イズロン酸、及びL-グルロン酸などを含む。ウロン酸残基を含む多糖類の例として、これに限定しないが、アルギン酸塩(一実施形態では、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、植物源由来のゴム及び粘液)、及び動物源由来のグリコサミノグリカン(GAG)(例えば、ヒアルロン酸(ヒアルロナン))が挙げられる。ウロン酸を含む硫酸化多糖類は、化学的に硫酸化された多糖類であってもよいし、または天然の硫酸化多糖類であってもよい。
【0039】
一実施形態では、硫酸化多糖類は、アルギン酸硫酸塩である。別の実施形態では、硫酸化多糖類は、ヒアルロン酸硫酸塩である。
【0040】
アルギン酸は、褐藻類及び海藻から得られる、β-1、4-結合グルグロン酸及びマンヌロン酸単位からなる線状多糖類である。本明細書で使用される「アルギン酸塩」という用語は、海藻(例えば、Laminaria hyperborean、L. digitata, Eclonia maxima、Macrocystis pyrifera、Lessonia nigrescens、Ascophyllum codosum、L. japonica、Durvillaea Antarctica、D. potatorum)に由来し、β-D-マンヌロン酸(M)及びα-L-グルロン酸(G)残基を様々な割合で含むポリアニオン性多糖類を指す。
【0041】
本発明における使用に適したアルギン酸塩は、一実施形態では、1:1ないし3:1の範囲の、一実施形態では1.5:1ないし2.5:1の範囲のα-L-グルロン酸とβ-D-マンニュロン酸との比を有し、一実施形態では約2kDa、一実施形態では1ないし300kDa、一実施形態では5ないし200kDa、一実施形態では10ないし100kDa、一実施形態では20ないし50kDaの分子量を有する。
【0042】
アルギン酸塩は、Ca2+及びBa2+などの二価陽イオンの存在下でゲル化する。製薬/医薬分野では、アルギン酸塩は、主として細胞(細菌、植物細胞、哺乳類細胞)用のカプセル化材料として成功裏に使用されている。分子の場合、効果はかなり低く、250kDaのサイズの巨大分子でさえ、アルギン酸ヒドロゲル系から急速に放出される。とりわけ、5ないし100kDaの範囲のサイズを有するサイトカインや増殖因子などの対象の生体分子が急速に放出される。
【0043】
ヒアルロン酸は、グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンの二量体繰り返し単位から構成され、細胞外マトリックスに見られるコア複合プロテオグリカン凝集体を形成する。
【0044】
多糖類を硫酸化することにより、様々なサイトカイン及び増殖因子などの重要なシグナルタンパク質の結合及び制御放出を可能にする特性が多糖類に付与されることが以前より分かっている。アルギン酸硫酸及びヒアルロン酸硫酸は両方とも、バイオコンジュゲートを形成するときにヘパラン硫酸及びヘパリンの生物学的特異性を模倣することが分かっている(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO2007/043050号参照)。
【0045】
当業者には理解されるように、生物活性ポリペプチドと硫酸化多糖類との間の結合は、イオン結合、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、またはファンデルワールス力を含む可逆的非共有結合から選択される。
【0046】
正電荷を有することにより、生物活性ポリペプチドは、硫酸基に起因する負電荷を有する硫酸化多糖類に対して、可逆的かつ非共有的に結合できることを理解されたい。
【0047】
したがって、本発明はまた、少なくとも1つの生物活性ポリペプチドの持続的局所放出のための方法を提供する。
【0048】
本発明の方法によれば、バイオコンジュゲートは、ヒトの身体の任意の部分に注入または移植することができ、上記の生物活性ポリペプチドの送達システムとして機能する。一実施形態では、本発明のバイオコンジュゲートは、流動性ゲルの形態であり得る。別の実施形態では、バイオコンジュゲートは、剛性の移植可能なスキャフォールドとして予め作製され得る。さらなる実施形態では、移植可能なスキャフォールドは、支持マトリックスをさらに含み得る。
【0049】
支持マトリックスは、バイオコンジュゲートのための支持体または担体としての役割を果し、粒子または多孔質材料で構成され得る。マトリックス材料は、フレキシブルさ及び従順性を有し、意図しない位置への移動を防止するために所定位置に固定され得る。ポリマーマトリックス材料は、天然材料または合成材料のいずれかであり得、これに限定しないが、合成ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリヒドロキシブチレートなど)、天然ポリマー(例えば、コラーゲン、フィブリン、ゼラチンなど)、または多糖類(例えば、キトサン、アルギン酸塩など)であり得る。
【0050】
支持マトリックスは、送達方式に適切な任意の形態、例えば、ヒドロゲル、ビーズ、マイクロスフェア(マイクロビーズ)、ヒドロゲルマイクロカプセル、スポンジ、スキャフォールド、発泡体、コロイド分散液、ナノ粒子、懸濁液などを取り得る。したがって、硫酸化多糖類及び生物活性ペプチドのバイオコンジュゲートに基づく持続放出剤形は、液体、メッシュ、スポンジ、繊維、ヒドロゲルなどの形態を取り得る。
【0051】
本明細書で使用される「ヒドロゲル」という用語は、水を含有することができる天然または合成の親水性ポリマー鎖のネットワークを指す。このようなネットワークを形成することができる組成物の例は、アルギン酸塩、カルシウム部分架橋アルギン酸塩溶液、キトサン、及び粘性ヒアルロナンである。
【0052】
本明細書で使用される「バイオコンジュゲート」という用語は、生物活性ポリペプチドに対して共有的または非共有的に結合した硫酸化多糖類を指す。非共有結合の例は、イオン結合、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、またはファンデルワールス力を含む結合である。
【0053】
本明細書で使用する「スキャフォールド(足場)」という用語は、空隙を有する任意の合成または有機構造体を指す。このようなスキャフォールドの非限定的な例は、哺乳類の損傷組織におけるモールド、キャスト、及び空隙である。
【0054】
本発明の組成物は、任意の適切な方法、これに限定しないが、例えば、肝臓内、皮内、経皮(例えば、徐放製剤で)、筋肉内、腹腔内、静脈内、冠動脈内、皮下、経口、硬膜外、局所、及び鼻腔内経路により投与することができる。投与はまた、対象に対してインプラント(またはその一部)を外科的に投与、移植、挿入、または注入することを含む。インプラント(またはその一部)は、皮下、筋肉内、または、インプラントが意図された機能を果たすことを可能にする別の身体位置に配置することができる。一般に、インプラント(またはその一部)は、これに限定しないが、対象の上腕、背部、または腹部などの部位への皮下移植によって投与される。投与のための他の適切な部位は、医療専門家によって容易に決定することができる。複数のインプラントまたはその一部を投与することにより、治療のための所望の投与量を達成することができる。任意の他の治療的に有効な投与経路を使用してもよい。投与はまた、本明細書に記載の組成物の対象への全身投与または局所投与のいずれかを包含する。
