(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】強度、延性および成形性が改善された被覆鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20220303BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220303BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20220303BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20220303BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20220303BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C23C2/06
C23C2/12
C23C26/00 B
(21)【出願番号】P 2020099141
(22)【出願日】2020-06-08
(62)【分割の表示】P 2017506687の分割
【原出願日】2015-08-07
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2014/001492
(32)【優先日】2014-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・マセ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・エル
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034716(JP,A)
【文献】特開2009-209450(JP,A)
【文献】特開2013-019047(JP,A)
【文献】特開2008-063604(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051238(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-11/00
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5%から25%の間の変態区間フェライトであって、変態区間フェライトが
、721℃からAc3の間の焼鈍の間に形成されるフェライトであるものと、少なくとも10%の残留オーステナイトと、少なくとも50%の分配されたマルテンサイトであって、分配されたマルテンサイトが、鋼板の公称炭素含有率よりも低い炭素含有率を有するマルテンサイトであるものと、10%未満の新たなマルテンサイトと、ベイナイトとを含有し、分配されたマルテンサイトおよびベイナイトの合計は、少なくとも60%である微細構造を有する鋼板を、化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
0.05%未満のNi、0.02%未満のMo、0.03%未満のCu、0.007%未満のV、0.0010%未満のB、0.005%未満のS、0.02%未満のPおよび0.010%未満のN;
Nb含有量は、0.05%に限定され、およびTi含有量は、0.05%に限定される、
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼から作られた鋼板を熱処理することにより、製造する方法であって、熱処理が、連続する以下の工程
- 鋼板を、TA1=Ac3-0.45×(Ms-QT)からTA2=830℃の間の焼鈍温度TAで30秒を超える時間加熱および焼鈍する工程、[ここで、QTは180℃から300℃の間の焼き入れ温度である]
- 鋼板を180℃から300℃の間の焼き入れ温度QTまで冷却することにより、鋼板を焼き入れする工程、
- 380℃から480℃の間の温度PTまで鋼板を加熱し、および10秒から300秒の間の時間Pt、鋼板を前記温度で維持する工程、
- 少なくとも25℃/秒の冷却速度で室温まで鋼板を冷却する工程
を含む方法。
【請求項2】
0.17%≦C≦0.21%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1.3%≦Si≦1.6%である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2.1%≦Mn≦2.3%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
鋼板を温度PTまで時間Ptの間加熱する工程中、温度PTが430℃から480℃の間であり、時間Ptが10秒から90秒の間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
