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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】ヒートシンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/40 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
H01L23/40 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018041416
(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2019160852
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】伊川 俊輔
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-277768(JP,A)
【文献】特開2012-146801(JP,A)
【文献】特開2016-100456(JP,A)
【文献】特開2017-098439(JP,A)
【文献】特開2016-120526(JP,A)
【文献】特開平06-177289(JP,A)
【文献】特開2017-220539(JP,A)
【文献】特開2016-012612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0054023(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース板の一面に複数のフィンが一体に形成されるヒートシンクを得るためのヒートシンクの製造方法であって、
アルミニウム製の心材と、その心材の一面に積層され、かつろう材によって構成される一面ろう材層とを備えた鍛造素材を準備しておき、
その鍛造素材を型鍛造加工によって塑性変形させることによって、フィンの先端に、前記一面ろう材層のろう材による先端接合層が形成されたヒートシンクを製造するものとし、
前記ヒートシンクにおけるフィンの周側面にろう材が被着されていないことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項2】
前記鍛造素材は、前記心材の他面に積層され、かつろう材によって構成される他面ろう材層を備える請求項1に記載のヒートシンクの製造方法。
【請求項3】
前記ヒートシンクにおける他面に、前記他面ろう材層のろう材による他面接合層が形成されている請求項に記載のヒートシンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたヒートシンクのピンフィン先端に、前記先端接合層のろう材を利用してアルミニウム製の接合用部品をろう付け接合することによって冷却装置を製造するようにしたことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【請求項5】
ベース板の一面に複数のフィンが一体に形成されたアルミニウム製のヒートシンクであって、
前記フィンの先端に、ろう材によって構成される先端接合層が形成されるともに、前記ベース板の一面における複数のフィンの各間に、ろう材によって構成される一面接合層が形成され、
前記フィンの周側面にろう材が被着されていないことを特徴とするヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクを型鍛造加工によって成形するようにしたヒートシンクの製造方法およびその関連技術に関する。なお本発明において、アルミニウム(Al)という場合、純アルミニウム(純Al)およびアルミニウム合金(Al合金)の双方を含むものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートシンクは、パーソナルコンピュータのCPUやチップセット、AVアンプやオーディオ機器のパワートランジスタ、電気自動車やハイブリッド車(HV車)のインバータ等の発熱体の温度を下げることを目的として広く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1は、ベース板と、その一面に設けられた多数のピン型形状のフィン(ピンフィン)とを備えたヒートシンクを、型鍛造によって製造するようにした技術を開示している。
【0004】
このようなヒートシンクを、パワーモジュール用の水冷式冷却装置として利用するような場合例えば、ヒートシンクのベース板外周縁部と、多数のピンフィンの各先端とを金属製の流路部材に接合して、ヒートシンクのベース板と流路部材とによってピンフィンを囲うような冷却水用流路(冷却ジャケット)を形成するようにしている。
【0005】
