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特許7033131眼鏡レンズ、プライマー層形成用組成物、眼鏡レンズの製造方法
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  • 特許-眼鏡レンズ、プライマー層形成用組成物、眼鏡レンズの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ、プライマー層形成用組成物、眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20220302BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20220302BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/115
G02C7/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019521211
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2018020402
(87)【国際公開番号】W WO2018221466
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017107529
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】坂井 幸一
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163464(WO,A1)
【文献】特開2015-138117(JP,A)
【文献】国際公開第2017/039019(WO,A1)
【文献】国際公開第02/02676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、
前記レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に配置されたプライマー層と、
前記プライマー層上に配置された、ハードコート層および反射防止層からなる群から選択される少なくとも1つの層と、を有し、
前記プライマー層が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、および、無機酸化物粒子を含み、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の抗張力が40N/mm超であり、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の伸び率が300%以上であり、
前記無機酸化物粒子の含有量が、前記プライマー層全体積に対して、10~40体積%である、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記レンズ基材の物体側面および眼球側面の両面上に、前記プライマー層と、前記プライマー層上に配置された、前記ハードコート層および前記反射防止層からなる群から選択される少なくとも1つの層と、が配置されている、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記無機酸化物粒子の含有量が、前記プライマー層全体積に対して、15~40体積%である、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、および、これらの複合酸化物からなる群から選択される成分を含む粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記プライマー層上に前記ハードコート層が配置され、前記ハードコート層上に前記反射防止層が配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記プライマー層上に前記ハードコート層のみが配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記プライマー層上に前記反射防止層のみが配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
プライマー層形成用組成物であって、
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、無機酸化物粒子、および、溶媒を含み、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の抗張力が40N/mm超であり、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の伸び率が300%以上であり、
前記無機酸化物粒子の含有量が、前記プライマー層形成用組成物中の全固形分体積に対して、10~40体積%である、プライマー層形成用組成物。
【請求項9】
前記無機酸化物粒子の含有量が、前記プライマー層形成用組成物中の全固形分体積に対して、15~40体積%である、請求項8に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項10】
前記無機酸化物粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、および、これらの複合酸化物からなる群から選択される成分を含む粒子である、請求項8または9に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項11】
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、粒子状に分散しており、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の粒子の平均粒径が、50nm未満である、請求項8~10のいずれか1項に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項12】
前記溶媒が、水および水溶性有機溶媒を含み、
前記水溶性有機溶媒の含有量が、前記溶媒全質量に対して、50質量%以下である、請求項8~11のいずれか1項に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項13】
レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、請求項8~12のいずれか1項に記載のプライマー層形成用組成物を塗布し、塗膜を硬化することでプライマー層を形成する工程を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項14】