【0055】
「対象」という用語には、ヒトが含まれるが、これに限定されない。別の実施形態では、対象はネズミであり、これは一実施形態ではマウスであり、別の実施形態ではラットである。別の実施形態では、対象は、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、またはブタである。別の実施形態では、対象は、哺乳類である。
【0056】
硫酸化多糖類バイオコンジュゲートを製造する方法はよく知られており(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0051148号明細書参照)、下記でさらに説明する。
【0057】
本発明は、硫酸化多糖類及び非硫酸化多糖類、例えばアルギン酸塩及びアルギン酸硫酸塩の混合物を意図する。本発明によれば、硫酸化多糖類の割合は、多糖類の総重量の約1重量%ないし約40重量%の範囲、一実施形態では多糖類の総重量の約3%ないし約30%の範囲、一実施形態では多糖類の総重量の約4%ないし約20%の範囲、一実施形態では多糖類の総重量の約5%ないし約10%の範囲であり得る。あるいは、上記の割合は、質量%を表す。別の実施形態では、これらのバイオコンジュゲートとの結合及びこれらのバイオコンジュゲートからの放出は、多糖類の硫酸化の程度、及び硫酸化多糖類の送達システムへの組み込みの程度によって調節することができる。
【0058】
本発明はさらに、薬学的に許容される担体を硫酸化多糖類-生物活性ポリペプチドバイオコンジュゲートに添加することを意図する。「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分を意図された標的に送達し、ヒトまたは他のレシピエント動物に対して害を及ぼさないビヒクルを指す。本明細書で使用される「医薬品」という用語は、ヒト用の医薬品及び動物用の医薬品の両方を包含すると理解されたい。有用な担体としては、例えば、水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1、3-ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱油、化学物質から構成されたポリマー(例えば、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチラート)、天然ポリマー(例えば、コラーゲン、フィブリン)、または多糖類(例えば、キトサン、アルギン酸塩)が挙げられる。担体は、送達方式に適切な任意の形態、例えば、溶液、コロイド分散液、エマルジョン(水中油型または油中水型)、懸濁液、クリーム、ローション、ゲル、発泡体、ムース、スプレーなどの形態を取り得る。医薬品組成物を作製するための方法論及び成分はよく知られており、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences, Eighteenth Edition, A. R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Co. Easton Pa., 1990」に記載されている。一実施形態では、担体は、水性緩衝液である。別の実施形態では、担体は多糖類であり、一実施形態ではアルギン酸ヒドロゲルであり、別の実施形態ではヒアルロン酸である。
【0059】
免疫寛容応答の例として、これに限定しないが、同種移植成功、同種移植拒絶の欠如、自己免疫障害の抑制、アロ細胞移植に対する免疫応答の抑制、アロ細胞アポトーシスの抑制、アロ細胞生存の増加、アロ細胞移植の血管新生の促進、生物活性ポリペプチドの長期間の提示、炎症性シグナル伝達の抑制、樹状細胞成熟の抑制、CD8+T細胞の細胞傷害性応答の抑制、及び制御性T細胞分化の促進が挙げられる。
【0060】
本発明の組成物によって治療される疾患または障害の例としては、これに限定しないが、同種移植拒絶、多発性硬化症、乾癬、I型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、橋本甲状腺炎、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、副腎炎/アジソン病、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、心筋炎、心筋心膜炎、強皮症、ブドウ膜炎(水晶体ぶどう膜炎及び交感性眼炎を含む)、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、悪性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、クローン病、及び潰瘍性大腸炎が挙げられる。
【0061】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願、及び科学刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0062】
以下、いくつかの非限定的な実施例を参照して、本発明を説明する。
【0063】
実施例
材料及び方法
【0064】
化学物質
【0065】
アルギン酸ナトリウム(>65%のグルロン酸モノマー含量;M.W.30kDaのVLVG及び100kDaのLVG)は、ノバマトリックスFMCバイオポリマー社(NovaMatrix, FMC BioPolymer)(ノルウェー国ドラメン)から購入した。細胞培養培地は、ギブコ社(Gibco;米国カリフォルニア州)から購入した、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(骨髄由来樹状細胞(bmDC)培地)またはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(クローン培地)から構成した。この培地に、10%のウシ胎仔血清(FBS、HyClone(TM))、2mmのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、1μg/mLのストレプトマイシン(Pen/Strep)、2.5U/mLのナイスタチン(これらは全て、イスラエル国ギブツBeth HaEmekのバイオロジカルインダストリーズ社(Biological Industries)から購入)、及び50μmのβメルカプトエタノール(イスラエル国レホヴォトのシグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)から購入)を添加した。また、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、バイオロジカルインダストリーズ社から購入した。アンモニウム-塩化物-カリウム(ACK)溶解緩衝液は、バイオウィッタカー社(BioWhittaker;米国メリーランド州ウォーカーズビル)から購入した。イソフルランは、ミンラッド社(Minrad;米国ニューヨーク州)から購入した。CD4+及びCD8+T細胞精製キットは、ステムセルテクノロジース社(STEMCELL Technologies;カナダ国バンクーバ)から購入した。