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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】装飾体
(51)【国際特許分類】
   B44C 3/02 20060101AFI20220304BHJP
   B41M 3/00 20060101ALI20220304BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220304BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220304BHJP
   B32B 3/22 20060101ALI20220304BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
B44C3/02 Z
B41M3/00 Z
B32B15/08 H
B32B27/00 E
B32B3/22
C23C28/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017222030
(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公開番号】P2019093560
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000145378
【氏名又は名称】株式会社秀峰
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貢治
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-191427(JP,U)
【文献】特開2004-276415(JP,A)
【文献】米国特許第06544369(US,B1)
【文献】特開2007-130600(JP,A)
【文献】特開2017-154438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/00 - 1/14、1/18 - 7/08
B44D 2/00 - 7/00
B44F 1/00 - 99/00
B32B 1/00 - 43/00
C23C 24/00 - 30/00
B41M 1/00 - 3/18、7/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の表面に塗布された塗料層と、
該塗料層の少なくとも一部の表面である印刷部に印刷された複数の印刷要素と、
前記塗料層と前記複数の印刷要素との表面を覆う金属被膜層と、を備え、
前記複数の印刷要素は、
前記基材の表面に平行である少なくとも1方向において距離を持って隣合って配置された2つの印刷要素を備え、集合して装飾模様を構成し、
前記2つの印刷要素の距離は、
前記金属被膜層に覆われた前記2つの印刷要素のそれぞれの高さ以上であり、
前記印刷部は、
前記複数の印刷要素が占める面積が前記複数の印刷要素が配置されていない部分の面積よりも小さい、装飾体。
【請求項2】
隣の前記金属被膜層に覆われた前記2つの印刷要素との間の距離は、
前記金属被膜層に覆われた前記2つの印刷要素の高さ4倍以下である、請求項に記載の装飾体。
【請求項3】
前記金属被膜層に覆われた前記印刷要素の前記基材の表面に平行方向の大きさは、
前記金属被膜層に覆われた前記印刷要素の高さ以下である、請求項1又は2に記載の装飾体。
【請求項4】
前記印刷要素は、
複数のインキ層により構成される、請求項1~の何れか1項に記載の装飾体。
【請求項5】
前記印刷部は、
前記インキ層の数が異なる複数の領域を有する、請求項に記載の装飾体。
【請求項6】
前記印刷部は、
隣合って配置された前記2つの印刷要素の距離が異なる複数の領域を有する、請求項1~の何れか1項に記載の装飾体。
【請求項7】
前記複数の印刷要素は、
前記基材の表面方向の寸法が1~4μmである、請求項1~の何れか1項に記載の装飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、金属感を有する装飾模様を施した装飾体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、少なくとも装飾面に金属感を有する装飾模様を施す手法は極めて多く、また、それにより装飾模様を施された製品も多種にまたがっている。
すなわち、金属個体の表面をスクラッチやブラッシング等により部分的に模様を形成する方法や、金属メッキ、金属真空蒸着、金属イオンプレーティング、金属箔貼付等により個体表面を先ず金属表面として、更にその表面をマスキングを介してエッチング、液体ホーニング、サンドブラシングなどにより装飾模様を付す方法などが広く行われている。
しかしながら、これら従来の金属表面に装飾模様を付す場合、少なからぬ大がかりな設備を要したり、特にマスキングについては技術的にも難しく色々な開発が行なわれている。特に微細な模様を対象とする微細装飾については、さらにマスキング技術も難しく、また美術的にもかなり高度の手法を求められ、過去色々な手法によりこれを実現しようとする試みが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、「1)被装飾面に部分的に所定印刷インキまたは塗料による微細な色彩模様の印刷を施す第1工程と、前記色彩模様の印刷部分を含め被装飾面に全面に、所定の金属無電解メッキ、金属真空蒸着または金属イオンプレーティングのいずれか1種による被覆を施す第2工程により金属表面に2トーン模様を表示するものである。2)また、上述の1)において、前記所定印刷インキによる微細な色彩模様印刷の表面の適度の表面アラサを有するもの」が開示されている。このような構成により、金属感があり、装飾模様が施された装飾体が得られる。
【0004】
特許文献2においては、「鏡面光沢度の高い不透明基材上に、微小な凹凸を有する所望の印刷模様層を形成し、次いで該模様層側に金属蒸着層を施し、上記模様層上の鏡面光沢度を50%以下とし、また模様層以外の部分の鏡面光沢度を70%以上とする疑似エッチング模様形成法」であって、「基材に対し下塗り塗料等の処理を施した基材を用い」たものが開示されている。このような構成により、基材の表面に鏡面光沢度の異なる部分を形成し、疑似エッチング模様を形成することができる。
