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特許7033665プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたプリンヌクレオチドの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたプリンヌクレオチドの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220303BHJP
   C12P 19/32 20060101ALI20220303BHJP
   C12N 15/77 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/32 Z
C12N15/77 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020540475
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 KR2019001117
(87)【国際公開番号】W WO2019147078
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0009632
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12152P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒ ジュ
(72)【発明者】
【氏名】リム,ボ ラム
(72)【発明者】
【氏名】ヨーン,ビョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】バーク,ミン ジ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジ ヒェ
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0329883(US,A1)
【文献】Database UniProt, [online], 2017.12.20, Accession No.A0A0X8VFR7_9CORY, [retrieved on 2021.8.5], URL:https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0X8VFR7.txt?version=12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が不活性化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム・スタティオニス。
【請求項2】
前記プリンヌクレオチドは、IMP(5'-inosine monophosphate)、XMP(5'-xanthosine monophosphate)、GMP(5'-guanosine monophosphate)及びAMP(5'-adenylic acid)から選択される少なくとも1つのプリンヌクレオチドである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・スタティオニス。
【請求項3】
前記コリネバクテリウム・スタティオニスは、さらにプリンヌクレオチドの生合成経路が強化されたものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・スタティオニス。
【請求項4】
前記プリンヌクレオチドの生合成経路の強化は、PurF(amidophosphoribosyltransferase)タンパク質の活性が強化されたものである、請求項3に記載のコリネバクテリウム・スタティオニス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のコリネバクテリウム・スタティオニスを培地で培養するステップを含む、プリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項6】
前記プリンヌクレオチドは、IMP(5'-inosine monophosphate)、XMP(5'-xanthosine monophosphate)、GMP(5'-guanosine monophosphate)及びAMP(5'-adenylic acid)から選択される少なくとも1つのプリンヌクレオチドである、請求項5に記載のプリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項7】
前記培養するステップの後に、前記培養したコリネバクテリウム・スタティオニス又は培地からプリンヌクレオチドを回収するステップをさらに含む、請求項5に記載のプリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項8】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコリネバクテリウム属微生物において不活性化するステップを含むプリンヌクレオチド生産増加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたプリンヌクレオチドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5’-イノシン酸(5'-inosine monophosphate;以下、IMP)、5'-キサンチル酸(5'-xanthosine monophosphate;以下、XMP)、5'-グアニル酸(5'-guanosine monophosphate;以下、GMP)、5'-アデニル酸(5'-adenylic acid;以下、AMP)などのプリンヌクレオチドは、核酸生合成代謝系の中間物質である。これらは、体内で生理的に重要な役割を果たし、食品、医薬品などにも広く用いられている。これらのうち、牛肉の旨味を出すIMPと、松茸の旨味を出すGMPは、食品調味添加物として広く用いられており、これら2つの物質とグルタミン酸ナトリウム(MSG)を混合すると風味がさらに強化されることから、これら3つの物質を混合した複合・総合調味料も多く用いられている。
【0003】
一方、前記プリンヌクレオチドを生産する方法としては、(1)酵母細胞から抽出したリボ核酸(RNA)を酵素的に分解する方法、(2)それを生産する微生物を培養して培養液中のプリンヌクレオチドを直接回収する発酵製造方法、(3)発酵により生産されたヌクレオシドを化学的にリン酸化する方法、(4)発酵により生産されたヌクレオシドを酵素的にリン酸化する方法などが挙げられる(特許文献1,2,3,非特許文献1)。そのうち、(1)の方法は原料需給及び経済性に問題があり、(2)の方法が経済的にも環境的にも有利なので広く用いられている。なお、プリンヌクレオチドの一つであるGMPの生産においては、細胞膜透過性の問題で収率が低いという欠点があり、微生物発酵により生産されたXMPを酵素的に変換してGMPを生産する方法も活用されている。
【0004】
しかし、微生物を用いたプリンヌクレオチドの発酵生産中に、微生物は温度、pH、浸透圧、栄養欠乏、酸化的要因によるストレスを受ける。とりわけ酸化的ストレスは、発酵生産中に生成される避けられない要素である活性酸素(reactive oxygen species; ROS)が主な原因であり、それにより微生物の異常な成長が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国登録特許第10-1049023号公報
【文献】特許第4363042号公報
【文献】韓国登録特許第10-1210704号公報
