(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20220303BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2020114845
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2021-01-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】新家 一朗
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 太郎
【審査官】大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-7305(JP,A)
【文献】特開2002-104656(JP,A)
【文献】特開平9-252504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、
前記移動体の上方に前記移動体と離間して設けられる天板と、
前記天板の下面に隣り合う極性が異なるように所定の移動方向と平行に配置された複数の永久磁石を含む少なくとも1つの
リニアモータの二次側磁石板と、
所定の
前記磁石板に沿って前記移動体の上面に前記所定の前記磁石板と離間して設けられる複数の励磁コイルを含む
リニアモータの一次側進行制御コイルユニットと、
前記所定の
前記磁石板と同一または異なる
前記磁石板に沿って前記移動体の上面に
前記同一または異なる前記磁石板と離間して設けられ
前記進行制御コイルユニットを挟んで前記移動方向の前後にそれぞれ設けられる複数の励磁コイルを含む少なくとも2つの
前記リニアモータの一次側上方ギャップ制御コイルユニットと、
前記進行制御コイルユニットおよび前記上方ギャップ制御コイルユニットにそれぞれ駆動電流を供給して、
前記磁石板によって発生する磁界と直交する方向の磁界を生じさせ前記進行制御コイルユニットと前記磁石板とに相互に生じる磁力によって前記移動体を前記移動方向に沿って移動させるとともに、
前記磁石板によって生じる磁界の方向と平行な方向の磁界を生じさせ前記上方ギャップ制御コイルユニットと前記磁石版とに相互に生じる磁力によって前記磁石板と前記上方ギャップ制御コイルユニットとの間隔である上方ギャップを制御する制御装置と、
を備える、搬送装置。
【請求項2】
前記進行制御コイルユニットおよび前記上方ギャップ制御コイルユニットが、前記所定の
前記磁石板に沿って同一線上に設けられ、前記制御装置は、前記上方ギャップ制御コイルユニットに、前記駆動電流として、前記磁石板によって生じる磁界の方向と平行な方向に磁界が生じる電流であるd軸電流を供給し、前記進行制御コイルユニットに、前記駆動電流として、前記d軸電流に直交するq軸電流を供給する、
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記移動体の前記移動方向の位置を検出する位置センサをさらに備える、
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記上方ギャップの大きさを検出する少なくとも1つの上方ギャップセンサをさらに備える、
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記上方ギャップセンサは、前記進行制御コイルユニットを挟んで前記移動方向の前後にそれぞれ設けられる、請求項
4に記載の搬送装置。
【請求項6】
前記移動体の側方に前記移動体と離間して設けられる一対の側板をさらに備える、
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項7】
前記移動体の側面に前記側板と離間して設けられる励磁コイルを含む少なくとも1つの側方ギャップ制御コイルユニットをさらに備え、
前記側板の少なくとも前記励磁コイルとの対向面は強磁性体であり、
前記制御装置は前記側方ギャップ制御コイルユニットに電流を供給して
前記側方ギャップ制御コイルユニットと前記側板とに相互に生じる磁力によって前記側方ギャップ制御コイルユニットと前記側板との間隔である側方ギャップを制御する、請求項
6に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記側方ギャップの大きさを検出する側方ギャップセンサをさらに備える、請求項
7に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記移動体の側面に設けられ、前記側板と当接して回転可能に構成されたローラをさらに備える、請求項
