(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】組み合わせ医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220304BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20220304BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220304BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220304BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220304BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220304BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220304BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220304BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20220304BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220304BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20220304BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220304BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220304BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220304BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220304BHJP
C07K 14/01 20060101ALI20220304BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20220304BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220304BHJP
C12N 15/34 20060101ALN20220304BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220304BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220304BHJP
C12N 15/74 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K39/12
A61K35/74 A
A61P35/00
A61P35/04
A61P31/20
A61P11/00
A61P15/00
A61P15/02
A61P17/00
A61P11/04
A61K38/16
A61K48/00
C07K16/28 ZNA
C07K19/00
C07K14/01
C07K14/195
C12N1/21
C12N15/34
C12N15/31
C12N15/62 Z
C12N15/74 Z
(21)【出願番号】P 2018518471
(86)(22)【出願日】2016-10-11
(86)【国際出願番号】 US2016056390
(87)【国際公開番号】W WO2017062976
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-10-09
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517125823
【氏名又は名称】グローバル バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ユ-ジュ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/134722(WO,A1)
【文献】肺癌における免疫療法の新たな展開,THE LUNG perspectives,2015年02月,Vol. 23, No. 1,p. 50-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 39/12
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体を
ヒトパピローマウイルス(HPV
)抗原関連ワクチンと組み合わせた、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性の組み合わせ、PD-L1
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせ、又は、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせの腫瘍に罹患している被験体の治療に用いられる組み合わせ医薬。
【請求項2】
前記抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体の量は、約5mg/mLから約50mg/mLまでの範囲であり、前記HPV抗原関連ワクチンの量は、約1×10
4CFU/用量から約1×10
12CFU/用量までの範囲である、請求項1の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項3】
前記抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ又はMEDI4736であり、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブ又はペムブロリズマブである、請求項1の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項4】
前記HPV抗原関連ワクチンは、LLO-E6融合タンパク質又はLLO-E6-E7融合タンパク質を有する運搬体である、請求項1の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項5】
前記LLO-E6融合タンパク質又はLLO-E6-E7融合タンパク質を有する運搬体は、LLO-E6融合タンパク質又はLLO-E6-E7融合タンパク質を発現するプラスミドを有するリステリアである、請求項4の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記リステリアは、リステリア・モノサイトゲネスである、請求項5の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項7】
第二の抗癌剤を更に含む、請求項1の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項8】
PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性の組み合わせ、PD-L1
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせ、又は、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせの腫瘍に罹患している被験体における腫瘍増殖、浸潤、及び/又は転移を治療及び/又は予防するために用いられる、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、HPV抗原関連ワクチンとを含む組み合わせ医薬。
【請求項9】
前記PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性の組み合わせ、PD-L1
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせ、又は、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせの腫瘍は、肺腫瘍、子宮頚部腫瘍、膣腫瘍、外陰腫瘍、陰茎腫瘍、肛門腫瘍、直腸腫瘍、黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頸部扁平上皮癌腫(HNSCC)、及び中咽頭腫瘍である、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項10】
前記肺腫瘍は、非小細胞肺癌である、請求項9の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項11】
前記PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性の組み合わせ、PD-L1
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせ、又は、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせの腫瘍は、HPV感染による肺腫瘍又は子宮頚部腫瘍である、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項12】
前記抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ又はMEDI4736であり、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブ又はペムブロリズマブである、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項13】
前記HPV抗原関連ワクチンは、LLO-E6融合タンパク質、LLO-E6-E7融合タンパク質を
発現する運搬体、ADXS-HPV、又はその組み合わせである、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項14】
前記抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体の投与量は、約0.01mg/kgから約20mg/kgまでの範囲である、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項15】
