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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/16 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
E04F15/16 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021158777
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2021-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】井原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】高山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】水野 英二
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055314(JP,A)
【文献】特開平10-152976(JP,A)
【文献】特開昭59-220555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいて、
前記ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体に対する前記重質炭酸カルシウム粉末の質量比が、50質量%以上であり、
前記重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記重質炭酸カルシウム粉末は、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ
前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の第1の重質炭酸カルシウム粉末群と、空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の第2の重質炭酸カルシウム粉末群とを質量比1:1~5:1で含有しているものであることを特徴とする、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項2】
前記第1の重質炭酸カルシウム粉末群の平均粒子径が、0.7μm以上1.9μm未満であり、
前記第2の重質炭酸カルシウム粉末群の平均粒子径が、2.5μm以上6.0μm未満であり、かつ、
前記第1の重質炭酸カルシウム粉末群の平均粒子径aと、前記第2の重質炭酸カルシウム粉末群の平均粒子径bとの比率(a/b)が、0.10以上0.70以下である、
請求項1に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項3】
前記硬質塩化ビニル系樹脂は、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度が600以上3000以下の硬質塩化ビニル系樹脂である、請求項1又は2に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項4】
前記硬質塩化ビニル系樹脂は、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度が800以上2000以下の硬質塩化ビニル系樹脂である、請求項に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項5】
前記重質炭酸カルシウム粉末が、真円度が0.50以上0.95以下の重質炭酸カルシウム粉末である、請求項1~の何れか1つに記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項6】
前記重質炭酸カルシウム粉末が、表面処理重質炭酸カルシウム粉末である、請求項1~の何れか1つに記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項7】
前記表面処理重質炭酸カルシウム粉末が、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム粉末である、請求項に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項8】
構成単位としてα,β-不飽和カルボン酸50~100モル%及び他の単量体0~50モル%からなる重合体の中和物をさらに含有する、請求項1~の何れか1つに記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項9】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体に対する前記中和物の質量比が、3~10質量%である、請求項に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項10】
前記α,β-不飽和カルボン酸が(メタ)アクリル酸であり、前記中和物の質量平均分子量が1,000~100,000である、請求項に記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1つに記載の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートを含む床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート及び床材に関する。詳しく述べると、本発明は、炭酸カルシウム粉末が高充填されているにも拘らず、成形性が良好で美麗な外観を示し、寸法変化が小さく、耐荷重性や耐衝撃性等の機械的特性に優れ、他部材との接着性も良好な床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート、及びそれを含む床材に関する。
【背景技術】
【0002】
床材用の樹脂シートとして、従来よりポリ塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム等の充填剤とを主成分とするシートや、その積層物が広く用いられている。一般に、フィラー充填ポリ塩化ビニル樹脂は、難燃性や耐久性に優れ、線膨張率が低いために使用環境による寸法変化が小さく、耐衝撃性等の機械的特性も良好なので、床材等の建築部材として適している。例えば特許文献1には、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、樹脂酸で表面処理された炭酸カルシウムを4~440重量部含有するビニル床タイルが記載されている。
【0003】
床材には、外観が良好であることや、耐荷重性に優れること等も要求される。また、床材は一般に、接着剤によって積層され、あるいは下地に貼り付けて使用されるため、他部材との良好な接着性も求められる。特許文献1記載のような炭酸カルシウム高充填ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、外観や耐荷重性の点で改善の余地がある。
【0004】
ポリ塩化ビニル系床材の外観、例えば耐汚染性を改善する技術として、平均粒子径が1~15μmの充填材を含む床材が、特許文献2に記載されている。特許文献2では主に、平均粒子径が1~2μm程度と比較的細かい充填剤を、全質量に対して80質量%程度含有する床材が開示されている。また、耐荷重性や接着性が改善された床材として、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする表層と、ポリ塩化ビニル100重量部に対して特定形状の軽質炭酸カルシウム50~300重量部を添加してなる裏層とを積層した床材が、特許文献3に開示されている。特許文献4には、炭酸カルシウムとシラスバルーンとを充填剤とし、密度が2.00g/cm未満である塩化ビニル系床材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-220555号公報
【文献】特開2007-255089号公報
【文献】特開2008-285874号公報
【文献】特開2015-4042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献2に記載のように充填剤を多量に含有させても、床材の外観は必ずしも改善されない。例えば平均粒子径が10~15μm程度の比較的粗い充填剤を含有する床材では、充填剤が偏在し、あるいは成形後の床材から充填剤の一部が突き出して肌荒れ等の外観不良を来す上、強度や他部材との接着性を低下させる場合がある。一方で平均粒子径が数μm以下の比較的細かい充填剤は、混練・成形時に樹脂溶融物の粘度を上昇させ、成形性を低下させるきらいがある。成形性の低下は、得られる床材表面の凹凸等の外観不良の原因ともなり得る。また、硬質ポリ塩化ビニル樹脂に粒子径の小さい粉末を高充填すると、耐衝撃性が低下する場合もある。
