(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】スキンパック用多層フィルム及びスキンパック包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20220303BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220303BHJP
B65D 75/30 20060101ALI20220303BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
B32B27/28
B32B27/00 H
B32B27/28 101
B65D75/30 A
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2017201132
(22)【出願日】2017-10-17
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 健太
(72)【発明者】
【氏名】廣中 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】町屋 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 孝一
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080692(JP,A)
【文献】特開2007-190876(JP,A)
【文献】特開2000-246842(JP,A)
【文献】特開2002-200719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
67/00-79/02
81/18-81/30
81/38
85/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマー樹脂を含有する層と、
最表層が含む樹脂成分の合計含有率を100質量%としたときに、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して
40質量%~
90質量%
、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、スチレン系エラストマー樹脂及びポリエチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種を樹脂成分の全質量に対して5質量%~40質量%、並びに、脂環族系炭化水素樹脂である粘着付与剤を樹脂成分の全質量に対して1質量%~35質量%含み、加熱処理されることでシール性が発現する最表層と、
を有し、
前記不飽和エステルに由来する構成単位の含有率が、前記エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の全構成単位に対して6質量%~11.3質量%である、
スキンパック用多層フィルム。
【請求項2】
前記エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂である請求項1に記載のスキンパック用多層フィルム。
【請求項3】
スキンパック用多層フィルムの厚みが、40μm~300μmである請求項1
又は請求項
2に記載のスキンパック用多層フィルム。
【請求項4】
ポリプロピレン(PP)シートである底材と、前記底材上に配置された被包装物と、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のスキンパック用多層フィルムと、を備えたスキンパック包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキンパック用多層フィルム及びスキンパック包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスキンパック用フィルム、スライスハム、ベーコン、水産加工品等をスキンパック包装するためのフィルムとして、一般に、ポリ塩化ビニル(PVC)/ポリ塩化ビニリデン(PVDC)/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の積層構造を有するフィルムが使用されている。
しかしながら、鋭利な骨等が含まれる水産加工品を収容する場合や低温下で保存する場合には、フィルムの穴開き(ピンホール)に対する抵抗力(以下、「突き刺し強度」ともいう。)に劣る場合がある。また、底材(トレー)がポリプロピレン(PP)樹脂の場合には、フィルムとトレーとの接着性に劣る問題があった。さらに、環境問題から包材の脱塩素化も求められている。
【0003】
柔軟で内容物に対する密着性に優れた食品包装用多層フィルムとして、ナイロン層(A)、ガスバリア層(B)、接着層(C)、アイオノマー層(D)及び酢酸ビニル含有率が10%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体層(E)を少なくとも含む軟質多層フィルムであり、層構成が、(A)-(B)-(C)-(D)-(E)(A)-(C)-(B)-(C)-(D)-(E)、(B)-(A)-(C)-(D)-(E)、(B)-(C)-(A)-(C)-(D)-(E)、又は(A)-(B)-(A)-(C)-(D)-(E)である軟質多層フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、突き刺し強度及び内容物密着性に優れるスキンパック蓋材用共押出多層フィルムとして、外層にアイオノマー樹脂(IO)層、中間層にエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)層、最内層に酢酸ビニル含有率が8モル%以上20モル%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)またはホットメルト樹脂(HM)層を配し、フィルム総厚に対するアイオノマー樹脂(IO)層厚比が40%以上70%以下であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)層厚比が10%以下であるスキンパック蓋材用共押出多層フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3085626号公報
