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特許7033545配位子修飾及び配位子コーティングされた水酸化第二鉄からマルトール第二鉄組成物を生成するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】配位子修飾及び配位子コーティングされた水酸化第二鉄からマルトール第二鉄組成物を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 309/40 20060101AFI20220303BHJP
   C07F 15/02 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C07D309/40
C07F15/02
A61P7/06
A61K31/351
A61K33/26
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018552008
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2017057691
(87)【国際公開番号】W WO2017167963
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】1605470.2
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516272320
【氏名又は名称】シールド ティーエックス (ユーケー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】パウエル ジョナサン ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ファリア ヌーノ ジョルジ ロドリゲス
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/097672(WO,A1)
【文献】特表2014-503579(JP,A)
【文献】特表2010-520856(JP,A)
【文献】国際公開第2015/101971(WO,A1)
【文献】特開平02-076827(JP,A)
【文献】特開昭63-079859(JP,A)
【文献】国際公開第2015/191004(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103382151(CN,A)
【文献】特表2006-518391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P
A61K
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄をマルトールと反応させることと、形成される前記マルトール第二鉄を回収することと、を含
前記配位子修飾された水酸化第二鉄は、水酸化鉄の一次粒子を含み、配位子が水酸化第二鉄中のオキソ基またはヒドロキシ基を置換することによって固相の規則性が変化しており、
前記配位子コーティングされた水酸化第二鉄は、粒子の凝集を減少させる配位子でキャップされた水酸化第二鉄の形態であり、前記配位子は化学量論比未満で添加されており、
前記配位子は、アミノ酸、及び/またはカルボン酸、及び/またはこれらのイオン化形態であり、
前記マルトールは、pHが8.0を超えるマルトールの溶液、スラリーまたは懸濁液の形態である、
方法。
【請求項2】
前記マルトール第二鉄が、トリマルトール第二鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化第二鉄が、配位子修飾された水酸化第二鉄である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水酸化第二鉄が、配位子コーティングされた水酸化第二鉄である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記配位子が、リジンまたは酒石酸塩である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄が、コロイドまたはゲルの形態である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄との間の前記反応により、第二鉄イオンがマルトールにより錯体化されてヒドロキシルイオンが放出され、前記スラリーまたは懸濁液中のマルトールのさらなる溶解をもたらす、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
性の条件下で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄を生成する最初の工程をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
元素鉄から前記配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄を生成することと、任意選択で未反応の鉄を磁石で除去することと、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記元素鉄が、強鉱酸に溶解している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記元素鉄が、塩酸に溶解している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記マルトール第二鉄が、単一の容器内で生成される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マルトール第二鉄組成物を分離すること、ならびに任意選択で乾燥及び/または製剤化することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マルトール第二鉄組成物を精製することをさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記マルトール第二鉄組成物を1つまたは複数の賦形剤と混合することをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(a)溶液中で第二鉄種を配位子と混合する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、配位子修飾された水酸化第二鉄のスラリーを沈殿させる工程と、
