IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ルナフォア・テクノロジーズ・エスアーの特許一覧

特許7033081試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法
<>
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図1
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図2A
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図2B
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図3A
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図3B
  • 特許-試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】試料サイクル多重化及びインサイツイメージングの方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220302BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220302BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220302BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20220302BHJP
【FI】
G01N33/543 575
G01N33/543 525U
G01N33/53 M
G01N37/00 101
C12Q1/6841 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018560251
(86)(22)【出願日】2017-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2017052662
(87)【国際公開番号】W WO2017137402
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2019-12-09
(31)【優先権主張番号】16154746.8
(32)【優先日】2016-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518281339
【氏名又は名称】ルナフォア・テクノロジーズ・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アタ・トゥナ・チフトリキ
(72)【発明者】
【氏名】ディエゴ・ガブリエル・デュプイ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】マルタン・ハイス
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/175189(WO,A1)
【文献】特表2015-517088(JP,A)
【文献】特表2011-518320(JP,A)
【文献】特表2010-510492(JP,A)
【文献】Carolina Wahlby et al.,Sequential Immunofluorescence Staining and Image Analysis for Detection of Large Numbers of Antigens in Individual Cell Nuclei,Cytometry,2002年,vol.47, no.1,pp.32-41
【文献】Daniel Pirici et al.,Antibody Elution Method for Multiple Immunohistochemistry on Primary Antibodies Raised in the Same Species and of the Same Subtype,Journal of Histochemistry & Cytochemistry,2009年,vol.57, no.6,pp.567-575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 37/00
C12Q 1/6841
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法であって、
(i)試料支持体上に固定された試料を提供する工程;
(ii)マイクロ流体チャンバと、前記マイクロ流体チャンバの一端にある少なくとも1つの流体入口と、前記マイクロ流体チャンバの他端にある少なくとも1つの流体出口とを含み、前記マイクロ流体チャンバ内の流体物質及び試薬を均一に移流輸送するために、流体供給システムから圧力下で供給された流体をマイクロ流体チャンバに通して導くように構成されたマイクロ流体デバイスを提供する工程であって、マイクロ流体チャンバの少なくとも1つの壁が試料支持体によって形成され、マイクロ流体チャンバの容積が2.5μl~200μlである、工程;
(iii)試料がマイクロ流体チャンバの内側に面するように、前記マイクロ流体チャンバ上に前記試料支持体を取り付ける工程;
(iv)1μl/s~100μl/sの間の範囲の流速で、マイクロ流体チャンバへの流体入口を通って、少なくとも1つのイメージングプローブを含む複数の試薬をシーケンスとして注入する工程;
(v)前記少なくとも1つのイメージングプローブと反応させた試料の成分によって放射されるシグナルをイメージングする工程;
(vi)異なるイメージングプローブを用いて工程(iv)及び(v)を繰り返す工程
を含み、ここで、複数の試薬をシーケンスとして注入する前記工程は、
- 試料上に潜在的に残存する望ましくない物質を除去するために溶出緩衝液が注入される溶出工程;
- ブロッキング緩衝液が注入される非特異的結合ブロッキング工程;
- イメージングプローブが注入される試料標識工程;及び
- イメージング緩衝液が注入される任意選択の前イメージング工程
を含み、これらの工程の各々は、洗浄緩衝液が注入される任意選択の洗浄工程が先行してもよく及び/又は後に続いてもよく、
前記少なくとも1つのイメージングプローブは、標識プローブとしての特異的抗体及び色素原又は蛍光検出分子のシーケンスの注入から得られ、前記試料内の分析されるべき分子実体を標的とし、
注入された複数の試薬のシーケンスにおける各工程が、各試薬について、
- 試薬が1μl/s~100μl/sの範囲の初期流速で注入される、第1の流速工程;
- シーケンスにおける次の試薬を注入する前に、同じ試薬をより低い流速である0.001から1.0μl/sで注入して、前記試薬を試料と共にインキュベートすることを確実にする、第2の流速工程
の2つの流速工程を含む、方法。
【請求項2】
第1の流速工程が、1秒~120秒続く、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試薬の第2の流速工程が1分~30分続く、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
