IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電工株式会社の特許一覧

特許7033481アルミニウム合金粉末及びその製造方法、アルミニウム合金押出材及びその製造方法
<>
  • 特許-アルミニウム合金粉末及びその製造方法、アルミニウム合金押出材及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】アルミニウム合金粉末及びその製造方法、アルミニウム合金押出材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20220303BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220303BHJP
   B22F 3/20 20060101ALI20220303BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220303BHJP
   B21C 23/00 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C22C21/00 M
B22F1/00 N
B22F3/20 C
C22C1/04 C
B21C23/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018071463
(22)【出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2019183191
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】荒山 卓也
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-249930(JP,A)
【文献】特開平10-026002(JP,A)
【文献】特開2017-155270(JP,A)
【文献】特開2000-225412(JP,A)
【文献】特開2019-183190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
B22F 1/00 - 7/08
C22C 1/04
B22F 9/08
B21C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、さらに、Crを0.02質量%~2.0質量%含有するか、あるいはCrおよびMnそれぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末であって、
前記アルミニウム合金粉末中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金粉末の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金粉末。
【請求項2】
Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、さらに、Crを0.02質量%~2.0質量%含有するか、あるいはCrおよびMnそれぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化してアルミニウム合金粉末を得ることを特徴とするアルミニウム合金粉末の製造方法。
【請求項3】
Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、さらに、Crを0.02質量%~2.0質量%含有するか、あるいはCrおよびMnそれぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金押出材であって、
前記アルミニウム合金押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金押出材。
【請求項4】
前記金属間化合物は、Al、Fe、V及びMoを少なくとも含有してなるAl-Fe-V-Mo系金属間化合物であり、
前記金属間化合物における、Alの含有率が81.60質量%~92.37質量%、Feの含有率が2.58質量%~10.05質量%、Vの含有率が1.44質量%~4.39質量%、Moの含有率が2.45質量%~3.62質量%である請求項に記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項5】
請求項に記載のアルミニウム合金粉末を圧縮成形して圧粉体を得る圧縮成形工程と、
前記圧粉体を熱間押出しして押出材を得る押出工程と、を含み、
前記押出材は、該押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金粉末及びその製造方法、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関としてのターボチャージャーにおけるコンプレッサーホイール等のコンプレッサーインペラーは、150℃程度の高温状況下において10000rpmを超える高速回転が与えられるため、この高温下において高強度および高剛性を備えていることが要求される。加えて、コンプレッサーインペラーは、エネルギー損失の低減を図るために軽量化も要求されるし、高速回転に耐えることができる強度も要求される。
【0003】
例えば、従来では、コンプレッサーインペラーは、2618合金(Cu:1.9質量%~2.7質量%、Mg:1.3質量%~1.8質量%、Ni:0.9質量%~1.2質量%、Fe:0.9質量%~1.3質量%、Si:0.1質量%~0.25質量%、Ti:0.04質量%~0.1質量%を含有し、残部がAlからなる合金)の鋳造・鍛造品を切削加工して製造していた。
【0004】
