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特許7033601抗コチニンキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】抗コチニンキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220303BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220303BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220303BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220303BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220303BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220303BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220303BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220303BHJP
   C07K 16/44 20060101ALN20220303BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17 A
A61P35/00
A61K39/395 D
C12N5/0783
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/44
C07K14/705
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019536865
(86)(22)【出願日】2018-01-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 KR2018000310
(87)【国際公開番号】W WO2018128485
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2019-09-10
(31)【優先権主張番号】10-2017-0001951
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0001976
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500197682
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】519001383
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】チェ・インピョ
(72)【発明者】
【氏名】キム・テドン
(72)【発明者】
【氏名】イ・スウィ
(72)【発明者】
【氏名】イ・スヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ジュノ
(72)【発明者】
【氏名】キム・ギヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ヒョリ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/030414(WO,A1)
【文献】特表2014-517819(JP,A)
【文献】特表2011-509084(JP,A)
【文献】国際公開第2016/123333(WO,A1)
【文献】特表2014-504294(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030370(WO,A1)
【文献】Cancer Res.,2013年,Vol. 73, No. 6,pp. 1777-1786
【文献】PLOS ONE,2013年,Vol. 8, Issue 5,e63037 (pp. 1-10)
【文献】Angewandte Chemie International Edition,2016年,Vol. 55,pp. 7520-7524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/10-7/08
C07K 1/00-19/00
A61K 35/00-35/768
A61K 36/06-36/068
A61K 38/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞であって、
該キメラ抗原受容体は、1)抗原結合ドメイン、2)膜貫通ドメイン、および3)細胞内シグナル伝達ドメインを含み、
該抗原結合ドメインはコチニンに特異的に結合するドメインであり、
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、DAP10およびCD3ζを含み、
前記抗原結合ドメインが、コチニンに特異的に結合する抗体または抗体フラグメントであり、及び
前記抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号2のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、
ナチュラルキラー細胞。
【請求項2】
前記抗体フラグメントがscFvである、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項3】
前記抗体または抗体フラグメントがリンカーをさらに含む、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項4】
前記リンカーが、配列番号3のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項5】
前記抗原結合ドメインが前記膜貫通ドメインに、ヒンジ領域、スペーサー領域またはそれらの組み合わせによって連結されている、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項6】
前記ヒンジ領域、スペーサー領域またはそれらの組み合わせが、Mycエピトープ、CD8ヒンジ領域、およびFcから選択される少なくとも1つである、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項7】
前記膜貫通ドメインが、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137およびCD154からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の膜貫通ドメインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインが、CD28の膜貫通ドメインを含む、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項9】
前記抗原結合ドメインがシグナルペプチドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項10】
前記シグナルペプチドが、CD8αまたはマウス軽鎖κシグナルペプチドである、請求項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項11】
前記コチニンが、結合物質とコンジュゲートした複合体の形態である、請求項1~10のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項12】
前記結合物質が、ペプチド、アプタマー、ホルモン、タンパク質および化学物質からなる群から選択される、請求項11に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞を含む、細胞療法剤。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞を活性成分として含む、癌の予防または治療用の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞を含む、癌の診断用の医薬組成物。
【請求項16】
対象から単離されたサンプルに接触させる、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
