(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】穿刺用器具
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
A61M37/00 510
A61M37/00 500
(21)【出願番号】P 2017214973
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002314
【氏名又は名称】セーラー万年筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土取 保紀
(72)【発明者】
【氏名】川邉 美浪
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩康
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-509706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に押圧することにより、先端側の第1の位置から基端側の第2の位置へ移動し、押圧を解除することにより前記第1の位置へ復帰する可動部と、
前記可動部と解除可能に連結されて、前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動するロッドと、
前記可動部と連結された前記ロッドを前記第2の位置へ移動させることにより付勢力を蓄積するロッド付勢部材と、
前記可動部及び前記ロッドが内部をスライドして前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動するように収容されたハウジングとを備え、
前記可動部と前記ロッドとの連結は、前記第2の位置において解除可能となり、前記可動部と前記ロッドとの連結を
操作者が解除することにより、前記ロッド付勢部材は前記ロッドを前記第1の位置へ駆動し、前記可動部に対する軸方向の押圧を解除することにより前記可動部と前記ロッドとは自動的に連結される、穿刺用器具。
【請求項2】
軸方向の押圧を解除することにより、前記可動部を前記第1の位置へ移動させる可動部付勢部材をさらに備えている、請求項1に記載の穿刺用器具。
【請求項3】
前記ロッドは、内側方向に撓むことができる可撓片を有し、
前記可動部は、前記可撓片と解除可能に係合し、前記ロッドと前記可動部とが連動して移動する状態とする係合部を有し、前記第2の位置において前記可撓片を内側方向に撓ませることにより、前記可撓片と前記係合部との係合を解除する、請求項1又は2に記載の穿刺用器具。
【請求項4】
内側方向に撓んだ前記可撓片を通常位置に復帰させる反発部をさらに備えている、請求項3に記載の穿刺用器具。
【請求項5】
前記ロッドが前記第1の位置にある状態において、前記可動部が前記第2の位置から前記第1の位置へ移動する際に、前記係合部は、前記可撓片を内側に撓ませ、前記反発部は、前記可撓片を前記係合部と再度係合させる、請求項4に記載の穿刺用器具。
【請求項6】
前記反発部は、前記ハウジングに固定された保持部と、前記保持部に保持され、前記可撓片に追随して移動可能な板状部と、前記保持部と前記板状部との間に設けられ、板状部を外側方向に押し戻す少なくとも1つの反発部付勢部材とを有する、請求項4又は5に記載の穿刺用器具。
【請求項7】
前記反発部は、前記板状部の中央部から突出し、端部が前記保持部に設けられた開口に挿入された軸部を有し、
前記反発部付勢部材は、軸部を挟んで両側に設けられている、請求項6に記載の穿刺用器具。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記ロッドが前記第2の位置にある際に、前記可撓片を内側方向に撓ませて、前記可撓片と前記係合部との係合を解除できる、ボタンを有している、請求項3~7のいずれか1項に記載の穿刺用器具。
【請求項9】
前記ハウジングは前記ボタンの操作方向に位置し、前記ボタンの操作量を制限する制限部を有する、請求項8に記載の穿刺用器具。
【請求項10】
前記可動部は、マイクロニードルを保持したカートリッジが装着される装着部を有し、
前記ロッド及び前記可動部が共に前記第1の位置又は前記第2の位置にある場合に、前記ロッドの先端は、前記装着部に装着されたカートリッジの基端よりも基端側に位置し、
前記ロッドが前記第1の位置にあり、前記可動部が前記第2の位置にある場合に、前記ロッドの先端は、前記可動部に装着されたカートリッジの先端よりも先端側に位置する、請求項1~9のいずれか1項に記載の穿刺用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、穿刺用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