(c)任意選択で、塩化物、ナトリウム、または組み込まれていない配位子などの望ましくない溶質を含有する可溶性断片を除去及び廃棄する工程と、
(d)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(e)任意選択で水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物に前記ペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(f)前記水酸化第二鉄をマルトールと反応させて、マルトール第二鉄組成物を生成する工程と、
)前記マルトール第二鉄組成物を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
)任意選択で前記マルトール第二鉄組成物を乾燥させる工程と、を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)第二鉄塩溶液を調製する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、水酸化第二鉄のコロイド、または任意選択でスラリーを沈殿させる工程と、
(c)配位子を混合して、配位子コーティングされた水酸化第二鉄のスラリーを生成する工程と、
(d)任意選択で、塩化物、ナトリウム、または組み込まれていない配位子などの望ましくない溶質を含有する可溶性断片を除去及び廃棄する工程と、
(e)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(f)任意選択で水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物に前記ペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(g)前記水酸化第二鉄をマルトールと反応させて、トリマルトール第二鉄を生成する工程と、
(h)前記マルトール第二鉄を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
(i)任意選択で前記マルトール第二鉄を乾燥させる工程と、を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
鉄補給剤を生成するための方法であって、請求項1~18のいずれか一項に従ってマルトール第二鉄組成物を生成することを含み、対象への投与のために前記マルトール第二鉄組成物を製剤化するさらなる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄から生成するための方法、ならびにこれらの方法によって生成されるマルトール第二鉄組成物及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖誘導体マルトールは、ヒドロキシピロン(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)であり、それは鉄を強くキレート化し、得られる錯体(トリマルトール第二鉄)は、多くの他の第二鉄療法とは異なり、十分に吸収される。トリマルトール第二鉄は、IBD患者などの胃腸管系の副作用に対して高度に感受性である集団でも十分に許容されると思われ(Harveyら、1998)、したがって、それは、経口第一鉄製品に不耐の患者に有益な代替案を提供し、特に静脈注射用の鉄の代わりとなる。トリマルトール第二鉄を使用した臨床試験が実施されており、例えば、Gascheら、2015年に見られる。
【0003】
しかしながら、トリマルトール第二鉄のバイオアベイラビリティ及び忍容性の証拠にもかかわらず、その臨床開発は、適切な合成経路がないことによって制限されている。特に、ほとんどの製造プロセスは、例えば、合成後の溶媒除去に対処するために、製造コストを増加させる有機溶媒の使用を必要とし、かつ、例えば、可燃性に対処するためにさらなる安全対策を必要とする。重要なことに、溶媒系の合成は、堅実ではなく、多くの場合、合成の望ましくない不純物であると先行技術において記載される水酸化第二鉄を生成する。
【0004】
WO03/097627(Vitra Pharmaceuticals Limited)は、pH7超の水溶液中でのカルボン酸の鉄塩からのトリマルトール第二鉄の合成を記載している。第1の合成において、クエン酸第二鉄塩が、室温で水酸化ナトリウム溶液に添加され、マルトールが、pH11.6の水酸化ナトリウムの第2の溶液に添加される。クエン酸第二鉄塩溶液が、マルトール溶液に添加され、深赤色沈殿の生成物をもたらす。次いで、この組成物を乾燥状態まで蒸発させ、物質が粉末状になり、乾燥される。代替の合成は、カルボン酸鉄塩開始物質としてフマル酸第一鉄塩またはグルコン酸第一鉄塩を使用して、またマルトールを、水酸化ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウム溶液に溶解させることが記載されている。しかしながら、このプロセスが完全に水性であるという事実にもかかわらず、使用されるカルボン酸鉄塩のうちのいくつかは、特に、トリマルトール第二鉄がヒト投与に好適になるようにする場合に薬学的な等級である必要があるので高価である。より重要なことに、このプロセスは、トリマルトール第二鉄のかたまりのろ過または遠心分離によって容易に除去されない高レベルのカルボン酸塩(鉄と等モルまたはそれ以上)を合成に導入する。代わりに、これらの水溶性混入物を洗浄(例えば、水洗浄)しなければならないが、これは、トリマルトール第二鉄の両親媒性性質が原因で生成物の相当な損失をもたらすであろう。
【0005】
WO2012/101442(Iron Therapeutic Holdings AG)は、アルカリ性pHの水溶液中でマルトールと非カルボン酸鉄塩とを反応させることによるトリマルトール第二鉄の合成を記載している。しかしながら、非カルボン酸鉄塩はより低いコストであるにもかかわらず、トリマルトール第二鉄がヒト投与に好適になるようにする場合、薬学的に適切な等級が依然として必要とされ、したがって比較的高価な開始物質となる。重要なことに、非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の使用は、相当レベルのそれぞれの対アニオンの添加(例えば、鉄1モル当たり、塩化物3モル)をもたらし、有意な部分がろ過(または遠心分離)のかたまり中に保持されるので、洗浄しなければならない。したがって、WO2012/101442は、WO03/097627の生成物損失の問題を解決しない。さらに、WO2012/101442に記載されている、非常にアルカリ性である溶液への非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の添加は、トリマルトール第二鉄中の望ましくない混入物である安定した酸化鉄の形成を促進する。結果として、さらにコストがかかり、時間のかかる物質の処理が、製造のために必要とされるであろう。