前記プライマー層は、前記レンズ基材の物体側面および眼球側面の両面上に形成される、請求項13に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項15】
前記プライマー層上にハードコート層を形成する工程を含む、請求項13または14に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項16】
前記ハードコート層上に反射防止層を形成する工程を含む、請求項15に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項17】
前記プライマー層上に反射防止層を形成する工程を含む、請求項13または14に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ、プライマー層形成用組成物、および、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ基材と、レンズ基材上に配置されるハードコート層や反射防止層との密着性を向上させるために、レンズ基材上にはプライマー層が配置される場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/163464号
【発明の概要】
【0004】
本開示は、レンズ基材と、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に配置されたプライマー層と、プライマー層上に配置された、ハードコート層および反射防止層からなる群から選択される少なくとも1つの層と、を有し、プライマー層が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、および、無機酸化物粒子を含み、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の抗張力が40N/mm超であり、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の伸び率が300%以上であり、無機酸化物粒子の含有量が、プライマー層全体積に対して、10~40体積%である、眼鏡レンズに関する。
また、本開示は、プライマー層形成用組成物であって、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、無機酸化物粒子、および、溶媒を含み、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の抗張力が40N/mm超であり、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の伸び率が300%以上であり、無機酸化物粒子の含有量が、プライマー層形成用組成物中の全固形分体積に対して、10~40体積%である、プライマー層形成用組成物にも関する。
さらに、本開示は、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、上記プライマー層形成用組成物を塗布し、塗膜を硬化することでプライマー層を形成する工程を含む、眼鏡レンズの製造方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】眼鏡レンズの一実施形態の断面図である。
図2】眼鏡レンズの他の実施形態の断面図である。
図3】耐クレージング性評価で使用される装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本実施形態の眼鏡レンズ、プライマー層形成用組成物、および、眼鏡レンズの製造方法について詳述する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0007】
従来から、ハードコート層または反射防止層などがプライマー層を介してレンズ基材上に配置された眼鏡レンズの検討が行われている。眼鏡レンズの特性としては、耐クレージング性、耐衝撃性、および、密着性に優れることが望まれている。
なお、上記耐クレージング性とは、主に、眼鏡レンズを玉型加工する際に、加工機で眼鏡レンズに荷重をかけて固定する際に生じるクラックの発生を抑制することを意図する。また、上記密着性とは、レンズ基材上に配置される塗膜(プライマー層、ハードコート層、反射防止層など)の密着性を意図する。
【0008】
本実施形態の眼鏡レンズは、耐クレージング性、耐衝撃性、および、密着性のいずれも優れる。また、本実施形態の眼鏡レンズは、透明性にも優れる。
さらに、本実施形態のプライマー層形成用組成物によれば、上記特性を示す眼鏡レンズを製造できる。
【0009】
以下、まず、プライマー層形成用組成物について詳述し、その後、眼鏡レンズおよびその製造方法について詳述する。
プライマー層形成用組成物は、所定のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、無機酸化物粒子、および、溶媒を含む。以下、プライマー層形成用組成物に含まれる成分について詳述する。
【0010】
<ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂>
プライマー層形成用組成物は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(以下、単に「特定樹脂」ともいう。)を含む。
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、ポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂である。より具体的には、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、ジオール成分とジイソシアネート成分とからなるポリウレタン樹脂であって、ジオール成分としてポリカーボネートポリオールが用いられる、ポリウレタン樹脂である。
【0011】
ポリカーボネートポリオールの種類は特に制限されず、例えば、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などのポリ(アルキレンカーボネート)類が挙げられる。
【0012】
ポリイソシアネートの種類は特に制限されず、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物;1,3,3-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0013】
特定樹脂の抗張力は、40N/mm超であり、眼鏡レンズの耐クレージング性がより優れる点で、45N/mm以上が好ましい。上記抗張力の上限は特に制限されないが、例えば、70N/mm以下としてもよい。
