(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】発酵プロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 7/40 20060101AFI20220303BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20220303BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220303BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C12P7/40
C12P7/56
C12N1/00 B
C12M1/38 Z
(21)【出願番号】P 2019527898
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2017080790
(87)【国際公開番号】W WO2018099954
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2019-07-22
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】デ ハーン,アンドレ バニエ
(72)【発明者】
【氏名】ボクホーブ,イェルーン
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0220003(US,A1)
【文献】国際公開第2015/034036(WO,A1)
【文献】特公昭46-041583(JP,B1)
【文献】特公昭39-026041(JP,B1)
【文献】特開2010-193846(JP,A)
【文献】特開2008-259517(JP,A)
【文献】特開2003-310243(JP,A)
【文献】特開昭58-056688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵生成物を製造するための方法であって、
・発酵反応器内の水性発酵培地中で、炭水化物を発酵生成物に転化することができる微生物を用いて、発酵条件下で炭水化物源を発酵させる工程、
ここで、該発酵生成物が
、カルボン酸又はその塩である、
・発酵プロセス中に、バイオマスを含む発酵培地の一部を該発酵反応器から再循環流の形で取り出す工程、
・バイオマスを含む該再循環流を圧力容器に供給する工程
、ここで、再循環流の温度が水分の蒸発によって発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して1~8℃低下するように
、大気圧未満の圧力が選択される
、
・該冷却された再循環流を発酵反応器に再循環する工程
を含む方法。
【請求項2】
再循環流の温度が発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して2~5℃低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧力容器の容積が発酵反応器の容積の0.1~10%である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
発酵反応器からの発酵培地の画分の取り出しと該反応器への該画分の再導入との間の時間として定義される再循環時間が、10分間以下
である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
発酵の少なくとも一部の期間に、発酵反応器内の発酵培地中に固体発酵生成物が存在する、請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
発酵反応器内の発酵培地の体積が100m
3以上である、請求項1乃至請求項
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
発酵反応器内の発酵培地の最高温度と発酵反応器内の発酵培地の最低温度との差が8℃以下
である、請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
・該発酵方法中に、バイオマスを含む発酵培地の流れを発酵反応器から取り出し、
・上記流れの第1の部分を
圧力容器に供給し、
ここで、該流れの温度が水分の蒸発によって発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して1~8℃低下するように
、大気圧未満の圧力が選択される
、かつ
このように生成した流れを発酵反応器に再循環し、
