(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】ピストンロッドブレーキ機構
(51)【国際特許分類】
A61M 5/24 20060101AFI20220303BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
A61M5/24
A61M5/315
(21)【出願番号】P 2019561790
(86)(22)【出願日】2018-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2018061699
(87)【国際公開番号】W WO2018206494
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-28
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン, ニコライ エウセビオス
(72)【発明者】
【氏名】ハンスン, ステフェン
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/001293(WO,A1)
【文献】特表2013-534164(JP,A)
【文献】特表2016-540555(JP,A)
【文献】特表2016-533219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン型注入装置(1)であって、
一般軸に沿って延びるハウジング(2、102)と、
カートリッジ本体(10.1、110.1)と、貫通可能な隔壁(11)と、ピストン(15、115)と、を備え、一緒に液体物質を保持するように適合された可変容積リザーバーを画定する、カートリッジ(10、110)であって、前記ハウジング(2、102)に対して回転的に固定されているカートリッジ(10、110)と、
前記液体物質の用量を前記カートリッジ(10、110)から排出するための用量排出機構であって、前記ピストン(15、115)を進めるためのピストンロッド構造を備え、前記ピストンロッド構造が、
前記ハウジング(2、102)と螺合し、かつ回転するように適合され、これによって用量排出中に前記カートリッジ本体(10.1、110.1)に対して螺旋運動を受けるピストンロッド(60、160)、および
ピストンロッド(60、160)へと回転的に係止され、かつ前記ピストン(15、115)と調和するように適合されたピストンロッド足部(61、161)を備える用量排出機構と、
所定の用量の増分の排出に対応するピストンロッド(60、160)の角変位で検出可能な出力を生成する出力手段(8.1、8.2、20)であって、これによって用量排出事象中に生成される検出可能な出力の総数が排出用量のサイズを示す、出力手段(8.1、8.2、20)と、を備え、
前記ピストンロッド(60、160)の回転運動を遅くするよう構成されたブレーキ機構であって、前記カートリッジ本体(10.1、110.1)の一部を形成する第一の接触面(10.2、110.2)と、前記第一の接触面(10.2、110.2)と接触して配置される、または配置されるように適合され、かつ前記ピストンロッド構造に対して回転的に係止される第二の接触面(15.1、164)と、を備えるブレーキ機構をさらに備える、ペン型注入装置(1)。
【請求項2】
前記検出可能な出力が触覚出力および/または可聴出力である、請求項1に記載のペン型注入装置。
【請求項3】
前記検出可能な出力を電子的に登録するように構成された検出機構をさらに備える、請求項1または2に記載のペン型注入装置。
【請求項4】
前記出力手段(8.1、8.2、20)が、他のハウジング部分に対して撓むことができる撓み可能なハウジング部分(8.1)と、前記ピストンロッド構造に対して回転的に係止され、かつ前記ハウジング(2、102)に対して前記特定の角変位を受けることに応答して、前記撓み可能なハウジング部分(8.1)が撓むように配置された起動要素(20)と、を備え、
前記検出機構が、前記撓み可能なハウジング部分(8.1)上に配置され、かつその撓みを検出するように適合されたセンサー(90)と、前記センサー(90)に電子的に接続され、かつ前記センサー(90)によって検出された撓みを処理するように構成されたプロセッサー(82)を備える、請求項3に記載のペン型注入装置。
【請求項5】
前記第二の接触面(15.1)が、前記ピストン(15)の一部を形成し、かつ前記ピストン(15)および前記ピストンロッド(60)が回転的に相互係止されている、請求項1~4のいずれかに記載のペン型注入装置。
【請求項6】
前記ピストンロッド足部(61)が、前記ピストン(15)のそれぞれの周辺部分の中へと押し込まれる複数の間隔を置いた突起(62)を備える、請求項5に記載のペン型注入装置。
【請求項7】
前記第二の接触面(164)が、前記ピストンロッド足部(161)の一部を形成する、請求項1~4のいずれかに記載のペン型注入装置。
【請求項8】
前記ピストン(115)が、第一の硬度および第一の圧縮永久歪みを有する第一の境界面材料を含み、かつ前記ピストンロッド足部(161)が、前記第一の硬度よりも小さい第二の硬度および前記第一の圧縮永久歪みよりも高い第二の圧縮永久歪みを有する第二の境界面材料を含み、前記第二の境界面材料が、前記第一の境界面材料と加圧当接するように配置される、請求項7に記載のペン型注入装置。
【請求項9】
前記第二の接触面(164)が前記第二の境界面材料から形成される、請求項8に記載のペン型注入装置。
【請求項10】
前記ピストンロッド(60、160)の回転をもたらすためにエネルギーを提供するためのエネルギー貯蔵ユニット(40)をさらに備える、請求項1~9のいずれかに記載のペン型注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物リザーバーから一つ以上の用量の薬物を排出することができる注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病ケアでは、従来のバイアルおよびシリンジシステムを使用して実施されるセグメント非経口的薬物投与は、ペン注入装置を使用する投与によってますます置き換えられている。ペン注入装置は、最初に、特定の用量を一つのリザーバー(バイアル)から別のリザーバー(シリンジ)へと手動で移動する必要なしに、ユーザーが予め充填された薬物リザーバーから用量の注入を実施できるという点で特に都合が良い。
【0003】
