(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】元素鉄からマルトール第二鉄組成物を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 309/40 20060101AFI20220303BHJP
C07F 15/02 20060101ALI20220303BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20220303BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220303BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C07D309/40
C07F15/02
A61K31/351
A61K33/26
A61P7/06
(21)【出願番号】P 2018552009
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2017057702
(87)【国際公開番号】W WO2017167969
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-30
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516272320
【氏名又は名称】シールド ティーエックス (ユーケー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】パウエル ジョナサン ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ファリア ヌーノ ジョルジ ロドリゲス
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/097627(WO,A1)
【文献】特表2014-503579(JP,A)
【文献】特開昭63-079859(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101857537(CN,A)
【文献】国際公開第2011/006763(WO,A1)
【文献】ロシア国特許出願公開第02304575(RU,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07F
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、元素鉄をマルトールと反応させることと、形成する前記マルトール第二鉄を回収することと、を含
み、
前記元素鉄を反応させることが、酸素及び/または酸化剤の存在下で行われ、
前記方法はアルカリ条件下で行われる、
方法。
【請求項2】
前記マルトール第二鉄が、トリマルトール第二鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素が、圧縮空気、酸素、または酸素濃縮材料を使用して前記反応に提供される、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
溶液の大気酸素との混合及びそれ故のエアレーションにより、または注入もしくはポンプによる空気の導入によって得られる空気を使用して酸素が前記反応に提供される、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
錯化剤を添加して元素鉄のマルトール第二鉄への転化を加速させることを更に含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載方法。
【請求項6】
未反応の元素鉄を磁石で除去することを更に含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法
が水性の条件下で行われる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記マルトール第二鉄が、単一容器内で生成される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マルトール第二鉄組成物を分離し、任意に乾燥させることを更に含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記マルトール第二鉄組成物を精製及び/または製剤化することを更に含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記マルトール第二鉄組成物を、1種以上の賦形剤と混合することを更に含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