穿刺操作を容易に行うために、皮膚に押し当てた状態で、ボタンを押すことにより自動的に穿刺が行われる穿刺用器具が開発されている。このような穿刺用器具の基本的な構成は、ロッドと、ロッドを駆動するバネとを有し、ボタン操作等により付勢したバネを開放することによりロッドを勢い良く押し出し、穿刺を行う。
【0003】
近年、マイクロニードルを用いた経皮投与が検討されている。マイクロニードルは長さが数μm程度の微小な針であり、表面又は内部に薬剤を保持していたり、薬剤そのものにより形成されていたりする。マイクロニードルが固定された貼付シートを皮膚に貼り付けると、マイクロニードルは、患者にほとんど痛みを感じさせることなく、角質層を越えて表皮に達することができる。このため、従来のテープ製剤やパッチ製剤と比べて、効率良く薬剤を投与することが可能となる。
【0004】
マイクロニードルの場合、ほとんど痛みを伴わないため、患者自らが穿刺を行うことが想定される。このため、マイクロニードルの穿刺用器具であるアプリケータは、特に、容易に操作できるようにすることが求められる。マイクロニードルは、皮膚に触れても通常の穿刺針のような激しい痛みは生じない。しかし、マイクロニードルであっても皮膚に適用する際には、恐怖を感じる場合がある。このため、使用者がこの恐怖心を克服した後、自ら操作できることが好ましい。これは、通常の穿刺針についての穿刺用器具においても同様である。
【0005】
このため、通常の穿刺用器具は、バネに一定の付勢力を蓄える操作をするとロックがかかり、使用者自らがボタン等を操作することによりロックを解除して穿刺動作を行う機構を採用している(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-023404号公報
【文献】特表2010-501211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアプリケータを含む穿刺用器具は、ロックがかかると穿刺可能な状態が維持され、装置を自由に移動させたり、そのまま放置したりすることができる。このため、穿刺位置に正しく配置されていない状態で穿刺操作をしてしまう誤操作を引き起こしやすい。皮膚に押し当てていないとロックを解除できないような機構を有する器具も検討されているが(例えば、特許文献2を参照。)、穿刺可能な状態で器具を移動させたり放置したりすることが可能であり、やはり誤操作をするリスクが高い。さらに、従来の穿刺用器具はロックをかけるための準備操作が必要である。準備操作を忘れてバネに付勢力を蓄えると、ロックがかからずロッドが中途半端に駆動してしまうという問題がある。また、準備操作を忘れていることに気がつかず、無理矢理ロックをかけようとして、器具を壊してしまうおそれもある。一方、準備操作なしに自動的にロックがかかるような機構とした場合、意図せずにロックがかかってしまうおそれがある。さらに、手動でロックをかける構成とした場合には、必要な操作の数を減らすことができないばかりか、付勢力が十分に蓄積されていない位置でロックをしてしまうおそれもある。
【0008】
本開示の課題は、誤操作が生じにくい穿刺用器具を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の穿刺用器具の一態様は、軸方向に押圧することにより、先端側の第1の位置から基端側の第2の位置へ移動し、押圧を解除することにより前記第1の位置へ復帰する可動部と、可動部と解除可能に連結され、第1の位置と第2の位置との間を移動するロッドと、可動部と連結されたロッドを第2の位置へ移動させることにより付勢力を蓄積するロッド付勢部材と、可動部及びロッドが内部をスライドして第1の位置と第2の位置との間を移動するように収容されたハウジングとを備え、可動部とロッドとの連結は、第2の位置において解除可能となり、可動部とロッドとの連動を解除することにより、ロッド付勢部材はロッドを第1の位置へ駆動し、可動部に対する軸方向の押圧を解除することにより可動部とロッドとは自動的に連結される。
【0010】
穿刺用器具の一態様によれば、押圧を解除することにより前記第1の位置へ復帰する可動部を有しているため、ロッド付勢部が付勢された状態で器具の位置を移動させたり、放置したりすることは困難である。また、可動部が押圧されて、第2の位置となっていなければロッドが駆動されず、誤操作を生じにくくすることができる。また、ロッドが第1の位置にある状態で、可動部に対する軸方向の押圧を解除することにより可動部とロッドとは自動的に連結されるため、次の穿刺操作の前に、面倒な準備操作が不要であり、操作ミスを低減することができる。
【0011】
穿刺用器具の一態様において、軸方向の押圧を解除することにより、可動部を第1の位置へ移動させる可動部付勢部材を有する。
【0012】
