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特許7033505誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム
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  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図1
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図2
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図3
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図4
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図5
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図6
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図7
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図8
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図9
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図10
  • 特許-誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機監視装置、および誘導電動機の制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20220303BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220303BHJP
   H02P 29/62 20160101ALI20220303BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H02P21/14
H02M7/48 M
H02P29/62
H02P5/46 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018117614
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019221084
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】周 広斌
(72)【発明者】
【氏名】岩路 善尚
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-107327(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195301(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0156338(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
H02M 7/48
H02P 29/62
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1台の誘導電動機と前記誘導電動機に交流電流を供給するインバータと前記インバータを制御する制御部とを備えた誘導電動機制御システムにおける過熱監視方法であって、
前記誘導電動機の抵抗と起動時の特徴量との関係を示す抵抗演算関係データと、過熱状態を判断するための判断基準値とを記憶しておき、
前記誘導電動機の電流を検出し、
運転期間中における起動時において、該検出された電流から位相角を求め、該位相角と該位相角を位相同期した信号との差から位相角差分に関する信号を演算し、
該位相角差分に関する信号から電動機の特徴量を演算し、
前記電動機の特徴量と前記抵抗演算関係データとを用いて前記誘導電動機の抵抗を演算し、次いで該演算された抵抗から前記誘導電動機の温度を演算し、
該演算された前記誘導電動機の温度と前記判断基準値とを比較し過熱状態かどうかを判定する誘導電動機の過熱監視方法。
【請求項2】
請求項1に記載した誘導電動機の過熱監視方法において、
前記電動機の特徴量は、基準となる前記位相角差分に関する信号と前記起動時の前記位相角差分に関する信号とを比較して得られる波形の勾配と位相差である誘導電動機の過熱監視方法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導電動機した過熱監視方法において、
前記過熱状態を検知すると、外部にアラーム信号を出力する誘導電動機の過熱監視方法。
【請求項4】
請求項1に記載した誘導電動機の過熱監視方法において、
前記過熱状態を検知すると、前記制御部に対して前記誘導電動機の温度を低減させるための制御コマンドを出力する誘導電動機の過熱監視方法。
【請求項5】
請求項1に記載した誘導電動機の過熱監視方法において、
前記電動機制御システムは前記誘導電動機と前記インバータを複数台有し、複数台の誘導電動機の電流をそれぞれ検出し、前記位相角差分に関する信号は前記複数台の誘導電動機に対して演算し、前記誘導電動機の温度は前記複数台の誘導電動機に対して演算し、前記判定は前記複数台の誘導電動機の過熱状態を判定するようにした誘導電動機の過熱監視方法。