【0007】
特許文献3や特許文献4で開示された床材は、多量の可塑剤を含有する一種の軟質塩化ビニルシートであり、耐衝撃性は良好であるが、使用する温度条件による寸法変化が無視できない。耐荷重性等の機械的特性にも、疑問が持たれる。また、こうした軟質塩化ビニル系床材においては、経年使用と共に可塑剤が遊離し、外観不良や脆化、接着性の低下等の問題を来す場合がある。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、重質炭酸カルシウム粉末が高充填されているにも拘らず、成形性が良好で美麗な外観を示し、寸法変化が小さく、耐荷重性や耐衝撃性等の機械的特性に優れ、他部材との接着性も良好な床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート、及びそれを含む床材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する上で鋭意検討を行った結果、硬質塩化ビニル系樹脂中に炭酸カルシウム粒子を無機物質粉末として高充填するにおいて、所定の平均粒子径の範囲内において、異なる粒子径分布、すなわち異なる平均粒子径を有する少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群を用いることで、熱可塑性樹脂中における無機物質粉末の偏在を抑制でき、外観及び機械的特性が良好で、他部材との接着性にも優れる床材が得られるとの知見により本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいて、
前記ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体に対する前記重質炭酸カルシウム粉末の質量比が、50質量%以上であり、
前記重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記重質炭酸カルシウム粉末は、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ
前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の重質炭酸カルシウム粉末群と、空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の重質炭酸カルシウム粉末群とを質量比1:1~5:1で含有しているものであることを特徴とする、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートである。
【0011】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記硬質塩化ビニル系樹脂は、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度が600以上3000以下の硬質塩化ビニル系樹脂である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0012】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記硬質塩化ビニル系樹脂は、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度が800以上2000以下の硬質塩化ビニル系樹脂である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0013】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記重質炭酸カルシウム粉末が、真円度が0.50以上0.95以下の重質炭酸カルシウム粉末である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0014】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記重質炭酸カルシウム粉末が、表面処理重質炭酸カルシウム粉末である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0015】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記表面処理重質炭酸カルシウム粉末が、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム粉末である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0016】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、構成単位としてα,β-不飽和カルボン酸50~100モル%及び他の単量体0~50モル%からなる重合体の中和物をさらに含有する、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0017】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体に対する前記中和物の質量比が、3~10質量%である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0018】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの一態様においては、前記α,β-不飽和カルボン酸が(メタ)アクリル酸であり、前記中和物の質量平均分子量が1,000~100,000である、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートが示される。
【0019】
上記課題を解決する本発明はまた、上記の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートを含む床材品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重質炭酸カルシウム粉末が高充填されているにも拘らず、成形性が良好で重質炭酸カルシウム粉末の偏在が抑制され、肌荒れや凹凸のない美麗な外観を示し、温度等の使用環境による寸法変化が小さく、耐荷重性や耐衝撃性等の機械的特性に優れ、他部材との接着性も良好な床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート、及びそれを含む床材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
≪ポリ塩化ビニル系樹脂シート≫
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有するものであり、充填される重質炭酸カルシウム粉末としては、以下に詳述するような所定の粒子径分布を有するものが用いられる。以下、本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートを構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
【0023】
≪硬質塩化ビニル系樹脂≫
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートに使用し得る硬質塩化ビニル系樹脂としては、特に限定されるものではなく、当該組成物のその用途、機能等に応じて、各種のものを使用することができる。なお、硬質塩化ビニル系樹脂とは一般に、可塑剤不含の、あるいは可塑剤量が10質量%以下、特に5質量%程度以下と、比較的硬質の塩化ビニルホモポリマー、または塩化ビニルと酢酸ビニルもしくは他のモノマーとの共重合体を意味する。ここで、他の共重合モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類等が挙げられるが、これらに限定されない。共重合モノマーの種類や共重合比、重合度等にも特に制限はない。2種以上の塩化ビニル系ポリマーを、併用することもできる。
【0024】
しかしながら本発明においては、塩化ビニルホモポリマーまたは塩化ビニル以外の共重合モノマー量が10質量%、特に5質量%程度以下のコポリマーもしくはターポリマーを、硬質塩化ビニル系樹脂として使用するのが好ましい。一般に塩化ビニルホモポリマー、あるいは塩化ビニルの共重合比が90質量%以上、特に95質量%以上のポリマーは機械的特性と成形性に優れるので、本発明の床材に好適である。本発明で使用する硬質塩化ビニル系樹脂は、可塑剤不含のものでもよく、あるいは少量の、例えば0.1~5質量%、特に0.5~3質量%程度の可塑剤を含有していてもよい。