前記HPV抗原関連ワクチンの投与量は、約1×10
4CFU/用量から約1×10
12CFU/用量までの範囲である、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項16】
前記抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と前記HPV抗原関連ワクチンとは、同時に、並行して、別々に、又は連続的に投与する、請求項8の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項17】
PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性の組み合わせ、PD-L1
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせ、又は、PD-L1
陽性/
HPV E6
陽性/
HPV E7
陽性の組み合わせの腫瘍に罹患している被験体におけるPD-1/PD-L1癌免疫療法の改善に用いられる、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体とHPV抗原関連ワクチンとを含む組み合わせ医薬。
【請求項18】
前記癌の予後は改善される、請求項17の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項19】
前記抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と前記HPV抗原関連ワクチンとは、同時に、並行して、別々に、又は連続的に投与する、請求項17の使用のための組み合わせ医薬。
【請求項20】
前記HPV抗原関連ワクチンは、LLO-E6融合タンパク質、LLO-E6-E7融合タンパク質を
発現する運搬体、ADXS-HPV、又はその組み合わせである、請求項17の使用のための組み合わせ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌ワクチン組合せ物に関する。特に、本発明は、PD-L1/PD-1発現阻害剤をウイルス抗原関連ワクチンと組み合わせた、組み合わせ医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
プログラム細胞死-1(PD-1)は、T細胞活性化に阻害シグナルを与える共刺激分子である。プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)は、その受容体であるPD-1に結合して、腫瘍微小環境を作り出すことによりヒトT細胞応答の阻害因子として作用する。これはまた、腫瘍免疫監視により腫瘍進行をもたらす。PD-L1タンパク質は、非小細胞肺癌(NSCLC)を含む様々なヒトの癌において豊富に発現される。PD-L1陽性肺腫瘍は、PD-L1陰性肺腫瘍と比較して遥かに少ない腫瘍浸潤リンパ球(TIL)数を示し、それは、腫瘍細胞におけるPD-L1発現が、NSCLCにおける抗腫瘍免疫応答の負の調節の一因となり得ることを示唆している。さらに、PD-L1の高発現は、腫瘍浸潤樹状細胞の成熟を抑制することにより、予後不良及び腫瘍免疫逃避の一因となり得る。
【0003】
NSCLCにおける予後不良は、癌の転移を駆動する主要なプロセスである上皮間葉転換(EMT)と関連している。EMTは、NSCLCにおける炎症性腫瘍微小環境と深く関連しているとともに、PD-L1等の多数の標的となり得る免疫チェックポイント分子の上昇と共存する免疫活性化とも深く関連している。EMT表現型を表すCD4陽性Foxp3陽性制御性T細胞による腫瘍浸潤の増加とも更なる関連性が見られる。したがって、そのPD-1/PD-L1という主軸は、腫瘍進行、EMT、及びNSCLCにおける予後不良に重大な役割を担う。
【0004】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16/18型感染は、肺癌の発症と関連している。HPV16/18型のE6癌タンパク質は、IL-10、TIMP-3、パキシリン、及びFOXM1の発現を減衰させることにより腫瘍増殖及び腫瘍浸潤を促進する。これらの分子のE6の媒介により誘導される腫瘍浸潤は、EMTを引き金として発生する。したがって、本発明者らは、E6癌タンパク質が、PD-L1発現を誘導することで、それが腫瘍浸潤を誘導し、かつNSCLCにおける予後不良をもたらすこととなるかもしれないと推測した。
【0005】
特許文献1は、悪性血液疾患の治療方法であって、それを必要とする被験体に治療的有効量のPD1のリガンドを投与する工程を含み、上記PD1のリガンドは、PD-L1又はそのPD1に結合する断片、PD-L2又はそのPD1に結合する断片、及び抗PD1抗体又はそのPD1に結合するフラグメントからなる群から選択され、かつ上記悪性血液疾患は、B細胞由来の慢性リンパ球性白血病(CLL)、B細胞由来の小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫、急性B細胞白血病、及びマントル細胞リンパ腫からなる群から選択される、治療方法に関する。特許文献2は、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)と相互作用することで、PD-L1と、T細胞に発現されるプログラム細胞死1(PD1)受容体との相互作用を阻害し、こうしてPD-L1に媒介される免疫抑制を最小化する可溶性CD80タンパク質を提供する。また、腫瘍浸潤T細胞は、PD-L1等の免疫抑制経路を、腫瘍細胞において傍分泌的に上方調節することが判明した。具体的には、Vamsidhar Velchetiらは、PD-L1発現が腫瘍浸潤リンパ球と有意に関連があることを指摘しており、かつ非小細胞肺癌患者に対する研究によって、より多くのPD-L1タンパク質及びmRNAの発現が、増大した局所リンパ球浸潤、及びより長期の生存と関連があることが裏付けられた(非特許文献1)。
【0006】
抗体に媒介されたPD-L1の遮断は、NSCLC患者において持続的な腫瘍退縮及び長期の疾患安定化を惹起し得る。予備データは、NSCLC患者の小サブセットにおいてHPV16/18型のE6癌タンパク質とPD-L1発現との間に正の相関を示した。癌タンパク質ワクチンであるLm-LLO-E7ワクチンは、TC-1動物モデルにおいて腫瘍増殖を抑制する(非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第20110177088号明細書
【文献】米国特許出願公開第20130149305号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Vamsidhar Velcheti et al., Programmed Death Ligand-1 Expression in Non-small Cell Lung Cancer, Laboratory Investigation (2014) 94, 107-116
【文献】Peng X, Hussain SF, Paterson Y. The ability of two Listeria monocytogenes vaccines targeting human papillomavirus-16 E7 to induce an antitumor response correlates with myeloid dendritic cell function. Journal of immunology 2004; 172:6030-8
【文献】Gunn GR, Zubair A, Peters C, Pan ZK, Wu TC, Paterson Y. Two Listeria monocytogenes vaccine vectors that express different molecular forms of human papilloma virus-16 (HPV-16) E7 induce qualitatively different T cell immunity that correlates with their ability to induce regression of established tumors immortalized by HPV-16. Journal of immunology 2001; 167:6471-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、免疫療法において有効な薬剤を更に開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体をHPV抗原関連ワクチンと組み合わせた、PD-L1
+
/E6
+
、PD-L1
+
/E7
+
、又は、PD-L1
+
/E6
+
/E7
+
腫瘍に罹患している被験体の治療に用いられる組み合わせ医薬を提供する。
【0011】
幾つかの実施の形態では、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ又はMEDI4736である。幾つかの実施の形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ又はペムブロリズマブである。幾つかの実施の形態では、HPV抗原関連ワクチンは、Lm-LLO-E6融合タンパク質を有する運搬体である。リステリアの種は、リステリア・モノサイトゲネスであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、ウイルス関連腫瘍に罹患している被験体における腫瘍増殖、浸潤、及び/又は転移を治療及び/又は予防するために用いられる、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、HPV抗原関連ワクチンとを含む組み合わせ医薬を提供する。
【0013】
本発明はまた、被験体におけるPD-1/PD-L1癌免疫療法の改善に用いられる、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体とHPV抗原関連ワクチンとを含む組み合わせ医薬を提供する。
【0014】