従来、ヒートシンクのピンフィン先端を金属製流路部材等の接合用部品に接合するには、ろう付けを用いるのが一般的である。例えば接合用部品を、ろう材がクラッドされたブレージングシートの成形品によって構成しておき、そのブレージングシート製の他の部品にヒートシンクのピンフィン先端を圧接した状態で加熱することにより、ろう材を溶融固化して、ピンフィン先端を接合用部品に接合する方法が多く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-192708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のヒートシンクにおいて、そのピンフィン先端に接合用部品を直接、ろう付け接合する場合には、接合用部品をブレージングシートによって構成する必要があるため、例えばブレージングシートによって容易に作製できないような切削加工品等を接合用部品として用いることは困難である。このように従来のヒートシンクにおいては、ろう付け接合される接合用部品がブレージングシート製に制限されるため、設計の自由度が低くなり、製品価値の低下を来すおそれがあるという課題があった。
【0008】
一方、ろう材を有しないベア材によって構成された接合用部品を、ヒートシンクのピンフィン先端に接合する場合、ヒートシンクのピンフィンと接合用部品との間に、ろう材シート、ろう材ペースト、ブレージングシート等のろう材供給用の部材(以下「ろう材シート等」と称する)を介在すれば、ピンフィン先端を接合用部品に確実にろう付け接合することができる。しかしながらその場合には、ろう材シート等を別途追加する分、部品点数が増加して、生産効率の低下を来すとともに、コストの増大を招くという別の課題が生じてしまう。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ろう材シート等を別途用いることなく、ブレージングシート製以外の接合用部品に対してもフィン先端を確実に接合できて、設計の自由度が増して製品価値を高めることができる上さらに、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができるヒートシンクの製造方法およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の手段を提供する。
【0011】
[1]ベース板の一面に複数のフィンが一体に形成されるヒートシンクを得るためのヒートシンクの製造方法であって、
アルミニウム製の心材と、その心材の一面に積層され、かつろう材によって構成される一面ろう材層とを備えた鍛造素材を準備しておき、
その鍛造素材を型鍛造加工によって塑性変形させることによって、フィンの先端に、前記一面ろう材層のろう材による先端接合層が形成されたヒートシンクを製造するようにしたことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【0012】
[2]前記ヒートシンクにおけるフィンの周側面にろう材が被着されていない前項1に記載のヒートシンクの製造方法。
【0013】
[3]前記鍛造素材は、前記心材の他面に積層され、かつろう材によって構成される他面ろう材層を備える前項1または2に記載のヒートシンクの製造方法。
【0014】
[4]前記ヒートシンクにおける他面に、前記他面ろう材層のろう材による他面接合層が形成されている前項3に記載のヒートシンクの製造方法。
【0015】
[5]前項1~4のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたヒートシンクのピンフィン先端に、前記先端接合層のろう材を利用してアルミニウム製の接合用部品をろう付け接合することによって冷却装置を製造するようにしたことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0016】
[6]ベース板の一面に複数のフィンが一体に形成されたアルミニウム製のヒートシンクであって、
前記フィンの先端に、ろう材によって構成される先端接合層が形成されるともに、前記ベース板の一面における複数のフィンの各間に、ろう材によって構成される一面接合層が形成され、
前記フィンの周側面にろう材が被着されていないことを特徴とするヒートシンク。
【発明の効果】
【0017】
発明[1]にかかるヒートシンクの製造方法によれば、フィンの先端にろう材による先端接合層が形成されているため、この先端接合層のろう材を利用して、金属製の接合用部品を直接ろう付け接合することができる。従って本発明によるヒートシンクは、接合用部材としてブレージングシート製以外のものも難なく用いることができ、設計の自由度が増すため、製品価値を向上させることができるとともに、ろう材シート等を省略できる分、部品点数を削減できるため、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0018】
発明[2]にかかるヒートシンクの製造方法によれば、フィンの周側面にろう材が被着されていないため、フィンの周側面に被着しているろう材がろう付け時に溶融滅失して、フィン形状が変化してしまうのを防止できるので、フィン部の寸法精度を高く維持することができ、良好な放熱特性を得ることができる。
【0019】
