(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】ポリマーおよびミクロスフェア
(51)【国際特許分類】
C08F 290/12 20060101AFI20220303BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220303BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C08F290/12
A61L31/04 110
C08F8/30
(21)【出願番号】P 2018511446
(86)(22)【出願日】2016-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2016070808
(87)【国際公開番号】W WO2017037276
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-06-26
(32)【優先日】2015-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】303039785
【氏名又は名称】バイオコンパティブルズ ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズマン,クレア,ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ロイド,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス,ギャリー
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,アンドリュー レナード
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-519273(JP,A)
【文献】特開2008-214355(JP,A)
【文献】特表2008-512370(JP,A)
【文献】特表2009-541276(JP,A)
【文献】特表2009-513265(JP,A)
【文献】特表平10-501264(JP,A)
【文献】特開平03-174426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
A61L 31/04
C08F 8/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンダント架橋可能基を含むポリビニルアルコールマクロマーが、式I
【化1】
のカチオン性荷電ビニルコモノマーで架橋されてい
るポリマーであって、式中、Xは直鎖状または分岐したC
1~6アルキレン基、C
2~6アルケニレン基またはC
2~6アルキニレン基であり、R
1、R
2およびR
3は同一かまたは異なり、C
1~4アルキル基から選択され、R
4はHまたはC
1~4アルキルであり、
前記
ポリビニルアルコールマクロマーは式:
【化2】
の
前記ペンダント架橋可能基を含み、式中、
Qは直鎖状または分岐したC
1~
8アルキレン基であり、
R
5はH、C
1~6アルキル、またはC
3~6シクロアルキルであり、
R
6は25以下の炭素原子を有するオレフィン系不飽和電子吸引性共重合可能ラジカルであり、R
7はHまたはC
1~6アルキルである、ポリマー。
【請求項2】
R
6は式III
【化3】
の基であり、
式IIIにおいて左端の炭素原子が式IIの窒素原子と結合し、
式
III中、
pは0または1であり、
R
9はHまたはC
1~4アルキルであり、
ここでpが0の場合R
8は
【化4】
であり、pが1の場合R
8はC
1~4アルキレン基である、
請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーに共有結合した1つまたは複数のヨウ素をさらに含む、請求項1
または請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
式IV
【化5】
の基を含み、Zは1つまたは複数の共有結合したヨウ素を含む、請求項
3に記載のポリマー。
【請求項5】
ヒドロゲルの形態である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
1つまたは複数の医薬活性物質を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記医薬活性物質は前記ポリマー内にイオン相互作用で結合している、請求項