【請求項6】
少なくとも1台の誘導電動機と前記誘導電動機に交流電流を供給するインバータと前記インバータを制御する制御部とを備える電動機制御システムにおける誘導電動機の過熱監視装置であって、
前記誘導電動機の抵抗と起動時の特徴量との関係を示す抵抗演算関係データと、過熱を判断するための判断基準値とを記憶するデータ記憶部と、
前記誘導電動機の電流を検出する電流センサと、
運転期間中における起動時において、該検出された電流から位相角を求め、該位相角と該位相角を位相同期した信号との差から位相角差分に関する信号を演算する電動機情報演算部と、
前記位相角差分に関する信号から得られる電動機の特徴量を演算する特徴量演算部と、
該電動機の特徴量と前記抵抗演算関係データとを用いて前記誘導電動機の抵抗を演算し、次いで該演算した抵抗から前記誘導電動機の温度を演算する温度演算部と、
該演算された前記誘導電動機の温度と前記判断基準値とを比較し過熱状態かどうかを判定する過熱判定部と、
を備えた誘導電動機の過熱監視装置。
【請求項7】
請求項6に記載した誘導電動機の過熱監視装置において、
前記電流の前記位相角度から得られる特徴量は、基準となる前記位相角に関する信号と前記起動時の前記位相角差分に関する信号とを比較して得られる波形の勾配と位相差である誘導電動機の過熱監視装置。
【請求項8】
請求項6に記載の誘導電動機の過熱監視装置において、
前記過熱判定部は過熱状態の検知によりアラーム信号を出力する誘導電動機の過熱監視装置。
【請求項9】
請求項6に記載した誘導電動機の過熱監視装置において、
前記過熱判定部は、過熱状態の検知により前記制御部に対して前記誘導電動機の温度を低減させるための制御コマンドを出力する誘導電動機の過熱監視装置。
【請求項10】
前記誘導電動機を複数台有し、前記複数台の誘導電動機をそれぞれ駆動するために前記インバータが複数台設けられている電動機制御システムに用いる誘導電動機の過熱監視装置であって、
前記複数の誘導電動機を流れる電流をそれぞれ検出する複数組の電流センサを設け、
前記それぞれの電流センサの検出値を用いて、前記電動機情報演算部、前記特徴量演算部、前記温度演算部がそれぞれ演算を行い、前記過熱判定部は、前記複数台の前記誘導電動機の過熱状態をそれぞれ判定する請求項6記載の誘導電動機の過熱監視装置。
【請求項11】
少なくとも1台の誘導電動機と、前記誘導電動機に交流電流を供給するインバータと、該インバータを制御する制御部と、該誘導電動機の温度の過熱状態を検知する過熱検知部とを備えた誘導電動機の制御システムであって、
前記過熱検知部は、
前記誘導電動機の抵抗と起動時の特徴量との関係を示す抵抗演算関係データと、前記過熱を判断するための判断基準値とを記憶するデータ記憶部と、
前記誘導電動機の電流を検出する電流センサと、
運転期間中における起動時において、該検出された電流から位相角を求め、該位相角と該位相角を位相同期した信号との差から位相角差分に関する信号を演算する電動機情報演算部と、
前記位相角差分に関する信号から得られる電動機の特徴量を演算する特徴量演算部と、
該電動機の特徴量と前記抵抗演算関係データとを用いて前記誘導電動機の抵抗を演算し、次いで該演算した抵抗から前記誘導電動機の温度を演算する温度演算部と、
該演算された前記誘導電動機の温度と前記判断基準値とを比較し過熱状態かどうかを判定する過熱判定部と、
を備えた誘導電動機の制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載した誘導電動機の制御システムにおいて、
前記過熱部は、過熱状態を判定した場合、前記制御部に対し過熱状態を低減するための制御コマンドを出力する誘導電動機の制御システム。
【請求項13】
請求項11に記載した誘導電動機の制御システムにおいて、
前記誘導電動機はローラーテーブルを駆動する誘導電動機の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の過熱監視方法、過熱監視装置および過熱監視装置を用いた誘導電動機の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の巻上機駆動システムなどに搭載され、頻繁に起動・停止を行う誘導電動機は、起動電流が電動機定格電流の数倍にもなる。特に、固定子に比べ内部にある回転子はまだ十分に冷却されない状態で次の起動動作が始まるため、回転子が過熱になり電動機の巻線や鉄芯の絶縁破壊、さらには、焼損の可能性が高くなる。
【0003】
このような故障を事前に防ぐために、電動機の速度センサ、電流センサ、温度センサ情報を用いた過熱監視装置が報告されている(特許文献1)。また、温度センサにより計測される環境温度および固定子温度から回転子の温度上昇分を推定する推定方法も報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-175820号公報
【文献】特開平1-274685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、監視対象毎に電流センサの他に速度センサを必要とする。また、特許文献2の技術では、監視対象毎に電流センサの他に温度センサを必要とする。このため、センサを含む関連機器の数が増え、設備全体のコストが高くなる。
【0006】