癌の予防または治療用医薬を製造するための、請求項1~12のいずれか一項に記載のナチュラルキラー細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コチニンに特異的に結合する抗コチニンキメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞、およびそれを含む細胞療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療方法は、数十年の間に着実に変化し進化している。1800年代から1900年代にかけては、手術、化学療法および放射線療法のような方法が主に用いられたが、その限界が見え始めた。最も典型的には、それまでの治療法は、転移を起こしていない初期の癌にのみ効果的であり、転移がすでに起こっている症例では、手術を行っても再発の可能性が高い。また、化学療法は固形腫瘍においては治療効果が低く、癌細胞以外の正常細胞の増殖をも阻害する副作用をもたらすことが報告されている。そのような問題を克服するために、最近は、抗癌免疫療法についての研究が盛んに行われている。抗癌免疫療法とは、患者自身が癌細胞と闘うことができるように、増強された免疫反応をもたらすことを指す。
【0003】
最近は、体内の免疫細胞を取り出し、強化または遺伝子改変して体内に戻す免疫細胞療法である細胞療法に対する関心が高まっている。その典型的な例には、腫瘍浸潤リンパ球法(TIL)、キメラ抗原受容体法(CAR)、およびT細胞受容体法(TCR)がある。それらのうち、遺伝子組換え/改変によって得られる人工受容体CARを用いる研究が盛んに行われている。
【0004】
キメラ抗原受容体(CAR)は、抗原を特異的にT細胞に導くよう設計された人工受容体である。そのような受容体は、抗原特異的成分、膜貫通成分、およびT細胞を活性化し特異的免疫を提供するよう選択された細胞内成分を含む。キメラ抗原受容体発現T細胞は、癌治療を包含するさまざまな治療において用いられうる。
【0005】
CAR-Tのような治療剤は、腫瘍に対して有効である。しかしながら、そのような治療法は、部分的な、健常組織に対する非特異的攻撃により、副作用を引き起こす場合がある。この問題を克服するために、第3世代CAR-Tの研究が現在行われており、そのような研究は、正常細胞攻撃の副作用を最小限にするために「癌細胞抗原認識能」を高めるよう、共刺激シグナルおよび人工受容体(さらなる改変受容体)として機能する2つのシグナルドメインを付加することによって特徴付けられる。それでもなお、CAR-T細胞療法剤の開発は、次のような問題に直面している:現在のCAR-T法における制約として、CAR-Tは癌細胞において発現される1つのタンパク質のみを認識するように作られるので、個々の療法剤の開発には多大な費用が掛かる;一旦CAR-Tが輸注されると、癌細胞が除去された後も、傷害性T細胞は機能し続け傷害性を発揮し続ける;さらに、標的タンパク質を提示する正常細胞が存在する場合に、CAR-Tはそれに対する非特異的攻撃を誘導して、回復不可能な致命的副作用を引き起こす。
【0006】
したがって、上記の問題を解決することのできる改善された新たな細胞療法剤についての研究は喫緊に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の療法剤における課題を解消するための研究の結果、本発明者は、コチニンに特異的に結合する抗原結合ドメインを用いるキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞を作製した。それにより本発明者は、該ナチュラルキラー細胞が、既存のCAR-T療法剤における課題の解決を可能にし、またそれと同時に、多目的の療法剤の容易な開発を可能にすることを確認して、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の課題は、コチニンに特異的に結合する抗原結合ドメインを発現するナチュラルキラー細胞を利用する細胞療法剤、およびそれを用いる癌の処置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞において、キメラ抗原受容体は、1)抗原結合ドメイン、2)膜貫通ドメイン、および3)細胞内シグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインはコチニンに特異的に結合するドメインである、ナチュラルキラー細胞を提供する。
【0010】
本発明はさらに、該ナチュラルキラー細胞を含む細胞療法剤を提供する。
【0011】
本発明はさらに、該ナチュラルキラー細胞を有効成分として含む、癌の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明はさらに、該ナチュラルキラー細胞を対象に投与するステップを含む、癌を予防または治療する方法を提供する。
【0013】
本発明はさらに、該ナチュラルキラー細胞を有効成分として含む、癌の診断用の医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに、該ナチュラルキラー細胞を含む、癌診断用キットを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコチニンに特異的に結合するキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞は、コチニンにコンジュゲートした結合物質に応じて、癌の種類を問わず腫瘍組織に効果的に赴くことができる。したがって、本発明のナチュラルキラー細胞は、高い有効性で抗癌作用を示す遺伝子療法として有用でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1に、本発明において使用されるpLVX-AcGFP-C1ベクターを示す。
図2図2に、コチニン特異的CAR-NK細胞、およびコチニンコンジュゲートの例を図示する。
図3図3に、コチニン特異的CAR-NK細胞であるCot-CAR-NK細胞の作用を示す。
図4図4に、本発明において使用される特定の関連する配列を示す。
図5図5に、抗コチニンキメラ抗原受容体およびその発現系の例を図示する。
図6図6に、NK92細胞におけるCARの発現をフローサイトメトリーにより測定することにより得られた結果を示す。
図7図7に、本発明のコチニン-CAR NK92の、AU565細胞に対する細胞傷害作用を確認する結果を示す。
図8図8に、さまざまな癌細胞について、Her2発現レベルをフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
図9図9に、Her2-コチニンコンジュゲートの存在または不存在に依存する、本発明のコチニン-CAR NK92細胞の細胞傷害作用を、カルセイン-AM法により確認する結果を示す。
図10図10に、コチニン-CAR NK92細胞におけるサイトカイン分泌レベルをELISAにより確認する結果を示す。
図11図11に、細胞におけるCD107a発現レベルをフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
図12図12に、コチニン-CAR NK92の細胞内ドメインにおけるErkリン酸化をフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
図13図13に、コチニン-CAR NK92細胞の細胞傷害作用をカルセイン-AM法により確認する結果を示す。
図14図14に、AU565、SK-OV-3、A431およびA459細胞におけるHer2およびEGFRの発現レベルをフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
図15図15に、コンジュゲートの存在または不存在に依存するコチニン-CAR NK92の細胞傷害作用をカルセイン-AM法により確認する結果を示す。
図16図16に、癌細胞に対するコチニン-CAR NK細胞およびコンジュゲートによる処理に依存するサイトカイン分泌の変化をELISAにより確認する結果を示す。
図17図17に、AU565細胞に対するCD107aの発現レベルをフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
図18図18に、A431細胞に対するCD107aの発現レベルをフローサイトメトリーにより確認する結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、以下、詳細に説明する。
本発明は一側面において、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞において、該キメラ抗原受容体が、1)抗原結合ドメイン、2)膜貫通ドメイン、および3)細胞内シグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、コチニンに特異的に結合するドメインである、ナチュラルキラー細胞を提供する。
