(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受およびその保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/38 20060101AFI20220303BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/16
(21)【出願番号】P 2018168506
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 翔平
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015201101(DE,A1)
【文献】特開2012-149744(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199285(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/38-33/44
F16C 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪の内周面における転動体の軌道面を挟む片方に保持器を案内する案内面を有し、他の片方にカウンタボアを有するアンギュラ玉軸受であって、
前記保持器は、
前記転動体を保持する周方向複数個所のポケットが幅方向の中間に並ぶ円筒状であり、
外周面における前記外輪の前記案内面で案内される被案内面部よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有し、
かつ前記保持器の前記外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径よりも大きい外径増大部を有
し、
外輪と保持器が同心である場合、前記保持器の前記被案内面と前記外輪の前記案内面との間の隙間δaに対する、前記保持器の前記外径増大部における最大径部分の外周面とこの外周面に対向する前記外輪の内周面との間の隙間δbの関係が、
δa<δb≦2δa
であるアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受であって、前記保持器の前記外輪カウンタボア側の部分の前記外径増大部の外周面に、
軸方向に延びるスリットが円周方向に並んで複数設けられたアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載のアンギュラ玉軸受において、前記保持器の前記被案内面と、前記保持器の前記外径増大部における最大径部分の外周面とが、いずれも円筒面であって、両円筒面の部分の軸方向長さが互いに等しいアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受において、前記保持器の前記ポケットの中
心に対する、前記被案内面を有する側の保持器半部の体積と、前記外径増大部を有する側の保持器半部の体積とが互いに同じであるアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受において、前記保持器の前記幅増大部の外周面が、前記被案内面よりも前記外輪の内周面から離れる第1の逃がし部とされ、前記保持器の前記外径増大部における幅方向の中央側の部分の外周面が、幅方向の中央に近づくに従って小径となる第2の逃がし部とされたアンギュラ玉軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項
5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受において、潤滑形式が、
ノズル付き外輪間座に設けられたノズルを、前記外輪の前記案内面側における内輪と前記保持器との間に挿入し、ノズル孔からエアオイルを吐出させるエアオイル潤滑であるアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸用軸受やその他の機器に用いられるアンギュラ玉軸およびその保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸軸受をはじめ、高速運転される支持軸受では、アンギュラ玉軸受が広く使用され、その保持器には、外輪案内保持器や、転動体案内保持器が使用されることが多い。
その潤滑には、常に新しい油を外部から供給し、長期にわたり安定した潤滑状態を保つことのできるエアオイル潤滑やオイルミスト潤滑がある。また、付帯設備や配管を必要としないことから経済性に優れ、ミストの発生が極めて少ないことで、環境に優しいグリース潤滑がある。
工作機械主軸の中でもマシニングセンタなどのより高速な領域(dn値120万以上)では、潤滑の信頼性が高いエアオイル潤滑やオイルミスト潤滑が採用され、その保持器は、外輪案内保持器が多く使用される。
