(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】弾性表面波デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20220303BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
H03H9/145 Z
(21)【出願番号】P 2018027225
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】320009163
【氏名又は名称】NDK SAW devices株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 祐也
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和博
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-326553(JP,A)
【文献】特開平10-178331(JP,A)
【文献】特開2006-042225(JP,A)
【文献】特開2006-135443(JP,A)
【文献】特開2010-177819(JP,A)
【文献】特開2018-026695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶層と、
前記水晶層上に積層された圧電層と、
前記圧電層上に形成され、当該圧電層に弾性表面波を励振するための櫛形電極と、を備え、
前記水晶層は、右ねじ方向の回転を+とすると、
水晶の結晶軸であるX軸、Y軸、Z軸に夫々一致するx1軸、y1軸、z1軸からなる三次元座標系を、x1軸を回転軸として+125.25°に対して±3°の範囲内で回転させ、
次いで、前記三次元座標系をz1軸を回転軸として+45°に対して±2°の範囲内で回転させ、
続いて、前記三次元座標系をx1軸を回転軸として-45°に対して±2°の範囲内で回転させた状態のz1軸の直交面を切断面として切断され、且つx1軸に平行する方向が前記弾性表面波の伝搬方向とされたものであることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記櫛形電極を構成する材料の密度をρ(kg/m
3)、前記弾性表面波の波長をλ(μm)、前記櫛形電極の厚さをh1(μm)、前記櫛形電極を構成する電極指の幅をw1(μm)とすると、
ρ(h1/λ)(w1/λ)=10.9kg/m
3~49.8kg/m
3であることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記弾性表面波の波長をλ(μm)、前記櫛形電極の厚さをh1(μm)とすると、
h1/λ=0.0162~0.0738であることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記圧電層は、X-29°~33°Y LiTaO
3であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記弾性表面波の波長をλ(μm)、前記圧電層の厚さをh2
(μm)とすると、h2/λ=0.032~0.203であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記弾性表面波デバイスは2GHz以上の帯域で使用されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性表面波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(surface acoustic wave:弾性表面波)を利用した弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話などの移動体通信システムの進化によって、狭帯域且つ急峻な減衰特性を有するSAWフィルタの要求が強まっている。そのため電気機械結合係数k2や周波数温度特性の指標である周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficients of Frequency)について良好な値を得るための様々な改善手法が報告されている。その改善手法として、波長程度の厚さの圧電基板と高音速基板とを貼り合わせた基板を用いてSAWフィルタを構成することが報告されている。このような貼り合わせた基板を用いる手法は、SAWフィルタのみならず、SAW共振器などの他の弾性表面波デバイスの特性を改善する手法としても知られている。