対象への経口投与用に前記マルトール第二鉄組成物を製剤化することを更に含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素鉄からトリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を生成するための方法、ならびにこれらの方法によって生成されたマルトール第二鉄組成物及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖誘導体マルトールは、ヒドロキシピロン(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)であり、それは、鉄を強くキレートし、生じる複合体(トリマルトール第二鉄)は、多くの他の第二鉄療法とは異なり、良好に吸収される。トリマルトール第二鉄は、IBD患者などの胃腸の副作用の影響を非常に受けやすい集団でさえも良好に耐容するようであり(Harvey et al.,1998)、このように、それは、経口鉄金属生成物に不耐性である患者に対して、特に静脈注射用鉄の代わりに、価値ある代替手段を提供する。トリマルトール第二鉄を使用する臨床試験が行われており、例えば、例えば、Gasche et al.2015を参照されたい。
【0003】
しかしながら、トリマルトール第二鉄のバイオアベイラビリティ及び耐容性の証拠にもかかわらず、その臨床開発は適切な合成経路がないことによって制限されている。特に、ほとんどの製造プロセスは、例えば、合成後の溶媒除去に対処するために製造コストを増加させる有機溶媒の使用を必要とし、また、例えば、可燃性に対処するために追加の安全対策を必要とする。重要なことに、溶媒系の合成はロバストではなく、しばしば先行技術において合成の望ましくない不純物であると記載されている水酸化第二鉄を生成する。
【0004】
WO03/097627(Vitra Pharmaceuticals Limited)は、7を超えるpHで水溶液中のカルボン酸の鉄塩からのトリマルトール第二鉄の合成を記載している。第1の合成では、クエン酸第二鉄を室温で水酸化ナトリウムの溶液に添加し、マルトールをpH11.6の水酸化ナトリウムの第2溶液に添加する。クエン酸第二鉄溶液をマルトール溶液に添加すると、濃い赤色の沈殿物が生成する。次いで、この組成物を乾燥するまで蒸発させ、材料を粉末化し、乾燥させる。代替的な合成は、鉄カルボキシレート塩出発材料としてフマル酸第一鉄またはグルコン酸第一鉄を使用して、水酸化ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウム水溶液にマルトールを溶解することによって記載されている。しかしながら、このプロセスが十分に水性であるという事実にもかかわらず、用いられる鉄カルボキシレート塩のいくつかは高価であり、特に、トリマルトール第二鉄がヒト投与に適している場合には薬学的グレードである必要があるため、高価である。より重要なことに、このプロセスは、トリマルトール第二鉄ケーキの濾過または遠心分離によって容易に除去されない高レベルのカルボキシレート(鉄と等モル以上)を合成に導入することである。代わりに、これらの水溶性混入物質を洗い流す(例えば、水洗浄する)ことをしなければならないが、これは、トリマルトール第二鉄の両親媒性の性質のために生成物のかなりの損失をもたらすであろう。
【0005】
WO2012/101442(Iron Therapeutic Holdings AG)は、アルカリpHで、水溶液中でマルトールと非カルボキシレート鉄塩とを反応させることによるトリマルトール第二鉄の合成を記載している。しかしながら、非カルボキシレート鉄塩のより低いコストにもかかわらず、トリマルトール第二鉄をヒト投与に好適なものとすべき場合に薬学的に適切なグレードは依然として必要とされるので、比較的高価な出発材料である。重要なことに、非カルボキシレート鉄塩(例えば、塩化第二鉄)の使用は、かなりのレベルのそれぞれの対アニオン(例えば、鉄1モル当たり3モルの塩化物)の添加をもたらし、そのうちかなりの部分は、濾過(または遠心分離)ケーキ中に保持されるので、洗い流さなければならない。このように、WO2012/101442は、WO03/097627における生成物損失の問題に対処していない。更に、WO2012/101442に記載されているように、非カルボキシレート鉄塩(例えば、塩化第二鉄)を非常にアルカリ性の溶液に添加すると、トリマルトール第二鉄中に望ましくない混入物質である安定な酸化鉄の形成が促進される。結果として、更に高価で時間のかかる材料の処理が製造に必要とされるであろう。
【0006】
概して、現在の水性合成のコストは、高度に精製された、したがって高価な鉄塩、ならびに最終生成物の徹底的な洗浄(生成物の大幅な損失をもたらす)の使用を強制する最終医薬製剤中の低レベルな毒性重金属及び残留試薬規制要求によって、上がっている。これは、トリマルトール第二鉄の最終価格に影響を及ぼし、潜在的にこの療法に対する患者のアクセスを制限する。このように、適切な純度のトリマルトール第二鉄を生成しながら、より低い鉄グレード及び限定された洗浄サイクルを使用することができるプロセスの必要性が存在する。
【0007】
したがって、先行技術の合成方法に関連する上述の欠点のいくつかまたは全てを克服する、経済的なコストでのトリマルトール第二鉄の合成のためのプロセスを提供することは当該技術分野において依然として課題である。材料のより良好な合成により、これらの問題を解決することは、トリマルトール第二鉄への良好な患者アクセスが可能になるであろう。
【発明の概要】
【0008】
