(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】特異的エンドヌクレアーゼを使用した遺伝子不活化によってNK細胞の機能性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220303BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220303BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220303BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220303BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220303BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220303BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/85 Z
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
A61K35/15 Z
A61P31/12
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2017566082
(86)(22)【出願日】2016-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2016065326
(87)【国際公開番号】W WO2017001572
(87)【国際公開日】2017-01-05
【審査請求日】2019-06-12
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】512213549
【氏名又は名称】セレクティス
【氏名又は名称原語表記】CELLECTIS
【住所又は居所原語表記】8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトン ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャトー フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】カバニオル ジャン-ピエール
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/184744(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/075195(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/184143(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/184741(WO,A1)
【文献】The Journal of Immunology,2007年,Vol.178,pp.2407-2414
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)NK細胞を準備する工程;
(b)特異的エンドヌクレアーゼを使用することによってNK細胞における遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化する工程
を含み、
該遺伝子が、TGFβ受容体
またはCbl-B
をコードする、
NK細胞の治療活性を改善するエクスビボでの方法。
【請求項2】
前記遺伝子が、TGFβ受容体
をコードする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子がCbl-Bをコードする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における遺伝子発現の低下または不活化が、TALヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはRNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される、請求項1~
3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、CD94、Fas、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD52、β2M、およびPD-1
のいずれか1つをコードする
追加の遺伝子が、不活性化される、請求項1~
4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
IL2受容体(CD25)、IL15-2A-IL15受容体、抗CD16 CAR、INFγ、リステリアP60、TNF、およびIL12αをコードするものの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現の活性化によって、細胞傷害性/細胞溶解機能を増強するため、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が実施される、請求項1~
5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
酵素ALDH、MGMT、MTX、GST、およびシチジンデアミナーゼをコードするものの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現の活性化によって、生物宿主における生着を増強するため、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が実施される、請求項1~
6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
(c)悪性細胞または感染細胞の表面に発現された少なくとも1種の抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸分子をNK細胞へ導入する工程
をさらに含む、請求項1~
7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
キメラ抗原受容体が、SEQ ID NO 10(CD19抗原)、SEQ ID NO 11(CD38抗原)、SEQ ID NO 12(CD123抗原)、SEQ ID NO 13(CS1抗原)、SEQ ID NO 14(BCMA抗原)、SEQ ID NO 15(FLT-3抗原)、SEQ ID NO 16(CD33抗原)、SEQ ID NO 17(CD70抗原)、SEQ ID NO 18(EGFRvIII抗原)、またはSEQ ID NO 19(WT1抗原)との90%を超える同一性の抗原性標的配列を有するscFv(VH鎖およびVL鎖)を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
キメラ抗原受容体が、SEQ ID NO 10(CD19抗原)、SEQ ID NO 11(CD38抗原)、SEQ ID NO 12(CD123抗原)、SEQ ID NO 13(CS1抗原)、SEQ ID NO 14(BCMA抗原)、SEQ ID NO 15(FLT-3抗原)、SEQ ID NO 16(CD33抗原)、SEQ ID NO 17(CD70抗原)、SEQ ID NO 18(EGFRvIII抗原)、またはSEQ ID NO 19(WT1抗原)との95%を超える同一性の抗原性標的配列を有するscFv(VH鎖およびVL鎖)を含む、請求項
8記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項記載の方法を使用することによって入手可能な改変NK細胞。
【請求項12】
医薬の調製における、請求項
11記載の改変NK細胞の使用。
【請求項13】
医薬が癌またはウイルス感染の処置において使用するためのものである、例えばリンパ腫の処置において使用するためのものである、請求項
12記載の使用。
【請求項14】
請求項
11記載の少なくとも1種の単離されたNK細胞を含む薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の領域
本発明は、免疫治療において使用されるNK細胞の細胞傷害/細胞溶解活性のような機能性を改善する方法に関する。具体的には、これらの方法は、TALヌクレアーゼ、CRISPR、またはアルゴノートのような特異的エンドヌクレアーゼを使用した遺伝子不活化の工程を含む。NK機能に関与する少なくとも1種の遺伝子の過剰発現による付加的な遺伝子修飾が実施されてもよい。本発明には、改変NK細胞と、それを含有する薬学的組成物も包含される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
NK細胞は、ウイルス感染細胞および形質転換細胞ならびにストレスまたは熱ショックを受けている細胞を含む多様な標的を抑止するため、単独でまたは他の免疫細胞と協調的に機能する、自然免疫系の主要な細胞エフェクターである。NK細胞は、生殖系列によってコードされた受容体を使用して、侵襲を受けている細胞に対して自然に応答する、抗原への事前の曝露を必要としない大型顆粒リンパ球である。従って、NK細胞は、腫瘍に対する養子免疫治療のために有用である可能性のある集団として確立された(Topalian SL,Rosenberg SA,1987,Acta Haematol.;78(Suppl 1):75-76(非特許文献1))。腫瘍免疫監視における役割に加えて、NK細胞は、自己免疫の発達から、妊娠および移植の結果または感染の排除にまで及ぶ多くの異なる生物学的過程を媒介する(Vivier E,Tomasello E,Baratin M,Walzer T,Ugolini S.2008 9(5):503-510(非特許文献2))。
【0003】
自然免疫細胞および適応免疫細胞の両方が、「癌免疫監視」と呼ばれる過程において、新生物の発達を活発に防止する。単球、マクロファージ、樹状細胞(DC)、およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む自然免疫細胞は、腫瘍細胞を直接溶解するかまたは死滅した腫瘍細胞からの細胞片を捕獲するサイトカインを放出することによって、即時型の短命な応答を媒介する。
【0004】
NK細胞は、事前の免疫感作またはMHC拘束なしに、ある種の標的細胞を迅速に死滅させ、その活性化は、インバリアント受容体からの阻害シグナルと活性化シグナルとの間のバランスに依存する(Cerwenka A,Lanier LL."Natural killer cells,viruses and cancer". Nat Rev Immunol 2001,1:41-49(非特許文献3);Miller JS."The biology of natural killer cells in cancer,infection,and pregnancy". Exp Hematol 2001,29:1157-1168(非特許文献4))。活性化型受容体には、細胞傷害受容体(NCR)(NKp46、NKp30、およびNKp44)、C型レクチン受容体(CD94/NKG2C、NKG2D、NKG2E/H、およびNKG2F)、ならびにキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)(KIR-2DSおよびKIR-3DS)が含まれ、阻害型受容体には、C型レクチン受容体(CD94/NKG2A/B)ならびにKIR(KIR-2DLおよびKIR-3DL)が含まれる。いくつかの構造ファミリーは、活性化型受容体および阻害型受容体の両方を含有しているため、NK細胞活性が制御される方法を理解する試みは、しばしば複雑である(Vitale M,Sivori S,Pende D,Augugliaro R,di Donato C,Amoroso A et al."Physical and functional independency of p70 and p58 natural killer(NK)cell receptors for HLA class I:their role in the definition of different groups of alloreactive NK cell clones". Proc Natl Acad Sci USA 1996,93:1453-1457(非特許文献5))。定常状態において、ほぼ全ての細胞型に存在する様々なMHC-I分子に結合する阻害型受容体(KIRおよびCD94/NKG2A/B)は、NK細胞活性化を阻害し、NK細胞によって媒介される死滅を防止する。ストレス条件下では、細胞は、MHC-I発現をダウンレギュレートし、NK細胞の阻害シグナリングの喪失および「自己喪失認識」と呼ばれる過程の活性化を引き起こす。
【0005】
腫瘍進行の間に、腫瘍細胞は、NK細胞による認識および攻撃から逃れるかまたは欠陥NK細胞を誘導するためのいくつかの機序を発達させる。これらには、接着分子、共刺激リガンド、または活性化型受容体のリガンドの発現の喪失、MHCクラスI、可溶性MIC、FasL、またはNOの発現のアップレギュレーション、IL-10、TGFβ、およびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)のような免疫抑制因子の分泌、ならびにFasまたはパーフォリンによって媒介されるアポトーシスに対する抵抗が含まれる(Waldhauer I,Steinle A. "NK cells and cancer immunosurveillance". Oncogene 2008,27:5932-5943(非特許文献6);Maki G,Krystal G,Dougherty G,Takei F,Klingemann HG."Induction of sensitivity to NK-mediated cytotoxicity by TNF-alpha treatment:possible role of ICAM-3 and CD44". Leukemia 1998;12:1565-1572(非特許文献7);Costello RT,Sivori S,Marcenaro E,Lafage-Pochitaloff M,Mozziconacci MJ,Reviron D et al. "Defective expression and function of natural killer cell-triggering receptors in patients with acute myeloid leukemia". Blood 2002,99:3661-3667(非特許文献8))。増強された細胞傷害性が、NK細胞を活性化する受容体の発現の増加によって起こったのか、それとも腫瘍アポトーシスを誘導する分子(即ち、TRAIL、FasL、グランザイム等)の増加したレベルを有するNK細胞の増大の結果であったのかは不明である(Childs RW,Berg M,2013, "Bringing natural killer cells to the clinic:ex vivo manipulation". Hematology Am Soc Hematol Educ Program.,2013:234-46(非特許文献9))。
【0006】
癌患者においては、細胞傷害性の減少、活性化型受容体または細胞内シグナリング分子の発現の欠陥、阻害型受容体の過剰発現、増殖の欠陥、末梢血および腫瘍浸潤物における数の減少、ならびに欠陥サイトカインの産生を含む、NK細胞異常が観察されている(Sutlu T,Alici E."Natural killer cell-based immunotherapy in cancer:current insights and future prospects". J Intern Med 2009,266:154-181(非特許文献10))。NK細胞は、直接および間接の機序によって悪性疾患に対する防御の第一線において重大な役割を果たすため、ヒト癌免疫治療におけるNK細胞の治療的使用が、提唱され、臨床的な状況において追跡されている。
【0007】
悪性疾患のため現在試験されているNKに基づく免疫治療のうち、いくつかは、インビボでのサイトカインによる刺激の後の自己NK細胞の注射;IL-15/ヒドロコルチゾンのような化合物による刺激の後の同種NK細胞の注射;抗体依存性細胞傷害を介したNK細胞の注射、またはエクスビボ増大の後のNK細胞株の注射からなる。NK細胞は、短命なエフェクター細胞であり、従って、寿命を改善する必要がある。
【0008】
サイトカイントランスジーンもしくは活性化型受容体の過剰発現による(Nagashima S,Mailliard R,Kashii Y,Reichert TE,Herberman RB,Robbins P et al. "Stable transduction of the interleukin-2 gene into human natural killer cell lines and their phenotypic and functional characterization in vitro and in vivo". Blood 1998,91:3850-3861(非特許文献11);Zhang J,Sun R,Wei H,Tian Z. "Characterization of interleukin-15 gene-modified human natural killer cells:implications for adoptive cellular immunotherapy". Haematologica 2004,89:338-347(非特許文献12));またはRNA干渉による阻害型受容体のサイレンシングによる(Figueiredo C,Seltsam A,Blasczyk R.2009, "Permanent silencing of NKG2A expression for cell-based therapeutics". J Mol Med(Berl).2009 Feb,87(2):199-210(非特許文献13))、またはキメラ受容体を使用したNK細胞のリターゲティング(retargeting)による(Muller T,Uherek C,Maki G,Chow KU,Schimpf A,Klingemann HG et al. "Expression of a CD20-specific chimeric antigen receptor enhances cytotoxic activity of NK cells and overcomes NK-resistance of lymphoma and leukemia cells". Cancer Immunol Immunother 2008,57:411-423(非特許文献14))、NK細胞の遺伝子修飾後の養子移入に基づくいくつかの臨床試験が実現されている。
【0009】
これらの臨床試験から、癌患者においてNK細胞に基づく治療を使用して達成された臨床的成功は、これまで、ほんのわずかであるようである。具体的には、NK細胞の機能性、具体的には細胞傷害/細胞溶解活性を、改善する必要がある。
【0010】
本発明は、機能的な可能性(細胞傷害、薬物耐性、生着等)を増強するため、免疫治療において使用されるNK細胞を遺伝子改変することによって、この目的に到達することを目標とする。具体的には、本発明者らの一つの目標は、癌細胞に対するNK細胞の傷害性を強化するため、遺伝子発現のより安定化された永久的な修飾を得ることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Topalian SL,Rosenberg SA,1987,Acta Haematol.;78(Suppl 1):75-76
【文献】Vivier E,Tomasello E,Baratin M,Walzer T,Ugolini S.2008 9(5):503-510
【文献】Cerwenka A,Lanier LL."Natural killer cells,viruses and cancer" ,Nat Rev Immunol 2001,1:41-49
【文献】Miller JS."The biology of natural killer cells in cancer,infection,and pregnancy". Exp Hematol 2001,29:1157-1168
【文献】Vitale M,Sivori S,Pende D,Augugliaro R,di Donato C,Amoroso A et al."Physical and functional independency of p70 and p58 natural killer(NK)cell receptors for HLA class I:their role in the definition of different groups of alloreactive NK cell clones". Proc Natl Acad Sci USA 1996,93:1453-1457
【文献】Waldhauer I,Steinle A. "NK cells and cancer immunosurveillance". Oncogene 2008,27:5932-5943
【文献】Maki G,Krystal G,Dougherty G,Takei F,Klingemann HG."Induction of sensitivity to NK-mediated cytotoxicity by TNF-alpha treatment:possible role of ICAM-3 and CD44". Leukemia 1998;12:1565-1572
【文献】Costello RT,Sivori S,Marcenaro E,Lafage-Pochitaloff M,Mozziconacci MJ,Reviron D et al. "Defective expression and function of natural killer cell-triggering receptors in patients with acute myeloid leukemia". Blood 2002,99:3661-3667
【文献】Childs RW,Berg M,2013, "Bringing natural killer cells to the clinic:ex vivo manipulation". Hematology Am Soc Hematol Educ Program.,2013:234-46
【文献】Sutlu T,Alici E."Natural killer cell-based immunotherapy in cancer:current insights and future prospects". J Intern Med 2009,266:154-181
【文献】Nagashima S,Mailliard R,Kashii Y,Reichert TE,Herberman RB,Robbins P et al. "Stable transduction of the interleukin-2 gene into human natural killer cell lines and their phenotypic and functional characterization in vitro and in vivo". Blood 1998,91:3850-3861