【文献】特許第5034237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載のフィルムは、最内層がエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)層であるため、スキンパック包装した際にトレーとの密着性が不十分であり、また、内容物の形状が複雑なもの又は弾力性のある内容物である場合には、内容物との密着性にも劣る問題がある。
【0006】
また、市販品のスキンパック用フィルムでは、アイオノマー(IO)/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の積層構造を有するフィルムが多用されており、このような積層構造を有するフィルムでは、フィルム強度を増すためにアイオノマー層を厚くしているため、高コストとなりやすい。
【0007】
またポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂成分を含むトレーに対してもシールができるように、酢酸ビニル(VA)含有率が20モル%を超えるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を含むフィルムを使用した場合、フィルム製膜の押出工程においてフィルムが焦げやすい傾向がある。
【0008】
また、フィルムの滑り性も非常に悪いので、フィルムが包装機中で詰まりやすい懸念がある。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、突き刺し強度に優れ、かつ、様々な材質の底材に対するヒートシール性及び被包装物に対する密着性に優れるスキンパック用多層フィルム並びにスキンパック包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
<1> アイオノマー樹脂を含有する層と、
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含む最表層と、を有するスキンパック用多層フィルム。
<2> 前記エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂である<1>に記載のスキンパック用多層フィルム。
<3> 前記最表層は、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、スチレン系エラストマー樹脂及びポリエチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種を樹脂成分の全質量に対して5質量%~70質量%含む、<1>又は<2>に記載のスキンパック用多層フィルム。
<4> スキンパック用多層フィルムの厚みが、40μm~300μmである<1>~<3>のいずれか1つに記載のスキンパック用多層フィルム。
<5> 底材と、前記底材上に配置された被包装物と、<1>~<4>のいずれか1つに記載のスキンパック用多層フィルムと、を備えたスキンパック包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、突き刺し強度に優れ、かつ、様々な材質の底材に対するヒートシール性及び被包装物に対する密着性に優れるスキンパック用多層フィルム並びにスキンパック包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の樹脂組成物及び成形体について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲における「~」は、「~」の前後の数値を含むことを意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の構成単位を意味する。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の少なくとも一方を意味する。
【0013】
本明細書において、「スキンパック」とは、加熱したフィルムを被包装物の形状に沿って脱気して密着させるとともに底材(トレー)とフィルムとをヒートシールした包装体を示す。
【0014】
《スキンパック用多層フィルム》
本発明のスキンパック用多層フィルム(以下、単に「多層フィルム」ともいう。)は、アイオノマー樹脂を含有する層(以下、単に「アイオノマー樹脂層」ともいう。)と、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含む最表層(以下、「ホットメルト層」ともいう。)と、を有する。
多層フィルムは、上記構成を有することで、突き刺し強度に優れ、かつ、様々な材質の底材に対するヒートシール性及び被包装物に対する密着性に優れる。この理由は、明らかではないが、以下のように推測される。
【0015】
本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂層と、特定の樹脂成分を含む最表層(ホットメルト層)とを有し、かつ、ホットメルト層中に、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含む。そのため、本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂が持つ特異な高次構造による均一な絞り性(均一な伸び)を発揮しやすい傾向があり、かつ、突き刺し強度に優れ、さらに、スキンパック包装した際に、様々な材質の底材に対するヒートシール性に優れる。また、本発明の多層フィルムは、従来のアイオノマー(IO)/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の積層構造を有するフィルムと比べて、複雑な形状の被包装物に対しても優れた密着性を発揮することができる。
【0016】
<アイオノマー樹脂層>
本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂を含有する層(アイオノマー樹脂層)を少なくとも1層有する。
多層フィルムがアイオノマー樹脂層を有することで、被包装物に対する密着性及び突き刺し強度に優れる。
【0017】
本明細書において、アイオノマー樹脂とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体((ベースポリマー)が有する酸性基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を意味する。
【0018】
アイオノマー樹脂を形成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、を共重合させて得られる共重合体であり、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位と、を有している。
