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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】運搬器具
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/075 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
B62D55/075 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021140830
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2021-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521384496
【氏名又は名称】嘉来 宣之
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】特許業務法人湘洋内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嘉来 宣之
【審査官】米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-1445(JP,A)
【文献】特開2019-127058(JP,A)
【文献】特開平6-127442(JP,A)
【文献】特開2018-134893(JP,A)
【文献】特開2004-122898(JP,A)
【文献】特開2018-188095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送対象を積載する積載部と、
前記積載部を移動させるための走行部と、
前記走行部の接地面の前記積載部に対する傾斜角を変更する傾斜角変更機構と、を備え、
前記走行部は、前記積載部に対して予め高低差を設けて配置される3つ以上の輪体、及び、これらの輪体に掛け回した状態で循環する単一のクローラ、を有し、前記複数の輪体は、位置関係が変更可能に配置され、
前記傾斜角変更機構は、前記傾斜角を変更する操作を受けて、当該変更操作を前記輪体のいずれか1つ以上に伝達して当該1つ以上の輪体の位置を変更することにより、前記クローラの接地面の傾斜角を変更する
ことを特徴とする運搬器具。
【請求項2】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向に離間させかつ高低差を設けて配置された少なくとも2つの固定輪体と、前記少なくとも2つの固定輪体の間で高さ位置を変更可能な少なくとも1つの遊動輪体を含み、
前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更する
ことを特徴とする運搬器具。
【請求項3】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記積載部の両側に一対設けられた下記(1)から(3)からなる前記走行部を有する運搬器具。
(1)前記積載部に高低差を設けて配置された少なくとも2つの固定輪体
(2)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により位置を変更可能な少なくとも1つの遊動輪体
(3)上記複数の輪体が少なくとも4箇所で内接する前記クローラ
【請求項4】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向に離間させて配置された少なくとも2つの固定輪体と、前記少なくとも2つの固定輪体よりも下方で高さ位置を変更可能な少なくとも2つの遊動輪体を含み、
前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更する
ことを特徴とする運搬器具。
【請求項5】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記積載部の両側に一対設けられた下記(1)及び(2)からなる前記走行部を有する運搬器具。
(1)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により形状を変更可能な四辺形を形成するリンクアームに設けられた少なくとも2つの固定輪体及び少なくとも2つの遊動輪体
(2)上記複数の輪体が少なくとも4箇所で内接する前記クローラ
【請求項6】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向の位置及び高さ位置を変更可能な少なくとも4つの遊動輪体を含み、
前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記少なくとも4つの遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更する
ことを特徴とする運搬器具。
【請求項7】
請求項1に記載の運搬器具において、
前記積載部の両側に一対設けられた下記(1)及び(2)からなる前記走行部を有する運搬器具。
(1)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により形状を変更可能な四辺形を形成するリンクアームに設けられた少なくとも4つの遊動輪体
(2)上記複数の輪体が少なくとも4箇所で内接する前記クローラ
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の運搬器具において、
前記走行部は、前記輪体のいずれかに駆動力を供給する走行補助装置を有する
ことを特徴とする運搬器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物、人などの輸送対象を運ぶ運搬器具に関し、特に、平地に限らず、斜面、段差、階段等にも対応可能な運搬器具に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面、階段等の非平坦地であっても昇降できるようにしたキャリーカート、台車等の運搬器具が数多く開発されている。特に、高齢者、女性、介護者が荷物や子供を載せて、安全かつスムーズに急斜面や階段や段差の昇降を行える運搬器具が求められている。
【0003】
荷物を運ぶ運搬器具として、特許文献1に、荷台に対する角度を調節できるクローラ付き台車が記載されている。階段の段差を上がる場合、単に前向きに進行させる(引き上げる)ものである。