【文献】Zhang J,Sun R,Wei H,Tian Z. "Characterization of interleukin-15 gene-modified human natural killer cells:implications for adoptive cellular immunotherapy". Haematologica 2004,89:338-347
【文献】Figueiredo C,Seltsam A,Blasczyk R.2009, "Permanent silencing of NKG2A expression for cell-based therapeutics". J Mol Med(Berl).2009 Feb,87(2):199-210
【文献】Muller T,Uherek C,Maki G,Chow KU,Schimpf A,Klingemann HG et al. "Expression of a CD20-specific chimeric antigen receptor enhances cytotoxic activity of NK cells and overcomes NK-resistance of lymphoma and leukemia cells". Cancer Immunol Immunother 2008,57:411-423
【発明の概要】
【0012】
前記の必要性は、機能性が持続的に改善されるようNK細胞を改変することによって、即ち、特異的エンドヌクレアーゼを使用することによって、本発明によって解決される。NK細胞におけるこの遺伝子修飾は、より具体的には、腫瘍に対するより効率的で永続性の応答を可能にする、腫瘍細胞に対する細胞傷害、薬物に対する感受性、生着可能性に焦点が置かれている。
【0013】
主な局面によると、本発明は、レアカットエンドヌクレアーゼ(rare-cutting endonuclease)を使用してNK細胞における遺伝子編集を達成し、それによって、免疫治療の一部としての細胞の機能性の改善を可能にする方法を提供する。
【0014】
基本的には、この方法は、
(a)具体的には、ドナーまたは患者から、NK細胞を準備する工程、
(b)その発現が、病理学的細胞、具体的には、悪性細胞に対するNK細胞の細胞傷害性/細胞溶解活性を減じるかまたは阻害することが報告されている少なくとも1種の遺伝子のNK細胞における発現を、特異的エンドヌクレアーゼの使用によって低下させるかまたは不活化する工程
によって要約され得る。
【0015】
この方法は、好ましくは、エクスビボ手法の一部として実施される。それは、以下のような、文献中のインビボまたはインビトロで観察される多様な役割におけるNK細胞の機能性を改善することを目標とする:
-抗腫瘍免疫治療(細胞傷害活性または細胞溶解活性)の促進;
-(免疫チェックポイントのような)他の免疫細胞との相互作用に関与する制御性細胞として;
-造血器および実質臓器の移植(生着)の改善における役割、
-薬物が患者へ同時に投与される場合であっても、その薬物に対するNK細胞の感受性を低下させることによって、前記の機能が保存され得る。
【0016】
具体的な態様によると、特異的なレアカットエンドヌクレアーゼは、TALヌクレアーゼ(例えば、TALEN(登録商標))、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えば、CRISPRおよびCpf1)、ならびにMegaTAL、DNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えば、アルゴノート)の中から選択される。
【0017】
好ましくは、特異的エンドヌクレアーゼは、TALヌクレアーゼ、Cas9のようなRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、またはアルゴノートである。
【0018】
一つの態様によると、NK細胞の細胞傷害性または細胞溶解活性は、好ましくは、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、CD94、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、およびCD94、より好ましくは、TGFβ受容体、Cbl-B、およびA2A受容体を制御するかまたはコードするものからなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化することによって、増強される。
【0019】
さらにもう一つの態様によると、宿主生物におけるNK細胞の生着は、好ましくは、タンパク質CD74をコードする遺伝子を不活化することによって増強される。
【0020】
さらにもう一つの態様によると、NK細胞は、好ましくは、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、およびCD52を制御するかまたはコードするものからなる群より選択される遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化することによって、薬物に対する感受性を低下させられる。
【0021】
さらにもう一つの態様によると、NK細胞は、好ましくは、PD-1をコードする遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化することによって、免疫チェックポイントに対する感受性を低下させられる。
【0022】
さらにもう一つの態様によると、二重の遺伝子の阻害または不活化が実施され、不活化される2種の遺伝子は、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、CD94、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD52、およびPD-1の中から選択される。
【0023】
もう一つの具体的な態様によると、細胞傷害/細胞溶解機能を増強するための、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が、IL2受容体(CD25)、IL15-2A-IL15受容体、抗CD16 CAR、INFγ、リステリアP60、TNF、およびIL12αの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現によって実施される。
【0024】
さらにもう一つの具体的な態様によると、生物宿主における生着を増強するための、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が、酵素ALDH、MGMT、MTX、GST、およびシチジンデアミナーゼをコードするものの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現によって実施される。
【0025】
もう一つの態様によると、NK細胞を改変する方法は、(c)悪性細胞または感染細胞の表面に発現された少なくとも1種の抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸分子をNK細胞へ導入する工程をさらに含む。
【0026】
CARは、具体的には、単鎖[Jena,B.,G.Dotti,et al.(2010). "Redirecting T-cell specificity by introducing a tumor-specific chimeric antigen receptor". Blood 116(7):1035-44]および多鎖(WO2014039523)の形態で、文献中に広範囲に記載されている。
【0027】
もう一つの態様によると、本発明のNK細胞を改変する方法は、(d)治療用組成物を形成するため、得られた改変NK細胞を増大させる工程をさらに含む。
【0028】
本発明の一つの局面に関して本明細書に与えられた詳細は、本発明の他の局面のいずれかにも当てはまることが、理解される。
[本発明1001]
(a)NK細胞を準備する工程;
(b)特異的エンドヌクレアーゼを使用することによってNK細胞における遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化する工程
を含み、
該遺伝子が、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、β2M、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される、
NK細胞の治療活性を改善する方法。
[本発明1002]
前記遺伝子が、細胞傷害活性または細胞溶解活性の改善による抗腫瘍免疫治療の促進に関与しており、かつTGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記遺伝子が、造血細胞移植物生着の改善に関与しており、かつβ2Mである、本発明1001の方法。
[本発明1004]
β2Mの配列がSEQ ID NO.29を有する、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記遺伝子が、薬物が患者へ同時に投与される時の薬物に対するNK細胞の感受性の低下に関与しており、かつTBL1XR1、HPRT、dCK、およびCD5をコードするものからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
工程(b)における遺伝子発現の低下または不活化が、TALヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはRNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
工程(b)における遺伝子発現の低下または不活化が、TALヌクレアーゼを使用して実施される、本発明1002の方法。
[本発明1008]
工程(b)における遺伝子発現の低下または不活化が、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される、本発明1002の方法。
[本発明1009]
RNA誘導型エンドヌクレアーゼがCas9またはCpf1である、本発明1008の方法。
[本発明1010]
エンドヌクレアーゼが、NK細胞へ導入されたmRNAによってコードされる、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
NK細胞の細胞傷害性または細胞溶解活性を増強するための、本発明1001~1002および1006~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
不活化される遺伝子が、TGFβ受容体、Cbl-B、またはA2A受容体をコードするものである、本発明1011の方法。
[本発明1013]
TGFβをコードする遺伝子を不活化するためのTALヌクレアーゼをコードする核酸が、SEQ ID No:2~3と、少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%の同一性を共有する、本発明1012の方法。
[本発明1014]
E3ユビキチンリガーゼCbl-bをコードする遺伝子を不活化するためのTALヌクレアーゼをコードする核酸が、SEQ ID No:5~6および8~9と、少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%の同一性を共有する、本発明1012の方法。
[本発明1015]
宿主生物におけるNK細胞の生着を増強するための、本発明1001、1003~1004、および1006~1010のいずれかの方法。
[本発明1016]
不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる遺伝子が、CD74を発現する、本発明1011の方法。
[本発明1017]
薬物に対するNK細胞の感受性を低下させるための、本発明1001、1005~1010のいずれかの方法。
[本発明1018]
不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる遺伝子が、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、およびCD52を発現するものの中から選択される、本発明1016の方法。
[本発明1019]
免疫チェックポイントに対するNK細胞の感受性を低下させるための、本発明1001、1006~1009のいずれかの方法。
[本発明1020]
不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる遺伝子が、PD-1を発現する、本発明1019の方法。
[本発明1021]
二重の遺伝子不活化または二重の遺伝子発現の低下が実施され、不活化される2種の遺伝子が、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、CD94、Fas、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD52、β2M、およびPD-1をコードするものの中から選択される、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1022]
IL2受容体(CD25)、IL15-2A-IL15受容体、抗CD16 CAR、INFγ、リステリアP60、TNF、およびIL12αをコードするものの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現の活性化によって、細胞傷害性/細胞溶解機能を増強するため、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が実施される、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
酵素ALDH、MGMT、MTX、GST、およびシチジンデアミナーゼをコードするものの中から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現の活性化によって、生物宿主における生着を増強するため、NK細胞の少なくとも1種の付加的な遺伝子修飾が実施される、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1024]
(c)悪性細胞または感染細胞の表面に発現された少なくとも1種の抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸分子をNK細胞へ導入する工程
をさらに含む、本発明1001~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
CARをコードするポリヌクレオチドが、電気穿孔によってNK細胞へ直接導入される、本発明1024の方法。
[本発明1026]
キメラ抗原受容体が、SEQ ID NO 10(CD19抗原)、SEQ ID NO 11(CD38抗原)、SEQ ID NO 12(CD123抗原)、SEQ ID NO 13(CS1抗原)、SEQ ID NO 14(BCMA抗原)、SEQ ID NO 15(FLT-3抗原)、SEQ ID NO 16(CD33抗原)、SEQ ID NO 17(CD70抗原)、SEQ ID NO 18(EGFRvIII抗原)、およびSEQ ID NO 19(WT1抗原)との80%を超える、好ましくは90%を超える、より好ましくは95%を超える同一性の抗原性標的配列を有するscFv(VH鎖およびVL鎖)を含む、本発明1025の方法。
[本発明1027]
(d)得られた改変NK細胞を増大させる工程
をさらに含む、本発明1001~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
本発明1001~1027のいずれかの方法を使用することによって入手可能な改変NK細胞。
[本発明1029]
医薬として使用するための、本発明1028の改変NK細胞。
[本発明1030]
癌またはウイルス感染の処置において使用するための、本発明1029の改変NK細胞。
[本発明1031]
リンパ腫の処置において使用するための、本発明1030の改変NK細胞。
[本発明1032]
処置される患者に由来する、本発明1028~1031のいずれかの改変NK細胞。
[本発明1033]
ドナーに由来する、本発明1028~1031のいずれかの改変NK細胞。
[本発明1034]
本発明1028~1033のいずれかの少なくとも1種の単離されたNK細胞を含む薬学的組成物。
[本発明1035]
薬学的組成物が、NK細胞および他のPBMCの混合物を含有し、これら免疫細胞が、好ましくは同一のドナーに由来し、NK細胞が、全免疫細胞の0.1%~40%、好ましくは0.2%~20%、より好ましくは5%~16%を占める、本発明1034の薬学的組成物。
[本発明1036]
(a)本発明1001~1028のいずれかの方法によってNK細胞の集団を調製する工程;
(b)形質転換されたNK細胞を患者へ投与する工程
を含む、その必要のある患者を処置する方法。
[本発明1037]
患者が免疫抑制剤によって処置されている、本発明1036の方法。
[本発明1038]
免疫抑制剤が、6TG、6MG、および、クロファラビン、フルダラビンなどのプリン類似体、シタラビン、プレドニゾン、リツキシマブの中から選択される、本発明1037の方法。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】NK細胞トランスフェクションの72時間後に得られたFACS結果:上パネル(
図1A)は、陰性対照(RNAなし)を表し、下パネル(
図1B)は、5μgのGFP RNAを使用したトランスフェクションを表す;各ケースにおいて2.5 10
6個のNK細胞が使用された。
【
図2】β2M遺伝子のKOのためのトランスフェクションの72時間後に得られたFACS結果:上パネル(
図2A)は、陰性対照(トランスフェクトされていないNK細胞)を表し、下パネル(
図2B)は、各TALEヌクレアーゼをコードする10μgのRNAを使用したトランスフェクションを表す;各ケースにおいて2.5 10
6個のNK細胞が使用された。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書において具体的に定義されない限り、使用される技術用語および科学用語は、全て、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の領域の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0031】
本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である全ての方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適当な方法および材料が本明細書に記載される。本明細書において言及された発表、特許出願、特許、およびその他の参照は、全て、参照によってその全体が組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、他に特記されない限り、限定するためのものではない。
【0032】
本発明の実施は、他に示されない限り、当技術分野の技術の範囲内にある細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を利用するであろう。そのような技術は、文献中に完全に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Frederick M.AUSUBEL,2000,Wiley and son Inc,Library of Congress,USA);Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition,(Sambrook et al,2001,Cold Spring Harbor,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);Mullis et al.米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Harries & S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the series,Methods In ENZYMOLOGY(J.Abelson and M.Simon,eds.-in-chief,Academic Press,Inc.,New York),specifically,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.)and Vol.185,"Gene Expression Technology"(D.Goeddel,ed.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);およびManipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照されたい。
【0033】
一般的な局面において、本発明は、癌および感染の処置における新しい養子免疫治療戦略の方法に関する。
【0034】
NK細胞の腫瘍細胞傷害性が一過性に増強される先行技術とは対照的に、本発明者らは、KIRまたはNKG2Aのような阻害型受容体による細胞シグナリングが永久的に妨害される方法を設計した。例えば、全血中の低い数または低い増大能力の点から、免疫治療のためのNK細胞の操作は、技術的にも経済的にも高度に困難であり続けているため、この局面は、特に重要である。
【0035】
本発明は、
(e)NK細胞を準備する工程;
(f)細胞傷害に関与する少なくとも1種の遺伝子をNK細胞において不活化する工程
を含む、NK細胞の治療活性を改善する方法に関し、但し、この遺伝子発現の低下または阻害は、例えば、siRNAによるもののように一過性ではない。
【0036】
具体的には、遺伝子発現の低下または阻害は、特異的エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される。低分子干渉(si)RNAは、遺伝子発現の極めて強力な阻害剤であることが判明しており、多くの異なる細胞株および生物における遺伝子機能の解明およびよりよい理解を可能にしているが、siRNAノックダウンテクノロジーにはいくつかの限界がある(Derek M.Dykxhoorn,Carl D.Novina and Phillip A.Sharp;2003, "Limitations of gene silencing by transfected siRNA". Nature Reviews Molecular Cell Biology 4,457-467)。その応答の性質は一過性であり;細胞へのsiRNAの形質導入は、関心対象の遺伝子の一過性のノックダウンしかもたらさない。siRNAのもう一つの欠点は、遺伝子発現に対する効果が、siRNA濃度に対して依存性であるという点である(Persengiev SP,Zhu X,Green MR,2004 "Nonspecific,concentration-dependent stimulation and repression of mammalian gene expression by small interfering RNAs(siRNAs)". RNA,10(1):12-8)。
【0037】
