(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】エレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法および同安全装置の安全ロープ解放治具
(51)【国際特許分類】
B66B 7/00 20060101AFI20220303BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
B66B7/00 G
B66B5/00 D
(21)【出願番号】P 2020144772
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143341(JP,A)
【文献】特開昭58-109374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全ロープの速度が設定値を超えると、前記安全ロープを把持することでゴンドラを非常停止させるロープ掴み機構と、前記ロープ掴み機構が作動可能になるロック位置と前記ロープ掴み機構から前記安全ロープが解放される状態になる解放位置との間を回転可能な解放シャフトと、を有する安全装置から前記安全ロープを引き抜く方法であって、
前記解放シャフトが空回りせずに嵌合する第1の穴と、前記安全装置のケース表面に形成された突起部が嵌合可能な回転防止用の第2の穴とを有する板状の治具本体と、前記解放シャフトを前記第1の穴に嵌めたまま前記解放シャフトを前記解放位置まで回したときに前記治具本体の脱落を防止する固定手段と、を有する解放治具を用意し、
前記解放治具の前記第1の穴に前記解放シャフトを嵌めた状態で前記解放治具を回して前記解放シャフトを解放位置に切り換え、
前記解放治具を前記固定手段により脱落しないように保持するとともに、前記第2の穴に前記突起部を嵌合させて前記解放治具が前記ロック位置に回らないように保持し、
最後に、前記安全ロープが前記ロープ掴み機構から解放された状態で前記安全ロープを前記安全装置から引き抜くことを特徴とするエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法。
【請求項2】
前記固定手段は、薄型の永久磁石からなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法。
【請求項3】
前記永久磁石を覆うように、ゴム製のバンド部材が前記治具本体に巻き付けられたことを特徴とする請求項2に記載のエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法。
【請求項4】
前記突起部は、前記安全装置のカバーを固定する締結部材の一部であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法。
【請求項5】
前記解放治具の第2の穴の位置は、解放位置では、前記突起部に位相が合っていることを特徴とする請求項4に記載のエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法。
【請求項6】
安全ロープの速度が設定値を超えると、前記
安全ロープを把持することでゴンドラを非常停止させるロープ掴み機構と、前記ロープ掴み機構が作動可能になるロック位置と前記ロープ掴み機構から前記安全ロープが解放される状態になる解放位置との間を回転可能な解放シャフトと、を有する安全装置において、前記解放シャフトを手動で回すのに使用される安全ロープ解放治具であって、
前記解放シャフトが空回りせずに嵌合する第1の穴と、前記安全装置のケース表面に形成された突起部が嵌合可能な回転防止用の第2の穴とを有する板状の治具本体と、
前記解放シャフトを前記
第1の穴に嵌めたまま前記解放シャフトを前記解放位置まで回したときに前記治具本体の脱落を防止する固定手段と、
を有することを特徴とするエレベータ用ゴンドラの安全装置に用いられる安全ロープ解放治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法および同安全装置の安全ロープ解放治具に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータを中高層の建物に新設する場合、昇降路内にゴンドラを吊り下げ、このゴンドラに作業員が乗ってガイドレール等のエレベータ用品の設置作業が進められる。この種のゴンドラは、伝動ウインチを備えており、作業員は、伝動ウインチを操作しながらゴンドラを昇降路内で移動させることができる。
【0003】
また、ゴンドラには、伝動ウインチが故障した場合などに、ゴンドラが落下しないように非常停止させる安全装置が設けられている。この安全装置には、安全ロープが通されており、ゴンドラの落下とともに安全ロープの走行速度が設定値を超えると、内蔵のロープ掴み機構が作動して安全ロープを掴み、ゴンドラは非常停止するようになっている。
【0004】
ところで、ゴンドラは、エレベータの工事が進み、ガイドレールの設置が終わると、解体されて昇降路から撤去される。ゴンドラの撤去では、安全装置から安全ロープを抜き取ったり、ウインチ用のワイヤロープを巻き取る必要がある。従来技術として、例えば、特許文献1は、ゴンドラの安全ロープを巻き取る装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴンドラに採用されている安全装置では、安全ロープを素速く引き抜こうとすると、ロープ掴み機構が作動し、安全ロープを引き抜けなくなることがある。これは、安全ロープを抜く方向は、安全装置にとってゴンドラが落下する方向でもあるため、急いで安全ロープを引くと、安全装置は安全ロープの速度が設定値を超えたことを検知し、ロープ掴み機構が作動してしまうからである。
【0007】
