(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220303BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220303BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220303BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220303BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220303BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220303BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220303BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220303BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220303BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220303BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220303BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20220303BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220303BHJP
A61K 39/44 20060101ALI20220303BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220303BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220303BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20220303BHJP
A61K 49/16 20060101ALI20220303BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20220303BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220303BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220303BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20220303BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220303BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220303BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220303BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61P31/12
A61P43/00 107
A61K47/68
A61K47/55
A61P37/06
A61K39/44
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 N
A61K39/395 S
A61K39/395 T
A61K49/00
A61K51/10 200
A61K49/16
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K38/18
A61K38/02
A61K38/19
A61K31/65
A61K31/704
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/40
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2019508956
(86)(22)【出願日】2017-08-15
(86)【国際出願番号】 US2017046875
(87)【国際公開番号】W WO2018035084
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/095546
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/109267
(32)【優先日】2016-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516195199
【氏名又は名称】エピムアブ バイオセラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ウー チェンビン
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/079081(WO,A1)
【文献】特表2014-526895(JP,A)
【文献】特表2014-504860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
C12P
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド鎖(a)、(b)、(c)および(d)を含む、一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体(MAT-Fab抗体)であって:
(a)が、(アミノ末端からカルボキシル末端へ)VL
A-CL-VH
B-CH1-ヒンジ-CH2-CH3m1を含む重ポリペプチド鎖(重鎖)であり、
ここで、
VL
Aは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト軽鎖定常ドメインであるCLに直接融合されており、
VL
A-CLは、第一の抗原またはエピトープであるAを認識する第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分であり、かつ、VH
Bに直接融合されており、
VH
Bは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VH
B-CH1は、第二の抗原またはエピトープであるBを認識する第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分であり、かつ、ヒンジ-CH2に直接融合されており、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m1に直接融合されており、
CH3m1は、第一のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m1定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成しており、
AおよびBは、異なる抗原であるか、または同じ抗原の異なるエピトープであり;
(b)が、VH
A-CH1を含む第一のMAT-Fab軽鎖であり、
ここで、
VH
Aは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VH
A-CH1は、前記第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分であり;
(c)が、VL
B-CLを含む第二のMAT-Fab軽鎖であり、
ここで、
VL
Bは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン軽鎖CLドメインであるCLに直接融合されており、
VL
B-CLは、前記第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分であり;かつ
(d)が、ヒンジ-CH2-CH3m2を含むFcポリペプチド鎖(Fc鎖)であり、
ここで、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m2に直接融合されており、
CH3m2は、第二のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m2定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成しており;
但し:
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ノブを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインが、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ホールを形成するよう突然変異されており;
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ホールを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインが、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ノブを形成するよう突然変異されて
いる、
MAT-Fab抗体。
【請求項2】
CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合においてジスルフィド結合を形成するシステイン残基を導入する突然変異を、CH3m1ドメインおよびCH3m2ドメインに含む、請求項1記載のMAT-Fab抗体。
【請求項3】
CH3m1ドメインまたはCH3m2ドメイン中の、構造的ノブを形成する1以上のKiH突然変異が、トレオニン残基からチロシン残基への変化またはトレオニン残基からトリプトファン残基への変化であり、および
構造的ホールを形成するCH3m1ドメインまたはCH3m2ドメイン中の突然変異が
、
トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせ
、
または
チロシン残基からトレオニン残基への変化
である、請求項1
または2記載のMAT-Fab抗体。
【請求項4】
トレオニン残基からチロシン残基へ変化させるKiH突然変異が、MAT-Fab抗体の重鎖のCH3m1ドメインのトレオニンをSEQ ID NO:1の位置610のチロシンへ変化させ、および
チロシン残基からトレオニン残基へ変化させる突然変異が、MAT-Fab抗体のFc鎖のCH3m2ドメインのチロシンをSEQ ID NO:4の位置213のトレオニンへ変化させるか、または
トレオニン残基からトリプトファン残基へ変化させるKiH突然変異が、MAT-Fab抗体の重鎖のCH3m1ドメインのトレオニンをSEQ ID NO:5の位置610のトリプトファンへ変化させ、および
トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせが、MAT-Fab抗体のFc鎖のCH3m2ドメインのトレオニンのSEQ ID NO:8の位置172のセリンへ変化と、MAT-Fab抗体のFc鎖のCH3m2ドメインのロイシンのSEQ ID NO:8の位置174のアラニンへ変化と、MAT-Fab抗体のFc鎖のCH3m2ドメインのチロシンのSEQ ID NO:8の位置213のバリンへ変化との組み合わせである、
請求項
3記載のMAT-Fab抗体。
【請求項5】
CH3m1ドメインおよびCH3m2ドメインの各々が、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの間
にジスルフィド結合
を形成する突然変異をさらに含
み、該突然変異が、セリンまたはチロシン残基のシステインへの置換である、請求項1乃至
4のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項6】
MAT-Fab抗体の重鎖のCH3m1ドメインが、SEQ ID NO:5の位置598のセリンからシステインへの変化を含み、および
MAT-Fab抗体のFc鎖のCH3m2ドメインが、SEQ ID NO:8の位置155のチロシンからシステインへの変化を含む、請求項
5記載のMAT-Fab抗体。
【請求項7】
重鎖(a)およびFc鎖(d)のCH2ドメインが各々、少なくとも1つのFcエフェクター機能を低減または排除する1以上の突然変異を含む、請求項1乃至
6のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項8】
重鎖のCH2ドメインおよびFc鎖のCH2ドメインが各々、(EUナンバリングで)ロイシン234をアラニンへ変化させ、またロイシン235をアラニンへ変化させる2つの突然変異を含む、請求項
7記載のMAT-Fab抗体。
【請求項9】
SEQ ID NO:1
のアミノ酸残基23~691からなるアミノ酸配列を含む重鎖、
SEQ ID NO:2
のアミノ酸残基20~244からなるアミノ酸配列を含む第一の
MAT-Fab軽鎖、
SEQ ID NO:3
のアミノ酸残基21~235からなるアミノ酸配列を含む第二の
MAT-Fab軽鎖、および
SEQ ID NO:4
のアミノ酸残基23~253からなるアミノ酸配列を含むFc鎖
、
または
SEQ ID NO:5のアミノ酸残基23~691からなるアミノ酸配列を含む重鎖、
SEQ ID NO:6のアミノ酸残基20~244からなるアミノ酸配列を含む第一のMAT-Fab軽鎖、
SEQ ID NO:7のアミノ酸残基21~235からなるアミノ酸配列を含む第二のMAT-Fab軽鎖、および
SEQ ID NO:8のアミノ酸残基23~253からなるアミノ酸配列を含むFc鎖
を含む、請求項1
または2記載のMAT-Fab抗体。
【請求項10】
異なる抗原が、異なるサイトカインである、請求項1
乃至3のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項11】
異なるサイトカインが、IL-12とTWEAK、IL-13とIL-lβ、TNFαとBlys、およびTNFαとIL-12p40からなる群より選択される、請求項
10記載のMAT-Fab抗体。
【請求項12】
異なる抗原が、以下からなる抗原ペアの群より選択される、請求項1乃至
4のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体:
CD20とCD3、CD3とCD19、CD3とFc-ガンマ-RIIIA、CD3とTPBG、CD3とEpha10、CD3とIL-5Rα、CD3とTASCTD-2、CD3とCLEC12A、CD3とプロミニン-1、CD3とIL-23R、CD3とROR1、CD3とIL-3Rα、CD3とPSA、CD3とCD8、CD3とグリピカン3、CD3とFAP、CD3とEphA2、CD3とENPP3、CD3とCD33、CD3とCD133、CD3とEpCAM、CD3とCD19、CD3とHer2、CD3とCEA、CD3とGD2、CD3とPSMA、CD3とBCMA、CD3とA33、CD3とB7-H3、CD3とEGFR、CD3とP-カドヘリン、CD3とHMW-MAA、CD3とTIM-3、CD3とCD38、CD3とTAG-72、CD3とSSTR、CD3とFRA、CD16とCD30、CD64とHer2、CD137とCD20、CD138とCD20、CD19とCD20、CD38とCD20、CD20とCD22、CD40とCD20、CD47とCD20、CD137とEGFR、CD137とHer-2、CD137とPD-1、CD137とPD-L1、PD-1とPD-L1、VEGFとPD-L1、Lag-3とTIM-3、OX40とPD-1、TIM-3とPD-1、TIM-3とPD-L1、EGFRとDLL-4、VEGFとEGFR、HGFとVEGF、VEGFとAng2、EGFRとcMet、PDGFとVEGF、VEGFとDLL-4、OX40とPD-L1、ICOSとPD-1、ICOSとPD-L1、Lag-3とPD-1、Lag-3とPD-L1、Lag-3とCTLA-4、ICOSとCTLA-4、CD138とCD40、CD38とCD138、CD38とCD40、CD-8とIL-6、CSPGとRGM A、CTLA-4とBTN02、CTLA-4とPD-1、IGFlとIGF2、IGFl/2とErb2B、IGF-IRとEGFR、EGFRとCD13、IGF-IRとErbB3、EGFR-2とIGFR、第IXa因子とMet、第X因子とMet、VEGFR-2とMet、VEGF-Aとアンジオポエチン-2(Ang-2)、MAGとRGM A、NgRとRGM A、NogoAとRGM A、OMGpとRGM A、PD-L1とCTLA-4、PD-1とTIM-3、RGM AとRGM B、Te38とTNFα、TNFαとCD-22、TNFαとCTLA-4、TNFαとGP130、およびTNFαとRANKリガンド。
【請求項13】
同じ抗原の異なるエピトープが、VEGFの第一のエピトープとVEGFの異なる第二のエピトープ、またはHer2の第一のエピトープとHer2の第二の異なるエピトープである、請求項1乃至
4のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項14】
MAT-Fab抗体が結合する異なる抗原の一方が、エフェクター細胞の表面上に発現される抗原であり、MAT-Fab抗体が結合する他方の抗原が、ヒト対象にとって有害であると見なされる標的細胞の表面上に発現される障害関連抗原であり、
エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージからなる群より選択され、および
有害であると見なされる標的細胞が、腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞からなる群より選択される、
請求項1乃至
4のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項15】
エフェクター細胞上の抗原が、CD3、CD16、およびCD64からなる群より選択される、請求項
14記載のMAT-Fab抗体。
【請求項16】
有害
であると見なされる標的細胞の表面上に発現される障害関連抗原が、腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原である、請求項
15記載のMAT-Fab抗体。
【請求項17】
腫瘍関連抗原が、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、がん胎児性抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される、請求項
16記載のMAT-Fab抗体。
【請求項18】
腫瘍細胞が、急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫からなる群より選択されるがん障害の悪性B細胞である、請求項
16記載のMAT-Fab抗体。
【請求項19】
治療剤、造影剤、および細胞毒性剤からなる群より選択される作用物質にコンジュゲートされており、
造影剤が、放射性標識、酵素、蛍光標識、発光標識、生物発光標識、磁気標識、ビオチン、ストレプトアビジン、およびアビジンからなる群より選択され、および
治療剤または細胞毒性剤が、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、アントラサイクリン、毒素、およびアポトーシス剤からなる群より選択される、
請求項1乃至
18のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体。
【請求項20】
請求項1乃至
19のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項21】
非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹部内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、側脳室内、結腸内、子宮頸部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、経膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、および経皮からなる群より選択される少なくとも1つの様式による個体への投与のために調製される、請求項
20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1乃至
18のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体の該重鎖、該第一のMAT-Fab軽鎖、該第二のMAT-Fab軽鎖、および該Fc鎖をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項
22記載の単離された
ポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項24】
pcDNA、pTT
、pTT3、pEFBOS、pBV、pJV、pcDNA3.1 TOPO、pEF6 TOPO、およびpBJからなる群より選択される、請求項
23記載のベクター。
【請求項25】
請求項
23または
24記載のベクターを含む、真核宿主細胞または原核宿主細胞である、単離された宿主細胞。
【請求項26】
真核宿主細胞が、哺乳動物宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真菌宿主細胞、真核藻類宿主細胞、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および魚類宿主細胞からなる群より選択される、請求項
25記載の単離された宿主細胞。
【請求項27】
哺乳動物宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV-1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞、およびMDCK細胞からなる群より選択される、請求項
26記載の単離された宿主細胞。
【請求項28】
請求項1乃至
18のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体の該重鎖、該第一のMAT-Fab軽鎖、該第二のMAT-Fab軽鎖、および該Fc鎖をコードする1以上の発現ベクターを含む単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項29】
宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項
28記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項30】
請求項
25乃至
29のいずれか一項記載の宿主細胞を
、培養培地中にて培養する工程を含む、MAT-Fab抗体を生産する方法。
【請求項31】
個体における疾患または障害を処置するための医薬の製造における請求項1乃至
18のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体の使用。
【請求項32】
エフェクター細胞上の抗原に結合しかつヒト対象にとって有害である標的細胞上に発現される障害関連抗原に結合する障害の処置における使用のための請求項1乃至
9または12乃至
18のいずれか一項記載のMAT-Fab抗体であって、エフェクター細胞と
有害である標的細胞との両方へのMAT-Fab抗体の結合が、エフェクター細胞と
有害である標的細胞との相互作用を媒介し、障害に対する処置を提供し、
エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージからなる群より選択され、および
有害である標的細胞が、腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞からなる群より選択される、
MAT-Fab抗体。
【請求項33】
エフェクター細胞上に発現される抗原が、T細胞上に発現されるCD3であり、
障害関連抗原が、悪性B細胞上のCD20である、請求項32記載の使用のためのMAT-Fab抗体。
【請求項34】
MAT-Fab抗体が、
SEQ ID NO:1
のアミノ酸残基23~691からなるアミノ酸配列を含む重鎖、
SEQ ID NO:2
のアミノ酸残基20~244からなるアミノ酸配列を含む第一の
MAT-Fab軽鎖、
SEQ ID NO:3
のアミノ酸残基21~235からなるアミノ酸配列を含む第二の
MAT-Fab軽鎖、および
SEQ ID NO:4
のアミノ酸残基23~253からなるアミノ酸配列を含むFc鎖
、
または
SEQ ID NO:5のアミノ酸残基23~691からなるアミノ酸配列を含む重鎖、
SEQ ID NO:6のアミノ酸残基20~244からなるアミノ酸配列を含む第一のMAT-Fab軽鎖、
SEQ ID NO:7のアミノ酸残基21~235からなるアミノ酸配列を含む第二のMAT-Fab軽鎖、および
SEQ ID NO:8のアミノ酸残基23~253からなるアミノ酸配列を含むFc鎖
を含む、請求項33記載の使用のためのMAT-Fab抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、改変された二重特異性抗体、その組成物、ならびにそのような二重特異性抗体を製造および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ここ50年間にわたる新型抗体の改変の取り組みは、様々な二重特異性および多重特異性結合フォーマットの実証および利用可能性を導いた。その多様なフォーマットは、例えば、単鎖Fv抗体(scFv、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988)(非特許文献1))、四価のIgG-scFv融合体(Coloma and Morrison, Nat. Biotechnol., 15: 159-163 (1997)(非特許文献2))、ダイアボディ(Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)(非特許文献3))、タンデムscFv分子(例えば、Bargou et al., Science 321, 974-977 (2008)(非特許文献4)を参照のこと)、四価のIgG様二重可変ドメイン抗体(「DVD-Ig」、Wu et al., Nat. Biotechnol., 25: 1290-1297 (2007)(非特許文献5))、四価のFabs-in-tandem免疫グロブリン(「FIT-Ig」)(WO 2015/103072, Epimab Biotheraupeutics(特許文献1))、二価のラット/マウスハイブリッド二重特異性IgG(Lindhofer et al., J. Immunol., 155: 219-225 (1995)(非特許文献6))、および二重特異性クロスマブ結合タンパク質(例えば、WO 2013/026831 (Roche Glycart AG)(特許文献2);WO 2014/167022 (Engmab AG)(特許文献3)を参照のこと)を含む。疾患の処置における使用の可能性に関連して特に関心が高いのは、2種の異なるエピトープまたは抗原に結合できる種々の改変された二重特異性抗体を設計および生産し、それによって併用療法の必要性をなくすことであった。例えば、Spiess et al., Molec. Immunol., 67: 95-106 (2015)(非特許文献7)、Riethmuller, Cancer Immun., 12: 12-18 (2012)(非特許文献8)、Kontermann, Acta Pharmacologica Sinica, 26 (1): 1-9 (2005)(非特許文献9)、Marvin et al., Acta Pharmacologica Sinica, 26(6): 649-658 (2005)(非特許文献10)の概説を参照のこと。