【0003】
そういったdn値120万を超えるような高速運転では、安定した軸受の運転が必要なため、外輪案内保持器における案内の仕方を工夫している。この工夫としては、例えば、従来の片側案内の案内面を広げたり、片側だけでなく両側に案内面を設けるなどの技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械主軸をはじめ、高速運転される支持軸受として使用されるアンギュラ玉軸受は、近年、高速と高剛性の両立が要求されるため、安定した高速回転が可能で、かつ、軸受の予圧を高く取ることが必要である。また、環境対応や省エネの観点から潤滑に使用する油量も年々減り、軸受としてはより厳しい使われ方が増えている。
そのため、高速運転時に有利で信頼性の高いエアオイル潤滑においても、軸受の発熱や保持器における以下の課題がある。
【0006】
(1) 希薄潤滑や異物侵入によって発生する保持器の触れ回りや傾きによる異常振動・異音。
(2) 希薄潤滑や異物侵入によって発生する転動体の進み遅れや、保持器の触れ回り、傾きに伴う保持器の変形により発生する過大応力。
【0007】
この発明は、上記の課題を解消するものであり、その目的は、軸受の異常振動や異音、過昇温、過大応力を軽減した軸受およびその保持器を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のアンギュラ玉軸受は、外輪の内周面における転動体の軌道面を挟む片方に保持器を案内する案内面を有し、他の片方にカウンタボアを有するアンギュラ玉軸受であって、
前記保持器は、
前記転動体を保持する周方向複数個所のポケットが幅方向の中間に並ぶ円筒状であり、 外周面における前記外輪の前記案内面で案内される被案内面よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有し、
かつ前記保持器の前記外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径よりも大きい外径増大部を有するアンギュラ玉軸受。
この明細書において、前記「幅方向の中間」は、幅方向の端を除く意味であり、中央に限らない。
【0009】
この構成によると、保持器が、被案内面よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有することで保持器全体の重量が増える。また、保持器の外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径より大きい外径増大部を有するため、保持器の重量がさらに増える。そのため、外輪内周の案内面における保持器外周面との接触箇所で異物侵入時等に発生する大きな摩擦力による保持器の激しい振れ回りが抑えられ、異音を防ぐことができる。保持器における外輪カウンタボア側の部分は、内外輪のいずれにも案内されないため、カウンタボア側部分だけの重量増大では振れ回りの抑制効果が十分には得難いが、案内面側の重量を増やすので上記の振れ回りの抑制効果が良好に得られる。
また、前記外径増大部を設けると、保持器剛性が高まる。そうすることで、保持器の変形が抑えられ、更には、保持器変形や転動体の進み遅れに伴う保持器の無理な応力が抑制される。
保持器における外輪カウンタボア側の外径増大部は、通常は内外輪のいずれにも案内されないが、前記被案内面の外径よりも外径が大きい外径増大部が設けれているため、保持器が過度に振れ触れ回ろうとした場合は、外径増大部が外輪のカウンタボア部分の内周面に接するサポート手段となることで保持器の最大の傾きが防止され、保持器の大きな傾きや振れ回りが抑えられる。
このように、保持器の外輪カウンタボア側の外径増大部は、保持器の重量増と、傾き角度抑制と、剛性増との3つの役割を兼ねる。
また、このアンギュラ玉軸受は、外輪内周面と保持器外周面との案内に関する構成を、一般的なアンギュラ玉軸受に対して変更することなく、上記の各効果が得られる。保持器のポケットの形成箇所については寸法変更がないため、保持器による転動体の周方向案内に関する構成を変更することなく、上記各効果を得ることができる。
【0010】
この発明において、前記保持器の前記外輪カウンタボア側の部分の前記外径増大部の外周面に、軸方向に延びるスリットが円周方向に並んで複数設けられていてもよい。
外径増大部に前記スリットが設けられていると、軸受の発熱、すなわち外径増大部を設けたことによる保持器の外輪との接触面の増加による発熱や、転動体が転走する軸受空間から保持器側面までの排気隙間の狭小化による熱の籠もりによる軸受の発熱が抑えられる。
【0011】
この発明において、前記保持器の前記被案内面と前記外輪の前記案内面との間の隙間δaに対する、前記保持器の前記外径増大部における最大径部分の外周面とこの外周面に対向する前記外輪の内周面との間の隙間δbの関係が、
