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特許7033309樹脂-ゴム積層体、及び冷媒輸送用ホース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】樹脂-ゴム積層体、及び冷媒輸送用ホース
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20220303BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20220303BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220303BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220303BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20220303BHJP
   B29C 48/09 20190101ALI20220303BHJP
【FI】
B32B25/08
B32B1/08 B
B32B27/18 F
B32B27/34
F16L11/04
B29C48/09
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018081787
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019188652
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000233619
【氏名又は名称】株式会社ニチリン
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】三木 健司
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 靖史
(72)【発明者】
【氏名】小島 亮太
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-090563(JP,A)
【文献】特開2015-231717(JP,A)
【文献】特開2005-030598(JP,A)
【文献】特開2012-031974(JP,A)
【文献】米国特許第05264262(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101712781(CN,A)
【文献】特開2012-189129(JP,A)
【文献】特開2017-155764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 9/00-11/26
B29C48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時において冷凍機油に接するポリアミド層と、
該ポリアミド層の片面上にEOM及び/又はEPM含有層とを有し、
該EOM及び/又はEPM含有層は、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.5~1.5重量部の芳香族第二級アミン系老化防止剤と、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.2~1.0重量部のベンズイミダゾール系老化防止剤と、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.5~5.0重量部のトリアリルイソシアヌレートと、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して1.0~9.0重量部の、酸無水物基変性ポリマー、
を含有することを特徴とする樹脂-ゴム積層体。
【請求項2】
前記芳香族第二級アミン系老化防止剤が、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンであり、前記ベンズイミダゾール系老化防止剤が、2-メルカプトベンズイミダゾールであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂-ゴム積層体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂-ゴム積層体の構造を有し、前記ポリアミド層側が内側層であり、前記EOM及び/又はEPM含有層側が外側層であることを特徴とする冷媒輸送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂-ゴム積層体、及び冷媒輸送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車等に使用される冷媒輸送用ホースとして、最内層を脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族アミン系加水分解防止剤及びリン系加水分解防止剤を含有する組成物から形成し、その外層にゴム層を設けた該冷媒輸送用ホースは、耐冷媒・冷凍機油性、耐冷媒透過性、及び柔軟性に優れることが記載されている。
また、特許文献2には、いずれもポリアミドからなる2層構造の内層を有する冷媒輸送用ホースであり、内側のポリアミド層には有機系酸化防止剤を含有し、外側のポリアミド層には有機系酸化防止剤を含有しないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-155764号公報
