(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】鋼構造物用補強材及びこれに用いられる補強材取付工具
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220304BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20220304BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E01D1/00 E
E01D22/00 B
(21)【出願番号】P 2017201624
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591216473
【氏名又は名称】一般財団法人首都高速道路技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】507230382
【氏名又は名称】首都高メンテナンス西東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510106968
【氏名又は名称】首都高メンテナンス東東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510273798
【氏名又は名称】首都高メンテナンス神奈川株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515281651
【氏名又は名称】株式会社ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】000133294
【氏名又は名称】株式会社ダイクレ
(73)【特許権者】
【識別番号】393013618
【氏名又は名称】光海陸産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛久
(72)【発明者】
【氏名】増井 隆
(72)【発明者】
【氏名】上條 崇
(72)【発明者】
【氏名】中村 一史
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 健太
(72)【発明者】
【氏名】大西 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和男
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-000760(JP,A)
【文献】特開2012-132303(JP,A)
【文献】特開2002-174022(JP,A)
【文献】特開2015-124553(JP,A)
【文献】特開平06-330643(JP,A)
【文献】特開2010-236352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 1/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の
2つの平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するにあたり、前記
2つの平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の鋼構造物用補強材であって、
前記鋼構造物の前記
2つの平面部と対向可能な
2つの壁部が一体に形成され、
それぞれの前記壁部は、厚みが略均一に形成され、
前記
2つの壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されていることを特徴とする鋼構造物用補強材。
【請求項2】
鋼構造物の
3つの平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するにあたり、前記
3つの平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の鋼構造物用補強材であって、
前記鋼構造物の前記
3つの平面部と対向可能な
3つの壁部が一体に形成され、
それぞれの前記壁部は、厚みが略均一に形成されると共に、1つの壁部の厚みは他の2つの壁部の厚みの略2倍に形成され、
前記3つの壁部のうち、2つの壁部の外面同士が交差する外隅部、及び、前記3つの壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されていることを特徴とする鋼構造物用補強材。
【請求項3】
前記壁部には、その外面に突起が設けられていることを特徴とする
請求項1又は2に記載の鋼構造物用補強材。
【請求項4】
少なくともいずれかの前記壁部には、スリット又は孔が形成されていることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼構造物用補強材。
【請求項5】
前記接着剤は、メチルメタクリレート系構造用接着剤であることを特徴とする
請求項1乃至4のいずれかに記載の鋼構造物用補強材。
【請求項6】
前記鋼構造物の交差する複数の平面部のうち、自由端側縁部を備えた第1の平面部とこれに交差する第2の平面部に対して、
請求項1乃至5のいずれかに記載の鋼構造物用補強材の壁部のうち、前記第1の平面部に対峙する第1の壁部とこれに交差して前記第2の平面部に対峙する第2の壁部とを接着剤を介して取り付けるために用いる補強材取付工具であって、