穿刺用器具の一態様において、ロッドは、内側方向に撓むことができる可撓片を有し、可動部は、可撓片と解除可能に係合し、ロッドと可動部とが連動して移動する状態とする係合部を有し、第2の位置において可撓片を内側方向に撓ませることにより、可撓片と係合部との係合を解除するようにできる。
このような構成とすることにより、簡単な構成で、所定の位置においてのみロッドが発射されるようにできる。
【0013】
穿刺用器具の一態様は、内側方向に撓んだ可撓片を通常位置に復帰させる反発部をさらに備えていてもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、繰り返し使用した場合に可撓片が元に戻らなくなるような不具合が生じにくくなり、安定して複数回使用することができるようになる。
【0015】
穿刺用器具の一態様において、ロッドが第1の位置にある状態において、可動部が第2の位置から第1の位置へ移動する際に、係合部は、可撓片を内側に撓ませ、反発部は、可撓片を係合部と再度係合させるようにできる。
【0016】
このような構成とすることにより、可撓片と係合部との係合が解除された後に、可撓片と係合部とを再度係合させることができる。その結果、穿刺用器具を安定して再使用できる。
【0017】
穿刺用器具の一態様において、反発部は、ハウジングに固定された保持部と、保持部に保持され、可撓片に追随して移動可能な板状部と、保持部と板状部との間に設けられ、板状部を外側方向に押し戻す少なくとも1つの反発部付勢部材とを有していてもよい。
【0018】
このような構成とすることにより、繰り返し使用した場合に可撓片が元に戻らなくなるような不具合が生じにくくなり、安定して複数回使用することができるようになる。
【0019】
この場合において、反発部は、板状部の中央部から突出し、端部が保持部に設けられた開口に挿入された軸部を有し、反発部付勢部材は、軸部を挟んで両側に設けられていてもよい。このような構成とすることにより、板状部の移動の自由度が高くなり、可撓片の撓みへの追随が容易となる。
【0020】
穿刺用器具の一態様において、ハウジングは、ロッドが第2の位置にある際に、可撓片を内側方向に撓ませて、可撓片と係合部との係合を解除できる、操作ボタンを有していてもよい。このような構成とすることにより、ロッドの発射を確実に行うことができる。
【0021】
穿刺用器具の一態様において、可動部は、マイクロニードルを保持したカートリッジが装着される装着部を有し、ロッド及び可動部が共に第1の位置又は第2の位置にある場合に、ロッドの先端は、装着部に装着されたカートリッジの基端よりも基端側に位置し、ロッドが第1の位置にあり、可動部が第2の位置にある場合に、ロッドの先端は、可動部に装着されたカートリッジの先端よりも先端側に位置するようにできる。
【0022】
このような構成にすることにより、マイクロニードルがカートリッジの先端から突き出ることがなく、安全に操作できる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の穿刺用器具によれば、誤操作を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係るアプリケータを示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るアプリケータを示す断面図である。
【
図3】一実施形態に係るアプリケータにカートリッジを装着した状態を示す断面図である。
【
図4】一実施形態に係るアプリケータが発射可能となった状態を示す断面図である。
【
図5】一実施形態に係るアプリケータのロッドと可動部との係合を解除した状態を示す断面図である。
【
図6】一実施形態に係るアプリケータが発射された状態を示す断面図である。
【
図7】一実施形態に係るアプリケータの復帰途中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の穿刺用器具はマイクロニードルを皮膚表面に適用するアプリケータであり、ハウジング101と、ハウジング101内に収容されたロッド102と、可動部103と、ロッド付勢部材104とを含む発射機構100を有している。
【0026】
本実施形態においてロッド102は、先端側に押圧面が設けられた円筒状であり、先端側の第1の位置と、基端側の第2の位置との間を移動可能である。ロッド102には、ハウジング101の内側方向に撓むことができる可撓片121が設けられている。可動部103は、可撓片121と解除可能に係合する係合部131を有し、係合状態においてロッド102と共に移動する。
【0027】
本実施形態において、可撓片121は、ロッド102の側面の一部が、先端側が固定端となり、基端側が自由端となるように、スリットにより他の部分から切り離されて形成されている。可撓片121の自由端側には、外方向へ張り出したヘッド部125が設けられており、ヘッド部125の先端側外縁部には、可動部103の係合部131と係合する段差状部126が設けられている。