6に記載のポリマー。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載のポリマーを含む、ミクロスフェア。
【請求項9】
前記ポリマーは5~75重量%のカチオン性コモノマーを含む、請求項
8に記載のミクロスフェア。
【請求項10】
医薬活性物質および/または撮像剤をさらに含む、請求項
8または
9に記載のミクロスフェア。
【請求項11】
前記医薬活性物質および/または撮像剤は前記ポリマー内にイオン相互作用で可逆的に結合している、請求項
10に記載のミクロスフェア。
【請求項12】
請求項
8~
11のいずれか一項に記載のミクロスフェアの1つまたは複数を含む、組成物。
【請求項13】
破裂したミクロスフェアを含まない、請求項
12に記載の組成物。
【請求項14】
医薬的に許容される希釈剤を含む、請求項
12または
13に記載の組成物。
【請求項15】
動脈塞栓術での使用ための、請求項
8~
11のいずれか一項に記載のミクロスフェア。
【請求項16】
患者の体内の部位への前記ミクロスフェアの直接注入を含む方法での使用ための、請求項
8~
11のいずれか一項に記載のミクロスフェア。
【請求項17】
凍結乾燥され、0.9bar未満の圧力下にされた、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の1つまたは複数の無菌ミクロスフェアを含む、密封容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動脈塞栓術の分野においてなされ、特に、塞栓ミクロスフェアの調製での使用に適した荷電ポリマーの提供、ミクロスフェア自体、およびそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈塞栓術において、塞栓材料は組織に供給する血管へ送達され、灌流を防止または低減する塞栓形成を起こし、局所組織の壊死をもたらす。この手法は血管腫瘍、特に肝細胞癌(HCC)のような肝臓の血管腫瘍の処置において人気が高まっている。液体塞栓剤も利用可能であるが、塞栓材料は一般に固体粒子として送達される。現代の固体塞栓材料は、典型的には、ミクロスフェアとして知られる球状ポリマー粒子の形態で提供され、通常20~1500ミクロンの範囲の粒径で提供される。
【0003】
1つの手法ではポリマーは生理学的pHで電荷を有し、反対の電荷を有する薬物がポリマーに静電的に結合でき、それによって薬物の担持および送達特性が改善される。この手法の典型例はWO2004/071495およびJaiquirら (1996) (Jiaqi, Y.,ら (1996).Nihon Igaku Hoshasen Gakkai Zasshi 56(1): 19-24.)に記載されたミクロスフェアであり、それらはアニオン性荷電であり、カチオン性分子の担持に適している。
【0004】
その生体利用能を改善するために医薬品を塩の形態で提供することは一般的である。塩の形態として、いくつかの薬物はアニオン性荷電種として利用可能になり、正に帯電した塞栓材料の提供はそれらの薬物のアニオン種を担持する機会を提供する。例えば、Boudyら(2002)は、もとはクロマトグラフィー担体として調製されたカチオン性荷電trisacrylイオン交換ミクロスフェアへのインドメタシンナトリウムの担持およびその放出について記載した。
【0005】
trisacryl-ゼラチンの塞栓ミクロスフェアも開発されており(Laurentら 1996)、いわゆる「ブランド」塞栓材料として臨床で使用される。これらのミクロスフェアは、荷電合成ポリマーではなくそれらのゼラチン含分により正に帯電する。これらは担持および放出特性が比較的劣るため、典型的には薬物の担持および送達には使用されない。
【0006】
WO06027567は塞栓ミクロスフェア中へのカンプトテシン薬物の担持および送達の問題に取り組む。薬物はカチオン性荷電であるが、明細書はアニオン性ポリマーに加えてカチオン性ポリマーにも言及している。これらのポリマーは調製されておらず、その特性は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、薬物の担持および送達のためのカチオン性荷電ミクロスフェアは提案されているが、ミクロスフェアのようなカチオン性荷電塞栓組成物の調製、ならびに、とりわけ薬物および撮像剤のような、アニオン性荷電種の送達により適した性質のポリマーの提供に対するニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは動脈塞栓術での使用に適した、薬物種および撮像剤のような治療上有用な量のアニオン性荷電分子を担持でき、薬物を有用な方法で送達できるポリマー群を特定し、それらはカテーテル送達に適した性質を有し、単純でよく理解されたプロセスを使用してミクロスフェアに変換され得る。
