(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】水酸化第一鉄からマルトール第二鉄組成物を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 309/40 20060101AFI20220303BHJP
C07F 15/02 20060101ALI20220303BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20220303BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220303BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C07D309/40
C07F15/02
A61K31/351
A61K33/26
A61P7/06
(21)【出願番号】P 2018551969
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2017057703
(87)【国際公開番号】W WO2017167970
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-30
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516272320
【氏名又は名称】シールド ティーエックス (ユーケー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】パウエル ジョナサン ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ファリア ヌーノ ジョルジ ロドリゲス
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/097627(WO,A1)
【文献】特表2014-503579(JP,A)
【文献】特開昭63-079859(JP,A)
【文献】KUVAEVA, Z. I. et al.,Pharmaceutical Chemistry Journal,2007年,Vol. 41, No. 5,pp. 272-273
【文献】JAYASOORIYA, U. A. et al.,Chemical Physics Letters,2011年,Vol. 518,pp. 119-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、水酸化第一鉄をマルトールと反応させることと、形成される前記マルトール第二鉄を回収することと、を含
み、
前記マルトールが、マルトールのスラリーまたは懸濁液の形態であり、
前記方法は、完全な水性条件下で実施され、
前記水酸化第一鉄をマルトールと反応させることは、酸素の存在下で実施される、
方法。
【請求項2】
前記マルトール第二鉄が、トリマルトール第二鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水酸化第一鉄が、コロイドまたはゲルの形態である、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水酸化第一鉄を生成することをさらに含み、任意選択で前記反応が、還元環境において実施される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記還元環境が、酸素欠乏環境である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
水酸化第一鉄
とマルトールの反応により
前記水酸化第一鉄を酸化して、水酸化第二鉄を生成し、次いで
前記水酸化第二鉄がマルトールによって錯体化されて、マルトール第二鉄を形成する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水酸化第二鉄の前記錯体化によりヒドロキシルイオンが放出され、前記スラリーまたは懸濁液中のマルトールのさらなる溶解をもたらす、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、第二鉄(Fe
3+)、アルミニウム(Al
3+)、及びクロム(Cr
3+)などの加水分解性金属イオンを、前記水酸化第一鉄を生成する前に除去するためのプレ中和工程を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プレ中和工程が、第一鉄イオンの10%未満が水酸化第一鉄に変換されるpHより小さく、かつ前記加水分解性金属イオンが沈殿するpHより大きくなるように前記反応のpHを調整することを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記水酸化第一鉄が、塩化第一鉄または硫酸第一鉄から得られる、請求項
5又は6に記載の方法。
【請求項11】
元素鉄から前記水酸化第一鉄を生成することと、任意選択で未反応の鉄を磁石で除去することと、を含
み、
前記元素鉄は強鉱酸に溶解されており、
前記水酸化第一鉄は無酸素または低減酸素の雰囲気下で生成される、
請求項
5又は6に記載の方法。
【請求項12】
前記強鉱酸