8に記載の搬送装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記移動体および前記移動体に固定される部材からなる可動部全体の重力と、前記上方ギャップ制御コイルユニットと前記磁石板間の吸着力とが釣り合うよう、前記上方ギャップ制御コイルユニットに前記駆動電流を供給する、
請求項1に記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置に関する。特に、本発明は、リニアモータ駆動の懸垂式搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、天井にレールを設置し、移動体から吊下げたバケットにコンテナのような物品を積載し、移動体をリニアモータによってレールに沿って走行させるリニアモータ駆動の懸垂式搬送装置が知られている。一般的に、リニアモータ駆動の懸垂式搬送装置においては、レールに磁石板が配置され、台車の移動体の上面に複数の励磁コイルを含む進行制御コイルユニットが配置される。磁石板と進行制御コイルユニットとは、所定のギャップ(以下、上方ギャップという)を介して対向配置される。励磁コイルに駆動電流が供給されると上方ギャップに磁界が発生し、移動体が磁石板に沿って所定の方向に移動する。
【0003】
このような搬送装置においては、磁石板と進行制御コイルユニットとの間の上方ギャップを維持し、移動体の姿勢を保持する姿勢保持手段が設けられることが望ましい。例えば、特許文献1は、姿勢保持手段として、移動体の前後にローラ(クリアランスローラ)を備える搬送装置を開示している。ローラは移動体の移動に伴い、磁石板(マグネットレール)と当接しながら回転し、上方ギャップを一定に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ローラ等の姿勢保持手段は、磁石板に対して吸着力を直接的に発揮している訳ではないので、移動体の搬送を開始または停止する際、慣性により移動体が傾き、上方ギャップが大きくなったり、他の部材と接触したりする可能性がある。
【0006】
また、リニアモータ駆動の搬送装置は非接触で移動体を搬送できるため、クリーンルーム等高い清浄度が要求される空間にも設置される。しかしながら、ローラ等接触式の姿勢保持手段を設ける場合、姿勢保持手段との当接箇所で発塵する可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、非接触な手段で上方ギャップを維持して、より正確に移動体の姿勢を保持可能な搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、移動体と、移動体の上方に移動体と離間して設けられる天板と、天板の下面に隣り合う極性が異なるように所定の移動方向と平行に配置された複数の永久磁石を含む少なくとも1つのリニアモータの二次側磁石板と、所定の磁石板に沿って移動体の上面に所定の磁石板と離間して設けられる複数の励磁コイルを含むリニアモータの一次側進行制御コイルユニットと、所定の磁石板と同一または異なる磁石板に沿って移動体の上面に同一または異なる磁石板と離間して設けられ進行制御コイルユニットを挟んで移動方向の前後にそれぞれ設けられる複数の励磁コイルを含む少なくとも2つのリニアモータの一次側上方ギャップ制御コイルユニットと、進行制御コイルユニットおよび上方ギャップ制御コイルユニットにそれぞれ駆動電流を供給して、磁石板によって発生する磁界と直交する方向の磁界を生じさせ進行制御コイルユニットと磁石板とに相互に生じる磁力によって移動体を移動方向に沿って移動させるとともに、磁石板によって生じる磁界の方向と平行な方向の磁界を生じさせ上方ギャップ制御コイルユニットと磁石板とに相互に生じる磁力によって磁石板と上方ギャップ制御コイルユニットとの間隔である上方ギャップを制御する給電装置と、を備える、搬送装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る搬送装置は、進行制御コイルユニットとは別途、複数の励磁コイルを含む上方ギャップ制御コイルユニットを備える。上方ギャップ制御コイルユニットに駆動電流が供給されることで、磁石板と上方ギャップ制御コイルユニットとの間に吸引力または反発力が生じ、磁石板と上方ギャップ制御コイルユニットとの間隔である上方ギャップが制御され、ひいては磁石板と進行制御コイルユニットとの間の間隔が所定の大きさに制御される。このようにして、より正確に移動体の姿勢を保持できる。また、磁石板と上方ギャップ制御コイルユニットは非接触の状態に保たれるので、発塵が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】本実施形態の進行制御装置を示すブロック図である。
