(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】温超純水製造システムの立ち上げ方法、立ち上げプログラム、及び温超純水製造システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/02 20060101AFI20220303BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220303BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20220303BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C02F1/02 F
C02F1/44 J
C02F1/42 A
C02F1/42 B
B01D61/14
(21)【出願番号】P 2021177165
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2021-10-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000245531
【氏名又は名称】野村マイクロ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯山 真充
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-123897(JP,A)
【文献】特開2018-043228(JP,A)
【文献】特開2017-200683(JP,A)
【文献】特開2014-217830(JP,A)
【文献】特開2019-152411(JP,A)
【文献】特開2021-120988(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105494(WO,A1)
【文献】特開2013-202610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 9/00
B01D61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水をユースポイントへの供給水温に加熱し温超純水を製造する温超純水製造システムの立ち上げ方法であって、
常温以上で且つ前記供給水温以下の水温範囲内で、前記超純水を常温よりも高温に昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも低温に降温させた降温水と、を前記温超純水が流れる温超純水配管に交互に通水する、温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項2】
前記温超純水製造システムが、前記超純水を水温調整して前記供給水温にする水温調整装置を備えており、
前記水温調整装置を用いて、前記超純水への前記昇温と前記降温とを行う請求項1に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項3】
前記昇温水の水温は、前記供給水温よりも10℃低い水温以上である請求項2に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項4】
前記降温水の水温は、50℃以下である請求項3に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項5】
前記温超純水配管への前記昇温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上24時間以下である請求項1~請求項4の何れか一項に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項6】
前記温超純水配管への前記降温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上24時間以下である請求項1~請求項4の何れか一項に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項7】
前記超純水の昇温時及び降温時の単位時間当たりの水温変化の絶対値が0.2℃/分以上で5.0℃/分以下である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項8】
前記温超純水配管への前記昇温水の1回の通水と前記降温水の1回の通水とを通水サイクルとして、前記通水サイクルを3回以上10回以下で繰り返す請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項9】
前記温超純水配管への前記昇温水と前記降温水との交互の通水を、前記温超純水製造システムから前記ユースポイントへの前記温超純水の供給前に行う、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の温超純水製造システムの立ち上げ方法。
【請求項10】
超純水をユースポイントへの供給水温に加熱し温超純水を製造する温超純水製造システムの立ち上げプログラムであって、
常温以上で且つ前記供給水温以下の水温範囲内で、前記超純水を常温よりも高温に昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも低温に降温させた降温水と、を前記温超純水が流れる温超純水配管に交互に通水することを含む処理をコンピュータに実行させる、温超純水製造システムの立ち上げプログラム。
【請求項11】
超純水を製造する超純水製造装置と、
前記超純水製造装置で製造された前記超純水を水温調整しユースポイントへの供給水温に昇温して温超純水とする水温調整装置と、
前記水温調整装置の内部、及び、前記水温調整装置とユースポイント間に設けられて前
記温超純水が流れる温超純水配管と、
前記超純水から、常温以上で且つ前記ユースポイントへの供給水温以下の水温範囲内で、前記常温よりも昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも降温させた降温水と、を交互に生成するように、前記水温調整装置を制御する制御装置と、
を有する温超純水製造システム。
【請求項12】
超純水を製造する超純水製造装置と、
前記超純水製造装置で製造された前記超純水を水温調整しユースポイントへの供給水温に昇温して温超純水とする水温調整装置と、
前記水温調整装置の内部、及び、前記水温調整装置とユースポイント間に設けられて前記温超純水が流れる温超純水配管と、