【0004】
人の搬送に関わる運搬器具として、特許文献2に、先端と後端が高い迎え角を有する舟形のベルトとプーリーを用い、段差に追随する車いすが開示されている。また、特許文献3に、電動アシスト車椅子に関するもので、迎え角を有するクローラを用いて階段に入ると同時に電動シリンダーで車椅子前部を持ち上げ、搭乗者の姿勢を安定させるものが記載されている。
【0005】
自走ロボットとして、非特許文献1に、遊動スプロケットを含む3つのスプロケットでクローラを路面に応じて変形させて段差を乗り越える自走ロボットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-122898号公報
【文献】FR980237号公報
【文献】特許第2551862号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】岩本太郎ほか、日本ロボット学会誌2(3)200(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の技術では、装置本体のハンドル付きの立上フレームに、運搬物を寄り掛からせて搬送することが想定され、輸送対象を積載する積載部の傾きを抑えることには適していない。
【0009】
上記特許文献2の技術では、舟形のクローラの接地面は狭く、車椅子とクローラ中央部1点で接続されており、車椅子の安定した支持は難しく、また、クローラへの荷重も不均一になりやすい。また、上記特許文献3の技術では、積載対象である車椅子載置台全部を持ち上げるため、装置の構造が大がかりとなる。
【0010】
上記非特許文献の技術では、具体的に示されたクローラの変形方法によって、ロボットは斜面なりに傾き、本体を水平近くに保つことは考慮されていない。
【0011】
本発明は、輸送対象を積載する積載部の傾きを抑えつつ、斜面、段差、階段であっても円滑に走行することができる運搬器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する本発明の一態様は、運搬器具であって、輸送対象を積載する積載部と、前記積載部を移動させるための走行部と、前記走行部の接地面の前記積載部に対する傾斜角を変更する傾斜角変更機構と、を備え、前記走行部は、一定の位置関係で配置される複数の輪体、及び、これらの輪体に掛け回した状態で循環するクローラ、を有し、前記複数の輪体は、位置関係が変更可能に配置され、前記傾斜角変更機構は、前記傾斜角を変更する操作を受けて、当該変更操作を前記輪体のいずれか1つ以上に伝達して当該1つ以上の輪体の位置を変更することにより、前記クローラの接地面の傾斜角を変更する。
【0013】
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向に離間させかつ高低差を設けて配置された2つの固定輪体と、前記2つの固定輪体の間で高さ位置を変更可能な1又は2つの遊動輪体を含み、前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更するようにしてもよい。
【0014】
前記走行部は、前記積載部の両側に一対設けられ、下記(1)から(3)から構成されてもよい。
(1)前記積載部に高低差を設けて配置された2つの固定輪体
(2)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により位置を変更可能な1又は2つの遊動輪体
(3)上記複数の輪体が4箇所で内接する前記クローラ
【0015】
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向に離間させて配置された2つの固定輪体と、前記2つの固定輪体よりも下方で高さ位置を変更可能な2つの遊動輪体を含み、前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更するようにしてもよい。
【0016】
前記走行部は、前記積載部の両側に一対設けられ、下記(1)及び(2)から構成されてもよい。
(1)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により形状を変更可能な四辺形を形成するリンクアームに設けられた2つの固定輪体及び2つの遊動輪体
(2)上記複数の輪体が4箇所で内接する前記クローラ
【0017】
前記複数の輪体は、前記運搬器具の走行方向の位置及び高さ位置を変更可能な4つの遊動輪体を含み、前記傾斜角変更機構は、前記変更操作を、前記4つの遊動輪体に伝達して、前記複数の輪体の位置関係を変更してもよい。
【0018】
前記走行部は、前記積載部の両側に一対設けられ、下記(1)及び(2)から構成されてもよい。
(1)手動の操作レバーを含む前記傾斜角変更機構により形状を変更可能な四辺形を形成するリンクアームに設けられた4つの遊動輪体
(2)上記複数の輪体が4箇所で内接する前記クローラ
【0019】
前記走行部は、前記輪体のいずれかに駆動力を供給する走行補助装置を有してもよい
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、輸送対象を積載する積載部の傾きを抑えつつ、斜面、段差、階段であっても円滑に移動できる運搬器具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態の運搬器具の一例を階段走行状態として示す側面図である。
図3図3は、第1実施形態において、傾斜角変更機構における変更操作に対応して、複数の車輪の位置関係を変更し、クローラの接地面の傾斜角を変更する態様の一例を模式的に示す説明図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態の運搬器具の使用例を、(A)平地走行状態、(B)階段走行状態として示す説明図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す背面図である。
図7図7は、本発明の第3実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。
図8図8は、本発明が開示する運搬器具の第1変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。
図9図9は、本発明が開示する運搬器具の第2変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。
