(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】電線ドラム用ブレーキ及びそれを利用した延線方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/02 20060101AFI20220302BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20220302BHJP
F16D 55/2255 20060101ALI20220302BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20220302BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20220302BHJP
B65H 75/38 20060101ALI20220302BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20220302BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20220302BHJP
F16D 125/64 20120101ALN20220302BHJP
【FI】
F16D65/02 E
H02G1/02
F16D55/2255 103F
F16D65/12 Q
F16D65/12 X
F16D65/18
B65H75/38 S
F16D121:14
F16D125:40
F16D125:64
(21)【出願番号】P 2019002655
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-09-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591160268
【氏名又は名称】北日本電線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】野崎 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】神 辰之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 俊仁
(72)【発明者】
【氏名】千葉 尚
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-063349(JP,U)
【文献】特開2003-235122(JP,A)
【文献】特開2000-023324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0023520(US,A1)
【文献】国際公開第2017/072226(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0000804(KR,A)
【文献】実開平06-041320(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/02
H02G 1/02
F16D 55/2255
F16D 65/12
F16D 65/18
B65H 75/38
F16D 121/14
F16D 125/40
F16D 125/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線ドラムと共に線繰台に着脱可能に取り付けられる電線ドラム用ブレーキにおいて、
前記電線ドラムの一方側の鍔部の側面にドラム連結板を介して取り付けられ、前記線繰台のシャフトを回転軸として前記電線ドラムと共に回転可能なディスクロータと、
前記ディスクロータの回転に制動を加えるブレーキキャリパーと、
前記ブレーキキャリパーが前記ディスクロータと共に回転しないように前記線繰台のフレームへ掛止される回り止め部材と、
前記ブレーキキャリパーの制動力を制御する操作部材と、
を備え、
前記ドラム連結板は、電線を巻き取る胴部を前記電線ドラムの鍔部に固定するために当該鍔部の側面に取り付けられた固定部材に掛止されることを特徴とする電線ドラム用ブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載の電線ドラム用ブレーキにおいて、
前記操作部材は、前記ディスクロータを挟持するブレーキパッドの押圧力をノブの回転により調整することにより前記制動力を制御するものであることを特徴とする電線ドラム用ブレーキ。