を有し、
前記超純水製造装置が、
被処理水からイオン交換により異物を除去するイオン交換装置と、
前記イオン交換装置よりも前記被処理水の流れ方向の下流に設けられる第一限外濾過膜と、
を有し、
前記水温調整装置が、
前記超純水と熱媒との熱交換を行う熱交換器と、
前記熱交換器よりも前記超純水の流れ方向の下流に設けられる第二限外濾過膜と、
で構成され、
前記超純水が前記超純水製造装置から前記ユースポイントに直接的に流れる超純水配管と、
前記超純水配管から分岐し前記超純水が前記水温調整装置に流れる分岐配管と、
を有する、温超純水製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、温超純水製造システムの立ち上げ方法、立ち上げプログラム、及び温超純水製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において利用される超純水として、たとえば洗浄工程における洗浄効果を高めるために、所定の水温に昇温した温超純水が用いられることがある。特許文献1には、一次純水を超純水加熱装置で加熱してユースポイントに供給する構成が記載されている。
【0003】
温超純水を製造するシステムでは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の配管が用いられることが多い。しかしながら、温超純水製造システムの立ち上げ時には、PVDF製の配管からフッ素が溶出するため、温超純水のフッ素濃度が高くなる。
【0004】
このような不都合を解消するために、特許文献1では、ユースポイント配管の洗浄方法として、供給する温超純水の水温よりも高い水温でユースポイント配管の洗浄を行うことが記載されている。すなわち、このように高い水温の洗浄水でユースポイント配管を洗浄することで、ユースポイント配管からのフッ素の溶出を促進し、短時間で溶出を低減した後は所望の水質とすることができる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に温超純水製造システムを立ち上げる際には、上記の方法では立ち上げ時間の短縮という点で不十分である。しかも、供給する温超純水の水温よりも高い水温の洗浄水でユースポイント配管を洗浄すると、ユースポイント配管の変形、強度低下や劣化(以下、これらをまとて単に「劣化」という)を促進するおそれがある。ユースポイント配管の劣化が促進されれば、劣化によって新たに溶出物や微粒子等が発生し、水質が悪化してしまう。
【0007】
本願の目的は、温超純水配管の劣化を抑制しつつ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、超純水をユースポイントへの供給水温に加熱し温超純水を製造する温超純水製造システムの立ち上げ方法であって、常温以上で且つ前記供給水温以下の水温範囲内で、前記超純水を常温よりも高温に昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも低温に降温させた降温水と、を前記温超純水が流れる温超純水配管に交互に通水する。
【0009】
すなわち、この温超純水製造システムの立ち上げ方法では、温超純水配管に、昇温水と降温水とを交互に通水する。昇温水は、常温よりも高温で且つ供給温度以下に昇温した超純水であり、降温水は、昇温水よりも低温で常温以上に降温した超純水である。
【0010】
昇温水の通水により、温超純水配管はわずかに伸長する。これに対し、降温水の通水により、温超純水配管はわずかに収縮する。そのため、温超純水配管は、昇温水と降温水とが交互に通水されることで伸縮する。このように温超純水配管を伸縮させることで、たとえば、昇温水や供給水温の超純水を単に通水する場合と比較して、温超純水配管が含有するフッ素を短時間で溶出させることができ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くできる。
【0011】
昇温水及び降温水の水温範囲は、常温以上で、且つユースポイントへの供給水温以下である。すなわち、超純水を過度に加熱したり冷却したりする必要はない。
【0012】
昇温水の水温は供給水温以下なので、供給水温を超えた高温の水を温超純水配管に通水する場合と比較して、温超純水配管の劣化を抑制できる。
【0013】
第二態様では、前記温超純水製造システムが、前記超純水を水温調整して前記供給水温にする水温調整装置を備えており、前記水温調整装置を用いて、前記超純水への前記昇温と前記降温とを行う。
【0014】
超純水への昇温及び降温を、温超純水製造システムが有している水温調整装置を用いて行うので、この水温調整装置とは別の昇温装置や降温装置を用いて、これらを制御する必要がない。すなわち、超純水への昇温及び降温を容易に行うことが可能である。
【0015】
第三態様では、前記昇温水の水温は、前記供給水温よりも10℃低い水温以上である。
【0016】
すなわち、昇温水として、供給水温以下で、且つ供給水温に近い一定範囲を保つので、温超純水配管を伸長する作用を確実に奏することが可能である。昇温水の温度が、供給水温から10℃低い水温よりさらに低い水温(たとえば供給水温が75℃の場合、昇温水の水温が65℃未満)であると、温超純水配管を充分に伸長させることができないおそれがあるが、昇温水の水温を供給水温よりも10℃低い水温以上とすることで、温超純水配管を充分に伸長させることができる。
【0017】
第四態様では、前記降温水の水温は、50℃以下である。
【0018】
このように降温水の水温に上限を設けることで、温超純水配管を降温水によって確実に収縮させることが可能である。降温水の水温が50℃超であると、温超純水配管を充分に収縮させることができないおそれがあるが、降温水の水温を50℃以下とすることで、温超純水配管を充分に収縮させることができる。
【0019】
第五態様では、前記温超純水配管への前記昇温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上24時間以下である。
【0020】
温超純水配管への昇温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上であることで、昇温水の連続通水時間が3時間未満である場合と比較して、温超純水配管を昇温水によって確実に伸長させることが可能である。
【0021】
また、温超純水配管への昇温水の通水1回あたりの連続通水時間が24時間以下であることで、昇温水の連続通水時間が24時間超である場合と比較して、昇温水の通水時間が過度に長くなることを抑制できる。