【0018】
本発明のコチニンに特異的に結合するキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞は、コチニンにコンジュゲートする結合物質に応じて、癌の種類を問わず腫瘍組織に効果的に赴くことができる。したがって、本発明のナチュラルキラー細胞は、高い有効性で抗癌作用を示す遺伝子療法として有用でありうる。
【0019】
本発明のキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞は、コチニンへの特異的結合によって特徴付けられるので、該細胞は、コチニンに特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。
【0020】
抗原結合ドメインは、コチニンに特異的に結合する抗体または抗体フラグメントでありうる。本発明のキメラ抗原受容体発現NK細胞は、コチニンを融合したコンジュゲートと共に、癌治療のために患者に投与しうる。
【0021】
特に、本発明のキメラ抗原受容体発現ナチュラルキラー細胞(CAR-NK細胞)は、永続的な傷害性、自己免疫疾患のリスク、異種細胞移植による移植片対宿主疾患(GVHD)、および標的化されない傷害性といった、既存のCAR-T療法剤を用いる癌免疫療法における課題を、反応オン/オフスイッチによって解決できるだけでなく、さまざまな癌細胞を標的とすることができ、したがって多目的の処置剤として使用しうる点でも有利である。本発明のCAR-NK細胞は、同種異系移植が可能であるので、患者自身の免疫細胞を用いるCAR-Tとは対照的に、有効性の高い細胞を予め作製しておくことができる。したがって、本発明のCAR-NK細胞は、処置剤投与の時期を短縮して処置効率を高めるだけでなく、開発および処置の費用を低減することによって、多様な疾患のための処置剤の開発のために有用でもありうる。
【0022】
本書において「抗体」とは、免疫系において抗原による刺激によって産生される物質を指し、その種類は特に限定されない。さらに、本書において抗体は、それに限定されないが、抗原結合能を維持する抗体のフラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab’)2およびFvを包含する。
【0023】
本書において「キメラ抗体」とは、その可変領域および相補性決定領域(CDR)が、それ以外の抗体領域とは異なる動物に由来する抗体を指す。そのような抗体は、例えば、可変領域がヒト以外の動物(マウス、ウサギ、および家禽)に由来し、定常領域がヒトに由来する抗体でありうる。そのようなキメラ抗体は、当分野で知られる方法、例えば遺伝子組換えによって作製しうる。
【0024】
本書において「重鎖」とは、完全長の重鎖およびそのフラグメントの両方を指し、ここで、完全長の重鎖は、抗原に対する特異性を持つのに十分な可変領域のアミノ酸配列を有する可変領域ドメインVH、ならびに3つの定常領域ドメインCH1、CH2およびCH3を含む。
【0025】
本書において「軽鎖」とは、完全長の軽鎖およびそのフラグメントの両方を指し、ここで、完全長の軽鎖は、抗原に対する特異性を持つのに十分な可変領域のアミノ酸配列を有する可変領域ドメインVL、および定常領域ドメインCLを含む。
【0026】
本発明のキメラ抗原受容体を構成する抗原結合ドメインとは、細胞膜の外側に位置して特異的抗原を持つ標的細胞の細胞膜リガンド(受容体に結合し、それを活性化する物質)を認識する、そこで主要なシグナルが変換される部位を指す。
【0027】
本発明の膜貫通ドメインは、細胞膜を横切って、抗原結合ドメインを共刺激ドメインおよび必須のシグナル伝達ドメインに連結する部位である。この細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原結合ドメインの結合によりNK細胞の免疫応答を活性化する部位である。
【0028】
本発明のキメラ抗原受容体は、その抗原結合ドメインがコチニンに特異的に結合することによって特徴付けられ、コチニンとは、下記式1で示される構造を有する、ニコチンの主要な代謝産物を指す:
【化1】
【0029】
コチニンは好ましくは、結合物質とコンジュゲートされたコンジュゲートであり、結合物質は、ペプチド、アプタマー、ホルモン、タンパク質および化学物質からなる群から選択されることによって特徴付けられうる。結合物質は、より好ましくはアプタマーであるが、それに限定されない。
【0030】
本発明において、コチニンをコンジュゲートするコンジュゲートを作製するのに、少なくとも1つのポリペプチド、典型的には1つのポリペプチドを、異種構造分子としての少なくとも1つの非ポリペプチド部分、例えばポリマー分子、親油性化合物、炭水化物部分、または有機誘導体化剤、特にポリマー部分に、共有結合により結合させることができる。さらに、コンジュゲートは、少なくとも1つの炭水化物部分に、特にN-またはO-グリコシル化によって、結合させることができる。共有結合による結合とは、ポリペプチド部分と非ポリペプチド部分とが、共有結合により直接に連結されること、または結合橋、スペーサー、連結部分もしくは部分構造のような介在部分構造もしくは部分等を介して共有結合により間接的に連結されることを意味する。例えば、本書に開示する結合物質をコチニンにコンジュゲートすることによって得られるコンジュゲートは、この定義に含まれる。
【0031】
本発明の結合物質とコチニンとのコンジュゲートに抗コチニン抗体が結合した複合体において、コチニンは、複合体が結合物質と抗体の両方の本来の性質を保持しうるように、ハプテンとして用いられる。すなわち、複合体は、それら分子の特異的な反応性および機能、ならびに抗体に特徴的な、補体依存性細胞傷害活性(CDC)、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)および長いインビボ半減期を保持しうる。
【0032】
結合物質は、例えば、ペプチド、アプタマー、ホルモン、タンパク質および化学物質からなる群から選択し得、例えば、WKYMVm-NH2ペプチド(WKYMVm-NH2)、wkymvm-NH2ペプチド(wkymvm-NH2)、AS1411アプタマー、ペガプタニブ、アブシキマブおよびインスリンからなる群から選択しうる。本発明のいくつかの態様において、前記タンパク質は抗体であり得、特に抗Her2抗体または抗EGFR抗体でありうる。
【0033】
したがって、本発明は、コチニンに結合物質をコンジュゲートすることによって得たコンジュゲートに抗コチニン抗体を結合させることによって、結合物質のインビボ半減期を延長する方法を提供する。
【0034】
本発明はさらに、コチニンに結合物質をコンジュゲートすることによって得たコンジュゲートに抗コチニン抗体を結合させることによって、結合物質が結合する細胞に対し補体依存性傷害を誘導する方法を提供する。
【0035】
本発明の抗原結合ドメインは、コチニンに特異的に結合する物質であり、抗体または抗体フラグメントであり得、ここで、抗体フラグメントはscFvでありうる。コチニンに結合する抗体または抗体フラグメントの配列のうち、コチニン-scFvは、例えば、配列番号11のアミノ酸配列からなり得、限定されないが、その修飾または置換の結果得られる配列であって、前記アミノ酸配列との配列同一性が好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上であり、配列番号11のアミノ酸配列と実質的に同じ生理学的活性を示す配列を包含しうる。
【0036】
さらに、コチニン-scFvは、配列番号17のヌクレオチド配列、および該ヌクレオチド配列との配列同一性が好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上であるヌクレオチド配列によってコードされうる。
【0037】
コチニンに特異的に結合することができる抗コチニンキメラ抗原受容体において、抗原結合ドメインは、重鎖可変領域、リンカー配列、および軽鎖可変領域からなりうる。この重鎖可変領域は、配列番号1のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなるか、または配列番号1のヌクレオチド配列との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号1のヌクレオチド配列により発現されるアミノ酸配列の機能的等価物をコードしうるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなりうる。
【0038】
