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▶ ホガナス アクチボラグ (パブル)の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】切削加工容易な金属粉末組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220303BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220303BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
B22F1/00 V
C22C38/00 304
C22C33/02 103A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018548750
(86)(22)【出願日】2017-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2017055810
(87)【国際公開番号】W WO2017157835
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】16161116.5
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フー、ボー
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-513538(JP,A)
【文献】特開2010-111937(JP,A)
【文献】特開2009-035796(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00589088(EP,A1)
【文献】特開2001-347602(JP,A)
【文献】特開平10-081943(JP,A)
【文献】特表2013-519625(JP,A)
【文献】国際公開第2013/159558(WO,A1)
【文献】豪国特許出願公告第0000655514(AU,B2)
【文献】国際公開第2015/008406(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
C10M101/00-177/00
C01B 33/20-39/54
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01~1.0重量%の切削性向上添加剤を含む鉄基粉末組成物であって、前記切削性向上添加剤が少なくとも50重量%の粉末形状のハロイサイトを含有し、
SS-ISO 13320-1に従った測定によれば、ハロイサイトの粒度分布は、X90が30μm未満であり、X50が15μm未満であり、少なくとも90重量%が0.1μmよりも大きい、鉄基粉末組成物。
【請求項2】
前記切削性向上添加剤がハロイサイトからなる、請求項1に記載された鉄基粉末組成物。
【請求項3】
SS-ISO 13320-1に従った測定によれば、ハロイサイトの粒度分布は、X90が20μm未満であり、X50が10μm未満であり、少なくとも90重量%が1μmよりも大きい、請求項1又は請求項2に記載された鉄基粉末組成物。
【請求項4】
SS-ISO 13320-1に従った測定によれば、ハロイサイトの粒度分布は、X90が10μm未満であり、X50が5μm未満であり、少なくとも90重量%が0.5μmよりも大きい、請求項3に記載された鉄基粉末組成物。
【請求項5】
ハロイサイトの比表面積は、ISO 109277:2010に従ったBET法により測定して、少なくとも15m/gである、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された鉄基粉末組成物。
【請求項6】
鉄基粉末組成物を作製する方法であって、
鉄基粉末を提供する段階と、
前記鉄基粉末に切削性向上添加剤を混合する段階と
を含み、
前記切削性向上添加剤が、少なくとも50重量%のハロイサイトを含有し、
前記切削性向上添加剤の含有量が、前記鉄基粉末組成物の0.01~1.0重量%であり、
SS-ISO 13320-1に従った測定によれば、ハロイサイトの粒度分布は、X90が30μm未満であり、X50が15μm未満であり、少なくとも90重量%が0.1μmよりも大きい、鉄基粉末組成物を作製する方法。
【請求項7】
前記切削性向上添加剤がハロイサイトからなる、請求項6に記載された鉄基粉末組成物を作製する方法。
【請求項8】
切削性の向上した鉄基焼結部品の製造方法であって、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された鉄基粉末組成物を準備する段階と、
前記鉄基粉末組成物を400~1200MPaの圧縮圧力で成形する段階と、
成形された部品を700~1350℃の温度で焼結する段階と、
を含む、鉄基焼結部品の製造方法。
【請求項9】
焼結された部材であって、
少なくとも90%のFe、
0.1~1%のC、および