【0003】
非特許文献1では、42°Y-X LiTaO3基板、アモルファスSiO2膜、AlN基板及びSi層を上からこの順に貼り合わせた基板を用いたSAW共振器について示されている。そのような構成とすることで、アモルファスSiO2の温度補償効果、高音速基板であるAlNによる振動エネルギーの閉じ込め、及びSiによる放熱によって、42°Y-X LiTaO3基板単体でSAW共振器を構成する場合に比べて、Q値、k2及びTCFの各特性について改善される旨が記載されている。しかしこれらの特性について、簡単な構造で改善することが求められている。
【0004】
また、非特許文献2においてはX-31°Y LiTaO3基板、AT-45°Xの水晶基板を上からこの順に接合した基板(説明の便宜上、LT水晶接合基板とする)を用いてLongitudinal-Leaky SAW(LLSAW)共振器を構成することが報告されており、このLT水晶接合基板を用いることで、LiTaO3基板単体でLLSAW共振器を構成する場合に比べて、Q値、k2及びTCFについて改善できるとされている。このLT水晶接合基板を備えるLLSAW共振器については、λ=8μm、LiTaO3の基板の厚さ/λ=0.1、上記の当該LiTaO3基板上に形成されたAl(アルミニウム)である櫛形電極(IDT:Inter Digital Transducer)の厚さ/λ=0.013のときに、共振周波数におけるQ値は1057、比帯域幅は3.0%、k2=7.19%である。なお、λは弾性表面波の波長である。
【0005】
上記の非特許文献2において、X-31°Y LiTaO3基板単体でLSAW共振器を構成する場合の共振周波数におけるQ値は43、比帯域幅は2.1%であると報告されているため、上記のLT水晶接合基板を用いることで、Q値は大きく上昇し、比帯域幅も上昇することになる。これらのQ値及び比帯域幅は、1周期分のIDTの両側に周期境界条件として無限周期構造を、当該IDTの底面に完全整合層を夫々仮定した条件で、FEM(finite element method)により計算した結果である。また、文献中の図からLT水晶接合基板を用いた場合の共振点のTCFについては、IDTが付加されていない条件において、-14ppm/℃程度であると読み取れる。しかし、このように報告されているLLSAW共振器については、800MHz帯でQ値が1000程度とされており、実際のデバイスとして用いるには損失が大きすぎるという問題が有る。また、上記のLLSAW共振器の電極の膜厚は小さく、デバイスの反射特性が十分ではないという問題がある。また、LiTaO3基板の板厚が薄いため、製造することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tsutomu Takai et al. “I.H.P.SAW Technology and its Application to Microacoustic Components(Invited), ” Ultrasonic Symp.(2017)
【文献】LiNb03・LiTa03薄板と水晶基板の接合によるリーキー系SAWの高結合化 第46回EMシンポジウム EM46-2-01
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Q値を含む特性が良好であり、且つ反射特性が十分得られる弾性表面波デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性表面波デバイスは、
水晶層と、
前記水晶層上に積層された圧電層と、
前記圧電層上に形成され、当該圧電層に弾性表面波を励振するための櫛形電極と、を備え、
前記水晶層は、右ねじ方向の回転を+とすると、
水晶の結晶軸であるX軸、Y軸、Z軸に夫々一致するx1軸、y1軸、z1軸からなる三次元座標系を、x1軸を回転軸として+125.25°に対して±3°の範囲内で回転させ、
次いで、前記三次元座標系をz1軸を回転軸として+45°に対して±2°の範囲内で回転させ、
続いて、前記三次元座標系をx1軸を回転軸として-45°に対して±2°の範囲内で回転させた状態のz1軸の直交面を切断面として切断され、且つx1軸に平行する方向が前記弾性表面波の伝搬方向とされたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弾性表面波デバイスによれば、デバイスの反射特性が十分得られるように櫛形電極の厚さを比較的大きな値としても、Q値を含むデバイスの各特性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のSAWデバイスの一例であるラダー型フィルタの平面図である。