主に、二つのタイプのペン注入装置が利用できる。耐久性のある注入装置は、使用前に装置の中へと装填し、かつ使い果たした後に交換することができる、予め充填された薬物カートリッジから一つ以上の用量の薬物を送達できる。また、使い捨て注入装置は、予め充填された非交換式の薬物カートリッジから薬物の一つ以上の用量を送達することができる。これらのタイプのペン注入装置の各々は、例えば、例えば、薬物カートリッジから一回の投与のみを送達するように適合されたシングルショット装置、薬物カートリッジから複数の用量を送達できるマルチショット装置、ユーザーが注入に必要な力を提供する手動装置、注入の機会に解放可能な組み込みエネルギー源を有する自動装置、所定の用量の薬物を送達するように適合された固定用量装置、ユーザーが設定可能なさまざまな用量の薬物の送達を提供する可変用量装置などのような様々なサブタイプで実現されるか、または原理として実現されうる。
【0004】
ラベルとして、耐久性のある注入装置は、複数の薬物カートリッジがその間に使い果たされおよび交換される相当な期間にわたって使用することを意図しており、一方で、使い捨て注入装置は、その専用薬物カートリッジが使い果たされるまで使用することが意図されており、その後、注入装置全体が廃棄されることを示唆する。
【0005】
糖尿病の治療では、特定の薬物(例えば、インスリンまたはglp-1)の投与された用量だけでなく、用量投与のそれぞれの回数を記録を保持することが望ましい。したがって、一部の注入装置は、電子的用量捕捉、およびデジタル表示上の用量関連情報をレビューする機会を提供する。
【0006】
自動注入装置は、多くの場合、圧縮バネまたはねじりバネのいずれかによって動力供給されるが、バネに対する代替品を使用してもよい。
【0007】
Novo Nordisk A/Sによって製造されるFlexTouch(登録商標)インスリン注入装置は、自動ペン型注入装置の一例であり、ここで薬物排出機構はねじりバネによって動力供給される。ねじりバネは、用量設定中に張力がかけられ、そして注入ボタンをわずかに押し下げることによって放出される。放出された時、ねじりバネは、駆動チューブを回転させ、これがピストンロッドの回転を起こす。ピストンロッドの回転は、外部ハウジングに対してその螺旋状変位に変換される。ピストンロッド足部は、ピストンロッドの遠位端に回転的に自由に連結され、またピストンロッドからインスリンを含有するカートリッジ内のゴムピストンへと力を伝達するように機能し、それに応じてこのゴムピストンは併進して用量送達を達成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薬物排出機構は、薬物排出機構の構成要素の特定の角変位と相関して、インスリンの各排出された単位に対してクリック音の形態の可聴的なフィードバックを提供し、そして実際に排出された用量は、したがって発したクリック音の数を登録することによって判定されうる。しかしながら、インスリン排出作用の初期段階では、バネ駆動構成要素は、注入装置(特にピストン)の弾性部の軸方向の圧縮に起因して、非常に速く移動する。これは、最初の3~5排出ユニットの間に生成されたクリックは区別が困難な可能性があることを意味する。事実、正確な電子検出でさえも困難である場合がある。この問題は自動注入装置内でより支配的でありうる一方、実際には、手動注入装置にも関連するもので、その場合、ユーザーにとって、用量排出作用の初期段階で注入ボタンを押し下げる速度を制御するのが困難である可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
先行技術の少なくとも一つの欠点を除去または減少させること、または先行技術の解決に対する有用な代替案を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
特に、用量排出作用の初期段階で生成された出力の検出がより容易な注入装置を提供して、より正確な排出用量の判定を可能にすることが、本発明の一つの目的である。
【0011】
用量排出作用全体を通して反復した出力がより均一に生成される注入装置を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0012】
本発明の開示では、上記の目的のうちの一つ以上に対処する、および/または、以下の文章から明らかである目的に対処する態様および実施形態が記載される。
【0013】
本発明の原理を具現化する注入装置は、ピストンアクチュエータの螺旋状の動きによって、ピストンを有するリザーバーから液体物質(薬物など)を排出するように動作可能な用量排出機構と、ピストンアクチュエータの所定の角変位に応答して、検出可能な出力を生成するための手段と、ピストンアクチュエータに対して回転的に係止され、かつ非回転部品と接触して配置された、または接触して配置されるように適合された接触面と、を備える。接触面および非回転部品はこれによって、ピストンアクチュエータの角変位の間に相対的回転運動を受ける。この相対的回転運動は、前記接触面と前記非回転部品との間の接触境界面における摩擦の影響下で生じ、摩擦はピストンアクチュエータの当初の回転を制動し、これによってより簡単に識別可能な出力が注入装置上または注入装置によって実施される用量排出作用の初期段階で生成される。ピストンアクチュエータに対して回転的に係止されている接触面と、非回転部品との間の接触面は、接触境界面の少なくとも一部分にわたり流体の通過ができないという意味での密閉接触としうる。
【0014】
本発明の第一の態様では、請求項1に記載の注入装置が提供される。これによって、ペン型注入装置が提供され、その注入装置は、一般軸に沿って延びるハウジングと、カートリッジ本体を備えるカートリッジと、貫通可能な隔壁と、ピストンとを備え、これらを一緒にして、液体物質を保持するように適合された可変容積リザーバーと、カートリッジから液体物質の用量を投与するための用量排出機構とを画定する。カートリッジは、ハウジングに対して回転的に固定される。貫通可能な隔壁は、自己密閉性であってもよく、すなわち、注入針の一部分の貫通および引き出しの後で密閉効果を再確立することができる。ピストンはゴムで作製されてもよく、または少なくとも周辺のゴム層を備えてもよい。
【0015】
用量排出機構は、ハウジングと、例えば、ハウジング内もしくはハウジングのナット部材と螺合し、かつ一般軸を中心として回転するように構成され、これによって用量排出中にハウジングに対する螺旋状変位を受けるピストンロッドを備えるピストンロッド構造を包含し、螺旋状変位は、投与される薬物の量と相関する。用量排出機構は、ピストンロッドへと回転的に係止され、かつピストンと調和するように、例えば当接するように適合された、ピストンロッド足部も包含する。ピストンロッド足部は、ピストンロッドの一体化部分であってもよく、またはピストンロッドに取り付けられた別個の部分であってもよい。
【0016】