より具体的には、本発明による方法は、治療活性として表され得るNK細胞の機能性を改善することを目標とし、以下の工程を含む:
(a)NK細胞を準備する工程;
(b)TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のNK細胞における遺伝子発現を、特異的エンドヌクレアーゼの使用によって低下させるかまたは阻害する工程。
【0038】
定義:
「NK細胞の機能性」、即ち、「治療活性」とは、以下のものを含む多様な役割を意味する:
-抗腫瘍免疫治療(細胞傷害活性または細胞溶解活性)の促進;
-(免疫チェックポイントのような)他の免疫細胞との相互作用に関与する制御性細胞として。PD-L1/PD-1軸のロック等によるPD-1活性の阻止が、NK細胞機能障害の逆転によって、セツキシマブ治療に対するHNC腫瘍の免疫回避を逆転させるための有用なアプローチであり得ることが、Concha-Benavente et al 2015 Journal for ImmunoTherapy of Cancer,3(Suppl 2):P398において示されている;
-造血器および実質臓器の移植(生着)の改善における役割;
-薬物が患者へ同時に投与される場合であっても、その薬物に対するNK細胞の感受性を低下させることによって、前記の機能が保存され得る。
【0039】
本発明の意味において、少なくとも前記の引用された基準は、満たされた時、以下に定義されるような改変NK細胞のインビトロおよびインビボの治療活性を改善することを目標としている。「治療活性の改善」とは、以下に概説される適切な試験について、非改変NK細胞を使用することによって得られるものと比較された時、試験された基準の25%超、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、本発明の改変NK細胞を使用することによって得られることを意味する。
【0040】
「細胞傷害性」とは、薬剤の破壊能力または殺傷能力の程度を表し、具体的には、癌細胞の発達を制限するNK細胞活性の特徴を記載するものである。細胞傷害可能性は、完全な標的細胞死を100%として使用して、(例えば、結合分子なしのまたは無関係の結合分子による)バックグラウンドを超えた標的細胞死のパーセントとして表され得る。ある種の局面において、本発明に従って改変されたNK細胞、好ましくは、腫瘍抗原に対するCARを賦与されたものは、対象における標的癌細胞の含量、数、量、または百分率を、陰性対照と比べて、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%(検出不可能なレベルにまで)低下させる。
【0041】
NK細胞は、「細胞溶解活性」を天然に賦与されており、ウイルス感染細胞または悪性形質転換細胞に対して即時型の直接の細胞溶解応答を開始する能力を特徴とする。
【0042】
本発明の改変NK細胞の細胞傷害性をモニタリングすることができる:
-インビトロアッセイ:T細胞が試験される時に現在使用されているような細胞傷害性を使用することによる;古典的なプロトコルは、下記のセクション「一般的な方法」に記載される;
-インビボアッセイ:例えば、Ng S,Yoshida K,Zelikoff JT.2010 "tumor challenges in immunotoxicity testing". Methods Mol Biol.,598:143-55に開示された、マウスのような哺乳動物における腫瘍チャレンジ試験を、例えば、使用することによる。
【0043】
PD-1のような免疫チェックポイント活性の低下をモニタリングすることができる:
-インビトロアッセイ:細胞傷害アッセイまたはシリアルキリング(serial killing)アッセイを使用することができる(Bhat R and Watzl C 2007 "Serial Killing of Tumor Cells by Human Natural Killer Cells - Enhancement by Therapeutic Antibodies". PLoS ONE.,2(3);
-インビボアッセイ:腫瘍を発現するマウスのような哺乳動物による生存曲線を使用することができる(Valiathan C and McFaline J L,2011 "A Rapid Survival Assay to Measure Drug-Induced Cytotoxicity and Cell Cycle Effects". DNA Repair(Amst).PMC 2013 Jan 2)。
【0044】
生着の改善をモニタリングすることができる:
-例えば、Bromelow KV,Hirst W,Mendes RL,Winkley AR,Smith IE,O'Brien ME,Souberbielle BE.2001 "Whole blood assay for assessment of the mixed lymphocyte reaction". J Immunol Methods.Jan 1,247(1-2):1-8に記載されたような、混合リンパ球反応(MLR)を使用すること等によるインビトロアッセイ;
-同種改変NK細胞を注射された時のマウスのような哺乳動物の生存期間をモニタリングすることによるインビボアッセイ。
【0045】
特定の薬物に対する耐性を提供するため、少なくとも特定の遺伝子が妨害されるようNK細胞が改変される時、薬物耐性の付与をモニタリングすることができる:
-改変NK細胞を一連の異なる量の薬物と接触させ、生存率を評価することによって、IC50を査定することによるインビトロアッセイ、即ち、IC50または用量応答曲線の傾きの決定。そのようなルーチンの試験は、即ち、WO201575195によって実施され得る;
-異なる量の薬物が投与された時の、哺乳動物、即ち、マウスの生存率を使用することによるインビボアッセイ。
【0046】
特異的レアカットエンドヌクレアーゼによる不活化
遺伝子の不活化とは、関心対象の遺伝子が、機能性タンパク質の形態で発現されないことを表す。具体的な態様において、方法の遺伝子修飾は、レアカットエンドヌクレアーゼが1種の標的遺伝子において特異的に切断を触媒し、それによって、標的遺伝子を不活化するよう、1種のレアカットエンドヌクレアーゼを、改変すべき準備された細胞において発現させることに頼る。レアカットエンドヌクレアーゼによって引き起こされた核酸鎖破断は、一般的には、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)の別個の機序を通して修復される。しかしながら、NHEJは、切断の部位においてDNA配列に変化をもたらすことが多い不完全な修復過程である。機序は、直接再連結(Critchlow and Jackson 1998)を通した、またはいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合(Ma,Kim et al.2003)を介した、2個のDNA末端のうち残っているものの再結合を含む。非相同末端結合(NHEJ)を介した修復は、小さい挿入または欠失をもたらすことが多く、特異的な遺伝子ノックアウトの作出のために使用され得る。その修飾は、少なくとも1個のヌクレオチドの置換、欠失、または付加であり得る。切断によって誘導された変異誘発事象、即ち、NHEJの事象に続く変異誘発事象が起こった細胞は、当技術分野における周知の方法によって同定されかつ/または選択され得る。
【0047】
遺伝子の不活化とは、関心対象の遺伝子が、機能性タンパク質の形態で発現されないことを表す。「遺伝子サイレンシング」は本発明の範囲に包含されないことが理解される。具体的な態様において、方法の遺伝子修飾は、レアカットエンドヌクレアーゼが1種の標的遺伝子において特異的に切断を触媒し、それによって、標的遺伝子を不活化するよう、1種のレアカットエンドヌクレアーゼを、改変すべき準備された細胞において発現させることに頼る。レアカットエンドヌクレアーゼによって引き起こされた核酸鎖破断は、一般的には、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)の別個の機序を通して修復される。しかしながら、NHEJは、切断の部位においてDNA配列に変化をもたらすことが多い不完全な修復過程である。機序は、直接再連結(Critchlow and Jackson 1998)を通した、またはいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合(Ma,Kim et al.2003)を介した、2個のDNA末端のうち残っているものの再結合を含む。非相同末端結合(NHEJ)を介した修復は、小さい挿入または欠失をもたらすことが多く、特異的な遺伝子ノックアウトの作出のために使用され得る。その修飾は、少なくとも1個のヌクレオチドの置換、欠失、または付加であり得る。切断によって誘導された変異誘発事象、即ち、NHEJの事象に続く変異誘発事象が起こった細胞は、当技術分野における周知の方法によって同定されかつ/または選択され得る。
【0048】
「遺伝子の発現の低下」とは、不活化が完全ではなく部分的であることを表す。この場合、特異的レアカットエンドヌクレアーゼは、遺伝子においていくつかの破断を作製するが、短縮されたmRNAおよびより短いポリペプチドの産生を未だ可能にすることができる。従って、改変NK細胞には遺伝子のいくらかの活性が未だ残存している可能性があるが、NK細胞の内部で有意な効果を生ずるために十分ではない。
【0049】
ヌクレオチド鎖切断による破断は、相同組換え率を刺激することが公知である。従って、もう一つの態様において、本方法の遺伝子修飾工程は、標的核酸配列と外来性核酸との間で相同組換えが起こるよう、標的核酸配列の一部分に相同な配列を少なくとも含む外来性核酸を、細胞へ導入する工程をさらに含む。具体的な態様において、外来性核酸は、それぞれ、標的核酸配列の5'および3'の領域に相同である第1部分および第2部分を含む。これらの態様において、外来性核酸は、標的核酸配列の5'および3'の領域との相同性を含まない、第1部分と第2部分との間に位置する第3部分も含む。標的核酸配列の切断の後、相同組換え事象が、標的核酸配列と外来性核酸との間で刺激される。好ましくは、少なくとも50bp、好ましくは、100bp超、より好ましくは、200bp超の相同配列が、ドナーマトリックス内に使用される。従って、外来性核酸は、好ましくは、200bp~6000bp、より好ましくは、1000bp~2000bpである。実際、共有された核酸相同性は、破断の部位の上流および下流に隣接する領域に位置し、導入される核酸配列は、2つのアームの間に位置するべきである。
【0050】
好ましい態様によると、遺伝子発現の低下または不活化は、好ましくは、TALヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはCas9もしくはアルゴノートのようなRNA/DNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される。
【0051】
より好ましい態様によると、NK細胞の機能性を改善するための少なくとも1種の遺伝子の遺伝子発現の低下または不活化は、TALEヌクレアーゼを使用することによって実施される。さらに好ましい態様において、遺伝子は、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、およびPD-1の中から選択される。
【0052】
これは、切断を触媒する特異的なTALEヌクレアーゼによって標的とされた正確なゲノム位置において達成され得、外来性核酸は、少なくとも、相同性の領域と、上記引用の群より選択される1種の標的遺伝子を不活化するための配列とを連続的に含む。1種の定義された遺伝子および数種の特定のものをそれぞれ特異的に標的とする数種のTALEヌクレアーゼを使用することによって、数種の遺伝子を連続的にまたは同時に不活化することが可能である。TALEヌクレアーゼとは、転写活性化因子様エフェクター(TALE)に由来するDNA結合ドメインと、核酸標的配列を切断するための1個のヌクレアーゼ触媒ドメインとからなる融合タンパク質を表す(Boch,Scholze et al.2009;Moscou and Bogdanove 2009;Christian,Cermak et al.2010;Cermak,Doyle et al.2011;Geissler,Scholze et al.2011;Huang,Xiao et al.2011;Li,Huang et al.2011;Mahfouz,Li et al.2011;Miller,Tan et al.2011;Morbitzer,Romer et al.2011;Mussolino,Morbitzer et al.2011;Sander,Cade et al.2011;Tesson,Usal et al.2011;Weber,Gruetzner et al.2011;Zhang,Cong et al.2011;Deng,Yan et al.2012;Li,Piatek et al.2012;Mahfouz,Li et al.2012;Mak,Bradley et al.2012)。
【0053】
もう一つの好ましい態様によると、NK細胞の機能性を改善するための少なくとも1種の遺伝子の遺伝子発現の低下または不活化は、Cas9のようなRNA誘導型エンドヌクレアーゼまたはWO2014189628に記載されるようなアルゴノートに基づく技術のようなDNA誘導型エンドヌクレアーゼによって実施される。
【0054】
好ましい態様において、発現が低下させられるかまたは不活化される遺伝子は、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、およびPD-1の中から選択される。
【0055】
本発明において、養子免疫治療戦略のため、関連遺伝子を正確に標的とする新しいTALEヌクレアーゼが設計された。本発明による好ましいTALEヌクレアーゼは、それぞれ、TGFβ遺伝子ならびにCbl-b遺伝子(エクソン2およびエクソン3)の不活化のための、SEQ ID NO:1、4、7からなる群より選択される標的配列を認識し切断するものである。本発明による他の好ましいTALEヌクレアーゼは、それぞれ、配列SEQ ID NO.20、23、または26のヒトβ2M遺伝子を認識し切断するSEQ ID NO:21~22、24~25、および27~28からなる群からのものである。
【0056】
B2Mとしても公知のβ2ミクログロブリンは、MHCクラスI分子の軽鎖であり、従って、主要組織適合性複合体の必須部分である。ヒトにおいて、B2Mは、第6染色体に遺伝子クラスターとして位置する他のMHC遺伝子とは対照的に、第15染色体に位置するb2m遺伝子によってコードされる。このヒトタンパク質は、119アミノ酸(SEQ ID NO:29)から構成され、11.800ダルトンの分子量を有する。β2ミクログロブリンが欠損しているマウスモデルは、B2MがMHCクラスIの細胞表面発現およびペプチド結合溝の安定性のために必要であることを示した。正常な細胞表面MHC I発現が欠損しているマウス由来の造血系移植は、β2ミクログロブリン遺伝子における標的化された変異のため、正常マウスにおいてNK1.1+細胞によって拒絶されることがさらに示され、MHC I分子の発現の欠損によって、骨髄細胞が宿主免疫系による拒絶を受けやすくなることが示唆された(Bix M.et al,1991,Nature 349(6307):329-31)。
【0057】
細胞傷害/細胞溶解のようなNK細胞機能を増強するため、または薬物耐性を付与するため、または宿主生物における生着を増強するため、発現が低下させられるかまたは不活化される多様な遺伝子のリストが、以下に提示される。
【0058】
本発明には、NK細胞機能の増強に関与する少なくとも1種の遺伝子の不活化が包含され、従って、二重遺伝子不活化の組み合わせも含まれることが、十分に理解される。
【0059】
本発明は、具体的には、
(a)NK細胞を準備する工程、
(b)特異的エンドヌクレアーゼを使用することによって、NK細胞における遺伝子の発現を低下させるかまたは不活化する工程、を含む、NK細胞の治療活性を改善する方法を提供することを目標とし、遺伝子は、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される。
【0060】
好ましい態様において、前記の遺伝子は、細胞傷害活性または細胞溶解活性の改善による抗腫瘍免疫治療の促進に関与しており、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される。
【0061】
もう一つの好ましい態様において、前記の遺伝子は、造血細胞移植物生着の改善に関与しており、β2M、好ましくは、SEQ ID NO.29のものである。
【0062】
さらにもう一つの好ましい態様において、前記の遺伝子は、薬物が患者へ同時に投与される時の薬物に対するNK細胞の感受性の低下に関与しており、TBL1XR1、HPRT、dCK、およびCD5をコードするものからなる群より選択される。
【0063】
細胞傷害/細胞溶解機能の増強
一つの態様によると、本発明の方法は、NK受容体:NKG2A、LIR1/ILT2、KIR2DL1-3およびKIR2DL4を含むKIRファミリーメンバー、PD1、Cbl-b、A2A受容体(ADORA2A)、TAM受容体(Tyro/AXL/MER)、TGFβ受容体、CXCR2、CXCR4、およびCXCR7、CD94、CD74、FAS、AHRアリール炭化水素受容体、GCN2、シクロフィリン、ならびにTIM-3R(NK細胞免疫グロブリンドメイン・ムチンドメイン含有(NK cell immunoglobulin- and mucin domain-containing)3受容体)のうちの少なくとも1種の遺伝子の不活化を包含する。
【0064】
一つの好ましい態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、TGFβ受容体をコードするものである。トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)受容体は、分泌型タンパク質である(ヒト、UniProt:P36897およびRefSeq:NM_001130916.1)。この遺伝子によってコードされたタンパク質は、TGFβに結合した時、II型TGFβ受容体とヘテロマー複合体を形成し、細胞表面から細胞質へTGFβシグナルを伝達する。いくつかの研究において、Treg上のTGFβが、NK細胞によって発現されたTGFβ受容体に結合し、腫瘍細胞に対する細胞傷害機能を抑制することが示されている(Wan,YY and Flavell RA,2007 "'Yin-Yang' functions of TGFβ and Tregs in immune regulation". Immunol Rev.,220:199-213)。
【0065】
具体的な態様によると、TGFβ遺伝子は、TALEヌクレアーゼの使用によって、好ましくは、表1に提示されるSEQ ID No:2~3と少なくとも80%、より好ましくは、90%、さらに好ましくは、95%の同一性を共有するTALENをコードする核酸によって不活化される。
【0066】
(表1)TGFβおよびβ2Mの標的ならびにそれらの遺伝子の不活化のための対応するTALENの対についての核酸配列およびポリヌクレオチド配列
【0067】
もう一つの好ましい態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、E3ユビキチンリガーゼCbl-bをコードするものである。CBL-Bは、ヒトにおいて、CBLB遺伝子(RefSeq:NM_170662;Keane MM,Rivero-Lezcano OM,Mitchell JA,Robbins KC,Lipkowitz S,1995 "Cloning and characterization of cbl-b:a SH3 binding protein with homology to the c-cbl proto-oncogene". Oncogene 10(12):2367-77)によってコードされるE3ユビキチンプロテインリガーゼ(ヒト、UniProt:Q13191)である。CBLBはCBL遺伝子ファミリーのメンバーである。発表において、E3ユビキチンリガーゼCbl-b(casitas B-lineage lymphoma-b)の遺伝子欠失またはそのE3リガーゼ活性の標的特異的な不活化が、ナチュラルキラー(NK)細胞が転移性腫瘍を自然に拒絶することを可能にすることが報告されている(Magdalena Paolino et al.,2014 "The E3 ligase Cbl-b and TAM receptors regulate cancer metastasis via natural killer cells". Nature,507,508-512)。いくつかのデータが、NK細胞活性の負の制御因子としてCBL-BおよびTAMを関連付けており、この経路への干渉が、NK細胞によって媒介される腫瘍監視を改善し得ることを示唆している(E3リガーゼCbl-bおよびTAM受容体はナチュラルキラー細胞を介して癌転移を制御する)(Paolino M et al.2014 "TAM Receptor or CBL-B Inhibition Enables Tumor Rejection by NK Cells". Cancer discovery,(4)389)。
【0068】
具体的な態様によると、E3ユビキチンリガーゼCbl-b遺伝子は、TALEヌクレアーゼの使用によって、好ましくは、以下の表2のSEQ ID No:5~6および8~9と少なくとも80%、より好ましくは、90%、さらに好ましくは、95%の同一性を共有するTALENをコードする核酸によって、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる。
【0069】
(表2)エクソン2およびエクソン3のCbl-b標的ならびにそれらの遺伝子の不活化のための対応するTALENについての核酸配列およびポリヌクレオチド配列
【0070】
さらにもう一つの好ましい態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、A2A受容体(ADORA2A)をコードするものである。ADORA2Aとしても公知のアデノシンA2A受容体(ヒト、UniProt:P29274およびRefSeq:NM_000675)は、アデノシン受容体である。このタンパク質は、7本の膜貫通αヘリックスを保有するGタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーのメンバーである。骨髄系細胞A2ARは、T細胞およびNKの抑制に間接的に寄与する直接骨髄抑制効果を有することを示す所見が存在する(Cekic C,Day YJ,Sag D,Linden J,2014 "Myeloid expression of adenosine A2A receptor suppresses T and NK cell responses in the solid tumor microenvironment". Cancer Res.,74(24):7250-9)。