【0025】
本発明で使用する硬質塩化ビニル系樹脂はまた、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度が600以上3000以下、特に800以上2000以下の硬質塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。平均重合度が600以上であれば、床材の機械的特性、特に耐荷重性や耐衝撃性等の強度が良好に保たれる。平均重合度が3000以下であれば、成形も容易である。なお、JIS K6720-2:1999に規定する平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、濾過により不溶分を除去した後、濾液からテトラヒドロフランを乾燥除去して得られる樹脂についての測定値である。
【0026】
≪重質炭酸カルシウム粉末≫
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、重質炭酸カルシウム粉末を、シート全体の質量比で50質量%以上含有する。
【0027】
重質炭酸カルシウムとは、石灰石等CaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕・分級・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0028】
本発明において重質炭酸カルシウム粉末は、BET比表面積が0.1m/g以上10.0m/g以下である。BET比表面積が0.1m/g以上、特に0.5m/g以上の重質炭酸カルシウム粉末であれば、機械的特性に優れる床材とすることができ、BET比表面積が10.0m/g以下、特に5.0m/g以下であれば、樹脂中に多量充填しても成形性の低下を来し難い。
【0029】
本発明で使用する重質炭酸カルシウム粉末はまた、真円度が好ましくは0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.93以下、特に好ましくは0.60以上0.90以下である。重質炭酸カルシウム粒子の真円度がこの範囲内にあると、硬質塩化ビニル系樹脂中に重質炭酸カルシウム粒子を配合して成形品を形成した場合に、製品としての強度や成形加工性も適度なものとなる。
【0030】
なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)であり、重質炭酸カルシウム粒子の不定形性や粒子形状の球形化の度合いを表す。真円度の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と粒子の投影周囲長(PM)とを測定した上で、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積を(B)として、以下の式に従い算出することができる。
真円度=A/B=A×4π/(PM)
なお、これらの測定は、走査型顕微鏡や実体顕微鏡などで得られる各粒子の投影図を、一般に商用されている画像解析ソフトで解析することによって行うことができる。
【0031】
本発明においてはさらに、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート中に充填される重質炭酸カルシウム粉末として、平均粒子径分布の異なる少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群を使用する。平均粒子径分布の異なるものであれば、2群の組合せに限られず、3群またはそれ以上の群の組合せであってもよい。
【0032】
特に限定されるものではないが、平均粒子径が異なる重質炭酸カルシウム粒子群は、それぞれ別々に製造し、その後、ポリ塩化ビニル系樹脂材料に混練することが望ましい。また、平均粒子径の異なる少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群の混合は、粉体の段階で行っても、ポリ塩化ビニル系樹脂へ別々に添加して混練後行ってもよいが、粉体の段階で混ぜるのが均一分散の点でより好ましい。
【0033】
一般に重質炭酸カルシウム粉末を添加してなる樹脂組成物より形成される成形品の外観、機械的強度、あるいは溶融混練・成形時の粘度等の物性は、添加される炭酸カルシウム粉末の平均粒子径により影響を受けるものである。成形品の外観は重質カルシウム粉末の平均粒子径が小さくなるほど、向上する傾向があるが、混練時の粘度は平均粒子径が小さくなるほど高まる傾向がある。用途にもよるが、混練時の粘度が高いと成形自体が困難となったり、あるいは樹脂本来の物性が発揮されにくくなり、特に高充填の場合にその傾向が顕著となる。一方で、重質カルシウム粉末の平均粒子径が大きくなるほど、樹脂組成物中への混練は概して容易となり、また粉末の単位質量あたりのコストも低いものとなるため経済的に有利であるものの、樹脂組成物中での粉末の偏在が生じ易く、かつ充填量を高めることが困難となり、また、成形品の外観が低下する虞れがある。本発明は、重質カルシウム粉末の平均粒子径が異なる複数の粒子群を硬質塩化ビニル系樹脂と混練することで、重質カルシウム粉末の外径の小さいものと大きいものとの、双方の優れた性質を発揮させるものである。
【0034】
例えば、ある平均粒子径を有する重質炭酸カルシウム粒子群Aに、これよりも大きい平均粒子径を有する重質炭酸カルシウム粒子群Bを混ぜると、重質炭酸カルシウム粒子群Bが単独で熱可塑性樹脂中に粗く分散する複合状態のものにおいて、粒子群Bの重質炭酸カルシウム粉末と樹脂との空間を、粒子群Aの重質炭酸カルシウム粉末により埋めることができ、これによって、重質炭酸カルシウム粉末の偏在が抑制され、その充填量を効果的に向上させることができる。また、粒子群Bの重質炭酸カルシウム粉末が分散した隙間に粒子群Aの重質炭酸カルシウム粉末に分散させることにより、樹脂組成物中における重質炭酸カルシウム粉末の分布の緻密化と、粒子相互の三次元的な配置関係の複雑化がなされ、力学的な強度も増大する。
【0035】
本発明で用いられる重質炭酸カルシウム粉末としては、上記したように平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の粒子群を用いるものであるが、各粒子群の平均粒子径がいずれも0.7μm以上6.0μm以下の範囲内にあることが望まれる。これは、平均粒子径分布が異なる少なくとも複数群の重質炭酸カルシウム粒子群を用いたとしても、極端に微細あるいは極端に粗大な粒子群を充填すると、重質炭酸カルシウムの偏在の抑制や、成形品の外観の向上が困難となるためである。
【0036】
また、特に限定されるわけではないが、平均粒子径が小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aの平均粒子径をaとし、平均粒子径が大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下、より好ましくは0.10~0.70、さらに好ましくは0.10~0.50程度となるように大別できるものであることが望ましい。このようなある程度明確な平均粒子径の差をもったものを併用することで、特に優れた効果が期待できるためである。
【0037】
また、本発明で用いられるそれぞれの重質炭酸カルシウム粒子群は、その粒子径(μm)の分布の変動係数(Cv)が0.01~0.10程度であることが望ましく、特に0.03~0.08程度であることが望ましい。粒子径の変動係数(Cv)が0.01~0.10程度の重質炭酸カルシウム粒子群を用いた床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートでは、該変動係数(Cv)で規定される粒子径のばらつきにおいて、平均粒子径の小さな重質炭酸カルシウム粒子群と平均粒子径の大きな重質炭酸カルシウム粒子群との各粒子が、該重質炭酸カルシウム粉末を用いた床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおける、上記したような粒子の偏在の抑制、成形品の外観及び機械的特性の向上等の作用をもたらす上で、各粒子群がより相補的に効果を与えるためと考えられる。
【0038】