前記鋼構造物の前記第1の平面部とこれに対峙する前記鋼構造物用補強材の前記第1の壁部とを間に接着剤を介在させて重ね合わせた上で挿入する収容部と、
前記収容部への突出量を調節して前記第1の平面部と前記
第1の壁部とを圧接可能とする第1の押圧部材と、
前記収容部に対して交差
するように一体に設けられ、前記第2の平面部に対して接着剤を介して配置される前記第2の壁部と対峙する板状部と、
この板状部からの突出量を調節して
前記第2の壁部を前記第2の平面部に押圧可能とする第2の押圧部材と、
を具備することを特徴とする補強材取付工具。
【請求項7】
前記押圧部材は、螺進退させて突出量を調節するハンドルネジであることを特徴とする
請求項6に記載の補強材取付工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製橋梁等の鋼構造物の腐食損傷箇所等を補強する場合に用いる補強材と、この補強材を取り付けるために用いられる取付工具に関し、特に、鋼構造物の複数の平面部が交差する入隅部及びその周辺を補強するものに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の平面部にCFRP板を接着剤を介して接合する補強構造としては、下記する特許公報1及び2などが公知となっている。
このうち、特許文献1は、CFRP帯板の接合面の表面粗さを調節することにより、CFRP帯板を鋼構造物に接着剤を使用して貼付けて補強する際に、CFRP帯板の層内破壊が生じることや、接着剤と該CFRP帯板の界面で破壊することなく、CFRP帯板を補強体として使用することを可能としたものである。また、特許文献2は、鋼構造物とCFRP帯板の間の境界面の該帯板長手方向の両端域において、CFRP帯板と鋼構造物の表面が直接接合されていない非接合領域を設けることで、CFRP帯板が本来有する補強性能(剛性・強度)を十分に発揮させて、CFRP帯板で補強された該鋼構造物全体の強度レベルをより向上させ、その状態を長期に亘って維持できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-31612号公報
【文献】特開2016-79638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のいずれの補強材も、鋼構造物の平面状の一部を補強することを前提としているため、複数の平面部が交差する隅部及びその周辺を補強する場合に十分に対応できないものであった。
【0005】
鋼製橋梁等の鋼構造物においては、複数の平面部(2枚の平面部や3枚の平面部)が交差する隅部が多く存在し、このような箇所においては、水や粉塵等が停滞しやすく、腐食が激しく生じることから、補強する要請は強い。
【0006】
このような箇所を補強するに当たり、従来のCFRP板を用いて補強することも十分可能であるが、それぞれの平面部を別々のCFRP板によって補強する必要があり、また、複数の平面部が交差する隅部の補強においては、隣接するCFRP板同志の間で隙間が生じやすく、十分な強度を確保するためには丁寧な現場作業が必要となり、工期の短縮が図りづらいものであった。特に、鋼構造物の平面部同士が交差する部分においては、平面部同士を溶接した際に生じる溶接ビードが残存しており、このような隅部を含むその周辺を効率よく且つ十分な強度を持たせて確実に補強することができる補強材の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、複数の平面部が交差する隅部やその周辺を補強するにあたり、現場作業を大幅に簡略化して短い工期で施工が可能であり、また、十分な補強強度を確保した上で、隙間なく且つ確実に補強することが可能な鋼構造物用補強材及びこれに用いられる補強材取付工具を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る鋼構造物用補強材は、鋼構造物の複数の平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するにあたり、前記複数の平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の補強材であって、前記鋼構造物の前記複数の平面部と対向可能な複数の壁部が一体に形成され、それぞれの前記壁部は、厚みが略均一に形成され、前記複数の壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されていることを特徴としている。
ここで、鋼構造物の2つの平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するにあたり、前記2つの平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の鋼構造物用補強材としては、前記鋼構造物の前記2つの平面部と対向可能な2つの壁部が一体に形成され、それぞれの前記壁部は、厚みが略均一に形成され、前記2つの壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されているものを用いるとよい。