なお、抗張力は、25℃での値である。
特定樹脂の抗張力の測定方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、幅15mm、長さ200mm、膜厚450~550μmの特定樹脂のフィルムを用意し、フィルムの中央部に50mm間隔で標点を記す。このフィルムを引っ張り試験機(オートグラフ AGS-X、島津製作所社製)に取り付け、引っ張り試験機のつかみの間隔を100mmとし、200mm/minの速さでフィルムが破断するまで引っ張り、破断したときの応力を特定樹脂の抗張力とする。測定温度は、25℃である。
上記特定樹脂のフィルムの作製方法は特に制限されないが、例えば、特定樹脂を含む溶液を、乾燥後のフィルムの膜厚が450~550μmになるように基材上に塗布して、塗膜を乾燥させてフィルムを作製し、得られたフィルムを所定の大きさに裁断する方法が挙げられる。なお、塗膜を乾燥する方法は特に制限されないが、例えば、室温で12~36時間乾燥させ、その後、60~100℃でさらに5~10時間乾燥させる方法が挙げられる。
【0014】
特定樹脂の伸び率は、300%以上であり、眼鏡レンズの耐衝撃性がより優れる点で、320%以上が好ましい。上記伸び率の上限は特に制限されないが、例えば、1500%以下としてもよい。
なお、伸び率は、25℃での値である。
特定樹脂の伸び率は、上記抗張力の測定と同時に測定され得る。伸び率の算出方法は、以下の通りである。
伸び率(%)=((破断時の標点間距離-試験前の標点間距離)/(試験前の標点間距離))×100
【0015】
プライマー層形成用組成物中において特定樹脂は、粒子状に分散していてもよい。
特定樹脂が粒子状に分散している場合、特定樹脂の粒子の平均粒径は特に制限されないが、プライマー層の透明性がより優れる点で、50nm未満が好ましく、48nm以下がより好ましい。上記平均粒径の下限は特に制限されないが、例えば、10nm以上としてもよい。
なお、上記平均粒径は、日機装株式会社製ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150を用いて動的光散乱法にて算出される。
【0016】
特定樹脂は、市販品を用いることができる。例えば、日華化学株式会社製の「エバファノール」シリーズが挙げられる。
【0017】
<無機酸化物粒子>
プライマー層形成用組成物は、無機酸化物粒子を含む。
無機酸化物粒子の種類は特に制限されず、例えば、Ti、Zr、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、および、Inから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、または、これらの複合酸化物の粒子が挙げられる。なお、複合酸化物とは、上記に例示した2種以上の金属(金属原子)を含む酸化物である。
無機酸化物粒子は、市販品として容易に入手することが可能である。市販品としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化アルミニウム、および、これらの複合酸化物からなる群から選択される成分を含む粒子が水または有機溶媒中に分散したゾルが挙げられる。
また、無機酸化物粒子は、いわゆるコア-シェル型の粒子であってもよい。
【0018】
無機酸化物粒子の平均粒径は特に制限されないが、例えば、1~200nmが好ましく、5~30nmがより好ましい。
なお、上記平均粒径は、透過型顕微鏡にて100個以上の無機酸化物粒子の直径を測定して、それらを算術平均して求める。なお、無機酸化物粒子が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0019】
無機酸化物粒子の表面には、必要に応じて、各種官能基(例えば、エポキシ基)が導入されていてもよい。
【0020】
無機酸化物粒子は、使用時には、水または水溶性有機溶媒(特にアルコール系溶媒)などの分散媒に無機酸化物粒子を分散させてなるゾルとして使用されてもよい。
上記水溶性有機溶媒としては、後述する<溶媒>で説明する水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0021】
<溶媒>
プライマー層形成用組成物は、溶媒を含む。
溶媒としては、水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒などが挙げられる。
なかでも、溶媒は、水および水溶性有機溶媒からなる群から選択されることが好ましい。
なお、水溶性有機溶媒とは、水と相溶性を示す有機溶媒であり、より具体的には、25℃において、水に対する溶解度が10質量%以上、好ましくは50質量%以上となる有機溶媒を指す。
【0022】
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、トリメチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、ヘキシレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキシレングリコール、ペンタエリスリトールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール)、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類;アセトン、ジアセトンアルコール、アセチルアセトンなどのケトン類などが挙げられる。
【0023】
なかでも、プライマー層形成用組成物の液安定性の点で、溶媒は水および水溶性有機溶媒を含み、かつ、水溶性有機溶媒の含有量が、溶媒全質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶媒の含有量の下限は特に制限されないが、プライマー層の透明性の点で、例えば、1質量%以上としてもよい。
溶媒が上記形態である場合、プライマー層形成用組成物を室温にて放置した際にも、析出物の発生やゲル化がより抑制される。
【0024】
プライマー層形成用組成物は、必要に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、塗膜調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
なお、界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤、ビニル系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤の含有量は、プライマー層形成用組成物全質量に対して、10~10000質量ppmが好ましい。
【0025】
<プライマー層形成用組成物>