【0006】
概して、現在の水性合成のコストは、高度に精製された、したがって高価な鉄塩、ならびに最終生成物の徹底的な洗浄(生成物の大幅な損失をもたらす)の使用を強制する最終医薬製剤中の低レベルな毒性重金属及び残留試薬規制要求によって、上がっている。これは、トリマルトール第二鉄の最終価格に影響を与え、この療法への患者の利用を限定する可能性がある。したがって、適切な純度のトリマルトール第二鉄を生成する一方で、より低い鉄の等級を使用でき、洗浄サイクルが限定されるプロセスの必要性がある。
【0007】
したがって、先行技術の合成方法に関連する上記欠点のいくつかまたは全てを克服する、経済的なコストでのトリマルトール第二鉄の合成のためのプロセスを提供することは、当該技術分野において依然として課題である。物質のより良い合成を介してこれらの問題を解決することにより、トリマルトール第二鉄に対する良好な患者の利用が可能になるであろう。
【発明の概要】
【0008】
広く、本発明は、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を生成するための方法に関し、この方法ではマルトールを、配位子修飾された水酸化第二鉄または、付加的にもしくは代替的に、配位子コーティングされた水酸化第二鉄と反応させる。本発明は、驚くべきことに、先行技術のトリマルトール第二鉄合成において望ましくない副生成物であると一般に主張され、トリマルトール第二鉄組成物中の混入物としてしばしば存在する水酸化第二鉄が、配位子修飾された水酸化第二鉄または配位子コーティングされた水酸化第二鉄を使用、及び好ましくは、これらの水酸化第二鉄材料を新しく沈殿したときに使用することにより本発明の教示に従うことを条件として、実際にはマルトール第二鉄の合成における有効な鉄源であり得ることを示す。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、マルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄をマルトールと反応させることと、形成されるマルトール第二鉄を回収することと、を含む方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、トリマルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄をマルトールと反応させることと、形成されるトリマルトール第二鉄を回収することと、を含む方法を提供する。
【0010】
有利には、配位子修飾及び配位子コーティングされた水酸化第二鉄は、典型的には、出発物質中の混入物として存在し得るいくつかの毒性重金属、例えば、カドミウムまたはヒ素を沈殿させるには酸性過ぎる(例えば、6未満のpH、またはより好ましくは4.5未満のpH)pHで回収される。結果として、水酸化第二鉄が上澄みから分離されて回収された水酸化第二鉄組成物は、先行技術で記載される合成で使用される同等の第二鉄塩よりも低いレベルの毒性要素を含有すると予想され得る。
【0011】
付加的にまたは代替的に、本明細書に記載される本発明の方法は、元素鉄から生成される配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄から合成することができ、それにより、例えば、WO03/097627及びWO2012/101442における開始物質として使用されるより高価な鉄塩と比較して、最も安価な鉄源からマルトール第二鉄を生成することができるというさらなる利点を提供してもよい。またさらなる利点として、本発明によるマルトール第二鉄を生成するための方法が、例えば、オーバーヘッド撹拌機を備えたろ過ユニットなどの単一の製造容器を使用して、単一の容器での合成を可能にし得るということがある。
【0012】
さらに、先行技術のプロセス(例えば、WO03/097627)とは対照的に、本明細書に記載の合成は、鉄塩の対アニオン性配位子(例えば、クエン酸塩などのカルボン酸塩)の導入を必要とせず、鉄塩の無機対アニオン(例えば、WO2012/101442に記載のプロセスによる塩化物)の導入も必要としない。したがって、このプロセスは、より低いレベルの混入物を有する物質を生成し、したがってその後の洗浄サイクルが広範囲になる必要がないため有利である。
【0013】
本明細書に記載の合成プロセスにおいて、いくつかの配位子(例えば、カルボン酸塩)も合成に添加されるが、本明細書で使用されるカルボン酸塩濃度は、準化学量論的であり、したがって先行技術のプロセス(例えば、WO03/097627)よりも大幅に低くなる。重要なことに、配位子の断片のみが組み込まれ、残りはマルトール溶液またはスラリーへの添加前に、水酸化第二鉄物質から容易に洗浄される。したがって、本明細書に記載の方法は、以前に開示されたプロセスよりもかなり低いレベルの配位子が合成に導入されるので有利である。
【0014】
合わせて、本発明の方法では、元素鉄(ゼロ価)からの単一の容器での合成において水酸化第二鉄から望ましくない溶質を除去することができる。これは、先行技術において必要とされる、より安価な鉄(すなわち、元素鉄)源からの簡単な様式で高純度のマルトール第二鉄組成物を生成することを可能にするのでかなり有利である。
【0015】
対照的に、本発明の方法で使用される水酸化第二鉄中間体の形成のない、元素鉄からの可溶性の非カルボン酸鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の形成に基づく単一の容器での合成は、合成中に形成または加えられる高濃度の望ましくない塩(例えば、塩酸からの塩化物)が生成物に混入し、容易に除去されないので、商業上実用的ではない。加えて、可溶性のカルボン酸鉄塩(例えば、クエン酸第二鉄)がその後のトリマルトール第二鉄への変換のために形成される単一の容器での合成は、カルボン酸塩による元素鉄の溶解が強鉱酸を用いるよりも桁違いに遅いので、産業上実現可能ではないだろうし、望ましくない溶質の洗浄が実用的ではないだろう。本発明では、未反応の鉄は、磁石で容易に除去され得る。