また、鋼構造物の3つの平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するにあたり、前記3つの平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の鋼構造物用補強材としては、前記鋼構造物の前記3つの平面部と対向可能な3つの壁部が一体に形成され、それぞれの前記壁部は、厚みが略均一に形成されると共に、1つの壁部の厚みは他の2つの壁部の厚みの略2倍に形成され、前記3つの壁部のうち、2つの壁部の外面同士が交差する外隅部、及び、前記3つの壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されているものを用いるとよい。
【0009】
したがって、鋼構造物用補強材は、鋼構造物の複数の平面部と対向可能な複数の壁部が一体に形成されると共に、複数の壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されているので、このような鋼構造物用補強材を予め工場で製作しておき、この製作された鋼構造物用補強材を現場に搬入して、補強対象となる鋼構造物の複数の平面部が交差する隅部及びその周辺を、適宜素地調整等をした後に接着剤で接着させることが可能となるので、複数の平面部が交差する隅部やその周辺を補強するにあたり、現場作業を大幅に短縮することが可能となる。
【0010】
また、鋼構造物用補強材の複数の壁部は一体に形成されているので、それぞれの壁部を独立に鋼構造物に取り付ける必要はないため、隅部が補強材で覆われなくなる不都合はなく、また、作業者によって施工状態にばらつく恐れも少なくなり、所定の強度を確保することが可能となる。
【0011】
さらに、鋼構造物用補強材は、複数の壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されているので、平面部が交差する部分において、平面部同士を溶接した際に生じる溶接ビードが残存している場合でも、各壁部を対応するそれぞれの鋼構造物の平面部に接着剤で接合させることが可能となり、均一な補強状態を確保することが可能となる。
【0012】
上述の構成において、前記複数の壁部には、その外面に突起を設けるようにしてもよい。このような構成とすれば、鋼構造物用補強材の壁部を鋼構造物の平面部に強く押し付けた場合でも、突起により接着厚みを確保することが可能となり、補強状態にばらつきが生じることを抑えることが可能となる。
【0013】
また、壁部には、必要強度を欠損しない範囲で、スリット又は孔を形成してもよい。このようなスリット又は孔を形成することで、補強材と鋼構造物との間の接着剤をスリット、又は、孔へ逃がすことが可能となり、補強材を鋼構造物に対して押し付けやすくなり、補強材と鋼構造物との良好な密着状態を確保できると共に補強材と鋼構造物との間に生じる空隙を逃がし易くなる。
【0014】
なお、CFRP製の補強材と鋼構造物の平面部とを接合する接着剤としては、メチルメタクリレート系構造用接着剤を用いることが望ましい。
メチルメタクリレート系構造用接着剤は、一般に鋼構造物の接着に用いられるエポキシ系接着剤に比べて柔軟であり、かつ、接着強度はエポキシ系接着剤に近いことから、被補強部材(鋼部材)が大きく変形しても接着剤が剥離することなく補強部材を被補強部材の変形に追従させることができ、これにより、確実な補強効果が得られる。
また、メチルメタクリレート系構造用接着剤は、一般に鋼構造物の接着に用いられるエポキシ系接着剤と比較して、硬化時間が短く強度発現が早いことから、既設構造物の補強工事など施工時間の制約が厳しい条件に適している。
【0015】
以上の鋼構造物用補強材を複数の平面部が交差する鋼構造物の隅部及びその周辺に取り付けるに当たり、以下のような取り付け工具を用いることが有用である。
すなわち、鋼構造物用補強材の取付工具は、前記鋼構造物の交差する複数の平面部のうち、自由端側縁部を備えた第1の平面部とこれに交差する第2の平面部に対して、請求項1乃至5のいずれかに記載の鋼構造物用補強材の壁部のうち、前記第1の平面部に対峙する第1の壁部とこれに交差して前記第2の平面部に対峙する第2の壁部とを接着剤を介して取り付けるために用いる補強材取付工具であって、前記鋼構造物の前記第1の平面部とこれに対峙する前記鋼構造物用補強材の前記第1の壁部とを間に接着剤を介在させて重ね合わせた上で挿入する収容部と、前記収容部への突出量を調節して前記第1の平面部と前記第1の壁部とを圧接可能とする第1の押圧部材と、前記収容部に対して交差するように一体に設けられ、前記第2の平面部に対して接着剤を介して配置される前記第2の壁部と対峙する板状部と、この板状部からの突出量を調節して前記第2の壁部を前記第2の平面部に圧接可能とする第2の押圧部材と、を具備するものを用いるとよい。
【0016】
このような取付工具を用いることで、鋼構造物の2つの直交する平面部に対して押圧部材によって鋼構造物用補強材の壁部を強く押し付けることが可能となるので、鋼構造物用補強材の少なくとも交差する2つの壁部に対しては、鋼構造物の平面部との間に空隙が残る状態を抑えることが可能となり、空隙による強度の低下を防ぐことが可能となる。
【0017】
なお、交差する3つの壁部については、1つの壁部に対して間に間隙を残すことなく接着剤で接着させた後に、残り2つの壁部に上記取付工具を用いて鋼構造物用補強材を鋼構造物の平面部に接合すればよく、これにより、交差する3つの壁部を鋼構造物の平面部に間に間隙を残存させることなく接合させることが可能となる。
