(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】プッシュプル調整可能なカップリング
(51)【国際特許分類】
H03K 17/92 20060101AFI20220303BHJP
H03K 19/195 20060101ALI20220303BHJP
H01L 39/22 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H03K17/92
H03K19/195
H01L39/22 K
(21)【出願番号】P 2020536597
(86)(22)【出願日】2019-01-02
(86)【国際出願番号】 US2019012068
(87)【国際公開番号】W WO2019139800
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-06-29
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】キーン、ザカリー カイル
(72)【発明者】
【氏名】メドフォード、ジェームズ アール.
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-99479(JP,A)
【文献】特開2007-74120(JP,A)
【文献】特表2010-524064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0048762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K3/38
H03K17/92
H03K19/195
H01L39/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導プッシュプル調整可能なカプラシステムであって、
プッシュトランス、プルトランス、および第1および第2の複合ジョセフソン接合を含むプッシュプル調整可能なカプラと、
前記カプラの第1のポートに接続される第1のオブジェクトと、
前記カプラの第2のポートに接続される第2のオブジェクトと、
前記第1または第2の複合ジョセフソン接合の少なくとも1つをバイアスして、
前記プッシュトランスと前記第1のオブジェクトとの間に流れるプッシュ電流と、前記プルトランスと前記第1のオブジェクトとの間に流れるプル電流とをアンバランスにするように構成された少なくとも1つのバイアス要素とを備え、
前記カプラは、
前記プッシュ電流と前記プル電流との間の均衡
により、前記第1のオブジェクトと前記第2のオブジェクトがデカップリングされて、信号がオブジェクト間を通過するのを阻止するディファレンシャルモードを確立し、
前記プッシュ電流と前記プル電流との間の不均衡
により、
前記第1および第2のオブジェクトがカップリングされて、信号を
前記第1および第2のオブジェクト間で通過させるコモンモードを確立するように構成される、システム。
【請求項2】
複合ジョセフソン接合を対向するインダクタンス状態間で変化させて、前記カプラを均衡またはアンバランスにすることによって、カプラの設定を前記ディファレンシャルモードと前記コモンモードとの間で制御するように構成されるカプラコントローラをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記カプラコントローラは、前記第1および第2の複合ジョセフソン接合の少なくとも1つに誘導結合された少なくとも1つの磁束バイアス制御線を介して流れる電流の量および極性を制御して、前記カプラをディファレンシャルモードとコモンモードとの間で交互に切り替える、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のポートは、前記第1のオブジェクトからの信号を、分割インダクタ、前記分割インダクタの第1の部分を含む前記プッシュトランス、および前記分割インダクタの第2の部分を含む前記プルトランスの間で分岐する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1および第2の複合ジョセフソン接合が前記第2のポートにおいて接続される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記カプラは、前記カプラのカップリング電流が、制御電流における線形増加とともに二次的に増加するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1の複合ジョセフソン接合をバイアスするための第1の磁束バイアス電流を供給するように構成される第1のバイアス要素と、前記第2の複合ジョセフソン接合をバイアスするための第2の磁束バイアス電流を供給するように構成される第2のバイアス要素とを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記カプラは、第1および第2のバイアス電流におけるコモンモードノイズに対して不感であ