【0019】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
工業的に入手可能な観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体としては、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0020】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などに由来する構成単位が挙げられる。
これらの中でも、不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0021】
エチレンに由来する構成単位の含有率としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全構成単位に対して、70質量%~98質量%であることが好ましく、75質量%~97質量%であることがより好ましい。
【0022】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全構成単位に対して、2質量%~30質量%であることが好ましく、3質量%~25質量%であることがより好ましい。
【0023】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位に加えて、エチレン及び不飽和カルボン酸以外のモノマーに由来する構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の構成単位としては、例えば、不飽和カルボン酸エステル、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有の1級及び2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等に由来する構成単位が挙げられる。
これらの中でも、他の構成単位としては、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位であることが好ましい。
【0024】
不飽和カルボン酸エステルとしては、エチレン及び不飽和カルボン酸と共重合可能であれば特に制限はなく、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸アルキルエステル等のアルキルエステルの炭素数が1~12である不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0025】
これらの中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソオクチル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(炭素数2~5のアルキルエステル)がより好ましい。
【0026】
アイオノマー樹脂を形成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体等)が挙げられる。
【0027】
他の構成単位の含有率としては、柔軟性確保の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全構成単位に対して0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。
【0028】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)が有する酸性基の中和に用いられる金属イオンとしては、特に制限はない。
金属イオンとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛等の遷移金属イオン、アルミニウム等の各種金属イオンなどが挙げられる。
工業化製品を容易に入手可能な点から、金属イオンとしては、亜鉛イオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、亜鉛イオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることがより好ましく、亜鉛イオンであることが更に好ましい。
金属イオンは、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0029】
アイオノマー樹脂の中和度は、90モル%以下であることが好ましく、5モル%~80モル%であることがより好ましく、10モル%~70モル%であることが更に好ましい。
中和度が90モル%以下であると、イオン凝集を適度に抑制でき、かつ、流動性の低下をより抑制でき、成形加工性をより好適に維持できる。
中和度が5モル%以上であると、アイオノマー樹脂としての性能をより効果的に発揮することが可能である。
なお、本明細書において「中和度」とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)が有する酸性基、特にカルボキシ基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)を示す。
【0030】
アイオノマー樹脂としては、上市されている市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、三井・デュポンポリケミカル(株)製のハイミラン(商品名)シリーズ等が挙げられる。
【0031】
アイオノマー樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、成形性及び機械的特性の観点から、0.01g/10分~100g/10分であることが好ましく、0.1g/10分~50g/10分であることがより好ましい。
なお、アイオノマー樹脂のMFRは、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0032】
アイオノマー樹脂の含有率としては、アイオノマー樹脂層に含まれる樹脂成分の全質量に対して、80質量%~100質量%であることが好ましく、80質量%~98質量%であることがより好ましく、90質量%~98質量%であることが更に好ましい。
【0033】
アイオノマー樹脂層は、アイオノマー樹脂以外の樹脂(以下、単に「その他の樹脂」ともいう。)を更に含んでいてもよい。
その他の樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0034】