・上記流れの第2の部分は圧力容器に供給されない、
請求項1乃至請求項
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記発酵生成物が、炭素原子数2~8のモノ-、ジ-及びトリ-カルボン酸からなる群から選択されるカルボン酸の塩である、請求項1乃至請求項
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記発酵生成物がカルボン酸の塩であり、該カルボン酸の塩が酸性化工程に付され、カルボン酸と無機塩との水性混合物の形成下でカルボン酸の塩をカルボン酸に転化する、請求項1乃至請求項
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記カルボン酸が無機塩から分離される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
上記塩からのカルボン酸の分離後に、該カルボン酸が精製工程
に付される、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
発酵工程と酸性化工程との間にバイオマス除去工程が行われる、請求項
10乃至請求項
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記カルボン酸が乳酸であり、その後、ラクチド又はポリラクチドに転化される、請求項
10乃至請求項
13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵条件下で炭水化物源を微生物で発酵させることを含む発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物を発酵生成物に転化することができる微生物を用いて発酵条件下で炭水化物源を発酵させる発酵プロセスは当技術分野で公知であり、様々な発酵生成物の生産に応用されている。
【0003】
工業規模での発酵プロセスでは、特に大きな反応器容積、比較的高い発酵温度並びに高いバイオマス及び発酵生成物濃度が問題となる場合、様々な問題が起こりかねないことが判明している。このような状況では、反応容器の全容積にわたって反応容器内の温度を一定に保つことが難しいことが判明しているからである。これは様々な理由から重要である。
【0004】
一方、温度が比較的低い反応容器内の箇所では、発酵生成物の水中溶解度が限られていると、発酵生成物の結晶化が起こりかねない。これは、発酵槽で多用される熱交換器の表面のような冷表面でのスケール形成をもたらすおそれがある。このようなスケール形成は、熱交換器の機能に悪影響を与える。さらに、冷表面での発酵生成物の結晶化は、不均質な構造の結晶の形成を招き、望ましくない。
【0005】
さらに、発酵ユニット内の低温スポットは、反応器のその箇所での微生物の生産能力に影響しかねない。微生物は一般に最適生産温度を有しており、その値よりも低い温度に置かれると、それらの活性は減少するが、これが望ましくないことはいうまでもない。
【0006】
逆に、発酵ユニット内で温度が比較的高い箇所では、望ましくない影響が生じるおそれもある。特に、温度が高すぎても、微生物の活性低下を招くことがある。さらに、高温は、望ましくない副生物の形成をもたらすこともある。
【0007】
当技術分野において、大きな反応器容積、比較的高い発酵温度並びに高いバイオマス及び発酵生成物濃度が問題となる温度制御発酵プロセスは、攪拌機のような均質化要素と組合せて反応器内に熱交換器を設けることによって実施されることが多かった。しかし、今回、これらの要素が必ずしも適切ではないことが判明した。上述の通り、溶解度が限られた発酵生成物の熱交換器上でのスケール形成は、クールスポットの形成と同じく問題である。さらに問題となるのが、熱交換器の追加が反応器から自由容積を奪うことであり、強力な冷却が必要とされる場合には、必要な冷却能力を満たすことができる十分な空間が反応器内にないかもしれない。さらに、熱交換器は高価であり、いったん存在すると反応器を停止させたときにしか取り外せないという点で比較的融通性に欠ける。
【0008】
大きな反応器容積、比較的高い発酵温度並びに高いバイオマス及び発酵生成物濃度が問題となる場合でも、ユニット全体にわたって一定の反応温度が確保される発酵プロセスが当技術分野で必要とされている。さらに、限られた投資で均一な反応温度を得ることができる発酵プロセスであって、しかも冷却作用をプロセスのニーズに直接適合させることができるという点で温度制御が適応性に富む発酵プロセスがさらに必要とされている。本発明はこれらの問題を解決する方法を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、発酵方法であって、