しかし、近年における切削加工の高速化により、アルミニウム合金押出材の切削品化が進んできており、切削性の向上、高温強度の改善がさらに必要となってきている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高温(160℃)での強度が従来よりも向上したAl-Cu-Mg系アルミニウム合金押出材を提供する技術が開示されている。即ち、特許文献1には、Cu:3.4~5.5%(質量%、以下同じ)、Mg:1.7~2.3%、Ni:1.0~2.5%、Fe:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.4%、Zr:0.05~0.3%、Si:0.1%未満、Ti:0.1%未満を含み、残部Al及び不可避不純物からなることを特徴とする高温強度及び高温疲労特性に優れた耐熱アルミニウム合金押出材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5284935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動車等の内燃機関の技術分野においてコンプレッサーインペラー等は、更なる高速回転化が求められており、従ってコンプレッサーインペラー等の構成材料としてのアルミニウム合金材としては、従来よりさらに高い温度域においても機械特性に優れたものが希求されている。また、これらの部材に要求される特性としては、静的強度の他に、クリープ特性等の動的な強度も優れていることが要請されている。
【0008】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金粉末及びその製造方法、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金押出材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末であって、
前記アルミニウム合金粉末中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金粉末の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金粉末。
【0011】
[2]前記アルミニウム合金は、さらに、Bを0.0001質量%~0.03質量%含む前項1に記載のアルミニウム合金粉末。
【0012】
[3]Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化してアルミニウム合金粉末を得ることを特徴とするアルミニウム合金粉末の製造方法。
【0013】
[4]Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金押出材であって、
前記アルミニウム合金押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金押出材。
【0014】
[5]前記アルミニウム合金押出は、さらに、Bを0.0001質量%~0.03質量%含む前項4に記載のアルミニウム合金押出材。
【0015】
[6]前記金属間化合物は、Al、Fe、V及びMoを少なくとも含有してなるAl-Fe-V-Mo系金属間化合物であり、
前記金属間化合物における、Alの含有率が81.60質量%~92.37質量%、Feの含有率が2.58質量%~10.05質量%、Vの含有率が1.44質量%~4.39質量%、Moの含有率が2.45質量%~3.62質量%である請求項4または5に記載のアルミニウム合金押出材。
【0016】
[7]前項1または2に記載のアルミニウム合金粉末を圧縮成形して圧粉体を得る圧縮成形工程と、
前記圧粉体を熱間押出しして押出材を得る押出工程と、を含み、
前記押出材は、該押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
[1]の発明によれば、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金粉末が提供される。従って、このアルミニウム合金粉末を用いることで、高温における機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)を製造できる。
【0018】
[2]の発明によれば、高温における機械特性(値)をより向上させたアルミニウム合金粉末が提供される。
【0019】
[3]の発明によれば、アルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化しているので、合金の各元素の凝固時の拡散を抑制し、結晶粒や析出物の粗大化を抑制できて、さらに平衡相や準安定相の出現を抑制できて、遷移元素であるFeの固溶量の拡大をなし得て、高温における機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金粉末を製造することができる。従って、このアルミニウム合金粉末を用いることで、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)を製造できる。
【0020】
[4]の発明によれば、高温における機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)が提供される。このアルミニウム合金押出材は、例えば、自動車用ターボチャージャーのターボコンプレッサーインペラー等の内燃機関部材として好適である。換言すれば、このアルミニウム合金押出材は、例えば、高温下で高速で回転する内燃機関部材(内燃機関部品)として好適である。
【0021】
[5]の発明によれば、高温における機械特性(値)をより向上させたアルミニウム合金押出材が提供される。
【0022】
[6]の発明によれば、高温における機械特性(値)をより一層向上させたアルミニウム合金押出材が提供される。
【0023】
