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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】往復動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20220303BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
F04B39/00 107J
F04B39/00 104D
F16J9/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019533887
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012142
(87)【国際公開番号】W WO2019026335
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2017147363
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 光
(72)【発明者】
【氏名】大畠 瑛人
(72)【発明者】
【氏名】池田 英明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 亨
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-128276(JP,U)
【文献】特開昭59-136586(JP,A)
【文献】特開昭56-020862(JP,A)
【文献】特開2006-283643(JP,A)
【文献】特開2014-214695(JP,A)
【文献】米国特許第03176595(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F16J 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
シリンダヘッドと、
モータにより往復動するコンロッド部と、前記コンロッド部に取り付けられたピストン部と、前記ピストン部に取り付けられたリテーナとを備えたロッキングピストンと、
前記ピストン部と前記リテーナとの間に挟まれた取付部と、前記取付部から前記リテーナ側に伸びるリップ部と、前記取付部から前記ピストン部側に伸びるスカート部が形成され、前記ロッキングピストンと前記シリンダの間をシールするリップリングと、を有し、
前記リップ部と前記スカート部は、一体に形成され、
前記リップリングの外周面は平坦であり、
前記リップ部および前記スカート部の外径は前記シリンダ内径より大きく、
前記リップリングに摩耗が生じた場合には前記リップリングを上下反転させて取り付けることを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の往復動圧縮機において、
前記ピストン部と前記リテーナの径方向長さが異なっており、
前記リップ部と前記スカート部の厚みが異なっていることを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の往復動圧縮機において、
前記ピストン部は前記リテーナよりも径方向長さが短く、
前記スカート部の径方向の厚みは前記リップ部よりも厚いことを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項4】
請求項1に記載の往復動圧縮機において、
前記スカート部の径方向の厚みは前記リップ部よりも薄いことを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項5】
請求項1に記載の往復動圧縮機において、
前記取付部から伸びる前記リップ部と前記スカート部の長さを同じくしたことを特徴とする往復動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロッキングピストンを備えた往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロッキングピストンを備えた往復動圧縮機として特許文献1がある。
【0003】
特許文献1の段落番号0026には「さらに、高圧側リップリング425の屈曲部425bの下方には、サポートリング426が配設されている。図8にサポートリング426の外観斜視図を示す。サポートリング426は、図8に示すように環状に形成され、下方向の圧力による高圧側リップリング425の変形を抑えるように高圧側リップリング425(特に屈曲部425b)を支持するものである。また、サポートリング426は、高圧側コンロッド423の上部に環状に形成された段差部423bに配設される。」と記載されている。
【0004】
また、同公報段落番号0042には、「また、上記の実施形態において、高圧側リップリング425とサポートリング426とは別部品として構成されている。このように別部品として構成されることは、製造や部品交換が容易であるといった面から好ましいが、一体として構成されてもよい。具体的には、例えば図10(b)に示すように、高圧側リップリング625は、上記の実施形態と同様の平板部625a、屈曲部625b、当接部625cとともに、支持部625dが一体として形成されていてもよい。支持部625dは、屈曲部625bの下側に形成され、下方向の圧力による高圧側リップリング625の屈曲部625bの変形を抑えるように高圧側リップリング625の屈曲部625bを支持する。このように、高圧側リップリング425とサポートリング426とを一体に構成することで、部品点数を少なくすることができる。」と記載され、さらに同公報段落番号0043には、「また、上記の実施形態において、サポートリング426の外周部は高圧側シリンダ421の内周面と略平行となるように形成されているが、サポートリング426の外周部の形状はこれに限られない。例えば、図10(c)に示すように、サポートリング726の外周部を外径方向に凸形状となるような円弧状に形成してもよい。これにより、サポ-トリング726の磨耗を防止することが可能となる。