試料標識工程が、一次抗体が注入される第1の工程(S3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3'')、及び二次抗体が注入される更なる工程(S3'''')を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
複数の試薬をシーケンスとして注入する工程が、
- 洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S0);
- ブロッキング緩衝液が注入される非特異的結合ブロッキング工程(S2);
- イメージングプローブが注入される試料標識工程(S3);
- 洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3a);
- イメージング緩衝液が注入される任意選択の前イメージング工程(S4)
を含み、試料標識工程が、一次抗体が注入される第1の工程(S3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3'')、及び二次抗体が注入される更なる工程(S3'''')を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
試料標識工程が、試料内のあるDNA/RNA材料とのインサイツハイブリダイゼーションのために少なくとも1つの標識されたプローブを注入することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
試料標識工程が、試料内のDNA/RNA材料をRNA又はDNAプローブとハイブリダイズさせるために、マイクロ流体チャンバ内に温度サイクルを適用することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
イメージング工程(v)が、蛍光顕微鏡法又は明視野顕微鏡法によって行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(iv)~(v)の少なくとも2~80サイクルを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(vi)において、別の試料標識工程を用いた方法を繰り返す前に、温度サイクルを適用しながら、試料上に潜在的に残存する望ましくないインサイツハイブリダイゼーションされたプローブ又はマーカーの除去を確実にするために、溶出工程を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記前イメージング工程が存在する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、試料のインサイツイメージング、特にサイクル多重化による生物学的試料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
画像ベースの試料分析測定技術は、単一の試料、例えば組織検体中で同時に観察することができる分子測定の数(多重化の程度)によって限定されてきた。これは、単一細胞シークエンシング又はマスサイトメトリー等の他の高度に多重化された技術と比較した場合、このタイプの分析アプローチを大規模な「~オミックス(-omics)」の使用から、これまで制約していた。結果として、現時点では画像ベースのアプローチのみが明らかにすることができる本質的で空間的な詳細が失われてしまっている。古典的な免疫組織化学よりむしろ免疫蛍光を用いることにより、この問題を部分的に克服することができるが、測定は、最大で同時に4~5回の分子読み出しに依然として限定される。画像ベースの多重化試料分析測定の主な制約は、シグナル間にクロストークがない単一の検体内の別個のシグナルの分離である。例えば、蛍光イメージングの場合、スペクトルの重なりは、高度に多重化された多色標識実験において放出シグナルの明確な分離を妨げる。更に、フルオロフォアは、高い標識密度で自己消光挙動を示し、複数の標識の同時適用を更に限定し得る。免疫ベースのアプローチの多重化能力に関するもう1つの制約は、二次抗体を用いた特異的な増幅及び検出を確実にするために、各々の一次抗体を異なる動物種から誘導しなければならないという要件である。これは原則として直接免疫蛍光法、換言すれば一次抗体を直接標識することによって克服することができるが、このアプローチは特異性の低下及び増幅の欠如によるシグナル出力の低下等の他の問題を引き起こす。
【0003】
免疫蛍光を用いる多重分子読み出しは、WO2007/047450に示される抗体混合法を用いて達成されている。この方法は、画像ベースであり、組織切片への適用が可能であり、非特異的ヌクレアーゼを含む環境での利用が可能であるという利点を有するが、同時検出の最大数には限界がある。定量化可能な参照標準をWO2008/005464に記載されているような測定プロセスに含めると、例えば、乳がん組織におけるヒト上皮増殖因子2(HER2)発現の半定量的スコア付けに適用されるように、バイオマーカータンパク質の半定量的スコアリング等の特定の適用において定量化免疫組織化学の読み出し精度が向上する一方で、出力シグナルを特定のバンドに分割するため、多重同時読み出しの可能性を更に限定し得る。
【0004】
インサイツイメージングによる試料多重化は、EP1131631に記載されているように、同じ試料に異なる染色を施し、イメージング結果から個々の染色画像を抽出することを含むスペクトル多重化を行うことによって達成することができる。この技術は、試料の各画素からスペクトルデータを収集し、個々の各染色から生じたであろうスペクトルを計算的に生成し、個々の結果を補正された色スペクトルで示すことを含む。多重マーカー定量化が可能である一方で、各シグナルの間にクロストークの可能性があるため、デバイス性能は並行染色数に反比例する。
【0005】
上述の制約を克服することに関して、免疫染色技術における最近の進歩は非常に有望である。これらの技術は、染色及びイメージングの更なるラウンドを可能にするため、通常の染色/イメージング工程の後の色素不活性化及び/又は抗体溶出を含む複数サイクルのインサイツイメージングを利用する。
【0006】
これらのアプローチとしては、各画像取得後の蛍光色素の化学的不活性化(Gerdesら、2013、PNAS、110(29)、11982~11987頁)、オーダーメイドの酸性化過マンガン酸塩溶液を順次的に使用することによる連続的な染色サイクルのための抗体-抗原結合の非破壊的解離(WO2010/115089)、様々な異なる緩衝液を用いた連続的抗体溶出(Piriciら、2009、J. Histochem. Cytochem.、57(6)、567~575頁)、順次的な複数標的検出のための高温でのペプチドプローブ接触及び変性の連続サイクル(WO2009/11714)、変性及び溶出技術の組み合わせを用いた反復染色及びイメージングサイクル(Wahlbyら、2002、Cytometry、47(1)、32~41頁)、各再染色工程の前にブリーチングを使用する複数の連続した染色サイクル(Friedenberger、2007、Nature Protocols、2、2285~2294頁)、分子バイオマーカーの多重化プロファイリングのための生物学的標識としてのバイオコンジュゲート化量子ドットの使用(Schubertら、2006、Nature Biotechnology 24、1270~1278頁)、目的の複数標的分子との結合を形成する水溶性ポリマーの使用(Xing、2007、Nature Protocols 2、1152~1165頁)が挙げられる。