【請求項3】
電線ドラム用ブレーキを利用した延線方法において、
請求項1
又は2に記載の電線ドラム用ブレーキを前記電線ドラムと共に前記線繰台に取り付けるステップと、
延線区間に引き通された長尺物の一端側を、前記電線ドラムに巻き取られている電線に結び付けると共に、前記長尺物の他端側をウインチに取り付けるステップと、
前記操作部材を操作することにより前記ブレーキキャリパーの制動力を前記電線の繰り出しが阻害されない所定の制動力に設定した状態で前記長尺物の巻き取りを開始するステップと、
前記延線区間に前記電線が延線されたタイミングで前記ウインチの巻き取りを停止すると共に前記操作部材を操作して前記電線ドラムの回転を停止するステップと、
を含み構成され、電線繰り出しの不安定性に起因した延線電線の垂下及び巻取電線のばらけを防止することを特徴とする電線ドラム用ブレーキを利用した延線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線ドラムと共に線繰台に取り付け可能な電線ドラム用ブレーキ及びそれを利用した延線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空電線の延線工事では、延線区間で電線が垂下しないよう適度な張力を維持することが望まれる。例えば、特許文献1には、横断物件に対する離隔を保つために高い張力を必要とする径間のみで張力を上げ、他の径間の張力を低く維持するための工法が開示されている。この工法では、ドラム場側鉄塔に電線の制動装置を取り付けると共にエンジン場側鉄塔に駆動装置を取付け、制動装置にて電線の送り出しを遅らせてブレーキを付加し、駆動装置にて電線の送り出しを早めて巻取り力を付加することで、当該径間だけ部分的に延線張力を上げることを図っている。
【0003】
また、特許文献2には、地上に構造物や道路などがある特定の径間について弛度制御をしながら延線するための延線方法が開示されている。この方法で用いられる延線装置は、電柱に取り付けられるものであり、所定の制動力を与えて線状体を送り出す送出し手段と、送り出し状態にある線状体のカテナリー角を検出する角度検出手段を備え、角度検出手段で検出したカテナリー角に基づいて送出し手段による線状体の送出し速度を制御している。
【0004】
また、特許文献3には、これらの延線工事に用いられる線繰台用のブレーキ装置1が開示されている。このブレーキ装置1は、ドラム301のフランジ305を両側から挟み込む内面用パッド35及び外面用パッド47と、線繰台201に着脱自在に固定可能なクランプ3と、内面用パッド35及び外面用パッド47をフランジ305に押圧するためのクランク状のハンドル67とを備えている。
【0005】
また、特許文献4には、光ケーブルのケーブル繰り出し装置が開示されている。このケーブル繰り出し装置は、ケーブルの弛みを検出する検出部材50と、ケーブルの弛み量が減少したときの弛み検出部材50の回転動作を受けてローラ36に対する回転抵抗を解除するように切り替えられる抵抗手段(ブレーキ装置40)とを備えている。
【0006】
また、引用文献5には、ドラムと一体化されたブレーキ装置が開示されている。このブレーキ装置は、線出しの架台とドラムのボルト部との間に固定され、ドラムの回転を、ブレーキ部にねじで押えつける加減によってドラムのカラ回転、逆転を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-145918号公報
【文献】特開平08-336216号公報
【文献】特開2003-235122号公報
【文献】特開2001-135166号公報
【文献】実用新案登録第3155419号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献3-5に記載のブレーキ装置は何れも電線ドラムの回転を抑制するために電線ドラムの鍔部へ部材(ブレーキパッド)を押し付ける構造であるため、電線ドラムの回転抑制がうまくできなかった。特に電線ドラムの鍔部が樹脂製である場合には、鍔部とブレーキパッドとの摩擦係数が小さいため回転制御が難しく、電線の繰り出し速度の制御に苦慮していた。