また、電動機設置場所に寸法制約がある場合や、過酷な環境条件においては、センサを設置することが難しいといった課題もある。さらにセンサの数が増えれば増えるほどセンサ群の信頼性を確保することが困難となり、監視精度が低下する。このため、できる限りセンサを使わない誘導電動機の過熱監視装置が求められている。センサの数が減ると、メンテナンス性、信頼性が大幅に向上する。具体的に、センサの保守点検作業が削減できるほか、センサの故障に伴うシステムダウンを未然に防ぐことができる。また、センサ用システム艤装配線が削減できるので作業コストを削減できる上に、配線トラブルなどの懸念もなくなる。
【0007】
本発明の目的は、電流センサの検出値から電動機の温度を推定し、過熱状態を監視する誘導電動機の過熱監視方法、誘導電動機の過熱監視装置、および誘導電動機の制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一例を挙げると、少なくとも1台の誘導電動機と前記誘導電動機に交流電流を供給するインバータと前記インバータを制御する制御部とを備えた電動機制御システムにおける電動機過熱状態監視方法であって、誘導電動機の抵抗と起動時の特徴量との関係を示す抵抗演算関係データと、前記温度過熱を判断するための判断基準値とを記憶しておき、前記誘導電動機の電流を検出し、運転期間中における各起動時において、該検出された電流から位相角を求め、該位相角と該位相角を位相同期した信号との差から位相角差分に関する信号を演算し、該位相角差分に関する信号から電動機の特徴量を演算し、該電動機の特徴量と前記抵抗演算基準データとを用いて前記誘導電動機の抵抗を演算し、次いで該演算した抵抗から前記誘導電動機の温度を演算し、該演算された前記誘導電動機の温度と前記判断基準値とを比較し過熱状態かどうかを判定するようにした誘導電動機の過熱監視方法である。
【0009】
また、本発明の他の一例を挙げると、少なくとも1台の誘導電動機と前記誘導電動機に交流電流を供給するインバータと前記インバータを制御する制御部とを備える電動機制御システムにおける誘導電動機の過熱監視装置であって、前記誘導電動機の抵抗と起動時の特徴量との関係を示す抵抗演算関係データと、過熱を判断するための判断基準値とを記憶するデータ記憶部と、前記誘導電動機の電流を検出する電流センサと、運転期間中における各起動時において、該検出された電流から位相角を求め、該位相角と該位相角を位相同期した信号との差から位相角差分に関する信号を演算する電動機情報演算部と、前記位相角差分に関する信号から得られる電動機の特徴量を演算する特徴量演算部と、該電動機の特徴量と前記抵抗演算関係データとを用いて前記誘導電動機の抵抗を演算し、次いで該演算した抵抗から前記誘導電動機の温度を演算する温度演算部と、該演算された前記誘導電動機の温度と前記判断基準値とを比較し過熱状態かどうかを判定する過熱判定部と、を備えた誘導電動機の過熱監視装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、交流電流の検出値に基づいて誘導電動機の温度を推定し、過熱状態を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態による誘導電動機制御システムを示す図である。
図2】第1の実施形態における電動機情報演算部の詳細を示すブロック図である。
図3】電動機起動時における電流位相角を位相同期した際の比例信号波形を示す図である。
図4】電動機を起動した際の位相同期回路の2つの出力信号波形から得られる勾配と、固定子抵抗との関係を示す図である。
図5】電動機を起動した際の位相同期回路の2つの出力信号波形から得られる位相差と、回転子抵抗との関係を示図である。
図6】頻繁に起動・停止を行う誘導電動機の過熱検知例を示す図である。
図7】第1の実施形態において実行される異常検知ルーチンのフロー図である。
図8】第2の実施形態による誘導電動機制御システムを示す図である。
図9】第3の実施形態による誘導電動機制御システムを示す図である。
図10】第4の実施形態による誘導電動機制御システムを示す図である。
図11】第5の実施形態による誘導電動機制御システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の種々の実施形態を図面に従い説明する。なお、各実施態様の図面において、同一構成物は同一の数番を付し、その詳細な説明を省略することがある。
【0013】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態を示す誘導電動機制御システムのブロック図である。図1において、誘導電動機制御システム111は、誘導電動機10と、駆動装置20と、監視装置40(電動機監視装置)と、複数の電流センサ41と、を備えている。駆動装置20は、インバータ22と、制御部30と、を備えている。そして、誘導電動機10の回転軸14は、ギア等の機械部品(図示せず)を介して、または直結で駆動機構16に接続されている。インバータ22は、制御部30の制御に基づいて、誘導電動機10に対して三相交流電圧を印加する。なお、以下の説明では、誘導電動機を、電動機と称する場合がある。
【0014】
図1において、駆動装置20は、電動機10の速度やトルクを制御するものであり、ここでは、制御部30は公知のベクトル制御方式を使ってインバータを制御するものとして記載している。