【0016】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるマルトールは、スラリーまたは懸濁液として提供される。この場合、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄との間の反応により、第二鉄イオンがマルトールにより錯体化されてヒドロキシルイオンが放出され、スラリー中のマルトールのさらなる溶解をもたらす。マルトールを溶解させるヒドロキシルイオンの放出のこのサイクルは、反応のpHが、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄の溶解で実質的に増加しないので、マルトールスラリーを溶解させるために必要とされる水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより少なく、最終生成物におけるナトリウムまたはカリウムの混入が比較的より低いレベルとなる利点を有する。
【0017】
例示として、合成の開始時に、pHは好ましくは8.0超、より好ましくは8.5超、最も好ましくは9.0超である。一般に、pHは、12.0未満、より好ましくは11.6未満、最も好ましくは11.0未満であろう。pHは、塩基、好ましくは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの添加によって調整され得る。
【0018】
一般に、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄は、0.6M、1.5M、3M、またはそれ以上の濃度でマルトール溶液に添加される。例示として、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄がマルトール溶液に添加されて、溶液中の鉄に対するマルトールの比率が3 以上で3.75未満、より好ましくは3.1~3.5の比率を達成する。好ましくは、配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄は、pHが、8.0超、好ましくは8.5超、より好ましくは9.0超のマルトール溶液に添加される。
【0019】
また、水酸化第二鉄は新しく沈殿したものであることが好ましく、すなわち、水酸化第二鉄は、生成後、好ましくは、96時間未満、より好ましくは48時間未満、最も好ましくは24時間未満で使用される。また、水酸化第二鉄は、トリマルトール第二鉄の合成に使用される前に乾燥させないようにすることが好ましい。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、マルトール第二鉄組成物を生成する方法であって、
(a)溶液中で第二鉄種を配位子と混合する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、配位子修飾された水酸化第二鉄のスラリーを沈殿させる工程と、
(c)任意選択で、塩化物、ナトリウム、または組み込まれていない配位子などの望ましくない溶質を含有する可溶性断片を除去及び廃棄する工程と、
(d)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(e)任意選択で水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物にペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(f)水酸化第二鉄をマルトールと反応させて、マルトール第二鉄組成物を生成する工程と、
(e)マルトール第二鉄組成物を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
(f)任意選択でマルトール第二鉄組成物を乾燥させ、製剤化する工程と、を含む、方法を提供する。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、マルトール第二鉄組成物を生成する方法であって、
(a)第二鉄塩溶液を調製する工程と、
(b)pHを上昇させることによって、水酸化第二鉄のコロイド、または任意選択でスラリーを沈殿させる工程と、
(c)配位子を混合して、配位子コーティングされた水酸化第二鉄のスラリーを生成する工程と、
(d)任意選択で、塩化物、ナトリウム、または組み込まれていない配位子などの望ましくない溶質を含有する可溶性断片を除去及び廃棄する工程と、
(e)任意選択で保持されたペレットを水で洗浄する工程と、
(f)任意選択で水、または他の適切な溶媒もしくは溶媒混合物にペレットを再懸濁し、任意選択でpHを調整する工程と、
(g)水酸化第二鉄をマルトールと反応させて、マルトール第二鉄組成物を生成する工程と、
(h)マルトール第二鉄を回収し、任意選択で洗浄する工程と、
(i)任意選択でマルトール第二鉄を乾燥させる工程と、を含む、方法を提供する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、マルトール第二鉄を含む鉄補給剤を生成するための方法であって、本明細書に記載の方法に従ってマルトール第二鉄組成物を生成することを含み、対象への投与のためにマルトール第二鉄を製剤化するさらなる工程を含む、方法を提供する。
【0023】
本発明の実施形態は、添付図面を参照にしながら、例として記載され、限定されることはない。しかしながら、本発明の様々なさらなる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0024】
「及び/または」という用語は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴または成分の両方、またはその片方という具体的な開示として理解される。例えば、「A及び/またはB」は、それぞれが本明細書において個々に示されるのとまさに同じように、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBのそれぞれの具体的な開示として理解される。
【0025】
別段の指定がない限り、上記特徴の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記載される全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】酒石酸塩修飾水酸化第二鉄から生成されるトリマルトール第二鉄(実施例4のとおり)のUV-visスペクトル。2つのバンドプロファイルは、アルカリ環境から回収されたトリマルトール第二鉄の特徴である。
図2】前に洗浄されている酒石酸塩修飾水酸化第二鉄から生成されるトリマルトール第二鉄(実施例5のとおり)のUV-visスペクトル。2つのバンドプロファイルは、アルカリ環境から回収されたトリマルトール第二鉄の特徴である。 図1及び図2のUV-vis条件:Perkin Elmer Lambda 25;700-350nm;480nm/min;0.5nmの間隔