【0071】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、KLRD1をコードするものである。KLRD1またはナチュラルキラー細胞抗原CD94(キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーDメンバー1)(UniProt:Q13241;ゲノムDNA配列(EMBL):AJ000673.1)。KLRD1(CD94)は、NK細胞によって発現されるNKG2ファミリーのメンバーを含むC型レクチンスーパーファミリーに属し、NK細胞機能の制御に関与している可能性がある。KLRD1(CD94)は、NK細胞上に優先的に発現される抗原である(遺伝子ID 3824 KLRD1 キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーD、メンバー1[ヒト]についてNCBIデータベースにおいて概説されている)。
【0072】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、LIR1/ILT2をコードするものである。この遺伝子は、白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(CD85抗原様ファミリーメンバーJ);UniProt:Q8NHL6およびゲノムDNA GenBank AF189277)に相当する。この受容体は、免疫細胞上に発現され、そこで、抗原提示細胞上のMHCクラスI分子に結合し、免疫応答の刺激を阻害する負のシグナルを伝達する。それは、免疫応答に焦点を当て、自己反応性を制限することを支援するため、炎症応答および細胞傷害を調節すると考えられている。ILT2/HLAG相互作用がNK細胞機能の阻害をもたらすことを示す所見も存在する(Favier B,Lemaoult J,Lesport E,Carosella ED,2010 "ILT2/HLA-G interaction impairs NK-cell functions through the inhibition of the late but not the early events of the NK-cell activating synapse". FASEB J.,24(3):689-99)。
【0073】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、KIRファミリー遺伝子のメンバーをコードするものである。キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)は、ナチュラルキラー細胞およびT細胞のサブセットによって発現される膜貫通糖タンパク質である。KIRタンパク質は、細胞外免疫グロブリンドメインの数(2Dまたは3D)および長い(L)細胞質ドメインを有するかそれとも短い(S)細胞質ドメインを有するかによって分類される。長い細胞質ドメインを有するKIRタンパク質は、リガンド結合時に、免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を介して阻害性シグナルを伝達し、短い細胞質ドメインを有するKIRタンパク質は、ITIMモチーフを欠き、その代わり、活性化シグナルを伝達するため、TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質と会合する。いくつかのKIRタンパク質のリガンドは、HLAクラスI分子のサブセットであり;従って、KIRタンパク質は、免疫応答の制御において重要な役割を果たすと考えられる(遺伝子ID:3802、概説「KIR2DL1 キラー細胞免疫グロブリ様受容体、2ドメイン、長い細胞質テール、1[ホモサピエンス(ヒト)]」についてNCBIデータベースを参照されたい)。KIR2DL1-3(UniProt:P43626;RefSeq:NP 055033.2 NM 014218.2)およびKIR2DL4(UniProt:Q99706、RefSeq:NM 001080770)を含むKIRファミリーメンバー。キラー細胞免疫グロブリン様受容体2DL1は、ヒトにおいて、KIR2DL1遺伝子によってコードされるタンパク質である(Wagtmann N,Biassoni R,Cantoni C,Verdiani S,Malnati M,Vitale M et al.,1995 "Molecular clones of the p58 NK cell receptor reveal immunoglobulin-related molecules with diversity in both the extra- and intracellular domains". Immunity 2(5):439-49;Colonna M,Samaridis J,1995 "Cloning of immunoglobulin-superfamily members associated with HLA-C and HLA-B recognition by human natural killer cells". Science 268(5209):405-8)。KIR2DL1は、HLA-Cと相互作用することが示されている(Vales-Gpmez M,Reyburn H,Mandelboim M,Strominger J,1998 "Kinetics of interaction of HLA-C ligands with natural killer cell inhibitory receptors". Immunity 9(3):337-44)。KIR2DL4のこれまでに報告されている唯一のリガンドは、NK細胞の細胞溶解機能の阻害をもたらす非古典的なHLAクラス1遺伝子HLA-Gである。概説は、遺伝子ID:3805「KIR2DL4キラー細胞免疫グロブリン様受容体、2ドメイン、長い細胞質テール、4[ホモサピエンス(ヒト)]」で、NCBIデータベースに示されている。
【0074】
CXCケモカイン受容体は、CXCケモカインファミリーのサイトカインに特異的に結合し応答する膜内在性タンパク質である。それらは、細胞膜を7回貫通するため7回膜貫通(7-TM)タンパク質として公知のGタンパク質関連受容体の大きいファミリーである、ケモカイン受容体の一つのサブファミリーを表す。哺乳動物においては、CXCR1~CXCR7と命名された7種のCXCケモカイン受容体が現在公知である。CXCR2(ヒト、UniProt:P25025およびRefSeq:NM_001168298)、CXCR4(ヒト、UniProt:P61073およびRefSeq:NM_001008540)、ならびにCXCR7(ヒト、UniProt:P25106およびRefSeq:NM_001047841)は、ケモカイン受容体である。インターロイキン8受容体βとも呼ばれるCXCR2は、ケモカイン受容体である。キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーD、メンバー1(KLRD1)としても公知のCD94は、ヒト遺伝子(ヒト、UniProt:Q13241およびRefSeq:NM_001114396)である
【0075】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、CD94をコードするものである。この遺伝子は、レクチンであり、表面抗原分類であり、細胞シグナリングに関与する受容体であり、自然免疫系においてナチュラルキラー細胞の表面に発現される。CD94はヘテロ二量体としてNKG2分子と対形成する。ナチュラルキラー細胞の表面上のCD94/NKG2複合体は、標的細胞上のヒト白血球抗原(HLA)-Eと相互作用する(Lazetic S,Chang C,Houchins J,Lanier L,Phillips J,1996 "Human natural killer cell receptors involved in MHC class I recognition are disulfide-linked heterodimers of CD94 and NKG2 subunits". Journal of Immunology 157(11):4741-5))。興味深いことに、ヘテロ二量体CD94/NKG2は、NK細胞活性化の阻害剤としての役割を果たす(Masilamani M et al,2006 "CD94/NKG2A inhibits NK cell activation by disrupting the actin network at the immunological synapse". J Immunol.,177(6):3590-6;Yokoyama WM et al,2003 "Immune functions encoded by the natural killer gene complex". Nature Reviews Immunology 3,304-316)。
【0076】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、AhRをコードするものである。アリール炭化水素受容体(AhRまたはAHRまたはahrまたはahR)は、ヒトにおいて、AHR遺伝子(ヒト、RefSeq:NM_001621)によってコードされるタンパク質(ヒト、UniProt:P35869)である。この受容体は、シトクロムP450のような生体異物代謝酵素を制御することが示されている(Nebert DW,Roe AL,Dieter MZ,Solis WA,Yang Y,Dalton TP,2000 "Role of the aromatic hydrocarbon receptor and [Ah] gene battery in the oxidative stress response,cell cycle control,and apoptosis". Biochem Pharmacol.59(1):65-85)。この受容体は、トリプトファン異化産物キヌレニンとの結合を通して、腫瘍微小環境におけるT細胞のアネルギーを媒介する。この受容体の不活化は、この阻害を克服し、腫瘍微小環境におけるCAR NK細胞またはCAR T細胞の活性を維持することが提唱されている(Platten et al,2012 "Tryptophan catabolism in cancer:beyond IDO and tryptophan depletion". Cancer Res.1,72(21):5435-4)。
【0077】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、Tim-3をコードするものである。(Tim-3またはT細胞免疫グロブリンドメイン・ムチンドメイン含有3と呼ばれ、UniProt:Q8TDQ0を有する)A型肝炎ウイルス細胞受容体2は、遺伝子HAVCR2(ヒトRefSeq:NM_032782)をコードする。このタンパク質は、マクロファージ活性化を制御し、Tヘルパー1型リンパ球(Th1)によって媒介される自己免疫応答および同種免疫応答を阻害し、免疫寛容を促進する機能を有する。いくつかの所見によると、NK細胞がTim-3の同族リガンドを発現する標的細胞に遭遇した時、NK細胞応答は負に制御され得る(Ndhlovu LC,Lopez-Verges S,Barbour JD,Jones RB,Jha AR,et al.,2012 "Tim-3 marks human natural killer cell maturation and suppresses cell-mediated cytotoxicity". Blood 119:3734-3743)。
【0078】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる細胞溶解活性に関与する遺伝子は、Fas(CD95)をコードするものである。アポトーシスを媒介する表面抗原FASは、CD95または腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー6(ヒト、UniProt:P25445およびRefSeq:NM_000043)とも呼ばれる。CD95(Fas)/CD95リガンド(CD95L)系は、アポトーシスを誘発する重要な機序であり、CD95L発現は、悪性疾患における免疫回避および侵襲的な挙動に関与することが最近示された。ナチュラルキラー(NK)細胞リンパ腫に重点を置いて、リンパ腫におけるCD95およびCD95Lの発現が研究され、腫瘍細胞アポトーシスとの可能性のある関係も研究されている(Ng CS,Lo ST,Chan JK,1999,Hum Pathol.,1999 "Peripheral T and putative natural killer cell lymphomas commonly coexpress CD95 and CD95 ligand". 30(1):48-53)。NK細胞は、Fas(CD95)/Fasリガンド(FasL)系を含む標的細胞とNK細胞受容体との会合の後にアポトーシスを受けるため、NK細胞におけるFas(CD95)の不活化は、アポトーシスおよび細胞応答のダウンレギュレーションを防止するであろうと考えられている。
【0079】
NK細胞増殖の増強
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられるNK細胞増殖に関与する遺伝子は、Tyro-3をコードするものである。チロシンプロテインキナーゼ受容体Tyro-3(ヒト、UniProt:Q06418およびRefSeq:NM_006293)、受容体チロシンキナーゼAXL(ヒト、UniProt:P30530およびRefSeq:NM_001265528)、および癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼMER(ヒト、UniProt:Q12866およびRefSeq:NM_006343)は、キナーゼドメインおよび接着分子様細胞外ドメインの内部の保存配列を特徴とする受容体チロシンキナーゼ(RTK)のTAMファミリーを構成する。このRTKの小さいファミリーは、細胞増殖/生存、細胞の接着および遊走、凝血安定化、ならびに炎症性サイトカイン放出の制御を含む過程の魅力的なミックスを制御する(Linger RM,Keating AK,Earp HS,Graham DK Adv Cancer Res.,2008 "TAM receptor tyrosine kinases:biologic functions,signaling,and potential therapeutic targeting in human cancer". 100:35-83)。この論文には、ファミリーメンバーが、ある範囲のヒト癌において過剰発現されており、いくつかにおいては予後的な意義を有するため、腫瘍形成機序におけるTAM受容体の役割が記述されている。
【0080】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられるNK細胞増殖に関与する遺伝子は、GCN2をコードするものである。「ジェネラルコントロールノンデレプレッシブル(general control nonderepressible)2」とも呼ばれるこの遺伝子は、無電荷トランスファーRNA(tRNA)に結合することによってアミノ酸欠損を感知するセリン/トレオニンプロテインキナーゼ(ヒト、UniPro:Q9P2K8、RefSeq:NM_001013703.3)である。それは、栄養素欠乏に対する応答としてのアミノ酸代謝のモジュレーションにおいて重要な役割を果たす。腫瘍微小環境は、NK細胞のような免疫細胞の増殖活性を阻害するアルギニンの枯渇も特徴とする(Oberlies J et al,2009 "Regulation of NK cell function by human granulocyte arginase". J Immunol.1,182(9):5259-67)。アルギニンの枯渇が、GCN2によって感知され、それが、活性化された後、細胞増殖における阻害経路を誘発する。GCN2不活化は、腫瘍微小環境におけるNK阻害の回避を可能にし得る。
【0081】
「生着」(または移植)とは、本発明において、同種ドナーから移植または注入された細胞、ここでは、NK細胞が、レシピエントにおいて増殖し再生される過程を意味する。この目標を達成することを試みて使用されている方法論はわずかである。インターロイキンIL-15による処置は、ドナーNK細胞注入と協調的に、ドナー由来の細胞サブセットの生着、発達を促進し、宿主アロ応答(alloresponse)を抑制し得ることが、マウス骨髄非破壊アロBMTモデルにおいて試験されている(Hu B,Bao G,Zhang Y,Lin D,Wu Y,Wu D,Liu H.,2012 "Donor NK Cells and IL-15 promoted engraftment in nonmyeloablative allogeneic bone marrow transplantation". J Immunol.2012 Aug 15,189(4):1661-70)。T細胞混入が致死性のGVHDをもたらし得る同種ハプロタイプ一致移植後のNK細胞の養子移入を探究する研究において使用されたもう一つのアプローチは、T細胞混入を回避することである。CD3 T細胞枯渇後のCD56選択の追加は、典型的には、NK細胞の純度を90%範囲にまで改善し、B細胞混入を1%未満に低下させる(Passweg JR,Tichelli A,Meyer-Monard S,et al.,2004 "Purified donor NK-lymphocyte infusion to consolidate engraftment after haploidentical stem cell transplantation". Leukemia,18(11):1835-1838)。
【0082】
本発明者らは、面倒で高価で時間のかかる精製工程に基づいておらず、化学療法以外の(サイトカインのような)同時処置の使用の低下も可能にする、NK細胞、具体的には、同種NK細胞の生着を増強するための新しい方法論を開発することを目標とする。リンパ枯渇薬の存在下でのNK細胞における薬剤耐性遺伝子の不活化は、細胞の生着を容易にし得ると仮定される。
【0083】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる宿主生物におけるNK細胞の生着に関与する遺伝子は、CD74をコードするものである。この遺伝子は、ヒトにおいてCD74遺伝子(RefSeq NP_001020329)によってコードされるタンパク質(ヒト、UniProt:P04233)である(HLA-DR抗原関連インバリアント鎖としても公知の)HLAクラスII組織適合性抗原γ鎖に相当する。このタンパク質は、MHCクラスIIタンパク質の形成および輸送に関与している(Cresswell P,1994 "Assembly,transport,and function of MHC class II molecules". Annu.Rev.Immunol.12:259-93)。この遺伝子の不活化は、同種NK細胞の生着の促進における役割を有し得る。
【0084】
NK細胞における薬剤耐性の増強
癌治療および同種NK細胞の選択的生着を改善するため、化学療法剤の毒性副作用からそれらを保護するための薬剤耐性が細胞へ付与される。薬剤耐性遺伝子を発現するNK細胞は、薬剤感受性細胞と比べて生存し繁殖するため、NK細胞の薬剤耐性も、インビボまたはエクスビボでのそれらの濃縮を可能にする。
【0085】
「NK細胞における薬剤耐性に関与する遺伝子の不活化」とは、本発明において、薬物に対するNK細胞の感受性を低下させることを意味する。
【0086】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられるNK細胞の薬剤耐性に関与する遺伝子は、シクロフィリンAをコードするものである。ペプチジルプロリルイソメラーゼAとしても公知のこの遺伝子(RefSeq:NM_203430の遺伝子によってコードされるRef UniProt:Q3KQW3)は、シクロスポリンに結合する。シクロスポリン-シクロフィリンA複合体は、カルシウム/カルモジュリン依存性ホスファターゼ、カルシニューリンを阻害し、その阻害は、炎症誘発性分子TNFαおよびインターロイキン2の産生を停止させることによって、臓器拒絶を抑制すると考えられている(Ho S et al,1996 "The mechanism of action of cyclosporin A and FK506". Clin Immunol Immunopathol.,80(3 Pt 2):S40-5)。従って、シクロフィリンAは、臓器移植のために使用される免疫抑制薬シクロスポリンの標的である。シクロフィリンAの不活化は、シクロスポリンに対するNK細胞の感受性を消失させることができる。
【0087】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられるNK細胞の薬剤耐性に関与する遺伝子は、TBL1XR1をコードするものである。TBL1XR1(ヒトRefSeq:NM_024665の遺伝子によってコードされるUniProt:Q9BZK7)の欠失は、グルココルチコイド応答要素へのグルココルチコイド受容体のリクルートメントを減少させることによって、急性リンパ芽球性白血病(ALL)においてプレドニゾロン耐性の発達をもたらすことが示されている(Jones CL et al,2014 "Loss of TBL1XR1 Disrupts Glucocorticoid Receptor Recruitment to Chromatin and Results in Glucocorticoid Resistance in a B-Lymphoblastic Leukemia Model". Journal of Biological Chemistry,published on 2014-08-02 ,DOI:10.1074/jbc.M114.569889)。
【0088】
もう一つの態様において、不活化される薬剤耐性に関与する遺伝子は、酵素HPRTをコードする遺伝子である。ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子(ヒトGenbank:M26434.1)は、癌、具体的には、白血病を有する患者を処置するために現在使用されている、HPRTによって細胞傷害性チオグアニンヌクレオチドに変換される細胞分裂阻害性代謝物6-チオグアニン(6TG)に対する耐性を付与するため、改変NK細胞において不活化され得る(Hacke,Treger et al.2013)。グアニンアナログは、ホスホリボシルモエティの付加を触媒し、TGMPの形成を可能にするHPRTによって代謝される。6メルカプトプリン(6MP)および6チオグアニン(6TG)を含むグアニン類似体は、ALLを処置するためのリンパ枯渇薬として一般的に使用されている。それらは、ホスホリボシルモエティの付加を触媒し、TGMPの形成を可能にするHPRT(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)によって代謝される。その後のリン酸化は、最終的にはDNAへ組み込まれる三リン酸化型の形成をもたらす。DNAへ組み込まれた後、チオGTPは、そのチオレート基を介してDNA複製のフィデリティを損ない、細胞完全性にとって高度に有害であるランダム点変異を生成する。
【0089】
もう一つの好ましい態様において、不活化される生着に関与する遺伝子は、酵素dCKをコードする遺伝子である。薬物感作遺伝子であるヒトデオキシシチジンキナーゼ(dCK)遺伝子は、不活化された時、NK細胞のような細胞へ薬剤耐性を付与する。この酵素は、デオキシリボヌクレオシドであるデオキシシチジン(dC)、デオキシグアノシン(dG)、およびデオキシアデノシン(dA)のリン酸化のために必要とされる。プリンヌクレオチドアナログ(PNA)は、dCKによって、一リン酸PNA、二リン酸PNA、および三リン酸PNAへ代謝される。三リン酸型、具体的には、クロファラビン三リン酸は、DNA合成についてATPと競合し、アポトーシス促進剤として作用し、トリヌクレオチド産生に関与するリボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)の強力な阻害剤である。