上記の軽鎖可変領域は、配列番号2のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなるか、または配列番号2のヌクレオチド配列との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号2のヌクレオチド配列により発現されるアミノ酸配列の機能的等価物をコードしうるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなりうる。
【0039】
配列番号1の塩基配列または配列番号2のヌクレオチド配列との配列同一性が95%またはそれ以上である塩基配列によりコードされるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号1および配列番号2のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と実質的に同じ生理学的活性を示しうる。
【0040】
本発明の抗体または抗体フラグメントは、リンカーをさらに含み得、重鎖可変領域および軽鎖可変領域は該リンカーを介して連結されうる。リンカーは、それが重鎖可変領域および軽鎖可変領域を連結してVH-リンカー-VLドメインを形成することができる成分である限り、制約なく使用しうる。好ましくは、リンカーは、配列番号3のヌクレオチド配列またはそれとの同一性が95%またはそれ以上である塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなりうる。
【0041】
本発明の抗コチニンキメラ抗原受容体における抗原結合ドメインは、膜貫通ドメインに、ヒンジ領域、スペーサー領域、またはそれらの組み合わせによって連結されうる。本発明のヒンジ領域またはスペーサー領域は、Mycエピトープ、CD8ヒンジ領域およびFcから選択される少なくとも1つであり得、好ましくはMycエピトープおよびCD8ヒンジ領域を含みうる。本発明のMycエピトープおよびCD8ヒンジ領域は、連結ドメイン(スペーサー)として機能する。
【0042】
本発明のCD8ヒンジ領域は、配列番号12のアミノ酸配列、または配列番号12との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号12のアミノ酸配列と実質的に等価な機能を示すアミノ酸配列からなりうる。Mycエピトープは、配列番号13のアミノ酸配列、または配列番号13との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号13のアミノ酸配列と実質的に等価な機能を示すアミノ酸配列からなりうる。したがって、本発明のヒンジ領域またはスペーサー領域は、好ましくは、配列番号12のアミノ酸配列もしくはそれとの同一性が95%またはそれ以上であるアミノ酸配列;または配列番号13のアミノ酸配列もしくはそれとの同一性が95%またはそれ以上であるアミノ酸配列からなる。
【0043】
本発明において、Mycエピトープをコードする塩基配列は、配列番号13のアミノ酸配列をコードすることができるいずれのヌクレオチド配列をも包含し得、好ましくは配列番号7のヌクレオチド配列でありうる。ヒトCD8ヒンジ領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12のアミノ酸配列をコードすることができるいずれのヌクレオチド配列をも包含し得、好ましくは配列番号4のヌクレオチド配列でありうる。
【0044】
本発明のキメラ抗原受容体の成分である膜貫通ドメインは、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137およびCD154からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインを含みうる。例えば、膜貫通ドメインは、配列番号16のアミノ酸配列またはそれとの同一性が95%またはそれ以上であるアミノ酸配列からなりうるがそれに限定されない、CD28の膜貫通ドメインでありうる。
【0045】
さらに、本発明のキメラ抗原受容体の成分である細胞内シグナル伝達ドメインとして、当分野で知られる細胞内シグナル伝達ドメインを制約なく使用しうる。本発明の一態様において、細胞内シグナル伝達ドメインは、限定されないが、DAP10、CD3ζまたはそれらの組み合わせを含みうる。
【0046】
NK細胞が癌細胞に対して高い傷害活性を示すことができるように、本発明のキメラ抗原受容体には、細胞内シグナル伝達ドメインとしてDAP10およびCD3ζを用いうる。その場合、DAP10は共刺激ドメインとして機能し、配列番号14のアミノ酸配列、または配列番号14との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号14のアミノ酸配列と実質的に等価な機能を示すアミノ酸配列からなりうる。CD3ζはNK細胞活性化ドメインとして機能し、配列番号15のアミノ酸配列、または配列番号15との配列同一性が70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、より一層好ましくは95%またはそれ以上で、配列番号15のアミノ酸配列と実質的に等価な機能を示すアミノ酸配列からなりうる。したがって、本発明の細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号14のアミノ酸配列またはそれとの同一性が95%もしくはそれ以上であるアミノ酸配列;または配列番号15のアミノ酸配列またはそれとの同一性が95%もしくはそれ以上であるアミノ酸配列からなりうる。
【0047】
さらに、本発明の抗原結合ドメインは、ドメインの暴露のためのシグナルペプチドを含みうる。シグナルペプチドは、CD8αまたはマウス軽鎖κシグナルペプチドでありうる。CD8αである場合、本発明のシグナルペプチドは、配列番号10のアミノ酸配列、またはそれとの同一性が95%またはそれ以上であるアミノ酸配列からなりうる。さらに、CD8α領域をコードする塩基配列は、配列番号10のアミノ酸配列をコードすることのできるいずれの塩基配列をも包含し得、好ましくは配列番号6のヌクレオチド配列でありうる。
【0048】
さらに、本発明において、NK細胞をキメラ抗原受容体で形質転換するために、前記抗コチニンキメラ抗原受容体をコードすることができるポリヌクレオチドを含むベクターを使用しうる。
【0049】
本発明において使用するベクターとして、当分野で知られるさまざまなベクターを使用し得、ベクターにおいて、発現調節配列、例えばプロモーター、ターミネーターおよびエンハンサー、膜標的化または分泌のための配列等は、抗原受容体を発現させようとする宿主細胞の種類に応じて適切に選択され得、目的に応じてさまざまに組み合わせられうる。本発明におけるベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクター等を包含するが、それに限定されない。適当なベクターは、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列、ならびに発現調節要素、例えばプロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを含み、目的に応じて多様に構成されうる。
【0050】
本発明において、好ましい例として、レンチウイルスベクター(Clontech, 632155)を使用しうる。具体例として、本発明の実施例において用いられるベクターであるpLVX-AcGFP-C1を図1に示す。
【0051】
いくつかの態様において、ナチュラルキラー細胞は、骨髄、末梢血、末梢血単核細胞または臍帯血から取得または誘導される。いくつかの態様において、該細胞はヒト細胞である。
【0052】
図2に、本発明の抗コチニンキメラ抗原受容体を発現するNK細胞、およびコチニンコンジュゲートを図示する。
【0053】
抗原受容体の導入により形質転換された前記NK細胞は、コチニンを抗原として認識してコチニンに特異的に結合することができ、コチニン特異的キメラ抗原受容体を細胞表面上に発現することができる。特に、該受容体は、例えば、腫瘍抗原との接触および連結によって細胞内シグナル伝達ドメインを介してNK細胞活性化を誘導し、NK細胞による腫瘍特異的傷害を誘導するように、CAR-NK細胞と同じ活性を誘導することができる。
【0054】
図3に、本発明のコチニン特異的NK細胞であるCot-CAR-NK細胞の作用を図示する。
【0055】