【文献】特開2012-189129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の発明によれば、芳香族アミン系加水分解防止剤及びリン系加水分解防止剤を併用することが求められ、かつ、これらの添加する層がポリアミドの内層である。そして、このポリアミドの内層の外側に、ゴム層からなる外層が形成された冷媒輸送用ホースである。このとき、外層が含有する一般の老化防止剤によって、理由は不明であるが、冷媒輸送用ホース内を冷媒とともに流通する冷凍機油が変色する可能性がある。
また、上記特許文献2に記載の発明によれば、冷媒輸送用ホースの内層には、有機系の酸化防止剤を含有させるので、冷媒や冷凍機油と直接接触するにつれて、内層が含有する有機系の老化防止剤によって、冷凍機油が変色する可能性がある。
そして、冷凍機油が変色することを防止するために、内層に老化防止剤等を含有させない場合であっても、原因は不明であるが、外層に含有させた老化防止剤の影響があり、依然として、冷凍機油が変色する可能性がある。
本発明は、冷凍機油を変色させることがない、冷媒輸送用装置に使用する樹脂-ゴム積層体であり、さらに、冷媒や冷凍機油と直接接触しても、冷媒輸送用ホースとしての十分な特性を備えた上で、冷凍機油が変色しないホースを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
1.ポリアミド層と、
該ポリアミド層の片面上にEOM及び/又はEPM含有層とを有し、
該EOM及び/又はEPM含有層は、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.5~1.5重量部の芳香族第二級アミン系老化防止剤と、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.2~1.0重量部のベンズイミダゾール系老化防止剤と、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.5~5.0重量部の共架橋剤と、
EOM及び/又はEPM100重量部に対して1.0~9.0重量部の液状ポリマーと、
を含有することを特徴とする樹脂-ゴム積層体。
2.前記芳香族第二級アミン系老化防止剤が、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンであり、前記ベンズイミダゾール系老化防止剤が、2-メルカプトベンズイミダゾールであることを特徴とする1に記載の樹脂-ゴム積層体。
3.前記1又は2に記載の樹脂-ゴム積層体の構造を有し、前記ポリアミド層側が内側層であり、前記EOM及び/又はEPM含有層側が外側層であることを特徴とする冷媒輸送用ホース。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、冷媒や冷凍機油が直接接触する樹脂-ゴム積層体や、冷媒輸送用ホースが、十分な機械的強度及び2層間の優れた接着力を有することができる。加えて、冷媒や冷凍機油とポリアミド層側とが、直接接触する樹脂-ゴム積層体としたり、冷媒輸送用ホースとしたときに、冷媒や冷凍機油と直接接触するポリアミド層ではなく、冷媒や冷凍機油側からみて、外層となるEOM及び/又はEPM層に対して、芳香族第二級アミン系老化防止剤とベンズイミダゾール系老化防止剤とを含有させることによって、内層となるポリアミド層の樹脂の劣化をさせず、かつ、冷凍機油を変色させることがない。そして、この劣化については、冷媒や冷凍機油と直接接触する樹脂-ゴム積層体や、冷媒輸送用ホースの継続使用による劣化だけではなく、使用前の(架橋時の加熱等による)劣化も対象としている。
このため、冷媒や冷凍機油を十分な長期間に亘って、交換することなく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ポリアミド層と、EOM及び/又はEPM含有層とを有する積層体を基本とし、さらに、内層がポリアミド層からなり、外層がEOM及び/又はEPM含有層からなる冷媒輸送用ホースである。
以下に、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0008】
[ポリアミド層]
本発明におけるポリアミド層に使用されるポリアミドとしては、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド1010(PA1010)ポリアミド6(PA6)とポリアミド66(PA66)の共重合物、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド11(PA11)とポリアミド12(PA12)の共重合物、変性物等を用いることができる。
ポリアミド層は1層でもよく、複数層から形成させることもできる。
ポリアミド層には、直接冷凍機油に接することからみて、冷凍機油を劣化させたり、あるいは、変色させたりする等の冷凍機油に対して悪影響を及ぼす成分を配合しないことが必要である。
そのため、このような悪影響を及ぼす老化防止剤を配合しないことが望ましく、芳香族アミン系老化防止剤及び/又はベンズイミダゾール系老化防止剤を配合しないほうが望ましい。しかしながら、本発明の効果を阻害しない程度の量の芳香族アミン系老化防止剤やベンズイミダゾール系老化防止剤、さらにフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオ尿素系老化防止剤、有機チオ酸系老化防止剤、亜リン酸系老化防止剤を配合することができる。