・発酵反応器内の水性発酵培地中で、炭水化物を発酵生成物に転化することができる微生物を用いて、発酵条件下で炭水化物源を発酵させる工程と、
・発酵方法の途中、バイオマスを含む発酵培地の一部を発酵反応器から再循環流の形で取り出す工程と、
・バイオマスを含む再循環流を圧力容器に供給する工程であって、再循環流の温度が水分の蒸発によって発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して1~8℃低下するように圧力が選択される工程と、
・冷却された再循環流を発酵反応器に再循環する工程と
を含む方法に関する。
【0010】
本発明に係る方法は、反応器内でのホットスポット又はクールスポットの発生を抑制しつつ、発酵培地の均一な温度プロファイルを得ることができることが判明した。これによって改善された発酵成績が得られることが判明した。
【0011】
本発明に係る方法の重要な特徴は、発酵培地の一部を抜き取って、圧力容器に供給し、そこで水を蒸発させて特定の程度まで冷却し、冷却した流れを発酵反応器に再循環することである。
【0012】
なお、米国特許出願公開第2012/0220003号には、発酵、特に乳酸又はアルコール発酵からの関心有機物質の連続分離法であって、発酵槽から発酵培地を取り出して、フラッシュ蒸発器に供給し、そこで揮発性発酵生成物を発酵培地からフラッシュ蒸発させる方法が記載されている。フラッシュ蒸発器に供給する前の発酵培地からバイオマスを分離することが記載されている。これは、再循環流からバイオマスを除去しない本発明とは対照的である。限定された温度低下から分かるように、減圧工程が相対的に穏和であることによって、減圧工程の前にバイオマスを除去する必要がないことが本発明の特徴である。これによって、バイオマス分離工程に必要な装置の取得コストだけでなく、装置のメンテナンスに関してもかなりの節約となる。さらに、この参考文献で行われているバイオマス分離工程は、それ自体バイオマスの特性に有害である。
【0013】
特開昭59-039293号公報には、発酵培地の一部を発酵反応器から取り出し、フラッシュ蒸発に付し、発酵反応器に戻すアルコール発酵が記載されている。この参考文献では、バイオマスは担体に固定化されている。バイオマスが担体に固定化されている場合、発酵反応器内の温度は常に不均一であろう。
【0014】
米国特許出願公開第2012/0244587号明細書には、減圧下で発酵を行って、発酵開始時に反応器内に存在する液体の体積の20%以上の量の水を発酵中に蒸発させて反応器から除去することが記載されている。この参考文献には、発酵反応器から発酵培地の一部を取り出して、その流れを、発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して、再循環流の温度が1~8℃低下するように圧力が選択される圧力容器に供給し、その流れを発酵反応器に再循環することは記載されていない。
【0015】
米国特許第4349628号明細書には、揮発性有機成分の生産のための発酵方法であって、発酵培地の一部をセパレーターに連続的に供給して、発酵培地を減圧に付すことによってエタノールその他の揮発性成分を微生物に有害ではない温度で蒸発させ、残りの画分の一部又は全部を発酵槽に再循環する方法が記載されている。この方法の目的は、微生物に有毒となりかねない揮発性成分をシステムから除去することである。反応器に再循環される材料は、微生物の生存に影響しない限り、できるだけ高い温度を有するべきであると記載されている。これは、温度制御を行うために水の沸点よりも沸点の高い生成物の発酵からの水の蒸発を用いる本発明とは異なる。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
添付の図面を参照して本発明について説明するが、本発明は図面によって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1において、発酵プロセスは発酵反応器(1)で行われる。栄養素及び炭水化物源はライン(2)を通して供給することができる。中和用化合物はライン(3)を通して供給することができる。当然ながら、これらのラインを統合してもよいし、或いは栄養素と炭水化物は別々のラインを通して供給することもできる。これらすべての化合物を反応開始時に反応器に添加しておくこともでき、その場合これらのラインはなくてもよい。
【0020】