【
図5】本実施形態の上方ギャップ制御装置を示すブロック図である。
【
図6】本実施形態の側方ギャップ制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に説明される各種変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。なお、以下において、移動体2が移動する方向、すなわち
図1における左右方向を移動方向、移動方向に直交する水平方向、すなわち
図2および
図3における左右方向を幅方向という。
【0012】
図1および
図2に示す本実施形態の搬送装置1は、所定の移動体2の上方に発生させた磁力によって移動体2を搬送する、いわゆるリニアモータ駆動の懸垂式搬送装置である。本実施形態の搬送装置1は、台車と、レール3と、磁石板35と、進行制御コイルユニット4と、位置・磁極センサ43と、上方ギャップ制御コイルユニット5と、上方ギャップセンサ53と、側方ギャップ制御コイルユニット6と、側方ギャップセンサ63と、制御装置と、を備える。
【0013】
例えば、移動体2にはバケットが吊り下げられ、バケットに搬送の対象となる物品が積載される。移動体2の上面には、進行制御コイルユニット4と、上方ギャップ制御コイルユニット5と、位置・磁極センサ43と、上方ギャップセンサ53と、がそれぞれ取り付けられる。また、移動体2の側面には、側方ギャップ制御コイルユニット6と、側方ギャップセンサ63と、がそれぞれ取り付けられる。
【0014】
レール3は、移動体2を上方から覆うように所定位置に固定された、例えば断面コ字状の部材である。具体的に、レール3は、移動体2の上方に移動体2と離間して設けられる天板31と、移動体2の側方に移動体2と離間して設けられる一対の側板33と、を含む。本実施形態において一対の側板33は、天板31の幅方向の両端部からそれぞれ下方に立設しているが、天板31と側板33とはそれぞれ分離して設けられてもよい。
【0015】
天板31の下面には、少なくとも1つの磁石板35が設けられる。磁石板35は、移動体2と対向する面の極性がN極である永久磁石35nと、移動体2と対向する面の極性がS極である永久磁石35sとをそれぞれ複数含み、永久磁石35nおよび永久磁石35sは、隣り合う極性が異なるように天板31に交互に配置される。また、永久磁石35nおよび永久磁石35sは、移動方向と平行に配置される。本実施形態においては1つの磁石板35が天板31に設けられ、後述するように、進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5が1つの磁石板35を共用する。このようにすれば、搬送装置1をより小型に構成できるため、好適である。但し、進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5毎に、磁石板35を設けてもよい。進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5を一次側、磁石板35を二次側として、リニアモータが構成される。
【0016】
進行制御コイルユニット4は、例えば、複数の励磁コイル41を含む3相コア付リニアモータ用コイルユニットである。励磁コイル41は、磁石板35に沿って移動体2の上面に磁石板35と離間して設けられる。励磁コイル41が励磁されると、各励磁コイル41と、当該励磁コイル41に隣接する永久磁石35n,35sとの間に発生する吸着力および反発力により、移動体2は浮上するとともに、永久磁石35n,35sの配設方向、すなわち移動方向に搬送される。励磁コイル41は、120°ずつ位相をずらしたu相、v相、w相の3つの位相を有する三相交流で励磁されてもよい。このとき、u相電流、v相電流、w相電流でそれぞれ励磁されるu相コイル41u、v相コイル41vおよびw相コイル41wを1つのセットとして、励磁コイル41は、所定数のセットから構成される。
【0017】
