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特許7033342子宮腔内に用いられ内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】子宮腔内に用いられ内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 31/00 20060101AFI20220303BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 31/565 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A61M31/00
A61L31/16
A61K9/70
A61K31/565
A61P15/00
A61L31/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020501342
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 CN2018092136
(87)【国際公開番号】W WO2019200694
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-01-09
(31)【優先権主張番号】201810354277.2
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519255492
【氏名又は名称】易浦潤(上海)生物技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】魏 征
(72)【発明者】
【氏名】夏 佩佩
(72)【発明者】
【氏名】晏 偉
(72)【発明者】
【氏名】穆 雲泓
(72)【発明者】
【氏名】王 秀麗
(72)【発明者】
【氏名】謝 建
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105078642(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103301558(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102861374(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1397274(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103285430(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 31/00
A61K 6/00- 6/90
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61L 27/00-27/60
A61L 31/00-31/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜であって、
シート状のシリコンゴムと、
少なくとも一種類のエストロゲンを含む薬物であって、薬物貯蔵領域としてのシリコンゴムの内部に包まれ、若しくはシリコンゴムの内部に均一に分散され、又は塗布層としてシリコンゴムの外面に担持される薬物と、
前記シリコンゴムに形成される二つの抜取糸用孔と、
前記弾性膜が子宮腔にインプラントされたとき、前記抜取糸用孔よりも子宮の底部側に位置するように前記シリコンゴムに形成される二つのインプラント糸用孔と、
二つの前記抜取糸用孔に穿通される抜取糸と、
二つの前記インプラント糸用孔に穿通されるとともに、前記弾性膜を子宮腔内に送達するための送達システムと前記シリコンゴムとを一時的に接続するインプラント糸と、
前記抜取糸の前記シリコンゴムの片側に位置する部分又は前記インプラント糸の前記シリコンゴムの片側に位置する部分に設けられる細管と、を備え
前記細管がインプラント糸に設けられる場合に、前記インプラント糸の前記細管が設けられていない部分は、前記送達システムと係合する部分である、ことを特徴とする、弾性膜。
【請求項2】
薬物が薬物貯蔵領域としてのシリコンゴムの内部に包まれる場合、シリコンゴムと薬物との重量比率は、0から99%:100から1%であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項3】
薬物がシリコンゴムの内部に均一に分散される場合、シリコンゴムと薬物との重量比率は、80から99%:20から1%であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項4】
薬物と分解性ポリマーとの溶解によって薬液が形成され、
前記薬液は、シリコンゴムの外面に担持されやすいように、噴霧塗布によって、塗布層を形成し、
薬液において、薬物と分解性ポリマーとの重量比率は、10から90%:90から10%であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項5】
薬物は、毛細血管の血液供給の増加に用いられ、子宮内膜の血流を改善する薬物又は/及び子宮腔の局所の免疫を調節するためのコロニー刺激因子をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項6】
弾性膜は、逆台形をなし、
台形は、その下底の長さが20mmから40mmであり、その上底の長さが5mmから15mmであり、その高さが25mmから35mmであることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項7】
弾性膜におけるエストロゲンの使用量は、10mgから200mgであり、
弾性膜におけるエストロゲンから毎日10μgから4mgの薬量が放出されることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項8】
前記エストロゲンは、17β-エストラジオール、エストロン、又はエストリオールであり、前記シリコンゴムは、変性HTV、付加型RTV-2又はLTVであることを特徴とする、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の弾性膜を製造する弾性膜の製造方法であって、
シリコンゴムと薬物とを混合してから、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成されることを特徴とする、弾性膜の製造方法。
【請求項10】
各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のHTVシリコンゴム、10から50%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤、0.5から1.5%重量の過酸化ベンゾイルを混練してシリコンゴムを製造することを特徴とする、請求項に記載の弾性膜の製造方法。
【請求項11】
各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のシリコンゴム、20から60%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、甲乙の両グループのシリコンゴムと薬物とを混合し、甲グループと0.1から1%重量の白金系触媒とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、乙グループと1から10%重量の活性水素架橋剤とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、小片に切り、更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成されることを特徴とする、請求項に記載の弾性膜の製造方法。
【請求項12】
マトリックス型弾性膜の外面には、貯蔵型弾性膜が形成されるように、独立した外層シリコンゴム膜が被覆されることを特徴とする、請求項に記載の弾性膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1からのいずれか1項に記載の弾性膜を製造する弾性膜の製造方法であって、
薬物と分解性ポリマーとを溶剤に溶解させることによって、薬液が形成され、