【0028】
本実施形態において、可動部103は、ロッド102を内側に収容する円筒状である。可動部103の係合部131は、可動部103の本体から基端側に突出した逆L字状の部材であり、2本のL字状の支柱部132と、2本の支柱部132の端部同士を接続する腕部133とを有している。2本の支柱部132の間の部分は、可撓片121のヘッド部125と干渉しないように、軸方向に延びる空間が設けられており、係合部131は、ロッド102が発射された後にロッド102の先端側への前進を妨げない。このため、可動部103の本体はヘッド部125よりも先端側に位置するが、腕部133は、ヘッド部125よりも先端側の位置と基端側とを取り得る。ヘッド部125よりも腕部133が先端側に位置し、可撓片121が通常位置である場合は、腕部133は段差状部126と係合するように設けられている。
【0029】
可動部103の先端部には、装着部135が設けられており、
図2に示すように、マイクロニードル212を保持したカートリッジ201が装着される。本実施形態のカートリッジ201は、円筒形の枠体211と、枠体211に保持された粘着シート213と、粘着シート213の表面に配置された複数のマイクロニードル212とを有している。ロッド102と、それに係合した可動部103とが第1の位置にある場合、ロッド102の先端は、カートリッジ201の装着の妨げとならないように、装着部135に装着されたカートリッジ201の基端よりも基端側に位置している。装着部135は装着部135の内周面に設けられた嵌合突部136と、可動部103の先端部外周面の設けられた嵌合凹部137が嵌合することにより、可動部103に固定されており、可動部103と共に装着部135が第1の位置と第2の位置の間を連動するように構成されている。可動部103と装着部135は、他の方法により固定することができる。また、可動部103と装着部135とを一体に成形することもできる。
【0030】
図3に示すように、装着部135に装着されたカートリッジ201の先端部を皮膚表面221に押し当てると、可動部103とそれに係合したロッド102とは、一体となって、第1の位置から第2の位置へと移動する。装着部135を含む可動部103は、外径がハウジング101の内径と略一致しており、ハウジング101内周面に沿って軸方向に移動可能である。ロッド付勢部材104は、ロッド102の内腔に配置されており、ロッド102が第1の位置から第2の位置へ移動すると圧縮され、付勢力が蓄積される。
【0031】
ロッド102及び可動部103が第2の位置に移動すると、可撓片121のヘッド部125が、ハウジング101の側面に設けられたボタン112と当接する。このため、
図4に示すように、ボタン112を押圧すると、可撓片121を内側方向に撓ませることができる。可撓片121を内側方向に撓ませると、ヘッド部125の先端側外縁部に設けられている段差状部126と、腕部133との係合が解除される。これにより、ロッド102は、ロッド付勢部材104に蓄積された付勢力により、第1の位置に向かって発射される。ロッド102の先端部の外径は、可動部103の先端部の内径と略一致しており、ロッド102は可動部103の内周面に沿って軸方向に移動可能である。段差状部126の位置は先端側外縁部に限定されたものではなく、可撓片121を撓めた際に段差状部126と、腕部133との係合が解除されるように構成されていればよい。一方、可動部103は先端部が皮膚表面221に押圧されているため、第2の位置を維持する。本実施形態の装置においては、ヘッド部125を含む、ロッド102の基端部において鍔状に設けられた部分が、ハウジング101の内面に設けられたフランジ部115と当接することにより、ロッド102が第1の位置よりも先端側に移動しないように規制している。本実施形態において、ボタン112は一端がハウジング101に固定され、他端が押圧によって軸と交差する方向に移動できるように、ハウジング101の一部を切り欠いて構成されている。しかし、ボタン112の態様は上記に限定されるものではない。
【0032】
ハウジング101の内周面には、軸方向に延びるガイド溝118が鍔部115に至るように設けられている。ロッド102のヘッド部125の反対側にはガイド突起128が設けられている。ガイド突起128はガイド溝118と係合しており、ロッド102が軸方向に移動する際に、ガイド突起128はガイド溝118に沿って摺動する。このように構成することにより、ロッド102がハウジング101の中心に対して径方向に回転しないようにすることができる。その結果、安定した穿刺操作が可能となる。ガイド溝118及びガイド突起128は、このような構成に限らず、例えばヘッド部125に対して反対側に設けられていなくてもよい。また、ハウジング101の内周面にガイド突起を有し、ロッド102のヘッド部にガイド溝が設けられていてもよい。また、ロッド102の回転を防止する機構を、ハウジング101に設けられたガイド凸部と、ロッド102に設けられたガイド溝とすることもできる。
