IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファイバーリーン テクノロジーズ リミテッドの特許一覧

特許7033105ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法
<>
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図1
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図2
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図3
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図4
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図5
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図6
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図7
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図8
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図9
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図10
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図11
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図12
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図13
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図14
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図15
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図16
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図17
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図18
  • 特許-ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースゲルを使用する構造化された材料を製作するための方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20220302BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20220302BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220302BHJP
   C08J 3/205 20060101ALI20220302BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H17/67
C08L1/02
C08J3/205 CEP
D21H11/14
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019092599
(22)【出願日】2019-05-16
(62)【分割の表示】P 2017193248の分割
【原出願日】2011-04-26
(65)【公開番号】P2019196580
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2019-06-13
(31)【優先権主張番号】61/343,775
(32)【優先日】2010-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10161166.3
(32)【優先日】2010-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516341914
【氏名又は名称】ファイバーリーン テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パトリツク・エイ・シー・ゲイン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒエル・シエンカー
(72)【発明者】
【氏名】ラムジエー・スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム・シエルコツプ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-081896(JP,A)
【文献】特開平08-284090(JP,A)
【文献】特開平08-013380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎構造を製作する方法であって、
a)セルロース繊維を供給するステップ、
b)少なくとも1種の充填剤および/または顔料を供給するステップであって、少なくとも1種の充填剤および/または顔料が、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(GCC)、表面改質された炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ベントナイト、クレー、マグネサイト、サテンホワイト、セピオライト、ハント石、珪藻土、シリケートおよびこれらの混合物を含む群から選択される、ステップ、
c)ステップa)のセルロース繊維とステップb)の少なくとも1種の充填剤および/または顔料とを組み合わせるステップであって、繊維の、充填剤および/または顔料に対する重量比が、乾燥重量基準で1:33から10:1である、ステップ、
d)少なくとも1種の充填剤および/または顔料の存在下で、ナノフィブリルゲルが形成されるまでセルロース繊維をフィブリル化するステップであって、ゲルの形成が、せん断速度に依存して混合物の粘度をモニターすることによって確認され、せん断速度の段階的増加により前記混合物の粘度は低下し、続いてせん断速度の段階的減少により前記混合物の粘度は増加するが、せん断がゼロに近づくにつれてせん断速度範囲の少なくとも一部にわたり対応する粘度の値がせん断速度を増加させた場合の粘度の値よりも低い、ステップ、
e)追加の、予め形成された繊維構造の形態にあるフィブリル化されていない繊維を供給するステップであって、前記フィブリル化されていない繊維が、ステップa)~d)に供されていない、再生パルプ、脱インクパルプまたはそれらのいずれかの組み合わせから得られるものである、ステップ、
f)ステップd)のゲルを、ステップe)の繊維と組み合わせるステップ、および