図10図10は、本発明が開示する運搬器具の第3変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。
図11図11は、本発明が開示する運搬器具の第4変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願が開示する複数の発明に関わる実施形態について、図面を参照して説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。以下の実施形態(変形例を含めて)では、平地走行と、段差、階段、連続的斜面を含む傾斜地走行のいずれもが可能な運搬器具の多様な形態を示す。また、以下では、車輪とクローラとを用いた運搬器具について例として説明するが、本願が開示するクローラには、車輪に限らずプーリー、スプロケット等の輪体に掛け回されて、帯状の無限軌道として機能するものを広く含む。以下の多様な形態において、少なくも一部の車輪をプーリー、スプロケット等の他の輪体に置き換えることもできるし、種類の異なる輪体を組み合わせて適用してもよい。また、輪体は、小車輪など複数の部品が組み合わされて輪体として機能するものを含む。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。図2は、本発明の第1実施形態の運搬器具の一例を階段走行状態として示す側面図である。第1実施形態の運搬器具は、輸送対象を積載する積載部10と、積載部10を移動する走行部20と、走行部20の接地面の積載部10に対する傾斜角を変更する傾斜角変更機構30と、を備える。
【0024】
走行部20は、図1に示すように、一定の位置関係で配置される複数の車輪21a、21b、21c及び21dと、これらの車輪21aから21dに掛け回されてこれらの車輪が4箇所で内接した状態で循環するクローラ23と、を有する。各車輪21a、21b、21c及び21dは、本実施形態では、それぞれ対応する車軸22a、22b、22c及び22dに回転自在に取り付けられている。もちろん、車輪数及び車輪の配置は、この例に限られない。また、走行部20は、後述するように、車輪21a、21b、21c及び21dと、車軸22a、22b、22c及び22dとを介して、積載部10と連結される。
【0025】
走行部20は、図面では一つを示しているが、図6に示す実施形態と同様に、走行方向の左右に一対設けられる。また、一対の走行部20は、車軸22a、22b、22c及び22dを左右で連結せず、独立とすることが好ましい。これにより、左右のクローラ23、23が独立に、さらに、互いに逆方向に回転することができ、方向転換や回頭が容易に行える。なお、本例の他、いくつかの例では、便宜上、片側の走行部20を用いて説明する。
【0026】
クローラ23は、材質や形状に特に制限はない。例えば、鋼線をゴムで被覆した既存製品を用いることができる。階段昇降に適した段差でのスリップが少ないクローラも開発されている(特許第5688232号)。本実施形態及び以下の他の実施形態では、クローラの軌道形状を変形させて昇降に用いるために、曲げに柔軟な素材と形状が望ましい。ゴムクローラとスプロケットの組み合わせは、回転伝達が正確でスリップが少ないので、重量物の運搬に適し、スノータイヤのようなサイブを設けた肉厚のゴムを用いたV字ベルトとプーリーは静音性やクッション性に勝ると考えられる。
【0027】
クローラ23は、その軌道形状が、平地、斜面、階段等に応じて変化するが、クローラ23の長さは、車輪の位置が変わっても、一定に保たれるように設計される。
【0028】
積載部10は、人、動物、物品等の搬送対象を搭載する。例えば、積載部10は、箱形状、台、かご、袋、フレームなどの多様な形態とすることができる。材質は、金属、プラスチック、木材など、目的に合わせて選択することができる。具体例として、ショッピングカート、キャリーカート、バゲッジカート、ペットカート、乳母車、車椅子、ストレッチャー、サービスワゴンなどが挙げられる。本実施形態では、底面部12と、その第2端側に設けられた立面部11とを有する、人運搬用の椅子形のものが用いられる。
【0029】
積載部10の立面部11の上部には、本実施形態では、積載部10を走行部20と共に、押す、又は、引くための持ち手19が設けられている。持ち手19は、積載部10の形態に応じて、取り付けない場合もある。また、持ち手19は、積載部10への取付角度、長さ等を、利用者の使い勝手に合わせて、適宜設定することができる。
【0030】
積載部10には、走行部20と連結するための部位が設けられる。本実施形態では、図1及び図2に示すように、積載部10の第1端側に、脚部13を有する。脚部13は、積載部10の第1端側と第2端側とに高低差を設けると共に、走行部20との連結を行うための、下端側が車軸22aを取り付ける取付座15として機能する。また、積載部10の第2端側に、脚部14を有する。脚部14は、走行部20との連結を行うため、車軸22cを取り付ける取付座16として機能する。車軸22aを介して車輪21aが回転自在に支持され、同様に、車軸22cを介して車輪21cが回転自在に支持される。
【0031】
脚部13には、路面の凹凸に対応するためのダンパー、ショックアブソーバを装備することができる。また、本実施形態では、脚部13は、多様な角度傾斜に対応するため、長さ調節が行える調節機構を備える。さらに、走行部20に加えて、平地での走行性を高めるために、キャスタを装着することも可能である。キャスタと走行部20とは、路面の状況に応じて路面に接地するための切り換え機構を設けておく。なお、脚部13の長さは、固定としてもよい。
【0032】
脚部14は、脚部13との高低差が確保できれば、その長さは制限されない。また、脚部14を省略して、積載部10の底面部12を取付座として、車軸22cを保持する構成としてもよい。脚部14は、長さを伸縮する調節機構を設けてもよい。また、脚部13と同様に、ダンパー、ショックアブソーバを装備する構成としてもよい。
【0033】
脚部13と脚部14とによる高低差は、積載部10の底面部12を水平乃至これに近い状態に保つことができる設定とすることが好ましい。例えば、水平面に対して形成する角度(接地面の最大傾斜角)は、屋外斜面では最大で勾配30度程度、階段は40度程度であることを考慮すると、例えば、図3に示すように、クローラ23の傾斜角度θが、30°~45°に収まるようにする。また、脚部13と脚部14とによる高低差は、自由に設定しうるが、一般的な階段の段差(約20cm)を超えるために、少なくとも20cm以上あることが好ましい。また、階段91での安定性のため、例えば、図2に示すように、クローラ23の接地面が、少なくとも2つの段鼻92にかかるようにするため、車軸22aと22cとの距離は、50cm以上あることが好ましい。