【0009】
本発明は、マクロマーを含むポリマーを提供し、マクロマーは1,2-または1,3-ジオール基、およびペンダント架橋可能基を含み、ペンダント架橋可能基は式I
【化1】
のカチオン性荷電ビニルコモノマーで架橋され、式中、
Xは直鎖状または分岐したC
1~6アルキレン基、C
2~6アルケニレン基またはC
2~6アルキニレン基であり、
R
1、R
2およびR
3は同一かまたは異なり、C
1~4アルキル基から選択され、
R
4はHまたはC
1~4アルキルである。
【0010】
本発明はまた、治療上有用な、特に血管新生腫瘍の処置および動脈塞栓術において概して有用なポリマーを含むポリマーミクロスフェアを提供する。
【0011】
本発明のポリマーは水膨潤性であるが水に不溶性であり、水性液体の存在下でヒドロゲルを形成する。このタイプのポリマーは典型的には40~99.9重量%の水を含む。
【0012】
PVA(ポリビニルアルコール)は1,3-ジオール基を含み、本発明での使用に適したポリマーの一例である。1000~500000ダルトンの分子量(重量平均分子量)を有するPVAポリマーが使用されてよいが、10,000~100,000の分子量を有するものが好ましい。
【0013】
PVAマクロマーは、PVAポリマー分子当たり2つ以上のエチレン性不飽和ペンダント架橋可能基を含む。好ましくは、PVAマクロマーは1分子当たり約2~20のそのような基、例えば、5~10基を有する。これらのペンダント基はビニルまたはアクリル基であってよい。ペンダントアクリル基は、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸をPVAと反応させていくつかのヒドロキシ基を通してエステル結合を形成することによって提供されてよい。重合可能なビニル基をポリビニルアルコール上に結合するための方法は、例えば、米国特許第4,978,713号、米国特許第5,508,317号および米国特許第5,583,163号に記載されている。好ましいマクロマーは、環状アセタール結合を介して(アルカ)アクリルアミノアルキル部分が結合されるポリビニルアルコール骨格を含む。本明細書の実施例1はそのようなマクロマーの合成を記載する。
【0014】
好ましいマクロマーは、式IIの基のような、ペンダント基を組み込んだ鎖内の(末端ではなく)架橋可能基を含む。
【化2】
式中、
Qは直鎖状または分岐したC
1~8アルキレン基であり、
R
5はH、C
1~6アルキル、またはC
3~6シクロアルキルであり、
R
6は25以下の炭素原子を有するオレフィン系不飽和電子吸引性共重合可能ラジカルであり、
R
7はHまたはC
1~6アルキルである。
【0015】
Qは好ましくはメチレン基、エチレン基、またはプロピレン基であり、最も好ましくはメチレン基である。
【0016】
R5は好ましくはHまたはメチル、特にHである。
【0017】
R
6は好ましくは式III
【化3】
の基であり、式中、
pは0または1であり、
R
9はHまたはC
1~4アルキルであり、
ここでpが0の場合R
8は
【化4】
であり、pが1の場合R
8はC
1~4アルキレン基である。
【0018】
マクロマーは好ましくは式IIa
【化5】
の架橋可能基を含み、ここで、
Qはメチレン基、エチレン基、またはプロピレン基であり、最も好ましくはメチレン基であり、R
5はHまたはメチル、特にHであり、R
7はHまたはメチル、特にHである。したがって、特にQはメチレン基であり、R
5はHであり、R
7はHであり、式IIbのようになる。
【化6】
【0019】
式(I)
【化7】
のカチオン性荷電ビニルモノマーにおいて、好ましくは、
Xは直鎖状または分岐したC
1~4アルキレン、好ましくはエチレン、プロピレン、またはブチレンであり、
R
1、R
2およびR
3は同一かまたは異なり、C
1~4アルキル基から選択され、好ましくはメチルまたはエチルであり、
R
4はHまたはC
1~4アルキル、好ましくはHまたはメチルである。
【0020】
最も好ましくは、カチオン性荷電ビニルモノマーは(3-アクリルアミドブチル)トリメチルアンモニウム塩、(3-アクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウム塩、および好ましくは(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩から選択される。塩は好ましくは塩化物である。