が塩酸である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記マルトール第二鉄が、単一の容器内で生成される、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マルトール第二鉄組成物を分離し、任意選択で乾燥することをさらに含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マルトール第二鉄組成物を精製及び/または製剤化することをさらに含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記マルトール第二鉄組成物を1つまたは複数の賦形剤と混合することをさらに含む、請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(a)第一鉄塩(例えば、塩化第一鉄)から第一鉄溶液を調製する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、また任意選択で無酸素または低減酸素の雰囲気下で、水酸化第一鉄のスラリーを沈殿させる工程と、
(
c)任意選択で、塩化物、ナトリウム、もしくはカリウムなどの未使用の反応物または望ましくない溶質を含有する可溶性画分を除去及び廃棄する工程と、
(
d)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(
e)水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物に前記ペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(
f)
前記水酸化第一鉄のスラリーをマルトールのアルカリ溶液またはスラリーと反応させて、マルトール第二鉄を生成する工程と、
(
g)前記マルトール第二鉄を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
(
h)任意選択で前記マルトール第二鉄を乾燥させる工程と、を含む、請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記マルトール第二鉄が、トリマルトール第二鉄である、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
対象への経口投与のために前記マルトール第二鉄組成物を製剤化することをさらに含む、請求項1~
18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を水酸化第一鉄から生成するための方法、ならびにこれらの方法によって生成されるマルトール第二鉄組成物及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖誘導体マルトールは、ヒドロキシピロン(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)であり、それは鉄を強くキレート化し、得られる錯体(トリ-マルトール第二鉄としても記載され得るトリマルトール第二鉄)は、多くの他の第二鉄療法とは異なり、十分に吸収される。トリマルトール第二鉄は、IBD患者などの胃腸管系の副作用対して高度に感受性である集団でも十分に許容されると思われ(Harveyら、1998)、したがって、それは、経口第一鉄製品に不耐の患者に有益な代替案を提供し、特に静脈注射用の鉄の代わりとなる。トリマルトール第二鉄を使用した臨床試験が実施されており、例えば、Gascheら、2015年で見られる。
【0003】
しかしながら、トリマルトール第二鉄のバイオアベイラビリティ及び忍容性の証拠にもかかわらず、その臨床開発は、適切な合成経路がないことによって制限されている。特に、ほとんどの製造プロセスは、例えば、合成後の溶媒除去に対処するために、製造コストを増加させる有機溶媒の使用を必要とし、かつ、例えば、可燃性に対処するためにさらなる安全対策を必要とする。重要なことに、溶媒系の合成は、堅実ではなく、多くの場合、合成の望ましくない不純物であると先行技術において記載される水酸化第二鉄を生成する。
【0004】
WO03/097627(Vitra Pharmaceuticals Limited)は、pH7超の水溶液中でのカルボン酸の鉄塩からのトリマルトール第二鉄の合成を記載している。第1の合成において、クエン酸第二鉄塩が、室温で水酸化ナトリウム溶液に添加され、マルトールが、pH11.6の水酸化ナトリウムの第2の溶液に添加される。クエン酸第二鉄塩溶液が、マルトール溶液に添加され、深赤色沈殿の生成物をもたらす。次いで、この組成物を乾燥状態まで蒸発させ、物質が粉末状になり、乾燥される。代替の合成は、カルボン酸鉄塩開始物質としてフマル酸第一鉄塩またはグルコン酸第一鉄塩を使用して、またマルトールを、水酸化ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウム溶液に溶解させることが記載されている。しかしながら、このプロセスが完全に水性であるという事実にもかかわらず、使用されるカルボン酸鉄塩のうちのいくつかは、特に、トリマルトール第二鉄がヒト投与に好適になるようにする場合に薬学的な等級である必要があるので高価である。より重要なことに、このプロセスは、トリマルトール第二鉄のかたまりのろ過または遠心分離によって容易に除去されない高レベルのカルボン酸塩(鉄と等モルまたはそれ以上)を合成に導入する。代わりに、これらの水溶性混入物を洗浄(例えば、水洗浄)しなければならないが、これは、トリマルトール第二鉄の両親媒性性質が原因で生成物の相当な損失をもたらすであろう。
【0005】