プライマー層形成用組成物は、上述した各種成分を含む。
プライマー層形成用組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した成分を一括で混合してもよいし、分割して段階的に各成分を混合してもよい。
なお、各成分を混合する順序や混合条件は、特に制限されない。
例えば、特定樹脂の水分散体(特定樹脂が粒子状に水中に分散した溶液)と、無機酸化物粒子のゾル(無機酸化物粒子が水または水溶性有機溶媒に分散してなるゾル)と、溶媒と、他の必要な成分とを、一括で混合する方法が挙げられる。
【0026】
プライマー層形成用組成物中における特定樹脂の含有量は特に制限されないが、眼鏡レンズの耐クレージング性および耐衝撃性のバランスがより優れる点で、プライマー層形成用組成物中の全固形分(プライマー層構成成分)に対して、20~80質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましい。
なお、全固形分(プライマー層構成成分)とは、プライマー層を構成する成分であり、上述した特定樹脂および無機酸化物粒子などが該当し、溶媒は固形分に含まれない。また、プライマー層を構成する成分が液体状であっても、固形分として計算する。
【0027】
プライマー層形成用組成物中における無機酸化物粒子の含有量は、プライマー層形成用組成物中の全固形分体積に対して、10~40体積%である。なかでも、眼鏡レンズの耐クレージング性がより優れる点で、15~40体積%が好ましい。
【0028】
プライマー層形成用組成物中における溶媒の含有量は特に制限されないが、プライマー層形成用組成物の取り扱い性の点で、プライマー層形成用組成物全質量に対して、65~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。
【0029】
上記プライマー層形成用組成物は、レンズ基材上にプライマー層を形成するための組成物である。
【0030】
<眼鏡レンズ>
図1は、眼鏡レンズの一実施形態の断面図である。
図1に示す眼鏡レンズ10は、レンズ基材12と、レンズ基材12の一方の表面上に配置されたプライマー層14と、プライマー層14上に配置されたハードコート層16と、ハードコート層16上に配置された反射防止層18とを含む。装用状態において、レンズ基材12の凸面が物体側面であり、凹面が眼球側面である。
なお、図1においては、レンズ基材12の物体側の表面上にのみプライマー層14、ハードコート層16、および、反射防止層18が配置されているが、この形態に制限されず、眼球側の表面上にのみプライマー層14、ハードコート層16、および、反射防止層18が配置されていてもよいし、図2に示す眼鏡レンズ100のように、レンズ基材12の両面上にプライマー層14、ハードコート層16、および、反射防止層18が配置されていてもよい。
また、図1においては、プライマー層14上に、ハードコート層16および反射防止層18の2層が積層されているが、この形態に制限されず、プライマー層14上にハードコート層16のみが配置されていてもよいし、反射防止層18のみが配置されていてもよい。
以下、眼鏡レンズ10に含まれる各部材について詳述する。
【0031】
(レンズ基材)
レンズ基材は、プライマー層、ハードコート層、および、反射防止層が形成される部材である。
レンズ基材の種類は特に制限されず、例えば、プラスチックからなるレンズ基材、無機ガラスからなるレンズ基材が挙げられ、なかでも、取扱い性に優れる点で、プラスチックレンズ基材が好ましい。
プラスチックレンズ基材の材料は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、チオウレタン樹脂、メタクリル樹脂、アリル樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエ-テルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)、ポリ塩化ビニル樹脂、ハロゲン含有共重合体、イオウ含有共重合体などが挙げられる。
【0032】
レンズ基材の厚さは特に制限されず、取扱い性の点から、例えば、1~30mm程度としてもよい。
また、レンズ基材は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。
さらに、レンズ基材12の形状は図1の形態に制限されず、レンズ基材の表面形状は凸面、凹面、平面などの任意の形状から選択される。
【0033】
(プライマー層)
プライマー層は、レンズ基材と、後述するハードコート層または反射防止層との間に配置される層である。一般的に、プライマー層とは、2つの層の間に配置され、両者の密着性を向上させる層である。
プライマー層は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、および、無機酸化物粒子を含む。
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(特定樹脂)の定義は、上述した通りであり、特定樹脂は所定の抗張力および伸び率を示す。
無機酸化物粒子の定義も、上述した通りである。
【0034】
プライマー層中における特定樹脂の含有量は特に制限されないが、眼鏡レンズの耐クレージング性および耐衝撃性のバランスがより優れる点で、プライマー層全質量に対して、20~80質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましい。
【0035】
プライマー層中における無機酸化物粒子の含有量は、プライマー層全体積に対して、10~40体積%である。なかでも、眼鏡レンズの耐クレージング性がより優れる点で、15~40体積%が好ましい。
【0036】
プライマー層は、必要に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
プライマー層の膜厚は特に制限されないが、0.1~5.0μmが好ましい。
【0038】
プライマー層の形成方法は特に制限されないが、上述したプライマー層形成用組成物を用いることが好ましい。具体的な方法としては、プライマー層形成用組成物をレンズ基材上に接触させて塗膜を形成し、必要に応じて、塗膜を硬化させる方法が挙げられる。以下、この方法について詳述する。
プライマー層形成用組成物とレンズ基材とを接触させる方法は特に制限されず、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法などが挙げられる。なかでも、生産性の観点から、ディップコーティング法が好ましい。
なお、必要に応じて、プライマー層形成用組成物とレンズ基材とを接触させる前に、レンズ基材の表面に対して、各種前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、有機溶媒による脱脂処理、塩基性水溶液または酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、UVオゾン処理などが挙げられる。