【文献】韓国登録特許第10-0542568号公報
【文献】韓国登録特許第10-0588577号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Agri. Biol. Chem., 36(9),1511-1522
【文献】Scheit, Nucleotide Analogs, John Wiley, New York(1980); Uhlman及びPeyman, Chemical Reviews, 90:543-584(1990)
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Manual of Methods for General Bacteriology by the American Society for Bacteriology, Washington D.C., USA, 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、微生物の発酵過程中に生じる酸化的ストレスを克服し、プリンヌクレオチドの生産性を向上させるべく鋭意研究を重ねた結果、特定タンパク質を不活性化した微生物においては、微生物の成長が維持されるだけでなく、プリンヌクレオチドの生産性が向上することを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が不活性化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記微生物を用いた、プリンヌクレオチドの生産方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、本出願のタンパク質をコリネバクテリウム属微生物において不活性化するステップを含む、コリネバクテリウム属におけるプリンヌクレオチド生産増加方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、プリンヌクレオチドを生産するための前記微生物の用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプリンヌクレオチドを生産する微生物は、プリンヌクレオチドを高効率で生産することができる。また、生産したプリンヌクレオチドは、動物飼料又は動物飼料添加剤だけでなく、人間の食品又は食品添加剤、調味料、医薬品など様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本明細書に開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本明細書で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0014】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が不活性化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0015】
一具体例として、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が不活性化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム・スタティオニスを提供する。
【0016】
本発明における「プリンヌクレオチド(purine nucleotide)」とは、プリンヌクレオシドを有し、前記ヌクレオシドの糖部分にリン酸がエステル結合した化合物を総称するものである。
【0017】
具体的には、前記プリンヌクレオチドは、IMP(5'-inosine monophosphate)、XMP(5'-xanthosine monophosphate)、GMP(5'-xanthosine monophosphate)及びAMP(5'-adenosine monophosphate)から選択される少なくとも1つのプリンヌクレオチドであってもよいが、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が不活性化されることにより生産性が向上するプリンヌクレオチドであればいかなるものでもよい。
【0018】
本発明における「配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質」とは、WhiB-ファミリーグループの遺伝子によりコードされるタンパク質を意味し、具体的にはWhiB転写調節因子(transcriptional regulator WhiB)であってもよい。前記タンパク質は、酸素及び窒素酸化物感受性クラスター(4Fe-4S)を形成する4つの保存されたシステイン残基を含み、放線菌の様々な生物学的特性を示す上で重要な機能を果たすことが知られている。発症(pathogenesis)、抗生剤耐性、細胞生長などの全般的な細胞機能に関与することが現在まで知られているが、これらの詳細な機能と機序に関する研究は十分に行われていない。
【0019】
本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列から必須に構成されるタンパク質、又は配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
また、本発明のタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるが、前記タンパク質と同じ活性を有する配列であればいかなるものでもよく、当業者であれば公知のデータベースであるNCBIのGenBankなどから配列情報を得ることができる。さらに、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号1及び配列番号1と少なくとも60%、70%、80%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、97%、98%又は99%の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。さらに、そのような相同性又は同一性を有して前記タンパク質に相当する生物学的活性を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0021】
それに加えて、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリペプチドをコードする塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同じ活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよい。
【0022】
すなわち、本発明において「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はポリペプチド」又は「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。例えば、前記アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端にタンパク質の機能を変更しない配列の付加、自然に発生し得る突然変異、その非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものが挙げられる。
【0023】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられ、疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンが挙げられる。