【0015】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、制御プログラムおよび各種データ等が格納されている。また、監視装置40も同様に、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えている。ただし、図1では、理解を容易にするために、制御部30および監視装置40の機能をブロック図として記載している。
【0016】
(制御部30の動作説明)
制御部30は、指令生成部32と、偏差演算部33と、ベクトル制御部34と、dq/3Φ変換部36と、3Φ/dq変換部38と、を備えている。制御部30は、これらの構成により、電動機10に対してベクトル制御を行い、電動機10の応答性を向上させようとするものである。インバータ22は、電動機10に対してU相、V相、W相の三相交流電流を出力する。電流センサ41は、そのうち任意の二相の電流を検出する。すなわち、図示の例では、U相、W相の電流を検出し、その結果を電流検出値Ius,Iwsとして出力する。なお、電流センサ41の検出値は、後述する監視装置40においても使用する。ここで、周波数fで回転する回転座標を想定し、この回転座標において直交する軸をd軸およびq軸と呼び、電動機10に供給される電流をこの回転座標における直流量として表現する。q軸における電流は、電動機10のトルクを決定する電流成分であり、以下、これをトルク電流と呼ぶ。
【0017】
また、d軸における電流は、電動機10の励磁電流になる成分であり、以下、これを励磁電流と呼ぶ。3Φ/dq変換部38は、電流検出値Ius,Iwsに基づいて、励磁電流検出値Idと、トルク電流検出値Iqとを出力する。指令生成部32は、図示せぬ上位装置から、トルク指令値τ*を受信し、トルク指令τ*に基づいて、励磁電流指令値Id*と、トルク電流指令値Iq*と、を生成する。偏差演算部33は、電流指令値Id*,Iq*と、検出値Id,Iqとに基づいて、偏差Id*-Id,Iq*-Iqを出力する。ベクトル制御部34は、偏差Id*-Id,Iq*-Iq等に基づいて、励磁電圧指令値Vd*と、トルク電圧指令値Vq*とを出力する。dq/3Φ変換部36は、回転座標系の電圧指令値Vd*,Vq*に基づいて、インバータ22を駆動するためのPWM信号を出力する。インバータ22は、供給されたPWM信号に基づいて、供給された直流電圧(図示せず)をスイッチングし、U相、V相、W相の電圧を出力して電動機10を駆動する。
【0018】
(監視装置40の構成)
監視装置40は、電動機情報演算部42と、特徴量演算部44と、温度演算部45と、演算に必要なデータを記憶するデータ記憶部46と、過熱判定部48とを備えている。なお、監視装置40の各構成における動作の説明および処理内容は、電動機温度推定方法を説明した後で説明する。
【0019】
(電動機温度推定方法)
次に、この実施形態における電動機温度推定方法を説明する。
一般によく知られているように、電動機10の電動機抵抗値等は、動作温度によって変動する。ここで、ある温度T0を「基準温度T0」とし、基準温度における抵抗値等のパラメータを「基準値」と呼ぶ。電動機10に温度上昇が生じると、電動機抵抗値が大きくなる。電動機温度Tと、電動機抵抗値RTとの関係は、下式(1)のようになる。
RT=R0×(δ+T)/(δ+T0) ……式(1)
【0020】
式(1)において、δは巻線銅線の抵抗温度係数の逆数であり、R0は電動機抵抗基準値、すなわち基準温度T0における電動機抵抗値である。式(1)によれば、例えば、基準温度に対して、40℃の温度上昇が生じると、電動機抵抗値RTは電動機抵抗基準値R0の約1.1倍になる。また、基準温度に対して、70℃の温度上昇が生じると、電動機抵抗値RTは、電動機抵抗基準値R0の約1.2倍になる。なお、巻線がアルミ線等の場合も、同様の計算式が適用できる。
【0021】
次に、本発明の第1の実施態様における電動機の抵抗の求め方を図2を用いて説明する。図2は、図1における電動機情報演算部42の具体的な回路構成を示す図である。電動機情報演算部42は、3Φ/αβ変換器52と、逆正接変換器54と、減算器56と、位相同期演算部60と、積分器72と、乗算器74と、を備えている。位相同期演算部60は、乗算器62,64と、積分器66と、加算器68とで構成される。
【0022】
まず、電動機情報演算部42は電動機に流れる電流の位相角を演算する。3Φ/αβ変換器52は、電流検出値Iu,Iwを、直交する二相の交流電流Iα,Iβに変換する。逆正接変換器54は、これら交流電流Iα,Iβに基づいて、交流電流位相角θi*を計算する。次に、位相角θi*は、位相同期回路に入力され、位相同期回路により位相同期化された位相角θiとの差分(θi*-θi))である位相角差分信号が演算される。
【0023】
この位相角差分信号(θi*-θi))は、乗算器62により所定の比例ゲインKpが乗算され、位相差差分信号の比例信号Kp(θi*-θ0)を出力する。
【0024】
ところで、発明者は、電動機を起動する際(起動時)の位相差差分信号の比例信号Kp(θi*-θ0)から得られた特徴量が、電動機の抵抗の値により大きく変動するという知見を得た。本発明の実施形態では、この知見を利用して電動機の抵抗を求め、さらにその電動機の抵抗から電動機の温度を演算する。この詳細は後述する。
【0025】
なお、図2の場合、電動機の起動時における位相角差分信号の比例信号を用いているが、位相角差分信号の比例信号の代わりに、減算器56の出力である位相角差分信号を用いても良い。なぜなら、位相角差分信号と位相角差分信号の比例信号とは比例関係にあることから、起動時における信号波形の特徴量自体は同様であるからである。このため、位相角差分信号と位相角差分信号の比例信号のいずれかの信号のことを、「位相角差分に関する信号」と称する。