前記部材の0.01~1.0重量%の切削性向上添加剤を含有し、
前記切削性向上添加剤が少なくとも50重量%のハロイサイトを含有する、焼結された部材。
【請求項10】
前記切削性向上添加剤がハロイサイトからなる、請求項9に記載された焼結された部材。
【請求項11】
0.2~5%のCuを含有する、請求項9又は請求項10に記載された焼結された部材。
【請求項12】
0.2~4%のNiを含有する、請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載された焼結された部材。
【請求項13】
焼結された部材であって、
少なくとも96%のFe、
0.1~2%のP、および
前記部材の0.01~1.0重量%の切削性向上添加剤を含有し、
前記切削性向上添加剤が少なくとも50重量%のハロイサイトを含有する、焼結された部材。
【請求項14】
前記焼結された部材は、コンロッド、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)部材の群から選択される、請求項9から請求項13までのいずれか1項に記載された焼結された部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削性の向上した金属粉末部品を製造するための金属粉末組成物、および粉末金属部品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金製造技術の主な利点の1つは、圧縮成形および焼結によって、最終形状または最終形状に非常に近い形で部材を製造することが可能なことである。しかし、次工程として切削加工が必要な場合がある。例えば、寸法精度が厳しい場合や、部材の最終形状が直接プレスできないような形状になっている場合に切削加工が必要になる。具体的には、圧縮方向横方向の穴、アンダーカットおよびねじ山のような形状は、後続の切削加工を必要とする。
【0003】
強度および硬度をさらに向上させた新しい焼結鋼を開発し続けたことにより、切削加工は部材の粉末冶金製造技術において課題となっている。粉末冶金的製造技術による部材の製造が最も費用効果の高い方法であるかどうかを評価する際には、しばしば制限要因になる。
【0004】
今日では、焼結後の部材の切削加工を容易にするために鉄基粉末混合物に添加される物質が多く知られている。最も一般的な粉末添加剤は、MnS(硫化マンガン)である。これは、例えば、欧州特許出願公開第0183666号に、焼結鋼の切削性がその粉末の混合によってどのように改善されるかが記載されている。
【0005】
米国特許第4,927,461号は、焼結後の切削性を向上させるために、六方晶系BN(窒化ホウ素)を鉄基粉末混合物に0.01重量%および0.5重量%添加することを記載している。
【0006】
米国特許第5,631,431号は、鉄基粉末組成物の切削性を向上させるための添加剤に関するものであり、この特許によれば、添加剤は、粉末組成物の0.1~0.6重量%のフッ化カルシウム粒子を含有する。
【0007】
特開平08-095649号公報には切削性向上物質が記載されている。これは、Al-SiO-CaOを含み、アノーサイトまたはゲーレン石の結晶構造を有するものである。アノーサイトは、長石群に属し、モース硬度が6~6.5のテクトケイ酸塩であり、ゲーレナイトは、モース硬度が5~6のソロケイ酸塩である。
【0008】
米国特許第7,300,490号には、硫化マンガン粉末(MnS)とリン酸カルシウム粉末またはヒドロキシアパタイト粉末との組み合わせからなる圧粉および焼結された部品を製造するための粉末混合物が記載されている。
【0009】
国際公開第2005/102567号には、切削性向上剤として使用される六方晶窒化ホウ素粉末とフッ化カルシウム粉末との組み合わせが開示されている。硫黄と組み合わせられた酸化ホウ素、ホウ酸またはホウ酸アンモニウムなどのホウ素含有粉末は、米国特許第5,938,814号に記載されている。
【0010】
切削性向上添加剤として使用される粉末の他の組み合わせは、欧州特許出願公開第1985393号に記載されており、その組み合わせは、タルクおよびステアタイトおよび脂肪酸から選択される少なくとも1つを含有する。切削性向上物質としてのタルクは特開平1-255604号公報に記載されている。
【0011】
欧州特許出願公開第1002883号は、金属部品、特に弁座用インサートを製造するための金属粉末混合物を記載している。記載された混合物は、摩擦を低減し、すべり摩耗を防止し、切削性を改善するために、0.5~5%の固体潤滑剤を含有する。実施形態の1つでは、雲母が固体潤滑剤として言及されている。耐摩耗性および高温安定性を有する部材の製造に使用されるこのタイプの粉末混合物は、常に合金成分(通常は10重量%超)および硬質相(通常は炭化物)を多量に含む。
【0012】
米国特許第4,274,875号は、欧州特許出願公開第1002883号に記載されているものと同様の物品の製造方法であって、成形および焼結する前に0.5~2重量%の粉末雲母を金属紛に添加する工程を含む粉末冶金による製造方法を教示する。具体的には、どのような種類の雲母も使用できることが開示されている。