【
図3】デバイスを構成する水晶層におけるカット面及び波の伝搬方向を示す説明図である。
【
図4】デバイスを構成する水晶層におけるカット面及び波の伝搬方向を示す説明図である。
【
図5】デバイスを構成する圧電層におけるカット面及び波の伝搬方向を示す説明図である。
【
図6】デバイスを構成する水晶層及び圧電層の向きを示す斜視図である。
【
図7】デバイスを構成する圧電層及び電極の各厚さとデバイスの1/Qとの関係を示すグラフ図である。
【
図8】デバイスを構成する圧電層及び電極の各厚さとデバイスの1/Qとの関係を示すグラフ図である。
【
図9】前記圧電層の厚さ、水晶層のカットの角度との関係を示すグラフ図である。
【
図10】デバイスの損失と前記水晶層のカットの角度との関係を示すグラフ図である。
【
図11】前記圧電層の厚さ、水晶層のカットの角度との関係を示すグラフ図である。
【
図12】デバイスの損失と前記水晶層のカットの角度との関係を示すグラフ図である。
【
図13】圧電層の厚さと電極の厚さとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の弾性表面波デバイスの一実施形態である、複数のSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)共振子1をラダー型に組み合わせた、ラダー型フィルタ10を
図1に示している。このラダー型フィルタ10においては、入力ポート11と出力ポート12との間に3つのSAW共振子1が互いに直列となるように各々直列腕として配置され、これらSAW共振子1、1間に1つのSAW共振子1が並列に、各々並列腕として接続されている。なお、各SAW共振子1については簡略化して描画している。図中13は接地ポートである。図中14は、各々のSAW共振子1、1同士あるいはSAW共振子1と各ポート11、12、13とを電気的に接続する引き回し電極である。
【0012】
SAW共振子1は、IDT(櫛形電極)15と、弾性表面波(以下、「弾性波」と言う)の伝搬方向においてこのIDT15の両側に形成された反射器16、16と、を備えている。IDT15は、弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びると共に弾性波の伝搬方向に対して互いに直交する方向に離間するように配置された一対のバスバー17、17と、これらバスバー17、17間において互いに交差するように櫛歯状に形成された複数本の電極指18と、を備えている。IDT15は、一対のバスバー17、17のうち一方側のバスバー17から伸びる電極指18と、当該電極指18に隣接して他方側のバスバー17から伸びる電極指18と、が弾性波の伝搬方向に沿って交互に配置されて正規型電極をなしている。図中21は反射器バスバー、22は反射器電極指である。IDT15、反射器16、引き回し電極14、各ポート11、12、13、反射器バスバー21及び反射器電極指22を電極膜23として記載する場合が有る。この電極膜23は例えばAl(アルミニウム)により構成されており、基板3上に形成されている。
【0013】
図2は
図1のA-A矢視断面であり、IDT15の電極指18及び基板3の縦断側面を示している。この
図2に示すように、互いに隣接する2本の電極指18、18の各々の幅寸法と、これら電極指18、18間の離間寸法と、からなる周期長が基板3上を伝搬する弾性波の周波数に対応する。具体的には、前記周期長は、所望の周波数における弾性波の波長λと同じ寸法となっている。この例では、基板3表面を伝搬するLLSAWの周波数fが2GHz以上となるように、周期長λが構成されている。具体的には、例えば、fが2GHzのとき、上記の弾性表面波の速度Vsが6000m/秒である場合には、λは3μmに設定される。
【0014】
基板3は、水晶層(水晶基板)31、LiTaO3(以下、LTと記載する場合が有る)である圧電層(圧電基板)32が下方側から、この順に積層されて構成されており、圧電層32上には既述の電極膜23が積層されている。水晶層31及び圧電層32については、このように互いに接合されることで、基板3の表面のエネルギーがバルク波として漏れてQ値などのデバイスの特性を低下させることが抑制される。そして、これら水晶層31及び圧電層32について、各々後述のカット面及びSAWの伝搬方向を有する構成とすることで、デバイスの特性を特に良好なものにすることができる。
【0015】
先ず、水晶層31のカット面及び波の伝搬方向について、
図3、
図4を参照しながら説明する。
図3及び