発明[3][4]にかかるヒートシンクの製造方法によれば、ベース板の他面側にも他面接合層が形成されているため、その他面接合層のろう材を利用して、ベース板の他面側にも接合用部品をろう付け接合することができる。
【0020】
発明[5]にかかる冷却装置の製造方法によれば、発明[1]~[4]によるヒートシンクを用いて冷却装置を製造するものであるため、上記と同様に、製品価値の向上、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0021】
発明[6]にかかるヒートシンクによれば、発明[1]~[4]の製法によって製造されたヒートシンクと同様の構成を備えるため、上記と同様に、製品価値の向上、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1はこの発明の実施形態の製法を実施可能な鍛造加工装置をパンチ上昇状態で示す略正面断面図である。
図2図2は実施形態の鍛造加工装置をパンチ降下状態で示す略正面断面図である。
図3図3は実施形態で製造されたヒートシンクを示す斜視図である。
図4図4は実施形態のヒートシンクの一部を拡大して示す正面断面図である。
図5図5は実施形態で用いられた鍛造素材を示す正面断面図である。
図6図6は本発明によるヒートシンクを用いて製作された冷却装置の一例を分解状態で示す模式断面図である。
図7図7は上記冷却装置の一例を組立状態で示す模式断面図である。
図8図8は本発明によるヒートシンクを用いて製作された冷却装置の他の例を分解状態で示す模式断面図である。
図9図9はこの発明の変形例によって製造されたヒートシンクを示す正面断面図である。
図10図10は変形例のヒートシンクを製造する際に用いられた鍛造素材を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1および図2はこの発明の実施形態にかかるヒートシンクの製造方法に用いられた鍛造加工装置の一例を概略的に示す正面断面図である。本実施形態においては、図1および図2に示す鍛造加工装置を用いて、鍛造素材2に対し、型鍛造加工を行って、鍛造加工品としてのヒートシンク9を成形するものである。鍛造素材2については後に説明するが、アルミニウム製のものが好適に用いられる。
【0024】
図3は実施形態の鍛造加工装置によって製造されたヒートシンク9を示す斜視図である。同図に示すように、このヒートシンク9は、矩形状のベース板91と、そのベース板91の上面(一面)に形成された多数のピンフィン92とを備えている。各ピンフィン92は、柱状に形成されており、ベース板91に対し一体に形成されている。
【0025】
なお本実施形態において、成形直後の金型内でのヒートシンク9の姿勢によって、ヒートシンク9の向きを決定している。具体的には、本実施形態において、ヒートシンク9のピンフィン92が形成されている側の面を一面とし、ピンフィン92が形成されていない側の面を他面として説明している。さらに鍛造素材2においては、ピンフィン92を形成する予定の面を一面とし、その反対側の面を他面として説明している。
【0026】
図1,2に示すように、本実施形態で用いられる鍛造加工装置は、下金型としてのダイ1と、上金型としてのパンチ5と、パンチ5を保持するパンチホルダー62と、背圧を付与するための背圧付与機構7とを基本的な構成要素として備えている。
【0027】
ダイ1の上面には、ヒートシンク9のベース板91を成形するための成形凹部11が形成されている。
【0028】
なお、ダイ1における成形凹部11の底壁部には、図示しないノックアウトピンが、成形凹部11の底面から上方に突出可能に収容されている。そして後に詳述するようにダイ1の成形凹部11で成形されたヒートシンク9は、上記ノックアウトピンにより突き上げられて、ヒートシンク9が成形凹部11から上方へ少量突出して配置されるようになっている。
【0029】
パンチ5は、下端が閉塞された有底円筒状に形成されており、その底壁部に、上記ダイ1の成形凹部11に対応するパンチ本体51が形成されている。
【0030】
パンチ本体51には、鍛造加工品としてのヒートシンク9のピンフィン92を成形するための多数のフィン成形孔52が形成されている。各フィン成形孔52は、上下方向に貫通しており、上端がパンチ5の内部空間に開放されるとともに、下端がパンチ下方に開放されている。さらに各フィン成形孔52の水平断面形状は、ピンフィン92の水平断面形状に対応して形成されている。
【0031】
パンチ5の上端面には、その上端開口を閉塞する態様にパンチプレート61が配置されている。そしてその状態で、パンチ5およびパンチプレート61がパンチホルダー62に保持されている。
【0032】
またパンチホルダー62は、図示しないガイドポスト等によって昇降自在に支持されて、パンチ5が、その軸心をダイ1の成形凹部11の軸心に対し一致させた状態で、パンチホルダー62と共にダイ1に対し接離(昇降)できるようになっている。
【0033】
さらにパンチホルダー62は、図示しない昇降駆動手段によって昇降駆動できるようになっている。そして図1に示すようにパンチ5がダイ1の上方に配置された状態で、上記昇降駆動手段によって、パンチホルダー62と共にパンチ5が降下すると、図2に示すようにパンチ5の本体51がダイ1の成形凹部11内に打ち込まれるようになっている。