薬液をシリコンゴムに噴霧塗布することによって、緩効性塗布層が形成されることを特徴とする、弾性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、女性の子宮内に用いられる弾性膜に関し、具体的には、子宮腔内の内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮は、月経を発生するとともに胎児を発育させる器官であり、骨盤腔の中央に位置する、子宮は、女性のみが有する臓器である。子宮の大きさは、年齢と生育の有無に関係する。未生育者の子宮のサイズは、長さが約7.5cmで、幅が約5cmで、厚さが約3cmである。子宮は、底部、体部及び頸部の三つの部分に分けられる。子宮腔は、逆三角形をなし、深さが約6cmであり、その上方の両角が卵管に連通する「子宮角」である。下端狭窄部は、「峡部」であり、その長さが約1cmである。
【0003】
妊娠中絶、避妊器具の着脱、手術等の子宮腔に対する操作及び感染等の原因は、子宮エリアに種々の障害や疾病を引き起こす。子宮疾病は、女性の中で、最も共通的な疾病の一つであり、これらの疾病は、患者の通常の生活と健康に深刻な影響を与え、更に妊娠能力に影響を与えるおそれがある。これらの病変として、例えば、子宮内膜炎、子宮内膜症、子宮肥大、子宮ポリープ、子宮筋腫、子宮嚢胞、子宮脱及び子宮内膜癌等が挙げられる。
【0004】
薬物治療による上記病変に対する治療効果が限定的である。手術分野にける低侵襲性技法の迅速な発展に伴い、子宮鏡検査及び手術は、婦人科の診断治療の分野で広く普及されている。傷口が小さく、術中の出血が少ない等の利点があるので、子宮鏡は、低侵襲性外科手術における重要な部分と称されている。
【0005】
しかし、大部分の手術は、子宮に損傷を与えてしまう。また、ポリープ、子宮筋腫、嚢胞、癒着の切除、掻爬等の操作も子宮のベース層に損傷を引き起こすことにより、内膜線維症及び子宮内癒着を引き起こす。
【0006】
子宮は、主成分が筋肉である。子宮体は、その前壁と後壁とがほぼ互いに接触しており、中間に位置する子宮腔がスロットに過ぎない。子宮壁は、漿膜層、筋肉層及び粘膜層三つの組織からなる。そして、子宮内膜層である粘膜層を高密度層、スポンジ層及びベース層の三つの層に分けることができる。高密度層及びスポンジ層は、ベース層によって再生される増殖帯であり、機能層と総称され、性ホルモンに対して敏感であり、卵巣ホルモンの影響で周期的な変化が発生する。機能層は、妊娠しない場合、周期の最後に子宮の出血に伴って剥離し、臨床的に月経と呼ばれる。ベース層は、筋肉層に密着し、性ホルモンに対して敏感ではなく、周期的な変化がない。本来の子宮内膜腺体は、子宮腔内の湿った状態を保持するように少量のアルカリ性の液体を分泌することができる。このため、本来の子宮の前壁と後壁が近いが、互いに癒着して成長することがない。
【0007】
子宮内術後、子宮の内膜のベース層が損傷を受けると、特に同じ位置の前壁と後壁が同時に損傷を受けると、子宮腔に癒着が発生する。現在、妊娠子宮への創傷が子宮内の癒着の主な原因であることが考えられる。創傷は、分娩後又は妊娠中絶後1から4週間で、過度の出血による掻爬によって発生する。このような感染しやすい期間中において、どんな創傷があっても、子宮内膜のベース層を剥離させるおそれがあり、子宮壁が互いに粘着し永久的な癒着が形成されることで、子宮の変形及び対称性の消滅を引き起こす。また、非妊娠中の子宮内膜への創傷も子宮内の癒着を引き起こすおそれがある。文献報告によれば、子宮腔内の癒着は、診断性掻爬術、開腹筋腫瘍除去、子宮頸部生検、子宮の内膜ポリープ除去、子宮内の避妊デバイスの設置又は放射線療法後に発生するおそれがある。また、宮腔内の癒着は、子宮鏡下子宮筋腫摘出術、子宮縦隔切除等の様々な子宮鏡下手術後に発生するおそれがある。
【0008】
これにより、低侵襲手術後、子宮腔への損傷により、相対創傷面が互いに粘着した後癒着する可能性が高い。そして、子宮腔が癒着した後、経血がスムーズに排出できず、出産適齢の女性であっても正常に妊娠することができない。通常の方法は、子宮鏡視下癒着切開術により癒着部位を再び分離させる。しかし、子宮鏡手術が広く採用されるものの、子宮腔の癒着に関する治療は、依然として非常に困難である。子宮腔の癒着に関する治療は、術後に子宮角等の部位の癒着又は重度の子宮腔の癒着が発生しやすいため、回復が遅い。たとえ子宮内分離術を用いても、再発しやすいため、徹底的に治ることは困難である。子宮腔の癒着後の妊娠は、妊娠中絶のリスクや胎盤異常のリスクが高いハイリスク妊娠であり、合併症を防ぐために綿密な看護が必要である。したがって、子宮腔の癒着の再発を防ぎ、最終的に患者の正常な生活と繁殖能力を取り戻すために、子宮腔の癒着に関する治療は、子宮腔を本来の形態に回復させるための子宮鏡手術だけではなく、子宮内膜の修復を促進させる手段を採用しなければならない。
【0009】
現在、子宮腔の癒着分離後の再癒着を防ぐために、多くの方法と手段があり、主に薬物療法、子宮内バリア培地、バルーン拡張法、バイオゲル療法、羊膜移植、ファイバー子宮鏡検査及び鈍的分離が挙げられる。しかし、再癒着を完全に回避できる方法がまだなく、統一された治療基準もない。
【0010】
経口エストラジオール薬物は、癒着の防止に対し効果的であるが、経口薬物の肝臓の初回通過効果に加え骨盤血循環系統は、相対的な独立性を有するため、経口性ホルモン薬物がほとんど肝臓によって遮断され、全身の血中濃度は高くなく、更に子宮の内部に送達される濃度は非常に低く、バイオアベイラビリティは、非常に低い。
【0011】
臨床上、経皮投与の案例が多く、経口4mg(2mg bid)の吉草酸エストラジオールによって、血清エストラジオール(E2と略称する)の測定値が211.89±57.4ρg/mlに上昇することを示す文献が開示される。膣外用の0.5mgのフェモストンエストラジオールによって、血清エストラジオールの測定値が201.01±51.196ρg/mlに上昇し、膣外用の1mgのフェモストンエストラジオールによって、血清エストラジオールの測定値が約589.65ρg/mlに上昇する。観察によれば、膣を介してフェモストンエストラジオールを投与する吸収効果は、経口の吸収効果の約10~20倍に達する。
【0012】
膣を介して吉草酸エストラジオール又はエストラジオールを投与すると、エストロゲンが膣粘膜によって迅速かつ効果的に吸入される。膣を介して吉草酸エストラジオールを投与すると、血液中のエステラーゼによって融解され、この過程は非常に迅速であるが、膣粘膜の吸収効率がその吸収と利用に対して影響を及ぼす。一般的に、膣を介して吉草酸エストラジオールを投与する吸収効果は、経口の吸収効果の約4~8倍に達する。経口で服用すると、95%のエストロゲンが肝臓によって代謝不活性化されるが、エストロゲンが膣に吸収された後、肝臓の門脈を通過せずに膣静脈から下大静脈に直接に入り込み、肝臓の初回通過効果を回避することができる。膣を介して投与することは、エストラジオールが腸及び肝臓でエストロン(E1と略称する)に変換されることを回避することができるので、E2 / E1を生理的比率により近づけることができる。膣を介して投与すると、E2は、子宮内膜の関連受容体に直接作用し、内膜の局所に影響を及ぼす。
【0013】
これらの案例に示すように、子宮の内部の標的に投与することによって、少剤量且つ高効率を達成することができる。
【0014】
上記数多くの治療方法は、ほとんど癒着の蓋然性を低下させるための一時的なものであり、特に中重度の癒着患者に対して、デバイス又は薬物効果が消失した後、再癒着が発生する可能性が非常に高い。しかし、子宮の内膜を成長させ、特にベース層まで損傷した内膜を成長させることは、難しい課題であり、高用量の内服薬物は、損傷した内膜への効果がほとんどなく、患者に対し大きな副作用がある。子宮内膜の厚さが不十分であることは、不妊症の主な要因の一つである。したがって、ベース層の細胞を活性化させることによって機能層を再活性化させ及び分化させ、内膜の厚さを妊娠に適する厚さに達することは、癒着を防ぎ、繁殖能力を回復するキーである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した先行技術に存在した、手術後の再癒着を効果的に防ぐことができない課題を解決するためになされたものであり、子宮腔内に用いられ内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある態様によれば、子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜であって、シリコンゴムと、少なくとも一種類のエストロゲンを含む薬物であって、薬物貯蔵領域としてのシリコンゴムの内部に包まれ、若しくはシリコンゴムの内部に均一に分散され、又は塗布層としてシリコンゴムの外面に担持される薬物と、を含有する弾性膜が提供される。