位置・磁極センサ43は、移動体2の移動方向の位置を検出する位置センサ431および永久磁石35n,35sの磁界を検出する磁極センサ433の機能を兼ねるものであり、例えば磁気スケールである。但し、位置センサ431および磁極センサ433はそれぞれ別個に設けられてもよく、例えば、位置センサ431として光学式センサが設けられ、磁極センサ433としてホール素子が設けられてもよい。位置センサ431および磁極センサ433としては任意のセンサが使用されればよいが、非接触式のものが好ましい。なお、本実施形態において、位置・磁極センサ43は進行制御コイルユニット4に取り付けられているが、移動体2に直接、または他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。また、本実施形態では、移動体2の位置および速度を測定するにあたり、位置センサ431および磁極センサ433を用いてインクリメンタルタイプの位置計測を行うが、これに限定されない。例えば、位置・磁極センサ43として、光学式センサ、静電容量式センサ、レーザ干渉式センサ、磁気式センサ等の任意の直線位置検出器が使用されてもよい。また、アブソリュートタイプの位置計測が行われてもよく、このとき、磁極センサ433は省略可能である。
【0018】
上方ギャップ制御コイルユニット5は、例えば、複数の励磁コイル51を含む3相コア付リニアモータ用コイルユニットである。励磁コイル51は、磁石板35に沿って移動体2の上面に磁石板35と離間して設けられる。前述の通り、励磁コイル41と対向する磁石板35と、励磁コイル51と対向する磁石板35とは、同一である、すなわち励磁コイル41と励磁コイル51とで磁石板35を共用することが好ましい。但し、複数の磁石板35を設け、それぞれ異なる磁石板35を励磁コイル41および励磁コイル51と対向配置させてもよい。励磁コイル51が励磁されると、各励磁コイル51と、当該励磁コイル51と対面する永久磁石35nまたは永久磁石35sとの間に発生する吸着力または反発力により、磁石板35と上方ギャップ制御コイルユニット5との間隔である上方ギャップが制御される。励磁コイル51は、三相交流で励磁されてもよい。このとき、u相電流、v相電流、w相電流でそれぞれ励磁されるu相コイル51u、v相コイル51vおよびw相コイル51wを1つのセットとして、励磁コイル51は、所定数のセットから構成される。上方ギャップ制御コイルユニット5は、進行制御コイルユニット4を挟んで移動方向の前後にそれぞれ1つずつ設けられることが望ましい。
【0019】
上方ギャップセンサ53は、上方ギャップの大きさを検出するものであり、例えば赤外線センサである。上方ギャップセンサ53としては任意のセンサが使用されればよいが、非接触式のものが好ましい。上方ギャップセンサ53は、進行制御コイルユニット4を挟んで移動方向の前後にそれぞれ1つずつ設けられることが望ましい。本実施形態において、各上方ギャップセンサ53は各上方ギャップ制御コイルユニット5に取り付けられているが、移動体2に直接、または他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。
【0020】
進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5が1つの磁石板35を共用するとき、進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5は、1つの磁石板35に沿って同一線上に設けられる。また、進行制御コイルユニット4の励磁コイル41を励磁させるにあたり、進行制御コイルユニット4には駆動電流としてq軸電流が供給される。q軸電流は、u相電流、v相電流およびw相電流に変換され、u相コイル41u、v相コイル41vおよびw相コイル41wにそれぞれ供給される。上方ギャップ制御コイルユニット5の励磁コイル51を励磁させるにあたり、上方ギャップ制御コイルユニット5には駆動電流としてd軸電流が供給される。d軸電流は、u相電流、v相電流およびw相電流に変換され、u相コイル51u、v相コイル51vおよびw相コイル51wにそれぞれ供給される。d軸電流は、磁石板35によって生じる磁界の方向と平行な方向、すなわちN極方向に磁界が生じる電流である。また、q軸電流は、d軸電流に直交する電流である。換言すれば、d軸電流とq軸電流とは、90°位相がずれている。
【0021】
以上のような構成の搬送装置1によれば、上方ギャップの大きさを制御することで、移動体2の姿勢を保持することができる。このとき、磁石板35と上方ギャップ制御コイルユニット5は非接触の状態に保たれるので、接触による発塵が抑制される。特に、本実施形態においては、進行制御コイルユニット4および上方ギャップ制御コイルユニット5は、1つの磁石板35を共有して移動体2の移動と上方ギャップの制御を行うので、搬送装置1全体の大きさをよりコンパクトに構成することができる。
【0022】