【0034】
パンチ5には、背圧付与機構7が設けられている。この背圧付与機構7は、パンチ5の内部空間に収容されるスプリングホルダー71を備えている。
【0035】
スプリングホルダー71は、パンチ5の内部空間内において上下方向(軸心)に沿ってスライド自在に支持されている。
【0036】
さらにスプリングホルダー71には、その上端面側に複数のスプリング収容凹部72が形成されており、各スプリング収容凹部72内に圧縮コイルバネ等からなる付勢手段としてのスプリング73がそれぞれ収容されている。各スプリング73は、圧縮状態で上端がパンチプレート61に接合されるとともに、下端がスプリング収容凹部72の底面に接合されている。従って、パンチ5を上昇させた状態(通常状態)では、スプリングホルダー71が、自重およびスプリング73の付勢力によって下方に押し込まれて、パンチ5の底壁部(パンチ本体51)に接触した状態に配置されるようになっている。
【0037】
また背圧付与機構7には、パンチ5の各フィン成形孔52に対応して背圧付与ピン75がそれぞれ設けられている。各背圧付与ピン75は、水平断面形状が、各フィン成形孔52の水平断面形状に対応して形成されている。なお背圧付与ピン75は、イジェクタピンとも称される。
【0038】
各背圧付与ピン75は、その上端部がスプリングホルダー71の下側部に固定された状態で、対応するフィン成形孔52内に軸心方向(上下方向)に沿ってスライド自在に収容されている。これにより、各背圧付与ピン75は、スプリングホルダー71の昇降動作に伴って、各フィン成形孔52内を上下にスライドするようになっている。
【0039】
なお各背圧付与ピン75の下端面(先端拘束面)は、図1に示すように、スプリングホルダー71が下端位置に配置された状態(パンチ5を上昇させた状態)では、各フィン成形孔52の下端開口部、つまりパンチ本体5の成形面に対応して配置されるようになっている。
【0040】
ここで、本実施形態に用いられる鍛造素材2について説明する。図5に示すように本実施形態の鍛造素材2は、心材21と、心材21の一面にクラッドされ、かつろう材によって構成されるろう材層(一面ろう材層)22とを備えた積層体(ブレージングシート)によって構成されている。
【0041】
心材21としては、その主成分が熱伝導性の高いアルミニウム、例えば1000系アルミニウム(純アルミニウム系)や、耐久性の高いアルミニウム、例えば6000系アルミニウム合金(Al-Mg-Si系)等を好適に用いることができる。心材21はその主成分(母材)としてのアルミニウムと、熱伝導性がより優れたカーボンとの複合材によって構成するようにしても良い。さらに複合材は2層に限られず、3層以上の多層構造で構成するようにしても良い。
【0042】
ろう材層22としては、一般に多く用いられるろう材、例えばJIS-Z3263-2002で示される4000系アルミニウム合金(Al-Si系)等を好適に用いることができる。
【0043】
また鍛造素材2において、心材21の他面側には、アルミニウムを主成分とし、かつ心材21よりも強度が高い合金からなる強化層を形成するようにしても良い。このように心材21の他面側に強化層を形成する場合には、鍛造加工によってベース板91の板厚が薄いヒートシンク9を製造する際に、ベース板91の他面側におけるピンフィン形成位置にヒケが発生するのを有効に防止することができる。
【0044】
なお後述するように、鍛造素材2において、心材21の他面には、一面側と同様に、ろう材をクラッドしたろう材層(他面ろう材層)を形成するようにしても良い。
【0045】
以上の構成の鍛造素材2を用いて、図1および図2に示す上記の鍛造加工装置によって鍛造加工を実施してヒートシンク9を成形する。
【0046】
すなわち図1に示すように、ダイ1およびパンチ5の所要部分に潤滑剤を塗布し、板状の鍛造素材2をダイ1の成形凹部11内にセットする。鍛造素材2は、その一面側(ろう材層22側)を上向きにしてパンチ5(フィン成形孔52)に対向するように配置する。なお、鍛造素材2、ダイ1およびパンチ5は必要に応じて予備加熱されている。
【0047】
この状態から図2に示すように、パンチ5を降下させてパンチ本体51をダイ1の成形凹部11内に打ち込む。これにより、鍛造素材2に圧縮荷重が加わって、その圧縮荷重によって、鍛造素材2を構成する金属材料(メタル)が塑性流動して、各背圧付与ピン75を、背圧付与機構7の自重およびスプリング73の付勢力に抗して上方へ押し上げつつ、パンチ本体51の各フィン成形孔52内に流入していく。
【0048】
ここで、各フィン成形孔52内に流入する金属材料に対し、背圧付与機構7の自重およびスプリング73の付勢力が、流入方向と反対方向に作用する背圧(抵抗力)として機能する。従って、金属材料を各フィン成形孔52内にバランス良く均等に流入させることができる。
【0049】
