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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】アナログ増幅用真空管
(51)【国際特許分類】
   H01J 19/12 20060101AFI20220303BHJP
   H01J 19/42 20060101ALI20220303BHJP
   H01J 21/22 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H01J19/12
H01J19/42
H01J21/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019564732
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000500
(87)【国際公開番号】W WO2019139074
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2018003162
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】000117940
【氏名又は名称】ノリタケ伊勢電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】龍田 和典
(72)【発明者】
【氏名】中尾 剛啓
(72)【発明者】
【氏名】江崎 智隆
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-040346(JP,A)
【文献】特開2007-188848(JP,A)
【文献】特開2016-134299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 19/12
H01J 19/42
H01J 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を放出する直線状に張られたフィラメントと、
前記フィラメントと平行に配置されたアノードと、
前記フィラメントと前記アノードの間に、前記アノードと対向するように配置されたグリッドと、
真空環境で使用可能な薄膜を有し、前記薄膜が前記フィラメントの一部に接触する防振部と、
を備え
前記フィラメントは前記アノードとの位置関係が一定の固定部と、前記アノードとの位置関係が一定の部材に弾性体を介して固定された可動部を有し、
前記防振部の前記薄膜は、前記アノードよりも前記固定部に近い位置で前記フィラメントに接触する
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項2】
熱電子を放出する直線状に張られたフィラメントと、
前記フィラメントと平行に配置されたアノードと、
前記フィラメントと前記アノードの間に、前記アノードと対向するように配置されたグリッドと、
真空環境で使用可能な薄膜を有し、前記薄膜が前記フィラメントの一部に接触する防振部と、
を備え、
前記薄膜は、カーボン系材料、アルミニウム、またはマグネシウムの薄膜である
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項3】
熱電子を放出する直線状に張られたフィラメントと、
前記フィラメントと平行に配置されたアノードと、
前記フィラメントと前記アノードの間に、前記アノードと対向するように配置されたグリッドと、
真空環境で使用可能な薄膜を有し、前記薄膜が前記フィラメントの一部に接触する防振部と、
を備え、
前記薄膜は、グラファイトの薄膜である
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項4】
熱電子を放出する直線状に張られたフィラメントと、2組のグリッドとアノードを有するアナログ増幅用真空管であって、
前記アノードの両方は、平面基板上の同一の面に形成され、
前記フィラメントは、前記平面基板と平行に、前記アノードの両方と対向する位置に配置され、
前記グリッドのそれぞれは、同じ組の前記アノードと第1所定間隔を有して対向し、前記フィラメントと第2所定間隔を有するように、前記アノードと前記フィラメントとの間に配置され、
前記フィラメントを、2組の前記アノード同士の中間点に対応する位置で固定するフィラメント中間固定部と、
真空環境で使用可能な薄膜を有する2つの防振部と、
を備え、
一方の前記防振部の前記薄膜が前記フィラメント中間固定部と一方の前記アノードに対向する部分との間で前記フィラメントに接触し、他方の前記防振部の前記薄膜が前記フィラメント中間固定部と他方の前記アノードに対向する部分との間で前記フィラメントに接触する
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項5】
請求項1または4記載のアナログ増幅用真空管であって、
前記薄膜は、カーボン系材料、アルミニウム、またはマグネシウムの薄膜である
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項6】