ELISA、FACS、ウェスタンブロッティング、及びIHCに使用される全ての抗体は、別段の記載がない限り、バイオレジェンド社(BioLegend;米国カリフォルニア州)から購入した。血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF-ββ)、及びトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β)は、ペプロテック社(PeproTech;米国ニュージャージー州)から購入した。ウェスタンブロッティングに使用されるホスファターゼ阻害剤及びニトロセルロース膜は、サンタクルーズバイオテック社(Santa Cruz Biotech;米国テキサス州)から購入した。ティシュー・テックO.C.T.コンパウンド(凍結組織切片作製用包埋剤)は、サクラ社(Sakura;米国カリフォルニア州)から購入した。他の全ての化学物質は、別段の記載がない限り、シグマアルドリッチ社から購入した。オボアルブミン(OVA)ペプチドは、ジェンスクリプト社(GenScript;米国ニュージャージー州)から購入した。
【0066】
動物及び細胞株
【0067】
C57/Bl6マウス及びCD11cdnRトランスジェニックマウスは、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory;米国メイン州)から購入した。OVA特異的なMHCクラスII拘束性アルファベータT細胞レセプター(OTII)トランスジェニックマウスは、イスラエル国ネゲブのベングリオン大学(Ben-Gurion University)のEli Lewis博士から寄贈された。全てのマウスをベングリオン大学医療センター(イスラエル国ベエルシェバ)の動物施設に収容して飼育し、オートクレーブしたベッド、食物、及び水を入れたオートクレーブしたケージ内で維持した。
【0068】
NIH/3T3線維芽細胞株(ATCC(登録商標)CRL1658(TM))は、ベングリオン大学のEli Lewis博士から寄贈された。
【0069】
アルギン酸塩マトリックスの作製
【0070】
共有結合した接着ペプチドG4RGDY及びヘパリン結合性ペプチドG4SPPRRARVTY(RGD/HBP)を有するアルギン酸塩を前述したようにして合成し、Freemanらの2009(Biomaterials. 2009;30(2122-31))及びFreemanらの2008(Biomaterials. 2008;29(3260-8))の方法に従ってアルギン酸硫酸塩を合成した。マクロ多孔質スキャフォールド(足場)は、凍結乾燥技術により製造した。簡単に説明すると、1.2%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液を均質化させて、均一なカルシウムイオン分布を得ることによって、1.32%(w/v)D-グルコン酸/ヘミカルシウム塩と架橋させた。架橋溶液中の最終成分濃度は、アルギン酸塩は1.0%(w/v)、架橋剤は0.22%(w/v)であった。アルギン酸塩架橋溶液50μLを96ウェルプレートの各ウェルに注入し、4℃に冷却し、-20℃で24時間凍結させ、0.08バール及び-57℃で48時間凍結乾燥させた。スキャフォールドの滅菌は、生物学的フード内で紫外線(UV)光に1時間暴露させることによって達成された。
【0071】
インビトロ放出実験及びTGF-β生体活性の評価
【0072】
元のアルギン酸スキャフォールドと、アルギン酸塩/アルギン酸硫酸塩(Alg/AlgS)スキャフォールド(すなわち、90%の元のアルギン酸塩と10%のアルギン酸硫酸塩)との2つのスキャフォールド群において、afTGF-βの放出実験を実施した。TGF-βが充填されたスキャフォールドを、回転振とう器上の48ウェルプレート中の500μLの培地(100U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプトマイシン、0.1mg/mLのネオマイシン、及び0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)が添加された高グルコースDMEM(w/v))中で、37℃にて7日間、滅菌条件下で培養した。スキャフォールドにTGF-βを充填した後の0、1、3、及び7日目に培地サンプルを収集し、放出されたTGF-βを、抗ヒト組換えTGF-βELISAキットを用いて、製造業者の使用説明書に従って分析した。上記の時点での、残存したafTGF-βの定量のために、スキャフォールドの試料を採取し、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)に溶解させた。この溶液のpHをpH=3にして、アルギン酸鎖からafTGF-βを分離させ、遠心分離によって相分離させた。ELISAの前に、溶液のpHをpH=7に戻した。afTGF-βの割合(パーセンテージ)を、各時点で、「TGF-βの量/スキャフォールドに充填したTGF-βの量」×100として計算した。
【0073】
全脾細胞の単離及び培養
【0074】
動物を屠殺し、その脾臓を取り出し、均質化し、70μmのメッシュでろ過して単一細胞懸濁液を得た。赤血球を300μLのACK緩衝液で溶解させ、残っている細胞をカウントした。細胞を、クローン培地(10%のウシ胎児血清、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、10mMの非必須アミノ酸、1%のPen/Strep、及び50μMのβ-メルカプトエタノールが添加されたDMEM)中で培養した。
【0075】
CD4+及びCD8+T細胞の磁気分離
【0076】
全脾細胞の単一細胞懸濁液を受け取った後、EasySep(TM)Magnet(ステムセルテクノロジース社;カナダ国バンクーバ)を製造業者の使用説明書に従って使用して、磁気ビーズ陰性選択キットによってCD4+T細胞またはCD8+T細胞を分離した。フローサイトメトリーについて後で説明するようにして、精製されたT細胞をCD4またはCD8について染色し、フローサイトメトリーで分析して精製を評価した。
【0077】
骨髄由来樹状細胞の精製及び培養
【0078】
いくつかの改変を伴う以前の研究による方法に従って、骨髄由来前駆体を顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と共に培養することによって、樹状細胞(DC)を生成した。0日目に、4-12週齢のC57/Bl6マウスの大腿骨及び脛骨を取り出し、ガーゼパッドを用いて周囲の組織から取り出した。その後、骨を冷たいPBS中に入れ、骨の先端をはさみで除去し、27Gニードルを使用して骨髄を冷たいPBSで洗浄した。得られた懸濁液を70μmのメッシュでろ過し、100μLのACK緩衝液で赤血球を1分間溶解した。細胞懸濁液をHBSSで2回洗浄し、6℃にて6分間、150gで遠心分離し、DC培地[10%のFBS、2mMのL-グルタミン、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(1μg/mL)、ナイスタチン(2.5U/mL)、50μMのβ-メルカプトエタノール、及び20%のJ554細胞由来GM-CSF上清が添加されたIMDM(詳細については後述する)]中で再懸濁させた。細胞を、10mL培地中の細菌学的90mmペトリ皿上に5×106細胞/皿で播種し、8日間培養した。細胞を、加湿チャンバー内で、37℃にて5%CO2で培養した。DC培地及びGM-CSFは3日目及び5日目に交換し、8日目のさらなる実験に備えた。