δa<δb≦2δa
であってもよい。
前記外径増大部は、前述のように保持器の重量増加、傾き角度抑制、および過大応力抑制の効果を奏する部分であるが、外径が小さ過ぎると、前記傾き角度抑制の効果が得られず、外径が大き過ぎると無駄な接触による摩擦増や発熱増の問題が生じる。
前記隙間δbの範囲であると、前記保持器の傾き角度抑制の効果を得ながら、発熱増を抑制することができる。
【0012】
この発明において、前記保持器の前記被案内面と、前記保持器の前記外径増大部における最大径部分の外周面とが、いずれも円筒面であって、両円筒面の部分の軸方向長さが互いに等しくてもよい。
保持器の被案内面、および外径増大部における外輪の内周面に接触する部分が円筒面であると、外輪の内周面に対して偏った接触とならず、接触しても円滑な回転が可能となる。この場合に、前記両円筒面の部分の軸方向長さが互いに等しいと、保持器に作用する転動体の両側での摩擦抵抗のバランスが得られる。
【0013】
この発明において、前記保持器の前記ポケットの中心となる幅方向中心に対する、前記被案内面を有する側となる保持器半部と、前記外径増大部を有する保持器半部との体積が互いに同じであってもよい。
前記両保持器半部の体積が同じであると、転動体の中心に対する両側の保持器半部の保持器重量が等しくなるため、保持器の回転がより一層安定する。
【0014】
この発明において、前記保持器の前記幅増大部の外周面が、前記被案内面よりも前記外輪の内周面から離れる第1の逃がし部とされ、前記保持器の前記外径増大部における幅方向の中央側の部分の外周面が、幅方向の中央に近づくに従って小径となる第2の逃がし部とされていてもよい。
上記のように保持器の前記幅増大部の外周面が、被案内面部よりも前記外輪の内周面から離れる逃がし面とされていると、保持器幅を広げながら潤滑油の流動性に優れ、軸受の発熱をより良好に防止することができる。
また、上記のように保持器の前記外径増大部における幅方向の中央側の部分の外周面が、幅方向の中央に近づくに従って小径となる逃がし部とされていると、外径増大部を設けながら、潤滑油の流動性に優れ、これによっても軸受の発熱をより良好に防止することができる。
【0015】
この発明のアンギュラ玉軸受は、潤滑形式が、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑であってもよい。
エアオイル潤滑やオイルミスト潤滑のアンギュラ玉軸受は、潤滑の信頼性が高いことから、工作機械主軸、特にマシニングセンタの主軸等の高速な回転領域で用いられることが多い。このような高速運転の用途に用いた場合、この発明の上記構成、効果が、より効果的に発揮される。
【0016】
この発明のアンギュラ玉軸受保持器は、外輪の内周面における転動体の軌道面を挟む片方に保持器を案内する案内面を有し、他の片方にカウンタボアを有するアンギュラ玉軸受における保持器であって、
前記転動体を保持する周方向複数個所のポケットが幅方向の中間に並ぶ円筒状であり、 外周面における前記外輪の前記案内面で案内される被案内面よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有し、
かつ前記外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径よりも大きい外径増大部を有する。
この構成によると、この発明のアンギュラ玉軸受につき前述したように、軸受の異常振動や異音、過昇温、過大応力を軽減することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のアンギュラ玉軸受は、外輪の内周面における転動体の軌道面を挟む片方に保持器を案内する案内面を有し、他の片方にカウンタボアを有するアンギュラ玉軸受であって、前記保持器は、前記転動体を保持する周方向複数個所のポケットが幅方向の中間に並ぶ円筒状であり、外周面における前記外輪の前記案内面で案内される被案内面よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有し、かつ前記保持器の前記外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径よりも大きい外径増大部を有するため、軸受の異常振動や異音、過昇温を軽減することができる。
【0018】
この発明のアンギュラ玉軸受保持器は、外輪の内周面における転動体の軌道面を挟む片方に保持器を案内する案内面を有し、他の片方にカウンタボアを有するアンギュラ玉軸受における保持器であって、前記転動体を保持する周方向複数個所のポケットが幅方向の中間に並ぶ円筒状であり、 外周面における前記外輪の前記案内面で案内される被案内面よりも前記幅方向の外側に広がる幅増大部を有し、かつ前記外輪カウンタボア側の部分における外周に、外径が前記被案内面の外径よりも大きい外径増大部を有するため、軸受の異常振動や異音、過昇温を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一実施形態に係るアンギュラ玉軸受の部分断面図である。