また、前記押圧部材は、油圧式のものや電動モータを利用した押圧機構を備えるものであってもよいが、構造が複雑化し、大掛かりなものとなるので、螺進退させて突出量を調節するハンドルネジを用いるとよい。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明の鋼構造物用補強材によれば、鋼構造物の複数の平面部が交差する隅部及びその周辺を補強するために、複数の平面部に接着剤を介して取り付けられるCFRP製の補強材を、鋼構造物の複数の平面部と対向可能な複数の壁部を一体に形成したので、鋼構造物用補強材を予め工場で製作しておき、この製作された鋼構造物用補強材を現場に搬入して、補強対象となる鋼構造物の複数の平面部が交差する隅部及びその周辺に接着剤で接着させれば補強作業が終了するので、複数の平面部が交差する隅部やその周辺を補強するにあたり、現場作業を大幅に短縮することが可能となり、短期間で、且つ、容易に補強作業を終えることが可能となる。
【0019】
また、鋼構造物用補強材の複数の壁部は一体に形成されているので、隅部において隅部が補強材で覆われなくなる不都合はなく、また、作業者によって施工状態にばらつく恐れも少なくなり、所定の強度を確保することが可能となる。
【0020】
さらに、鋼構造物用補強材は、複数の壁部の外面同士が交差する外隅部に、面取りが施されているので、平面部が交差する部分において、平面部同士を溶接した際に生じる溶接ビードが残存している場合でも、その溶接ビードを避けつつ各壁部を対応するそれぞれの鋼構造物の平面部に接着剤で確実に接合させることが可能となり、均一な補強状態を確保することが可能となる。
【0021】
なお、鋼構造物用補強材の複数の壁部の外面に突起を設けことで、接着厚みを確保することが可能となり、補強状態にばらつきが生じることを抑えることが可能となる。
また、本発明に係る補強材取付工具によれば、複数の平面部に接着剤を介して取り付けられる補強材の交差する壁部を鋼構造物の平面部に間隙を残存させることなく接合させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明に係る鋼構造物用補強材として、鋼構造物の2面を同時に補強するために用いる補強材を示す図であり、(a)は、その斜視図、(b)は、(a)の補強材の内部の繊維シートの積層状態を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1(a)の鋼構造物用補強材を示す図であり、(a)はその図、(b)はその背面図、(c)はその側面図、(d)はその正面図、(e)はその底面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る鋼構造物用補強材として、鋼構造物の3面を同時に補強するために用いる補強材を示す図であり、(a)は、その斜視図、(b)は、(a)の補強材の内部の繊維シートの積層状態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3(a)の鋼構造物用補強材を示す図であり、(a)はその図、(b)はその背面図、(c)はその側面図、(d)はその正面図、(e)はその底面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る鋼構造物用補強材を鋼構造物に取り付けるために用いる取付工具を示すもので、(a)は、鋼構造物用補強材と対峙する側から見た斜視図、(b)は、(a)と反対側から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る鋼構造物用補強材を鋼構造物に取り付けるために用いる取付工具を示すもので、(a)は、その側面図、(b)は、その背面図である。
【
図7】
図7は、取付工具を用いて鋼構造物の2面に補強材を取り付ける工程を説明する図であり、(a)は、鋼構造物の2面に適宜下地処理を済ませた後に接着剤を塗布して
図2の鋼構造物用補強材をあてがう直前の状態を示す図、(b)は、鋼構造物の2面に接着剤を介して
図2の鋼構造物用補強材を重ね合わせ、取付工具の収容部に挿入した状態を示す図である。
【
図8】
図8は、取付工具を用いて鋼構造物の2面に補強材を取り付ける工程の続きを説明する図であり、(a)は、取付工具の収容部に挿入した重ね合わせ部分を取付工具の第1の押圧部材で押圧して接着させる工程を示す図、(b)は、(a)の押圧状態を維持したまま、鋼構造物用補強材の収容部に挿入した壁部と直交する壁部を取付工具の第2の押圧部材で押圧して接着させる工程を示す図である。
【
図9】
図9は、鋼構造物の3面に適宜下地処理を済ませた後に接着剤を塗布して
図4の鋼構造物用補強材をあてがう直前の状態を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、鋼構造物の3面のうちの1面に対してクランプ工具を用いて補強材の1つの壁部(取付工具による押圧部材で押圧しない壁部)を接合する工程を説明する図であり、
図10(b)は、鋼構造物の3面に接着剤を介して
図4の鋼構造物用補強材を重ね合わせ、その1つの壁部を構構造物の平面部と共に取付工具の収容部に挿入した状態を示す図である。
【
図11】
図11は、 取付工具を用いて鋼構造物の3面に補強材を取り付ける工程の続きを説明する図であり、(a)は、取付工具の収容部に挿入した重ね合わせ部分を取付工具の第1の押圧部材で押圧して接着させる工程を示す図、(b)は、(a)の押圧状態を維持したまま、クランプ工具で鋼構造物の平面部に圧着させた壁部と鋼構造物用補強材の収容部に挿入した壁部とに直交する壁部を取付工具の第2の押圧部材で押圧して接着させる工程を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明に係る補強材の変形例を示す図であり、(a)は、