【0003】
種々のがんを処置するための二重特異性抗体の開発に関心が高まっている。特に関心が高いのは、T細胞を再度標的指向させて種々の腫瘍細胞を殺傷する、二重特異性抗体の潜在的用途である。そのような「T細胞再標的指向」アプローチの一例では、標的がん細胞上の表面抗原に結合し、なおかつ、未熟T細胞上のT細胞受容体(TCR)複合体の活性化構成部分(例えばCD3)にも結合する、二重特異性抗体を設計することができる。両細胞タイプへの二重特異性抗体の同時結合は、標的細胞とT細胞との間の一時的会合(細胞間シナプス)を提供し、標的とされたがん細胞を攻撃する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性化を導く。よって、CTLのMHC拘束性活性化に通常必要とされるような、標的細胞によるペプチド抗原提示またはT細胞の特異性とは無関係に、特定の標的がん細胞に対しT細胞が人為的に再度標的指向されてきた。これに関連して、CTLは、標的細胞がCTLに二重特異性抗体を提示しているとき、すなわち免疫シナプスが模倣されるときにのみ活性化され、単に抗体がT細胞抗原に結合しただけでは活性化されないことがとりわけ重要である。
【0004】
T細胞を腫瘍細胞に対し再度標的指向させるために関心が持たれ続けている二重特異性抗体フォーマットは、例えば標準的グリシン-セリン(G4S)リンカーによって連結された2つのscFv抗体を含む、「二重特異性T細胞エンゲージャー」または「BiTE」抗体であり、ここで、一方のscFvは、腫瘍抗原(17-1A腫瘍抗原など)の結合部位を提供し、そして、他方のscFvは、T細胞上のCD3抗原の結合部位を提供する(Mack et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 92: 7021-7025 (1995)(非特許文献11))。抗CD3×抗CD19 BiTE抗体であるブリナツモマブが、珍しい形態のB細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)の処置のために米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。がん細胞を攻撃するためにT細胞を再度標的指向させることにおける使用可能性について調査されている他の二重特異性抗体フォーマットは、四価のタンデムダイアボディ(「TandAb」、Kipriyanov et al., J. Mol. Biol., 293: 41-56 (1999)(非特許文献12); Arndt et al., Blood, 94: 2562-2568 (1999)(非特許文献13))および二重親和性再標的指向タンパク質(「DART」、Johnson et al., J. Mol. Biol., 399: 436-449 (2010)(非特許文献14))である。二重特異性抗体はまた、腫瘍細胞を攻撃するためのNK細胞およびマクロファージなどの細胞傷害性エフェクター細胞を再度標的指向させることにおける使用に関しても研究されている(例えば、Weiner et al., Cancer Res., 55: 4586-4593 (1995)(非特許文献15))。
【0005】
現在のところ、ヒト対象の処置においてがん細胞を攻撃するためにT細胞または他の細胞を再度標的指向させることに使用する最も好ましいアプローチが何かは不明である。例えば、T細胞の活性化は、強力なサイトカインの強烈かつ持続的な放出を引き起こし得る。そのような「サイトカインストーム」は、患者において局所組織だけでなく全身にも有害作用を及ぼし得る。したがって、がんを処置するためのT細胞または他の細胞を再度標的指向させる方法は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで行われる1以上の工程を含み得る。
【0006】
BiTE、ダイアボディ、DART、およびTandAbなどの多くの二重特異性フォーマットは、単鎖フォーマットを使用して、ペプチドリンカーを介して異なる可変ドメインを連結し、二重特異性を達成する。これらのフォーマットはFc領域を含有しないので、これらは、通常、非常に短いインビボ半減期を有し、かつ、物理的に不安定である(Spiess et al. (2015)(非特許文献7)、前掲論文)。典型的には、Fc含有二重特異性フォーマットは、半減期を増加させるように設計され、かつ、Fcエフェクター機能も提供し得る。多数のそのようなFc含有二重特異性フォーマットは、ノブ-イントゥ-ホール(knobs-into-holes)(「KiH」)技術(Ridgway et al, Protein Eng., 9: 617-621 (1996)(非特許文献16))を採用して、Fc領域のアセンブリおよび安定性を改善し、さらには、2種の異なる抗体由来の重鎖のCH3ドメイン間のヘテロ二量化を促進することで、相互に異種である二重特異性抗体を導くが、そのフォーマットの一部は依然として、軽鎖誤対合が起こりやすいなどの他の課題を有し得る。軽鎖誤対合は、意図するフォーマットの非効率的な生産を導き得る。したがって、この問題に対処するための取り組みにおいて様々なフォーマットが設計されている。
【0007】
上の考察から明らかなように、新しい治療用抗体を開発するための可能性のあるフォーマットとして設計および研究されている、多種多様な二重特異性抗体フォーマットがある。それにもかかわらず、多数の疾患を処置するための新しい治療用抗体の開発に役立つ包括的な一連の特性を提供するフォーマットは、これまで1つとして出現していない。二重特異性結合タンパク質の適用可能性が増加していること、そして、現在利用可能なフォーマットに伴う結果が多様であることを考慮すれば、特定の疾患を処置するための抗体の開発に伴う特定の課題に対処するように改変できる、改善されたフォーマットの必要性が依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO 2015/103072
【文献】WO 2013/026831
【文献】WO 2014/167022
【非特許文献】
【0009】
【文献】Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988)
【文献】Coloma and Morrison, Nat. Biotechnol., 15: 159-163 (1997)
【文献】Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)
【文献】Bargou et al., Science 321, 974-977 (2008)
【文献】Wu et al., Nat. Biotechnol., 25: 1290-1297 (2007)
【文献】Lindhofer et al., J. Immunol., 155: 219-225 (1995)
【文献】Spiess et al., Molec. Immunol., 67: 95-106 (2015)
【文献】Riethmuller, Cancer Immun., 12: 12-18 (2012)
【文献】Kontermann, Acta Pharmacologica Sinica, 26 (1): 1-9 (2005)
【文献】Marvin et al., Acta Pharmacologica Sinica, 26(6): 649-658 (2005)
【文献】Mack et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 92: 7021-7025 (1995)
【文献】Kipriyanov et al., J. Mol. Biol., 293: 41-56 (1999)
【文献】Arndt et al., Blood, 94: 2562-2568 (1999)
【文献】Johnson et al., J. Mol. Biol., 399: 436-449 (2010)
【文献】Weiner et al., Cancer Res., 55: 4586-4593 (1995)
【文献】Ridgway et al, Protein Eng., 9: 617-621 (1996)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、同じ標的抗原上に存在するか、2種の異なる標的抗原上に存在するかにかかわらず、2種の異なるエピトープに結合するように改変されている、直列に連結されたFab系二重特異性抗体を提供することによって、上記のニーズに応える。本発明に係る二重特異性抗体は、2つのFabユニット(各Fabユニットは、抗体が結合するエピトープまたは抗原の一方にのみ結合する)を有し、「一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体」または「MAT-Fab二重特異性抗体」または単に「MAT-Fab抗体」と称される。本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、MAT-Fab抗体が結合する2種の異なるエピトープまたは2種の異なる抗原の各々に対して一価(1つの結合部位)である。本発明に係るMAT-Fab二重特異性抗体は、「重ポリペプチド鎖」(または「MAT-Fab重鎖」)、「Fcポリペプチド鎖」(または「MAT-Fab Fc鎖」)、および2種の異なる軽鎖(「MAT-Fab第一軽鎖」および「MAT-Fab第二軽鎖」)を含む、四量体タンパク質である。
【0011】
免疫グロブリンのFab断片は、共有結合で会合して抗体結合部位を形成する、2つの構成部分から構成される。2つの構成部分は各々、可変ドメイン-定常ドメイン鎖(VH-CH1またはVL-CL)であり、それゆえ、Fabの各V-C鎖を、Fab結合ユニットの「半分」と言ってよい。MAT-Fab抗体の重鎖は、直列に融合された第一のFabユニット(V-C)の半分および第二のFabユニット(V-C)の半分と、それに続く、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびC末端CH3ドメインを含むFc領域とを含む。MAT-Fab Fc鎖は、アミノ末端ヒンジ領域を含み、アミノ末端ヒンジ領域は、CH2ドメインに連結されており、CH2ドメインは、カルボキシル末端CH3ドメインに連結されている(天然に存在するIgG分子に見いだされるものと同じ順序で)。しかしながら、本発明に係るMAT-Fab二重特異性抗体のFc鎖は、そのアミノ末端ヒンジ領域またはそのカルボキシル末端CH3ドメインに付着される、機能的Fab結合ユニットの形成に必須の、Fabユニットのいかなる部分も、他のいかなる機能的ドメインも含有しない。2つのMAT-Fab軽鎖の各々は、各Fab結合ユニットの他方の半分(V-C)を提供する。MAT-Fab軽鎖および重鎖は、各軽鎖が、重鎖上のその対応するV-Cと会合して、意図するFab結合ユニットを形成し、かつ、重鎖上の間違ったV-Cへの軽鎖の誤対合に干渉するのを防止するように設計される。MAT-Fab Fc鎖は、MAT-Fab重鎖のFc領域と二量化するのが望ましいので、MAT-Fab Fc鎖は、MAT-Fab重鎖の対応する部分と本質的に同一であることが好ましい(但し、2つのMAT-Fab重鎖または2つのMAT-Fab Fc鎖のホモ二量体化に対する、重鎖のCH3ドメインとMAT-Fab Fc鎖の優先的な対合を促進するように設計された、ノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を除く)。任意で、MAT-Fab重鎖のCH3ドメインおよびFc鎖を、追加のジスルフィド結合形成を促進するシステイン残基の導入によって、または1以上の塩橋の導入によってさらに有利に修飾してよく、そのような付加は、ヘテロ二量体の改善された安定性を導く。塩橋は、水素結合および静電相互作用(例えば、グルタミン酸残基とリジン残基との間で起こり得る)を含む。
【0012】
本発明の機能的MAT-Fab二重特異性抗体のアセンブリは、各MAT-Fab軽鎖を重鎖上のその対応する半Fabセグメントへ会合して完全なFab結合ユニットを形成すること、および、重鎖のFcドメインとMAT-Fab Fc鎖のFcドメインとのヘテロ二量化によって達成される。「ノブ-イントゥ-ホール」(「KiH」)技術の1以上の公知の突然変異を使用して、重鎖のFcドメインとFc鎖のFcドメインとのヘテロ二量化が指向され、かつ優先され、ここでは、一方の鎖上の一方のFc領域のCH3ドメインが、同一のノブ含有鎖とのホモ二量体化に不利に働く(disfavor)、突出した構造的ノブを形成するよう突然変異される。他方の鎖の他方のFc領域のCH3ドメインは、同一のホール含有鎖とのホモ二量体化に不利に働きもしつつ、構造的ノブを提供する突然変異を有するCH3ドメインと効率的に対合する構造的ホールを形成するよう突然変異される(Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996); Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997))。したがって、4つのポリペプチド鎖のアセンブリは、各エピトープまたは抗原に対して一価であり、かつ、単一重鎖と会合する軽鎖によって全てのFabユニットが形成されるという点で構造的に非対称である、二重特異性抗体を提供する。
【0013】
本発明は、4つのポリペプチド鎖(a)、(b)、(c)および(d)を含む、一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体(「MAT-Fab抗体」、「MAT-Fab」)を提供する:
(a)(アミノ末端からカルボキシル末端へ)VLA-CL-VHB-CH1-ヒンジ-CH2-CH3m1を含む重ポリペプチド鎖(重鎖)であって、
ここで、
VLAは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト軽鎖定常ドメインであるCLに直接融合されており、
VLA-CLは、第一の抗原またはエピトープを認識する第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分であり、かつ、VHBに直接融合されており、
VHBは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VHB-CH1は、第二の抗原またはエピトープを認識する第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分であり、かつ、ヒンジ-CH2に直接融合されており、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m1に直接融合されており、
CH3m1は、第一のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m1定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成している、
重鎖;
(b)VHA-CH1を含む第一のMAT-Fab軽鎖であって、
ここで、
VHAは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VHA-CH1は、前記第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分である、
第一のMAT-Fab軽鎖;
(c)VLB-CLを含む第二のMAT-Fab軽鎖であって、
ここで、
VLBは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン軽鎖CLドメインであるCLに直接融合されており、
VLB-CLは、前記第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分である、
第二のMAT-Fab軽鎖;および
(d)ヒンジ-CH2-CH3m2を含むFcポリペプチド鎖(Fc鎖)であって、
ここで、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m2に直接融合されており、
CH3m2は、第二のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m2定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成している、
Fc鎖;
但し:
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ノブを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインは、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く構造的ホールを形成するよう突然変異されており;
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ホールを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインは、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く構造的ノブを形成するよう突然変異されており;
任意で(あってもなくても)、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合においてジスルフィド結合形成に有利に働くシステイン残基を導入する突然変異を、重鎖のCH3m1ドメインとFc鎖のCH3m2ドメインの両方に含む。
【0014】
さらなる選択肢は、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの間に、ドメインの一方における残基が他方のドメインにおける残基と水素結合して静電相互作用(結合)できるように、いずれか一方または両方のドメインを突然変異させることによって、1以上の塩橋を設計することである。例えば、これに限定されないが、CH3m1ドメイン中のアミノ酸残基をグルタミン酸またはアスパラギン酸残基へ変化(突然変異)させ、CH3m2ドメイン中の残基をリジンまたはアルギニン残基へ変化(突然変異)させることによって、CH3m1ドメイン中のグルタミン酸またはアスパラギン酸残基が、CH3m2ドメイン中のリジンまたはアルギニン残基と水素結合して静電相互作用できるように、塩橋を導入してよい。
【0015】
重鎖のCH3m1ドメイン中およびFc鎖のCH3m2ドメイン中で行われた前述の相補的なCH3ドメイン突然変異は、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体形成に有利に働く、すなわち、それぞれのCH3ドメイン突然変異は、2つのFc鎖または2つの重鎖のホモ二量体化に対する、MAT-Fab Fc鎖とMAT-Fab重鎖との優先的な対合を促進するよう設計される。
【0016】
上記のMAT-Fab二重特異性抗体の構造の特徴は、全ての隣接する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変および定常ドメインが、介在アミノ酸またはペプチドリンカーなしで、互いに直接連結されていることである。隣接する免疫グロブリンドメインのそのような直接連結(隣接ドメインに「直接融合された」1つのドメインを有するとも言う)は、1以上の介在アミノ酸を導入することによって形成され得る潜在的に免疫原性の部位を排除し、所与の対象に対して異種または「外来」であり、かつ対象の免疫系によってそのように認識される、ペプチドセグメントを生み出す。抗体の改変および生産の分野における一般的な理解に反して、MAT-Fab重鎖上のCLドメインとVHBドメインとの間、ひいてはタンデムFab結合ユニット間のリンカーの不在は、MAT-Fab抗体中のFab結合ユニットのいずれの結合活性にも悪影響を及ぼさない。
【0017】
上記のMAT-Fab二重特異性抗体の構造によれば、重鎖のCH3m1ドメインまたはFc鎖のCH3m2ドメインは、構造的ノブを含むCH3ドメインの一方(すなわち、CH3m1またはCH3m2)と、構造的ホールを含む他方のCH3ドメイン(すなわち、CH3m2またはCH3m1)との対合に有利に働く構造的ノブを形成する、ノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を含む。好ましくは、相補的な構造的ホールを含むCH3m2ドメインとの対合のための構造的ノブを重鎖のCH3m1ドメイン中に形成する、1以上の突然変異が行われる。本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中でアミノ酸残基を変化させて、構造的ノブを形成する突然変異の例は、トレオニン残基からチロシン残基への変化またはトレオニン残基からトリプトファン残基への変化を含むが、これらに限定されない。本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中でアミノ酸残基を変化させて、構造的ノブを形成する特定の突然変異の例は、トレオニン366残基からチロシン残基(T366Y)への変化およびトレオニン366残基からトリプトファン残基(T366W)への変化を含むが、これらに限定されない。Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996); Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997)。
【0018】
上記のMAT-Fab二重特異性抗体の構造によれば、重鎖のCH3m1ドメインまたはFc鎖のCH3m2ドメインは、構造的ホールを含むCH3ドメインの一方(すなわち、CH3m1またはCH3m2)と、構造的ノブを含む他方のCH3ドメイン(すなわち、CH3m2またはCH3m1)との対合に有利に働く構造的ホールを形成する、ノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を含む。好ましくは、構造的ノブを含むCH3m1との対合のための構造的ホールをFcポリペプチド鎖のCH3m2ドメイン中に形成する、1以上の突然変異が行われる。本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のCH3ドメイン中で1以上の残基を変化させて、構造的ホールを形成する突然変異の例は、チロシン残基からトレオニン残基への変化、および、トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせを含むが、これらに限定されない。本発明のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中に構造的ホールを形成する好ましい突然変異は、チロシン407残基からトレオニン残基(Y407T)への変化である。Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996)。本発明のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中に構造的ホールを形成する突然変異の好ましい組み合わせは、トレオニン366残基からセリン残基(T366S)への変化、ロイシン368残基からアラニン残基(L368A)への変化、およびチロシン407残基からバリン残基(Y407V)への変化を含む。Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997)。
【0019】
別の態様において、重鎖のCH3m1ドメイン中およびFcポリペプチド鎖のCH3m2ドメイン中で、セリン残基からシステイン残基への変化またはチロシン残基からシステインへの変化のような、システイン残基を提供するさらなる突然変異を行い、重鎖のCH3m1ドメインが、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体のFcポリペプチド鎖のCH3m2ドメインと対合するときに、追加のジスルフィド連結を形成してよい。システイン挿入の具体的な非限定例は、相補鎖中のセリン354からシステインへの置換(S354C)およびチロシン349からシステインへの置換(Y349C)である。Merchant et al., Nat. Biotechnol., 16: 677-681 (1998)。
【0020】
ある好ましい態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、サイトカイン、細胞表面タンパク質、酵素、および受容体からなる群より選択される1または2種の標的抗原に結合することができる。
【0021】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、1または2種の標的抗原の生物学的機能を調節することができる。より好ましくは、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、1種以上の標的抗原を阻害または中和することができる。
【0022】
本発明のある態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、2種の異なるサイトカインに結合することができる。そのようなサイトカインは、リンホカイン、モノカイン、およびポリペプチドホルモンからなる群より選択される。
【0023】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、細胞の表面上に発現される少なくとも1種の標的抗原に結合することができる。より好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、2種の細胞表面抗原に結合する。2種の細胞表面抗原は、同じ細胞上にあっても、同じタイプの2つの細胞上にあってもよい。しかしながら、より好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、第一の細胞の表面上に発現される抗原に結合し、かつ、第二の細胞の表面上に発現される第二の抗原に結合し、ここで、第一の細胞および第二の細胞は、異なるタイプの細胞である。好ましくは、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、免疫系のエフェクター細胞上に発現される第一の細胞表面抗原に結合し、なおかつ、個体にとって有害である(それゆえ、排除されるか、または数が実質的に低減されることが望ましい)と見なされる細胞の表面上に発現される第二の細胞表面抗原にも結合する。エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、単球、好中球、およびマクロファージを含む。処置を必要とする個体にとって有害であると見なされるかまたは見なされ得、したがって本明細書に記載のMAT-Fab抗体が結合し得る細胞は、がん細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞を含むが、これらに限定されない。したがって、ある特に好ましい態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞の表面上に発現される抗原に結合し、かつ、がん細胞、自己反応性細胞、またはウイルス感染細胞の表面上に発現される抗原に結合する。