【0034】
走行部20は、複数の車輪のうち少なくとも2車輪、本実施形態では、車輪21b及び21dを連結棒(リンクやリンクアームと呼んでもよい。)24により連結する。具体的には、これらの車輪21b及び21dを保持する車軸22bと車軸22dとを連結する。この連結棒24の中央部は、アーム25の先端と固定連結される。アーム25は、その基端側が後述する筒体32に固定されて、筒体32により、脚部14の取付座16に回動自在に装着される。筒体32は、取付座16において車軸22cと同軸に配置される。連結棒24及びアーム25は、クローラ23を軌道中央部で支える。また、アーム25の回動に伴う連結棒24の長手方向の変位によって、車輪21b及び21d(本発明の遊動輪体に相当する)と、車輪21a及び21c(本発明の固定輪体に相当する)との位置関係が変化する。これにより、クローラ23の軌道形状が、図1の状態(長い斜辺上側)から図2の状態(長い斜辺下側)に変更される。
【0035】
傾斜角変更機構30は、図1及び図2に示すように、傾斜角を変更する操作を受けて、当該変更操作を複数の車輪のいずれかに伝達するための、左右で一対設けられる操作レバー31と、各操作レバー31の基端側に固定された筒体32と、左右の操作レバー31の先端側を連結する持ち手33とを有する。操作レバー31は、筒体32を介してアーム25と連結され、筒体32を支点として梃子として機能する。本実施形態では、操作レバー31、筒体32及びアーム25が一体に設けられる。筒体32を支点とする梃子のように機能する。これらは、剛性を有する材料、例えば、金属により形成される。
【0036】
傾斜角変更機構30は、積載部10の左右に設けられ、操作レバー31の角度変位の幅を規制すると共に、所定角度で当該操作レバー31の角度変位をロックするロック機構34と、ロック機構34のロックを解除して操作レバー31を角度変位可能とするロック解除レバー35とを有する。本実施形態では、図1及び図2に示すように、操作レバー31を、平地走行モードの位置と、想定した最大傾斜角度位置とに置いた場合の2段階に、ロックがかかるように設定される。この状態では、操作レバー31を操作するには、ロック解除レバー35によるロック解除が必要となる。なお、操作レバーのロックは、2段階に限らず、多段階、無段階に設けることができる。
【0037】
傾斜角変更機構30は、操作レバー31の角度変位に対応して、クローラ23の形状が変更され、接地面23aの傾斜が変わる。例えば、図1に示すように、ロック解除レバー35によりロックを解除して、操作レバー31を、積載部10の第1端側(図面右側)に向けて倒すように角度変位させた場合、操作レバー31の角度変位を受けて、筒体32が取付座16において図面上時計回りに回動し、筒体32を支点として、筒体32に固定されているアーム25が角度変位する。これにより、アーム25に固定されている連結棒24が角度変位し、車軸22bにより支持される車輪21b、及び、車軸22dに支持される車輪21dを、下方に押し下げる。この結果、車輪21bは、脚部13の先端側に位置する車輪21aと同じ高さレベルに並ぶ位置関係となる。従って、クローラ23は、車輪21aと21bとの間が接地面23aとなって、平地面90に接地する。
【0038】
一方、ロック解除レバー35によりロックを解除して、図2に示すように、操作レバー31を、積載部10の第1端側から第2端側に角度変位させる。この操作レバー31の角度変位を受けて、筒体32が取付座16において図面上反時計回りに回動し、これに伴って、筒体32に固定されているアーム25が回動し、アーム25に固定されている連結棒24が回動変位し、車軸22bにより支持される車輪21b、及び、車軸22dに支持される車輪21dを、上方に押し上げる。この結果、車輪21bは、脚部13の先端側に位置する車輪21aと脚部14の取付座16に支持される車輪21cとを結ぶ傾斜面に並ぶ位置関係となる。一方、連結棒24の他端側に車軸22dにより支持される車輪21dも、上方に上がって、クローラ23を押し上げる。この結果、クローラ23は、車輪21aと21bと21cとを結ぶ範囲に循環する部分が、積載部10の底面部12に対して傾斜した状態で接地面23aとなって、階段91に接地する。
【0039】
図3に、操作レバー31による操作と、傾斜角の変更との関係を示す。同図に示すように、本実施形態では、傾斜角変更機構30において、操作レバー31の手動操作による変更操作を、複数の車輪21bと21cの2車輪に伝達して、これらの位置関係を変更して、クローラ23の軌道形状を変更することができる。その結果、クローラ23の接地面23aが、平地面90と、傾斜角θの傾斜面93の両者に対応することが可能となる。なお、傾斜面93を例示したが、図2に示すような階段、図示していないが段差にも対応が可能である。
【0040】
本実施形態の運搬器具を、人力により走行させる場合の例について、図4を参照して説明する。これらの図では、輸送対象については図示を省略しているが、積載部10に幼児を載せて走行する例を想定している。
【0041】
平地移動時には、上述したように、操作レバー31を積載部10の第1端側に倒して、車輪21aと水平に並ぶ位置に車輪21bを降下させる。これにより、図4(A)に示すように、車輪21a及び脚部13と、車輪21b、連結棒24、アーム25及び筒体32とにより、積載部10が支持される。このとき、クローラ23は、循環して車輪21bから車輪21aの間に位置する部分が接地面23aとなる。従って、底面部12は、接地面23aと平行的に並ぶ位置関係となるように維持される。この場合、クローラ23が平地面90に接地しているため、人が、持ち手19を押すことにより、積載部10の底面部12が当該平地面90と平行な状態として積載部10を走行させることができる。
【0042】
一方、傾斜地移動時には、操作レバー31を積載部10において、第2端側に倒して、車輪21aと車輪21cとを結ぶ線に位置に車輪21bを上昇させる。これにより、図4(B)に示すように、車輪21a及び脚部13と、車輪21cとが高低差を生じる状態となる。クローラ23の、車輪21c、車輪21b、車輪21aが斜めに並ぶ位置関係となり、この部分が接地面23aとなって、底面部12に対して傾斜した状態となる。この状態で、人が、持ち手33を持って積載部10を第2端側に引き上げることにより、図4(B)に示すように、階段91の段鼻92に接地面23aが接しつつ、クローラ23が循環する。これにより、底面部12を傾斜させずに走行することができる。