本発明において用いられる平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群としては、上記したような平均粒子径の範囲内であれば、その重質炭酸カルシウム粒子群の組合せとしては、特に限定されないが、平均粒子径の小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aとしてその平均粒子径が、0.7μm以上2.2μm未満のもの、より好ましくは1.0μm以上1.9μm未満のもの、また平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bとしてはその平均粒子径は2.2μm以上6.0μm以下のもの、より好ましくは2.5μm以上5.0μm以下のものを組合せることが、特に望ましく、両者を実質的に混合均質化してなる混合物とすることが好ましい。両者を混ぜ合わせることで、平均粒子径の小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aだけ、または平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bだけを単独で用いるより、良好な高い充填性において、重質炭酸カルシウムの偏在を抑制でき、外観及び機械的特性が良好な成形品を得ることができ、また床材用シートやその複合材からの重質炭酸カルシウム粉末の脱落を低減することが可能である。
【0039】
なお、本明細書において述べる重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。
【0040】
上記した平均粒子径の小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aとしてその平均粒子径が、0.7μm以上2.2μm未満のものと、平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bとしてその平均粒子径が2.2μm以上6.0μm以下のものとを組み合わせて用いる実施形態において、平均粒子径の小さな重質炭酸カルシウム粒子群Aと平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bとの平均粒子径の境界値を2.2μmとするのは、本発明者らが鋭意検討し多くの実験を行った結果、この値より大きい粒子群と小さい粒子群とを組み合わせることで、添加された重質炭酸カルシウム粉末の偏在を最も効果的に抑制し、外観及び機械的特性の良好な成形品を製造し得るとの結論を得たことに基づくものである。
【0041】
また、平均粒子径の小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aとしてその平均粒子径が0.7μm以上とするのは、平均粒子径が小さくなり過ぎると、平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bと組み合わせた場合であっても、前述した硬質塩化ビニル系樹脂と混練した際に粘度が大きく上昇し、成形品の製造が困難となる虞れがあるためである。
【0042】
一方、平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bとしてその平均粒子径を6.0μm以下のものとするのは、平均粒子径が大きくなり過ぎると、平均粒子径の小さな重質炭酸カルシウム粒子群Aと組み合わせた場合であっても、前述した硬質塩化ビニル系樹脂と混練した際に粉末の偏在が生じたり、得られる成形品の外観が低下する虞れがあるためである。
【0043】
なお、本発明において、平均粒子径分布が異なる重質炭酸カルシウム粒子群として3つ以上のものを用いる実施形態においても、相対的に平均粒子径の小さい重質炭酸カルシウム粒子群の1つは、その平均粒子径が2.2μm未満であり、また相対的に平均粒子径の大きい重質炭酸カルシウム粒子群の1つは、その平均粒子径が2.2μm以上であるものとすることが望ましい。
【0044】
上記したように、本発明においては、平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群を用いるが、用いられる重質炭酸カルシウム粉末の全体として、特に、その粒子径分布において、粒子径50μmを超える粒子を実質的に含有しないことが好ましい。一方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した硬質塩化ビニル系樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。そのため、その粒子径は0.5μm未満の粒子も実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、当該粒子径の粒子が、例えば、全粒子質量の1質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満しか含まれないような態様を意味する。
【0045】
さらに、本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいて、前記の平均粒子径分布の異なる少なくとも2群の重質炭酸カルシウム粒子群の配合割合としては、単独の重質炭酸カルシウム粒子群を使用した場合と比較して、上記したような重質炭酸カルシウム粉末の偏在の抑制、得られる成形品における外観の向上、機械的強度の向上、さらには混練・成形時における粘度の低下、成形品からの重質炭酸カルシウム粉末の脱落の低減等の効果が得られる限り、特に限定されるものではないが、例えば、上記したような平均粒子径が小さい重質炭酸カルシウム粒子群Aと平均粒子径が大きい重質炭酸カルシウム粒子群Bとに分けた場合に質量比で、A:Bが、1:1~5:1程度、より好ましくは3:1~5:1程度であることが望ましい。このような配合割合とすることで、特に優れた効果が期待できるためである。
【0046】
上記のように、本発明で使用する重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積は、0.1m/g以上10.0m/g以下であるが、特に0.3m/g以上3.5m/g以下程度であることが望まれる。重質炭酸カルシウム粉末として平均粒子径が、0.7μm以上2.2μm未満のものである場合には、1.0m/g以上3.5m/g未満程度、また、重質炭酸カルシウム粉末として平均粒子径が、2.2μm以上6.0μm未満のものである場合には、0.3m/g以上3.5m/g以下程度であることが望ましい。ここでいう比表面積は空気透過法によるものである。比表面積がこの範囲内にあると、重質炭酸カルシウム粒子を充填することによる樹脂組成物の加工性の低下を、より効果的に抑制することができる。
【0047】
また、重質炭酸カルシウム粉末の硬質塩化ビニル系樹脂中への分散性を高めるために、重質炭酸カルシウム粉末の表面をあらかじめ常法に従い表面改質しておいてもよい。本発明の特に好ましい一実施形態においては、重質炭酸カルシウム粉末が、表面処理重質炭酸カルシウム粉末である。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するものなどが例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のいずれのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。本発明において表面処理重質炭酸カルシウム粉末は、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム粉末であることが好ましい。
【0048】
本発明の他の好ましい実施形態においては、用いられる重質炭酸カルシウム粉末としては、化学的処理剤を用いた表面処理、少なくとも、上記したような脂肪酸系化合物による表面処理をしていないものを使用する。重質炭酸カルシウム粉末として、このように表面処理をしていないものを用いることで、成形時において炭酸カルシウム表面に付着していた表面処理剤が熱分解して、わずかながらでも臭気の要因となることを排除できる。
【0049】
なお、重質炭酸カルシウム粉末を得る上での粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。粉砕機に関しても特に限定されるものではなく、衝撃式粉砕機、ボールミル等の粉砕メディアを用いた粉砕機、ローラーミル等が使用できる。また、分級も空気分級、湿式サイクロン、デカンターなどを利用した分級で良い。
【0050】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいては、上記したような平均粒子径の異なる少なくとも2つの重質炭酸カルシウム粒子群を用いることによる作用及び効果を実質的に損なうことのない限りにおいて、上記したような少なくとも2つの重質炭酸カルシウム粒子群以外に、必要に応じて、その他の無機物質粉末を添加することにより、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの色調や機械的特性等を改質することも可能である。