【0022】
第六態様では、前記温超純水配管への前記降温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上24時間以下である。
【0023】
温超純水配管への降温水の通水1回あたりの連続通水時間が3時間以上であることで、降温水の連続通水時間が3時間未満である場合と比較して、温超純水配管降温水によって確実に収縮させることが可能である。
【0024】
また、温超純水配管への降温水の通水1回あたりの連続通水時間が24時間以下であることで、降温水の連続通水時間が24時間超である場合と比較して、降温水の通水時間が過度に長くなることを抑制できる。
【0025】
第七態様では、前記超純水の昇温時及び降温時の単位時間当たりの水温変化の絶対値が0.2℃/分以上で5.0℃/分以下である。
【0026】
昇温時及び降温時の単位時間当たりの水温変化の絶対値を5.0℃/分以下とすることで、水温変化が緩やかになる。このため、水温変化が急激に生じる場合と比較して、温超純水配管の劣化を抑制できる。
【0027】
また、この水温変化の絶対値を0.2℃/分以上とすることで、水温変化に要する時間が過度に長くなることを抑制できる。
【0028】
第八態様では、前記温超純水配管への前記昇温水の1回の通水と前記降温水の1回の通水とを通水サイクルとして、前記通水サイクルを3回以上10回以下で繰り返す。
【0029】
通水サイクルを3回以上とすることで、通水サイクルを2回以下とした場合と比較して、温超純水配管から確実にフッ素を溶出させることができる。
【0030】
通水サイクルを10回以下とすることで、通水サイクルを11回以上とした場合と比較して、過度に通水サイクルが多くならず、立ち上げ時間を短縮できる。
【0031】
第九態様では、前記温超純水配管への前記昇温水と前記降温水との交互の通水を、前記温超純水製造システムから前記ユースポイントへの前記温超純水の供給前に行う。
【0032】
これにより、ユースポイントへ供給される温超純水にフッ素が溶出することを抑制できる。
【0033】
第十態様では、超純水をユースポイントへの供給水温に加熱し温超純水を製造する温超純水製造システムの立ち上げプログラムであって、常温以上で且つ前記供給水温以下の水温範囲内で、前記超純水を常温よりも高温に昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも低温に降温させた降温水と、を前記温超純水が流れる温超純水配管に交互に通水することを含む処理をコンピュータに実行させる。
【0034】
すなわち、この温超純水製造システムの立ち上げプログラムでは、温純水配管に、昇温水と降温水とを交互に通水する処理をコンピュータに実行させる。昇温水は、常温よりも高温で且つ供給水温以下に昇温した超純水であり、降温水は、昇温水よりも低温で常温以上に降温した超純水である。
【0035】
昇温水の通水により、温超純水配管はわずかに伸長する。これに対し、降温水の通水により、温超純水配管はわずかに収縮する。すなわち、温超純水配管は、昇温水と降温水とが交互に通水されることで伸縮する。このように温超純水配管を伸縮させることで、たとえば、昇温水や供給水温の超純水を単に通水する場合と比較して、温超純水配管が含有するフッ素を短時間で溶出させることができる。そしてこれにより、温超純水配管を、温超純水の製造が可能な状態とすることができるので、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くできる。
【0036】
昇温水及び降温水の水温範囲は、常温以上で、且つユースポイントへの供給水温以下である。すなわち、超純水を過度に加熱したり冷却したりする必要はない。
【0037】
昇温水の水温は供給水温以下なので、供給水温を超えた高温の水を温超純水配管に通水する場合と比較して、温超純水配管の劣化を抑制できる。
【0038】
第十一態様では、超純水を製造する超純水製造装置と、前記超純水製造装置で製造された前記超純水を水温調整しユースポイントへの供給水温に昇温して温超純水とする水温調整装置と、前記水温調整装置の内部、及び、前記水温調整装置とユースポイント間に設けられて前記温超純水が流れる温超純水配管と、前記超純水から、常温以上で且つ前記ユースポイントへの供給水温以下の水温範囲内で、前記常温よりも昇温させた昇温水と、前記昇温水よりも降温させた降温水と、を交互に生成するように、前記水温調整装置を制御する制御装置と、を有する。
【0039】
この温超純水製造システムでは、超純水製造装置によって製造された超純水の水温を、水温調整装置が調整して昇温し、ユースポイントへの供給水温とする。そして、温超純水配管を通じて温超純水をユースポイントに供給できる。
【0040】
この温超純水製造システムでは、昇温水と降温水とを交互に生成するように、制御装置が水温調整装置を制御する。水温調整装置の内部、及び、水温調整装置とユースポイント間には温超純水配管が設けられており、この温超純水配管に、昇温水と降温水とを交互に通水することができる。
【0041】
温超純水配管は、昇温水と降温水とが交互に通水されることで伸縮するので、たとえば、昇温水を単に通水する場合と比較して、温超純水配管が含有するフッ素を短時間で溶出させることができ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くできる。
【0042】
昇温水及び降温水の水温範囲は、常温以上で、且つユースポイントへの供給水温以下である。すなわち、超純水を過度に加熱したり冷却したりする必要はない。
【0043】
昇温水の水温は供給水温以下なので、供給水温を超えた高温の水を温超純水配管に通水する場合と比較して、温超純水配管の劣化を抑制できる。
【0044】
また、この温超純水製造システムを用いると、超純水を製造する工程と、この超純水から温超純水を製造する工程と、を分離できる。換言すれば、超純水製造装置によって不純物を充分に除去した超純水を製造した後に、この超純水に対し、水温調整装置による水温調整で温超純水を得る。温超純水を製造する工程では超純水の水温を調整すれば足りるので、水温を調整する工程を最小にすることが可能である。そしてこれにより、水温製造装置において水温を調整する工程で流入する不純物の量を少なくすると共に、水温を調整する工程の立ち上げ時間を短くできる。そのため、温超純水製造システムの立ち上げの際の温超純水配管へのダメージを小さくでき、長期間にわたって高純度な温超純水を製造することが可能である。特に、この温超純水製造システムにおいて本願の開示の技術に係る立ち上げ方法を適用すると、より短時間で温超純水製造システムを立ち上げることが可能である。