【発明を実施するための形態】
【0027】
マルトール第二鉄
マルトール第二鉄は、第二鉄(Fe+)と、ヒドロキシピロン、マルトール(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)との間で形成された化学的錯体でマルトール対第二鉄のモル比が3:1のトリマルトール第二鉄を含む化合物の種類である。マルトールは、第二鉄を強力にキレート化し、得られる錯体(トリ-マルトール第二鉄とも記載され得るトリマルトール第二鉄)は、いくつかの他の第二鉄補給剤、強化剤、及び療法とは対照的に、よく吸収される。マルトールは、主に、他の4(1H)-ピラノンで提示される同様の形のジオキソ二座配位子の形態で金属カチオンに結合する:
マルトール(3-ヒドロキシ-2-メチル-4(H)-ピラン-4-オン)及びジオキソが、鉄などの金属カチオン(M)をキレート化した構造である。トリマルトール第二鉄では、3つのマルトールグループが1つの鉄を取り囲んでいる。
【0028】
しかしながら、特に水性環境において、ダイマーなどのオリゴマー種及び/または1つまたは2つのマルトール分子と錯体化された第二鉄種を含む、マルトール第二鉄の濃度依存性及びpH依存性平衡種を形成することができることはよく知られている。固体または粉末形態におけるトリマルトール第二鉄はまた、ダイマーを含むオリゴマーとしても存在し得、すべての鉄が必ずしも3つのマルトール分子に配位されているわけではないが、用語トリマルトール第二鉄は、当該技術分野で慣習的に使用されている。
【0029】
したがって、本出願において、「マルトール第二鉄」への言及は、1つ、2つ、または3つのマルトール種と錯体化した第二鉄種、ならびにダイマーなどのオリゴマー種及びそれらと平衡にあり得る他の種を含むことを意図し、また、錯体の挙動は補給剤のレベルでトリマルトールの形態が多く占めると考えられるが、任煮のこれらの種の混合物を含むことを意図する。
【0030】
トリマルトール第二鉄の構造は、WO2015/101971(Iron Therapeutics Holdings AG)に示されている。トリマルトール第二鉄は、「ST10」としても知られており、一般に、30mg投与量として投与され、30mgはその投与量における鉄の量を指す。30mgの元素鉄(Fe3+)に相当するST10の量は、231.5mgである。トリマルトール第二鉄は、特に、炎症性腸疾患(IBD)の患者または経口鉄不耐症の患者における貧血の治療または予防のための臨床試験を受けている。
【0031】
配位子修飾及び配位子コーティングされた水酸化第二鉄
配位子修飾された水酸化第二鉄などの配位子修飾された金属オキソ水酸化物の生成及び特徴は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる我々の先の出願WO2008/096130に記載されている。また、これらのアプローチを採用して、本発明の方法においてトリマルトール第二鉄を作製するための開始物質の1つとして使用される配位子修飾された水酸化第二鉄を作製してもよい。配位子コーティングされた物質は、当該技術分野で広く知られている。これらは、配位子修飾された物質とは異なり、その配位子は、鉱物のコアを妨害するのではなく粒子表面をコーティングするために使用される。本明細書に記載の合成プロセスにおいて、水酸化第二鉄は、有機配位子でコーティングされ、これは、物質の分散性を増加させ、及び/または凝集への動きを減少させる。
【0032】
WO2008/096130は、配位子修飾された金属オキソ水酸化物が、従来の化学量論金属配位錯体及び物理的に配位子分子でコーティングされた金属水酸化物の粒子の両方とは異なる物質形態を構成することを記載している。配位子修飾された金属水酸化物は、とりわけ、構造的、分光学的または組成上のパラメータを参照して(すなわち、物質の分析サインを使用して)、または物質が得られたプロセスによって明確にすることができる。したがって、金属水酸化物粉末は、無機化学の分野において非常によく知られているが、それらが好適な配位子(すなわち、オキソ基またはヒドロキシ基以外)によって修飾される場合、これは、その物理的及び/または化学的な特性を変化させて新たな物質を生成し、新たな用途で使用される。
【0033】
配位子修飾された水酸化第二鉄は、1つまたは複数の配位子種の存在下で、第二鉄塩を溶解し、次いで、ポリマー水酸化第二鉄の形成をもたらすpHに増加することによって沈殿するように誘導された場合に形成される。このプロセスによって、配位子種のいくつかが、水酸化第二鉄の固相構造に組み込まれることになる。
【0034】
背景として、酸化鉄、水酸化鉄、及び鉄オキソ水酸化物は、O及び/またはOHと一緒になってFeからなることは当該技術分野において既知であり、この特許ではまとめて言及され、水酸化鉄として当該技術分野では既知である。異なる水酸化鉄は、異なる構造及び元素組成を有し、これはその物理化学的特性を決定する(Cornell & Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties, Reactions, Occurrence and Uses.、第2版、1996年、VCH Publishers、New Yorkを参照)。修飾なしで本明細書で使用される物質の一次粒子は、酸化鉄の核及び水酸化鉄の表面を有する可能性が高く、様々な分野において、酸化鉄、または水酸化鉄、または鉄オキソ水酸化物、または鉄オキシ水酸化物、または鉄ポリオキソ水酸化物、または鉄ポリオキシ水酸化物と呼ぶことができる。上記のように、本発明の物質は、水酸化鉄の一次粒子のレベルにおいて、少なくとも一次粒子の構造内に導入された配位子の少なくともいくつかによって変化するものであり、即ち配位子による一次粒子のドープまたは混入が生じる。これは、一次粒子の構造がそのように変えられていない、鉄サッカリド錯体などの水酸化鉄及び有機分子のナノ混合物の形成と対照的であり得る。これは、さらに、化学量論的であるクエン酸塩第二鉄錯体または酒石酸塩第二鉄錯体などの従来の鉄配位錯体の形成と対照的であり得る。
【0035】
本発明で使用される配位子修飾された水酸化第二鉄の一次粒子は、沈殿と呼ばれるプロセスによって生成されてもよい。沈殿という用語の使用は、しばしば沈降または遠心分離によって溶液から分離することができる物質の凝集物の形成を指す。ここで「沈殿」という用語は、すべての固相物質の形成を説明するものであり、上記の凝集物及び凝集しないが懸濁液に溶解しない部分として残る固体物質(それらが粒子状のコロイドであろうとサブコロイド(ナノ粒子)であろうと)を含む。