注入装置は、ハウジングに対して特定の角変位を受けるピストンロッド構造に応答して検出可能な出力を生成するための出力手段をさらに備える。この特定の角変位は、カートリッジから排出される特定の薬物の量に対応する。例えば、注入装置が一定の増分で設定できる薬物の用量を排出するよう構成されている場合、生成された各々の検出可能な出力は一つのこうした増分の排出に対応しうる。出力手段は、ピストンロッド構造自体の、またはピストンロッド構造に対して回転的に係止された構成要素の、判定された角変位に基づいて検出可能な出力を生成するように適合されてもよい。
【0017】
重要なことに、注入装置はまた、ピストンロッドの回転運動に影響を与えるブレーキ機構も備える。ブレーキ機構は、カートリッジ本体の一部を形成する第一の接触面と、ピストンロッド構造に対して回転的に係止され、かつ少なくとも注入装置の使用中に、第一の接触面と機械的に接触して配置される第二の接触面とを備える。これによって、第一の接触面および第二の接触面は、制動摩擦力の影響下で用量排出中に相対回転運動を受ける。
【0018】
例えば、第二の接触面は、ピストンの一部を形成してもよく、ピストンおよびピストンロッド構造は、回転的に相互係止されてもよく、すなわち、ピストンとピストンロッド構造との間に(一般軸に対して)相対的な角変位を生じることができない状態であってもよい。
【0019】
ピストンとピストンロッド構造との間のこうした回転的な連結は、ピストンが直線的に圧縮される先行技術よりも、用量排出作用の初期段階でのピストンロッド構造の回転的な動きに対してより大きい抵抗をもたらす。これに対する主要な理由は、先行技術にみられるように、ピストンの軸方向圧縮には、ピストン周辺とカートリッジ本体の内部表面との間の動きはほとんどまたは全く関与しないが、一方でピストンとピストンロッド構造とが回転的に相互係止されている時、ピストン周辺は、ピストンロッド構造が回転する時にカートリッジ本体に対して強制的に動かされ、これによって粘性摩擦力の形態の追加的抵抗が導入されるためである。この摩擦力は速度に依存するものであり、すなわち、ピストンを速く動かそうとするとより顕著になる。
【0020】
したがってピストンロッド構造の当初の回転は遅くされ、それが特定の角変位を受けるためにかかる時間を増加させ、また最初の3~5の検出可能な出力がより長い時間にわたり結果的に生成され、これにより連続した二つの出力の識別を容易にすることができる。これは、小用量が排出される時に特に有利でありうる。さらに、ピストンロッド構造の当初の遅延は、用量排出作用全体にわたりより均一に分散された出力を提供し、これは不均一に分散された出力が注入装置の誤作動をもたらさないかというユーザーにとって心配な状況を防止する場合がある。
【0021】
検出可能な出力は、触覚出力、可聴出力、または触覚出力と可聴出力の両方としてもよい。これにより、ユーザーは出力感じること、および/または聴くことができ、各出力は排出される特定の薬物の量に相関するため、一回の用量排出作用の過程で排出される総量は、ユーザーが感じる出力および/または聴く出力の回数を計数することにより、判断されうる。ピストンロッド構造の当初の回転を遅くすることによって、それが触覚出力(例えば、振動など)であるか、または可聴出力(例えば、突然の音など)であるかにかかわらず、ユーザーは各生成された出力を明瞭に識別することができる。
【0022】
触覚および可聴出力の代わりに、例えば、光学的出力または磁気的出力が生成されてもよい。
【0023】
注入装置は、検出可能な出力を電子的に登録し、これによって自動的な用量捕捉を提供し、また手動で計数を行うことからユーザーを解放するように構成された検出機構をさらに備えてもよい。こうした検出機構は、様々な構成で実装されうる。例えば、ピストンロッド構造、またはピストンロッド構造に対して回転的に係止された構成要素が、磁石を含む場合、ピストンロッド構造の回転中に生成される磁場の変化を測定するための静止センサーが提供されてもよく、またセンサー測定値を処理するためにプロセッサーが提供されてもよい。
【0024】
本発明の例示的な実施形態では、出力手段は、他のハウジング部分に対して撓むことができる撓み可能なハウジング部分と、ピストンロッド構造に対して回転的に係止された起動要素とを備え、前記起動要素は、ピストンロッド構造とともにハウジングに対して特定の角変位を受けるのに応答して撓み可能なハウジング部分の撓みを生じるように配置され、また検出機構は、撓み可能なハウジング部分上に配置されたセンサーであって、撓み可能なハウジング部分の撓みを検出するように適合されたセンサーと、センサーに電子的に接続され、かつセンサーによって検出された撓みを処理するように構成されたプロセッサーと、を備える。
【0025】
ピストンロッド足部は、ピストンの端部分の中へと押し込まれる複数の、例えば、円周方向に等距離で間隔を置いた突起を備えてもよい。これによって、ピストンロッド構造の回転中にピストンを従動させるために、ピストンロッド構造からピストンへと対称なトルク分布が伝達されうる。本発明の特定の実施形態では、ピストンロッド足部は、正反対にあるこうした二つの突起を含む。
【0026】
別の方法として、ピストンは、第一の硬度および第一の圧縮永久歪みを有する第一の境界面材料を含んでもよく、またピストンロッド足部は、第一の境界面材料と加圧当接するように配置され、第一の硬度より小さい第二の硬度、および第一の圧縮永久歪みよりも高い第二の圧縮永久歪みを有する、第二の境界面材料を含んでもよい。これによって、ピストンとピストンロッド足部との間の粘着接続が、ピストンおよびピストンロッド構造との接合部の回転を確実にするために提供されうる。
【0027】
ピストンの一部を形成する代わりに、第二の接触面がピストンロッド足部の一部を形成してもよく、これによって、ピストンに回転的に相互係止接続することなしに、ピストンロッド構造の当初の回転の遅延が達成されうる。例えば、ピストンロッド足部には、カートリッジ本体の内部表面と接触して配置された、または配置されるように適合された、例えば、ゴム製の、リップ様の構造が提供されてもよい。
【0028】
本発明の特定の実施形態では、第二の接触面は、上述の第二の境界面材料から形成され、また当初のピストンロッド構造の動きの望ましい遅れは、それゆえに回転するピストンとカートリッジ本体の内部表面に沿って摺動するそれぞれの表面を有する回転するピストンロッド足部との組み合わせによって達成される。
【0029】
注入装置は、ピストンロッド構造を回転させるためにエネルギーを放出するように適合された電力ユニットをさらに備えてもよい。出力ユニットは、例えば、圧縮バネもしくはねじりバネなどのバネ部材、圧縮ガスアクチュエータ、電気化学アクチュエータ、ろうアクチュエータ、形状記憶合金、またはエネルギーを貯蔵および放出することができるような構造であってもよく、またはこれらを備えてもよい。
【0030】