そして、ダイ1の成形凹部11の内周面とパンチ本体51の成形面(下端面)とで囲まれる成形空間に充填された金属材料によってベース板91が形成されるとともに、背圧付与ピン75の先端拘束面とフィン成形孔52の内周面とで囲まれる成形空間内に充填された金属材料によってピンフィン92が形成される。これにより、図3に示すように、ベース板91の一面に多数のピンフィン92が一体形成された鍛造加工品であるヒートシンク9が成形される。
【0050】
図5は本実施形態の製法によって製造されたヒートシンク9の一部を拡大して示す正面断面図である。同図に示すように、ピンフィン92の先端には、鍛造素材2のろう材層22によるろう材が被着されることにより先端接合層93が一体に形成される。さらにベース板91の一面におけるピンフィン92の各間(ピンフィン92が形成されていない部分)にも、鍛造素材2のろう材層22によるろう材が被着されることにより一面接合層94が形成される。
【0051】
またヒートシンク9のピンフィン92の周側面921には、鍛造素材2のろう材層22によるろう材が被着されず、心材21を構成していた金属が露出した状態に配置されている。
【0052】
以上のように構成された本実施形態のヒートシンク9においては、ピンフィン92の先端にろう材による先端接合層93が一体に形成されているため、この先端接合層93のろう材を利用して、金属製の接合用部品をろう付け接合することができる。このため本実施形態のヒートシンク9のピンフィン92に放熱用部材等の接合用部品を接合するような場合、ピンフィン92に直接、接合用部品をろう付け接合することができる。従って本実施形態のヒートシンク9は、接合用部品としてブレージングシート製以外のものも用いることができ、設計の自由度が増して、汎用性が向上するため、製品価値を向上させることができる。さらにブレージングシート等を省略できる分、部品点数を削減できるため、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0053】
また本実施形態のヒートシンク9によれば、各ピンフィン92の先端面のみにろう材が被着されて、ピンフィン92の周側面921にはろう材が被着されていないため、高い寸法精度を維持できて、良好な放熱特性を得ることができる。すなわち仮に、ピンフィンの周側面921にろう材が被着していると、ろう付け時の熱等によって、ピンフィン周側面のろう材が溶融滅失してしまうため、ピンフィンの寸法等が変化して変形してしまう。そうすると、ヒートシンクにおけるフィン部の寸法精度が低下してしまい、良好な放熱特性を得ることが困難になってしまう。
【0054】
これに対し、本実施形態のヒートシンク9は、ピンフィン92の周側面921にろう材が被着されていないため、ろう材の溶融滅失によるフィンピン92の形状が変化するのを防止することができる。このため本実施形態のヒートシンク9は、フィン部の寸法精度を高く維持することができ、良好な放熱特性を確実に維持することができる。
【0055】
次に本実施形態によるヒートシンク9を用いて、パワーモジュール用の水冷式冷却装置を作製する場合について説明する。
【0056】
図6および図7はその水冷式冷却装置の一例を模式化して示す正面断面図である。同図に示すようにこの冷却装置は、上記実施形態のヒートシンクと同様に構成されたヒートシンク9と、絶縁基板31と、パワーモジュール(発熱素子)3と、流路部材8とを備えている。
【0057】
絶縁基板31は、2枚の金属製導電板32,32間にセラミック板33が介在されるように積層されており、下側の導電板32がヒートシンク9の他面側にろう付けによって接合固定されるとともに、上側の導電板32にパワーモジュール3が取り付けられている。
【0058】
流路部材8は、金属板の成形品等によって構成されており、中間領域が他面側に下面側に凹陥形成されることにより、上面側に流路用凹部81が形成されるとともに、凹部81の外周縁部にはフランジ82が形成されている。この流路部材8の流路用凹部81内に、ピンフィン92が収容されるように配置された状態で、ピンフィン92の先端が流路部材8の流路用凹部81の底面にろう付け接合されるとともに、ベース板91の一面側における外周縁部が流路部材81のフランジ82にろう付け接合される。これにより流路部材8の流路用凹部81の内周面と、ヒートシンク9のベース板91の一面とによって、ピンフィン92を囲う冷却水用(冷媒用)流路85が形成される。
【0059】
この冷却装置においては、ヒートシンク9におけるピンフィン92の先端およびベース板91の一面にそれぞれ接合層93,94が形成されているため、その接合層93,94のろう材を利用して、流路部材8をろう付け接合することができる。従って既述した通り、流路部材(接合用部品)8として、ブレージングシート製以外のものも難なく用いることができ、流路部材8の構成が制約されることがなく、設計の自由度が増して、製品価値を向上させることができる。例えば流路部材8としてベア材を用いることもできるため、より一層設計の自由度が増して、より一層製品価値を向上させることができる。
【0060】
また本冷却装置においては、流路部材8のろう付け接合用にろう材シート等を別途用いる必要がなく、その分、部品点数を削減できて、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0061】