【0024】
ある好ましい態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、以下からなる抗原ペアの群より選択される標的抗原のペアに結合する:CD20とCD3、CD3とCD19、CD3とFc-ガンマ-RIIIA、CD3とTPBG、CD3とEpha10、CD3とIL-5Rα、CD3とTASCTD-2、CD3とCLEC12A、CD3とプロミニン-1、CD3とIL-23R、CD3とROR1、CD3とIL-3Rα、CD3とPSA、CD3とCD8、CD3とグリピカン3、CD3とFAP、CD3とEphA2、CD3とENPP3、CD3とCD33、CD3とCD133、CD3とEpCAM、CD3とCD19、CD3とHer2、CD3とCEA、CD3とGD2、CD3とPSMA、CD3とBCMA、CD3とA33、CD3とB7-H3、CD3とEGFR、CD3とP-カドヘリン、CD3とHMW-MAA、CD3とTIM-3、CD3とCD38、CD3とTAG-72、CD3とSSTR、CD3とFRA、CD16とCD30、CD64とHer2、CD137とCD20、CD138とCD20、CD19とCD20、CD38とCD20、CD20とCD22、CD40とCD20、CD47とCD20、CD137とEGFR、CD137とHer-2、CD137とPD-1、CD137とPDL-1、PD-1とPD-L1、VEGFとPD-L1、Lag-3とTIM-3、OX40とPD-1、TIM-3とPD-1、TIM-3とPDL-1、EGFRとDLL-4、VEGFとEGFR、HGFとVEGF、VEGFの第一のエピトープとVEGFの異なる第二のエピトープ、VEGFとAng2、EGFRとcMet、PDGFとVEGF、VEGFとDLL-4、OX40とPD-L1、ICOSとPD-1、ICOSとPD-L1、Lag-3とPD-1、Lag-3とPD-L1、Lag-3とCTLA-4、ICOSとCTLA-4、CD138とCD40、CD38とCD138、CD38とCD40、CD-8とIL-6、CSPGとRGM A、CTLA-4とBTN02、CTLA-4とPD-1、IGFlとIGF2、IGFl/2とErb2B、IGF-IRとEGFR、EGFRとCD13、IGF-IRとErbB3、EGFR-2とIGFR、Her2の第一のエピトープとHer2の第二の異なるエピトープ、第IXa因子とMet、第X因子とMet、VEGFR-2とMet、VEGF-Aとアンジオポエチン-2(Ang-2)、IL-12とTWEAK、IL-13とIL-lβ、MAGとRGM A、NgRとRGM A、NogoAとRGM A、OMGpとRGM A、PDL-1とCTLA-4、PD-1とTIM-3、RGM AとRGM B、Te38とTNFα、TNFαとBlys、TNFαとCD22、TNFαとCTLA-4、TNFαとGP130、TNFαとIL-12p40、およびTNFαとRANKリガンド。
【0025】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞上のCD3に結合する。エフェクター細胞の例は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージを含むが、これらに限定されない。
【0026】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞上に発現される表面抗原に結合する。好ましくは、表面抗原は、CD3、CD16(「FcγRIII」とも称される)、およびCD64(「FcγRI」とも称される)からなる群より選択される。より好ましくは、MAT-Fab抗体は、T細胞上に発現されるようなCD3、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるようなCD16、または、マクロファージ、好中球、もしくは単球上に発現されるようなCD64に結合する。
【0027】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原である表面抗原に結合する。好ましいMAT-Fab態様は、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(「Her2」)、がん胎児性抗原(「CEA」)、上皮細胞接着分子(「EpCAM」)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より非限定的に選択されるものなどの腫瘍関連抗原を認識し得る。
【0028】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞を活性化するエフェクター細胞上の抗原に結合し、かつ、悪性B細胞上の細胞表面抗原に結合する。好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞を活性化するエフェクター細胞上の抗原に結合し、かつ、以下からなる群より選択されるがん障害の悪性B細胞上の細胞表面抗原に結合する:急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫。
【0029】
ある好ましい態様において、MAT-Fab二重特異性抗体は、標的抗原CD3およびCD20に結合する。
【0030】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞上に発現される表面抗原および腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原に結合する。ある好ましい態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、T細胞上のCD3および悪性B細胞上のCD20に結合する。より好ましくは、MAT-Fab二重特異性抗体は、その外側(N末端)のFab結合ユニットでCD20に結合し、かつ、その内側(C近位)のFab結合ユニットでCD3に結合する。
【0031】
ある好ましい態様において、MAT-Fab二重特異性抗体は、CD20およびCD3に結合し、かつ、表1~4のアミノ酸配列または表5~8のアミノ酸配列を含む4つのポリペプチド鎖を含む。
【0032】
なお別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、1または2種のサイトカイン、サイトカイン関連タンパク質、またはサイトカイン受容体に結合することができる。
【0033】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、1種以上のケモカイン、ケモカイン受容体、およびケモカイン関連タンパク質に結合することができる。
【0034】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、T細胞上のCD3、ならびに、HIV感染CD4+T細胞などのウイルス感染細胞の表面上に提示される、ウイルスエンベロープタンパク質に由来する抗原またはエピトープに結合することができる。
【0035】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体はまた、リンホカイン受容体、モノカイン受容体、およびポリペプチドホルモン受容体を含む受容体に結合することができる。
【0036】
別の態様において、上記のMAT-Fab二重特異性抗体は、グリコシル化される。好ましくは、グリコシル化は、ヒトグリコシル化パターンである。
【0037】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のポリペプチド鎖の1つ、2つ、3つ、または4つ全てをコードする1以上の単離された核酸を提供する。ある好ましい態様において、1以上の核酸は、以下の表1~4に示されるアミノ酸配列または表5~8に示されるアミノ酸配列を含む4つのポリペプチド鎖をコードする。
【0038】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つ全てをコードする1以上の単離された核酸を含むベクターを提供する。ベクターは、自律複製型ベクターであっても、ベクター中に存在する単離された核酸を宿主細胞ゲノムに組み込むベクターであってもよい。MAT-Fab抗体の1つ、2つ、3つまたは4つ全てのポリペプチド鎖をコードする単離された核酸をまた、種々の遺伝子解析を行うため、MAT-Fab抗体を発現させるため、または、本明細書に記載のMAT-Fab抗体の1以上の特性を特性決定もしくは改善するため、ベクターに挿入してもよい。
【0039】
別の態様において、本発明に係るベクターを使用して、単離された核酸を複製し、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の1以上のポリペプチドをコードするより多くの核酸を提供してよい。
【0040】
別の態様において、本発明に係るベクターを使用して、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のポリペプチド鎖の1つ、2つ、3つ、または4つ全てをコードする単離された核酸を発現させてよい。本明細書に記載の核酸をクローニングおよび発現させるための好ましいベクターは、pcDNA、pTT(Durocher et al, Nucleic Acids Res., 30(2e9): 1-9 (2002))、pTT3(追加の複数のクローニング部位を有するpTT)、pEFBOS(Mizushima and Nagata, Nucleic Acids Res., 18(17): 5322 (1990))、pBV、pJV、pcDNA3.1 TOPO、pEF6 TOPOおよびpBJを含むが、これらに限定されない。
【0041】
本発明はまた、上記のベクターを含む単離された宿主細胞を提供する。本明細書に記載のベクターを含むそのような単離された宿主細胞は、単離された原核細胞であっても、単離された真核細胞であってもよい。
【0042】
本発明のある態様において、本明細書に記載のベクターを含む単離された原核宿主細胞は、細菌宿主細胞である。細菌宿主細胞は、グラム陽性、グラム陰性、またはグラム不定の細菌細胞であってよい。好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む細菌宿主細胞は、グラム陰性細菌である。さらにより好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む細菌宿主細胞は、大腸菌(Escherichia coli)細胞である。
【0043】
本発明のある態様において、本明細書に記載のベクターを含む単離された宿主細胞は、真核宿主細胞である。本明細書に記載のベクターを含む好ましい単離された真核宿主細胞は、非限定的に、哺乳動物宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真菌宿主細胞、真核藻類宿主細胞、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および魚類宿主細胞を含んでよい。好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む単離された哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV-1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞、およびMDCK細胞からなる群より選択される。本明細書に記載のベクターを含む好ましい単離された真菌宿主細胞は、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポーラ属(Neurospora)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、およびカンジダ属(Candida)からなる群より選択される。より好ましくは、本明細書に記載のベクターを含むサッカロミセス属宿主細胞は、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞である。
【0044】
また、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を生産する方法であって、MAT-Fab二重特異性抗体分子の全ての4つのポリペプチド鎖をコードする核酸を含むベクターを含む単離された宿主細胞を、MAT-Fab二重特異性抗体を生産するのに十分な条件下で培養する工程を含む方法が提供される。
【0045】
本発明の別の局面は、上記の方法によって生産されるMAT-Fab二重特異性抗体である。
【0046】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を、例えば、他のコンジュゲート抗体と同様なやり方で、対になったCH3m1ドメインおよびCH3m2ドメインのいずれか一方または両方の内部またはC末端で、別の化合物にコンジュゲートしてよい。MAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよいそのような化合物は、細胞毒性剤、造影剤、および治療剤を含むが、これらに限定されない。MAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい好ましい造影剤は、非限定的に、放射性標識、酵素、蛍光標識、発光標識、生物発光標識、磁気標識、ビオチン、ストレプトアビジン、およびアビジンを含む。本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい放射性標識は、3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、131I、177Lu、166Ho、および153Smを含むが、これらに限定されない。本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい好ましい細胞傷害性または治療用化合物は、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、アントラサイクリン、毒素、およびアポトーシス剤を含むが、これらに限定されない。
【0047】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、非結晶化MAT-Fab抗体が結合するエピトープまたは抗原に対する結合活性を保持する、結晶化されたMAT-Fab抗体であってよい。そのような結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体はまた、個体に投与されたときに、MAT-Fabの無担体制御放出を提供し得る。結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体はまた、個体に投与されたときに、非結晶化形態と比較してより高いインビボ半減期を示し得る。
【0048】
本発明のある態様は、結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体の放出のための組成物であって、本明細書に記載の通りの結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体、賦形剤成分、および少なくとも1種のポリマー担体を含む組成物を提供する。好ましくは、賦形剤成分は、アルブミン、スクロース、トレハロース、ラクチトール、ゼラチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メトキシポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールからなる群より選択される。好ましくは、ポリマー担体は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリラート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸共重合体)またはPLGA、ポリ(b-ヒドロキシブチラート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン);ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸/アルキルビニルエーテル共重合体、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギナート、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、それらのブレンド、ならびにそれらの共重合体からなる群の1種以上から選択されるポリマーである。
【0049】
別の態様は、有効量の、上記の通りの結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体を含む組成物を、哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物を処置するための方法を提供する。
【0050】
別の態様において、本発明は、個体にとって有害であると見なされる1または2種のエピトープまたは抗原に結合するMAT-Fab二重特異性抗体を個体に投与する工程を含む、個体における疾患または障害を処置する方法であって、MAT-Fab二重特異性抗体による前記1または2種のエピトープまたは抗原の結合が疾患または障害に対する処置を提供する方法を提供する。
【0051】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞(T細胞、NK細胞、単球、好中球、マクロファージなど)を再度標的指向させて(または「動員」して)、ヒト対象にとって有害であると見なされる(それゆえ、有害な標的細胞を排除するか、またはその数を実質的に低減することが望ましい)特定の標的細胞を攻撃する工程を含む、障害を処置する方法において特に有用である。そのような有害な標的細胞の好ましい例は、腫瘍細胞、例えば、血液(リンパ液を含む)腫瘍細胞および固形腫瘍細胞(Satta et al., Future Oncol., 9(4): 527-539 (2013));自己免疫疾患細胞、例えば自己反応性B細胞(Zocher et al., Mol. Immunol., 41(5): 511-518 (2004));ならびにウイルス感染細胞(HIV感染CD4+T細胞など(Sung et al., J. Clin. Invest., 125(11): 4077-4090 (2015))である。本発明の再度標的指向させる方法では、MAT-Fab抗体は、エフェクター細胞の表面上に発現される抗原、およびヒト対象にとって有害である標的細胞の表面上に発現される抗原に結合し、ここで、エフェクター細胞上の抗原へのおよび有害な標的細胞上の抗原へのMAT-Fab抗体の結合は、望ましいまたは有益な(例えば、MAT-Fab二重特異性結合がエフェクター細胞を活性化して、有害な標的細胞を攻撃する)細胞間相互作用を媒介する。エフェクター細胞上の単一の標的抗原へのおよび有害な標的細胞上の単一の標的抗原への、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の同時結合は、有利なことに、大量の望ましくないサイトカインの放出(「サイトカインストーム」)を引き起こすことなく(他の場合では、2つ以上のエフェクター細胞抗原に同時に結合する(すなわち、エフェクター細胞抗原を架橋する)抗体を使用してエフェクター細胞抗原を二量化させるときに、これが生じ得る)、エフェクター細胞を活性化して標的細胞を攻撃することができる。
【0052】
したがって、本発明は、エフェクター細胞上の抗原に結合し、かつヒト対象にとって有害である標的細胞上に発現される障害関連抗原に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を、ヒト対象に投与する工程を含む、ヒト対象における障害を処置する方法であって、エフェクター細胞と有害な標的細胞との両方へのMAT-Fab二重特異性抗体の結合が、エフェクターと標的細胞との間の治療上有益な細胞間相互作用を引き起こす方法を提供する。多くの障害を処置するために、そのような有益な細胞間相互作用は、有害な標的細胞を攻撃するエフェクター細胞の活性化を含むだろう。他の状況では、有益な効果は、結合した標的とされた細胞の一方または両方をオプソニン化および/または除去することであり得る。
【0053】
好ましくは、エフェクター細胞を再度標的指向させて有害な標的細胞を攻撃する本発明の方法は、エフェクター細胞および有害な標的細胞を、CD3、CD16(「FcγRIII」とも称される)、およびCD64(「FcγRI」とも称される)からなる群より選択されるエフェクター細胞上に発現される抗原に結合する本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体と接触させる工程を含む。より好ましくは、該方法は、T細胞上に発現されるようなCD3、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるようなCD16、または、マクロファージ、好中球、もしくは単球上に発現されるようなCD64に結合するMAT-Fab抗体を含む。
【0054】
ある態様において、本発明は、エフェクター細胞上の抗原に結合し、なおかつ標的腫瘍細胞上の抗原にも結合するMAT-Fab抗体をヒト対象に投与する工程を含む、処置を必要とするヒト対象における腫瘍を処置する方法であって、エフェクター細胞および標的腫瘍細胞へのMAT-Fab抗体の結合が、エフェクター細胞を活性化して腫瘍細胞を攻撃する方法を提供する。好ましくは、エフェクター細胞上の抗原は、T細胞上に発現されるようなCD3である。
【0055】
ある好ましい態様において、処置を必要とするヒト対象における腫瘍細胞を特徴とするがんを処置する方法は、エフェクター細胞および標的腫瘍細胞を、エフェクター細胞上の抗原および標的腫瘍細胞上の抗原に結合する本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体と接触させる工程を含む、エフェクター細胞を再度標的指向させて標的腫瘍細胞を攻撃することを含み、ここで、標的腫瘍細胞上の抗原は、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(「Her2」)、がん胎児性抗原(「CEA」)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される腫瘍関連抗原である。
【0056】
別の態様において、本発明は、B細胞関連腫瘍についてヒト対象を処置する方法であって、T細胞を活性化するエフェクターT細胞上の抗原に結合し、かつ悪性B細胞上の抗原に結合するMAT-Fab二重特異性抗体を、そのような処置を必要とする個体に投与する工程を含む方法を提供する。好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、以下からなる群より選択されるがん障害の悪性B細胞上の抗原に結合する:急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫。
【0057】
ある特に好ましい態様において、B細胞関連腫瘍についてヒト対象を処置するための記載の方法は、T細胞上のCD3に結合し、かつ悪性B細胞上のCD20に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を投与する工程を含む。より好ましくは、MAT-Fab二重特異性抗体は、その外側(N末端)のFab結合ユニットでCD20に結合し、かつ、その内側(C近位)のFab結合ユニットでCD3に結合する。
【0058】
別の態様において、本発明に係る障害を処置する方法は、MAT-Fab抗体をエフェクター細胞および有害な標的細胞とエクスビボ手順で接触させる工程を含んでよく、その工程では、処置を必要とするヒト対象から抽出されたエフェクター細胞をヒト対象の外でMAT-Fab抗体と接触させ、そして、MAT-Fab抗体がエフェクター細胞に結合する時間を与えた後、MAT-Fab抗体に結合したエフェクター細胞を次いでヒト対象に投与することで、エフェクター細胞に結合したMAT-Fab抗体の複合体が次いで、ヒト対象内で、腫瘍細胞などの有害な標的細胞に結合しようとすることができるようになる。別の態様において、処置を必要とするヒト対象から抽出されたエフェクター細胞および腫瘍細胞を、ヒト対象の外でMAT-Fab抗体と接触させ、そして、MAT-Fab抗体がエフェクター細胞および腫瘍細胞に結合する時間を与えた後、MAT-Fab抗体に結合したエフェクターおよび腫瘍細胞をヒト対象に投与する。
【0059】
別の態様において、MAT-Fab二重特異性抗体を改変して、細胞毒性剤を有害な標的細胞、例えば腫瘍細胞に送達してよい。この態様において、MAT-Fab抗体の一方のFab結合ユニットは、有害な標的細胞上の標的抗原の結合部位を含有し、そして、他方のFab結合ユニットは、細胞毒性剤の結合部位を含有する。本発明のそのような改変されたMAT-Fab抗体を、その改変されたFab結合ユニットで結合する細胞毒性剤と、混合するか、またはそうでなければ接触させることができる。結合した細胞毒性剤を担持するMAT-Fab抗体を、次いで有害な標的細胞と接触させて、細胞毒性剤を有害な標的細胞に送達することができる。そのような送達系は、MAT-Fab抗体が有害な標的細胞に結合し、次いで、結合した細胞毒性剤と共に細胞内に内在化されることによって、細胞毒性剤を有害な標的細胞の内部に放出することができる場合に、特に有効である。
【0060】
本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物を提供する。MAT-Fab二重特異性抗体を含む医薬組成物はまた、治療剤、造影剤、および細胞毒性剤からなる群より選択される追加の作用物質を含んでもよい。追加的に、本明細書に記載のエクスビボ法に従って、本発明に係る医薬組成物は、エフェクター細胞または細胞毒性剤と複合体化されたMET-Fab二重特異性抗体を含んでよい。
【0061】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を含む好ましい医薬組成物は、障害を処置するための1以上の他の治療活性化合物をさらに含んでよい。本発明の医薬組成物に組み込んでよい好ましい追加の治療活性化合物の例は、抗生物質、抗ウイルス化合物、抗がん化合物(MAT-Fab二重特異性抗体以外)、鎮静剤、刺激剤、局所麻酔剤、コルチコステロイド、鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、およびそれらの適切な組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0062】
別の態様において、上に開示した医薬組成物を、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹部内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、側脳室内、結腸内、子宮頸部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、経膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、および経皮からなる群より選択される少なくとも1つの様式による個体への投与のために調製してよい。