【0051】
これらの重質炭酸カルシウム以外のその他の無機物質粉末としては、特に限定されるものではないが、例えば、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0052】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートに含まれる上記した硬質塩化ビニル系樹脂と、重質炭酸カルシウム粉末との配合比(質量%)は、50:50~10:90の比率であれば特に限定されないが、40:60~10:90の比率であることが好ましく、35:65~20:80の比率であることがさらに好ましい。また、ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体に対する重質炭酸カルシウム粉末の質量比は50質量%以上であるが、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。ここで、重質炭酸カルシウム以外の無機物質粉末を含有する場合、無機物質粉末の総量を上記範囲内とすることが好ましい。無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られ難くなり、一方で90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0053】
≪α,β-不飽和カルボン酸重合体の中和物≫
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートはさらに、構成単位としてα,β-不飽和カルボン酸50~100モル%及び他の単量体0~50モル%からなる重合体の中和物(以下で単に「中和物」ということがある。)を、任意的成分として含有していてもよい。こうした中和物を添加することで、重質炭酸カルシウム粉末の分散性を著しく改善することができる。
【0054】
(α,β-不飽和カルボン酸)
上記中和物の重合体の主構成単位であるα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸ハーフエステル(マレイン酸モノブチルエステル、マレイン酸モノエチルカルビトールエステル等)、フマル酸ハーフエステル(フマル酸モノブチルエステル、フマル酸モノエチルカルビトールエステル等)などのα,β-不飽和カルボン酸若しくはその無水物、又はこれらの2ないしそれ以上の任意の組合せなどが挙げられる。
【0055】
これらのうち、特に、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸ハーフエステル及びフマル酸ハーフエステルが好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0056】
(他の単量体)
前記重合体においては、当該重合体の構成単位として、前記α,β-不飽和カルボン酸と共重合可能な、他の単量体を含有し得る。他の単量体としては、例えば次のものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
(a)芳香族エチレン性不飽和単量体:スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシスチレン等のスチレン類、ジクロルスチレン等のスチレン類のハロゲン置換体、ビニルナフタレン類等;
(b)炭素数2~20の脂肪族エチレン性不飽和単量体:エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン、ブタジエン、イソプレン等;
(c)炭素数5~15の脂環族エチレン性不飽和単量体:シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等;
(d)炭素数1~50のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等;
(e)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート:ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等;
(f)アミド含有エチレン性不飽和単量体:(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等;
(g)ポリアルキレングリコール鎖(分子量44~2000)を有するエチレン性不飽和単量体:ポリエチレングリコール(分子量300)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)モノ(メタ)アクリレート、メチルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物(メタ)アクリレート、ラウリルアルコールエチレンオキサイド30モル付加物(メタ)アクリレート等;
(h)スルホン基含有単量体:ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アリロキシプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、α-メチルスチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2-ジメチルエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、アルキル(炭素数3~18)(メタ)アリルスルホコハク酸、ポリ(n=2~30)オキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートの硫酸エステル化物(該オキシアルキレンは炭素数2~4のオキシアルキレンであり、単独、ランダム、ブロックでもよい)[例えば、ポリ(n=5~15)オキシプロピレンモノメタクリレート硫酸エステル化物等]等、その他以下の一般式(I)、(II)、(III)で示される化合物等。
【0057】
【化1】
(式中、Rは炭素数1~15のアルキル基を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示しnが複数の場合同一でも異なっていてもよく、異なる場合はランダムでもブロックでもよく、Arはベンゼン環を示しnは1~50の整数を示す。)
【0058】
【化2】
(式中、Rは炭素数1~15のアルキル基を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示しnが複数の場合同一でも異なっていてもよく、異なる場合はランダムでもブロックでもよく、Arはベンゼン環を示しnは1~50の整数を示す。)
【0059】
【化3】
(式中、R’はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~15のアルキル基を示す。)
【0060】
前記重合体において、構成単位としてのα,β-不飽和カルボン酸の含有量は、通常50~100モル%、好ましくは70~100モル%である。一方、他の単量体の含有量は、通常0~50モル%、好ましくは0~30モル%である。すなわち、構成単位としてのα,β-不飽和カルボン酸の含有量が、50~100モル%の範囲内であると、重質炭酸カルシウム粉末の分散性に対して有効に作用を発揮し得る。
【0061】
ここで、他の単量体としては、一種のものに限られず複数種のものを用いてもよく、三元ないしそれ以上の共重合体とすることも可能である。好ましくは(a)、(b)、(d)、(e)、(g)及び(h)であり、特に好ましくは(a)、(d)、(h)を使用する。単量体としての酸基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アミンで中和されていてもよい。
【0062】
また、前記重合体が、α,β-不飽和カルボン酸に、このような他の単量体を共重合させたものである態様において、当該重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、あるいは交互共重合体のいずれの配列のものであっても良い。このうち、ブロック共重合体及びグラフト共重合体の形態のものが特に望ましい。
【0063】
また前記重合体の重量平均分子量としては、特に限定されるものではないが、通常1,000~100,000である。好ましくは、5,000~30,000であり、分子量分布は通常1.10~4.50であり、好ましくは1.10~2.50である。
【0064】