アイオノマー樹脂層がその他の樹脂を含む場合、その他の樹脂の含有率としては、アイオノマー樹脂層に含まれる樹脂成分の全質量に対して、0質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、2質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の多層フィルムの厚みに対するアイオノマー樹脂層の厚み(アイオノマー樹脂層/多層フィルム)の比率としては、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
また、アイオノマー樹脂層/多層フィルムの比率としては、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
アイオノマー樹脂層/多層フィルムの比率が40%以上であると、より良好な突き刺し強度及び被包装物に対する高い密着性が更に得られる傾向がある。また、アイオノマー樹脂層/多層フィルムの比率が90%以下であると、ヒートシール可能なホットメルト層の厚みを確保することができる。
本明細書において、多層フィルム、アイオノマー樹脂層等の厚みとは、特に断らない限り、多層フィルム、アイオノマー樹脂層等の層状物の面方向と直交する方向の断面における厚みを指す。
厚みは、多層フィルムを構成する各層(アイオノマー樹脂層、後述のホットメルト層等)のそれぞれ断面を電子顕微鏡により観察して求めることができる。
【0036】
本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂層を2層以上含んでいてもよい。アイオノマー樹脂層を2層以上含む場合、アイオノマー樹脂層の合計の厚みが上記比率の範囲内であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0037】
<最表層(ホットメルト層)>
本発明の多層フィルムは、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含む最表層(ホットメルト層)を有する。
多層フィルムのホットメルト層が、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含むことで、底材(トレー)に対して優れたヒートシール性を発揮し、かつ、被包装物に対する優れた密着性を向上させることが可能である。
【0038】
ホットメルト層とは、ホットメルトコーター、エクストルージョンラミネーター等によって加熱処理されることで、ホットメルト層に含まれるエチレン・不飽和エステル共重合体樹脂が加熱融解してシール性が発現する層を意味する。
【0039】
ホットメルト層に含まれるエチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の不飽和エステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらの中でも、不飽和エステルとしては、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方であることが好ましい。
【0040】
ヒートシール性の観点から、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂又はエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂であることが好ましく、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂であることがより好ましい。
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、1種単独で使用してもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0041】
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、不飽和エステルの含有率によって、シール部の剥がれ難さ(シール強度)を調整することが可能である。上記観点から、不飽和エステルの含有率としては、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の全構成単位に対して、1質量%~40質量%であることが好ましく、2質量%~30質量%であることがより好ましく、5質量%~25質量%であることが更に好ましい。
不飽和エステルの含有率が1質量%以上であると、シール強度がより得られやすく、またシール強度の安定性もより向上しやすい。また、不飽和エステルの含有率が40質量%以下であると、シール強度、シール強度の安定性及び耐ブロッキング性により優れる傾向がある。
【0042】
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、加工性及びシール強度等の観点から、0.1g/10分~500g/10分であることが好ましく、1g/10分~150g/10分であることがより好ましい。
なお、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂のMFRは、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0043】
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の含有率は、ホットメルト層の樹脂成分の全質量に対して、10質量%~95質量%である(但し、ホットメルト層の樹脂成分を100質量%とする)。
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の含有率が、10質量%以上であると、より良好なヒートシール性及び柔軟性を得ることができる。また、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の含有率が95質量%以下であると、生産性がよく、また、滑り性、包装機適性に優れる傾向がある。
上記観点から、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の含有率としては、20質量%~90質量%であることが好ましく、30質量%~90質量%であることがより好ましい。
【0044】
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、エチレンと、不飽和エステルと、を高温高圧下でのラジカル共重合することによって得ることができる。エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂は、公知公用の方法で製造して得てもよく、市販品を用いてもよい。