【0021】
したがって、最も好ましい実施形態において、本発明は、(3-アクリルアミドブチル)トリメチルアンモニウム塩、(3-アクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウム塩、および好ましくは(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩から選択されるカチオン性荷電ビニルコモノマーによって架橋された式IIaまたはIIbの基を含むポリマーを提供する。
【0022】
カチオン性荷電塞栓ミクロスフェアは、例えば、前述の(例えばWO2004/071495)および以下に概説されるような油中水型重合技術を使用して生成され得る。
【0023】
本発明は、したがって、上記のようなマクロマーを提供すること、および上記のようなマクロマーをカチオン性荷電ビニルコモノマーで架橋することを含む、カチオン性ミクロスフェアの調製のためのプロセスも提供する。典型的には酸化還元触媒プロセスが使用される。
【0024】
出願人は、一般的なプロセス条件下でミクロスフェアが生成され、その一部はコア-シェル型構造を有する(
図1参照)ことを確認した。これらのミクロスフェアの外殻は特に水性調製において破裂し得、剥離する。そのような調製は、生成された小さな粒子が主要な塞栓から遠位で留まり、目標でない塞栓、したがって予測不能な塞栓形成を引き起こすため、望ましくない。したがって、ミクロスフェア組成物は破裂したミクロスフェアを含まないことが好ましい。本発明はそのような組成物を提供する。
【0025】
本出願人は、コア-シェル構造、そして破裂したミクロスフェアは、カチオン性モノマーの重量%を一定の値の範囲に保つことで回避され得ることをさらに確認した。有用なポリマー、特に本発明のミクロスフェアのポリマーは、5~75重量%、好ましくは10~70重量%、より好ましくは15~65重量%、および最も好ましくは16~60重量%のカチオン性コモノマーを含む。重量%はポリマーの重量%として表され、残部はマクロマーである。
【0026】
ミクロスフェアはふるい分けにより40~1500ミクロンの有用な粒径範囲に分離され得る。典型的には有用な粒径範囲は直径40~70、70~150、100~300、300~500、500~700、700~900ミクロンである。好ましくは、粒径のそろったミクロスフェアの調製において、ミクロスフェアの少なくとも70%は特定の範囲内にある。好ましくは少なくとも80%または90%、およびより好ましくは少なくとも95%である。これはより予測可能な塞栓形成をもたらし、閉塞することなくカテーテル中の通過を容易にする。
【0027】
本発明のポリマーの架橋性により、マトリックスは広範囲の分子量の分子を通過させることができる。薬物のような分子のポリマーへの担持は、したがって低分子量種に限定されない。架橋度に応じて、分子量カットオフは40~250kDaの範囲である。これによりミクロスフェアの構造が、より小さな活性成分と同様に、ペプチド、タンパク質、ならびにDNAおよびRNAのような核酸などの高分子に到達可能になる。カチオン性コモノマーのレベルを制御することにより、分子量カットオフは調整され得る。カチオン性コモノマーの比率がより高いポリマーは、より高い分子量カットオフを有する。好ましいMWカットオフは40~70、70~250、および40~250kDaの範囲である。高MWカットオフマトリックスは、DNA、RNAおよびタンパク質のような高分子のミクロスフェア中への担持を可能にする。
【0028】
上記で示唆されたように、本発明のポリマーおよびミクロスフェアは、医薬的に有用な種を担持し得、それはポリマーまたはミクロスフェアが送達された後体内で放出され得、あるいは、例えば撮像剤の場合、体内での位置を特定するためにポリマー中に留まり得る。
【0029】
本発明はしたがって、上記のような、医薬活性物質または撮像剤を含む、ポリマーまたはミクロスフェアも提供する。
【0030】