発酵プロセス中に、バイオマスを含む発酵培地の一部を発酵反応器からライン(4)を通して取り出し、圧力容器(5)に供給する。圧力容器内で水を蒸発させてライン(7)を通して抜き取る。得られた冷却再循環流はライン(6)を通して発酵反応器に再循環される。発酵培地はライン(8)を通して反応器から取り出すことができる。これは、プロセスの構成に応じて、連続的に、間欠的に、或いは発酵完了後1度に行うことができる。
【0021】
本発明に係る方法の第1工程は、発酵反応器内の水性発酵培地中で、炭水化物を発酵生成物に転化することができる微生物を用いて、発酵条件下で炭水化物源を発酵させることであり、発酵生成物は、水の沸点よりも高い沸点を有する塩又は生成物である。発酵生成物の種類は、本発明に係る方法にとって重要ではない。
【0022】
一実施形態では、本発明は、酸の塩を含む生成物を生産するための発酵プロセスに関する。これらの発酵プロセスでは、微生物が酸を産生し、その微生物で必要とされる範囲内にpHを維持するために塩基が発酵培地中に添加されて、酸の全部又は一部がその対応する塩に転化される。
【0023】
本発明に係る方法によって生産することができる酸としては、カルボン酸、特に炭素原子数2~8のモノ-、ジ-及びトリ-カルボン酸からなる群から選択されるカルボン酸が挙げられる。具体例として、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、α-ケトグルタル酸、オキサロ酢酸、酢酸、アクリル酸、フラン-ジカルボン酸(FDCA)、グルコン酸、グリコール酸、マロン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸及び/又はこれらの塩が挙げられる。
【0024】
本発明は、発酵生成物が水中で低い溶解度を有する場合、例えば低溶解度の酸又は塩である場合に、特に魅力的となることがある。本発明は、乳酸マグネシウム及び乳酸カルシウム発酵、特に乳酸マグネシウム発酵に特に魅力的であることが判明した。本発明は、FDCAマグネシウム及びコハク酸マグネシウムにも特に魅力的となることがある。
【0025】
上述の通り、発酵中、酸の生成によってpHが低下する。これに対処し、微生物が機能できる範囲内にpHを維持するため、発酵中に塩基性溶液が通例添加される。好適な塩基性溶液は、(水)酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、(水)酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムの1種以上を含む溶液を含む。塩基の溶解度に応じて、上述の塩基性溶液は、塩基が完全に溶解して、溶液が固体成分を含まないという点で、真の溶液であってもよい。ただし、塩基性溶液は、溶解塩基に加えて固体粒子も含むスラリーであってもよい。本明細書において、溶液という用語は両方の実施形態を包含する。
【0026】
一般に、塩基性溶液は、ブロスのpHを約3~9、特に5.5~約7.0に制御するのに有効な量で添加される。
【0027】
炭化水素源の種類は本発明にとって重要ではない。炭水化物源は、一般に、糖類、(液化)デンプン、液糖、又はチーズホエー、グルコース、フルクトース又はガラクトース、或いはスクロース又はラクトースのような二糖類、バイオ廃棄物、木材、わらなどの植物由来の加水分解物中のヘキソース及びペントースの1種以上を含む。
【0028】
所望の発酵生成物を得ることのできる微生物及び発酵条件を選択することは当業者のなし得る事項の範囲内である。これに関してはこれ以上の説明を要しない。本発明に係る方法は、最適温度が比較的高い微生物を用いる方法で特に魅力的であることが判明した。これらの微生物はユニット内のクールスポットに特に敏感であるからである。さらに、高温で行われる発酵プロセスは、温度暴走に特に敏感であり、制御された冷却を必要とする。したがって、一実施形態では、発酵反応器内の温度は30~65℃の範囲内、特に40~60℃の範囲内である。反応媒体における熱は様々な原因を有する。熱は部分的には微生物自体によっても発生するが、撹拌機やポンプのような機器によっても発生する。熱は中和剤及び供給化合物でも追加される。本発明は、反応器温度の適切な管理を可能にする。
【0029】
本発明の方法は、発酵培地中に存在する発酵生成物の濃度が飽和濃度に近いか又はそれ以上である状況で特に魅力的となることがある。この場合、本発明に係る方法は、固体発酵生成物の制御できない沈殿を招きかねない反応器内の「クールスポット」の存在を防止する。反応器内の「クールスポット」の存在は、熱交換器でのスケール形成、及び/又は不均一な粒径又は結晶特性の沈殿(結晶)固体発酵生成物の生成をもたらしかねない。一実施形態では、発酵培地中の発酵生成物の濃度は、発酵プロセスの稼働時間の少なくとも一部において、飽和濃度の70%超、特に80%超、いくつかの実施形態では90%超である。