【0036】
本発明では、配位子修飾された水酸化第二鉄は、一般に結晶性ではないので、それらの生成に使用される臨界沈殿pHを超えて一般に形成される3次元のポリマー構造または架橋構造を有する。本明細書で使用される場合、これは、物質の構造が一定の反復モノマー単位を有するという厳密な意味でポリマー状であることを示すと解釈されるべきではなく、というのは先に述べたように、配位子の取込みは、偶然を除いて非化学量論的であるからである。配位子種は、オキソ基またはヒドロキシ基の置換によって固相構造に導入され、その結果、固相の規則性が変化する。トリマルトール第二鉄を作製する方法において使用される配位子修飾された水酸化第二鉄の生成では、固相物質全体の規則性を低減するように、配位子分子でオキソ基またはヒドロキシ基を置換することによって、配位子種を固相構造に導入することができ、その結果、物質は、例えば、対応する非修飾の水酸化第二鉄の構造と比較して、より非晶質の性質を有する。より無秩序なまたは非晶質の構造の存在は、当技術分野で既知の技術を使用して当業者によって容易に決定され得る。例示的な一技術は、透過電子顕微鏡法(TEM)である。高分解能透過電子顕微鏡法は、物質の結晶パターンを視覚的に評価できるようにする。それは初期の粒径及び構造(d間隔など)を示し、非晶質物質と結晶性物質との間の分布についていくつかの情報を与えることができる。このことは、収差補正された高角度環状暗視野走査型透過電子顕微鏡法を使用して、解像度を維持しながら高いコントラストを達成することによって、したがって物質の一次粒子の表面ならびにバルクを可視化することで、特に明らかにすることができる。
【0037】
配位子コーティングされた水酸化第二鉄
トリマルトール第二鉄の合成のための開始物質の1つとしての配位子修飾された水酸化第二鉄の使用に代替的にまたは付加的に、本発明では、配位子コーティングされた水酸化第二鉄を採用してもよい。配位子コーティングされた水酸化第二鉄は、配位子でキャップされた水酸化第二鉄粒子(すなわち、吸着または類似の手段を通してコーティングされた表面)を含み、したがってそれらの凝集への動向を減少させる。さらなる実施形態では、配位子コーティングされた物質は、さらなる凝集を防止または制限するためにキャップされた凝集体(非コロイド状)からなり得る。従来の金属配位錯体とは異なり、配位子コーティングされた物質において、配位子が、低量、非化学量論比で添加され、したがって鉄の大部分を可溶性形態に維持または変換するために十分に濃縮されない。
【0038】
配位子(L)
様々な配位子を、本発明の方法におけるトリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄の合成において使用される配位子修飾または配位子コーティングされた水酸化第二鉄の生成に使用してもよく、配位子修飾された水酸化第二鉄は、1、2、3、4、またはそれ以上の異なる種の配位子を含んでもよい。典型的には、配位子は、例えば、未修飾または未コーティングの水酸化第二鉄と比較して物質の物理化学的特性を改変させるのを促進するため、特に、トリマルトール第二鉄の合成を可能にする反応を促進するために、配位子修飾された水酸化第二鉄中に組み込まれている。本発明で使用してもよい配位子の例としては、決して以下に限定されるものではないが、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、または安息香酸などのカルボン酸、マルトール、エチルマルトール、またはバニリンなどの食品添加物、リジン、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリン、またはヒスチジンなどのアミノ酸、及び/またはこれらのイオン化形態が挙げられる。典型的には、配位子は、溶液中の特定の金属イオンに対して高親和性を有するものとして、またはごくわずかな親和性を有するものとして当技術分野で十分に認識され得るものであり、あるいは所与の金属イオンに対する配位子としては典型的にはまったく認識され得ないものである。典型的には、1種の配位子、または金属イオンに対して異なる親和性を示す2種の配位子が、これらの物質の生成に使用されるが、0、1、2、3、4、5、またはそれ以上の異なる種の配位子が、本発明の方法の特定の実施形態において有用であり得る。
【0039】
配位子は、酒石酸または酒石酸塩などの、カルボン酸配位子、またはそのイオン化形態(すなわち、カルボン酸塩配位子)であってもよい。より好ましいカルボン酸配位子のグループとしては、酒石酸または酒石酸塩、アジピン酸(またはアジピン酸塩)、グルタル酸(またはグルタル酸塩)、ピメリン酸(またはピメリン酸塩)、コハク酸(またはコハク酸塩)、及びリンゴ酸(またはリンゴ酸塩)が挙げられる。さらなる好ましい種類の配位子は、リジン、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリン、またはヒスチジンなどのアミノ酸である。好ましくは、リジンなどの低コストのアミノ酸が合成で使用される。配位子が、酸として存在するか、または部分的もしくは完全にイオン化され、アニオンの形態で存在するかどうかは、物質が生成され、及び/または回収されるpH、生成後の処理または形成工程の使用、及び配位子がオキソ-ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれる方法などの広範囲の要因に依存するであろう。カルボン酸を用いるいくつかの実施形態では、配位子の少なくとも一部は、水酸化第二鉄物質が典型的にはpH>4で回収される場合には、カルボン酸塩形態で存在するであろうが、これは配位子と正電荷鉄との間の相互作用が、負電荷のカルボン酸イオンの存在によって大幅に向上するためであろう。誤解を避けるために、本発明によるカルボン酸配位子の使用は、これらの可能性の全てをカバーし、すなわち、配位子が、非イオン化形態のカルボン酸、部分的にイオン化された形態(例えば、配位子がジカルボン酸である場合)またはカルボン酸イオンとして完全にイオン化された形態のカルボン酸、及びこれらの混合物として存在する。同様に、用語アミノ酸の使用は、その可能なイオン化形態全てをカバーする。また、第二鉄イオン(複数可)対配位子(複数可)(L)のモル比は、物質の特性を変化させるために本明細書に開示される方法に従って変更することができる、固相配位子修飾されたポリオキソ-ヒドロキシ金属イオン物質のパラメータである。一般に、M:Lの有用な比は、10:1、5:1、4:1、3:1、2:1、及び1:1の間であろう。
【0040】