図1(a)の補強材の壁部にスリットを形成した例を示し、(b)は、
図3(a)の補強材の壁部にスリットを形成した例を示す。
【
図13】
図13は、本発明に係る補強材の変形例を示す図であり、(a)は、
図1(a)の補強材の壁部に孔を形成した例を示し、(b)は、
図3(a)の補強材の壁部に孔を形成した例を示す。(c)は、補強材の強度確認を行う場合の一方法を説明する説明図である。
【
図14】
図14は、本発明に係る鋼構造物用補強材を鋼構造物に取り付けるために用いる取付工具の変形例を示すもので、(a)は、その側面図、(b)は、その背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1及び
図2において、鋼構造物100の2つの平面部101,102が交差する内隅部104及びその周辺を補強する鋼構造物用補強材(以下、補強材1という)が示されている。
【0025】
この例において、補強材1は、2つの平面部101,102が略直角に交差している最も存在頻度が多い鋼構造物の箇所を補強するもので、鋼構造物100の略直交する2枚の平面部101,102と対向可能な2つの壁部(第1の壁部11、第2の壁部12)が一体に形成されたCFRP製であり、全体として、断面略L字状に形成されている。
【0026】
この補強材1は、2つの壁部11,12が略均一な厚みに形成され、それぞれの壁部の外面同士が交差する外隅部(出隅部)に、面取り(C面取り又はR面取り)14が施され(この例では、C面取りが施され)、また、それぞれの壁部11,12には、その外面に突起15が間隔をあけて一体に形成されている。
【0027】
面取り14は、鋼構造物100の平面部が交差する内隅部(入隅部)104に形成されている溶接ビードを避ける程度の大きさに形成されるもので、溶接ビードが脚長数ミリから十数ミリであることから、C10~C30程度に形成すると良い。また、壁部11,12の外面の突起は、半球状や円錐状等に形成され、各壁部の外面に偏ることなく、全体にほぼ均一となるように整列配置されている。
【0028】
以上の補強材1を成形するには、少なくとも2つの内壁面が直交し、内壁面に前記突起15の大きさに合わせた凹部が形成されていると共に、内壁面の交差する内隅部に前記面取り14を形成するためのテーパ面が形成さている金型を準備し、現場調査に基づき炭素繊維シートを必要な大きさにカットし、この炭素繊維シート16を、金型の内壁面に沿わすようにL字状に曲げつつ積層していく(炭素繊維シート16の積層状態を
図1(b)に示す)。
【0029】
炭素繊維シート16の枚数や大きさは、補強する箇所に応じて適宜調節され、また、補強対象箇所が橋梁桁端部であり、上下方向の母材の圧縮力低下を補強するために用いる場合であれば、
図1(b)の矢印で示すように圧縮力低下を補う一方向(単方向)に繊維を配列させた炭素繊維シート16を積層するとよい。
【0030】
その後、図示しない離型布を炭素繊維シートを覆うようにセットし、さらにその上から流動体メッシュをセットし、しかる後、バギングフィルムをセットし、真空状態にした上で液状の樹脂を注入し、炭素繊維に含侵させる。そして、樹脂が硬化した後に離型し、端部を切断加工等で処理して寸法出しをすれば、所望の大きさの補強材1が成形される。
【0031】
図3及び
図4において、鋼構造物の3つの平面部が交差する隅部及びその周辺を補強する補強材が示されている。
この例において、補強材1は、3つの平面部101,102,103が略直角に交差している鋼構造物の箇所を補強するもので、鋼構造物100の略直交する3枚の平面部101,102,103と対向可能な3つの壁部(第1の壁部11、第2の壁部12、第3の壁部13)が一体に形成されたCFRP製のものである。
【0032】
それぞれの壁部11,12,13は、複数の炭素繊維シートを積層して一体に形成されているもので、2つの立設する第2及び第3の壁部12,13は、略均一な厚みに形成され、これら壁部と交差する底壁を形成する第1の壁部11は、第2及び第3の壁部12,13に比べて略2倍の厚みに形成されている。
【0033】
この補強材1は、2つの壁部の外面同士が交差する外隅部(入隅部)や3つの壁部が交差する外隅部(入隅部)に、面取り(C面取り、R面取り)14が施され(この例では、C面取り)、また、それぞれの壁部(第1の壁部、第2の壁部、第3の壁部)には、その外面に複数の突起15が間隔を空けて一体に形成されている。
【0034】
それぞれの面取り14も、鋼構造物100の平面部が交差する箇所に形成されている溶接ビードを避ける程度の大きさに形成され、例えばC10程度に形成される。また、壁部の外面の突起15は、半球状や円錐状等に形成され、各壁部の外面に偏ることなく、全体にほぼ均一となるように整列配置されている。
【0035】
以上の補強材1を成形するには、3つの内壁面が直交し、内壁面に突起の大きさに合わせた凹部が形成されていると共に、内壁面が交差する内隅部(隣接する2つの内壁面が交差する内隅部や3つの内壁面が交差する内隅部)にテーパ面が形成さている金型を準備し、現場調査に基づき炭素繊維シート16を必要な大きさにカットし、それぞれの立設する壁部に対応して、炭素繊維シート16を金型の内壁面に沿わすようにL字状に曲げつつ積層すると共に、低壁部に対応する部分において、それぞれの立設壁部を形成する炭素繊維シート16を、