【0026】
また、図2の減算器56の出力である位相角差分信号(θi*-θi))は、乗算器64に入力され、ここで所定の積分ゲインKiを乗算される。積分器66は、この乗算結果を積分する。
加算器68は、乗算器62の出力と、積分器66の出力を加算し、加算結果を周波数信号ω1sとして出力する。積分器72は、周波数信号ω1sを積分し、交流電流位相角θiを出力する。交流電流位相角θiは、減算器56に供給される。また、乗算器74は、周波数信号ω1sに「2/P」(ここで、Pは電動機10の極数)を乗算し、乗算結果を機械周波数ωrsとして出力する。ここで、機械周波数ωrsは、電動機10(図1参照)の実速度(すべりを含んだ速度)に対応する信号になる。
【0027】
このように、減算器56、位相同期演算部60および積分器72は、位相同期回路として機能し、減算器56が出力する差分値「θi*-θi」が「0」に近づくような、周波数信号ω1sおよび交流電流位相角θiを出力する。
【0028】
ここで、電動機の固定子抵抗R1、回転子抵抗R2が変化した場合の位相角差分に関する信号の変化をシミュレーションにより評価した結果について説明する。図3は、電動機が起動する際の位相角差分に関する信号の変動を示す図である。図3において、破線の波形は電動機が基準温度T0の場合における電動機の抵抗(固定子抵抗R1、回転子抵抗R2)の起動時の波形を示し、実線の波形は起動・停止を頻繁に繰り返す運転中における起動時の波形を示す。この図3から分かるように、基準となる波形(破線で示す波形)と運転中の波形(実線の波形)とを比較すると、その両者の波形の勾配αと位相差βが異なっている。なお、ここでは、波形の勾配αと位相差βを総称して、「電動機の特徴量」と称することにする。また、「起動時」とは、起動開始時点のみでなく起動開始から加速中である期間を指す。また、起動時と起動の際とは、ここでは同様の意味で用いる。
【0029】
電動機の特徴量と電動機の抵抗との関係を図4図5に示す。図2において、基準となる固定子抵抗における起動時の位相同期比例信号の波形とを比較した場合において、波形の勾配をαとし、位相差をβとしている。図4は、勾配αと固定子抵抗R1との関係を示す図である。また、図5は、位相差βと回転子抵抗R2との関係を示す図である。
【0030】
図4から分かるように、勾配αは固定子抵抗R1と反比例(勾配が大きいほうがR1が小さい)の関係になっている。また、図5から分かるように、位相差βは回転子抵抗R2と比例関係(位相差が大きいほうがR2が大きい)になっている。つまり、位相角度に基づいて得られる位相角差分に関する信号の起動時の立上りの基準値に対する勾配αは、固定子抵抗R1の影響が支配的である。また、位相角差分に関する信号の位相差βは回転子抵抗R2の影響が支配であることが分かる。
【0031】
したがって、この図4図5の関係を予め求めてメモリに記憶させておき、運転中の起動時において、そのメモリに記憶した関係に対しその時点の特徴量を当てはめることによって、その時点の電動機の抵抗を得ることができる。この図4図5に示すような電動機の抵抗と特徴量との関係のことを、以下では「抵抗演算関係データ」と称する。
【0032】
なお、上記の関係が生じる理由は正確には把握できていないが、発明者は以下に考察するようなものと考えている。まず、電動機固定子電流I1は式(2)のように固定子抵抗R1が大きくなると、電動機電圧V1が一定のため,I1が小さくなるため電流の立ち上がりが遅くなった結果、起動時の位相角差分に関する信号の勾配αが小さくなっている。一方、誘導電動機のすべり周波数Ssが式(3)のように回転子抵抗R2に比例し、回転子抵抗R2が大きくなるとSsが大きくなり、速度を上げるための電動機トルクが要求されるため、結果的により大きいトルク電流を供給する必要がある。つまり、電動機電流位相が基準値より進み、位相角差分に関する信号の位相も回転子抵抗R2に比例し進むことが示唆される。
I1 = V1/R1 ……式(2)
s = (R2×Iq)/(L2×Id) ……式(3)
ここで、Iqは電動機トルク電流、L2は電動機回転子側インダクタンス、Idは電動機励磁電流である。
【0033】
以上述べたように、電動機の起動時の位相角差分に関する信号における電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)に基づいて、誘導電動機の固定子抵抗R1および回転子抵抗R2を推定することができる。すなわち、実験やシミュレーション等により、図4図5に示す関係を予め求めて記憶しておき、起動・停止を繰り返す運転継続中においては、各起動時の位相角差分に関する信号における電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)を求める。そして、この電動機の特徴量を、抵抗演算関係データ(図4および図5に示す関係データ)と照合すれば、そのときのαに対する固定子抵抗R1と、そのときのβに対する回転子抵抗R2とを演算することができる。そして、固定子抵抗R1と回転子抵抗R2が求まれば、それぞれの抵抗を式(1)の関係式に当てはめることにより、固定子温度と回転子温度をそれぞれ演算することができる。
【0034】
(監視装置40の動作説明)
図1の実施形態では、上述した温度推定演算方法を利用して電動機の温度を求め、この求められた温度と過熱判断用の基準値とを比較することにより過熱監視を行う。次に、上述した方法による温度推定機能と、推定された温度を用いて電動機の過熱状態を判断する機能を有する監視装置40の動作を説明する。