本発明において、特に、CAR-NK細胞とは、キメラ抗原受容体が導入されているナチュラルキラー(NK)細胞を指す。前記細胞は、従来のCAR-T療法剤の利点である、癌特異的な標的化された療法であるという利点を有し、次の利点をも有する:本発明の細胞は、本発明によるキメラ抗原受容体の導入によって、治療的応答のオン/オフを切り替えることができるスイッチ機能によって、従来の傷害性の問題を解消することができるだけでなく、キメラ抗原受容体に結合することができるコチニンが融合するコンジュゲートの末端修飾によって、多目的処置剤として使用することができる。すなわち、本発明によるコチニンに特異的に結合するキメラ抗原受容体を発現するNK細胞は、コチニンにコンジュゲートさせた結合物質に応じて、癌の種類を問わず、腫瘍組織に効果的に赴くことができる。したがって、本発明の細胞は、高い特異性で優れた抗癌作用を示す遺伝子療法として有用でありうる。
【0056】
したがって、本発明は一側面において、本発明のナチュラルキラー細胞を含む細胞療法剤、それを有効成分として含む癌の予防または治療用の医薬組成物、または本発明の細胞を個体に投与することを含む癌の予防または治療方法を提供する。
【0057】
本発明において、本発明の細胞は、細胞療法、例えば抗癌治療における細胞療法のために使用しうる。細胞は、ドナー由来のものでありうるか、または患者から得られた細胞でありうる。細胞は、例えば、冒された細胞の機能を補うよう、再生のために使用しうる。細胞はまた、生物学的製剤の送達、例えば冒された骨髄または転移デポジットのような特定の微小環境への送達を可能とするように、異種遺伝子を発現するよう改変されうる。
【0058】
さらに、本発明の癌の予防または治療用医薬組成物は、結合物質をコチニンに融合させたコンジュゲートをさらに含み得、癌を予防または治療する方法は、結合物質をコチニンに融合させたコンジュゲートを投与するステップをさらに含みうる。本発明のナチュラルキラー細胞は、コチニンにコンジュゲートした結合物質に応じて標的細胞に特異的に結合し、優れた抗癌作用を示す。
【0059】
特に、本発明が提供する細胞は、コチニンに特異的に結合する抗原結合ドメインを有するキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞であり、ここで、該キメラ抗原受容体は、例えば、コチニンと融合したコンジュゲートまたは中間体と共同で、従来のCAR療法剤の標的細胞に対するオン/オフ応答を調節することができる。したがって、本発明のナチュラルキラー細胞は、後続の細胞療法または当該処置用細胞の効果を増強または減弱する必要のある状況において非常に有益な安全スイッチを含む。例えば、キメラ抗原受容体を発現するNK細胞を患者に提供する場合、状況によっては、オフ-ターゲット傷害のような副作用が生じうる。あるいは、例えば、処置用細胞は、腫瘍細胞数または腫瘍サイズを低減するよう機能し得、もはや必要でなくなりうる。この状況において、コチニンが調節され得、それによって、処置用細胞がもはや活性化されないよう調節されることが可能となる。
【0060】
本発明において、癌は、制約なく、当分野で知られるすべての種類の癌腫を包含しうる。
【0061】
本書において、用語「単位用量」とは、哺乳動物に対する単位投与量として適当な個々の物理的単位を指し、各単位は、所望の希釈剤との組み合わせで所望の免疫原刺激作用が得られるように計算された、予め決定された量の医薬組成物を含む。接種物の単位用量の詳細は、医薬組成物に固有の特性、および達成すべき特定の免疫学的効果による影響を受け、それにしたがって決定される。
【0062】
特定の適用のための有効量は、処置する疾患もしくは状態、投与する特定の組成物、対象の体格、および/または疾患もしくは状態の重篤度のような因子によって変わりうる。本書に記載される特定の組成物の有効量は、過度の実験の必要なく試験に基づいて決定しうる。
【0063】
本発明はさらなる一側面において、癌の診断用組成物および癌の診断用キットであって、本発明のキメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞をそれぞれ含むものを提供する。本発明はさらに別の一側面において、本発明のキメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞を含む組成物を、個体から単離されたサンプルと接触させるステップを含む、癌診断のための情報を提供する方法を提供する。前記組成物またはキットは、限定されないが、結合物質がコチニンに融合されたコンジュゲートをさらに含みうる。
【0064】
本書において、用語「診断」とは、ある特定の疾患または障害について対象の罹患し易さを決定すること、個体が現在ある特定の疾患または障害に罹患しているかを決定すること、ある特定の疾患または障害に罹患している個体の予後を決定すること、またはセラメトリクス(therametrics)(例えば、治療効果についての情報を提供するために個体の状態をモニターすること)を包含することが意図される。
【0065】
本発明はさらに別の一側面において、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞の、癌の予防または治療のための使用を提供する。
【0066】
キメラ抗原受容体、それを発現するナチュラルキラー細胞、および癌の予防または治療のためのその使用は、上記に説明したとおりである。
本発明の実施形態を、以下、さらに記載する:
[項1]
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するナチュラルキラー細胞において、
該キメラ抗原受容体は、1)抗原結合ドメイン、2)膜貫通ドメイン、および3)細胞内シグナル伝達ドメインを含み、
該抗原結合ドメインはコチニンに特異的に結合するドメインである、
ナチュラルキラー細胞。
[項2]
前記抗原結合ドメインが、コチニンに特異的に結合する抗体または抗体フラグメントである、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項3]
前記抗体フラグメントがscFvである、上記項2に記載のナチュラルキラー細胞。
[項4]
前記抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む、上記項2に記載のナチュラルキラー細胞。
[項5]
前記抗体または抗体フラグメントが、配列番号2のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、上記項2に記載のナチュラルキラー細胞。
[項6]
前記抗体または抗体フラグメントがリンカーをさらに含む、上記項2に記載のナチュラルキラー細胞。
[項7]
前記リンカーが、配列番号3のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる、上記項6に記載のナチュラルキラー細胞。
[項8]
前記抗原結合ドメインが前記膜貫通ドメインに、ヒンジ領域、スペーサー領域またはそれらの組み合わせによって連結されている、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項9]
前記ヒンジ領域、スペーサー領域またはそれらの組み合わせが、Mycエピトープ、CD8ヒンジ領域、およびFcから選択される少なくとも1つである、上記項8に記載のナチュラルキラー細胞。
[項10]
前記膜貫通ドメインが、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137およびCD154からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の膜貫通ドメインを含む、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項11]
前記膜貫通ドメインが、CD28の膜貫通ドメインを含む、上記項10に記載のナチュラルキラー細胞。
[項12]
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、DAP10、CD3ζ、またはそれらの組み合わせを含む、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項13]
前記抗原結合ドメインがシグナルペプチドを含む、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項14]
前記シグナルペプチドが、CD8αまたはマウス軽鎖κシグナルペプチドである、上記項13に記載のナチュラルキラー細胞。
[項15]
前記コチニンが、結合物質とコンジュゲートした複合体の形態である、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞。
[項16]
前記結合物質が、ペプチド、アプタマー、ホルモン、タンパク質および化学物質からなる群から選択される、上記項15に記載のナチュラルキラー細胞。
[項17]
上記項1に記載のナチュラルキラー細胞を含む、細胞療法剤。