g)ステップf)の組み合わせを脱水し、基礎構造を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップa)および/またはステップe)のセルロース繊維が、再生パルプを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)のセルロース繊維が、セルロース繊維を含む材料をリサイクルするステップから得られるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップe)のフィブリル化されていない繊維が、再生パルプを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
基礎構造が、紙である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
基礎構造が、複合材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップe)のフィブリル化されていない繊維の添加前、添加中または添加後であるが、ステップd)の後且つステップf)の前に、少なくとも1種の追加の充填剤および/または顔料が添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)の充填剤および/または顔料が、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(GCC)、表面改質された炭酸カルシウム、ならびにドロマイト、タルク、ベントナイト、クレー、マグネサイト、サテンホワイト、セピオライト、ハント石、珪藻土、シリケートおよびそれらの混合物の1種またはそれ以上と混合された炭酸カルシムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)のセルロース繊維が、懸濁液の形態で提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
懸濁液が、0.2から35重量%の固形含量を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の追加の充填剤および/または顔料の粒子が、0.01から5μmのメジアン粒径を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)の充填剤および/または顔料が、分散剤を伴い、分散剤が、ポリカルボン酸および/もしくはこれらの塩またはそのホモポリマーまたはコポリマー、それらの塩もしくはエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸に基づくエステル;アクリルアミドもしくはアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、またはそれらのいずれかの混合物;ならびにアルカリポリリン酸塩、ホスホン酸、クエン酸および酒石酸ならびにそれらの塩もしくはエステル;またはそれらの混合物を含む群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の追加の充填剤および/または顔料が、分散剤を伴い、分散剤が、ポリカルボン酸および/もしくはこれらの塩またはそのホモポリマーまたはコポリマー、それらの塩もしくはエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸に基づくエステル;アクリルアミドもしくはアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、またはそれらのいずれかの混合物;ならびにアルカリポリリン酸塩、ホスホン酸、クエン酸および酒石酸ならびにそれらの塩もしくはエステル;またはそれらの混合物を含む群から選択されるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
ステップc)が、充填剤および/もしくは顔料を繊維に、または繊維を充填剤および/もしくは顔料に、1ステップまたは数ステップで、添加することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステップb)の充填剤および/または顔料、および/またはステップa)の繊維が、フィブリル化ステップ(d)の前またはフィブリル化ステップ(d)中に、一度に全部または複数回に分けて添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
繊維の、ステップb)の充填剤および/または顔料に対する重量比が、乾燥重量基準で、1:5から5:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ステップd)のフィブリル化ステップが、ホモジナイザーまたは超微細摩擦粉砕機によって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
充填剤および/または顔料の全含量が、基礎構造の乾燥重量基準で、1重量%から60重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
基礎構造が、厚紙である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ナノフィブリルセルロースゲルが、予め形成された繊維構造を被覆する1またはそれ以上の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
被覆が、0.005mmから0.15mmの厚さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
予め形成された繊維構造が、0.02mmから0.23mmの厚さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
基礎構造の総厚さが、0.05mmから0.25mmである、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造化された材料を製造するための方法ならびにこの方法で得られる構造化された材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの技術分野で、材料の混合物が、製品のある種の特性を制御し改善するために使用される。そのような材料のブレンドは、例えば、緩やかな混合物の形態または複合構造の形態であり得る。
【0003】
複合材料は、基本的には、2種以上の材料の組合せであり、それらの材料の各々はそれ自体の明確な特性を保持する。結果として得られる材料は、成分単独での特徴ではない特徴を有している。最も一般的には、複合材料は、マトリックスと呼ばれる連続したバルク相および分散状態で、非連続であり、強化材と呼ばれる相を有する。基本的な複合材の他のいくつかの例としては、コンクリート(砂および骨材と混合されたセメント)、強化コンクリート(コンクリート中にスチールの鉄筋)およびファイバーグラス(樹脂マトリックス中にガラスストランド)が含まれる。
【0004】
ある種の用途に対して複合材が選択される理由のいくつかは以下のとおりである:
-強度重量比が高いこと(低密度高引っ張り強度)