【0090】
もう一つの態様において、不活化される薬剤耐性に関与する遺伝子は、CD52抗原をコードする遺伝子である。(CAMPATH-1抗原とも呼ばれる)CD52抗原は、ヒトにおいてCD52遺伝子(ヒト、NM_001803)によってコードされる糖タンパク質(ヒト、UniProt:P31358)である。(CampathまたはLemtradaの名称で市販されている)アレムツズマブは、リンパ球の表面上に位置するCD52糖タンパク質に対して特異的なヒト化IgG1κを有するモノクローナル抗体である。
【0091】
免疫チェックポイント遺伝子
NK細胞によって媒介される免疫には、抗原特異的な細胞のクローン選択、二次リンパ組織における活性化および増殖、抗原および炎症の部位への輸送、直接エフェクター機能の実行、ならびに多数のエフェクター免疫細胞の(サイトカインおよび膜リガンドを通した)支援の提供を含む、複数の連続する工程が含まれる。これらの工程の各々が、応答を微調整する刺激シグナルおよび阻害シグナルの均衡によって制御されている。「免疫チェックポイント」という用語は、NK細胞によって発現される分子の群を意味することが、当業者によって理解されるであろう。これらの分子は、免疫応答をダウンモジュレートするかまたは阻害するため、「ブレーキ」として効果的に役立つ。
【0092】
一つの態様によると、不活化されるかまたは遺伝子発現が低下させられる免疫チェックポイントと見なされる遺伝子は、PD-1をコードするものである。PD-1(UniProt:Q15116)およびCD279としても公知のプログラム細胞死タンパク質1は、ヒトにおいてPDCD1遺伝子(RefSeq:NM_005018;Shinohara T,Taniwaki M,Ishida Y,Kawaichi M,Honjo T,1994 "Structure and chromosomal localization of the human PD-1 gene(PDCD1)". Genomics 23(3):704-6)によってコードされるタンパク質である。PD-1は、活性化されたT細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、および単球においてアップレギュレートされるコシグナリング受容体のB7ファミリーのメンバーである(Nirschl CJ,Drake CG,2013 "Molecular pathways:co-expression of immune checkpoint molecules:signaling pathways and implications for cancer immunotherapy". Clin Cancer Res,19:4917-24)。NK細胞において、PD-1の会合は、活性化、コンジュゲート形成、細胞傷害、およびサイトカイン産生を損なう(Dolina JS,Sung SS,Novobrantseva TI,Nguyen TM,Hahn YS,2013 "Lipidoid nanoparticles containing PD-L1 siRNA delivered in vivo enter Kupffer cells and enhance NK and CD8(+)T cell-mediated hepatic antiviral immunity". Mol Ther Nucleic Acids()2:e72)。
【0093】
NK細胞の細胞溶解活性に関与するポリペプチドの発現
一つの態様によると、方法は、(CD25とも呼ばれる)インターロイキン2受容体α鎖をコードする遺伝子の発現による、NK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。このタンパク質(ヒト:UniProt P01589)は、ヒトにおいてIL2RA遺伝子(RefSeq:NM_000417)によってコードされる。いくつかのNK耐性腫瘍細胞株を使用することによって、インターロイキン2(IL-2)によるNK細胞の活性化は、これらの腫瘍標的の有意な溶解をもたらすことが報告されている(Lehmann C,Zeis M,Uharek L.,2001, Activation of natural killer cells with interleukin 2(IL-2)and IL-12 increases perforin binding and subsequent lysis of tumour cells". Br J Haematol.114(3):660-5)。
【0094】
一つの態様によると、方法は、インターロイキン15(IL-15)をコードする遺伝子の発現によるNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。これは、IL-2との構造的類似性を有するサイトカインである。IL-2と同様に、IL-15は、IL-2/IL-15受容体β鎖(CD122)および共通γ鎖(γC、CD132)から構成された複合体に結合し、それを通してシグナル伝達する。IL-15は、ウイルス感染の後に、単核食細胞(およびその他のいくつかの細胞)によって分泌される。このサイトカインは、ナチュラルキラー細胞の細胞増殖を誘導する。Rowley J et al,2009 "Expression of IL-15RA or an IL-15/IL-15RA fusion on CD8+ T cells modifies adoptively transferred T cell function in cis". Eur J Immunol.,39(2):491-506は、IL-15受容体のリガンドIL-15との共発現を可能にするキメラタンパク質であるIL-15/IL-15RA融合物を設計した。これは、2Aペプチドを介して2種のタンパク質の別々の発現を可能にする多シストロン型の1種の「オールインワン」自己活性化系を表す。
【0095】
一つの態様によると、方法は、インターフェロンIFNγをコードする遺伝子の発現によるNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。このインターフェロンは、抗ウイルス特性、免疫制御特性、および抗腫瘍特性を有する(Schroder K,Hertzog PJ,Ravasi T,Hume DA,2004 "Interferon-gamma:an overview of signals,mechanisms and functions". J.Leukoc.Biol.75(2):163-89)。自然免疫応答の一部として、IFNγは、ナチュラルキラー(NK)細胞およびナチュラルキラーT(NKT)細胞によって主に産生される。IFNγの効果のうちの一つは、NK細胞活性を促進することである(Konjevic G et al,,2011 "Association of decreased NK cell activity and IFNγ expression with pSTAT dysregulation in breast cancer patients". J BUON.16(2):219-26)。
【0096】
一つの態様によると、方法は、リステリア由来のエンドペプチターゼp60をコードする遺伝子の発現によるNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。リステリアに起因するこのエンドペプチダーゼp60(Uniprot:P21171)は、NK細胞活性化およびIFNγ産生に寄与する(Humann J,Bjordahl R,Andreasen K,Lenz LL,2007 "Expression of the p60 autolysin enhances NK cell activation and is required for listeria monocytogenes expansion in IFN-gamma-responsive mice". J Immunol.178(4):2407-14)。p60の活性化部分LysMおよびSH3が同定されている(Schmidt et al,2011 "A LysM and SH3-Domain Containing Region of the Listeria monocytogenes p60 Protein Stimulates Accessory Cells to Promote Activation of Host NK Cells". PLoS Pathog.,7(11))。NK細胞によるリステリアのp60の過剰発現は、患者へ投与された時の自己活性化のため探究されている。
【0097】
一つの態様によると、方法は、TNFαをコードする遺伝子の発現によるNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。腫瘍壊死因子は、全身炎症に関与する細胞シグナリングタンパク質(ヒトUniProt:P01375、RefSeq:NM_000585)であり、急性期反応を構成するサイトカインのうちの一つである。それは、CD4+リンパ球、NK細胞、好中球、マスト細胞、好酸球、およびニューロンのような他の多くの細胞型によっても産生され得るが、主として活性化マクロファージによって産生される。TNFαは、NKの細胞溶解機能に関与していることを示唆する所見が存在する(Wang R,Jaw JJ,Stutzman NC,Zou Z,Sun PD,2012 "Natural killer cell-produced IFN-γ and TNF-α induce target cell cytolysis through up-regulation of ICAM-1". J Leukoc Biol.Feb,91(2):299-309)。
【0098】
一つの態様によると、方法は、IL-12Aをコードする遺伝子の発現によるNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。インターロイキン12サブユニットα(ヒトUniProt:P29459)は、IL12A遺伝子(ヒトRefSeq:NM_000882)をコードする。活性化されたT細胞およびNK細胞のための増殖因子として作用することができるこのサイトカインは、NK/リンホカインによって活性化された細胞の溶解活性を増強し、休止PBMCによるIFNγの産生を刺激することができる。IL-12は、ナチュラルキラー細胞およびTリンパ球の活性において重要な役割を果たす。IL-12は、NK細胞およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球の細胞傷害活性の増強を媒介する。
【0099】
NK細胞へ薬剤耐性を付与するポリペプチドの発現
もう一つの態様によると、方法は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)をコードする遺伝子の発現によって薬剤耐性を付与するためのNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。ヒトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH;ヒトUniProt:P05091、ExPASyの酵素エントリー:EC 1.2.1.3)は、シクロホスファミドまたはマホスファミド(maphosphamide)の不活化を含む、種々の内因性および外因性のアルデヒドを代謝する、17種の相同酵素のファミリーを構成する(Khanna M,Chen CH,Kimble-Hill A,Parajuli B,Perez-Miller S,Baskaran S,Kim J,Dria K,Vasiliou V,Mochly-Rosen D,Hurley TD.,2011 "Discovery of a novel class of covalent inhibitor for aldehyde dehydrogenases". J Biol Chem.2011 Dec 16,286(50):43486-94)。ヒトALDH2は、RefSeq no:NM_000690.3を有する遺伝子によってコードされる。
【0100】
もう一つの態様によると、方法は、酵素MGMTをコードする遺伝子の発現によって薬剤耐性を付与するためのNK細胞の付加的な遺伝子修飾を含む。酵素O6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT;ヒト、UniProt:P16455、ExPASyの酵素エントリー:EC 1.2.1.3、Cas番号:77271-19-3)は、ヒトにおいてO6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)遺伝子(ヒト、RefSeq:NM_002412)によってコードされるタンパク質である。MGMTは、シクロホスファミドのようなアルキル化剤に対する耐性を付与する(Bobola MS,Blank A,Berger MS,Silber JR.,1995 "Contribution of 06-methylguanine-DNA methyltransferase to monofunctional alkylating-agent resistance in human brain tumor-derived cell lines". Mol Carcinog.1995 Jun,13(2):70-80)。
【0101】
もう一つの態様において、発現される薬剤耐性に関与する遺伝子は、AMPD1、ATIC、DHFR、FPGS、GGH、ITPA、MTHFD1、SHMT1、SLC19A1(RFC)、およびTYMSのようなメトトレキサート(MTX)経路遺伝子に関与する遺伝子のうちの一つである(Owen et al,2013 "Genetic polymorphisms in key methotrexate pathway genes are associated with response to treatment in rheumatoid arthritis patients". Pharmacogenomics J.13(3):227-34)。
【0102】
もう一つの態様において、発現される薬剤耐性に関与する遺伝子は、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)である。ブスルファンおよびシクロホスファミドのようなDNAアルキル化剤は、造血幹細胞移植(HSCT)前の前処置計画に含まれることが多い。いずれの薬物も、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)によって解毒される(Bremer S et al,2015 "Glutathione transferase gene variants influence busulfan pharmacokinetics and outcome after myeloablative conditioning". Ther Drug Monit.[Epub ahead of print])。
【0103】
もう一つの態様において、発現される薬剤耐性に関与する遺伝子は、シチジンデアミナーゼである。酵素シチジンデアミナーゼは、シトシンアラビノシドおよびゲムシタビンのようなヌクレオシドに対する薬剤耐性を付与する(Neff T et al,1996 "Forced expression of cytidine deaminase confers resistance to cytosine arabinoside and gemcitabine". Exp Hematol.24(11):1340-6)。
【0104】
キメラ抗原受容体(CAR)を賦与されたNK細胞
キメラ抗原受容体(CAR)とは、特異的な抗標的細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するため、標的細胞上に存在する成分に対する結合ドメイン、例えば、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性を、T細胞のような免疫細胞の受容体活性化細胞内ドメインと組み合わせた分子を表す。一般に、CARは、T細胞抗原受容体複合体ζ鎖の細胞内シグナリングドメインに融合した細胞外単鎖抗体(scFvFc)(scFvFc:ζ)からなり、NK細胞において発現された時、モノクローナル抗体の特異性に基づき、抗原認識を向け直す能力を有する。
【0105】
初期の拡張的な研究が、T細胞に対して行われている。エクスビボで生成された自己免疫細胞、具体的には、抗原特異的T細胞の移入を含む養子免疫治療は、ウイルス感染および癌を処置するための有望な戦略である。養子免疫治療のために使用されるT細胞のような免疫細胞は、抗原特異的T細胞の増大または遺伝子改変を通したT細胞の向け直しのいずれかによって生成され得る(Park,Rosenberg et al.2011)。ウイルス抗原特異的T細胞の移入は、移植に関連したウイルス感染および稀なウイルス関連悪性疾患の処置のために使用されている、よく確立された手法である。同様に、腫瘍特異的T細胞の単離および移入は、黒色腫の処置において成功が示されている。T細胞における新規特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子移入を通して、成功裡に生成された(Jena,Dotti et al.2010,Blood 116(7):1035-44)。CARは、単一の融合分子として1個または複数個のシグナリングドメインと会合したターゲティングモエティからなる合成受容体である。一般に、CARの結合モエティは、フレキシブルリンカーによって接合されたモノクローナル抗体の軽鎖および重鎖の可変断片を含む、単鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインからなる。受容体またはリガンドドメインに基づく結合モエティも成功裡に使用されている。第一世代CARのシグナリングドメインは、CD3ζの細胞質領域またはFc受容体γ鎖に由来する。第一世代CARは、T細胞の細胞傷害性を成功裏に向け直すことが示されているが、インビボで長期の増大および抗腫瘍活性を提供することはできなかった。CAR修飾T細胞の生存を増強し、増殖を増加させるため、CD28、OX40(CD134)、ICOS、および4-1BB(CD137)を含む共刺激分子に由来するシグナリングドメインが、単独で(第二世代)または組み合わせられて(第三世代)、追加された。CARは、リンパ腫および固形腫瘍を含む様々な悪性疾患に由来する腫瘍細胞の表面において発現された抗原に対して、T細胞が向け直されることを、成功裡に可能にしている(Jena,Dotti et al.2010,Blood 116(7):1035-44)。しかしながら、インビボでの腫瘍根絶のための前例がない効力にも関わらず、CAR T細胞は、患者へ移入された後に急性有害事象を促進する場合がある。よく立証された有害事象には、移植片対宿主病(GvHD)、標的抗原を有する正常組織に対する(on-target off-tumor)活性、またはベクター由来の挿入変異誘発による異常なリンパ増殖能が含まれる。
【0106】
概説(Hermanson DL and Kaufman DS2015 "Utilizing Chimeric Antigen Receptors to Direct Natural Killer Cell Activity". Front Immunol,6:195)のような先行技術は、他の共活性化ドメインと組み合わせられた異なるシグナリングドメインの使用の比較に焦点を当てて、NK細胞においてCAR構築物が実施されたことを報告している。
【0107】
もう一つの局面によると、本発明の方法は、(c)悪性細胞または感染細胞の表面において発現された少なくとも1種の抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸分子をNK細胞へ導入する工程をさらに含む。
【0108】
本発明のNK細胞は、単鎖型(scCAR)または多鎖型(mcCAR)のいずれかで、CARに基づくポリヌクレオチドを発現するよう改変され得る。
【0109】
一つの態様によると、CARは、VH鎖およびVL鎖が抗CD16 scFvをコードする細胞外ドメインを含む。このケースにおいて、抗CD16 CARは、CD16を発現するマクロファージ、好中球、単球、およびNK細胞の密度が高い区域へNKをターゲティングする能力のため「ホーミングCAR」と見なされ得る。低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-B(またはCD16b抗原、ヒトUniProt:O75015)は、FCGR3B遺伝子(ヒトRefSeq:NM_000570)をコードする。CD16は、Fc受容体FcγRIIIa(CD16a)およびFcγRIIIb(CD16b)として同定されている。これらの受容体は、IgG抗体のFc部分に結合し、次いで、それが抗体依存性細胞傷害のためNK細胞を活性化する。Fc受容体CD16は、本質的に全てのCD56(dim)末梢血ナチュラルキラー(NK)細胞に存在する。抗体によってコーティングされた細胞の認識によって、それは、直接の殺傷およびサイトカイン産生を通して標的を排除する強力なシグナルをNK細胞へ送達する(Romee R,Foley B,Lenvik T,Wang Y,Zhang B,Ankarlo D,Luo X,Cooley S,Verneris M,Walcheck B,Miller J,2013 "NK cell CD16 surface expression and function is regulated by a disintegrin and metalloprotease-17(ADAM17)". Blood.121(18):3599-608)。
【0110】
単鎖CAR
一つの態様において、キメラ抗原受容体(CAR)は、単鎖CARである。
【0111】
好ましい態様において、細胞外リガンド結合ドメインは、scFvである。非限定的な例として、ラクダ科シングルドメイン抗体断片、または血管内皮増殖因子ポリペプチド、インテグリン結合ペプチド、ヘレグリン、もしくはIL-13ムテインのような受容体リガンド、抗体結合ドメイン、抗体超可変ループ、またはCDRのような、scFv以外の結合ドメインも、リンパ球の予め定義されたターゲティングのために使用され得る。
【0112】
本発明によるscFvの好ましい例として、VH鎖およびVL鎖は、80%超、好ましくは、90%超、より好ましくは、95%超のSEQ ID NO 10(CD19抗原)、SEQ ID NO 11(CD38抗原)、SEQ ID NO 12(CD123抗原)、SEQ ID NO 13(CS1抗原)、SEQ ID NO 14(BCMA抗原)、SEQ ID NO 15(FLT-3抗原)、SEQ ID NO 16(CD33抗原)、SEQ ID NO 17(CD70抗原)、SEQ ID NO 18(EGFR-3v抗原)、およびSEQ ID NO 19(WT1抗原)との同一性を有する抗原性標的配列を有する。
【0113】