【0063】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を、標的抗原または標的抗原を発現する細胞を検出、定量、または単離するために当技術分野において利用可能な様々な免疫検出アッセイまたは精製フォーマットのいずれかにおいて使用してよい。そのようなアッセイおよびフォーマットは、免疫ブロットアッセイ(例えば、ウェスタンブロット);免疫アフィニティークロマトグラフィー(例えば、MAT-Fab二重特異性抗体がクロマトグラフィー樹脂またはビーズに吸着または連結されるもの);免疫沈降アッセイ;イムノチップ;組織の免疫組織化学アッセイ;フローサイトメトリー(蛍光活性化セルソーティングを含む);サンドイッチイムノアッセイ;イムノチップ(MAT-Fab抗体が基板に固定化または結合されるもの);ラジオイムノアッセイ(RIA);酵素イムノアッセイ(EIA);酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA);競合阻害イムノアッセイ;蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA);酵素多重化イムノアッセイ技術(EMIT);生物発光共鳴エネルギー移動(BRET);および均一化学発光アッセイを含むが、これらに限定されない。質量分析法を用いる方法が本開示によって提供され、これは、標的抗原またはエピトープ(抗原もしくは抗原断片上の)に結合するMAT-Fab抗体を含む、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)またはSELDI(表面増強レーザー脱離/イオン化)を含むが、これらに限定されない。
【0064】
本発明は、試料(例えば、混合物、組成物、溶液、または生物学的試料など)中の抗原を検出するための方法であって、試料を、試料中に存在するかまたは存在する疑いのある標的抗原(またはエピトープ)に結合する本発明のMAT-Fab二重特異性抗体と接触させる工程を含む方法をさらに提供する。本発明の免疫検出アッセイのための試料として役立つ可能性のある生物学的試料は、非限定的に、全血、血漿、血清、種々の組織抽出物、涙液、唾液、尿、および他の体液を含む。
【0065】
結合したまたは結合していないMAT-Fab二重特異性抗体の検出を容易にするために、MAT-Fab二重特異性抗体を検出可能物質で直接的または間接的に標識してよい。ある好ましい態様において、検出アッセイにおいて有用なMAT-Fab二重特異性抗体を、Fab結合ユニットの一方が、検出可能シグナルを生成する化合物に結合し、そして、他方のFab結合ユニットが、試料中に存在するかまたは存在する疑いのある標的抗原(またはエピトープ)に結合するように改変する。好適な検出可能物質は、当技術分野において利用可能であり、非限定的に、種々の酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、および放射性材料を含む。本発明の免疫検出アッセイにおいて有用な好ましい酵素は、1以上の試薬と接触させたときに検出可能シグナルを提供できるものである。そのような酵素は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼを含むが、これらに限定されない。好適な補欠分子族複合体の例は、非限定的に、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを含む。本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい好適な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、およびフィコエリトリンを含むが、これらに限定されない。本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい発光材料の一例は、ルミノールである。本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい好適な放射性種の例は、3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho、および153Smを含むが、これらに限定されない。
【0066】
二量化したFc領域の存在のおかげで、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体を、IgG抗体などの天然に存在する抗体分子と同様のやり方で、そのFc領域で標識してもよい。
[本発明1001]
ポリペプチド鎖(a)、(b)、(c)および(d)を含む、一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体(MAT-Fab抗体)であって:
(a)が、(アミノ末端からカルボキシル末端へ)VL
A
-CL-VH
B
-CH1-ヒンジ-CH2-CH3m1を含む重ポリペプチド鎖(重鎖)であり、
ここで、
VL
A
は、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト軽鎖定常ドメインであるCLに直接融合されており、
VL
A
-CLは、第一の抗原またはエピトープを認識する第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分であり、かつ、VH
B
に直接融合されており、
VH
B
は、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VH
B
-CH1は、第二の抗原またはエピトープを認識する第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分であり、かつ、ヒンジ-CH2に直接融合されており、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m1に直接融合されており、
CH3m1は、第一のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m1定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成しており;
(b)が、VH
A
-CH1を含む第一のMAT-Fab軽鎖であり、
ここで、
VH
A
は、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に直接融合されており、
VH
A
-CH1は、前記第一のFab結合ユニットの免疫グロブリン重鎖構成部分であり;
(c)が、VL
B
-CLを含む第二のMAT-Fab軽鎖であり、
ここで、
VL
B
は、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン軽鎖CLドメインであるCLに直接融合されており、
VL
B
-CLは、前記第二のFab結合ユニットの免疫グロブリン軽鎖構成部分であり;かつ
(d)が、ヒンジ-CH2-CH3m2を含むFcポリペプチド鎖(Fc鎖)であり、
ここで、
ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、かつ、CH3m2に直接融合されており、
CH3m2は、第二のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、CH3m2定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成しており;
但し:
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ノブを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインが、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ホールを形成するよう突然変異されており;
重鎖のCH3m1ドメインが構造的ホールを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖のCH3m2ドメインが、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ノブを形成するよう突然変異されており;
該MAT-Fab抗体が、任意で、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合におけるジスルフィド結合形成に有利に働くシステイン残基を導入する突然変異を、CH3m1ドメインおよびCH3m2ドメインに含む、
MAT-Fab抗体。
[本発明1002]
CH3m1ドメインまたはCH3m2ドメイン中の、構造的ノブを形成する1以上のKiH突然変異が、トレオニン残基からチロシン残基への変化またはトレオニン残基からトリプトファン残基への変化である、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1003]
トレオニン残基からチロシン残基へ変化させるKiH突然変異が、CH3ドメインの位置21のトレオニンをチロシンへ変化させる、本発明1002のMAT-Fab抗体。
[本発明1004]
トレオニン残基からトリプトファン残基へ変化させるKiH突然変異が、CH3ドメインの位置21のトレオニンをトリプトファンへ変化させる、本発明1002のMAT-Fab抗体。
[本発明1005]
構造的ノブを形成するKiH突然変異が、重鎖のCH3m1ドメイン中にある、本発明1002~1004のいずれかのMAT-Fab抗体。
[本発明1006]
構造的ホールを形成するCH3m1ドメインまたはCH3m2ドメイン中の突然変異が、チロシン残基からトレオニン残基への変化、または、トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせである、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1007]
チロシン残基をトレオニン残基へ変化させる突然変異が、CH3ドメインの位置62のチロシンをトレオニンへ変化させる、本発明1006のMAT-Fab抗体。
[本発明1008]
トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせが、CH3ドメインの位置21のトレオニンからセリンへの変化と、CH3ドメインの位置23のロイシンからアラニンへの変化と、CH3ドメインの位置62のチロシンからバリンへの変化との組み合わせである、本発明1006のMAT-Fab抗体。
[本発明1009]
構造的ホールを形成する1以上のKiH突然変異が、Fc鎖のCH3m2ドメイン中にある、本発明1006~1008のいずれかのMAT-Fab抗体。
[本発明1010]
CH3m1ドメインおよびCH3m2ドメインの各々が、アミノ酸残基をシステインと置き換えてCH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの間のジスルフィド結合形成を促進する突然変異をさらに含む、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1011]
突然変異が、セリンからシステインへの変化またはチロシンからシステインへの変化である、本発明1010のMAT-Fab抗体。
[本発明1012]
セリン残基からシステイン残基の変化が、CH3ドメインの位置9のセリンをシステインへ変化させる、本発明1011のMAT-Fab抗体。
[本発明1013]
チロシン残基からシステイン残基の変化が、CH3ドメインの位置4のチロシンをシステインへ変化させる、本発明1011のMAT-Fab抗体。
[本発明1014]
CH3m1ドメインが、CH3ドメインの位置9のセリンをシステインへ変化させる突然変異を含み、CH3m2ドメインが、CH3ドメインの位置4のチロシンをシステインへ変化させる突然変異を含む、本発明1010のMAT-Fab抗体。
[本発明1015]
重鎖(a)およびFc鎖(d)のCH2ドメインが各々、少なくとも1つのFcエフェクター機能を低減または排除する1以上の突然変異を含む、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1016]
重鎖のCH2ドメインおよびFc鎖のCH2ドメインが各々、(EUナンバリングで)ロイシン234をアラニンへ変化させ、またロイシン235をアラニンへ変化させる2つの突然変異を含む、本発明1015のMAT-Fab抗体。
[本発明1017]
(a)表1のアミノ酸配列を含む重鎖、
(b)表2のアミノ酸配列を含む第一の軽鎖、
(c)表3のアミノ酸配列を含む第二の軽鎖、および
(d)表4のアミノ酸配列を含むFc鎖
を含む、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1018]
(a)表5のアミノ酸配列を含む重鎖、
(b)表6のアミノ酸配列を含む第一の軽鎖、
(c)表7のアミノ酸配列を含む第二の軽鎖、および
(d)表8のアミノ酸配列を含むFc鎖
を含む、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1019]
2種の異なるエピトープに結合する、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1020]
2種の異なる標的抗原に結合する、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1021]
2種の異なる標的抗原が、2種の異なる標的サイトカインである、本発明1020のMAT-Fab抗体。
[本発明1022]
2種の異なるサイトカインが、リンホカイン、モノカイン、およびポリペプチドホルモンからなる群より選択される、本発明1021のMAT-Fab抗体。
[本発明1023]
2種の異なる標的抗原が、以下からなる抗原ペアの群より選択される、本発明1020のMAT-Fab抗体:
CD20とCD3、CD3とCD19、CD3とFc-ガンマ-RIIIA、CD3とTPBG、CD3とEpha10、CD3とIL-5Rα、CD3とTASCTD-2、CD3とCLEC12A、CD3とプロミニン-1、CD3とIL-23R、CD3とROR1、CD3とIL-3Rα、CD3とPSA、CD3とCD8、CD3とグリピカン3、CD3とFAP、CD3とEphA2、CD3とENPP3、CD3とCD33、CD3とCD133、CD3とEpCAM、CD3とCD19、CD3とHer2、CD3とCEA、CD3とGD2、CD3とPSMA、CD3とBCMA、CD3とA33、CD3とB7-H3、CD3とEGFR、CD3とP-カドヘリン、CD3とHMW-MAA、CD3とTIM-3、CD3とCD38、CD3とTAG-72、CD3とSSTR、CD3とFRA、CD16とCD30、CD64とHer2、CD137とCD20、CD138とCD20、CD19とCD20、CD38とCD20、CD20とCD22、CD40とCD20、CD47とCD20、CD137とEGFR、CD137とHer-2、CD137とPD-1、CD137とPDL-1、PD-1とPD-L1、VEGFとPD-L1、Lag-3とTIM-3、OX40とPD-1、TIM-3とPD-1、TIM-3とPDL-1、EGFRとDLL-4、VEGFとEGFR、HGFとVEGF、VEGFの第一のエピトープとVEGFの異なる第二のエピトープ、VEGFとAng2、EGFRとcMet、PDGFとVEGF、VEGFとDLL-4、OX40とPD-L1、ICOSとPD-1、ICOSとPD-L1、Lag-3とPD-1、Lag-3とPD-L1、Lag-3とCTLA-4、ICOSとCTLA-4、CD138とCD40、CD38とCD138、CD38とCD40、CD-8とIL-6、CSPGとRGM A、CTLA-4とBTN02、CTLA-4とPD-1、IGFlとIGF2、IGFl/2とErb2B、IGF-IRとEGFR、EGFRとCD13、IGF-IRとErbB3、EGFR-2とIGFR、Her2の第一のエピトープとHer2の第二の異なるエピトープ、第IXa因子とMet、第X因子とMet、VEGFR-2とMet、VEGF-Aとアンジオポエチン-2(Ang-2)、IL-12とTWEAK、IL-13とIL-lβ、MAGとRGM A、NgRとRGM A、NogoAとRGM A、OMGpとRGM A、PDL-1とCTLA-4、PD-1とTIM-3、RGM AとRGM B、Te38とTNFα、TNFαとBlys、TNFαとCD-22、TNFαとCTLA-4、TNFαとGP130、TNFαとIL-12p40、およびTNFαとRANKリガンド。
[本発明1024]
MAT-Fab抗体が結合する2種の異なる標的抗原の一方が、エフェクター細胞の表面上に発現される抗原であり、MAT-Fab抗体が結合する他方の標的抗原が、ヒト対象にとって有害であると見なされる標的細胞の表面上に発現される障害関連抗原である、本発明1020のMAT-Fab抗体。
[本発明1025]
エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージからなる群より選択される、本発明1024のMAT-Fab抗体。
[本発明1026]
エフェクター細胞上の抗原が、CD3、CD16、およびCD64からなる群より選択される、本発明1024のMAT-Fab抗体。
[本発明1027]
有害な標的細胞が、腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞からなる群より選択される、本発明1024のMAT-Fab抗体。
[本発明1028]
有害な標的細胞の表面上に発現される障害関連抗原が、腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原である、本発明1024のMAT-Fab抗体。
[本発明1029]
腫瘍関連抗原が、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、がん胎児性抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される、本発明1028のMAT-Fab抗体。
[本発明1030]
腫瘍細胞が悪性B細胞である、本発明1028のMAT-Fab抗体。
[本発明1031]
悪性B細胞が、急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫からなる群より選択されるがん障害の細胞である、本発明1030のMAT-Fab抗体。
[本発明1032]
エフェクター細胞上の抗原が、T細胞上のCD3であり、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原が、悪性B細胞上のCD20である、本発明1028のMAT-Fab抗体。
[本発明1033]
治療剤、造影剤、および細胞毒性剤からなる群より選択される作用物質にコンジュゲートされている、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1034]
造影剤が、放射性標識、酵素、蛍光標識、発光標識、生物発光標識、磁気標識、ビオチン、ストレプトアビジン、およびアビジンからなる群より選択される、本発明1033のMAT-Fab抗体。
[本発明1035]
放射性標識が、
3
H、
14
C、
35
S、
90
Y、
99
Tc、
111
In、
131
I、
177
Lu、
166
Ho、および
153
Smからなる群より選択される、本発明1034のMAT-Fab抗体。
[本発明1036]
治療剤または細胞毒性剤が、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、アントラサイクリン、毒素、およびアポトーシス剤からなる群より選択される、本発明1033のMAT-Fab抗体。
[本発明1037]
結晶化形態の、本発明1001のMAT-Fab抗体。
[本発明1038]
(a)本発明1037の結晶化されたMAT-Fab抗体、
(b)賦形剤成分、および
(c)ポリマー担体
を含む、結晶化されたMAT-Fab抗体の放出のための組成物。
[本発明1039]
賦形剤成分が、アルブミン、スクロース、トレハロース、ラクチトール、ゼラチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メトキシポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールからなる群より選択される、本発明1038の結晶化されたMAT-Fab抗体の放出のための組成物。
[本発明1040]
ポリマー担体が、ポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリラート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸共重合体)またはPLGA、ポリ(b-ヒドロキシブチラート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン); ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸/アルキルビニルエーテル共重合体、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギナート、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、それらのブレンド、ならびにそれらの共重合体からなる群のうちの1種以上から選択されるポリマーである、本発明1038または1039の結晶化されたMAT-Fab抗体の放出のための組成物。
[本発明1041]
本発明1001、1017、および1018のいずれかのMAT-Fab抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物。
[本発明1042]
非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹部内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、側脳室内、結腸内、子宮頸部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、経膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、および経皮からなる群より選択される少なくとも1つの様式による個体への投与のために調製される、本発明1041の医薬組成物。
[本発明1043]
本発明1001のMAT-Fab抗体のポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
[本発明1044]
本発明1043の単離された核酸を含む、ベクター。
[本発明1045]
pcDNA、pTT pTT3、pEFBOS、pBV、pJV、pcDNA3.1 TOPO、pEF6 TOPO、およびpBJからなる群より選択される、本発明1044のベクター。
[本発明1046]
本発明1045のベクターを含む、単離された宿主細胞。
[本発明1047]
本発明1044のベクターを含む、単離された宿主細胞。
[本発明1048]
原核宿主細胞または真核宿主細胞である、本発明1047の単離された宿主細胞。
[本発明1049]
原核宿主細胞である、本発明1048の宿主細胞。
[本発明1050]
原核宿主細胞が細菌宿主細胞である、本発明1049の宿主細胞。
[本発明1051]
細菌宿主細胞が大腸菌(Escherichia coli)細胞である、本発明1050の宿主細胞。
[本発明1052]
真核宿主細胞である、本発明1048の宿主細胞。
[本発明1053]
真核宿主細胞が、哺乳動物宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真菌宿主細胞、真核藻類宿主細胞、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および魚類宿主細胞からなる群より選択される、本発明1052の宿主細胞。
[本発明1054]
哺乳動物宿主細胞である、本発明1053の宿主細胞。
[本発明1055]
哺乳動物宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV-1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞、およびMDCK細胞からなる群より選択される、本発明1054の宿主細胞。
[本発明1056]
哺乳動物宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、またはヒト胎児腎臓(HEK293)細胞である、本発明1055の宿主細胞。
[本発明1057]
真核宿主細胞が真菌細胞である、本発明1053の宿主細胞。
[本発明1058]
真菌細胞が、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポーラ属(Neurospora)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、およびカンジダ属(Candida)からなる群より選択される、本発明1057の宿主細胞。
[本発明1059]
サッカロミセス属宿主細胞が、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞である、本発明1058の宿主細胞。
[本発明1060]
真核宿主細胞が昆虫細胞である、本発明1053の宿主細胞。
[本発明1061]
昆虫細胞がSf9昆虫細胞である、本発明1060の宿主細胞。
[本発明1062]
本発明1047~1061のいずれかの宿主細胞を、結合タンパク質を生産するのに十分な条件下で、培養培地中にて培養する工程を含む、MAT-Fab抗体を生産する方法。
[本発明1063]
本発明1062の方法に従って生産される、MAT-Fab抗体。
[本発明1064]
本発明1001のMAT-Fab抗体を個体に投与する工程を含む、個体における疾患または障害を処置する方法であって、MAT-Fab抗体が、個体にとって有害である標的細胞の表面上に発現されるエピトープまたは抗原に結合し、有害な標的細胞へのMAT-Fab抗体の結合が、疾患または障害に対する処置を提供する、方法。
[本発明1065]
エフェクター細胞上の抗原に結合しかつヒト対象にとって有害である標的細胞上に発現される障害関連抗原に結合する本発明1001のMAT-Fab抗体を、ヒト対象に投与する工程を含む、ヒト対象における障害を処置する方法であって、エフェクター細胞と標的細胞との両方へのMAT-Fab抗体の結合が、エフェクター細胞と有害な標的細胞との相互作用を媒介し、障害に対する処置を提供する、方法。
[本発明1066]
エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージからなる群より選択される、本発明1065の方法。
[本発明1067]
エフェクター細胞上に発現される抗原が、CD3、CD16、およびCD64からなる群より選択される、本発明1065の方法。
[本発明1068]
有害な標的細胞が、腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞からなる群より選択される、本発明1065の方法。