さらに、本発明による効果を毀損しない範囲、冷凍機油に対して悪影響を及ぼさない範囲において、ポリアミド樹脂に添加することが公知の各種添加剤、例えば、カーボンブラック、充填剤、共架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤、軟化剤、可塑剤、安定剤、及び加工助剤等を適宜添加することが可能である。
【0009】
[EOM及び/又はEPM含有層]
EOM含有層は、エチレン-オクタンゴム含有層であり、EPM含有層は、エチレン-プロピレンゴム含有層である。また、EOMとEPMとのブレンドを含有する層としても良い。EOM及び/又はEPM含有層は、EOM及び/又はEPM含有層の性質を変更させない範囲で、それぞれ独立して複数層から形成させることができる。
本発明の効果を毀損しない範囲で、他に、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、アクリルゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、ウレタンゴム等をブレンドすることができる。
【0010】
[芳香族第二級アミン系老化防止剤]
EOM及び/又はEPM含有層には、芳香族第二級アミン系老化防止剤を含有させる。
芳香族第二級アミン系老化防止剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、フェノチアジンの誘導体、ρ-(ρ-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-ρ-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-ρ-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-ρ-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-ρ-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1-メチルヘプチル)-ρ-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-ρ-フェニレンジアミンといったものが、単独であるいは二種以上併せて用いられる。
芳香族第二級アミン系老化防止剤の配合量は、EOM及び/又はEPM100重量部に対して0.5~1.5重量部である。この配合量が、0.5重量部未満であると、内層のポリアミド樹脂層が劣化し、1.5重量部を超えると、冷凍機油が変色する。
【0011】
[ベンズイミダゾール系老化防止剤]
EOM及び/又はEPM含有層には、上記芳香族第二級アミン系老化防止剤とともに、ベンズイミダゾール系老化防止剤を含有させる。
ベンズイミダゾール系老化防止剤としては、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールとフェノール縮合物の混合品、2-メルカプトベンズイミダゾールの金属塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾールの金属塩、5-メルカプトメチルベンズイミダゾール、5-メルカプトメチルベンズイミダゾールの金属塩等が挙げられる。
ベンズイミダゾール系老化防止剤の配合量は、EOM又はEPM100重量部に対して0.2~1.0重量部である。
この配合量が、0.2重量部未満であると、内層のポリアミド樹脂層が劣化し、1.0重量部を超えると、冷凍機油が変色する。
【0012】
[その他老化防止剤]
EOM及び/又はEPM含有層には、その他の老化防止剤として、2,5-ジ-(t-アミル)-ヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン等のフェノール系老化防止剤、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジイソブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸銅、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸銅、ジベンジルジチオカルバミン酸銅等のジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、1,3-ビス(ジメチル・アミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオ尿素系老化防止剤、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオプロピオネート)、ジラウリル・チオジプロピオネート等の有機チオ酸系老化防止剤、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリス(混合モノ-及びジ-ノニルフェニル)フォスファイト、ジフェニル・モノ(2-エチルヘキシル)フォスファイト、ジフェニル・モノトリデシル・フォスファイト等の亜リン酸系老化防止剤を、本発明による効果を阻害しない範囲にて配合することができる。
【0013】
[架橋剤]
本発明の冷媒輸送用ホースを得るために、EOM及び/又はEPM含有層に、架橋剤を添加しておき、これを内層と積層した後に架橋させても良い。
この架橋剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1’-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレレート、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物を、本発明による効果を阻害しない範囲にて配合することができる。