広く、本発明は、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄組成物を生成するための方法であって、マルトールを元素鉄と反応させる、方法に関する。驚くべきことに、第二鉄錯体を生成することを目的とした錯体合成において明らかな鉄源ではない元素鉄(ゼロ価)は、適当な酸素源が利用可能である限り、トリマルトール第二鉄(+3価のFe)の合成において適切な試薬であることが見出された。有用なことに、未反応の元素鉄は磁気的に除去され、それ故、単純で安価な浄化戦略を提供し得る。また、本発明の方法は、以前のプロセスとは異なり、安い鉄源(すなわち、元素鉄)の使用を可能とする。重要なことに、第二鉄塩を使用する以前の合成とは異なり、本明細書に記載のプロセスは、高レベルの望ましくないイオン種(例えば、クエン酸塩または塩化物)を生成せず、それ故、浄化プロセスはより単純かつ安価であり得る。
【0009】
本明細書に記載のプロセスは、単一容器における元素鉄からの一工程合成を可能にする更なる利点を提供する。これは、以前に開示された合成とは異なり、本プロセスが望ましくない対アニオン(例えば、塩化物、カルボキシレート)の放出をもたらさないので可能である。反応はまた、十分に水性の条件を使用して行う利点を有し得る。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、典型的には酸素の存在下で、元素鉄をマルトールと反応させることと、形成するマルトール第二鉄を回収することと、を含む、マルトール第二鉄を生成するための方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、元素鉄をマルトールと反応させることと、形成するトリマルトール第二鉄を回収することと、を含む、トリマルトール第二鉄組成物を生成するための方法を提供する。マルトール第二鉄は、水性条件下での元素鉄とマルトールとの混合から形成されるが、反応速度は、補充酸素が利用可能とされる場合に大きく向上する。反応は典型的には、アルカリ条件下で行われる。
【0011】
本発明者は、マルトール第二鉄組成物の生成に必須である元素鉄の第二鉄への酸化のプロセスが、圧縮酸素を反応に送達することによって加速され得ることを確認した。好都合には、酸素はまた、例えば、圧縮空気、または撹拌及び混合技術を使用して反応に送達され得るか、または当該技術分野において既知の他の手段によって発生させる。
【0012】
そのため、上述したように、更なる利点は、本発明によるマルトール第二鉄組成物を生成するための方法は、例えば、オーバーヘッド撹拌を伴う濾過ユニットなどの単一の製造容器を使用して単一容器合成を可能にし得ることである。
【0013】
好都合には、本発明の方法では、過酸化水素などの酸化剤は、元素から第二鉄への転化を加速するために添加され得、それ故、合成プロセスの期間を短縮する。
【0014】
付加的にまたは代替的に、他の錯化剤(例えば、カルボキシレートまたはアミノ酸)が合成に添加されて溶解を加速させ得、高い親和性のマルトールキレート化のための鉄のドナーとして作用し得る。しかしながら、これはより望ましくない実施形態であり得るが、その理由は、追加の反応物は、より広範な浄化プロセスを必要とする可能性があるためである。
【0015】
一般に、マルトール第二鉄組成物は、0.2M、または0.5M、または1M、またはそれ以上のFeで元素鉄懸濁液から生成される。好都合には、元素鉄は、0.6M以上、1.5M以上、または3M以上のマルトール濃度でマルトール溶液に添加される。例示として、元素鉄は、3.0以上4.0未満、より好ましくは3.1を超え3.75未満の、溶液中の鉄に対するマルトールの比を達成するようにマルトール溶液に添加される。
【0016】
例示として、合成の開始時で、元素鉄は、8.5を超え、好ましくは9.0を超え、より好ましくは9.5を超え、更により好ましくは10を超え、最も好ましくは10.6を超えるpHでマルトール溶液に添加される。
【0017】
更なる態様では、本発明は、マルトール第二鉄を含む鉄補充剤を生成するための方法であって、プロセスが、本明細書に記載の方法に従ってマルトール第二鉄組成物を生成することと、対象への投与用にマルトール第二鉄を製剤化する更なる工程と、を含む、方法を提供する。
【0018】
これより本発明の実施形態を添付の図面を参照して、限定としてではなく例として説明する。しかしながら、本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者に明らかである。
【0019】
「及び/または」は、本明細書で使用される場合、2つの特定された特徴または成分の各々の他方を有するまたは有しないものの特定の開示として解釈されるべきである。例えば、「A及び/またはB」は、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBの各々の具体的な開示として、各々が本明細書において個々に記述されているかのように解釈されるべきである。
【0020】
文脈が別段示さない限り、上述した特徴の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記載される全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】元素鉄から生成されたFTMのUV-ビススペクトル(実施例1のように)。2つのバンドプロファイルは、アルカリ性環境から回収されたFTMの特徴である。UVビス条件:Perkin Elmer Lambda 25;700-350nm;480nm/分;0.5nmの間隔。
【発明を実施するための形態】
【0022】
マルトール第二鉄