【0035】
図1において、監視装置40は、電流センサ41から電動機に流れる電流を検出する。すなわち、電動機情報演算部42は、対応する電流センサ41からU相の電流検出値Iuと、W相の電流検出値Iwとを取得する。そして、電動機情報演算部42は、これら検出値に基づいて、運転中における電動機の各起動時において、位相角差分に関する信号(図3の実線に示すような波形)を出力する。この位相角差分に関する信号を得ることについては上述したとおりであり、その説明は省略する。
【0036】
特徴量演算部44は、電動機情報演算部42から起動時における位相角差分に関する信号を入力し、図3に示すように起動時における基準値からの波形のずれである電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)を抽出する演算を行う。
【0037】
次に、温度演算部45は、特徴量演算部44の出力である電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)に基づいて、電動機の温度(固定子温度R1、回転子温度R2)を演算する。具体的には、データ記憶部46に予め記録されている抵抗演算関係データ(図4に示す勾配αとR1との関係、図5に示す位相差βとR2との関係)に対し、今回の起動時の特徴量を当てはめて照合することにより、今回起動時における電動機の抵抗(固定子抵抗R1,回転子抵抗R2)を演算できる。抵抗演算関係データは、図4図5の関係をテーブルとして記憶しておくと照合が容易である。この電動機抵抗が求まると、式(1)の関係を利用して、今回起動時における電動機固定子および回転子の温度を演算する。温度演算部45の演算や処理に必要な基準となる基準データはデータ記憶部46に記憶しておく。この基準データは、抵抗演算関係データ、およびR1、R2と電動機温度の演算に必要なデータなどである。
【0038】
なお、温度演算部45に、電動機速度を入力しているのは、電動機の起動、停止の状態を検出するためである。この速度の情報により、電動機を起動したかどうかの判断およびその後の加速状況が得られるので、演算開始のタイミングを得ることが可能となる。
【0039】
過熱判定部48は、温度演算部45により得られた電動機の温度を入力し、電動機10の固定子または回転子の過熱状態の有無を検出する。具体的には、過熱かどうかを判定するための固定子温度および回転子温度の判定基準値(閾値)と、温度演算部45により得られた電動機の固定子温度と回転子温度とをそれぞれ比較する。この判定基準値は、予めデータ記憶部46に記憶しておく。そして、いずれかの温度が判定基準値を超えている場合には、電動機が過熱状態にあると判定する。過熱状態が判定されると、過熱判定部48は外部にアラーム信号を出力する。
【0040】
なお、アラーム信号は、ランプの点灯、警報機の発音、または無線通信手段による電波送信等、管理者に通知できる手段であればよい。本実施形態における監視装置40は、過酷な環境に設置する場合には、防塵防水対策を施した監視装置ケースに収納することが好ましい。さらに、監視装置40をインバータ22等、ノイズを発生するデバイスの近くに設置する場合には、監視装置40にノイズ対策を施すことが好ましい。
【0041】
図6に、電動機運転中の起動・停止を繰り返している状態と、固定子の温度と回転子の温度変化の状況を示す。この図6では、回転子の温度が回転子の判断基準値を超えて、過熱を検知した場合を示している。
【0042】
以上のように、監視装置40は、電流センサにより検出された電動機電流の検出値に基づいて、電動機温度を推定演算し、その結果を用いて過熱状態を検知することができる。また、可変速駆動における速度情報も、変換過程にて検出することができるため、回転速度との相関関係も容易に分析できる。さらに、簡単なアルゴリズムによって、交流から直流への変換が可能であるため、異常と判断するためのエッジ処理も監視装置内で実行することができる。これにより、結果として、データ量が大幅に削減でき、分析/診断作業も容易となる。
【0043】
(第1の実施形態における過熱検知ルーチンの説明)
図7は、監視装置40において実行される過熱検知ルーチンの説明図である。この過熱検知ルーチンは、電動機10の起動時(起動開始から加速中である期間)に、所定のサンプリング周期毎に実行される。
【0044】
図7において処理がステップS2に進むと、電流計測処理が実行される。すなわち、図1に示すように、監視装置40は、電流センサ41から、電流検出値Iu、Iwを取得する。
【0045】
次に、処理がステップS3に進むと、電動機情報演算部42は、電動機10の速度ωrsおよび位相角差分に関する信号を演算する。
【0046】
次に、処理がステップS4に進むと、特徴量演算部44は、今回の加速時に得られた位相角差分に関する信号における電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)を抽出する。
【0047】
次に、処理がステップS5に進むと、温度演算部45は、ステップS6に示す基準値データとステップS4で得られた特徴量(勾配α、位相差β)とを用いて、電動機の抵抗(固定子抵抗R1、回転子抵抗R2)を求め、次いでこの電動機抵抗に基づいて電動機の温度(固定子温度、回転子温度)を推定演算する。具体的には、ステップS4で得られた電動機の特徴量(勾配αおよび位相差β)と、予め記憶している抵抗演算関係データ(図4図5に示す関係データ)とから電動機の抵抗(固定子抵抗R1および回転子抵抗R2)を推定演算し、次いでこの演算された電動機の抵抗から電動機の温度(固定子温度Tsおよび回転子温度Tr)を演算する。なお、ステップS6の基準データは、図4に示す勾配αとR1のデータテーブル、図5に示す位相差βとR2のデータテーブル、およびR1、R2と温度のデータテーブルを含むデータなどである。