未架橋の状態で、EOM及び/又はEPM含有層中の、EOM又はEPM100重量部に対する、架橋剤の含有量としては1.5重量部以上であり、好ましくは2重量部以上である。含有量が1.5重量部未満であると、機械強度が劣る可能性が高くなる。
【0014】
[共架橋剤]
本発明中のEOM及び/又はEPM含有層に配合してもよい共架橋剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,2-ポリブタジエン、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、P-キノンジオキシム、P,P’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、アミルフェノールジスルフィド重合物等が挙げられ、トリアリルイソシアヌレートを用いるのが好ましい。
なお、共架橋剤の配合量は、EOM又はEPM100重量部に対して、0.5~5.0重量部である。0.5重量部未満であると、機械強度が低くなり、5.0重量部を超えると、内層と外層との間の接着力が低下する。
【0015】
[カーボンブラック]
本発明におけるEOM及び/又はEPM含有層には、ゴム組成物に添加することが公知のカーボンブラックから、任意に選択して使用することができる。
【0016】
[接着剤]
EOM及び/又はEPM含有層には、接着剤を配合することができる。
そのような接着剤としては、一般に液状ポリマーであり、例えば、変性液状ポリマーとしては、ヒドロキシ基末端変性ポリイソプレンおよびその水素添加物等のヒドロキシ基変性ポリマー;エポキシ基変性ポリブタジエン等のエポキシ基変性ポリマー;アクリレート変性ポリブタジエン等の(メタ)アクリレート基変性ポリマー;シラングラフトポリオレフィン、シラン末端ポリオレフィン等の加水分解性ケイ素基含有ポリオレフィン;無水マレイン酸変性ポリイソプレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブテン、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレンαオレフィン共重合体等の酸無水物基変性ポリマー;カルボキシ変性ポリブタジエン、カルボキシ変性ポリイソプレン、カルボキシ基末端アクリロニトリルブタジエン共重合体(CTBN)等のカルボキシ基変性ポリマー;アミノ基末端アクリロニトリルブタジエン共重合体(ATBN)等のアミノ基変性ポリマーである。
なお、接着剤の配合量は、EOM又はEPM100重量部に対して、1.0~9.0重量部である。1.0重量部未満であると、内層と外層の間の接着力が低くなり、9.0重量部を超えると、加硫後の金型からの離型性が悪化する。
【0017】
[架橋助剤]
本発明におけるEOM及び/又はEPM含有層には、ゴム組成物に添加することが公知の架橋助剤から、任意に選択して使用することができる。具体例として、1,2-ポリブタジエン、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、P-キノンジオキシム、P,P’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、アミルフェノールジスルフィド重合物等が挙げられ、トリアリルイソシアヌレートを用いるのが好ましい。
【0018】
EOM及び/又はEPM含有層としての特性を失わず、本発明による効果を毀損することがない範囲において、他のゴムや樹脂、さらに、ゴム組成物に添加することが公知の各種添加剤、例えば、充填剤、酸化亜鉛等の架橋促進助剤、軟化剤、可塑剤、安定剤、及び、ステアリン酸等の加工助剤等を適宜添加することが可能である。
【0019】
[冷媒や冷凍機油と直接接触する樹脂部材の構造]
本発明の積層体は、冷媒や冷凍機油と直接接触する樹脂部材として使用することができる。そのような樹脂部材としては、下記の冷媒輸送用ホース以外では、パッキング、冷媒輸送用装置の構成部材や補修部材、冷媒用容器としたり、これらの部材用材料とすることができる。
そして、これらの樹脂部材である積層体は、それぞれの形状に応じて、公知の成形手段・条件により成形して得ることができる。
【0020】
[冷媒輸送用ホースの構造]
本発明の冷媒輸送用ホースは、ポリアミド層側が内側層であり、EOM及び/又はEPM含有層が外側層である。
ポリアミド層側を内側層とすることにより、冷媒輸送用ホース内を冷媒や冷凍機油が流通しても、該ポリアミド層が劣化したり、冷凍機油が変色したりすることがない。
本発明の冷媒輸送用ホースのEOM及び/又はEPM含有層の外側の表面には、さらに、有機又は無機繊維による補強層、耐候性ゴム層等を設けることにより、耐圧性や耐候性等を向上させることができる。
断面形状としては、内層の内面及び外層の外面を、それぞれ独立して円形、楕円形、方形等の任意の形状とすることができる。
本発明の内層の厚さは0.1~0.3mm、外層の厚さは1~3mm、本発明のホースの内径は7~18mm、ホースの外径は14~26mmである。
【0021】
[冷媒輸送用ホースの製造方法]
本発明の冷媒輸送用ホースを製造する方法としては、マンドレルの外周に、本発明のポリアミド層、及び、EOM及び/又はEPM含有層を2層押出機等の押出成形により、ホース用の円筒形状に被覆し、さらに外周に、必要に応じて、繊維補強層及び最外層のゴム層を形成して、この積層体を加熱することにより架橋する方法が採用できる。
又は、ポリアミド層用樹脂組成物を押出成形により、フレキシブルホース最内層側用の円筒形状に成形した後に、EOM及び/又はEPM含有層用ゴム組成物を押出成形により、第2層目用の円筒形状に成形して、ポリアミド層の外周に積層した後、このゴム積層体を、公知の架橋条件から選択された条件によって加熱することにより架橋する。その結果、未架橋のゴム積層体に含有されていた有機過酸化物等の架橋剤が消費されて、そのほとんどは、架橋されたゴム積層体内に残存しない。