【0043】
さらに、斜面、階段等の傾斜角度が、図4(B)に示す角度と異なる場合においても対応することができる。図示は省略するが、脚部13の長さを調節すると共に、対応して操作レバー31の角度変位を変えることにより、斜面等の傾斜角に応じた接地面の傾斜角度を実現することができる。
【0044】
図5は、本発明の第2実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。図6は、本発明の第2実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す背面図である。
【0045】
第2実施形態は、積載部10が、立面部11、持ち手19、及び底面部12を有する椅子形である点において第1実施形態と共通する。また、第2実施形態の運搬器具は、積載部10を有し、左右一対の走行部20が、車輪21aから21d(対応する車軸22aから22dを含む)、連結棒24、アーム25、及び、クローラ23を有する点において、第1実施形態と共通する。一方、いくつかの相違点がある。例えば、傾斜角変更を行う手段として、第1実施形態とは異なる操作部分を有する傾斜角変更機構40を有する点、及び、傾斜角変更機構40に傾斜角変更補助装置60を有する点が挙げられる。また、走行部20に走行補助装置50を有する点も相違点である。以下、相違点及び関連部分を中心に説明する。
【0046】
本実施形態では、第1実施形態において用いられた操作レバー31に代えて、図5及び図6に示すように、傾斜角変更機構40は、操作受付及び操作伝達のための操作機構として、積載部10の第2端側に位置する立面部11に設けられる操作レバー41と、操作レバー41からの変更操作による角度変位を伝達する、スプロケット42、チェーン43及びスプロケット44とを有する。スプロケット44は、第1実施形態と同様に筒体32(不図示)に同軸に連結され、脚部14の取付座に回動自在に取り付けられる。また、筒体32には、第1実施形態と同様に、アーム25が連結される。なお、図5及び図6では、説明の便宜上、スプロケット42、44及びチェーン43が、他の機構部分を含めて、目視できるように記載してある。もちろん、実際の運搬器具では、例えば、カバー11a、18等により覆い、露出部分を少なくすることができる。これは、他の実施形態、変形例でも同様である。
【0047】
ここで、操作レバー41を、走行面が、平地か、傾斜地かに応じて角度変位させる。この操作により、その変位がスプロケット42を回動させ、チェーン43を介して、スプロケット44に伝達される。その結果、スプロケット44の回動に伴って、アーム25が旋回し、連結される連結棒24を変位させる。この変位により、第1実施形態において説明したように作動し、クローラ23の接地面23aを、図3に示すように、変化させることができる。なお、図示していないが、第1実施形態と同様に、角度変位を適宜固定するロック機構を設けることができる。
【0048】
本実施形態において走行部20は、第1実施形態と同様に、人が押す又は引くことにより、走行させることが可能である。より楽に走行させることができるように、走行補助装置50を装備している。また、走行補助装置50に回生制動機能を設けることもできる。
【0049】
本実施形態が装備する走行補助装置50は、図5及び図6に示すように、左右独立に駆動する一対の駆動系50を設けている。一対の駆動系50は、それぞれ、モータ52と、これに直接又はギア等を介して連結されるスプロケット53と、スプロケット55(図6参照)及びこれらを繋ぐチェーン54とを有する。スプロケット55は、直接又はギア等を介して車軸22a(図6において不図示)に連結され、車輪21a(図6において車輪21bの奥に隠れている)を回転駆動する。モータ52は、制御装置51により制御され、電源80からの給電により駆動する。
【0050】
駆動系50の一部に、後述するセンサ69を設け、押す、引く等の積載部10への力が加わったことを検出して、制御装置51に信号を送ることにより、走行補助装置50を起動する構成としている。また、センサによる走行補助の起動に加えて、または、それに代えて、操作レバー41にスイッチを設けて、スイッチのオンオフに対応して、走行補助の開始又は停止を行う構成としてもよい。なお、本実施形態では、手動走行を補助する構成としているが、電動走行を主体としてもよい。
【0051】
本実施形態が装備する傾斜角変更補助装置60は、図5及び図6に示すように、駆動系60として、モータ62と、これに直接又はギア等を介して連結されるスプロケット63と、スプロケット(不図示)及びこれらを繋ぐチェーン64とを有する。スプロケットは、直接又はギア等を介して、前述した筒体32(不図示)に同軸に連結され、アーム25の回動を補助する。モータ62は、制御装置61により制御され、電源装置80からの給電より駆動する。
【0052】
本実施形態が装備する傾斜角変更補助装置60は、操作レバー41に、使用者による傾斜角変更操作を検知して駆動系を起動するための、トルクセンサ、感圧センサ等のセンサ69を有する。センサ69は、例えば、操作レバー41を角度変位させる際に生じる伸縮の歪を検知する歪ゲージ等を用いることができる。センサ69により操作レバー41への操作による歪を検知すると、その信号を制御装置61が受けて処理し、モータ62を駆動し、スプロケット63、チェーン64等を介して、前述したアーム25の回動を補助する。図示していないが、前述した第1実施形態において説明したロック機構の作動に合わせて、補助動作を停止する構成とすることができる。
【0053】
本実施形態の運搬器具は、傾斜、回頭等の操作をより楽に行えるように操作系70が設けられている。すなわち、図6に示すように、左右の操作レバー41を繋ぐ連結バー41aに、操作パネル71が設けられている。この操作パネル71には、ジョイスティックのような操舵スイッチ72と、傾斜角変更スイッチ73及び74とが設けられている。これらは、いずれも対応する制御装置51及び61に接続され、処理される。
【0054】
運搬器具使用者は、例えば、操舵スイッチ72のレバーを、前、後、左、右に倒すことにより操作が行える。制御装置51は、この操作に対応して判断し、左右のモータ52、52を、正転、反転、左(又は右)正転・右(又は左)停止、左(又は右)正転・右(又は左)反転のように制御して、左右のクローラ23を駆動する。これにより、走行部20を、前進、後進、左右回頭、方向転換等のように、動力により操作補助して走行させることができる。