このように電線ドラムから繰り出される電線の速度をうまく制御できない場合、延線中の電線が過度に弛むことで地上の構造物に電線が接触したり、電線ドラムの回転を停止した後に、これが惰性で回転してしまい電線が余計に繰出されることで巻き戻しの作業が必要となったりするので、特に、2線同時繰出を伴う従来の延線工事では電線ドラムから電線を繰り出すための作業者を2人以上確保する必要があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みなされたもので、電線ドラムからの電線の繰り出し速度の制御を容易にすることができる電線ドラム用ブレーキ、及びこれを利用して電線繰り出しの不安定性に起因した延線電線の垂下及び巻取電線のばらけを防ぐことのできる延線方法を提供することを目的とする。なお、本明細書における文言「延線」には、電線が延線されていない区間へ新規に電線を延線する場合の他、既に延線されている電線を新規の電線に張り替える場合も含まれるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に記載の本発明に係る電線ドラム用ブレーキは、電線ドラムと共に線繰台に着脱可能に取り付けられる電線ドラム用ブレーキにおいて、前記電線ドラムの一方側の鍔部の側面にドラム連結板を介して取り付けられ、前記線繰台のシャフトを回転軸として前記電線ドラムと共に回転可能なディスクロータと、前記ディスクロータの回転に制動を加えるブレーキキャリパーと、前記ブレーキキャリパーが前記ディスクロータと共に回転しないように前記線繰台のフレームへ掛止される回り止め部材と、前記ブレーキキャリパーの制動力を制御する操作部材と、を備え、前記ドラム連結板は、電線を巻き取る胴部を前記電線ドラムの鍔部に固定するために当該鍔部の側面に取り付けられた固定部材に掛止されることを特徴とすることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の電線ドラム用ブレーキにおいて、前記操作部材は、前記ディスクロータを挟持するブレーキパッドの押圧力をノブの回転により調整することにより前記制動力を制御するものであることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために請求項3に記載の本発明に係る電線ドラム用ブレーキを利用した延線方法は、電線ドラム用ブレーキを利用した延線方法において、請求項1又は2に記載の電線ドラム用ブレーキを前記電線ドラムと共に前記線繰台に取り付けるステップと、延線区間に引き通された長尺物の一端側を、前記電線ドラムに巻き取られている電線に結び付けると共に、前記長尺物の他端側をウインチに取り付けるステップと、前記操作部材を操作することにより前記ブレーキキャリパーの制動力を前記電線の繰り出しが阻害されない所定の制動力に設定した状態で前記長尺物の巻き取りを開始するステップと、前記延線区間に前記電線が延線されたタイミングで前記ウインチの巻き取りを停止すると共に前記操作部材を操作して前記電線ドラムの回転を停止するステップと、を含み構成され、電線繰り出しの不安定性に起因した延線電線の垂下及び巻取電線のばらけを防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電線ドラム用ブレーキは、電線ドラムと共に線繰台に着脱可能であって、ブレーキキャリパーの制動対象を、電線ドラムの鍔部それ自体ではなく、当該鍔部に取り付けられたディスクロータとしているので、電線ドラムの材質に拘わらず確実に高い制動力で制動を行うことが可能である。しかも、ディスクロータはドラム連結板を介して電線ドラムの鍔部へ取り付けられ、またブレーキキャリパーの回転を防ぐために回り止め部材が線繰台に掛止されるので、電線ドラムと共に線繰台に着脱可能であるものの、電線ドラム用ブレーキは高い制動力を得ることができる。従って、本発明に係る電線ドラム用ブレーキは、電線ドラムからの電線の繰り出し速度の制御を容易にすることができる。
【0015】
また、本発明に係る延線方法によれば、本発明に係る電線ドラム用ブレーキを利用するので、電線ドラムからの電線の繰り出し速度の制御が容易になり、電線の延線中は、電線の繰り出しが阻害されない所定の制動力を安定して維持することで、電線の繰り出し速度を安定させて延線中の電線が過度に弛むこと(延線電線の垂下)を防止することができる。また電線の延線後は、ウインチが停止したタイミングで電線ドラムの回転を確実に停止させて慣性による回転継続を防ぐことで、電線ドラムに巻き取られている電線のばらけを防止することができる。従って、本発明に係る延線方法は、電線繰り出しの不安定性に起因した延線電線の垂下及び巻取電線のばらけをそれぞれ確実に防ぐことができる。また、この延線方法は、電線ドラムを地上に設置したまま実行することが可能なので、延線前のセッティングが容易である。このため、仮に2線同時繰出を伴う場合であったとしても電線ドラムから電線を繰り出すための作業者は1人確保されれば十分である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る延線方法の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台の斜視図である。