WO2012/101442(Iron Therapeutic Holdings AG)は、アルカリ性pHの水溶液中でマルトールと非カルボン酸鉄塩とを反応させることによるトリマルトール第二鉄の合成を記載している。しかしながら、非カルボン酸鉄塩はより低いコストにもかかわらず、トリマルトール第二鉄がヒト投与に好適になるようにする場合、薬学的に適切な等級が依然として必要とされ、したがって比較的高価な開始物質となる。重要なことに、非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の使用は、相当レベルのそれぞれの対アニオンの添加(例えば、鉄1モル当たり、塩化物3モル)をもたらし、有意な部分がろ過(または遠心分離)のかたまり中に保持されるので、洗浄しなければならない。したがって、WO2012/101442は、WO03/097627の生成物損失の問題を解決しない。さらに、WO2012/101442に記載されている、非常にアルカリ性である溶液への非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の添加は、トリマルトール第二鉄中の望ましくない混入物である安定した酸化鉄の形成を促進する。結果として、さらにコストがかかり、時間のかかる物質の処理が、製造のために必要とされるであろう。
【0006】
概して、現在の水性合成のコストは、高度に精製された、したがって高価な鉄塩、ならびに最終生成物の徹底的な洗浄(生成物の大幅な損失をもたらす)の使用を強制する最終医薬製剤中の低レベルな毒性重金属及び残留試薬の規制要求によって上がっている。これは、トリマルトール第二鉄の最終価格に影響を与え、この療法への患者の利用を限定する可能性がある。したがって、適切な純度のトリマルトール第二鉄を生成する一方で、より低い鉄の等級を使用でき、洗浄サイクルが限定されるプロセスの必要性がある。
【0007】
したがって、先行技術の合成方法に関連する上記欠点のいくつかまたは全てを克服する、経済的なコストでのトリマルトール第二鉄の合成のためのプロセスを提供することは、当該技術分野において依然として課題である。物質のより良い合成を介してこれらの問題を解決することにより、トリマルトール第二鉄に対する良好な患者の利用が可能になるであろう。
【発明の概要】
【0008】
広く、本発明は、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を生成するための方法に関し、この方法ではマルトールを水酸化第一鉄と反応させる。水酸化第一鉄は、2価の鉄を含有しており、第一鉄塩と比較して低反応性と一般的に考えられる形態であるにもかかわらず、マルトール第二鉄の合成において良好な鉄源であることが見出された。これは、水酸化鉄が、一般に、マルトール第二鉄の合成において望ましくない副生成物とみなされることを考えると、さらにより驚くべきことである。しかしながら、本発明の方法では、水酸化第一鉄を徐々に酸化することができ、その後第二鉄イオンが放出され、それをマルトールによって錯体化することができるということが示されている。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、マルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、水酸化第一鉄をマルトールと反応させることと、形成されるマルトール第二鉄を回収することと、を含む方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、トリマルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、水酸化第一鉄をマルトールと反応させることと、形成されるトリマルトール第二鉄を回収することと、を含む方法を提供する。
【0010】
水酸化第一鉄の溶解は、マルトールを溶解させるために使用され得るヒドロキシルイオンの放出をもたらすのに有用である。したがって、マルトールを、以前のプロセスに開示されるような溶液としてではなく、スラリーまたは懸濁液として使用することができ、結果として、以前開示された合成と比較して、最終生成物の中に混入するナトリウムまたはカリウム(マルトールを溶解するために使用される水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム由来の)がより少量であることも、本発明者らは見出した。マルトールを溶解させるヒドロキシルイオンの放出のこのサイクルは、反応のpHが、水酸化第一鉄の溶解で実質的に増加しないので、マルトールスラリーを溶解させるために必要とされる水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより少なく、最終生成物におけるナトリウムまたはカリウムの混入が比較的より低いレベルとなる利点を有する。
【0011】
例示として、合成の開始時に、pHは、好ましくは8.0超、より好ましくは8.5超、最も好ましくは9.0超であろう。一般に、pHは、12.0未満、より好ましくは11.6未満、最も好ましくは11.0未満であろう。pHは、塩基、好ましくは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの添加によって調整され得る。
【0012】
重要なことに、第二鉄塩を使用する、すなわち望ましくない反応物(例えば、塩化物、クエン酸塩)を添加する以前の合成とは異なり、水酸化第一鉄スラリーは、合成後、例えば、ろ過し、水(または他の適切な溶媒)に再懸濁させることによって洗浄することができ、したがって、最終マルトール第二鉄生成物中の望ましくない混入物に寄与しない。上述のように、マルトールによる鉄(水酸化第一鉄から)の錯体化によりヒドロキシルイオンが放出され、これはマルトールをさらに溶解させるのに役立ち、この水酸化第一鉄の方法は、最終生成物中の望ましくない対アニオンの可能性を低減させるということも、本発明者らは見出した。