-クリープ抵抗が高いこと
-高温における引っ張り強度が高いこと
-靭性が高いこと
【0005】
典型的には、強化材料は強いが、マトリックスは、通常、延展性のあるまたは強靭な材料である。複合材は、正しく設計され作り上げられるならば、強化材の強度をマトリックスの靭性と組み合わせて、いかなる単一の従来の材料においても得ることができない望ましい特性の組合せを達成する。例えば、ポリマー/セラミック複合材は、ポリマー成分よりも大きい弾性率を有するが、セラミックスのように脆くはない。
【0006】
強化材料は、複合材の強化機構において最も重要であるため、複合材を、強化材の特徴に従って分類するのが便利である。以下の3つのカテゴリーが通常使用される:
a)「繊維強化」、ここで、繊維は、主たる荷重保持成分である。
b)「粒子強化」、ここで、荷重は、マトリックスおよび粒子によって分担される。
c)「分散強化」、ここで、マトリックスは、主たる荷重保持成分である。
d)「構造複合材」、ここで、特性は、構成成分および幾何学的設計に依存する。
【0007】
一般に、複合材の強度は、樹脂中の繊維(または粒子)強化材の量、配置および型に主として依存する。さらに、複合材は、加工性または性能パラメーターを変化させる充填剤および添加剤とともにしばしば配合される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、既存の技術において、改変された特性を有し、適用される材料のある種の特性を制御し得る材料を得るために、異なる材料を組み合わせることは、一般に公知であり、材料の特徴のテーラーメイドの制御ができるようにさせるような材料に対して、ならびにそのコスト効率および環境適合性に関して継続した必要性が存在する。
【0009】
この点に関しての重要な分野は、構造化された材料の製造とその特性である。
【0010】
構造化された材料の1つの例は、紙であり、その製作において数多くの異なる材料が組み合わされ、その各々は、他の成分または最終的な紙の特性に対して正にまたは負に影響を与え得る。
【0011】
紙の製作および仕上げの分野での添加剤の最も普通の群の1つは、紙においていくつかの有利な機能を有する充填剤である。例えば、充填剤は、不透明性のためまたは繊維間の空隙を充填することによるより滑らかな表面の供給のために使用される。
【0012】
しかし、既存の紙においては充填剤の量を増加させると強度と光学特性との間の反比例の関係をもたらすので、紙に添加できる充填剤の量に関しては制限が存在する。
【0013】
したがって、既存の紙は、ある量の充填剤を含有し得るが、充填剤の含量があまりに高い場合、紙の力学的特性は著しく減少する。
【0014】
この関係を改善するためにおよび良好な光学特性ならびに力学的特性を有する高充填の紙を製造するために、いくつかのアプローチが提案されたが、紙の強度を本質的に害することなく通常使用されているような高充填剤含量を使用し得る、紙を製作するための方法に対する必要性がいまだに存在する。
【0015】
構造化された材料またはそのような構造化された材料を含む製品の特性を制御するための方法を探索し、炭酸カルシウムを含む特別のナノフィブリルセルロースゲルが有用であり得ることが発見された。
【0016】
セルロースは、緑色植物の一次細胞壁の構造成分であり、地球上で最も一般的な有機化合物である。それは、多くの用途および産業において非常に興味を持たれている。
【0017】
原料としてのセルロースパルプは、木材、または麻、亜麻およびマニラ麻などの植物の茎から加工される。パルプ繊維は、セルロースおよび他の有機成分(ヘミセルロースおよびリグニン)から主として構築されている。セルロースの巨大分子(1-4グリコシド結合型β-D-グルコース分子から構成された)は、水素結合によって一緒に連結して、結晶性および非晶性ドメインを有するいわゆる一次フィブリル(ミセル)を形成する。いくつかの一次フィブリル(約55本)が、いわゆるミクロフィブリルを形成する。これらのミクロフィブリル約250本が、フィブリルを形成する。
【0018】
フィブリルは、異なる層(これは、リグニンおよび/またはヘミセルロースを含有し得る。)に配置されて、繊維を形成する。個々の繊維は、同様にリグニンによって一緒に結合している。
【0019】
繊維は加えられたエネルギー下で精砕されると、細胞壁が破壊され、付着した細片、すなわち、フィブリルに引き裂かれるにつれて、フィブリル化される。この破壊が、フィブリルを繊維の本体から分離するように継続される場合、それにより、フィブリルが放出される。繊維のミクロフィブリルへの微細化は、「ミクロフィブリル化」と呼ばれる。このプロセスは、残った繊維がなくなり、ナノサイズ(厚さ)のフィブリルだけが残存するまで、継続され得る。
【0020】
このプロセスがさらに進み、これらのフィブリルをますます小さいフィブリルに微細化する場合、それらは最終的に、セルロースの断片またはナノフィブリルゲルになる。この最後のステップがどの程度まで行われるかに依存して、一部のナノフィブリルは、ナノフィブリルゲルの中に残存し得る。一次フィブリルへの微細化は、「ナノフィブリル化」と呼ぶことができ、ここで2つの形態の間に滑らかな遷移が存在し得る。一次フィブリルは、水環境で、「ナノフィブリルゲル」と呼ばれ得るゲル(一次フィブリルのメタ安定網状組織)を形成する。ナノフィブリルから形成されるゲルは、ナノセルロースを含有すると考えることができる。
【0021】
ナノフィブリルゲルは、通常、ナノセルロースで部分的に構成されていると考えられる非常に微細なフィブリルを含有し、それほど微細でなくまたはナノセルロース構造を示さないフィブリルよりも、それら自体へのまたは存在する任意の他の材料へのより強い結合可能性を示すので望ましい。
【0022】
ナノフィブリルセルロースゲルは、未公開の欧州特許出願番号第09156703.2号から、公知である。しかし、構造化された材料中でのその効果に関しては何の教示もない。
【0023】
そのようなナノフィブリルセルロースゲルが、構造化された材料の、特に、力学的特性の、製造および制御において有用であり得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、上記の課題は、以下のステップ、
a)セルロース繊維を供給するステップ、
b)少なくとも1種の充填剤および/または顔料を供給するステップ、
c)ステップa)のセルロース繊維とステップb)の少なくとも1種の充填剤および/または顔料とを組み合わせるステップ、
d)少なくとも1種の充填剤および/または顔料の存在下で、ゲルが形成されるまでセルロース繊維をフィブリル化するステップ、
e)追加のフィブリル化されていない繊維を供給するステップ、
f)ステップd)のゲルをステップe)の繊維と組み合わせるステップ
を特徴とする、構造化された材料を製作する方法により解決される。
【0025】
本発明の文脈におけるナノフィブリルセルロースは、一次フィブリルに少なくとも部分的に微細化されている繊維を意味する。これらの一次フィブリルが、水環境にある場合、ゲル(微細度の限界において本質的にナノセルロースであると考えられる一次フィブリルのメタ安定網状組織)が形成され、これは「ナノフィブリルゲル」と命名され、ここで、ナノ繊維とナノフィブリルゲルとの間に滑らかな遷移が存在し、ナノフィブリルゲルは、様々な程度のナノフィブリルを含有するナノフィブリルゲルを含み、これらのすべてが本発明によるナノフィブリルセルロースゲルという用語に含まれる。