(a)のポリペプチドは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にストーク領域をさらに含んでいてもよい。本明細書において使用される「ストーク領域」という用語は、一般に、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するために機能するオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。具体的には、ストーク領域は、細胞外リガンド結合ドメインについて、より多くのフレキシビリティおよび到達可能性を提供するため使用される。ストーク領域は、300個までのアミノ酸、好ましくは、10~100個のアミノ酸、最も好ましくは、25~50個のアミノ酸を含んでいてよい。ストーク領域は、CD8、CD4、もしくはCD28の細胞外領域の全部もしくは一部、または抗体定常領域の全部もしくは一部のような、天然に存在する分子の全部または一部に由来し得る。あるいは、ストーク領域は、天然に存在するストーク配列に相当する合成配列であってもよいし、または完全に合成のストーク配列であってもよい。
【0114】
ポリペプチドは、少なくとも1個のシグナル伝達ドメインをさらに含んでいてもよい。最も好ましい態様において、シグナル伝達ドメインは、CD28、OX40、ICOS、CD137、およびCD8からなる群より選択される。
【0115】
FcεRIα鎖、β鎖、および/またはγ鎖の断片のC末端細胞質テールは、TNFR関連因子2(TRAF2)結合モチーフをさらに含む。最も好ましい態様において、FcεRIα鎖、β鎖、および/またはγ鎖のC末端細胞質テールは、共刺激TNFRメンバーファミリーの細胞質内テールと交換される。共刺激TNFRファミリーメンバーの細胞質テールは、主要保存モチーフ((P/S/A)X(Q/E)E)またはマイナーモチーフ(PXQXXD)(Xは任意のアミノ酸である)からなるTRAF2結合モチーフを含有している。TRAFタンパク質は、受容体三量体形成に応答して多くのTNFRの細胞内テールへリクルートされる。
【0116】
FcεRIα鎖、β鎖、および/またはγ鎖の細胞質内ドメインは、(CD3ζとも命名されている)TCRζ鎖の細胞質内ドメインと交換される。もう一つの好ましい態様において、FcεRIα鎖、β鎖、および/またはγ鎖の細胞質内ドメインは、少なくとも1個の付加的な免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。ITAMは、syk/zap70クラスチロシンキナーゼのための結合部位として役立つ多様な受容体の細胞質内テールに見出される十分に定義されたシグナリングモチーフである。本発明において使用されるITAMの例には、TCRζ、FCRγ、FCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するものが含まれる。
【0117】
多鎖キメラ抗原受容体(CAR)
もう一つの態様において、本発明は、本発明のT細胞のような改変免疫細胞の作製および増大に特に適した多鎖キメラ抗原受容体(CAR)に関する。以下の成分のうちの二つを少なくとも含む多鎖CAR:
(a)FcεRIα鎖の膜貫通ドメインおよび細胞外リガンド結合ドメインを含む1個のポリペプチド、
(b)N末端およびC末端の細胞質テールの一部ならびにFcεRIβ鎖の膜貫通ドメインを含む1個のポリペプチド、ならびに/または
(c)細胞質内テールの一部およびFcεRIγ鎖の膜貫通ドメインを各々含み、それによって、異なるポリペプチドが共に自然に多量体形成して、二量体、三量体、または四量体のCARを形成する2個のポリペプチド。
【0118】
多鎖構成は、より具体的には、WO2014039523に開示されている。
【0119】
本明細書において使用される「の一部」という用語は、分子のサブセット、即ち、より短いペプチドをさす。あるいは、ポリペプチドのアミノ酸配列の機能性バリアントが、ポリペプチドをコードするDNAにおける変異によって調製され得る。そのような機能性バリアントは、例えば、アミノ酸配列内の残基の欠失または挿入または置換を含む。最終構築物が、所望の活性を保有すること、具体的には、特異的な抗標的細胞免疫活性を示すことを条件として、欠失、挿入、および置換の任意の組み合わせが、最終構築物に到達するために行われていてよい。
【0120】
本発明による前記の多鎖CARをコードするポリヌクレオチド、ベクターも、本発明の範囲に含まれる。
【0121】
包含される具体的な態様において、本発明は、多鎖CARを構成する異なるポリペプチドをNK細胞へ導入する工程、および細胞を増大させる工程を含む、免疫治療のためのNK細胞を調製する方法に関する。
【0122】
本発明は、細胞を改変する方法によって入手可能な単離された細胞または細胞株にも関する。具体的には、単離された細胞は、多鎖CARを構成するポリペプチドをコードする外来性ポリヌクレオチド配列を含む。
【0123】
NK細胞の活性化および増大
本発明のもう一つの態様は、以下の工程を含む、前記の方法に関する:
(d)得られた改変NK細胞を増大させる工程。
【0124】
一つの態様において、細胞は、組織または細胞と共培養することによって増大させられ得る。細胞は、対象へ細胞を投与した後、インビボで、例えば、対象の血液の中で増大させられてもよい。
【0125】
本発明は、NKp46ポリペプチドを発現するNK細胞をNKp46ポリペプチドを阻害する化合物と接触させる工程を含む、インビボでNK細胞を活性化する方法、または哺乳動物においてインビボでNK細胞成熟をモジュレートする(またはNK細胞成熟の間のNK細胞の反応性もしくは活性を増加させる)方法も提供する。接触は、好ましくは、NKp46ポリペプチドを阻害する化合物を哺乳動物へ投与する工程を含む。NK細胞の活性化は、任意で、標的細胞(感染細胞、腫瘍細胞、炎症誘発細胞等)に対するNK細胞の反応性もしくは細胞傷害性の増加、NK細胞における活性化、活性化マーカー(例えば、CD107発現)、および/もしくはIFNγ産生の増加、ならびに/またはそのような活性化された、反応性の、細胞傷害性の、かつ/もしくは活性化されたNK細胞のインビボの頻度の増加を含む。
【0126】
本発明によると、改変されるNK細胞は、新鮮なNK細胞であってもよいしまたはサイトカインによって活性化されたNK細胞であってもよいしまたはエクスビボで増大させられたNK細胞であってもよい(Richard W.Childs and Maria Berg,(2013)「ナチュラルキラー細胞の臨床開発:エクスビボ操作」ASH Education Book,vol.2013 no.1,234-246)。それらは全てPBMCから得られる。一般的には、精製目的のため、いずれのケースにおいても、CD3+枯渇の後、CD56+細胞の選択またはCD19+細胞の枯渇が行われる。
【0127】
エクスビボ増大プロトコルによると、培養の終わりに、(APCのような)フィーダーの非存在下で、サイトカインのみとのインキュベーションを行うことができる。CD3+枯渇の後、エクスビボ増大のケースにおいては、K562フィーダー(遺伝子修飾されたもの、例えば、4-1BB/IL-15、mbIL21等)、またはPBMCフィーダー、またはNAM&サイトカイン(フィーダーなし)とのインキュベーションの工程が行われる。CD3+枯渇の後、CD56+選択の工程が行われ、その後、任意で、サイトカインによって活性化されるNK細胞のためのIL-2活性化;またはエクスビボで増大させられるNK細胞のためのEBV-LCLフィーダーもしくはPBMCフィーダー(CD3+/CD56-細胞)との付加的なインキュベーションが行われてもよい。CD19+枯渇の任意での工程が、CD56+選択の代わりに適用されてもよい(Passweg JR,Tichelli A,Meyer-Monard S,et al.,2004「ハプロタイプ一致幹細胞移植後の生着を強化するための精製されたドナーNKリンパ球の注入」Leukemia 18(11):1835-1838;Murphy WJ,Parham P,and Miller JS,2012 "NK cells-from bench to clinic". Biol Blood Marrow Transplant 18(1 Suppl):S2-7)。
【0128】
新鮮なNK細胞および活性化されたNK細胞を使用したプロトコルによると、PBMCは、CD3+枯渇の後、単独でまたは他の増殖因子と組み合わせて与えられるIL-15およびIL-2のようなサイトカインによってフィーダー細胞なしで活性化され得る。このサイトカイン活性化、一般的には、一夜の後、CD56+細胞選択またはCD19+細胞枯渇が行われ得る。T細胞およびNKT細胞の混入および過剰増殖を防止するため、NK細胞培養の開始の前に、または増大培養の終わりに、PBMCからT細胞を枯渇させることができる(Lapteva N,Durett AG,Sun J et al.(2012) "Large-scale ex vivo expansion and characterization of natural killer cells for clinical applications". Cytotherapy 14(9):1131-1143)。
【0129】
サイトカイン含有培地のみにおけるNK細胞の培養は、一般的には、フィーダー細胞を含有している培養と比較して、NK細胞を増大させる効果が低いが、そのような培養条件は、短い一夜のインキュベーションの後ですら、NK細胞を急速に活性化することができ、エクスビボでの腫瘍標的に対するNK細胞の細胞傷害性を実質的に増強する。Millerらは、ハプロタイプ一致ドナーからアフェレーシスによって収集された単核細胞の(Miltenyi CliniMACS系を使用した)CD3枯渇、その後のIL-2(1000U/mL)を含有しているX-VIVO15培地における短時間の8~16時間の培養の戦略を使用し、活性化された細胞を、ハプロタイプ一致幹細胞移植の後、または移植なしに、患者へ注入した(Miller JS,Soignier Y,Panoskaltsis-Mortari A et al.(2005) Successful adoptive transfer and in vivo expansion of human haploidentical NK cells in patients with cancer. Blood 105(8):3051-3057)。フィーダー細胞なしのエクスビボNK細胞増大のケースにおいては、(5日目の後に培養物から除去される)サイトカインおよび抗CD3抗体OKT3を含有している培地を使用することによって、骨髄腫患者の分離されていないPBMCから、高度に活性化されたNK細胞を増大させることが有用であり得る(Alici E,Sutlu T,Bjorkstrand B,et al.,2008 "Autologous antitumor activity by NK cells expanded from myeloma patients using GMP-compliant components". Blood 111(6):3155-3162)
【0130】
培地中に(トリプチケースソイ寒天およびヘミン溶液に基づく)NAMを使用するNK細胞増大技術は、NK細胞上のCD62L発現を実質的に増加させ、免疫欠損マウスの脾臓およびBMへのホーミングの改善をもたらすようである(Frei GM,Persi N,Lador C,et al.,2011 "Nicotinamide,a form of vitamin B3,promotes expansion of natural killer cells that display increased in vivo survival and cytotoxic activity". [abstract]Blood(ASH Annual MeetingAbstracts)118(21):4035)。
【0131】
緩衝液、好ましくは、PBS(カルシウムおよびマグネシウムのような二価陽イオンを含まない)。再び、当業者は、任意の細胞濃度が使用され得ることを容易に認識することができる。混合物は、数時間(約3時間)~約14日間、または中間の整数の時間、培養され得る。もう一つの態様において、混合物は21日間培養され得る。NK細胞のような免疫細胞の培養のために適切な条件には、血清(例えば、ウシ胎仔血清もしくはヒト胎児血清)、インターロイキン2(IL-2)、インスリン、IFN-g、IL-4、IL-7、GM-CSF、-10、-2、IL-15、TGFp、およびTNF-、または当業者に公知の細胞の増殖のためのその他の添加剤を含む、増殖および生存可能性のために必要な因子を含有していてもよい適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 5(Lonza))が含まれる。細胞の増殖のためのその他の添加剤には、界面活性剤、プラスマネート(plasmanate)、ならびにN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールのような還元剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミンが添加されており、無血清であるか、または適切な量の血清(もしくは血漿)もしくはホルモンの定義されたセットおよび/もしくはNK細胞の増殖および増大のために十分な量のサイトカインが補足されている、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、Optimizerが含まれ得る。抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンは、実験的培養物にのみ含まれ、対象へ注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支持するのに必要な条件、例えば、適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気+5%CO2)で維持される。様々な刺激時間に曝されたNK細胞のような免疫細胞は、異なる特徴を示し得る。
【0132】
送達方法
前記の異なる方法は、任意で、DNA末端プロセシング酵素または外来性核酸と共に、レアカットエンドヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、CAR、または多鎖CARを、細胞へ導入する工程を含む。
【0133】
非限定的な例として、レアカットエンドヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、非内在性免疫抑制ポリペプチドをコードする遺伝子、CAR、または多鎖CARは、任意で、DNA末端プロセシング酵素または外来性核酸と共に、一つのベクターによってコードされたトランスジーンとして、または異なるプラスミドベクターとして導入され得る。2Aペプチドをコードする配列のようなリボソームスキップ配列をコードする核酸配列を含む1個のベクターに、異なるトランスジーンが含まれていてもよい。ピコルナウイルスのアフトウイルス亜群において同定された2Aペプチドは、コドンによってコードされた2個のアミノ酸の間にペプチド結合を形成することなく、1個のコドンから次のコドンへのリボソーム「スキップ」を引き起こす(Donnelly et al.,J.of General Virology 82:1013-1025(2001);Donnelly et al.,J.of Gen.Virology 78:13-21(1997);Doronina et al.,Mol.And.Cell.Biology 28(13):4227-4239(2008);Atkins et al.,RNA 13:803-810(2007)を参照されたい)。「コドン」とは、リボソームによって1個のアミノ酸残基へ翻訳される、mRNA上(またはDNA分子のセンス鎖上)の3ヌクレオチドを意味する。従って、インフレームにある2Aオリゴペプチド配列によってポリペプチドが分離されている時、mRNA内の単一の連続的なオープンリーディングフレームから2個のポリペプチドが合成され得る。そのようなリボソームスキップ機序は、当技術分野において周知であり、単一のメッセンジャーRNAによってコードされたいくつかのタンパク質の発現のため、いくつかのベクターによって使用されることが公知である。非限定的な例として、本発明において、2Aペプチドは、レアカットエンドヌクレアーゼおよびDNA末端プロセシング酵素または多鎖CARの異なるポリペプチドを細胞において発現させるために使用されている。
【0134】
プラスミドベクターは、ベクターを受容した細胞の同定および/または選択を提供する選択マーカーを含有することができる。
【0135】
ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞への導入の結果として、細胞においてインサイチューで合成され得る。あるいは、ポリペプチドを細胞外で作製し、次いで、細胞へ導入してもよい。ポリヌクレオチド構築物を動物細胞へ導入する方法は、当技術分野において公知であり、非限定的な例として、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれる安定的形質転換法、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれない一過性形質転換法、およびウイルスによって媒介される方法を含む。ポリヌクレオチドは、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、リポソーム等によって細胞へ導入され得る。例えば、一過性形質転換法には、例えば、微量注入、電気穿孔、または微粒子銃が含まれる。ポリヌクレオチドは、細胞において発現されることを考慮して、ベクター、より具体的には、プラスミドまたはウイルスに含まれていてよい。
【0136】
電気穿孔
本発明によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、電気穿孔によって、細胞へ直接導入されるmRNAであり得る。
【0137】
例えば、細胞への材料の送達のため、生細胞を一過性に透過性にすることをパルス電場の使用によって可能にするcytoPulseテクノロジーを使用することができる。PulseAgile(Cellectis所有)電気穿孔波形の使用に基づくこのテクノロジーは、パルスの持続時間、強度、およびパルス間の間隔の正確な調節を与える(米国特許第6,010,613号および国際PCT出願WO2004083379)。これらのパラメータは、全て、最小の死亡率での高いトランスフェクション効率のための最適条件に到達するため、修飾され得る。基本的に、最初の高電場パルスは孔形成を可能にし、その後のより低い電場パルスは、ポリヌクレオチドの細胞内への移動を可能にする。
【0138】
一例として、本発明は、NK細胞をRNAと接触させる工程、および以下のものからなるアジャイルパルスシーケンスをNK細胞に適用する工程を含む、NK細胞を形質転換する方法に関する:
(a)1センチメートル当たり2250~3000Vの電圧範囲、0.1msのパルス幅、および工程(a)および(b)の電気パルスの間の0.2~10msのパルス間隔で、1回の電気パルス;
(b)2250~3000Vの電圧範囲、100msのパルス幅、および工程(b)の電気パルスと工程(c)の最初の電気パルスとの間の100msのパルス間隔で、1回の電気パルス;ならびに
(c)325Vの電圧、0.2msのパルス幅、および4回の電気パルスの各々の間の2msのパルス間隔で、4回の電気パルス。
【0139】
前記の値の範囲に含まれる任意の値が、本願において開示される。電気穿孔媒体は、当技術分野において公知の任意の適当な媒体であり得る。好ましくは、電気穿孔媒体は、0.01~1.0ミリシーメンスの範囲の伝導率を有する。
【0140】
非限定的な例として、RNAは、レアカットエンドヌクレアーゼ、半TALEヌクレアーゼのようなレアカットエンドヌクレアーゼの1個のモノマー、キメラ抗原受容体、多鎖キメラ抗原受容体の少なくとも1個の成分、外来性核酸、1個の付加的な触媒ドメインをコードする。
【0141】
改変NK細胞
NK細胞は、起源およびそれぞれのエフェクター機能によって、ナチュラルキラーT細胞(NKT)と表現型的に異なる;しばしば、NKT細胞活性は、IFNγを分泌することによってNK細胞活性を促進する。NKT細胞とは対照的に、NK細胞は、T細胞抗原受容体(TCR)またはパンTマーカーCD3または表面免疫グロブリン(Ig)B細胞受容体を発現しないが、一般的に、ヒトにおいては、表面マーカーCD16(FcγRIII)およびCD56を発現し、C57BL/6マウスにおいては、NK1.1またはNK1.2を発現する。80%ものヒトNK細胞がCD8も発現する。ヒト末梢血内で、成熟度のより高いCD56(dim)NK細胞は休止状態で効率的に悪性標的を死滅させるが、成熟度のより低いCD56(bright)NK細胞は、それができない。
【0142】
本発明の細胞の増大および遺伝子修飾の前に、細胞の起源は、多様な非限定的な方法を通して対象から得られうる。NK細胞のような免疫細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾組織、および腫瘍を含む、多数の非限定的な起源から得られうる。入手可能な当業者に公知の多数の免疫細胞株が使用され得る。
【0143】
もう一つの態様において、細胞は、健常ドナー、癌を有すると診断された患者、または感染を有すると診断された患者に由来し得る。細胞は、異なる表現型的特徴を提示する細胞の混合集団の一部である。
【0144】
上記の方法によって形質転換されたNK細胞のような免疫細胞から得られた細胞株も、本発明の範囲に包含される。
【0145】
免疫抑制処置に対して耐性であって、上記の方法によって入手可能な、修飾された細胞は、本発明の範囲に包含される。
【0146】
一態様によると、NK細胞は、造血細胞、より好ましくは、初代細胞である。
【0147】
治療的適用
もう一つの態様において、種々の方法によって得られた単離された細胞、または上記の単離された細胞に由来する細胞株は、医薬として使用され得る。
【0148】
もう一つの態様において、医薬は、その必要のある患者における癌または感染を処置するために使用され得る。もう一つの態様において、本発明による単離された細胞または単離された細胞に由来する細胞株は、その必要のある患者における癌またはウイルス感染の処置のための医薬の製造において使用され得る。
【0149】
もう一つの局面において、本発明は、以下の工程のうちの少なくとも一つを含む、その必要のある患者を処置する方法による:
(a)上記の方法のいずれかによって入手可能なNK細胞を準備する工程;
(b)形質転換されたNK細胞を患者へ投与する工程。
【0150】
一つの態様において、本発明のNK細胞は、頑強なインビボNK細胞増大を受けることができ、延長された時間、存続することができる。
【0151】
処置は、寛解的、治癒的、または予防的であり得る。それは、自己免疫治療の一部または同種免疫治療処置の一部のいずれかであり得る。自己とは、患者を処置するため使用される細胞、細胞株、または細胞の集団が、患者またはヒト白血球抗原(HLA)適合性ドナーに由来することを意味する。同種とは、患者を処置するため使用される細胞または細胞の集団が、患者ではなくドナーに由来することを意味する。
【0152】
典型的にはドナーから得られるNK細胞の、非アロ反応性細胞への形質転換を可能にする限り、本発明は、同種免疫治療のために特に適している。これは、標準的なプロトコルの下で行われてよく、必要な回数だけ再現され得る。得られた修飾された免疫細胞は、プールされ、「既製の」治療用生成物として利用可能にされて、1人または数人の患者へ投与され得る。
【0153】
本発明には、免疫細胞が、好ましくは、同一のドナーに由来し、NK細胞が、前記のような方法によって得られ、NK細胞が、全免疫細胞の0.1%~40%、好ましくは、0.2%~20%、より好ましくは、5%~16%を占める、NK細胞およびその他のPBMCの混合物を含有している薬学的組成物が包含される。