鋼板を温度PTまで時間Ptの間加熱する工程中、温度PTが380℃から430℃の間であり、時間Ptが10秒から300秒の間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
被覆鋼板を製造するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、該方法が、時間Ptの間、温度PTまで鋼板を加熱する工程と、室温まで鋼板を冷却する工程との間に、鋼板を溶融めっきする工程を含む、方法。
【請求項8】
溶融めっき工程が、亜鉛めっき工程である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
溶融めっき工程が、AlまたはAl合金浴を使用して行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
被覆鋼板を製造するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、該方法が、鋼板を室温まで冷却した後、電気亜鉛めっきまたは真空被覆のいずれかによって鋼板を被覆する工程を含む、方法。
【請求項11】
分配されたマルテンサイトと、新たなマルテンサイトと、ベイナイトとの合計が、少なくとも65%である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
鋼板の化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
0.05%未満のNi、0.02%未満のMo、0.03%未満のCu、0.007%未満のV、0.0010%未満のB、0.005%未満のS、0.02%未満のPおよび0.010%未満のN;
Nb含有量は、0.05%に限定され、およびTi含有量は、0.05%に限定される、を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、該鋼板が、5%から25%の間の変態区間フェライ
トと、少なくとも50%の分配されたマルテンサイトであって、分配されたマルテンサイトが、鋼板の公称炭素含有率よりも低い炭素含有率を有するマルテンサイトであるものと、少なくとも10%の残留オーステナイトと、10%未満の新たなマルテンサイトと、ベイナイトとを含み、分配されたマルテンサイトおよびベイナイトの合計は、少なくとも60%である微細構造を有する鋼板。
【請求項13】
0.17%≦C≦0.21%である、請求項12に記載の鋼板。
【請求項14】
1.3%≦Si≦1.6%である、請求項12または請求項13に記載の鋼板。
【請求項15】
2.1%≦Mn≦2.3%である、請求項12から14のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項16】
鋼板が、ZnまたはZn合金で被覆されている、請求項12から15のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項17】
鋼板が、AlまたはAl合金で被覆されている、請求項12から15のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項18】
鋼板が、少なくとも550MPaの降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度、少なくとも12%の均一伸び、少なくとも18%の全伸び、および少なくとも30%の穴広げ率を有する、請求項12から17のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項19】
分配されたマルテンサイトと、新たなマルテンサイトと、ベイナイトとの合計が、少なくとも65%である、請求項12から17のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項20】
白色の車体用部品を製造するための、請求項12から19のいずれか一項に記載のまたは請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって製造された鋼板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、延性および成形性が改善された高強度被覆鋼板の製造方法ならびにそれにより得られた鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造部材および車体パネルの部品等の各種機器を製造するには、DP(二相)鋼やTRIP(変態誘起塑性)鋼から製造された被覆板を用いるのが普通である。
【0003】
例えば、マルテンサイト微細構造および/またはいくらかの保留オーステナイトを含み、約0.2%のC、約2%のMn、約1.7%のSiを含むそのような鋼は、約750MPaの降伏強度、約980MPaの引張強度、8%を超える全伸びを有する。これらの鋼板は、Ac3変態点より高い焼鈍温度からMs変態点を超える過時効温度まで焼き入れし、所与の時間鋼板をその温度に維持することにより、連続焼鈍ラインで製造される。次に、鋼板は、溶融亜鉛めっきまたは電気亜鉛めっきのいずれかがなされる。