[7]の発明によれば、高温における機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)を製造することができる。得られたアルミニウム合金押出材は、例えば、自動車用ターボチャージャーのターボコンプレッサーインペラー等の内燃機関部材として好適である。換言すれば、得られたアルミニウム合金押出材は、例えば、高温下で高速で回転する内燃機関部材(内燃機関部品)として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のアルミニウム合金押出材(押出品)の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るアルミニウム合金粉末は、Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末であって、前記アルミニウム合金粉末中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金粉末の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲である構成である。このような構成であることにより、高温における機械特性に優れたアルミニウム合金粉末が提供される。従って、本発明のアルミニウム合金粉末を用いることで、高温における機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金押出材(押出品)を製造できる。
【0026】
前記アルミニウム合金粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、30μm~70μmの範囲であるのが好ましい。30μm以上であることで合金粉末作製の歩留まりを顕著に向上できると共に、70μm以下であることで粗大な酸化物や異物の混入を回避できる。
【0027】
次に、本発明に係る、アルミニウム合金粉末の製造方法について説明する。本製造方法では、Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化してアルミニウム合金粉末(アルミニウム合金アトマイズ粉末)を得る(粉末化工程)。このような製造方法によって上述した構成を備えたアルミニウム合金粉末を提供できる、即ち、上記製造方法によって、上記特定組成のアルミニウム合金粉末であって、該アルミニウム合金粉末中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金粉末の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲である構成のものを製造することができる。
【0028】
前記粉末化工程では、上記特定組成のアルミニウム合金溶湯を通常の溶解法によって調製する。得られたアルミニウム合金溶湯をアトマイズ法によって粉末化する。アトマイズ法は、噴霧ノズルからの窒素ガス等のガス流によりアルミニウム合金溶湯の微小液滴をミスト化して噴霧し、微小液滴を急冷凝固させて微細なアルミニウム合金粉末を得る方法である。冷却速度は、102~105℃/秒であるのが好ましい。平均粒子径が30μm~70μmのアルミニウム合金粉末が得られるようにするのがよい。得られたアルミニウム合金粉末は、篩を用いて分級するのが好ましい。
【0029】
なお、本発明に係るアルミニウム合金粉末(前記[1]の発明)は、上記製造方法で得られたアルミニウム合金粉末に限定されるものではなく、他の製造方法で得られたものも包含する。
【0030】
次に、本発明に係るアルミニウム合金押出材の製造方法について説明する。前記粉末化工程で得られたアルミニウム合金粉末を圧縮成形して圧粉体を得る(圧縮成形工程)。一例を挙げると、250℃~300℃に加熱したアルミニウム合金粉末を、230℃~270℃に加熱された金型内に充填し、所定形状に圧縮成形して圧粉体を得る。前記圧縮成形の圧力は、特に限定されないが、通常は、0.5トン/cm2~3.0トン/cm2に設定するのが好ましい。また、相対密度が60%~90%の圧粉体にするのが好ましい。前記圧粉体の形状は、特に限定されないが、次の押出工程を考慮して、円柱形状または円盤状とするのが好ましい。
【0031】
次いで、前記圧縮成形工程で得られた圧粉体を熱間押出しして押出材を得る(押出工程)。前記圧粉体には、必要に応じて面削等の機械加工を施してから、脱ガス処理を施し、加熱して押出工程に供する。押出前の圧粉体の加熱温度は、300℃~450℃にするのが好ましい。押出に際しては、例えば、圧粉体を押出コンテナ内に挿入して押出ラムにより加圧力を加え、押出ダイスから例えば丸棒形状に押出す。この時、前記押出コンテナを予め300℃~400℃に加熱しておくのが望ましい。このように熱間で押し出すことによって圧粉体の塑性変形が進行し、アルミニウム合金粉末(粒子)同士が結合して一体化した押出体が得られる。前記押出の際に、押出圧力は10MPa~25MPaに設定するのが好ましい。
【0032】
前記押出工程で得られた押出材1は、該押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~5.0μmの範囲にある構成である。こうして本発明のアルミニウム合金押出材を得ることができる。
【0033】
上述した本発明に係る、アルミニウム合金押出材の製造方法によって得られたアルミニウム合金押出材(本発明に係るアルミニウム合金押出材)は、Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金押出材であって、前記アルミニウム合金押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲である構成である。
【0034】
なお、本発明に係るアルミニウム合金押出材は、上記製造方法で得られたアルミニウム合金押出材に限定されるものではなく、他の製造方法で得られたものも包含する。
【0035】