【0045】
ホットメルト層は、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」ともいう。)を含むことが好ましい。
その他の樹脂としては、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合樹脂等のスチレン系エラストマー樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。その他の樹脂は、1種単独であってもよく、又は、2種以上であってもよい。
ホットメルト層がその他の樹脂を含む場合、その他の樹脂としては、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、スチレン系エラストマー樹脂及びポリエチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂であることがより好ましい。
【0046】
エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂としては、例えば、バナジウム化合物、ジルコニウム化合物等の遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物との組み合わせ触媒の存在下、エチレンとα-オレフィンとをランダム共重合することによって得ることができる。
【0047】
α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。
これらの中でも、α-オレフィンとしては、炭素数4以上のα-オレフィンが好ましく、1-ブテンがより好ましい。
【0048】
ヒートシール性の観点から、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂としては、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体又はエチレン・プロピレン共重合体であることが好ましい。
【0049】
エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂としては、X線に基づく結晶化度が、通常1%~20%、好ましくは3%~15%の低結晶性共重合体であることが好ましい。
エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂が低結晶性共重合体であると、各種の基材に対して安定した接着性がより得られやすい傾向がある。
使用する触媒又はα-オレフィンの種類によっても若干異なるが、上記結晶化度を有する低結晶性共重合体とするには、通常、α-オレフィンが7モル%~20モル%、特に8モル%~16モル%程度の割合が重合するようにすればよい。
【0050】
エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂は、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分~500g/10分であることが好ましく、1g/10分~150g/10分であることがより好ましい。
【0051】
スチレン系エラストマー樹脂としては、例えばA-B-A型ブロック共重合体であって、Aはスチレン重合体ブロックを表し、Bはアルキレン共重合体ブロックを表すものが挙げられる。
なお、スチレン重合体ブロックとは、ポリスチレンの部位を指し、アルキレン共重合体ブロックとは、2以上のアルケンが共重合したアルキレン共重合体の部位を指す。
【0052】
アルキレン共重合体ブロックの例としては、エチレン・ブテン共重合体ブロック、エチレン・プロピレン共重合体ブロック等が挙げられる。
【0053】
A-B-A型ブロック共重合体としては、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体又はポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体の、ブタジエン重合単位又はイソプレン重合体単位を水素添加することによって得られるものが挙げられ、一般に例えばSEBS又はSEPSと称されているものである。
例えば、SEBSは、スチレンとブタジエンとからなるポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体の二重結合部分を水素添加したポリマー(ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン)を指す。SEPSは、スチレンとイソプレンとからなるポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体の二重結合部分を水素添加したポリマー(ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン)を指す。
【0054】
スチレン重合体ブロックの含有率としては、A-B-A型ブロック共重合体の全質量に対して、1質量%~40質量%が好ましく、より好ましくは5質量%~30質量%である。
【0055】
A-B-A型ブロック共重合体の230℃、荷重5000gにおけるメルトフローレート(MFR)としては、0.1g/10分~500g/10分が好ましく、より好ましくは1g/10分~100g/10分である。
A-B-A型ブロック共重合体のMFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により230℃、荷重5000gにて測定した値である。
【0056】
A-B-A型ブロック共重合体の具体例としては、クレイトンジャパン(株)製のクレイトンG1657等、旭化成(株)製のタフテックH1221等が挙げられる。
【0057】
ポリエチレンとしては、密度が900kg/m3~930kg/m3程度の高圧法ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましく、より好ましくは直鎖状低密度ポリエチレンである。
【0058】
ヒートシール性がより優れる観点から、ホットメルト層は、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、スチレン系エラストマー樹脂及びポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂を、ホットメルト層の樹脂成分の全質量に対して5質量%~90質量%含むことが好ましく、10質量%~80質量%含むことがより好ましく、10質量%~70質量%含むことが更に好ましい。