【0055】
また、運搬器具使用者は、傾斜角変更スイッチ73又は74を操作することにより、クローラ23の接地面23aの傾斜角を変更する操作を行える。例えば、走行部20のクローラ23が、図5に示すような平地面90を走行する状態(平地走行モード)である場合、傾斜角変更スイッチ73を押すと、その操作信号が、制御装置61に送られる。その信号を制御装置61が受けて処理し、モータ62を駆動し、スプロケット63、チェーン64等を介して、前述したアーム25を回動して、クローラ23の接地面23aの傾斜角を変更し、傾斜地を走行する状態(傾斜地走行モード)とする。この場合は、操作レバー41に大きな力を加えなくても、傾斜角変更が行える。また、傾斜角変更スイッチ74を操作すると、以上の場合とは逆に動作し、クローラ23の接地面23aの傾斜角を変更し、平地面を走行する状態(平地走行モード)に戻る。
【0056】
図7は、本発明の第3実施形態の運搬器具の一例を平地走行状態として示す側面図である。本実施形態は、走行部20の車輪の構造に相違点があるほかは、第2実施形態の運搬器具と共通する。一方、第3実施形態の運搬器具は、走行部20において、車輪21b及び車輪21dに代えて、車輪21e(本発明の遊動輪体に相当する)が用いられている。
【0057】
第3実施形態において、車輪21eは、車軸22eによりアーム25に回動自在に連結される。また、車輪21eは、図5に示す第2実施形態における車輪21b及び車輪21dと連結棒24とを繋いだ大きさに相当する。すなわち、車輪21b及び車輪21dの役割を、一つの車輪21eにより担っている。従って、車輪21eは、クローラ23に2箇所で内接している。車輪21eは、アーム25により変位し、位置関係を変更する。平地走行モードでは、図7に示すように、クローラ23の、車輪21eと車輪21a並ぶ位置関係となり、この部分が接地面23aとなる。斜面走行モードでは、車輪21eが、アーム25により、上方側に変位すると、図示していないが、車輪21a、車輪21e及び車輪21cとが並ぶ位置関係となり、この部分が接地面となる。
【0058】
本実施形態の運搬器具の走行及び傾斜角変更操作は、いずれも、上述した第2実施形態と同様に行うことができる。例えば、車輪21eについても、同様に、変位操作を操作レバー41により行うことができる。また、操作系70により行うことも可能である。
【0059】
本願が提供する運搬器具は、上述した実施形態に限らず多様な形態が可能である。以下に、代表的な変形例について説明する。各変形例について、積載部を箱形とした例を示すが、これに限定されない。また、各変形例は、いずれも手動操作を行うことを想定しているが、動力による走行補助、角度変位補助等を行う構成とすることができる。さらに、傾斜角変更操作についてロック機構及び解除機構を供えることができる。なお、変形例の説明では、複数の車輪の位置関係の変化を明確に示すために、車輪を車軸の大きさとして図示する。
【0060】
図8は、本発明が開示する運搬器具の第1変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。本変形例は、箱形の積載部10に走行部20を連結し、かつ、傾斜角変更機構30を備えて構成される。走行部20は、脚部13の取付座に回動可能に取り付けた車輪21aと、脚部14の取付座に回動可能に取り付けた車輪21cと、連結棒26の両端に回動可能に取り付けた車輪21b及び21dと、これらに掛け回したクローラ23とを有する。傾斜角変更機構30は、平行クランク機構による操作レバー36を有し、その先端36bが連結棒26に連結される。一方、操作レバー36の中間部は、積載部10の側面に、回動可能に連結され、支点36a、36aとして機能する。
【0061】
本変形例では、図8(A)に示すように、操作レバー36を第2端側から起こしている状態では、操作レバー36により、連結棒26が降下する方向に変位し、結果として、車輪21b及び21dが降下する。これにより、車輪21aから21dの位置関係が、クローラ23の接地面23aが平地面90対応となるように働く。一方、図8(B)に示すように、操作レバー36が第2端側に倒されると、車輪21b及び21dが上昇する。これにより、車輪21aから21dの位置関係が、クローラ23の接地面23aが傾斜面93対応となるように働く。
【0062】
図9は、本発明が開示する運搬器具の第2変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。本変形例は、積載部10と走行部20と、傾斜角変更機構40とを有する。本変形例は、積載部10と走行部20とが前後が対称的な構造を有する。また、傾斜角変更機構40は、後述するように、積載部10の第1端側に位置する操作レバー46と、第2端側に位置する操作レバー46とが連動する構成としてあり、積載部10の前後のいずれからも同様に操作することができる。
【0063】
本変形例は、箱形の積載部10に、平地走行モードでは、図9(A)に示すように、クローラ23が逆台形状の走行部20を連結して構成される。走行部20は、車輪21cと車輪21bの車軸を連結棒24b、車輪21cと車輪21dの車軸を連結棒24c、車輪21dと車輪21aの車軸を連結棒24d、車輪21aと車輪21bの車軸を連結棒24aにより、それぞれ回動可能に連結して構成される。連結棒24b、24c、24d及び24aにより、逆台形状の四辺形が形成されている。また、車輪21c、21d、21a及び21bにクローラ23が掛け回される。さらに、積載部10の側面の第1端側及び第2端側の取付座16に、車輪21dと車輪21cとが、車軸を介して回動可能に取り付けられ、走行部20に積載部10が連結される。
【0064】
傾斜角変更機構40は、積載部10の側面上方の第1端側と第2端側とに設けられる操作レバー46、46と、それぞれ角度変位をチェーン43、43に伝達する変位変換器45、45とを有する。また、積載部10の側面下方の取付座16、16に、スプロケット44、44がそれぞれ回動可能に取り付けられている。スプロケット44、44のそれぞれに、チェーン43、43が掛けられる。また、第2端側スプロケット44には、前述した走行部20を構成する連結棒24bの一端が、第1端側スプロケット44には、連結棒24dの一端が連結され、取付座16において回動自在に保持される。変位変換器45、45は、操作レバー46の角度変位を、目的の回動角度及び回動の向きに変換してチェーンに伝達するギア機構(不図示)等を有する。