次に、上述した本発明に係るアルミニウム合金粉末及びアルミニウム合金粉末の製造方法、アルミニウム合金押出材及びアルミニウム合金押出材の製造方法における「アルミニウム合金」の組成について以下詳述する。前記アルミニウム合金は、Fe:5.0質量%~9.0質量%、V:0.1質量%~3.0質量%、Mo:0.1質量%~3.0質量%、Zr:0.1質量%~2.0質量%、Ti:0.02質量%~2.0質量%を含有し、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を、それぞれ0.02質量%~2.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
【0036】
前記Fe(成分)は、高い融点を有するAl-Fe系金属間化合物を生成し、例えば200℃~350℃の高い温度域での機械特性(静的強度、クリープ特性等)を向上できる元素である。前記アルミニウム合金におけるFe含有率は、5.0質量%~9.0質量%の範囲とする。Fe含有率が5.0質量%未満になると、アルミニウム合金押出材等の製品の強度の低下をもたらし、Fe含有率が9.0質量%を超えると、アルミニウム合金押出材等の製品の延性が低下して、アルミニウム合金押出材等の製品の高温での機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたものを得ることができない。中でも、前記アルミニウム合金におけるFe含有率は、7.0質量%~8.0質量%の範囲であるのが好ましい。
【0037】
前記V(成分)は、Al-Fe-V-Mo系金属間化合物を生成し、例えば200℃~350℃の高い温度域での機械特性(静的強度、クリープ特性等)を向上できる元素である。前記アルミニウム合金におけるV含有率は、0.1質量%~3.0質量%の範囲とする。V含有率が0.1質量%未満になると、アルミニウム合金押出材等の製品の強度の低下をもたらし、V含有率が3.0質量%を超えると、アルミニウム合金押出材等の製品の延性が低下して、アルミニウム合金押出材等の製品の高温での機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたものを得ることができない。中でも、前記アルミニウム合金におけるV含有率は、1.0質量%~2.0質量%の範囲であるのが好ましい。
【0038】
前記Mo(成分)は、Al-Fe-V-Mo系金属間化合物を生成し、例えば200℃~350℃の高い温度域での機械特性(静的強度、クリープ特性等)を向上できる元素である。前記アルミニウム合金におけるMo含有率は、0.1質量%~3.0質量%の範囲とする。Mo含有率が0.1質量%未満になると、アルミニウム合金押出材等の製品の強度の低下をもたらし、Mo含有率が3.0質量%を超えると、アルミニウム合金押出材等の製品の延性が低下して、アルミニウム合金押出材等の製品の高温での機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたものを得ることができない。中でも、前記アルミニウム合金におけるMo含有率は、1.0質量%~2.0質量%の範囲であるのが好ましい。
【0039】
前記Zr(成分)は、Al-Fe-V-Mo系金属間化合物の粗大化を生じず、金属間化合物の微細晶出を実現できる元素である。また、前記Zrを含有していることで、高温強度を向上させることができるし、Alマトリックス中でのAlのの自己拡散を抑制できてクリープ特性を向上させることができる効果も得られる。前記アルミニウム合金におけるZr含有率は、0.1質量%~2.0質量%の範囲とする。Zr含有率が0.1質量%未満になると、析出強化及び分散強化の効果を発揮できないという問題を生じる。また、Zr含有率が2.0質量%を超えると、Zrを含む粗大な金属間化合物が発生するので(後述の比較例9参照)、良好な機械的特性を得ることができない。中でも、前記アルミニウム合金におけるZr含有率は、0.5質量%~1.5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0040】
前記Ti(成分)は、前記Zrとの協働により、Alとの間で、L12構造のAl-(Ti,Zr)系金属間化合物を形成する役割を有する。また、前記Tiは、Alマトリックス中での拡散係数が小さいので、クリープ特性を向上させることができる効果も得られる。前記アルミニウム合金におけるTi含有率は、0.02質量%~2.0質量%の範囲とする。Ti含有率が0.02質量%未満になると、析出強化及び分散強化の効果を発揮できないという問題を生じる。またTi含有率が2.0質量%を超えると、延性が低下し、高温での機械特性(静的強度、クリープ特性等)に優れたアルミニウム合金粉末及びアルミニウム合金押出材を得ることができない。中でも、前記アルミニウム合金におけるTi含有率は、0.5質量%~1.0質量%の範囲であるのが好ましい。
【0041】
本発明において、前記アルミニウム合金は、さらに、CrおよびMnからなる群より選ばれる1種または2種の金属を含有する。即ち、前記アルミニウム合金は、さらにCr:0.02質量%~2.0質量%を含有する組成であってもよいし、或いはさらにMn:0.02質量%~2.0質量%を含有する組成であってもよいし、或いはまたさらにCr:0.02質量%~2.0質量%およびMn:0.02質量%~2.0質量%を含有する組成であってもよい。Cr(成分)およびMn(成分)は、Al母相中に固溶して固溶強化として効果を発揮する。ただし、押出加工温度が500℃以上になると、析出が進行して高温での機械的特性を低下させやすいので、押出加工温度は500℃未満に設定するのが望ましい。またCr又は/及びMnの分散粒子は、再結晶後の粒界移動を抑制する効果があるので、例えば鍛造工程中におけるパーティングライン組織のST方向の平均結晶粒径の粗大化を抑制できて、本発明のアルミニウム合金押出材、鍛造材の全体にわたって微細な結晶粒、亜結晶粒を得ることができて、機械的特性をより向上させることができる。
【0042】