【0079】
GM-CSF含有上清の生成
【0080】
マウスGM-CSF構築物でトランスフェクト(形質転換)したJ558細胞は、Angel Porgador教授(イスラエル国ネゲブのベングリオン大学)から寄贈された。トランスフェクトした細胞を、1mg/mLのG-418の存在下で2週間培養することにより選択し、組織培養フラスコ中の組織に約2×105細胞/mLの密度で播種した。次いで、2-3日毎に、細胞を培地中で1:5に希釈し、それを3週間続けた。上清を0.2μmのフィルターでろ過し、-80℃で保存した。
【0081】
マトリックス内での細胞の播種及び活性化:インビトロ培養
【0082】
乾燥アルギン酸塩/アルギン酸硫酸塩マトリックス上に、TGF-βを含むまたは含まない14μLの細胞懸濁液を滴下することによって、細胞を播種した(0.5×106全細胞/マトリックス)。次いで、細胞構築物を500rpmで30秒間遠心分離し、37℃及び5%CO2で10分間培養して、マトリックス内での細胞分布を可能にした。次に、200μLの培地を徐々に添加し、細胞デバイスを2時間培養した。
【0083】
細胞活性化のために、細胞構築物を48ウェルプレートに移し、OVAペプチド(最終ペプチド濃度:20mg/mL)の有無にかかわらず、1mLの培地を添加した。培養は、加湿インキュベーター内で、37℃、5%CO2にて行った。
【0084】
IL-10阻害
【0085】
精製した抗マウスIL-10(バイオレジェンド社;カタログ番号505012)を、IL-10阻害剤として、最終濃度1ng/mL(培養物中のIL-10の最大濃度よりも一桁高い)で添加した。サンドイッチELISAは、培養物中にIL-10の痕跡を示さなかった。
【0086】
NIH 3T3線維芽細胞のレトロウイルス感染
【0087】
PLAT-E細胞を、10%のFBS及び0.5%のペニシリン、ストレプトマイシン、ブラストサイジン、及びピューロマイシンを含有するDMEM中で維持した。PLAT-Eパッケージング細胞を、100mmディッシュあたり8×106の細胞数で播種し、一晩培養した。翌日、細胞を、PolyJetインビトロトランスフェクション試薬(シグナジェン社(SignaGen);米国メリーランド州)を含むpMX-IRES-GFPベクターでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、培地を新しい培地と交換し、トランスフェクションの24時間後及び48時間後に収集した。
【0088】
3T3/NIH線維芽細胞を、形質導入の1日前、12ウェルプレートあたり105の細胞数で播種した。ウイルス含有上清(24時間後に収集した)に2μg/mLの硫酸プロタミンを添加し、線維芽細胞皿に移し、一晩培養した。トランスフェクションの24時間後、ウイルス含有培地を48時間上清と交換した。線維芽細胞に対して、3サイクルのトランスフェクションを行った。
【0089】
マトリックス内でのNIH/3T3線維芽細胞の播種:インビボ
【0090】
乾燥した共有結合RGD/HBPアルギン酸塩/アルギン酸硫酸塩マトリックス上に、30μLの細胞懸濁液(すなわち、200ngのTGF-βが添加されたまたはTGF-βが添加されていないDMEM中の細胞)を滴下することによって、(上述したようにして)GFPを発現するように感染させたNIH/3T3線維芽細胞を播種した(0.5×106の全細胞数/マトリックス)。本願発明者は、30μLの細胞懸濁液が、アクセス液体を残さずにスキャフォールド全体を湿潤させるのに適切な容量であることを見出し、全ての増殖因子のスキャフォールドへの最大限の結合を確実にした。マトリックスを37℃及び5%CO2で5分間培養して、構築物を移植する前のスキャフォールド内での細胞分布を可能にした。
【0091】
デバイスの移植
【0092】
細胞をマトリックス内に播種した直後に、細胞移植デバイスを、イソフルランベースの麻酔装置で麻酔したC57/Bl6野生型マウスの左腎被膜の下に移植した。移植後の異なる日(10、15、または30日目)に、細胞移植デバイスをその周囲の線維症と共に外科的に除去した。これらの血管新生を免疫組織化学的検査によって分析し、浸透性リンパ球集団及び線維芽細胞生存をフローサイトメトリーにより分析した。移植後の15日目及び30日目に、全リンパ球培養及びCD8+細胞傷害性アッセイのために脾臓も取り出した。
【0093】
線維芽細胞溶解物
【0094】
NIH/3T3線維芽細胞(107の細胞数)に対して、5サイクルの凍結及び解凍を行い、遠心分離し、Bio-Radタンパク質アッセイ(バイオラッド社(Bio-Rad);イスラエル国)によって総タンパク質濃度を測定した。
【0095】
繊維芽細胞溶解物による全脾細胞の活性化
【0096】
移植後の15日目及び30日目に、全脾細胞を96ウェルUプレートで培養し(1ウェルあたり2×104の細胞数で)、繊維芽細胞溶解物(最終タンパク質濃度:10mg/mL)によって活性化した。
【0097】
CD8+細胞傷害性アッセイ
【0098】
上述したようにして、移植後の15日目及び30日目に、全脾細胞からCD8+T細胞を磁気的に分離した。CD8+T細胞及びNIH 3T3線維芽細胞を4:1の比で共培養した。共培養してから2時間後及び12時間後に、CD8+T細胞の細胞傷害性及び線維芽細胞の生存率をFACSにより分析した。
【0099】
ウェスタンブロッティング
【0100】
NIH/3T3線維芽細胞を5ng/mLのTGF-βで40分間処理し、プロテアーゼ阻害剤カクテル及びホスファターゼ阻害剤が添加された放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液[150mMのNaCl、1mMのEGTA、50mMのTris-HCl(pH=7.5)、1%のNP-40]を使用して細胞溶解物を得た。細胞をRIPAと共に氷上で30分間培養し、次いで13、000rpmで遠心分離した。上清を回収し、Bio-Radタンパク質アッセイによりタンパク質濃度を決定し、30μg/ウェルのタンパク質をSDS-PAGEで使用し、次いで、ニトロセルロース膜上に移した。ニトロセルロース膜を、0.5%のポリソルベート20(TWEEN 20)(TBST)が添加されたトリス緩衝化生理食塩水中の5%のBSA(MPバイオケミカル社(MP Biochemicals);米国カリフォルニア州サンタアナ)または5%のミルクによって、室温で1時間ブロックし、その後、一次抗体と共に4℃で一晩培養した。ウサギ抗ホスホSMAD2、ウサギ抗SMAD2/3(両方とも、米国マサチューセッツ州ダンバーズのセルシグナリング社(Cell Signaling)から得た)、及びマウス抗アクチン(米国カリフォルニア州サンタアナのMPバイオケミカル社)を使用してタンパク質を検出した。二次ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲート抗体として、ヤギ抗マウスIgG(米国カリフォルニア州サクラメントのジャクソン研究所)及びロバ抗ウサギIgG(英国のアマシャムGEヘルスケア社(Amersham, GE healthcare))を使用した。スーパーシグナルウエストピコ(Supersignal West Pico)化学発光基質キット(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモサイエンティック社(Thermo Scientific))を使用して化学発光を誘導し、次いで、その化学発光をImageQuant LAS 4000ソフトウェア(英国のGEヘルスケアライフサイエンス社(GE Healthcare Life Sciences))により検出した。バンド強度をImageJソフトウェアにより定量化した。