【0017】
ここでは、薬物貯蔵領域としてのシリコンゴムの内部に包まれる弾性膜を、貯蔵型弾性膜と称し、シリコンゴムの内部に均一に分散される弾性膜を、マトリックス型弾性膜と称し、塗布層としてシリコンゴムの外面に担持される薬物を、塗布層型弾性膜と称する。
【0018】
シリコンゴムは、高温加硫シリコンゴム(HTV)、室温加硫シリコンゴム(RTV)、低温加硫シリコンゴム(LTV)、アメリカのダウコーニング会社が生産したSilastic-382医療用のシリコンゴム、及びアメリカのダウコーニング会社が生産したQ7医療用のシリコンゴムシリーズとインプラントグレードのMDXシリーズを含むことが好ましいが、これらに限定されない。
【0019】
シリコンゴムは、変性HTVであることが好ましい。当該シリコンゴムの製造方法によれば、各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のHTVシリコンゴム、10から50%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤、0.5から1.5%重量の過酸化ベンゾイルを混練する。このように製造される弾性膜の加工方法によれば、前記シリコンゴムと薬物とを重量比率にしたがって混合してから、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0020】
シリコンゴムは、付加型RTV-2又はLTVであることが好ましい。当該シリコンゴムの製造方法によれば、各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のシリコンゴム、20から60%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割する。このように製造される弾性膜の加工方法によれば、甲乙の両グループの前記シリコンゴムと薬物とを混合し、甲グループと0.1から1%重量の白金系触媒とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、乙グループと1から10%重量の活性水素架橋剤とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、シート状に切り、更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0021】
マトリックス型弾性膜におけるシリコンゴムと薬物との重量比率が80から99%:20から1%であることが好ましく、50から85:15から50であることがより好ましい。マトリックス型弾性膜の厚さは、0.02mmから1mmである。ここでは、輸送しやすいとともに、使用完了後子宮から取り除かれやすいように、前記厚さは薄ければ薄いほどよい。現在の設備によれば、均質の膜について厚さの限界が0.02mmであり、膜がロール状に巻き取られ輸送チューブに入れられる。通常の場合、拡張デバイスを介せず子宮頸を通過可能なチューブの最大外径が5mmとなる。一方、拡張を行うと、子宮頸を通過可能なチューブの最大外径が約12mmとなる。したがって、前記厚さが薄いほど、手術による患者への痛みも軽減される。貯蔵型弾性膜及び塗布層型弾性膜に比べて、マトリックス型弾性膜を用いることが好ましく、マトリックス型弾性膜を製造するステップが少なく、製造コストが低い。
【0022】
マトリックス型弾性膜の外面には、貯蔵型弾性膜が形成されるように、独立した外層シリコンゴム膜が被覆されることが好ましい。また、マトリックス型弾性膜が完全に外層シリコンゴム膜に被覆される。外層シリコンゴム膜は薬物を含んでおらず、薬物の緩効性をより一層奏することができる。
【0023】
貯蔵型弾性膜におけるシリコンゴムと薬物との重量比率が0から99%:100から1%であることが好ましい。マトリックス型弾性膜の厚さは、0.02mmから1mmであり、外層シリコンゴムの厚さは、0.02mmから0.5mmである。
【0024】
塗布層型弾性膜の形成方法によれば、薬物と分解性ポリマー(例えばPLGA)とを溶剤に溶解させることで薬液を形成し、当該薬液をシリコンゴムに噴霧塗布することで緩効性塗布層が形成されることが好ましい。ここでは、薬液における薬物と分解性ポリマーとの重量比率が10から90%:90から10%であり、溶剤における両者の濃度が0.1から50%である。
【0025】
エストロゲンは、17β-エストラジオールと、エストロン、エストリオール及びエストラジオールの誘導体とを含むことが好ましいが、これらに限定されない。例えば、安息香酸エストラジオール、吉草酸エストラジオール、エチニルエストラジオール、エストリオールシクロペンチルエーテル、プロゲステロンエストロゲン等が挙げられる。エストロゲンを経口又は他の方式によって服用するのに対して、本発明のエストロゲンは、標的としての局所に放出されるので、高用量によるホルモン障害等の副作用を引き起こすことなく、内膜の過形成に刺激する効果を奏することができる。
【0026】
薬物は、毛細血管の血液供給の増加に用いられ、子宮内膜の血流を改善する薬物を更に含有することが好ましい。これとエストロゲンとを組み合わせることによって、内膜の過形成をさらに促進することができる。当該子宮内膜の血流を改善する薬物は、アスピリン、クエン酸シルデナフィル、ペントキシフィリン(PTX)及びビタミンE、L-アルギニン、低分子量ヘパリンを含むが、これらに限定されない。当該子宮内膜の血流を改善する薬物は、毎日に200μgから2mgの薬量で放出され、弾性膜毎のエストロゲンの使用量が2mgから500mgであることが好ましい。
【0027】
薬物は、子宮腔の局所の免疫を調節するためのコロニー刺激因子をさらに含有することが好ましい。これにより、子宮の内膜ベース層の細胞増殖を促進することができる。当該コロニー刺激因子は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含むが、これらに限定されない。
【0028】
弾性膜における緩効性システムの放出周期は、必要に応じて、3から90日間に設定されることが好ましい。例えば、7日間、14日間、30日間、60日間又は90日間等の放出周期が設定されてもよい。二種類以上の薬物の相乗作用がある場合、全ての薬物の放出周期は、互いに重なってもよい。すなわち、全ての薬物の放出周期が同等である。異なる薬物の放出周期が異なってもよいが、この場合、最長放出周期は、設定された放出周期の範囲を超えない。例えば、最初に子宮内膜の血流を改善する薬物を放出させ、子宮内膜の血流を改善する薬物の放出周期の間に、治療を行うようにエストロゲンを放出させる。
【0029】
弾性膜は、挿通される抜取糸又は/及びインプラント糸を有することが好ましい。
【0030】
抜取糸又は/及びインプラント糸には、細管が設けられることが好ましい。
【0031】
抜取糸又は/及びインプラント糸は、リベット構造によって弾性膜の孔に挿通されることが好ましい。
【0032】
孔の領域は、肉厚部を有することが好ましい。
【0033】
弾性膜は、25mgから100mgの薬物を含有することが好ましい。
【0034】
弾性膜は、上端が大、下端が小の形状に設けられることが好ましい。そして、弾性膜がインプラントされた後、上端が子宮の底部に対応し、下端が子宮頸である子宮内の口部に対応する。そして、弾性膜の形状が逆台形であることが好ましい。台形の下底(膜の上端、子宮の底部位置にある)の長さが20mmから40mmであり、台形の上底(膜の下端、子宮頸の内口位置にある)の長さが5mmから15mmであり、台形の高さが25mmから35mmである。
【0035】
弾性膜の厚さは、0.1mmから4mmであることが好ましく、0.2mmから1mmであることがより好ましい。
【0036】
弾性膜におけるエストロゲンの使用量は、10mgから200mgであることが好ましい。
【0037】