図4では、一点鎖線の矢印によって互いに直交する水晶の結晶軸(X軸、Y軸、Z軸)を示し、実線の矢印によって互いに直交するx1軸、y1軸、z1軸を示す。x1、y1、z1の各軸は、方位を特定するために設定された三次元座標系の座標軸である。なお、
図3(a)はX軸,Y軸、Z軸が、x1軸,y1軸、z1軸に夫々一致しているため実線の矢印のみを示している。X軸、Y軸、Z軸で表される座標系を結晶座標系、x1軸、y1軸、z1軸で表される座標系を方位座標系とする
【0016】
図3(a)に示す状態から、先ずx1軸(この時点ではX軸に等しい)を回転軸として、方位座標系を結晶座標系に対して回転させる(
図3(b)参照)。この回転の角度をθとすると、ここではθ=125.25°とする。なお、この角度θについてはx1軸=X軸回りの回転が起こらない場合をθ=0°とし、右ねじ方向の回転を+の値として表される角度である。続いてz1軸を回転軸として、方位座標系を結晶座標系に対して回転させる(
図4(c)参照)。この回転の角度をψとすると、ここではψ=45°とする。このψについては、z1軸回りの回転が起こらない場合をψ=0°とし、右ねじ方向の回転を+の値として表される角度である。なお、
図4(c)中の点線の矢印は、角度ψで回転する前のy1軸を示している。
【0017】
然る後、x1軸を回転軸として、方位座標系を結晶座標系に対して回転させる(
図4(d)参照)。この回転の角度をμとすると、ここではμ=-45°とする。このμについては、このx1軸回りの回転が起こらない場合をμ=0°とし、右ねじ方向の回転を+側の値として表される角度である。つまりμ=-45°は左ねじ方向に方位座標系を45°回転させることになる。なお、
図4(d)中の点線の矢印は、角度μで回転する前のy1軸及びz1軸を示している。このように回転された方位座標系のz1軸に直交する面をカット面とし、x1軸方向をSAWの伝搬方向として、水晶から切り出された水晶基板が上記の水晶層31である。
図4(d)中において、上記のカット面である水晶層31の主面をC、SAWの伝搬方向を二点鎖線の矢印で各々示している。
【0018】
水晶層31におけるカット面C及びSAWの伝搬方向について、さらに補足して説明する。オイラー角による表記で(φ、θ、ψ)と表される水晶基板については、
図3(a)に示したように結晶座標系と方位座標系との各軸が一致する状態から、方位座標系を結晶座標系に対してz1軸回りにφ(単位:°)、x1軸回りにθ(単位:°)、z1軸回りにψ(単位:°)の順で回転させたときのz1軸に直交する面をカット面とし、x1軸方向をSAWの伝搬方向として水晶から切り出されたものを示す。なおφもθ、ψと同様に、+である場合に右ねじ回りに回転していることを示す。上記の水晶層31はオイラー角による表記で、φ=0°、θ=125.25°、ψ=45°として定まる方位座標系を、さらにμ=-45°回転させることで定まる方位座標系に基づいてカット面及びSAWの伝搬方向が決定された水晶基板である。
【0019】
図2に戻って説明を続ける。圧電層32はLiTaO
3(タンタル酸リチウム、以下、LTと表記する)により構成されており、より具体的にはX-31°Y LTにより構成されている。
図5も用いて、このX-31°Y LTについて説明しておくと、この
図5中のXYZの各軸はLTの結晶軸を示している。X軸を回転軸としてY軸からα°回転した軸をY′軸とし、このY′軸がSAWの伝搬方向であるものとする。なおαが+の場合、右ねじ方向に回転するものとし、Y′軸がY軸に一致するときにα=0°とする。X-31°Yのハイフンの前の表記はカットの方向を示しているため、この場合はXカットされたことを示している。つまり
図5に斜線を付して示したX軸に直交する平面が圧電層32のカット面であり、符号Dを付している。またハイフンの後の表記は上記のα°を示している。なお、上記のオイラー角(φ、θ、ψ)によりこの圧電層32を表記した場合は、φ=90°、θ=90°、ψ=31°である。
【0020】
上記の水晶層31及び圧電層32の接合の向きについて、
図6を参照して説明しておく。説明の便宜上、水晶層31の2つの主面Cのうちの一方を表面C1、他方を裏面とし、圧電層32の2つの主面Dのうちの一方を表面D1、他方を裏面D2とする。
図6では、水晶層31の表面C1を圧電層32に対する接合面とした、接合例を示している。この
図6で水晶層31及び圧電層32に示した二点鎖線の矢印は、
図4(d)及び
図5の二点鎖線の矢印と同じく、SAWの伝搬方向を示しており、この矢印の基端側を一端、先端側を他端とする。
【0021】