【0007】
これらすべての多重サイクルインサイツイメージングアプローチは反復的であり、異なる分子標的に対する同じ分子種において生成された一次抗体並びに同じ化学試薬又はフルオロフォアの引き続きの利用を可能にし、理論上は同じ組織切片上における無制限の数の異なる標的を同定することを可能にするという利点を提供する。
【0008】
有望ではあるものの、多重サイクルインサイツイメージング技術を、例えば腫瘍切片等の試料のハイスループット多重化分子プロファイリングに変換することは容易ではない。第1に、長いインキュベーション及び洗浄サイクル(通常、数時間まで)は、変動する周囲条件下において組織抗原の分解を引き起こす極めて長い全プロトコル持続時間をもたらす。第2に、試料カバースリップのイメージングの繰り返しの取り付け/取り外しは、組織の完全性を更に損なう。したがって、このようなサイクルの手動操作は再現性に影響を与え、ハイスループットでの組織検体の信頼できる分子プロファイリングを実際に妨げ、ハイスループット、信頼性及び比較的低コストの実行特性を必要とする診断目的のような用途において、多重サイクル技術の使用を非実用的にする。
【0009】
試料のインサイツイメージングに利用可能な既存の方法の更なる制約は、多重サイクルアッセイを実現するために広領域イメージングが必要なことにも由来する。各サイクルの間に手作業による処理を実現するために、検体はイメージングシステムから取り除かれ、手作業による処理後、その後の分子マーカーを広領域イメージングするためにイメージングシステムに検体を戻し、すべてのサイクルでの検体から得られる画像を重ね合わせるので、各サイクルでのイメージングシステム上の検体の配置の微妙な差異は、検体全体にわたる分子シグナルの位置の特定についての誤差をもたらす。これは、分子シグナルの真の所在の特定、特に高分解能又は超分解能顕微鏡システムでしか観察できない細胞内の特徴の真の所在の特定を妨げる。
【0010】
垂直マイクロ流体システムもまた、イムノアッセイ又は遺伝子分析に使用される可能性があるツールとして導入されている。試料上の小領域のスポットを染色するために、広いチャンバと垂直アクセスホールとからなるマイクロ流体プローブが開発されている(WO2014/001935)。各サイクルにおける染色される領域の寸法は約100μmである。そのため、より大きな画像を得るためには、いくつかの染色工程で試料表面を走査する必要がある。この方法には、走査プロセスに起因する、位置の特定の誤差の可能性及び分析時間の増加の問題も存在する。
【0011】
順次的な染色工程とイメージング工程との間のより容易な移行を促進するオープントップマイクロ流体デバイスが最近発表された(WO2014/035917)。この方法は、イメージング領域とプロセス時間の必要性には対応していないものの、余分な時間消費、組織の損失及びスライドとスライドの画像変化等の、各々の連続する試行の間で試料からカバースリップを取り外さなければならないことのいくつかの欠点を、この工程の必要性を排除することによって克服することを目的としている。
【0012】
最後に、試料の順次的かつ反復的なフルオロフォア曝露を含むインサイツイメージングが、試料に誘導損傷をもたらすことが観察された。特に、蛍光標識された抗体は、通常、イメージングの間に試料又は組織に架橋され、その後試料又は組織から除去することができず、サイクル多重化によるインサイツイメージングの使用を更に限定する。
【0013】
したがって、分子シグナルの真の所在特定に関するハイスループット、高感度、信頼性及び精度を有する同じ試料上での多重分子読み出しを可能にするサイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための新しい技術、機器及びツールが、とりわけ、需要が現在かなり拡大している診断又は治療コースモニタリングの分野の用途に対して必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO2007/047450
【文献】WO2008/005464
【文献】EP1131631
【文献】WO2010/115089
【文献】WO2009/11714
【文献】WO2014/001935
【文献】WO2014/035917
【非特許文献】
【0015】
【文献】Gerdesら、2013、PNAS、110(29)、11982~11987頁
【文献】Piriciら、2009、J. Histochem. Cytochem.、57(6)、567~575頁
【文献】Wahlbyら、2002、Cytometry、47(1)、32~41頁
【文献】Friedenberger、2007、Nature Protocols、2、2285~2294頁
【文献】Schubertら、2006、Nature Biotechnology 24、1270~1278頁
【文献】Xing、2007、Nature Protocols 2、1152~1165頁
【文献】Modern Pathology、2011、24、613~623頁;doi:10.1038/modpathol.2010.228
【文献】Dabbs、Diagnostic Immunohistochemistry:theranostic and diagnostic applications、第4版、2014、ISBN 978-1-4557-4461-9
【文献】Altmanら、2011、Nat Methods、9(1)、68~71頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、効率的で正確で信頼性がある方法による同じ試料上の多重分子読み出しを介して様々な分子標的のイメージングを可能にするサイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法を提供することである。
【0017】
同じ試料上の様々な分子標的のイメージングを迅速かつ高感度な方法で可能にするサイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法を提供することが有利である。
【0018】
多重化プロセスの各サイクルの間に試料を試料支持体から取り外すことを回避することによって試料の完全性が維持される、サイクル多重化による試料のインサイツイメージングの方法を提供することが有利である。
【0019】
多重化プロセスの各サイクルの間に試料を試料支持体から取り外す必要性を回避し、取り外しによる再現性の低下を防ぐことにより、全分析時間が短縮されるサイクル多重化による試料のインサイツイメージングの方法を提供することが有利である。
【0020】
マイクロ流体チャネル内の試料支持体上に固定された試料が、直接に試料の表面で完全に制御可能なイメージングプローブのフローに供され、試料の標識及びイメージングの完全なサイクルを行い、このようなサイクルをハイスループットの様式で繰り返すための特定の順序で直接的に試料の表面で流される、サイクル多重化による試料のインサイツイメージングの方法を提供することが有利である。
【0021】