【0013】
さらに、特開平10-317002号公報には、摩擦係数を低減した粉末および焼結体が記載されている。粉末は、1~10重量%の硫黄、3~25重量%のモリブデン、残部が鉄である化学組成を有する。さらに、固体潤滑剤および硬質相材料が添加される。
【0014】
国際公開第2010/074627号は、鉄基粉末に加えて、フィロケイ酸塩の群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む少量の切削性向上添加剤を含む鉄基の粉末組成物を開示する。添加剤の具体例としては、白雲母、ベントナイト、カオリナイトである。
【0015】
圧粉して焼結された部品の切削加工は非常に複雑であり、部材の合金系の種類、合金元素の量、温度、雰囲気および冷却速度などの焼結条件、部材の焼結密度、寸法および形状などのパラメータの影響を受ける。また、切削加工の種類や切削加工パラメータの影響を受けることは明らかであり、切削の結果に非常に重要である。粉末冶金組成物に添加される提案された切削加工性向上剤の多様性は、PM切削加工技術の複雑な性質を反映している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許出願公開第0183666号明細書
【文献】米国特許第4,927,461号明細書
【文献】米国特許第5,631,431号明細書
【文献】特開平08-095649号公報
【文献】米国特許第7,300,490号明細書
【文献】国際公開第2005/102567号
【文献】米国特許第5,938,814号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1985393号明細書
【文献】特開平1-255604号公報
【文献】欧州特許出願公開第1002883号明細書
【文献】米国特許第4,274,875号明細書
【文献】特開平10-317002号公報
【文献】国際公開第2010/074627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本明細書において「含有する」(contains,containing)という用語は、明示的に言及されたもの以外の他の物質または種が存在できることを意味する。また、「からなる(consists,consisting of)」という用語は、明示的に言及されたもの以外の他の物質または種が存在しないことを意味する。
【0018】
本発明は、焼結された鋼の切削性を向上させるための新たな添加剤を開示するものである。具体的には、この添加物は、焼結部材の穿孔のような切削加工を容易にする。特に、コンロッド、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)部材のような鉄、銅及び炭素を含有する焼結鋼の穿孔を容易にする。旋削加工、フライス削りおよびねじ切り加工などの他の切削加工も、新しい切削性向上添加剤によって促進される。さらに、新しい添加物は、高速度鋼、炭化タングステン、サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素などのいくつかのタイプの工具材料によって切削される部品に使用することができ、工具もコーティングすることができる。
【0019】
従って、本発明の目的は、切削性を向上させるための金属粉末組成物用の新しい添加剤を提供することである。
本発明の別の目的は、様々なタイプの焼結鋼に対して種々の切削加工に使用される添加剤を提供することである。
本発明の別の目的は、圧粉され焼結された部材の機械的特性に影響を与えないか、または無視できる程度の影響しか与えない新しい切削性向上添加剤を提供することである。
【0020】
本発明の更なる目的は、新しい切削性向上添加剤を含有する粉末冶金組成物、およびこの組成物からの成形部品を作製する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、切削性の向上した焼結部材、特にFe-Cu-Cを含有する焼結部材を提供することである。しかし、本発明はFe-Cu-C系に限定されない。ステンレス鋼粉末、拡散接合粉末、Mo、Ni、Cu、Cr、Mn、Siなどの様々な合金元素を有する低合金粉末を焼結してなる部材も、新しい削性向上添加剤の恩恵を受けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
鉄基粉末組成物に粉末形態の所定のハロイサイト化合物を含有する切削性向上添加剤を添加することにより、鉄基粉末組成物からの焼結部材の切削性が著しく向上することが判明した。さらに、添加量が極端に少なくても切削性に効果が得られるので、非金属物質の添加による圧縮性への悪影響が最小限に抑えられることが期待される。
【0022】
本発明によれば、上記の目的の少なくとも1つ、および以下の説明から明らかな他の目的が、本発明の様々な具体例によって達成される。
【0023】