【
図3】電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台の一部を側方から見た図である。
【
図4】電線ドラム用ブレーキを線繰台の側方から見た図である。
【
図5】電線ドラム用ブレーキを線繰台の正面側から見た図である。
【
図6】電線ドラムに対する電線ドラム用ブレーキの装着方法を説明する図である。
【
図7】電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台を正面側から見た図である。
【
図8】電線ドラム用ブレーキの動作を説明する図(制動力最小の場合)である。
【
図9】電線ドラム用ブレーキの動作を説明する図(制動力最大の場合)である。
【
図10】電線ドラム用ブレーキ、電線ドラム、及び線繰台の分解図である。
【
図11】延線方法の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電線ドラム用ブレーキ及び延線方法について、好ましい一実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
[延線方法の概要]
初めに、延線方法の概要について説明する。ここでは電線が延線されていなかった区間へ電線を延線する場合を想定する。
図1は本発明に係る延線方法の一実施形態を示す模式図である。図示されるとおり、本実施形態の延線方法では、電線の延線区間Aの一方側端に作業車(巻き取り車)300が配置され、他方側端に線繰台10が配置される。これら作業車300及び線繰台10の配置先はいずれも地上である。このうち作業車300にはウインチ200が設置され、線繰台10には電線ドラム30が装着されており、また電線ドラム30には延線すべき新規な電線41が予め巻き取られている。この電線41の延線に先立ち、延線区間Aには牽引用のロープ40(長尺物の一例)が架け渡されると共に、ロープ40の一端側はウインチ200に取り付けられ、ロープ40の他端は電線41の先端側と結び付けられる。そして本実施形態における電線41の延線は、ウインチ200によるロープ40の巻き取り(ひいては電線41の巻き取り)の作業を行う作業者(不図示)と、電線ドラム30からの電線41の繰り出しの作業を行う作業者100との2人が協同することによって行われる。
【0019】
ここで、ウインチ200によるロープ40の巻き取りの速度(電線41の巻き取りの速度)は、予め決められた適当な速度に設定されるので、電線41の巻き取りを行う作業者(不図示)の役割は基本的にロープ40の巻き取りの開始タイミング及び停止タイミングを決定することにある。
【0020】
一方、線繰台10には電線ドラム30と共に後述する電線ドラム用ブレーキが取り付けられており、電線41の繰り出しを行う作業者100は、延線作業中に当該電線ドラム用ブレーキを操作することで電線41の繰り出し速度を制御する。
【0021】
[電線ドラム]
次に、電線ドラムについて説明する。
図2は電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台の斜視図、
図3は電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台の一部を側方から見た図である。
【0022】
図示されるとおり、電線ドラム30は、概略として電線41を巻き取るための円筒状の胴部30Aと、胴部30Aの両側端に取り付けられた一対の円盤状の鍔部30a,30bとを備えて構成され、鍔部30a,30bと胴部30Aとは固定部材31(ボルト31a,ナット31b)によって固定されている。なお、電線ドラム30の胴部30A,鍔部30a,30bの材質は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル混合物)、PE(ポリエチレン)、FEP(テフロン(登録商標)等の合成樹脂)、木製である。また、胴部30Aが巻き取り可能な電線41の長さは、例えば、300m程度である。
【0023】
ここで、本実施形態の電線ドラム30においては、4本のボルト31aが電線ドラム30の鍔部30aから鍔部30bに向けて挿通され、これら4本のボルト31aの先端がそれぞれナット31bで締着されている。また、鍔部30a,30bの中心には、線繰台10のシャフト11を挿通するための軸孔30c,30d(