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいては、前記重合体の中和物が配合されるが、その中和度としては少なくとも0.20以上、より好ましくは0.25~1.00であることが望まれる。このように重合体における酸基がある程度以上中和された形のものであることにより、重質炭酸カルシウム粉末の分散性が良好なものとなる。
【0065】
このような中和物は、単量体の酸基(通常カルボン酸基)を中和した単量体を用いて重合するか、あるいは後述するように、重合体を得た後に中和処理することにより得ることができる。
【0066】
好ましい一態様においては、前記重合体中の酸基の18.8~99.9モル%、好ましくは25.0~99.9モル%がアルカリ金属又はマグネシウム塩を除くアルカリ土類金属塩であり、酸基の0.1~1.2モル%、好ましくは0.6~1.1モル%は、マグネシウム塩であり、酸基の0~80.0モル%が遊離の酸基である。この態様においてアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。この態様においてアルカリ土類金属としてはカルシウム、バリウムなどが挙げられる。
【0067】
また別の好ましい一態様においては、前記重合体中の酸基の10.0~99.9モル%、好ましくは15.0~94.9モル%、特に好ましくは20.0~80.0モル%がアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩であり、酸基の0~5.0モル%、好ましくは0~4.0モル%、特に好ましくは0.1~2.0モル%は、有機アミンの塩であり、酸基の0~90.0モル%、好ましくは5.0~85.0モル%、特に好ましくは20.0~80.0モル%が遊離の酸基である。この態様において、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。この態様において、アルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。
【0068】
有機アミンとしては、脂肪族(一級、二級、三級)アミン、脂環族アミン、芳香族アミン、前記一級又は二級アミンのアルキレンオキシド付加物、(ポリ)アルキレンポリアミン等が挙げられる。脂肪族アミンとしては炭素数1~20のアルキル基を有するアルキルアミンが、脂環族アミンとしてはシクロアルキル基を有するシクロアルキルアミンが、芳香族アミンとしてはアニリン、ベンジルアミン、トルイジン、ベンジジン、ピリミジン、N,N-ジメチルアニリン、フェニレンジアミン(o、m、p)、ピリジン、4-メチルベンズイミダゾール、キノリン、4,4’-ジピリジル等が挙げられる。前記一級又は二級アミンのアルキレンオキシド付加物のアルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドが挙げられる。これらの付加モル数は、通常、活性水素1個当り1~5モルであり、好ましくは1~2モルである。具体例としてシクロヘキシルアミンのプロピレンオキシド2モル付加物、ジオクチルアミンのプロピレンオキシド1モル付加物等が挙げられる。(ポリ)アルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びこれらのアルキル化物等が挙げられる。有機アミンのうち、好ましくは、脂肪族若しくは脂環族アミン又はそれらのアルキレンオキシド付加物である。
【0069】
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいて、この構成単位としてα,β-不飽和カルボン酸50~100モル%及び他の単量体0~50モル%からなる重合体の中和物は、ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体の3~10質量%、より好ましくは5~8質量%添加されるものであることが望ましい。このような範囲内の添加量であると、ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおける重質炭酸カルシウム粉末等の分散性が良好なものとなり、一方、その他の物理的、化学的及び官能的性状に悪影響を及ぼすこともないためである。
【0070】
≪その他の添加剤≫
本発明に係る床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートには、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤として、例えば、可塑剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、上記中和物以外の分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等を配合してもよい。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらは、後述の混練工程において配合してもよく、混練工程の前にあらかじめ床材用ポリ塩化ビニル系樹脂原料等に配合していてもよい。本発明で使用する硬質塩化ビニル系樹脂は、上記のように少量の可塑剤を含有していてもよいが、これら可塑剤は通常、原料塩化ビニル系樹脂中に混合された状態で市販されている。
【0071】
<可塑剤>
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートに使用し得る可塑剤に特に制限はなく、目的とする物性に応じて、種々の一般的なものを使用することができる。例としてジ2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル;ジイソノニルアジペート、ジ2-エチルヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル;トリメリット酸エステル、リン酸エステル、ポリエステル系可塑剤、塩素化パラフィン、エポキシ化大豆油などが挙げられるが、これらに限定されない。これら可塑剤を複数種併用することもできる。なお、これら可塑剤は、上記したように原料塩化ビニル系樹脂中に混合されているのが一般的であるので、本発明においては、ポリ塩化ビニル系ポリマーと可塑剤との合計質量を、硬質ポリ塩化ビニル系樹脂の質量として表記する。当該「硬質ポリ塩化ビニル系樹脂の質量」に占める可塑剤の比率は、上記したように0~10質量、例えば0.1~5質量%、特に0.5~3質量%程度であることが好ましい。
【0072】
<可塑剤以外の添加剤量>
可塑剤以外のその他添加剤の添加量は、上記したポリ塩化ビニル系樹脂と、平均粒子径の異なる少なくとも2つの重質炭酸カルシウム粒子群との配合による所望の効果を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0~5質量%程度、例えば0.1~3質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で20質量%以下、特に10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
【0073】
以下に、これら添加剤のうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0074】
安定剤としては、例えば、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸系安定剤;ジオクチルスズラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズβ-メルカプトプロピオン酸アルキルエステル等の有機錫系安定剤;モノトリデシルジフェニルホスファイト、テトラフェニルジプロピレンジホスファイト等のホスファイト系安定剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト等のハイドロタルサイト系安定剤、ジベンゾイルメタン等のβ-ジケトン、ペンタエリスリトール等のポリオールなどが挙げられる。これら安定剤を、複数種併用して使用することもできる。
【0075】
色剤としては、公知の有機顔料または無機顔料あるいは染料のいずれをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。これら色材を、複数種組み合わせて使用することもできる。色材については、シートに模様を付す目的で、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートまたはその組成物中での分散を不均一にすることも可能である。
【0076】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤、ステアリン酸-n-ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤、脂肪酸金属石鹸系滑剤等を挙げることができる。