本発明の第二の態様では、a)一般軸に沿って延びるハウジングと、b)カートリッジ本体、貫通可能な隔壁、およびピストンを備え、一緒にして液体物質を保持するように適合された可変容積リザーバーを画定する、カートリッジであって、ハウジングに対して回転的に固定されているカートリッジと、c)液体物質の用量をカートリッジから排出するための用量排出機構であって、ピストンを前進させるためのピストンロッド構造を備え、ピストンロッド構造がハウジングと螺合し、かつ回転するように適合されたピストンロッドを備え、これによって、用量排出中にカートリッジ本体に対して螺旋状の動きを受ける、用量排出機構と、d)所定の用量増分の排出に対応するピストンロッドのある角変位において検出可能な出力を生成する出力手段であって、それによって用量排出事象中に生成される検出可能な出力の総数が排出用量のサイズを表示する、出力手段と、e)検出可能な出力を電子的に登録するように適合された検出手段とを備える、ペン型注入装置が提供される。ペン型注入装置は、ピストンロッドの回転運動を遅くするように構成されたブレーキ機構をさらに備え、ブレーキ機構は、ピストンの一部を形成する第一接触面と、第一の接触面と接触して配置された、または配置するように適合された第二の接触面とを備え、第二の接触面はピストンロッドに対して回転的に係止される。
【0031】
これによって注入装置が提供され、ピストンと第二の接触面との間の接触境界面の摩擦がピストンロッドの回転運動を制動し、結果として注入装置上または注入装置によって実施される用量排出作用の初期段階でより識別可能な出力が出力手段によって生成される。
【0032】
ピストンロッド構造は、ピストンと調和するように適合されたピストンロッド足部をさらに備えてもよい。ピストンロッド足部は、ピストンロッドへと回転的に係止されてもよく、またはピストンロッドと回転的に独立していてもよい。ピストンロッド足部がピストンロッドへと回転的に係止されている場合、第二の接触面はピストンロッド足部の一部を形成してもよく、また第一の接触面はピストンの近位端の一部分を構成してもよい。例示的な実施形態では、ピストンロッド足部はピストンロッドの一部を形成する。
【0033】
例えば、ピストンロッド足部がピストンロッドとは回転的に独立している場合など、別の場合には、第二の接触面は、例えば、ピストンロッドの遠位端部分などのピストンロッドの一部を形成してもよく、また第一の接触面は、ピストンの近位端の一部分、例えば、ピストンロッドの遠位端部分を隙間なく受容するように形成された窪みを構成してもよい。
【0034】
出力手段および検出手段は、例えば、上記に例示されるように実現されてもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「遠位」および「近位」という用語は、薬物送達装置に沿った位置または方向を示し、「遠位」は薬物出口端を指し、また「近位」は薬物出口端の反対側の端を指す。
【0036】
本明細書において、特定の態様または特定の実施形態(例えば、「態様」、「第一の態様」、「一実施形態」、「例示的な実施形態」など)への言及は、それぞれの態様または実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または、特性が、少なくとも本発明のその一態様または実施形態に含まれるか、または固有のものであるが、必ずしも本発明のすべての態様または実施形態であるわけでもそれらに含まれるわけでもないことを、表明する。しかしながら、本発明に関連して説明した様々な特徴、構造および/または特性の任意の組み合わせが、本明細書に明示的に記載されていない限り、または明確に文脈上矛盾しない限り、本発明に包含されることが強調される。
【0037】
本文中のありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、など)の使用は、単に本発明をよりよく明らかにすることを意図したものであり、別段の特許請求がされていない限り、本発明の範囲を制限するものではない。さらに、本明細書中のいずれの言語または言い回しも、特許請求されていないいずれかの要素が本発明の実施に必須であると示しているとは解釈されない。
【0038】
以下において、本発明を、図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な実施形態による注入装置の分解組立図である。
【
図3a】
図3aは、注入装置の一部分の長軸方向の断面図であり、それぞれ送達される最初の用量を設定する直前の状態における注入装置、および最初の用量の送達の直後の状態における、注入ボタンの解放前の注入装置を示す。
【
図3b】
図3bは、注入装置の一部分の長軸方向の断面図であり、それぞれ送達される最初の用量を設定する直前の状態における注入装置、および最初の用量の送達の直後の状態における、注入ボタンの解放前の注入装置を示す。
【
図4a】
図4aは、別の断面平面における注入装置の一部分の長軸方向の断面図である。
【
図4b】
図4bは、別の断面平面における注入装置の一部分の長軸方向の断面図である。
【
図5】
図5は、用量送達検出機構を示す、注入装置ハウジングの近位部分の斜視図である。
【
図6】
図6は、注入装置ハウジングの近位部分の近位斜視図である。
【
図7】
図7は、注入装置の断面図であり、用量設定検出機構を示す。
【
図8】
図8は、ピストンとピストンロッド部材との間の例示的な連結を示す、注入装置の一部分の長軸方向断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の別の例示的な実施形態による注入装置の一部分の長軸方向断面図である。
【
図10】
図10は、
図9の注入装置に使用されるピストンワッシャーの斜視正面図である。
【
図11】
図11は、付属のピストンロッドをともなうピストンワッシャーの斜視背面図である。
【
図12】
図12は、本発明のさらなる例示的な実施形態による注入装置の一部分の長軸方向断面図である。
【
図13】
図13は、本発明のなおさらなる例示的な実施形態による注入装置の一部分の長軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図面において、同様の構造物は、主として同様の参照番号で識別される。
【0041】
以下の相対的な表現において、「時計回り」および「反時計回り」、「左」および「右」などの相対的な表現が使用される場合、これらは添付の図を参照し、必ずしも使用の実際の状況を参照しない。示される図は、概略表現であり、そのため、異なる構造の構成だけでなく、その相対的寸法も、例示的な目的のみを果たすことが意図される。
【0042】