請求項1または4記載のアナログ増幅用真空管であって、
前記薄膜は、グラファイトの薄膜である
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載のアナログ増幅用真空管であって、
前記薄膜が前記フィラメントと接触する幅は0.5mm以上2mm以下である
ことを特徴とするアナログ増幅用真空管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ増幅器として動作するアナログ増幅用真空管に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽業界を中心に真空管の特性を好むユーザからの要望があるので、アナログ増幅器として使用する真空管の需要はあり、アナログ増幅器として使用できる真空管は存在する。しかし、製造量が減っており、価格の上昇や入手が困難という課題がある。一方、真空管の一種であり、安価で普及している蛍光表示管は、アナログ増幅用には使用しにくい。特許文献1,2の技術は、安価で入手しやすい蛍光表示管に近い構造であって、アナログ増幅器として動作させやすい真空管を提供できる技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-134298号公報
【文献】特開2016-134299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2の技術では、フィラメントの振動が増幅特性に影響を与えやすいという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、フィラメントの振動による増幅特性への影響を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアナログ増幅用真空管は、フィラメント、アノード、グリッド、防振部を備える。フィラメントは、直線状に張られ、熱電子を放出する。アノードは、フィラメントと平行に配置されている。グリッドは、フィラメントとアノードの間に、アノードと対向するように配置されている。防振部は、真空環境で使用可能な薄膜を有し、薄膜がフィラメントの一部に接触する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアナログ増幅用真空管の特徴によれば、フィラメントの振動の減衰率を高くできるので、フィラメントの振動による増幅特性への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のアナログ増幅用真空管の平面図。
図2】実施例1のアナログ増幅用真空管の正面図。
図3】実施例1のアナログ増幅用真空管の側面図。
図4図1のA-A線での断面図。
図5】アノードと絶縁層をガラス基板上に形成した様子を示す図。
図6】アノードがガラス基板上に形成された様子を示す図。
図7】絶縁層の形状を示す図。
図8】アンカーの三面図(平面図、正面図、側面図)。
図9】グリッドの形状の例を示す図。
図10】ゲッターリングを示す図。
図11】アナログ増幅用真空管を用いた増幅回路の例を示す図。
図12A】フィラメントの振動による増幅回路の出力への影響の変化を示す図であって、防振部を備えていない場合の影響を示す図。
図12B】フィラメントの振動による増幅回路の出力への影響の変化を示す図であって、防振部を備えた場合の影響を示す図。
図13】薄膜の材料を変更して振動による初期ノイズの大きさと1秒あたりの減衰量を調べた結果を示す図。
図14】変形例のアナログ増幅用真空管の平面図。
図15図14のB-B線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
<アナログ増幅用真空管の構成>
図1に本発明のアナログ増幅用真空管の平面図、図2に正面図、図3に側面図、図4図1のA-A線での断面図を示す。アナログ増幅用真空管100は、所定以上の温度で熱電子を放出する直線状に張られたフィラメント110と、2組のグリッド130-1,130-2とアノード120-1,120-2と防振部160-1,160-2を有する。アノード120-1,120-2の両方は、平面基板上(ガラス基板125)の同一の面に形成される。フィラメント110は、平面基板(ガラス基板125)と平行に、アノード120-1,120-2の両方と対向する位置に配置される。グリッド130-1,130-2のそれぞれは、同じ組のアノード120-1,120-2と第1所定間隔を有して対向し、フィラメント110と第2所定間隔を有するように、アノード120-1,120-2とフィラメント110との間に配置される。フィラメント110を、2組のアノード120-1,120-2同士の中間点に対応する位置で固定するフィラメント中間固定部113を備える。さらに、第1所定間隔を0.15mm以上0.35mm以下、第2所定間隔を0.2mm以上0.6mm以下にすればアナログ増幅用として利用しやすくできる。なお、図1ではアノード120-1,120-2の位置が分かるようにグリッド130-1,130-2の一部を記載していない。実際のアナログ増幅用真空管100では、アノード120-1,120-2の上にメッシュ状のグリッド130-1,130-2(図9参照)が存在するので、アノード120-1,120-2は見えにくい状態である。