【0024】
本発明における「ポリヌクレオチド」は、DNA及びRNA分子を包括する意味で用いられ、ポリヌクレオチドにおける基本構成単位であるヌクレオチドには、天然ヌクレオチドだけでなく、糖又は塩基部位が変形したアナログも含まれる(非特許文献2参照)。
【0025】
配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子のポリヌクレオチド配列は、公知のデータベースから得られ、例えばNCBIのGenBankなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記ポリヌクレオチドは、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、又は本発明のタンパク質と60%、70%、80%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、97%、98%もしくは99%の相同性もしくは同一性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよい。
【0027】
具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号2のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドであってもよい。しかし、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質に相当する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列も全て本発明に含まれることは言うまでもない。
【0028】
また、コドンの縮退(genetic code degeneracy)により同一アミノ酸配列からなるタンパク質又はそれと相同性を有するタンパク質に翻訳されるポリヌクレオチドも本発明に含まれることは言うまでもない。さらに、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献3、4)に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常サザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本発明には、実質的に類似した核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸断片が含まれてもよい。
【0029】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0030】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献5参照)。
【0031】
本発明における「相同性」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列が一致する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられる。本発明において、与えられたアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列は「%の相同性」と表される。
【0032】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0033】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献6のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献7)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献8)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献9)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献10,11,12)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0034】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献13に開示されているように、非特許文献8などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)一進法比較マトリクス(同一性は1、非同一性は0の値を含む)及び非特許文献14に開示されているように、非特許文献15の加重比較マトリクス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリクス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップ開放パネルティ10、ギャップ延長パネルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。よって、本発明における「相同性」又は「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示す。
【0035】
本発明において、前記プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化されたものであってもよい。
【0036】
ここで、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質の不活性化は、WhiB-ファミリータンパク質の不活性化、WhiB転写調節因子の不活性化、又は配列番号2のポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によりコードされるタンパク質の不活性化と同じ意味で用いられる。
【0037】
本発明における「配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化された」とは、前記タンパク質が親株又は配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が改変されていない菌株に比べて全く発現しないことや、発現してもその活性がないか、減少したことを意味する。また、WhiB-ファミリーグループの遺伝子によりコードされるタンパク質(WhcEDBA)において、親株又は非変型菌株に比べて活性がないか、減少したことを意味する。ここで、前記減少は、前記タンパク質をコードする遺伝子の変異、欠損などによりタンパク質の活性が本来微生物が有するタンパク質の活性より減少した場合や、それをコードする遺伝子の発現阻害又は翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なタンパク質の活性の程度が天然の菌株又は改変前の菌株より低下した場合や、それらの組み合わせを含む概念である。
【0038】
本発明において、前記タンパク質の不活性化がプリンヌクレオチドの生産性に関連することを最初に解明した。
【0039】