【0004】
地球環境保全の観点から、自動車の軽量化を図り、燃費を向上させるためには、降伏強度および引張強度が改善した鋼板を有することが望ましい。しかし、そのような鋼板は、良好な延性および良好な成形性も持たなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
US2014/170439号は、少なくとも1000MPaの機械的強度を有する鋼板を製造する方法を開示する。さらに、焼き入れおよび分配として知られている熱処理は、「The quenching and partitioning process: background and recent progress」、John G.Speerら、Materials Research、8巻、No.4、2008年4月において一般的な用語で開示される。
【0006】
この点において、少なくとも550MPaの降伏強度YS、約980MPaの引張強度TS、少なくとも12%の均一伸びおよび少なくとも18%の全伸びを備える鋼板を有することが望ましいことが留保される。また、損傷に対して高い耐性、即ち、少なくとも30%の穴広げ率HERを備える鋼板を有することも望ましい。全体の説明および特許請求の範囲で言及されている穴広げ率は、規格ISO16630:2009に従って測定される。従って、本発明の目的は、そのような鋼板およびその鋼板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、5%から25%の間の変態区間フェライトと、少なくとも10%の保留オーステナイトと、少なくとも50%の分配されたマルテンサイトと、10%未満の新たなマルテンサイトと、ベイナイトとを含有し、分配されたマルテンサイトおよびベイナイトの合計が少なくとも60%を含む微細構造を有する鋼板を、鋼板の化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板を熱処理することにより、鋼板を製造する方法であって、熱処理および被覆操作が、連続する以下の工程
-鋼板を、TA1=Ac3-0.45×(Ms-QT)[ここで、QTは180℃から300℃の間の焼き入れ温度である]からTA2=830℃の間の焼鈍温度TAで30秒を超える時間加熱および焼鈍する工程、
-鋼板を180℃から300℃の間の焼き入れ温度QTまで冷却することにより、鋼板を焼き入れする工程、
-380℃から480℃の間の分配温度PTまで10秒から300秒の間の分配時間、鋼板を加熱する工程、
-少なくとも25℃/秒の冷却速度で室温まで鋼板を冷却する工程
を含む該方法に関する。
【0008】
好ましくは、本発明による方法では、0.17%≦C≦0.21%である。
【0009】
別の実施形態では、本発明による方法において、1.3%≦Si≦1.6%である。
【0010】
別の実施形態では、本発明による方法において、2.1%≦Mn≦2.3%である。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明による方法において、10秒から90秒の間の分配時間について、分配温度PTは430℃から480℃の間である。
【0012】
別の実施形態では、本発明による方法において、10秒から300秒の間の分配時間について、分配温度PTは380℃から430℃の間である。
【0013】
第1の実施形態では、被覆鋼板を製造するために、方法は分配時間Ptの間、分配温度PTまで鋼板を加熱する工程と、室温まで鋼板を冷却する工程との間に、鋼板を溶融めっきする工程を含む。
【0014】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、溶融めっき工程は亜鉛めっき工程である。
【0015】
別の実施形態では、本発明による方法は、AlまたはAl合金浴を使用して、溶融めっき工程が行われる。
【0016】
第2の実施形態では、被覆鋼板を製造するために、方法は、鋼板を室温まで冷却した後、電気亜鉛めっきまたは真空被覆のいずれかによって鋼板を被覆する工程を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、マルテンサイトとベイナイトとの合計は少なくとも65%である。
【0018】
本発明の目的は、鋼板の化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、その微細構造が、5%から25%の間の変態区間フェライト、少なくとも50%の分配されたマルテンサイト、少なくとも10%の残留オーステナイト、10%未満の新たなマルテンサイト、およびベイナイトを含み、分配されたマルテンサイトとベイナイトとの合計は少なくとも60%である鋼板にも関する。
【0019】
好ましくは、本発明による鋼板は、0.17%≦C≦0.21%である。
【0020】