幾つかの実施の形態においては、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体の投与量は、約0.1mg/kgから約30mg/kgまでの範囲である。幾つかの実施の形態においては、HPV抗原関連ワクチンの投与量は、約1×104CFU/用量から約1×1012CFU/用量までの範囲である。
【0015】
幾つかの実施の形態においては、HPV関連癌は、肺癌、子宮頚癌、膣癌、外陰癌、陰茎癌、肛門癌、直腸癌、及び中咽頭癌である。一実施の形態においては、HPV関連癌は、HPV感染による肺癌又は子宮頚癌である。一実施の形態においては、HPV関連癌は、PD-L1陽性肺腫瘍である。好ましくは、肺癌は、非小細胞肺癌である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】NSCLC患者由来の腫瘍におけるPD-L1発現についての代表的な免疫染色結果を示す図である。
【
図2A-2C】NSCLC患者におけるHPV16型/18型のE6発現、PD-L1発現、及び両者の発現を組み合わせた、全生存期間(OS)及び無再発生存期間(RFS)に対する影響を評価するためのカプラン・マイヤー生存分析を示す図である。
【
図3A-3B-2】HPV16型のE6に媒介されるPD-L1発現が、コロニー形成能及び軟寒天増殖能の要因となり得ることを示す図である。
図3Aは、48時間かけて、TL-1細胞及びSiHa細胞を、E6のshRNA又はE7のshRNAでトランスフェクションさせ、TL-4細胞及びC33A細胞を、E6を発現するプラスミドでトランスフェクションさせた。ウェスタンブロッティング分析を実施することで、TL-1細胞及びTL-4細胞におけるE6、E7、及びPD-L1の発現を評価した。
図3B-1及び
図3B-2は、48時間かけて、TL-1細胞及びSiHa細胞を、E6のshRNA及びPD-L1を発現するプラスミドでトランスフェクションさせ、TL-4細胞及びC33A細胞を、E6を発現するプラスミド及びPD-L1のshRNAでトランスフェクションさせた。コロニー形成能は、7日後に評価した。軟寒天増殖能は、14日後に測定した。
【
図4A-4B】Lm-LLO-E6ワクチン+抗PD-L1のモノクローナル抗体の組合せ物が、ヌードマウスにおける皮下腫瘍増殖のより強力な抑制をもたらしたことを示す図である。ヌードマウスには、E6及びE7の癌タンパク質を発現するHPV16型が感染したTL-1細胞を皮下注射した。7日後に、それらのマウスを、腹腔注射によって、抗PD-L1のモノクローナル抗体(25μg/マウス)、Lm-LLO-E6(E6)ワクチン(5×10
6CFU/マウス)、Lm-LLO-E7(E7)ワクチン(5×10
6CFU/マウス)、又は、抗体と一方若しくは両方のワクチンとの組合せ物で処置した。7個の群における代表的な腫瘍量が例証されている(
図4A)。各群のヌードマウスにおける腫瘍容積は、0日目から70日目まで7日間隔で測定した(
図4B)。平均±標準誤差値(cm
3)は、各群における5匹のヌードマウスの腫瘍容積から計算された。
【
図5A-5B】ヌードマウスにおいてTL-1細胞及びSiHa細胞によって誘導された転移性肺腫瘍結節が、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンの組み合わせ療法によって効果的に抑制されたことを示す図である。ヌードマウスには、HPV16型が感染したTL-1細胞(
図5A)又はSiHa細胞(
図5B)を静脈内注射した。14日後に、それらのマウスを、腹腔注射によって、抗PD-L1のモノクローナル抗体(25μg/マウス)、Lm-LLO-E6(E6)ワクチン(5×10
6CFU/マウス)、Lm-LLO-E7(E7)ワクチン(5×10
6CFU/マウス)、又は、抗体とワクチンとの組合せ物で処置した。マウスの各群からの肺腫瘍結節についての代表的なH&E染色が示されている。マウスの各群における肺腫瘍結節の数も示されている。データは、平均±標準偏差を表す。P値は、スチューデントのt検定によって統計的に測定された。
*P<0.05(コントロールとの比較)、
**P<0.001(コントロールとの比較)、
#P<0.05(抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンとの比較)。
【
図6】PD-L1モノクローナル抗体、Lm-LLO-E6(E6)ワクチン、Lm-LLO-E7(E7)ワクチン、PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチン、及びPD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチンの組合せ物の、TL-1細胞又はSiHa細胞を注射したマウスの生存に対する影響を評価するためのカプラン・マイヤー分析を示す図である。実験最終日は、77日目であった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で定義される用語は、本発明の関連分野における当業者によって通常理解される意味を有する。数量を特定していない単数形("a", "an", and "the")の語は、単独のものだけを指すものとは解釈されず、説明のために具体例が使用され得る総合的な集合を含む。本明細書の専門用語は、本発明の具体的な実施形態を記載するために使用されるが、特許請求の範囲で概説される場合を除き、それらの専門用語の使用は、本発明の範囲を定めるものではない。例えば、用語「細胞(a cell)」には、細胞の混合物を含めて、複数の細胞が含まれる。
【0018】
本明細書で使用される場合に、用語「腫瘍」及び「癌」は互換的に使用され、それらは、制御不能な、通常は迅速な細胞増殖から生ずる生理学的機能を持たない組織の悪性新生物を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合に、「癌細胞」又は「腫瘍細胞」とは、癌細胞、前癌細胞、又はin vivoで、ex vivoで、そして組織培養でのいずれかにおいて形質転換された細胞であって、新しい遺伝物質の取り込みを必ずしも伴わない自発的な又は誘導された表現型変化を有する細胞を指す。形質転換は、形質転換ウイルスによる感染及び新しいゲノム核酸の導入、又は外来性核酸の取り込みから生じ得るが、形質転換は、自発的に生ずることもあり、又は発癌物質への曝露により、内在性遺伝子が変異することで生ずることもある。形質転換/癌は、例えば、ヌードマウス等の適切な動物宿主における、in vitro、in vivo、及びex vivoでの、形態学的変化、細胞の不死化、異常な増殖の制御、病巣形成、増殖、悪性度、腫瘍特異的マーカーレベル、浸潤性、腫瘍増殖又は腫瘍抑制によって実証される。
【0020】
本明細書で使用される場合に、用語「医薬品に許容可能な担体」とは、あらゆる標準的な医薬品用担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液、水、及びエマルジョン、例えば水中油型エマルジョン又は油中水型エマルジョン、並びに様々な種類の湿潤剤を含むことを指す。組成物はまた、安定化剤及び保存剤並びに前述の担体のいずれかを含んでもよいが、ただし、それらは、付加的にin vivoでの使用に許容可能であるものとする。担体、安定化剤、及び補助剤の例については、Martin REMINGTON'S PHARM. SCI., 18th Ed., Mack Publ. Co., Easton, Pa. (1995)、及び「医師用卓上参考書(PHYSICIAN'S DESK REFERENCE)」, 58th ed., Medical Economics, Montvale, N.J. (2004)を参照のこと。
【0021】
本明細書で使用される場合に、用語「被験体」は、本明細書では、哺乳動物等の動物を含むものと定義され、これに限定されるものではないが、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等が挙げられる。具体的な実施形態においては、被験体はヒトである。用語「被験体」及び「患者」は、本明細書においては、例えばヒト等の哺乳動物被験体に関して互換的に使用される。
【0022】
本明細書で使用される場合に、用語「治療する」、「治療している」、及び「治療」とは、疾患若しくは障害の、又は該疾患若しくは障害と関連する1つ以上の症状の根絶又は改善を指す。特定の実施形態においては、該用語は、1種以上の予防剤又は治療剤を、該疾患又は障害を伴う被験体に投与することによりもたらされる、そのような疾患又は障害の拡大又は悪化を最小限にすることを指す。幾つかの実施形態においては、該用語は、本明細書に示される化合物又は抗体又は投与形を、1種以上の追加の活性剤と一緒に、又はそれらを用いずに、特定の疾患の診断又はその症状の発現の後に投与することを指す。
【0023】
本明細書で使用される場合に、用語「抗体」は、インタクトな分子だけでなく、抗原結合部位を含むそれらのフラグメントの両者を含むことが意図される。これらに限定されるものではないが、インタクトな抗体のFcフラグメントを欠いたFab及びF(ab’)2フラグメント、並びに二重特異性抗体が含まれる。
【0024】
本明細書で使用される場合に、用語「予防する」、「予防している」、及び「予防」とは、疾患若しくは障害の、又はそれらの1種以上の症状の発現、再発、又は拡大の予防を指す。特定の実施形態においては、該用語は、1種以上の他の追加の活性剤と一緒に、又はそれらを用いずに、症状の発現の前に、特に本明細書に示される疾患又は障害の危険性のある患者に、本明細書に示される化合物若しくは抗体若しくは投与形で処置すること、又は該化合物若しくは抗体若しくは投与形を投与することを指す。該用語は、特定の疾患の症状の抑制又は軽減を含む。これに関して、用語「予防」は、用語「予防的処置」と互換的に使用することができる。
【0025】
本明細書で使用される場合に、用語「再燃した」とは、治療後に癌が寛解した被験体にて癌細胞がぶり返した状況を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合に、用語「難治性」又は「耐性」とは、被験体が、集中的な治療後でさえも、体内に残留癌細胞を有する状況を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合に、用語「薬剤耐性」とは、疾患が1種以上の薬剤の処置に対して応答しない状態を指す。薬剤耐性は、疾患が1種以上の薬剤に一切応答しなかったことを意味する自然耐性であってもよく、又は以前に応答した1種以上の薬剤に対して疾患が応答しなくなることを意味する獲得耐性であってもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合に、用語「抗癌剤」又は「癌治療剤」は、抗増殖剤及び化学療法剤を含むことが意図される。