【0101】
フローサイトメトリー分析
【0102】
インビトロ実験後のマトリックス分析のために、まず、マトリックスを溶解し、次いで、遠心分離によって細胞を得、HBSSで洗浄し、再度遠心分離し、FACS緩衝液(PBS中、2%FBS)中に懸濁させた。インビボ移植後の細胞移植デバイスの分析のために、マトリックス及びその周囲の線維症を均質化させ、70μmのメッシュでろ過して単一細胞懸濁液を得、細胞を遠心分離し、FACS緩衝液(PBS中、2%FBS)中に再懸濁させた。
【0103】
単一細胞懸濁液を得た後、非特異的抗原結合を防ぐために、Fc遮断薬を5分間添加した。次いで、蛍光抗体を製造業者の使用説明書に従って添加し、プレートを氷上で15分間培養した。その後、試料をFACS緩衝液で洗浄し、6℃にて3分間、420gで2回遠心分離した。
【0104】
細胞内FACS染色(Foxp3)のために、まず、細胞を蛍光抗体で染色し、次いで、固定緩衝液中で20分間培養し、2回洗浄し、透過緩衝液中で15分間培養した。その後、細胞をFACS緩衝液で洗浄し、細胞内抗体と共に30分間培養し、遠心分離し、FACS緩衝液中に懸濁させた。FlowJoソフトウェアを利用するGallios(TM)フローサイトメーター(米国カリフォルニア州ブレアのベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.))をフローサイトメトリー分析に使用した。
【0105】
この実験に使用される全ての抗体はflour共役抗体であり、そのようなものには、APC-Cy7共役抗CD4(バイオレジェンド社:カタログ番号100414)、PerCP共役抗CD8(バイオレジェンド社:カタログ番号100732)、PE共役抗CD25(バイオレジェンド社:カタログ番号101904)、PE-Cy7共役抗CD69(バイオレジェンド社;カタログ番号104512)、APC共役抗CD107a(バイオレジェンド社;カタログ番号121614)、FITC共役抗FoxP3(バイオレジェンド社;カタログ番号137214)、PE/Dazzle共役抗CD11c(バイオレジェンド社;カタログ番号117348)、抗CD86ブリリアントバイオレット(バイオレジェンド社;カタログ番号305431)、APC共役アネキシンV(バイオレジェンド社;カタログ番号640920)、及びPI(バイオレジェンド社;カタログ番号421301)が含まれる。
【0106】
ELISAを用いたサイトカイン分泌分析
【0107】
無細胞上清は、OVAペプチドまたは線維芽細胞溶解物を使用した活性化後にインビトロ及びエクスビボ実験から得た。IL-2測定のために、細胞活性化の24時間後に上清を収集した。IFN-γ並びにIL-10及びIL-17Aの測定のために、細胞活性化の48時間後及び72時間後に上清を収集した。製造業者の使用説明書に従って、上清中のサイトカイン濃度を測定するためにサンドイッチELISAを実施した。
【0108】
免疫組織化学及び共焦点イメージング分析
【0109】
インビボ血管新生分析のために、細胞移植デバイス及びその周囲の線維症を動物から取り出し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で24時間固定し、次いで、ショ糖溶液(30%)中で48時間培養した。その後、デバイスを、最適切断温度化合物(OCT)中に埋め込み、-80℃で保存した。水平断面(厚さ20μm)をクライオスタット(Lecia CM3050S)で切断し、使用するまで-80℃に維持した。断面をPBS/TWEEN(0.05%v/v)で洗浄した。染色前は、一次抗体希釈緩衝液を使用して、非特異的結合をブロックした。その後、切片を、一次モノクローナル抗マウスCD31抗体(バイオレジェンド社;カタログ番号910003)と共に培養し、Alexa Flour 633共役抗ラットIgG(バイオレジェンド社;カタログ番号405416)で染色した。
【0110】
切片の共焦点イメージング(画像化)は、Nikon C1siレーザー走査共焦点顕微鏡を使用して行った。血管密度を、血小板内皮細胞接着分子(PECAM)の割合、全画像領域におけるCD31占有面積として計算し、Imarisソフトウェア(米国コネチカット州サウスウィンザーのビットプレーン・サイエンティック・ソリューションズ社(Bitplane scientific solutions))を用いてPECAM免疫染色断面スライドからランダムに選択された15の別個の視野から決定した。
【0111】
CD8+細胞傷害性イメージングのために、NIH/3T3線維芽細胞と共培養する前に、CD8+T細胞をSNARF1(米国カリフォルニア州のインビトロジェン社(Invitrogen))で染色した。共培養の12時間後、ウェル内の細胞を4%PFAで固定した。グランザイムBを染色する前に、一次抗体希釈緩衝液を使用して非特異的結合をブロックし、次いで、細胞を透過化した。その後、細胞を、フルオロ共役一次モノクローナル抗マウスグランザイムB(バイオレジェンド社;カタログ番号515405)と共に一晩培養した。CD8+細胞傷害性アッセイを実施した切片及びウェルの共焦点イメージングをNikon C1siレーザー走査共焦点顕微鏡を使用して行った。
【0112】
活性化画像化の72時間後のスキャフォールド内でのインビトロ脾細胞培養のために、スキャフォールドを収集し、DMEM緩衝液中の4%PFA中で20分間固定し、次いで、ショ糖溶液中で24時間培養した。その後、デバイスを、O.C.T中に埋め込み、-80℃で保存した。水平断面(厚さ30μm)をクライオスタット(Lecia CM3050 S)で切断し、使用するまで-80℃に維持した。断面をDMEM緩衝液で洗浄した。染色前は、DMEM緩衝液中の2%BSAを使用して、非特異的結合をブロックした。その後、切片を、一次モノクローナル抗マウスCD11c抗体(バイオレジェンド社;カタログ番号117302)及び一次モノクローナル抗マウスCD4抗体(バイオレジェンド社;カタログ番号100402)と共に培養し、Alexa Flour 488共役抗ラットIgG(バイオレジェンド社;カタログ番号405418)及びAlexa Flour 546抗アルメニアンハムスターIgG(バイオレジェンド社;カタログ番号405423)を用いて染色した。
【0113】
統計
【0114】
全ての統計分析は、Windows(登録商標)用のGraphPad Prismバージョン5.02(米国カリフォルニア州サンディエゴのグラフパッドソフトウェア社(GraphPad Software)製)を使用して行った。全ての変数は、平均±SEMとして表した。インビトロ研究は、両側不対t検定(p<0.05)によって比較した。全てのエクスビボ実験は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)及びチューキーポストホック検定(p<0.05)によって比較した。