【0013】
代替的にまたは付加的に、水酸化第一鉄が6より大きいpHで主に形成されることを考えれば、例えば、アルミニウムまたはクロムなどの加水分解性金属を沈殿させ、水酸化第一鉄ゲルの生成前にそれらの除去(例えば、ろ過)を可能にするpH5に上昇させて任意選択のプレ中和工程を加えることが可能である。この有利な特徴によって、意図すれば、より低いグレードの鉄の使用が可能になる。
【0014】
付加的にまたは代替的に、本明細書に記載される本発明の方法は、元素鉄(ゼロ価)から生成される水酸化第一鉄から合成することができ、それにより、例えば、WO03/097627及びWO2012/101442における開始物質として使用されるより高価な鉄塩と比較して、非常に安価な鉄源からトリマルトール第二鉄を生成することができるというさらなる利点を提供してもよい。またさらなる利点として、本発明によるトリマルトール第二鉄を生成するための方法が、例えば、オーバーヘッド撹拌機を備えたろ過ユニットなどの単一の製造容器を使用して、単一の容器での合成を可能にし得るということがある。
【0015】
合わせて、本発明の方法は、水酸化第一鉄中間体から望ましくない溶質を除去することができる。これは、先行技術において必要とされる、より安価な鉄源からの簡単な様式で高純度のマルトール第二鉄組成物を生成することを可能にするのでかなり有利である。
【0016】
対照的に、本発明の方法で使用される水酸化第一鉄中間体の形成のない、元素鉄からの可溶性の非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の形成に基づく単一の容器での合成は、合成中に形成または加えられる高濃度の望ましくない塩(例えば、塩酸からの塩化物)が生成物に混入し、容易に除去されないので、商業上実用的ではない。例えば、許容可能な時間枠内で製造プロセスを発生させるために、この溶解工程で大過剰の塩酸が必要とされるであろうし、及び/または過剰な塩化物を除去するための塩化第二鉄の結晶化は安易ではない。さらに、可溶性のカルボン酸鉄塩(例えば、クエン酸第二鉄)が、その後のトリマルトール第二鉄への変換のために形成される単一の容器での合成は、カルボン酸塩による元素鉄の溶解が強鉱酸を用いるよりも桁違いに遅いので産業上実現可能ではないだろうし、望ましくない溶質の洗浄が実用的ではないだろう。本発明では、未反応の鉄は、磁石で容易に除去され得る。
【0017】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるマルトールは、スラリーまたは懸濁液として提供される。この場合、水酸化第一鉄との間の反応により、第二鉄イオン(第一鉄から酸化時)がマルトールによって錯体化されてヒドロキシルイオンが放出され、スラリー中のマルトールのさらなる溶解をもたらす。マルトールを溶解させるヒドロキシルイオンの放出のこのサイクルは、反応のpHが、水酸化第一鉄の溶解で実質的に増加しないので、マルトールスラリーを溶解させるために必要とされる水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより少なく、最終生成物におけるナトリウムまたはカリウムの混入が比較的より低いレベルとなる利点を有する。
【0018】
一般に、水酸化第一鉄は、0.2M、0.5M、1M、またはそれ以上のFeの第一鉄溶液から生成され、pHを上昇させることによって、第一鉄溶液から生成されてもよい。
【0019】
一般に、水酸化第一鉄は、0.6M、1.5M、3M、またはそれ以上の濃度でマルトール溶液に添加される。例示として、水酸化第一鉄がマルトール溶液に添加されて、溶液中の鉄に対するマルトールの比率が3 以上で3.75未満となる。より好ましくは、3.1超で3.5未満である。好ましくは、水酸化第一鉄は、pHが、8.5超、好ましくは9.0超のマルトール溶液に添加される。
【0020】
水酸化第一鉄は、配位子などの他の分子でコーティングまたはドーピングされ得る水酸化第一鉄を一部含有する物質を意味するが、好ましい実施形態は、純粋または好適には純粋な水酸化第一鉄であり、なぜなら、これにより、最終生成物(すなわち、好適には純粋なマルトール第二鉄の回収)のために必要な洗浄段階が最小限になるからである。水酸化第一鉄は、鉄の酸化還元状態を確認する、分光学的、微視的、電気泳動的技術などの当業者に既知の分析技術によって測定することができる。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、マルトール第二鉄組成物を調製するための方法であって、
(a)第一鉄塩(例えば、塩化第一鉄)から第一鉄溶液を調製する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、また任意選択で無酸素または低減酸素の雰囲気下で、水酸化第一鉄のスラリーを沈殿させる工程と、
(c)工程(a)または(b)の後、任意選択で水酸化第一鉄を配位子ドーピングまたは配位子コーティングする工程と、
(d)任意選択で、塩化物、ナトリウム、もしくはカリウムなどの未使用の反応物または望ましくない溶質を含有する可溶性画分をで除去及び廃棄する工程と、
(e)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(f)水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物に前記ペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(g)任意選択で反応促進物質の存在下で、水酸化第一鉄のスラリーをマルトールのアルカリ溶液またはスラリーと反応させて、マルトール第二鉄を生成する工程と、