【0026】
この点で、本発明の文脈におけるフィブリル化ステップは、繊維およびフィブリルをそれらの長軸に沿って大部分微細化して、繊維およびフィブリルのそれぞれの直径の減少をもたらす任意のプロセスを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の方法によれば、少なくとも1種の充填剤および/または顔料の存在下でのセルロース繊維のフィブリル化ステップは、ナノフィブリルセルロースゲルを与える。フィブリル化ステップは、ゲルが形成されるまで行われ、ここで、ゲルの形成は、せん断速度に依存して粘度をモニターすることにより確認される。せん断速度を段階的に増加させると、粘度の低下を反映する一種の曲線が得られる。引き続いて、せん断速度を段階的に減少させると、粘度は再び増加するが、せん断がゼロに近づくにつれて、せん断速度範囲の少なくとも一部に対応する値は、せん断速度を増加させる場合よりも低く、粘度をせん断速度に対してプロットした時の明らかなヒステリシスによりグラフで表示される。この挙動が観察されるとすぐに、本発明によるナノフィブリルセルロースゲルが形成される。ナノフィブリルセルロースゲルの製造に関するさらなる詳細は、未公開の欧州特許出願第09156703号から得ることができる。
【0028】
本発明の方法において使用され得るセルロース繊維は、天然、化学、機械、化学機械、熱機械パルプに含有されるようなものでもよい。特に有用なのは、ユーカリパルプ、トウヒパルプ、マツパルプ、ブナパルプ、麻パルプ、綿パルプ、竹パルプ、バガスおよびこれらの混合物を含む群から選択されるパルプである。ある実施形態において、このセルロース繊維のすべてまたは一部は、セルロース繊維を含む材料をリサイクルするステップから得られるものでもよい。したがって、パルプは、再生および/または脱インクパルプであってもよい。
【0029】
セルロース繊維のサイズは、原理上重要ではない。市販されており、それらのフィブリル化に使用される装置において加工可能である任意の繊維が、一般に本発明で有用である。セルロース繊維は、それらの起源に依存して、50mmから0.1μmの長さを有し得る。このような繊維、ならびに好ましくは、20mmから0.5μm、より好ましくは、10mmから1mm、典型的には、2から5mmの長さを有するものは、本発明において有利に使用することができ、ここで、より長いおよびより短い繊維も有用であり得る。
【0030】
ステップa)のセルロース繊維は、懸濁液、特に水性懸濁液の形態で供給されることが、本発明における使用に有利である。好ましくは、このような懸濁液は、0.2から35重量%、より好ましくは0.25から10重量%、さらにより好ましくは0.5から5重量%、特に1から4重量%、最も好ましくは1.3から3重量%、例えば、1.5重量%の固形含量を有する。
【0031】
ステップe)の追加のフィブリル化されていない繊維は、好ましくは、上記に定義されたようなセルロース繊維からでも同様に選択される。しかし、他の繊維材料も、本発明の方法の過程において追加のフィブリル化されていない繊維として有利に使用され得る。
【0032】
少なくとも1種の充填剤および/または顔料は、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(GCC)、表面改質された炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ベントナイト、クレー、マグネサイト、サテンホワイト、セピオライト、ハント石、珪藻土、シリケートおよびこれらの混合物を含む群から選択される。バテライト、カルサイトまたはアラゴナイト結晶構造を有し得る沈降炭酸カルシウム、ならびに/または大理石、石灰石および/もしくは白亜から選択され得る天然粉砕炭酸カルシウムが、特に好ましい。
【0033】
特別の実施形態において、超微細で離散した、角柱状、偏三角状または菱面体状の沈降炭酸カルシウムの使用が有利であり得る。
【0034】
充填剤および/または顔料は、粉末の形態で供給され得るが、それらは、水性懸濁液などの懸濁液の形態で添加されるのが好ましい。この場合、懸濁液の固形含量は、それが、ポンプ注入可能な液体である限り、重要ではない。
【0035】
好ましい実施形態において、ステップb)の充填剤および/または顔料の粒子は、0.01から15μm、好ましくは0.1から10μm、より好ましくは0.3から5μm、特に、0.5から4μm、最も好ましくは0.7から3.2μm、例えば2μmのメジアン粒径を有する。
【0036】
0.5μmより大きい重量メジアン粒径d50を有する粒子についてのd50の決定のために、米国のMicromeritics社のSedigraph5100装置を使用した。測定は、0.1重量%のNaの水溶液中で行った。試料は、高速撹拌機および超音波を使用して分散させた。d50≦500nmを有する粒子についての容積メジアン粒径の決定のために、英国のMalvern社のMalvern Zetasizer Nano ZSを使用した。測定は、0.1重量%のNaの水溶液中で行った。試料は、高速撹拌機および超音波を使用して分散させた。
【0037】
顔料および/または充填剤の高含量においてさえ、紙の力学的特性に関して、ナノフィブリルセルロースゲルの添加の有利な効果の観点から、特に好ましい実施形態において、ステップe)におけるさらなる繊維の添加の前、間または後に、しかしステップd)の後でステップf)の前に、少なくとも1種のさらなる充填剤および/または顔料が添加される。
【0038】
この少なくとも1種のさらなる充填剤および/または顔料は、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(GCC)、表面処理済炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ベントナイト、クレー、マグネサイト、サテンホワイト、セピオライト、ハント石、珪藻土、シリケート、およびこれらの混合物を含む群から選択される、ステップb)の充填剤および/または顔料と同一でありまたは異なってもよい。バテライト、カルサイトもしくはアラゴナイト結晶構造を有し得る沈降炭酸カルシウムならびに/または大理石、石灰石および/もしくは白亜から選択され得る天然粉砕炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0039】
特定の実施形態において、超微細で離散した、角柱状、偏三角面体状または菱面形状の沈降炭酸カルシウムの使用が有利であり得る。
【0040】
また、これらの追加の充填剤および/または顔料は、粉末の形態で供給され得るが、それらは、水性懸濁液などの懸濁液の形態で添加されるのが好ましい。この場合、懸濁液の固体含量は、それが、ポンプ使用可能な液体である限り、重要ではない。
【0041】
しかし、むしろ粗い製品である、ゲル形成において使用される顔料および/または充填剤とは逆に、少なくとも1種のさらなる充填剤および/または顔料は、粒径の点でむしろ微細な製品であり、特に好ましくは、ナノメーター範囲のメジアン直径d50を有する粒子を少なくとも一部含む場合、それは特に有利であることが判明した。