多重化プロセス中のフリーラジカル酸素種の形成を介する試料の分解及びイメージングプローブの分解を防止するイメージング緩衝液の使用によるイメージングサイクルの間に試料の完全性が保存される、サイクル多重化による試料のインサイツイメージングの方法を提供することが有利である。
【0022】
本発明によるサイクル多重化によるインサイツイメージングの方法で使用される場合、各々の後続サイクルで必要な試薬溶出時間を減少させ、再現性及び/又は測定されるイメージングシグナルの感度の低下なしに可能な試料標識サイクルの数を増加させる、高強度蛍光下でのイメージング試薬の架橋を防止するイメージング緩衝液を提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成された。
【0024】
本発明の第1の態様によると、サイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法であって、
(i)試料支持体上に固定された試料を提供する工程;
(ii)マイクロ流体チャンバと、前記マイクロ流体チャンバの一端にある少なくとも1つの流体入口と、前記マイクロ流体チャンバの他端にある少なくとも1つの流体出口とを含み、前記マイクロ流体チャンバ内の流体物質及び試薬を均一に移流輸送するために、流体供給システムから圧力下で供給された流体をマイクロ流体チャンバに通して導くように構成されたマイクロ流体デバイスを提供する工程であって、マイクロ流体チャンバの少なくとも1つの壁が試料支持体によって形成され、マイクロ流体チャンバの容積が約2.5μl~200μlである、工程;
(iii)試料がマイクロ流体チャンバの内側に面するように、前記マイクロ流体チャンバ上に前記試料支持体を取り付ける工程;
(iv)約1μl/s~約100μl/sの間の範囲の流速で、マイクロ流体チャンバへの流体入口を通って、少なくとも1つのイメージングプローブを含む複数の試薬をシーケンスとして注入する工程;
(v)前記少なくとも1つのイメージングプローブと反応させた試料の成分によって放射されるシグナルをイメージングする工程;
(vi)異なるイメージングプローブを用いて工程(iv)及び(v)を繰り返す工程
を含み、ここで、複数の試薬をシーケンスとして注入する前記工程は、
- 試料上に潜在的に残存する標識プローブ(例えば、抗体又はマーカー)等の望ましくない物質を除去するために溶出緩衝液が注入される溶出工程;
- ブロッキング緩衝液が注入される非特異的結合ブロッキング工程;
- イメージングプローブが注入される試料標識工程;及び
- イメージング緩衝液が注入される任意選択の前イメージング工程
を含み、これらの工程の各々は、洗浄緩衝液が注入される任意選択の洗浄工程が先行してもよく及び/又は後に続いてもよい、方法が本明細書に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1に記載した本発明の方法を行うデバイスの例示的な設定を説明する図である。
図2A】本方法のイメージングサイクルで使用される試薬シーケンスを、各々の主要フロー工程(S1~S4)の間の任意選択の洗浄緩衝液工程を省略しながら説明する図である。
図2B】注入された試薬のシーケンス及び異なる試薬でn回のシーケンスの反復を示す標識プローブとしての試料上の種々の標的成分(T1、T2、Tn)を標的とする抗体を用いる多試料標識及びイメージングプロセスのフローダイアグラムを示す図である。
図3】本発明による方法で使用される試料の実施例2に記載されているように40倍の倍率で共焦点蛍光顕微鏡法によって得られた画像を示す図である。A:本発明の多重化プロトコルに従ったイメージング緩衝液としてPBSが使用され、抗原と抗体との間の架橋が起こる場合;B:ラジカルスカベンジャー(10mM Trolox)を補充したPBSからなるイメージング緩衝液を、本発明の多重化プロトコルに従ってイメージング緩衝液として使用し、抗原と抗体との間の架橋を妨げた場合。
図4】単一の乳がん組織切片上の様々なバイオマーカーの多重化共局在染色実施例3の間に得られた連続する画像を示す図である。画像順序A~Gは、プロトコルに示された取得順序に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図、特に最初に図1及び図2を参照すると、
(i)試料支持体(2)上に固定化された試料(1)を提供する工程;
(ii)マイクロ流体チャンバ(4)と、前記マイクロ流体チャンバの一端にある少なくとも1つの流体入口(6)と、前記マイクロ流体チャンバの他端にある少なくとも1つの流体出口(7)とを含み、前記マイクロ流体チャンバ内(10)の流体物質及び試薬を均一に移流輸送するために、流体供給システムから圧力下(8)で供給された流体をマイクロ流体チャンバに通して導くように構成されたマイクロ流体デバイス(3)を提供する工程であって、マイクロ流体チャンバ(5a)の少なくとも1つの壁が試料支持体(2)によって形成され、保持手段(11)を介してマイクロ流体チャンバ(5b)の他方の壁に取り外し可能に取り付けられ、マイクロ流体チャンバの容積が約2.5μL~200μlである、工程;
(iii)試料(1)がマイクロ流体チャンバ(12)の内側に面するように、前記マイクロ流体チャンバ上に前記試料支持体を取り付ける工程;
(iv)約1μl/s~約100μl/sの間の範囲の流速で、マイクロ流体チャンバへの流体入口(6)を通って、少なくとも1つのイメージングプローブを含む複数の試薬をシーケンスとして注入する工程;
(v)前記少なくとも1つのイメージングプローブと反応させた試料の成分によって放射されるシグナルをイメージングする工程;
(vi)異なるイメージングプローブを用いて工程(iv)及び(v)を繰り返す工程
を含み、ここで、複数の試薬をシーケンスとして注入する前記工程は、
- 試料上に潜在的に残存する標識プローブ(例えば、抗体又はマーカー)等の望ましくない物質を除去するために溶出緩衝液が注入される任意選択の溶出工程(S1):
- ブロッキング緩衝液が注入される非特異的結合ブロッキング工程(S2);
- イメージングプローブが注入される試料標識工程(S3はS3'及びS3'''を含む);及び
- イメージング緩衝液が注入される前イメージング工程(S4)
を含み、これらの工程の各々は、洗浄緩衝液が注入される任意選択の洗浄工程が先行してもよく及び/又は後に続いてもよい、サイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法の説明が提供される。
【0027】
別の実施形態では、イメージングプローブは、試料上の特定の分子実体と相互作用するのに適した標識されたプローブである。例えば、イメージングプローブは、試料由来のRNA又はDNA配列(相補的配列)とインサイツでハイブリダイズするのに有用な標識されたRNA又はDNA配列であり得る。別の例では、イメージングプローブは、標的抗原に直接結合する標識された一次抗体(例えば、蛍光)である。
【0028】
別の実施形態では、イメージングプローブは、特異的抗体及び色素原又は蛍光検出分子等の標識プローブのシーケンスの注入から得られ、試料内の分析されるべき分子実体を標的とする。一実施形態では、イメージングプローブは、一次抗体の後に注入される標識された二次(例えば、蛍光)抗体から生じる。
【0029】
特定の実施形態によると、注入された複数の試薬の流速は約1μl/s~約30μl/sの範囲、例えば、約5μl/s~約30μl/s(例えば、約25μl/s)である。