【0059】
ホットメルト層は、粘着性を向上させる目的で、粘着付与剤及びワックスを含有してもよい。なお、本明細書において粘着付与剤及びワックスは、樹脂成分に含まれるものとする。
【0060】
粘着付与剤としては、ベースポリマーのホットタック性及び濡れ性を改善させる範囲であれば特に制限はされない。
粘着付与剤としては、ロジン類、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、芳香族炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、低分子量スチレン系樹脂、イソプレン系樹脂、アルキルフェノール樹脂等が好適に使用することができる。
粘着付与剤は、1種単独で使用してもよく、又は、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0061】
脂環族系炭化水素樹脂としては、スペントC4又はC5留分のジエン成分を環化2量化後重合させて得られる樹脂、シクロペンタジエンなどの環状モノマーを重合させて得た樹脂又はその水素添加物、芳香族炭化水素樹脂を核内水素添加した樹脂などが挙げられる。
【0062】
芳香族炭化水素樹脂としては、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンなどのC8~C10の不飽和芳香族炭化水素を主成分とする樹脂が挙げられる。
【0063】
テルペン系樹脂としては、ピネン、ジペンテンなどの重合体、テルペン・フェノール樹脂、又は水添テルペン樹脂などが挙げられる。
【0064】
ロジン類としては、ロジン、重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル若しくはその水添物又は重合物などが挙げられる。
【0065】
スチレン系樹脂としては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、イソプロペニルトルエンなどの重合体又はこれらの相互共重合体等の低分子重合体などが挙げられる。
色調、臭気、食品衛生性等を重視する場合には、粘着付与剤としては、水素添加の芳香族炭化水素樹脂又は水添テルペン樹脂であることが好ましい。
【0066】
ホットメルト層が粘着付与剤を含む場合、粘着付与剤の含有率としては、ホットメルト層の樹脂成分の全質量に対して、1質量%~60質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%~50質量%であり、5質量%~35質量%が更に好ましい。粘着付与剤の含有率が1質量%以上であると、良好なヒートシール性が得られる。粘着付与剤の含有率が60質量%以下であると、ホットメルト層に含まれる樹脂自体の凝集力を保つことができ、結果として、ヒートシール部の剥がれ難さ(ヒートシール強度)がより得られやすい傾向がある。
【0067】
ホットメルト層がワックスを含む場合、フィルムのブロッキングを防止することが可能となる。ワックスとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、低分子量ポリエチレンワックス等の合成ワックスを好適に使用できる。
ワックスは、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
ワックスの含有率としては、ホットメルト層の樹脂成分の全質量に対して、0質量%~15質量%であることが好ましく、より好ましくは0質量%~10質量%である。
【0068】
本発明の多層フィルムの厚みに対するホットメルト層の厚み(ホットメルト層/多層フィルム)の比率は、多層フィルムの厚みに対して3%~40%が好ましい。
ホットメルト層/多層フィルムの比率が、3%以上であるとより良好なヒートシール性が得られ傾向がある。また、ホットメルト層/多層フィルムの比率が40%以下であると、アイオノマー樹脂層の厚みとのバランスにより、フィルム強度を確保することが可能となる。
【0069】
アイオノマー樹脂層の厚みとホットメルト層の厚みとの比(アイオノマー樹脂層:ホットメルト層)としては、3:1~8:1であることが好ましく、3:1~6:1であることがより好ましい。
【0070】
<その他の層>
本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂層及びホットメルト層以外の層(以下、「その他の層」を含んでいてもよい。
その他の層としては、例えば、酸素バリアー性を付与する目的で、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)を含有する層(以下、「EVOH層」ともいう。)を加えることができる。
【0071】
その他の層として、EVOH層を含む場合、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)におけるエチレン含有率は、特に限定されない。
エチレン含有率としては、製膜安定性の観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)の全構成単位に対して、27モル%~47モル%であることが好ましく、32モル%~44モル%であることがより好ましい。
【0072】
また、EVOHのケン化度としては、90%以上が好ましく、より好ましくは95モル%以上である。EVOHのエチレン含有率及びケン化度を上記範囲に保つことにより、多層フィルムの共押出性及びフィルムの強度をより良好なものとすることができる。
【0073】
EVOH層の厚みは特に限定されるものではない。
本発明の多層フィルムの厚みに対するEVOH層の厚み(EVOH層/多層フィルム)の比率は、多層フィルムの厚みに対して2%~15%であることが好ましい。EVOH層/多層フィルムの比率が2%以上であると、十分な酸素バリアー性がより得られやすい傾向がある。また、EVOH層/多層フィルムの比率が15%以下であると、良好な被包装物に対する密着性がさらに保持されやすい。
【0074】
(接着樹脂層)
本発明の多層フィルムは、アイオノマー樹脂層、ホットメルト層及びその他の層に加えて、必要に応じて、接着樹脂層を有していてもよい。
本発明の多層フィルムが、接着樹脂層を有することで、アイオノマー樹脂層、ホットメルト層及びその他の層のそれぞれの間を、接着樹脂層で接着することが可能である。
【0075】
接着樹脂層として使用される接着樹脂としては、前記各層を必要な強度で接着可能であれば特に限定されない。