【0039】
レンズ基材上に塗膜を形成後、塗膜を硬化させる硬化処理を実施してもよい。硬化処理としては、塗膜を加熱する方法が挙げられる。なお、加熱時に、塗膜から溶媒を除去してもよい。加熱温度は特に制限されないが、加熱によるレンズ基材の変形および変色を防止する観点から、25~120℃が好ましく、25~100℃がより好ましい。加熱時間は特に制限されないが、1分間~1時間が好ましい。
【0040】
(ハードコート層)
ハードコート層は、プライマー層上に配置される層であり、レンズ基材に耐傷性を付与する層である。
本明細書において、ハードコート層とは、JIS K5600において定められた試験法による鉛筆硬度で、「H」以上の硬度を示すものとして定義される。
【0041】
ハードコート層としては、公知のハードコート層を用いることができ、例えば、有機系ハードコート層、無機系ハードコート層、有機-無機ハイブリッドハードコート層が挙げられるが、眼鏡レンズの分野においては、有機-無機ハイブリッドハードコート層が一般的に使用されている。
有機-無機ハイブリッドハードコート層は、無機酸化物粒子などの無機粒子、および、加水分解性基含有有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)、その加水分解物、もしくはその加水分解縮合物を用いて形成される層である。加水分解性基含有有機ケイ素化合物としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシラン、メチルトリエトキシシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンなどが挙げられる。無機酸化物微粒子としては、例えば、ケイ素、スズ、ジルコン、チタンなどの酸化物微粒子、または、これらの複合微粒子などが挙げられる。有機-無機ハイブリッドハードコート層は、ハイブリッド材料であるため、レンズ基材またはプライマー層の下地層(有機層)、および、ハードコート表面に成膜される反射防止層(一般的には無機酸化物の多層膜)との密着性に優れており、表面硬度も優れているため、眼鏡レンズ分野において一般的に使用されている。
有機系ハードコート層は、有機化合物を用いて形成されるハードコート層である。有機化合物としては、例えば、(メタ)アクリレート系化合物、メラミン系化合物、エポキシ系化合物などが挙げられる。有機系ハードコート層は有機物であるため、レンズ基材またはプライマー層の下地層(有機層)との密着性は優れているが、無機反射防止膜との密着性は良くない。眼鏡レンズ分野においては、(メタ)アクリレート系化合物のUV硬化型ハードコート層材料が、反射防止膜のない一部の製品に使用されている。
無機系ハードコート層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、または、CVD法などの乾式法によりシリカなどの無機酸化物が製膜されたものである。無機系ハードコート層は表面硬度が優れるものの、レンズ基材またはプライマー層の下地層(有機層)との密着性に難があり、眼鏡レンズ分野においてはほとんど使用されていない。
【0042】
ハードコート層の膜厚は特に制限されないが、1~5μmが好ましい。
【0043】
ハードコート層の形成方法は特に制限されないが、生産性の観点から、所定の成分(上記有機化合物、無機化合物など)を含むハードコート層形成用組成物を用いる方法が好ましい。より具体的には、プライマー層が配置されたレンズ基材と所定の成分を含むハードコート層形成用組成物とを接触させ、プライマー層上に塗膜を形成し、必要に応じて、塗膜を硬化させる方法が挙げられる。以下、この方法について詳述する。
【0044】
プライマー層が配置されたレンズ基材と所定の成分を含むハードコート層形成用組成物と接触させる方法は特に制限されず、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法などが挙げられる。なかでも、生産性の観点から、ディップコーティング法が好ましい。
【0045】
プライマー層上に塗膜を形成後、塗膜を加熱し、塗膜から溶媒を除去する、硬化処理を実施してもよい。加熱温度は特に制限されないが、加熱によるレンズ基材の変形および変色を防止する観点から、90~130℃が好ましく、90~110℃がより好ましい。加熱時間は特に制限されないが、1~5時間が好ましい。また、塗膜の加熱は、加熱条件を変更しながら、段階的に実施してもよい。
【0046】
(反射防止層)
反射防止層は、入射した光の反射を防止する機能を有する層である。
なお、本明細書において、反射防止層とは、400~700nmの可視領域において、反射率が5%以下程度に低減された反射特性を示す層として定義される。
【0047】
反射防止層の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
多層構造の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が好ましい。なお、高屈折率層を構成する材料としては、チタン、ジルコン、アルミニウム、タンタル、または、ランタンの酸化物などが挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、シリカなどが挙げられる。
また、反射防止層としては、中空ケイ素酸化物を使用した湿式反射防止層を用いてもよい。
反射防止層の厚さは特に制限されないが、0.2~0.6μmが一般的である。
反射防止層の製造方法は特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、および、CVD法などの乾式法が挙げられる。
【0048】
(他の層)
本実施形態の眼鏡レンズは、プライマー層、ハードコート層、反射防止層以外の他の層を有していてもよい。
例えば、眼鏡レンズは、撥水撥油性能を向上させる目的で、最表層に、撥水撥油層を有していてもよい。撥水撥油層は眼鏡レンズの表面エネルギーを低下させ、汚染防止の機能を眼鏡レンズに付与できる。または、撥水撥油層は眼鏡レンズの表面のすべり性能を向上させ、その結果として、眼鏡レンズの耐擦傷性を向上させる。
【0049】
撥水撥油層は、撥水撥油成分を含む。撥水撥油成分の種類は特に制限されず、例えば、フッ素含有化合物、シリコーン化合物、長鎖アルキル基を有する化合物などが挙げられ、フッ素含有化合物が好ましく、含フッ素シラン化合物がより好ましい。なお、含フッ素シラン化合物とは、アルコキシシリル基を有するフッ素含有化合物である。アルコキシシリル基は、ケイ素原子にアルコキシ基が1~3個結合している基であれば特に制限されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0050】