本発明で提供されるポリマーおよびミクロスフェアは、医薬活性物質のような様々な分子の担体として機能できる。これらの分子は多くの方法で、例えば、ポリマーの調製もしくはミクロスフェアの形成プロセス中にポリマーマトリックス中へ組み込むことにより、形成後のポリマー中へ吸収により、ポリマー中での沈殿(一般的には水溶性の非常に低い、例えば10g/L未満の分子に限られる)(例えばWO07090897、WO07085615を参照)により、またはイオン相互作用により、ポリマーに結合されてよい。典型的には、イオン相互作用により担持された活性物質はアニオン性電荷を有するであろう。活性物質は好ましくはアニオン性電荷を有し、イオン相互作用によりポリマー中に遊離可能に結合している。これにより活性物質が体内の部位へ送達され(例えばミクロスフェアに結合している場合)、長期間にわたり放出されることが可能になる。
【0031】
そのような化合物の担持は、荷電形態で化合物の溶液とポリマーまたはミクロスフェアを接触させることにより非常に容易に達成され得る。この手法は後で調製物からの溶媒の除去を必要としないため、担持プロセスは水溶液中で最も有利に進行する。
【0032】
以下の実施例は、様々なレベルの電荷を有するアニオン荷電種の担持能を示すためのモデル分子を使用する。担持可能な種の範囲はこれらのモデル化合物に限定されないことに留意されたい。
【0033】
本発明は特に、生理学的pH(7.4)でアニオン性荷電である医薬活性物質の担持を意図する。適切な種は、例えばアニオン性荷電(酸性)薬物、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、アニオン性ポリペプチドを含む。アニオン性撮像剤もまた担持されてよい。典型的には、活性物質は、塩の形態(例えばアルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミンまたは亜鉛塩)などの、荷電形態として担持されるであろう。ミクロスフェアおよびポリマーはまた、負電荷リポソームを結合するために使用されてもよい。適切な薬物は、例えばインドメタシン、フェニルブタゾン、ケトプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、アスピリン、ワルファリン、フロセミド、およびスルホンアミドなどの、1つまたは複数のカルボキシラート基を有するものを含む。具体的には、ミクロスフェアおよびポリマーは、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド(ralitrexed)プララトレキサート(pralatrexed)、ペメトレキセド(plevitrexed)、およびBGC-945を含む、種々のカルボキシラート含有葉酸代謝拮抗薬のような抗癌剤と使用されてよく、典型的には例えば、ナトリウム塩または二ナトリウム塩のような塩の形態として使用される。
【0034】
ポリマーおよび特にミクロスフェアを患者内で可視化するために、典型的には1つまたは複数の撮像剤をポリマーまたはミクロスフェアに組み込むことにより、体内で撮像可能なポリマーおよびミクロスフェアを提供することは有用である。これらの分子は多くの方法で、例えば、形成する(例えばミクロスフェアとして)プロセス中にポリマーマトリックス中へ組み込むことにより、形成後のミクロスフェアもしくはポリマー中へ吸収により、ミクロスフェアもしくはポリマー中での沈殿(典型的には水溶性の低い、例えば10g/L未満の分子に限られる)により、またはイオン相互作用により、ミクロスフェアに結合されてよい。
【0035】
適切な撮像剤は、X線、磁気共鳴剤、陽電子放射断層撮影(PET)剤、常磁性共鳴剤などを含む。
【0036】
放射線不透過性にすることによりミクロスフェアをX線撮像可能にすることは1つの手法である。これを達成するために、様々な方法が文献に提案されている。例えば、Thanoo(1991)は、調製中に硫酸バリウムがミクロスフェアに組み込まれる方法を開示している。ヨウ化ナトリウムは、ヨウ化物イオンを含み、それはカチオン性荷電ポリマーに結合して、撮像可能なミクロスフェアを提供する。WO2015/033093は、予め形成されたミクロスフェアに放射線不透過性種を共有結合させることにより、ポリマーを放射線不透過性にする特に便利な方法を記載している。この方法は、ハロゲン(例えば、ヨウ素または臭素)のような、共有結合した放射線不透過性種を含むアルデヒドを、1,2-または1,3-ジオール基を有する予め形成されたポリマーミクロスフェアにカップリングすることを含む。本記載のポリマーは、WO2015/033093に記載されるような、アルデヒドが好都合に結合し得るPVAを含んでもよい。
【0037】
この後者の手法は、式IVの単位を含む放射線不透過性ポリマーをもたらし、本発明のポリマーおよびミクロスフェアを放射線不透過性にするために使用することもできる
【化8】
【0038】