[項18]
上記項1に記載のナチュラルキラー細胞を活性成分として含む、癌の予防または治療用の医薬組成物。
[項19]
上記項1に記載のナチュラルキラー細胞を対象に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法。
[項20]
対象から単離されたサンプルに上記項1に記載のナチュラルキラー細胞を接触させることを含む、癌の診断方法。
[項21]
癌を予防または治療するための、上記項1に記載のナチュラルキラー細胞の使用。
【0067】
本発明の態様
本発明を、以下、実施例によって、より詳細に説明する。しかしながら、実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0068】
ベクターバックボーン
本発明に使用するベクターとして、レンチウイルスベクター(Clontech, 632155)を使用した。具体的には、図1に示すpLVX-AcGFP-C1を使用した。本実験において使用するために、コザック配列 (CTCGAG; n.t. 2801-2806) および AcGFP1 (Aequorea coerulescens 緑色蛍光タンパク質; n.t. 2807-3604) を欠失させ、XhoIを制限酵素として使用した。特定の関連する配列を図4に示す。
【実施例2】
【0069】
標的抗原およびコチニンコンジュゲートの調製
標的抗原として用いる小分子物質であるコチニン(トランス-4-コチニンカルボン酸)を下記式1に示す。Sigma-Aldrichから購入したコチニンを使用した。
【化2】
【0070】
さらに、コチニンおよび結合物質が融合したコンジュゲートを、以下の方法で調製した。
すなわち、HER2-コチニンコンジュゲートのために、コチニンおよび抗HER2抗体がコンジュゲートしたコンジュゲートを、抗HER2抗体であるトラスツズマブ(Genentech, USA)を用いて調製した。ここで、コンジュゲートのコンジュゲート化のために、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)カップリング法を用いた。まず、抗HER2抗体を、25μMの濃度となるようPBSに溶解することによって調製した。一方、トランス-4-コチニンカルボン酸(Sigma-Aldrich)を、5mMの濃度となるよう1mlのMES緩衝液[0.1M 2-[モルホリノ]エタンスルホン酸(MES)および0.5M塩化ナトリウム、pH6.0]に溶解することによって調製した。得られた混合物に、EDCを50mMの濃度で、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS、Thermo Scientific, USA)を125mMの濃度で加えた。得られた混合物を室温で15分間撹拌して溶解させ、コチニン-NHSエステルが生成している活性溶液を調製した。コチニン-NHSエステルとタンパク質のアミン基との間の反応を誘導するために、水酸化ナトリウム溶液を加えて活性溶液のpHを7またはそれ以上に調節した。そこから1mlを取った。そこに、コチニンにコンジュゲートする抗HER2抗体を25μMの濃度で、活性溶液と同じ量で加えた。混合物を、室温で3時間撹拌しながら反応させて、EDCカップリング反応により生成したコチニン-HER2抗体コンジュゲートを得た。得られたコチニン-HER2抗体コンジュゲートを、Slide-A-lyzer(商標)透析カセット (Thermo Fisher Scientific, USA) を用いてPBSに対して透析するか、Amicon Ultra Centrifugal Filter (EMD Millipore, USA) を用いて緩衝液をPBSに交換し、使用した。
【0071】
さらに、抗EGFRアフィボディをコチニンと融合させたコンジュゲートとしてのEGFR-コチニンコンジュゲートを、ANYGENから購入し(コチニン-zEGFR:95)、使用した。使用した抗EGFRアフィボディの配列は、具体的には次のとおりである:
trsn-4-コチニンカルボン酸-VDNKFNKEMWAAWEEIRNLPNLNGWQMTAFIASLVDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK (配列番号30)
【実施例3】
【0072】
抗コチニンキメラ抗原受容体
本発明の、コチニンに特異的に結合するキメラ抗原受容体の各ドメインをコードする核酸を含むプラスミドを、下記方法によって調製した。
【0073】
(1)シグナルペプチド
ヒトT細胞表面糖タンパク質CD8α鎖(GenBank: AK300089.1)に基づき、それぞれXhoIおよびXbaIの制限酵素部位を含む2種類のプライマー(フォワードプライマー:配列番号18、リバースプライマー:配列番号19)を用いてポリメラーゼ連鎖反応を行い、次いでクローニングを行った。
【0074】
(2)標的特異的な認識ドメイン - scFv
コチニンに特異的に結合することができる抗原結合ドメインとして、抗コチニンキメラ抗体またはその抗体フラグメントを得ることが意図された。ScFvの配列については、韓国特許第10-1648960号におけるScFvに関する情報を参照した。すなわち、該抗原結合ドメインは、配列番号17のヌクレオチド配列を含み、VH-リンカー-VLとして構成された。
【0075】
(3)連結ドメイン(スペーサー)
(A)Mycエピトープ
本発明者が所有するプラスミド(抗コチニン28Z-1 CAR ORF、cot28z-1)に基づき、それぞれsfiIおよびHindIIIの制限酵素部位を含む2種類のプライマー(フォワードプライマー:配列番号20、リバースプライマー:配列番号21)を用いてポリメラーゼ連鎖反応を行い、次いでクローニングを行った。
【0076】
(B)ヒトCD8ヒンジ領域
本発明者が所有するプラスミド(抗コチニン28Z-1 CAR ORF、cot28z-1)に基づき、それぞれHindIIIの単一の制限酵素部位を含む2種類のプライマー(フォワードプライマー:配列番号22、リバースプライマー:配列番号23)を用いてポリメラーゼ連鎖反応を行い、次いでクローニングを行った。
【0077】
(4)膜貫通領域
ヒトCD28遺伝子のヒンジ由来の細胞質領域を膜貫通領域として用いた。フォワードプライマーに制限酵素BamH1の配列を付加することによって(配列番号24)、リバースプライマーに制限酵素EcoRIの配列を付加することによって(配列番号25)、プライマーを作製した。
【0078】
上記プライマーを用いてJurkat細胞のcDNAにおいてPCRを行って、膜貫通領域のDNAを得た。
【0079】
(5)1つまたはそれ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン
(A)共刺激ドメイン
DAP10を共刺激ドメインとして使用し、フォワードプライマーに制限酵素EcoRIの配列を付加することによって(配列番号26)、リバースプライマーに制限酵素NotIの配列を付加することによって(配列番号27)、プライマーを作製した。
【0080】
上記プライマーを用いて初代成熟NK細胞のcDNAにおいてPCRを行って、共刺激ドメインを作製した。
【0081】
(B)NK細胞活性化ドメイン
CD3ζをNK細胞活性化ドメインとして使用した。具体的には、2種類のプライマー(フォワードプライマー:配列番号28、リバースプライマー:配列番号29)を用いて、Jurkat細胞のcDNAにおいてPCRを行って、該活性化ドメインを作製した。
【0082】
上記各ドメインを、それぞれの制限酵素を用いて順次連結した。各ドメインに対応する特定の配列の情報を、下記表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示す配列が前記構造と一致するとき、シグナルペプチドはヒトCD8α領域に対応する配列番号6で表され;標的特異的認識ドメインの、重鎖可変領域は配列番号1で表され、リンカーは配列番号3で表され、軽鎖可変領域は配列番号2で表される。連結ドメイン(スペーサー)は、Mycエピトープの配列番号7、またはヒトCD8ヒンジ領域の配列番号4で表され、膜貫通領域としてのCD28は配列番号5で表される。1つまたはそれ以上の細胞内シグナル伝達ドメインとして、共刺激ドメインとしてのDAP10は配列番号8で表され、NK細胞活性化領域としてのCD3ζは配列番号9で表される。
【実施例4】
【0085】
抗コチニンキメラ抗原受容体が導入されたNK細胞の作製
実施例3に記載される抗コチニンキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドをベクターに挿入し、得られたベクターを用いて形質転換ナチュラルキラー細胞を作製した。図5に、コチニン特異的抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体、およびその発現系を示す。