【0029】
本明細書で使用される場合に、用語「同時投与」及び「と組み合わせて」には、2種以上の治療剤を、特段の記載が無い限りは特定の時間制限の範囲無くして、同時に、並行して、別々に、又は連続的に投与することが含まれる。一実施形態においては、複数の治療剤が、同じ組成物又は単位投与形の中にある。その他の実施形態においては、複数の治療剤が、別個の組成物又は単位投与形の中にある。
【0030】
本明細書で使用される場合に、用語「別々」での治療的使用とは、少なくとも2種の有効成分を、同時に又はほぼ同時に異なる経路によって投与することを指す。
【0031】
本明細書で使用される場合に、用語「連続的」な治療的使用とは、少なくとも2種の有効成分を異なる時間に投与し、その際、投与形路が同一又は異なることを指す。より具体的には、連続的な使用とは、複数の有効成分のうち1種を投与してから、その他の1種以上の投与を開始する全体の投与を指す。したがって、複数の有効成分のうち1種を数分間、数時間、又は数日間にわたって投与してから、その他の1種以上の有効成分を投与することが可能である。
【0032】
本明細書で使用される場合に、用語「同時」での治療的使用は、少なくとも2種の有効成分を、同時に又はほぼ同時に同じ経路によって投与することを指す。
【0033】
一態様においては、本発明は、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体をHPV抗原関連ワクチンと組み合わせた、組み合わせ医薬を提供する。一実施形態においては、上記組合せ物は、約5mg/mL~約50mg/mLの抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、約1×104CFU/用量~約1×1012CFU/用量のHPV抗原関連ワクチンとを含む。
【0034】
幾つかの実施形態においては、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体は、上記組合せ物中に、約5mg~約45mg、約5mg~約40mg、約5mg~約35mg、約5mg~約30mg、約10mg~約45mg、約10mg~約40mg、約10mg~約35mg、約10mg~約30mg、約15mg~約45mg、約15mg~約40mg、約15mg~約35mg、約15mg~約30mg、約20mg~約45mg、約20mg~約40mg、約20mg~約35mg、又は約20mg~約30mgの量で存在する。
【0035】
幾つかの実施形態においては、HPV抗原関連ワクチンは、上記組合せ物中に、約1×105CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×108CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1011CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1010CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1011CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1010CFU/用量、約1×108CFU/用量~約1×1011CFU/用量、又は約1×108CFU/用量~約1×1010CFU/用量の量で存在する。
【0036】
もう一つの態様においては、本発明は、HPV関連腫瘍に罹患している被験体における腫瘍増殖、浸潤、及び/又は転移を治療及び/又は予防する方法であって、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、HPV抗原関連ワクチンとを投与することを含む、方法を提供する。一実施形態においては、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、HPV抗原関連ワクチンとは、同時に、並行して、別々に、又は連続的に投与されてよい。一実施形態においては、腫瘍は、HPV関連腫瘍である。
【0037】
もう一つの実施形態においては、本発明は、被験体におけるPD-1/PD-L1癌免疫療法を改善する方法であって、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体をHPV抗原関連ワクチンと組み合わせて投与することを含む、方法を提供する。一実施形態においては、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と、HPV抗原関連ワクチンとは、同時に、並行して、別々に、又は連続的に投与されてよい。
【0038】
一実施形態においては、上記方法は、癌の予後を改善することができる。
【0039】
幾つかの実施形態においては、HPV関連腫瘍は、肺腫瘍、子宮頚部腫瘍、膣腫瘍、外陰腫瘍、陰茎腫瘍、肛門腫瘍、直腸腫瘍、黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頸部扁平上皮癌腫(HNSCC)、及び中咽頭腫瘍である。一実施形態においては、HPV関連腫瘍は、HPV感染による肺腫瘍又は子宮頚部腫瘍である。一実施形態においては、HPV関連腫瘍は、PD-L1陽性肺腫瘍である。好ましくは、肺癌は、非小細胞肺腫瘍である。
【0040】
一実施形態においては、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ又はMEDI4736である。一実施形態においては、抗PD-1抗体は、ニボルマブ又はペムブロリズマブである。
【0041】
一実施形態においては、HPV抗原関連ワクチンは、治療用HPV抗原関連ワクチンである。一実施形態においては、HPV抗原関連ワクチンは、Lm-LLO-E6融合タンパク質を有する運搬体である。好ましくは、Lm-LLO-E6融合タンパク質を有する運搬体は、Lm-LLO-E6融合タンパク質を発現するプラスミドを有するリステリアである。好ましくは、リステリアの種は、リステリア・モノサイトゲネスである。
【0042】
Lm-LLO-E6融合タンパク質の核酸配列及びアミノ酸配列は、以下の通りである。
【0043】
【0044】
【0045】
一実施形態においては、被験体は、再燃した被験体又は難治性被験体である。一実施形態においては、被験体は、哺乳動物である。好ましくは、該被験体は、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウスである。
【0046】
一実施形態においては、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体の投与量は、約0.01mg/kgから約20mg/kgまでの範囲である。好ましくは、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体の量は、約0.01mg/kg~約15mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約5mg/kg、約0.01mg/kg~約1mg/kg、約0.05mg/kg~約20mg/kg、約0.05mg/kg~約15mg/kg、約0.05mg/kg~約10mg/kg、約0.05mg/kg~約5mg/kg、約0.1mg/kg~約20mg/kg、約0.1mg/kg~約15mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.5mg/kg~約20mg/kg、約0.5mg/kg~約15mg/kg、約0.5mg/kg~約10mg/kg、約0.5mg/kg~約5mg/kg、約1mg/kg~約20mg/kg、約1mg/kg~約15mg/kg、約1mg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約5mg/kg~約20mg/kg、約5mg/kg~約15mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約5mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、又は約10mg/kg~約15mg/kgである。
【0047】
一実施形態においては、HPV抗原関連ワクチンの投与量は、約1×104CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×105CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×108CFU/用量~約1×1012CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1011CFU/用量、約1×106CFU/用量~約1×1010CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1011CFU/用量、約1×107CFU/用量~約1×1010CFU/用量、約1×108CFU/用量~約1×1011CFU/用量、又は約1×108CFU/用量~約1×1010CFU/用量の量で存在する。
【0048】
本発明の組み合わせ医薬は、1種以上の医薬品に許容可能な担体、賦形剤、並びに製剤に導入して、移送性、送達性、許容性等の改善をもたらすその他の作用物質(本明細書では、総称して「医薬品に許容可能な担体又は希釈剤」と呼ぶ)を更に含んでよい。数多くの適切な製剤は、あらゆる薬剤師に知られる処方集(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa.)に見出すことができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有ベシクル、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油エマルジョン及び油中水エマルジョン、エマルジョンカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、並びにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる(Powellら著の「非経口製剤用賦形剤の概論(Compendium of excipients for parenteral formulations)」 PDA, 1998, J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照こと)。