る、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の磁束バイアス電流の量および極性、および前記第2の磁束バイアス電流の量および極性を制御して、前記カプラをディファレンシャルモードとコモンモードとの間で交互に切り替えるように構成されたカプラコントローラをさらに備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記カプラは、前記第
1の磁束バイアス電流よりも大きい前記第
2の磁束バイアス電流
によって前記第2の複合ジョセフソン接合をバイアスすることによって、カップリング電流を反転するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
2つのオブジェクトを調整可能にカップリングまたはアンカップリングする方法であって、
第1のオブジェクトからの信号を2つの超伝導分岐に分割するステップと、
信号の各分岐を個々の複合ジョセフソン接合にトランスカップリングするステップと、
前記複合ジョセフソン接合の少なくとも1つをバイアスするために少なくとも第1の制御信号を印加して、カップリング信号を介してオブジェクト間の情報の交換を可能にすることによって、第1のオブジェクトを第2のオブジェクトにカップリングするステップとを含む方法。
【請求項12】
前記第1の制御信号を印加解除して、前記第1のオブジェクトを前記第2のオブジェクトからデカップリングするステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の制御信号と大きさおよび符号が等しい第2の制御信号
を印加して、
前記第1の制御信号によってバイアスされる複合ジョセフソン接合以外の複合ジョセフソン接合の他の1つをバイアスすることによって、前記第1のオブジェクトを前記第2のオブジェクトからデカップリングするステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の制御信号よりも大きい第2の制御信号を印加して、
前記第1の制御信号によってバイアスされる前記複合ジョセフソン接合以外の前記複合ジョセフソン接合の他の1つをバイアスすることによって、前記カップリング信号を反転させるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
制御信号における線形増加に基づいて、前記カップリング信号を二次的に増加させるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、超伝導回路に関し、具体的には、量子オブジェクト(quantum objects)のプッシュプル調整可能なカップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロ波機械式、電気機械式、および電子スイッチは、互換性のない製造プロセスおよび高電力消費のために、超伝導電子回路とのオンチップ集積化および超伝導電子回路の極低温動作と互換性がない場合がある。同様に、電圧可変コンデンサ(即ち、バラクタ)、機械的ドライバ、または強誘電体およびフェライト材料などのいずれかの能動部品を使用して一般に実現される調整可能なフィルタは、単一磁束量子(SFQ:single flux quantum)技術によって生成することができる信号レベルによって簡単に制御可能ではなく、多くは極低温では動作可能ではない。固定および調整可能の両方の超伝導マイクロ波フィルタは、高温超伝導体および低温超伝導体の両方を使用して以前に実現されたものの、スイッチング用途でのそれらの使用は、高リターンロス、制限された使用可能な帯域幅、および不十分な帯域外のオフ状態分離という支障が生じている。
【0003】