このため、安全ロープを安全装置から抜き取るには、ロープ掴み機構が解放された状態を保って安全ロープを抜かなければならない。従来、安全装置のロープ掴み機構は、手動により解放できるようになっているが、そのために、安全ロープを抜き取る作業は最低でも作業員二人を必要としている。すなわち、一人は工具を使って安全装置のロープ掴み機構を解放状態に保持し、もう一人が安全ロープを引き抜いている。このように最低でも二人がかかりでの作業を強いられることから、効率が悪く、改善が要請されている。
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、安全装置から安全ロープを引き抜く作業の要員を減らし、一人の作業員でも行えるようにしたエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法および同安全装置の安全ロープ解放治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係るエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法は、安全ロープの速度が設定値を超えると、前記ロープを把持することでゴンドラを非常停止させるロープ掴み機構と、前記ロープ掴み機構が作動可能になるロック位置と前記ロープ掴み機構から前記安全ロープが解放される状態になる解放位置との間を回転可能な解放シャフトと、を有する安全装置から前記安全ロープを引き抜く方法であって、前記解放シャフトが空回りせずに嵌合する第1の穴と、前記安全装置のケース表面に形成された突起部が嵌合可能な回転防止用の第2の穴とを有する板状の治具本体と、前記解放シャフトを前記第1の穴に嵌めたまま前記解放シャフトを前記解放位置まで回したときに前記治具本体の脱落を防止する固定手段と、を有する解放治具を用意し、前記解放治具の前記第1の穴に前記解放シャフトを嵌めた状態で前記解放治具を回して前記解放シャフトを解放位置に切り換え、前記解放治具を前記固定手段により脱落しないように保持するとともに、前記第2の穴に前記突起部を嵌合させて前記解放治具が前記ロック位置に回らないように保持し、最後に、前記安全ロープが前記ロープ掴み機構から解放された状態で前記安全ロープを前記安全装置から引き抜くことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態が適用されるエレベータ用ゴンドラの概要を示す斜視図である。
【
図2】ゴンドラを撤去するにあたって、昇降路から乗場に運び込まれたゴンドラを示す斜視図である。
【
図3】安全装置のロープ掴み機構を解放するのに用いる本実施形態による解放治具を示す斜視図である。
【
図5】角穴に解放シャフトが嵌まった解放治具を示す斜視図である。
【
図6】
図5の状態から解放シャフトを解放位置に回した状況を示す斜視図である。
【
図7】
図6の状態から解放治具を押し込んだ状況を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明によるエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法および同安全装置の安全ロープ解放治具の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態が適用されるエレベータ用ゴンドラの概要を示す図である。
【0011】
図1において、参照番号8は、エレベータの昇降路を示し、参照番号10は、ゴンドラを示している。エレベータを新設する工事にあっては、建設初期段階にある昇降路8では、ゴンドラ工法により乗りかご用ガイドレールや釣合おもり用ガイドレール等のエレベータ用品が構築される。ゴンドラ10は、床板台15の四囲に手すりフレーム14が組まれた吊りかごである。
【0012】
ゴンドラ10には、2台の電動ウインチ22が搭載されている。電動ウインチ22には、ワイヤロープ11が巻き掛けられており、電動ウインチ22がワイヤロープ11を巻き込んだり、繰り出すことで、ゴンドラ10が昇降路8内を昇降するようになっている。参照番号16は電動ウインチ22を操作する操作盤である。昇降路8の天井には、フック5が固定されており、このフック5にシャックル7などの止め具を介してワイヤロープ11の上端が止着されている。
【0013】
このワイヤロープ11とは別に、2本の安全ロープ12がシャックル6を介して昇降路8の天井から吊り下げられている。安全ロープ12は、それぞれゴンドラ10に設置されている非常停止用の安全装置20に通されて、昇降路8の下部まで延びている。この安全装置20には、安全ロープ12が通されており、ゴンドラ10の落下とともに安全ロープ12の走行速度が設定値を超えると、内蔵のロープ掴み機構が作動して安全ロープ12を掴み、ゴンドラ10は非常停止させられるようになっている。
【0014】
次に、
図2は、ゴンドラ10を撤去するにあたって、昇降路8から乗場32に運び込まれたゴンドラ10を示す図である。
【0015】
昇降路8内には、乗りかご用ガイドレールや釣合おもり用ガイドレールが設置された後でも、ゴンドラ10の撤去作業に利用できるような足場がないので、ゴンドラ10を出入口30から乗場32に運び出される。ここで、安全ロープ12の抜き取り、ゴンドラ10の解体等の作業が行われる。
【0016】
ここで、
図3は、安全装置20のロープ掴み機構を解放するのに用いる解放治具40を示す図である。
安全装置20には、手動操作によりロープ掴み機構を解放できるように解放シャフト33が設けられている。ここで、解放とは、安全ロープ12の走行速度が設定値を超えてもロープ掴み機構は作動せず、安全ロープ12がロープ掴み機構からフリーになっている状態をいう。この解放シャフト33は、ボルト頭部のように六角形状を有しており、安全装置20のケース表面から突き出るようになっている。従来は、この解放シャフト33をスパナで回していたが、本実施形態では、板状の解放治具40が用いられる。