【0049】
したがって、経口投与、舌上投与、舌下投与、口腔投与、及び口腔外投与のために設計された組合せ物/組成物は、当該技術分野でよく知られた手段によって、例えば不活性希釈剤又は可食性担体を用いて、過度な実験なくして作製することができる。上記組成物は、ゼラチンカプセル中に封入されてよく、又は錠剤へと圧縮されてよい。経口治療的投与のために、本発明の医薬組成物は、賦形剤と一緒に導入することができ、かつ錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェハース、チューイングガム等の形で使用することができる。
【0050】
錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等はまた、結合剤、レシピエント(recipients)、崩壊剤、滑沢剤、甘味料及び着香料を含有していてもよい。結合剤の幾つかの例としては、微結晶セルロース、トラガカントゴム(gum tragacanth)又はゼラチンが挙げられる。賦形剤の例としてはスターチ又はラクトースが挙げられる。崩壊剤の幾つかの例としては、アルギン酸、コーンスターチ等が挙げられる。滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カリウムが挙げられる。流動化剤の例はコロイド状二酸化ケイ素である。甘味料の幾つかの例としては、スクロース、サッカリン等が挙げられる。着香料の例としては、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料等が挙げられる。
【0051】
好ましくは、本発明の組合せ物/組成物は、患者に対して、非経口的に、例えば静脈内注射、筋内注射、くも膜下注射、又は皮下注射によって、鼻内投与、膣内投与、直腸投与、舌上投与、舌下投与、口腔投与、口腔内投与、及び経皮投与によって投与される。非経口投与は、本発明の組成物を溶液又は懸濁液に組み込むことによって達成することができる。かかる溶液又は懸濁液はまた、注射用の水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶剤等の滅菌希釈剤を含んでいてもよい。非経口製剤はまた、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、及びEDTA等のキレート化剤を含んでいてもよい。アセテート、シトレート又はホスフェート等の緩衝液、及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の等張化剤を添加してもよい。非経口調剤は、アンプル、使い捨てシリンジ、又はガラス若しくはプラスチック製の複数回バイアル(multiple dose vials)に封入することができる。
【0052】
直腸投与は、組み合わせ医薬/組成物を直腸又は大腸に投与することを含む。これは、坐薬又は浣腸を用いて実現することができる。坐薬製剤は当該技術分野で既知の方法によって容易に作製することができる。例えば、坐薬製剤は、グリセリンを約120℃に加熱し、ペクチン組成物をグリセリンに溶解させ、加熱したグリセリンを混合した後、精製水を添加してもよく、この熱い混合物を坐薬の流し型に流し込むことによって調製することができる。
【0053】
経皮投与は、皮膚を介する組成物の経皮吸収を含む。経皮製剤としては、パッチ、軟膏、クリーム、ゲル、膏薬等が挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態は、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体をHPV抗原関連ワクチンと組み合わせた組合せ物が、HPV感染による肺癌細胞及び子宮頚癌細胞によって誘導される腫瘍増殖及び転移の抑制のための効果的な処置であり得ることを示している。
【実施例】
【0055】
材料及び方法
以下の実施例で使用されるLm-LLO、LLO-E6及びLm-LLO-E7については、Peng X, Hussain SF, Paterson Y.著の「ヒトパピローマウイルス-16のE7を標的とする2種のリステリア・モノサイトゲネスワクチンが抗腫瘍応答を誘導する能力は、骨髄性樹状細胞機能と相関する(The ability of two Listeria monocytogenes vaccines targeting human papillomavirus-16 E7 to induce an antitumor response correlates with myeloid dendritic cell function.)」 Journal of immunology 2004; 172:6030-8、及びGunn GR, Zubair A, Peters C, Pan ZK, Wu TC, Paterson Y.著の「異なる分子形のヒトパピローマウイルス-16(HPV-16)のE7を発現する2種のリステリア・モノサイトゲネスワクチン運搬体は、定性的に異なるT細胞免疫を誘導し、そのT細胞免疫は、それらがHPV-16によって不死化された定着腫瘍の退縮を誘導する能力と相関する(Two Listeria monocytogenes vaccine vectors that express different molecular forms of human papilloma virus-16 (HPV-16) E7 induce qualitatively different T cell immunity that correlates with their ability to induce regression of established tumors immortalized by HPV-16.)」 Journal of immunology 2001; 167:6471-9が参照される。以下の実施例で使用される抗PD-L1抗体は、BioLegend社のカタログ番号329716、RRID:AB_11149168の抗体である。
【0056】
研究被験体
肺腫瘍検体は、台中栄民総医院(Taichung Veterans General Hospital)(台湾、台中市)の胸部外科で1998年から2004年の間に原発NSCLCの外科的切除を受けた122人の患者から収集した。患者には書面によるインフォームド・コンセントの提出を依頼し、その研究は、治験審査委員会によって承認された(TMUH番号201301051)。各々の収集された検体の腫瘍型及び病期を、世界保健機構の分類システムに従って組織学的に調べた。癌の再燃データを、チャートレビューから得て、胸部外科医が確認した。臨床パラメーター並びに全生存期間及び無再発生存期間のデータは、チャートレビュー及び台湾癌登録センター(Taiwan Cancer Registry)(中華民国行政院衛生署)から収集した。
【0057】
細胞系統
TL-1細胞及びTL-4細胞は、Y.-W. Cheng博士(台湾台北市の台北医学大学の癌生物学及び創薬の大学院研究所(Graduate Institute of Cancer Biology and Drug Discovery))により寄贈された(10)。SiHa細胞及びC33A細胞は、食品工業発展研究所(台湾、新竹市)の生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center)から取得した。TL-1癌細胞系統、TL-4癌細胞系統、及びC33A癌細胞系統は、RPMI-1640培地(HyClone社、ユタ州、ローガン)中で維持した。SiHa癌細胞系統は、DMEM培地(HyClone社、ユタ州、ローガン)中で維持した。その培地は、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100mg/mL)が補われた10%仔ウシ血清(FBS)を含有していた。上記細胞は、供給業者の説明書に従って培養した。蘇生させたら(Once resuscitated)、該細胞系統を、細胞形態モニタリング、増殖曲線分析、イソ酵素学及び核型分類による種の鑑定、ショートタンデムリピートのプロファイリング分析による同一性鑑定、並びにコンタミネーション確認によって慣例的に認証した(6ヶ月に1回、該細胞は、2012年12月に最終試験が行われた)。
【0058】
免疫組織化学分析
免疫組織化学分析を行って、PD-L1タンパク質発現を評価した。ホルマリン固定されてパラフィンに包埋された検体を、3μmの切片に切断し、ガラス上にマウントして37℃で一晩乾燥させた。次いで、すべての切片を、キシレン中で脱パラフィンし、アルコールに通して再水和させ、リン酸緩衝生理食塩水中で洗浄した。この緩衝液は、すべての後続の洗浄に使用した。慣用のストレプトアビジンペルオキシダーゼ法(LSAB Kit K675、DAKO社、カリフォルニア州、カーピンテリア)に従って、切片を、マイクロ波オーブン内にてクエン酸緩衝液(pH6.0)中で5分間にわたり2回加熱し、その後に室温で60分間にわたりインキュベートした。シグナルを、3,3’-ジアミノベンジジンで5分間にわたり顕色させ、それらの切片を、ヘマトキシリンで対比染色した。ネガティブコントロールは、一次抗体を省くことによって得た。シグナルの強度を、独立して3人の観察者によって評価した。
【0059】
プラスミド構築、トランスフェクション、及び安定なクローンの選択
HPV 16型のE6のcDNAプラスミド及びHPV 16型のE6の小ヘアピン(sh)RNAは、以前に記載されている。PD-L1のcDNAプラスミドは、Addgene社(Addgene Company社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)から購入した。PD-L1のshRNAは、台湾中央研究院(台湾、台北市)の国立RNAiコア施設(National RNAi Core Facility)から入手した。shRNAのターゲット配列は、補足的な表2に示されている。スクランブル配列を有し、空ベクター発現を伴う非特異的shRNAを、それぞれノックダウン実験及び異所性発現実験におけるコントロールとして使用した。トランスフェクション手順及び安定なクローン選択手順は、以前に記載されている。