一般的に、子宮のベース層が損傷した場合、損傷された部分は、ホルモンの変化によらず変わらない。したがって、従来の方法を用いて癒着を分離させたとしても、癒着部位に機能層の再生ができないので、再び癒着しやすくなる。発明者は、エストロゲンをシリコンゴムに担持して、薬物刺激によって子宮の内膜ベース層を継続的に再活性化することにより、ベース層に機能層を再び増殖することができる。このため、本来の子宮内膜の構造に復元させ、癒着することを徹底的に防ぐ目的を達成することができる。特に、瘢痕子宮又は子宮線維症の患者については、繊維化の内膜ベース層又は瘢痕を手術によって剥がして創傷面を形成し、次にエストロゲンの継続的な刺激によって内膜機能層の再生能力を再活性化することができる。機能的な閾値に達するようにエストロゲンから毎日10μgから4mgの薬量が放出されることが好ましい。そして、少なくとも一週間持続させることによって、放出度と放出周期のコントロール可能な緩効性システムが得られる。毎日のエストロゲンの放出量は、10μgから1mgであり、弾性膜毎におけるエストロゲンの使用量は、10mgから200mgであることが好ましい。
【0038】
本発明によれば、シリコンゴムと薬物とを混合してから、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される、前記弾性膜の製造方法がさらに提供される。
【0039】
シリコンゴムの製造方法によれば、各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のHTVシリコンゴム、10から50%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤、0.5から1.5%重量の過酸化ベンゾイルを混練することが好ましい。
【0040】
シリコンゴムの製造方法によれば、各成分の合計が100%重量である場合、40から80%重量のシリコンゴム、20から60%重量のシリカ、5から15%重量の水酸基シリコンオイル、5から30%重量の医療用の硫酸バリウム、0.1から2%重量の酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、甲乙の両グループのシリコンゴムと薬物とを混合し、甲グループと0.1から1%重量の白金系触媒とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、乙グループと1から10%重量の活性水素架橋剤とを汎用ゴム混合機で均一となるまでに混練し、シート状に切り、更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成されることが好ましい。
【0041】
マトリックス型弾性膜の外面には、貯蔵型弾性膜が形成されるように、独立した外層シリコンゴム膜が被覆されることが好ましい。
【0042】
本発明によれば、薬物と分解性ポリマーとを溶剤に溶解させることによって、薬液が形成され、薬液をシリコンゴムに噴霧塗布することによって、緩効性塗布層が形成される、前記弾性膜の製造方法がさらに提供される。
【0043】
つまり、本発明によれば、エストロゲンをシリコンゴムに担持させ、薬物刺激によって子宮の内膜ベース層を継続的に再活性化させることにより、ベース層に機能層を再び増殖することができる。このため、本来の子宮内膜の構造に復元させ、癒着することを徹底的に防ぐ目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図2】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図3】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及び送達システムを示す概略図である。
図4図3の側面図である。
図5】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜及び送達システムを示す概略図である。
図6図5の側面図である。
図7】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図8】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜におけるリベット構造を示す概略図である。
図9】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図10】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図11】本発明の他の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜を示す概略図である。
図12】エストラジオール50mg含有量の混練試料及びエストラジオール100mg含有量の混練試料を、それぞれに用いて製造されたマトリックス型弾性膜が60日間に亘って体外へ放出する放出曲線を比較する放出曲線比較図である。
図13】エストラジオール50mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜がインプラントされた六名の被験者の体内において、10週間の間に亘って血中濃度の変化傾向を示すグラフである。
図14】エストラジオール50mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜がインプラントされた六名の被験者において、10週間の間に亘って内膜の厚さの変化を示すグラフである。
図15】エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜がインプラントされた六名の被験者の体内において、10週間の間に亘って血中濃度の変化傾向を示すグラフである。
図16】エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜がインプラントされた九名の被験者において、10週間の間に亘って内膜の厚さの変化を示すグラフである。
図17】エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜がインプラントされた体外放出量と体内血中濃度との変化を比較する比較図である。
図18】粒径の異なるエストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜の体外放出度傾向及び比較を示す比較図である。
図19】エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造された貯蔵型弾性膜の体外放出傾向を示すグラフである。
図20】単なるエストラジオール及びエストラジオールとアスピリンとの組み合わせをそれぞれに投薬した場合の子宮内膜の再生状況を比較する比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下は、図面を参照しながら、本発明の好適実施例について詳しく説明する。
【0046】
図1に示すように、本発明の好適実施例に係る子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜1Aは、逆台形のシート状をなす。そして、インプラントされた台形の長辺底部が子宮の底部に位置し、台形の短辺頂部が子宮の口部位置に位置する。ここでは、インプラントして拡張された状態で、当該弾性膜1Aの形状は、子宮の生理形状と寸法に適するように選択されるため、子宮の前壁と後壁とを可能な限り完全に分離し、子宮の前壁と後壁が接触する可能性を最小限まで抑えることができる。弾性膜1Aがインプラントされると、医者は、シートを通常のデバイスによって子宮に入れれば足りる。ここでは、医者は、必要に応じて、シート状のデバイスを円柱状に巻付け、チューブの内部に入れ、チューブを用いてこのデバイスを宮頚チューブを通じて子宮の内部に送入し、デバイスをインプラントした後に拡張させる。シリコンゴムは、粘着性を有しチューブから押し出されることが困難である課題があるので、巻付けられた膜が押し出されやすいように、円柱状に巻付けられた後に、膜の一端を医療用のシリコンオイルに浸漬させることによって膜とチューブの壁との間に潤滑を与えてもよい。
【0047】