(h)マルトール第二鉄を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
(i)任意選択でマルトール第二鉄を乾燥させる工程と、を含む、方法を提供する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、マルトール第二鉄を含む鉄補給剤を生成するための方法であって、本明細書に記載の方法に従ってマルトール第二鉄組成物を生成することを含み、対象への投与のためにマルトール第二鉄を製剤化するさらなる工程を含む、方法を提供する。
【0023】
本発明の実施形態は、添付図面を参照にしながら、例として記載され、限定されることはない。しかしながら、本発明の様々なさらなる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0024】
「及び/または」という用語は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴または成分の両方、またはその片方という具体的な開示として理解される。例えば、「A及び/またはB」は、それぞれが本明細書において個々に示されるのとまさに同じように、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBのそれぞれの具体的な開示として理解される。
【0025】
別段の指定がない限り、上記特徴の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記載される全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】塩化第一鉄から生成された水酸化第一鉄から生成されるトリマルトール第二鉄(実施例1のとおり)のUV-visスペクトル2つのバンドプロファイルは、アルカリ環境から回収されたトリマルトール第二鉄の特徴である。
【
図2】硫酸第一鉄から生成された水酸化第一鉄から生成されるトリマルトール第二鉄(実施例2のとおり)のUV-visスペクトル2つのバンドプロファイルは、アルカリ環境から回収されたトリマルトール第二鉄の特徴である。
図1及び
図2のUV-vis条件:Perkin Elmer Lambda 25;700-350nm;480nm/min;0.5nmの間隔
【発明を実施するための形態】
【0027】
マルトール第二鉄
マルトール第二鉄は、第二鉄(Fe
3+)と、ヒドロキシピロン、マルトール(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)との間で形成された化学的錯体でマルトール対第二鉄のモル比が3:1のトリマルトール第二鉄を含む化合物の種類である。マルトールは、第二鉄を強力にキレート化し、得られる錯体(トリマルトール第二鉄)は、いくつかの他の第二鉄補給剤、強化剤、及び療法とは対照的に、よく吸収される。マルトールは、主に、他の4(1H)-ピラノンで提示される同様の形のジオキソ二座配位子の形態で金属カチオンに結合する:
マルトール(3-ヒドロキシ-2-メチル-4(H)-ピラン-4-オン)及びジオキソが、鉄などの金属カチオン(M)をキレート化した構造であり、トリマルトール第二鉄では、3つのマルトールグループが1つの鉄を取り囲んでいる。
【0028】
しかしながら、特に水性環境において、ダイマーなどのオリゴマー種及び/または1つまたは2つのマルトール分子と錯体化された第二鉄種を含む、マルトール第二鉄の濃度依存性及びpH依存性平衡種を形成することができることはよく知られている。固体または粉末形態におけるトリマルトール第二鉄はまた、ダイマーを含むオリゴマーとしても存在し得、すべての鉄が必ずしも3つのマルトール分子に配位されているわけではないが、用語トリマルトール第二鉄は、当該技術分野で慣習的に使用されている。したがって、本出願において、「マルトール第二鉄」への言及は、1つ、2つ、または3つのマルトール種と錯体化した第二鉄種、ならびにダイマーなどのオリゴマー種及びそれらと平衡にあり得る他の種を含むことを意図し、また、錯体の挙動は補給剤のレベルでトリマルトールの形態が多く占めると考えられるが、任煮のこれらの種の混合物を含むことを意図する。
【0029】
トリマルトール第二鉄の構造は、WO2015/101971(Iron Therapeutics Holdings AG)に示されている。トリマルトール第二鉄は、「ST10」としても知られており、一般に、30mg投与量として投与され、30mgはその投与量における鉄の量を指す。30mgの元素鉄(Fe3+)に相当するST10の量は、231.5mgである。トリマルトール第二鉄は、特に、炎症性腸疾患(IBD)の患者または経口鉄不耐症の患者における貧血の治療または予防のための臨床試験を受けている。
【0030】
水酸化第一鉄
本明細書に記載の水酸化第一鉄は、他の水酸化鉄と同様に、典型的には、第一鉄塩溶液に塩基を添加するか、または元素鉄を強鉱酸(例えば、塩酸)で溶解し、続いて任意選択で塩基を添加することによって、生成することができる。好ましくは、この反応は、無酸素または低減酸素の雰囲気下で実施され、反応において少なくともいくらかの酸素が存在する場合には、いくらかの鉄が、水酸化第一鉄ではなく、水酸化第二鉄として沈殿することを意味するであろう。しかしながら、水酸化鉄中の鉄の少なくとも50%かそれ以上が第一鉄であることが一般に好ましく、より好ましくは鉄の少なくとも60%、より好ましくは鉄の少なくとも70%、より好ましくは鉄の少なくとも80%、最も好ましくは鉄の少なくとも90%である。
【0031】