【0060】
足場非依存性の軟寒天コロニー形成
足場非依存性増殖を、細胞が軟寒天プレート上にコロニーを形成する能力としてアッセイした。6ウェルプレート中の底部の寒天は、10%仔ウシ血清及び0.5%アガロースを含有する増殖培地からなっていた。全体で300個の細胞を、10%仔ウシ血清及び0.4%アガロースを含有する増殖培地中で再懸濁し、底部の寒天の上に載せた。それらの細胞を、5%CO2中で加湿されたインキュベーター内にて37℃で増殖させた。培養14日後にコロニーを可視化して顕微鏡で定量し、100μmより大きい直径のコロニーを数えた。
【0061】
皮下動物モデル
6週齢~8週齢の雌のBALB/cヌードマウス及びC57Bl/6マウスを、国立実験動物センター(National Laboratory Animal Center)(台湾、台北市)から購入した。マウスは、NLACの動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルの下に管理した。Lm-LLO-E6(E6)ワクチン及びLm-LLO-E7(E7)ワクチンを、5×10
6CFU/マウスの用量で腹腔内注射した。BioLegend社(カリフォルニア州、サンディエゴ)から入手した抗PD-L1モノクローナル抗体を、25μg/マウスの用量で静脈内注射した。その実験は、コントロール群と比較した場合の、種々の処置によって誘導された腫瘍増殖の変化を調べることが目的であった。簡潔には、マウスに、0日目に1匹のマウス当たり500000個のTL-1細胞を右脇腹に皮下的に移植した。7日目(腫瘍サイズが、直径で約3mm~4mm)に、それらのマウスに、Lm-LLO-E6又はLm-LLO-E7を腹腔内注射し、及び/又は抗PD-L1モノクローナル抗体を静脈内注射した。マウスを、抗PD-L1モノクローナル抗体で、腫瘍移植後の14日目、21日目、及び28日目に更に3回処置した。コントロール群のマウスは、TL-1細胞又はSiHa細胞を注射しただけであった。腫瘍を、3日~4日毎にデジタルノギスを用いて計測し、腫瘍容積を、式V=(W
2×L)/2(式中、Vは、容積であり、Lは、長さ(長径)であり、かつWは、幅(短径)である)を使用して計算した。フローチャートは、補足的な
図1に示されている。
【0062】
経尾静脈転移性肺腫瘍動物モデル
Lm-LLO-E6(E6)ワクチン及びLm-LLO-E7(E7)ワクチンを、5×106CFU/マウスの用量で腹腔内注射した。抗PD-L1モノクローナル抗体を、25μg/マウスの用量で静脈内注射した。その実験は、種々の処置によって誘導された腫瘍増殖及び生存における変化を調べることが目的であった。簡潔には、マウスに、0日目に1匹のマウス当たり100000個のTL-1細胞又はSiHa細胞を尾静脈注射によって注射した。14日目に、それらのマウスに、Lm-LLO-E6ワクチン若しくはLm-LLO-E7ワクチンを腹腔内注射し、及び/又は抗PD-L1モノクローナル抗体を静脈内注射した。マウスを、抗PD-L1モノクローナル抗体で、腫瘍細胞注射後の21日目、28日目、35日目に更に3回処置した。マウスには、死ぬまで通常の食餌を与え続けた。
【0063】
統計分析
すべての統計分析は、SPSS統計ソフトウェアプログラム(バージョン17.0、SPSS, Inc.社、イリノイ州、シカゴ)を使用して、以前に記載された通りに実施した(18、19)。統計的検定において分散の両側分析を行い、P値<0.050を統計学的に有意とみなした。
【0064】
実施例1 腫瘍における抗PD-L1抗体の治療的実験及び/又は該抗体とLm-LLO-E6ワクチンとを組み合わせた治療的実験
1. Lm-LLO-E6ワクチンの形成
E6腫瘍抗原研究で使用されるリステリア菌株は、Lm-LLO-E6(エピソーム性発現系におけるhly-E6融合遺伝子)、Lm-E6(リステリアのゲノム中に組み込まれた単コピーE6遺伝子カセット)、Lm-LLO-NP(エピソーム性発現系におけるhly-NP融合遺伝子)、及びLm-Gag(染色体中に組み込まれた単コピーHIV-1 Gag遺伝子カセット)である。DP-L2028としても知られるLm-LLO-NP(Chen CJ, Hsu LS, Lin LS, Lin SH, Chen MK, Wang HK, Hsu JD, Lee H, Yeh KT (2012)「クルッペル様因子4の核発現の喪失は、口腔癌患者における予後不良と関連している(Loss of nuclear expression of Kruppel-like factor 4 is associated with poor prognosis in patients with oral cancer.)」 Human Pathology, 43, 1119-1125)、及びZY-18としても知られるLm-Gag(Wang YC, Sung WW, Wu TC, Wang L, Chien WP, Cheng YW, Chen CY, Shieh SH and Lee H* (2012).「インターロイキン-10ハプロタイプは、切除された非小細胞肺癌における生存及び再燃を予測し得る(Interleukin-10 haplotype may predict survival and relapse in resected non-small cell lung cancer.)」 PLOS ONE, 7, 7, e39525)は、以前に記載されている。E6は、PCRによってプライマー5’-GGCTCGAGCATGGAGATACACC-3’(配列番号6)(XhoI部位に下線が引かれている)及び5’-GGGGACTAGTTTATGGTTTCTGAGAACA-3’(配列番号7)(SpeI部位に下線が引かれている)を使用して増殖させ、pCR2.1(Invitrogen社、カリフォルニア州、サンディエゴ)中にライゲーションした。E6を、pCR2.1からXhoI及びSpeIによる二重消化によって切り出し、pGG-55中にライゲーションした。発現系pGG-55は、pDP-2028を手本にしている(Chen CJ, Hsu LS, Lin LS, Lin SH, Chen MK, Wang HK, Hsu JD, Lee H, Yeh KT (2012).「クルッペル様因子4の核発現の喪失は、口腔癌患者における予後不良と関連している(Loss of nuclear expression of Kruppel-like factor 4 is associated with poor prognosis in patients with oral cancer.)」 Human Pathology, 43, 1119-1125)。hly-E6融合遺伝子及びprfAを、pAM401という多コピーのシャトルプラスミド中にクローニングすることで、pGG-55が作製される。hlyプロモーターは、XhoI部位によってE6遺伝子に結合されているhly遺伝子産物のLLOの最初の441アミノ酸の発現を駆動する。そこで得られるのは、転写されてLLO-E6として分泌されるhly-E6融合遺伝子である。LLOの溶血性C末端を欠失させることによって、該融合タンパク質中の溶血活性は取り除かれた。多能性転写因子のprfAもpGG-55中に含まれている。リステリアのprfA陰性菌株XFL-7(ペンシルバニア大学のHao Shen博士からの寄贈)をpGG-55で形質転換させることによって、in vivoにおけるプラスミドの保有が選択される。hlyプロモーター及び遺伝子断片を、プライマー5’-GGG GGC TAG CCC TCC TTT GAT TAG TAT ATT C-3’(配列番号8)(NheI部位に下線が引かれている)及び5’-CTC CCT CGA GAT CAT AAT TTA CTT CAT C-3’(配列番号9)(XhoI部位に下線が引かれている)を使用して作製した。prfA遺伝子を、プライマー5’-GAC TAC AAG GAC GAT GAC CGA CAA GTG ATA ACC CGG GAT CTA AAT AAA TCC GTT T-3’(配列番号10)(XbaI部位に下線が引かれている)及び5’-CCC GTC GAC AG CTC TTC TTG GTG AAG-3’(配列番号11)(SalI部位に下線が引かれている)を使用してPCR増幅させた。Lm-E6は、E6の発現及び分泌を駆動するhlyプロモーター及びシグナル配列を有する発現カセットを、L.モノサイトゲネスのゲノムのorfZドメイン中に導入することによって作製した。E6を、PCRによってプライマー5’-GCG GAT CCC ATG GAG ATA CAC CTA C-3’(配列番号12)(BamHI部位に下線が引かれている)及び5’-GCT CTA GAT TAT GGT TTC TGA G-3’(配列番号13)(XbaI部位に下線が引かれている)を使用して増幅させた。次いでE6を、pZY-21シャトルベクター中にライゲーションした。得られたプラスミドpZY-21-E6は、L.モノサイトゲネスのゲノムのorfX、Y、Zドメインに相当する1.6kbの配列の中央に挿入された以前に記載された発現カセットを含む発現系である。L.モノサイトゲネス菌株10403Sを、pZY-21-E6で形質転換させた。ホモロジードメインは、E6遺伝子カセットをorfZドメイン中に相同組換えにより挿入することを可能にする。クローンを、E6遺伝子カセットのorfZドメイン中への組み込みについてスクリーニングした。細菌を、クロラムフェニコール(20μg/ml)を有する(Lm-LLO-E6及びLm-LLO-NP)又は有さない(Lm-E6及びZY-18)脳心臓浸出物培地中で増殖させた。細菌を、アリコートにおいて-80℃で凍結させた。
【0065】
2. Lm-LLO-E6ワクチンの、定着腫瘍増殖に対する効果