図6に示すように水晶層31及び圧電層32は、SAWの伝搬方向が互いに平行するように接合されて基板3をなす。つまり、水晶層31の表面C1に対して、圧電層32の表面D1及び裏面D2のうちのいずれも接合することができ、その水晶層31の表面の一端に対して圧電層32の一端及び他端のうちのいずれも接合することができる。同様に水晶層31の裏面に対して、圧電層32の表面D1及び裏面D2のいずれも接合することができ、その水晶層31の裏面の一端に対して圧電層32の一端及び裏面のいずれも接合することができる。これは水晶及びLTを各々構成する結晶の対称性により、水晶層31及び圧電層32について波の伝搬方向が互いに平行すれば、基板3の特性は変化しない、または略変化しないためである。
【0022】
続いて、
図2に戻って電極指18について説明する。この電極指18の厚さをh1(単位:μm)とし、この厚さh1を既述の波長λ(単位:μm)で除すことで規格化して表す厚さを、電極指18の規格化厚さ(h1/λ)とする。また、電極指18の幅をw1(単位:μm)とし、この幅w1を既述の波長λ(単位:μm)で除すことで規格化して表す長さを、電極指18の規格化幅(w1/λ)とする。なお、図中で示す、隣接する電極指18間の大きさW2(単位:μm)はW1に等しく、W1+W2=λ/2である。
【0023】
電極指18を構成する材料の密度をρ(単位:kg/m3)とする。IDT15を構成する電極指18としては、その機能を果たしてSAWデバイスの設計が適切に行えるようにするために、適切な波動の反射量|κ12′|を有することが必要であり、具体的には0.025≦|κ12′|≦0.04であることが好ましい。なお、|κ12′|については、以降は簡単にκ12と書き表す場合が有る。後の試験についての結果として説明するが、κ12はρ(h1/λ)(w1/λ)と対応しており、実用上適切な反射量κ12を得るためには、12kg/m3≦ρ×(h1/λ)×(w1/λ)≦50kg/m3となるように、電極指18についての材料、規格化厚さ、規格化幅を各々決定することが好ましい。
【0024】
この例では電極指18を含む電極膜23はAl(アルミニウム)により構成されているものとし、そのように電極指18をAlにより構成した場合は、上記のh1をhAl、w1をwAlとして夫々表す。なお、電極膜23の材料としてはAlにより構成されることには限られず、Au(金)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Pt(白金)、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)などの金属や、以上に挙げた金属を含む合金によって形成することができる。以上に挙げた金属の積層体によって電極膜23を構成してもよい。
【0025】
ところで上記の圧電層32について補足して説明すると、
図2中でその厚さをh2として示している。そして、このh2をλで除すことで規格化して表す厚さを圧電層32の規格化厚さ(h2/λ)とする。後述するように、圧電層32はLTであることには限られないが、圧電層32がLTである場合、当該圧電層32の厚さh2を、hLTとして表す。
【0026】
以下、
図2で示した水晶層31、LTである圧電層32及びAlである電極指18が積層されたSAWデバイスに関して、シミュレーションにより行った試験について説明する。各シミュレーションにおいては、粘性損失については含まれず、且つSAWデバイスは無限周期構造を有するものとして設定されている。
共振周波数(fr)におけるQ値(Qr)及び反共振周波数(fa)におけるQ値(Qa)について、Qrの一方のみが良好となる条件(第1の条件とする)、Qr及びQaの両方が良好となる条件(第2の条件とする)を夫々算出する試験を行った。便宜上、当該試験を試験1とする。上記のQrの一方のみが良好となる条件とはQrが最大となる条件であり、Qr及びQaの両方が良好となる条件とは、1/Qr及び1/Qaのうちのどちらか大きい方の値が最小となる条件である。なお、この試験1では
図3、
図4で説明した(θ、ψ、μ)については、既述したとおりθ=125.25°、ψ=45°、μ=-45°に設定している。
【0027】
試験の結果を説明するにあたり、便宜上、frにおけるTCFをTCF-fr、faにおけるTCFをTCF-faとする。またk2については、{(π/2・fr/fa)/tan(π/2・fr/fa)}として算出している。
上記の第1の条件としては、λ=8μm、hLT/λ=0.13、hAl/λ=0.052であるときに、Vs=5951m/秒、Qr=110888、Qa=1621、k2=7.72%、TCF-fr=-11.4ppm/℃、TCF-fa=-35.6ppm/℃、κ12=0.0352であった。