接着樹脂としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体等のモノマーとエチレンとの共重合体、及び前記モノマーで変性したポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
これらの中でも、接着樹脂としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸のエステル、無水化物等が挙げられる。
【0076】
接着樹脂は市販品であってもよい。接着樹脂の市販品としては、例えば、三井化学(株)製「アドマー」が挙げられ、これらを好適に使用することができる。これら中でも、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)タイプ又はEVAタイプのものを好適に使用することができる。
【0077】
<添加剤>
本発明の多層フィルムは、本発明の効果が得られる範囲において、成形加工性、生産性等の諸性質を改良又は調整する目的で、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤などの添加剤を適宜添加できる。
添加剤の配合率としては、無機質添加剤の場合は、最外層に、0.1質量%~3質量%程度、無機質添加剤以外の場合には、0.01質量%~1質量%程度の範囲が適当である。
【0078】
本発明の多層フィルムは、公知の方法を用いて作製することができる。多層フィルムの製造方法としては、例えば、押出ラミネーション法、共押出インフレーション法および共押出Tダイ法等を用いることができる。特に厚み制御の点から、多層フィルムの製造方法としては、共押出Tダイ法を用いることが好ましい。
【0079】
本発明の多層フィルムの厚みが、40μm~300μmであることが好ましい。多層フィルムの厚みが上記範囲であると、突き刺し強度により優れ、かつ、被包装物に対する密着性に更に優れる傾向がある。
上記観点から、多層フィルムの厚みとしては、50μm~250μmがより好ましい。
【0080】
本発明の多層フィルムは、突き刺し強度に優れかつ、様々な材質の底材に対するヒートシール性及び被包装物に対する密着性に優れ、加えて、低コストで、かつ、フィルムの滑りが良好なため包装機のフィルム詰まりが発生しないスキンパック用フィルムとして好適である。
中でも、多層フィルムは、被包装物として、ベーコン、ソーセージ、ハム、食肉、チーズ等の複雑な形状を有する食品のスキンパック包装に好適に用いることができる。
本発明の多層フィルムは、食品の加工、包装、保管及び販売において、食品安全衛生及び費用抑制に効率に大きく貢献できる。
【0081】
《スキンパック包装体》
本発明のスキンパック包装体は、底材と、前記底材上に配置された被包装物と、本発明のスキンパック用多層フィルムと、を備える。
本発明のスキンパック包装体は、本発明のスキンパック用多層フィルムを備えるので、突き刺し強度に優れ、さらに、底材に対しても優れたヒートシール性を発揮し、また、複雑な形状の被包装物に対しても密着性に優れた包装体である。
【0082】
本発明のスキンパック包装体に用いられる底材としては、特に制限はなく、例えば、従来のスキンパック包装体に用いられている汎用の平板状底材フィルム(例えば、板紙、プラスチックシート、ポリプロピレン(PP)シートなどの平板状ベースシート)が挙げられる。
また、底材は、平板状底材フィルムを所望の形状に成形した成形体を使用してもよい。
【0083】
本発明のスキンパック包装体の被包装物としては、特に制限はなく、例えば、食品、化粧品、生活雑貨、文房具、医薬部外品、医薬品などの各種物品が挙げられる。これらの中でも、突き刺し強度、ヒートシール性及び密着性の観点から、被包装物としては、ベーコン、ソーセージ、ハム、食肉、チーズ等の複雑な形状を有する食品であることが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
以下の樹脂を表1に示す配合割合で仕込み量が10kgとなるように混合した。混合した樹脂を、押出機(65mmφ、L/D=28、先端ダルメージフライトスクリュー)に投入し、加工温度160℃にて溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0086】
・EVA1:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率94質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率6質量%、MFR(190℃,2160g荷重)6g/10分)
・EVA2:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率90質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率10質量%、MFR(190℃ ,2160g荷重)9g/10分)
・EVA3:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率90質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率10質量%、MFR(190℃ ,2160g荷重)3g/10分)
・EVA4:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率81質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率19質量%、MFR(190℃ ,2160g荷重)15g/10分)
・EVA5:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率81質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率19質量%、MFR(190℃ ,2160g荷重)2.5g/10分)
・EVA6:エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率72質量%、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有率28質量%、MFR(190℃ ,2160g荷重)15g/10分)
・EMA:エチレン・メチルアクリレート共重合体(エチレンに由来する構成単位の含有率80質量%、メチルアクリレートに由来する構成単位の含有率20質量%、MFR(190℃、2160g荷重)8g/10分)