【0045】
第十二態様では、超純水を製造する超純水製造装置と、前記超純水製造装置で製造された前記超純水を水温調整しユースポイントへの供給水温に昇温して温超純水とする水温調整装置と、前記水温調整装置の内部、及び、前記水温調整装置とユースポイント間に設けられて前記温超純水が流れる温超純水配管と、を有し、前記超純水製造装置が、被処理水からイオン交換により異物を除去するイオン交換装置と、前記イオン交換装置よりも前記被処理水の流れ方向の下流に設けられる第一限外濾過膜と、を有し、前記水温調整装置が、前記超純水と熱媒との熱交換を行う熱交換器と、前記熱交換器よりも前記超純水の流れ方向の下流に設けられる第二限外濾過膜と、を有する。
【0046】
この温超純水製造システムでは、超純水製造装置によって製造された超純水の水温を、水温調整装置が調整して昇温し、ユースポイントへの供給水温とする。そして、温超純水配管を通じて温超純水をユースポイントに供給できる。
【0047】
超純水製造装置はイオン交換装置を有しており、イオン交換によって被処理水から異物を効果的に除去できる。また、超純水製造装置はイオン交換装置よりも被処理水の流れ方向の下流に第一限外濾過膜を有しており、イオン交換装置では除去できなかった異物を除去できる。これにより、異物を充分に除去した高純度の超純水を得ることができる。
【0048】
水温調整装置は熱交換器を有しており、熱媒との熱交換により、超純水を効率的に水温調整して、ユースポイントへの供給水温に加熱できる。また、水温調整装置は第二限外濾過膜を有しており、これよりも上流側で異物が生じていても、この異物を除去して温超純水をユースポイントに送ることが可能である。
【0049】
このように、温超純水を得る一連のプロセスを、イオン交換装置、第一限外濾過膜、熱交換器及び第二限外濾過膜までの一連の工程で実現できる。
【0050】
また、温度調整装置では、熱交換器によって超純水と熱媒との熱交換を行うことで、単に供給水温に加熱された温超純水を得るだけでなく、超純水の水温を所望の水温とすることも可能である。たとえば、超純水の水温を、常温以上で且つユースポイントへの供給水温以下の水温範囲内で、常温よりも昇温させた昇温水と、昇温水よりも降温させた降温水と、を交互に生成することが可能である。そして、温超純水配管に、昇温水と降温水とを交互に通水することができる。
【0051】
温超純水配管は、昇温水と降温水とが交互に通水されることで伸縮するので、たとえば、昇温水を単に通水する場合と比較して、温超純水配管が含有するフッ素を短時間で溶出させることができ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くできる。
【0052】
昇温水及び降温水の水温範囲は、常温以上で、且つユースポイントへの供給水温以下である。すなわち、超純水を過度に加熱したり冷却したりする必要はない。
【0053】
昇温水の水温は供給水温以下なので、供給水温を超えた高温の水を温超純水配管に通水する場合と比較して、温超純水配管の劣化を抑制できる。
【0054】
また、この温超純水製造システムでは、温超純水を製造する工程を担う水温調整装置の実質的な要素としては、たとえば熱交換器と第二限外濾過膜のみの必要最小限の構成とすることが可能である。このように水温調整装置の構成を最小限とすることで、温超純水製造システムの立ち上がりを早くすると共に、高純度の温超純水を連続的に供給することができ、好ましい。
【発明の効果】
【0055】
本願では、温超純水配管の劣化を抑制しつつ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は第一実施形態の温超純水製造システムの構成図である。
【
図2】
図2は第一実施形態の温超純水製造システムの一部を示す構成図である。
【
図3】
図3は第一実施形態の温超純水製造システムの制御装置を成すコンピュータを示す構成図である。
【
図4】
図4は第一実施形態の温超純水製造システムにおいて昇温水及び降温水を通水する場合の時間変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は第一実施形態の温超純水製造システムにおいて立ち上げ開始から経過日数とフッ素イオン濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図面を参照して第一実施形態に係る温超純水製造システム12について説明する。
【0058】
第一実施形態の温超純水製造システム12は、前処理装置14、一次純水装置16、純水タンク18、二次純水装置20、水温調整装置22及びユースポイント24を有している。
【0059】
前処理装置14には、原水が供給される。原水としては、工業用水、水道水、地下水、河川水等を挙げることができる。
【0060】
前処理装置14では、除濁等の処理を行い、原水中の懸濁物質及び有機物の一部が除去された前処理水を得る。なお、原水の水質によっては、前処理装置14は省略してもよい。
【0061】
一次純水装置16では、活性炭等の吸着剤を用いて、前処理水に残存する粒子を吸着するとともに、逆浸透膜装置等の膜濾過装置を用いて、無機イオン、有機物、微粒子等を除去する。また、一次純水装置16がイオン交換装置や紫外線照射装置を備えていてもよい。イオン交換装置は、前処理水から、残存するイオン等を除去する。一次純水装置16は、さらに、膜脱気装置を用いて、前処理水から溶存酸素等の溶存ガスの除去を行うようになっていてもよい。
【0062】
一次純水装置16における上記した各種装置の位置、すなわち前処理水の流れ方向における順序は、各処理に適切な順序とされ、特定の順序に限定されない。
【0063】
一次純水装置16は、このようにして、前処理装置14で処理して得られた前処理水に対し、必要に応じてさらなる清浄化処理を行うことで不純物を除去し、一次純水を得る装置である。
【0064】
一次純水装置16で得られた一次純水は、純水タンク18へ送水される。純水タンク18は、一次純水装置16で得られた一次純水を一時的に貯留する容器である。
【0065】
純水タンク18に貯留された一次純水は、二次純水装置20に送られる。
【0066】
図2に示すように、第一実施形態の二次純水装置20は、送られた一次純水(被処理水)の流れ方向で順に配置された、クーラー26、紫外線酸化装置28、触媒樹脂30、膜脱気装置32、非再生型イオン交換樹脂34及び第一限外濾過膜36を有している。
【0067】
クーラー26は、一次純水と、図示しない冷媒源から供給された冷媒(たとえば冷水)との間で熱交換を行い、一次純水を冷却する熱交換器である。たとえば、一次純水の水温は、25℃から23℃程度に低下する。