特定の超伝導の状況では、オブジェクト間のカップリングをオンにすることによってオブジェクト間の情報を交換するため、またはそのカップリングをオフにすることによってオブジェクトを分離するためのカプラを提供することができる。調整可能なカプラは、1つまたは複数の可変制御信号を提供することによって、2つのオブジェクト間、即ち、純粋な「オン」(カップリング)状態と純粋な「オフ」(非カップリング)状態との間の信号カップリングの程度を制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9501748号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/212860号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】チェン他(Chen, et al.)著、「高コヒーレンスおよび高速調整可能なカップリングを備えたキュービットアーキテクチャ(Qubit Architecture with High Coherence and Fast Tunable Coupling)」、フィジカルレビューレターズ(Physical Review Letters)、(米国)、PRL 113, 220502(2014)、2014年11月28日、p.220502-1-220502-5
【文献】マジャー他(Majer, et al.)著、「キャビティバスを介した超伝導キュービットのカップリング(Coupling superconducting qubits via a cavity bus)」、ネイチャー(Nature)、(英国)、vol. 449、2007年9月27日、doi:10, 1038/nature06184、p.443-447
【文献】スリニバサン他(Srinivasan, et al.)著、「V字型エネルギー準位図による超伝導電荷量子ビットを使用した回路量子電気力学における調整可能なカップリング(Tunable Coupling in Circuit Quantum Electrodynamics Using a Superconducting Charge Qubit with a V-Shaped Energy Level Diagram)」、アメリカンフィジカルソサエティ(American Physical Society)、フィジカルレビューレターズ(Physical Review Letters)、(米国)、PRL 106, 083601 (2011)、2011年2月25日、p.083601-1-083601-4
【発明の概要】
【0006】
本開示は、特に、調整可能なインダクタンスを組み込んだ誘導性電流分割器として実装される調整可能なカプラと比較して、大域的な磁束オフセットおよび制御線上の小さな擾乱の両方に対して比較的不感である調整可能な超伝導カプラを提供する。
【0007】
一例では、超伝導プッシュプル調整可能なカプラシステムが提供される。システムは、プッシュトランス、プルトランス、および第1および第2の複合ジョセフソン接合を有するプッシュプル調整可能なカプラを含む。第1および第2のオブジェクトは、カプラの第1および第2のポートにそれぞれ接続される。少なくとも1つのバイアス要素は、第1または第2の複合ジョセフソン接合の少なくとも1つをバイアスして、カプラトランスのプッシュおよびプルをアンバランスにするように構成される。カプラは、トランス間の均衡が、第1および第2のオブジェクトがデカップリングされて、信号がオブジェクト間を通過するのを阻止するディファレンシャルモードを確立し、トランス間の不均衡が、オブジェクトがカップリングされて、信号をオブジェクト間で通過させるコモンモードを確立するように構成される。
【0008】
別の例では、2つのオブジェクトを調整可能にカップリングまたはアンカップリングする方法が提供される。第1のオブジェクトからの信号は、2つの超伝導分岐に分割される。信号の各分岐は、個々の複合ジョセフソン接合にトランスカップリングされる。複合ジョセフソン接合の少なくとも1つをバイアスするために少なくとも第1の制御信号が印加されて、カップリング信号を介してオブジェクト間の情報の交換を可能にすることによって、第1のオブジェクトを第2のオブジェクトにカップリングする。
【0009】