図7、
図10)がそれぞれ設けられており、4本のボルト31aは、軸孔30c,30dを中心として略等間隔で配置されている。
【0024】
このような電線ドラム30は線繰台10に着脱可能に取り付けられる。装着状態では鍔部30a,30bの軸孔30c,30d(
図7、
図10)へ線繰台10のシャフト11が挿通され、このシャフト11を回転軸として電線ドラム30が回転可能である。そして、電線ドラム用ブレーキ20は電線ドラム30と共に線繰台10に着脱可能に取り付けられる。
【0025】
[電線ドラム用ブレーキ]
次に、電線ドラム用ブレーキについて説明する。
図4は電線ドラム用ブレーキを線繰台の側方から見た図、
図5は電線ドラム用ブレーキを線繰台の正面側から見た図、
図6は電線ドラムに対する電線ドラム用ブレーキの装着方法を説明する図、
図7は電線ドラム用ブレーキ及び電線ドラムが取り付けられた線繰台を正面側から見た図、
図8は電線ドラム用ブレーキの動作を説明する図(制動力最小の場合)、
図9は電線ドラム用ブレーキの動作を説明する図(制動力最大の場合)、
図10は電線ドラム用ブレーキ、電線ドラム、及び線繰台の分解図である。
【0026】
前述した
図2及び
図3に示されるとおり、電線ドラム用ブレーキ20は、電線ドラム30と共に線繰台10に着脱可能に取り付けられる。そして、
図4~
図10に示されるとおり、電線ドラム用ブレーキ20は、線繰台10のシャフト11に挿通される軸受け28と、軸受け28の回りを回転可能に配置されたディスクロータ22と、ディスクロータ22に固定されたドラム連結板21と、ディスクロータ22に制動力を与えるブレーキキャリパー23と、軸受け28及びブレーキキャリパー23を線繰台10の
図7における右フレーム(以下同じ)12aへ固定するための回り止め部材24と、ブレーキキャリパー23を作業者100が操作するための操作部材25とを備えている。
【0027】
ドラム連結板21は、シャフト11を挿通する軸孔21Cを有しており(
図6)、その軸孔21Cの直径方向に延伸するようにして形成された長い板状部材である。軸孔21Cの中心線X1を挟んでドラム連結板21の一方側の左側面(
図6では下側面)には軸孔21Cの径方向に長い一対の桁状の掛止部21A,21Aが突設され、他方側の左側面(
図6の下方)には軸孔21Cの径方向に長い一対の桁状の掛止部21B,21Bが突設されている。これら一対の掛止部21A,21Aの間隔L5、一対の掛止部21B,21Bの間隔L5は、それぞれ電線ドラム30の鍔部30aに設けられた固定部材31(ボルト31a,ナット31b)の外径L6よりも若干広い程度に設定されている。これらの掛止部21A,21A,21B,21Bを介してドラム連結板21が電線ドラム30の固定部材31(鍔部30aに設けられたボルト31a,ナット31b)に掛止される。具体的には、電線ドラム30の軸孔30cの径方向に並んだ一対の固定部材31(ボルト31a,ナット31b)の一方にドラム連結板21の一方側の掛止部21A,21Aが掛止され、当該一対の固定部材31(ボルト31a,ナット31b)の他方にドラム連結板21の他方側の掛止部21B,21Bが掛止される。なお、本実施形態における固定部材31は、前述したとおり、電線ドラム30の胴部30Aに鍔部30aを固定するために鍔部30aの側面に取り付けられたボルト31a、ナット31bであり、これを利用したものであるが、これに限定されるものではなく、ドラム連結板21を固定するために所定の部材を固定部材31として鍔部30aに設けたものであってもよい。このように、電線ドラム30の軸孔30cの径方向に並んだ一対の固定部材31(ボルト31a,ナット31b)の一方にドラム連結板21の一方側の掛止部21A,21Aを掛止し、当該一対の固定部材31(ボルト31a,ナット31b)の他方にドラム連結板21の他方側の掛止部21B,21Bを掛止すれば、電線ドラム30がシャフト11を回転軸として回転すると、それに伴ってドラム連結板21も一緒に回転するように両者を連動させることができる。なお、ドラム連結板21の形状は、
図6に示したものに限定されることはなく、例えば軸孔21Cの近傍におけるドラム連結板21の幅は、掛止部21A,21Aの近傍及び掛止部21B,21Bの近傍におけるドラム連結板21の幅より狭く設定されてもよい。また、軸孔21Cのサイズはシャフト11の径等に応じて適当に設定されるものとする。また、ドラム連結板21の長孔21a,21bの形状は任意に選定することが可能であり、またドラム連結板21には長孔21a,21bが設けられていなくてもよい。