【0068】
紫外線酸化装置28は、一次純水に対し紫外線照射を行うことで、一次純水に含まれる有機物を分解する。これにより、一次純水中の全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)の量が低減される。
【0069】
紫外線酸化装置28による紫外線照射では、一次純水中に過酸化水素が生じる。触媒樹脂30では、この過酸化水素を触媒により分解する。具体的には、H2O2→H2O+(1/2)O2の反応が生じる。
【0070】
膜脱気装置32では、一次純水中に存在する気体、たとえば溶存酸素を、脱気膜によって除去する。具体的には、一例として膜脱気装置32は、中空糸膜によって膜脱気装置32の内部が気相部と液相部とに隔てられている構造である。そして、液相部に一次純水を流しつつ気相部を真空にすることで、一次純水中の気体を、中空糸膜を透過させて気相部に移動させ、一次純水中の気体の量を低減する。
【0071】
なお、紫外線酸化装置28、触媒樹脂30及び膜脱気装置32は、求められるユースポイント24で求められる超純水の種類によっては、省略してもよい。
【0072】
非再生型イオン交換樹脂34は、一次純水との間でイオン交換を行うことで、一次純水中に存在する微量のイオンを吸着し、一次純水から除去する。なお、この非再生型イオン交換樹脂34は、「非再生型」すなわち付着したイオンをイオン交換樹脂から取り除いて再生することを行わないタイプであり、高い除去率で一次純水中のイオンを除去できる。
【0073】
第一限外濾過膜36では、これよりも上流側で除去できなかった一次純水中の異物を除去する。一次純水は、二次純水装置20を経ることで、異物がさらに除去された二次純水、すなわち超純水となる。
【0074】
超純水は、そのままの状態でユースポイント24に送られてもよい。超純水の水温はクーラー26によって調整されており、たとえば23℃程度であるので、ユースポイント24においてこの水温で超純水を使用する場合は、超純水はそのままユースポイント24に送られる。また、第一実施形態の温超純水製造システム12では、さらに、水温調整装置22に送って水温調整することも可能とされている。
【0075】
水温調整装置22は、プレヒーター40、ヒーター42及び第二限外濾過膜44を有する。
【0076】
プレヒーター40は、二次純水装置20から送られた超純水(水温は23℃程度)と、後述するように、ユースポイント24から戻された温超純水(水温75℃程度)と、の間で熱交換を行う熱交換器である。プレヒーター40は、この熱交換によって、被処理水である超純水を加熱し昇温する。たとえば、超純水の水温を、プレヒーター40によって60℃~70℃程度に昇温することが可能である。プレヒーター40としては、たとえば、プレート型熱交換器等の既存の熱交換器を利用可能である。
【0077】
ヒーター42は、超純水と、図示しない熱源から供給された熱媒(たとえばボイラーから供給された蒸気)との熱交換を行うことで、超純水をさらに昇温する熱交換器である。昇温後の超純水の水温は、ユースポイント24へ供給する水温、すなわち供給水温である。本実施形態では、ユースポイント24において水温が75℃の温超純水を使用することを想定している。このため、ヒーター42により、超純水の水温を、供給水温である75℃まで昇温し、温超純水を得るようになっている。ヒーター42としては、たとえば、プレート型熱交換器等の既存の熱交換器を利用可能である。
【0078】
なお、水温調整装置22において、超純水を適切に加熱して水温を所望の範囲とすることが可能であれば、たとえばプレヒーター40とヒーター42とは一体化されていてもよい。
【0079】
第二限外濾過膜44では、これよりも上流側で除去できなかった温超純水中の異物を除去する。たとえば、プレヒーター40やヒーター42において生じた異物を、第二限外濾過膜44で除去できる。温超純水は、これによって、異物がさらに除去された状態となる。
【0080】
特に本実施形態では、ヒーター42によって加熱された温超純水又は昇温水が第二限外濾過膜44によって処理される。したがって、第二限外濾過膜44としては、温超純水の水温に対応した構成のものが用いられる。
【0081】
第一実施形態において、上記した各要素は配管50によって接続されており、前処理装置14、一次純水装置16、純水タンク18、二次純水装置20及びユースポイント24への水の流れが実現されている。また、二次純水装置20からユースポイント24への配管は途中で分岐して水温調整装置22に接続されると共に、水温調整装置22とユースポイント24の間も配管50で接続されている。これにより、ユースポイント24への超純水の供給は、二次純水装置20で製造された超純水のユースポイント24への直接的な流れと、水温調整装置22を経由してのユースポイント24への流れの、2系統が実現されている。
【0082】
ユースポイント24と純水タンク18とは第一リターン配管50Aで接続されており、ユースポイント24で使用されなかった超純水を純水タンク18に戻すことが可能である。また、ユースポイント24とプレヒーター40とは第二リターン配管50Bによって接続されており、ユースポイントで使用されなかった温超純水をプレヒーター40に戻すことが可能である。さらに、プレヒーター40と純水タンク18とも第三リターン配管50Cで接続されており、プレヒーター40から純水タンク18へ超純水を戻すことが可能である。
【0083】
また、プレヒーター40では、上記したように、二次純水装置20から送られる超純水(水温は23℃程度)と、ユースポイント24から戻された温超純水(水温75℃程度)との間で熱交換を行う。熱交換された超純水は、たとえば水温が28℃~30℃程度とされ、第三リターン配管50Cを通って純水タンク18に戻される。
【0084】
図1及び
図2に示す複数の配管50のうち、太線で示す配管は、材質として、通水によりフッ素が溶出する材質、特に本実施形態ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)が使用されている。ただし、PVDFは、他の材質と比較するとフッ素の溶出は少なく、また、材料に由来する他の不純物の溶出も少なく、耐熱性も高い。以下では、ポリフッ化ビニリデン製の配管を、特にPVDF配管とする。具体的には、
図2に示すように、二次純水装置20の非再生型イオン交換樹脂34からユースポイント24に至る配管50と、この配管50から分岐して水温調整装置22の内部を通りユースポイント24に至る配管50がPVDF配管である。特に、ヒーター42からユースポイント24までのPVDF配管は、温超純水が通水される配管であり、温超純水配管50Dの一例である。