【0030】
本発明は、発酵プロセスの稼働時間の少なくとも一部において発酵培地が固体発酵生成物を含むときに特に魅力的である。このタイプの発酵は、例えば制御できない晶出(例えば反応器内のクールスポットでの)に対して特に敏感であるからである。一実施形態では、発酵プロセスの稼働時間の20%以上の期間において、発酵培地は、発酵培地の合計に対する固体発酵生成物として計算して、1体積%以上の量の固体発酵生成物を含有する。
【0031】
ここで、発酵プロセスの稼働時間の開始点は、すべての培地成分が反応器に供給され、発酵培地が所定のpH及び温度のような発酵条件にされ、かつ微生物が反応器に供給された時点である。この時点で、発酵が始まるためのすべての条件が満たされる。発酵プロセスの稼働時間の終点は、生成物の形成が本質的に停止した時点、すなわちg/l・h単位での生産が、プロセス中のg/l.h単位での最大生産値の10%未満となる時点以下である。これは通常炭素源が枯渇したときである。
【0032】
発酵培地中に固体発酵生成物が存在する稼働時間の割合は、個別具体的な発酵に依存し、20%よりもはるかに長くてもよい。一般に、稼働時間の少なくとも一部で固体発酵生成物が存在する場合、稼働時間の比較的長い部分にわたって固体発酵生成物が存在するのが好ましいことがある。この場合、発酵は高濃度発酵である。固体発酵生成物が存在する稼働時間の割合は、40%以上、いくつかの実施形態では60%以上、時には70%以上、いくつかの特定の実施形態では80%以上、さらには90%以上である。
【0033】
固体発酵生成物の量は広い範囲内で変更し得る。固体発酵生成物は、存在する場合には、5%以上、いくつかの実施形態では10%以上の量で存在するのが好ましいことがある。一般的な最大値として50%を挙げることができる。処理の観点から高い濃度では発酵を実施するのが難しくなりかねないからである。固体発酵生成物の量が40%以下、特に35%以下であるのが好ましいことがある。
【0034】
発酵培地中の固体発酵生成物の濃度は、以下の手順で求めることができる。エッペンドルフチューブを用いて、発酵ブロスから1mlの均質試料を採取する。試料を1300rpmで2分間遠心分離する。固体層の体積百分率を視覚的に決定する。
【0035】
この固体層は、固体発酵生成物とバイオマスの両方を含む。バイオマスの量について補償するため、当技術分野で公知の方法でバイオマスの量を別途決定してもよく、例えば、KOHでpH8に調整した0.5NのEDTA溶液中で5体積%に希釈して結晶を除去しておいた発酵ブロス試料の600nmでの光学密度を求めて、その値を標準バイオマス溶液のOD600nmと比較する。固体発酵生成物の体積百分率は、上述の遠心分離手順で得られた百分率からバイオマスの体積百分率を減算することによって求めることができる。
【0036】
発酵は発酵反応器内で実施される。不均一な加熱及び冷却に関連する問題は、大きな反応器容積で実施される発酵に特に関連することが判明した。したがって、一実施形態では、発酵反応器のサイズは、発酵反応器内の発酵培地の体積が100m3以上となるようなものである。もっと大きなサイズの発酵反応器も使用し得る。発酵反応器内の発酵培地の体積は、例えば200m3以上、さらには400m3以上とし得る。一般的な最大値として2000m3を挙げることができる。
【0037】
発酵反応器は、撹拌機又は発酵培地の他の均質化手段のような従来の反応器設備を備えていてもよい。反応器が熱交換器を含んでいないのが好ましいことがある。熱交換器は、均質媒体を得るために行われる混合に支障をきたすおそれがあり、熱交換器を必要としないことが本発明の特徴である。
【0038】
発酵プロセス中、バイオマスを含む発酵培地の一部は、発酵反応器から再循環流の形で取り出される。バイオマスを含む再循環流は圧力容器に供給され、圧力は、再循環流の温度が水分の蒸発によって発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して1~8℃低下するように選択される。冷却された再循環流は発酵反応器に戻される。
【0039】
圧力容器に通すこの再循環工程は、発酵プロセスにおいて発酵培地を均一に冷却することを意図したものである。冷却の程度は、圧力容器における温度低下及び圧力容器を通して再循環される発酵培地の量に依存する。
【0040】
圧力容器は、発酵培地の温度と比較して、再循環流の温度が1~8℃低下するような条件下で操作される。1℃未満の温度低下は低すぎて、有意な冷却をもたらさない。8℃を超える温度低下は、培地に再循環したときに発酵反応器内で不均一な温度プロファイルをもたらすおそれがある。