【0077】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。上記した安定剤を使用することも可能である。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0078】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-t-ブチル-6-(3'-t-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0080】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール-ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6-キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウムまたはこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0081】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である樹脂組成物に混合し、または圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、または気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。原料となる樹脂組成物に溶解した発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0082】
発泡剤としては、例えば脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、二酸化炭素、窒素、空気、水などが挙げられる。キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものも好ましく用いることができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。これら発泡剤の、成形工程における含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの全質量に対して0.04~5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0083】
<床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの製造方法>
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、通常の混練成形法によって製造することができる。混練時には例えば、成形機にホッパーから投入する前に硬質塩化ビニル系樹脂と平均粒子径の異なる各重質炭酸カルシウム粒子群とを混練溶融してもよく、成形機と一体で成形と同時に硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを混練溶融してもよい。溶融混練は、硬質塩化ビニル系樹脂に重質炭酸カルシウム粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
【0084】
上記のように、本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの製造においては、例えば二軸押出機を用いて混練と同時にシート成形してもよく、また、混練物を一旦ペレット状とし、このペレットをシート状に成形してもよい。成形方法に特に制限はなく、プレス、射出成形、押出成形、ロール成形等、種々の公知の方法を用いることができる。例えばペレット化した混練物を、一軸Tダイ押出成形装置等を用いて押出成形してもよい。組成が同一のまたは異なる複数のポリ塩化ビニル系樹脂シートを、多層押出装置等を用いて押出し、あるいはカレンダーロールにより圧延して、多層シートとすることもできる。成形後のシートに、一軸延伸、二軸延伸、多軸方向への延伸(チューブラー法による延伸等)等の処理を施すことも可能である。なお、二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であってもよい。
【0085】
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの厚みに特に制限はなく、目的に応じて所望の厚みとすることができる。しかしながら強度等の機械的特性と成形性やコスト等とのバランスの点から、0.3~20mm程度、中でも0.5~10mm程度、特に1~7mm程度の厚みとすることが好ましい。特に、多層シートを作製する場合には、本発明に従う床材用ポリ塩化ビニル系樹脂の単層シートの厚みを0.5~7mm、特に1~5mm程度とし、多層シート全体の厚みを1~25mm程度、特に2~20mm程度としてもよい。また、上記したように発泡剤を添加して床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートを発泡成形し、より厚みのある、例えば10~50mm程度、特に15~30mm程度の厚みのシートとすることも可能である。
【0086】
≪床材≫
本発明に係る床材は、上記した床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートを含む床材である。本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、成形性が良好で、重質炭酸カルシウム粉末の分散不良に起因する外観不良を来し難い上、耐荷重性や耐衝撃性等の機械的特性にも優れるので、床材として好適である。接着性も良好なため、建物や床パネル本体に接着して使用した場合も、剥離等の不具合が生じ難い利点を有する。
【0087】
本発明の床材は、上記のようにして製造した単層または多層のポリ塩化ビニル系樹脂シートをそのまま用いたものであってもよく、他材料から成るシートや、本発明に従う他の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートとの積層品であってもよい。例えば本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの片側または両側に化粧シートや耐候性シート、クッション層等を積層して床材とすることができる。表面に耐紫外線コートや、施行用の突起等を付してもよい。こうした積層やコートの方法に特に制限はなく、種々の慣用の方法を用いることができる。例えば上記したような多層押出やカレンダー成形の他、本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートとクッション層や外層等とを接着剤で接合して作製してもよい。本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、他材料との接着性に優れるので、こうした積層品は経年使用による剥離等を来し難い利点がある。これら積層品の表面に、さらにエンボス加工等の処理を施すこともできる。
【実施例
【0088】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0090】
(重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径)
島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を用い、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した。
【0091】
(重質炭酸カルシウム粉末の比表面積)
マイクロトラック・ベル社製、BELSORP-miniを用い、窒素ガス吸着法によって求めた。
【0092】
(重質炭酸カルシウム粉末の真円度)
粉末の粒度分布を代表するように、100個の粒子のサンプリングを行い、光学顕微鏡を用いてこれら各粒子の画像を得た。この画像を、市販の画像解析ソフトを用いて解析し、上記した測定原理に基づいて真円度を計算した。
【0093】
(成形性)
押出機での混練・成形時の難易度に基づき、次の評価基準によって評価した。
[評価基準]
◎:混練・押出操作が、極めてスムーズに進行し、均一なシートを容易に押出すことができた。
○:重質炭酸カルシウム粉末の偏在がなく、厚みの均一なシートを押出すことができた。
△:重質炭酸カルシウム粉末の偏在が観察されたか、あるいは均一なシートを押出すことが困難であった。
×:混練時の粘度上昇が著しく、押出成形ができなかった。
【0094】