本発明における前記不活性化は、当該技術分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、1)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、2)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の発現が減少するように発現調節配列を改変する方法、3)前記タンパク質の活性が欠失又は低下するようにタンパク質をコードする前記遺伝子配列を改変する方法、4)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、5)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、6)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3'末端に逆転写するようにプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering, RTE)などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0040】
具体的には、前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法は、微生物内の染色体挿入用ベクターを用いて、染色体内の内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部のヌクレオチド配列が欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行うことができる。このようなポリヌクレオチドの全部又は一部を欠失させる方法の一例として、相同組換えによりポリヌクレオチドを欠失させる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
また、前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法は、紫外線などの光又は化学物質を用いて突然変異を誘発し、得られた突然変異体から標的遺伝子が欠失した菌株を選択することにより行うことができる。前記遺伝子欠失方法には、DNA組換え技術による方法が含まれる。前記DNA組換え技術は、例えば標的遺伝子に相同性を有するヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド配列又はベクターを前記微生物に導入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことにより行うことができる。また、前記導入されるヌクレオチド配列又はベクターには、優性選択マーカーが含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
また、前記発現調節配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、前記発現調節配列の活性がさらに低下するように、ポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より活性が低いポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
さらに、前記遺伝子配列を改変する方法は、前記酵素の活性がさらに低下するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに低下するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明における「プリンヌクレオチドを生産する微生物」又は「プリンヌクレオチド生産能を有する微生物」とは、自然にプリンヌクレオチド生産能を有する微生物、又はプリンヌクレオチドの生産能のない親株にプリンヌクレオチドの生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、WhiB-ファミリータンパク質又はWhiB転写調節因子が不活性化されてプリンヌクレオチド生産能を有する微生物である。
【0045】
本発明における「コリネバクテリウム属微生物」には、あらゆるコリネバクテリウム属微生物が含まれる。具体的には、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・フォケ(Corynebacterium phocae)、コリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)、コリネバクテリウム・ヒュミレデュセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・マリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウム・フレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウム・システィティディス(Corynebacterium cystitidis)、コリネバクテリウム・デュルム(Corynebacterium durum)、コリネバクテリウム・ピロスム(Corynebacterium pilosum)又はコリネバクテリウムテス・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)であり、より具体的には、コリネバクテリウム・スタティオニスであるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
一方、コリネバクテリウム属微生物がプリンヌクレオチドを生産することは既に知られているが、その生産能は非常に低く、生産機序に作用する遺伝子や機序原理は解明されていない。よって、本発明のプリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物とは、天然の微生物自体、プリンヌクレオチド生産機序に関する遺伝子の活性を強化もしくは不活性化することによりプリンヌクレオチド生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、又は外部遺伝子の活性を導入もしくは強化することによりプリンヌクレオチド生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物を意味する。具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物は、プリンヌクレオチドの生合成経路が強化されたコリネバクテリウム・スタティオニスであってもよく、前記強化は、生合成経路に関与するタンパク質の活性の強化であってもよい。あるいは、前記コリネバクテリウム属微生物は、プリンヌクレオチド又はその前駆体の分解経路に関与するタンパク質の活性が不活性化されたコリネバクテリウム・スタティオニスであってもよい。
【0047】
ここで、前記プリンヌクレオチド生合成経路に関与するタンパク質の例としては、プリンヌクレオチドがIMPであれば、アミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(amidophosphoribosyltransferase; PurF)、ホスホリボシルアミン-グリシンリガーゼ(phosphoribosylamine-glycine ligase; PurD)、ホスホリボシルグリシンアミドホルミルトランスフェラーゼ(phosphoribosylglycinamide formyltransferase; PurN)、ホスホリボシルホルミルグリシンアミジンシンターゼ(phosphoribosylformylglycinamidine synthase; PurL)、AIRシンテターゼ(AIR synthetase;FGAMシクラーゼ)、ホスホリボシルアミノイミダゾールカルボキシラーゼ(phosphoribosylaminoimidazole carboxylase)、ホスホリボシルアミノイミダゾールスクシノカルボキサミドシンターゼ(phosphoribosylaminoimidazolesuccinocarboxamide synthase)、アデニロコハク酸リアーゼ(adenylosuccinate lyase; ADSL)、ホスホリボシルアミノイミダゾールカルボキサミドホルミルトランスフェラーゼ(phosphoribosylaminoimidazolecarboxamide formyltransferase)及びイノシン一リン酸シンターゼ(inosine monophosphate synthase)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質が挙げられる。