これは、図7に示すようにサポートリング426の外周部が高圧側シリンダ421の内周面と略平行である場合、高圧側ピストン422が傾くことで、同時にサポートリング426も傾き、サポートリング426の外周上部426cや外周下部426dが高圧側シリンダ421に強く接触する為である。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5740863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献1の図10(b)のリップリングはサポートリングと一体化されている。ここで、リップリングだった部分をリップ部とサポートリングだった部分をスカート部と呼ぶものとする。上述のように、同公報段落番号0043では、スカート部を外径方向に凸形状となる円弧状に形成することにより、サポ-トリング726の磨耗を防止することが可能となるとしているが、これだけではスカート部の摩耗代が少ない。揺動による圧力はリテーナの上面(圧縮室側)外周やリテーナとの接続近傍の高圧側コンロッド423の外周部下側など、最もシリンダに近くなる位置に集中する。特許文献1の図10(c)構造を、左右10度摺動した状態を図2に示す。(A)が左に10度傾斜した状態である。最もシリンダに近くなる位置は高圧側コンロッド423の段差部423bの下部である。(B)が右に10度傾斜した状態である。さらに、大きく傾斜した場合も同様であるが、最もシリンダに近くなる位置は高圧側コンロッド423の段差部423bの下部である。つまり、特許文献1のサポ-トリング726は、揺動に対しては点線右側の部分(先端部分)しか機能しておらず、特に(A)の場合、すぐに摩耗して接触してしまうことは明らかである。
【0007】
また、特許文献1の図10(b)及び(c)の構造はリップ部の底面部に近いR部においてより集中的に摩耗する構造になっている。
【0008】
このように、ロッキングピストンを備えた従来の往復動圧縮機における摩耗による部品交換頻度が高くなっていた。
【0009】
本発明の目的は、ロッキングピストンを備えた往復動圧縮機の部品交換頻度を減らすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ロッキングピストンを備えた往復動圧縮機において、ロッキングピストンはロッド部、ピストン部及びリテーナを備え、さらに、リテーナの外周部とシリンダの間に配置されるリップ部とピストン部の外周部とシリンダとの間に配置されるスカート部とを備えたリップリングを有し、ロッキングピストンの最外周部とシリンダの間にリップリングを配置するか、ロッキングピストンが揺動時に最もシリンダに近接するロッキングピストンの外周部にリップリングを配置する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロッキングピストンを備えた往復動圧縮機の部品交換頻度を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る圧縮機本体の断面図である。
図2】特許文献1の図10(c)構造を、左右10度摺動した状態を示す図である。
図3】実施例1の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図である。
図4】実施例1のリップリング13の揺動中の状況を示す図である。
図5】実施例2の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図である。
図6】実施例3の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ロッキングピストン機構を採用した往復動圧縮機において、ロッキングピストンの最外周部とシリンダの間にリップリングを配置するか、ロッキングピストンが揺動時に最もシリンダに近接するロッキングピストンの外周部にリップリングを配置する。
【0014】
上記構造を採用することで、ロッキングピストンとシリンダが最も接触しやすい場所を直接的にカバーできているので、摩耗代を大きくとることができる。そのため、リップリングの寿命が延び、部品交換頻度を減らすことができている。
【0015】
また、リップリングのリップ部とスカート部がその外周部で平坦になっている場合、接触するリップリング外周部の面積が大きくなり、面圧が低減でき、さらに、リップリングの摩耗を低減することができる。
【0016】
以下、本発明におけるリップリング形状について、図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明に係る圧縮機の構造について、図1を用いて説明する。
【0018】
図1は実施例1に係る圧縮機本体の断面図である。モータと圧縮部を一体に形成した圧縮機を図示している。
【0019】
1は駆動源としての電動モータ(モータ部)で、駆動軸2と一体に形成されているロータ3、ステータ4、モータコイル5、モータハウジング6を備えている。
【0020】
モータコイル5に給電することにより駆動軸2は回転する。駆動軸2は、モータハウジング6の外部へ貫通している。モータハウジング6の外部において駆動軸2には、キー溝7が設けられている。そのキー溝7にキー8が入りモータの回転力をエキセントリック9に伝えている。エキセントリック9にベアリング10を介してロッキングピストン11が取付けられている。ロッキングピストン11は、エキセントリックに取り付けられたコンロッド部11A、コンロッド部11Aの先端(上面)に取り付けられたピストン部11B、ピストン部11Bの上に取り付けられたリテーナ11Cがある。ピストン部11Bとリテーナ11Cとの間でリップリング13が挟み込まれ固定されている。リップリング13は、シリンダ14内部の気密性を高めるために、ロッキングピストンの揺動に追従して動くことのできるように、径方向の厚みが設定されている。15は、電動モータ1によって駆動される圧縮部を覆うクランクケースである。クランクケース15の上部にシリンダ14、吸込み弁16Aと吐出し弁16Bを有する空気弁組16、吐出し口17と吸込み口18を有するシリンダヘッド19が取付けられ、圧縮部を構成している。
【0021】