本発明の第1の観点は、焼結された鋼部材の切削加工を容易にする、ハロイサイトを含有する新しい切削性向上添加剤である。
【0024】
本発明の第2の観点は、鉄基粉末と少量の粉末形態の切削性向上添加剤を含む鉄基粉末組成物であり、切削性向上添加剤がハロイサイトを含有する。
【0025】
本発明の第3の観点は、鉄基粉末組成物の切削性向上添加剤に含まれるハロイサイト粉末の使用である。
【0026】
本発明の第4の観点は、鉄基粉末組成物を作製する方法であって、鉄基粉末を提供する段階と、鉄基粉末に粉末形態の切削性向上添加剤を混合する段階とを含み、切削性向上添加剤がハロイサイトを含有する。
【0027】
本発明の第5の観点は、切削性の向上した鉄基焼結部品の製造方法であって、上記具体例の鉄基粉末組成物を準備する段階と、鉄基粉末組成物を400~1200MPaの圧縮圧力で成形する段階と、成形された部品を700~1350℃の温度で焼結する段階と、任意で焼結された部品を熱処理する段階とを含む。
【0028】
本発明の第6の観点は、新しい切削性向上添加剤を含有する焼結部材である。一具体例では、焼結部材は鉄、銅および炭素を含有する。他の具体例では、焼結部材は、コンロッド、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)部材の群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ハロイサイトは天然に生成するケイ酸塩鉱物であり、カオリナイトと同様の組成を有するが、層間に追加の水分子を含み、カオリナイトで一般に観察される板状形態と比較して管状形態を有する。その結果、水和したハロイサイトは、カオリナイトよりも大きな基底間隔を有する。その完全に水和した形態は、AlSi(OH)-2HOにより表される。ハロイサイトが中間層水を失うとき、それはしばしば部分的に脱水された状態で観察される。この場合、ハロイサイトは、エチレングリコール溶媒和の後の粉末X線回折(XRPD)分析によって、カオリナイトから同定または区別することができる。2つの鉱物は、エイジングの進行とともに(ハロイサイトとカオリナイトとの間の)遷移相が見出されないので、独立して形成されるようである。また、ハロイサイトは、カオリナイトよりも早く形成される準安定前駆物質であり、ハロイサイト粒径はカオリナイトの粒径よりも小さく、通常はハロイサイトの比表面積(SSA)はカオリナイトの比表面積(SSA)よりも大きい。
【0030】
切削性向上添加剤(第1の観点)
本発明による切削性向上添加剤は、比表面積(BET法で測定したSSA)が少なくとも15m/g、好ましくは少なくとも20m/g、より好ましくは少なくとも25m/gであるハロイサイトを含有し、マンガン硫化物、六方晶窒化ホウ素、他のホウ素含有物質、フッ化カルシウム、白雲母、タルク、エンスタタイト、ベントナイト、カオリナイト、チタン酸塩、アノーサイト、ゲレニトール、硫化カルシウムなどの他の公知の切削性向上添加剤を含むか、混合されていてもよい。好ましい物質は、硫化マンガン、六方晶窒化ホウ素、フッ化カルシウム、白雲母のような雲母、ベントナイト、カオリナイト、チタン酸塩である。本発明の切削性向上添加剤がハロイサイトに加えて他の切削性向上物質を含有する場合、切削性向上添加剤中のハロイサイトの含有量は50重量%以上である。本発明による切削性向上添加剤は、ハロイサイトのみを含有してもよい。
【0031】
SS-ISO 13320-1による測定では、本発明による切削性向上添加剤に含まれるハロイサイトの粒径X90は、50μm未満、好ましくは40μm未満、より好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満μm未満、例えば15μm未満または10μm未満である。これに代えて、または加えて、平均粒径X50は、25μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは15μm未満、より好ましくは10μm未満、例えば8μm未満または5μm未満などにできる。しかし、粒径は0.1μmよりも大きく、好ましくは0.5μmよりも大きく、より好ましくは1μmよりも大きく、すなわち粒子の少なくとも90重量%が0.5μmよりも大きく、または1μmよりも大きくできる。粒径が0.5μm未満である場合、添加剤を他の鉄基粉末組成物と混合して均一な粉末混合物を得ることが困難となる可能性がある。粒径が大きすぎると、機械的強度および寸法変化などの焼結特性に悪影響を与えるまた、50μmを超える粒径は、切削性向上性能および機械的特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0032】
したがって、本発明による切削性向上添加剤に含まれるハロイサイトの好ましい粒径分布の例は、
X90が50μm未満であり、X50が25μm未満であり、少なくとも90重量%が0.1μm超、又は
X90が30μm未満であり、X50が15μm未満であり、少なくとも90重量%が0.1μm超、又は
X90が20μm未満であり、X50が15μm未満であり、少なくとも90重量%が0.5μm超、又は