【0154】
具体的な態様として、本発明の精製された改変NK細胞に、同一のドナーまたは異なるドナーから得られた改変T細胞または非改変T細胞が添加される。
【0155】
一つの態様によると、本発明の組成物は、改変NK細胞の増大の工程の前に得られた、TGFβ受容体、Cbl-B、A2A受容体、KLRD1、LIR1/ILT2、KIR、AhR、Tim-3、Tyro-3、GCN2、CD94、CD74、シクロフィリンA、TBL1XR1、HPRT、dCK、CD5、β2M、およびPD-1をコードするものからなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現が、特異的エンドヌクレアーゼを使用することによって低下しているかまたは不活化されている改変NK細胞を2.5%~5%含有している。
【0156】
別の態様によると、前記の組成物は、細胞の増大の工程の後に得られた改変NK細胞を10%~25%含有していた。
【0157】
開示された方法と共に使用され得る細胞は、上記セクションに記載されている。処置は、癌、ウイルス感染、または移植片対宿主病(GvHD)を有すると診断された患者を処置するために使用され得る。処置され得る癌には、血管形成されていないかまたは実質的に血管形成されていない腫瘍が含まれ、血管形成された腫瘍も含まれる。癌には、(血液腫瘍、例えば、白血病およびリンパ腫のような)非固形腫瘍が含まれ得、または固形腫瘍も含まれ得る。本発明のCARによって処置される癌の型には、細胞腫、芽細胞腫、および肉腫、ならびにある種の白血病またはリンパ系悪性疾患、良性腫瘍および悪性腫瘍、ならびに悪性疾患、例えば、肉腫、細胞腫、および黒色腫が含まれるが、これらに限定されるわけではない。成人の腫瘍/癌および小児科の腫瘍/癌も含まれる。
【0158】
それは、抗体治療、化学療法、サイトカイン治療、樹状細胞治療、遺伝子治療、ホルモン治療、レーザー光線治療、および放射線治療の群より選択される、癌に対する1種または複数種の治療と組み合わせられた処置であってもよい。
【0159】
本発明の好ましい態様によると、処置は、免疫抑制処置を受けている患者へ投与され得る。実際、本発明は、好ましくは、そのような免疫抑制剤の受容体をコードする遺伝子の不活化によって、少なくとも1種の免疫抑制剤に対して耐性にされた細胞または細胞の集団に頼る。この局面において、免疫抑制処置は、患者における本発明によるNK細胞の選択および増大を支援するはずである。
【0160】
本発明による細胞または細胞の集団の投与は、エアロゾル吸入、注射、内服、輸液、植え込み、または移植を含む、任意の便利な様式で、実施され得る。本明細書に記載された組成物は、皮下に、皮内に、腫瘍内に、節内に、髄内に、筋肉内に、静脈内注射もしくはリンパ内注射によって、または腹腔内に、患者へ投与され得る。一つの態様において、本発明の細胞組成物は、好ましくは、静脈内注射によって投与される。
【0161】
細胞または細胞の集団の投与は、体重1kg当たり104~109個の細胞、好ましくは、体重1kg当たり105~106個の細胞(これらの範囲内の細胞数の全ての整数値を含む)の投与からなっていてよい。細胞または細胞の集団は、単回投与されてもよいしまたは複数回投与されてもよい。もう一つの態様において、有効量の細胞が単回投与される。もう一つの態様において、有効量の細胞がある期間にわたり複数回投与される。投与のタイミングは、管理する医師の判断の範囲内であり、患者の臨床状態に依る。細胞または細胞の集団は、血液バンクまたはドナーのような任意の起源から入手されてよい。個々の必要性は変動するが、特定の疾患または状態のための所定の細胞型の有効量の最適範囲の決定は、当技術分野の技術の範囲内である。有効量とは、治療的または予防的な利益を提供する量を意味する。投与される投薬量は、レシピエントの年齢、健康、および体重、もしあれば、同時処置の種類、処置の頻度、ならびに望まれる効果の性質に依存するであろう。
【0162】
もう一つの態様において、有効量の細胞またはそれらの細胞を含む組成物は、非経口投与される。投与は、静脈内投与であり得る。腫瘍内注射によって直接投与を行うこともできる。
【0163】
本発明のある種の態様において、細胞は、抗ウイルス治療、シドホビルおよびインターロイキン2、(ARA-Cとしても公知の)シタラビンのような薬剤による処置、またはMS患者のためのナタリズマブ処置、または乾癬患者のためのエファリズマブ処置、またはPML患者のためのその他の処置を含むが、これらに限定されるわけではない、多数の関連する処置モダリティと併せて(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)患者へ投与される。
【0164】
さらなる態様において、本発明のNK細胞は、化学療法、放射線、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノラート、およびFK506のような免疫抑制剤、CAMPATH、抗CD3抗体、またはその他の抗体治療のような免疫除去(immunoablative)剤、シトキシン(cytoxin)、フルダラビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、ならびに照射と組み合わせて使用されてよい。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子によって誘導されるシグナリングにとって重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al.,Cell 66:807-815,1 1;Henderson et al.,Immun.73:316-321,1991;Bierer et al.,Citrr.Opin.mm n.5:763-773,93)。
【0165】
さらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビン、外照射療法(XRT)、シクロホスファミドのような化学療法剤、またはOKT3もしくはCAMPATHのような抗体のいずれかを使用したNK細胞除去治療と併せて(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)患者へ投与される。
【0166】
もう一つの態様において、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えば、リツキサンのようなB細胞除去治療の後に投与される。例えば、一つの態様において、対象は、高用量化学療法による標準処置を受けた後、末梢血幹細胞移植を受けることができる。ある種の態様において、移植の後、対象は、本発明の増大した免疫細胞の注入を受容する。付加的な態様において、増大した細胞は、手術の前または後に投与される。本明細書に記載された方法のいずれかによって得られた修飾された細胞は、本発明の具体的な局面において、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)に対してその必要のある患者を処置するために使用され得;従って、有効量の修飾された細胞を患者へ投与することによって患者を処置する工程を含む、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)に対してその必要のある患者を処置する方法は、本発明の範囲内である。
【0167】
他の定義
ポリペプチド配列内のアミノ酸残基は、1文字コードに従って本明細書において表記され、例えば、QはGlnまたはグルタミン残基を意味し、RはArgまたはアルギニン残基を意味し、DはAspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0168】
アミノ酸置換とは、1個のアミノ酸残基の別のものへの交換を意味し、例えば、ペプチド配列内のアルギニン残基のグルタミン残基への交換は、アミノ酸置換である。
【0169】
ヌクレオチドは以下のように表記される:1文字コードがヌクレオシドの塩基を表記するため使用される:aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、gはグアニンである。縮重ヌクレオチドのため、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、a、またはtを表し、vはg、a、またはcを表し、bはg、t、またはcを表し、hはa、t、またはcを表し、nはg、a、t、またはcを表す。
【0170】
本明細書において使用されるように、「核酸」または「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド、ならびに/またはデオキシリボ核酸(DNA)もしくはリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成された断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片をさす。核酸分子は、(DNAおよびRNAのような)天然に存在するヌクレオチドもしくは天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドの鏡像異性体)であるモノマー、または両方の組み合わせから構成されていてよい。修飾されたヌクレオチドは、糖モエティおよび/またはピリミジン塩基モエティもしくはプリン塩基モエティに変更を有していてもよい。糖修飾には、例えば、1個または複数個のヒドロキシル基のハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基への交換が含まれ、または糖がエーテルもしくはエステルとして官能化されていてもよい。さらに、糖モエティ全体が、アザ糖および炭素環式糖類似体のような立体的かつ電子的に類似の構造に交換されていてもよい。塩基モエティにおける修飾の例には、アルキル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンもしくはピリミジン、またはその他の周知のヘテロ環式置換基が含まれる。核酸モエティは、ホスホジエステル結合またはそのような結合の類似体によって連結されていてよい。核酸は、一本鎖であってもよいしまたは二本鎖であってもよい。
【0171】
「二本鎖破断の上流の配列との相同性を有する第1の領域、細胞のゲノムに挿入される配列、および二本鎖破断の下流の配列との相同性を有する第2の領域を連続的に含むポリヌクレオチド」とは、インサイチューのDNA標的の5'および3'の領域に相同な第1および第2の部分を含むDNA構築物またはマトリックスを意味するものとする。DNA構築物は、インサイチューの対応するDNA配列とのいくらかの相同性を含むか、あるいはインサイチューのDNA標的の5'および3'の領域との相同性を含まない、第1の部分と第2の部分との間に位置する第3の部分も含む。DNA標的の切断の後、関心対象の遺伝子座に含まれる標的遺伝子を含有しているゲノムと、このマトリックスとの間の相同組換え事象が刺激され、DNA標的を含有しているゲノム配列が、マトリックスの第3の部分ならびにマトリックスの第1および第2の部分の可変部分と交換される。
【0172】
「DNA標的」、「DNA標的配列」、「標的DNA配列」、「核酸標的配列」、「標的配列」、または「プロセシング部位」とは、本発明によってレアカットエンドヌクレアーゼによって標的とされプロセシングされ得るポリヌクレオチド配列を表す。これらの用語は、特定のDNA位置、好ましくは、細胞内のゲノム位置をさし、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾンのような、遺伝材料の本体と無関係に存在することができる遺伝材料、またはミトコンドリアのような細胞小器官に存在することができる遺伝材料の一部分もさす。TALEヌクレアーゼ標的の非限定的な例として、標的とされるゲノム配列は、一般に、15bpスペーサーによって分離された2個の(標的の半分と呼ばれる)17bp長配列からなる。標的の半分は、各々、EF1αプロモーターまたはT7プロモーターの調節下でプラスミド内にコードされた、非限定的な例として、表1~2にリストされたTALEヌクレアーゼのリピートによって認識される。核酸標的配列は、表1~2に示される標的の一方の鎖の5'→3'配列によって定義される。
【0173】
「送達ベクター」とは、本発明において必要とされる薬剤/化学物質および分子(タンパク質または核酸)を、細胞と接触させるため(即ち、「接触」)、または細胞もしくは細胞内コンパートメントへ送達するため(即ち、「導入」)、本発明において使用され得る送達ベクターを表す。それには、リポソーム送達ベクター、ウイルス送達ベクター、薬物送達ベクター、化学的担体、ポリマー担体、リポプレックス、ポリプレックス、デンドリマー、マイクロバブル(超音波コントラスト剤)、ナノ粒子、エマルション、またはその他の適切な移入ベクターが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの送達ベクターは、分子、化学物質、高分子(遺伝子、タンパク質)、またはプラスミド、Diatosによって開発されたペプチドのような他のベクターの送達を可能にする。これらのケースにおいて、送達ベクターは分子担体である。「送達ベクター」とは、トランスフェクションを実施するための送達法も表す。
【0174】
「ベクター」という用語は、連結されたもう一つの核酸を輸送することができる核酸分子をさす。本発明における「ベクター」には、染色体核酸、非染色体核酸、半合成核酸、または合成核酸からなっていてよい、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または直鎖状もしくは環状のDNA分子もしくはRNA分子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。好ましいベクターは、連結された核酸の自律複製(エピソームベクター)および/または発現(発現ベクター)が可能なものである。多数の適当なベクターが、当業者に公知であり、市販されている。
【0175】
ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)のようなマイナス鎖RNAウイルス、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスのようなプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリアポックス)を含む二本鎖DNAウイルスが含まれる。他のウイルスには、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが含まれる。レトロウイルスの例には、トリ白血病肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが含まれる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,In Fundamental Virology,Third Edition,B.N.Fields,et al.,Eds.,Lippincott-Raven Publishers,Philadelphia,1996)。
【0176】
「レンチウイルスベクター」とは、比較的大きいパッケージング能力、低下した免疫原性、および広範囲の異なる細胞型を高い効率で安定的に形質導入する能力のため、遺伝子送達のために極めて有望である、HIVに基づくレンチウイルスベクターを意味する。レンチウイルスベクターは、一般的には、3種(パッケージング、エンベロープ、および移入)またはそれ以上のプラスミドの産生細胞への一過性トランスフェクションの後に生成される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターは、ウイルス表面糖タンパク質の細胞表面上の受容体との相互作用を通して標的細胞に侵入する。侵入後、ウイルスRNAは、ウイルス逆転写酵素複合体によって媒介される逆転写を受ける。逆転写の産物は、二本鎖直鎖状ウイルスDNAであり、それが、感染細胞のDNAへのウイルス組み込みのための基質となる。「組込み型レンチウイルスベクター(またはLV)」とは、非限定的な例として、標的細胞のゲノムに組み込まれることができるそのようなベクターを意味する。反対に、「非組込み型レンチウイルスベクター(またはNILV)」とは、ウイルスインテグラーゼの作用を通して標的細胞のゲノムに組み込まれない効率的な遺伝子送達ベクターを意味する。
【0177】
送達ベクターおよびベクターは、ソノポレーション(sonoporation)もしくは電気穿孔のような細胞透過処理技術またはこれらの技術の変法と関連しているかまたは組み合わせられてよい。
【0178】
細胞とは、真核生物の生細胞、初代細胞、およびインビトロ培養のためのこれらの生物に由来する細胞株を表す。
【0179】
「初代細胞」とは、持続的な腫瘍形成性の細胞株または人為的に不死化された細胞株と比較して、集団倍化をほとんど受けておらず、従って、それらが由来する組織の主要な機能的成分および特徴をより代表している、生組織(即ち、生検材料)から直接採取され、インビトロでの増殖のために確立された細胞を表す。
【0180】
「変異」とは、ポリヌクレオチド(cDNA、遺伝子)またはポリペプチド配列における1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、40個、50個、またはそれ以上のヌクレオチド/アミノ酸の置換、欠失、挿入を表す。変異は、遺伝子のコード配列またはその制御配列に影響を与える場合がある。それは、ゲノム配列の構造またはコードされたmRNAの構造/安定性に影響を与える場合もある。
【0181】
「バリアント」とは、親分子のアミノ酸配列における少なくとも1個の残基の変異または交換によって得られた、リピートバリアント、バリアント、DNA結合バリアント、TALEヌクレアーゼバリアント、ポリペプチドバリアントを表す。
【0182】
「機能性バリアント」とは、タンパク質またはタンパク質ドメインの触媒活性変異体を意味し;そのような変異体は、親タンパク質もしくは親タンパク質ドメインと比較して同一の活性、または付加的な特性、またはより高いかもしくはより低い活性を有し得る。
【0183】
「遺伝子」とは、特定のタンパク質またはタンパク質のセグメントをコードする、染色体上に直鎖状に配置されたDNAのセグメントからなる遺伝の基本単位を意味する。遺伝子は、典型的には、プロモーター、5'非翻訳領域、1個または複数個のコード配列(エクソン)、任意でのイントロン、3'非翻訳領域を含む。遺伝子は、ターミネーター、エンハンサー、および/またはサイレンサーをさらに含んでいてよい。
【0184】
本明細書において使用されるように、「遺伝子座」という用語は、染色体上のDNA配列(例えば、遺伝子)の具体的な物理的位置である。「遺伝子座」という用語は、染色体上のレアカットエンドヌクレアーゼ標的配列の具体的な物理的位置をさすことができる。そのような遺伝子座は、本発明によってレアカットエンドヌクレアーゼによって認識されかつ/または切断される標的配列を含むことができる。細胞の遺伝材料の本体(即ち、染色体)に存在する核酸配列のみならず、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾンのような、遺伝材料の本体と無関係に存在することができる遺伝材料、またはミトコンドリアのような細胞小器官に存在することができる遺伝材料の一部分も、本発明の関心対象の遺伝子座と見なされ得ることが理解される。
【0185】
「エンドヌクレアーゼ」という用語は、DNA分子またはRNA分子、好ましくは、DNA分子の核酸の間の結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型またはバリアントの酵素をさす。エンドヌクレアーゼは、配列に関係なくDNA分子またはRNA分子を切断するのではなく、「標的配列」または「標的部位」とさらに呼ばれる特異的なポリヌクレオチド配列においてDNA分子またはRNA分子を認識し切断する。エンドヌクレアーゼは、典型的には、12塩基対(bp)より長い、より好ましくは、14~55bpのポリヌクレオチド認識部位を有する時、レアカットエンドヌクレアーゼとして分類され得る。レアカットエンドヌクレアーゼは、明確な遺伝子座においてDNA二本鎖破断(DSB)を誘導することによって、HRを有意に増加させる(Rouet,Smih et al.1994,Choulika,Perrin et al.1995,Pingoud and Silva 2007)。レアカットエンドヌクレアーゼは、例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼ(Paques and Duchateau 2007)、FokIのような制限酵素の触媒ドメインとの改変ジンクフィンガードメインの融合に起因するキメラジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(Porteus and Carroll 2005)、または化学的エンドヌクレアーゼ(Eisenschmidt,Lanio et al.2005;Arimondo,Thomas et al.2006)であり得る。化学的エンドヌクレアーゼにおいては、化学的切断剤またはペプチド性切断剤が、特異的な標的配列を認識する核酸のポリマーまたはもう一つのDNAのいずれかにコンジュゲートされており、それによって、切断活性を特異的な配列へターゲティングする。化学的エンドヌクレアーゼには、特異的なDNA配列に結合することが公知の、オルトフェナントロリンと、DNA切断分子と、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)とのコンジュゲートのような合成ヌクレアーゼも包含される(Kalish and Glazer 2005)。そのような化学的エンドヌクレアーゼは、本発明による「エンドヌクレアーゼ」という用語に含まれる。
【0186】
レアカットエンドヌクレアーゼは、例えば、FokI触媒ドメインと、ザントモナス(Xanthomonas)属の植物病原体によって感染過程において使用されるタンパク質のファミリー、転写活性化因子様エフェクター(TALE)に由来するDNA結合ドメインとを使用したキメラヌクレアーゼの新しいクラス、TALEヌクレアーゼであってもよい(Boch,Scholze et al.2009;Moscou and Bogdanove 2009;Christian,Cermak et al.2010;Li,Huang et al.)。FokIに基づくTALEヌクレアーゼ(TALEヌクレアーゼ)の機能的配置は、本質的にはZFNのものであり、ジンクフィンガーDNA結合ドメインがTALEドメインと交換されている。従って、TALEヌクレアーゼによるDNA切断は、非特異的な中央領域に隣接する2個のDNA認識領域を必要とする。本発明に包含されるレアカットエンドヌクレアーゼは、TALEヌクレアーゼに由来してもよい。
【0187】
レアカットエンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼの名称でも公知のホーミングエンドヌクレアーゼであり得る。そのようなホーミングエンドヌクレアーゼは、当技術分野において周知である(Stoddard 2005)。ホーミングエンドヌクレアーゼは、DNA標的配列を認識し、一本鎖破断または二本鎖破断を生成する。ホーミングエンドヌクレアーゼは、高度に特異的であり、12~45塩基対(bp)長の範囲、一般的には、14~40bp長の範囲のDNA標的部位を認識する。本発明によるホーミングエンドヌクレアーゼは、例えば、LAGLIDADGエンドヌクレアーゼ、HNHエンドヌクレアーゼ、またはGIY-YIGエンドヌクレアーゼに相当し得る。本発明による好ましいホーミングエンドヌクレアーゼは、I-CreIバリアントであり得る。