【0115】
実験承認
【0116】
全ての手術及び実験手順は、イスラエル国ネゲブのベングリオン大学の動物実験委員会(IACUC:Institutional Animal Care and Use Committee)によって審査され承認された。
【0117】
実施例1
細胞移植デバイスの構築及び免疫調節性
【0118】
細胞移植デバイスは、マクロ多孔質構造に起因して移植後に効果的に血管新生を行うことが従来分かっているアルギン酸スキャフォールド(平均孔径=80μm)であった。血管新生を促進するために、親和結合した血管内皮増殖因子(VEGF)及び血小板由来増殖因子(PDGF-ββ)を、アルギン酸スキャフォールドに添加した。増殖因子のアルギン酸塩マトリックスに対する親和結合は、増殖因子がアルギン酸硫酸塩(スキャフォールドの乾燥重量の10%を構成する)と相互作用することによってなされた。本発明者らは、ヘパリン結合性タンパク質ファミリーの増殖因子(例えば、VEGF、PDGF-ββ、及びTGF-β)が、該増殖因子がヘパリン/ヘパラン硫酸と自然に相互作用する場合と同様の態様で、アルギン酸硫酸と相互作用することを以前に実証した(
図1A)。したがって、本発明者らは、増殖因子がアルギン酸スキャフォールドマトリックスと親和結合することにより、該増殖因子の生物学的機能が向上することを期待した。
【0119】
この期待に基づいて、TGF-βをアルギン酸硫酸塩/アルギン酸スキャフォールドに親和結合させることにより、免疫寛容性の微小環境を生成した(詳細は、
図1A及び上記の「材料と方法」を参照されたい)。このプロセスにより、TGF-βが元のアルギン酸骨格に非特異的に吸着された場合と比較して、TGF-βの提示期間が延長された。TGF-βのELISAは、アルギン酸硫酸塩含有スキャフォールドでは、7日後に、最初にロードされたafTGF-βは、その30.2%±0.8%が、依然としてマトリックス中に存在し、一方、元のスキャフォールドでは、5.2%±0.3%しか残存していないことを明らかにした(
図1B)。重要なことに、培地中に見られた放出されたTGF-β、及びアルギン酸塩/硫酸化アルギン酸塩マトリックスに親和結合したTGF-β(afTGF-β)は、同様に線維芽細胞単層におけるSMAD2リン酸化を活性化した(
図1C、
図1D)。注目すべきは、afTGF-βは、それがマトリックスに依然として親和結合しているとき、及びそれがスキャフォールドから分離した後も同様の活性を示し、細胞が、親和結合形態及び放出時の両方において、TGF-βと相互作用できることを示した。
【0120】
次に、本発明者らは、アルギン酸硫酸塩/アルギン酸スキャフォールド(afTGF-β構築物)のafTGF-βの空間提示により、免疫調節微小環境が生成されるかどうかを調べた。本発明者らは、全脾細胞白血球を培養し、生存を維持し、かつスキャフォールドにおいて抗原特異的T細胞応答を誘導できるかどうかを試験するために予備研究を行った。この目的を達成するために、T細胞活性化ペプチドとしてのOVAの存在下または非存在下で、赤血球枯渇脾臓白血球をOTII OVA-TCR Tgマウス(リンパ球がOVA特異的である)から単離し、スキャフォールドに播種した(
図2A)。
図13Aは、細胞播種後の3日目の典型的な構築物を示し、白血球がスキャフォールド全体に分布し、DC及びCD4 T細胞が互いに近接し、細胞-細胞相互作用を可能にすることを示す。OVAにより誘導されたT細胞増殖が確認され、OVA活性化の有無にかかわらず、T細胞の32%及び6%が生存したことが明らかになった(
図13B)。OVA活性化構築物中の生存リンパ球の約20%は、CD4+D25+であった(
図14A、
図14B)。
【0121】
afTGF-βの免疫調節作用は、afTGF-β構築物内に播種された脾細胞(
図2B-
図2E)及び精製されたDC(
図15A-
図15E)におけるCD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞(Treg)のサイトカインプロファイル及び出現により明らかになった。
図15B-
図15Eに示すように、afTGF-βは炎症性サイトカインIL-17Aの分泌を大幅に抑制し、調節性サイトカインIL-10を大幅に増加させ、かつ分泌IL-2またはIFN-γの分泌レベルには影響を与えない。重要なことには、デバイス中のafTGF-βの存在により、全CD4+ T細胞集団中のCD4+CD25+Foxp3+T細胞の頻度が2.88倍に増加する(OVAの有無に応じて、それぞれ全T細胞集団の30.6%±3.4%及び11.8%±3.1%、p=0.008、
図3、
図4A-
図4C)。全体として、この発見は、afTGF-βが細胞移植デバイス内で抗炎症環境を促進することを実証する。注目すべきことに、afTGF-β構築物で観察されたIL-17の分泌レベルの低下及びTreg頻度の増加は、抗IL-10(
図5A-
図5F)の存在下では、または、CD11cプロモーター下でヒトTGF-βレセプターII遺伝子のドミナントネガティブ型を発現するCD11c
dnrTgマウス由来の脾細胞を用いた場合には、観察されなかった(
図5G-
図5H、
図6A-
図6E)。
【0122】
全体的に、本発明者らのデータは、DCにおけるafTGF-βシグナル伝達がIL-10の上方調節を誘導し、それにより、Treg分化を助長し、CD4T細胞のエフェクター機能を減弱させる機序を指摘する。この機序は、2D細胞単層に可溶性TGF-βを添加した場合(
図16A-
図16E、
図17A-
図17B)よりも、移植デバイスの3次元(3D)微小環境において非常に顕著であるように思われる。
【0123】
実施例2
細胞移植デバイスのインビボ血管新生
【0124】
移植後の細胞移植デバイスの血管新生は、とりわけ高密度播種細胞デバイスでは、移植されたアロ細胞の生存能力及び機能を支持するために重要である。血管新生を促進するために、本発明のデバイスに、VEGF及びPDGF-ββを添加した。afTGF-β構築物における細胞の挙動及び生存率の差異(TGF-βを欠く構築物と比較して)が血管新生の程度の差に起因する可能性を調べるために、本発明者らは、afTGF-β構築物における血管新生の程度をTGF-β-欠損構築物と比較した。afTGF-β構築物及びTGF-β-欠損構築物の両タイプの構築物に、GFPを発現するように感染させたスイスマウス由来の同種異系NIH/3T3線維芽細胞株(5×105個の細胞/スキャフォールド)を播種した。
【0125】
図7Aは、腎臓被膜下に移植してから10日以内に、両方の細胞播種デバイスにPECAM+(CD31)内皮細胞を播種し、GFP線維芽細胞間に散在する毛細血管を形成したことを示す。15日目までに、afTGF-βの有無にかかわらず、移植された構築物(
図7B、
図7C)には、細胞デバイスの3-4%を占める明確な毛細血管が観察された(
図8)。
【0126】
実施例3
インビボ局所免疫調節及びアロ線維芽細胞移植片生存率
【0127】