図1は、本発明の例示的な第一の実施形態によるペン注入装置1の分解組立図である。ペン注入装置1は、わずかに湾曲した情報表示表面3およびより従来通りに湾曲した反対側の表面4を有する円筒状ハウジング2を備える。ハウジング2は、その遠位端で開口部5を通して挿入された薬物を収容するカートリッジ10を適合する。カートリッジ10(ほぼ円筒形状のカートリッジ本体10.1を有する)は、その遠位端において貫通可能な自己密閉隔壁11によって、また近位端においてゴムピストン15によって閉じられ、カートリッジホルダ12によってハウジング2内に保持され、一対のスナップアーム14によってハウジング2の近位内部表面にスナップ止めされる。カートリッジホルダ12はさらに針マウント13を有し、これによって注入針ユニット(図示せず)のための取り付け境界面として機能する。
【0043】
ハウジング2には、カートリッジ内容物の点検のための長軸方向のウィンドウ6が提供され、用量設定機構および注入機構の両方をさらに適合する。カートリッジ10内のピストン15は、ハウジング2の一部を形成するナット部材17(
図3aを参照)を通して螺旋状に前進するように配置された非円形断面の細長い二重螺刻ピストンロッド60によって変位されるように適合される。ピストンロッド60の遠位端は半径方向に拡大されており、ピストン15と機械的に相互作用するように適合されたピストンロッド足部61を提供する。対向する二つのスパイク62は、ピストンロッド足部61の遠位端面から軸方向で遠位方向に延びる。ピストンロッド足部61の遠位端面がピストン15の近位端面に当接する時、その外部はゴム材料を備え、スパイク62はゴムの中へと貫通してその中に内在し、ピストンロッド60とピストン15との間の回転的相互係止接続を確立する。薬物の排出中に、ピストンロッド60は、下記にさらに説明するように、設定ナット30によって作動された結果としてピストンロッド足部61を介してピストン15上に圧力を加え、かつピストン15にトルクを適用する。
【0044】
設定ナット30は、外側環状壁31およびピストンロッド60を受容するための円形の開口部33を有する内側ナット構造32を有する。内側ナット構造32は、対向する一対のスペーサ脚部35によって外側環状壁31から半径方向に分離される。クラッチ20は、設定ナット30の遠位に配置され、かつピストンロッド60と噛み合い係合するための歯付きリム21および非円形構成の中央開口部22を有し、両者の回転相互係止を提供する。クラッチ20は、ハウジング2に回転的に係止されている近位用量設定位置と、ハウジング2に関して自由に回転する遠位用量排出位置との間で、ハウジング2内で軸方向に移動可能である。
【0045】
用量ダイヤルノブ50は、ハウジング2の中へとその近位端から延びる。用量ダイヤルノブ50は、端部ボタン53の操作によってハウジング2の長軸方向軸を中心として回転可能な円筒状の主本体51を備える。端部ボタン53のすぐ遠位に主本体51には波型カラー52が設けられる。端部ボタン53は、ハウジング2に対する用量ダイヤルノブ50の遠位移動を制限するように機能する主本体51よりも大きい直径を有する。いくつかのフック付きのフィンガー54が、クラッチ20上のフック付きスタブ23(
図3aを参照)と係合するために主本体51の遠位端において提供され、用量ダイヤルノブ50とクラッチ20との間に軸方向に相互係止接続を提供する。一対の対向するスロット55は、波型カラー52からフック付きフィンガー54へと長軸方向に延びる。各スロット55は、スペーサ脚部35のうちの一つを受容するように適合され、用量ダイヤルノブ50と設定ナット30との間で回転的に相互係止されるが、軸方向には自由な接続を提供される。
【0046】
圧縮バネ40は、端部ボタン53の内部表面と設定ナット30の近位表面との間で作用するように配置される。
【0047】
情報表示表面3の中央区域8内のハウジング2に関して、一部の壁材料が除去されて、半径方向に撓み可能な中央カンチレバーアーム8.1を提供し、情報表示表面3の近位区域9では、より多くの壁材料が除去されて、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1と、後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2を提供する。
【0048】
可撓性のラベル80が情報表示表面3に接着される。ラベル80は、ディスプレイ81の形態であるプリント電子機器と、プロセッサーおよびメモリーモジュールを含むチップ82と、中央圧電センサー90と、第一の近位圧電センサー91と、第二の近位圧電センサー92と、電池95と、チップ82を他の電子構成要素の各々と電気的に接続する様々なリード線85とを担持する。ラベル80は、中央圧電センサー90が中央カンチレバーアーム8.1上に定置され、第一の近位圧電センサー91が、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1上に定置され、かつ第二の近位圧電センサー92が、後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2上に定置されるように、情報表示表面3上に設置される。
【0049】
図2は、情報表示表面3に接着されたラベル80を詳述する組み立てた状態のペン注入装置1を示す。ディスプレイ81は、2セグメントの百の桁81.1および二つの7セグメントの十の桁、一の桁、81.2および81.3を備える16セグメントエレクトロクロミックディスプレイである。表示81は、チップ82によって制御される範囲[0単位;199単位]の用量数を示すことができる。中央圧電センサー90は、中央のカンチレバーアーム8.1の半径方向の撓みの間、曲げられ、そしてチップ82によって検出される短いピーク信号を結果的に発する。同様に、第一の近位圧電センサー91は、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1の半径方向の撓みの間、曲げられ、また第二の近位圧電センサー92は、後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2の半径方向の撓みの間、曲げられ、各近位圧電センサー91、92は、曲げられたことに応答してチップ82へと信号を発する。圧電センサーのいずれかからの電圧出力は、チップ82内のプロセッサーを目覚めさせるのに十分である。
【0050】
図3aおよび
図3bは両方とも、最初の用量を設定する直前の、および最初の用量の排出を完了した直後のそれぞれの、ペン注入装置1の(およそ)近位の半分の長軸方向の断面図である。
【0051】
図4aは、
図3aに示す状態でのペン注入装置1の中央部の別の断面平面での長軸方向の断面図であり、また
図4bは、同様に、
図3bに示す状態でのペン注入装置1の中央部の別の断面平面での長軸方向の断面図である。