【0033】
図5に示すように、ロッド102が発射されるとその先端は、カートリッジ201の先端よりも先端側に移動し、粘着シート213と共にマイクロニードル212を枠体211から分離させ、皮膚表面221に押し当てる。これにより、マイクロニードル212による穿刺が行われる。但し、ロッド102が発射された後の先端は、カートリッジ201の先端よりも先端側に移動する必要はなく、粘着シート213と共にマイクロニードル212を枠体211から分離させ、皮膚表面221に押し当てるように構成されていればよい。
【0034】
本実施形態のアプリケータは、ハウジング101内に設けられ、内側方向に撓んだ可撓片121を通常位置に復帰させる反発部106を有している。反発部106は、ハウジング101に固定された保持部161と、保持部161に保持され、可撓片121に追随して内側方向に移動する板状部162と、保持部161と板状部162との間に設けられ、板状部162を外側方向に押し戻す反発部付勢部材163とを有している。
【0035】
ロッド102が第1の位置に移動すると、ボタン112によりヘッド部125に加えられていた押圧力が解除されるため、可撓片121は撓んでいない通常位置に復帰する。本実施形態においては、反発部106によって可撓片121の復帰が補助される。このため、繰り返し使用した場合にも、可撓片121の通常位置への復帰が速やかに行われる。また、可撓片121の固定端に加わる力を分散させることができ、可撓片121の疲労による破壊を生じにくくすることができる。また、反発部106を有することでボタン112を必要以上に押し込む等といった過剰な操作を防止できる。但し、反発部106は必要に応じて設ければよい。
【0036】
本実施形態において、反発部付勢部材163は、保持部161に設けられた保持部側突起166と、板状部162に設けられた板状部側突起167との間に挟み込まれている。但し、反発部付勢部材163が保持部161と板状部162との間に固定できれば、他の構成としてもよい。
【0037】
反発部106の保持部161は、反発部106が動かないように、ハウジング101に固定されている。本実施形態においては、保持部161の基端部に筒状の固定部168が設けられており、固定部168はハウジング101の基端に固定されたキャップ107に設けられた筒状の反発部固定用突起171に内嵌している。
【0038】
また、保持部161の先端部には、ロッド付勢部材104を固定するための台座175
が設けられている。ロッド付勢部材104は、台座175に設けられた台座側突起176と、ロッド102の底面に設けられたロッド側突起129との間に挟み込まれている。
【0039】
ハウジング101はボタン112の操作方向に位置し、ボタン112の操作量を制限する制限部113を有している。制限部113を設けることにより、ボタン112を必要以上に押し込む等といった過剰な操作を防止できる。本実施形態において、制限部113は、キャップ107からボタン112の裏面と当接する位置まで延びる突起片としたが、ボタン112の操作方向への移動量を制限できればよい。例えば、制限部113をハウジング101の内周面から延在するように構成してもよい。
図6に示すように、カートリッジ201の先端を皮膚表面221に押し当てるのを止めると、可動部103は可動部付勢部材138の付勢力により、第2の位置から第1の位置へと移動する。これにより、腕部133は、ヘッド部125に基端側から接近する。ヘッド部125の基端側外縁部には、斜めの切り欠き127が設けられているため、基端側から接近した腕部133は、ヘッド部125を内側方向に押圧し、可撓片121は内側方向に撓む。
【0040】
これにより、腕部133はヘッド部125の位置を超えて先端側に移動し、ヘッド部125の先端側に設けられた段差状部126と係合し、可撓片121は通常位置に復帰する。この際にも、反発部106が可撓片121の復帰を補助する。
【0041】
本実施形態において、反発部106は板状部162の中央部から突出した軸部165を有し、軸部165は保持部161に設けられた開口部169に挿入されている。開口部169は軸部165の外径と略一致又はそれよりも大径となるように設けられており、軸部165の末端は軸部165の他の部分よりも大径に設けられており、開口部169から抜け出ることが防止されている。また、反発部付勢部材163が軸部165を挟んで両側に設けられている。これにより、板状部162は、ハウジング101の軸と交差する方向に平行移動するだけでなく、傾斜した状態となることができる。従って、可撓片121の撓みに追随することができ、可撓片121の内側方向への撓み及び通常位置への復帰をより適切に補助することができる。
【0042】