別の実施形態では、本発明による鋼板は、1.3%≦Si≦1.6%である。
【0021】
別の実施形態では、本発明による鋼板は、2.1%≦Mn≦2.3%である。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、ZnもしくはZn合金、またはAlもしくはAl合金で被覆される。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、少なくとも550MPaの降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度、少なくとも12%の均一伸び、少なくとも18%の全伸び、および 少なくとも30%の穴広げ率を有する。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、マルテンサイトとベイナイトとの合計が少なくとも65%である。
【0025】
また、本発明は、目的として、鋼板の使用または白色の車体用部品を製造するための記載されたその製造方法も有する。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、5%から25%の間の変態区間フェライトと、少なくとも10%の保留オーステナイトと、少なくとも65%のマルテンサイトおよびベイナイトとを含有する微細構造を有する被覆鋼板を、鋼板の化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板を熱処理し、被覆することにより、製造する方法であって、熱処理および被覆操作が、連続する以下の工程
-鋼板を、TA1=Ac3-0.45×(Ms-QT)[ここで、QTは180℃から300℃の間の焼き入れ温度である]からTA2=830℃の間の焼鈍温度TAで30秒を超える時間加熱および焼鈍する工程、
-鋼板を焼き入れ温度QTまで冷却することにより、鋼板を焼き入れする工程、
-380℃から480℃の間の分配温度PTまで10秒から300秒の間の分配時間、鋼板を加熱する工程、
-室温に冷却した後に電気亜鉛めっきもしくは真空被覆、または鋼板を溶融めっきするいずれかによって鋼板を被覆し、次いで鋼板を室温まで冷却する工程
を含む該方法に関する。
【0027】
好ましくは、本発明による方法は、0.17%≦C≦0.21%である。
【0028】
別の実施形態では、本発明による方法は、1.3%≦Si≦1.6%である。
【0029】
別の実施形態では、本発明による方法は、2.1%≦Mn≦2.3%である。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、10秒から90秒の間の分配時間について、分配温度PTは430℃から480℃の間である。
【0031】
別の実施形態では、本発明による方法は、10秒から300秒の間の分配時間について、分配温度PTは380℃から430℃の間である。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、溶融めっき工程は亜鉛めっき工程または合金化電気亜鉛めっき工程である。
【0033】
別の実施形態では、本発明による方法は、AlまたはAl合金浴を使用して、溶融めっき工程が行われる。
【0034】
この態様によれば、本発明の目的は、鋼板の化学組成が重量%で、
0.15%≦C≦0.25%
1.2%≦Si≦1.8%
2%≦Mn≦2.4%
0.1%≦Cr≦0.25%
Al≦0.5%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、その微細構造は、5%から25%の間の変態区間フェライト、少なくとも10%の残留オーステナイト、ならびに少なくとも65%のマルテンサイトおよびベイナイトを含む鋼板にも関する。
【0035】
好ましくは、本発明による鋼板は、0.17%≦C≦0.21%である。
【0036】
別の実施形態では、本発明による鋼板は、1.3%≦Si≦1.6%である。
【0037】
別の実施形態では、本発明による鋼板は、2.1%≦Mn≦2.3%である。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、ZnもしくはZn合金、またはAlもしくはAl合金で被覆される。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、少なくとも550MPaの降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度、少なくとも12%の均一伸び、および少なくとも18%の全伸びを有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】同じ鋼組成について、焼入れおよびマルテンサイトの分配工程を含まない方法と比較して、本発明の製造方法によって得ることができる一対(引張強度-穴広げ率)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に、しかし制限を加えることなく、同じ鋼組成について、焼入れおよびマルテンサイトの分配工程を含まない方法と比較して、本発明の製造方法によって得ることができる一対(引張強度-穴広げ率)を示す