【0030】
別の特定の実施形態によると、マイクロ流体チャンバの試料支持壁から対向壁までの距離によって定義されるマイクロ流体チャンバの高さは、約10μm~約300μmの範囲であり、マイクロ流体チャンバの対角線又は直径は約100μmから約56mmの範囲であり、浅く広い形状を形成する。
【0031】
別の実施形態では、注入された複数の試薬のシーケンス中の各工程は、マイクロ流体チャンバからの溶液フロー工程シーケンスにおける以前の溶液を流出させるために必要な時間、適用され、流出は、以前に注入した濃度の1%までの以前の溶液の濃度低下に相当する。
【0032】
別の実施形態では、注入された複数の試薬のシーケンスにおける各工程は、注入された溶液の濃度をマイクロ流体チャンバ内で意図されたプロトコル濃度の99%まで増加させるのに必要な時間、適用される。
【0033】
一実施形態では、注入された複数の試薬のシーケンスにおける各工程は、約1秒から約120秒、例えば、約5秒から約20秒(例えば、約10秒)続く。
【0034】
別の特定の実施形態では、複数の試薬をシーケンスとして注入する工程は、
- 洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S0);
- ブロッキング緩衝液が注入される非特異的結合ブロッキング工程(S2);
- 以前に注入されたブロッキング緩衝液が任意のフロー条件の有無にかかわらずインキュベートされる、任意選択のインキュベーション工程;
- 洗浄緩衝液が注入される任意選択の洗浄工程;
- イメージングプローブが注入される試料標識工程(S3);
- 以前に注入されたイメージングプローブが任意のフロー条件の有無にかかわらずインキュベートされる、任意選択のインキュベーション工程;
- 洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3a);
- イメージング緩衝液が注入される任意選択の前イメージング工程(S4)
を含み;ここで、試料標識工程は、イメージングプローブをもたらす標識されたプローブを直接か又は標識プローブのシーケンスを注入することを含む。
【0035】
特定の実施形態によると、試料標識工程は、一次抗体が注入される第1の工程(S3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3'')、及び標識された二次抗体が注入される更なる工程(S3'''')を含む、イメージングプローブをもたらす標識プローブのシーケンスを注入することを含む。
【0036】
特定の実施形態では、試料標識工程は、一次抗体が注入される第1の工程(SB3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(SB3'')、酵素結合二次抗体が注入される第2の工程(SB3''')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(SB3'''')、及び二次抗体に結合した酵素と反応する色素原又は蛍光検出分子が注入される更なる工程SB3'''''を含む。
【0037】
別の特定の実施形態では、試料標識工程は、一次抗体が注入される第1の工程(SB3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(SC3'')、ポスト一次抗体(post-primary antibody)が注入される第2の工程、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(SC3'')、酵素結合二次抗体が注入される第3の工程(SC3''')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(SC3'''')、及び二次抗体に結合した酵素と反応する色素原又は蛍光検出分子が注入される更なる工程SC3'''''を含む。
【0038】
別の特定の実施形態では、試料標識工程は、標識されたRNA又はDNAプローブ等の、試料内のあるDNA/RNA材料とのインサイツハイブリダイゼーションのためのような少なくとも1つの標識されたプローブを注入することを含む。
【0039】
更なる特定の実施形態では、試料標識工程が、試料内のあるDNA/RNA材料とのインサイツハイブリダイゼーションのためのような少なくとも1つの標識されたプローブを注入することを含む場合、本発明の方法は、試料内のあるDNA/RNA材料のRNA又はDNAプローブ(相補的配列)とのハイブリダイゼーション及びデハイブリダイゼーション工程に必要なマイクロ流体チャンバ内の温度サイクルを適用する工程を更に含む。例えば、マイクロ流体チャンバ又は試料支持体の外部のヒータは、そのような温度サイクルを適用することができる。インサイツハイブリダイゼーションは、例えば、Modern Pathology、2011、24、613~623頁;doi:10.1038/modpathol.2010.228に定義されるように達成することができる。次いで、RNA及びDNA配列の検出(標識された相補的配列プローブ)のために、固定化されたハイブリダイゼーションプローブ上でイメージングが達成される。
【0040】
特定の実施形態では、試料標識工程が、試料内のあるDNA/RNA材料とのインサイツハイブリダイゼーションのためのような少なくとも1つの標識されたプローブを注入することを含む場合、標識されたプローブの注入に続いて、イメージング緩衝液、特に例えば本明細書に記載の少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーを含むイメージング緩衝液を注入する。
【0041】
別の特定の実施形態では、試料標識工程が、試料内のあるDNA/RNA材料とのインサイツハイブリダイゼーションのためのような少なくとも1つの標識されたプローブを注入することを含む場合、別の試料標識工程を用いた方法を繰り返す前に、温度サイクル(例えば、約10℃から約100℃の温度範囲で)を適用しながら、試料上に潜在的に残存する望ましくないインサイツハイブリダイゼーションされたプローブ又はマーカーの除去を確実にするために、溶出工程を行う。この場合、溶出緩衝液は、Zhangら、2011、17(10):2867~2873頁に記載されているようなアルカリ脱ハイブリダイゼーション緩衝液(例えば、pH11.2)を含むことができ、溶出工程の後、新しい試料標識工程を行う前に、脱ハイブリダイゼーション温度(例えば、約10℃から約100℃の温度範囲)で洗浄緩衝液を用いて洗浄工程を行う。
【0042】
特定の実施形態では、注入された複数の試薬のシーケンスにおける各工程は、各試薬について、
- 試薬が約1μl/s~約100μl/sの範囲の初期流速で注入される、第1の流速工程;
- シーケンスにおける次の試薬を注入する前に、同じ試薬をより低い流量(典型的には、約0.001から約1.0μl/s)で注入して、試料との、前記試薬の十分なフラックスを確実にする第2の流速工程
の2つの流速工程を含む。
【0043】
更なる特定の実施形態では、試薬の第2の流速工程は、約1分~約30分(例えば、約2~約15分)続く。
【0044】
特定の実施形態によると、第2の流速工程の持続時間は、使用されるマイクロ流体チャネルの容積及び試薬と試料とのインキュベーションに必要な時間に依存する。チャンバの高さが100μm未満の場合、およそ1分間の計算されたインキュベーション時間が必要である。