【0011】
次に、上記の特徴を実現するための構造の具体例を説明する。図5にアノード120-1,120-2と絶縁層をガラス基板上に形成した様子を示す。図6はアノード120-1,120-2がガラス基板上に形成された様子を示す図、図7は絶縁層の形状を示す図である。ガラス基板125は排気穴151を有しており、アノード120-1,120-2はガラス基板125の一方の面上に形成される。アノード120-1,120-2には、アノード端子121-1,121-2が、アノード配線122-1,122-2を介して接続されている。アノード120-1,120-2は、例えばアルミニウムの薄膜で形成すればよい。絶縁層126は、例えば低融点ガラスを用いればよく、アノード用開口部127-1,127-2と端子用開口部128-1,128-2を有している。アナログ増幅用真空管100は、ケース180とガラス基板125とを封着し、排気穴151から空気を抜くことで内部を真空にする。そして、排気穴151には、排気孔栓150がはめられる。図5には示していないが、ガラス基板125のケース180と接触する部分に、封着用の低融点ガラスをさらに配置してもよい。また、外部との電気的な接触は端子190により行う。
【0012】
フィラメント110は直接型のカソードである。例えば、フィラメント110は、直流電流を流すことで650度程度に加熱すると熱電子を放出するように、酸化バリウムのコーティングを施せばよい。この例では、上記の「所定以上の温度」が650度であるが、650度に限定するものではない。図8にフィラメント110に張力を与えるためのアンカー115の三面図(平面図、正面図、側面図)を示す。アンカー本体116の一部には板バネ117の一端が配置されており、板バネ117の他端がフィラメント固定部118である。アンカー115にはSUS(ステンレス鋼材)などを用いればよい。アンカー115はフィラメント支持部材111に取り付けられ、フィラメント110がアンカー115のフィラメント固定部118に溶接などによって固定される。図4中の112は、溶接点を示している。アンカー本体116はアノード120-1,120-2との位置関係が一定の部材であり、溶接点112は、アンカー本体116に弾性体である板バネ117を介して固定されたフィラメント110の可動部である。
【0013】
2組のアノード同士の中間点に対応する位置にはフィラメント中間支持部材119が取り付けられる。フィラメント中間支持部材119にフィラメント110を溶接などによって固定することで、フィラメント中間固定部113が形成される。フィラメント中間固定部113は、アノード120-1,120-2との位置関係が一定であるフィラメント110の固定部である。フィラメント110とアノード120-1,120-2との間隔はフィラメント支持部材111とフィラメント中間支持部材119の長さで決定され、フィラメント110の張力はアンカー115の板バネ117によって調整できる。
【0014】
防振部160-1,160-2は、防振支持部材161-1,161-2に取り付けられる。防振部160-1,160-2を防振支持部材161-1,161-2に取り付ける方法は、機構的に固定してもよいし、耐熱セラミック系接着剤やポリイミド系接着剤などを利用してもよい。そして、防振部160-1,160-2は、真空環境で使用可能な薄膜を有し、薄膜がフィラメント110の一部に接触する。「真空環境で使用可能な」とは、アナログ増幅用真空管100の内部の真空度で使用可能であればよい。例えば、カーボン系材料、アルミニウム、またはマグネシウムの薄膜を用いればよい。フィラメント110と接触する薄膜の幅は0.5~2mm程度とすればよいが、この幅に限定する必要はなく、適宜決めればよい。接触の方向は、ガラス基板125側から押し上げる方向でもよいし、ガラス基板125側に押し下げる方向でもよい。また、接触時の力も振動を減衰させやすい強さに適宜調整すればよい。
【0015】
上述のとおり、フィラメント110はアノード120-1,120-2との位置関係が一定の固定部(フィラメント中間固定部113)と、アノード120-1,120-2との位置関係が一定の部材(アンカー本体116)に弾性体(板バネ117)を介して固定された可動部(溶接点112)を有する。この場合、防振部160-1,160-2は、固定部の近傍(アノードよりも固定部に近い位置)でフィラメント110に接触するようにすればよい。このように配置すれば、振動によって生じるフィラメント110の直線方向の移動によるこすれを防止できる。図1の例では、一方の防振部160-1の薄膜は、フィラメント中間固定部113と一方のアノード120-1に対向する部分との間で、フィラメント110に接触する。他方の防振部160-2の薄膜は、フィラメント中間固定部113と他方のアノード120-2に対向する部分との間で、フィラメント110に接触する。
【0016】