【0028】
ディスクロータ22は、電線ドラム30の一方側の鍔部30aの側面にドラム連結板21を介して取り付けられると共に、軸受け28を介して線繰台10のシャフト11に連結されるので、シャフト11を回転軸として電線ドラム30と共に回転可能となっている。
【0029】
ブレーキキャリパー23は、ディスクロータ22の回転に制動を加えるものである。ブレーキキャリパー23には、ディスクロータ22を両側から挟持する少なくとも一対のブレーキパッド23a,23bが設けられている。
【0030】
回り止め部材24は、ブレーキキャリパー23を軸受け28と共に保持する部材であって、そのブレーキキャリパー23及び軸受け28がディスクロータ22と共に回転しないように線繰台10の右フレーム12aの上部フランジ12cへ掛止される。回り止め部材24を側方から見ると概略I字状であり(
図4)、正面から見ると概略Z字状である(
図5)。
図4に示された例では、一対の回り止め部材24,24が用いられており、これら一対の回り止め部材24,24は、ブレーキキャリパー23及び軸受け28を前後(
図4では左右)から挟み込むようにして複数の固定部材24A,24Aで互いに固定されており、一対の回り止め部材24,24の一端が線繰台10の右フレーム12aの上部フランジ12c,12cに掛止されている。また、一対の回り止め部材24,24は、軸受け28の外周側へ複数の固定部材24B,24Bで固定されている。なお、固定部材24A,24Bは、例えばボルト及びナットで構成されている。ここで、
図3に示されるとおり線繰台10の右フレーム12aの上方はへの字状に屈曲しており、この屈曲部の内側の三角形の領域にシャフト11の軸受け12Aの取り付け先となる板状部材(上部フランジ12c,12c)がシャフト11と交差する姿勢で溶接等により設けられている。なお、ここでは板状部材のうち軸受け12Aの両側に位置する部分をそれぞれ上部フランジ12c,12cと称している。そして本実施形態では、これら上部フランジ12c,12cの下端に、一対の回り止め部材24,24の鍵状の先端部が下側から回り込むようにしてそれぞれ掛止される。このため線繰台10の軸受け12Aに挿通されたシャフト11を回転軸として電線ドラム30がディスクロータ22と共に回転した場合であっても、それら電線ドラム30及びディスクロータ22の回転力は、一対の回り止め部材24,24の何れか一方が上部フランジ12cの下端を押し上げる方向に働くので、互いに固定された一対の回り止め部材24,24と上部フランジ12c,12cとの掛止が外れることはない。したがって、一対の回り止め部材24,24と、それら一対の回り止め部材24,24によって保持されたブレーキキャリパー23(
図4参照)及び軸受け28(
図4参照)は、電線ドラム30及びディスクロータ22と共に回転することはなく、線繰台10の側に固定された状態となる。つまり、一対の回り止め部材24,24には、ブレーキキャリパー23及び軸受け28がディスクロータ22と共に回転するのを防ぐという機能がある。
【0031】
操作部材25は、ブレーキキャリパー23の制動力を制御する部材である。本実施形態の操作部材25は、ディスクロータ22を挟持するブレーキパッド23a,23bの間隔(ブレーキパッド23a,23bの押圧力)を、ノブ25aの回転により調整することにより、ブレーキキャリパー23の制動力を制御するようになっている。ここでブレーキキャリパー23の一対のブレーキパッド23a,23bは一対のアーム23A,23Bの先端側にそれぞれ取付けられており、一対のアーム23A,23Bの中央より先端側の部分はピボットピン23D(
図8,
図9)によって軸支され、一対のアーム23A,23Bの後端側にはピストン23Cが配置されている。このピストン23Cにはロッド25bが連結されており、このロッド25bは一方のアーム23Aへナット23Fで締め付けられ、ロッド25bの先端に前述したノブ25aが固定されている。このノブ25aが回動するとロッド25bが回動してピストン23Cを他方のアーム23Bの側へ押付ける(又は引離す)ので、一対のアーム23A,23Bの後端側の間隔が変化し、ピボットピン23D(
図8,
図9)を支点としたテコの原理によって一対のアーム23A,23Bの先端側に位置する一対のブレーキパッド23a,23bがより強い力で押付けられ(又は引離され)る(
図8,