マルトール第二鉄組成物及びこれらの使用
本発明の方法に従って生成されるマルトール第二鉄組成物は、個体への投与のために製剤化されていてもよく、トリマルトール第二鉄に加えて、当業者に既知の薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、または他の材料を含有してもよい。そのような物質は、非毒性であるべきであり、問題での適用に対して固相物質の有効性を妨げてはならない。
【0041】
本明細書に記載されるとおり、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄は、鉄欠乏症の治療において特定の用途を有する。例として、トリマルトール第二鉄組成物は、標準の血液学的及び臨床化学的技術を介して疑われるか、または診断され得る、鉄欠乏症または鉄欠乏性貧血の予防または治療に使用する目的で個体に鉄を送達するために使用してもよい。鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血は、例えば栄養不良により、または鉄の過剰喪失により単独で生じることがあり、あるいは、それらは、妊娠または泌乳などのストレスに関連することがあり、あるいは、それらは、炎症性障害、癌、及び腎不全などの疾患に関連することがある。さらに、慢性疾患の貧血に関連する赤血球生成の減少は、鉄の効果的な全身送達によって改善または修正され得るという証拠、及び鉄とエリスロポエチンまたはその類似体との同時送達は、エリスロポエチン活性の低下を克服するのに特に有効となり得るという証拠がある。したがって、さらなる例として、本明細書に開示されるトリマルトール第二鉄組成物は、慢性疾患の貧血などにおける不十分なエリスロポエチン活性の治療に使用する目的で個体に鉄を送達するために使用してもよい。慢性疾患の貧血は、腎不全、癌、及び炎症性障害などの状態に関連し得る。上記のように、鉄欠乏症は、これらの障害においても一般に生じ得るものであり、したがって鉄の補給による治療は、鉄欠乏症単独及び/または慢性疾患の貧血に対処し得る。鉄補給剤の医療用途の上記例は、決して限定的ではないことが当業者には認識されるであろう。
【0042】
さらに、トリマルトール第二鉄は、特に、炎症性腸疾患(IBD)の患者または経口鉄不耐症の患者における貧血の治療または予防のために現在使用されている。
【0043】
担体または他の成分の正確な性質は、組成物の投与方法または投与経路に関係し得る。これらの組成物は、以下に限定されるものではないが、経口及び経直腸を含む消化管送達を含む広範囲な送達経路によって送達してもよく、またはこの目的のため、または他の目的ではあるが、この利益をもたらす目的のために使用され得る人工装具を含む、特定部位におけるインプラントによって送達してもよい。
【0044】
本発明により作製される医薬組成物は、一般に、経口投与用であり、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、または液体の形態であってもよい。錠剤は、ゼラチンまたは他の賦形剤などの固体の担体を含んでもよい。カプセルは、腸溶性コーティングなどの特殊な特性を有してもよい。液体医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱油、または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩水、デキストロースもしくは他の糖類溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれてもよい。
【0045】
個体に与えられる、本発明に従って使用されるトリマルトール第二鉄組成物は、好ましくは「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(場合によっては、予防が治療とみなされ得るが)で投与されるが、これは、個体に対して利益(例えば、バイオアベイラビリティ)を示すのに十分なものである。投与される実際の量、ならびに投与の速度及び時間経過は、治療されているものの性質及び重症度に依存するであろう。治療の処方、例えば、投与量などの決定は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療される疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、及び開業医に既知の他の要素を考慮する。上述の技術及びプロトコルの例は、Remington´s Pharmaceutical Sciences、20版、2000年、Lippincott、Williams & Wilkinsに見ることができる。組成物は、治療される状態に応じて、単独で、または同時か順次のいずれかで他の治療と組み合わせて投与されてもよい。
【0046】
一般に、トリマルトール第二鉄は、栄養学的または医学的な効果のために経口鉄補給の形態として使用されてもよい。この領域において、3つの主要な例がある:
(i)一般に、鉄欠乏性貧血、鉄欠乏症、及び慢性疾患の貧血を含む適応症の治療のために経口経路または静注経路で投与される、治療(処方)補給剤。本発明の物質の治療的投与は、他の療法を伴ってもよく、特にエリスロポエチンの同時使用を伴ってもよい。
(ii)通常は経口送達用である栄養剤(自己処方した/購入した補給剤)。
(iii)強化剤。これらは、購入前に添加されている観点での伝統的な形態、または摂取時に食品に添加される(塩またはコショウのように)「Sprinkles」などのより最近の強化剤形態であってもよい。
【0047】
全てのフォーマットにおいてだが、最も多くは強化剤に対して、保護コーティング(例えば、脂質)の添加などの後続の形成が、意図される使用に適合する物質を作製するために必要であってもよい。
【0048】
鉄補給剤の医療用途の上記例は、決して限定的ではないことが当業者には認識されるであろう。
【実施例
【0049】
実施例1:L-リジンコーティング水酸化第二鉄からのトリマルトール第二鉄
リジンコーティング水酸化第二鉄コロイドの合成
14.87gのFeCl.6HOを、25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次いで、14.9gの5M NaOHを、一定で撹拌しながらこの溶液に滴下し、その間に水酸化第二鉄コロイドが徐々に生成された。次いで、このコロイド懸濁液をL-リジン懸濁液(25mLのddHOに5.02gを溶解)に添加した。
【0050】
トリマルトール第二鉄の合成