しかしながら、第一鉄イオンは、第二鉄イオンよりも低加水分解性であり、したがって、水酸化第一鉄の沈殿は、より高いpH、典型的には、pH5またはそれ以上(第一鉄の濃度に依存する)で生じる。本発明の教示に従って、水酸化第一鉄中の第一鉄の酸化は、マルトール溶液、懸濁液、またはスラリーに添加する前は制限されるべきである。したがって、合成は、不活性雰囲気(例えば、窒素)下で実施されてもよい。対照的に、第一鉄の第二鉄への酸化は、マルトール溶液(またはスラリー)への水酸化第一鉄の添加時に所望の特徴であり、さらに言えば、意図すれば空気または酸素を反応容器に導入することによって加速させることができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、第一鉄組成物は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる、我々による先の出願WO2008/096130に記載されるとおりに、配位子修飾または配位子コーティングされてもよい。また、これらのアプローチを採用して、本発明の方法においてマルトール第二鉄組成物を作製するための開始物質の1つとして使用される配位子修飾された水酸化第一鉄を作製してもよい。
【0033】
配位子コーティングされた物質は、当該技術分野で広く知られている。これらは、配位子修飾された物質とは異なり、その配位子は、鉱物のコアを妨害するのではなく粒子表面をコーティングするために使用される。本明細書に記載の合成プロセスにおいて、水酸化第一鉄は、有機配位子でコーティングされ、これは、物質の分散性を増加させ、及び/または凝集への動きを減少させる。
【0034】
WO2008/096130は、配位子修飾された金属オキソ水酸化物が、従来の化学量論金属配位錯体及び物理的に配位子分子でコーティングされた金属水酸化物の粒子の両方とは異なる物質形態を構成することを記載している。配位子修飾された金属水酸化物は、とりわけ、構造的、分光学的または組成上のパラメータを参照して(すなわち、物質の分析サインを使用して)、または物質が得られたプロセスによって明確にすることができる。したがって、金属水酸化物粉末は、無機化学の分野において非常によく知られているが、それらが好適な配位子(すなわち、オキソ基またはヒドロキシ基以外)によって修飾される場合、これは、その物理的及び/または化学的な特性を変化させて新たな物質を生成し、新たな用途で使用される。
【0035】
配位子修飾された水酸化第一鉄は、1つまたは複数の配位子種の存在下で、第一鉄塩を溶解し、次いで、ポリマー水酸化第一鉄の形成をもたらすpHに増加することによって沈殿するように誘導された場合に形成される。このプロセスによって、配位子種のいくつかが、水酸化第一鉄の固相構造に組み込まれることになる。
【0036】
様々な配位子を、本発明の方法におけるトリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄の合成において使用される配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄の生成に使用してもよく、配位子修飾された水酸化第二鉄は、1、2、3、4、またはそれ以上の異なる種の配位子を含んでもよい。典型的には、配位子は、例えば、未修飾または未コーティングの水酸化第二鉄と比較して物質の物理化学的特性を改変させるのを促進するため、特に、トリマルトール第二鉄の合成を可能にする反応を促進するために、配位子修飾された水酸化第一鉄中に組み込まれている。本発明で使用してもよい配位子の例としては、決して以下に限定されるものではないが、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、または安息香酸などのカルボン酸、マルトール、エチルマルトール、またはバニリンなどの食品添加物、リジン、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリン、またはヒスチジンなどのアミノ酸、及び/またはこれらのイオン化形態が挙げられる。典型的には、配位子は、溶液中の特定の金属イオンに対して高親和性を有するものとして、またはごくわずかな親和性を有するものとして当技術分野で十分に認識され得るものであり、あるいは所与の金属イオンに対する配位子としては典型的にはまったく認識され得ないものである。典型的には、1種の配位子、または金属イオンに対して異なる親和性を示す2種の配位子が、これらの物質の生成に使用されるが、0、1、2、3、4、5、またはそれ以上の異なる種の配位子が、本発明の方法の特定の実施形態において有用であり得る。
【0037】
配位子は、酒石酸または酒石酸塩などの、カルボン酸配位子、またはそのイオン化形態(すなわち、カルボン酸塩配位子)であってもよい。より好ましいカルボン酸配位子のグループとしては、酒石酸または酒石酸塩、アジピン酸(またはアジピン酸塩)、グルタル酸(またはグルタル酸塩)、ピメリン酸(またはピメリン酸塩)、コハク酸(またはコハク酸塩)、及びリンゴ酸(またはリンゴ酸塩)が挙げられる。さらなる好ましい種類の配位子は、リジン、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリン、またはヒスチジンなどのアミノ酸である。好ましくは、リジンなどの低コストのアミノ酸が合成で使用される。配位子が、酸として存在するか、または部分的もしくは完全にイオン化され、アニオンの形態で存在するかどうかは、物質が生成され、及び/または回収されるpH、生成後の処理または形成工程の使用、及び配位子がオキソ-ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれる方法などの広範囲の要因に依存するであろう。