さらに別の例は、超伝導負荷補償型調整可能なカプラを提供する。カプラは、分割インダクタを有し、分割インダクタは、分割インダクタの端子間に配置された入力ノードにおいて第1のオブジェクトから入力信号を受信し、分割インダクタの各端子は低電圧レール(例えば、グラウンド)に接続されている。カプラは上部分岐と下部分岐に分割されている。上部分岐は、分割インダクタの上部と第2のインダクタとを含み、かつ分割インダクタの上部にトランスカップリングされた第1の磁束トランスを有し、第1の磁束トランスは、低電圧レールと上部中間ノードとの間に接続され、低電圧レールへの第1の磁束トランスの接続の構成が、第1の磁束トランスに第1の極性を与える。上部分岐は、上部中間ノードと出力ノードとの間に接続された第1の複合ジョセフソン接合をさらに含む。下部分岐は、分割インダクタの下部と第3のインダクタとを含み、かつ分割インダクタの下部にトランスカップリングされた第2の磁束トランスを有し、第2の磁束トランスは、低電圧レールと下部中間ノードとの間に接続され、低電圧レールへの第2の磁束トランスの接続の構成が、第2の磁束トランスに第1の極性と反対の第2の極性を与える。下部分岐は、下部中間ノードと出力ノードとの間に接続された第2の複合ジョセフソン接合をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】例示的な超伝導プッシュプル調整可能なカプラのブロック図である。
【
図2A-2C】Aは、例示的な超伝導プッシュプル調整可能なカプラの概略図であり、BおよびCは、磁束バイアス線を複合ジョセフソン接合にカップリングするトランスの例を示す。
【
図3】
図2Aの例示的な回路のシミュレーションの概略図である。
【
図4A-4B】AおよびBは、
図3の回路の例示的なシミュレーションの制御電流および出力電流のそれぞれのグラフである。
【
図5A-5B】AおよびBは、
図3の回路の別の例示的なシミュレーションの制御電流および出力電流のそれぞれのグラフである。
【
図6A-6B】AおよびBは、
図3の回路のさらに別の例示的なシミュレーションの制御電流および出力電流のそれぞれのグラフである。
【
図7】2つの量子オブジェクトをカップリングする例示的な方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、概して、超伝導回路に関し、より詳細には、2つのオブジェクト間の超伝導プッシュプルカプラに関する。本明細書に記載されるプッシュプルカプラは、例えば、並列に接続された一対のマッチングされた複合ジョセフソン接合または超伝導量子干渉デバイス(SQUID:superconducting quantum interference device)ループから構成することができる。各複合ジョセフソン接合またはSQUIDループは、信号源への相互誘導カップリングによって駆動される。提供された調整可能なカプラは、ゼロカップリング付近の急峻な調整曲線の欠点を回避し、ノイズの多い制御線であってもオフ状態を維持することが容易となる。具体的には、本明細書で説明する調整可能なカプラは、磁束ノイズに対して第1級の不感であり(first-order insensitive)、オフ状態のコモンモード磁束に対して不感であることによって、そのオフ状態を保持する。
【0012】
図1は、2つのオブジェクト104、106がプッシュプル調整可能なカプラ102により制御可能にカップリングおよびデカップリングされるプッシュプル調整可能なカプラシステム100を示す。カップリングされた各オブジェクト104、106は、例えば、量子オブジェクト、例えば、キュービット、または、ある共鳴オブジェクト、例えば、特定の長さおよびインピーダンスの伝送線路(能動デバイスであるジョセフソン伝送線路(JTL:Josephson transmission line)を含まない)とすることができる。プッシュプル調整可能なカプラシステム100は、量子オブジェクト(例えば、キュービット、共鳴器)間のカップリングおよびデカップリングを提供するために、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装することができる。カップリングされるオブジェクト間で交換される信号は、例えば、キュービットのゲート動作または読み出し動作を実行するなど、量子回路に対して制御方式で実施されるマイクロ波信号とすることができる。別の例として、信号は、信号パルス、通信信号、または制御コマンド信号とすることができる。プッシュプル調整可能なカプラシステム100は、極低温で動作することができ、電力を実質的に消費することがなく、かつ単一磁束量子(SFQ)互換信号により制御することができる。本明細書で使用する場合、「カップリング電流」または「カップリング信号」という用語は、カプラが「オン」状態にあるときに、あるカップリングされるオブジェクトと別のカップリングされるオブジェクトとの間で交換される電流または信号を意味する。