【0041】
発酵反応器内の発酵培地の好適な温度制御を達成するため、再循環流の温度が発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して2~5℃低下するのが好ましいことがある。圧力容器内での温度低下は水の蒸発によって得られる。所望の温度低下をもたらす圧力条件を選択することは当業者のなし得る事項の範囲内である。
【0042】
なお、本発明におけるように、発酵生成物は水の沸点よりも沸点の高い塩又は生成物であるので、圧力容器内での発酵生成物の蒸発は起こらない。低沸点副生物の蒸発はそれらが生成するときは起こり得るが、圧力容器に通す再循環の目的は温度低下であり、副生物の蒸発ではない。
【0043】
圧力容器の容積は概して発酵反応器の容積に比べて比較的小さい。好ましくは、圧力容器の容積は発酵反応器の容積の0.1~10%である。圧力容器の容積が小さすぎると、適切な冷却を得るのが困難になる。圧力容器の容積が大きすぎると、プロセスに実質的な利益をもたらさずに、装置のコストが上昇する。圧力容器の容積は、例えば0.5~10m3、特に1~5m3とし得る。
【0044】
本発明に係る方法において再循環時間は概して比較的短い。再循環セクションでは微生物は反応器内よりも制御が行き届かない条件下にあるので、再循環時間が短いのが好ましい。より詳細には、発酵反応器からの発酵培地の画分の取り出しと冷却後の反応器への画分の再導入との間の時間として定義される再循環時間は、10分以下、特に5分以下である。再循環時間が長くても何の利点も期待できない。最小再循環時間は装置の正確な構成に依存し、重要ではない。
【0045】
再循環頻度は、必要な温度制御を得るために適合させることができる。再循環頻度は、特に圧力容器の大きさ及び発酵反応器の大きさによって左右される。一実施形態では、再循環頻度は、毎時発酵反応器の容積の0.1~10倍が圧力容器を通して再循環されるように選択される。毎時発酵反応器の容積の0.5~5倍、特に毎時発酵反応器の容積の0.5~2倍を圧力容器に再循環させるのが好ましいことがある。
【0046】
発酵プロセスは、回分法、流加法(fed-batch process)又は連続法とし得る。本発明に係る方法は、回分法、流加法又は連続法とし得る。
【0047】
一実施形態では、本発明に係る発酵方法は回分法である。本明細書において、回分法とは、炭素源を反応開始時に発酵反応器に供給し、プロセスの途中は炭素源を一切(その実質的部分)を添加しないプロセスと定義される。
【0048】
一実施形態では、本発明に係る発酵方法は流加法である。本明細書において、流加法とは、少なくとも炭素源を反応開始時及び反応中に発酵反応器に供給するプロセスであって、所定の終点を有し、それ以降は、例えば不純物の蓄積のため、発酵を継続することができないプロセスと定義される。
【0049】
一実施形態では、本発明に係る発酵方法は連続発酵法である。本明細書において、連続発酵法は、少なくとも炭素源を反応開始時及び反応中に発酵反応器に供給するプロセスであって、決まった終点をもたないプロセスである。一般に、発酵培地の総体積は、ほぼ一定に保たれる。このことは、発酵中に炭素源の添加によって発酵培地の体積が増加することを考慮すると、発酵中に反応器内容物が除去されることを意味する。原理上、連続発酵は無限に実施できるが、装置のメインテナンスのためある時点で停止される。回分発酵、流加発酵及び連続発酵の概念は、当業者に公知である。
【0050】
図1では、冷却工程に必要な装置が発酵反応器に直接接続されている実施形態が示してある。冷却工程に必要な装置を発酵生成物を除去する工程に統合することもできる。
【0051】
このプロセスの一実施形態を
図2に示す。
図2では、発酵プロセスは発酵反応器(1)で行われる。栄養素及び炭水化物源はライン(2)を通して供給することができる。中和用化合物はライン(3)を通して供給することができる。
図1と同様に、これらのラインを統合してもよいし、或いは栄養素と炭水化物は別々のラインを通して供給することもできる。これらすべての化合物を反応開始時に反応器に添加しておくこともでき、その場合これらのラインはなくてもよい。
【0052】
発酵プロセス中に、バイオマスを含む発酵培地の一部は発酵反応器からライン(8)を通して取り出される。ライン(8)は、ライン(81)とライン(82)に分かれる。ライン(81)は圧力容器(5)に通じている。圧力容器(5)内で水を蒸発させてライン(7)を通して抜き取る。得られた冷却再循環流はライン(6)を通して発酵反応器に再循環される。ライン(82)はプロセスから取り出される発酵培地を含む。発酵培地は所望通り処理することができ、例えばバイオマス分離ユニットに供給し、次いで存在する場合には固体発酵生成物の除去のような追加の処理工程、及びその他当技術分野で公知の工程等によって処理することができ、これらについては本明細書ではこれ以上の説明を要しない。