[本発明1069]
有害な標的細胞の表面上に発現される障害関連抗原が、腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原である、本発明1065の方法。
[本発明1070]
腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原が、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、がん胎児性抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される、本発明1069の方法。
[本発明1071]
腫瘍細胞が悪性B細胞である、本発明1069の方法。
[本発明1072]
悪性B細胞が、急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫からなる群より選択されるがん障害の細胞である、本発明1071の方法。
[本発明1073]
エフェクター細胞上に発現される抗原が、T細胞上に発現されるCD3であり、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原が、悪性B細胞上のCD20である、本発明1069の方法。
[本発明1074]
MAT-Fab抗体が、表1~4のアミノ酸配列または表5~8のアミノ酸配列を含む4つのポリペプチド鎖を含む、本発明1073の方法。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1A】MAT-Fab二重特異性抗体のドメイン構造を示す略図である。
【
図1B】発現ベクター構築物(アセンブルして本発明のMAT-Fab結合タンパク質を形成するポリペプチド鎖の各々の組換え発現用)に挿入された構造遺伝子の配置を描写する略図である。
【
図1C】
図1Aに示されるMAT-Fab結合タンパク質を構成するための4つの発現されたポリペプチド鎖(1~4)を描写する略図であり、免疫グロブリン様ドメインの順序を鎖毎にN末端からC末端へ示している。
【
図2】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用した、実施例1に記載の通り調製したMAT-Fab KiH1二重特異性抗体の分析に基づく、プロファイルおよび関連するデータを示す。SEC分析は、プロテインAクロマトグラフィーによる単回工程精製後のMAT-Fab KiH1抗体調製物の98.19%が単一種として存在したことを明らかにし、このことは、四量体タンパク質生成物の均一性を示している。
【
図3】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用した、実施例1に記載の通り調製したMAT-Fab KiH2二重特異性抗体の分析に基づく、プロファイルおよび関連するデータを示す。SEC分析は、プロテインAクロマトグラフィーによる単回工程精製後のMAT-Fab KiH2抗体調製物の95.7%が単一種として存在したことを明らかにし、このことは、四量体タンパク質産物の均一性を示している。
【
図4】実施例1に記載の通りの蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用した、MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2二重特異性抗体の、Raji細胞の表面上に発現されるCD20に結合する能力の分析結果を示す。
【
図5】実施例1に記載の通りの蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用した、MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2二重特異性抗体の、Jurkat細胞の表面上に発現されるようなCD3に結合する能力の分析結果を示す。
【
図6】B細胞枯渇アッセイの2日目における、MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2二重特異性抗体の、Raji細胞(B細胞)上のCD20に結合してB細胞のT細胞媒介アポトーシスを誘導する能力の分析結果を示す。凡例:「オファツムマブ」は、完全ヒト抗CD20モノクローナル抗体であり;「CD3 mAb」は、抗CD3モノクローナル抗体であり;MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2は、実施例1に記載の通りであり;そして、「オファツムマブ/CD3 mAb」は、等しい割合の抗CD20オファツムマブと抗CD3 mAbとの混合物である。両方のMAT-Fab二重特異性抗体は、アッセイの2日目までにB細胞のT細胞媒介アポトーシスを誘導することができた。
【発明を実施するための形態】
【0068】
発明の詳細な説明
多くの免疫受容体にとって、細胞活性化は、一価の結合相互作用の架橋によって達成される。架橋の機構は、典型的には、抗体/抗原免疫複合体によって媒介されるか、またはエフェクター細胞の標的細胞への会合を介してのものである。例えば、細胞殺傷を媒介するCD16(FcγRIIIa)およびCD32a(FcγRIIa)などの、低親和性で活性化型のFcガンマ受容体(FcγR)は、抗体Fc領域に一価で結合する。一価の結合は、細胞シグナル伝達をもたらさないが、エフェクター細胞と標的細胞との会合によって、受容体は、細胞表面で架橋およびクラスター化され、活性化を導く。T細胞では、その関連するT細胞受容体(TCR)が、親和性の高い細胞間シナプスにおいて、抗原提示細胞上の抗原結合主要組織適合性複合体(MHC)と会合したときに、CD3活性化が起こる。CD3を標的とする二価抗体は、大量のサイトカイン放出(しばしば「サイトカインストーム」と呼ばれる)を引き起こすことがあり、結果として生じる毒性は、抗CD3抗体の治療薬としての開発に課題を提示している。対照的に、二重特異性フォーマットでのCD3の一価の結合は、はるかに低いレベルのT細胞活性化を起こす。二価の単一特異性抗体について、生物学のこの結果は、受容体の二価架橋が、標的細胞の非存在下でエフェクター細胞の非特異的活性化を引き起こし得ることである。したがって、治療目標が免疫受容体の共会合(co-engagement)であるとき、一般的に一価の結合が二価の結合よりもはるかに好ましい。この様式は、典型的な二価抗体および大部分の多重特異性であるが多価の抗体フォーマット、例えば二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)およびFabs-in-tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)の使用と適合しない。
【0069】
本発明は、2種の異なる抗原またはエピトープの同時の一価結合を可能にする、切断型Fc鎖とのタンデムFab重鎖のノブ-イントゥ-ホール(KiH)Fc領域ヘテロ二量化を含む二重特異性抗体フォーマットを提供することによって、上記の通りのそのような問題の解決策を提供する。本発明の二重特異性抗体は、がんを処置するための機序としてのT細胞再標的指向にとりわけよく適合する。
【0070】
本発明は、直列に融合された2つのFab結合ユニットを含み、一方のFab結合ユニットが、他方のFab結合ユニットが結合するエピトープまたは抗原とは異なるエピトープまたは抗原に結合する、改変された二重特異性抗体を提供する。したがって、本発明に係る二重特異性抗体は、それが結合する各エピトープまたは抗原に関して「一価」と称される。さらに、本発明の二重特異性抗体は、二量化された免疫グロブリンFc定常領域(すなわち、二量化されたヒンジ-CH2-CH3)を含むが、タンデムFab結合ユニットの各々の半分は、Fc領域の二量化された鎖の一方のみから伸長している単一ポリペプチドアーム上に存在する(
図1Aを参照のこと)。よって、本発明に係る二重特異性抗体は、結合したエピトープまたは抗原の各々の結合部位に関して「一価」であり; 二量化されたFc領域に対するFabユニットの相対的な位置に関して「非対称」であり;そして、N末端からC末端方向に共通の重鎖を通して互いに直接連結された「タンデム」Fab結合ユニットを有する。したがって、本発明に係る二重特異性抗体は、「一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体」とも称される。本発明の二重特異性抗体の別名であるが同義語は、「MAT-Fab二重特異性抗体」、「MAT-Fab抗体」、または単に「MAT-Fab」である。
【0071】
「結晶」および「結晶化された」という用語は、本明細書において使用される場合、結晶の形態で存在する、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体を含む抗体を指す。結晶は、非晶質固体状態または液晶状態などの他の形態とは異なる、物質の固体状態の一形態である。結晶は、原子、イオン、分子(例えば、抗体などのタンパク質)または分子アセンブリ(例えば、抗原/抗体複合体)の規則的な反復三次元アレイから構成される。これらの三次元アレイは当分野で十分理解されている特定の数学的関係に従って配置される。結晶中で反復される基本的単位、すなわち構成ブロックは非対称単位と呼ばれる。所与の十分に規定された結晶学的対称に一致する配置中の非対称単位の反復は、結晶の「単位胞」を提供する。全ての三次元での規則的平行移動による単位胞の反復は、結晶を提供する。Giege et al., Chapter 1, in Crystallization of Nucleic Acids and Proteins, a Practical Approach, 2nd ed., Ducruix and Giege, eds. (Oxford University Press, New York, 1999) pp. 1-16を参照のこと。本発明の結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体を、当技術分野において公知の方法、例えば、Shenoyおよび共同研究者によって国際公開公報第WO 2002/072636号(参照によって本明細書に組み入れられる)に記載されているものに従って生産してよい。
【0072】
本明細書において別段の定めがない限り、本発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。しかしながら、潜在的な曖昧さが生じる場合には、本明細書に提供される定義があらゆる辞書上のまたは本明細書外の定義に先行する。さらに、文脈による別段の要求がない限り、単数形の用語は、複数形を含むものとし、そして、複数形の用語は、単数形を含むものとする。本出願において、「または(or)」の使用は、別段の規定がない限り「および/または」を意味する。さらに、用語「~を含む(including)」、ならびに「includes」および「included」などの他の形態の使用は非限定的である。また、「要素」または「構成部分」などの用語は、具体的に別段の規定がない限り、1つの単位を含む要素および構成部分と、2以上のサブ単位を含む要素および構成部分との両方を包含する。
【0073】
概して、本明細書に記載の細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびに、タンパク質および核酸化学ならびにハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法およびそれらの技術は、当技術分野において公知であり、一般に使用されるものである。本発明の方法および技術は、概して、当技術分野において周知の慣用の方法に従い、かつ、別段の指定がない限り、本明細書を通して引用および考察される、種々の一般的およびより具体的な参考文献に記載されるように実施される。酵素反応および精製技術は、当技術分野において一般的に達成されるように、製造者の説明書に従って、または本明細書に記載の通り実施される。本明細書に記載の分析化学、合成有機化学、ならびに医学および製薬化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの実験手順および技術は、当技術分野において公知であり、一般に使用されるものである。標準的な技術は、化学合成、化学分析、医薬調製物、製剤、および送達、ならびに患者の処置に使用されるものを含む。
【0074】
本明細書において使用される場合、「障害」および「疾患」という用語は、同義であり、病態生理学的状態を指す。
【0075】
本明細書において使用される場合、「細胞上の抗原(または抗原の活性)が有害である障害(または疾患)」という用語は、障害を患っているヒト対象における抗原の存在が、障害の病態生理学の原因であると示されているかもしくはその疑いがある、または障害の悪化に寄与する因子であると示されているかもしくはその疑いがある、障害を含むことを意図する。したがって、抗原または抗原活性が有害である障害は、抗原または抗原活性の低下が障害の1以上の症状または障害の進行を緩和すると予想される障害である。そのような障害は、例えば、障害を患っているヒト対象の血液または他の生物学的流体中の抗原の濃度の増加によって明らかになり得る。
【0076】
「腫瘍」および「がん」という用語は、別段の指定がない限り、同義語である。がんまたは腫瘍は、血液のがんもしくは腫瘍(リンパ系細胞を含む)であっても、固形のがんもしくは腫瘍であってもよい。
【0077】
「個体」および「対象」という用語は、ヒト対象を指す。
【0078】
本明細書において使用される場合、「Fab」、「Fab断片」、または「Fab結合ユニット」という用語は、同義語であり、免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CLドメイン)に連結された免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むポリペプチド鎖と、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)に連結された免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むポリペプチド鎖との会合によって形成される、免疫グロブリンエピトープ(抗原の)結合ユニットを指し、ここで、VLドメインは、VHドメインと対合してエピトープ(抗原)結合部位を形成し、そして、CLドメインは、CH1ドメインと対合する。したがって、本明細書において使用される場合、「Fab」、「Fab断片」、および「Fab結合ユニット」という用語は、IgGなどの天然に存在する免疫グロブリンのパパイン消化によって製造される天然のFab断片を包含し、ここで、パパイン消化は、VH-CH1を含む重鎖断片およびVL-CLを含む軽鎖断片を含む2つのFab断片を生成する。本明細書において使用される場合、その用語はまた、選択されたVLドメインが選択されたCLドメインに連結されており、かつ選択されたVHドメインが選択されたCH1ドメインと連結している、組換えFabも包含する。加えて、本明細書において使用される場合、その用語はまた、VH-CH1が軽鎖ポリペプチドとして存在し、かつVL-CLがより大きな重鎖上に存在する「交差Fab」の一種も包含する。特に、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体において、N末端(外側)のFab結合ユニットは、VL-CLが重ポリペプチド鎖上に存在し、かつVH-CH1を含む軽鎖と対合している、この種類の「交差Fab」である。対照的に、内側(C近位)のFab結合ユニットは、VL-CLを含む軽鎖と対合する重鎖上のVH-CH1を含む。本発明のMAT-Fab二重特異性抗体中の外側および内側のFab結合ユニットのこの配置は、有利なことに、各VL-CLとその対応するVH-CH1との適正な会合に有利に働いて2つの機能的Fab結合ユニットを形成し、非機能的な会合に不利に働く。
【0079】
1以上の挙げられた要素または工程を「含む(comprising)」と本明細書に記載される組成物または方法は、オープンエンドであり(open-ended)、これは、挙げられた要素または工程が必須であるが、組成物または方法の範囲内で他の要素または工程を加えてもよいことを意味する。また、冗長さを避けるために、1以上の挙げられた要素または工程を「含む(comprising)」(または「含む(which comprises)」)と記載されるあらゆる組成物または方法は、同じ挙げられた要素または工程「から本質的になる(consisting essentially of)」(または「から本質的になる(which consists essentially of)」)、対応するより限定された組成物または方法をも記述するものである(これは、その組成物または方法が、挙げられた必須の要素または工程を含み、なおかつ、その組成物または方法の基礎的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない、追加の要素または工程を含んでもよいことを意味する)と理解される。また、1以上の挙げられた要素または工程を「含む」または「から本質的になる」と本明細書に記載されるあらゆる組成物または方法は、挙げられていない他のあらゆる要素または工程を除いた、挙げられた要素または工程「からなる(consisting of)」(または「からなる(which consists of)」)、対応するより限定された、制限のある(closed-ended)組成物または方法をも記述するものであると理解される。本明細書に開示の任意の組成物または方法において、任意の挙げられた必須の要素または工程の公知のまたは開示されている等価物を、その要素または工程と置き換えてよい。
【0080】
要素または工程は、「からなる群より選択される」の後に要素または工程の一覧が続く場合、列挙された要素または工程の2つ以上の組み合わせを含めて、後に続く一覧の要素または工程のうちの1以上のことを指す。
【0081】
MAT-Fab二重特異性抗体の構成および作製
本発明に係る一価の非対称タンデムFab二重特異性抗体(「MAT-Fab」二重特異性抗体)は、以下:
(a)重ポリペプチド鎖(「重鎖」)であって、(アミノ(N-)末端からカルボキシル(C-)末端へ):VLA-CL-VHB-CH1-ヒンジ-CH2-CH3m1
(式中:VLAは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト軽鎖定常ドメインであるCLに連結されており、ここで、VLA-CLは、第一のFab結合ユニット(抗原またはエピトープ「A」に結合することができる)の一方の半分であり、かつ、VHBに直接連結(融合)されており、ここで、VHBは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に連結されており、ここで、VHB-CH1は、第二のFab結合ユニット(抗原またはエピトープ「B」に結合することができる)の一方の半分であり、ヒンジ-CH2に連結されており、ここで、ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ-CH2領域であり、CH3m1に直接連結されており、CH3m1は、第一のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、前記CH3m1定常ドメイン中に構造的ノブまたは構造的ホールを形成している)を含む、前記重鎖;
(b)VHA-CH1を含む第一の軽鎖(ここで、VHAは、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン重鎖CH1定常ドメインであるCH1に連結されており、そして、ここで、VHA-CH1は、前記第一のFab結合ユニット(抗原またはエピトープ「A」に結合することができる)の他方の半分である);
(c)VLB-CLを含む第二の軽鎖(ここで、VLBは、ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであって、ヒト免疫グロブリン軽鎖定常ドメインであるCLに連結されており、そして、ここで、VLB-CLは、前記第二のFab結合ユニット(抗原またはエピトープ「B」に結合することができる)の他方の半分である);および
(d)ヒンジ-CH2-CH3m2を含むFc鎖(ここで、ヒンジ-CH2は、免疫グロブリン重鎖定常領域のヒンジ-CH2領域であり、CH3m2に連結されており、CH3m2は、第二のヒト免疫グロブリン重鎖CH3定常ドメインであって、1以上のノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を変異導入されて、重鎖(a)のCH3m1ドメインの対応する構造的ホールまたは構造的ノブに相補的である構造的ノブまたは構造的ホールを、前記CH3m2定常ドメイン中に形成している);
を含むが、
但し:
重鎖(a)のCH3m1ドメインが構造的ノブを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖(d)のCH3m2ドメインは、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ホールを形成するよう突然変異されているか;または
重鎖(a)のCH3m1ドメインが構造的ホールを形成するよう突然変異されているとき、Fc鎖(d)のCH3m2ドメインは、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合に有利に働く相補的な構造的ノブを形成するよう突然変異されており;そして
任意で(すなわち、あってもなくても)、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの対合においてジスルフィド結合形成に有利に働くシステイン残基を導入する突然変異を、CH3m1ドメインとCH3m2ドメインの両方に含む。
【0082】
重鎖のFc領域およびFc鎖は、Fcエフェクター機能を調節するように、任意で修飾されてよい。例として、CH2ドメインの234LeuLeu235の、例えば、234AlaAla235(EUナンバリング)への突然変異は、ADCC/CDCエフェクター機能を低減または排除すると知られている。そのような変化を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、LeuLeu→AlaAla交換は、MAT-Fab(KiH1)重鎖およびFc鎖、ならびにMAT-Fab(KiH2)重鎖およびFc鎖中の、ヒンジ-CH2領域の残基18~19で生じている(すなわち、表1のSEQ ID NO:1の478AlaAla479および表5のSEQ ID NO:5の478AlaAla479;ならびに表4のSEQ ID NO:4の40AlaAla41および表8のSEQ ID NO:8の40AlaAla41を参照のこと)。
【0083】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の構造の特徴は、全ての隣接する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変および定常ドメインが、介在合成アミノ酸またはペプチドリンカーなしで、互いに直接連結されていることである。隣接する免疫グロブリンドメインのそのような直接連結は、1以上の介在アミノ酸を導入することによって形成され得る潜在的に免疫原性の部位を排除する。直列に連結された結合ドメインを特徴とする改変された抗体分子において、当技術分野では、隣接する結合部位が抗原に同時に結合することを可能にし、互いに立体的に干渉することを回避するために、介在する柔軟なペプチドリンカー(例えば、GGGGSおよびその反復)が必要であることが共通理解であった。そのような教示とは対照的に、MAT-Fabフォーマット中のリンカーの不在は、MAT-Fab抗体のいずれのFab結合ユニットの結合活性にも悪影響を及ぼさない。特に、重ポリペプチド鎖上のCLとVHBとの間にリンカーを付加しても、いずれのFab結合ユニットの結合活性も増強しないことが発見された。これは、上記の通りのMAT-Fab抗体の構造的構成が本質的に、各Fab結合ユニットがその意図する抗原またはエピトープに接近し、結合することができるような、最適な柔軟性および三次元配置を提供することを意味する。
【0084】
上記のMAT-Fab二重特異性抗体の構造によれば、MAT-Fab重鎖のCH3m1ドメインまたはMAT-Fab Fc鎖のCH3m2ドメインは、構造的ノブを含むCH3ドメインの一方(すなわち、CH3m1またはCH3m2)と、構造的ホールを含む他方のCH3ドメイン(すなわち、CH3m2またはCH3m1)との対合に有利に働く構造的ノブを形成する、ノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を含む。好ましくは、相補的な構造的ホールを含むFc鎖のCH3m2ドメインとの対合のために、構造的ノブを重鎖のCH3m1ドメイン中に形成する突然変異が行われる。本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中でアミノ酸残基を変化させて、構造的ノブを形成する突然変異の例は、トレオニン残基からチロシン残基への変化またはトレオニン残基からトリプトファン残基への変化を含むが、これらに限定されない。本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中でアミノ酸残基を変化させて、構造的ノブを形成する特定の突然変異の例は、トレオニン366残基からチロシン残基への変化(T366Y)およびトレオニン366残基からトリプトファン残基への変化(T366W)を含むが、これらに限定されない。Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996); Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997)。そのような特定の変化を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、Thr→Tyr交換は、MAT-Fab(KiH1)中のCH3ドメインの残基21で生じ、そして、Thr→Trp交換は、MAT-Fab(KiH2)中のCH3ドメインの残基21で生じている(すなわち、表1のSEQ ID NO:1のTyr610および表5のSEQ ID NO:5のTrp610を参照のこと)。
【0085】