図3(b)に示されるように、交互に重ね合わせて積層する。
【0036】
この場合においても、炭素繊維シート16の枚数や大きさは、補強する箇所に応じて適宜調節され、また、補強対象箇所が橋梁桁端部であり、上下方向の母材の圧縮力低下を補強するために用いる場合には、矢印に示すように圧縮力低下を補う一方向(単方向)に繊維を配列させた繊維シートを積層するとよい。
【0037】
その後、離型布を炭素繊維シート16を覆うようにセットし、さらにその上から流動体メッシュをセットし、しかる後、バギングフィルムをセットし、真空状態にした上で液状の樹脂を注入し、炭素繊維に含侵させる。そして、樹脂が硬化した後に離型し、端部を切断加工等で処理して寸法出しをすれば、所望の大きさの補強材が成形される。
【0038】
以上のような補強材1は、現場で成形するのではなく、現地調査の調査結果に基づき工場において予め成型しておき、現場に搬入する。現地においては、鋼構造物の補強対象となる複数の平面部が交差する隅部やその周辺を適宜下地処理し、この部分に予め工場で成形した前記補強材1を接着剤を用いて取り付ける。ここで、接着剤としては、メチルメタクリレート(MMA)系接着剤が好ましく、例えば、ITWプレクサス社製構造用接着剤Mシリーズ(例えば、MA530)を用いるとよい。
【0039】
このような補強材1の接着作業においては、補強材と鋼構造物との間の接着層に空隙が形成されないように取り付けることが望ましく、このため、鋼構造物の補強対象となる交差する少なくとも2つの平面部に対しては、
図5及び
図6に示されるような取付工具20を用いて補強材1を取り付けるとよい。
【0040】
この取付工具20は、所定の間隔で対峙するように平行に配置された対をなす第1及び第2の板状部21,22と、一方の板状部(第1の板状部21)の側縁から垂直に立設されて他方の板状部22から遠ざかる方向へ延設された第3の板状部23と、これら対をなす第1及び第2の板状部21,22や第3の板状部23と垂直をなし、第3の板状部23の背面に接合されると共に対をなす第1及び第2の板状部21,22の外面に接合された支持体24とを少なくとも備えている。
【0041】
支持体は24、対をなす第1及び第2の板状部21,22を所定の間隔で保持するために第3の板状部23が取り付けられる側が開放された保持凹部25を備え、この保持凹部25に第1及び第2の板状部21,22を挿入して溶接等により接合している。したがって、この取付工具20には、所定の間隔で対峙する対をなす第1及び第2の板状部21,22の間に鋼構造物の自由端側縁部を備えた平面部や上述した補強材の壁部が挿入可能な収容部26が形成され、また、支持体24の保持凹部25の終端によって鋼構造物や補強材の最大挿入量を規制するストッパ部27が形成されている。
【0042】
この支持体24は、それぞれの板状部21,22,23を2分するようにそれぞれの板状部の中心線上に設けられ、したがって、この例では、取付工具20は、左右で対称形状となるように形成されている。なお、それぞれの板状部21,22,23は、別々の鋼板で構成しても、適宜一枚の鋼板を加工して一体に形成してもよい。例えば、この例においては、第3の板状部23と第1の板状部21とが1枚の鋼板を屈曲させて一体に形成されているが、別々の鋼板を接合で形成してもよく、また、第1の板状部21と第2の板状部22は別々の鋼板によって形成されているが、一枚の鋼板を断面コ字状に加工して一体化してもよい。
【0043】
そして、この例においては、第1の板状部21と第3の板状部23に、板面に対して垂直方向に螺進退可能な押圧部材(第1の押圧部材31、第2の押圧部材32)が設けられている。これらの押圧部材31,32は、例えば、ハンドル螺子で構成され、第1の板状部21と第3の板状部23に、支持体24の両側で均等に配置されている(この例では、第1の板状部21と第3の板状部23のそれぞれにおいて、支持体の両側で3つずつ設けられている)。第1の板状部21に設けられる第1の押圧部材31にあっては、第2の板状部22との間(収容部)に押圧端31aを突出させ、その反対側にハンドル31bが設けられている。また、第3の板状部23に設けられる第2の押圧部材32にあっては、外側に押圧端32aを突出させ、その反対側にハンドル32bが設けられている。
【0044】
以上の構成において、鋼構造物100の交差する複数の平面部のうち、
図1(a)に示すように、自由端側縁部を備えた第1の平面部101と、これに直交する第2の平面部102とを有する鋼構造物100に対して、第1の平面部101と対峙する第1の壁部11とこれに直交して第2の平面部102と対峙する第2の壁部12を備えた2面補強用の
図2で示す上述した補強材1を接着剤を介して取り付けるには、以下のように行う。
【0045】
先ず、鋼構造物100の第1の平面部101と第2の平面部102をケレン作業等の素地調整をした後に、必要に応じて鋼材補修用パテ等での不陸修正を行い、しかる後に、
図7(a)に示すように、それぞれの平面部に接着剤αを塗布し、鋼構造物100の第1の平面部101に補強材1の第1の壁部11を接着剤αを介して重ね合わせ、また、鋼構造物100の第2の平面部102に補強材1の第2の壁部12を接着剤αを介して重ね合わせる。
【0046】
そして、