カルボン酸を用いるいくつかの実施形態では、配位子の少なくとも一部は、水酸化第二鉄物質が典型的にはpH>4で回収される場合には、カルボン酸塩形態で存在するであろうが、これは配位子と正電荷鉄との間の相互作用が、負電荷のカルボン酸イオンの存在によって大幅に向上するためであろう。誤解を避けるために、本発明によるカルボン酸配位子の使用は、これらの可能性の全てをカバーし、すなわち、配位子が、非イオン化形態のカルボン酸、部分的にイオン化された形態(例えば、配位子がジカルボン酸である場合)またはカルボン酸イオンとして完全にイオン化された形態のカルボン酸、及びこれらの混合物として存在する。同様に、用語アミノ酸の使用は、その可能なイオン化形態全てをカバーする。また、第二鉄イオン(複数可)対配位子(複数可)(L)のモル比は、物質の特性を変化させるために本明細書に開示される方法に従って変更することができる、固相配位子修飾されたポリオキソ-ヒドロキシ金属イオン物質のパラメータである。一般に、M:Lの有用な比は、10:1、5:1、4:1、3:1、2:1、及び1:1の間であろう。
【0038】
マルトール第二鉄組成物及びこれらの使用
本発明の方法に従って生成されるマルトール第二鉄組成物は、個体への投与のために製剤化されていてもよく、トリマルトール第二鉄に加えて、当業者に既知の薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、または他の材料を含有してもよい。そのような物質は、非毒性であるべきであり、問題での適用に対して固相物質の有効性を妨げてはならない。
【0039】
本明細書に記載されるとおり、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄は、鉄欠乏症の治療において特定の用途を有する。例として、トリマルトール第二鉄組成物は、標準の血液学的及び臨床化学的技術を介して疑われるか、または診断され得る、鉄欠乏症または鉄欠乏性貧血の予防または治療に使用する目的で個体に鉄を送達するために使用してもよい。鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血は、例えば栄養不良により、または鉄の過剰喪失により単独で生じることがあり、あるいは、それらは、妊娠または泌乳などのストレスに関連することがあり、あるいは、それらは、炎症性障害、癌、及び腎不全などの疾患に関連することがある。さらに、慢性疾患の貧血に関連する赤血球生成の減少は、鉄の効果的な全身送達によって改善または修正され得るという証拠、及び鉄とエリスロポエチンまたはその類似体との同時送達は、エリスロポエチン活性の低下を克服するのに特に有効となり得るという証拠がある。したがって、さらなる例として、本明細書に開示されるトリマルトール第二鉄組成物は、慢性疾患の貧血などにおける不十分なエリスロポエチン活性の治療に使用する目的で個体に鉄を送達するために使用してもよい。慢性疾患の貧血は、腎不全、癌、及び炎症性障害などの状態に関連し得る。上記のように、鉄欠乏症は、これらの障害においても一般に生じ得るものであり、したがって鉄の補給による治療は、鉄欠乏症単独及び/または慢性疾患の貧血に対処し得る。鉄補給剤の医療用途の上記例は、決して限定的ではないことが当業者には認識されるであろう。
【0040】
さらに、トリマルトール第二鉄は、特に、炎症性腸疾患(IBD)の患者または経口鉄不耐症の患者における貧血の治療または予防のために現在使用されている。
【0041】
担体または他の成分の正確な性質は、組成物の投与方法または投与経路に関係し得る。これらの組成物は、以下に限定されるものではないが、経口及び経直腸を含む消化管送達を含む広範囲な送達経路によって送達してもよく、またはこの目的のため、または他の目的ではあるが、この利益をもたらす目的のために使用され得る人工装具を含む、特定部位におけるインプラントによって送達してもよい。
【0042】
本発明により作製される医薬組成物は、一般に、経口投与用であり、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、または液体の形態であってもよい。錠剤は、ゼラチンまたは他の賦形剤などの固体の担体を含んでもよい。カプセルは、腸溶性コーティングなどの特殊な特性を有してもよい。液体医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱油、または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩水、デキストロースもしくは他の糖類溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれてもよい。
【0043】
個体に与えられる、本発明に従って使用されるトリマルトール第二鉄組成物は、好ましくは「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(場合によっては、予防が治療とみなされ得るが)で投与されるが、これは、個体に対して利益(例えば、バイオアベイラビリティ)を示すのに十分なものである。投与される実際の量、ならびに投与の速度及び時間経過は、治療されているものの性質及び重症度に依存するであろう。治療の処方、例えば、投与量などの決定は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療される疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、及び開業医に既知の他の要素を考慮する。上述の技術及びプロトコルの例は、Remington´s Pharmaceutical Sciences、20版、2000年、Lippincott、Williams & Wilkinsに見ることができる。組成物は、治療される状態に応じて、単独で、または同時か順次のいずれかで他の治療と組み合わせて投与されてもよい。