【0053】
したがって、一実施形態では、本発明は、
・発酵プロセス中に、バイオマスを含む発酵培地の流れを発酵反応器から取り出し、
・流れの第1の部分を、該流れの温度が水分の蒸発によって発酵反応器内の発酵培地の温度と比較して1~8℃低下するように圧力が選択される圧力容器に供給し、生成した流れを発酵反応器に再循環し、
・流れの第2の部分は圧力容器に供給されない
方法に関する。
【0054】
上述の通り、流れの第2の部分は所望通り処理することができる。この実施形態は、プロセスが連続的に行われる場合に特に魅力的である。
【0055】
発酵プロセスの生成物は発酵ブロスであり、これは、発酵生成物、バイオマス、及び任意には糖類、タンパク質及び塩などの不純物のような追加の成分を含む水性液体である。
【0056】
所望であれば、発酵ブロスは追加の処理の前に、バイオマス除去工程、例えば濾過工程に付してもよい。これは生成物の品質向上のために概して好ましい。生産される発酵生成物に応じて、別の中間工程は、バイオマス除去の前、後、又は同時に、発酵ブロスからの固体発酵生成物(例えばカルボン酸マグネシウム)の分離であり、任意には発酵生成物の洗浄工程に付してもよい。
【0057】
産生される発酵生成物に応じて、別の中間工程は、追加の処理の前に、組成物中の発酵生成物の濃度を増加させる濃縮工程に発酵ブロスを濃縮工程に付すことである。この工程は、バイオマス除去の前、後、又は同時に実施することができる。
【0058】
当業者には明らかであろうが、他の中間工程、例えば精製工程を所望に応じて実施してもよい。
【0059】
発酵生成物がカルボン酸の塩である場合、次の工程はカルボン酸の塩を酸性化工程に付してカルボン酸の塩をカルボン酸に転化することとし得る。この工程では、カルボン酸の塩を無機酸と接触させて、カルボン酸と、カルボン酸塩のカチオン及び無機酸のアニオンから得られる塩とを含む水性混合物を形成する。好適な無機酸の具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸及びリン酸が挙げられる。
【0060】
この工程を実施できる様々な方法が存在する。
【0061】
酸性化工程は、典型的には、カルボン酸塩を無機酸の溶液と接触させることによって行われる。ただし、塩酸を使用する場合、カルボン酸塩を気体状HClと接触させることもできる。
【0062】
カルボン酸塩は、固体の形態及び/又は溶解した形態である。一実施形態では、カルボン酸塩は固体形態で供給される。この場合、酸性化工程は、カルボン酸塩を酸性溶液と接触させることによって行われる。固体形態のカルボン酸塩から水性混合物を調製することの利点は、非常に高いカルボン酸濃度、例えば15重量%以上、特に25重量%以上、例えば最大50重量%又は40重量%の濃度のものが得られることである。
【0063】
カルボン酸塩は溶解した形態であってもよく、典型的には水溶液の一部として存在し得る。この場合、酸性化工程は、カルボン酸塩を酸性溶液又は酸性ガスと接触させることによって行うことができる。
【0064】
酸性化工程は、カルボン酸とカルボン酸塩との混合物でも実施できる。かかる混合物は、例えば低pH発酵で得ることができる。混合物は例えば水性懸濁液であってもよい。
【0065】
カルボン酸塩の酸性化を無機酸の溶液との接触によって行う場合、できるだけ酸濃度が高いことが好ましい。そうした高い酸濃度は、カルボン酸濃度の高い水性混合物をもたらし、望ましい。したがって、酸性溶液は、酸性溶液の総重量に基づいて、5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、さらに一段と好ましくは20重量%以上の酸を含む。
【0066】
酸性化は通常、過剰の酸を用いて行われる。過剰量は、得られる水性混合物の酸性度が高くならないように好ましくは小過剰であり、酸性度が高いとかかる混合物の追加の処理の点で望ましくないことがある。例えば、酸の過剰量は、得られる水性混合物のpHが2以下、好ましくはpH0~1となるようなものとし得る。
【0067】
気体状HClを使用する場合、カルボン酸塩溶液又は懸濁液と接触させればよい。具体的には、HClガスを溶液又は懸濁液に吹き込んでもよい。
【0068】
好ましくは、酸性化は75℃以下の温度で行われる。温度が高いと、高温の酸性環境という過酷な条件に機器を適合させるのが不経済となる。
【0069】