次の一連の実験により、インビボでの、afTGF-βスキャフォールドにおける局所免疫調節微小環境の確立を確認した。さらに、デバイス内での広範囲の血管新生を所与として、移植した同種繊維芽細胞の生存能力及び機能を維持するための、このような可能性のある移植デバイスの有効性を検討した。
【0128】
移植後の10日目及び15日目に回収した構築物のFACS分析によって、afGF-β構築物は、TGF-β欠損構築物と比較して、共刺激分子CD86を発現する成熟CD11c+DCの割合が有意に低く(
図9A-
図9C)、かつ、CD4+CD25+Foxp3+Tregの割合が有意に高いことが明らかになった(
図9D-
図9F、p<0.05)。Tregの増加は、移植後10日目にのみ明白であった。したがって、移植後10日目に、CDT-β構築物は、TGF-β欠損構築物と比較して、CD8+T細胞の割合が有意に低いことが明らかになった(それぞれ、2.1%±0.4%対5.5%±0.9%、p=0.019)(
図9G-
図9I)。さらに、移植後10日目(それぞれ、13.4%±3.5%対22.9%±9.3、p=0.015)及び移植後15日目(それぞれ、4%±0.8%対12.0%±2.5%、p=0.0001)には、afTGF-β構築物は、TGF-β欠損構築物と比較して、活性化マーカーCD69を発現するCD8T細胞の断片が有意に減少することが観察された(
図9J-
図9L)。
【0129】
免疫寛容性環境がアロ線維芽細胞生存に影響を及ぼすかどうかを調べるために、生存しているアロ線維芽細胞の数及びアポトーシスを起こしている細胞の頻度を調べた。移植後3日目に、デバイスから回収したGFP+細胞を、デバイス中に存在した全GFP+細胞に対する割合として計算した(
図17C、
図17D)。このベースラインは、T細胞媒介性細胞傷害性に関連しない細胞死を排除するように選択した。移植後15日目では、デバイスから回収したアロ繊維芽細胞の割合は、afTGF-β構築物及びTGF-β欠損構築物でそれぞれ50.4%±2%及び44.6%±0.7%であった(p<0.05、
図10A、10B)。移植後30日目では、afTGF-βデバイスから回収したアロ繊維芽細胞は、より高い割合を示す傾向が見られた。生存しているアロ繊維芽細胞の生存率を、アネキシンV及びPIで標識したGFP細胞のFACS分析によってさらに検証した(
図10C)。移植後15日目では、生存しているアロ線維芽細胞(GFP+ Annexin-PI-)の割合は、TGF-β構築物がTGF-β欠損構築物よりも有意に高かった(それぞれ、38.5%±3.5%及び23.2%±5.0%、p=0.038、
図10D)。したがって、移植後15日目及び30日目では、GFP+アロ線維芽細胞の全数に対するGFP+AnnexinV+PI-アポトーシス細胞及びGFP+AnnexinV+PI+細胞の割合は、afGF-β構築物がTGF-β欠損構築物よりも有意に低かった(
図10E、
図10F)。これらのデータは、構築物中のafTGF-βの局所提示により浸潤性DCが未成熟状態に維持され、これによって、Tregの頻度を増加させ、細胞傷害性CD8T細胞の活性化を抑制することを示す。
【0130】
実施例4
親和結合したTGF-βによる、アロ細胞特異的末梢性T細胞の活性化の抑制
【0131】
細胞または組織移植における大きな障害は、免疫抑制薬が抗原特異的ではないため、宿主防御機序が損なわれることである。加えて、休薬(薬物離脱)は、しばしば免疫応答の回復をもたらし、最終的には移植拒絶につながる。宿主免疫を損なうことのない、移植片の長期生存は、同種移植特異的T細胞寛容を誘導することによって達成され得る。血管が新生されたafTGF-β構築物がアロ線維芽細胞特異的末梢寛容を誘導するかどうかを調べるために、移植後15日目及び30日目にマウスから脾細胞を単離し、アロ種芽細胞特異的Tヘルパー及びT細胞傷害反応について調べた。TGF-β欠損構築物の移植と比較して、afTGF-β構築物を移植したマウスから切除した脾細胞は、移植後15日目に、アロ線維芽細胞特異的Th17エフェクター機能が有意に減少した(
図11A;TGF-β欠損構築物を移植したマウスから切除した脾細胞と比較した、55.5%分泌したIL-17、p<0.05)。驚くべきことに、これらの脾細胞はまた、移植後30日目にTh1及び/またはCD8T細胞エフェクター機能の低下を示した(
図11B-
図11C;TGF-β欠損構築物を移植したマウスから切除した脾細胞と比較した、それぞれ45.2%及び20.9%分泌したIL-2及びIFN-γ、p<0.05)。IL-10分泌レベルは、グループ間で有意な差を示さなかった(
図11D)。
【0132】
次に、本発明者らは、アロ細胞特異的CD8T細胞の細胞傷害性応答が、afTGF-β構築物を移植したマウスにおいても抑制されるかどうかを調べた。そのため、移植マウス及び野生型マウスから脾細胞を単離し、次いでCD8T細胞を単離し(上記の「方法」及び
図17Eに記載したようにして)、それぞれ1:4の細胞比でアロ繊維芽細胞と共培養した。共焦点イメージングは、TGF-β欠損構築物を移植したマウスから単離されたCD8+T細胞が、アロ線維芽細胞と免疫学的シナプスを形成し、細胞傷害性を発揮することを示した(
図11E及び
図18)。
【0133】
CD8T細胞をアロ線維芽細胞と共培養してから2時間後及び12時間後でCD107を発現する細胞傷害性CD8T細胞の頻度のFACS評価により、両方の時点において、細胞傷害性CD8+CD107+T細胞の割合は、afTGF-β構築物を移植したマウス由来の脾細胞が、TGF-β欠損構築物を移植したマウス由来の脾細胞よりも有意に低いことが示された(
図11F、
図12A)。さらに、afTGF-β構築物を移植したマウスから単離した脾臓由来CD8T細胞と共培養した場合、TGF-β欠損構築物を移植したマウスと比較して、アポトーシスを起こしているアロ線維芽細胞の数は有意に少なかった(それぞれ、15日目で35.5%±5.1%対17.2%±0.9%;
図12B、
図12C)。注目すべきことに、afTGF-βを移植したマウスから得られた活性化CD8T細胞の頻度及び細胞傷害活性は、野生型マウスと同様であり、TGF-β構築物の状況下でのアロ繊維芽細胞の移植は非常に軽度の細胞傷害性応答を励起することを示した。
【0134】
本発明者らは、細胞移植デバイスにおけるマトリックスに対する親和結合としてのTGF-βの局所的提示が、細胞同種移植が拒絶されるのを防ぐ免疫調節微小環境を促進するという仮説を試験した。本発明者らは、未成熟表現型のDCを維持することによって、並びに、Tregの頻度を増加させて、IL-10依存的な態様のCD4及びCD8細胞傷害性T細胞のエフェクター機能を減少させることによって、afTGF-βがその調節機能を発揮することを明らかにした。重要なことに、本発明者らは、afTGF-βの局所免疫調節作用が脾臓に投射され、これによりアロ線維芽細胞特異的CD4及びCD8T細胞のエフェクター機能が有意に低下することを明らかにした。
【0135】