【0188】
「TALEヌクレアーゼ」とは、典型的には、転写活性化因子様エフェクター(TALE)に由来する核酸結合ドメインと、核酸標的配列を切断するための1種のヌクレアーゼ触媒ドメインとからなる融合タンパク質を表す。触媒ドメインは、好ましくは、ヌクレアーゼドメイン、より好ましくは、例えば、I-TevI、ColE7、NucA、およびFok-Iのようなエンドヌクレアーゼ活性を有するドメインである。具体的な態様において、TALEドメインは、例えば、I-CreIおよびI-OnuIまたはそれらの機能性バリアントのようなメガヌクレアーゼに融合していてよい。より好ましい態様において、ヌクレアーゼは、単量体TALEヌクレアーゼである。単量体TALEヌクレアーゼは、WO2012138927に記載された、改変TALリピートとI-TevIの触媒ドメインとの融合物のような、特異的な認識および切断のために二量体形成を必要としないTALEヌクレアーゼである。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、複数の反復配列を含む、細菌種ザントモナス由来のタンパク質であり、各リピートは、核酸標的配列の各ヌクレオチド塩基に特異的な2残基(RVD)を12位および13位に含む。類似したモジュラー1塩基対1塩基核酸結合(modular base-per-base nucleic acid binding)特性を有する結合ドメイン(MBBBD)も、異なる細菌種において出願人によって最近発見された新しいモジュラータンパク質に由来し得る。新しいモジュラータンパク質は、TALリピートより多くの配列可変性を示すという利点を有する。好ましくは、異なるヌクレオチドの認識に関連したRVDは、Cを認識するためのHD、Tを認識するためのNG、Aを認識するためのNI、GまたはAを認識するためのNN、A、C、G、またはTを認識するためのNS、Tを認識するためのHG、Tを認識するためのIG、Gを認識するためのNK、Cを認識するためのHA、Cを認識するためのND、Cを認識するためのHI、Gを認識するためのHN、Gを認識するためのNA、GまたはAを認識するためのSN、Tを認識するためのYG、Aを認識するためのTL、AまたはGを認識するためのVT、およびAを認識するためのSWである。もう一つの態様において、重要なアミノ酸12および13は、ヌクレオチドA、T、C、およびGに対する特異性をモジュレートするため、具体的には、この特異性を増強するため、他のアミノ酸残基に変異させられてもよい。TALEヌクレアーゼは、既に記載され、遺伝子ターゲティングおよび遺伝子修飾を刺激するために使用されている(Boch,Scholze et al.2009;Moscou and Bogdanove 2009;Christian,Cermak et al.2010;Li,Huang et al.2011)。改変TALヌクレアーゼは、商標TALEN(商標)の下で市販されている(Cellectis,8 rue de la Croix Jarry,75013 Paris,France)。
【0189】
「切断」という用語は、ポリヌクレオチドの共有結合骨格の分解をさす。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的な加水分解を含むが、これらに限定されるわけではない、多様な方法によって開始され得る。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、2個の別個の一本鎖切断事象の結果として二本鎖切断が起こる場合もある。二本鎖のDNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドの切断は、平滑末端または付着末端のいずれかの作製をもたらし得る。
【0190】
「融合タンパク質」とは、最初は別々のタンパク質またはそれらの一部をコードする2種以上の遺伝子の接合からなる当技術分野において周知の過程の結果を表し、「融合遺伝子」の翻訳は、最初のタンパク質の各々に由来する機能的特性を有する単一のポリペプチドをもたらす。
【0191】
「同一性」とは、2個の核酸分子またはポリペプチドの間の配列同一性をさす。同一性は、比較の目的のため整列化されていてよい各配列の位置を比較することによって決定され得る。比較された配列の位置が同一の塩基によって占有される時、その分子はその位置において同一である。核酸またはアミノ酸の配列の間の類似性または同一性の程度は、核酸配列によって共有された位置における同一のまたは一致するヌクレオチドの数の関数である。GCG配列分析パッケージ(University of Wisconsin,Madison,Wis.)の一部として入手可能なFASTAまたはBLASTを含む、様々なアライメントアルゴリズムおよび/またはプログラムを、2個の配列の間の同一性を計算するため使用することができ、例えば、デフォルト設定で使用することができる。例えば、本明細書に記載された具体的なポリペプチドとの少なくとも70%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有し、好ましくは、実質的に同一の機能を示すポリペプチドが企図され、そのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも企図される。
【0192】
「類似性」とは、2種以上のポリペプチドのアミノ酸配列の間の関係を記載するものである。BLASTPも、BLOSUM45、BLOSUM62、またはBLOSUM80のような類似性マトリックスを使用して、参照アミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、92.5%、95%、97.5%、98%、99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を同定するために使用され得る。他に示されない限り、類似性スコアは、BLOSUM62の使用に基づくであろう。BLASTPが使用される時、類似率は、BLASTPポジティブ(positives)スコアに基づき、配列同一率は、BLASTPアイデンティティ(identities)スコアに基づく。BLASTP「アイデンティティ」とは、高スコア配列対における同一である全残基の数および画分を示し;BLASTP「ポジティブ」とは、アライメントスコアが正の値を有し、相互に類似している残基の数および画分を示す。本明細書に開示されたアミノ酸配列とのこれらの程度の同一性もしくは類似性または中間の程度の同一性もしくは類似性を有するアミノ酸配列が、この開示によって企図され包含される。類似したポリペプチドのポリヌクレオチド配列は、遺伝暗号を使用して推定され、従来の手段によって得られうる。そのような機能性バリアントをコードするポリヌクレオチドは、遺伝暗号を使用してアミノ酸配列を逆翻訳することによって作製されるであろう。
【0193】
「シグナル伝達ドメイン」または「共刺激リガンド」とは、NK細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子とのTCR/CD3複合体の結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖活性化、分化等を含むが、これらに限定されるわけではないNK細胞応答を媒介するシグナルを提供する抗原提示細胞上の分子をさす。共刺激リガンドには、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、トールリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドが含まれ得るが、これらに限定されるわけではない。共刺激リガンドには、とりわけ、以下に限定されないが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンドのような、NK細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体も包含される。
【0194】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドと特異的に結合し、それによって、限定されるわけではないが、増殖のような細胞による共刺激応答を媒介する、NK細胞上の同族結合パートナーをさす。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLA、およびトールリガンド受容体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0195】
本明細書において使用される「共刺激シグナル」とは、TCR/CD3ライゲーションのような一次シグナルと組み合わせて、NK細胞の増殖および/またはアップレギュレーションまたは重要分子のダウンレギュレーションをもたらすシグナルをさす。
【0196】
「二重特異性抗体」とは、単一の抗体分子の中に2種の異なる抗原のための結合部位を有する抗体をさす。古典的な抗体構造に加えて、2種の結合特異性を有する他の分子が構築されてもよいことが、当業者によって認識されるであろう。二重特異性抗体による抗原結合は、同時であってもよいしまたは連続的であってもよいことが、さらに認識されるであろう。二重特異性抗体は、全て自体公知である化学的技術(例えば、Kranz et al.(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78,5807を参照されたい)、「ポリドーマ(polydoma)」技術(米国特許第4,474,893号を参照されたい)、または組換えDNA技術によって作製され得る。非限定的な例として、各結合ドメインは、抗体重鎖に由来する少なくとも1個の可変領域(「VHまたはH領域」)を含み、第1の結合ドメインのVH領域はCD3のようなリンパ球マーカーに特異的に結合し、第2の結合ドメインのVH領域は腫瘍抗原に特異的に結合する。
【0197】
「細胞外リガンド結合ドメイン」という用語は、本明細書において使用されるように、リガンドに結合することができるオリゴペプチドまたはポリペプチドと定義される。好ましくは、ドメインは細胞表面分子と相互作用することができるであろう。例えば、細胞外リガンド結合ドメインは、特定の疾患状態に関連した標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するよう選択され得る。従って、リガンドとして作用することができる細胞表面マーカーの例には、ウイルス感染、細菌感染、および寄生虫感染、自己免疫疾患、ならびに癌細胞に関連したものが含まれる。
【0198】
「対象」または「患者」という用語には、本明細書において使用されるように、非ヒト霊長類およびヒトを含む動物界の全メンバーが含まれる。
【0199】
本発明の前記の説明は、当業者が本発明を実施し使用することを可能にするため、本発明を実施し使用する様式および過程を提供しており、この可能性は、具体的には、当初明細書の一部を構成する添付の特許請求の範囲の主題について提供される。
【0200】
数の限度または範囲が本明細書において述べられる場合、終点が含まれる。数の限度または範囲の中の全ての値および部分範囲も、あたかも明示的に記述されたかのごとく具体的に含まれる。
【0201】
前記の説明は、当業者が本発明を実施し使用することを可能にするために提示され、具体的な適用およびその必要条件に関して提供されている。好ましい態様に対する様々な修飾が、当業者には容易に明白になり、本明細書において定義された一般的な原理は、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、他の態様および適用に適用され得る。従って、本発明は、示された態様に限定されず、本明細書に開示された原理および特色に一致する最も広い範囲を与えられるものとする。
【0202】
本発明を一般的に記載したが、例示の目的のために本明細書に提供されるに過ぎず、他に特記されない限り、限定するためのものではない、ある種の具体的な例を参照することによって、さらなる理解が得られうる。
【実施例】
【0203】
一般的な方法
初代NK細胞培養物
フィコール勾配密度媒体を使用して、EFS(Etablissement Francais du Sang,Paris,France)によって提供されたバフィーコート試料から、健常ドナー由来のNK細胞を精製した(NK Cell Isolation Kit Miltenyi Biotec #130-092-657)。PBMCを、PBS/SVF 2%/EDTA 2mMで洗浄し、次いで、濾過する(Pre-Separation filters 30μm Miltenyi Biotec #130-041-407)。NK細胞以外の細胞(単球、リンパ球B、リンパ球T等)は、抗体を負荷されたビーズカクテルを使用することによって標識され、カラム(LS Columns Miltenyi Biotec #130-042-401)上に磁気的に保持される。溶出画分中に得られたNK細胞を、ビオチン化された抗CD2抗体および抗CD335(NKp46)抗体を負荷されたビーズによって活性化し(NK cell activation/expansion Kit Miltenyi Biotec #130-094-483)、次いで、5%のヒト血清AB(Seralab#100-318)およびIL-2 500UI/mL(Miltenyi Biotec#130-093-903)+IL-15 100UI/mL(Miltenyi Biotec)が補足された培養培地X-Vivo 15(Lonza#04-418Q)において、プラーク12Wまたは6Wにおいて、2.106細胞/mLに増殖させた。6日間の培養の後、培地を交換し、新鮮なものを3~4日毎に添加する。15日目から、増大および細胞の表現型を評価する。
【0204】
NK細胞の遺伝子のTALEヌクレアーゼによって媒介される不活化
本明細書に記載されたもののような遺伝子を不活化するため、2対のTALEヌクレアーゼを、各遺伝子について設計し、組み立て、配列決定によってバリデートした。バリデートされた後、2種のTALEヌクレアーゼをコードするmRNAを作製し、ポリアデニル化し、WO 2013/176915に記載されたようなパルスアジャイルテクノロジーを使用してNK細胞を電気穿孔するために使用した(5μgまたは10μgの左および右のTALEヌクレアーゼmRNAを使用した)。一般的には、電気穿孔直後に24時間、30℃でNK細胞をインキュベートすることによって、低温ショックが実施される。再活性化(12.5μlビーズ/106細胞)を8日目(電気穿孔の8日後)に実施した。得られたNK細胞を増殖させ、最終的には、(エンドT7アッセイおよび標的とする遺伝子座におけるディープシーケンシングによって)遺伝子型的に特徴決定し、表現型的にも特徴決定した。表現型的特徴決定は、異なる蛍光色素APC(Miltenyi)にカップリングされた抗CD56 mAb、抗CD3 mAb、および抗CD16 mAbによる標識からなる。CD56/CD3およびCD16による標識を、0日目、+10日目、および+20日目に、FACSによってモニタリングした。このようにして、遅い増殖/極めて高い細胞傷害性を示すもののNK亜集団(NK CD56dimCD16+)と、多くのサイトカインを産生し、速い増殖、およびより少ない細胞傷害性を示すNK細胞(NK CD56brightCD16-)とを識別することが可能である。
【0205】
機能性関連遺伝子のKOを受けたNK細胞の遺伝子型的特徴決定
このプロトコルは機能性関連遺伝子不活化の効率を査定するため使用され得る。従って、5μgまたは10μgのいずれかのTALEヌクレアーゼmRNAによってトランスフェクトされた細胞を、4日間増殖させ(4日目、電気穿孔の4日後)、関心対象の遺伝子座におけるT7アッセイを実施するため収集した。T7アッセイプロトコルは、Reyon,D.,Tsai,S.Q.,Khayter,C.,Foden,J.A.,Sander,J.D.,and Joung,J.K.(2012) "FLASH assembly of TALE-nucleases for high-throughput genome editing". Nat Biotechnologiesに記載されている。
【0206】
関心対象の遺伝子(GOI)のKOを有するNK細胞の増殖速度の決定
GOI-KOを有するNK細胞を、WT細胞と比べて、増殖速度および再活性化について試験する。
【0207】
CAR mRNAトランスフェクション
NK細胞の精製および活性化の後、4日目または11日目にトランスフェクションを行った。5百万個の細胞を、異なるCAR構築物をコードする15μgのmRNAによってトランスフェクトした。CAR mRNAは、T7 mRNAポリメラーゼを使用して作製された。200μlの最終体積の「Cytoporation buffer T」(BTX Harvard Apparatus)において、0.4cmギャップキュベットにおいて、3000V/cmでの2回の0.1mSパルス、続いて、325V/cmでの4回の0.2mSパルスを適用することによって、Cytopulseテクノロジーを使用して、トランスフェクションを行った。細胞を、X-Vivo(商標)-15培地で直ちに希釈し、5%CO2で37℃でインキュベートした。IL-2を、20ng/mLで、電気穿孔の2時間後に添加した。
【0208】
NK細胞形質導入
CARを発現する組換えレンチウイルスベクターによるNK細胞の形質導入を、NK細胞精製/活性化の3日後に実施した。NK細胞の表面におけるCAR検出を、腫瘍標的タンパク質の細胞外ドメインとマウスIgG1 Fc断片との融合物からなる組換えタンパク質を使用して行った。このタンパク質のCAR分子との結合を、タンパク質のマウスFc部分を標的とする、蛍光色素がコンジュゲートされた二次抗体によって検出し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0209】
細胞傷害アッセイ
NK細胞を、同一のウェルにおいて、10,000個の標的細胞(腫瘍抗原を標的とするCARを発現する)および10,000個の対照細胞(抗標的CARを発現しない;「陰性対照」)と共に、96穴プレートにおいてインキュベートした(100,000細胞/ウェル)。標的細胞および対照細胞を、蛍光細胞内色素(CFSEまたはCell Trace Violet)によって標識した後、CAR+NK細胞と共培養した。共培養物を5%CO2で37℃で4時間インキュベートした。このインキュベーション期間の後、細胞を固定可能な生死判定色素によって標識し、フローサイトメトリーによって分析した。各細胞集団(標的細胞または陰性対照細胞)の生存度を決定し、特異的な細胞溶解の%を計算した。細胞傷害アッセイは、mRNAトランスフェクションの48時間後に実施された。
【0210】
実施例1:GFPによるNK細胞トランスフェクション
健常ドナーのPBMC由来の2.5 106個のNK細胞のバルクを、陰性対照(RNAがトランスフェクトされていない)と比較して、トランスフェクション速度を示すため、5μgのGFPをコードするRNA(SEQ ID NO.30)によってトランスフェクトした。72時間のトランスフェクションの後、NK細胞をFITCによって標識し、FACSによって分析した。
【0211】
結果は
図1に提示される。陰性対照(RNAなし)と比較して、約79%のGFPによってトランスフェクトされたNK細胞が得られる。この実験は、NK細胞トランスフェクションの条件およびプロトコルが、さらなる遺伝子改変実験を実施するために十分であることを示す。
【0212】
実施例2:NK細胞におけるβ2ミクログロブリン(β2M)遺伝子のノックアウト
全ての哺乳動物細胞と同様に、NK細胞は、重鎖(可変性であり、抗原性ペプチドを提示する)および非可変鎖(β2m)から構成されたMHCIを保持している。β2mの欠如は、細胞表面上の重鎖の発現を防止し、細胞を事実上MHCI KOにする。NK細胞におけるβ2ミクログロブリン(β2M)遺伝子のノックアウトは、それらを宿主T細胞に対して不可視にすることを目標とする。個体に由来する全ての細胞が、重鎖(可変性であり、抗原性ペプチドを提示する)および定常鎖(B2M)から構成されたMHCIを保持する。B2Mの欠如は、細胞表面上の重鎖の発現を防止し、従って、B2M KO細胞は事実上MHCI KOである。
【0213】
健常ドナーのPBMC由来の2.5 106個のNK細胞のバルクを、β2ミクログロブリン(β2M)をコードする遺伝子を不活化するため、TALEヌクレアーゼ(SEQ ID NO:21および22)をコードする20μgのRNAによってトランスフェクトした。72時間のトランスフェクションの後、NK細胞を、β2M特異的抗体によって標識し、FACSによって分析した。
【0214】
結果は
図2に提示される。野生型(WT)対照と比較して、約11%のβ2M遺伝子のKOが得られる。
【0215】
実施例3:NK細胞におけるTGFβ遺伝子のノックアウト
Tregの細胞膜におけるTGFβの存在は、NK細胞によって発現されたTGFβ受容体に結合し、腫瘍細胞に対する細胞傷害機能を抑制することが示されている。NK細胞のTreg依存性の阻害を防止するため、本発明者らは、DNA結合ドメインRVDを有する左TALENアーム(SEQ ID NO 2);DNA結合ドメインRVDを有する右TALENアーム(SEQ ID NO 3)を使用して、TGFβコード配列エクソン2(SEQ ID NO 1)を標的として、TGFβ受容体を不活化した;これらの配列は、全て、表1に挿入されている。NK細胞におけるTALEN対をコードするmRNAのトランスフェクションは、TGFβコード配列の効率的なプロセシングおよび表面膜発現の障害をもたらした。そのような不活化は、標的腫瘍細胞に対するNKの細胞溶解機能の増強をもたらした。
【0216】
実施例4:E3リガーゼCbl-b遺伝子のノックアウト
腫瘍転移に対するNK細胞の細胞傷害機能は、E3ユビキチンリガーゼCbl-b(GenBankアクセッション番号NC_000003)によって阻害されることが示されている。
【0217】
2セットの特異的TALENを作製した。第1のものは、Cbl-b遺伝子の第2コードエクソン内の配列(SEQ ID NO 4)を標的とする。DNA結合ドメインRVDを有する左TALENアーム(SEQ ID NO 5);およびDNA結合ドメインRVDを有する右TALENアーム(SEQ ID NO 6);これらの配列は、全て、表2に挿入されている。
【0218】
第2のものはCbl-b遺伝子の第3コードエクソン内の配列(SEQ ID NO 7)を標的とする;DNA結合ドメインRVDを有するSEQ ID NO 8の左TALENアーム;DNA結合ドメインRVDを有するSEQ ID NO 9の右TALENアーム;全て、表2に挿入されている。
【0219】
これらのCbl-b特異的TALENの、Cbl-b遺伝子座においてエラープローンNHEJ事象を促進する能力を試験するため、5μgまたは10μgのいずれかのTALENをコードするmRNAを、製造業者のプロトコルに従って、パルスアジャイルテクノロジーを使用して、初代NK細胞へ電気穿孔した。NK細胞におけるTALEN対をコードするmRNAのトランスフェクションは、コード配列の効率的なプロセシングおよび関連タンパク質の発現の障害をもたらした。E3ユビキチンリガーゼCbl-bの不活化は、標的腫瘍細胞に対するNK細胞の細胞溶解活性の増強をもたらした。
【配列表】