【0052】
したがって、
図3aおよび
図4aは、ペン注入装置1の用量設定状態での様々な構成要素の相互関係位置を示す。具体的には、用量設定状態では、端部ボタン53が圧縮バネ40によってハウジング2の近位端から軸方向に間隔を置き、フック付きフィンガー54とフック付きスタブ23との間の境界面が、それに応じてクラッチ20を近位用量設定位置に維持することを、
図3aから見ることができる。この位置では、クラッチ20は、歯付きリム21とハウジングの内部に形成されたいくつかの長軸方向のスプライン18(
図4aを参照)との間の係合に起因して、ハウジング2に対して回転的に係止される。クラッチ20は、ハウジング2内の停止表面16によって、この位置を超えるさらなる近位変位から防止される。
【0053】
一方で、
図3bおよび
図4bは、ペン注入装置1の薬物排出状態、より具体的には、薬物排出機構によって実施される薬物排出作用の終了時における状態で、そして同時に端部ボタン53がハウジング2に対して押されている状態における、様々な構成要素の相互関連位置を示す(
図3bを参照)。こうした用量ダイヤルノブ50が押された状態では、フック付きフィンガー54はクラッチ20を遠位用量排出位置へと押し込むことになり、ここで歯付きリム21はスプライン18から係脱されることがわかる(
図4b参照)。また、薬物排出作用の終了時に、設定ナット30の外側環状壁31が、スプライン18のそれぞれの近位端表面によって構成されるハウジング2内の投与終了停止部19に対して置かれることもわかる(
図4b参照)。
【0054】
図5は、薬物排出作用中のクラッチ20と中央のカンチレバーアーム8.1との間の相互作用を図示するための断面の斜視図である。クラッチ20が用量排出位置で回転する時、歯付きリム21はハウジング2の内部壁表面に沿って動き、そして歯付きリム21上の歯が、中央のカンチレバーアーム8.1上の内向きに方向付けられた突起部8.2が通過するとき、中央のカンチレバーアーム8.1が、半径方向外向きに撓み、また戻り、クリックを生成する。クラッチ20の角変位は、クラッチ20とピストンロッド60との間の回転の相互係止関係に起因して、排出される薬物の量と相関し、そしてこの実施形態では、中央のカンチレバーアーム8.1の各々のこうした撓みの戻りは、排出された薬物の一つの増分単位に対応する。したがって、ペン注入装置1のユーザーは、中央のカンチレバーアーム8.1からのクリックの数を数えることによって、投与した用量を判定することができる場合がある。
【0055】
図6は、近位カンチレバーアーム9.1、9.2の内部壁部分を示す、ハウジング2の近位端部分の斜視図である。前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1には内向きに方向付けられた突起部9.3が設けられ、また後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2には別の内向きに方向付けられた突起部9.4が設けていることがわかる。
【0056】
図7は、ペン注入装置1の近位端部分を通した断面図であり、用量設定作用中の波型カラー52と近位カンチレバーアーム9.1、9.2との間の相互作用を図示する。波型カラー52が用量ダイヤルノブ50の一部を形成するので、端部ボタン53の回転によって、波型カラー52の対応する回転が生じる。
図7に示される波型カラー52とハウジング2との相対位置では、中央隆起部52.0が内向きに方向付けられた突起部9.3、9.4の間に定置される。一方で、中央隆起部52.0のすぐ左にある第一の左隆起部52.1は、内向きに方向付けられた突起部9.3の左側面に隣接して定置され、中央隆起部52.0のすぐ右にある第一の右隆起部52.2は、内向きに方向付けられた突起部9.4の右側面に隣接して定置される。
【0057】
この位置から端部ボタン53を時計回りに回転させると、最初に第一の左隆起部52.1が内向きに方向付けられた突起部9.3を通過し始める。これによって、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1を撓ませ、そしてその直後に、中央隆起部52.0が内向きに方向付けられた突起部9.4の通過を開始し、これによって、後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2を撓ませる。
【0058】
逆に、示された位置から端部ボタン53を反時計回りに回転させると、最初に第一の右隆起部52.2が内向きに方向付けられた突起部9.4を通過し始める。これによって、後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2を撓ませ、そしてその直後に、中央隆起部52.0が内向きに方向付けられた突起部9.3の通過を開始し、これによって、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1を撓ませる。波型カラー52上の隆起部が内向きに方向付けられた突起部9.3、9.4のうちの一つを通過するたびに、クリックが生成される。
【0059】
用量ダイヤルノブ50の角変位は、それぞれのスペーサ脚部35とスロット55との間の係合およびナット構造32とピストンロッド60との間のねじ接続により、設定ナット30の軸方向変位と相関しており、それによって送達用の用量セットを決定する。この実施形態では、内向きに方向付けられた突起部9.3、9.4のうちのそれぞれーつを連続して通過する波型カラー52上の二つの隣接する隆起によって引き起こされる近位カンチレバーアーム9.1、9.2の固有の一対の撓みは、一つの増分単位による設定用量の変化に対応する。
【0060】
言い換えれば、例えば、端部ボタン53が
図7に示す位置から時計回りに回転した場合に、第一の左隆起部52.1が内向きに方向付けられた突起部9.3を通過し、そして続いて、中央隆起部52.0が、内向きに方向付けられた突起部9.4を通過するとき、一単位だけの用量の変化が生じる。これら二つの隆起部の角変位は、近位カンチレバーアーム9.1、9.2の第一の前方指示の固有の一対の撓みを生成した。端部ボタン53をさらに時計回りに回転させると、第一の左隆起部52.1のすぐ左にある第二の左隆起部52.3が内向きに方向付けられた突起部9.3を通過し、そして続いて、第一の左隆起部52.1が、内向きに方向付けられた突起部9.4を通過したときに、一単位だけの用量の別の変化が生じる。これらの二つの隆起部の角変位は、近位カンチレバーアーム9.1、9.2の第二の前方指示の固有の一対の撓みを生成し、などと続く。
【0061】
一方、端部ボタン53が