TGF-βは、重要な免疫調節性サイトカインであり、これは、隣接するサイトカイン環境に応じて、抗炎症応答及び炎症誘発性応答の両方を促進することができる。提示されたTGF-βが、アルギン酸スキャフォールドに親和結合した場合に、活性化されたエフェクターT細胞を調節することができるか否かは不明である。本発明者らによるインビトロの結果は、DCの場合、または大体において、脾細胞を抗原提示細胞(APC)として使用した場合、afTGF-βは、CD4 T細胞の活性化を抑制するとともに、IL-10の分泌レベル及びTregsの頻度を増加させることを示した。抗IL-10またはCD11c-DNR脾細胞を用いてインビトロで実施したブロッキング実験は、afTGF-βが、(1)DCに対するIL-10シグナル伝達を向上させ、その未成熟表現型を維持するという2つの経路において調節機能を有することを示唆する。この結果、未成熟DCは、過去の研究でも観察されたように、T細胞のエフェクター機能を低下させ、CD4+CD25+Foxp3+Tregの頻度を増加させ、そして、(2)それは、エフェクターT細胞に直接シグナルを伝達し、エフェクター機能を減弱させる。
【0136】
注目すべきことに、afTGF-βは、2D培養物中の可溶性TGF-βよりも効果的である。この現象は、TGF-βはマトリクスに親和結合したときの、TGF-βの細胞に対する局所的な提示によってシグナル伝達が向上することに起因すると思われる。さらに、TGF-βの親和結合は、元のスキャフォールドに吸着されたときの迅速な放出と比較して、活性サイトカインの長期間持続放出をもたらした。これらの機序の両方が、免疫調節環境の生成の成功に寄与する。TGF-β制御放出システムは、インビトロ及びインビボでのTregの集団の誘導及び増殖のために従来使用されてきた。しかしながら、これらのシステムはいずれも、サイトカインの親和結合を利用していないか、または、このストラテジーを研究して、アロ細胞移植デバイスとしての使用を容易にする3D免疫調節環境を生成することを試みていない。
【0137】
移植デバイスとして、アルギン酸塩スキャフォールドに、スキャフォールド血管新生を広範囲に促進する血管新生因子VEGF及びPDGF-βを添加した。このような細胞移植デバイスの潜在的な問題は、血管新生が促進され、移植された細胞への及び該細胞からの効率的な物質輸送を可能にするが、白血球浸潤の増進は、同種移植拒絶を促進し得ることである。本発明者らのデータは、インビトロ及びインビボの両方で観察されるように、afTGF-βが同様の調節効果を発揮することを示した。TGF-β欠損構築物と比較して、移植後の10日目及び15日目に回収されたafTGF-β含有構築物は、成熟DCの頻度の有意な減少、Tregの頻度の増加、及び細胞傷害性T細胞の頻度の減少を示した。さらに、脾細胞由来アロ線維芽細胞反応性CD4及びCD8T細胞は、炎症促進性サイトカインのレベルの有意な低下を示し、細胞傷害活性はほぼ完全に消失したため、afTGF-β構築物を移植したマウスも末梢寛容を誘起した。したがって、TGF-βがスキャフォールド内に局所的に提示された場合には、移植されたデバイスの血管新生は、移植片の生存を増加させるだけでなく、移植された細胞に応答して誘起される末梢免疫反応を減弱させる。
【0138】
本発明者らは、TGF-β欠損構築物と比較したafTGF-β構築物の独特な特性を説明するために2段階のモデルを提案する。第1段階では、afTGF-βは浸潤APCにシグナルを伝達し、移植された細胞を取り込みながら、浸潤APCを未成熟状態に維持する。移植後の数日以内に毛細血管が形成され、その毛細血管を通じてAPCが排液リンパ節に移動し、ナイーブアロ線維芽細胞反応性CD4及びCD8T細胞のアネルギまたは軽度の活性化のいずれかが促進される。第2段階では、スキャフォールド浸潤T細胞へのafTGF-βシグナル伝達は、未成熟DCの存在と共に、DC活性化をさらに減弱させて、Tregの分化及び/または増殖を促進する。これらのプロセスは、全体としては、afTGF-β構築物の移植後の15日目及び30日目に観察されるアロ繊維芽細胞の細胞傷害性を有意に低下させる。
【0139】
アルギン酸スキャフォールドは宿主内で減少するので、TGF-βリッチ環境が局所抗原特異的免疫調節を全身的及び抗原特異的免疫寛容に拡張することが非常に重要である。1型糖尿病の場合、例えば、移植されたβ細胞に応答して誘起される末梢寛容は、膵臓における免疫攻撃をブロックし、膵島再生を防止できるであろう。免疫抑制薬の場合のように、病原体に対する宿主防御が損なわれることを回避しながら、他の組織特異的自己免疫疾患を治療するために、同様のストラテジーを用いることができる。
【0140】
実施例5
多発性硬化症(MS)を治療するためのアルギン酸塩/硫酸化アルギン酸マトリックス(afTGF-β)に対するTGF-βの親和結合
【0141】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を、多発性硬化症(MS)のモデルとして使用した。C57BL6マウスを、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)残基35-55で免疫化した。7-10日後、マウスは、進行臨床スコアで尾及び四肢の麻痺を発症した。この疾患は、MSの典型的な病変特性を形成する脊髄への白血球浸潤によって明らかにされる。病気は、しばしば、再発寛解型の形態で現れる。TGF-β及びMOG35-55ペプチドを保有または欠損するアルギン酸塩/硫酸化アルギン酸スキャフォールドを、免疫化前後の互いに異なる時点(例えば、疾患発症の5日前、ピーク臨床スコアでの15日目、または寛解時の20日目)に移植し、EAE臨床スコア、並びに、MOG特異的CD4T細胞(サイトカインプロファイル及び活性化マーカー)の表現型及び脊髄の組織病理(すなわち、浸潤白血球及び脱髄)を調べた。EAE臨床スコアは、「Experimental Autoimmune Encephalomyelitis in the Mouse. Curr Protoc Immunol. 2007 May; CHAPTER: Unit-15.1」(参照により本明細書に組み入れられる)に記載されているようにして調べた。
【0142】
結果は、MOG特異的T細胞が寛容され、これにより、TGF-β及びMOG35-55を保有するスキャフォールドを受け取った動物における、EAE臨床スコアの減少、リンパ球浸潤、MS病変の減少を含む急性及び慢性疾患プロセスが予防または改善されることを示した。
【0143】
臨床試験において、TGFβスキャフォールドは、MSを有する対象の特異的HLA対立遺伝子に依存して、いくつかの免疫優性エピトープを保有する。
【0144】
実施例6
I型糖尿病を治療するためのafTGF-β
【0145】
白血球が膵臓のβ細胞を破壊するI型糖尿病(NODマウスなど)のマウスモデルにおいて、TGF-βを発現する同種異系または同系の膵臓β細胞を、疾患発症前後(約10週間)に移植し、マウスのインスリン及びグルコースレベル、並びに、免疫浸潤、病態生理、及びスキャフォールド及び膵臓の両方におけるβ細胞生存を調べた。
【0146】
結果は、β細胞特異的リンパ球が寛容され、これにより、TGFβを発現する膵臓β細胞を受け取った動物におけるβ細胞死亡率の減少、インスリンレベルの上昇、及び血糖値の低下を含む急性及び慢性疾患プロセスが予防または改善されることを示した。
【0147】
本発明の特定の特徴を図示及び説明したが、当業者であれば、様々な修正、置換、変更、及び均等物を想起できるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神に含まれるそのような全ての修正及び変更を包含することを意図していると理解されたい。
【配列表】