【0086】
まず、基本のベクターとして、実施例1のpLVX-AcGFP-C1からAcGFPを除去することによって得たベクターを使用して、該ベクターに、そのMCSの制限酵素XhoIおよびXbaIを用いて、実施例3の抗コチニンキメラ抗原受容体(コチニン-CAR)をコードするポリヌクレオチドを挿入した。
【0087】
次に、ウイルスパッケージングベクター(PMDLg/RRE、RSV/REV、VSVG)と共に、コチニン-CARを含むベクターを導入することによって、HEK293T細胞を形質転換し、そこからコチニン-CARを発現するレンチウイルスを得た。レンチウイルスを超高速遠心によって濃縮し、濃縮したコチニン-CAR発現レンチウイルスを、HEK293T細胞またはHela細胞の感染に使用した。次いで、フローサイトメトリーによってコチニン-CARのMycエピトープの量を決定し、感染単位を計算した。NK細胞の数およびレンチウイルスの量を、多重感染度(MOI)が10となるように計算した。コチニン-CAR発現レンチウイルスは、スピノキュレーション(spinoculation)法(360g、90分、RT)によってNK細胞に感染させた。感染NK細胞を37℃および5%COの条件で5時間培養し、その後、培養培地を新たな培養培地と交換した。3日後、感染NK細胞の選択のために3μg/mlの濃度のピューロマイシンによる処理を行い、培養を続けた。
【0088】
対照としての未感染NK細胞もピューロマイシンで処理し、対照細胞がピューロマイシンによって完全に死滅するまで、ピューロマイシン処理培養培地を用いる培養を続けた。対照細胞が完全に死滅した時点で、感染NK細胞用の培養培地を、増殖のためにピューロマイシン不含有培地に交換した。選択された細胞の増殖のために、12.5%ウシ胎児血清、12.5%ウマ血清、0.2mMイノシトール、0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.02mM葉酸、および200U/ml組換えIL-2を含むαMEMを含む培地を用いて実験を行った。
【実施例5】
【0089】
抗コチニンキメラ抗原受容体を導入したNK細胞におけるCAR発現の確認
本発明の抗コチニンキメラ抗原受容体を導入した、実施例4において作製したNK細胞におけるCARの発現を、フローサイトメトリーにより確認した。
【0090】
コチニン-CARのMycエピトープに対応するMyc抗体(CTS;9B11)を、コチニン-CAR発現NK細胞と反応させ(暗所において4℃で30分間)、フローサイトメトリーによりMyc発現を確認するか;またはHer2抗体を融合したコチニンコンジュゲートを、コチニン-CAR発現NK細胞と4℃で30分間反応させ、Her2抗体のFc領域に対応するFc抗体(eBiosciende; 12-4988-82)との二次反応を行った後、フローサイトメトリーによる確認を行った。対照として、CARを発現しない元のNK細胞を使用した。結果を図6に示す。
【0091】
図6に示すように、抗コチニンキメラ抗原受容体を導入した本発明のNK細胞が、抗コチニン抗体フラグメントを発現することが確認された。
【実施例6】
【0092】
コチニンに対するコチニンCAR NK細胞の結合特異性の確認
コチニンポリマーであるCot-SWNTおよびHER2腫瘍細胞を用いて、コチニンCAR NK細胞のコチニンScFvがコチニンに特異的に結合するすることを確認した。
【0093】
すなわち、AU565(ヒト乳癌)をカルセイン-AM(Life Technologies; C1430)で染色した。次いで、それをコチニン-CAR発現NK細胞と1:1の比で、200μlのRPMI1640(10%FBS)中で混合し、混合物を、1μg/mlの濃度の、Her2抗体と融合したコチニンコンジュゲート、およびいくつかの濃度(0、0.005、0.05、0.5および5mg/ml)のcot-SWNTによる同時の処理に付して、cot-SWNTとHer2-コチニンコンジュゲート(Her2-cot)の間で競合が起こるようにした。さらに、cot-SWNT単独の効果を決定するために、cot-SWNT(5mg/ml)単独による処理のための条件を追加し、その条件下に処理を行った。37℃および5%COで4時間反応させた後、上清100μlを取り、上清中に存在するカルセインの量を測定することにより、各条件での細胞傷害作用を決定した。対照として、カルセイン染色AU565をRPMI1640(10%PBS)のみで処理した群(自然値)、およびカルセイン染色AU565を2%Triton X-100で処理した群(最大値)を用いた。細胞傷害作用は、次式により計算した:
細胞傷害作用(%)=(条件によるカルセイン放出値-自然値)/(最大値-自然値)×100
得られた細胞傷害作用の結果を、図7に示す。
【0094】
図7に示すように、cot-SWNTの濃度を高めると、her2発現癌細胞に対するコチニン-CAR NK細胞の傷害効果が低下することがわかった。このことから、本発明のコチニン-CAR NK細胞は、コンジュゲートの結合物質に応じて標的細胞に特異的に作用することが確認された。
【実施例7】
【0095】
ハーセプチン(Her2)-コチニンコンジュゲートが仲介するコチニン-CAR NK細胞の細胞傷害作用の確認
実施例3において作製した抗Her2-コチニンコンジュゲート、および実施例4において作製したコチニン-CAR NK92細胞を使用して、該コンジュゲートが癌表面上のHer2を認識することにより、本発明の抗コチニンキメラ抗原受容体を導入したNK細胞の細胞傷害作用が発揮されることを観察した。
【0096】
まず、AU565(ヒト乳癌; RPMI1640 (10% FBS; 200 nm HEPES))、SK-OV-3(ヒト卵巣癌; RPMI1640 (10% FBS))、SK-BR-3(ヒト乳癌; DMEM (10% FBS))、およびK562(慢性骨髄性白血病; RPMI1640 (10% FBS))の4つの細胞系のそれぞれを、1μg/100μlの抗Her2抗体(Invitrogen; BMS120FI)で処理し、暗所において4℃で30分間反応させた。反応後、各細胞系について、そのHer2発現レベルをフローサイトメトリー(BD;FacsCantoII)により調べた。結果を図8に示す。
【0097】
図8に示すように、Her2はAU565、SK-OV-3およびSK-BR-3細胞において発現され、K562細胞においては発現されなかったことがわかった。
【0098】
次に、Her2-コチニンコンジュゲートの存否に依存する、コチニン-CAR NK細胞の細胞傷害作用を、カルセイン-AM法によって調べた。すなわち、AU565、SK-OV-3、SK-BR-3およびK562の4細胞系のそれぞれを、5μg/mlの濃度のカルセイン-AMで処理し、暗所において37℃および5%COの条件で1時間反応させた。反応後、元のNK92、AcGFPを欠失させたpLVXエンプティベクターである対照ベクターを導入したNK92(Puro-92)、およびコチニン-CAR NK92細胞(cot-10z-92)をそれぞれ上記細胞系と5:1、1:1および0.5:1の比で(エフェクター細胞;NK92、Puro-92、Cot-10z-92:標的細胞;AU565、SK-OV-3、SK-BR-3、K562)、200μlのRPMI(10%PBS)中で混合し、37℃および5%COの条件で4時間反応させた。次いで、上清100μlを取り、上清中に存在するカルセインの量を測定することにより、各条件による細胞傷害作用を決定した。結果を図9に示す。
【0099】
図9に示すように、コチニン-CAR NK92細胞は、Her2を発現するAU565、SK-OV-3およびSK-BR-3細胞に対して細胞傷害活性を示し、Her2を発現しないK562細胞に対しては細胞傷害活性を示さないことがわかった。さらに、Her2-コチニンコンジュゲートは、NK92およびPuro-92の細胞傷害作用に影響を及ぼさないが、コチニン-CAR NK92には影響を及ぼすことが確認された。これらの結果から、本発明のコチニン-CAR NK細胞は、コチニコンジュゲートを介して特異的に細胞傷害を誘導することが確認された。
【実施例8】
【0100】
コチニン-CAR NK細胞の細胞活動の検証
NK細胞の活動を、NK細胞におけるサイトカインおよび顆粒の放出を調べることにより検証した。すなわち、サイトカインの放出を次のようにして調べた。RPMI1640(10%FBS)中で、元のNK92、PURO-92およびcot-10z-92のそれぞれを、AU565と1:1で混合した。そこにコチニンコンジュゲートを加え、37℃および5%COの条件で6時間反応させた。次いで、上清を取り、上清中に存在するサイトカインIFN-γおよびTNF-αをELISAにより調べた。対照として、元のNK92、PURO-92およびcot-10z-92のそれぞれが単独で分泌したサイトカインの量を用いた。結果を図10に示す。