カルボン酸の塩を無機酸と接触させる代わりに、例えばカルボン酸塩の溶液を例えばイオン交換カラム内のイオン交換樹脂と接触させることによってカルボン酸の塩を酸に転化することもできる。擬似移動床クロマトグラフィーの原理を用いて或いはカルボン酸塩の溶液を電気透析に付すことによって、カルボン酸の塩をカルボン酸に転化することもできる。
【0070】
酸性化工程は、カルボン酸と塩とを含む水性液体の形成をもたらす。この水性液体は、任意には濃縮工程のような中間処理工程を行った後で、分離工程に付される。
【0071】
好適な分離工程は当技術分野で公知である。使用すべき工程の種類は、酸の種類及び性質に依存する。
【0072】
カルボン酸が水性液中で全体的又は部分的に固体として存在する場合、分離は、濾過、遠心分離等の慣用の固液分離法を用いて行うことができる。
【0073】
カルボン酸が水性液中で全体的又は部分的に別個の有機相として存在する場合、分離は、デカンテーション、沈降、遠心分離、プレートセパレーターの使用、コアレッサーの使用及びハイドロサイクロンの使用等の慣用の液液分離法を用いて行うことができる。分離効率を高めるため抽出溶媒を添加してもよい。様々な方法及び装置の組合せも使用し得る。
【0074】
カルボン酸が水性液中に溶解して存在する場合、分離は、好適な抽出溶媒による抽出等を用いて行うことができる。
【0075】
本発明に係るプロセスに抽出溶媒が存在する場合、抽出溶媒(抽出剤ということもある。)は水と実質的に混和しない。抽出溶媒の使用は、分離工程で、抽出溶媒及びカルボン酸を含む液体有機層と、塩化マグネシウムが溶解した水層とを含む二相系の形成をもたらす。
【0076】
好適な抽出溶媒の具体例は、アルカン類、芳香族化合物、ケトン類及びエーテル類のような脂肪族及び芳香族炭化水素である。各種化合物の混合物も使用し得る。
【0077】
好適な脂肪族アルカンの具体例は、C5~C10直鎖、分岐鎖又は環状アルカン類、例えばオクタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2-エチル-ヘキサン及びヘプタン等である。
【0078】
好適な芳香族化合物の具体例は、C6~C10芳香族化合物、例えばトルエン、キシレン及びエチルベンゼン等である。
【0079】
好適なケトン類の具体例は、C5+ケトン類、本発明では特にC5~C8ケトン類である。C5+は炭素原子数5以上のケトンを表す。C9+ケトンの使用はあまり好ましくない。メチルイソブチルケトン(MIBK)の使用が特に魅力的であることが判明した。
【0080】
好適なエーテル類の具体例は、C3~C6エーテル類、例えばメチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)及びジエチルエーテル(DEE)等である。
【0081】
抽出後、カルボン酸は所望により抽出溶媒から分離することができる。一実施形態では、これは、抽出溶媒を蒸発によって除去することによって行うことができる。別の実施形態では、カルボン酸は、水その他の水性液での抽出によって抽出溶媒から回収できる。
【0082】
塩からカルボン酸を分離した後、カルボン酸は所望に応じて処理することができる。追加の処理工程の具体例は、洗浄、活性炭処理、再結晶、蒸留及び濾過のうちの1以上のような精製工程である。カルボン酸が乳酸である場合、ラクチド及びPLAに転化し得る。
【0083】
当業者には明らかであろうが、本発明の様々な態様に関する選択は、それらが互いに相容れない場合を除き、互いに組み合わせることができる。
当業者には明らかなように、本発明の、様々な態様に対する選択は、それらが互いに排他的でない限り、組合せることができる。
【0084】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
乳酸発酵は、発酵ブロスを冷却するため20L圧力容器を連結した300L容器内で実施した。水酸化マグネシウム溶液を用いてpHを制御した。発酵中、1.2m3/hの一定の再循環を適用した。再循環流を140mbarの真空圧に付したところ、発酵ブロスに十分な冷却をもたらした。液体は発酵ブロスに再循環し、凝縮物は廃棄した。再循環流の温度は、発酵容器内の発酵ブロスの温度よりも2.5℃低かった。発酵容器内のブロスの温度は、所望の温度に±0.1℃の変動で制御された。発酵反応器からの発酵培地の画分の取り出しと該画分の反応器への再導入との間の時間として定義される再循環時間は1分程度であった。
【0086】
本実施例は、圧力容器内での蒸発による再循環流の制御された温度での本発明の再循環操作によって、発酵容器内のブロスの温度を所望の温度に±0.1℃の変動で制御できることを示す。