【0048】
ステップS7において固定子温度Tsが判断基準値T1を超え、かつ電動機起動の過度状態にある(ωrs>0)と判断されると、つまりステップS7で「Yes」と判定されると、処理はステップS9に進む。ステップS7で「Yes」の判定となる場合は、電動機の固定子温度が過熱状態であることを示す。ステップS7で「NO」の場合は、本ルーチンの処理を終了とし、次の処理開始タイミングに備える。
【0049】
ステップS9では、電動機10の固定子が過熱状態であることを表す電動機過熱アラーム信号を外部に出力する。
【0050】
ステップS8において回転子温度Trが判断基準値T2を超え、かつ電動機起動の過度状態にある(ωrs>0)と判断されると、つまりステップS8で「Yes」と判定されると、処理はステップS10に進む。ステップS8で「Yes」の判定となる場合は、電動機の固定子温度が過熱状態であることを示す。ステップS8で「NO」の場合は、本ルーチンの処理を終了とし、次の処理開始タイミングに備える。
【0051】
ステップS10では、電動機10の回転子が過熱状態であることを表す電動機過熱アラーム信号を外部に出力する。
【0052】
(第1の実施形態の効果)
以上のように第1の実施形態によれば、少なくとも2相の電流値Iu,Iwに基づいて電動機10の固定子過熱状態または回転子過熱状態を検知することができる。すなわち、温度センサや速度センサ等を省略できることにより、メンテナンスの省力化を実現しつつ故障を未然に防止できる。
【0053】
また、過熱判定部48は、電動機10の過熱状態を検知するとアラーム信号を出力するので、管理者に対して、各種の異常を報知することができる。本実施形態のアラームは、ランプ、警報器、または無線通信手段など管理者に通知できる手段であればよい。
【0054】
また、過酷な環境に設置する場合、監視装置ケースの防塵防水対策を行うのが望ましい。さらに、インバータなどノイズ発生するデバイスの近くに設置する場合、監視装置のノイズ対策を実施することが望ましい。
【0055】
なお、第1の実施形態においては、電動機の固定子温度および回転子温度の両方を演算し、両方の温度の過熱状態を監視している。しかし、本発明では、固定子温度と回転子温度の両方を求めることは必ずしも必要ではなく、いずれか一方の温度を演算し、その温度を監視することでも成立する。もし、いずれかの温度の状態を監視する場合は、安全性の面から判断して冷却しにくい回転子温度の過熱状態を判断する方が良い。
【0056】
<第2の実施形態>
図8は、本発明の第2の実施形態を示す図である。なお、以下の説明において、上述した実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略し、異なる内容を中心に説明する。
【0057】
図8において、誘導電動機制御システム112は、N台(Nは2以上の自然数)の電動機101~10Nと、これらに回転軸141~14Nを介して結合されたN台の駆動機構161~16Nと、N台の電動機により駆動される負荷12(この例では、負荷は、電動機の駆動力により搬送される搬送物とする。)とを備えている。また、各電動機101~10NのU相、W相には、各2個の(合計2N個の)電流センサ411~41Nが装着され、これらの電流検出値Iu1~IuN,Iw1~IwNは、監視装置150に供給される。
【0058】
監視装置150の構成は、第1実施形態の監視装置40(図1参照)と基本的に同様の構成なので、その詳細説明は省略する。すなわち、第1実施形態の監視装置40が1台の電動機の監視を行う構成であったのに対し、監視装置150がN台の電動機の過熱状態を監視している点が異なっている。
【0059】
<第3の実施形態>
図9は、本発明の第3の実施形態を示す図である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、異なる内容を中心に説明する。
【0060】
図9における誘導電動機制御システム113と図1の誘導電動機制御システム111とは、基本的にほぼ同様の構成となっている。図9における監視装置150の構成と、第1の実施形態における監視装置40の構成とはほぼ同じであるが、図8に示す監視装置150は、電動機の過熱状態を検出した場合の対処の方法が異なる。すなわち、監視装置150は、アラーム信号を出力することに代え、電動機の温度を低減させるための制御コマンドを誘導電動機制御システム113に供給する構成になっている。制御コマンドは、指令生成部32に与えられ、この指令が変更される。ここで、制御コマンドとは、例えば、電動機10の停止または減速を指令するものである。これによって、電動機10の過熱状態がなくなり、より安全かつ高効率に運転することができる。なお、このほか、図8の実施形態では、制御システム103に必要な相電流の検出を別に設けた電流センサ24により検出している。しかし、この電流センサは、別に設置するのではなく、図1と同様に制御部30と監視装置150とで共用するようにしても良い。
【0061】
このように、本実施形態によれば、電動機10の固定子または回転子の過熱状態のうち少なくとも一方を検知すると、制御部30に対して、制御状態を変更させる制御コマンドを出力する。これにより、制御部30における制御状態を適切な状態に変更することができる。