【0013】
図1に示すように、プッシュプル調整可能なカプラシステム100は、プッシュトランス108、プルトランス110、第1の複合ジョセフソン接合112、および第2の複合ジョセフソン接合112を有するプッシュプル調整可能なカプラ102を含む。第1のオブジェクト104は、カプラ102の第1のポートに接続することができ、第2のオブジェクトは、カプラ102の第2のポートに接続することができる。これらのポートは、説明を簡単にするために、
図1では名目上「入」および「出」とラベル付けされているが、カップリングされるオブジェクト間の信号の送信または情報の交換は双方向にすることができる。一例として、カプラ102は、上部分岐および下部分岐としてトランス108、110および複合ジョセフソン接合112、114を配置することができる。例えば、第1のポートは、第1のオブジェクトからの信号を、分割インダクタ、プッシュトランスの一部を形成する分割インダクタの一部、およびプルトランスの一部を形成する分割インダクタの別の部分の間で分岐することができる。
【0014】
1つまたは複数のバイアス要素116は、第1または第2の複合ジョセフソン接合の一方または両方をバイアスして、カプラトランスのプッシュおよびプルをアンバランスにすることができる。例えば、1つまたは複数のバイアス要素は、カプラ102の一部、例えば、複合ジョセフソン接合112、114の1つにトランスカップリングされた磁束バイアス線を含むことができる。例えば、ジョセフソン接合のインダクタンスは、オブジェクトを相互にカップリングして信号を通過させる低インダクタンス状態と、オブジェクトを相互にデカップリングして、デカップリングされたオブジェクト間の信号の通過をブロックする高インダクタンス状態との間で切り替えることができる。
【0015】
トランス108、110(および/または分岐)の間の関係は、一方がオブジェクト104から電流を「プッシュし」、他方が電流を「プルする」ようにすることができる。カプラ102は、トランス108、110の「プッシュ」と「プル」との間の均衡が、第1のオブジェクト104と第2のオブジェクト106とが切り離されて信号がオブジェクト104、106間を通過するのを阻止するディファレンシャルモードを確立し、トランス108、110の「プッシュ」と「プル」との間の不均衡(imbalance)が、オブジェクトがカップリングされて信号をオブジェクト間で通過させるコモンモードを確立するように構成することができる。
【0016】
カプラコントローラ118は、複合ジョセフソン接合を対向するインダクタンス状態間で変化させて、カプラ102を様々な程度に均衡にするか、またはアンバランスにする(unbalancing)ことによって、カプラ102の設定をディファレンシャルモードとコモンモードとの間、または「オフ」状態と様々な程度の「オン」状態との間で制御することができる。例えば、カプラコントローラ118は、少なくとも1つのバイアス要素116を介して流れる(例えば、第1および第2の複合ジョセフソン接合112、114の少なくとも1つに誘導結合された少なくとも1つの磁束バイアス制御線を介して流れる)制御電流の量および極性を制御して、カプラ102をディファレンシャルモードとコモンモードとの間で交互に切り替えることができる。カプラ102はまた、例えば、1つのバイアス要素116を介して供給される1つの制御電流が、異なるバイアス要素116を介して供給される別の制御電流よりも大きい場合、2つのオブジェクト104、106間のカップリング電流またはカップリング信号を反転するように構成され得る。
【0017】
図2Aは、例示的な調整可能な双方向カプラ回路200の概略図を示す。図示の例では、上部分岐複合ジョセフソン接合204は、第1のジョセフソン接合J
1と第2のジョセフソン接合J
2とを含み、下部分岐複合ジョセフソン接合206は、第3のジョセフソン接合J
3と第4のジョセフソン接合J
4とを含む。カップリングされるオブジェクト1からの電流は、分割インダクタL
1、L
3を駆動する。分割インダクタの各分岐は、個々の磁束トランス-M、+Mを介して、1対の複合ジョセフソン接合204、206にカップリングされる。2つの磁束トランスの相互インダクタンスは、等しい符号および逆の符号を有するように構成されている。ジョセフソン接合が互いによくマッチングしている場合、カプラ200の性能は向上するが、部品のミスマッチにより設計は上品に低下する(degrades gracefully)。従って、いくつかの例では、4つのジョセフソン接合J