6週齢~8週齢の雌のBALB/cヌードマウス及びC57Bl/6マウスを、国立実験動物センター(台湾、台北市)から購入した。マウスは、NLACの動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルの下に管理した。TL1細胞は、Cheng YW博士により寄贈された。ヒトパピローマウイルス株16型(HPV16型)早期タンパク質6及び7(E6及びE7)並びに活性化ras癌遺伝子を原発C57BL/6マウスの肺上皮細胞に同時トランスフェクションさせることによって得られたTC-1細胞を、ATCC(バージニア州、マナサス)から入手し、細胞を、10%FBS、ペニシリン及びストレプトマイシン(それぞれ100U/ml)並びにL-グルタミン(2mM)を補ったRPMI 1640中で37℃、5%のCO2で増殖させた。ヒトパピローマウイルス-16型(HPV-16型)のE6及びE7を有する又は有さないリステリアワクチン運搬体(Lm-LLO、LLO-E6及びLm-LLO-E7)は、Advaxis Inc.社によって供給された。Lm-LLO、LLO-E6及びLm-LLO-E7を、5×106CFU/マウスの用量で腹腔内注射した。抗PD-L1モノクローナル抗体及び抗PD-1モノクローナル抗体を、CureTech社(イスラエル)から入手し、該抗体を、50μg/マウスの用量で静脈内注射した。フローサイトメトリーのために使用されるすべての蛍光標識された抗体及び適切なアイソタイプコントロールは、BD Biosciences社(カリフォルニア州、サンノゼ)から購入した。腫瘍増殖及び生存を分析することを目的とする治療的実験は、以前に記載されたように実施した。簡潔には、0日目に、右脇腹において皮下的に1匹のマウス当たり500000個の細胞で、C57Bl/6マウスにTC-1細胞を移植し、かつBALB/cヌードマウスにTL-1細胞を移植した。8日目(腫瘍サイズが、直径で約3mm~4mm)に、適切な群からの動物(1群当たり5匹のマウス)に、Lm-LLO又はLm-LLO-E6又はLm-LLO-E7を腹腔内注射すると共に、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体を静脈内注射するか、又は該抗体を注射しなかった。腫瘍移植後の15日目に、ワクチンとモノクローナル抗体でマウスをもう一度処置した。別の群のマウスは、未処置のままにした。腫瘍を、3日~4日毎にデジタルノギスを用いて計測し、腫瘍容積を、式V=(W2×L)/2(式中、Vは、容積であり、Lは、長さ(長径)であり、かつWは、幅(短径)である)を使用して計算した。
【0066】
実施例2 転移性腫瘍における抗PD-L1モノクローナル抗体若しくは抗PD-1モノクローナル抗体の治療的実験、及び/又は該抗体とLm-LLOワクチン若しくはLm-LLO-E6ワクチン若しくはLm-LLO-E7ワクチンとを組み合わせた治療的実験
1. TC-1に誘導された転移性肺腫瘍形成における、抗PD-L1モノクローナル抗体(BioLegend社のカタログ番号329716、RRID:AB_11149168)若しくは抗PD-1モノクローナル抗体の治療的実験、及び/又は該抗体とLm-LLO-E6ワクチン若しくはLm-LLO-E7ワクチンとを組み合わせた治療的実験
6週齢~8週齢の雌のBALB/cヌードマウス及びC57Bl/6マウスを、国立実験動物センター(台湾、台北市)から購入した。マウスは、NLACの動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルの下に管理した。ヒトパピローマウイルス-16型(HPV-16型)のE6及びE7を有する又は有さないリステリアワクチン運搬体(Lm-LLO、Lm-LLO-E6及びLm-LLO-E7)は、Advaxis Inc.社によって供給された。Lm-LLO、Lm-LLO-E6及びLm-LLO-E7を、5×106CFU/マウスの用量で腹腔内注射した。抗PD-L1モノクローナル抗体及び抗PD-1モノクローナル抗体を、BioLegend社から入手し(カタログ番号329716、329926)、それらの抗体を、それぞれ0.1mg/kg~30mg/kgの用量で静脈内注射した。フローサイトメトリーのために使用されるすべての蛍光標識された抗体及び適切なアイソタイプコントロールは、BD Biosciences社(カリフォルニア州、サンノゼ)から購入した。腫瘍増殖及び生存を分析することを目的とする治療的実験は、以前に記載されたように(参考文献)実施した。簡潔には、マウスに、0日目に1匹のマウス当たり500000個のTC-1細胞を右脇腹に皮下的に移植した。8日目(腫瘍サイズが、直径で約3mm~4mm)に、適切な群からの動物(1群当たり5匹のマウス)に、Lm-LLO又はLm-LLO-E6又はLm-LLO-E7を腹腔内注射すると共に、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体を静脈内注射するか、又は該抗体を注射しなかった。腫瘍移植後の15日目に、Lm-LLOワクチン又はLm-LLO-E6ワクチン又はLm-LLO-E7ワクチンと、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体とで、マウスをもう一度処置した。別の群のマウスは、未処置のままにした。腫瘍を、3日~4日毎にデジタルノギスを用いて計測し、腫瘍容積を、式V=(W2×L)/2(式中、Vは、容積であり、Lは、長さ(長径)であり、かつWは、幅(短径)である)を使用して計算した。Lm-LLO、LLO-E6又はLm-LLO-E7を、抗PD-L1抗体又は抗PD-1抗体と組み合わせた群においては、腫瘍容積はほとんどが100%減少する一方で、抗PD-L1単独の群においては、腫瘍容積は約10%減少した。
【0067】
2. マウス樹状細胞の単離、精製、及びPD-L1発現の分析
マウスの樹状細胞(DC)を、以前に本発明者らが記載したように骨髄から単離及び精製した。ヒト樹状細胞を得るために、単球を健康な成人血液ドナー(米国国立衛生研究所、血液バンク)から単離した。簡潔には、末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll-Paque Plus(Amersham Biosciences社)を使用して勾配遠心分離により単離し、該細胞を、洗浄後に37℃で2時間にわたり組織培養プレートに付着させた。非付着性細胞を洗浄により除去し、付着性単球を、プレートにおいて37℃、5%CO2でRPMI 1640、2mMのL-グルタミン、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、10mMのHEPES、10%の仔ウシ血清、10mMの非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び5×10-5Mの2-メルカプトエタノールからなる完全RPMI 1640中で培養した。細胞を、GM-CSF(1000U/ml)及びIL-4(500U/ml)の存在下で4日間にわたり培養することで、未成熟樹状細胞となった。GM-CSF及びIL-4を、3日目に新たな培地と一緒に再び加えた。培養物における樹状細胞の生存率を、トリパンブルー排除プロトコルを使用して評価した。トリパンブルー陰性細胞を、生きているとみなした。単球からの樹状細胞を4日間~5日間にわたり培養した後に、樹状細胞を回収し、6ウェルプレートに移した(1×106個の細胞/ml)。種々の濃度のLm-LLO又はLm-LLO-E6又はLm-LLO-E7を、樹状細胞培養物(0CFU/ml、107CFU/ml、108CFU/ml、及び109CFU/ml)に1時間にわたり加え、それに引き続き、ゲンタマイシン(50μg/ml)を加えることで、リステリアを死滅させ、48時間にわたり培養した。樹状細胞を、適切な蛍光標識された抗PD-L1抗体(PE抗マウスPD-L1及びFITC抗ヒトPD-L1)で染色した。アイソタイプ適合されたモノクローナル抗体を、ネガティブコントロールとして使用した。染色された細胞を、FACSCaliburサイトメーター及びCellQuestソフトウェア(BD Biosciences社)を使用して分析した。
【0068】
3. 末梢及び腫瘍における、抗原特異的細胞性免疫応答、制御性T細胞、MDSCの分析
ELISPOTを使用して、製造業者(BD Biosciences社、カリフォルニア州、サンノゼ)によって提案される通りに、処置されたマウス及びコントロールマウスからのE6又はE7で再刺激された(10μg/ml)脾細胞培養物におけるIFNγ産生を検出した。CTL Immunospotアナライザー(Cellular Technology Ltd.社、オハイオ州、シェーカーハイツ)を使用して、スポットを分析した。無関係のペプチド(hgp 10025-33-KVPRNQDWL-Celtek Bioscience社、テネシー州、ナッシュビル)で再刺激された脾細胞からのスポットの数を、E7で再刺激された培養物のものから差し引いた。腫瘍試料を、GentleMACSディソシエーター及び固形腫瘍の均質化プロトコルを使用して、製造業者(Miltenyi Biotec社、カリフォルニア州、オーバーン)によって提案される通りに処理した。腫瘍浸潤性CD8陽性CD4陽性Foxp3陽性細胞(制御性T細胞)及びCD11b陽性Gr-1陽性細胞(MDSC)の数を、CD45陽性造血細胞集団内でフローサイトメトリーアッセイを使用して以前に本発明者らが記載したように分析した。制御性T細胞及びMDSCのレベルも、腫瘍を保有する処置されたマウス及びコントロールマウスの脾臓において同じフローサイトメトリーアッセイを使用して評価した。
【0069】
実施例3 E6及びPD-L1の発現は、肺腫瘍において正の相関があり、NSCLC患者において予後不良と関連している
本発明者らは、NSCLC患者から122人の手術で切除された肺腫瘍を収集して、E6発現が、PD-L1発現と関連し得るかどうかを調べた。E6発現に関するデータは、以前の研究から得られた。免疫組織化学分析により、E6陽性肺腫瘍は、より高い頻度の陽性PD-L1発現を示すことが指摘された(66.7%対47.9%、P=0.039、
図1)。PD-L1発現は、年齢、性別、喫煙状況、及び病期等の臨床的パラメーターとは関連していなかったが、その発現は、腫瘍組織学と関連しており、陽性PD-L1が、扁平上皮細胞癌におけるよりも腺癌でより頻繁に発現されることが指摘された(63.8%対45.3%、P=0.042)。
【0070】
E6発現及びPD-L1発現の単独及び組み合わせと、全生存期間(OS)及び無再発生存期間(RFS)との間に考えられる関連を、NSCLC患者において調査した。カプラン・マイヤー分析により、陽性PD-L1腫瘍患者においては、陰性PD-L1腫瘍患者におけるよりも短い全生存期間及び無再発生存期間が観察されることが裏付けられた(全生存期間の場合にP=0.001、無再発生存期間の場合にP=0.003、
図2B)が、E6癌タンパク質は、この研究集団において予後値を示さなかった(
図2A)。しかしながら、PD-L1発現及びE6発現の組み合わせは、全生存期間について予後値を有したが、無再発生存期間については有さなかった(全生存期間の場合にP=0.017、無再発生存期間の場合にP=0.121、