式IVにおいて、Zは1つまたは複数の、共有結合した、ヨウ素のような放射線不透過性ハロゲンを含む基である。具体的にはZは1、2、または3つの共有結合したヨウ素を有するフェニル基を含む。このようにして調製されたミクロスフェアは、好ましくは乾燥重量で少なくとも10%のヨウ素を含む。好ましくは、ポリマーは乾燥重量で少なくとも20%のヨウ素、好ましくは乾燥重量で30%、40%、50%または60%超のヨウ素を含有する。乾燥重量で30~50%のヨウ素を有するポリマーで特に有用な放射線不透過性が得られる。
【0039】
代替の方法は、ポリマーまたはミクロスフェアを磁気共鳴画像法(MRI)によって撮像可能にすることである。典型的には、これは、例えば酸化鉄粒子(例えば、WO09073193に記載されている)のような鉄またはガドリニウムのような、MRI検出可能成分をポリマーまたはミクロスフェアに組み込むことによって達成される。
【0040】
1つの特定の実施形態では、ポリマーおよびミクロスフェアは、陽電子放射断層撮影(PET)によって撮像可能にされ得る。カチオン性荷電ポリマーを18Fイオン(例えば、NaFとして提供される)のような負に帯電したPET撮像可能成分で帯電させることができるので、この手法は特に興味深い。
【0041】
X線造影剤に対する代替の手法は、ミクロスフェアはイオパミドール、イオヘキソール、イオキシラン(oxilan)、イオプロミドおよびイオジキサノールなどの非イオン性造影剤とも共に使用され得るが、とりわけ、イオン性造影剤であるイオキサグル酸を含む。これらの化合物は、水溶液からミクロスフェア中に吸収されてよい。
【0042】
本発明のミクロスフェアは、典型的には無菌で提供される。滅菌は、オートクレーブまたは電離放射線への暴露のような、当該技術分野で既知の方法によって達成され得る。ミクロスフェアは、乾燥(凍結乾燥)されるか、または本発明のミクロスフェアおよび医薬的に許容される希釈剤(例えば、水または生理食塩水)を含む医薬組成物として提供され得る。乾燥されて提供される場合、それらは減圧下(例えば0.1bar以下)の密封バイアル中に有用に提供され、(WO07147902に記載されているように)再水和がより迅速に達成される。
【0043】
適切な医薬組成物はまた、ポリマーまたはミクロスフェアの体内への配置を支援するために、造影剤を含む組成物を含む。イオン性造影剤および非イオン性造影剤の両方が使用されてよいが、一般に非イオン性造影剤(例えば、イオパミドール、イオヘキソール、イオキシラン、イオプロミド(ipromide)およびイオジキサノールなど)は有害反応がより少ないため好ましく(Katayamaら (1990) Radiology; 175:621-628)、それらの非イオン性の性質のため、担持された薬物のポリマーからの解離に寄与しない。
【0044】
上記のミクロスフェアおよび組成物は、本明細書に記載のカチオン性ミクロスフェアを患者に投与することを含む、患者の処置方法で使用されてよい。患者は、血管の塞栓形成を含む治療を必要とすることがある。ミクロスフェアは、典型的には、血管に導入され、塞栓を引き起こす(動脈塞栓術)。手法は、活性成分もしくは造影剤を添加されていないミクロスフェアを使用してもよく、またはミクロスフェアは上記のような試薬を含んでもよい。あるいは、ミクロスフェアは、患者の体内の部位に直接注射することによって投与されてもよく、それらは医薬活性物質または造影剤のデポとして作用し、典型的には塞栓形成に至らない。
【0045】
血管は、典型的には、肝細胞癌(HCC)ならびに転移性大腸癌(mCRC)および神経内分泌腫瘍(NET)を含む肝臓転移を含む肝腫瘍のような、血管新生組織に関連するものである。本発明の塞栓ミクロスフェアはまた、子宮筋腫、前立腺肥大(良性前立腺肥大を含む)のような他の血管新生状態、ならびに肥満の処置(例えば、肥満動脈塞栓形成による-Weissら J Vasc Interv Radiol. 2015 May; 26(5):613-24.)のような塞栓形成が有効であり得る他の状態を処置するためにも使用され得る。このような方法は、医薬活性物質および/または撮像剤がミクロスフェアに担持され、処置が治療有効量の活性物質の、それを必要とする患者への送達を提供する場合に、特に有用である。ミクロスフェアはまた、ミクロスフェアが直接注射によって作用部位に送達される手順で使用されてもよい。これに対する1つの手法は、注射による腫瘍またはその周辺への医薬活性物質を含むミクロスフェアの直接的な送達である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】実施例1にしたがって調製され、破裂した外層を有するミクロスフェアを示す。