(製品外観)
成形品表面の外観の平滑性、及び原材料成分の遊離(試料シート表面への浮き出し)の有無を目視により調べ、次の評価基準によって評価した。
[平滑性評価基準]
○:表面に肌荒れ(細かい皺や突起)、凹凸、傷等が全く観察されず良好な平滑性を有していた。
△:表面に肌荒れや凹凸が僅かに観察された。
×:表面に肌荒れや凹凸が数多く観察された。
[遊離評価基準]
○:試料シート表面への原材料成分の浮き出し(ブリード)が観察されなかった。
×:試料シート表面への原材料成分の浮き出し(ブリード)が観察された。
【0095】
(耐荷重性・耐久性)
1500×300mmの試料シートを2×2mの試料台に載せ、その上に直径250mm、幅25mmのポリアミド製車輪を付した。当該車輪に90kg重の荷重を掛け、試料中央部1mに亘る部分を、1分間に10往復させる操作を22時間繰り返した。試験後の試料の外観を目視により調べ、次の評価基準によって評価した。
[評価基準]
○:試料シートのひび割れや、シート表面への成分の遊離(ブリード)が全く観察されず、凹凸も僅かであった。
△:試料シート表面で、小さなひび、成分の遊離(ブリード)、または大きな凹凸が観察された。
×:試料シートが破壊してしまった。
【0096】
(接着性)
積層シートについては、上記耐荷重性・耐久性試験後の試料外観から、以下の基準で接着性を評価した。
[評価基準]
○:層間の剥離が観察されなかった。
△:積層シートの一部で、層間の剥離が観察された。
×:積層シートの半分程度以上の領域で、層間の剥離が観察された。
【0097】
(寸法変化率)
各積層シートから229mm角の測定用シートを切り出し、23℃に24時間保持した後、X方向及びY方向の寸法を測定した(押出方向をX方向とした)。次いで82±2℃に6時間保持した後、23℃で放冷して24時間後の寸法を測定し、X方向及びY方向の寸法変化率を計算した。
【0098】
(耐衝撃性)
各積層シートから180mm角の測定用シートを切り出し、上方から質量324g、直径42.8mmの鋼鉄製の球を落下させ、積層シート試料に破損が生じた際の高さに基づいて耐衝撃性を評価した。
【0099】
(原材料)
本願実施例及び比較例において使用した原材料は、以下のとおりである。
・硬質塩化ビニル系樹脂(PVC1):塩化ビニルホモポリマー、平均重合度1030
・軟質塩化ビニル系樹脂(PVC2):塩化ビニルホモポリマー、平均重合度1300、可塑剤としてジオクチルフタレートを40質量%含有
【0100】
・重質炭酸カルシウム粉末(B)
B1:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径0.7μm、比表面積3.2m/g、真円度:0.53
B2:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:1.1μm、BET比表面積:3.2m/g、真円度:0.55
B3:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:2.2μm、BET比表面積:1.0m/g、真円度:0.85
B4:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:3.6μm、BET比表面積:0.6m/g、真円度:0.90
B5:重質炭酸カルシウム粉末(脂肪酸表面処理品) 上記B2のステアリン酸処理品
B6:重質炭酸カルシウム粉末(脂肪酸表面処理品) 上記B4のステアリン酸処理品
【0101】
・α,β-不飽和カルボン酸重合体の中和物(C)
C1:ポリアクリル酸(質量平均分子量Mw:11500)の中和物:中和度100.0%、中和塩:ナトリウム/マグネシウム=99.0/1.0
C2:アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(重量平均分子量Mw:8000)の中和物、中和度:70.0%、中和塩:ナトリウム/マグネシウム=69.7/0.3
・帯電防止剤(D):ラウリン酸ジエタノールアミド
・滑剤(E):アルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)
・安定剤(F):モノトリデシルジフェニルホスファイト
【0102】
[実施例1~5、比較例1~4]
熱可塑性樹脂(A)としてポリプロピレン単独重合体A1を、重質炭酸カルシウム粉末(B)として上記B2~B6を、表1に示す質量比で使用した(実施例1~5、比較例1~3)。帯電防止剤、滑剤及び安定剤としては、上記D、E、及びFをそれぞれ1.0質量部使用した。なお、表1において各成分の数値は質量部の値である。各成分を、二軸スクリューを装備したTダイ押出成形機φ75mm、L/D=25)に投入し、200℃で混練した。混練した原料を220℃(ダイ温度)でTダイから厚さ4mm、幅300mmのシートに押出し、引き取り機で巻き取った。
【0103】
得られたシートについて、上記した基準に従い、成形性、外観、耐荷重性・耐久性、成形性を評価した。なお、重質炭酸カルシウム粉末(B)として粒子径の細かいB1のみを用い、実施例1と同様の操作を試みたが(比較例4)、混練時の粘度上昇が著しく、押出成形ができなかった。すなわち、成形性評価結果が×であった。実施例1~5、比較例1~3について、得られた結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
本発明に従い、硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有し、かつ重質炭酸カルシウム粉末が平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含む実施例1~5の試料は、いずれも成形性に優れ、表面が平滑で肌荒れや原料成分の遊離が見られず、良好な外観を呈した。特に、脂肪酸表面処理重質炭酸カルシウムを用いた実施例2や、α,β-不飽和カルボン酸重合体の中和物を混合した実施例4及び5では、成形性が極めて良好であった。一方で重質炭酸カルシウムを1種のみ含有する比較例1や2、特に平均粒子径が小のB2のみを含有する比較例1では、成形性が悪く、平滑性や耐荷重性の点でも劣っていた。また、軟質塩化ビニル系樹脂を用いた比較例3では、可塑剤が遊離(ブリード)し、外観や耐荷重性が悪化していた。一方で、本発明に従う床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、耐荷重性・耐久性の点でも優れており、床材として適することが示された。
【0106】
[実施例6]
上記実施例5の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートの両面にポリアクリル酸系エマルジョン接着剤を塗布し、一方の面にエチレン酢酸ビニル共重合体製の厚さ10mmの発泡シートを、反対側の面にエチレン酢酸ビニル共重合体製の厚さ0.3mmの保護シートを接合して、積層シートを作製した。接合は、4本カレンダーロールを用いて行った。
【0107】
得られた積層シートについて、実施例1と同様にして耐荷重性・耐久性試験を行い、試験後の外観変化を観察した。結果を表2に示す。
【0108】
[実施例7、比較例5~6]
実施例5の試料シートの代わりに、それぞれ実施例1、比較例3、比較例1の試料シートを用い、実施例5と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、耐荷重性・耐久性が良好な上、使用時における原材料成分の遊離や層間の剥離も来していない。温度変化に伴う寸法変化率も極めて小さく、耐衝撃性も軟質塩化ビニル系樹脂ベースの床材に比べて優れている。このように本発明の床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、床材として好適であることが示された。
【要約】
【課題】外観が良好で寸法変化が小さく、機械的特性や他部材との接着性にも優れる床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート、及びそれを含む床材を提供する。
【解決手段】硬質塩化ビニル系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シートにおいて、重質炭酸カルシウム粉末は、BET比表面積が0.1m/g以上10.0m/g以下であり、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の重質炭酸カルシウム粉末群と、空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の重質炭酸カルシウム粉末群とを質量比1:1~5:1で含有している、床材用ポリ塩化ビニル系樹脂シート。
【選択図】なし