【0085】
なお、PVDF配管以外の配管50の材質は特に限定されず、たとえば、ポリプロピレン等の樹脂や、ステンレス等の金属を用いることが可能である。
【0086】
第二限外濾過膜44とユースポイント24の間の配管50(PVDF配管)には、フッ素イオン濃度センサ52が設けられている。このフッ素イオン濃度センサ52は、第二限外濾過膜44からユースポイント24へ流れる温超純水、後述する昇温水及び降温水のフッ素イオン濃度を測定する。
【0087】
図3には、第一実施形態において、温超純水製造システム12の立ち上げを制御するコンピュータ54の内部構成が示されている。コンピュータ54は、水温調整装置22を制御する制御装置の一例を成す。
【0088】
コンピュータ54は、プロセッサ56、メモリ58、ストレージ60、表示部62、入力部64、受付部66及び通信部68を有している。
【0089】
ストレージ60には、コンピュータ54を制御装置として機能させるための制御プログラム70が記憶されている。この制御プログラムがメモリ58上で展開され、さらにプロセッサ56において実行されることにより、コンピュータ54は制御装置として機能する。
【0090】
表示部62は、たとえばディスプレイ及び表示ランプ等である。表示部62は、コンピュータ54の状態や、このコンピュータ54に接続された各種機器の状態等を表示する。
【0091】
入力部64は、たとえばキーボード、マウス及びスイッチ等である、入力部64は、作業者からコンピュータ54に対する各種の入力を受け付ける。
【0092】
受付部66は、後述するように、温超純水製造システム12の立ち上げ時に、本願の開示の技術の立ち上げ方法を実行する指示を受け付ける。実質的に、入力部64の一部が受付部66の機能を有するように構成できる。表示部62をタッチパネルとして構成し、入力部64及び受付部66を兼ねるようにしてもよい。
【0093】
また、第一実施形態において、クーラー26、プレヒーター40及びヒーター42はいずれも熱交換器であり、これら熱交換器における超純水(温超純水を含む)の出口には水温センサが設けられている。水温センサによって検出されたデータはコンピュータ54に送信される。そして、コンピュータ54が、これら熱交換器の温度調整弁を調整することで、水温を調整するようになっている。
【0094】
次に、第一実施形態の作用、及び、温超純水製造システム12の立ち上げ方法について説明する。なお、この「立ち上げ」とは、未使用状態の温超純水製造システム12を使用場所に設置した段階で、実際に所望の温超純水をユースポイント24に供給することができようになるまで、温超純水製造システム12の状態を整えることをいう。特に本実施形態では、温超純水配管50D(ヒーター42からユースポイント24までのPVDF配管)からのフッ素イオンの溶出を、ユースポイント24での温超純水の使用に影響がない程度まで低減することをいう。
【0095】
ここで、単にPVDF配管に超純水を通水すると、PVDF配管は初期状態でフッ素を不純物として微量含有しているため、溶出したフッ素が超純水に含まれてしまうことになる。特に、温超純水をPVDF配管に通水すると、フッ素が溶出され、温超純水に混入しやすい。たとえば超純水を半導体製造工程で使用する場合には、超純水にフッ素が含まれていると、半導体の歩留まりが悪化してしまう。したがって、半導体製造工程で使用する超純水では、フッ素の含有量が低減されていることが望まれる。
【0096】
ユースポイント24に供給される温超純水のフッ素含有量を低減するためには、温超純水製造システム12の立ち上げ時、すなわち温超純水をユースポイント24で使用しない状態で、温超純水を温超純水配管50Dに通水することが考えられる。すなわち、温超純水を温超純水配管50Dに通水することで、温超純水製造システム12の実際の使用前に温超純水配管50Dのフッ素を温超純水中に溶出させてしまう方法である。ここで通水した温超純水はユースポイント24で使用しないので、フッ素を含有していても半導体製造工程に影響しない。
【0097】
このように、温超純水配管50Dに温超純水を通水して温超純水配管50Dからフッ素を溶出させる場合、より高温の温超純水を通水させれば、短時間でフッ素の溶出を図り、立ち上げ時間を短くすることが可能である。しかしながら、あまりに高温の温超純水を温超純水配管50Dに通水させると、温超純水配管50Dの劣化が進行する。たとえば、80℃以上の水温の温超純水を温超純水配管50Dに通水すると、温超純水配管50Dの劣化が進行しやすい。したがって、温超純水配管50Dの劣化を抑制する観点からは、通水する温超純水の水温を高くしないことが望ましい。しかしながら、温超純水の水温が低いと、単位時間当たりのフッ素の溶出量が少なくなり、温超純水製造システム12の立ち上げに長時間を要する。
【0098】
これに対し、本願の開示の技術の第一実施形態では、以下の方法により、温超純水製造システム12の立ち上げを行う。なお、立ち上げに先行して、たとえば、温超純水製造システム12を所定の設置場所に設置した後、二次純水装置20で生成された超純水を水温が常温の状態で水温調整装置22に流すことで、水温調整装置22の内部の殺菌処理やクリーニングを行う。
【0099】
具体的には、コンピュータ54により水温制御プログラム70が実行されることで、水温調整装置22が以下のように制御される。すなわち、水温調整装置22により、超純水を常温よりも高温に昇温した超純水である昇温水と、この昇温水の水温よりも低温に降温した超純水である降温水と、を交互に生成する。但し、超純水に対する水温調整の範囲は、常温よりも高温で、且つ、ユースポイント24への供給水温よりも低温である。したがって、昇温水の水温の上限は供給水温であり、下限は、一例として供給水温よりも10℃低い水温である。また、降温水の水温の下限は常温であり、上限は、一例として50℃である。なお、ここでいう「常温」とは、水温調整装置22によって水温調整がなされる前段階での超純水の水温であり、本実施形態では23℃である。
【0100】
そして、
図4に示すように、昇温水と降温水とを、交互に、温超純水配管50Dに通水する。ここで、昇温水を温超純水配管50Dに通水する1回の動作と、その後に降温水を温超純水配管50Dに通水する1回の動作と、を1つの「通水サイクル」とする。本実施形態では、この通水サイクルを複数回行う。この通水サイクルは、たとえば、あらかじめ設定された所定回数繰り返して行うことが可能である。なお、通水サイクルのそれぞれで、昇温水の通水時間は異なっていてよく、同様に、降温水の通水時間も異なっていてもよい。