【0045】
一実施形態では、イメージング工程(v)は、共焦点蛍光顕微鏡法によって行われる。
【0046】
一実施形態では、イメージング工程(v)は、蛍光顕微鏡法によって行われる。
【0047】
一実施形態では、イメージング工程(v)は、明視野顕微鏡法によって行われる。
【0048】
特定の実施形態によると、洗浄緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)から選択される。
【0049】
特定の実施形態によると、溶出緩衝液は、界面活性剤(TritonX)を補充した低pH(例えばpH2)の溶液から選択される。溶出緩衝液は、高イオン塩濃度(例えば、約0.001M NaClから約1M NaClまで)、カオトロピック剤、及び/又は還元/酸化剤を更に含んでもよい。
【0050】
特定の実施形態によると、ブロッキング緩衝液は、クエン酸ナトリウム緩衝液並びにタンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン又は血清)及び/又は界面活性剤(例えば、Tween)を補充したPBSから選択される。
【0051】
特定の実施形態によると、非特異的結合阻止工程(S2)は任意選択である。
【0052】
特定の実施形態によると、試料標識工程は、一次抗体が注入される第1の工程(S3')、洗浄緩衝液が注入される洗浄工程(S3'')、及び二次抗体が注入される更なる工程(S3'''')を含む。
【0053】
特定の実施形態によると、本発明の一次抗体は、Dabbs、Diagnostic Immunohistochemistry:theranostic and diagnostic applications、第4版、2014、ISBN 978-1-4557-4461-9に記載されるような任意の免疫組織化学及び免疫蛍光アッセイのための任意の適切な抗体であってよい。例えば、適切な抗体は、臨床的に関連するエピトープに対するマウス又はウサギ抗ヒト免疫グロブリンG又はY抗体である。
【0054】
別の特定の実施形態によると、イメージング緩衝液は、少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーを含む。抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーの例は、アスコルビン酸、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(Trolox)、シクロオクタテトラエン、リポ酸及び4-ニトロベンジルアルコールから選択される。
【0055】
別の特定の実施形態によると、イメージング緩衝液は、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)から選択される。
【0056】
別の特定の実施形態によると、本発明によるイメージング緩衝液は、少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーを含み、前記少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーは、可溶性形態、すなわちイメージング緩衝液の形態である(Altmanら、2011、Nat Methods、9(1)、68~71頁)。
【0057】
別の実施形態では、フローは連続的な様式で適用される。
【0058】
特定の実施形態によると、本発明による方法は、工程(iv)~(vi)の少なくとも約2~80サイクル、特に工程(iv)~(vi)の少なくとも約20~80サイクルを含む。
【0059】
特定の実施形態によると、本発明による方法は、工程(iv)~(vi)の2から約200サイクルまで、特に2から約20サイクルまで、又は2から約100サイクルまでを含む。
【0060】
本発明の別の態様によると、少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーを含むイメージング緩衝液が本明細書に開示され、特に、前記少なくとも1つの抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーは約1mM~約1,000mM(例えば、約10~約1,000mM又は約1~約10mM)の間に含まれる濃度である。
【0061】
更なる実施形態によると、約10~約1,000mMのアスコルビン酸(例えば、約100mM)又は約1~約10mMのTrolox若しくはリポ酸を含む本発明によるイメージング緩衝液が提供される。
【0062】
更なる特定の実施形態では、本明細書に記載のサイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための方法であって、本発明によるイメージング緩衝液が前イメージング工程において注入される方法が提供される。
【0063】
一態様によると、本発明の方法により、様々な試料、特に、組織切片、細胞培養物、タンパク質又は核酸調製物を含む生物学的試料における分子プロファイリングのサイクル多重化による試料のインサイツイメージングが可能となる。
【0064】
別の態様によると、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料、低温固定組織試料、細胞塗抹標本、針生検試料及び固定細胞調製物を含む、異なるタイプの技術によって固定化された本発明の方法による分析のための試料が提供される。試料の種類及び所望の用途に応じて、異なる種類の試料調製工程を実現することができる。
【0065】
別の態様によると、標識プローブは、インサイツハイブリダイゼーション又は増幅プローブ等のイメージングプローブをもたらす化学色素、抗体及び抗体フラグメント、又はオリゴヌクレオチドを含む。
【0066】
上述の特徴は、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0067】
本発明の有利な特徴は、インキュベーション、洗浄及び溶出サイクル時間を数分に短縮し、変動する周囲条件下及び過酷な緩衝液への曝露中の試料抗原の分解を防止する方法を提供することである。
【0068】
本発明の有利な特徴は、複数の標識のための専用の又は目的に合わせた試薬、緩衝液又は検出システムを必要とせず、従来の検出システムと組み合わせた従来の一次及び二次抗体等の従来の試料標識を行うことを可能にする方法を提供することである。
【0069】
本発明の方法の顕著な利点は、試料の完全性に影響を及ぼし、再現性の低下をもたらし、そのようなプロセスの完全自動化を妨げる可能性がある、各イメージングサイクルを通した試料カバースリップの繰り返しの取り付け及び取り外しの必要性を取り除くことであり、それは再現性がある標識にも不可欠である。
【0070】
本発明の方法の更なる顕著な利点は、多重化分析のために100%の試料領域を使用することである。
【0071】
本発明の別の有利な特徴は、イメージング工程中に特異的イメージング緩衝液組成物を使用して、溶出工程の間に分析物から蛍光分子等の標識プローブを次の分析工程を行う前に効率的に除去し、試料標識工程の間に使用される試料又は標識された分子の光誘導変化を防止することにより多重サイクル性能が更に改善され得る方法を提供することである。
【0072】