図2に示すように、本発明の他の好適実施例による子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜は、挿通される抜取糸11bを有する。放出周期が終了した後に、医者は、患者の状態に関する追跡調査を行う必要性に応じて、当該抜取糸11bによって弾性膜1Bを取り出すことができる。具体的には、弾性膜は、正円形状をなす二つのテールワイヤの孔12bを有し、抜取糸11bがそのテールワイヤの孔12bの内に挿入されかつテールワイヤ111bを残す。必要な場合、医者は、このテールワイヤ111bを抜き出すことによって、弾性膜1bを子宮の内部から引き抜くことができる。図2に示す実施例において、抜き出される時の抵抗力を低減するように、テールワイヤの孔12bが台形の短辺の付近に位置し、すなわち、子宮頸の口部の付近に接近する。ここでは、このテールワイヤの孔12bが子宮頸の口部の末端に近いほどよいが、膜におけるいかなる位置にあってもよい。この抜取糸11bは、生体適合性のよい非分解性ミシン糸であり、モノフィラメントで、単一のストランドのミシン糸であることが好ましい。その構成材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミドを含むが、これらに限定されない。この抜取糸11bのモノフィラメントの直径は0.1mmから1mmであり、0.2mmから0.5mmであることが好ましい。
【0048】
図3に示すように、本発明の他の好適実施例による子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜1cは、挿通される抜取糸11cに加え、インプラント糸13cを有する。インプラントされると、このインプラント糸13cを介して送達を補助することができる。具体的には、弾性膜1cに正円形状をなす二つのインプラント糸の孔14cを有し、インプラント糸13cは、その内部に穿通され結び目によって固定されるが、テールワイヤを有しない。図3に示す実施例において、所定位置まで送達されやすいように、インプラント糸の孔14cが台形の長辺の付近に位置し、すなわち、子宮の底部の付近に接近する。ここでは、このインプラント糸の孔14cが子宮の底部の末端に近いほどよいが、膜におけるいかなる位置にあってもよい。このインプラント糸13cは、生体適合性のよい非分解性ミシン糸であり、モノフィラメントで、単一のストランドのミシン糸であることが好ましい。その構成材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミドを含むが、これらに限定されない。このインプラント糸13cのモノフィラメントの直径は0.1mmから1mmであり、0.2mmから0.5mmであることが好ましい。
【0049】
図4に示すように、弾性膜1cを送達するための送達システム2cは、ロッド状をなす。その先端部にスロット21cが設けられ、インプラント糸13cがこのスロット21cによって係合される。ここでは、インプラント糸13cを介して送達力を弾性膜1cまでよりうまく伝達するように、インプラント糸の孔14cに穿通され結び目によって形成されたインプラント糸13cのコイルは、膜を変形させることなく、できるだけ収縮する。本実施例では、うまく送達するために、スロット21cの幅は、インプラント糸13cの直径より0.1mmから0.3mm大きく、スロット21cの深さは2mmから8mmである。送達システム2cの横断面の最大サイズは3mmから7mmであり、4mmから6mmであることが好ましい。
【0050】
図5に示すように、本発明の他の好適実施例による子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜1dは、挿通される抜取糸11dとインプラント糸13dに加え、この抜取糸11dがテールワイヤの孔12dに穿通された後に結び目によって固定されることによって形成される抜取糸11dのコイルを有する。
【0051】
図6に示すように、弾性膜1dを送達するための送達システム2dは、ロッド状をなし、相対的に伸縮可能な第1部分22dと第2部分23dとを備える。上方に開口するスロット21dは、第1部分22dの先端部に設けられ、インプラント糸13dがこのスロット21dによって係合される。第2部分23dは、下斜めに開口するバーブ24dを有し、抜取糸11dがこのバーブ24dによって引っ掛けられる。インプラントされると、第1部分22dと第2部分23dが互いに離反するようにスライドすることによって、ロッドの軸方向に弾性膜1dが拡張し、膜の方向性が保持される。これにより、手術によるインプラントをよりうまく行うことができる。弾性膜1dが直線まで拡張した後に、子宮の底部への損傷を回避するために送達システム2dの先端部が膜の底辺を越えないようにする。所定位置にインプラントされた後に、第2部分23dを第1部分22dへ摺動させることにより、抜取糸11dをバーブ24dから脱出させ、抜取糸11dのコイルが放出される。そして、送達システム2dを取り出し、送達が完了した。本実施例では、バーブ24dの深さは、抜取糸11dの直径より1mmから5mm大きい。
【0052】
本発明の子宮腔内に用いられ、内膜ベース層を再活性化させる機能を具備する弾性膜によれば、薬物が充填されたシリコンゴムの靭性が低下するため、耐断裂強度が悪くなる。テールワイヤを抜き出して膜を取り出すと、膜が断裂することにより膜の取り出しが困難となり、さらに取り出すことさえできない状況を防ぐために、膜の耐断裂強度を向上させる必要がある。図7に示すように、一つの好適実施例では、送達システム2eが設けられる側とは反対側に位置する抜取糸11d及びインプラント糸13eのコイルに細管15eを設けることにより、抜取糸11d及びインプラント糸13eの断裂発生時の負荷が向上し、抜取糸11d及びインプラント糸13eの断裂圧力を細管15eに移転することができる。ここでは、送達システム2eが設けられる側とは反対側に位置する部分のみに細管15eを設ければよく、送達時に真っすぐとなるように、送達システム2eが設けられる側に位置する糸に細管を設けない。医療用の弾性体を細管の材料として選択することができる。内径が0.1mmから0.8mmであり、外径が0.3mmから2.5mmであるシリコンゴムを選択することが好ましい。細管の長さは、必要に応じて裁断されるが、糸が穿通可能な両孔の円心間の直線の長さより長く、かつ両孔のエッジの最大長さより短い。図8に示すように、他の好適実施例では、抜取糸及びインプラント糸の内部に強度増加用のリベット構造16fが設けられる。このリベット構造16fは、あらかじめ製造された、両端が大径である管状物である。リベット構造16fをテールワイヤの孔とインプラント糸の孔に係合させた後に、抜取糸とインプラント糸とを穿通させることによって、孔の強度を向上させ、その耐断裂強度を向上させることができる。図9に示すように、また他の好適実施例では、抜取糸11gは、複数の孔に穿通して編成されることによって、その強度が向上し、負荷を分担することができる。図10に示すように、他の好適実施例では、抜取糸11gは、直接複雑的な縫い目に縫製されることによって、その強度が向上する。図11に示すように、他の好適実施例では、断裂を防ぐ目的を達成するために、テールワイヤの孔とインプラント糸の孔の領域には、肉厚部17iが設けられる。本実施例では、肉厚部17iの厚さは、2mm以下である。
【0053】
実施例1
25mgエストラジオール含有の混練試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)1gの17β-エストラジオール(平均粒径5000メッシュ)、30gのHTV医療用のシリコンゴム(分子量20~100万)、10gのシリカ、5gの水酸基シリコンオイル、6gの医療用の硫酸バリウム、0.5gの酸化鉄赤と2gの過酸化ベンゾイルをゴムミキサに投入して均一となるまでに混練する。そして、プレート加硫機でヒートプレスにより厚さ0.5mmのシートを形成し、このシートを所定の形状に切断することによって、マトリックス型弾性膜が得られる。
【0054】
(2)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。30日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は400μg/dであり、以降緩やかになり、30日間の平均溶出率は178μg/dである。
【0055】
(3)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0056】
実施例2
50mgエストラジオール含有の混練試料による貯蔵型弾性膜の製造