図9を参照)。よって、作業者100は、ノブ25aを適宜に回転させることにより制動力を調節することが可能となる。また、ノブ25aの回転位置を任意の位置で固定することが可能であり、ノブ25aの回転角度を所定の位置で固定しておくことにより制動力を一定に維持することができる。この場合、作業者100はブレーキキャリパー23の制動力を一定の値に維持するためにノブ25aを操作する必要がない。なお、操作部材25は、回転可能なノブ25aのほか、例えばレバー操作によりブレーキキャリパー23の制動力を制御するように構成することもできる。さらに、電線41の繰り出し速度を遅速の少なくとも2段階で切り替え可能に構成してもよい。
【0032】
以下、主に
図8、
図9を参照して電線ドラム用ブレーキ20の動作を説明する。以上の構成の電線ドラム用ブレーキ20は、電線ドラム30と共に線繰台10に取り付けられる。そして作業者100が操作部材25のノブ25aの回転位置を調節し、ブレーキキャリパー23におけるブレーキパッド23a,23bの間隔を最大に設定する(すなわち摩擦力をゼロに設定する)と(
図8)、ブレーキパッド23a,23bがディスクロータ22を両側から挟み込む力(すなわちディスクロータ22に対するブレーキキャリパー23の制動力)は働かないので、当該ディスクロータ22の側に固定されたドラム連結板21及び電線ドラム30(
図8においてグレーで塗りつぶされた部分)もブレーキキャリパー23からの制動力を受けずに比較的高い速度で回転することが可能である。一方、作業者100が操作部材25のノブ25aの回転位置を調節し、ブレーキキャリパー23におけるブレーキパッド23a,23bの間隔を最小に設定する(すなわち摩擦力を最大に設定する)と(
図9)、白抜き矢印で示すとおりディスクロータ22に対してブレーキキャリパー23の最大の制動力が働くので、ディスクロータ22の側に固定されたドラム連結板21及び電線ドラム30(
図9においてグレーで塗りつぶされた部分)もブレーキキャリパー23からの制動力を受けて回転速度を低下させて停止する。また、
図8の状態から作業者100が操作部材25のノブ25aの回転位置を調節し、ブレーキキャリパー23におけるブレーキパッド23a,23bの間隔を最大と最小の間の適当な値に設定する(すなわち摩擦力を適当な値に設定する)と、ディスクロータ22に対するブレーキキャリパー23の制動力が適当な値に設定されるので、ディスクロータ22の側に固定されたドラム連結板21及び電線ドラム30(
図8においてグレーで塗りつぶされた部分)の回転速度を前記速度より低い適当な速度にすることができる。
【0033】
[装着方法について]
以下、主に
図10を参照して電線ドラム30及び電線ドラム用ブレーキ20の装着方法を説明する。先ず、電線ドラム30の鍔部30a,30bの軸孔30c,30dへ線繰台10のシャフト11を挿通する。次に、鍔部30aに挿通されたシャフト11へ例えば右方から電線ドラム用ブレーキ20の軸受け28を挿入すると共に、電線ドラム用ブレーキ20のドラム連結板21の掛止部21A、21Bを鍔部30aの固定部材31(ボルト31a,ナット31b)へ掛止する。次に、電線ドラム30の鍔部30a,30bの軸孔30c,30dへ挿通されたシャフト11を、電線ドラム用ブレーキ20と共に、線繰台10の右フレーム12a上部の軸受け12Aと左フレーム12b上部の軸受け12Bとの間へ装着する。その装着の際に、電線ドラム用ブレーキ20の一対の回り止め部材24,24を右フレーム12aの上部フランジ12c,12cに掛止する。
【0034】
[延線方法の手順]
次に、延線方法の手順について説明する。
図11は、延線方法の手順を説明するフローチャートである。なお、本実施形態の延線方法は2線同時繰出を伴う延線に適用することも可能である。また、既存の電線を交換、すなわち、張り替える場合には、既存の電線をロープ40の代わりとして利用することができる。
【0035】
先ず、電線ドラム用ブレーキ20の作業者100は、電線ドラム30及び電線ドラム用ブレーキ20を前述したごとく線繰台10に取り付ける(ステップS1)。また、作業者100は、延線区間Aに引き通されたロープ40の一端側を電線40に結びつけると共に(ステップS2)、ウインチ200の作業者(図示せず)は延線区間Aに引き通されたロープ40の他端側をウインチ200に取り付ける(ステップS3)。なお、ステップS1,S2,S3の実行される順序はステップS1,S2,S3の順序に限定されることはなく、ステップS1,S2,S3のうち何れか2以上のステップが並行して実行されてもよい。
【0036】