このような構成に限らず、反発部106は、可撓片121のハウジング内側方向への撓みを外側に付勢するように構成されていればよい。例えば、板状部162を設けず、可撓片121に反発部付勢部材が直接連結しているようにすることもできる。
【0043】
反発部を設けることにより、可撓片121の通常位置への復帰を、反発部106が補助することにより可撓片121の劣化が生じにくくなるという利点が得られる。これにより、安定して繰り返し使用が可能な発射機構を実現できる。
【0044】
本実施形態において、ロッド102は円筒状としたがこれに限らず第1の位置と第2の位置との間を移動できればどのような形状としてもよい。例えば、端面が四角形又は六角形等の角筒状とすることができる。また、ロッド102は筒状でなく中実な構造とすることもできる。さらに、ロッド102の押圧面が平坦面である例を示したが、押圧面の形状は用途に応じて選択することができる。
【0045】
可撓片121は、ロッドが筒状の場合には、ロッドの側面にスリットを設けることにより、容易に可撓片が形成できるが、他の方法により可撓片を形成することもできる。例えば、ロッド102の側面等に板状の部材の一端を固定することにより可撓片を形成することもできる。
【0046】
可動部103の係合部131は、可撓片121と解除可能に係合することができればどのような構成としてもよい。また、可動部103に可撓片を設け、ロッド102の可動部の可撓片と係合する係合部を設けることもできる。
【0047】
本実施形態の発射機構100は、ロッド102を発射可能な第2の位置にロックするロック機構を有しておらず、発射可能な状態でアプリケータの位置を移動させたり、発射可能な状態のまま放置したりすることは、現実問題としてできない。このため、正しい穿刺位置以外の場所で発射操作をしてしまうような誤操作が生じにくい。また、ロックがかけられた状態で装置が放置されることがないため、安全性が高いだけでなく、バネに長期間負荷がかかるようなリスクも避けることができる。
【0048】
さらに、本実施形態の発射機構100は、第2の位置にロックするための準備操作が不要である。しかし、第2の位置以外の位置においては、ボタン112を押圧しても、可撓片121のヘッド部125がボタン112と当接しないため、空押しとなる。このため、ロッド102が発射されることがなく、ロック機構がなくても、十分な付勢力が蓄積されていない状態でロッド102が発射されてしまう誤操作が生じない。
【0049】
本実施形態のアプリケータは、ロッド102及び可動部103が共に第1の位置又は第2の位置にある場合に、ロッド102の先端は、装着部135に装着されたカートリッジ201の基端よりも基端側に位置し、ロッド102が第1の位置にあり、装着部103が第2の位置にある場合に、ロッド102の先端は、装着部135に装着されたカートリッジ201の先端よりも先端側に位置する。これにより、カートリッジ201を装着する際には、ロッド102が邪魔にならず、穿刺の際には確実にマイクロニードル212を皮膚に押し当てることができる。
【0050】
ハウジング101、ロッド102、可動部103及び反発部106は、特に限定されないが樹脂成形品とすることができる。可動部103の装着部135は、可動部103の他の部分と一体に形成しても、別体として形成した後組み立ててもよい。ロッド付勢部材104、反発部付勢部材163、及び可動部付勢部材138は、特に限定されないが、金属製のコイルバネ等とすることができる。なお、可動部付勢部材138は必須の構成ではない。例えば、第2の位置において可動部103とロッド102との連動が解除された後に可動部103の自重によって第1の位置に移動するような構成にすることができる。
【0051】
本実施形態の発射機構は、マイクロニードルのアプリケータに限らず、皮下及び皮内の注入における穿刺を行う穿刺用器具等として使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示の発射機構を有する穿刺用器具は、誤操作が生じにくく、医療用の穿刺用器具として有用である。
【符号の説明】
【0053】
100 発射機構
101 ハウジング
102 ロッド
103 可動部
104 ロッド付勢部材
106 反発部
107 キャップ
112 ボタン
113 制限部
115 フランジ部
118 ガイド溝
121 可撓片
125 ヘッド部
126 段差状部
127 切り欠き
128 ガイド突起
129 ロッド側突起
131 係合部
132 支柱部
133 腕部
135 装着部
136 嵌合凸部
137 嵌合凹部
138 可動部付勢部材
161 保持部
162 板状部
163 反発部付勢部材
165 軸部
166 保持部側突起
167 板状部側突起
168 固定部
171 反発部固定用突起
175 台座
176 台座側突起
201 カートリッジ
211 枠体
212 マイクロニードル
213 粘着シート
221 皮膚表面