図1を考慮して説明する。
【0042】
本発明によれば、鋼板は、化学組成が重量%で下記を含む半製品の熱間圧延および冷間圧延によって得られる。
【0043】
-十分な強度を確保し、且つ保留オーステナイトの安定性を向上させるための、0.15から0.25%、好ましくは0.17%から0.21%の炭素。この保留オーステナイト含有率は、十分な均一伸びおよび全伸びを得るために必要である。炭素含有率が0.25%を超える場合には、熱間圧延された鋼板を冷間圧延することが困難になりすぎ、溶接性が不十分である。炭素含有率が0.15%未満である場合には、降伏強度および引張強度レベルがそれぞれ550MPaおよび980MPaに達しないであろう。
【0044】
-オーステナイトを安定化させ、固溶体強化を提供し、被覆性にとって有害である、鋼板の表面で酸化ケイ素を生成することなく過時効の間に炭化物の形成を遅らせるための、1.2%から1.8%、好ましくは1.3%から1.6%のケイ素。
【0045】
-2%から2.4%、好ましくは2.1%から2.3%のマンガン。最小値は、少なくとも65%のマルテンサイトおよびベイナイトを含む微細構造を得るために十分な焼き入れ性、980MPaを超える引張強度を有するために定義され、最大値はMn含有率が2.3%を超える場合に延性に有害である偏析の問題を有することを避けるために定義される。
【0046】
-0.1%から0.25%のクロムが必要である。過時効中のベイナイトの形成を遅らせるために、焼入れ性を高め、保留オーステナイトを安定化させるためには、少なくとも0.1%が必要である。最大0.25%のCrが許容され、飽和効果を超えて、Crを添加することは無駄であり、費用がかかる。
【0047】
-脱酸素の目的で液状鋼に通常添加される0.5%までのアルミニウム。好ましくは、Al含有率は0.05%に制限される。Alの含有率が0.5%を超える場合には、焼鈍中にオーステナイト化温度が高くなりすぎて、鋼板を工業的に製造することが困難になるであろう。
【0048】
残部は鉄および製鋼に起因する残留元素である。この点において、少なくともNi、Mo、Cu、Nb、V、Ti、B、S、PおよびNは、不可避的不純物である残留元素と考えられる。従って、それらの含有率は、Niについては0.05%未満、Moについては0.02%未満、Cuについては0.03%未満、Vについては0.007%未満、Bについては0.0010%未満、Sについては0.005%未満、Pについては0.02%未満、Nについては0.010%未満である。Nb含有率は0.05%に制限され、Ti含有率は0.05%に制限される。何故ならばそのような値を超えると大きな析出物が生じ、成形性が低下して、18%の全伸びに達するのがより困難になるからである。
【0049】
鋼板は、当業者に既知の方法に従って、熱間圧延および冷間圧延することによって調製される。
【0050】
場合により、熱間圧延された鋼板は、熱間圧延鋼板のより良好な冷間圧延性を保証するために、冷間圧延の前に550℃から650℃の範囲の温度TBAで5時間を超えてバッチ焼鈍される。
【0051】
圧延後、鋼板は酸洗いまたは清浄化され、次いで熱処理され、溶融めっき、電気被覆または真空被覆のいずれかが行われる。
【0052】
好ましくは組み合わされた連続焼鈍および溶融めっきライン上で行われる熱処理は以下の工程を含む。
【0053】
-TA1=Ac3-0.45×(Ms-QT)からTA2=830℃の間の焼鈍温度TAで鋼板を焼鈍する工程、ここで、
Ac3=910-203[C]1/2-15.2[Ni]+44,7[Si]+104[V]+31.5[Mo]+13.1[W]-30[Mn]-11[Cr]-20[Cu]+700[P]+400[Al]+120[As]+400[Ti]
Ms=539-423[C]-30.4[Mn]-17.7[Ni]-12.1[Cr]-11[Si]-7.5[Mo]
【0054】
QTは180°から300℃の間でなければならない。
【0055】
化学組成元素は重量%で与えられる。
【0056】
これは、変態区間フェライトの25%という最大割合を確実にし、変態区間フェライト、即ち、約721℃からAc3の間の変態区間焼鈍の間に形成されるフェライトの最低5%を確保するためである。鋼板は焼鈍温度で維持され、即ち、化学組成および微細構造を均質化するのに十分な時間、TA-5℃からTA+10℃の間に維持される。この時間は30秒より長いが、好ましくは300秒を超える必要はない。
【0057】