【0101】
また、本実施形態では、フッ素イオン濃度センサ52によるフッ素イオン濃度の測定値に基づいて、上記の通水サイクルを終了させるようにしてもよい。すなわち、フッ素イオン濃度センサ52によって測定したフッ素イオン濃度が所定値以下になった状態で、通水サイクルを終了し、実質的に温超純水製造システム12の立ち上げを完了してもよい。
【0102】
フッ素イオン濃度センサ52によるフッ素イオン濃度の検出に代えて、たとえば、当該箇所にサンプリングコックを設置し、摂取したサンプル水をオフラインで(温超純水製造システム12の外部で)分析することでフッ素イオン濃度を測定してもよい。フッ素イオン濃度センサ52を用いる場合、および、サンプル水によるオフライン分析の場合、のいずれであっても、たとえば、通水サイクルを行うサイクル数の下限(たとえば3サイクル)及び上限(たとえば10サイクル)を設定しておいてもよい。また、通水サイクルごとのフッ素イオン濃度の傾向から、通水サイクルを継続するか否かを判断することも可能である。この場合、通水サイクル数が上限に達した以降、もしくは、通水サイクルを終了した以降は、ユースポイント24に供給水温で温超純水を連続して供給し、定期的に、フッ素イオン濃度センサ52を用いて、もしくはサンプル水の採取によるオフライン分析により、立ち上げ完了を確認すればよい。この立ち上げ方法では、超純水に対する昇温及び降温の繰り返しが過度に多くなることを抑制できるので、温超純水配管の劣化を抑制できるという効果を奏する。
【0103】
PVDF配管は、昇温水が通水されるとわずかに伸長する。これに対し、降温水が通水されると、PVDF配管はわずかに収縮する。すなわち、PVDF配管は、昇温水と降温水とが交互に通水されることで伸縮(伸長と収縮の繰り返し)をする。PVDFでは、合成時の原料未反応物としてのフッ素含有成分、あるいは重合欠損部分に存在するフッ素含有成分が、脱離して温超純水に混入してしまうことが問題である。特に原料未反応物は、PVDFの分子骨格の内部に保持されている。本願の開示の技術では、PVDF配管が伸縮することで、分子骨格の内部、もしくはポリマー構造の隙間等に保持されていたフッ素含有成分が絞り出されるようにして排出される。
【0104】
これに対し、水温が一定の超純水をPVDF配管に通水しても、PVDF配管は単に伸長あるいは収縮することはあっても、伸縮はしない。たとえば、温超純水配管50Dに通数する超純水が、ユースポイント24への供給水温まで昇温された温超純水であれば、常温の超純水を通水する場合と比較して、PVDF配管が伸長することはある。しかし、水温が一定の温超純水を通水しているので、温超純水配管50Dは収縮しない。このため、上記したようなフッ素含有成分が絞り出されるようにして排出される、という現象は生じない。
【0105】
なお、本願の開示の技術において、温超純水配管50Dとして使用可能な素材は、上記したPVDFが好ましいが、これに限定されない。ユースポイント24への温超純水の供給に耐えうる素材であればよく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等の樹脂であってもよい。
【0106】
本願の温超純水製造システム12の立ち上げ方法では、このように、温超純水配管50Dを伸縮させることで、水温が一定の超純水を温超純水配管50Dに通水する場合と比較して、単位時間当たりのフッ素イオンの溶出量を増加させている。そして、温超純水配管50Dからの単位時間当たりのフッ素イオンの溶出量を増加させることで、温超純水配管50Dに含有されるフッ素イオンの低減に要する時間を短縮し、立ち上げ時間を短くしている。
【0107】
温超純水配管50Dからのフッ素イオンの溶出量が十分に低減された状態で、「立ち上げ完了」となる。立ち上げ完了以降は、ユースポイント24における供給水温に調整された温超純水をユースポイント24に供給する。
【0108】
図5には、第一実施形態の温超純水製造システム12において、立ち上げ作業の開始からの経過日数と、ユースポイント24において測定したフッ素イオン濃度の関係が示されている。破線で示す実施例1と、実線で示す実施例2とは、それぞれ異なる条件にて立ち上げ作業を行っている。
【0109】
ここで一例として、温超純水製造システムの立ち上げ完了の基準を、フッ素イオン濃度が5pptになった時点と設定する。5pptのフッ素イオン濃度は、半導体製造工程において要求される基準の一例である。
【0110】
ここで、たとえば、ユースポイント24への温超純水の供給水温である75℃に保って連続的に超純水配管に通水した場合には、フッ素イオン濃度が5pptまで低下するのに90日~100日程度を要することがあった。
【0111】
これに対し、本願の開示の技術では、実施例1において約70日、実施例2では約60日で、フッ素イオン濃度が5pptまで低下している。
【0112】
このように、本願の開示の技術では、温超純水製造システム12の立ち上げに要する時価を短縮できる。
【0113】
本願の開示の技術において、二次純水装置20で得られる超純水から、昇温水及び降温水を得るために、水温調整装置22を用いている。水温調整装置22は、温超純水製造システム12において、超純水を加熱して温超純水を得るために備えられる装置である。温超純水を得るための昇温水及び降温水を得るために、水温調整装置22とは別の熱交換器などを設ける必要がなく、温超純水製造システム12の構成を簡素化できる。また、別に設けた熱交換器の制御が不要なので、温超純水製造システム12の立ち上げ方法を容易に実行できる。
【0114】
水温調整装置22は、二次純水装置20とは分離されており、二次純水装置20によって不純物を充分に除去した超純水を製造した後に、この超純水に対し、水温調整装置22による水温調整で温超純水を得る。水温調整装置22では、実質的に超純水の水温を調整すれば足りるので、水温調整装置22の構成(及び水温を調整する工程)を最小にすることが可能である。これにより、水温調整装置22(水温を調整する工程)で流入する不純物の量を少なくすると共に、水温を調整する工程の立ち上げ時間を短くできる。そのため、温超純水製造システム12の立ち上げの際の温超純水配管50Dへのダメージを小さくでき、長期間にわたって高純度な温超純水を製造することが可能である。
【0115】
また、水温調整装置22としては、本願の開示の技術のように、熱交換器(プレヒーター40及びヒーター42、又はこれらが一体化された熱交換器)と、第二限外濾過膜44とを有すれば足りる。このように、水温調整装置22の構成を最小限とすることで、温超純水製造システム12の立ち上がりを早くすると共に、高純度の温超純水を連続的に供給することが可能となる。