次に、電線ドラム用ブレーキ20の作業者100が操作部材25を操作することにより電線ドラム用ブレーキ20の制動力を所定の制動力に設定した状態で、ウインチ200の作業者がウインチ200によるロープ40の巻き取りを開始する(ステップS4)。ここで、所定の制動力は、ウインチ200の巻き取りに応じた電線ドラム30からのロープ40の繰り出しが阻害されない程度の制動力である。
【0037】
巻き取り開始後、延線区間Aに対する電線41の延線が完了したか否かを、電線ドラム用ブレーキ20の作業者100又はウインチ200の作業者が判定し(ステップS5)、完了していない場合には(No)、ウインチ200によるロープ40の巻き取りを継続し、延線区間Aに対する電線41の延線が完了した場合には(Yes)、次のステップへ移行する。
【0038】
次に、延線が完了したら、ウインチ200の作業者がウインチ200によるロープ40の巻き取りを停止すると共に、電線ドラム30の回転が停止するように電線ドラム用ブレーキ20の作業者100は電線ドラム用ブレーキ20の制動力を最大に設定し、フローを終了する(ステップS6)。このとき、ウインチ200の作業者がウインチ200によるロープ40の巻き取りを停止するタイミングと、電線ドラム用ブレーキ20の作業者100が電線ドラム用ブレーキ20の制動力を最大に設定するタイミングとのずれを小さくするために、ウインチ200の作業者及び電線ドラム用ブレーキ20の作業者100の一方が他方へ声などで合図を与える。
【0039】
[実施形態の効果]
以上説明したとおり本実施形態に係る電線ドラム用ブレーキ20は、電線ドラム30と共に線繰台10に着脱可能であって、ブレーキキャリパー23の制動対象を、電線ドラム30の鍔部30aそれ自体ではなく、当該鍔部30aに取り付けられたディスクロータ22としているので、電線ドラム30の材質(特に鍔部30aの材質)に拘わらず確実に高い制動力で制動を行うことが可能である。しかも、ディスクロータ22はドラム連結板21を介して電線ドラム30の鍔部30aへ取り付けられ、またブレーキキャリパー23の回転を防ぐために回り止め部材24が線繰台10の右フレーム12aに掛止されるので、電線ドラム30と共に線繰台10に着脱可能であるものの、電線ドラム用ブレーキ20は高い制動力を得ることができる。従って、本実施形態に係る電線ドラム用ブレーキ20は、電線ドラム30からの電線41の繰り出し速度の制御を容易にすることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る延線方法によれば、本実施形態に係る電線ドラム用ブレーキ20を利用するので、電線ドラム30からの電線41の繰り出し速度の制御が容易になり、電線41の延線中は電線41の繰り出しが阻害されない所定の制動力を安定して維持することで、電線41の繰り出し速度を安定させて延線中の電線41が過度に弛むこと(延線電線の垂下)を防止することができる。また電線41の延線後は、ウインチ200が停止したタイミングで電線ドラム30の回転を確実に停止させて慣性による回転継続を防ぐことで、電線ドラム30に巻き取られている電線41のばらけを防止することができる。従って、本実施形態に係る延線方法は、電線繰り出しの不安定性に起因した延線電線の垂下及び巻取電線のばらけをそれぞれ確実に防ぐことができる。また、この延線方法は、電線ドラム30を地上に設置したまま実行することが可能なので、延線前のセッティングが容易である。このため、仮に2線同時繰出を伴う場合であったとしても電線ドラム30から電線41を繰り出すための作業者は1人確保されれば十分である。
【0041】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0042】
10 線繰台
11 シャフト
12a 右フレーム
12b 左フレーム
12c 上部フランジ
12A 軸受け
12B 軸受け
20 電線ドラム用ブレーキ
21 ドラム連結板
21a 長孔
21b 長孔
21A 掛止部
21B 掛止部
22 ディスクロータ
23 ブレーキキャリパー
23a ブレーキパッド
23b ブレーキパッド
23A アーム
23B アーム
23C ピストン
23D ピボットピン
23F ナット
24 回り止め部材
24A 固定部材
24B 固定部材
25 操作部材
25a ノブ
25b ロッド
30 電線ドラム
30A 胴部
30a 鍔部
30b 鍔部
30c 軸孔
30d 軸孔
31 固定部材
31a ボルト
31b ナット
40 ロープ
41 電線
100 作業者
200 ウインチ
300 作業車