【0042】
したがって、少なくとも1種のさらなる充填剤および/または顔料の粒子は、0.01から5μm、好ましくは0.05から1.5μm、より好ましくは0.1から0.8μm、最も好ましくは0.2から0.5μm、例えば0.3μmのメジアン粒径(ここで、粒径は上記のようにして決定される。)を有することがさらに好ましい。
【0043】
本発明に使用される充填剤および/または顔料のいずれか1つを、ポリカルボン酸および/もしくはこれらの塩または、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸に基づくエステル、例えば、アクリルアミドもしくはメチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルなどの誘導体、またはこれらの混合物のホモポリマーもしくはコポリマー、アルカリポリリン酸塩、ホスホン酸、クエン酸および酒石酸ならびにこれらの塩もしくはエステル、またはこれらの混合物を含む群から選択されるものなどの分散剤を伴っていてもよい。
【0044】
繊維とステップb)の少なくとも1種の充填剤および/または顔料との組合せは、充填剤および/または顔料を、繊維に、1または数ステップで添加することによって実行し得る。同様に、繊維を、充填剤および/または顔料に、1または数ステップで添加してもよい。ステップb)の充填剤および/または顔料ならびにステップa)の繊維は、フィブリル化ステップの前または間に一度に全部または複数回に分けて添加してもよい。しかし、フィブリル化前の添加が好ましい。
【0045】
フィブリル化プロセスの間に、充填剤および/または顔料のサイズならびに繊維のサイズは変わり得る。
【0046】
好ましくは、繊維の、ステップb)の充填剤および/または顔料に対する重量比は、乾燥重量基準で、1:33から10:1、より好ましくは、1:10から7:1、さらにより好ましくは、1:5から5:1、典型的には、1:3から3:1、特に、1:2から2:1、最も好ましくは、1:1.5から1.5:1、例えば、1:1である。
【0047】
ステップb)における充填剤および/または顔料の投与量は重要であり得る。充填剤および/または顔料が多すぎる場合、これはゲルの形成に影響し得る。したがって、特定の組合せでゲル形成が観察されない場合、充填剤および/または顔料の量を減少させることが必要であり得る。
【0048】
さらに、ある実施形態において、組合せは、それをフィブリル化する前に、2から12時間、好ましくは3から10時間、より好ましくは4から8時間、例えば、6時間保存されるが、なぜならこれによって理想的には、フィブリル化を促進させる繊維の膨潤がもたらされるからである。
【0049】
繊維の膨潤は、上昇させたpHでの保存によって、ならびに、例えば、銅(II)エチレンジアミン、酒石酸鉄ナトリウムもしくはリチウム-塩素/ジメチルアセトアミンのようなセルロース溶媒の添加によって、または当技術分野で公知の任意の他の方法によって促進し得る。
【0050】
フィブリル化ステップは、それのために有用な任意の装置によって実行される。好ましくは、装置は、ホモジナイザーである。それは、日本のMasuko Sangyo Co.LtdのSupermasscolloiderなどの超微細摩擦粉砕機またはUS6,214,163またはUS6,183,596に記載されているようなものでもよい。
【0051】
本発明における使用に好適なものとしては、任意の市販のホモジナイザー、特に、懸濁液が、バルブを備えてもよい制限された開口部を通して高圧下で押圧され、制限された開口部から、制限された開口部の真正面にある硬い衝撃面に対して高圧で放出され、その結果、粒径を減じる高圧ホモジナイザーがある。圧力は、ピストンポンプなどのポンプで生じさせることができ、衝撃面は、環状のバルブ開口部の周りに延在する衝撃リングを備えてもよい。本発明において使用され得るホモジナイザーの例としては、GEA Niro SoaviのAriete NS2006Lがある。しかし、なかでも、APV Gaulin Series、HST HL SeriesまたはAlfa Laval SHL Seriesなどのホモジナイザーも使用され得る。
【0052】
さらに、超微細摩擦粉砕機などの装置、例えば、Supermasscolloiderが、本発明において有利に使用され得る。
【0053】
構造化された材料は、ナノフィブリルセルロースゲルと追加のフィブリル化されていない繊維、ならびに場合によっては、さらなる充填剤および/または顔料とを混合するステップ、および引き続いて、例えば、基礎となる紙のシートなどの基礎構造を形成するために、その組合せを脱水するステップにより製造され得る。
【0054】
この点では、一般に、例えば、熱乾燥、圧力乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、または超臨界条件下での乾燥などの当業者に公知のいかなる普通に使用される脱水方法を使用してもよい。脱水ステップは、例えば、実施例で記載したようにフィルタープレスなどの周知の装置で実行してもよい。一般に、水性の系を成形する分野で周知である他の方法が、本発明の複合材を得るのに適用可能である。
【0055】
特別の実施形態において、追加のフィブリル化されていない繊維は、予め形成された繊維構造の形態で供給され、この構造とゲル、ならびに場合によっては、さらなる充填剤および/または顔料とを組み合わせ、結果として繊維構造の少なくとも一部をゲルで被覆してもよい。
【0056】
一般に、構造化された材料、ならびに繊維構造の任意の層、例えば、予め形成された繊維構造体およびゲルは、この点では、種々の厚みを有し得る。
【0057】
構造化された材料の、および場合によっては、得られた構造化された材料の異なる層の厚みを変化させることにより、材料のならびに材料が適用される製品の特性の制御が可能となる。
【0058】
したがって、本発明に記載の構造化された材料は、フィルムと同じくらい薄く、典型的には既存の紙において見出されるような厚みを有しても、それだけでなく厚紙と同じくらい厚くても、およびさらに、なかでも繊維とゲルの比に依存してコンパクトな塊の形態を有してもよい。
【0059】
例えば、紙の製造においては、構造化された材料、およびその層が、それぞれ、どちらかと言えば薄いことが有利である。したがって、繊維層は、0.02mmから0.23mmの厚みを有し、1層または複数のゲルの層が、0.005mmから0.15mmの厚みを有することが好ましく、この場合、構造化された材料の全厚みは0.05mmから0.25mmである。
【0060】
紙の用途に関しては、紙を形成するためのセルロースナノフィブリルゲルと繊維との組合せは、充填剤の負荷に関して紙の特性に対して顕著な影響を与えることが判った。
【0061】
したがって、構造化された材料が紙であることは特に好ましい実施形態である。
【0062】
この点においては、ほんの少量のナノフィブリルセルロースゲルの添加が必要である。紙の用途におけるナノフィブリルセルロースゲルの量は、追加のフィブリル化されていない繊維(乾燥重量/乾燥重量基準で)に関して、ゲルのセルロース含量で表して、約0.5から20重量%、好ましくは、1から15重量%、2から10重量%、3から6重量%、例えば、5重量%であり得る。