【0101】
さらに、CD107aの発現を次のようにして調べた。RPMI1640(10%FBS)中で、元のNK92、PURO-92およびcot-10z-92のそれぞれを、AU565と1:1で混合した。その混合物を、コチニンコンジュゲートおよびCA107a抗体(BD; 555801)の組み合わせで処理し、37℃および5%COの条件で4時間反応させた。反応後、細胞からNK92細胞を選別することができるように、CD56抗体を用いる染色を行った。その後、元のNK92、PURO-NK92およびcot-10z-92におけるCD107a発現レベルを、フローサイトメトリーによって比較した。対照として、元のNK92、PURO-92およびCot-10z-92におけるCD107aの基礎発現レベル、ならびにコチニコンジュゲート不存在下にAU565と混合された状態でのそれら細胞におけるCD107a発現レベルを用いた。結果を図11に示す。
【0102】
図10および図11に示すように、コチニン-CAR NK細胞およびHer2-コチニンコンジュゲートが存在する場合にのみ、癌細胞に応答してNK細胞におけるサイトカインおよび顆粒の放出が起こることがわかった。
【実施例9】
【0103】
Her2-コチニンコンジュゲートによって誘導される、コチニン-CAR NK細胞のシグナルの変化
コチニン-CAR NK細胞の活動を、NK細胞が活動を示す際に変化するシグナルを測定することによって調べた。すなわち、Erkのリン酸化を、コチニン-CAR NK92の細胞内ドメインを通るシグナルを利用して、フローサイトメトリーにより調べた。結果を図12に示す。
【0104】
図12に示すように、細胞内Erkのリン酸化は、コチニン-CAR NK92細胞が単独で存在した場合には増加せず(her2-cotなし;対照)、癌細胞が存在した場合には、her2-コチニンコンジュゲート(her2-cot)によりコチニン-CAR NK92細胞におけるErkリン酸化が増加した(her2-cot有り;her2-cot処理群)ことがわかった。
【実施例10】
【0105】
ハーセプチン(Her2)-コチニンコンジュゲートのコチニン-CAR NK細胞に対する特異性の検証
Her2-コチニンコンジュゲートに対するコチニン-CAR NK細胞の特異性を検証するために、該コンジュゲートに依存する細胞傷害作用を調べた。
【0106】
最初に、Her2-コチニンコンジュゲートに対する対照として、RSウイルス(respiratory syncytial virus)(RSV)-コチニンコンジュゲートを使用した。RSV-コチニンコンジュゲートは、コチニンと融合させる抗体として抗RSV抗体(パリビズマブ、Synagis(登録商標)、AstraZeneca, UK)を使用したことを除いては実施例2のコチニンコンジュゲート作製方法と同様の方法で作製した。
【0107】
次に、RPMI1640(10%FBS)中でコチニン-CAR-NK92細胞およびカルセイン染色AU565を、5:1、1:1および0.5:1の比で混合し、AU565細胞において発現される抗原であるHer2に対するHer2-コチニンコンジュゲート、および発現されないRSウイルス抗体(RSV;パリビズマブ;Synagis(登録商標)、AstraZeneca, UK)-コチニンコンジュゲートを、それぞれ1μg/mlの濃度で用いる処理を行った。37℃および5%COの条件で4時間反応させた。その後、コチニン-CAR NK92細胞の細胞傷害作用をカルセイン-AM法により調べた。結果を図13に示す。
【0108】
図13に示すように、コチニン-CAR NK細胞は、Her2-コチニンコンジュゲートに対する特異性を以て活性を示すことがわかった。
【実施例11】
【0109】
ハーセプチン(Her2)-コチニンコンジュゲートおよびEGFR(アフィボディ)-コチニンコンジュゲートによって引き起こされるコチニン-CAR NK細胞の細胞傷害作用の検証
実施例3において作製した抗Her2-コチニンコンジュゲート、および抗EGFR-コチニンコンジュゲートを、実施例4において作製したコチニン-CAR NK92細胞と共に使用して、本発明の抗コチニンキメラ抗原受容体が導入されたNK細胞による細胞傷害作用が、癌細胞表面上のHer2またはEGFRのコチニンコンジュゲートによる認識を介して発揮されることを確認した。
【0110】
まず、AU565(ヒト乳癌)、SK-OV-3(ヒト卵巣癌)、A431(ヒト皮膚癌; DMEM (10% FBS))、およびA549(ヒト肺癌; RPMI1640 (10% FBS))の4細胞系のそれぞれを、それぞれ1μg/100μlの量の抗Her2抗体および抗EGFR抗体(BD; 563577)で処理し、暗所において4℃で30分間反応させた。その後、各細胞系について、そのHer2およびEGFRの発現レベルをフローサイトメトリーにより調べた。結果を図14に示す。
【0111】
図14に示すように、4細胞系におけるHer2およびEGFRの発現レベルは、細胞系によって異なることがわかった。
【0112】
次に、4細胞系に対する、Her2-コチニンコンジュゲートまたはEGFR-コチニンコンジュゲートの存在または不存在による、コチニン-CAR NK92の細胞傷害作用を、カルセイン-AM法によって調べた。すなわち、AU565、SK-OV-3、A431およびA549細胞のそれぞれを、カルセインで染色した後、cot-10z-92細胞と、5:1、1:1および0.5:1の比で(cot-10z-92:癌細胞)、200μlのRPMI1640(10%PBS)中で混合した。各条件によって、cot-10z-92および癌細胞を単に反応させるか、またはcot-10z-92および癌細胞をHer2-コチニンコンジュゲート(1μg/ml)またはEGFR-コチニンコンジュゲート(100ng/ml)での処理を伴って反応させた。37℃および5%COの条件で4時間反応させた。各条件による細胞傷害作用を調べた。結果を図15に示す。
【0113】
図15に示すように、コチニン-CAR NK92細胞は、標的抗原Her2またはEGFRの発現レベルに応じた細胞傷害作用を示した。このことから、本発明のコチニン-CAR NK細胞の細胞傷害作用は、コチニンコンジュゲートの種類に依存することが確認される。
【実施例12】
【0114】
EGFR-cotコンジュゲートによって誘導されるコチニン-CAR NK細胞の細胞活動の検証
Her2またはEGFRを発現する癌細胞に対して、her2-コチニンコンジュゲートまたはEGFR-コチニンコンジュゲートによって引き起こされる活動の変化を、サイトカインおよび顆粒の放出によって調べた。
【0115】
すなわち、RPMI1640(10%FBS)中で、AU565またはA431細胞とcot-10z-92とを、1:1の比で混合した。her2-cotコンジュゲートまたはEGFR-cotコンジュゲートによる処理を行い、37℃および5%COの条件で6時間反応させた。その後、上清において、サイトカイン(IFN-γおよびTNF-α)の分泌の変化をELISAにより調べた。結果を図16に示す。
【0116】
さらに、顆粒の放出を、CD107aの発現レベルによって調べた。すなわち、元のNK92、PURO-92およびcot-10z-92のそれぞれを、AU565またはA431細胞と1:1で混合した。その混合物を、her2-cotコンジュゲートまたはEGFR-cotコンジュゲートで処理し、CD107a抗体で処理した。37℃および5%COの条件で4時間反応させた。反応後、NK92細胞を選抜することができるように、CD56抗体を用いる染色を行った。その後、フローサイトメトリーによる測定を行った。AU565およびA431細胞に対しての結果をそれぞれ図17および図18に示す。
【0117】
図16~18に示すように、コチニン-CAR NK細胞の活動は、抗原に対する抗体-コチニンコンジュゲートによって高められることがわかった。
【0118】
本発明の特定の態様を上記に詳細に説明した。該特定の説明は好ましい態様を示すに過ぎないこと、本発明の範囲はそれに限定されるものではないことは、当業者には明白である。したがって、本発明の真の範囲は、特許請求の範囲およびその等価物によって限定されうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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【配列表】
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