マルトール第二鉄は、第二鉄(Fe3+)とヒドロキシピロン、マルトール(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン)との間に形成される化学錯体であるトリマルトール第二鉄(マルトールに対する第二鉄のモル比は3:1)を含む化合物の一種である。マルトールは、第二鉄と強くキレートし、生じる錯体(トリマルトール第二鉄)は、いくつかの他の第二鉄補充剤、栄養強化剤、及び治療と比較して、良好に吸収される。
【0023】
マルトールは、他の4(1H)-ピラノンについて提案された同様の様式で、主にジオキソ二座配位子の形態で金属カチオンと結合する:
マルトール(3-ヒドロキシ-2-メチル-4(H)-ピラン-4-オン)の構造及び鉄などの金属カチオン(M)に対するジオキソ-キレート化。トリマルトール第二鉄の場合、3つのマルトール基が1つの鉄を取り囲んでいる。
【0024】
しかしながら、特に水性環境において、1つまたは2つのマルトール分子と錯体化したダイマー及び/または第二鉄種などのオリゴマー種を含む、マルトール第二鉄の濃度依存性及びpH依存性平衡種が形成し得ることはよく知られている。固体または粉末形態のトリマルトール第二鉄は、ダイマーを含むオリゴマーとしても存在し得、全ての鉄が必ずしも3つのマルトール分子に共連動されるわけではなく、トリマルトール第二鉄という用語は当該技術分野で従来から使用されている。したがって、本出願では、「マルトール第二鉄」への言及は、錯体の挙動が補充レベルでのそのトリマルトール形態によって支配されると考えられていても、1、2、または3個のマルトール種と錯体化された第二鉄種、ならびにそれらと平衡状態で存在し得るダイマー及び他の種などのオリゴマー種、及びこれらの種の任意の混合物を含むことが意図されている。
【0025】
トリマルトール第二鉄の構造は、WO2015/101971(Iron Therapeutics Holdings AG)に示されている.トリマルトール第二鉄は、「ST10」としても知られており、一般に30mg用量として投与され、30mgは用量中の鉄量を指す。30mgの元素鉄(Fe3+)と同等のST10の量は231.5mgである。トリマルトール第二鉄は、特に炎症性腸疾患(IBD)を有する患者または鉄不耐性を有する患者における貧血の治療または予防のための臨床治験を受けた。
【0026】
元素鉄
元素鉄(ゼロ価鉄)は、吸収が低いにもかかわらず、主に、対象への経口投与用の許容可能な純度を有する鉄形態でその非常に低いコストのために、食品栄養強化において一般的に使用される。元素鉄の体系は、典型的には、限定されるものではないが、霧化、還元、電解及びカルボニル鉄を含むその生成プロセスによって決定される。食品グレードのバッチは、典型的には、一般に微小化により得られる小さな粒径の材料からなる。そのような小さな粒径の材料は、高い表面対体積比を提供し、そのようなものとして本明細書に記載の合成プロセスを使用して、マルトール第二鉄への転化に特に好適である。
【0027】
トリマルトール第二鉄が3.0のマルトール対鉄比であるにもかかわらず、より高い比が反応容器において使用され得ることは当業者に明らかである。特に、元素鉄をマルトール溶液に添加して、3以上4.0未満、より好ましくは3.1を超え3.75未満の溶液中のマルトール対鉄比を達成し得る。
【0028】
元素鉄の酸化及び第二鉄イオンのマルトールによる錯体化は、アルカリpHにおいて有利であり、結果として、本発明者は、本明細書に記載のプロセスがアルカリpHで最も良好に行われることを見出した。特に、元素鉄は、8.5を超え、好ましくは9.0を超え、より好ましくは9.5を超え、更により好ましくは10を超え、最も好ましくは10.6を超えるpHであるマルトール溶液に添加され得る。pHは、塩基、好ましくは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの添加によって調節され得る。
【0029】
マルトール第二鉄組成物及びそれらの使用
本発明の方法に従って生成されたマルトール第二鉄組成物は、個体への投与のために製剤化され得、トリマルトール第二鉄に加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤、または当業者によく知られている他の材料を含有し得る。そのような材料は無毒であるべきであり、問題の適用のための固相材料の有効性を妨げるべきではない。
【0030】
本明細書に記載されるように、トリマルトール第二鉄などのマルトール第二鉄は、鉄欠乏症の治療において特定の用途を有する。例として、第二鉄トリマトール組成物は、標準的な血液学的及び臨床化学技術によって疑われるかまたは診断され得る鉄欠乏症または鉄欠乏性貧血の予防または治療における使用のために個体に鉄を送達するために使用され得る。鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血は、例えば、不十分な栄養のためまたは過剰な鉄喪失のため、単独で生じる場合があり、またはそれらは妊娠または授乳などのストレスに関連する場合があり、またはそれらは炎症性障害、癌、及び腎不全などの疾患に関連する場合がある。また、慢性疾患の貧血に関連する赤血球産生の低下は、全身性の鉄の有効な送達によって改善または是正され得、エリスロポエチンまたはその類似体を伴う鉄の共送達は、赤血球産生活性の低下を克服するのに特に有効であり得るという証拠が存在する。それ故、更なる例として、本明細書に開示される第二鉄トリマトール組成物は、慢性疾患の貧血などの準最適赤血球産生活性の治療に使用するために個体に鉄を送達するために使用され得る。慢性疾患の貧血は、腎不全、癌、及び炎症性障害などの状態と関連し得る。上記のように、鉄欠乏症はこれらの障害においても一般的に起こり得るので、鉄補充による治療は鉄欠乏症のみ及び/または慢性疾患の貧血に対処し得る結果となる。鉄補充剤の医学的用途の上記の例は決して限定的ではないことは当業者によって認識される。