【0044】
一般に、トリマルトール第二鉄は、栄養学的または医学的な効果のために経口鉄補給の形態として使用されてもよい。この領域において、3つの主要な例がある:
(i)一般に、鉄欠乏性貧血、鉄欠乏症、及び慢性疾患の貧血を含む適応症の治療のために経口経路または静注経路で投与される、治療(処方)補給剤。本発明の物質の治療的投与は、他の療法を伴ってもよく、特にエリスロポエチンの同時使用を伴ってもよい。
(ii)通常は経口送達用である栄養剤(自己処方した/購入した補給剤)。
(iii)強化剤これらは、購入前に添加されている観点での伝統的な形態、または摂取時に食品に添加される(塩またはコショウのように)「Sprinkles」などのより最近の強化剤形態であってもよい。
【0045】
全てのフォーマットにおいてだが、最も多くは強化剤に対して、保護コーティング(例えば、脂質)の添加などの後続の形成が、意図される使用に適合する物質を作製するために必要であってもよい。
【0046】
鉄補給剤の医療用途の上記例は、決して限定的ではないことが当業者には認識されるであろう。
[実施例]
【0047】
実施例1:水酸化第一鉄(塩化第一鉄から生成される)からのトリマルトール第二鉄
水酸化第一鉄ゲルの合成
10.93gのFeCl2.4H2Oを、N2で5分間発泡させた50mLのUHP水に添加した。N2の発泡中に、5M NaOH19.7mLを添加して、水酸化第一鉄ゲルを生成した。次いで、望ましくない可溶性種は、ゲルを遠心分離し、上澄みを廃棄することによって除去された。次いで、水酸化第一鉄ゲルを、マルトールのスラリーに添加する前に、水に再懸濁させて最初の容量に戻した。
【0048】
トリマルトール第二鉄の合成
3.0gのNaOHペレットを30mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、撹拌した。これにより、マルトールのほとんどが溶解していないスラリーが生成された。次に、水酸化第一鉄ゲルを、マルトールの残りが溶解する激しい撹拌をしながら、この溶液に徐々に添加した。密封されていない容器内(酸素の進入を可能にする)での一晩のインキュベーション後、暗赤色の沈殿物(すなわち、トリマルトール第二鉄)が形成された。最後に、物質は、遠心分離によって回収され、一晩乾燥させた(55℃)。
【0049】
実施例2:水酸化第一鉄(硫酸第一鉄から生成される)からのトリマルトール第二鉄
水酸化第一鉄ゲルの合成
15.29gのFeSO4.7H2Oを、N2で5分間発泡させた100mLのUHP水に添加した。次いで、硫酸第一鉄の溶解を促進するために1.5mLのH2SO4(95~98重量%)を添加した。次に、N2の発泡中に、5M NaOH34.5mLを添加し、したがってpHが9.45に上昇し、水酸化第一鉄ゲルの形成をもたらした。次いで、望ましくない可溶性種は、ゲルを遠心分離し、上澄みを廃棄することによって除去された。次いで、水酸化第一鉄ゲルを、マルトールのスラリーに添加する前に、水に再懸濁させて100mLに戻した。
【0050】
トリマルトール第二鉄の合成
2.75gのNaOHペレットを30mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、撹拌した。これにより、マルトールのほとんどが溶解していないスラリーが生成された。次に、水酸化第一鉄ゲルを、マルトールの残りが溶解する激しい撹拌をしながら、この溶液に徐々に添加した。密封されていない容器内(酸素の進入を可能にする)での一晩のインキュベーション後、暗赤色の沈殿物(すなわち、FTM)が形成された(最終pH11.05)。次いで、FTM物質を遠心分離によって3回洗浄し、上澄みを廃棄し、水に戻して再懸濁させた。最後に、物質は、遠心分離によって回収され、一晩乾燥させた(45°C)。
【0051】
水性条件下でのトリマルトール第二鉄の生成のための以前開示された合成プロセスは、鉄の錯体化の前に、マルトールをそのプロトン化形態からその脱プロトン化形態に変換するためにNaOH(または他の好ましい塩基)の添加を必要とする。しかしながら、これは、洗浄しなければならない望ましくないナトリウムイオンの形成をもたらす。対照的に、本発明の方法による水酸化第一鉄の使用により、塩基及び関連する対カチオン(例えば、ナトリウム)の必要性が減少し、これは有利な特徴である。
【0052】
参考文献:
情報開示陳述書の一部として提示した参照を含む、本明細書に引用され、または本願により提示されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により組み込まれる。
【0053】
Gasche et al., Ferric maltol is effective in correcting iron deficiency anaemia in patients with inflammatory bowel disease:results from a phase-3 clinical trial program.Inflamm Bowel Dis.,21(3):579-88,2015.
【0054】
Harvey et al., Ferric trimaltol corrects iron deficiency anaemia in patients intolerant of iron.Aliment Pharmacol Ther.,12(9):845-8,1998.