X90が10μm未満であり、X50が5μm未満であり、少なくとも90重量%が0.5μm超
である。
好ましい粒径分布の他の例は、
X90が50μm未満であり、X50が25μm未満であり、少なくとも90重量%が0.5μm超、又は
X90が30μm未満であり、X50が15μm未満であり、少なくとも90重量%が0.5μm超、又は
X90が20μm未満であり、X50が10μm未満であり、少なくとも90重量%が1μm超、又は
X90が10μm未満であり、X50が5μm未満であり、少なくとも90重量%が1μm超
である。
【0033】
鉄基粉末組成物(第2の観点)
鉄基粉末組成物中の切削性向上添加剤の量は、0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%である。切削性向上添加剤の量が少ないと意図された切削性向上効果が得られず、量が多いとむしろ切削性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
本発明による切削性向上添加剤は、本質的にいずれの鉄系粉末組成物にも使用することができる。したがって、鉄基粉末組成物に含まれる鉄基粉末は、アトマイズ鉄粉、還元鉄粉などの純鉄粉であってもよい。また、Ni、Mo、Cr、Si、V、Co、Mn、Cuなどの合金化元素を含む低合金鋼粉末およびステンレス鋼粉末などの予合金化された粉末、さらに合金元素が鉄基粉末の表面に拡散接合された部分合金化された鋼粉末も使用できる。また、鉄基粉末組成物は、粉末形態の合金元素を含有してもよい。すなわち合金元素を含有する粉末が、鉄基粉末組成物中に別個の粒子として存在してもよい。
【0035】
切削性向上添加剤は、組成物中に粉末形態で存在する。切削性向上添加剤粉末粒子は、遊離粉末粒子として鉄基粉末組成物と混合されてもよく、または鉄基粉末粒子に結合剤を用いて結合されてもよい。
【0036】
本発明による鉄基系粉末組成物から製造された圧粉され焼結された部品の機械的特性に悪影響を及ぼさないように、切削性向上添加剤の量は、金属粒子間の焼結を著しく妨げない程度に少なくしなければならない。このことは、切削性向上添加剤粉末粒子が鉄または鉄基粉末粒子の表面に結合している場合、切削性向上添加剤は、鉄または鉄基粉末粒子上に密着した被覆としてではなく、個々の離散粒子として存在することを意味する。
【0037】
したがって、切削性向上添加剤の最大含有量は、鉄基粉末組成物の1重量%、好ましくは0.5重量%、好ましくは0.4重量%、好ましくは0.3重量%である。本発明による鉄基粉末組成物は、黒鉛、結合剤および潤滑剤のような他の添加剤および他の従来の切削性向上添加剤を含むこともできる。潤滑剤は0.05~2重量%、好ましくは0.1~1重量%で添加することができる。黒鉛は0.05~2重量%、好ましくは0.1~1重量%添加することができる。
【0038】
第2の観点の一具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも90重量%の含有量の鉄粉末(鉄粉末は少なくとも99重量%の鉄を有する)、0.1~1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、任意で0.2~5重量%の銅粉末、任意で0.2~4重量%のニッケル、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。
【0039】
第2の観点の別の具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも92重量%の含有量の鉄粉末(鉄粉末の組成は少なくとも99重量%の鉄を有する)、0.1~1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、0.2~5重量%の銅粉末、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。
【0040】
第2の観点の別の具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも93重量%の含有量の鉄粉末(鉄粉末の組成は少なくとも99重量%の鉄を有する)、0.1~1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、0.2~4重量%のニッケル粉末、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。
【0041】
第2の観点の別の具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも90重量%の含有量の鉄粉末(鉄粉末の組成は少なくとも99重量%の鉄を有する)、0.1~2重量%の燐、好ましくは0.1~1重量%の燐に相当する鉄燐粉末、任意で最大1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。
【0042】