図2C)。Cox回帰分析により、陽性PD-L1腫瘍患者が、陰性PD-L1腫瘍患者と比べてより短い全生存期間及び無再発生存期間を有することが更に確認された(全生存期間の場合に、ハザード比(HR)1.69、95%信頼区間1.06~2.67、P=0.026;無再発生存期間の場合に、ハザード比1.55、95%信頼区間0.97~2.48、P=0.045、表1)。陽性PD-L1腫瘍患者においては、陰性PD-L1腫瘍患者におけるよりも、5年生存率が低かった(全生存期間の場合に10.0%対27.3%、無再発生存期間の場合に8.6%対13.3%、表1)。しかしながら、E6癌タンパク質は、この研究集団において予後値を示さなかった。興味深いことに、PD-L1陽性/E6陽性の組み合わせ及びPD-L1陽性/E6陰性の組み合わせは、PD-L1陰性/E6陰性の組み合わせを参照として使用した場合に、全生存期間及び無再発生存期間について予後値を示した(表1)。全生存期間及び無再発生存期間についての最も低い5年生存率は、その他の3つの組み合わせと比較した場合に、PD-L1陽性/E6陽性の組み合わせを有する患者において観察された(全生存期間の場合に6.4%、無再発生存期間の場合に5.7%、表1)。これらの結果は、PD-L1発現を、HPV感染によるNSCLCにおける転帰不良の独立した予測因子として使用することができることを示唆している。
【0071】
【0072】
実施例4 E6癌タンパク質は、PD-L1発現を増大させ、HPV感染による肺癌細胞におけるコロニー形成及び軟寒天増殖を促進する
本発明者らは、E6癌タンパク質発現が、PD-L1発現を増大させ、HPV感染による肺癌細胞におけるコロニー形成及び軟寒天増殖を促進し得る可能性を調査した。HPV16型陽性TL-1細胞を、E6又はE7の小ヘアピン(sh)RNAでのトランスフェクションのために、そしてE6又はE7の発現ベクターでトランスフェクションされたHPV16型陰性TL-4細胞との比較のために収集した。この比較は、E6癌タンパク質が、肺癌細胞におけるPD-L1発現の要因となるが、E7癌タンパク質は、その要因とならないかどうかを検証するものである(
図3A)。ウェスタンブロッティングにより、E6及びE7のタンパク質発現が、E6又はE7の操作によって予想通りに減少及び増大したことが指摘された(
図3A)。興味深いことに、PD-L1発現は、TL-1細胞におけるE6ノックダウンによって顕著に減少したが、それは、TL-4細胞におけるE6過剰発現によって増大した(
図3A)。PD-L1発現は、E7の操作では両方の細胞型において不変であった(
図3A)。HPV16型陽性及びHPV16型陰性の子宮頚部SiHa細胞及びC33A細胞を同じ処置に供したものには同様の応答が見られた(
図3A)。これらの結果は、E6癌タンパク質が、HPV感染による肺癌細胞におけるPD-L1発現の要因となり得るが、E7癌タンパク質は、その要因となり得ないことを示唆している。
【0073】
次に本発明者らは、PD-L1発現のE6による操作が、肺癌細胞におけるコロニー形成及び軟寒天増殖についての能力を減衰させ得るかどうかを調査した。寒天プレートにおける代表的なコロニー増殖及び軟寒天プレートにおける軟寒天増殖コロニーが、
図2B(上方のパネル)に示されている。コロニー形成及び軟寒天増殖の能力は、TL-1細胞におけるE6ノックダウンによって顕著に減少されたが、両方の能力は、TL-4細胞におけるE6過剰発現によって有意に増大された(
図3B)。しかしながら、E6癌タンパク質によるコロニー形成能及び軟寒天増殖能の増大は、TL-4細胞におけるPD-L1ノックダウンによってほぼ完全に回復された(
図3B)。SiHa子宮頚癌細胞及びC33A子宮頚癌細胞を同じ処置に供したものにおいて同様の所見が観察された(
図3B)。これらの結果は、E6に媒介されるPD-L1発現が、HPV感染による肺癌細胞におけるコロニー形成及び軟寒天増殖の要因となり得ることを明らかに示している。
【0074】
実施例5 抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンは、ヌードマウスにおけるTL-1細胞によって誘導された皮下腫瘍増殖をほぼ完全に抑制する
抗PD-L1モノクローナル抗体は、持続的な腫瘍抑制及び進行したNSCLCにおける臨床的利益をもたらし得る(15)。したがって、PD-L1がHPV感染による肺癌におけるE6に媒介されるコロニー形成及び軟寒天増殖の要因となり得るという所見(
図2)は、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンの組合せ物が、ヌードマウスにおけるTL-1細胞により誘導された腫瘍増殖に対する優れた抑制効果を有し得ることを示唆した。ヌードマウスを、それぞれ5匹のヌードマウスの7つの群に無作為に分け、それらのマウスにTL-1細胞を注射し、次いで、それらのマウスを、抗PD-L1モノクローナル抗体、Lm-LLO-E6ワクチン、Lm-LLO-E7ワクチン、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチン、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチン、又は抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6/E7ワクチンのいずれかで処置した。コントロール群のマウスは、TL-1細胞で処置しただけであった。各群における代表的な腫瘍量が
図4に示されている。TL-1細胞によって誘導された皮下腫瘍量は、コントロール群と比較して、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチン又は抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6/E7ワクチンではほぼ完全に抑制された。しかしながら、Lm-LLO-E6ワクチン群においては、抗PD-L1モノクローナル抗体群又は抗PD-L1+Lm-LLO-E7ワクチン群におけるよりも高い抗腫瘍活性が観察された。TL-1細胞によって誘導された腫瘍は、Lm-LLO-E7ワクチン処置によってほぼ不変であった(
図4)。これらの結果は、その細胞モデルの所見を裏付けており、PD-L1が、HPV感染による癌におけるE6に媒介される腫瘍増殖及び転移の要因となり得ることが指摘された。
【0075】
実施例6 ヌードマウスにおけるTL-1細胞により誘導された転移性肺腫瘍結節は、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンの組み合わせ療法によって効果的に抑制される
さらに本発明者らは、経尾静脈動物モデルを用いて、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6の組合せ物が、ヌードマウスにおけるTL-1細胞により誘導された転移性肺腫瘍結節形成を抑制し得るかどうかを検証した。実験は、77日間で中止した。各群におけるTL-1細胞によって誘導された代表的な転移性肺腫瘍結節を、SiHa細胞によって誘導されたものと比較した。腫瘍は、H&E染色によって確認した(
図5A)。各群の肺腫瘍結節についての代表的な免疫染色結果により、これらの肺腫瘍結節におけるPD-L1及びE6の発現が、抗PD-L1モノクローナル抗体とLm-LLO-E6ワクチンによって、コントロール群と比較して有意に抑制されることが示された。TL-1細胞によって誘導された転移性肺腫瘍結節の数は、コントロール群と比較して、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンによって最も抑制され、続いて、E6ワクチン、抗PD-L1モノクローナル抗体、抗PD-L1+Lm-LLO-E7ワクチン、及びLm-LLO-E7ワクチンによって抑制された(
図5A)。同じ処置に供したヌードマウスにおけるSiHa細胞によって誘導された転移性肺腫瘍結節においては、同様の所見が観察された(
図5B)。
【0076】
TL-1細胞が注射されたコントロールマウスの体重は、抗PD-L1モノクローナル抗体、Lm-LLO-E6ワクチン、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチン、及び抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチンが注射されたマウスよりも有意に低かったが、それらは、Lm-LLO-E7ワクチン処置を受けたマウスと相違しなかった。同じ処置に供したSiHa細胞が注射されたマウスの体重に関して同様の観察がなされた。TL-1細胞又はSiHa細胞が注射されたヌードマウスの生存日数は、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンの組合せ物によって、コントロール群と比較して有意に延長された(
図6)。5匹のマウスのうち3匹は、TL-1細胞及びSiHa細胞で処置された抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチン群及び抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチン群において77日目で生存していた。最後のマウスは、TL-1細胞及びSiHa細胞で処置されたコントロール群において、それぞれ49日目及び58日目に死んだ。TL-1細胞が注射されたヌードマウスの生存日数は、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンの場合に、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチン、Lm-LLO-E6ワクチン、又は抗PD-L1モノクローナル抗体と比較して有意に延長された(抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E7ワクチンの場合にP=0.004、Lm-LLO-E6ワクチンの場合にP=0.037、抗PD-L1モノクローナル抗体の場合にP=0.043、
図6)。これらの結果は、抗PD-L1モノクローナル抗体+Lm-LLO-E6ワクチンが、HPV感染による肺癌及び子宮頚癌における転移性肺腫瘍結節形成を抑制し、したがってこれらのマウスの生存を延長させるのに最も高い潜在力を有することを示唆している。