【0048】
また、プリンヌクレオチドがXMPであれば、前記活性が強化されたタンパク質の例としては、前記群にさらにIMPデヒドロゲナーゼ(IMP dehydrogenase)が含まれる群から選択される少なくとも1つのタンパク質が挙げられる。
【0049】
さらに、プリンヌクレオチドがGMPであれば、前記活性が強化されたタンパク質の例としては、前記群にさらにIMPデヒドロゲナーゼ(IMP dehydrogenase)及び/又はGMPシンターゼ(GMP synthase)が含まれる群から選択される少なくとも1つのタンパク質が挙げられる。
【0050】
さらに、プリンヌクレオチドがAMPであれば、前記活性が強化されたタンパク質の例としては、前記群にさらにアデニロコハク酸シンターゼ(adenylosuccinate synthase; purA)が含まれる群から選択される少なくとも1つのタンパク質が挙げられる。
【0051】
最も具体的には、プリンヌクレオチド生合成経路に関与するタンパク質はアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(PurF)であるが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の他の態様は、本発明による前記微生物を培地で培養するステップを含む、プリンヌクレオチドの生産方法を提供する。
【0053】
前記生産方法は、プリンヌクレオチドを回収するステップをさらに含んでもよい。
【0054】
前記微生物及びプリンヌクレオチドについては前述した通りである。
【0055】
本発明における「培養」とは、微生物を人工的に適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明におけるコリネバクテリウム属微生物を培養する方法としては、当該技術分野で公知の方法を用いることができる。具体的には、前記培養は、バッチプロセス又は流加もしくは反復流加プロセス(fed batch or repeated fed batch process)で連続して培養することができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
前記微生物を培養するステップは、特にこれらに限定されるものではないが、公知の回分培養法、連続培養法、流加培養法などにより行われてもよい。本願の微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられる培地であれば特に限定されるものではなく、いかなるものでも用いることができ、具体的には好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地内において、好気性条件下で温度、pHなどを調節して本発明の微生物を培養することができる。コリネバクテリウム菌株の培養培地は公知である(例えば、非特許文献16)。培地に用いることのできる糖源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
用いることのできる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、黄粉及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源も、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
用いることのできるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、又はそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよい。最後に、前記物質以外に、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に好適な前駆体が用いられてもよい。前述した原料は、培養過程において培養物に好適な方法でバッチ毎に又は連続して添加されてもよい。
【0059】
前記微生物の培養中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの基礎化合物、又はリン酸、硫酸などの酸性化合物を好適な方法で用いて培養物のpHを調整することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。培養物の温度は、通常は20℃~45℃、具体的には25℃~40℃である。培養時間は、所望のL-アミノ酸の生成量が得られるまで続けてもよく、具体的には10~160時間である。
【0060】
前記培養により生産されたプリンヌクレオチドは、培地中に分泌されるか、細胞内に残留する。
【0061】
本発明の生産方法は、前記培養ステップの後に、前記微生物又は培地からプリンヌクレオチドを回収するステップをさらに含んでもよい。
【0062】
前記プリンヌクレオチドの回収は、当該技術分野で公知の通常の方法により行うことができる。その回収方法としては、遠心分離、濾過、イオン交換クロマトグラフィー、結晶化などの方法が用いられてもよい。例えば、培養物を低速で遠心分離することによりバイオマスを除去して得られた上清をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができるが、これに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の好適な方法により培養された微生物又は培地から目的とするプリンヌクレオチドを回収することができる。
【0063】
前記回収ステップは、分離工程及び/又は精製工程をさらに含んでもよい。
【0064】
本発明のさらに他の態様は、本出願の配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化されたコリネバクテリウム属微生物のプリンヌクレオチド生産増加のための用途を提供する。
【0065】
本発明のさらに他の態様は、本発明の配列番号1を含むタンパク質をコリネバクテリウム属微生物において不活性化するステップを含むプリンヌクレオチド生産増加方法を提供する。
【0066】
前記「プリンヌクレオチド」、「配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質」、「不活性化」及び「コリネバクテリウム属微生物」については前述した通りである。
【実施例
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0068】
WhiB-ファミリータンパク質の不活性化を目的とする組換えベクターの作製
プリンヌクレオチド生産能を向上させるための不活性化対象タンパク質としてWhiB-ファミリータンパク質を選定した。
【0069】
実施例1-1:コリネバクテリウム・スタティオニスWhiB-ファミリータンパク質の選定
野生型コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis, ATCC 6872)のゲノムから探索し、そのうち有効であると判断される1種の遺伝子を選択し、米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH Genbank)に報告されている塩基配列に基づいてTranscriptional regulator WhiBであることを確認した。