また、Zrと、Cr又は/及びMnと、をそれぞれ上記含有率で含有することで、Al母相中に固溶して0.2%耐力を増大させることができる。
【0043】
Crを0.02質量%以上含有せしめることで、Al母相中にCrを固溶させることができて機械的特性(特に高温での疲労強度)を向上させることができ、また耐摩耗性を高め、Al母相中にCrが固溶して耐食性を向上させることができると共に、焼戻し軟化抵抗を高めるので、Crを含有せしめることで焼入れ性を向上できて熱処理硬さを向上させることができる。また、Crの含有率を2.0質量%以下とすることで、Al母相中にCrを固溶させることができ、更にCrを含む粗大な金属間化合物を生成し、機械的特性の低下を防止できると共に、熱伝導率の低下を回避できるし、摺動による接触面の昇温を防止できて耐スカッフィング性を向上できる。中でも、Crを含有させる場合、Cr含有率を0.05質量%~1.5質量%に設定するのがより好ましい。
【0044】
また、Mnを0.02質量%以上含有せしめることで、Al母相中にMnを固溶させることができて機械的特性(特に高温での疲労強度)を向上させることができるという効果が得られる。また、Mnの含有率を2.0質量%以下とすることで、Al母相中にMnを固溶させることができ、更にMnを含む粗大な金属間化合物を生成し、機械的特性の低下を防止できる。中でも、Mnを含有させる場合、Mn含有率を0.05質量%~1.5質量%に設定するのがより好ましい。
【0045】
本発明において、前記アルミニウム合金は、さらに、B(ホウ素)を0.0001質量%~0.03質量%含む構成(組成)としてもよい。Bを上記特定比率で含有せしめた組成とすることにより、結晶粒を微細化し、機械特性を向上できる。
【0046】
本発明では、前記アルミニウム合金粉末中又は前記アルミニウム合金押出材中にAl-Fe系金属間化合物を含有し、前記アルミニウム合金粉末又は前記アルミニウム合金押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm~3.0μmの範囲である。前記金属間化合物の平均円相当直径が0.1μm未満になると、分散強化の効果を発揮できない。また、前記金属間化合物の平均円相当直径が3.0μmを超えると、粗大な金属間化合物となり、それを起点として破断するため機械的特性が低下するという問題を生じる。中でも、前記アルミニウム合金粉末又は前記アルミニウム合金押出材の断面組織構造において前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当直径が0.3μm~2.0μmの範囲であるのが好ましく、さらに0.4μm~1.5μmの範囲であるのが特に好ましい。
【0047】
前記Al-Fe系金属間化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、Al、Fe、V及びMoを少なくとも含有してなるAl-Fe-V-Mo系金属間化合物などが挙げられる。前記Al-Fe-V-Mo系金属間化合物における、Alの含有率は81.60質量%~92.37質量%、Feの含有率は2.58質量%~10.05質量%、Vの含有率は1.44質量%~4.39質量%、Moの含有率は2.45質量%~3.62質量%である構成が好ましく、この場合には200℃以上の高温域で良好な機械的特性を得ることができる。
【0048】
なお、前記Al-Fe系金属間化合物の円相当直径とは、前記アルミニウム合金粉末又は前記アルミニウム合金押出材の断面のSEM写真(画像)におけるAl-Fe系金属間化合物の面積と同じ面積を有する円の直径として換算した値である。
【実施例
【0049】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
Fe:8.0質量%、V:2.0質量%、Mo:2.0質量%、Zr:1.0質量%、Ti:1.0質量%、Cr:0.1質量%、Al:85.9質量%を含有し、不可避不純物を含有するアルミニウム合金を加熱して、1000℃のアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯をガスにてアトマイズして急冷凝固させて粉末化して、平均粒子径が50μmのアルミニウム合金粉末(アルミニウム合金アトマイズ粉末)を得た。
【0051】
次に、得られたアルミニウム合金粉末を280℃の温度に予熱し、この予熱したアルミニウム合金粉末を、同じ280℃に加熱保持した金型内に充填し、1.5トン/cm2の圧力で圧縮成形して、直径210mm、長さ250mmの円柱形状の圧粉体(成形体)を得た。次に、得られた圧粉体を旋盤にて直径203mmまで面削して、圧粉体のビレットを得た。
【0052】
次に、得られたビレットを400℃に加熱し、この加熱ビレットを、400℃に加熱保持された内径210mmの押出コンテナ中に挿入し、内径83mmのダイスで間接押出法により押出比6.4で押出して押出材1を得た(図1参照)。
【0053】
<実施例2>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、Fe:8.0質量%、V:2.0質量%、Mo:2.0質量%、Zr:1.0質量%、Ti:1.0質量%、Cr:0.5質量%、Al:85.5質量%を含有し、不可避不純物を含有するアルミニウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、押出材1を得た。
【0054】
<実施例3、参考例1~3、実施例4、5
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、表1に示す合金組成(不可避不純物を含有する)のアルミニウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、押出材1を得た。
【0055】
<実施例6~13