(1)3gの17β-エストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と30gのRTV-2医療用のシリコンゴムとをゴムミキサで均一となるまでに混練する。そして、プレート加硫機でヒートプレスにより厚さ0.2mmのシートを形成し、このシートを所定の形状に切断することによって、マトリックス型弾性膜が得られる。
【0057】
(2)一定量のHTV医療用のシリコンゴムを計量してヒートプレスにより厚さ0.1mmの薄膜を形成し、(1)で得られたマトリックス型弾性膜を二枚の0.1mmの薄膜の間に挟むことによって、サンドイッチ状に形成する。エッジを金型により溶着プレスし、余分な薄膜を切断することによって、複合型緩効膜、すなわち貯蔵型弾性膜が形成される。外層HTV薄膜によって、薬物の放出量がさらにコントロールされる。
【0058】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は100μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は50μg/dである。
【0059】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0060】
実施例3
100mgのエストラジオール含有の混練試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)5gの17β-エストラジオール(平均粒径2000メッシュ)、30gのHTV医療用のシリコンゴム(分子量20~100万)、10gのシリカ、5gの水酸基シリコンオイル、6gの医療用の硫酸バリウム、0.5gの酸化鉄赤と2gの過酸化ベンゾイルをゴム混合機に投入して均一となるまでに混練する。そして、プレート加硫機でヒートプレスにより厚さ0.2mmのシートを形成し、このシートを所定の形状に切断することによって、マトリックス型弾性膜が得られる。
【0061】
(2)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。60日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は760μg/dであり、以降緩やかになり、60日間の平均溶出率は274μg/dである。
【0062】
(3)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。90日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0063】
実施例4
75mgのエストラジオール含有の混練試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)各成分の合計が100%重量である場合、60gのシリコンゴム、25gのシリカ、7gの水酸基シリコンオイル、7.5gの医療用の硫酸バリウム、0.5gの酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、各グループが50gである。
【0064】
(2)12.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの甲グループに0.1から1%重量の白金系触媒を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。12.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの乙グループに1から10%重量の活性水素架橋剤を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0065】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。60日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は652μg/dであり、以降緩やかになり、60日間の平均溶出率は243μg/dである。
【0066】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。60日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0067】
実施例5
10mgのエストラジオールと2mgのアスピリンと含有の噴霧塗布試料によるマトリックス型弾性膜の製造
【0068】
(1)各成分の合計が100%重量である場合、70g重量のシリコンゴム、15g重量のシリカ、8g重量の水酸基シリコンオイル、6g重量の医療用の硫酸バリウム、1g重量の酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、各グループの重量が50gである。
【0069】
(2)2.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの甲グループに0.1から1%重量の白金系触媒を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。0.5gのアスピリン(平均粒径500メッシュ)と、50gの乙グループに1から10%重量の活性水素架橋剤を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0070】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。60日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、エストラジオールが157μg/dであり、アスピリンが62μg/dであり、以降緩やかになり、60日間の平均溶出率はエストラジオールが94μg/dであり、アスピリンが42μg/dである。
【0071】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。60日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0072】
実施例6
50mgのエストラジオールと20mgのアスピリンと含有の噴霧塗布試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)各成分の合計が100%重量である場合、70gのシリコンゴム、15gのシリカ、8gの水酸基シリコンオイル、6gの医療用の硫酸バリウム、1gの酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、毎グループが50gである。
【0073】
(2)12.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの甲グループに0.1から1%重量の白金系触媒を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。そして、5gのアスピリン(平均粒径500メッシュ)と、50gの乙グループに1から10%重量の活性水素架橋剤を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練し、更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0074】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、エストラジオールが543μg/dであり、アスピリンが489μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は、エストラジオールが213μg/dであり、アスピリンが142μg/dである。
【0075】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。90日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0076】
実施例7
10mgのエストラジオールと、5mgのペントキシフィリン(PTX)と5mgのビタミンEと含有の噴霧塗布試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)各成分の合計が100%重量である場合、50gのシリコンゴム、35gのシリカ、7gの水酸基シリコンオイル、7gの医療用の硫酸バリウム、1gの酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、毎グループが50gである。