第2の観点の別の具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも90重量%の含有量の予合金化または拡散合金化された鉄粉末(鉄粉末は、少なくとも90重量%の鉄、最大10重量%の合金元素を有する)、0.1~1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。任意で、最大4重量%の銅粉末、及び/又は最大4重量%のニッケルを鉄基粉末組成物に含有できる。
【0043】
第2の観点のさらに別の具体例として、鉄基粉末組成物は、鉄基粉末組成物の少なくとも90重量%の含有量のステンレス鋼粉末(ステンレス鋼粉末は、少なくとも50重量%の鉄、最大で合計45重量%の合金元素(SiおよびCrを含み、任意でNi、Mo、Nbを含む)を有する)、任意で最大1重量%の黒鉛、0.1~1重量%の潤滑剤、そして0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又はそれらからなる。
【0044】
方法(第4および第5の観点)
本発明による粉末冶金による部材の製造は、従来の方法、すなわち以下の方法によって行うことができる。鉄または鋼の粉末をニッケル、銅、モリブデン、および任意で炭素などの望ましい合金元素、ならびに本発明による切削性向上添加剤と混合することができる。合金元素は、予合金化または拡散合金化されたものとして、または鉄基粉末に、または混合合金元素、拡散合金化粉末、または予合金化粉末の組み合わせとして添加できる。この混合粉末は、圧縮する前に、従来の潤滑剤、例えばステアリン酸亜鉛またはアミドワックスと混合することができる。混合粉末中の細かい粒子は、混合粉末の偏析を最小限にし、流動性を向上させるために、結合剤によって鉄基粉末に結合させることができる。その後、混合粉末をプレス工具で圧粉して、最終形状に近い成形体を得ることができる。圧縮は、一般に400~1200MPaの圧力で行う。圧縮後、成形体を700~1350℃の温度で焼結し、0.01~5℃/sの速度で冷却して、その最終強度、硬さ、伸び等を得る。任意で、所望のミクロ組織を達成するために焼結部品にさらに熱処理を行うことができる。
【0045】
焼結部材(第6の観点)
焼結部材は、焼結中に分解して消失する有機潤滑剤を除いて、鉄基粉末組成物中に存在する全ての物質を含有する。鉄基粉末組成物中の潤滑剤の含有量は1重量%以下であるため、合金元素、切削性向上剤等の含有量は、焼結部材においても鉄基粉末組成物と実質的に同じであるとみなされる。以下のパーセントは、焼結部材に対する重量%である。明記された元素のほかに、焼結部材は不可避不純物を1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下含有する。
【0046】
第6の観点の一具体例では、焼結部材は、焼結部材の少なくとも90重量%のFe、0.1~1重量%のC、任意で0.2~5重量%のCu、任意で0.2~4重量%のNi、任意でMo、Cr、Si、V、Mnなどの合金元素、及び0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又は、それらからなる。
【0047】
第6の観点の一具体例では、焼結部材は、焼結部材の少なくとも92重量%のFe、0.1~1重量%のC、0.2~5重量%のCu、及び0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又は、それらからなる。
【0048】
第6の観点の一具体例では、焼結部材は、焼結部材の少なくとも93重量%のFe、0.1~1重量%のC、0.2~4重量%のNi、及び0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又は、それらからなる。
【0049】
第6の観点の一具体例では、焼結部材は、焼結部材の少なくとも96重量%のFe、任意で0.1~1重量%のC、0.1~2重量%、好ましくは0.1~1重量%の燐、及び0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又は、それらからなる。
【0050】
第6の観点の一具体例では、焼結部材は、焼結部材の少なくとも50重量%のFe、任意で0.1~1重量%のC、最大45重量%の他の合金元素(SiおよびCuを含む)、及び0.01~1.0重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、好ましくは0.05~0.4重量%、好ましくは0.05~0.3重量%、好ましくは0.1~0.3重量%の第1の観点による切削性向上添加剤を含有するか、又は、それらからなる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を非限定的実施例により説明する。
【0052】
切削性向上添加剤