撥水撥油層の形成方法は特に制限されず、例えば、撥水撥油成分を含む組成物を所定の基材上に塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法が挙げられる。例えば、ディッピング法を用いる場合、撥水撥油成分を含む組成物中に、眼鏡レンズを浸漬し、一定条件で引き上げることにより、組成物を眼鏡レンズ上に塗布できる。
上記組成物は、通常、有機溶媒を含む。使用される有機溶媒としては、例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-4-メトキシブタン、パーフルオロ-4-エトキシブタン、メタキシレンヘキサフルオライドなどが挙げられる。
組成物中における撥水撥油成分の含有量は特に制限されないが、0.01~0.5質量%が好ましく、0.03~0.1質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、塗布ムラの発生を抑制しつつ、撥水撥油層を容易に形成できる。
なお、撥水撥油層の他の形成方法としては、真空蒸着法などの乾式法を用いてもよい。
【0051】
本実施形態の眼鏡レンズは、上述したように、各層を順次製造することにより、得られる。つまり、例えば、眼鏡レンズの製造方法の一実施態様は、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、上述したプライマー層形成用組成物を塗布し、塗膜を硬化することでプライマー層を形成する工程、プライマー層上にハードコート層を形成する工程、および、ハードコート層上に反射防止層を形成する工程を含む。
なお、プライマー層上に反射防止層が配置された眼鏡レンズにおいては、プライマー層上に反射防止層を形成する工程が実施される。
【実施例
【0052】
以下、眼鏡レンズおよびプライマー層形成用組成物に関して実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0053】
<実施例1>
(プライマー層形成用組成物P-1の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)210質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)353質量部、水394質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-1を得た。
【0054】
(プライマー層の形成)
プラスチックレンズ基材(MR8、屈折率1.60、度数S-2.00、中心厚1.10~1.30mm)上に、ディッピング法にてプライマー層形成用組成物P-1を塗布した。次いで、プライマー層形成用組成物P-1が塗布されたプラスチックレンズ基材を80℃で20分加熱して予備硬化させ、プラスチックレンズ基材上に膜厚1.0μmのプライマー層を形成した。
【0055】
(ハードコート層形成用組成物の調製)
反応容器に加水分解性基含有有機ケイ素化合物(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM-403」)197質量部を投入し、反応溶液内を攪拌しながら、0.1N塩酸水溶液45質量部を徐々に滴下し、一昼夜加水分解を行い、加水分解性基含有有機ケイ素化合物の加水分解物および部分加水分解縮合物を得た。
得られた加水分解物および部分加水分解縮合物に、無機酸化物粒子として不揮発分30質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク1130F-2(A-8)」)356質量部、金属触媒としてアセチルアセトンアルミニウム16質量部、メチルアルコール385質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、ハードコート層形成用組成物を得た。
【0056】
(ハードコート層の形成)
プライマー層が配置されたプラスチックレンズ基材上に、ディッピング法にて、ハードコート層形成用組成物を塗布した。次いで、ハードコート層形成用組成物が塗布されたプラスチックレンズ基材を80℃で20分加熱して予備硬化させた後、110℃で3時間加熱して本硬化させ、膜厚2.5μmのハードコート膜を形成した。
【0057】
(反射防止層の形成)
プライマー層およびハードコート層が配置されたプラスチックレンズ基材を、蒸着装置に入れ、電子ビーム加熱法にて蒸着原料を蒸着させ、以下の第1層~第5層からなる反射防止層を形成した。反射防止層の層構成を、ハードコート層側から順に、以下に示す。なお、ndは屈折率、nλは膜厚を表す。
第1層:SiO nd=0.1λ、nλ=30nm
第2層:ZrO nd=0.16λ、nλ=37nm
第3層:SiO nd=0.06λ、nλ=20nm
第4層:ZrO nd=0.25λ、nλ=58nm
第5層:SiO nd=0.28λ、nλ=93nm
【0058】
(撥水撥油層の形成)
不揮発分20質量%の撥水撥油剤(信越化学工業株式会社製、商品名「KY-130」)4質量部を、フッ素系溶媒(住友スリーエム製、商品名「HFE-7200」)796質量部に溶解し、不揮発分0.1質量%の撥水撥油剤を得た。
次に、上記で得られた反射防止層が配置されたプラスチックレンズ基材を、撥水撥油剤中に5秒間浸漬し、その後、12mm/秒の速度で引き上げた後、引き上げたプラスチックレンズ基材を50℃で60分間加熱し、撥水撥油層を形成した。
【0059】
上記手順によって、プラスチックレンズ基材の両面に、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、撥水撥油層を有する眼鏡レンズを得た。
【0060】
<実施例2>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-2を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0061】
(プライマー層形成用組成物P-2の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)284質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)213質量部、水460質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-2を得た。
【0062】
<実施例3>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-3を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0063】