【0063】
したがって、基礎の紙中におよび/または紙形成能のある繊維とゲルの層状構造を与える、予め形成された繊維構造体に塗布した層中にゲルを含む紙のシートを形成することが可能である。
【0064】
本発明の方法により、充填剤の量を増加させることに関して製作され改善され得る紙は、これらに限られるわけではないが、印刷用および筆記用の紙、ならびに新聞紙から選択される紙であることが好ましい。
【0065】
さらに、本発明の方法により、ティシュ紙中に充填剤を導入することすら可能である。
【0066】
したがって、本発明の方法により、低級の繊維のより効率的な使用が達成される。最終的な繊維に基礎をおく製品に対して強度を与えることができない繊維を含む基礎の完成紙料に、ナノフィブリルセルロースゲルを添加することにより、紙の強度が改善され得る。
【0067】
紙中の充填剤および/または顔料の全含量に関して、充填剤および/または顔料が、構造化された材料の乾燥重量基準で、1重量%から60重量%、好ましくは、5重量%から50重量%、より好ましくは、10から45重量%、さらにより好ましくは、25重量%から40重量%、特には、30から35重量%の量で存在することが特に好ましい。
【0068】
構造化された材料の製造のための、上述したナノフィブリルセルロースゲルの使用は、本発明のさらなる態様であり、ここで、ゲルは追加のフィブリル化されていない繊維と組み合わされ、得られた組合せは脱水される。
【0069】
本発明の他の態様は、本発明による方法、または上述した構造化された材料の製造のための、ナノフィブリルセルロースゲルの使用により得られた構造化された材料である。
【0070】
その力学的な強度特性のため、ナノフィブリルセルロースゲルは、複合材料、プラスチック、塗料、ゴム、コンクリート、セラミック、パネル、住宅、フォイルおよびフィルム、塗膜、押出し成形品、接着剤、食品におけるまたは創傷治癒用途におけるなどの用途において、有利に使用し得る。
【0071】
以下に記述する図、ならびに実施例および実験は、本発明を例示するために役立つが、いかなる方法でも本発明を制限するべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】破壊長に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図2】破断における伸びに関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図3】引っ張り指標に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図4】弾性率に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図5】引き裂き成長長さに関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図6】内部結合に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図7】不透明度に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図8】光散乱に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図9】吸光度に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図10】空気抵抗に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてGCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図11】破壊長に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図12】破断における伸びに関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図13】引っ張り指標に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図14】引き裂き成長仕事に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図15】内部結合強度に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図16】不透明度に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図17】光散乱に関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図18】空気パーミアンスに関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
図19】ベントセン粗さに関して、既存の手漉き紙と充填剤としてPCCを含む本発明に記載の手漉き紙との比較を示すグラフである。
【実施例
【0073】
本発明の文脈において、以下の用語が使用される。
-固体含量(重量%):固体全体、すなわち、非揮発性の材料(ここでは本質的にパルプ/セルロースおよび充填剤)のいずれをも意味する。
-セルロース固体含量(重量%):全質量のみ、すなわち、フィブリル化する前のパルプ、またはフィブリル化ステップ後のナノセルロースに対するセルロース材料の割合を意味する。この値は、全体の固体含量およびパルプに対する充填剤の比を使用して計算できる。
-組成物(例えば、手漉き紙)中のゲルの添加水準(比):百分率はどれも、組成物の全質量基準での乾燥セルロース含量(上記参照)の重量%と理解されるべきである(手漉き紙は100重量%である。)。
-密度、厚さおよびバルクは、ISO534により測定された。坪量は、ISO536により測定された。環境制御は、ISO187:1997により実行された。
【0074】
1.標準のGCC充填剤を含有するナノフィブリルセルロースゲル
材料
充填剤(ゲル):
-Omyacarb(登録商標)1 AV(OC 1 AV)(乾燥粉末)
-Omyacarb(登録商標)10 AV(OC 10 AV)(乾燥粉末)
両者ともOmya AGから入手可能である。高純度、白色大理石から製作された、微細炭酸カルシウム粉末。重量メジアン粒径d50は、Malvern Mastersizer Xで測定して、それぞれ、1.7または10μm。
-Hydrocarb(登録商標)60 AV(HC 60 AV)(分散済み製品)Omya AGから入手可能。微細結晶性、分散済みスラリーの形態で高微細の菱面体状粒形の、選択された天然粉砕炭酸カルシウム(大理石)。Sedigraph 5100で測定した重量メジアン粒径d50は1.6μm。懸濁液固体=78重量%。
【0075】
パルプ(ゲル):
乾燥マツマット、白色度88.19%、TCF漂泊済み。
乾燥ユーカリ、白色度88.77%、TCF漂泊済み。
未乾燥マツ、白色度88.00%。
【0076】
充填剤(手漉き紙):