図7に示す位置から反時計回りに回転した場合に、第一の右隆起部52.2が内向きに方向付けられた突起部9.4を通過し、そして続いて、中央隆起部52.0が、内向きに方向付けられた突起部9.3を通過するとき、一単位だけの用量の変化が起こる。これら二つの隆起部の角変位は、近位カンチレバーアーム9.1、9.2の第一の後方指示の固有の一対の撓みを生成した。端部ボタン53をさらに反時計回りに回転させると、第一の右隆起部52.2のすぐ右にある第二の右隆起部52.4が内向きに方向付けられた突起部9.4を通過し、そして続いて第一の右隆起部52.2が、内向きに方向付けられた突起部9.3を通過したときに、一単位だけの用量の別の変化が生じる。これらの二つの隆起部の角変位は、近位カンチレバーアーム9.1、9.2の第二の後方指示の固有の一対の撓みを生成し、などと続く。
【0062】
具体的には、各前方指示の固有の一対の撓みは、一単位だけの設定用量の段階的な増加を生じ、また各後方指示の固有の一対の撓みは、一単位だけの設定用量の段階的な減少を生じる。
【0063】
以下では、本発明を、第一の実施形態によるペン注入装置1の使用に関連して説明する。
【0064】
図2では、ペン注入装置1は、用量設定状態にあり、ここでは端部ボタン53はハウジング2から軸方向に間隔を置いている。この状態では、カートリッジ10から送達される用量は、ユーザーが端部ボタン53を長軸方向軸を中心として回転させることによって設定される。
【0065】
ピストンロッド60は、ナット部材17内のねじと噛み合う第一の非自己係止ねじと、ナット構造32内のねじと噛み合う重なり合う逆巻の第二の非自己係止ねじを備え、2:1の機械的利点を提供する。
【0066】
設定ナット30と用量ダイヤルノブ50との間の回転的な相互係止関係に起因してナット構造32は、ダイヤルアップ動作で端部ボタン53が(ペン注入装置1の近位端から見て)時計回りに回転する時、ピストンロッド60の第二の非自己係止ねじに沿って近位に移動する。用量設定位置のクラッチ20は、ピストンロッド60がハウジング2に対して回転するのを防止する。設定ナット30の近位変位は、これによってエネルギーを貯蔵する圧縮バネ40を圧縮する。
【0067】
用量ダイヤルノブ50は、圧縮バネ40が最大使用時圧縮を経験するときであっても、波型カラー52とそれぞれの内向きに方向付けられた突起部9.3、9.4との間の係合に起因して、端部ボタン53に対するユーザーが誘発するトルクの非存在下で回転することが防止される。早期に伸びる圧縮バネ40によって生じる設定ナット30の意図しない遠位戻り変位が、これによって防止される。したがって、クラッチ20が、ピストンロッド60の回転が防止されているその用量設定位置にある限り、設定ナット30は、ハウジング2に対する並進運動を実施することができず、ユーザーがダイヤルダウン動作で端部ボタン53を反時計回りに回転させた場合にのみ、第二の非自己係止ねじに沿った螺旋状の遠位運動を実施することができる。したがって、圧縮バネ40は、ユーザーが用量設定動作を完了した時に圧縮されたままである。
【0068】
設定ナット30をピストンロッド60の第二の非自己係止ねじに沿って動かすことによって、上述のように、波型カラー52の隆起部はそれぞれの内向きの突起部9.3、9.4を通過し、前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1および後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2の撓みを生じる。前方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.1の各撓みにて、第一の近位圧電センサー91は第一のセンサー信号を発し、また後方指示の半径方向に撓み可能な近位カンチレバーアーム9.2の各撓みにて、第二の近位圧電センサー92が第二のセンサー信号を発する。
【0069】
したがって、上記の説明による各前方指示の固有の一対の撓みは、第二のセンサー信号が続く第一のセンサー信号からなる、前方指示の固有の信号対、SPfを促す。チップ82は、このような前方指示の固有の信号ペアを登録すると直ちに、現在表示されている数字に追加される単位の形態の増加増分によって、表示81を更新するよう構成される。
【0070】
これに対応して、上記の説明による各後方指示の固有の撓みの対は、第一のセンサー信号が続く第二のセンサー信号からなる、後方指示の固有の信号対SPbを促し、チップ82は、このような後方指示の固有の信号ペアを登録すると直ちに、現在表示されている数字から減算される単位の形態の減少増分によって、表示81を更新するよう構成される。したがって、表示81は、設定用量のリアルタイムの電子的な視覚的表示を提供する。
【0071】
設定用量(
図3bを参照)を排出するため、ハウジング2に対して端部ボタン53を押すことによって、フック付きフィンガー54がその用量排出位置へと遠位にクラッチ20を付勢し、これによって歯付きリム21をスプライン18から係脱し(
図4bを参照)、かつ圧縮バネ40を解放する。圧縮バネ40から貯蔵されたエネルギーは設定ナット30を遠位に押し、そしてナット構造32の結果としてもたらされる並進運動が、ピストンロッド60およびクラッチ20を回転させる。したがって、ピストンロッド60は、ナット部材17を通して螺旋状に前進し、またピストンロッド足部61上のスパイク62によって、ピストン15は、カートリッジ10に対して螺旋状の遠位の動きを受け、これによって、設定された薬物の用量を取り付けられた注入針(図示せず)を通して排出する。
図8は、ペン注入装置1の遠位の(ほぼ)半分の長軸方向断面図であり、ピストンロッド60とピストン15との間の回転的相互係止接続を示す。
【0072】
従来の当初のその圧縮とは対照的に、ピストン15の当初の螺旋状の動きが、ピストン15とカートリッジ10との間の接触境界面に摩擦を導入し、これがピストンロッド60の回転に対する抵抗を著しく増加させる。ピストン15の周辺部分15.1とカートリッジ本体10.1の内部表面10.2との間に生じる摩擦は速度依存性の粘性摩擦であり、これは当初のバネ力(またはトルク)が、バネが次第に緩むのに伴う、生成される力(またはトルク)の固有の低下を考慮して大きいため、薬物排出機構がバネにより動力供給される本発明の実施形態では特に顕著になる。
【0073】
結果として、クラッチ20の回転は減速され、また中央のカンチレバーアーム8.1によって生成されるクリックの間の時間は、電子的におよびヒトの耳によっての両方で二つの連続するクリックの間の明確な識別を可能にするのに十分なだけ増加する。
【0074】