上記の第2の条件としては、λ=8μm、hLT/λ=0.18、hAl/λ=0.065であるときに、Vs=5840m/秒、Qr=3961、Qa=3896、k2=7.73%、TCF-fr=-14.64ppm/℃、TCF-fa=-40.59ppm/℃、κ12=0.0371であった。
【0028】
背景技術の項目で説明したLT水晶接合基板を備えるLLSAW共振器については、既述のようにhAl/λ=0.013、hLT/λ=0.1で、Qr=1057、k2=7.19%、TCF-fr=-14ppm程度である。従って、このLT水晶接合基板を備えるLLSAW共振器と比べると、本発明の実施形態のSAWデバイスにおいては、hAl/λ及びhLT/λがより大きい条件で、Qr及びk2について、より高い値が得られている。hAl/λ、hLT/λについてはデバイスの製造時及び量産時に膜厚の制御を容易にする観点から、大きいことが好ましい。また、第1の条件及び第2の条件におけるκ12は、既述した好ましい範囲(0.025~0.04)に含まれる値となっている。なお、k2については、SAWデバイスが搭載される機器に応じた適切な値が有るが、一般的に高い値であることが、デバイスの汎用性が大きくなるため好ましい。以上のように、この試験1の結果からは本発明の実施形態に係るSAWデバイスによれば、hAl/λ、hLT/λを各々比較的大きい値に設定することができ、且つQr及びk2について、従来技術に比べてより望ましい値が得られることが確認された。
【0029】
続いて、
図2で説明した本発明の実施形態のSAWデバイスに関して、角度θ、hAl/λ、hLT/λを夫々変更したときの共振周波数(fr)、反共振周波数(fa)の各々における損失の変化を調べた試験について説明する。便宜上、当該試験を試験2とする。上記の損失は1/Qであり、従って、この試験2では1/Qr及び1/Qaを測定している。なお、この試験2では角度ψ、μについては、
図3、
図4で説明したように45°、-45°に夫々設定されている。
【0030】
図7、
図8は、角度θが126°であるときの結果を示すグラフであり、
図7が1/Qrに関する結果、
図8が1/Qaに関する結果を夫々示している。そして、これらの
図7、
図8の各グラフにおける横軸はhLT/λ、縦軸は1/Qrまたは1/Qaを夫々示している。そして、各グラフ中、互いに異なる線種によってhAl/λの値を示している。SAWデバイスを2GHz以上の帯域で使用するためには、Q値(Qr及びQa)については1000以上であることが好ましく、従って1/Q(=1/Qr及び1/Qa)については0.001以下であることが好ましい。
図7、
図8のグラフから、hLT/λの範囲及びhAl/λの範囲を各々適切に設定することで、1/Qr、1/Qaを夫々0.001以下とすることができることが分かる。なお、角度θについては120°~130°の範囲内において2°刻みで変更して試験を行っており、各角度θについて
図7、
図8と同様にhLT/λと1/QとhAl/λとの関係を示すグラフを取得している。この角度毎におけるhLT/λと1/QとhAl/λとの関係を示すグラフを説明の便宜上、角度区分グラフとする。つまり複数取得された角度区分グラフのうち、θ=126°であるものを代表して
図7、
図8に示している。
【0031】
図9、
図10は、試験2の結果を上記の角度区分グラフとは異なる態様で示したグラフである。
図9(a)、
図10(a)は、hAl/λ=0.05(=5%)である場合の結果を、
図9(b)、
図10(b)は、hAl/λ=0.06(=6%)である場合の結果を、
図9(c)、
図10(c)は、hAl/λ=0.07(=7%)である場合の結果を、夫々示したものである。
図9(a)~(c)の各グラフでは、縦軸にhLT/λが、横軸に角度θが夫々設定されている。そして、各角度区分グラフから読み取られた1/Qr、1/Qaが夫々最小となるhLT/λについてプロットされている。
図10(a)~(c)の各グラフでは縦軸に1/Qが、横軸に角度θが夫々設定されている。そして
図9でプロットされたhLT/λに対応する1/Qr、1/Qa、つまり1/Qr、1/Qaの各最小値についてプロットされている。これら
図9、
図10の各グラフにおいては、1/Qrについてプロットされた各点は実線で、1/Qaについてプロットされた各点は点線で夫々結ばれて示されている。
【0032】
図9の各グラフから、角度θが変化しても損失が最小となるhLT/λは殆ど変化せず、hLT/λの角度θの依存性は比較的小さいことが分かる。また、hAl/λが大きくなると、1/Qrについて最小となるhLT/λと、1/Qaについて最小となるhLT/λとの差が大きくなる傾向が有ることが分かる。また、