【0017】
解放シャフト33がロックの位置にあると、ロープ掴み機構は解放されていない状態になる。通常、解放シャフト33は、ロック位置にある。解放シャフトを、この実施形態では、30度時計回りに回すと、解放位置に切り替わり、ロープ掴み機構は解放される。この場合、解放シャフト33は、内蔵のリターンスプリングの弾性力によりロック位置に戻す方向に付勢されており、スパナで保持していないとロック位置に戻るようになっている。
【0018】
解放治具40は、従来用いられていたスパナの替わりに用いて、解放シャフト33を解放位置に切り換えるとともに解放位置に保持するための治具である。この実施形態では、矩形の金属板から構成されている。解放治具40には、解放シャフト33が空回りせず嵌合可能な角穴(第1の穴)41が形成されている。また、解放治具40には、安全装置20のカバーに形成された突起部が嵌合する穴(第2の穴)42が形成されている。実施形態では、突起部としては、安全装置10のカバーを固定するナット34が利用されている。本実施形態では、解放治具40を時計回りに30度回したときは、穴42とナット40の位相が合うようになっている。穴42は一つに限るものではなく、複数あってもよい。
【0019】
ここで、
図4は、解放治具40の断面を示す図である。解放治具40の裏側(安全装置20と密着する側)には、薄型の磁石44が解放治具40の脱落を防止する固定手段として取り付けられている。この磁石44を覆うように、ゴム製のバンド43が解放治具10にも巻き付けられている。ゴム製のバンド43は、磁石44の脱落防止とロープ引き抜き作業中に発生した鉄粉によって磁石44の磁力が減衰するのを防止するために巻かれている。
【0020】
本実施形態によるエレベータ用ゴンドラの安全装置20の安全ロープ解放治具40は、以上のように構成されるものであり、次に、ゴンドラの安全装置から安全ロープ12を引き抜く方法の手順との関連において、その作用および効果について説明する。
図2に示されるように、安全装置20から安全ロープ12を引き抜く作業は、ゴンドラ10を乗場32に引き込んで実施される。本実施形態では、以下に説明するように、
図3に示した解放治具40を用いて安全装置20のロープ把持機構を解放してから安全ロープ12を引き抜く作業の要員としては1人を想定している。
【0021】
図3において、解放治具40の角穴41を解放シャフト33に嵌め合わせる。
図5は、角穴41に解放シャフト33が嵌まった解放治具40を示している。このとき磁石44によって解放治具40が安全装置10の表面に吸着しないように、解放シャフト33には浅く嵌合させておき、安全装置20の表面との間に隙間を取っておく。
【0022】
次いで、
図6において、解放治具10を時計回りに約30度回すと、解放シャフト33も同じ角度だけ回るので、安全装置20のロープ把持機構が解放された状態に切り換えることができる。このとき、解放シャフト33は、内蔵のリターンスプリングの弾性力を受けて、ロック位置に戻ろうとする。解放治具40は、安全装置20との間に隙間があるので、この時点では、磁石44は吸着していない。
【0023】
そこで、
図7において、解放治具40を安全装置20側に押し込むと、磁石44が安全装置20のカバーに吸着する。本実施形態では、同時に、安全装置20側の突起部、すなわちナット42が解放治具40の穴42に嵌まり込む。この突起部との嵌合によって、解放治具40は回転してロック位置に戻るのが確実に阻止される。しかも、解放治具40は、磁石44によって安全装置20に吸着して固定されているので、脱落することが防止され、安全装置20では、解放状態が確実に保持される。
【0024】
安全装置が解放状態になると、
図2において、作業員は安全ロープ12を手早く手繰っても、ロープ掴み機構が作動することはないので、作業員は効率良く安全ロープ12を引き抜くことができる。この間は、上述したように、解放治具40によって安全装置20は解放状態に保たれるので、従来のように、解放状態に保つ要員を一人削減することが可能になる。
【0025】
こうして安全ロープ12の引き抜きが終わると、ゴンドラ10の解体が行われる。最終的に、ワイヤロープ11、安全ロープ12は、かご上で移動しながら巻き取られるようになっている。
【0026】
以上、本発明のエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法および同安全装置の安全ロープ解放治具について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【符号の説明】
【0027】
5…フック、8…昇降路、10…ゴンドラ、6、7…シャックル、11…ワイヤロープ、20…安全装置、22…電動ウインチ、33…解放シャフト、40…解放治具、41…第1の穴、42…第2の穴、43…バンド、44…磁石
【要約】 (修正有)
【課題】作業の要員を減らし、一人で行えるようにしたエレベータ用ゴンドラの安全装置から安全ロープを引き抜く方法を提供する。
【解決手段】本発明は、解放シャフト33が空回りせず嵌合する第1の穴41と、安全装置20のケース表面に形成された突起部34が嵌合可能な回転防止用の第2の穴42を有する板状の治具本体40と、解放シャフト33を第1の穴41に嵌めたまま解放シャフト33を解放位置まで回したときに治具本体40の脱落を防止する固定手段44と、を有する解放治具を用意し、解放治具の第1の穴41に解放シャフト33を嵌めた状態で解放治具を回して解放シャフト33を解放位置に切り換え、解放治具を固定手段44により脱落しないように保持し、第2の穴42に突起部34を嵌合させ解放治具が前記ロック位置に回らないよう保持し、最後に安全ロープ12がロープ掴み機構から解放された状態で安全ロープ12を安全装置20から引き抜く。
【選択図】
図3