Omya AGから入手できるHydrocarb(登録商標)HO-ME(分散済み製品);選択された天然の粉砕炭酸カルシウム(大理石)、微細結晶性、予め分散済みスラリー(固形含量62重量%)の形態で高微細の菱面体状粒形;Sedigraph 5100で測定した重量メジアン粒径d50は0.8μmである。
【0077】
パルプ(手漉き紙):
-短繊維(カバ)80重量%/長繊維(マツ)20重量%、ろ水度:23°SR(白色度:88.53%)。
【0078】
歩留まり改良剤:
ポリイミン1530(BASFから入手可能)
【0079】
ゲル形成
ゲルは、グリット等級46(粒度:297-420μm)を有するシリコンカーバイド粉砕石を載せた超微細摩擦粉砕機(日本の増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー(MKCA6-2型))を用いて処理した。dynamic 0-点(0-点は、粉砕石の接触点として定義されており、したがって、粉砕石の間のギャップは0mmである。)は、製造元から提供された指示書に記載されたように調節した。回転グラインダーの速度は、1500rpmに設定した。
【0080】
フィブリル化される懸濁液は、以下のようにして調製した。80gの乾燥したマット状パルプを40×40mmの破片に裂き、3920gの水道水を添加した。湿ったパルプを使用した場合は、800gのパルプ(固体含量:10重量%)を3200gの水道水と混合した。
【0081】
それぞれの懸濁液を、10dmのバケツ中で、直径70mmの溶解ディスクを使用して2000rpmで撹拌した。懸濁液を少なくとも10分間、2000rpmで撹拌した。
【0082】
最初、パルプを開放粉砕石間ギャップ(0μm)で、粉砕機を2度通して分解した。引き続いて、粉砕石間ギャップを、2回通しでパルプのフィブリル化ステップのために、-200μmに狭めた。充填剤(表1に記載)をこのフィブリル化されたパルプの懸濁液に添加し、この混合物を、-300から-400μmの粉砕石間ギャップで3回循環させることにより粉砕した。
【0083】
【表1】
【0084】
手漉き紙形成
カバ80重量%およびマツ20重量%を含み、SR値23°を有する木材および繊維のペースト、乾燥重量で60gおよび対応する量(表2参照)のナノセルロースゲルを水道水10dm中に希釈した。充填剤(Hydrocarb(登録商標)HO-ME)を、最終の紙の重量(表2参照)基準で、所望の全充填剤含量を得るような量で添加した。15分間の撹拌と紙の乾燥重量に対して乾燥重量で0.06%のポリアクリルアミド歩留まり改良剤の続いての添加の後に、坪量80g/mを有するシートを、Rapid-Koethen型手漉き紙形成機を使用して形成した。シートはそれぞれRapid-Koethen型ドライヤーを使用して乾燥した。
【0085】
充填剤の含量は、乾燥手漉き紙の1/4を570℃に加熱したマッフル炉中で燃焼させることにより測定した。燃焼が完了した後、残渣を冷却のためにデシケータに移した。室温に達した時、残渣の重量を測定し、質量を最初に測定した乾燥1/4手漉き紙の重量に関係づけた。
【0086】
【表2】
【0087】
手漉き紙試験
通常、充填剤の添加は、一方で光学特性を改善するが、紙シートの力学的特性に対してどちらかと言えば不安定化させるような効果を有している。
【0088】
しかし、以下の実験から理解されるように、ゲルを含む紙の力学的特性は、充填剤含量が高い場合においてすら、および光学特性において同じまたはより良い場合に、本発明に記載の、ゲルを含まない手漉き紙のそれよりも比較し得るまたはより良いかのどちらかである。さらに、手漉き紙は顕著に高い空気抵抗を有し、このことはインクの浸透および印刷に関して有利である。
【0089】
手漉き紙は、以下のように試験し、特徴づけた。
1.力学的特性
本発明に記載の手漉き紙の力学的特性を、その破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、E-モジュラス、引き裂き成長仕事、および内部結合により特徴づけた。
【0090】
手漉き紙の破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、およびE-モジュラス(弾性率)は、ISO1924-2により引っ張り試験により測定した。引き裂き成長仕事は、DIN53115により測定した。内部結合はSCAN-P80:98/TAPPI T541 omにより測定した。
【0091】
図1、2、3、4、5および6から理解できるように、比較例の手漉き紙、No.1および2の破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、E-モジュラスおよび内部結合の値は、充填剤含量の増加につれて減少する。
【0092】
本発明の手漉き紙を見ると、30重量%の充填剤と追加のゲルを含む手漉き紙No.3、4、6、8および9のいずれの1つも、比較例の手漉き紙No.2よりもより良い破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、E-モジュラス、引き裂き成長仕事および内部結合特性を有する。
【0093】
50重量%程にも高い量の充填剤および本発明に記載のゲルを含む、手漉き紙No.5および7でさえ、はるかに低い充填剤含量を有する比較例の手漉き紙よりも比較し得るまたはより良い破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、E-モジュラス、引き裂き成長仕事、および内部結合特性を有する。
【0094】
2.光学特性
本発明に記載の手漉き紙の光学特性を、その不透明度、光散乱、および吸光度により特徴づけた。
【0095】
手漉き紙の不透明度は、DIN53146により測定した。光散乱および吸光度は、DIN54500により測定した。
【0096】
図7、8および9から理解できるように、比較例の手漉き紙No.1および2の不透明度(坪量換算の不透明度として測定して)、光散乱、および吸光度は、充填剤含量が増加するにつれて増加する。
【0097】
本発明の手漉き紙を見ると、30重量%の充填剤と追加のゲルを含む、手漉き紙No.3、4、6、8および9のいずれの1つも、比較例の手漉き紙No.2よりも比較し得るまたはより良い不透明度、光散乱、および吸光度特性を有することを見ることができる。
【0098】
50重量%程にも高い量の充填剤および本発明に記載のゲルを含む手漉き紙No.5および7は、より低い充填剤含量を有する比較例の手漉き紙よりもより良い不透明度、光散乱、および吸光度特性を有する。
【0099】
3.空気抵抗
空気抵抗をISO5636-1/-3により測定した。
【0100】
図10から理解できるように、比較例の手漉き紙のNo.1および2の空気抵抗は、充填剤含量が増加するにつれてほぼ同じまたはやや増加する。
【0101】
本発明の手漉き紙を見ると、30重量%の充填剤と追加のゲルを含む、手漉き紙No.3、4、6、8および9のいずれの1つも、比較例の手漉き紙No.2よりも顕著に高い空気抵抗を有することを見ることができる。
【0102】
この点では、50重量%程にも高い量の充填剤および本発明に記載のゲルを含む手漉き紙No.5および7は、最も高い空気抵抗を有する。
【0103】