【
図2】a)APTA
16、b)APTA
27、c)APTA
43およびd)APTA
60の光学顕微鏡写真を示す。
【
図3】種々の分子量のFITC-デキストランへの暴露後の実施例2にしたがって調製されたミクロスフェアの共焦点レーザー走査顕微鏡画像を示す。
【
図4】担持および溶出試験におけるモデル化合物として使用される4つのスルホン酸色素の構造を示す。(a)1-ピレンスルホン酸ナトリウム塩(P1):(b)6,8-ジヒドロキシピレン-1,3-ジスルホン酸二ナトリウム塩(P2):(c)8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホン酸三ナトリウム塩(P3)および(d)1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸水和物四ナトリウム塩(P4)。
【
図5】200mLのPBS中のAPTA
43ミクロスフェアから溶出したP1、P2、P3およびP4色素の分画を示す(平均±範囲、n=3)。初期担持量は、ミクロスフェア1mL当たり8.6μmolであった。
【
図6】200mLのPBS中のAPTA
16、APTA
43およびAPTA
60ミクロスフェアから溶出したP1の分画を示す(平均±範囲、n=3)。初期担持量は、ミクロスフェア1mL当たり8.6μmolであった。
【発明を実施するための形態】
【0047】
実施例
実施例1
(i)PVAマクロマーの合成
マクロマーは、本質的にWO04071495の実施例1にしたがって調製されてよい。Mowiol 8-88 PVA粉末(88%加水分解度、12%アセテート含量、平均分子量約67,000D)(150g)(Clariant,Charlotte,NC USA)を2リットルガラス反応容器に加える。穏やかに撹拌しながら1000mlの水を加え、撹拌を400rpmまで増加させる。PVAを完全に溶解させるために、温度を99±9℃に2~3時間昇温する。室温まで冷却し、PVA溶液にN-アクリロイルアミノアセトアルデヒド(NAAADA)(Ciba Vision,10 Germany)(2.49gまたは0.104mmol/gのPVA)を混合し、続いて濃塩酸(100ml)を加える。反応は室温で6~7時間進行し、次いで2.5M NaOHを用いてpH7.4に中和することにより停止する。
【0048】
ダイアフィルトレーションを、3000の分子量カットオフを有する0.1m2のセルロース膜(Millipore Corporation,Bedford,MA,USA)を積層したステンレス鋼ペリコン2 Miniホルダーを使用して実施する。マクロマー溶液を約50psiで膜上を循環させる。溶液が約1000mlに濃縮される場合、6000mlの追加分が加えられるまで、濾液が廃棄のために収集されているのと同じ速度で水を加えることによって、体積を一定に保つ。達成されると、溶液は25℃で1700~3400cPの粘度を有する20~23%固体に濃縮される。
【0049】
(ii)ポリマーミクロスフェアの調製
ミクロスフェアを、「油中水」型の系において酸化還元触媒反応で合成した。
【0050】
有機相:600gの酢酸n-ブチルおよび酢酸エチル中の10%(w/w)酢酸酪酸セルロース(CAB)11.5gを、加熱冷却ユニットに接続したガラス製の1Lジャケット付き容器に加え、約300rpmで25℃で撹拌し、N2でパージした。
【0051】
水相:既知の量のPVAマクロマー(21gの不揮発性重量)、1.3gの過硫酸アンモニウム(APS)、適切な量の(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTA)溶液および追加の量の精製水を共に混合し、反応容器へ加えた。配合物中の水の総量が約130gになるように水を加えた。
【0052】
1.6mLのTMEDAを加えることより重合を活性化した。APSに対して過剰量のN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を用いてAPSを完全に反応させた。不活性N2雰囲気下、55℃で3時間反応を継続させた。次いで、酢酸エチルおよびアセトン中で洗浄して残留CABを除去することによってミクロスフェアを精製した後、水中で水和および洗浄を行った。水中での再水和の前に、0.29%(w/w)のNaCl溶液中の80mMリン酸水素二ナトリウム中で煮沸してミクロスフェアを加熱抽出し、続いて生理食塩水中で平衡化した。
【0053】