薬物の排出は、ピストンロッド60が、およびこれによってクラッチ20も回転を停止する地点である、外側環状壁31が投与終了停止部19に当接するまで続く。薬物排出作用の間のクラッチ20の角変位により、歯付きリム21の歯は、内向きに方向付けられた突起部8.2を通過し、上述のように、中央のカンチレバーアーム8.1の撓みを生じる。中央のカンチレバーアーム8.1の各撓みにおいて、中央圧電センサーは中央センサー信号Scを発し、またチップ82は、こうした中央センサー信号を登録すると直ちに、現在表示されている数字から減算される単位の形態の減少増分によって、表示81を更新するよう構成される。したがって、表示81は、排出される薬物の用量のリアルタイムの電子的な視覚的表示も提供する。
【0075】
通常進行中の用量送達中に、外側環状壁31が投与終了停止部19に達し、そして「0」または薬物排出作用が終了したことを示すその他の何らかの表示が表示される地点でクラッチ20が回転を停止するまで、表示器81は、投与のカウントダウンを示す。しかしながら、チップ82は、受信した中央センサー信号の数字が、登録された前方指示の特有の信号対の数から後方指示の固有の信号ペアの数字を差し引いた数字と等しくない場合、すなわち、ΣSc≠ΣSPf-ΣSPbである場合、表示81を更新して、「--」のような、エラー表示を表示するようにさらに構成される。
【0076】
あらゆる正常に進行する用量送達(ここで、ΣSc=ΣSPf-ΣSPb))の場合、チップ82は、送達される用量のサイズおよび対応する送達時間を表す値を保存するように構成される。保存されたデータは、例えば、無線通信リンク(図示せず)を介して外部装置(図示せず)に転送されてもよく、または外部装置によって要求されてもよい。
【0077】
図9は、本発明の別の実施形態によるペン注入装置の遠位部分の長軸方向断面図である。具体的には、図はハウジング102内に適合されたカートリッジ本体110.1を有するカートリッジ110を示す。ピストンロッド160は、カートリッジ110内に収容される薬物の用量を排出するために、二構成要素ピストンワッシャー161(
図10を参照)を介して圧力を加え、かつカートリッジ110のピストン115にトルクを適用するように構成される。本発明のこの第二の実施形態によるペン注入装置は、これまでに開示されているペン注入装置1と基本的に、かつ機能的に類似しており、ピストン115とピストンロッド160との間の回転連結のみがこれまでの解決策とは異なる。
【0078】
ピストンワッシャー161は、剛直なワッシャーコア165およびより柔らかい境界面本体162を備え、後者はピストン115との相互作用に適した遠位端面163と、カートリッジ本体110.1の内部表面110.2との機械的接続のためのリップ164との両方を提供する。より具体的には、遠位端面163は、複数の突起199を持つピストン115の近位端面に当接するように適合される。ワッシャーコア165および境界面本体162は、固定的に接続され、すなわち、二つの間には相対回転運動が起こりえない。
【0079】
図10は、ピストンワッシャー161の斜視遠位図であり、一方で
図11はピストンワッシャー161の斜視近位図であり、ピストンロッド160の遠位部分も示している。見ることができるように、ピストンロッド160は非円形の断面および正方形遠位端169を有する。ワッシャーコア165は、正方形の遠位端169を受容するように構成された近位に面した空洞166を提供するように形成され、それによってピストンロッド160とピストンワッシャー161との間に回転的に相互係止された接続を提供する。よって、ハウジング102に対するピストンロッド160の各角変位は、ピストンワッシャー161へと伝達される。
【0080】
カートリッジ本体110.1の内部表面110.2と境界面を形成するリップ164は、ピストンワッシャー161の角変位に対する摩擦抵抗を提供し、これはピストンロッド160の回転の初期速度を、それ自体で当初のクリックを可聴的および/または電子的な識別が可能なレベルにまで低減するのに十分な程度のものである。
【0081】
しかしながら、この特定の実施形態では、さらに、境界面本体162は、ピストン115の近位端面より柔らかく、かつピストン115よりも高い圧縮永久歪みを有する材料で作製される。この結果、ピストンワッシャー161およびピストン115が互いに対して押された時に、突起199は遠位端面163の中へと沈み、突起は実際にはそれ自体の変形を回避する。境界面本体162は、約60%の圧縮永久歪みを有するTPEである。数時間のみの加圧された接触の後、ピストン115の近位端面への遠位端面163の接着はとても強力なものとなり、ピストンワッシャー161とピストン115との間の回転的相互係止接続が確立され、したがってピストンロッド160の回転はピストン115の従動的な回転を結果的にもたらし、これによって、ピストン115の周辺部分115.1は、カートリッジ本体110.1の内部表面110.2に沿って摺動し、ピストンロッド160の制動に対する追加的な寄与を提供することになる。
【0082】
図12は、本発明のなお別の例示的な実施形態による注入装置の中央部分の長軸方向断面図である。図は、ハウジング202へと取り付けられ、かつピストン215によって密封されるカートリッジ210を示す。ピストンロッド260は、ハウジング202と螺合され、かつ用量投与中に遠位方向に螺旋状に前進するように適合される。ピストンロッド足部261は、ピストンロッド260の軸方向変位がピストンロッド足部261に伝達され、かつさらにピストン215に伝達されるように、ピストンロッド260の遠位部分を中心として配置される。
【0083】
ピストンロッド260は、ピストン215の近位部分の窪み215.2内に隙間なく適合される遠位スタッド264内で終わる。ピストンロッド260が回転する時、ピストンロッド260を減速させる回転しないピストン215に起因して、スタッド264は窪み215.2に対して摩擦に影響された動きを受ける。したがって、ピストンロッド260の角変位は、例えば、上述の機構に類似した機構を使用して判定することがより容易になる。
【0084】
図13は、本発明のなお別の例示的な実施形態による注入装置の中央部分の長軸方向断面図である。図は、ハウジング302に取り付けられ、かつピストン315によって密封されるカートリッジ310を示す。ピストンロッド360は、ハウジング302と係合し、かつ用量投与中に遠位方向に螺旋状に前進するように適合される。
【0085】
ピストンロッド足部361は、その遠位端においてピストンロッド360と一体的に形成される。ピストンロッド足部361は、ピストン315の近位端表面315.2と当接して配置され、したがって、回転するピストンロッド360の回転中に、すなわち用量投与中に、回転しないピストン315に起因して、近位端表面315.2に対して摩擦に影響された動きを受ける。したがって、ピストンロッド360の回転は遅くされ、例えば、上述のものと類似したカンチレバーアームによって生成される各信号の捕捉が可能になる。