2.標準のPCC充填剤を含有するナノフィブリルセルロースゲル
材料
充填剤(ゲル):
-Hydrocarb(登録商標)60 AV(HC 60 AV)(分散済み製品)Omya AGから入手可能。微細結晶性、分散済みスラリーの形態で高微細の菱面体形状粒形の、選択された天然粉砕炭酸カルシウム(大理石)。Sedigraph 5100で測定した重量メジアン粒径d50は1.6μm。懸濁液固体=78重量%。
【0104】
パルプ(ゲル):
乾燥マツマット、白色度88.19%、TCF漂泊済み。
乾燥ユーカリ、白色度88.77%、TCF漂泊済み。
【0105】
充填剤(手漉き紙):
-PCC(沈降炭酸カルシウム)
Omya AGから入手可能。Sedigraph 5100で測定して、2.4μmのd50を有する偏三角面体状の粒形。比表面積:3.2m/g。懸濁液固体:20重量%。pH:8。
【0106】
パルプ(手漉き紙):
-100%ユーカリ、30°SRまで精製(TCF漂泊手順;白色度=88.7%)
【0107】
歩留まり改良剤:
ポリイミン1530(BASFから入手可能)
【0108】
ゲル形成
ゲルは、グリット等級46(粒度:297-420μm)のシリコンカーバイド粉砕石を載せた超微細摩擦粉砕機(日本の増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー(MKCA6-2型))を用いて、処理した。dynamic 0-点(0-点は、粉砕石の接触点として定義されており、したがって、粉砕石の間のギャップは0mmである。)は、製造元から提供された指示書に記載されたように調節した。回転グラインダーの速度は、1500rpmに設定した。
【0109】
フィブリル化される懸濁液は、以下のようにして調製した。80gの乾燥したマット状パルプを40×40mmの破片に裂き、3920gの水道水を添加した。パルプマットを水中に一夜浸漬した。翌日懸濁液を10dmのバケツの中で、2000rpmで、直径70mmの溶解ディスクを使用して撹拌した。懸濁液は、少なくとも10分間、2000rpmで撹拌した。
【0110】
最初、パルプを開放粉砕石間ギャップ(0μm)で、粉砕機を2度通して分解した。引き続いて、粉砕石間ギャップを、2回通しでパルプのフィブリル化ステップのために、-200μmに狭めた。充填剤(表3に記載)をこのフィブリル化されたパルプの懸濁液に添加し、この混合物を、-300から-400μmの粉砕石間ギャップで3回循環させることにより粉砕した。
【0111】
【表3】
【0112】
手漉き紙形成
SR値30°を有するユーカリパルプ乾燥重量60gおよび対応する量(表4参照)のナノセルロースゲルを水道水10dm中に希釈した。充填剤(PCC FS 270 ET)を、最終の紙の重量(表4参照)基準で、所望の全充填剤含量を得るような量で添加した。15分間の撹拌と紙の乾燥重量に対して乾燥重量で0.06%のポリアクリルアミド歩留まり改良剤の続いての添加の後に、坪量80g/mを有するシートを、Rapid-Koethen型手漉き紙形成機を使用して形成した。シートはそれぞれ、0.42barで1分間ウエットプレスし、Rapid-Koethen型ドライヤーを使用して乾燥した。
【0113】
充填剤の含量は、乾燥手漉き紙の1/4を570℃に加熱したマッフル炉中で燃焼させることにより測定した。燃焼が完了した後、残渣を冷却のためにデシケータに移した。室温に達した時、残渣の重量を測定し、質量を最初に測定した乾燥1/4手漉き紙の重量に関係づけた。
【0114】
【表4】
【0115】
手漉き紙の試験
ナノフィブリルセルロースゲルと標準のGCC充填剤とを組み合わせた手漉き紙の場合と同様に、手漉き紙に添加された充填剤が標準のPCC充填剤である場合にも、力学的、光学的および浸透性ならびに印刷特性に対する比較し得る効果が見出された。
【0116】
したがって、力学的特性ならびに印刷および浸透性特性(対応する手漉き紙の空気パーミアンスで表して)が、比較し得る光学特性において顕著に改善され得た。
【0117】
手漉き紙は、以下のように試験し、特徴づけた。
【0118】
1.力学的特性
本発明に記載の手漉き紙の力学的特性をその破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、引き裂き成長仕事、および内部結合により特徴づけた。
【0119】
手漉き紙の破壊長、破断における伸び、および引っ張り指数は、ISO1924-2により引っ張り試験により測定した。引き裂き成長仕事は、DIN53115により測定した。内部結合はSCAN-P80:98/TAPPI T541 omにより測定した。
【0120】
図11、12、13、14、および15から理解できるように、比較例の手漉き紙、No.10-13の破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、引き裂き成長仕事および内部結合の値は、充填剤含量の増加につれて本質的に減少する。
【0121】
本発明の手漉き紙を見ると、対応する量の充填剤と追加のゲルを含む手漉き紙No.14-20のいずれの1つも、対応する比較例の手漉き紙よりもより良い破壊長、破断における伸び、引っ張り指数、引き裂き成長仕事および内部結合特性を有する。
【0122】
2.光学特性
本発明に記載の手漉き紙の光学特性を、その不透明度、および光散乱により特徴づけた。
【0123】
手漉き紙の不透明度は、DIN53146により測定した。光散乱は、DIN54500により測定した。
【0124】
図16および17から理解できるように、比較例の手漉き紙No.10-13の不透明度および光散乱は、充填剤含量が増加するにつれて増加する。
【0125】
本発明の手漉き紙を見ると、対応する量の充填剤と追加のゲルを含む、手漉き紙No.14-20のいずれの1つも、対応する比較例の手漉き紙よりも比較し得るまたはより良い不透明度および光散乱特性を有することを見ることができる。
【0126】
3.空気パーミアンス
空気パーミアンスは、ISO5636-1/-3により測定した。
【0127】
図18から見られるように、比較例の手漉き紙No.10-13の空気パーミアンスは、充填剤含量の増加につれてほぼ同じまたはやや増加する。
【0128】
本発明の手漉き紙を見ると、対応する量の充填剤と追加のゲルを含む手漉き紙No.14-20のいずれの1つも、対応する比較例の手漉き紙よりも顕著により低い空気パーミアンスを有する。
【0129】
4.ベントセン粗さ
ベントセン粗さは、ISO8791-2により測定した。
【0130】
表面粗さが低いことは、カレンダー特性のために有利である。表面粗さが低いということは、カレンダリングのためにより小さな圧力を適用しなければならないということを意味する。
【0131】
図18から理解されるように、比較例の手漉きシートNo.10-13のベントセン粗さは、充填剤含量が増加するにつれて減少する。しかし、本発明の手漉きシートを見ると、対応する量の充填剤と追加のゲルを含むNo.14-20の手漉きシートのいずれの1つも、対応する比較例の手漉きシートよりも比較し得るまたはより低いベントセン粗さを有し、したがって低い表面粗さを供給することを見ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19