1、J
2、J
3、J
4の全ては、サイズが実質的に等しく、例えば、サイズが互いに10%以内、例えば、サイズが互いに5%以内である。
【0018】
図2Aの回路に1つまたは複数の制御信号を、一方または両方の複合ジョセフソン接合をバイアスするための磁束バイアス線として提供することができる。説明を簡単にするために、示されるように、
図2Aでは磁束バイアス線が省略されている。しかしながら、
図2Bおよび
図2Cの各々は、
図2AにおけるJ
1およびJ
2とそれぞれ、またはJ
3およびJ
4とそれぞれに対応するジョセフソン接合J
AおよびJ
Bを含む複合ジョセフソン接合ループ210にトランスカップリングされた1つまたは複数のインダクタを有するそのようなバイアス線または制御線208を提供することによって、磁束バイアス線が複合ジョセフソン接合に提供される方法の例を示す。
【0019】
トランス-M、+Mは、符号が逆であるため、一方は「プッシュ」であり、他方は「プル」であると言える。「プッシュ」と「プル」の均衡が取れている場合、-Mトランスの上端および+Mトランスの上端に誘導される電圧は等しくかつ反対であり、従って、カップリングされるオブジェクト2への入力には電圧は現れず、電流はカプラ自体内のループを流れるだけで、2つのオブジェクト間にカップリングは誘導されない。換言すれば、複合ジョセフソン接合204、206が等しくバイアスされている(または、両方がバイアスされていない)場合、それらのジョセフソンインダクタンスも等しく、カプラの上部分岐および下部分岐に等しくかつ反対の電流が誘導される。従って、全ての電流が、循環モードとも呼ばれるディファレンシャルモードで流れ、電流はカップリングされるオブジェクト2にカップリングされない。このモードでは、一方のトランスのプッシュは、他方のトランスの「プル」に等しい。
【0020】
対照的に、一方のループまたは他方のループをバイアスすることによって、どちらかの符号のコモンモードカップリングが生成され、カップリングされるオブジェクト1とカップリングされるオブジェクト2との間に正味のカップリングが提供される。例えば、上部分岐複合ジョセフソン接合204がバイアスされてジョセフソンインダクタンスが増加すると、分岐電流はもはや等しくなくなり、下部分岐からの正味電流が、カップリングされるオブジェクト2に流れ込み、カップリングされるオブジェクト1とカップリングされるオブジェクト2との間に正のカップリングが生成される。同様に、下部分岐複合ジョセフソン接合206がバイアスされてジョセフソンインダクタンスが増加すると、上部分岐からの正味電流が、カップリングされるオブジェクト2に流れ込み、カップリングされるオブジェクト1とカップリングされるオブジェクト2との間に負のカップリングが生成される。このような負のカップリングは、カプラ200が信号インバータとしても機能することができることを意味する。
【0021】
図3は、例えば、アジレント社(Agilent)のアドバンスドデザインシミュレーション(Advanced Design Simulation(ADS))ツールを使用するシミュレーションにおいて利用することができる
図2Aのカプラ200の概略
図300を示す。SRC3 302は、例えば、量子オブジェクトから供給される信号のシミュレーションにおいて、AC信号をカプラに提供する。SRC4 304は、正のカップリングを誘導するバイアス電流を供給し、SRC2 306は、負のカップリングを誘導するバイアス電流を供給する。これらのバイアス電流は、本明細書では制御電流とも呼ばれる。以下に説明するシミュレーションの例では、これらの制御電流は、区分線形DC電流として供給されるようにプログラムされる。
【0022】
図4Bは、
図4Aの制御電流が供給された場合の
図3の回路のシミュレーション出力を示す。出力電流は、
図3におけるI_Probe1 308において測定される。
図4Aは、同じグラフに重ねられた2つの制御電流を示している。ゼロ出力電流はアンカップリングを示し、非ゼロ出力電流は入力と出力との間のカップリングを示す。
図3に示すように、SRC3 302は、
図2Aにおけるカップリングされるオブジェクト1から提供される信号のシミュレーションで5ギガヘルツの信号を提供するように構成されている。
図4Aに示すように、例えば、
図3のSRC2 306から上部分岐複合ジョセフソン接合に提供されるI_Probe2.iとラベル付けされた第1の制御電流は、1ナノ秒が開始でオンとなり、2ナノ秒で10マイクロアンペアのピークに達し、その後、3ナノ秒が開始でオフとなり、4ナノ秒で0マイクロアンペアに戻る。続いて、例えば、