図7(b)に示されるように、その状態を保持したまま、取付工具20を近づけ、重ね合わせた鋼構造物100の第1の平面部101と補強材1の第1の壁部11とを取付工具20の収容部26に挿入する。この際、補強材1の第2の壁部12が取付工具20の第3の板状部23に設けられた押圧部材32に軽く触れるまで取付工具20を押し込む。
【0047】
その後、それぞれの第1の押圧部材31のハンドル31bを回して、第1の押圧部材31の収容部26への突出量を大きくし、補強材1の第1の壁部11を、鋼構造物100の第1の平面部101に向かって押し付ける。これにより、補強材1の第1の壁部11と鋼構造物100の第1の平面部101とは、第1の押圧部材31と第2の板状部22との間に挟み付けられ、間に接着剤αを介在させた状態で強く圧接される。
【0048】
このようにして、補強材1の第1の壁部11を鋼構造物100の第1の平面部101に接着剤αを介して固定した後に、この状態を保持したまま、次に、第2の押圧部材32のハンドル32bを回して第2の押圧部材32の外方への突出量を大きくし、補強材1の第2の壁部12を、鋼構造物100の第2の平面部102に向かって押し付ける。これにより、補強材1の第2の壁部12と鋼構造物100の第2の平面部102とは、間に接着剤αを介在させた状態で強く圧接される。
【0049】
したがって、上述した補強材1を用いれば、鋼構造物100の直交する2つの平面部が交差する入隅部及びその周辺が同時に補強されるので、鋼構造物の隅部を境にしてそれぞれの平面部を別々に補強する必要がなくなり、作業効率を高めることが可能になると共に、入隅部が補強材1で覆うように補強されるので、隅部において補強材につなぎ目が形成されることはなく、隅部での強度を確保しやすいものとなり、また、鋼構造物の隅部に水や粉塵が直接接触する余地を無くすことが可能となるので、鋼構造物の耐久性を高めることが可能となる。
【0050】
また、上述した取付工具20を用いて補強材1を鋼構造物100の2つの平面部101,102に取り付けることで、補強材1の第1の壁部11を鋼構造物100の第1の平面部101に対して均一、且つ、強固に押し付けることができ、また、補強材1の第2の壁部12を鋼構造物100の第2の平面部102に対して均一且つ強固に押し付けることができる。このため、補強材1の第1の壁部11と鋼構造物100の第1の平面部101との間、及び、補強材1の第2の壁部12と鋼構造物100の第2の平面部102との間に、空隙が形成される虞を低減することが可能となる。
【0051】
また、補強材1の第1の壁部11と第2の壁部12の外面同士が交差する外隅部に、面取り14が施されているので、鋼構造物100の平面部同志が交差する内隅部に溶接ビード104aが設けられている場合でも、その溶接ビード104aと補強材1とが干渉することはなく、補強材1の各壁部を鋼構造物100の平面部に押し付ける際に支障が生じることはない。
【0052】
さらに、補強材1の各壁部11,12の外面には、複数の突起15が形成されているので、補強材1の壁部を鋼構造物100の平面部に強く押し付けた場合でも、補強材1の壁部と鋼構造物100の平面部との間に均一な厚みの接着剤層を形成することが可能となり、接着状態にばらつきが生じる不都合がなくなる。
【0053】
次に、鋼構造物100の交差する複数の平面部のうち、
図3(a)に示すように、自由端側縁部を備えた第1の平面部101とこれに直交する第2の平面部102と、第1の平面部101及び第2の平面部102に直交し、自由単側縁部を備えた第3の平面部103を備えた鋼構造物100に対して、第1の平面部101と対峙する第1の壁部11と、これに直交して第2の平面部102と対峙する第2の壁部12と、第1の壁部11及び第2の壁部12と直交して第3の平面部103と対峙する第3の壁部13と、を備えた
図4で示す前述した補強材1を接着剤を介して取り付けるには、以下のように行う。
【0054】
先ず、鋼構造物100の第1の平面部101、第2の平面部102、及び第3の平面部103をケレン作業等の素地調整をした後に、必要に応じて鋼材補修用パテ等での不陸修正を行い、しかる後に、
図9に示すように、それぞれの平面部に接着剤αを塗布し、鋼構造物100の第1の平面部101に補強材1の第1の壁部11を接着剤αを介して重ね合わせ、鋼構造物100の第2の平面部102に補強材1の第2の壁部12を接着剤αを介して重ね合わせ、また、鋼構造物100の第3の平面部103に補強材1の第3の壁部13を接着剤αを介して重ね合わせる。
【0055】
そして、取付工具20を用いて補強材1を鋼構造物100に取り付ける作業に先立ち、
図10(a)に示すように、まず鋼構造物100の第3の平面部103に対して補強材1の接合状態を形成しておく。すなわち、この例では、鋼構造物100の第3の平面部103に対して補強材1の第3の壁部13を接着剤αを介してクランプ工具35によって押し付け、この第3の壁部12の接合状態を形成する。
【0056】
その後、補強材の第1の壁部11と第2の壁部12を、上述した取付工具20を用いて、前述と同様のやり方で鋼構造物100の第1の平面部101と第2の平面部102に接合する。
【0057】
すなわち、
図10(a)で示す状態を保持したまま、取付工具20を補強材1に近づけ、
図10(b)に示されるように、重ね合わせた鋼構造物100の第1の平面部101と補強材1の第1の壁部11とを収容部26に挿入して、補強材1の第2の壁部12が第3の板状部23に設けられた第2の押圧部材32に軽く触れた状態とする。
そして、その状態から、