上記のMAT-Fab二重特異性抗体の構造によれば、重鎖のCH3m1ドメインまたはFc鎖のCH3m2ドメインは、構造的ホールを含むCH3ドメインの一方と、構造的ノブを含む他方のCH3ドメインとの対合に有利に働く構造的ホールを形成する、ノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を含む。抗体のFc領域のCH3ドメインの様々なノブ-イントゥ-ホール突然変異が、当技術分野において公知である。例えば、Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996); Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997); Klein et al., mAbs, 4(6): 653-663 (2012)を参照のこと。CH3ドメイン中の1以上の残基を変化させて、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のCH3ドメイン中に構造的ホールを形成する突然変異の例は、チロシン残基からトレオニン残基への変化、および、トレオニン残基からセリン残基への変化と、ロイシン残基からアラニン残基への変化と、チロシン残基からバリン残基への変化との組み合わせを含むが、これらに限定されない。本発明のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中に構造的ホールを形成する好ましい突然変異は、チロシン407残基からトレオニン残基への変化(Y407T)である。Ridgway et al., Protein Eng., 9: 617-621 (1996)。そのような変化を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、Tyr→Thr交換は、MAT-Fab(KiH1)中のCH3ドメインの残基62で生じている(すなわち、表4のSEQ ID NO:4のThr213を参照のこと)。本発明のMAT-Fab抗体のCH3ドメイン中に構造的ホールを形成する突然変異の好ましい組み合わせは、トレオニン366残基からセリン残基への変化(T366S)と、ロイシン368残基からアラニン残基への変化(L368A)と、チロシン407残基からバリン残基への変化(Y407V)とを含む。Atwell et al., J. Mol. Biol., 270: 26-35 (1997)。そのような特定の3つのアミノ酸変化を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、Thr→Ser交換は、MAT-Fab(KiH2)中のCH3ドメインの残基21で生じ、Leu→Ala交換は、MAT-Fab(KiH2)中のCH3ドメインの残基23で生じ、そして、Tyr→Val交換は、MAT-Fab(KiH2)中のCH3ドメインの残基62で生じている(すなわち、表8のSEQ ID NO:8のSer172、Ala174、およびVal213を参照のこと)。好ましくは、構造的ノブを含むCH3m1との対合のために、構造的ホールをFcポリペプチド鎖のCH3m2ドメイン中に形成する、1以上の突然変異が行われる。
【0086】
本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3m1およびCH3m2ドメイン中で、システイン残基を提供するさらなる突然変異を行い、MAT-Fab重鎖のCH3m1ドメインがMAT-Fab Fc鎖のCH3m2ドメインと対合するときに、追加のジスルフィド結合を形成し、それによって、MAT-Fab抗体のFc領域ヘテロ二量体をさらに安定化させてよい。そのような突然変異の具体例は、非限定的に、セリン354からシステインへの変化(S354C)およびチロシン349からシステインへの変化(Y349C)を含む。Merchant et al., Nat. Biotechnol., 16: 677-681 (1998)。そのようなCys置換を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、Ser→Cys交換は、MAT-Fab(KiH2)重鎖中のCH3ドメインの残基9で生じ、そして、Tyr→Cys交換は、MAT-Fab(KiH2)Fc鎖中のCH3ドメインの残基4で生じている(すなわち、SEQ ID NO:5のCys598および表8のSEQ ID NO:8のCys155を参照のこと)。
【0087】
さらなる選択肢は、本明細書に記載のMAT-Fab抗体のCH3m1ドメインとCH3m2ドメインとの間に、上記ドメインの一方における残基が他方のドメインにおける残基と水素結合して静電相互作用(結合)できるように、いずれか一方または両方のドメインを突然変異させることによって、1以上の塩橋を設計することである。例えば、CH3m1ドメイン中のアミノ酸残基をグルタミン酸またはアスパラギン酸残基へ変化(突然変異)させ、CH3m2ドメイン中の残基をリジンまたはアルギニン残基へ変化(突然変異)させることによって、CH3m1ドメイン中のグルタミン酸またはアスパラギン酸残基が、CH3m2ドメイン中のリジンまたはアルギニン残基と水素結合して静電相互作用できるように、塩橋を導入してよい。
【0088】
上で考察したMAT-Fab形成のための定常領域修飾に加えて、上記のMAT-Fab二重特異性抗体の重鎖および/またはFc鎖の定常領域は、各々任意で(すなわち、あってもなくても)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体媒介性細胞傷害(CDC)などの、少なくとも1種のFcエフェクター機能を低減または排除する1以上の突然変異を含む。そのような突然変異は、ロイシン234からアラニンへの変化(L234A)およびロイシン235からアラニンへの変化(L235A)を含むが、これらに限定されない(Canfield et al., J. Exp. Med., 173(6):1483-91 (1991))。好ましくは、MAT-Fab二重特異性抗体は、ロイシン234からアラニンへ変化(L234A、EUナンバリング)させ、ロイシン235からアラニンへ変化(L235A、EUナンバリング)させる、CH2ドメイン中の重鎖およびFc鎖のアミノ酸修飾を含む。そのような変化を、以下の例のMAT-Fabにおいて説明する。ここでは、LeuLeu→AlaAla交換は、MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)中のヒンジ-CH2領域の残基18~19で生じている(すなわち、表1のSEQ ID NO:1の478AlaAla479および表5のSEQ ID NO:5の478AlaAla479を参照のこと)。
【0089】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、各エピトープまたは抗原に高い親和性で結合することができる。具体的には、本発明は、2種の親抗体(一方の親抗体が第一のエピトープまたは抗原に結合し、そして、他方の親抗体が第二のエピトープまたは抗原に結合する)を使用した、MAT-Fab二重特異性抗体を構築するアプローチを提供する。
【0090】
本発明のMAT-Fab二重特異性抗体において使用するための免疫グロブリン重鎖および軽鎖可変ドメイン(VH、VL)ならびに重鎖および軽鎖定常ドメイン(CL、CH1、CH2、CH3など)を、公知もしくは生産された免疫グロブリンまたはその遺伝子変化された(突然変異された)バージョンから得ても、それから誘導してもよい。例えば、Fab結合ユニット、個々の可変ドメイン、および個々の定常ドメインを、MAT-Fab二重特異性抗体が結合すると意図される標的エピトープまたは抗原に結合する「親」抗体から容易に誘導し得る。また、個々の免疫グロブリン定常ドメインを、意図するMAT-Fab抗体の同じエピトープまたは抗原に結合しない親抗体から誘導してもよい。なぜなら、そのような定常ドメインを、意図するMAT-Fab抗体の所望の標的エピトープまたは抗原に結合する、異なる親抗体から得られる可変ドメインに連結することができるからである。Fab結合ユニットまたは個々の免疫グロブリン可変および定常ドメインの他の供給源は、MAT-Fab二重特異性抗体が結合すると意図される1または2種の標的エピトープまたは抗原に結合する、遺伝子改変された親抗体または結合タンパク質を含む。本発明のMAT-Fab抗体を生産する際に使用するためのFab結合ユニットまたは個々の可変および定常ドメインの供給源として使用してよい親抗体は、臨床で承認されている治療用抗体を含む。
【0091】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の抗原結合可変ドメインおよびFab結合ユニットを、限定されないがモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および様々な遺伝子改変されたいずれかの抗体を含む、親抗体から得ることができる。そのような親抗体は、天然に存在していても、組換え技術によって作製してもよい。当業者は、限定されないがハイブリドーマ技術、選択リンパ球抗体法(SLAM)、ライブラリー(例えば、ファージ、酵母、またはRNA-タンパク質融合体ディスプレイまたは他のライブラリー)の使用、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも一部を含むヒト以外の動物の免疫化、ならびにキメラ抗体、CDRグラフト化抗体、およびヒト化抗体の調製を使用することを含めた多くの抗体生産法に精通している。例えば、Neuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270; Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327; and EP 2 443 154 B1 (2013)を参照のこと。
【0092】
また、親和性成熟技術を使用して可変ドメインを調製してもよい。
【0093】
本発明によれば、MAT-Fab抗体を製造する方法は、MAT-Fab抗体において望ましい少なくとも1つの特性を有する親抗体を選択する工程を含む。好ましくは、所望の特性は、例えば、抗原またはエピトープ特異性、抗原またはエピトープに対する親和性、効力、生物学的機能、エピトープ認識、安定性、溶解性、生産効率、低下した免疫原性、薬物動態、バイオアベイラビリティ、組織交差反応性、またはオルソロガスな抗原結合などの、MAT-Fab抗体を特徴付けるために使用される特性の1つ以上である。
【0094】
可変ドメインを、親抗体から組換えDNA技術を使用して得てよい。ある態様において、可変ドメインは、マウス重鎖または軽鎖可変ドメインである。別の態様において、可変ドメインは、CDRグラフト化またはヒト化された重鎖または軽鎖可変ドメインである。別の態様において、本発明のMAT-Fab抗体において使用される可変ドメインは、ヒトの重鎖または軽鎖可変ドメインである。
【0095】
1以上の定常ドメインを、組換えDNA技術、PCR、または免疫グロブリンドメインを組換えるのに好適な当技術分野において利用可能な他の方法を使用して、互いに連結しても可変ドメインに連結させてもよい。ある態様において、重鎖可変ドメインを含む配列は、重鎖定常ドメインに連結され、そして、軽鎖可変ドメインを含む配列は、軽鎖定常ドメインに連結される。別の態様において、定常ドメインは、それぞれ、ヒト免疫グロブリン重鎖定常ドメインおよびヒト免疫グロブリン軽鎖定常ドメインである。
【0096】
また、可変および定常ドメインを変更して、意図するMAT-Fab二重特異性抗体の特徴を改善してもよい。例えば、上に述べた通り、本発明のMAT-Fab抗体のFc領域のCH3ドメインは、MAT-Fab重ポリペプチド鎖のFc領域とMAT-Fab Fcポリペプチド鎖との適正な会合に有利に働くノブ-イントゥ-ホール突然変異を保有する。加えて、CH3ドメインをさらに突然変異させて、2つのCH3ドメインが会合してMAT-Fab抗体の安定なFcヘテロ二量体を形成するときに、追加のジスルフィド結合を形成するシステイン残基を導入してもよい。なおさらに、MAT-Fab抗体のFc領域は、限定されないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体媒介性細胞傷害(CDC)、食作用、オプソニン化、または細胞もしくは受容体結合を含むFc機能を増強または減少させる、1以上のアミノ酸修飾を含んでよい。
【0097】
上に述べた通り、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の2つのFcドメインの各々は、MAT-Fab重ポリペプチド鎖のFc領域とMAT-Fab Fc鎖との会合に有利に働くノブ-イントゥ-ホール(KiH)突然変異を含む。しかしながら、Fc領域の追加の特徴または修飾も所望され得る。例えば、MAT-Fab抗体のFc領域を、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、またはIgDからなる群より選択される免疫グロブリン由来のFc領域から誘導してよい。別の態様において、1以上のアミノ酸をFc領域において修飾して、FcγR(Fc受容体)に対するMAT-Fab二重特異性抗体のFc領域の親和性を、未修飾Fc領域と比べて増強または減少させてよい。例えば、Fc領域の修飾は、FcγRI、FcγRII、および/またはFcγRIIIに対する親和性を変更し得る。
【0098】
別の態様において、MAT-Fab二重特異性抗体のインビボでの機能または物理的半減期を調節するために、Fc領域において1以上のアミノ酸を修飾してよい。
【0099】
本発明のMAT-Fab二重特異性抗体のためのポリペプチド鎖の各々の構造的構成は、機能的MAT-Fab抗体を得るための生産後処理技術を用いる必要なしに、細胞内に存在する天然タンパク質の発現、フォールディング、および分泌機序を使用した、MAT-Fab抗体の正確な細胞内アセンブリを可能にする。特に好ましいのは、機能的MAT-Fab抗体を生産および発現させるための、本明細書に記載の所望のMAT-Fab二重特異性抗体の4つのポリペプチド鎖をコードする1以上の発現ベクターを含む単離された哺乳動物宿主細胞の使用である。
【0100】
標的抗原結合
本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、1または2種の標的エピトープまたは抗原に結合することができる。通常、MAT-Fab二重特異性抗体は、1つの抗原上のエピトープおよび異なる抗原上のエピトープに結合するように改変され;それによって、MAT-Fab抗体が2種の抗原間の人工的な連結として役立つことが可能となり、抗原の連結に起因して特定の結果を達成する。本発明のMAT-Fab抗体を、サイトカイン、ポリペプチドリガンド、細胞表面受容体、非受容体細胞表面タンパク質、酵素、前述のものの2種以上の複合体、またはそれらの組み合わせに結合するように改変してよい。
【0101】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、1または2種の標的抗原の生物学的機能を調節することができる。より好ましくは、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、1以上の標的抗原を中和することができる。
【0102】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体はまた、2種の異なるサイトカインに結合することができる。そのようなサイトカインは、リンホカイン、モノカイン、およびポリペプチドホルモンからなる群より選択されてよい。
【0103】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、細胞の表面上に発現される少なくとも1種の標的抗原に結合することができる。より好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、2種の細胞表面抗原に結合する。2種の細胞表面抗原は、同じ細胞上にあっても、同じタイプの2つの細胞上にあってもよい。しかしながら、より好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、第一の細胞の表面上に発現される抗原に結合し、かつ、第二の細胞の表面上に発現される第二の抗原に結合し、ここで、第一の細胞および第二の細胞は、異なるタイプの細胞である。好ましくは、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、免疫系のエフェクター細胞上に発現される第一の細胞表面抗原に結合し、なおかつ、個体にとって有害であると見なされる(それゆえ、排除されるか、またはその集団のサイズが低減されることが望ましい)細胞の表面上に発現される第二の細胞表面抗原にも結合する。本発明のMAT-Fab二重特異性抗体が結合し得るエフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、好中球、およびマクロファージを含む。個体にとって有害であると見なされかつ本発明のMAT-Fab二重特異性抗体が結合し得る細胞の例は、腫瘍細胞、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞を含む。
【0104】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞上に発現される表面抗原に結合する。好ましくは、表面抗原は、CD3、CD16(「FcγRIII」とも称される)、およびCD64(「FcγRI」とも称される)からなる群より選択される。より好ましくは、MAT-Fab抗体は、T細胞上に発現されるようなCD3、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるようなCD16、またはマクロファージ、好中球、もしくは単球上に発現されるようなCD64に結合する。
【0105】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原である表面抗原に結合する。本発明のMAT-Fab抗体が結合する好ましい腫瘍関連抗原は、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(「HER2」)、がん胎児性抗原(「CEA」)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される。
【0106】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞上のCD3に結合する。
【0107】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、がん細胞上に存在するCD20に結合する。
【0108】
別の態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、本明細書に記載の通りエフェクター細胞上に発現される表面抗原、および本明細書に記載の通り腫瘍細胞上に発現される腫瘍関連抗原に結合する。ある好ましい態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、T細胞上のCD3および悪性B細胞上のCD20に結合する。
【0109】
ある好ましい態様において、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、CD3およびCD20に結合する。より好ましくは、MAT-Fab二重特異性抗体は、その外側(N末端)のFab結合ユニットでCD20に結合し、かつ、その内側(C近位)のFab結合ユニットでCD3に結合する。
【0110】
ある好ましい態様において、MAT-Fab二重特異性抗体は、CD20およびCD3に結合し、かつ、表1~4のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1、2、3、4)または表5~8のアミノ酸配列(SEQ ID NO:5、6、7、8)を含む4つのポリペプチド鎖を含む。
【0111】
ある好ましい態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、以下からなる抗原ペアの群より選択される標的抗原のペアに結合する:CD20とCD3、CD3とCD19、CD3とFc-ガンマ-RIIIA、CD3とTPBG、CD3とEpha10、CD3とIL-5Rα、CD3とTASCTD-2、CD3とCLEC12A、CD3とプロミニン-1、CD3とIL-23R、CD3とROR1、CD3とIL-3Rα、CD3とPSA、CD3とCD8、CD3とグリピカン3、CD3とFAP、CD3とEphA2、CD3とENPP3、CD3とCD33、CD3とCD133、CD3とEpCAM、CD3とCD19、CD3とHer2、CD3とCEA、CD3とGD2、CD3とPSMA、CD3とBCMA、CD3とA33、CD3とB7-H3、CD3とEGFR、CD3とP-カドヘリン、CD3とHMW-MAA、CD3とTIM-3、CD3とCD38、CD3とTAG-72、CD3とSSTR、CD3とFRA、CD16とCD30、CD64とHer2、CD137とCD20、CD138とCD20、CD19とCD20、CD38とCD20、CD20とCD22、CD40とCD20、CD47とCD20、CD137とEGFR、CD137とHer-2、CD137とPD-1、CD137とPDL-1、PD-1とPD-L1、VEGFとPD-L1、Lag-3とTIM-3、OX40とPD-1、TIM-3とPD-1、TIM-3とPDL-1、EGFRとDLL-4、VEGFとEGFR、HGFとVEGF、VEGFの第一のエピトープとVEGFの異なる第二のエピトープ、VEGFとAng2、EGFRとcMet、PDGFとVEGF、VEGFとDLL-4、OX40とPD-L1、ICOSとPD-1、ICOSとPD-L1、Lag-3とPD-1、Lag-3とPD-L1、Lag-3とCTLA-4、ICOSとCTLA-4、CD138とCD40、CD38とCD138、CD38とCD40、CD-8とIL-6、CSPGとRGM A、CTLA-4とBTN02、CTLA-4とPD-1、IGFlとIGF2、IGFl/2とErb2B、IGF-IRとEGFR、EGFRとCD13、IGF-IRとErbB3、EGFR-2とIGFR、Her2の第一のエピトープとHer2の第二の異なるエピトープ、第IXa因子とMet、第X因子とMet、VEGFR-2とMet、VEGF-Aとアンジオポエチン-2(Ang-2)、IL-12とTWEAK、IL-13とIL-lβ、MAGとRGM A、NgRとRGM A、NogoAとRGM A、OMGpとRGM A、PDL-1とCTLA-4、PD-1とTIM-3、RGM AとRGM B、Te38とTNFα、TNFαとBlys、TNFαとCD22、TNFαとCTLA-4、TNFαとGP130、TNFαとIL-12p40、およびTNFαとRANKリガンド。
【0112】
なお別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、1または2種のサイトカイン、サイトカイン関連タンパク質、またはサイトカイン受容体に結合することができる。
【0113】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、1以上のケモカイン、ケモカイン受容体、およびケモカイン関連タンパク質に結合することができる。
【0114】
別の態様において、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体はまた、リンホカイン受容体、モノカイン受容体、およびポリペプチドホルモン受容体を含む受容体に結合することができる。
【0115】
グリコシル化MAT-Fab二重特異性抗体
本発明のMAT-Fab抗体は、1以上の炭水化物残基を含んでよい。好ましくは、上記のMAT-Fab二重特異性抗体は、グリコシル化される。より好ましくは、グリコシル化は、ヒトグリコシル化パターンである。
【0116】
新生インビボタンパク質生産は、翻訳後修飾として公知のさらなる処理を受けてよい。特に、糖(グリコシル)残基を酵素的に付加してよい(グリコシル化として公知のプロセスである)。共有結合されたオリゴ糖側鎖を持つ得られたタンパク質は、グリコシル化タンパク質または糖タンパク質として公知である。
【0117】
天然に存在する抗体は、Fcドメインおよび可変ドメイン中に1以上の炭水化物残基を有する、糖タンパク質である。Fcドメイン中の炭水化物残基は、Fcドメインのエフェクター機能に対して重要な効果を有し、抗体の抗原結合または半減期に対しては最小の効果を有する(Jefferis, Biotechnol. Prog., 21: 11-16 (2005))。対照的に、可変ドメインのグリコシル化は、抗体の抗原結合活性に対してある効果を有し得る。可変ドメイン中のグリコシル化は、立体障害に起因する可能性の高い、抗原結合親和性に対する負の効果を有することも(Co, M.S., et al., Mol. Immunol., 30: 1361-1367 (1993))、抗原に対する親和性の増加をもたらすこともある(Wallick et al., J. Exp. Med., 168:1099-1109 (1988); Wright, A., et al., EMBO J., 10: 2717-2723 (1991))。
【0118】
本発明の一局面は、MAT-Fab抗体のOまたはN連結型グリコシル化部位が突然変異されているグリコシル化部位突然変異体を作製することに関する。当業者は、標準的な周知の技術を使用してそのような突然変異体を作製することができる。生物学的活性は保持するが、結合活性は増加または減少しているグリコシル化部位突然変異体は、本発明の別の目的である。
【0119】
さらに別の態様において、本発明のMAT-Fab抗体のグリコシル化が改変される。例えば、非グリコシル化MAT-Fab抗体を製造することができる(すなわち、該抗体は、グリコシル化を欠いている)。グリコシル化を変更して、例えば、1つまたは両方の抗原に対するMAT-Fab抗体の親和性を増加させることができる。そのような炭水化物修飾を、例えば、抗体配列内の1以上のグリコシル化の部位を変更することによって、達成することができる。例えば、1以上の可変領域グリコシル化部位の排除をもたらし、それによってその部位でのグリコシル化を排除する、1以上のアミノ酸置換を行うことができる。そのような非グリコシル化は、抗原に対するMAT-Fab抗体の親和性を増加させ得る。そのようなアプローチは、国際公開公報第WO 2003/016466号、ならびに米国特許第5,714,350号および第6,350,861号にさらに詳細に記載されている。
【0120】
追加的に、または代替的に、変更されたグリコシル化タイプを有する本発明の修飾されたMAT-Fab抗体、例えば、低減された量のフコシル残基を有する低フコシル化抗体(Kanda et al., J. Biotechnol., 130(3): 300-310 (2007)を参照のこと)、またはバイセクティング(bisecting)GlcNAc構造が増加した抗体を製造することができる。そのような変更されたグリコシル化パターンは、抗体のADCC能を増加させると実証されている。そのような炭水化物修飾を、例えば、グリコシル化機構が変更された宿主細胞中で抗体を発現させることによって、達成することができる。グリコシル化機構が変更された細胞は、当技術分野において記載されており、本発明の組換え抗体を発現する宿主細胞として使用することができ、それによってグリコシル化が変更された抗体を生産する。例えば、Shields et al., J. Biol. Chem., 277: 26733-26740 (2002); Umana et al., Nat. Biotech., 17: 176-180 (1999)、ならびに、欧州特許第EP 1 176 195号;国際公開公報第WO 2003/035835号および第WO 1999/54342号を参照のこと。
【0121】
タンパク質グリコシル化は、関心対象のタンパク質のアミノ酸配列、ならびにタンパク質が発現される宿主細胞に依存する。異なる生物が、異なるグリコシル化酵素(例えば、グリコシルトランスフェラーゼおよびグリコシダーゼ)を産生し、利用可能な異なる基質(ヌクレオチド糖)を有し得る。そのような因子に起因して、タンパク質グリコシル化パターン、およびグリコシル残基の組成は、特定のタンパク質が発現される宿主系に依存して異なり得る。本発明において有用なグリコシル残基は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸を含んでよいが、これらに限定されない。好ましくは、グリコシル化MAT-Fab抗体は、グリコシル化パターンがヒトであるようなグリコシル残基を含む。