【0077】
(2)2.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの甲グループに0.1から1%重量の白金系触媒を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。1.5gのPTX(平均粒径500メッシュ)と、1.5gのビタミンE(平均粒径800メッシュ)と、50gの乙グループに1から10%重量の活性水素架橋剤を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0078】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、エストラジオールが145μg/dであり、PTXが89μg/dであり、ビタミンEが99μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は、エストラジオールが89μg/dであり、PTXが69μg/dであり、ビタミンEが69μg/dである。
【0079】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。90日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0080】
実施例8
50mgのエストラジオールと、10mgのペントキシフィリン(PTX)と10mgのビタミンEと含有の噴霧塗布試料によるマトリックス型弾性膜の製造
(1)各成分の合計が100%重量である場合、50gのシリコンゴム、35gのシリカ、7gの水酸基シリコンオイル、7gの医療用の硫酸バリウム、1gの酸化鉄赤をゴムミキサに投入して混練した後、混練物を取り出し、重量に応じて甲乙の両グループに均等に分割し、毎グループが50gである。
【0081】
(2)12.5gのエストラジオール(平均粒径2000メッシュ)と、50gの甲グループに0.1から1%重量の白金系触媒を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。そして、3gのPTX(平均粒径500メッシュ)と、3gのビタミンE(平均粒径800メッシュ)と、50gの乙グループに1から10%重量の活性水素架橋剤を添加しゴム混合機で均一となるまでに混練する。更に甲乙両グループから取得される製品を混合して押出し、加硫架橋して、シリコンゴムと薬物とを混合膜に硬化させることによって、マトリックス型弾性膜が形成される。
【0082】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、エストラジオールが562μg/dであり、PTXが156μg/dであり、ビタミンEが175μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は、エストラジオールが236μg/dであり、PTXが109μg/dであり、ビタミンEが113μg/dである。
【0083】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。90日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0084】
実施例9
75mgのエストラジオール含有の純薬試料による貯蔵型弾性膜の製造
(1)一定量のHTV医療用のシリコンゴムを計量し、厚さ0.05mmの薄膜をヒートプレスにより形成し、二枚の逆台形のパターン(図1に示す)に切断する。一枚の薄膜を展開し、75mgのエストラジオール(平均粒径5000メッシュ)を計量して膜の中央に均一的に展開し、少なくとも3mmのエッジバンディングの位置を確保し、逆台形をなす他の一枚の薄膜をその上に覆設し、互いに接着されるように両枚の膜のエッジをヒートプレスして又は貼接する。これにより、散薬が密封のバッグに被包される。
【0085】
(2)37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、186μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は、165μg/dである。
【0086】
(3)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0087】
実施例10
100mgのエストラジオール含有の混練試料による貯蔵型弾性膜の製造
(1)5gの17β-エストラジオール(平均粒径2000メッシュ)、30gのHTV医療用のシリコンゴム(分子量20~100万)、10gのシリカ、5gの水酸基シリコンオイル、6gの医療用の硫酸バリウム、0.5gの酸化鉄赤と2gの過酸化ベンゾイルをゴム混合機に投入して均一となるまでに混練する。そして、プレート加硫機で厚さ0.2mmのシートをヒートプレスにより形成し、このシートを所定の形状に切断することによって、マトリックス型弾性膜が得られる。
【0088】
(2)一定の量のHTV医療用のシリコンゴムを計量し、厚さ0.1mmの薄膜をヒートプレスにより形成し、マトリックス型弾性膜を二枚の0.1mmのシートの間に挟むことによって、サンドイッチ状に形成される。エッジを金型により溶着プレスし、余分な薄膜を切断することによって、複合型緩効膜、すなわち貯蔵型弾性膜が形成される。外層HTV薄膜によって、薬物の放出量がさらにコントロールされる。
【0089】
(3)体積に基づき試料の薬物含有量を計算し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。90日の期間内において、最初の3日間の最大の薬物溶出量は、201μg/dであり、以降緩やかになり、90日間の平均溶出率は、180μg/dである。
【0090】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0091】
実施例11
10mgのエストラジオール含有の噴霧塗布試料による塗布層型弾性膜の製造
(1)予備として、一定の量のHTV医療用のシリコンゴムを計量し、厚さ0.1mmの薄膜をヒートプレスにより形成する。
【0092】
(2)10gのエストラジオールと、90gのPLGA(mol比率10:90)とを計量し、これらを混合して混練し、1000mlのアセトンに溶解し、得られる薬液を(1)で得られた薄膜の両面に均一的に散布し、溶剤を揮散する。
【0093】
(3)サイズに応じて弾性膜に切断し、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定する。60日の期間内において、最初の7日間の最大の薬物溶出量は、486μg/dであり、以降緩やかになり、60日間の平均溶出率は、150μg/dである。
【0094】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0095】
実施例12
50mgのエストラジオール含有の噴霧塗布試料による塗布層型弾性膜の製造
(1)予備として、一定の量のHTV医療用のシリコンゴムを計量し、厚さ0.1mmの薄膜をヒートプレスにより形成する。
【0096】
(2)45gのエストラジオールと、5gのPLGA(mol比率10:90)とを計量し、これらを混合して混練し、2500mlのアセトンに溶解し、得られる薬液を(1)で得られた薄膜の両面に均一的に散布し、溶剤を揮散する。
【0097】
(3)サイズに応じて弾性膜に切断して、37℃のPBS溶液において試料を薬物溶出試験機により薬物溶出させ、薬物溶出量をHPLCにより測定す。30日の期間内、において最初の7日間の最大の薬物溶出量は、2356μg/dであり、以降緩やかになり、30日間の平均溶出率は、1354μg/dである。
【0098】
(4)試験用のニュージーランドウサギを用意し、子宮にインプラントする前に、手術を介して掻爬をすることにより損傷モデルを6匹取得した。損傷モデルをAクループとBクループとに分ける。そして、Aクループに等量のエストラジオールを投薬するのに対し、Bクループに投薬することなく、適切サイズの弾性膜をインプラントする。30日間が経過してから子宮を検査すると、Aクループの試験動物に程度の異なる癒着が発生した。一方、Bクループの試験動物に手術痕が残ったが、内膜の形成が良好で癒着が発生していない。
【0099】