ミクロスフェアは、生理食塩水で水和された場合、典型的には100~1200μmの範囲の粒径で生成され、ふるいを使用して粒径範囲に分離された。全ての配合物において、全含水量、マクロマーおよびAPSの重量は同じままであった。配合物の表記は、合成に使用されたAPTA対マクロマーの重量パーセント(wt%)の比率を表し、例えば、APTA
45は、45wt%のAPTA対55wt%のマクロマーを意味する。表1は、実施例のミクロスフェア配合物におけるAPTA対マクロマーの重量パーセント(wt%)を示す。
【表1】
【0054】
重量分析を使用して、水和ミクロスフェアの体積当たりのポリマーの正確な質量を決定した。水中で完全に水和したミクロスフェアの体積をメスシリンダーを使用して測定し、バイアルに移し、水を除去した。重量が一定になるまで、ミクロスフェアを80~120℃で真空乾燥させた。残存したポリマーの重量を記録し、ミクロスフェアの体積当たりの質量を決定した。
【0055】
APTA16、APTA43およびAPTA60球のそれぞれについて測定された平衡含水率は98~99%(n=7)であった。
【0056】
実施例2.マトリックスの分子量カットオフ
水中で完全に膨潤したミクロスフェアを分子量4kDa~250kDaのFITC-デキストラン複合体(FITC-D)に暴露することによって、各マトリックス配合物について分子量カットオフデータを決定した。共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)を使用してミクロスフェアの内部へのFITC-Dの拡散を観察した。APTA
16、APTA
43およびAPTA
60について、対象の領域を中心とした代表的な画像を
図3に示す。ミクロスフェアの中心にFITC-Dが観察されなかった最大分子量カットオフ範囲のまとめを表2に示す。
【表2】
【0057】
実施例3.小さな分子のポリマーマトリックスへの担持
本発明のミクロスフェアの担持および溶出特性を、一連の市販のピレンスルホン酸ナトリウム塩をモデルアニオン性薬物として用いて特性決定した。1-ピレンスルホン酸ナトリウム塩(P1)、6,8-ジヒドロキシピレン-1,3-ジスルホン酸二ナトリウム塩(P2)、8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホン酸三ナトリウム塩(P3)および1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸水和物四ナトリウム塩(P4)の各色素の化学構造を
図4に示す。
【0058】
(i)担持
メスシリンダーを使用して、生理食塩水(例えば、1mL)中で完全に水和したミクロスフェアの体積を等分した。その後ミクロスフェアをバイアルに移し、生理食塩水を除去した。モデル化合物の溶液を、化合物を脱イオン水中に溶解することによって調製した。その後、溶液をミクロスフェアのスラリーを含むバイアルに加えた。その後、バイアルを室温で回転させて混合し、担持溶液のアリコートを除去することによって担持を観察した。
【0059】
ミクロスフェアスラリーを過剰の試験化合物と72時間混合することにより、各配合物の最大結合能力を決定した。残存した溶液をスラリーから除去し、ミクロスフェアを水で洗浄して、結合していない残留化合物を除去した。結合能力を、エタノールと50:50の比率で混合した飽和KCl水溶液500mL中で完全に溶出することによって決定した。
【0060】
UV/Vis分光光度法を用いて、各化合物について作成した検量線に対して試料を分析した。P1については375nm、P2については411nm、P3については404nm、P4については376nmでの最大吸光度を用いた。表3は、3つの異なるミクロスフェア配合物中の4つの色素の担持能力を示す。
【表3】
【0061】
(ii)溶出
各ポリマー配合物のミクロスフェアに、等量の各色素を担持した。色素担持ミクロスフェアの試料1mlを、褐色瓶中の200mLのPBSに加えた。ミクロスフェア懸濁液を回転させて連続混合した。各時点で溶離液を採取し、上記のようなUV/Vis分光光度法によってアッセイした。採取した溶離液の体積を新鮮なPBSと交換して溶出体積を維持した。
図5は、APTA
43ミクロスフェアからの各色素の溶出プロファイルを示す。
【0062】
個々の色素の溶出速度は異なる。一価の色素P1は初期担持量の80%が60分以内に放出されており、二価の色素P2の9%ならびにP3およびP4の約3%と比較して、溶出速度が最も速い。例示として、APTA
16、APTA
43およびAPTA
60からの色素P1の溶出プロファイルを
図6で比較する。