2つの異なる供給源に由来する新しい切削性向上添加剤、ハロイサイトを試験し、以下の表1に示す切削性向上添加剤として知られている一般的なケイ酸塩鉱物と比較した。主要な化学組成は、一般的なX線粉末回折(XRPD)分析により決定した。SSA(比表面積)は、ISO 9277:2010に従ってBET法により測定し、水分含有量は、空気中で、230℃で30分間、5gの粉末を乾燥させた後の材料の重量減の測定によって測定した。粒径は、ISO 13320:1999に従うレーザー回折によって決定した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す材料の平均粒径X50は、全て同程度である。X90の場合(90重量%の粒子がその値よりも小さい粒径を有することを意味する)、ハロイサイトAはハロイサイトBよりも小さい。ハロイサイトBの粒径は、カオリナイトおよび雲母の粒径と同程度である。ハロイサイトAの粒径はタルクの粒径と同程度である。ハロイサイト材料はいずれも、カオリナイトと同様の化学組成を有するが、酸化マグネシウム(MgO)を多量に含有する雲母やタルクなどの他のケイ酸塩鉱物とは異なっている。予想通り、ハロイサイト材料は、他のケイ酸塩鉱物材料よりもずっと高い割合の水分を含有する。水分は、その化学組成物中に存在する層間水に由来するものである。完全に水和されたハロイサイトの場合、化学式から、12.2%HOを含有する。従って、表1に記載されたハロイサイト材料は部分的に脱水されたものであり、すなわち構造中に約25%のHOがまだ残っている。
【0055】
表2に示すように、6つの粉末冶金組成物を調製した。各混合物は、スウェーデンのホガネス社(Hoganas AB)から入手可能なアトマイズ純鉄粉末ASC100.29、ACuPowder社(米国)から入手可能な銅粉末Cu165を2重量%、Asbury Graphite社(米国)から入手可能な黒鉛粉末Gr1651を0.85重量%、およびLonza社(米国)から入手可能な潤滑剤AcrawaxCを0.75重量%含有した。混合物No.1およびNo.2は、本発明による切削性向上添加剤0.3重量%を含み、No.3~No.5の混合物は、公知の混合物0.3重量%を含有させた。参照材として切削性向上添加剤を含有しない混合物No.6を使用した。
【0056】
【表2】
【0057】
混合物は、6.9g/cmのグリーン密度のリング形状(高さ20mm、内径35mm、外径55mm)のグリーン体試料に一軸圧縮により圧粉した。その後、1120℃、90%窒素/10%水素の雰囲気で30分間焼結を行った。室温まで冷却した後、試料を切削性試験に供した。
【0058】
また、粉末冶金組成物を6.9g/cmのグリーン密度に一軸圧縮により圧粉した後、1120℃、90%の窒素/10%水素の雰囲気で30分間焼結することにより、ISO 3325による抗折強度試験試料を製造した。室温まで冷却した後、試料をISO 3325による抗折強度(TRS)試験に供した。
【0059】
焼結試料の切削性は、穿孔および旋削により評価した。
【0060】
穿孔のために1/8インチの無被覆の高速鋼ドリルビットを使用して、湿式状態、すなわち冷却剤を使用して18mm深さの盲穴を穿孔した。各混合物から製造された材料の切削性を、ドリルが使用不可(切削工具の過度の摩耗または破損)になる前に穿孔された穴の数により評価した。穿孔試験1および穿孔試験2の2つの試験を、1回転あたり0.075mmおよび0.13mmの異なる送り速度でそれぞれ実施した。リング試料1個あたり最大36個の穴が開けられた。
【0061】
旋削のためにTiCN被覆炭化物インサートを使用して、湿式状態、すなわち冷却剤を使用してリング試料の内径(ID)を旋削した。旋削パラメータは、速さ275mm/分、送り0.1mm/回転、深さ0.5mm、長さ20mm/カットであった。リング試料1個あたり最大30カットを行った。工具摩耗は、それぞれ90カット(旋削1)および180カット(旋削2)で評価した。過度の工具の摩耗は、工具摩耗(フランク摩耗)が200μmを超えるときと考えられる。
【0062】
以下の表3に、切削性試験およびTRS試験の結果を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
本発明による混合物1および混合物2を用いた試験では、工具が使用不可になることなしに、180穴および72穴穿孔後に穿孔1および穿孔2をそれぞれ停止した。既知の切削性向上添加剤のいずれも、多少の改善を示すカオリナイトを除いて、切削性向上添加剤を添加していない参照材と比較して、穿孔の改善を示さない。
【0065】
旋削加工に対しては、本発明による切削性向上添加剤および公知の切削性向上物質の両方が、切削性向上添加剤を含まない参照材と比較して、90カット(旋削1)後の摩耗がかなり減少した。しかし、180カット(旋削2)後では、混合物3、4、5に使用された切削性向上剤で過剰な工具摩耗が観察された一方、本発明による切削性向上添加剤を用いた混合物1および混合物2は、旋削加工性向上に優れた性能を示した。TRS試験は、ハロイサイトの添加がマイカおよびタルクと比較してTRSに与える影響が小さいことを示している。
【0066】
表3から、切削性を向上させる添加剤としてのハロイサイトは、穿孔と旋削の両方において優れた結果を示すことが明らかである。