明らかに、上述した実施例2の各物質の量により、且つステップ(2)を省略すると、50mgのエストラジオール含有の混練試料によって製造されるマトリックス型弾性膜1’が得られる。上述した実施例3によって100mgのエストラジオール含有の混練試料によって製造されるマトリックス型弾性膜1’’が得られる。以下、これらの二枚の弾性膜について詳細に検討する。
【0100】
図12は、エストラジオール50mg含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’と、エストラジオール100mg含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’とが60日間に亘って体外へ放出する放出曲線を比較する放出曲線比較図である。図12によれば、エストラジオール100mg含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’の毎日の放出量は、エストラジオール50mg含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’の毎日の放出量より大きいが、両者の間には、倍数の関係がない。すなわち、弾性膜の総薬量を増加させることによって日毎の放出量を増加させることができる。そして、日毎の放出量こそが内膜を活性化させるキーである。しかし、全ての薬物が放出されるわけではなく、60日間においてただ総薬量の20%未満が放出される。シリコンゴムが非分解性材料であるため、大部分の薬物がまだ完全に放出されないから。ここでは、塗布層型弾性膜である場合、薬物がシリコンゴムの外面に担持され、塗布層におけるポリマーが分解されるため、90%以上の薬物が放出される。したがって、マトリックス型弾性膜と貯蔵型弾性膜の放出制御がより緩やかで長期間であり、60日間から90日間の設計に適用して、さらにもっと長い期間に適用するように設定されてもよい。一方、塗布層型弾性膜の放出制御が粗く、放出時間が長すぎることなく、30日間から60日間の設計に適用して、更にもっと短い期間に適用するように設定されてもよい。
【0101】
図13は、エストラジオール50mg含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’がインプラントされた六名の被験者の体内において、10週間の間に亘って、血中濃度の変化傾向を示すグラフである。図13によれば、インプラントされた前期の血中濃度が高いが、後期の血中濃度が緩やかになる。患者が2週間毎に血中濃度を測定するため、データポイントが少ないが、体外への放出が先に速く後に遅く、時間の経過に従って穏かになる傾向で一致する。
【0102】
図14は、エストラジオール50mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’がインプラントされた六名の被験者において、10週間の間に亘って内膜の厚さの変化を示すグラフである。なお、関連データについて、下記の表を参照する。
【0103】
【表1】
【0104】
明らかに、被験者の子宮内膜が徐々に増加し、顕著な効果がある。実際に、50mgのエストラジオール含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’は、主に中度の患者に適用される。
【0105】
図15は、エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’がインプラントされた六名の被験者の体内において、10週間の間に亘って血中濃度の変化傾向を示すグラフである。図15によれば、インプラントされた前期の血中濃度が高いが、後期の血中濃度が緩やかになる。患者が2週間毎に血中濃度を測定するため、データポイントが少ないが、体外の放出が先に速く後に遅く、時間の経過に従って穏かになる傾向で一致する。
【0106】
図16は、エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’がインプラントされた九名の被験者において、10週間の間に亘って内膜の厚さの変化を示すグラフである。なお、関連データについて、下記の表を参照する。
【0107】
【表2】
【0108】
明らかに、被験者の子宮内膜が徐々に増加し、顕著な効果がある。実際に、100mgのエストラジオール含有の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’は、主に中重度の患者に適用される。
【0109】
図17は、エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’がインプラントされた体外放出量と体内血中濃度との変化を比較する比較図である。図によれば、体内の血中濃度は、体外への放出傾向と一致する。調剤を調整することによって、体外への放出を測定し治療の需要を調整することができる。
【0110】
下記の表3は、内服の投与量と体内の血中濃度の関係及び膜の放出量と体内の血中濃度の関係の比較を示す。
【0111】
【表3】
【0112】
4000mgの内服で得られる血中濃度は、989.3ρmol/Lであるが、本発明の弾性膜の日毎の放出は、387mgであり、得られる血中濃度は、同様に957.7ρmol/Lである。内服薬の90%は、肝臓に排除される。膜が1/10未満の摂取量によって同様な効果を奏するとともに、副作用を回避することができる。さらに、薬物が緩やかで長期間的に放出されるので、内服の場合、毎日に山と谷がない。
【0113】
図18は、粒径の異なるエストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造されたマトリックス型弾性膜1’’の体外放出度傾向及び比較を示す比較図である。図18によれば、粒径が大きいほど放出されにくくなるが、粒径が小さいほど放出されやすくなる。
【0114】
さらに、薬物の微粉化の程度を調整することによって薬物放出を制御することができる。原料薬粒が大きいほど、比表面積が大きくなり、放出される可能性が低くなる。逆に、原料薬粒が小さいほど、比表面積が小さくなり、放出される可能性が高くなる。マトリックス型弾性膜に対して、原料薬粒が粒径500メッシュ以上散布される。貯蔵型弾性膜に対して、原料薬粒が粒径1000メッシュ以上散布される。塗布層型弾性膜は、塗布層が外部に位置するので、適用範囲が広く、60メッシュ以上に確保すればよい。
【0115】
上述した実施例10によれば、100mgのエストラジオール含有の混練試料によって製造される貯蔵型弾性膜1’’’が得られる。図19は、エストラジオール100mg含有量の混練試料によって製造された貯蔵型弾性膜1’’’の体外放出傾向を示すグラフである。図19によれば、マトリックス型弾性膜と比較して、貯蔵型弾性膜は、外部面にフィルタをさらに加えるため、放出量がより小さいが、日毎の薬物の放出が緩やかであり、マトリックス型弾性膜のような前期の大量放出がなく、低用量の長期間放出薬物に対して有利である。
【0116】
図20は、単なるエストラジオール及びエストラジオールとアスピリンとの組み合わせをそれぞれに投薬した場合の子宮内膜の再生状況を比較する比較図である。試験グループ1にE2のみを含有し、試験グループ2にE2とアスピリン二つの成分を含有し、各グループに六名の患者がおり、各患者の平均の内膜の成長状況について統計する。データは下記の表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4及び図20によれば、同様な剤量で、血液循環を促進する薬物(アスピリン)を増加することにより、内膜の成長が速くなる傾向があり、膜がより厚くなって、両者が良性的に協働することができる。
【0119】
以上は、本発明の好適実施例に過ぎず、発明の範囲を限定することは意図していなくて、本発明の前記実施例は、他の様々な形態で実施されることが可能である。即ち、本発明の特許請求及び本発明の明細書を基づいて、簡単で、同等の変形及び修正は、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。本発明でまだ詳しく説明しないものは、全てが既存技術の内容である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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図20