図3のSRC4 304から下部分岐複合ジョセフソン接合に提供されるI_Probe3.iとラベル付けされた第2の制御電流は、4ナノ秒が開始でオンとなり、5ナノ秒で10マイクロアンペアのピークに達し、その後、6ナノ秒が開始でオフとなり、7ナノ秒で0マイクロアンペアに戻る。
【0023】
従って、
図4Bに示すように、カップリング電流は、第1の制御電流のオンとオフに一致して上昇および下降し、次に、第2の制御電流のオンとオフに一致して位相を反転し、再び上昇および下降する。
図4Bは、0と1ナノ秒との間および正確に4ナノ秒での出力におけるゼロ電流を示し、これらの時間中に両方の制御電流がオフになっていることと一致している。対照的に、1つの制御電流がオンになっている間、
図3のSRC3 302によって提供される5ギガヘルツの入力AC信号が出力に渡され、これは、入力が出力にカップリングされたことを示す。設計したように、カプラの負の半分がオフになり、カプラの正の半分がオンになると、カップリングされた信号の符号が反転する。この出力信号の反転は、4ナノ秒のマークにおける出力信号のミラーイメージ(即ち、カップリングされた電流の180度の位相シフト)として現れる。
【0024】
本明細書で説明するカプラは、制御線の磁束ノイズに対して第1級の不感であり、大域的な磁束オフセットを強力に抑制する。
図5A-Bおよび6A-Bは、これらの属性(attributes)をそれぞれ示している。
図5Aは、
図4Aと同一であり、負のカプラ(即ち、
図2Aの上部分岐複合ジョセフソン接合204)に最初に印加され、正のカプラ(即ち、
図2Aの下部分岐複合ジョセフソン接合206)に2番目に印加される制御信号を示す。
図5Bは、同じ制御信号のセットに対するカプラの応答を示しているが、20ギガヘルツのより高い入力AC周波数であり、これは、制御電流の傾斜が線形であるにもかかわらず、カプラのターンオンが2次(quadratic)であることを強調している。従って、
図5Bは、いずれかの制御線上の小さな信号変化が、いずれかの制御線上の大きな信号変化よりも出力の振幅に与える影響が小さいことを示している。このカプラ属性は、カプラの「オフ」状態を維持することが重要な状況で、制御線ノイズに対する耐性を提供する。
【0025】
図6Aおよび6Bは、大域的な磁束オフセットの抑制を示している。
図6Aに示される提供される制御信号は、
図4Aおよび
図5Aのものとは異なる。
図6Aに示すように、例えば、
図3のSRC2 306から上部分岐複合ジョセフソン接合に提供されるI_Probe2.iとラベル付けされた第1の制御電流は、1ナノ秒が開始でオンされ、2ナノ秒で10マイクロアンペアのピークに達し、その後、3ナノ秒が開始で反転し、5ナノ秒で-10マイクロアンペアに降下し、最後に、6ナノ秒が開始でオフされ、7マイクロ秒で0マイクロアンペアに戻る。例えば、
図3のSRC4 304から下部分岐複合ジョセフソン接合に提供されるI_Probe3.iとラベル付けされた第2の制御電流は、7ナノ秒のマークまで同一の区分線形パターンに従うようにプログラムされているが、この時点からゼロ化されるのではなく、8ナノ秒で10マイクロアンペアに戻り、9ナノ秒が開始で負になり、11ナノ秒で-10マイクロアンペアになり、その後、12ナノ秒でオフになり、13ナノ秒で0マイクロアンペアに戻る。
図6Bの結果として得られる出力電流は、2つの制御電流が同一である全ての間、たとえ制御電流が非ゼロであっても、即ち、0から7ナノ秒との間、および13ナノ秒後であっても、ゼロのままである。2つの制御電流が異なり、少なくとも1つが非ゼロである間のみ、
図3におけるSRC3 302によって提供される20ギガヘルツの入力AC信号が出力に渡され、これは、入力が出力にカップリングされたことを示す。従って、
図6Aおよび
図6Bは、カプラの両方の複合ジョセフソン接合を同時に(in tandem)調整する信号は、カップリングを形成しないことを示している。従って、カプラの調整制御は、コモンモードノイズに対する耐性がある。
【0026】
本開示のプッシュプル調整可能なカプラは、少ない部品点数および簡略化されたまたは柔軟な制御アーキテクチャのいずれかにより構成することができる。オフ状態付近のディファレンシャルモードノイズに対する感度が低下することに加えて、本開示のプッシュプル調整可能なカプラは、コモンモードノイズに対して完全に不感である。さらに、追加のコンポーネントを必要とせずに信号反転を提供することができる。