【0122】
タンパク質グリコシル化が異なれば異なるタンパク質特性をもたらし得ることが、当業者に公知である。例として、酵母などの微生物宿主において産生され、酵母の内因性経路を利用してグリコシル化された治療用タンパク質の有効性は、CHO細胞株などの哺乳動物細胞において発現される同じタンパク質の有効性と比較して低減され得る。そのような糖タンパク質はまた、ヒトにおいて免疫原性であり、投与後に、低減したインビボ半減期を示し得る。ヒトおよび他の動物における特定の受容体は、特定のグリコシル残基を認識し、血流からのタンパク質の急速なクリアランスを促進し得る。他の有害効果は、タンパク質フォールディング、溶解性、プロテアーゼに対する感受性、トラフィッキング、輸送、コンパートメント化、分泌、他のタンパク質もしくは因子による認識、抗原性、またはアレルゲン性の変化を含み得る。したがって、実践者は、特定のグリコシル化の組成およびパターン、例えば、ヒト細胞または意図する対象動物の種特異的細胞において産生されるものと同一であるか、または少なくとも類似しているグリコシル化の組成およびパターンを有する、MAT-Fab抗体を選んでよい。
【0123】
宿主細胞のものとは異なるグリコシル化MAT-Fab抗体を発現させることは、異種グリコシル化酵素を発現するように宿主細胞を遺伝子修飾することによって達成してよい。当技術分野において公知の技術を使用して、実践者は、ヒトタンパク質グリコシル化を示すMAT-Fab抗体を作製してよい。例えば、酵母株において産生されるグリコシル化タンパク質(糖タンパク質)が、動物細胞、とりわけヒト細胞のものと同一であるタンパク質グリコシル化を示すように、酵母株が遺伝子修飾されて、天然に存在しないグリコシル化酵素が発現されている(例えば、米国特許公報第2004/0018590号および第2002/0137134号)。
【0124】
核酸、ベクター、宿主細胞
本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のポリペプチド鎖の1つ、2つ、3つ、または4つ全てをコードする1以上の単離された核酸を提供する。
【0125】
本発明はまた、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体のポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つ全てをコードする1以上の単離された核酸を含むベクターを提供する。ベクターは、自律複製型ベクターであっても、ベクター中に存在する単離された核酸を宿主細胞ゲノムに組み込むベクターであってもよい。また、MAT-Fab抗体の1つ、2つ、3つまたは4つ全てのポリペプチド鎖をコードする単離された核酸を、種々の遺伝子解析を行うため、MAT-Fab抗体を発現させるため、または、本明細書に記載のMAT-Fab抗体の1以上の特性を特性決定もしくは改善するため、ベクターに挿入してもよい。
【0126】
本発明に係るベクターを使用して、本明細書に記載のMAT-Fab抗体の1つ、2つ、3つ、または4つ全てのポリペプチド鎖をコードする単離された核酸を複製してよい。
【0127】
本発明に係るベクターを使用して、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体をコードする単離された核酸を発現させても、MAT-Fab抗体の1以上のポリペプチド鎖をコードする1以上の単離された核酸を発現させてもよい。本明細書に記載の核酸をクローニングおよび発現させるための好ましいベクターは、pcDNA、pTT(Durocher et al, Nucleic Acids Res., 30(2e9): 1-9 (2002))、pTT3(追加の複数のクローニング部位を有するpTT)、pEFBOS(Mizushima and Nagata, Nucleic Acids Res., 18(17): 5322 (1990))、pBV、pJV、pcDNA3.1 TOPO、pEF6 TOPOおよびpBJを含むが、これらに限定されない。
【0128】
本発明はまた、上記のベクターを含む単離された宿主細胞を提供する。本明細書に記載のベクターを含むそのような単離された宿主細胞は、単離された原核細胞であっても単離された真核細胞であってもよい。
【0129】
本明細書に記載のベクターを含む単離された原核宿主細胞は、細菌宿主細胞であってよい。細菌宿主細胞は、グラム陽性、グラム陰性、またはグラム不定の細菌宿主細胞であってよい。好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む細菌宿主細胞は、グラム陰性細菌である。さらにより好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む細菌宿主細胞は、大腸菌細胞である。
【0130】
本明細書に記載のベクターを含む単離された宿主細胞は、真核宿主細胞であってよい。本明細書に記載のベクターを含む好ましい単離された真核宿主細胞は、非限定的に、哺乳動物宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真菌宿主細胞、真核藻類宿主細胞、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および魚類宿主細胞を含んでよい。好ましくは、本明細書に記載のベクターを含む単離された哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV-1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞、およびMDCK細胞からなる群より選択される。本明細書に記載のベクターを含む好ましい単離された真菌宿主細胞は、アスペルギルス属、ニューロスポーラ属、サッカロミセス属、ピキア属、ハンゼヌラ属、シゾサッカロミセス属、クルイベロミセス属、ヤロウイア属、およびカンジダ属からなる群より選択される。より好ましくは、本明細書に記載のベクターを含むサッカロミセス属宿主細胞は、サッカロミセス・セレヴィシエ細胞である。
【0131】
また、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を生産する方法であって、MAT-Fab抗体をコードする核酸を含むベクターを含む単離された宿主細胞を、MAT-Fab抗体を生産するのに十分な条件下で培養する工程を含む方法が提供される。
【0132】
本発明の別の局面は、上記の方法によって生産されるMAT-Fab二重特異性抗体である。
【0133】
コンジュゲート
二量化したFc領域の存在に主に起因して、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体を、現在はIgG抗体にコンジュゲートされている様々な作用物質のいずれかにコンジュゲートすることができる。例えば、上記のMAT-Fab二重特異性抗体を、イムノアドヘシン(immunoadhesion)分子、造影剤、治療剤、および細胞毒性剤からなる群より選択される作用物質にコンジュゲートすることができる。本発明のMAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい好ましい造影剤は、放射性標識、酵素、蛍光標識、発光標識、生物発光標識、磁気標識、ビオチン、ストレプトアビジン、またはアビジンからなる群より選択される。本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい放射性標識は、3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、131I、177Lu、166Ho、および153Smを含むが、これらに限定されない。本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体にコンジュゲートしてよい好ましい細胞毒性または治療用化合物は、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、アントラサイクリン、毒素、およびアポトーシス剤を含むが、これらに限定されない。いくつかの場合には、MAT-Fab抗体は、作用物質に直接コンジュゲートされている。代替的に、MAT-Fab抗体は、リンカーを介して、作用物質にコンジュゲートされている。好適なリンカーは、本明細書に開示のアミノ酸およびポリペプチドリンカーを含むが、これらに限定されない。リンカーは、切断可能であっても切断不可能であってもよい。
【0134】
結晶化形態
本発明のMAT-Fab二重特異性抗体を、例えば、Shenoyおよび共同研究者によって国際公開公報第WO 2002/072636号(参照によって本明細書に組み入れられる)に記載されているような、大規模結晶化法を使用して調製される結晶化形態として使用してよい。そのような方法は、従来のX線結晶学研究で用いられるものとは大きく異なる抗体分子の結晶を提供する。X線結晶学研究では、正確な測定に結晶品質が非常に重要であるが、製薬使用のための大規模結晶化法によって生産される結晶の場合には当てはまらない。大規模結晶化法を使用して生産される抗体分子の結晶は、製薬研究および製造にとっては十分に純粋であり、生物学的活性を保持し、保存には特によく適しており(抗体結晶は、溶液中で起こり得る望ましくない相互作用を受けにくいため)、極めて高濃度の生物学的に活性な抗体分子を含有する、非経口的に投与可能な製剤を提供することができ、有利な用量製剤を提供することができ(非水性懸濁液中で高濃度であることを含む)、増加したインビボ半減期を提供することができ、そして、抗体分子のインビボでの制御放出のために、ポリマー担体で製剤化(カプセル化)することができる。
【0135】
特に好ましいのは、非結晶形態の任意の結合活性ならびに任意の望ましい生物学的活性を保持する、結晶化されたMAT-Fab抗体である。結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体はまた、個体に投与されたときに、MAT-Fabの無担体制御放出を提供し得る。
【0136】
本発明に係る結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体の放出のための好ましい組成物は、本明細書に記載の通りの結晶化されたMAT-Fab二重特異性抗体、賦形剤成分、および少なくとも1種のポリマー担体を含む。好ましくは、賦形剤成分は、アルブミン、スクロース、トレハロース、ラクチトール、ゼラチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メトキシポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールからなる群より選択される。好ましくは、ポリマー担体は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(シアノアクリラート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(デプシペプチド)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸共重合体)またはPLGA、ポリ(b-ヒドロキシブチラート)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン);ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、無水マレイン酸/アルキルビニルエーテル共重合体、プルロニックポリオール、アルブミン、アルギナート、セルロースおよびセルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、オリゴ糖、グリコサミノグリカン、硫酸化多糖、それらのブレンド、ならびにそれらの共重合体からなる群のうちの1種以上から選択されるポリマーである。
【0137】
MAT-Fab二重特異性抗体の使用
本発明は、ヒト対象にとって有害である1または2種の標的エピトープ、1または2種の標的抗原、または標的エピトープと標的抗原との組み合わせに結合するMAT-Fab二重特異性抗体を個体に投与する工程を含む、ヒト対象における疾患または障害を処置する方法であって、MAT-Fab二重特異性抗体によるエピトープまたは抗原の結合が、疾患または障害に対する処置を提供する方法を提供する。
【0138】
エピトープ、抗原、または抗原の活性が有害である障害は、障害を患っているヒト対象におけるエピトープ(例えば、細胞表面タンパク質または可溶性タンパク質のエピトープ)または抗原または抗原の活性の存在が、障害の病態生理学の原因であると示されているかもしくはその疑いがある、または障害の悪化に寄与する因子であると示されているかもしくはその疑いがある障害を含むことを意図する。したがって、エピトープ、抗原、または抗原活性が有害である障害は、エピトープ、抗原、または抗原活性の低下が、障害の1以上の症状または障害の進行を緩和し、それによって障害の処置を提供すると予想される障害である。そのような障害は、例えば、障害を患っているヒト対象の血液または他の生物学的流体中の抗原(またはエピトープ)の濃度の増加によって明らかになり得る。
【0139】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体が結合することができる1または2種の標的抗原またはエピトープがヒト対象にとって有害である、障害を患っているヒト対象を処置するための方法であって、ヒト対象における1または2種の標的抗原(またはエピトープ)の活性が阻害されて、処置が達成されるように、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体をヒト対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0140】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、エフェクター細胞(T細胞、NK細胞、単球、好中球、マクロファージなど)を「再度標的指向」させて(または「動員」して)、障害関連抗原を発現し、かつヒト対象にとって有害である(それゆえ、有害な標的細胞の集団を排除するか、または実質的に低減することが望ましい)特定の標的細胞を攻撃する工程を含む、障害を処置する方法において特に有用である。そのような有害な標的細胞の好ましい例は、腫瘍細胞(例えば、血液(リンパ液を含む)腫瘍細胞および固形腫瘍細胞)、自己反応性細胞、およびウイルス感染細胞である。本発明の再度標的指向させる方法では、MAT-Fab抗体は、エフェクター細胞の表面上に発現される抗原、およびヒト対象にとって有害である標的細胞の表面上に発現される抗原に結合し、ここで、エフェクター細胞上の抗原へのおよび有害な細胞上の抗原へのMAT-Fab抗体の結合は、エフェクター細胞を活性化して有害な標的細胞を攻撃する。
【0141】
したがって、本発明は、エフェクター細胞上の抗原に結合し、かつヒト対象にとって有害である標的細胞上に発現される障害と関連する抗原に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を、ヒト対象に投与する工程を含む、ヒト対象における障害を処置する方法であって、エフェクター細胞と標的細胞との両方へのMAT-Fab二重特異性抗体の結合が、エフェクター細胞を活性化して有害な標的細胞を攻撃する方法を提供する。
【0142】
エフェクター細胞上の単一の標的抗原への、および有害な標的細胞上の単一の標的抗原への、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体の同時結合は、有利なことに、サイトカインの大量の有害な放出(サイトカインストーム)を引き起こすことなく、エフェクター細胞を活性化して標的細胞を攻撃することができる。大量のサイトカインの放出(サイトカインストーム)は、局所組織だけでなく、患者の身体のより遠隔の組織にも有害作用を及ぼし、潜在的な合併症および厄介な副作用をもたらし得る。そのようなサイトカインストームは、T細胞などのエフェクター細胞が抗原提示細胞(APC)に結合する、天然の免疫応答において、または、二価もしくは多価抗体が、エフェクター細胞の表面上の2つ以上の抗原を人為的に架橋したときに、生じ得る。対照的に、Fab結合ユニットの一方だけがエフェクター細胞上の抗原に結合するように、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体を改変することができるという事実のおかげで、非特異的なT細胞活性化およびその後のサイトカインストームの可能性を大きく減少させながらも、エフェクター細胞を活性化して、MAT-Fab抗体の他方のFab結合ユニットが結合する有害な標的細胞を攻撃する能力を保持する。
【0143】
好ましくは、エフェクター細胞を再度標的指向させて有害な標的細胞を攻撃する方法は、有害な標的細胞上の抗原に結合し、かつエフェクター細胞上に発現される抗原に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体と、エフェクター細胞および有害な標的細胞とを接触させる工程を含む。好ましいエフェクター細胞抗原は、CD3、CD16(「FcγRIII」とも称される)、およびCD64(「FcγRI」とも称される)を含む。より好ましくは、該方法は、T細胞上に発現されるようなCD3、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるようなCD16、または、マクロファージ、好中球、もしくは単球上に発現されるようなCD64に結合するMAT-Fab抗体を含む。
【0144】
別の態様において、本発明は、エフェクター細胞上の抗原に結合し、なおかつ標的腫瘍細胞上の抗原にも結合するMAT-Fab抗体を、ヒト対象に投与する工程を含む、処置を必要とするヒト対象における腫瘍を処置する方法であって、エフェクター細胞および標的腫瘍細胞へのMAT-Fab抗体の結合が、エフェクター細胞を活性化して腫瘍細胞を攻撃する方法を提供する。好ましくは、エフェクター細胞上の抗原は、T細胞上に発現されるようなCD3である。
【0145】
ある好ましい態様において、処置を必要とするヒト対象における腫瘍を処置する方法は、エフェクター細胞上の抗原および標的腫瘍細胞上の抗原に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体をヒト対象に投与する工程を含む、エフェクター細胞を再度標的指向させて標的腫瘍細胞を攻撃することを含み、ここで、標的腫瘍細胞上の抗原は、CD19、CD20、ヒト上皮成長因子受容体2(「HER2」)、がん胎児性抗原(「CEA」)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、および受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)からなる群より選択される腫瘍関連抗原である。
【0146】
別の態様において、本発明は、B細胞関連腫瘍についてヒト対象を処置する方法であって、エフェクター細胞上の抗原に結合し、かつ悪性B細胞上の抗原に結合するMAT-Fab二重特異性抗体を、そのような処置を必要とするヒト対象に投与する工程を含む方法を提供する。好ましくは、本発明のMAT-Fab二重特異性抗体は、以下からなる群より選択されるがん障害の悪性B細胞上の抗原に結合する:急性リンパ芽球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞新生物、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、および未分化大細胞型リンパ腫。
【0147】
ある特に好ましい態様において、B細胞関連腫瘍についてヒト対象を処置する方法は、T細胞上のCD3に結合し、かつ標的腫瘍B細胞上のCD20に結合する、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を、ヒト対象に投与する工程を含む。より好ましくは、MAT-Fab二重特異性抗体は、その外側(N末端)のFab結合ユニット(例えば、
図1Aにおいて、ドメインVHA-CH1およびVLA-CLを含むFabを参照のこと)でCD20に結合し、かつ、その内側(C近位)のFab結合ユニット(例えば、
図1Aにおいて、ドメインVHB-CH1およびVLB-CLを含むFab)でCD3に結合する。
【0148】
別の態様において、本発明に係る障害を処置する方法は、MAT-Fab抗体を、エフェクター細胞および有害な標的細胞と、あるタイプのエクスビボ手順で接触させる工程を含んでよく、その工程では、処置を必要とするヒト対象から抽出されたエフェクター細胞をヒト対象の外でMAT-Fab抗体と接触させ、そして、MAT-Fab抗体がエフェクター細胞に結合する時間を与えた後、MAT-Fab抗体に結合したエフェクター細胞を、次いでヒト対象に投与することで、エフェクター細胞に結合したMAT-Fab抗体の複合体が、次いでヒト対象内で腫瘍細胞などの有害な標的細胞に結合しようとすることができるようになる。別の態様において、処置を必要とするヒト対象から抽出されたエフェクター細胞および腫瘍細胞を、ヒト対象の外でMAT-Fab抗体と接触させ、そして、MAT-Fab抗体がエフェクター細胞および腫瘍細胞に結合する時間を与えた後、MAT-Fab抗体に結合したエフェクター細胞および腫瘍細胞をヒト対象に投与する。
【0149】
別の態様において、MAT-Fab二重特異性抗体を改変して、細胞毒性剤を有害な標的細胞、例えば腫瘍細胞に送達してよい。この態様において、MAT-Fab抗体の一方のFab結合ユニットは、有害な標的細胞上の標的抗原の結合部位を含有し、そして、他方のFab結合ユニットは、細胞毒性剤の結合部位を含有する。本発明のそのような改変されたMAT-Fab抗体を、その改変されたFab結合ユニットでそれが結合する細胞毒性剤と混合するか、またはそうでなければ接触させることができる。結合した細胞毒性剤を担持するMAT-Fab抗体を、次いで有害な標的細胞と接触させて、細胞毒性剤を有害な標的細胞に送達することができる。そのような送達系は、MAT-Fab抗体が有害な標的細胞に結合し、次いで、結合した細胞毒性剤と共に細胞内に内在化されることによって、細胞毒性剤を有害な標的細胞の内部に放出することができる場合に、特に有効である。
【0150】
追加的に、本明細書に提供されるMAT-Fab二重特異性抗体を、細胞内送達(内在化受容体および細胞内分子を標的とする)、脳内への送達(例えば、血液脳関門を横断するために、トランスフェリン受容体および中枢神経系(CNS)疾患メディエーターを標的とする)を含む、組織特異的送達(局所の薬物動態を増強するため、ひいてはより高い有効性および/またはより低い毒性のために、組織マーカーおよび疾患メディエーターを標的とする)のために採用することができる。MAT-Fab抗体はまた、抗原を、その抗原の非中和エピトープへの結合を介して特定の位置へ送達し、また抗原の半減期を増加させるための、担体タンパク質として役立つ場合もある。
【0151】
さらに、患者にインプラントされた医療デバイスに物理的に連結させるかまたはこれらの医療デバイスを標的とするように、MAT-Fab二重特異性抗体を設計することができる(Burke et al. (2006) Advanced Drug Deliv. Rev. 58(3): 437-446; Hildebrand et al. (2006) Surface and Coatings Technol. 200: 6318-6324; "Drug/device combinations for local drug therapies and infection prophylaxis," Wu, Peng, et al., (2006) Biomaterials, 27(11):2450-2467; "Mediation of the cytokine network in the implantation of orthopedic devices," Marques et al., in Biodegradable Systems in Tissue Engineering and Regenerative Medicine, Reis et al., eds. (CRC Press LLC, Boca Raton, 2005) pp. 377-397を参照のこと)。適切なタイプの細胞を医療インプラントの部位へ指向させることは、正常な組織機能の治癒および回復を促進し得る。代替的に、MAT-Fab二重特異性抗体を使用して、デバイスのインプラントによって放出されるメディエーター(限定されないが、サイトカインを含む)を阻害してよい。
【0152】
本明細書の開示はまた、限定されないが、診断的アッセイ法、1種以上の結合タンパク質を含有する診断用キット、ならびに自動化および/または半自動化システムで使用するための該方法およびキットの適応を含む、診断的適用を提供する。提供される方法、キット、および適応を、個体における疾患または障害の検出、モニタリング、および/または処置に採用してよい。これを、以下でさらに説明する。
【0153】
本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体は、標的抗原または標的抗原を発現する細胞を検出、定量、または単離するために当技術分野において利用可能な、様々な免疫検出アッセイおよび精製フォーマットのいずれかに容易に適応される。そのようなフォーマットは、免疫ブロットアッセイ(例えば、ウェスタンブロット);免疫アフィニティークロマトグラフィー(例えば、MAT-Fab二重特異性抗体がクロマトグラフィー樹脂またはビーズに吸着または連結されるもの);免疫沈降アッセイ;イムノチップ; 組織の免疫組織化学アッセイ;フローサイトメトリー(蛍光活性化セルソーティングを含む);サンドイッチイムノアッセイ;イムノチップ(MAT-Fab抗体が基板に固定化または結合されるもの);ラジオイムノアッセイ(RIA);酵素イムノアッセイ(EIA);酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA);競合阻害イムノアッセイ;蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA);酵素多重化イムノアッセイ技術(EMIT);生物発光共鳴エネルギー移動(BRET);および均一化学発光アッセイを含むが、これらに限定されない。質量分析法を用いる方法が本開示によって提供され、これは、標的抗原またはエピトープ(抗原もしくはその断片上の)に結合するMAT-Fab抗体を含む、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)またはSELDI(表面増強レーザー脱離/イオン化)を含むが、これらに限定されない。
【0154】