図10の各グラフから1/Qrが最小となる角度θは、hAl/λによって変化するが、hAl/λが変化してもそのように最小となる1/Qrは大きく変化しないことが分かる。そして、角度θが所定の値であるときの1/Qaについては、hAl/λが大きいほど小さいことが分かる。
【0033】
図11は、試験2の結果をさらに異なる態様で示したグラフである。既述の角度区分グラフから、1/Qr及び1/Qaのどちらか大きい方の値が最小となるLT/λの値を読み取り、プロットしたものがこの
図11のグラフである。つまり、Qr及びQaの両方が良好になるLT/λを読み取ってプロットしている。この
図11のグラフにおける縦軸はそのように読み取ったLT/λを、横軸は角度θを夫々示している。上記のLT/λの読み取りはAl/λ毎に行い、上記のプロットもhAl/λ毎に行っている。そして、プロットされた各点について、hAl/λの値に応じた種類の線で結んでいる。この
図11のグラフからは、角度θが120°~130°の範囲内の所定の値であるときに、Al/λの値が大きいほどQr及びQaを共に良好な値とするhLT/λの値が大きいことが分かる。上記したようにデバイスの量産の容易性を高くすること及び適切な反射量を確保するために、hLT/λ及びAl/λについては比較的大きな値とすることが望ましいので、このように高いQ値を得るためのhLT/λ及びAl/λが大きいことは好ましい。
【0034】
続いて、
図12(a)~(c)の各グラフについて説明する。この
図12のグラフについては、
図10のグラフと同様に1/Qが縦軸、角度θが横軸に夫々設定されたものである。そして
図12(a)、(b)、(c)の各グラフが、hAl/λが夫々0.05、0.06、0.07に設定されたときの1/Qとθとの関係を表している。ただし
図12の各グラフについては、Qr及びQaの両方が良好な値となるようにhLT/λが設定されたときの1/Qとθとの関係を示すという点で、
図10の各グラフと異なっている。具体的には
図12(a)、(b)、(c)の各グラフは、
図11のhAl/λとθより決まるhLT/λであるときの1/Qとθとの関係を示している。
【0035】
この
図12のグラフのうち、hAl/λ=0.07である
図12(c)のグラフを見ると、設定された角度θの範囲内で1/Qr、1/Qa共に0.001以下となっており、θ=125.25°及びその付近で1/Qr及び1/Qaが特に小さくなることが確認された。つまり、このようにθを設定したときに他のパラメータを適切に設定することで、Qr、Qaが共に高い値になることがこの
図12(c)のグラフから予測される。なお試験1の結果として説明したように、θ=125.25°であるときに、hLT/λ=0.18、hAl/λ=0.065とすることによって、そのようにQr及びQaが共に高い値になることが確認されている。
【0036】
また、
図13にはhLT/λを縦軸に、hAl/λを横軸に夫々設定したグラフを示している。この
図13のグラフは、角度θ=125.25°である場合において、既述したQr及びQaの両方が良好になるときのhLT/λ及びhAl/λについてプロットしたものである。そして、プロットされた各点から近似直線L1を算出して、グラフ中に示している。この近似直線L1については、hLT/λ=2.96×hAl/λ-1.58×10
-2、相関係数R
2=0.998であった。従ってQr及びQaの両方が良好になるhLT/λとhAl/λとの間には線形相関があると言える。
【0037】
ところで、この試験2では角度θ=125.25°であるときのhAl/λと反射量κ12とρ(hAl/λ)(wAl/λ)との関係についても調べている。
図14(a)のグラフについては、縦軸にκ12が、横軸にhAl/λが夫々設定されており、互いに異なる値に設定されたhAl/λから算出されたκ12についてプロットして示している。なお、hAl/λが0.04、0.05、0.06、0.07であるときに対応するhLT/λは、夫々0.104、0.13、0.162、0.192である。また、
図14(b)のグラフについては、縦軸にκ12が、横軸にρ(hAl/λ)(wAl/λ)が夫々設定されている。この
図14(b)グラフにおいては、
図14(a)のグラフの各点と、κ12について同じ値となるようにプロットされている。
【0038】
図14(a)ではプロットされた各点から得られる近似直線L2を示している。この近似直線L2については、κ12=2.60×10
-1×hAl/λ+2.08×10
-2であり、相関係数R
2=0.996である。また、
図14(b)ではプロットされた各点から得られる近似直線L3を夫々示している。この近似直線L3については、κ12=3.85×10
-4×ρ(hAl/λ)(wAl/λ)+2.08×10