【0070】
実施例1-2:WhiB-ファミリータンパク質不活性化のためのコード遺伝子断片の準備
コリネバクテリウム・スタティオニスの野生型であるATCC 6872菌株の染色体遺伝子をG-spinトータルDNA抽出キット(Intron社, Cat. No 17045)により抽出した。その後、前記染色体遺伝子を鋳型とし、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction; PCR)を行った。
【0071】
その後、WhiB-ファミリータンパク質を不活性化するために、前記タンパク質をコードする遺伝子を欠失させて内在性活性を完全に除去するか、又は前記遺伝子を弱化させてコードするタンパク質の発現量を最小限に抑えた。
【0072】
具体的には、実施例1-2-1で作製するベクターを用いて前記遺伝子の内在性活性を除去し、実施例1-2-2で作製するベクターを用いて前記菌株の内在性開始コドンであるATGをGTG又はTTGに置換した。前記GTG又はTTGコドンは、ATGコドンよりタンパク質発現効率が低いことが知られている。
【0073】
実施例1-2-1:WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子を欠失させるためのベクターの製作
WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の欠失を目的とするベクターを作製するために、ATCC 6872菌株を鋳型とし、配列番号3と配列番号4のプライマー対及び配列番号5と配列番号6のプライマー対を用いて遺伝子断片(deletion-A,deletion-B)をそれぞれ得た。ここで、PCR条件は、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で120秒間の重合を25サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0074】
その結果、deletion-Aにおいては1026bp、deletion-Bにおいては1044bpのサイズを有するポリヌクレオチドが得られた。前述した2つの断片を鋳型とし、配列番号3及び配列番号6を用いてOverlapping PCRを行うことにより、2050bpのPCR産物(以下、「欠失断片」という)が得られた。
【0075】
前述したように得られた欠失断片を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン含有LB培地から選択し、DNA-spinプラスミドDNA全体キット(iNtRON社)を用いてDNAを得た。
【0076】
前述したように作製したWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の欠失を目的とするベクターを「pDZ-deletion」と命名した。
【0077】
実施例1-2-2:WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子を弱めさせるためのベクターの製作
WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の弱化を目的とするベクターを作製するために、ATCC 6872菌株の開始コドンであるATGをTTG又はGTGに改変した。
【0078】
まず、開始コドンがTTGに改変された菌株を作製するために、ATCC 6872菌株を鋳型とし、配列番号7と配列番号8のプライマー対及び配列番号9と配列番号10のプライマー対を用いて、TTG又はGTGに改変された遺伝子断片(a1t-A及びa1t-B)をそれぞれ得た。その結果、a1t-Aにおいては974bp、a1t-Bにおいては982bpのサイズを有するポリヌクレオチドが得られた。前述した2つの断片を鋳型とし、配列番号7及び配列番号10を用いてOverlapping PCRを行うことにより、1955bpのPCR産物(以下、「a1t断片」という)が得られた。
【0079】
また、開始コドンがGTGに改変された菌株を作製するために、ATCC 6872菌株を鋳型とし、配列番号7と配列番号11のプライマー対及び配列番号12と配列番号10のプライマー対を用いて遺伝子断片(a1g-A及びa1g-B)をそれぞれ得た。その結果、a1g-Aにおいては974bp、a1g-Bにおいては982bpのサイズを有するポリヌクレオチドが得られた。前述した2つの断片を鋳型とし、配列番号7及び配列番号10を用いてOverlapping PCRを行うことにより、1955bpのPCR産物(以下、「a1g断片」という)が得られた。
【0080】
なお、各PCR条件は全て同一であり、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で120秒間の重合を25回サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0081】
前述したように得られた遺伝子断片を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン含有LB培地から選択し、DNA-spinプラスミドDNA全体キット(iNtRON社)を用いてDNAを得た。
【0082】
前述したように作製したWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の弱化を目的とするベクターをそれぞれ「pDZ-a1t」、「pDZ-a1g」と命名した。
【0083】
なお、ベクターの作製のために用いたプライマーの配列を表1に示す。
【0084】
【表1】
【実施例2】
【0085】
プリンヌクレオチドを生産する野生型菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製及びそのプリンヌクレオチド生産能の評価
実施例2-1:プリンヌクレオチドのうちXMPを生産する野生型由来の菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製
コリネバクテリウム・スタティオニスKCCM-10530菌株(特許文献4)に実施例1で作製した2種のベクター(pDZ-a1t及びpDZ-a1g)をエレクトロポレーションによりそれぞれ独立して形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で生長したコロニーを1次選択した。
【0086】
その後、前記菌株の内在性遺伝子と前記ベクターに含まれるポリヌクレオチド間の相同性を用いた2次交差過程を経て、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失するか、又は開始コドンが弱化した形態(ATG→TTG又はATG→GTG)に改変された菌株を得た。
【0087】
なお、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失した菌株は、配列番号13及び配列番号6のプライマーを用いて選択した。前記プライマーでPCRを行ったところ、野生型菌株においては1680bpのサイズの断片が検出されたが、遺伝子が欠失した菌株においては1414bpのサイズの断片が検出された。
【0088】