試料分析とは別に、本発明による方法は、インサイツハイブリダイゼーション等の遺伝子配列検出の多重化に有用であり得る。
【0073】
本発明の他の特徴及び利点は、特許請求の範囲、詳細な説明、及び図面から明らかになるであろう。本発明は記述されたが、以下の実施例は説明のために提示され、限定するものではない。
【実施例
【0074】
(実施例1)
連続する試料標識サイクルを行う多重化プロトコルの例
サイクル多重化による試料のインサイツイメージングのための本発明の方法は、図1に説明されるように、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料上のデバイスにおいて実行される。
【0075】
a)試料調製の例
試料の種類及び所望の用途に応じて、異なる種類の試料調製工程が実現され得る。本実施例では、多重染色プロセスの前に行われたFFPE組織試料の試料調製工程を、典型的な例としてここに記載する。
【0076】
生物学的試料をまず65℃で10分間脱水する。5分間冷却後、組織切片をヒストクリア溶液(Histoclear solution)(例えばキシロール)中で10分間脱脂し、続いて100%、95%、70%及び40%(体積/体積)のエタノールでそれぞれ再水和する。最後に、95℃の水浴中又は電気加圧釜で約20分間、クエン酸ナトリウム緩衝液(約pH6)又はEDTA緩衝液(約pH9)を用いて熱誘導抗原回収プロセスを行う。正確なプロトコルは、使用される標識プローブに依存する。次いで、試料は、以下の例示的なデバイス内で、説明されるように本発明の方法を実行する準備ができる。
【0077】
b)本発明の方法を実行するためのデバイスの例
図1は、本発明の方法を実行するための例示的なデバイス(3)の断面を示す図である。ここで、例えばa)の下で調製された試料(1)が試料支持体(2)上に固定されており、前記試料支持体が、マイクロ流体チャンバ(5b)の壁面上に前記マイクロ流体チャンバの流体供給入口に面するように保持され、試料(1)がマイクロ流体チャンバの内側部分に面するようにする。
【0078】
c)イメージング試薬シーケンスの例
本発明の多重化方法の初期サイクルは、組織及び試薬調製後に開始することができる。連続的な試料標識及びイメージングサイクルを実行するために利用される本発明による多重化方法において使用されるイメージング試薬シーケンス(洗浄/溶出溶液、ブロッキング溶液、標識プローブ溶液等を含む)は、図2Aに概説されている。このようなイメージング試薬シーケンスは、流体供給システム(8)によって流体入口(6)を介してマイクロ流体チャンバ(4)に連続的に導入される。
【0079】
工程0:洗浄工程
各サイクルは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)等の緩衝液を、システムを介して流すことにより、組織試料を最初に洗浄することから始まる。
【0080】
工程1:溶出工程
イメージング試薬のシーケンスにおいて、洗浄緩衝液の後に、試料上に潜在的に残存する望ましくない物質(例えば、抗体又はマーカー等の標識プローブ)を除去するために、分析された試料に応じてその組成及びpH条件が変化し得る溶出緩衝液が続く。例えば、0.05%TritonX界面活性剤を補充したpH2の0.1Mグリシン緩衝液を溶出緩衝液として使用することができる。
【0081】
工程2:非特異的結合ブロッキング工程
次いで、ブロッキング緩衝液(例えば、クエン酸ナトリウム緩衝液又はウシ血清アルブミンを含むPBS-Tween)を、イメージング試薬シーケンスのシーケンスとしてマイクロ流体チャンバを通し、その後の工程におけるタンパク質の非特異的結合を低下させる。
【0082】
工程3(3'、3''及び3'''):試料標識工程
イメージングプローブ又はイメージングプローブをもたらす標識プローブは、次いで、マイクロ流体チャネルを流れるイメージング試薬のシーケンスに導入される。例えば、標識されたプローブをもたらす標識プローブのシーケンスは、各工程の間に洗浄緩衝液で試料を洗浄しつつ、一次抗体、次いで二次抗体(標識プローブ)を流してインキュベートするシーケンスを含む。標識プローブの希釈率は、最適化されたプロトコル又は販売会社の指示に応じて決定される。
【0083】
或いは、試料標識工程の別の例には、インサイツハイブリダイゼーションのためのRNA又はDNA標識プローブの注入が含まれる。この場合、この方法は、試料内のRNA又はDNA材料をRNA又はDNA標識プローブの相補的配列と確実にハイブリダイゼーションさせるために適切な温度サイクルを適用する工程を更に含む。
【0084】
工程4:イメージング工程
イメージングは、このサイクルの終了後、最終的にイメージング緩衝液がマイクロ流体チャネルに流された後に行われる。
【0085】
サイクルプロセス全体は、異なるイメージングプローブを用いて約50回まで繰り返すことができる。インサイツハイブリダイゼーションの観点から試料標識が達成される1サイクルの場合において、この方法は、別の試料標識工程で本方法を繰り返す前に、試料上に潜在的に残存する望ましくないインサイツハイブリダイゼーションされたプローブ又はマーカーの除去を確実にするために、温度サイクルを、例えば溶出工程の間、適用する工程を更に含む。
【0086】
図2Bは、試料上の種々の標的(T1、T2、Tn)を標的とする標識プローブとしての一次(a)抗体及び次いで二次(b)抗体を用いた多重試料標識及びイメージングプロセスのフローダイアグラムの例を示し、図2Aに概説したイメージング試薬シーケンスの、異なる工程のシーケンス反復及びn回のシーケンスの反復を示す。
【0087】
以下のTable 1(表1)は、典型的な応用についての1サイクルの試料標識のタイミングチャートの例を示す。各サイクルは、約10分未満まで低減することができ、そのことにより、この特定の場合、約50サイクルの試料標識を行うのにおよそ5時間の試料標識時間が必要となる。イメージングの時間は、各サイクルについての蛍光チャネルの数、イメージング領域、及び必要な解像度に依存しており、1工程あたり1分から120分の範囲である。したがって、イメージング及び試料標識に必要な合計時間は、50サイクルの試料標識をイメージングと共に完了するために、約6時間と低くなり得る。
【0088】
【表1】
【0089】
d)試料測定の例
本発明の方法を用いて行われる連続的な試料標識サイクルのイメージング結果が以下に記載される。
【0090】
細胞培養
HeLa Kyoto細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中、37℃及び5%CO2で培養する。トリプシン処理及び再懸濁後、細胞懸濁液をクリーンルームで洗浄した超薄ホウケイ酸ガラススライド(25×75mm、厚さ170μm)上に無菌条件下でピペットを用いて入れ、10cmペトリ皿の中に置き、約80%のコンフルエンスに達するまで2~3日成長させる。
【0091】
固定
表面に成長した細胞を含むガラススライドをペトリ皿から取り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いてガラス瓶中で洗浄し、次いで4%パラホルムアルデヒド(PFA)を補充したPBS中に30分間浸漬する。
【0092】
透過処理
ガラススライドをPBSで再度洗浄し、次いで0.25%Triton-X界面活性剤を補充したPBSに15分間浸漬する。その後、本発明の方法を実行するために、スライドを本明細書に記載されるデバイスに挿入する。