移動体2を搬送するにあたり、移動体2の幅方向の位置も規制されることが望ましい。換言すれば、側方ギャップ制御コイルユニット6と側板33との間隔である側方ギャップは一定に保たれることが望ましい。本実施形態においては、側方ギャップ制御コイルユニット6および側方ギャップセンサ63により、側方ギャップの制御が行われる。
【0023】
側方ギャップ制御コイルユニット6は、例えば、1つ以上の励磁コイル61を含む単相交流電磁石または直流電磁石である。励磁コイル61は、移動体2の側面に側板33と離間して設けられる。このとき、側板33の少なくとも励磁コイル61との対向面は、強磁性体である。励磁コイル61が励磁されると、各励磁コイル61と側板33との間に発生する吸着力により、側方ギャップが制御される。側方ギャップ制御コイルユニット6が単相交流電磁石であるとき、側方ギャップ制御コイルユニット6は単相交流で励磁される。側方ギャップ制御コイルユニット6が直流電磁石であるとき、側方ギャップ制御コイルユニット6は直流で励磁される。単相交流電磁石または直流電磁石である側方ギャップ制御コイルユニット6は、移動体2の両側面に1つずつ設けられる。
【0024】
また、側方ギャップ制御コイルユニット6は、複数の励磁コイルを含む3相コア付リニアモータ用コイルユニットであってもよい。励磁コイルは、三相交流で励磁されてもよい。このとき、u相電流、v相電流、w相電流でそれぞれ励磁されるu相コイル、v相コイルおよびw相コイルを1つのセットとして、励磁コイルは、所定数のセットから構成される。3相コア付リニアモータ用コイルユニットである側方ギャップ制御コイルユニット6は、移動体2の両側面に1つずつ設けられてもよい。また、側板33の励磁コイルとの対向面には、強磁性体として、磁石板35が設けられてもよい。この場合、3相コア付リニアモータ用コイルユニットである側方ギャップ制御コイルユニット6は、移動体2の側面に1つ設けられればよい。
【0025】
側方ギャップセンサ63は、側方ギャップの大きさを検出するものであり、例えば赤外線センサである。側方ギャップセンサ63としては任意のセンサが使用されればよいが、非接触式のものが好ましい。本実施形態において、側方ギャップセンサ63は一方の側方ギャップ制御コイルユニット6に取り付けられているが、移動体2に直接、または他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。
【0026】
また、側方ギャップは、他の手段で制御されてもよい。例えば、
図3に示す変形例においては、側板33と当接して回転可能に構成されたローラ7が、移動体2の両側面に1つずつ設けられる。なお、
図3においては、実施形態と同様の部材については同一の符号を付与しており、詳細な説明は省略する。
【0027】
発塵の抑制という観点からは、側方ギャップは、側方ギャップ制御コイルユニット6および側方ギャップセンサ63といった非接触式の規制手段で制御されることが望ましい。但し、移動体2の搬送時において幅方向に加わる力は比較的少ないので、ローラ7のような接触式の規制手段が使用されてもよい。
【0028】
制御装置は、進行制御コイルユニット4、上方ギャップ制御コイルユニット5および側方ギャップ制御コイルユニット6にそれぞれ駆動電流を供給し、移動体2を移動方向に沿って移動させるとともに、上方ギャップおよび側方ギャップの大きさを制御する。制御装置は、進行制御装置81と、上方ギャップ制御装置83と、側方ギャップ制御装置85と、を含む。
【0029】
図4に示すように、進行制御装置81は、進行制御部811と、位相算出器812と、PI制御部813a,813bと、逆dq変換部814と、パワーアンプ815と、ADコンバータ816と、dq変換部817と、を有する。
【0030】
位相算出器812には、磁極センサ433が検出した永久磁石35n,35sの磁界を示す磁極信号mpおよび位置センサ431によって検出した移動体2の現在位置を示す位置信号poが入力される。位相算出器812は、磁極信号mpおよび位置信号poに基づき磁石板35の磁界の位相を算出し、磁石板35の磁界の位相を示す位相信号phを逆dq変換部814およびdq変換部817に出力する。
【0031】
進行制御部811は、上位装置80から入力される移動指令porefと、位置センサ431から入力される位置信号poに基づき、移動体2の目標位置および速度を算出する。磁石板35に対し、進行制御コイルユニット4が発生させる移動方向の推力は、q軸電流値Aiqに比例する。そのため、進行制御部811は、q軸電流を駆動電流として進行制御コイルユニット4に供給するために、q軸電流指令AiqrefをPI制御部813aに出力する。一方、進行制御装置81は、d軸電流を進行制御コイルユニット4に供給しない。すなわち、進行制御部811は、値が0であるd軸電流指令AidrefをPI制御部813bに出力する。