本発明は、試料(例えば、混合物、組成物、溶液、または生物学的試料など)中の抗原を検出するための方法であって、試料と、標的抗原に結合する本発明のMAT-Fab二重特異性抗体とを接触させる工程を含む方法をさらに提供する。本発明の免疫検出アッセイのための試料として役立つ可能性のある生物学的試料は、非限定的に、全血、血漿、血清、種々の組織抽出物、涙液、唾液、尿、および他の体液を含む。好ましくは、本発明の免疫検出アッセイは、以下のいずれか1つを検出する:標的抗原に結合したMAT-Fab二重特異性抗体、MAT-Fab二重特異性抗体と標的抗原との複合体、または結合しないままのMAT-Fab二重特異性抗体。標的抗原およびMAT-Fab抗体を含む結合複合体を検出する方法は、好ましくは、ヒトの眼によって容易に検出されるか、またはシグナル検出装置(例えば、分光光度計)によって容易に検出もしくは測定されるシグナルを生成する、1種以上のシグナル生成分子(検出可能標識)を使用する検出システムを採用する。結合した、または結合していないMAT-Fab二重特異性抗体の検出を容易にするために、MAT-Fab二重特異性抗体を検出可能なシグナル生成システムで直接的または間接的に標識してよい。標的抗原およびMAT-Fab二重特異性抗体を含む結合複合体を検出する際に使用してよい検出可能シグナルは、蛍光シグナル(例えば、MAT-Fab抗体のFab結合ユニットの一方が結合できる、または他の手段によってMAT-Fab抗体に付着することができる、蛍光色素またはシアニン分子から生成されるような);目視可能な色シグナル(例えば、これもMAT-Fab抗体に直接的または間接的に付着することができる酵素または着色分子(例えば、色素)で生成されるような);放射性シグナル(例えば、MAT-Fab抗体に直接的または間接的に付着することができる放射性同位体によって生成されるような);および光シグナル(例えば、化学発光または生物発光システムによって生成されるような)を含むが、これらに限定されない。生物発光システムの一例は、ルシフェラーゼがMAT-Fab抗体または二次検出抗体に直接的または間接的に付着して、ルシフェリン基質の存在下で検出可能な光シグナルを生成し得る、ルシフェリン-ルシフェラーゼシステムである。
【0155】
本発明の免疫検出アッセイにおいて有用な好ましい酵素は、1種以上の試薬と接触させたときに、検出可能シグナルを提供できるものである。そのような酵素は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼを含むが、これらに限定されない。
【0156】
本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい好適な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、およびフィコエリトリンを含むが、これらに限定されない。
【0157】
本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい発光材料の一例は、ルミノールである。
【0158】
本発明の免疫検出アッセイにおいて使用してよい好適な放射性種の例は、3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho、および153Smを含むが、これらに限定されない。
【0159】
医薬組成物
本発明は、本明細書に記載のMAT-Fab二重特異性抗体を含む、ヒト対象を処置する際に使用するための医薬組成物を提供する。そのような組成物は、治療用抗体をヒト対象に投与するための医薬組成物を調製するための当技術分野において周知の技術および成分を使用して調製される。本明細書に記載のMAT-Fab抗体を含む組成物を、多様な投与経路または様式のいずれかによって投与するために製剤化してよい。MAT-Fab抗体を含む組成物を、非経口または非経口以外の投与のために製剤化してよい。がん、自己免疫疾患、または炎症疾患を処置する際に使用するためのMAT-Fab抗体を含む組成物を、非経口投与、例えば、限定されないが、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内投与のために製剤化してよい。より好ましくは、組成物は、静脈内投与のために製剤化される。そのような非経口投与は、好ましくは、組成物の注射または注入によって行われる。
【0160】
ヒト個体への投与のためのMAT-Fab抗体を含む組成物は、有効量のMAT-Fab抗体を、薬学的に許容し得る担体(ビヒクル、緩衝剤)、賦形剤、または他の成分などの、1種以上の薬学的に許容し得る構成部分と組み合わせて含んでよい。「薬学的に許容し得る」とは、組成物の化合物、構成部分、または成分が、ヒト対象の生理学と適合性であると共に、MAT-Fab抗体構成部分の有効活性に、またはヒト対象に投与されるべき組成物中に存在し得る任意の他の構成部分の所望の特性もしくは活性に有害でないことを意味する。薬学的に許容し得る担体の例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、ならびにそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。いくつかの場合には、それは、等張剤(限定されないが、糖;マンニトールまたはソルビトールなどの多価アルコール;塩化ナトリウム;およびそれらの組み合わせを含む)を含むことが好ましい。薬学的に許容し得る担体は、組成物の貯蔵寿命または有効性を増強するために、湿潤剤もしくは乳化剤、保存料、または緩衝剤などの補助物質を少量、さらに含んでよい。賦形剤は、一般に、組成物へ主要治療活性以外の所望の特徴を提供する任意の化合物または化合物の組み合わせである。必要に応じて組成物中のpHを調整して、例えば、構成成分の溶解性を促進もしくは維持し、製剤中の1以上の成分の安定性を維持し、かつ/または望ましくない微生物(手順のどこかの時点で取り込まれる可能性がある)の成長を防止してよい。
【0161】
MAT-Fab抗体を含む組成物はまた、他の薬剤(例えば、抗がん剤、抗生物質、抗炎症化合物、抗ウイルス剤)、充填剤、製剤補助剤、およびそれらの組み合わせなどの、1種以上の他の成分を含んでもよい。
【0162】
本発明に係る組成物は、様々な形態であってよい。これらは、液体、半固体、および固体の剤形、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉剤、リポソーム、ならびに坐剤を含むが、これらに限定されない。好ましい形態は、意図する投与経路に依存する。好ましい組成物は、注射用または注入用液剤の形態、例えば、ヒトでの使用に承認されている治療用抗体の投与に使用されるものと類似の組成物である。ある好ましい態様において、本明細書に記載のMAT-Fab抗体は、静脈内注射または注入によって投与される。別の態様において、MAT-Fab抗体は、筋肉内または皮下注射によって投与される。
【0163】
治療用組成物は、製造および保存の条件下で滅菌および安定でなければならない。組成物を、液剤、マイクロエマルション、分散剤、リポソーム、または高い薬物濃度に好適な他の構造として製剤化することができる。活性化合物、すなわち、MAT-Fab抗体を、必要量で、適切な溶媒中に、任意で組成物へ有益な特徴を提供する成分の1つ又はその組み合わせと共に組み入れ、必要な場合には、続いて濾過滅菌することによって、滅菌の注射用液剤を調製してよい。一般に、分散剤は、基礎分散媒体(例えば、滅菌水、滅菌等張生理食塩水など)および任意で、適切な分散に必要であり得る1種以上の他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に、活性成分を組み入れることによって調製される。滅菌注射用液剤の調製のための滅菌凍結乾燥粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分+任意の追加の所望の成分の粉末を、その事前に滅菌濾過された溶液から生産する、真空乾燥および噴霧乾燥を含む。溶液の適正な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸塩および/またはゼラチンを組成物中に含むことによって、注射用組成物の長期吸収をもたらすことができる。
【0164】
MAT-Fab抗体を、当技術分野において公知の様々な方法によって投与してよい。熟練の実践者によって認識される通り、投与の経路または様式は、所望の結果に応じて変動する。ある特定の態様において、MAT-Fab抗体を、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤など、迅速な放出に対して抗体を保護する担体と共に調製してよい。エチレン-酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製のための様々な方法が、当業者に公知である。
【0165】
上に開示した医薬組成物を、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹部内、嚢内、軟骨内、体腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、側脳室内、結腸内、子宮頸部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、経膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、および経皮からなる群より選択される少なくとも1つの様式による個体への投与のために調製してよい。
【0166】
本発明の追加の態様および特徴は、以下の非限定例から明らかとなろう。
【実施例】
【0167】
実施例1. CD20/CD3 MAT-Fab二重特異性抗体の構築、発現、精製、および分析
MAT-Fab技術を実証するために、ノブ-イントゥ-ホールFc領域突然変異が異なるCD20/CD3 MAT-Fab二重特異性抗体の例を作製した:MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)。
【0168】
MAT-Fab抗体を作製するために、各ポリペプチド鎖をコードするDNAを新たに合成した。
【0169】
CD3およびCD20に結合することができるMAT-Fab抗体を作製するために使用したDNA構築物は、親モノクローナル抗体(mAb)の可変および定常ドメインをコードするものであった。各MAT-Fab抗体は、以下に示す4種のポリペプチドから構成された:
重鎖:VLA-CL-VHB-CH1-ヒンジ-CH2-CH3(KiH)
第一の軽鎖:VHA-CH1
第二の軽鎖:VLB-CL
Fc鎖:ヒンジ-CH2-CH3(KiH)
ここで、「(KiH)」は、重鎖およびFc鎖のCH3ドメインヘテロ二量化に有利に働き、またはこれを安定化させる1以上の突然変異の存在を示し、抗原「A」はCD20であり、そして、抗原「B」はCD3である。
【0170】
ヘテロ二量化に有利に働く、Fc領域において行ったノブ-イントゥ-ホール突然変異だけが異なる、MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)で表される2つの構築物を製造した。
【0171】
簡潔に述べると、親mAbは、2種の高親和性抗体、すなわち抗CD20 mAb(オファツムマブ)および抗CD3 mAb(米国特許公開公報第2009/0252683号)を含んだ。
【0172】
MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2の重鎖のための構築物
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の重鎖を生産するために、DNA構築物は、次のものをコードするものであった:親抗CD20 mAb(オファツムマブ)の軽鎖のVL-CLに連結された、22アミノ酸シグナルペプチドであり、このVL-CLは、親抗CD3 mAb(米国特許公開公報第2009/0252683号)のVH-CH1領域のN末端に連結されており、このVH-CH1領域は、親抗CD3 mAbのヒンジ-CH2に連結されており、このヒンジ-CH2は、親抗CD3 mAbに由来する突然変異IgG1 CH3領域に連結されている。
【0173】
MAT-Fab(KiH1)二重特異性抗体の重鎖のCH3ドメインを突然変異させて、トレオニン(T)残基をチロシン(Y)残基へ変化させて、CH3ドメインの残基21に構造的ノブを形成した。この突然変異を反映する、以下の表1のSEQ ID NO:1中のY610(下線を引いた残基)を参照のこと。MAT-Fab(KiH1)のFc鎖のCH3ドメイン中の対応する位置を突然変異させて、チロシン(Y)残基をトレオニン(T)残基へ変化させて、CH3ドメインの残基62に構造的ノブを形成した。この突然変異を反映する、以下の表4のSEQ ID NO:4中のT213(下線を引いた残基)を参照のこと。
【0174】
MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の重鎖のCH3ドメインを突然変異させて、トレオニン(T)残基をトリプトファン(W)残基へ変化させて、CH3ドメイン中に構造的ノブを形成した。この突然変異を反映する、以下の表5のSEQ ID NO:5中のW610(下線を引いた残基)を参照のこと。MAT-Fab(KiH2)のFc鎖のCH3ドメインを突然変異させて、トレオニン(T)をセリン(S)へ、ロイシン(L)をアラニン(A)へ、およびチロシン(Y)をバリンへ変化させて、CH3ドメイン中に構造的ホールを形成した。この突然変異を反映する、以下の表8のSEQ ID NO:8中のS172、A174およびV213(下線を引いた残基)を参照のこと。
【0175】
MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の重鎖のCH3ドメインをまた突然変異させて、セリン(S)残基をシステイン(C)残基へ変化させ;そして、対応する突然変異を、MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体のFc鎖中で行って、チロシン(Y)残基をシステイン(C)残基へ変化させた。これらのシステイン(C)残基の導入は、ヘテロ二量体の改善された安定性をもたらす、Fcポリペプチド鎖の相補的な突然変異CH3ドメインとのジスルフィド結合形成を可能にする。これらのシステイン置換を反映する、表5のSEQ ID NO:5中のC598(下線を引いた残基)および以下の表8のSEQ ID NO:8中のC155(下線を引いた残基)を参照のこと。
【0176】
また、ADCC/CDCエフェクター機能を低減または排除するために、MAT-Fab KiH1とMAT-Fab KiH2の両方における重鎖およびFc鎖を突然変異させて、ヒンジ-CH2領域の位置18~19のロイシン-ロイシンをアラニン-アラニンへ変化させた(Canfield et al. J. Exp. Med., 173(6): 1483-1491 (1991))。表1のSEQ ID NO:1中の478AA479、表4のSEQ ID NO:4中の40AA41、表5のSEQ ID NO:5中の478AA479、および表8のSEQ ID NO:8中の40AA41は、これらのロイシンからアラニンへの突然変異を反映している。
【0177】
MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2の第一の軽鎖のための構築物
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の第一の軽鎖を生産するために、DNA構築物は、親抗CD20 mAb(オファツムマブ)のVH-CH1断片に連結された、19アミノ酸シグナルペプチドをコードするものとした。
【0178】
MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2の第二の軽鎖のための構築物
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の第二の軽鎖を生産するために、DNA構築物は、親抗CD3 mAb(米国特許公開公報第2009/0252683号)の軽鎖のVL-CLに連結された、20アミノ酸シグナルペプチドをコードするものとした。
【0179】
MAT-Fab KiH1およびMAT-Fab KiH2のFc鎖のための構築物
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体のFcポリペプチド鎖を生産するために、DNA構築物は、MAT-Fab重鎖構築物の考察において上で考察した突然変異を含む、IgG1アイソタイプの突然変異CH3領域に連結された、親抗CD3 mAbのヒンジ-CH2に連結された22アミノ酸シグナルペプチド(重鎖構築物に使用されるものと同じ)をコードするものとした。
【0180】
MAT-Fab(KiH1)二重特異性抗体の重鎖のFc鎖のCH3ドメインを突然変異させて、チロシン(Y)残基をトレオニン(T)残基へ変化させて、CH3ドメイン中に構造的ホールを形成し、それによって、重鎖のCH3ドメイン中の構造的ノブ突然変異を補充した(上記参照)。
【0181】
MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体のFc鎖のCH3ドメインを突然変異させて、トレオニン(T)残基をセリン(S)残基へ変化させ、ロイシン(L)残基をアラニン(A)残基へ変化させ、そして、チロシン(Y)残基をバリン(V)残基へ変化させて、CH3ドメイン中に構造的ホールを形成した。CH3ドメインをまた突然変異させて、チロシン(Y)残基をシステイン(C)残基へ変化させた。システイン(C)残基の導入は、ヘテロ二量化をさらに安定化させる、上記のMAT-Fab(KiH2)重鎖の相補的な突然変異CH3ドメインとのジスルフィド結合形成を可能にする。
【0182】
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体のための4つのポリペプチド鎖のアミノ酸配列を以下の表に示す。
【0183】
(表1)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH1)二重特異性抗体の重鎖
【0184】
(表2)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH1)二重特異性抗体の第一の軽鎖
【0185】
(表3)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH1)二重特異性抗体の第二の軽鎖
【0186】
(表4)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH1)Fcポリペプチド鎖
【0187】
(表5)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の重鎖
【0188】
(表6)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の第一の軽鎖
【0189】
(表7)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体の第二の軽鎖
【0190】
(表8)CD20/CD3 MAT-Fab(KiH2)Fcポリペプチド鎖
【0191】
発現レベル
MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)の4つのポリペプチド鎖の各々をコードする上記のDNA構築物を、標準的な方法によってpTT発現ベクター内にクローニングした。次いで、SEQ ID NO:1~4をコードするまたはSEQ ID NO:5~8をコードする、得られた組換えpTTベクターを、MAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)二重特異性抗体のそれぞれの発現のために、HEK 293E細胞に共トランスフェクトした。細胞培養物中の発現のレベルを以下の表に示す。
【0192】
【0193】
精製および特性決定
生産段階が完了したら、細胞培養物を収集し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質精製に供した。
【0194】
プロテインAクロマトグラフィーによる単回工程精製後の、各々のMAT-Fab抗体調製物の単量体画分を、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)によって測定した。SEC分析の結果を
図2および3に示す。
【0195】
SEC分析は、MAT-Fab(KiH1)抗体調製物の98.19%およびMAT-Fab(KiH2)抗体調製物の95.7%が、単一種(「単量体画分」)として存在したことを明らかにした。
【0196】
蛍光活性化セルソーティング(FACS)
精製されたMAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)の、細胞の表面上に発現されるCD20およびCD3標的抗原に結合する能力を、下記のプロトコルを使用した蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって調べた。
【0197】
機器
BD FACSVerse 製造番号:01131005894
Olympus CKX41 製造番号:01121005367
Eppendorf centrifuge 5810R 製造番号:01121005414
Thermo Series II water jacket、製造番号:01121005408
【0198】
材料および試薬
BD Falcon丸底チューブ、カタログ番号352052 ロット番号3070549
組織培養プレート96ウェル、U底、低蒸発性、カタログ番号353077 ロット番号34285048
FBS、GIBCO カタログ番号10099、ロット番号1652792
PBS、GIBCO カタログ番号10010、ロット番号1710584
RPMI Medium 1640(1×)、GIBCO カタログ番号A10491、ロット番号1747206
Alexa Fluor(登録商標)488マウス抗ヒトlgG1. Invitrogen、カタログ番号A-10631、ロット番号1744792
【0199】
細胞株
Jurkat(ATCCカタログ番号TIB-152)は、CD3表面抗原を発現するT細胞白血病細胞株である。
Raji(ATCCカタログ番号CCL-86、ロット60131961)は、CD20表面抗原を発現するバーキットリンパ腫B細胞株である。
【0200】
【0201】
FACS手順
1. 氷冷PBS中の5×105個の細胞に等分した。
2. 細胞を2% FBS/PBS中で30分間氷上にてブロッキングした。
3. 細胞を抗CD20抗体と1時間氷上でインキュベートした。抗体の初期濃度は、(133.33nM)20ug/mlであり、これを1:5に段階希釈した。各用量は200μLであった。
4. 4℃にて2000rpmで5分間、PBS中で3回洗浄した。
5. 細胞を、マウス抗ヒトIgG1 Fc二次抗体、Alexa Fluor(登録商標)488(AF488)マウス抗ヒトlgG1 100μL(10μg/mL)(1:100希釈)と氷上で1時間インキュベートし、遮光した。
6. 4℃にて2000rpmで5分間、PBS中で3回洗浄した。
7. 細胞をPBSに再懸濁した。平均蛍光強度(MFI)をBD FACSVerseフローサイトメトリーによって検出した。
【0202】
結果
結果を
図4および5に示す。両MAT-Fab二重特異性抗体は、B細胞(CD20 Raji細胞)およびT細胞(CD3 Jurkat細胞)上のCD20およびCD3それぞれに結合することができた。
【0203】
T細胞の存在下でB細胞アポトーシスを誘導する機能的活性
精製されたMAT-Fab(KiH1)およびMAT-Fab(KiH2)の、細胞表面上に発現されるCD20およびCD3標的抗原に結合する能力を、下記のプロトコルを使用したB細胞アポトーシスアッセイによって調べた。
【0204】
機器
BD FACSVerse 製造番号:01131005894
Olympus CKX41 製造番号:01121005367
Eppendorf centrifuge 5810R 製造番号:01121005414
Thermo Series II water jacket、製造番号:01121005408
【0205】
材料および試薬
BD Falcon丸底チューブ、カタログ番号352052 ロット番号3070549
組織培養プレート96ウェル、U底、低蒸発性、カタログ番号353077 ロット番号4292046
FBS、GIBCO カタログ番号10099、ロット番号1652792
PBS、GIBCO カタログ番号10010、ロット番号1710584
RPMI Medium 1640(1×)、GIBCO カタログ番号11875、ロット番号1731226
Ficoll Paque Plus、GE HEALTHCARE、カタログ番号:GE17144002、ロット番号:10237843
PEマウス抗ヒトCD19、BD Pharmingen、カタログ番号555413、ロット番号:5274713
【0206】
細胞株
Raji、ATCCカタログ番号CCL-86、ロット番号60131961
ドナー番号:00123
【0207】
【0208】
手順
単核細胞の単離手順
【0209】
血液試料の調製
1. 抗凝血処理チューブにヒト血液100mlを新たに抽出した。
2. 等用量のRPMI1640(100ml)を血液に加えて、穏やかに混合した。
3. Ficoll-Paque密度勾配培地を使用前に18℃~20℃に温めた。
4. Ficoll-Paque培地ボトルを数回反転させ、確実に十分混合させた。
5. Ficoll-Paque培地(15ml)を50ml遠心チューブに加えた。
6. 希釈した血液試料(20ml)をFicoll-Paque培地溶液上に、Ficoll-Paque培地溶液と希釈した血液試料を混合しないように、慎重に層にした。
7. Ficoll-Paqueを血液試料と共に、400gで30~40分間18℃~20℃にて遠心分離した。
8. 単核細胞の層を勾配から滅菌遠心チューブへ移した。
【0210】
細胞単離物の洗浄
1. 移した単核細胞の用量を推定し、少なくとも3用量のPBSを、遠心チューブ中の単核細胞に加えた。
2. 細胞およびPBSを400~500×gで10分間18℃~20℃にて遠心分離し、上清を除去した。
3. 洗浄を繰り返した。
4. 上清を除去し、細胞ペレットをアッセイ緩衝液に再懸濁した。
【0211】
B細胞枯渇
アッセイ培地はRPMI1640+10% FBSであった。
1. 標的細胞(Raji細胞)を対数増殖期で採取し、アッセイ培地で1回洗浄した。細胞密度を細胞5×105個/mlに調整し、細胞懸濁液100μlをアッセイプレートの各ウェルにアプライした。
2. 試験抗体を段階希釈し、50μlを上記アッセイプレートの各ウェルに加えた。抗体の最終出発濃度は50μg/mlであり、次いでこれを段階希釈した。
3. PBMC細胞密度を細胞2.5×106個/mlに調整し、細胞懸濁液100μlをアッセイプレートの各ウェルにアプライした(エフェクター対標的の比5:1)。
4. アッセイプレートを、37℃、5% CO2で、1日間、2日間、および3日間インキュベートした。1日目、2日目、および3日目に、4℃にて2000rpmで5分間遠心分離することによって試料を収集し、PBSで1回洗浄した。
5. 各試料を、1:5希釈したPEコンジュゲート抗ヒトCD19検出抗体50μlと、氷上で30分間インキュベートした。
6. 試料をPBSで洗浄し、FACSVerseによって試験した。
【0212】
結果
結果を
図6に示す。細胞枯渇アッセイの2日目までに、両MAT-Fab二重特異性抗体は、 B細胞のT細胞媒介アポトーシスを誘導することができた。
【0213】
上記文章に引用される全ての特許、出願、および刊行物は、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0214】
本明細書に記載の発明の他の変形および態様は、本発明の開示または以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、今般、当業者に明らかとなろう。
【配列表】