フィラメント110は、直流電流が流れることで加熱され熱電子を放出できる所定の温度以上まで加熱される。しかし、溶接点112とフィラメント中間固定部113では、フィラメント支持部材111,フィラメント中間支持部材119への伝熱があるので、その近傍ではフィラメント110の温度は熱電子を放出できる所定以上の温度まで加熱できない。そこで、グリッド130-1,130-2のそれぞれの中心は、フィラメント110の片端(溶接点112の一方)から1/4の位置と対向しており、フィラメント中間固定部113は、フィラメント110を2分する位置(2つの溶接点112の中点)にすればよい。また、振動を減衰できる範囲で、防振部160-1,160-2をフィラメント中間固定部113(フィラメント110の固定部)の近傍に配置すればよい。このような配置にすれば、アノード120-1,120-2と対向する位置のフィラメント110は、フィラメント支持部材111,フィラメント中間支持部材119から最も離れた位置にできるので、フィラメント110から十分な熱電子を放出させることができる。
【0017】
図9にグリッドの形状の例を示す。グリッド130はメッシュ状であり、SUSなどで形成すればよい。上述のとおり、図1ではアノード120-1,120-2を分かりやすく示すためにグリッド130の一部の記載を省略している。実際のグリッド130-1,130-2は、図9に示したグリッド130である。また、グリッド130-1,130-2はグリッド支持部材132-1,132-2に固定されている。グリッド支持部材132-1,132-2の板厚によって、アノード120-1,120-2とグリッド130-1,130-2との間隔、フィラメント110とグリッド130-1,130-2との間隔が決められている。
【0018】
つまり、アナログ増幅用真空管100では、アノード120-1,120-2とグリッド130-1,130-2の間隔(第1所定間隔)が0.15mm以上0.35mm以下であることは、グリッド支持部材132-1,132-2で実現している。そして、フィラメント110とグリッド130-1,130-2の間隔(第2所定間隔)が0.2mm以上0.6mm以下であることは、フィラメント支持部材111,フィラメント中間支持部材119とグリッド支持部材132-1,132-2で実現している。
【0019】
図10にゲッターリング140を示す。ゲッターリング140は、高周波誘導加熱によりフラッシュし、ケース180内の一部に金属バリウム膜を蒸着させることで、真空度を高めるもしくは真空度を保つ役割を果たす。ゲッターシールド142は、ゲッターリング140を、フィラメント110、グリッド130-1,130-2、アノード120-1,120-2に対して遮蔽するため部材である。蛍光表示管の場合には、ゲッターリングはケース内のどこに配置しても表示器の特性への影響は無視できるので、ゲッターリングの位置を特性の面から考慮する必要はなかった。しかし、2組のアノード120-1,120-2とグリッド130-1,130-2を、ステレオ信号用のアンプとして使用する場合、2組のアンプの特性を揃えるためにはゲッターリング140の影響を無視できないことが分かった。したがって、2組のアンプの特性をそろえるために、ゲッターリング140は、グリッド130-1,130-2のそれぞれから等距離に配置することが望ましい。
【0020】
図11にアナログ増幅用真空管100を用いた増幅回路の例を示す。フィラメント110は直流電圧源310(例えば0.7V)が接続され、熱電子を放出する所定の温度(例えば650度)まで加熱される。アノード120-1,120-2にはアノード電圧源320が抵抗330-1,330-2を介して印加される。そして、例えば、所定のバイアスが付加されたステレオの左チャンネルの信号vがグリッド130-1に入力され、同じバイアスが付加されたステレオの右チャンネルの信号vがグリッド130-2に入力される。この場合、アノード端子121-1の電圧Vが左チャンネルの出力、アノード端子121-2の電圧Vが右チャンネルの出力である。
【0021】
<防振部の効果と材質>
アナログ増幅用真空管100は図11のような増幅回路に用いるので、フィラメント110が振動すると、フィラメント110とアノード120-1,120-2との間隔が変化してしまい、増幅特性に影響を与えてしまう。図12A図12Bにフィラメントの振動による増幅回路の出力への影響の変化を示す。図12Aは防振部を備えていない場合、図12Bはグラファイトの薄膜を有する防振部を備えた場合を示している。グラファイトの薄膜の厚さは0.1mm、フィラメントに接触する幅は1.5mm程度とした。横軸は時間(秒)を示しており、縦軸は振動を加えたときからの振幅の変化を示している。防振部を備えていない場合、振動が2秒以上たっても十分には減衰していないことが分かる。一方、グラファイトの薄膜をフィラメント110に接触させた場合、すぐに振動は減衰し、0.2秒程度でほぼ振動のない状態に戻ることが分かる。
【0022】