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、表2に示す合金組成(不可避不純物を含有する)のアルミニウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、押出材1を得た。
【0056】
<実施例14、15、比較例1~6>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、表3に示す合金組成(不可避不純物を含有する)のアルミニウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、押出材1を得た。
【0057】
<比較例7~14>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、表4に示す合金組成(不可避不純物を含有する)のアルミニウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、押出材1を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
上記のようにして得られた各アルミニウム合金押出材(押出品)について下記評価法に基づいて評価を行った。その結果を表1~4に示す。なお、表1~4中の各元素欄において「-」の表記は、検出限界(0.005質量%)未満の数値であること(即ち当該元素が検出されなかったこと)を示している。
【0063】
また、表1~4中の「金属間化合物の平均円相当直径(μm)」は、各アルミニウム合金押出材のマトリックス中に存在するAl-Fe-V-Mo系金属間化合物(Al、Fe、V及びMoを少なくとも含有してなる金属間化合物)の平均円相当直径(μm)である。この「金属間化合物の平均円相当直径(μm)」は、得られたアルミニウム合金押出材(円柱体)のL方向(長さ方向即ち軸線方向)の中央部(中間二等分位置)から縦10mm×横10mm×厚さ10mmの大きさの組織観察用サンプル片を切り出し、このサンプル片を断面試料作製装置(Cross section polisher)を用いてミクロ研磨し、このミクロ研磨後のサンプル片のSEM写真(走査電子顕微鏡写真)を撮影し、この写真画像から金属間化合物の平均円相当直径(μm)を求めた(評価した)。前記SEM写真における視野1.5815mm2の範囲に存在する10個のAl-Fe-V-Mo系金属間化合物についての平均円相当直径を求めた。
【0064】
<高温での引張強度評価法>
得られたアルミニウム合金押出材(円柱体)を、標点間距離20mm、平行部直径4mmの引張試験片に加工して、該引張試験片の高温引張試験を行うことによって高温引張強度(260℃での引張強度)を測定した。前記高温引張試験は、高温引張試験片を260℃に100時間保持した後に260℃の測定環境下で試験を行った。下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…260℃での引張強度が356MPa以上
「○」…260℃での引張強度が351MPa以上355MPa以下
「△」…260℃での引張強度が346MPa以上350MPa以下
「×」…260℃での引張強度が345MPa以下である。
【0065】
<高温での疲労試験法>
得られたアルミニウム合金押出材(円柱体)を、標点間距離30mm、平行部直径8mmの疲労試験片に加工して、該疲労試験片の高温疲労試験を行うことによって高温疲労強度(260℃での疲労強度)を測定した。前記高温疲労試験は、疲労試験片を260℃に100時間保持した後に260℃の測定環境下で繰返し速度3600rpmの条件で500000回試験を行った。下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…260℃での疲労強度が226MPa以上
「○」…260℃での疲労強度が221MPa以上225MPa以下
「△」…260℃での疲労強度が216MPa以上220MPa以下
「×」…260℃での疲労強度が215MPa以下である。
【0066】
<高温でのクリープ試験法>
得られたアルミニウム合金押出材(円柱体)を、標点間距離30mm、平行部直径6mmのクリープ試験片に加工して、該クリープ試験片の高温クリープ試験を行うことによって高温クリープ特性(260℃でのクリープ特性)を測定した。前記高温クリープ試験は、クリープ試験片を260℃に100時間保持した後に260℃の測定環境下で試験を行った。温度:260℃、破断時間300時間の条件下でのクリープラプチャー強度を算出し、下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…260℃でのクリープラプチャー強度が216MPa以上
「○」…260℃でのクリープラプチャー強度が211MPa以上215MPa以下
「△」…260℃でのクリープラプチャー強度が206MPa以上210MPa以下
「×」…260℃でのクリープラプチャー強度が205MPa以下である。
【0067】
表から明らかなように、本発明に係る実施例1~15、参考例1~3のアルミニウム合金押出材は、高温(260℃)において各種の機械特性に優れていた。
【0068】
これに対し、本発明の規定範囲を逸脱する比較例1~14のアルミニウム合金押出材は、高温(260℃)での機械特性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るアルミニウム合金粉末、本発明の製造方法で得られたアルミニウム合金粉末を用いて形成されたアルミニウム合金材は、高温における機械特性に優れている。また、本発明に係るアルミニウム合金押出材、本発明の製造方法で得られたアルミニウム合金押出材は、高温における機械特性に優れているので、自動車等の内燃機関に使用されるターボチャージャーのターボコンプレッサーインペラー等の、高温下で高速で回転する内燃機関部材(内燃機関部品)等として好適に使用される。
【符号の説明】
【0070】
1…アルミニウム合金押出材(押出品)
図1