また、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が弱化した菌株は、mismatch PCRにより選択した。配列番号14及び配列番号6を用いてATG→TTG変異を選択し、配列番号15及び配列番号6を用いてATG→GTG変異を選択した。配列番号14と配列番号15は、それぞれ3’末端に野生型菌株の塩基配列であるAに代えてそれぞれT又はGを含んでおり、変異がある場合のみPCR断片が検出されるようにした。mismatch PCRにより1次確認した菌株は、遺伝子配列分析により最終確認した。
【0089】
最終的に、前述したように得られたWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失した菌株を「CN02-1545」と命名し、開始コドンがTTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJX-1546」と命名し、開始コドンがGTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJX-1547」と命名した。
【0090】
なお、菌株の作製のために用いたプライマーの配列を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
一方、前記CN02-1545菌株は、ブダペスト条約上の寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2017年11月7日付けで寄託番号KCCM12152Pとして国際寄託した。
【0093】
実施例2-2:WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株のXMP生産能の評価
プリンヌクレオチドのうちXMPを生産するコリネバクテリウム・スタティオニスKCCM-10530、並びに実施例2-1で作製したCN02-1545、CJX-1546及びCJX-1547菌株のXMP生産能を測定するために、次の培養方法を用いた。
【0094】
下記種培地5mlを直径18mmの試験管に分注し、常法に従って加圧殺菌し、その後使用菌株を接種し、180rpm、30℃で18時間振盪培養して種培養液として用いた。発酵培地のうち本培地と別途殺菌培地をそれぞれ常法に従って加圧殺菌し、予め加圧殺菌しておいた容量500mlの振盪用三角フラスコに29ml、10mlずつ分注し、種培養液1mlを植菌して72時間培養した。回転数200rpm、温度30℃に調節した。
【0095】
用いた培地の組成は次の通りであり、培養完了後にHPLCを用いた方法によりXMPの生産量を測定した。その結果を表3に示す。XMP蓄積濃度は「5'-キサンチル酸ナトリウム・7H2O」で表した。
XMPフラスコ種培地
グルコース30g/L,ペプトン15g/L,酵母エキス15g/L,塩化ナトリウム2.5g/L,ウレア3g/L,アデニン150mg/L,グアニン150mg/L,pH7.2
XMPフラスコ生産培地(本培地)
グルコース60g/L,硫酸マグネシウム10g/L,塩化カルシウム10mg/L,硫酸鉄20mg/L,硫酸マンガン10mg/L,硫酸亜鉛10mg/L,硫酸銅1mg/L,ビオチン100ug/L,チアミン5mg/L,アデニン30mg/L,グアニン30mg/L,pH7.2
XMPフラスコ生産培地(別途殺菌培地)
リン酸二水素カリウム10g/L,リン酸水素二カリウム10g/L,ウレア7g/L,硫酸アンモニウム5g/L
【0096】
【表3】
【0097】
表3において、生産性は、培養後48時間の時点での単位時間当たりのXMP生産量を示す。
【0098】
表3に示すように、親株KCCM10530菌株はフラスコ培養終了後に11.8g/LのXMPを生産し、XMP生産量を親株KCCM10530と比較すると、CN02-1545は1.3g/L増加し、CJX-1546は0.5g/L増加し、CJX-1547は0.7g/L増加することが確認された。これは、XMP生産量が親株に比べてそれぞれ11%、4%、6%向上したものである。
【0099】
また、親株KCCM10530菌株は0.148g/L/hrの生産性を示すのに対して、CN02-1545は0.191g/L/hr、CJX-1546は0.188g/L/hr、CJX-1547は0.198g/L/hrの生産性を示すことが確認された。これは、XMP生産性が親株に比べてそれぞれ29%、27%、34%向上したものである。
【0100】
これらの結果は、本発明のWhiB-ファミリータンパク質を不活性化するとプリンヌクレオチドの生産が増加することを示唆するものである。
【実施例3】
【0101】
プリン生合成経路遺伝子が強化されたプリンヌクレオチドを生産する変異菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製及びそのプリンヌクレオチド生産能の評価
実施例3-1:プリンヌクレオチドのうちXMPを生産する変異菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製
プリン生合成経路遺伝子が強化されたXMP生産菌株を用いて、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が不活性化された菌株を作製した。具体的には、プリン生合成経路遺伝子が強化されたXMP生産菌株は、KCCM-10530にPurFが強化された菌株であり、purF遺伝子の開始コドンGTGがATGに変更された菌株である。前記プリン生合成経路遺伝子であるpurFが強化されたKCCM-10530菌株をCJX-1544[KCCM-10530_purF(g1a)]と命名した。前記CJX-1544[KCCM-10530_purF(g1a)]菌株に実施例1で作製した組換えベクターpDZ-deletionベクターをエレクトロポレーションにより形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で生長したコロニーを1次選択した。
【0102】
その後、前記菌株の内在性遺伝子と前記ベクターに含まれるポリヌクレオチドの相同性を用いた2次交差過程を経て、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失した菌株を得た。なお、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失した菌株は、実施例2と同様に、配列番号13及び配列番号6を用いて確認した。
【0103】
最終的に、前述したように得られたWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が欠失した菌株を「CJX-1553」と命名した。
【0104】
実施例3-2:WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が不活性化された菌株のプリンヌクレオチド(XMP)生産能の評価
プリン生合成経路遺伝子であるpurFが強化されたCJX-1544、及び実施例3-1で作製したCJX-1553菌株のXMP生産能を測定するために、実施例2-2の培養方法を用いた。培養完了後にHPLCを用いた方法によりXMPの生産量を測定した。その結果を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
表4において、生産性は、培養後48時間の時点での単位時間当たりのXMP生産量を示す。
【0107】
表4に示すように、プリン生合成経路因子であるpurFが強化された親株CJX-1544に比べて、CJX-1553菌株はXMP生産量が1.5g/L増加することが確認された。これは、XMP生産量が親株CJX-1544に比べて10.7%向上したものである。
【0108】
また、親株CJX-1544菌株は0.183g/L/hrの生産性を示すのに対して、CJX-1553は0.212g/L/hrの生産性を示すことが確認された。これは、XMP生産性が親株CJX-1544に比べて16%向上したものである。