ここで、本実施例における圧縮部の動作について説明する。モータ1の駆動軸が回転すると、ロッキングピストン11のコンロッド部11Aが回転運動を往復運動に変え、ピストン部11Bとリテーナ11Cがシリンダ14内を往復動する。圧縮部における圧縮工程では、シリンダヘッド19に設けた外気吸込み口18より外気を吸込む。吸込んだ外気は上述の空気弁組16の有する吸込み弁16Aを通過しシリンダ14内へ入る。吸込んだ外気をシリンダ14内にて圧縮し、上述の空気弁組16の有する吐出し弁16Bを通過し、上述のシリンダヘッド19の有する吐出し口17より圧縮空気として取り出す。取り出された圧縮空気は貯留タンク等に貯留される。
【0022】
次に、本実施例における圧縮部のリップリングについて図3図4を用いて説明する。
【0023】
図3は実施例1の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図である。図4は、実施例1のリップリング13の揺動中の状況を示す図である。
【0024】
リップリング13は樹脂材料でリング状に形成されている。また、リップリング13は取付部13A、リップ部13B、スカート部13Cを備えている。取付部13Aは、ロッキングピストン11のピストン部11Bとリテーナ11Cとの間に挟まれ、ボルトの締結によって固定されている。
【0025】
リップ部13Bは、取付部13Aからリテーナ11C側(上側)に伸びている。スカート部13Cはリテーナ11Cには固定されておらず、外側に傾いた状態となる。
【0026】
スカート部13Cは、取付部13Aからピストン部11B側(下側)に伸びている。ピストン部11Bはリテーナ11Cには固定されておらず、外側に傾いた状態となる。
【0027】
これらリップ部13B及びスカート部13Cはシリンダ14の内周面に締代をもって摺接している。なお、揺動運動に追従しやすくすることと、リップリング13とシリンダ14とのシール性を確保するため、リップ部13B及びスカート部13Cの外径はシリンダ内径より大きくなっている。
【0028】
また、揺動時にスカート部13Cよりもリップ部13Bが摩耗しやすいため、本実施例では、ピストン部11Bの外周側面がリップリング13で覆われている。そのため、リップリングのリップ部13Bが摩耗・破断しても、スカート部13Cが残るので、ピストン部11Bとシリンダ14の直接の接触にはすぐには至らず、大きな損傷になりにくくなっている。
【0029】
また、摩耗が生じた場合、リップリング13を上下反転(裏返して)させて取り付けるようにすれば、通常新品に交換していたリップリング13を再利用できる。これによって、一つのリップリングに対する寿命の長期化を図るとともに、メンテナンスの面(新品の部品費やメンテナンスサイクルの縮小)において、効果が得られる。このような使い方をする場合、取付部13Aからの伸びる長さも同じにすることが当然好ましい。長さが等しければ、組み付け時の取付けの方向性を配慮せずに済むため、組み付けミスのポテンシャルを下げることができる。
【0030】
また、本実施例のリップリング13のリップ部13B及びスカート部13Cは一体である。したがって、シリンダ14との接地面が増加するため、面圧が低減され、リップ部13Bの摩耗量が低減できている。また、その間に継ぎ目や段差(例えば、特許文献1の425と426の間の隙間やR部)がなく、その外周部(側面)は平坦になっているので、局所的な応力集中がなく、応力が広く分散されるようになっている。
【実施例2】
【0031】
実施例2の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図を図5に示す。実施例1のリップリング形状と比較して、揺動方向におけるリップリング13のスカート部13Cがリップ部13Bと比べて厚く(径方向への厚み)なっている点と、揺動方向におけるロッキングピストン11のピストン部11Bの外径をリテーナ11Cの外径よりも小さくなっている点に特徴がある。
【0032】
実施例1において前述した通り、圧縮時高圧な気体による圧力とシリンダとの摩擦力によって、リップリングが変形してしまうことがある。変形を防止するためには、リップリング自体の強度の向上が必要となる。しかし、リップ部13Bは追従性を損ねないためにも、従来通りとすることが好ましい。そこで、強度向上をスカート部13Cの厚さで補う。スカート部13Cをリップ部13Bよりも厚くすることで、シール特性に影響がある追従性を確保しつつ、揺動には大きな影響がない程度にリップリング強度を増している。
【0033】
なお、スカート部13Cを厚くしても追従性が必要なため、揺動方向におけるロッキングピストンのピストン部11Bをリテーナ11Cよりも外径を小さくしている。
【実施例3】
【0034】
実施例3の往復動圧縮機におけるロッキングピストン11のピストン部11B周辺の断面図を6に示す。
【0035】
実施例1のリップリングと比較して、リップリング下側のスカート部13Cをリップ部13Bと比べて薄くしている点に特徴がある。
【0036】
一方で、スカート部13Cの追加によって揺動時にスカート部がシリンダに接触するため抵抗となり機械損失が生まれる。スカート部の厚みが増すことで、強度は増していくが、機械損失も大きくなっていく。
【0037】
しかし、図6のようにスカート部13Cが薄くなることによって、剛性が実施例1、2に比べ小さくなるため、揺動時、スカート部13Cがシリンダに沿って動く際の抵抗が少なくなり、機械損失が低減される。また、ピストン部11Bとの隙間が実施例1、2に比べ、大きくなるため、スカート部13Cの自由度が増し、揺動に対する追従性がよくなり、実施例1、2よりも、揺動に対して抵抗が少なく動きを阻害しない。
【符号の説明】
【0038】
1 電動モータ(モータ部)
2 駆動軸
3 ロータ
4 ステータ
5 モータコイル
6 モータハウジング
7 キー溝
8 キー
9 エキセントリック
10 ベアリング
11 ロッキングピストン
11A コンロッド部
11B ピストン部
11C リテーナ
13 リップリング
13A 取付部
13B リップ部
13C スカート部
14 シリンダ
15 クランクケース
16 空気弁組
16A 吸込み弁
16B 吐出し弁
17 吐出し口
18 吸込み口
19 シリンダヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6