-2であり、相関係数R
2=0.996である。このように近似直線L2、L3の各相関係数から、hAl/λ、κ12、ρ(hAl/λ)(wAl/λ)との間には線形関係が有ると言える。
【0039】
既述したように、実用上有効なκ12は0.025~0.04である。
図14(b)のグラフより、このκ12の範囲に対応するρ(hAl/λ)(wAl/λ)は、10.9kg/m
3~49.8kg/m
3である。また、
図14(a)のグラフより、上記のκ12の範囲に対応するhAl/λの範囲としては0.0162~0.0738であり、このhAl/λの範囲に対応するhLT/λの範囲としては、
図13のグラフより0.032~0.203である。従って、hAl/λ、hLT/λについては、これらの範囲に設定することが好ましい。ただし、hAl/λの値を比較的大きくしてデバイスの量産の容易性を確保する観点から、当該hAl/λについては例えば0.030~0.074とすることがより好ましい。また、このhAl/λに対応する範囲であるhLT/λは
図13のグラフより0.073~0.203であり、hLT/λはこの範囲内の値に設定することがより好ましい。
【0040】
以下、試験2の結果についてまとめる。既述のようにhAl/λを比較的大きくすることが好ましいが、
図12(c)より、そのようにhAl/λ=0.07(7%)と比較的大きい値に設定するときに角度θを125.25°あるいはその付近に設定することで、1/Qr、1/Qaを共に小さくすることができることが確認された。具体的に、θ=125.25°に対して±3°の範囲内、つまりθ=122.25°~128.25°に設定する。また、より好ましくはθ=125.25±1°の範囲内に設定する。なお
図12(a)(b)より、hAl/λ=0.05、0.06である場合には、θの値が125.25°よりも高い方が、1/Qr及び1/Qaの両方について比較的低い値に抑えられている。従ってhAl/λが0.07より低いときには、θは125.25°より大きな値に設定することが好ましいと考えられる。ところで、角度ψ及びμについてはこの試験2で設定した値から大きく変更しなければデバイスの特性は大きく変わらないと考えられる。具体的にこの試験で設定された値に対して±2°の範囲内であればよいと考えられる。つまりψ=43°~47°、μ=-47°~-43°であればよい。そして、この試験で設定された値に対して±1°の範囲内、つまりψ=44°~46°、μ=-46°~-44°であれば好ましい。
【0041】
そして、この試験2では上記のようにθ=125.25°、ψ=45°、μ=-45°に夫々設定することで、ρ(hAl/λ)(wAl/λ)について、比較的広い範囲である10.9kg/m3~49.8kg/m3において望ましいκ12が得られることが確認された。そしてρ(hAl/λ)(wAl/λ)は、hAl/λ及びhLT/λに対応しているため、ρ(hAl/λ)(wAl/λ)について比較的広い範囲に設定し得ることは、これらhAl/λ及びhLT/λについても比較的広い範囲に設定し得ることであり、当該hAl/λ及びhLT/λについて、デバイスを量産する上で有利な、比較的大きい値を設定することができる。
なお、試験2の説明としてはTCF、k2、Q値のうちQ値について検討したように述べたが、実際にはこの試験2で設定されたパラメータ(θ、hAl/λ、hLT/λ)の範囲内では、TCF、k2の各値は大きく変動しないことが確認されている。つまり、試験1の結果として説明したTCF、k2の各値から大きく変動しない。
【0042】
ところで、圧電層32についてはカットされる角度が既述した値から大きくずれなければ、製造されるSAWデバイスの特性としては大きく変化しないと考えられる。そこで例えば
図5で説明したαについては、31°に対して±2°の範囲内であればよいと考えられる。従って、例えばX-29°~33°Yであれば好ましいと考えられる。また、この圧電層32としてはLTにより構成することに限られず、例えば結晶の構造がLTに類似しているLiNbO
3(ニオブ酸リチウム)により構成してもSAWデバイスはLTを用いた場合と概ね同様の特性を得られると考えられる。また、
図2で説明した電極膜23及び基板3の積層体は、
図1に示したラダー型フィルタ10以外にも、ラダー型フィルタを受信側フィルタ及び送信側フィルタに各々適用したデュプレクサや、あるいは共振子1を用いた発振器に適用することができる。つまり本発明のSAWデバイスは、ラダー型フィルタ10に限られるものではない。
【符号の説明】
【0043】
1 SAW共振子
10 ラダー型フィルタ
18 電極指
23 電極膜
3 基板
31 水晶層
32 圧電層