-180℃から300℃の間である焼き入れ温度QTまで冷却することによって鋼板を焼き入れする工程。このような温度はMs変態点よりも低く、冷却中の多角形のフェライトおよびベイナイトの形成を回避するのに十分高い冷却速度で到達される。Crはそのような形成を避けるのに役立つ。焼き入れによって、それは30℃/秒より高い冷却速度を意味する。焼き入れ直後に、変態区間フェライト、マルテンサイトおよびオーステナイトからなる微細構造を得るために、焼入れ温度は180℃から300℃である。焼入温度QTが180℃未満である場合には、最終構造中の分配されたマルテンサイトの割合が高すぎて、10%を超える十分な量の保留オーステナイトを安定化させることができない。また、焼き入れ温度QTが300℃より高い場合には、分配されたマルテンサイトの割合が低すぎて、所望の引張特性および損傷特性を得ることができない。
【0058】
次いで、この焼き入れ温度から、鋼板を溶融めっきする場合には、鋼板は、380℃から480℃の間、好ましくは430℃から480℃の間の分配温度PTまで再加熱される。この分配工程中、炭素はマルテンサイトから残留オーステナイトに向かって拡散する。従って、この工程の間に、鋼板の公称含有率よりも低い炭素含有率を有する、分配されたマルテンサイトが生成されると同時に、鋼板の公称炭素含有率よりも高い炭素含有率を有する富化オーステナイト相が生成される。
【0059】
例えば、分配温度は、溶融めっきするために鋼板を加熱しなければならない温度、即ち、455℃から465℃の間の温度に等しくすることができる。他方、鋼板をさらに電気亜鉛めっきする場合、または鋼板が被覆されない場合には、分配温度を低くすることができ、即ち、380℃から430℃の間に浸漬することができる。誘導加熱器によって再加熱を行う場合、再加熱速度は高くなり得るが、その再加熱速度は鋼板の最終特性に影響を及ぼさなかった。
【0060】
-鋼板を溶融めっきする場合、鋼板は10秒から300秒の間、好ましくは10秒から90秒の間の時間Ptの間、分配温度PTに維持される。溶融めっき鋼の場合、分配温度PTは好ましくは430℃から480℃の間である。分配温度で鋼板を維持することは、分配中に、鋼板の温度がPT-20℃からPT+20℃の間に留まることを必要とする。
【0061】
場合により、鋼板の温度は、そのような被覆方法が選択される場合には、鋼板を溶融めっきしなければならない温度に等しくなるように、冷却または加熱によって調整される。
【0062】
この場合、溶融めっきは、例えば、亜鉛めっきとすることができるが、被覆中に鋼板が提供される温度が480℃未満のままであれば、全ての金属溶融めっきが可能である。鋼板が亜鉛めっきされる場合、それは通常の条件で行われる。本発明による鋼板は、亜鉛-マグネシウムまたは亜鉛-マグネシウム-アルミニウムのようなZn合金で亜鉛メッキすることもできる。
【0063】
-最後に、鋼板を室温まで冷却する。この工程中、分配工程で炭素が富化されたオーステナイトの一部は新たなマルテンサイトに変態する。従って、新たなマルテンサイトは、公称組成の炭素含有率より高いC含有率を有する。
【0064】
最終冷却中に生じる新たなマルテンサイトの自動焼戻しの影響を避けるために、冷却速度は少なくとも25℃/秒である。鋼板が溶融めっきされる場合には、鋼板を、被覆が適切に凝固するために、公知の技術に従って300℃まで冷却し、次いで新たなマルテンサイトの自動焼戻しを避けるために、少なくとも25℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する。このような影響は引張特性に影響を及ぼし、特に延性を低下させる可能性がある。
【0065】
鋼板が溶融めっきされない場合には、例えば、電気化学的または真空処理によって被覆される場合、または被覆されないままである場合には、新たなマルテンサイトの自己焼戻しの度合いが高すぎるのを避けるのと同じ理由から、鋼板は25℃/秒よりも高い冷却速度で、分配工程後直接冷却される。
【0066】
溶融めっきを使用する代わりに、鋼板は、電気化学的方法、例えば、電気亜鉛メッキ、または冷却工程の後にPVDまたはジェット蒸気蒸着のような任意の真空被覆法によって被覆することができる。ここでもまた、あらゆる種類の被覆を使用することができ、特に亜鉛、または亜鉛-ニッケル、亜鉛-マグネシウムまたは亜鉛-マグネシウム-アルミニウム合金のような亜鉛合金を使用することができる。
【0067】
分配し、室温まで冷却した後、上記被覆方法が何であっても、または鋼板が被覆されない場合、本発明による鋼板は、少なくとも10%の残留オーステナイト、5から25%の変態区間フェライト、少なくとも50%の分配されたマルテンサイト(即ち、公称炭素含有率よりも低い炭素含有率を有するマルテンサイト)、10%未満の新たなマルテンサイト(即ち、公称炭素含有率よりも高い炭素含有率を有するマルテンサイト)およびベイナイトを含み、分配されたマルテンサイトおよびベイナイトの合計(即ち、組み合わせ)は少なくとも60%である。
【0068】
安定な機械的特性を得るためには、マルテンサイト(即ち、分配されたおよび新たな)およびベイナイトの合計は少なくとも65%である。
【0069】