【0116】
本願の開示の技術において、昇温水の水温の下限は、ユースポイント24への温超純水の供給水温よりも10℃低い水温に設定されている。すなわち、昇温水の水温は、供給水温よりも10℃低い水温以上である。これにより、昇温水の水温は供給水温に近い一定範囲を保つので、温超純水配管50Dを伸長する作用を確実に奏することが可能である。たとえば、ユースポイント24への供給水温が75℃である場合に、昇温水の水温が65℃未満であると、温超純水配管50Dを充分に伸長させることができないおそれがある。これに対し、昇温水の水温を、供給水温よりも10℃低い水温以上とする(上記の例では65℃以上75℃以下とする)ことで、温超純水配管50Dを充分に伸長させることができる。
【0117】
本願の開示の技術において、昇温水を温超純水配管50Dに通水する場合の、通水1回あたりの連続通水時間は特に限定されないが、たとえば、3時間以上24時間以下とすることができる。昇温水の連続通水時間が3時間以上であることで、温超純水配管50Dを昇温水によって確実に伸長させることが可能である。
【0118】
また、温超純水配管50Dへの昇温水の通水1回あたりの連続通水時間が24時間以下であることで、昇温水の通水時間が過度に長くなることを抑制、温超純水製造システム12の立ち上げ時間の短縮に寄与できる。
【0119】
また、本願の開示の技術において、降温水の水温の上限は50℃である。降温水の水温に上限を設けることで、温超純水配管50Dを降温水によって確実に収縮させることが可能である。たとえば、降温水の水温が50℃超であると、温超純水配管50Dを充分に収縮させることができないおそれがあるが、降温水の水温を50℃以下とすることで、温超純水配管50Dを充分に収縮させることができる。もちろん、降温水の水温は、この範囲(常温以上で50℃以下)を維持しつつ、昇温水よりも低い水温とされる。たとえば、ユースポイント24への温超純水の供給水温が40℃であり、昇温水の水温が35℃である場合は、降温水の水温を30℃とする等、水温設定は、供給水温等の条件に応じて適切に設定できる。
【0120】
本願の開示の技術において、降温水を温超純水配管50Dに通水する場合の、通水1回あたりの連続通水時間は特に限定されないが、たとえば、3時間以上24時間以下とすることができる。降温水の連続通水時間が3時間以上であることで、温超純水配管50Dを降温水によって確実に収縮させることが可能である。
【0121】
また、温超純水配管50Dへの降温水の通水1回あたりの連続通水時間が24時間以下であることで、降温水の通水時間が過度に長くなることを抑制でき、温超純水製造システム12の立ち上げ時間の短縮に寄与できる。
【0122】
本願の開示の技術において、昇温水及び降温水の水温は、常温以上で且つユースポイント24への供給水温以下の水温範囲内である。昇温水の水温が過度に高くならないので、温超純水配管50Dに高温の超純水が通水されることによる劣化を抑制できる。たとえば80℃程度の超純水が通水されると、温超純水配管50Dの劣化を促進するおそれがあるが、本願の開示の技術ではそのような懸念はない。
【0123】
本願の開示の技術において、水温調整装置22によって超純水を昇温及び降温させる場合の、単位時間あたりの変化率は、特に制限されないが、昇温時及び降温時の時間当たりの水温変化の絶対値として、0.2℃/分以上で5.0℃/分以下に設定できる。水温変化の絶対値を5.0℃/分以下とすることで、水温変化が緩やかになるので、水温変化が急激に生じる場合と比較して、温超純水配管50Dの劣化への影響を小さくできる。
【0124】
また、この水温変化の絶対値を0.2℃/分以上とすることで、昇温水から降温水への、及び、降温水から昇温水への、水温変化に要する時間が過度に長くなることを抑制でき、温超純水製造システム12の立ち上げ時間の短縮に寄与できる。
【0125】
本願の開示の技術において、温純水配管に対する通水サイクルの回数は、たとえば3回以上10回以下に設定される。通水サイクルを3回以上とすることで、2回以下の場合と比較して、温超純水配管50Dから確実にフッ素を溶出させることができる。
【0126】
また、通水サイクルを10回以下とすることで、通水サイクルを11回以上とした場合と比較して、過度に通水サイクルが多くならず、立ち上げ時間を短縮できる。
【0127】
本願の開示の技術では、温超純水製造システム12の立ち上げ方法として、温超純水配管50Dへの昇温水と降温水との交互の通水する動作を、温超純水製造システム12からユースポイント24への温超純水の供給前に行っている。温超純水配管50Dからフッ素が十分に溶出した段階で、ユースポイント24へ温超純水を供給するので、この温超純水にフッ素が溶出することを抑制できる。
【0128】
本願の開示の技術では、温超純水製造システム12が、非再生型イオン交換樹脂34(イオン交換装置の一例)、第一限外濾過膜36、ヒーター42(熱交換器の一例)及び第二限外濾過膜44を有している。したがって、被処理水が、二次純水装置20において、非再生型イオン交換樹脂34(イオン交換装置の一例)及び第一限外濾過膜36を順に経ることで超純水が得られ、さらに、この超純水が、ヒーター42及び第二限外濾過膜44を順にねることで、ユースポイント24への供給水温に昇温されると共に、さらに異物が除去された温超純水が得られる。そして、二次純水装置20によって超純水を生成する工程から、水温調整装置22によって昇温水及び降温水を得る工程までを連続した一連の超純水の流れで実現できる。
【符号の説明】
【0129】
12 温超純水製造システム
14 前処理装置
16 一次純水装置
18 純水タンク
20 二次純水装置
22 水温調整装置
24 ユースポイント
26 クーラー
28 紫外線酸化装置
30 触媒樹脂
32 膜脱気装置
34 非再生型イオン交換樹脂
36 第一限外濾過膜
40 プレヒーター
42 ヒーター
44 第二限外濾過膜
50 配管
50A 第一リターン配管
50B 第二リターン配管
50C 第三リターン配管
50D PVDF配管
【要約】
【課題】温超純水配管の劣化を抑制しつつ、温超純水製造システムの立ち上げ時間を短くする。
【解決手段】超純水をユースポイント24への供給水温に昇温し温超純水を製造する温超純水製造システム12の立ち上げ方法であって、常温以上で且つ供給水温以下の水温範囲内で、超純水を常温よりも高温に昇温した昇温水と、昇温水よりも低温に降温した降温水と、を温超純水が流れる温超純水配管に交互に通水する。
【選択図】
図2