また図8は本実施形態によるヒートシンク9を用いて製作された水冷式冷却装置の他の例を模式化して示す正面断面図である。同図に示すようにこの冷却装置に用いられるヒートシンク9は、ベース板91の一面側におけるピンフィン92が形成されている領域が他面側に凹陥形成されて流路用凹部96が形成されるとともに、その流路用凹部96の外周縁部にフランジ97が形成されている。
【0062】
このヒートシンク9におけるベース板91の他面側には、上記と同様に絶縁基板31を介してパワーモジュール3が取り付けられる。
【0063】
またヒートシンク9の一面側には、流路用凹部96を閉塞するように平板状の流路部材8が配置された状態で、流路部材8にピンフィン92の先端およびフランジ97がろう付け接合される。これにより、ヒートシンク9の流路用凹部96の内周面と、流路部材8とによって、ピンフィン92を囲う冷却水用(冷媒用)流路85が形成される。
【0064】
この冷却装置においても、上記と同様に、ヒートシンク9における接合層93,94のろう材を利用して、流路部材8をろう付け接合できるため、製品価値の向上、生産効率の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0065】
図9はこの発明の変形例である製造方法によって製造されたヒートシンク9を模式化して示す正面断面図、図10はその変形例のヒートシンクを製造する際に用いられた鍛造素材2を示す正面断面図である。両図に示すようにこのヒートシンク9を製造するに際して、鍛造素材2として、心材21の一面側に上記と同様に一面ろう材層22が形成されるとともに、他面側にも他面ろう材層23が形成されたもの、つまり心材21の両面にろう材層22,23が形成されたものを用いて、上記と同様に鍛造加工を行ったものである。
【0066】
このヒートシンク9においては、ベース板91のピンフィン92が形成されない他面側にも、他面ろう材層23による他面接合層95が形成されている。この変形例のヒートシンク9において、他の構成は上記実施形態のヒートシンク9と同様である。
【0067】
この変形例のヒートシンク9においても、上記と同様の効果を得ることができる。その上さらに、この変形例においては、ベース板91の他面側に他面接合層95が形成されているため、上記図6等に示すような冷却装置を作製する場合、ベース板91の他面接合層95のろう材を利用して、絶縁基板31をろう付け接合することができる。このため絶縁基板31を接合する際にも、ろう材接合用にブレージングシート等を用いる必要がなく、設計の自由度がさらに増して、製品価値を一段と向上できるとともに、生産効率の向上およびコストの削減をさらに図ることができる。
【0068】
なお上記実施形態等においては、ベース板91の一面にピンフィン92を形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、ベース板の少なくとも一面にピンフィンが形成されていれば良く、例えばベース板の一面および他面の双方にピンフィンを形成するようにしても良い。
【0069】
また上記実施形態においては、鍛造加工時に背圧を付与する、いわゆる背圧鍛造によってヒートシンクを成形する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、背圧を付与せずに鍛造加工して、ヒートシンクを成形するようにしても良い。
【0070】
また上記実施形態においては、ピンフィンが形成されたヒートシンクを製造する場合を例に挙げて説明したが、本発明においては、ヒートシンクに形成されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、ピンフィン以外のフィン、例えばプレートフィンを形成するようにしても良い。
【0071】
また上記実施形態においては、パンチ5側にフィン成形孔52を形成して、後方押出によってフィンを形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、ダイの成形凹部底面にフィン成形孔を形成して、前方押出によってフィンを形成するようにしても良い。
【0072】
また本発明において、フィンの周側面にろう材が付着していないという場合、フィンの周側面に実質的にろう材が付着していないということであり、例えば本発明においては、フィンの周側面における根元部近傍や先端部近傍等にろう材が少量付着していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明のヒートシンクの製造方法は、ベース板上にフィンが一体に形成されたヒートシンクを製造する際等に用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
21:心材
22:一面ろう材層
23:他面ろう材層
8:流路部材(接合用部品)
9:ヒートシンク
91:ベース板
92:ピンフィン
921:周側面
93:先端接合層
94:一面接合層
95:他面接合層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10