【0062】
<第4の実施形態>
図10は、本発明の第4の実施形態を示す図である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、上述の実施形態と異なる内容を中心に説明する。
【0063】
図10における誘導電動機制御システム114は、駆動・監視装置170と、電動機101,102と、これらに回転軸141、142を介して結合された駆動機構161、162と、を備えている。駆動機構161,162は、回転輪の場合、搬送物12を接線方向に移動させる。あるいは、搬送物12に代えて鉄道用のレールを設け、レールの上を駆動機構151,162自体が接線方向に移動するようにしてもよい。
【0064】
駆動・監視装置170は、制御部30と、インバータ22と、異常検知部180と、平均値演算部182と、を備えている。平均値演算部182は、電流検出値Iu1,Iu2の平均値および電流検出値Iw1,Iw2の平均値を求め、これらを電流検出値Ius,Iwsとして出力する。
【0065】
制御部30、インバータ22の構成は上記第1実施形態のもの(図1参照)と同様であり、異常検知部180の構成は、第3実施形態の監視装置160(図9参照)の構成と同様である。従って、本実施形態の駆動・監視装置170は、第3実施形態における駆動装置20および監視装置160の機能を合わせた機能を有する。なお、本実施形態は、既設の駆動装置20(図9参照)に対して、異常検知部180および平均値演算部182を増設することによって構成することもできる。
【0066】
<第5の実施形態>
図11は、本発明の第5実施形態を示す図である。図11は、ローラーテーブル200を駆動する誘導電動機制御システムの例を示している。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0067】
図11における誘導電動機制御システム115は、N台(Nは2以上の自然数)の電動機101~10Nと、回転軸141~14Nと、N台の駆動機構161~16Nと、駆動装置20と、監視装置150とを備えている。さらに、誘導電動機制御システム115は、水平に配置された複数のローラーからなるローラーテーブル200を備えている。ローラーテーブル200は、軸受部211~21Nと、駆動機構161~16Nで構成されている。上述した駆動機構161~16Nは、それぞれ軸受部211~21Nと、複数のローラー221~22Nを備えている。電動機制御システム115は、例えば、圧延機(図示せず)により圧延された鋼板を搬送する搬送ローラーを駆動するものである。ローラー221から22Nは、全て同一速度で駆動される。従って、ローラー221~22Nの駆動源である電動機101~10Nは、同一仕様のものが適用される。上述した以外の本実施形態の構成は、第2実施形態のもの(図8参照)と同様である。
【0068】
熱間圧延機システムに使用されるローラーテーブルの場合、ローラーテーブル200上を搬送される鋼板は相当高温となっており、各軸受部211~21N、カップリング(図示せず)、電動機101~10Nは、過酷な稼働状況に置かれる。このため、ライン停止等の事態が発生することを防止するため、従来から、軸受部、電動機、等の個別診断対象毎に温度センサ、速度センサ等のセンサを装着し、その検出信号を解析して異常診断を行うことが一般的であった。これに対して、本実施形態によれば、各電動機に温度センサや速度センサ等を装着することが不要になる。そのため、ラインが停止する等の事態が発生することを防止することができる。
【0069】
<その他の実施形態の例>
以上いくつかの実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0070】
(1)上記実施形態における制御部30、監視装置40,150,160、および過熱検知部180のハードウエアは、一般的なコンピュータによって実現できる。そのため、図2図5に示したアルゴリズム、図7に示したプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
(2)図2図5に示したアルゴリズム、または図7に示したプログラムは、上記各実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(field-programmable gate array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
(3)図8等の構成において、インバータ22は1台のみ設けられているが、複数のインバータを設けてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…誘導電動機、20…駆動装置、22…インバータ、24…電流センサ、30…制御部、40…監視装置、41…電流センサ、42…電動機情報演算部、44…特徴量演算部、45…温度演算部、46…データ記憶部、48…過熱判定部、52…3Φ/αβ変換器、54…逆正接変換器、56…減算器、60…位相同期演算部、55…積分器、62…乗算器、64…乗算器、66…積分器、72…積分器、74…乗算器、101~10N…誘導電動機、111~115…誘導電動機制御システム、150…監視装置、160…監視装置、180…過熱検知部、401~40N…電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11