なお、押出成形(積層)工程、又は架橋工程の後で、EOM及び/又はEPM含有層のさらに外周に、必要に応じて、強度向上等の目的で、繊維補強層及び最外層のゴム層を形成してもよい。
また、この冷媒輸送用ホースを、振動吸収特性を有するフレキシブルホースとすることもできる。そして、フレキシブルホースとする場合には、例えば、車輌用エアコンホースとして使用することもできる。
また、このようなホースや、樹脂部材として冷媒や冷凍機油と接する用途に使用されるときに、その冷媒としては、HFC-134a、152a、32、143a、125、HFO-1234yf等、及び、これらの混合物からなるフルオロカーボン系冷媒用の装置への用途に使用できる。
さらに、冷凍機油としては、ポリアルキレングリコール(PAG)やポリオールエステル(POE)等からなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0022】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
下記表1に示す各成分を含有するEOM層及びEPM層用ゴム組成物を得て、これらの組成物の一方を外層に、別に調製したPA6層用樹脂組成物を内層になるようにして、架橋前の冷媒輸送用ホース用成形体を成形した。
次に、この成形体を加熱架橋して、冷媒輸送用ホースを得て、下記に示す評価条件により、冷媒輸送用ホースの内面樹脂の劣化状況、冷凍機油の変色状況を評価した。
なお、評価を簡素化するため、機械強度(モジュラス)及び金型からの離型性については、EOM層又はEPM層用ゴム組成物のみで評価し、PA6層とEOM層又はEPM層との接着性については、PA6層用樹脂組成物と、EOM層又はEPM層用ゴム組成物との積層体で評価した。
【0023】
(機械強度(モジュラス))
厚さ2mmの未架橋のEOM及びEPMゴムシート(ゴム組成物)をプレス加熱により架橋させた後、JIS K6251で規定されるダンベル状3号形試験片を作製した。
JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて、下記の基準に基づいて100%伸び引張応力(M100)を評価した。
○:5.0MPa以上
×:5.0MPa未満
【0024】
(PA6層とEOM層又はEPM層との接着性)
厚さ0.15mmのPA6樹脂シートと、厚さ2mmの未架橋のEOM又はEPMゴムシートとを、プレス加熱により架橋接着させた後、幅10mm×長さ100mmの寸法に切り出して試験片を作製した。
JIS K6256-1「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-接着性の求め方-第1部:布とのはく離強さ」に準じて、はく離速度50mm/分で90°剥離を行い、下記の基準に基づいて接着力を評価した。
○:3.9N/mm以上
×:3.9N/mm未満
【0025】
(ホースの内面樹脂の劣化状況)
示差走査熱量計(DSC)により、前記ホースから採取した内面樹脂(PA6)の常態時の酸化開始温度(ITO)を測定し、下記の基準に基づいて劣化状況を評価した。
○:現行品の常態時(265~275℃)との温度差-10℃未満
×:現行品の常態時(265~275℃)との温度差-10℃以上
【0026】
(冷凍機油の変色状況)
所定長さに切断した前記ホースの両端に口金具を取り付け、ホース内に冷凍機油(PAG)を満たした状態で密栓をして、150℃の環境下にて168時間放置した後、下記の基準に基づいて変色状況を評価した。
○:現行品の変色レベルと同等以下
×:現行品の変色レベルより大きい
【0027】
(金型からの離型性)
厚さ2mmの未架橋のEOM及びEPMゴムシート(ゴム組成物)をプレス加熱により架橋させた後、金型からゴムシートを取り出す際、下記の基準に基づいて離型性を評価した。
○:金型との張り付きなし
△:金型との張り付きあり(取り出し可能)
×:金型との張り付きあり(取り出し不可能)
【0028】
【表1】
【0029】
各実施例の結果によれば、冷媒や冷凍機油とは直接接触しないEOM層又はEPM層である外層に対して、特定の老化防止剤を配合することによって、理由は不明ではあるが、冷凍機油の変色を防止できるという効果を発揮することができた。また、EOM及びEPMの何れを採用しても、同様の効果を発揮できることがわかる。
これに対して、共架橋剤を含有しない比較例1によると、機械的強度に劣る結果になり、共架橋剤の含有量が多すぎる比較例2によると、PA6層とEOM層との間の接着力に劣る結果となった。また、老化防止剤を含有しない比較例3によれば、内層の樹脂が劣化し、かつ、成型時の金型からの離型性に若干劣る結果となり、ベンズイミダゾール系老化防止剤を含有しない比較例4、及び、芳香族第二級アミン系老化防止剤を含有しない比較例5によれば、内層の樹脂が劣化し、老化防止剤の含有量が多すぎる比較例6によれば、冷凍機油の変色が発生し、かつ、成型時の金型からの離型性に若干劣る結果となった。さらに、液状ポリマーである接着剤を含有しない比較例7によれば、PA6層とEOM層との間の接着力に劣る結果となり、液状ポリマーである接着剤の含有量が多すぎる比較例8によれば、成型時の金型からの離型性に若干劣る結果となった。
そして、特に比較例4及び5の結果と、特に実施例5及び6の結果とを考慮すると、これらの2種の老化防止剤を併用することにより、内層の樹脂の劣化を防止できるという顕著な効果を奏することがわかる。