本発明による鋼板は、少なくとも550MPaの降伏強度YS、少なくとも980MPaの引張強度TS、少なくとも12%の均一伸びUE、少なくとも18%の全伸びTEおよび少なくとも30%の穴広げ率HERを有する。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は、例示のためのものであり、本明細書の開示の範囲を限定するものと解釈されることを意味しない。
【0071】
一例として、厚さ1.2mmの鋼板は以下の組成を有する。
C=0.19%、Si=1.5%、Mn=2.2%、Cr=0.2%、Al=0.030%、残部はFeおよび不純物である。Cu、Ni、B、Nb、Ti、V等の不純物元素は全て、0.05%未満の含有率を有する。鋼板は熱間圧延および冷間圧延によって製造された。この鋼板の理論的Ms変態点は369℃であり、計算されたAc3点は849℃である。
【0072】
この鋼板の試料を焼鈍、焼き入れおよび分配によって熱処理し、次いで溶融亜鉛メッキまたは電気亜鉛メッキし、分配工程後の冷却速度は25℃/秒よりも高かった。微細構造を定量化し、機械的特性を測定した。
【0073】
焼鈍処理の条件を表Iに報告し、得られた微細構造を表IIに要約し、機械的特性を表IIIに示す。実施例1から実施例15では、460℃での亜鉛めっき(GI)によって溶融めっきし、実施例16から実施例30では、焼鈍後に電気亜鉛めっき(EZ)した。
【0074】
太字且つ下線の数字のものは、本発明によるものではない。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
これらの表において、TAは焼鈍温度、TA1は下限焼鈍温度、QTは焼入れ温度、PTは分配温度、Ptは分配温度での保持時間、YSは降伏強度、TSは引張強度、UEは均一伸び、TEは全伸びである。
【0079】
微細構造の割合は、鋼板の最終微細構造、即ち、室温での冷却後に関係し、Fは変態区間フェライトの割合、Aは保留オーステナイトの割合、FMは新たなマルテンサイトの割合、PMは分配されたマルテンサイトの割合、Mはマルテンサイトであり、即ち、新たなおよび分配されたマルテンサイトの合計であり、Bはベイナイトの割合である。
【0080】
亜鉛メッキまたは電気亜鉛メッキのいずれかがされた試料1、2、4、5、6、16、17、18、20、21、22および23は、所望の特性、より具体的には延性特性を得るために、焼鈍温度TAを焼き入れ温度QTに応じて設定しなければならないことを示す。選択された分配温度PTがどのようなものであっても、TA温度が低い程、QT温度は低くなる。TA温度とQT温度とを釣り合わせることにより、変態区間焼鈍の終了時に得られる変態区間フェライトの割合に関して、焼き入れ後に、分配されたマルテンサイトの適切な割合を得ることができる。即ち、フェライト割合が高いほど、高強度、十分な延性および高い穴広げの特性を有するために、鋼板の分配されたマルテンサイトの割合が高くなる。
【0081】
試料7から15および試料24から30は、焼鈍温度が830℃を超える場合には、変態区間フェライトの割合が小さすぎて十分な延性を確保することができなくなることを示している。他方、試料3および19は、焼鈍温度が、TA1=Ac3-0.45×(Ms-QT)の関係で計算された焼鈍温度よりも低い場合には、YSは550MPaよりも低いことを示している。実際、高い焼入れ温度QTと組み合わされた低い焼鈍温度TAは、分配されたマルテンサイトの割合が低くなるため、分配されたマルテンサイトおよびベイナイトの割合の組み合わせが低すぎて、550MPaを超える降伏強度を確保することができない。また、分配されたマルテンサイトの割合を減少させると、耐損傷性が低下し、穴拡げ率が30%未満となる。
【0082】
試料31、32および33は、所望の特性YSおよびTSを得ることができるが、所望の穴広げ率を得ることができない異なる微細構造の例である。これらの例では、焼き入れ温度QTでの焼き入れ工程を避けることにより、本発明のものとは熱サイクルが異なる。即ち、鋼板は分配温度PTまで直接冷却され、室温まで冷却される前に時間Pt間、保持される。そのような熱サイクルにより、変態区間フェライトF、ベイナイトB、保留オーステナイトAおよび新たなマルテンサイトFMからなる微細構造が生じ、同様の引張特性を示すが、損傷特性を低下させる。実際、微細構造中に分配されたマルテンサイトが存在しないことにより、鋼板の損傷特性が低下するため本発明の実施例(試料1、2、4、5、6、16、17、18、20、21、22および23)および試料31、32および33の穴広げ率HER対引張強度TSを示す
図1に示すように、穴広げ率が低下する。
【0083】
試料16、17、18、20、21、22および23は、460℃の分配温度および10秒から60秒の間の分配時間で、亜鉛メッキされた鋼板の所望の特性を得ることができることを示す。
【0084】
他方、試料1、2、4、5および6は、400℃の分配温度および10秒から300秒の間の分配時間で、所望の特性を得ることも可能であることを示す。本発明に従った鋼板は、白色の車体の部品を製造するのに使用することができる。