(プライマー層形成用組成物P-3の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)118質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)528質量部、水312質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-3を得た。
【0064】
<実施例4>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-4を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0065】
(プライマー層形成用組成物P-4の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)204質量部に対し、不揮発分38%の酸化ジルコニウムコロイド(日産化学工業株式会社製、商品名「サンコロイドHZ-400M7」、溶媒:水、密度(g/cm):3.8)191質量部、水561質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-4を得た。
【0066】
<実施例5>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-5を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0067】
(プライマー層形成用組成物P-5の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)210質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)353質量部、1-メトキシ-2-プロパノール436質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-5を得た。
【0068】
<比較例1>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-6を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0069】
(プライマー層形成用組成物P-6の調製)
不揮発分35質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-50C」)304質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)213質量部、水441質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-6を得た。
【0070】
<比較例2>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-7を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0071】
(プライマー層形成用組成物P-7の調製)
不揮発分35質量%の水分散型ポリウレタン(第一工業製薬株式会社製、商品名「スーパーフレックス 130」)304質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)213質量部、水441質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-7を得た。
【0072】
<比較例3>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-8を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0073】
(プライマー層形成用組成物P-8の調製)
不揮発分38質量%の水分散型ポリウレタン(第一工業製薬株式会社製、商品名「スーパーフレックス 460」)278質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)213質量部、水465質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-8を得た。
【0074】
<比較例4>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-9を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0075】
(プライマー層形成用組成物P-9の調製)
不揮発分40質量%の水分散型ポリウレタン(第一工業製薬株式会社製、商品名「スーパーフレックス 740」)266質量部に対し、不揮発分20質量%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)213質量部、水479質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-9を得た。
【0076】
<比較例5>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-10を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0077】
(プライマー層形成用組成物P-10の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)401質量部に対し、水556質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-10を得た。
【0078】
<比較例6>
プライマー層形成用組成物P-1の代わりに後述するプライマー層形成用組成物P-11を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0079】
(プライマー層形成用組成物P-11の調製)
不揮発分37.4質量%の水分散型ポリウレタン(日華化学株式会社製、商品名「エバファノール HA-170」)87質量部に対し、不揮発分20%の酸化チタンコロイド(日揮触媒化成株式会社製、商品名「オプトレイク」、溶媒:水、密度(g/cm):3.6)586質量部、水285質量部、1-メトキシ-2-プロパノール42質量部、界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、商品名「L7001」)1質量部を添加後、混合物を攪拌し、プライマー層形成用組成物P-11を得た。
【0080】
上記実施例および比較例にて使用したポリウレタン樹脂の抗張力および伸び率、並びに、ポリウレタン樹脂の粒子の平均粒径に関して、以下の評価を行った。