【0032】
PI制御部813aおよびPI制御部813bは、それぞれPI演算を行うことにより、q軸電流指令Aiqrefをq軸電圧指令AVqrefに変換し、d軸電流指令Aidrefをd軸電圧指令AVdrefに変換する。逆dq変換部814は、位相信号phに基づき、q軸電圧指令AVqrefおよびd軸電流指令Aidrefをdq逆変換してu相電圧指令AVuref、v相電圧指令AVvrefおよびw相電圧指令AVwrefを算出し、パワーアンプ815に出力する。
【0033】
パワーアンプ815は、u相電圧指令AVuref、v相電圧指令AVvrefおよびw相電圧指令AVwrefに基づき、所望のu相電圧AVu、v相電圧AVvおよびw相電圧AVwを、進行制御コイルユニット4のu相コイル41u、v相コイル41vおよびw相コイル41wにそれぞれ供給する。
【0034】
このようにして、進行制御コイルユニット4に、磁石板35に発生する磁界と位相が約90°ずれた磁界が生じ、進行制御コイルユニット4と磁石板35とに相互に生じる磁力により、移動体2は所望の移動方向に走行する。
【0035】
なお、移動体2の進行制御に際して、フィードバック制御がなされることが望ましい。具体的に、ADコンバータ816は、パワーアンプ815が出力したu相電圧AVu、v相電圧AVvおよびw相電圧AVwの値を読み取り、U相電流値AVu、v相電流値AVvおよびw相電流値AVwに変換する。dq変換部817は、位相信号phに基づき、U相電流値AVu、v相電流値AVvおよびw相電流値AVwをdq変換してq軸電流値AVqおよびd軸電流値Aidを算出する。q軸電流指令Aiqrefおよびd軸電流指令Aidrefは、q軸電流値AVqおよびd軸電流値Aidにより補正される。
【0036】
図5に示すように、上方ギャップ制御装置83は、上方ギャップ制御部831と、位相算出器832と、PI制御部833a,833bと、逆dq変換部834と、パワーアンプ835と、ADコンバータ836と、dq変換部8
17と、を有する。
【0037】
位相算出器832には、磁極信号mpおよび位置信号poが入力される。位相算出器832は、磁極信号mpおよび位置信号poに基づき、位相信号phを逆dq変換部834およびdq変換部817に出力する。なお、位相算出器812および位相算出器832は、進行制御装置81および上方ギャップ制御装置83にそれぞれ個別に設けられてもよいし、1つの位相算出器が兼用されてもよい。
【0038】
上方ギャップ制御部831は、上方ギャップセンサ53から入力される現在の上方ギャップの大きさを示す上方ギャップ信号tgapと、dq変換部817から入力されるd軸電流値Bidと、所定の設定値に基づき、上方ギャップの補正値を算出する。磁石板35に対し、上方ギャップ制御コイルユニット5が発生させる鉛直方向の吸着力または反発力は、d軸電流値Bidと相関がある。そのため、上方ギャップ制御部831は、d軸電流を駆動電流として上方ギャップ制御コイルユニット5に供給するために、d軸電流指令BidrefをPI制御部833bに出力する。一方、上方ギャップ制御装置83は、q軸電流を上方ギャップ制御コイルユニット5に供給しない。すなわち、上方ギャップ制御部831は、値が0であるq軸電流指令AiqrefをPI制御部813aに出力する。
【0039】
PI制御部833aおよびPI制御部833bは、それぞれPI演算を行うことにより、q軸電流指令Biqrefをq軸電圧指令BVqrefに変換し、d軸電流指令Bidrefをd軸電圧指令BVdrefに変換する。逆dq変換部834は、位相信号phに基づき、q軸電圧指令BVqrefおよびd軸電流指令Bidrefをdq逆変換してu相電圧指令BVuref、v相電圧指令BVvrefおよびw相電圧指令ABwrefを算出し、パワーアンプ835に出力する。
【0040】
パワーアンプ835は、u相電圧指令BVuref、v相電圧指令BVvrefおよびw相電圧指令BVwrefに基づき、所望のu相電圧BVu、v相電圧BVvおよびw相電圧BVwを、上方ギャップ制御コイルユニット5のu相コイル51u、v相コイル51vおよびw相コイル51wにそれぞれ供給する。
【0041】
このようにして、上方ギャップ制御コイルユニット5に、磁石板35によって生じる磁界の方向と平行な方向の磁界、すなわち磁石板35に発生する磁界のN相と位相が一致する磁界が生じ、上方ギャップ制御コイルユニット5と磁石板35とに相互に生じる磁力により、上方ギャップが所望の大きさに維持される。