【0027】
図7は、2つのオブジェクトを調整可能にカップリングまたはアンカップリングする方法700を示す。第1のオブジェクトからの信号は、2つの超伝導分岐に分割される(702)。信号の各分岐は、個々の複合ジョセフソン接合にトランスカップリングされる(704)。複合ジョセフソン接合の少なくとも1つをバイアスするために少なくとも第1の制御信号が印加されて(706)、それにより、カップリング信号を介してオブジェクト間の情報の交換を可能にすることによって、第1のオブジェクトを第2のオブジェクトにカップリングする(708)。第1の制御信号を印加解除する(710)か、または複合ジョセフソン接合の他方(即ち、第1の制御信号によってバイアスされた複合ジョセフソン接合以外)をバイアスするために、第1の制御信号と大きさおよび符号が等しい第2の制御信号を印加する(712)かのいずれかによって、オブジェクトがデカップリングされる(714)。
【0028】
方法700に加えて、第1の制御信号よりも大きい第2の制御信号を印加して、複合ジョセフソン接合の他方(即ち、第1の制御信号によってバイアスされた複合ジョセフソン接合以外)をバイアスし、それによって、カップリング信号を反転させることができる。さらに、制御信号の線形増加に基づいて、カップリング信号を2次的に(quadratically)増加させることができる。
【0029】
上述した説明は、本発明の例である。当然ながら、本発明を説明する目的で考えられるすべての構成要素または方法の組み合わせを説明することは不可能であるが、当業者は、本発明の多くのさらなる組み合わせおよび置換が可能であることを認識するであろう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲を含む本出願の範囲内にあるすべてのそのような変更、修正、および変形を包含することを意図している。さらに、開示または請求項が「1つの」、「第1の」、または「別の」要素、またはそれらの同等物を記載する場合、1つまたは複数のそのような要素を含むと解釈されるべきであり、2つ以上のそのような要素の要求も除外もされない。本明細書で使用する場合、「含む」という用語は、含むがこれに限定されないことを意味し、「含んでいる」という用語は、含んでいるがこれに限定されないが含むことを意味する。「~に基づく」という用語は、少なくとも部分的に基づくことを意味する。
以下に、上記実施形態から把握できる技術思想を付記として記載する。
[付記1]
超伝導負荷補償型調整可能なカプラであって、
分割インダクタであって、前記分割インダクタの端子間に配置された入力ノードにおいて第1のオブジェクトから入力信号を受信し、前記分割インダクタの各端子は低電圧レールに接続されている、前記分割インダクタと、
上部分岐であって、
前記分割インダクタの上部と第2のインダクタとを含み、かつ前記分割インダクタの上部にトランスカップリングされた第1の磁束トランスであって、前記低電圧レールと上部中間ノードとの間に接続され、前記低電圧レールへの前記第1の磁束トランスの接続の構成が、前記第1の磁束トランスに第1の極性を与える、前記第1の磁束トランスと、
前記上部中間ノードと出力ノードの間に接続された第1の複合ジョセフソン接合とを含む前記上部分岐と、
下部分岐であって、
前記分割インダクタの下部と第3のインダクタとを含み、かつ前記分割インダクタの下部にトランスカップリングされた第2の磁束トランスであって、前記低電圧レールと下部中間ノードとの間に接続され、前記低電圧レールへの前記第2の磁束トランスの接続の構成が、前記第2の磁束トランスに第1の極性と反対の第2の極性を与える、前記第2の磁束トランスと、
前記下部中間ノードと前記出力ノードの間に接続された第2の複合ジョセフソン接合とを含む前記下部分岐とを備えるカプラ。
[付記2]
前記第1および第2の複合ジョセフソン接合が各々、並列の2つのジョセフソン接合を含む、付記1に記載のカプラ。
[付記3]
前記第1および第2の複合ジョセフソン接合が各々、個々の磁束バイアス線にトランスカップリングされた少なくとも1つのインダクタをさらに含む、付記2に記載のカプラ。
[付記4]
前記カプラは、両方の複合ジョセフソン接合の個々の磁束バイアス線に等しく影響を与えるコモンモードノイズに対して完全に不感である、付記3に記載のカプラ。
[付記5]
ジョセフソン接合の全てが実質的にサイズが等しい、付記2に記載のカプラ。