【0087】
・PE1:エチレン・ブテン共重合体(商品名:タフマーA4085S、MFR(190℃、2160g荷重)3.7g/10分、三井化学(株)製)
・PE2:エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリューSP0540、MFR(190℃、2160g荷重)3.7g/10分、(株)プライムポリマー製)
・PE3:エチレン・1-ヘキセン共重合体(商品名:エボリューSP1520、MFR(190℃、2160g荷重)1.8g/10分、(株)プライムポリマー製)
・アイオノマー樹脂:MFR(190℃、2160g荷重)1.3g/10分、ハイミラン1601、三井・デュポンポリケミカル(株)製
・A-B-A型ブロック共重合体(商品名:クレイトンG1657(MFR(230℃ ,5000g荷重)22g/10分、密度900kg/m3、クレイトンジャパン(株)製)
・PEwax:ポリエチレンワックス(商品名:ハイワックス320MP、三井化学(株)製)
・粘着付与剤1:環球法軟化点115℃の脂環族系炭化水素樹脂(商品名:アルコン AM-1、荒川化学工業(株)製)
・粘着付与剤2:環球法軟化点100℃の脂環族系炭化水素樹脂(商品名:アルコン P100、荒川化学工業(株)製)
【0088】
[多層フィルムの作製]
上記で得られた樹脂組成物と、アイオノマー樹脂(商品名:ハイミラン1601、三井・デュポンポリケミカル(株)製)と、をアイオノマー樹脂の加工温度230℃、樹脂組成物の加工温度210℃、2種2層(アイオノマー樹脂と樹脂組成物(ホットメルト層)との厚みの比50μm:10μm)、加工速度20m/分の条件で共押し出し、その後、キャストロール上で冷却して製膜することで(キャスト成形法)、厚み60μmの多層フィルムを得た。
【0089】
[評価]
-ヒートシール性(対PP接着強度)-
上記得られた多層フィルムを、厚み0.3mmのポリプロピレン(PP)シート上に重ね合わせて、テフロン(登録商標)フィルム(厚み50μm)を介して、押圧力0.2MPa、加熱温度120℃、加熱時間1.0秒の条件でヒートシールして積層体を作製した後、室温で24時間放置した。
その後、PPシートと多層フィルムとの積層体から、15mm幅の短冊の試験片を切り出し、試験片の一方の面と他方の面とをそれぞれ反対方向に引張り(長軸方向に180°方向に剥離)、このときの最大応力を測定した。
この最大応力(N/15mm)は、PPシートに対する多層フィルムの接着強度(N/15mm)とし、表1に結果を示す。
また、ヒートシールの加熱温度条件を表1に記載の温度に変えた以外は、上記条件と同じように測定して、それぞれの最大応力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0090】
各加熱温度でヒートシールしたときの最大応力のいずれかが5N/15mm以上であれば、ヒートシート性に優れると判断した。評価結果を表1に示す。
【0091】
-突き刺し強度-
上記で得られた多層フィルムを、JIS Z1707:1997の突き刺し強さ試験に準拠して、精密万能試験機((株)島津製作所製、製品名;オートグラフAG-X)にて突き刺し強度の測定を行った。
突き刺し強度が60N/mm以上であれば突き刺し強度に優れると判断した。評価結果を表1に示す。
【0092】
-密着性-
被包装物として木製の角材(長さ10cm、幅5cm、高さ5cm)を底材(PPシート)上に置き、真空包装機((株)古川製作所製、製品名;ハイマン)を用いて、140℃×30秒の条件で、上記で作製した多層フィルムで被包装物を包装し、以下の評価基準に従って密着性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0093】
<評価基準>
A:多層フィルムが被包装物に形状に沿って密着し、かつ、PPシートに対して良好に接着していた。
B:多層フィルムが被包装物に形状に沿って密着していない、多層フィルムがPPシートに接着していない、又は、フィルムに穴あきが見られる。
【0094】
(実施例2~実施例5)
実施例1において、表1に示す配合割合に変更した以外は、同様にして実施例2~実施例5の樹脂組成物を調製した後、多層フィルムを作製し、実施例1と同様に各種評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1~比較例3)
実施例1において、表1に示す配合割合に変更した以外は、同様にして比較例1~比較例3の樹脂組成物を調製した後、アイオノマー樹脂と共押し出しせず、厚みが60μmになるように単層フィルムを作製した。単層フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1中の「-」は、該当の成分を含まないことを示す。
【0098】
表1に示すように、アイオノマー樹脂を含有する層と、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を樹脂成分の全質量に対して10質量%~95質量%含む最表層(ホットメルト層)と、を有する実施例1~実施例5の多層フィルムは、ヒートシール性に優れていた。
【0099】
一方、エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂を100質量%含む最表層(ホットメルト層)のみを有する比較例1の単層フィルムは、ヒートシールの温度条件がいずれの温度であっても、PPシートに対するヒートシール性が劣っていた。加えて、比較例1では、突き刺し強度が60N/mm未満であり、かつ、被包装物を包装した際にフィルムの穴あきが見られ、密着性に劣っていた。
エチレン・不飽和エステル共重合体樹脂の代わりに、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂を含む最表層(ホットメルト層)と、を有する比較例2の単層フィルムは、ヒートシールの温度条件がいずれの温度であっても、PPシートに対するヒートシール性が劣っていた。また、被包装物を包装した際の密着性に劣っていた。
アイオノマー樹脂のみを含む比較例3の単層フィルムは、ヒートシールの温度条件がいずれの温度であっても、PPシートに対するヒートシール性が劣っていた。また、被包装物を包装した際に底材であるPPシートとの密着性に劣っていた。
【0100】
以上より、本発明の多層フィルムは、ヒートシール性に優れていため、様々な材質の底材に対するヒートシール性及び被包装物に対する密着性にも優れており、かつ、突き刺し強度にも優れるため、スキンパック包装の用途に好適に用いることができる。