図13に薄膜の材料を変更して振動による初期ノイズの大きさと1秒あたりの減衰量を調べた結果を示す。三角は防振部が無い場合、四角はグラファイトの薄膜の場合、×はアルミ箔を薄膜としている場合である。グラファイトの薄膜の厚さは0.1mm、フィラメントに接触する幅は1.5mm程度である。アルミ箔には一般的なアルミフォイルを用いた。具体的には、アルミ箔の厚さは12μm、フィラメントに接触する幅は1.5mm程度である。横軸は増幅回路で生じた初期ノイズ(任意単位:arbitrary unit)、縦軸は1秒あたりの減衰量を示している。防振部がない場合に比べ、グラファイトの薄膜またはアルミ箔を用いた防振部がある場合の方が、初期ノイズも小さく、減衰も速いことが分かる。つまり、材料の選択によって減衰特性をよりよくできるが、少なくとも防振部を設けることで防振部がない構成よりは減衰特性をよくできる。したがって、真空度の高い環境で使用でき、薄膜を形成できる材料であれば、グラファイト、アルミに限定しなくてもフィラメントの振動の減衰率を高くできる。例えば、グラファイト以外のカーボン系材料(ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブなど)、マグネシウムでもよい。また、グラファイトの薄膜は、樹脂シートを高熱処理して作成したものでもよいし、グラファイト粉末を圧縮加工したものでもよいし、金属板上にグラファイトペーストを印刷または塗布して形成したものでもよい。
【0023】
なお、フィラメントの振動による特性への影響は蛍光表示管でも指摘され、いくつかの対策が提案されている。しかし、蛍光表示管と本発明の対象であるアナログ増幅用真空管とは以下のように異なるため、蛍光表示管のための対策は、アナログ増幅用真空管には用いることができない。人は、蛍光表示管の明るさを視覚で認識するので、50Hz程度の振動は認識できても100Hz程度以上の振動は認識できない。よって、蛍光表示管の場合は、100Hz以下の振動を防げば十分である。一方、音楽での使用を前提としているアナログ増幅用真空管の場合、人は出力される音を聴覚で認識するので、100Hz以上の振動でも認識できる。アナログ増幅用真空管の場合、人に認識されにくくするには、10kHz以下あるいは20kHz以下の振動を防ぐ必要がある。また、蛍光表示管の場合、アノードと対向する範囲のフィラメントの温度が一様でないと、蛍光表示管の明るさにムラが生じてしまう。よって、蛍光表示管の場合、振動を防ぐ対策は、アノードと対向する範囲のフィラメントの温度を一様な状態に維持する必要がある。一方、音楽での使用(アナログ増幅用)では、左チャンネルと右チャンネルの特性を揃える必要はあるが、明るさのムラは関係ないので、アノードと対向する範囲のフィラメントの温度を一様にする必要はない。また、防振部が視覚的に目立っても構わない。そこで、本発明では、薄膜を用いることで、幅を持たせてフィラメントと接触させる。本発明の場合、フィラメントの温度低下の範囲が広がるので温度を一様にはできないが、蛍光表示管向けの防振の対策よりも高い周波数の振動を減衰できる。
【0024】
[変形例1]
図14に変形例のアナログ増幅用真空管の平面図、図15図14のB-B線での断面図を示す。アナログ増幅用真空管200は、アノード120とグリッド130と防振部160の組が1組だけである点、ゲッターリング140の位置、フィラメント110の固定方法がアナログ増幅用真空管100と異なる。図14でも、アノード120の位置を分かりやすくするためにグリッド130の一部を記載していないが、グリッド130は図9と同じである。アナログ増幅用真空管200では、アノード120とグリッド130の組が1組だけなので、特性を調整するためにゲッターリング140の位置を制限する必要がない。そこで、ゲッターリング140は、アナログ増幅用真空管200の端の方にゲッターリング支持部材242に保持された状態で設置されている。
【0025】
アナログ増幅用真空管200ではアンカー115は一方のフィラメント支持部材111のみに取り付けられている。アンカー115が取り付けられていないフィラメント支持部材111の場合は、フィラメント支持部材111のフィラメント固定部114にフィラメント110を溶接などによって固定すればよい。この場合は、アノード120との位置関係が一定の固定部は、フィラメント固定部114である。アノード120との位置関係が一定の部材(アンカー本体116)に弾性体(板バネ117)を介して固定された可動部は、アンカー115が取り付けられている側の溶接点112である。防振部160は、アノード120よりも固定部(フィラメント固定部114)に近い側に配置されている。
【符号の説明】
【0026】
100,200 アナログ増幅用真空管 110 フィラメント
111 フィラメント支持部材 112 溶接点
113 フィラメント中間固定部 114,118 フィラメント固定部
115 アンカー 116 アンカー本体
117 板バネ 119 フィラメント中間支持部材
120 アノード 121 アノード端子
122 アノード配線 125 ガラス基板
126 絶縁層 127 アノード用開口部
128 端子用開口部 130 グリッド
132 グリッド支持部材 140 ゲッターリング
142 ゲッターシールド 150 排気孔栓
151 排気穴 160 防振部
161 防振支持部材 180 ケース
190 端子 242 ゲッターリング支持部材
310 直流電圧源 320 アノード電圧源
330 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図12A
図12B
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