【
図2】同アンギュラ玉軸受における保持器を軸方向に見た部分拡大断面図である。
【
図3】同アンギュラ玉軸受とノズル付き外輪間座とを示す断面図である。
【
図4】同アンギュラ玉軸受と従来のアンギュラ玉軸受とを対比して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このアンギュラ玉軸受は、内輪1と外輪2との間に鋼球等のボールからなる複数の転動体3が介在し、これら転動体3が保持器4で保持されている。内輪1と外輪2の軌道面1a,2aは、接触角θが生じるように形成されている。外輪2の内周面は、軌道面2aを挟む片方の部分に保持器4を案内する案内面2bが設けられ、他の片方にカウンタボア5が形成されている。カウンタボア5は、軸受幅方向の外側に至るに従って大径となるテーパ面とされている。案内面2bは円筒面である。案内面2bは軌道面2aから保持器幅面までの幅の半分程度の幅であり、軌道面2aに隣接して設けられている。
【0021】
保持器4は、各転動体3を保持する複数のポケット6を幅方向の中間に有する円筒状であり、ポケット6は、例えば径方向に延びる円筒面状とされている。保持器4の材質は、例えば積層型フェノール樹脂等の樹脂の削り出し品とされるが、金属製、例えばチタン合金製等としても良い。
【0022】
この基本構成の保持器4において、この実施形態では、保持器4における外輪2の案内面2b側に幅増大部7を設け、カウンタボア5側に外径増大部8を設けている。
幅増大部7は、保持器4の外周面における外輪2の案内面2bで案内される被案内面4aよりも幅方向の外側に広がる部分である。前記被案内面4aは円筒面である。前記幅増大部7は、外周面が、被案内面4aよりも外輪2の内周面から離れる逃がし面7aとされている。逃がし面7aの形状は、保持器幅面に近づくに従って外輪2の内周面から離れるテーパ状とされている。
また、幅増大部7は、前記被案内面4aを構成する保持器幅方向部分(幅Aの部分)よりも内径側に膨らむ断面形状とされ、これにより、
図4(B)に示す一般的な保持器4Bよりも、幅方向および径方向に断面寸法が大きくなっている。
図4(A)は、比較のために、この実施形態と従来例の保持器4,4Bの両方を重ねて図示している。幅増大部7の内周面の断面形状は、保持器幅面側が小径となるテーパ状とされている。
【0023】
外径増大部8は、外輪2のカウンタボア5側で、かつポケット6の中心よりも幅面側の保持器外周部分であり、外径が前記被案内面4bよりも大きく形成されている。外径増大部8の外周面には、この実施形態では
軸方向に延びるスリット9が円周方向に並んで複数設けられている。スリット9の深さは、この実施形態では底面の径が保持器4の前記被案内面4aと同一の径となる深さであり、これにより外径増大部8は、前記スリット9で
区切られて円周方向に並ぶ複数の凸部8a(
図2参照)として構成されている。スリット9は、上記よりも深さを浅くしてもよく、その場合、前記外径増大部8は、前記被案内面4aよりも外径が大きな環状部分と、その環状部分の外周に並ぶ複数の凸部8aとで構成される。なお、スリット9は必ずしも設けなくてもよく、その場合、外径増大部8は全体が環状の部分となる。
【0024】
外径増大部8の外周面の横断面形状は、軸受幅面に最も近い部分となる最大径部分8bが円筒面であり、保持器幅方向の中心から前記最大径部分8bまでの部分が、前記外輪軌道面2aに近づくに従って外径が次第に小さくなるテーパ面の逃がし面8cとされている。前記最大径部分8bは、保持器4が傾きを生じたときに、外輪2のカウンタボア5の内周面に接触する部位となる面である。最大径部分8bの外周面は、上記のように円筒面ではあるが、厳密には、保持器4が第輪2のカウンタボア5の内周面に接触する状態でカウンタボア5の内周面に最大径部分8bの全幅が接するテーパ面とされていても良い。
外径増大部8の突出高さは、次の隙間δa,δbの関係となる高さとなっている。すなわち保持器4の前記被案内面4aと外輪2の案内面2bとの間の隙間δaに対する、保持器4の外径増大部8における最大径部分8bの外周面とこの外周面に対向する外輪2の内周面との間の隙間δbの関係が、
δa<δb≦2δa
とされる。
【0025】
保持器4のポケット中心となる幅方向中心に対する両側の保持器半部の幅および体積のバランスについては、外輪2の案内面2bで案内される案内側の部分の幅が非案内側の部分よりも広くされ、これにより、非案内側の部分は外径増大部8を有するが、両側の保持器半部の体積が互いに等しくされている。