図11(a)に示すように、それぞれの第1の押圧部材31のハンドル31bを回して第1の押圧部材31の収容部26への突出量を大きくしていき、補強材1の第1の壁部11を、鋼構造物100の第1の平面部101に向かって押し付ける。その後、この状態を保持したまま、
図11(b)に示すように、第2の押圧部材32のハンドル32bを回して第2の押圧部材32の突出量を大きくしていき、補強材1の第2の壁部12を、鋼構造物100の第2の平面部102に向かって押し付ける。
【0058】
したがって、
図4で示す補強材1を用いた場合においても、鋼構造物100の直交する3つの平面部が交差する入隅部やその周辺が同時に補強されるので、鋼構造物の平面部毎に補強する必要がなくなり、作業の効率化を図ることが可能になると共に、入隅部が補強材1で覆うように補強されるので、隅部において補強材につなぎ目が形成されることはなく、隅部での強度を確保しやすいものとなり、また、鋼構造物の隅部に水や粉塵が直接接触する余地を無くすことが可能となるので、鋼構造物100の耐久性を高めることが可能となる。
【0059】
また、上述した取付工具20を用いて補強材1を鋼構造物100の2つの平面部101,102に取り付ける場合には、補強材1の第3の壁部13を鋼構造物100の第3の平面部103に対してしっかり接合させた上で、補強材1の第1の壁部11を鋼構造物100の第1の平面部101に対して均一、且つ、強固に押し付けることができ、また、補強材1の第2の壁部12を鋼構造物100の第2の平面部102に対して均一且つ強固に押し付けることができる。このため、補強材1の第3の壁部13と鋼構造物100の第3の平面部103との間のみならず、補強材1の第1の壁部11と鋼構造物100の第1の平面部101との間、及び、補強材1の第2の壁部12と鋼構造物100の第2の平面部102との間に、空隙が形成される虞を低減することが可能となる。
【0060】
また、補強材1の隣合う2つの壁部の外面同士が交差する外隅部や3つの壁部が交差する外隅部に、面取り14が施されているので、鋼構造物100の平面部が交差する内隅部104に溶接ビード104aが設けられている場合でも、その溶接ビード104aと補強材1とが干渉することはなく、補強材1の各壁部を鋼構造物100の平面部に押し付ける際に支障が生じることはない。
【0061】
さらに、補強材1の各壁部11,12,13の外面には、複数の突起15が形成されているので、補強材1の壁部を鋼構造物100の平面部に強く押し付けた場合でも、補強材1の壁部と鋼構造物100の平面部との間に均一な厚みの接着剤層を形成することが可能となり、接着状態にばらつきが生じる不都合がなくなる。
【0062】
なお、上述の補強材1においては、各壁部を隙間のない平板状に形成した例を示したが、
図12(a)、(b)に示されるように、必要強度を欠損しない範囲で、スリット17を形成してもよい。このスリット17は複数の壁部に形成してもよいが、接着後の補強材1の強度低下が懸念される場合には、いずれかの壁部にのみ形成してもよい(
図12(a)、(b)においては、第2の壁部12に形成した例を示す)。
また、スリット17に代えて、
図13(a)、(b)に示すように孔18を形成してもよい。孔18を設ける場合においては、炭素繊維が孔18によって切断されるので、強度確認を行い、必要強度が得られる場合には、採用してもよい。なお、孔明けした箇所において、孔18の直径巾の帯状部分(
図13(c)の灰色部分)を有効断面積から除くなどとすれば、簡便かつ安全側に評価することができる。
【0063】
補強材1にこのような構成を採用することで、補強材1と鋼構造物100との間で押し付けられた接着剤αがスリット17(又は、孔18)へ逃げ込みやすくなるので、補強材1を鋼構造物100に対して押し付けやすくなり、補強材1と鋼構造物100との良好な密着状態が形成されやすくなると共に、補強材1と鋼構造物100との間に生じる空隙を逃がし易くなる。
【0064】
また、以上の構成においては、鋼構造物100の平面部が直交する場合の補強材1とその取付工具20について述べたが、平面部が直角以外の角度で交差する場合でも、その角度に応じた補強材と取付工具を用いれば、同様に取り付けることができ、同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0065】
取付工具についても上述の構成に限定されるものではなく、押圧部材を油圧式とすることも可能であり、また、収容部に突出する第1の押圧部材31は、
図14に示されるように、第2の板状部22に取り付けられ、第1の板状部21との間(収容部)に押圧端31aを突出させ、その反対側にハンドル31bを設けるものであってもよい。
【0066】
さらに、上述した補強材1は、製作工程の最終段階で、端部を切断加工等で処理して寸法出しをするが、切断面に炭素繊維が露出していると、水が侵入して電食の可能性が出てくるので、切断処理した端部は、補強材1を接着する際に用いた接着剤等によって被覆することが望ましい。
【符号の説明】
【0067】
1 補強材
11 第1の壁部
12 第2の壁部
13 第3の壁部
14 面取り
15 突起
16 炭素繊維シート
17 スリット
18 孔
20 取付工具
21 第1の板状部
22 第2の板状部
23 第3の板状部100 鋼構造物
24 支持体
25 保持凹部
26 収容部
31 第1の押圧部材
32 第2の押圧部材
100 鋼構造物
101 第1の平面部
102 第2の平面部
103 第3の平面部
104a 溶接ビード
α 接着剤