7gのNaOHペレットを25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、溶解するまで撹拌した。次いで、リジンコーティング水酸化第二鉄コロイドの懸濁液を、激しく撹拌しながら徐々にマルトールに添加し、暗赤色の沈殿物(かなり茶色の色調)が生成された。この懸濁液を一晩インキュベートし、その間にそれはより明るくなり、茶色の色調が消えた。次いで、この沈殿物を遠心分離(4500rpm x 5分)によって回収し、一晩乾燥させた(50℃)。
【0051】
実施例2:L-リジン修飾水酸化第二鉄からのトリマルトール第二鉄
リジン修飾水酸化第二鉄ゲルの合成
14.87gのFeCl.6HO及び5.02gのL-リジンを25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次いで、32mLの5M NaOHを、徐々にこの溶液に添加して、水酸化第二鉄ゲルを生成した。
【0052】
トリマルトール第二鉄の合成
7gのNaOHペレットを25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、溶解するまで撹拌した。次に、リジン修飾水酸化第二鉄ゲルを、激しく撹拌しながら徐々にこの溶液に添加した。次いで、1.2M HCl溶液を使用して、溶液のpHを10に低下させ、次いでこれを70分間インキュベートした。最後に、暗赤色の沈殿物(すなわち、トリマルトール第二鉄)を遠心分離(4500rpm×5分)によって回収し、一晩乾燥させた(45℃)。
【0053】
実施例3:トリマルトール第二鉄中の水酸化第二鉄の非存在
トリマルトール第二鉄は、エタノールに可溶性である一方、水酸化第二鉄(潜在的混入物)は可溶性ではない。したがって、実施例1及び2に従って生成されたトリマルトール第二鉄粉末を、エタノールに溶解させた。実施例2による物質は、完全に溶解して水酸化鉄の非存在を確認した一方で、実施例1による物質は完全に溶解しなかった。これは、本発明において、トリマルトール第二鉄への完全な変換を確実にするために、配位子の表面コーティングではなく修飾が好ましいことを支持した。
【0054】
実施例4:酒石酸塩修飾水酸化第二鉄からのトリマルトール第二鉄
酒石酸塩修飾水酸化第二鉄ゲルの合成
14.87gのFeCl.6HO(0.055mol)を、25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。4.12gの酒石酸(0.0275mol)を、この溶液に添加し、溶解するまで撹拌した。次いで、38mLの5M NaOHを、徐々にこの溶液に添加して、水酸化第二鉄ゲルを生成した。
【0055】
トリマルトール第二鉄の合成
2 gのNaOHペレットを25mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、撹拌した。これにより、マルトールのほとんどが溶解していないスラリーが生成された。次に、酒石酸塩修飾水酸化第二鉄ゲルを、マルトールの残りが溶解する激しい撹拌をしながら徐々にこの溶液に添加した。15分後、暗赤色沈殿物(すなわち、トリマルトール第二鉄)が形成されており、pHを8.5に安定させた。次いで、物質を、(1)遠心分離すること、(2)上澄みを廃棄すること、及び(3)水に再懸濁して最初の容量に戻すことによって洗浄した。最後に、物質は、遠心分離(4500rpm×5分)によって回収され、一晩乾燥させた(50℃)。
【0056】
水性条件下でのトリマルトール第二鉄の生成のための以前開示された合成プロセスは、鉄の錯体化の前に、マルトールをそのプロトン化形態からその脱プロトン化形態に変換するためにNaOH(または他の好ましい塩基)の添加を必要とする。しかしながら、これは、洗浄しなければならない望ましくないナトリウムイオンの形成をもたらす。対照的に、本発明の方法による水酸化第二鉄の使用により、塩基及び関連する対カチオン(例えば、ナトリウム)の必要性が減少し、これは有利な特徴である。水酸化第二鉄は、例示目的だけのために、Fe(OH)として上述で表していることに留意されたい。異なる水酸化鉄は、異なる構造及び元素組成を有する(Cornell & Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties,Reactions,Occurrence and Uses.、第2版、1996年、VCH Publishers、New Yorkを参照)。
【0057】
実施例5:酒石酸塩修飾水酸化第二鉄からのトリマルトール第二鉄(水酸化第二鉄から混入物の除去あり)
過剰な反応物及び反応生成物(例えば、未結合の酒石酸、塩化ナトリウム)を水酸化第二鉄ゲルから除去することを除いて、実施例4と同様に調製された物質である。これは、水酸化第二鉄ゲルを、その合成後に遠心分離し、望ましくない可溶性種を含有する上澄みを廃棄することによって達成された。最後に、水酸化第二鉄ゲルを、マルトールスラリーに添加する前に、水に再懸濁させて最初の容量に戻した。
【0058】
実施例6:配位子コーティングされた水酸化第二鉄から生成されたトリマルトール第二鉄のエタノールによる洗浄
トリマルトール第二鉄沈殿物は、望ましくない酸化鉄断片を含有するため精製した。遠心分離によって回収される湿潤ペレット部分(4.5g)を、1Lのエタノールに溶解させた。次いで、酸化鉄断片(溶解されないまま残る)をろ過によって除去して、濁りのない溶液が生成された。次に、エタノールを蒸発させて(真空下ロータリーエバポレーターにおいて40℃)、濃縮されたトリマルトール第二鉄スラリーを生成した。次いで、これを回収し、50℃で一晩炉内乾燥させた。
【0059】
参考文献:
情報開示陳述書の一部として提示した参照を含む、本明細書に引用され、または本願により提示されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により組み込まれる。
【0060】
Gasche et al., Ferric maltol is effective in correcting iron deficiency anaemia in patients with inflammatory bowel disease:results from a phase-3 clinical trial program.Inflamm Bowel Dis.,21(3):579-88,2015.
【0061】
Harvey et al., Ferric trimaltol corrects iron deficiency anaemia in patients intolerant of iron.Aliment Pharmacol Ther.,12(9):845-8,1998.
図1
図2