【0065】
ここで、走行モードを、図9(A)に示す平地走行モードから、図9(B)に示す傾斜地走行モードに変更する場合の操作について説明する。平地走行モードでは、連結棒24aと並ぶ部分が接地面23aとなって、平地面90に接している。ここで、第2端側操作レバー46をX矢視方向に角度変位操作する。なお、第1端側の操作レバー46を操作してもよい。以下、第2端側の操作系統による操作について説明する。
【0066】
操作レバー46をX矢視方向に角度変位操作すると、変位変換器45は、角度変位を回動変位に変換し、チェーン43に伝達する。チェーン43は、スプロケット44を回動する。スプロケット44の回動により、連結されている連結棒24bが車輪21bを上昇させるよう回動する。これに伴って、連結棒24aも連動して上昇し、車輪21aを第1端側に押し出す。さらに、連結棒24aの変位により、連結棒24dが、連結する車輪21aと共に、第1端側に押し出される。
【0067】
上述した操作による連結棒24b、24a及び24dの変位により、図9(B)に示すように、車輪21bと車輪21a(本発明の遊動輪体に相当する)の位置が変化し、クローラ23の形状が三角形状になる。その結果、クローラ23の連結棒24b及び連結棒24aと並ぶ部分が接地面23aとなって、傾斜面93に接した状態でも、積載部10は傾かずに維持される。
【0068】
なお、第1端側操作系は、第2端側操作系と連動しているため、第1端側操作レバー46は、Y矢視方向に角度変位している。従って、第1端側操作レバー46を、Y矢視方向に角度変位させても、上記したのと同じ操作が行える。逆に、第2端側操作レバー46をX矢視とは逆向きのX’矢視方向に角度変位操作すると、または、第1端側操作レバー46をY矢視とは逆向きのY’矢視方向に角度変位操作すると、その角度変位は図9(A)とは逆向きとなり、クローラ23の形状が、図9(B)に示す場合とは逆向き、すなわち、第1端側が上り傾斜となる三角形状となる。
【0069】
図10は、本発明が開示する運搬器具の第3変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。本変形例では、積載部10と走行部20と、傾斜角変更機構40とを有する。本変形例は、積載部10と走行部20とが前後が対称的な構造を有する。また、傾斜角変更機構40は、後述するように、積載部10の第1端側と第2端側とが連動する構成としてあり、積載部10の前後のいずれからも同様に操作することができる。
【0070】
本変形例は、箱形の積載部10に、平地走行モードでは、図10(A)に示すように、車輪21c、21d、21a及び21bにクローラ23が掛け回されて長方形状となる走行部20を連結して構成される。走行部20は、車輪21cと車輪21dの車軸を連結棒24c、車輪21bと車輪21aの車軸を連結棒24aにより、それぞれ回動可能に連結して構成される。また、連結棒24cの車輪21c近傍と連結棒24aの車輪21bの近傍とを連結棒24eにより、連結棒24cの車輪21d近傍と連結棒24aの車輪21aの近傍とを連結棒24fにより、それぞれ回動可能に連結する。連結棒24c、24a、24e及び24fにより、長方形状の四辺形が形成されている。また、連結棒24a及び連結棒24cの中央に両端が回動可能に連結され、中央が後述する変位変換器47に連結されるアーム25を有する。
【0071】
積載部10の側面上方の第1端側と第2端側とに操作レバー46、46と、操作レバー46、46に対応して回動するスプロケット42、42と、スプロケット42、42による角度変位を伝達するチェーン43、43と、伝達される角度変位をアーム25の旋回動作に変換する変位変換器47とが設けられている。変位変換器47は、チェーン43、43により伝達される変位を目的の振幅の角度変位でアーム25を旋回するギア機構(図示せず)を備えている。
【0072】
ここで、走行モードを、図10(A)に示す平地走行モードから図10(B)に示す傾斜地走行モードに変更する場合の操作について説明する。この平地走行モードでは、クローラ23が長方形状であり、連結棒24aと並ぶ部分が接地面23aとなって、平地面90に接している。ここで、第2端側操作レバー46をX矢視方向に角度変位操作する。なお、連動する構成となっているので、第1端側操作レバー46を操作してもよい。以下、第2端側の操作系統により説明する。
【0073】
この状態において、第2端側操作レバー46をX矢視方向に角度変位操作すると、この角度変位がスプロケット42及びチェーン43を介して変位変換器47に伝達される。変位変換器47は、上述した操作レバー46による角度変位に対応して、図10(A)にZ矢視方向に旋回する。これに対応して、アーム25の両端の旋回運動に伴って、連結される連結棒24a及び連結棒24cが、Z矢視方向に旋回する。また、連結棒24a及び連結棒24cに連結している連結棒24e及び24fが、Z矢視方向に旋回しつつ、折り畳まれる。
【0074】
その結果、図10(B)に示すように、車輪21c、21b、21d及び21aの位置関係が、長方形の各頂点位置から、傾斜して互いに折り畳まれ、帯状に配置される状態となる。また、クローラ23は、折り畳まれた状態の連結棒24a及び24cとに接続される車輪21c、21b、21d及び21aに掛け回した状態で帯状にかつ斜めに維持される。従って、クローラ23の、車輪21c、21b、21d及び21aに接する部分が接地面23aとなる。
【0075】
ここで、第2端側操作レバー46をX矢視とは逆向きに角度変位操作すると、または、第1端側操作レバー46をY矢視とは逆向きに角度変位操作すると、アーム25が逆向きに回動して、上述した連結棒24e及び24fと、連結棒24a及び24cとが、折り畳みとは逆の過程を経て、図10(A)に示す平地走行モードの形態に戻る。なお、図10(A)において、第2端側操作レバー46をX矢視とは逆向きのX’矢視方向に角度変位操作すると、または、第1端側操作レバー46をY矢視とは逆向きのY’方向に角度変位操作すると、その角度変位は逆向きとなり、クローラ23の帯状形状が、図10(B)に示す第2端側が上り傾斜となる状態とは逆向き、すなわち、第1端側が上り傾斜となる。
【0076】