【実施例4】
【0109】
プリンヌクレオチドを生産する野生型菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製及びそのプリンヌクレオチド生産能の評価
実施例4-1:プリンヌクレオチドのうちIMPを生産する野生型由来の菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製
コリネバクテリウム・スタティオニスKCCM-10610(特許文献5)に実施例1で作製した2種のベクター(pDZ-a1t及びpDZ-a1g)をエレクトロポレーションによりそれぞれ独立して形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で生長したコロニーを1次選択した。
【0110】
その後、前記菌株の内在性遺伝子と前記ベクターに含まれるポリヌクレオチド間の相同性を用いた2次交差過程を経て、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の開始コドンが弱化した形態(ATG→TTG又はATG→GTG)に改変された菌株を得た。
【0111】
WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子が弱化した菌株は、mismatch PCRにより選択した。配列番号14及び配列番号6を用いてATG→TTG変異を選択し、配列番号15及び配列番号6を用いてATG→GTG変異を選択した。配列番号14と配列番号15は、それぞれ3’末端に野生型菌株の塩基配列でありAに代えてそれぞれT又はGを含んでおり、変異がある場合のみPCR断片が検出されるようにした。mismatch PCRにより1次確認した菌株は、遺伝子配列分析により最終確認した。
【0112】
最終的に、前述したように得られたWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の開始コドンがTTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJI-2078」と命名し、開始コドンがGTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJI-2077」と命名した。
【0113】
実施例4-2:WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株のプリンヌクレオチド(IMP)生産能の評価
プリンヌクレオチドのうちIMPを生産する菌株であるコリネバクテリウム・スタティオニスKCCM-10610、並びに実施例4-1で作製したCJI-2078及びCJI-2077菌株のIMP生産能を測定するために、次の培養方法を用いた。
【0114】
加圧殺菌した試験管(直径18mm)に種培地5mlを接種し、30℃の温度で24時間振盪培養して種培養液として用いた。生産培地29mlを250ml振盪用三角フラスコに分注し、121℃の温度で15分間加圧殺菌し、その後種培養液2mlを接種して4~5日間培養した。培養条件は、回転数170rpm、温度30℃、pH7.5に調節した。
【0115】
用いた培地の組成は次の通りであり、培養完了後にHPLCを用いた方法によりIMPの生産量を測定した。その結果を表5に示す。
IMP種培地
グルコース10g/L,ペプトン10g/L,肉汁10g/L,酵母エキス10g/L,塩化ナトリウム2.5g/L,アデニン100mg/L,グアニン100mg/L,pH7.2
IMPフラスコ生産培地
グルタミン酸ナトリウム1g/L,塩化アンモニウム10g/L,硫酸マグネシウム12g/L,塩化カルシウム0.1g/L,硫酸鉄20mg/L,硫酸マンガン20mg/L,硫酸亜鉛20mg/L,硫酸銅5mg/L,L-システイン23mg/L,アラニン24mg/L,ニコチン酸8mg/L,ビオチン45μg/L,チアミン塩酸塩5mg/L,アデニン30mg/L,リン酸(85%)19g/L,グルコース26g/L,フルクトース14g/L添加
【0116】
【表5】
【0117】
表5に示すように、IMP生産量を親株KCCM-10610と比較すると、CJI-2078菌株は0.5g/L増加し、CJI-2077は0.2g/L増加することが確認された。これは、IMP生産量が親株に比べてそれぞれ4.5%、1.8%向上したものである。
【実施例5】
【0118】
プリン生合成経路遺伝子が強化されたプリンヌクレオチドを生産する変異菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製及びそのプリンヌクレオチド生産能の評価
実施例5-1:プリンヌクレオチドのうちIMPを生産する変異菌株を用いた、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株の作製
プリン生合成経路遺伝子が強化されたIMP生産菌株を用いて、WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株を作製した。具体的には、プリン生合成経路遺伝子が強化されたIMP生産菌株は、KCCM-10610にプリン生合成経路遺伝子であるpurFが強化された菌株であり、purF遺伝子の開始コドンGTGがATGに変更された菌株である。前記プリン生合成経路遺伝子であるpurFが強化されたKCCM-10610菌株をCJI-1964[KCCM-10610_purF(g1a)]と命名した。前記CJI-1964[KCCM-10610_purF(g1a)]菌株に実施例1で作製した2種のベクター(pDZ-a1t及びpDZ-a1g)をエレクトロポレーションにより形質転換し、実施例4-1と同様に、WhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の開始コドンが弱化した形態(ATG→TTG又はATG→GTG)に改変された菌株を得た。
【0119】
最終的に、前述したように得られたWhiB-ファミリータンパク質をコードする遺伝子の開始コドンがTTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJI-2081」と命名し、開始コドンがGTG形態に置換されて前記遺伝子が弱化した菌株を「CJI-2080」と命名した。
【0120】
実施例5-2:WhiB-ファミリータンパク質が不活性化された菌株のプリンヌクレオチド(IMP)生産能の評価
プリン生合成経路遺伝子が強化されたCJI-1964菌株、並びに実施例5-1で作製したCJI-2081及びCJI-2080菌株のIMP生産能を測定するために、実施例4-2の培養方法を用いた。培養完了後にHPLCを用いた方法によりIMPの生産量を測定した。その結果を表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
表6に示すように、IMP生産量を親株CJI-1964と比較すると、CJI-2081菌株は0.9g/L増加し、CJI-2080は0.7g/L増加することが確認された。これは、IMP生産量が親株CJI-1964に比べてそれぞれ7.8%、6.1%向上したものである。
【0123】
すなわち、WhiB-ファミリータンパク質転写調節因子を不活性化すると、親株又は非変型微生物に比べてプリンヌクレオチドを高収率で生産できることが確認された。また、これらの結果は、WhiB-ファミリータンパク質を不活性化すると、親株又は非変型微生物に比べてプリンヌクレオチドを高収率で生産できることを示唆するものである。
【0124】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0125】
【配列表】
0007033665000001.app