【0031】
また、トリマルトール第二鉄は、現在、特に炎症性腸疾患(IBD)を有する患者または他の形態の経口鉄に対して不耐性を有する患者において貧血の治療または予防に使用されている。
【0032】
担体または他の成分の正確な性質は、組成物の投与の様式または経路に関連し得る。これらの組成物は、経口及び経直腸を含む消化管送達を含むがこれらに限定されない送達経路の範囲によって、またはこの目的のためもしくは主に別の目的のために使用され得るがこの利益を有し得る人工装具を含む特定の部位での移植によって送達され得る。
【0033】
本発明に従って作製される薬学的組成物は、一般に経口投与用であり、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、または液体の形態であり得る。錠剤は、ゼラチンまたは他の賦形剤などの固体担体を含み得る。カプセルは、腸溶性コーティングなどの特殊な特性を有し得る。液体薬学的組成物は、一般に、水、石油、動物もしくは植物油、鉱油、または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩水、デキストロース、もしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれ得る。
【0034】
個体に与えられる本発明に従って使用されるトリマルトール第二鉄組成物は、好ましくは、「予防的に有効な量」または「治療的に有効な量」(場合によっては、予防は治療とみなされ得る)で投与され、これは、個体に利益を示すのに十分である(例えば、バイオアベイラビリティ)。投与される実際の量、ならびに投与の速度及び時間経過は、治療されるものの性質及び重症度に依存する。治療の処方、例えば、投薬量などの決定は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療される疾患、個々の患者の状態、送達の部位、投与の方法、及び開業医に知られている他の要因を考慮する。上述の技術及びプロトコルの例は、Remington´s Pharmaceutical Sciences,20th Edition,2000,Lippincott,Williams & Wilkinsで見られ得る。組成物は、治療される状態に応じて、単独で、または同時もしくは順次のいずれかで他の治療と組み合わせて投与され得る。
【0035】
一般に、トリマルトール第二鉄は、栄養または医学的利益のための経口鉄補充の形態として使用され得る。この領域において、3つの主要な例が存在する:
【0036】
(i)鉄欠乏性貧血、鉄欠乏症、及び慢性疾患の貧血を含む適応症の治療のために経口または静注経路によって一般的に投与される治療(処方)補充剤。本発明の材料の治療的投与は、他の療法との、特にエリスロポエチンの併用との組み合わせであり得る。
【0037】
(ii)通常は経口送達用である栄養(自己処方/購入補充剤)。
【0038】
(iii)栄養強化剤。これらは、購入前に食品に添加される観点から伝統的な形態であり得るか、または摂取時に食品に添加される「Sprinkles」(塩または胡椒に似ている)などのより最近の栄養強化剤形態であり得る。
【0039】
全ての形式において、しかし栄養強化剤に最も特別なことには、保護コーティング(例えば、脂質)の添加などのその後の製剤化は、その意図された使用法に適合する材料を作製する必要があり得る。
【0040】
鉄補充剤の医学的用途の上記の例は決して限定的ではないことは当業者によって認識される。
【実施例】
【0041】
実施例1:鉄粉(iron filings)からのFTM
7gのNaOHペレットを50mLのUHP水に添加し、溶解するまで撹拌した。次に、24.5gのマルトールを添加し、溶解するまで撹拌した。次いで、3.07gの鉄充填物を添加し、得られた懸濁液を酸素でバブリングしながら撹拌した。かなりの量の暗赤色沈殿物(すなわち、FTM)が48時間後に観察可能であったが、合成は更に3日間続けられた。次いで、溶解していない鉄粉(iron filings)を磁気棒で除去し、FTMを遠心分離(4500rpm×10分)によって回収した。次いで、FTM材料を50±5℃で乾燥させ、その構造を分析によって確認した。
【0042】
参考文献:
情報開示陳述書の一部として提出された参考文献を含む、本明細書で引用されたか本出願で提出された全ての刊行物、特許、及び特許出願は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0043】
Gasche et al.,マルトール第二鉄は、炎症性腸疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を是正するのに有効である:第3相臨床試験プログラムからの結果。Inflamm Bowel Dis.,21(3):579-88,2015。
【0044】
Harvey et al.,トリマルトール第二鉄は、鉄に不耐性の患者における鉄欠乏性貧血を是正する。Aliment Pharmacol Ther.,12(9):845-8,1998。