【0042】
なお、上方ギャップ制御に際して、フィードバック制御がなされることが望ましい。具体的に、ADコンバータ836は、パワーアンプ835が出力したu相電圧BVu、v相電圧BVvおよびw相電圧BVwの値を読み取り、U相電流値BVu、v相電流値BVvおよびw相電流値BVwに変換する。dq変換部817は、位相信号phに基づき、U相電流値BVu、v相電流値BVvおよびw相電流値BVwをdq変換してq軸電流値BVqおよびd軸電流値Bidを算出する。q軸電流指令Biqrefおよびd軸電流指令Bidrefは、q軸電流値BVqおよびd軸電流値Bidにより補正される。
【0043】
ここで、上方ギャップ制御コイルユニット5に供給される駆動電流、すなわちd軸電流の大きさは、移動体2および移動体2に固定される部材からなる可動部全体の重力と、上方ギャップ制御コイルユニット5と磁石板35間の吸着力とが釣り合うように制御されることが望ましい。すなわち、上方ギャップ制御コイルユニット5においては、いわゆるゼロパワー制御が行われることが望ましい。本実施形態においては、移動体2に固定される部材は、具体的には、進行制御コイルユニット4と、位置・磁極センサ43と、上方ギャップ制御コイルユニット5と、上方ギャップセンサ53と、側方ギャップ制御コイルユニット6と、側方ギャップセンサ63と、移動体2に吊り下げられるバケットと、バケットに積載される搬送対象物と、を含む。移動体2および移動体2に固定される部材からなる可動部全体の重力をG、進行制御コイルユニット4に生じる吸着力をP1、1つの上方ギャップ制御コイルユニット5に生じる吸着力をP2とすると、P2が、{(M-P1)/(上方ギャップ制御コイルユニット5の個数)}となるとき、上方ギャップ制御コイルユニット5と磁石板35間の吸着力とが釣り合う。上方ギャップ制御装置83が、可動部全体の重力と、上方ギャップ制御コイルユニット5と磁石板35間の吸着力とが釣り合うように上方ギャップを制御することで、上方ギャップ制御コイルユニット5に供給される駆動電流の値を実質的に0とすることができ、消費電力を抑制することができる。すなわち、上方ギャップは、上位装置80等から指令される値ではなく、駆動電流が実質的に0となる値に制御されることが望ましい。
【0044】
図6に示すように、側方ギャップ制御装置85は、側方ギャップ制御部851と、PI制御部853と、パワーアンプ855と、ADコンバータ856と、を有する。
【0045】
側方ギャップ制御部851は、側方ギャップセンサ63から入力される現在の側方ギャップの大きさを示す側方ギャップ信号sgapと、所定の設定値に基づき、側方ギャップの補正値を算出する。そして、側方ギャップ制御部851は、電流指令CirefをPI制御部853に出力する。
【0046】
PI制御部853は、PI演算を行うことにより、電流指令Cirefを電圧指令CVrefに変換し、パワーアンプ855に出力する。
【0047】
パワーアンプ855は、電圧指令CVrefに基づき、所望の電圧CVを、側方ギャップ制御コイルユニット6の励磁コイル61に供給する。
【0048】
このようにして、側方ギャップ制御コイルユニット6と側板33とに相互に生じる磁力により、側方ギャップが所望の大きさに維持される。
【0049】
なお、側方ギャップ制御に際して、フィードバック制御がなされることが望ましい。具体的に、ADコンバータ856は、パワーアンプ855が出力した電圧CVの値を読み取り、電流値Ciに変換する。電流指令Cirefは、電流値Ciにより補正される。
【0050】
以上に説明した側方ギャップ制御装置85は、側方ギャップ制御コイルユニット6が単相交流電磁石または直流電磁石である場合の構成を示している。前述の通り、側方ギャップ制御コイルユニット6は、3相コア付リニアモータ用コイルユニットであってもよい。
【0051】
本発明は、既にいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態
の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能
である。
【符号の説明】
【0052】
1 搬送装置
2 移動体
4 進行制御コイルユニット
5 上方ギャップ制御コイルユニット
6 側方ギャップ制御コイルユニット
7 ローラ
31 天板
33 側板
35 磁石板
35n 永久磁石
35s 永久磁石
41 励磁コイル
51 励磁コイル
53 上方ギャップセンサ
61 励磁コイル
63 側方ギャップセンサ
431 位置センサ