図11は、本発明が開示する運搬器具の第4変形例であって、(A)は平地走行状態を側面側から模式的に示す説明図、(B)は傾斜地走行状態を側面側から模式的に示す説明図である。本変形例は、積載部10を長尺箱形形状である場合に適用した例である。本変形例は、長尺箱形形状で、その長手方向中央部に脚部13を設けた積載部10と、脚部13の前後にクローラ23、23を配置した走行部20と、傾斜角変更機構40とを有する。また、傾斜角変更機構40は、後述するように、積載部10の第1端側と第2端側とが独立して操作できる構成としてあり、積載部10の前後からそれぞれ操作することができる。なお、連動して操作できる構成とすることもできる。また、独立操作と連動操作とを切り換える構成としてもよい。
【0077】
積載部10には、走行部20と連結するための部位が設けられる。図11(A)及び図11(B)に示すように、本実施形態では、前述したように、積載部10の長手方向中央部に脚部13を有する。脚部13は、積載部10の両端(第1端と第2端)との高低差を確保すると共に、走行部20との連結を行うための、下端側が車輪21a、21aを取り付ける取付座として機能する。また、積載部10の両端に、変位変換器48、48が設けられる。変位変換器48には、支持棒49が取り付けられる。変位変換器48は、スプロケット42の回動を受けて、支持棒49を繰り出し及び繰り戻しを行う、例えば、ラック・ピニオン機構等を設けることができる。この支持棒49の先端には車輪21cが車軸を介して取り付けられる。
【0078】
走行部20は、その第1端側及び第2端側のそれぞれにおいて、車輪21dと21bとを連結する連結棒24と、先端が連結棒24の中央部と連結され基端が回動自在に脚部13先端の取付座に回動自在に取り付けられるアーム25とを有する。第1端側と第2端側のアーム25は、基端部において同軸で回動可能に取り付けられる。前述した支持棒49の先端に連結された車輪21cを含めて、車輪21b、21d及び21aにクローラ23が掛け回される。
【0079】
脚部13には、走行面の凹凸に対応するためのダンパー、ショックアブソーバを装備することができる。また、本実施形態では、脚部13は、多様な角度傾斜に対応するため、長さ調節が行える調節機構を備えることができる。
【0080】
傾斜角変更機構40は、積載部10の側面上方の第1端側と第2端側とに設けられる操作レバー46、46と、それぞれ角度変位をチェーン43a、43bに伝達するスプロケット42a、42bとを有する。また、積載部10の中央部に、チェーン43a、43bの回動を、それぞれ次のチェーン43c、43dに伝達するスプロケット44a、44bと、チェーン43c、43dにより伝達される回動を受けて、対応するアーム25、25を角度変位させるスプロケット44c、44dと、を有する。また、操作レバー46の角度変位により支持棒49を伸縮させる変位変換器48が、第1端側と第2端側のそれぞれに設けられる。
【0081】
ここで、本変形例の運搬器具の走行を、図11(A)に示す平地走行モードから、図11(B)の傾斜地走行モードに変更する場合の操作について説明する。このモードでは、第1端側及び第2端側の各クローラ23の車輪21bと21aとの間の部分が接地面23aとなって、平地面90に接触している。
【0082】
ここで、第2端側操作レバー46をX矢視方向に角度変位操作する。これにより、スプロケット42bが回動して、チェーン43bが回動変位を伝え、スプロケット44bを介して、チェーン43dに伝達し、スプロケット44dが回動して、対応するアーム25を角度変位させる。これにより、連結棒24が上昇し、車輪21d及び車輪21bが押し上げられる位置関係となる。この段階では、第2端側のクローラ23が傾いた3角形状となって、その接地面23aが階段の傾斜に対応することが可能となる。なお、この段階では、第1端側は角度変位操作がなされていないので、図11(A)に示すように、クローラ23の形状は変化せず、接地面23aも平地面90に沿う状態となっている。
【0083】
さらに、第1端側操作レバー46をY’矢視方向に角度変位操作する。これにより、スプロケット42aが回動して、チェーン43aが回動変位を伝え、スプロケット44aを介して、チェーン43cに伝達し、スプロケット44aが回動して、対応するアーム25を角度変位させる。これにより、連結棒24が降下し、車輪21d及び車輪21bが押し下げられる。また、これに合わせて、支持棒49が延びて、車輪21cを降下させる。車輪21d、21b及び21cが押し下げられる位置関係となる。この段階では、図11(B)に示すように、第1端側のクローラ23が傾いた三角形となって、その接地面23aが階段の傾斜に対応することが可能となる。第1端側から第2端側まで全体として接地面23aが階段の傾斜を走行可能となる。
【0084】
なお、図11(A)において、第2端側操作レバー46をX矢視とは逆向きのX’矢視方向に角度変位操作すると、第2端側のクローラ23の帯状形状は、図11(B)に示す第1端側の三角形状と対称となり、第1端側が上り傾斜となる。また、図11(A)において、第1端側操作レバー46をY’矢視とは逆向きのY矢視方向に角度変位操作すると、第1端側のクローラ23の帯状形状は、図11(B)に示す第2端側の三角形状と対称となり、第1端側が上り傾斜となる。
【0085】
本願発明は、以上述べた実施例及び変形例に限られない。操作レバーによる手動操作に、チェーン及びスプロケットによる変位伝達機構を加えること、さらには、動力による補助機構を組み合わせる多様な態様とすることができる。
【符号の説明】
【0086】
10…積載部、12…底面部、13、14…脚部
20…走行部、21a、21b、21c、21d…車輪、22a、22b、22c、22d…車軸、23…クローラ、23a…接地面、24…連結棒、25…アーム
30…傾斜角変更機構、31…操作レバー
40…傾斜角変更機構、41、46…操作レバー、42、44…スプロケット、45、47、48…変位変換器
50…走行補助装置、51…制御装置、52…モータ
60…傾斜角変更補助装置、61…制御装置、62…モータ、69…センサ
70…操作系、71…操作パネル
【要約】
【課題】輸送対象を積載する積載部の傾きを抑え、斜面、段差、階段等でも円滑に移動できる運搬器具を提供する。
【解決手段】輸送対象を積載する積載部10と、複数の輪体に掛け回された変形するクローラ23を有する走行部20と、走行部の接地面の傾斜角を変更する傾斜角変更機構30と、を備える運搬器具を提供する。傾斜角変更機構30の変更操作を受けて複数の輪体のいずれかは移動し、クローラ23の接地面の傾斜角を変更する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11