【0081】
(抗張力測定)
ポリウレタン樹脂を含む水分散体を、乾燥後のフィルムの膜厚が約500μmになるような量でシャーレ容器に取り分け、室温で24時間乾燥後、80℃で6時間乾燥し、ポリウレタン樹脂のフィルムを作製した。
次いで、フィルムを幅15mm、長さ200mmの大きさに切断した後、中央部に50mm間隔で標点を記したサンプルを作製した。得られたサンプルを引っ張り試験機(オートグラフ AGS-X、島津製作所社製)に取り付け、試験機のつかみの間隔を100mmとし、200mm/minの速さでサンプルが破断するまで引っ張り、破断したときの応力を抗張力とした。測定温度は25℃であった。
(伸び率測定)
伸び率は上記(抗張力測定)と同時に測定され、伸び率の計算方法は下記のとおりであった。
伸び率(%)=((破断時の標点間距離-試験前の標点間距離)/(試験前の標点間距離))×100
(平均粒径測定)
ウレタン樹脂の平均粒径は、日機装株式会社製ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150を用いて、動的光散乱法により測定した。なお、試料としては、実施例および比較例にて用いた水分散型ポリウレタンをそれぞれ使用した。
【0082】
上記で得られた実施例および比較例の眼鏡レンズを用いて、以下の評価を行った。
【0083】
(耐クレージング性評価)
玉型加工に用いる加工機と同様の構造の図3に示す装置を用いて、耐クレージング性評価を実施した。
図3に示す装置にて各実施例および各比較例の眼鏡レンズを30kgの荷重で10秒間保持した。その後、荷重を10kgずつ上昇させる毎に10秒間保持し、アセトンにて汚れを除去した眼鏡レンズのクラックの有無を、暗幕を背景に蛍光灯下にて目視で確認した。なお、耐クレージング性評価は、眼鏡レンズを温度40℃、湿度80RH%の恒温恒湿槽に1週間放置してから行った。
評価に関しては、蛍光灯で確認できるレベルのクラックが発生するまで継続し、蛍光灯でクラックが確認できたときの荷重と、その荷重の直前に保持した荷重の平均値をクラック発生荷重とした。判定基準を以下に示す。
◎:クラック発生荷重が100kg以上
○:クラック発生荷重が90kg以上100kg未満
×:クラック発生荷重が90kg未満
なお、図3に示す装置は、カップ受け20と、レンズ押え部22(ニデック製LE9000SXのレンズ押え部と同様の機構)とを有し、上述した手順にて作製した実施例および比較例の眼鏡レンズ24の光学中心を3M製ロックテープ(LEAPIII)を介して玉摺り機用カップ26(ニデック製カニ目キャップ小を使用)に貼り付け、玉摺り機用カップ26を上記カップ受け20に装着して、カップ受け20とレンズ押え部22とで眼鏡レンズ24を挟み、上記評価を実施した。
【0084】
(耐衝撃性評価)
プラスチックレンズ基材(MR8、屈折率1.60、度数S-2.00、中心厚1.10~1.30mm)の代わりに、プラスチックレンズ基材(N19、屈折率1.74、度数S-1.50)を使用した以外は、実施例1~5および比較例1~6と同様の手順に従って、後述する耐衝撃性評価用の眼鏡レンズを別途得た。
次に、衝撃試験機(Impact tester)を用い、耐衝撃性評価用の眼鏡レンズに340gのタップを60cmの高さから落下させて、眼鏡レンズを破断させたとき、眼鏡レンズが破断するまでに加わった最大エネルギーにより評価した。判定基準を以下に示す。
○:最大エネルギーが0.2J以上
×:最大エネルギーが0.2J未満
【0085】
(透明性評価)
実施例および比較例にて作製した眼鏡レンズの表面の汚れを、アセトンを用いて除去した後、分光光度計U-4100(株式会社日立製作所製)を用い、透過率を測定し、380~780nmの視感透過率を測定し、以下の基準に従って評価した。
〇:視感透過率が97.5%以上
×:視感透過率が97.5%未満
【0086】
(密着性評価)
実施例および比較例にて作製した眼鏡レンズを、耐候性評価装置(SUNTESTER)に入れ、紫外線を200時間照射した。次いで、クロスカット法(JIS K5400-8.5 参考)により、プラスチックレンズ基材上の塗膜の密着性を評価した。判定基準を以下に示す。
〇:25マスのうち、剥離した部分の合計が1マス分の面積未満
×:25マスのうち、剥離した部分の合計が1マス分の面積以上
【0087】
(プライマー層形成用組成物の液安定性評価)
実施例および比較例にて用いたプライマー層形成用組成物を室温にて1週間撹拌し、析出物の有無、および、ゲル化の有無を目視で確認した。判定基準を以下に示す。
○:析出物の発生およびゲル化の発生のいずれもなし
×:析出物の発生またはゲル化の発生あり
【0088】
表1中、「樹脂名」欄の「SF130」、「SF460」および「SF740」は、それぞれ「スーパーフレックス 130」、「スーパーフレックス 460」および「スーパーフレックス 740」を意図する。
また、「骨格」欄は、ポリウレタン樹脂の種類を表し、「ポリカーボネート」はポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を、「ポリエーテル」はポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、「ポリエステル」はポリエステル系ポリウレタン樹脂を意図する。なお、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂とは、ジオール成分としてポリエーテルが用いられて形成されるポリウレタン樹脂であり、ポリエステル系ポリウレタン樹脂とは、ジオール成分としてポリエステルが用いられて形成されるポリウレタン樹脂である。
また、「無機酸化物粒子」欄の「含有量(vol%)」は、プライマー層全体積に対する、無機酸化物粒子の含有量(体積%)を表す。なお、この数値は、プライマー層形成用組成物中の全固形分体積に対する、無機酸化物粒子の含有量(体積%)とも同義である。
また、「溶媒」欄の「水溶性有機溶媒(%/溶媒)」欄は、溶媒全質量に対する、水溶性有機溶媒の含有量(質量%)を表す。
【0089】
【表1】
【0090】
上記表1に示すように、実施例で示す眼鏡レンズは、所望の効果(耐クレージング性、耐衝撃性、透明性)を示した。また、実施例1~5に関しては、密着性にも優れていた。
なかでも、実施例1~3の比較より、無機酸化物粒子の含有量が15~40体積%の場合、耐クレージング性がより優れていた。
また、実施例1~4と5との比較より、溶媒全質量に対する水溶性有機溶媒の含有量が50質量%以下の場合、プライマー層形成用組成物の液安定性がより優れていた。
【符号の説明】
【0091】
10 眼鏡レンズ
12 レンズ基材
14 プライマー層
16 ハードコート層
18 反射防止層
20 カップ受け
22 レンズ押え部
24 眼鏡レンズ
26 玉摺り機用カップ
図1
図2
図3