【0026】
このアンギュラ玉軸受の潤滑形式は、例えばエアオイル潤滑とされる。その場合、例えば
図3に示すように、ノズル付き外輪間座10に設けられたノズル11を、外輪2の案内面2b側における内輪1と保持器4との間に挿入し、そのノズル孔11aからエアオイルを吐出させるようにする。
なお、潤滑形式はオイルミスト潤滑であっても、またグリース潤滑であってもよい。
【0027】
この構成によると、保持器4が被案内面4aよりも幅方向の外側に広がる幅増大部7を有することで保持器4の全体の重量が増える。また、保持器4の外輪カウンタ5側の部分における外周に、外径が前記被案内面4aの外径よりも大きい外径増大部8を有するため、保持器4の重量がさらに増える。そのため、異物侵入時等に外輪内周面の案内面2bにおける保持器外周面との接触で発生する大きな摩擦力による保持器4の激しい振れ回りが抑えられ、異音を防ぐことができる。保持器4における外輪カウンタボア5側の部分は、内外輪1,2のいずれにも案内されないため、カウンタボア5側部分だけの重量増大では振れ回りの抑制効果が得難いが、案内面2b側の重量を増やすので上記の振れ回りの抑制効果が得られる。
また、前記外径増大部8を設けると、保持器4の剛性が高まる。そうすることで、保持器4の変形が抑えられ、更には、保持器4の変形や転動体3の進み遅れに伴う保持器4の無理な応力が抑制される。
【0028】
保持器4における外輪カウンタボア5側の外径増大部8は、通常は内外輪1,2のいずれにも案内されないが、外径が前記被案内面4aの外径よりも大きいため、保持器4が過度に振れ触れ回ろうとした場合は、外輪2のカウンタボア5の内周面に接することで保持器4の最大の傾きが防止され、保持器4の大きな傾きや振れ回りが抑えられる。
このように、保持器4の外輪カウンタボア5側の外径増大部8は、保持器4の重量増、傾き角度抑制、および剛性増の3つの役割を兼ねる。
【0029】
前記外径増大部8は、外周面に、軸方向に延びるスリット9が円周方向に並んで複数設けられ、これにより外径増大部8は複数の凸部8aの並びとされている。このように外径増大部8にスリット9が設けられていると、軸受の発熱、すなわち外径増大部8を設けたことによる保持器4の外輪2との接触面の増加による発熱や、転動体3が転走する軸受空間から保持器4の側面までの排気隙間の狭小化による熱の籠もりによる軸受の発熱が抑えられる。
【0030】
外径増大部8の高さについては、保持器4の被案内面4aと外輪2の案内面2bとの間の隙間δaに対する、保持器4の外径増大部8の外周面とこの外周面に対向する外輪2の内周面との間の隙間δbの関係が次式、
δa<δb≦2δa
で定める関係とされているため、次の利点が得られる。
外径増大部8は、前述のように保持器4の重量増加、傾き角度抑制、剛性増の効果を奏する部分であるが、外径が小さ過ぎると、前記傾き角度抑制等の効果が得られず、外径が大き過ぎると無駄な接触による摩擦増や発熱増の問題が生じる。
前記の式で定まる隙間δbの範囲であると、保持器4の傾き角度抑制、重量増加、剛性増の効果を得ながら、発熱増を抑制することができる。
【0031】
また、この実施形態では、保持器4の被案内面4aと、外径増大部8における最大径部分8bの外周面とが、いずれも円筒面であって、両円筒面部分の軸方向長さA,Aが互いに等しいため、次の利点が得られる。
保持器4の被案内面部4a、および外径増大部8における外輪2の内周面に接触する部分が円筒面であると、外輪2の内周面に対して偏った接触とならず、接触しても円滑な回転が可能となる。この場合に、両円筒面部分の軸方向長さA,Aが互いに等しいと、保持器4に作用する転動体3の両側での摩擦抵抗のバランスが得られる。
【0032】
また、保持器4のポケット6の中心となる幅高校中心に対する、被案内面4aを有する側となる保持器半部と、外径増大部8を有する保持器半部との体積が互いに同じであるため、転動体3の中心に対する両側の保持器半部の重量が等しくなるため、保持器4の回転がより一層安定する。
【0033】
このアンギュラ玉軸受の潤滑形式については、エアオイル潤滑とされているため、潤滑の信頼性が高いことから、工作機械主軸、特にマシニングセンタの主軸等の高速な回転領域で用いられることができる。このような高速運転の用途に用いた場合、前記幅増大部7を設けると共に外径増大部8を設けたことによる効果が、より効果的に発揮される。
【0034】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1…内輪
1a…軌道面
2…外輪
2a…軌道面
2b…案内面
3…転動体
4…保持器
4a…被案内面
5…カウンタボア
6…ポケット
7…幅増大部
7a…逃がし面
8…外径増大部
8a…凸部
8b…最大径部分
8c…逃がし面
9…スリット
10…外輪間座
11…ノズル
δa、δb…隙間