【0093】
多重化工程
試料標識、イメージング及び溶出の反復サイクルがデバイス中で実施され、イメージングが行われる。
【0094】
洗浄:PBSを25μl/sの流速で10秒間適用する。(S0)
【0095】
ブロッキング:5%ヤギ血清を補充したPBSを15μl/sの流速で10秒間適用し、次いで、0.015μl/sの連続フロー下で2分間インキュベートする。(S2)
【0096】
一次抗体結合:5%ヤギ血清及び抗原特異的マウス抗ヒト、ウサギ抗ヒト一次抗体(上記のDabbs、2014に記載されるような任意の免疫組織化学及び免疫蛍光アッセイの一次抗体)(一次抗体溶液の濃度及び抗体の親和性に応じて1:10~1:1000の希釈)を補充したPBSを15μl/sの流速で10秒間適用し、次いで0.015μl/sの連続フロー下で15分間インキュベートする。(S3')
【0097】
洗浄:PBSを25μl/sの流速で10秒間適用する。(S3'')
【0098】
二次抗体結合:Alexaフルオロフォア568及び647でそれぞれ標識した5%ヤギ血清、DAPI並びにヤギ抗ウサギ及びヤギ抗マウス二次抗体(1:250希釈、8μg/ml)を補充したPBSを15μl/sの流速で10秒間適用し、次いで0.015μl/sの連続フロー下で15分間インキュベートする。(S3''')
【0099】
洗浄:PBSを25μl/sの流速で10秒間適用する。(S3a)
【0100】
イメージング:イメージング緩衝液(100mMのアスコルビン酸を補充したPBS)を25μl/sの流速で10秒間適用し、次いでイメージングプロセス中、0.015μl/sで連続的に適用する。(S4)
【0101】
次いで、DAPI(4',6-ジアミジン-2-フェニルインドール)染色(405nmで曝露)並びに2つの免疫蛍光染色、Alexaフルオロフォア488及び568(それぞれ、488及び561nmで曝露)についての3つの別々のチャネルで40倍の倍率により共焦点回転ディスク顕微鏡上で画像を取得する。広領域の約500~1,000の捕捉部位がスキャンされ、各部位でチャネルごとに10個の焦点面が取得される。DAPIチャネルは各サイクルで取得され、したがって、サイクル間シフトの場合に、異なるサイクルで取得された画像の算出アライメントのために、サイクルに渡る参照として機能することができる。
【0102】
洗浄:PBSを25μl/sの流速で10秒間適用する。
【0103】
溶出:溶出緩衝液(0.05%TritonX界面活性剤を補充したpH2の0.1Mグリシン溶液)を15μl/sの流速で10秒間適用し、次いで0.015μl/sの連続フロー下で1分間インキュベートする。この工程は2回実施される。
【0104】
(実施例2)
本発明の方法における本発明のイメージング緩衝液の使用例
本実施例は、本発明による方法において特に有用である、高強度光下での試料からの蛍光分子除去の効率を改善するために使用される、本発明によるイメージング緩衝液の使用を説明する。
【0105】
ホルマリン固定されたHeLa細胞を、実施例1に記載したように多重化プロトコルに従って1つの試料標識サイクルに適用した。次いで、イメージング緩衝液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)単独又はラジカル捕捉剤との組み合わせを用いてイメージングを実施した。その後、溶出工程を実施例1に記載したように実施し、一次抗体結合工程を省略して第2の試料標識サイクルを実施し、レーザー強度及び露光時間等の他のすべてのイメージングパラメーターは変化させないまま、第1のイメージングラウンドと比較して大きなイメージング領域をスキャンした。示された画像において、輪郭を描かれたボックスは、第1のイメージングラウンドの取得領域を示す。
【0106】
図3Aは、PBS単独の存在下でのイメージングにおける抗原と抗体の間の光誘起架橋を示す。
【0107】
図3Bは、10mMのTrolox(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)を補充したPBS存在下でのイメージングにおける、同一の前標識及び標識条件に曝露された同様の試料を示す。
【0108】
これらのデータは、イメージング緩衝液に抗酸化剤及び/又はラジカルスカベンジャーを添加することにより、試料のインサイツイメージングの方法で使用される抗原と抗体の間の光誘起架橋が防止され、そのことにより、サイクル多重化に供された試料からの蛍光分子の除去効率が上昇し、したがって本発明の方法のスループットの向上がもたらされることを支持する。
【0109】
(実施例3)
乳房腫瘍試料に対するER、CK、PR及びHER2の多重化共局在染色
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織スライドは、本発明に開示された方法を用いて各工程間で試料もイメージングしながら染色することができる。例示的な例として、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、サイトケラチン(CK)及び上皮増殖因子受容体2(HER2)に対して陽性であるFFPE乳房腫瘍切片を、複数の試薬と予備試験結果から得られたデータに従って決定されたイメージング工程を順次に使用した本発明の方法による順次的多重化を用いて染色した。試料は、先の実施例に記載されているような脱脂、再水和及び抗原回収プロセスにより染色のためにまず調製され、次いで、本発明のインサイツイメージングの方法に供され、以下のTable 2(表2)にまとめる。各マーカーは、異なる波長の蛍光検出プローブ(Alexa Fluor)でのサンドイッチアッセイを用いたイメージング工程で検出された。抗体の効率的な溶出のために、溶出緩衝液(EB)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の組み合わせが溶出工程で使用された。標的バイオマーカー(ER、PR、CK及びHER2)の特異的検出を確認し、次のサイクルからの毎回の溶出工程の後に、次のイメージング工程で画像化する次のバイオマーカーを染色する前に抗体の完全除去を確認するために、各染色(イメージング工程1~4)の後、対照画像が取得された。同じスライドを画像化して再染色するために、グリセロールベースのマウンティング溶液(SlowFade Gold)が用いられた。この方法の間に得られた連続画像を図4に示し、各染色(A、C、E及びG)及び溶出工程(B、D及びF)後の試料画像を示し、染色効率及び溶出効率の両方を実証する。
【0110】
【表2A】
【0111】
【表2B】
【0112】
この結果は、本発明による多重化方法が、種々のバイオマーカーに対する多重化共局在染色を同一生物学的試料上に高い染色効率及びコントラストで得ることを有利に可能にすることを示しており、様々なバイオマーカーについて異なるイメージング試薬の間の相互作用無く、約40分の限られた全実験時間内で、目的のバイオマーカーについて選択的に染色が行われる。
【符号の説明】
【0113】
1 試料
2 試料支持体
3 デバイス
4 マイクロ流体チャンバ
5b マイクロ流体チャンバ
6 流体入口
8 流体供給システム
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4