【0005】
特許文献3においては、「JISB0601に準拠する表面粗さ(10点平均あらさRz)が2μ未満の合成樹脂製不透明フィルムよりなる基材シートの前記表面に、その全面または部分的に艶消しコート層を形成し、次いで、前記艶消しコート層を有する面に、艶消しコート層が印刷模様層の地部分になるように、かつ、印刷模様層面の前記Rzが10μ以下となるように、階調印刷模様層を形成し、しかる後に、前記階調印刷模様層を有するその全面に金属蒸着層を形成することにより、金属蒸着層表面の光沢度が抑えられている外観を有する化粧材を得ることを特徴とする化粧材の製造方法」が開示されている。このような構成により、金属蒸着層表面の光沢度が抑えられている外観を有する化粧材を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-130600号公報
【文献】特開昭57-177973号公報
【文献】特開昭61-12337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されている装飾体の製造方法においては、印刷されていない部分と印刷部分の表面粗さの差は、印刷される素材の表面粗度に依存するため、所望の装飾模様を得るには、印刷される面を初めから所定の面粗度を有する素材を選択するか、又は素材に後加工することにより所定の面粗度を得る必要があった。その場合、例えば柔軟性、可撓性を必要とする装飾体の場合には、後加工が困難であり、素材の樹脂成形により作られる成形品の表面粗度に装飾模様のできばえが依存してしまうという課題があった。また、素材の表面に微小な傷等がついていた場合に、金属被膜を被覆した後に装飾模様とともにその傷部分が浮き出てしまい、外観不良となってしまう。素材に微小な傷が入っただけで、素材が使用不能となってしまい、ひいては装飾模様を施した金属感のある装飾体を得るために多くのコストがかかってしまうという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示されている疑似エッチング模様形成法においては、基材に対する下塗り塗料の処理を施しているが、印刷模様層については、印刷インキ被膜に微細な凹凸を形成する、又は印刷インキ中に艶消し材を混入する、印刷インキ中に微細な気泡を入れる等の特殊な処理が必要となり、印刷インキの処理工程及び管理が必要となる。金属表面の光沢度は、印刷模様層上において50%以下、印刷模様層以外において70%以上とあるが、所望の光沢度差を得るためには、印刷インキの調整、及び下塗り塗料の選定をする必要がある。また、上記の処理をした印刷インキは、表面の粗さが印刷インキの処理により決まるため、複数の表面粗さを設けることができず、表面粗さにより微細な装飾をするのは困難であるという課題がある。
【0009】
また、特許文献3に開示されている化粧材の製造方法においては、基材シートに艶消しコート層を形成することにより、金属蒸着層表面全体の光沢度を抑えるものであり、基材シートよりも平滑な面は得られないため、光沢度の高い部分を得るためには、艶消しコートではない他の塗料が必要となる。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、素材となる樹脂成形品の品質に影響されず、また印刷インキの特別な処理を必要とせずに、金属表面に所定の光沢差がある、金属感を有する装飾模様を施した装飾体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る装飾体は、基材と、該基材の表面に塗布された塗料層と、該塗料層の少なくとも一部の表面である印刷部に印刷された複数の印刷要素と、前記塗料層と前記複数の印刷要素との表面を覆う金属被膜層と、を備え、前記複数の印刷要素は、前記基材の表面に平行である少なくとも1方向において距離を持って隣合って配置された2つの印刷要素を備え、集合して装飾模様を構成し、前記2つの印刷要素の距離は、前記金属被膜層に覆われた前記2つの印刷要素のそれぞれの高さ以上であり、前記印刷部は、前記複数の印刷要素が占める面積が前記複数の印刷要素が配置されていない部分の面積よりも小さい
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、市場要求が強く技術的にも美術的にも難しいエッチングを施したような装飾模様を付した全体として金属感を有する装飾体を、コストを抑えて提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体の断面の一例を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態2における、金属感を有する微細模様を付した装飾体の断面の一例を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態2における、装飾体の表面を垂直方向から見た模式図である。
図4図2に示されている白抜き矢印30方向から斜めに装飾体の表面を見た時の模式図である。
図5図3に対して印刷要素の縦方向距離を0にしたときの図である。
図6図5に示されている白抜き矢印方向から斜めに装飾体の表面を見た時の模式図である。
図7】本発明の実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体の断面の一例を示す模式図である。
図8】本発明の実施の形態2における、印刷部の断面の一例を示す模式図である。
図9】本発明の実施の形態2における、印刷部の断面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体1の断面の一例を示す模式図である。図1に示されるように、実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体1は、基材2、塗料層3、印刷要素4、金属被膜層5から構成されている。装飾体1の表面は、印刷要素4のある印刷部10と、印刷要素4が無い非印刷部20と、を有する。
【0015】
<基材2>
基材2は、金属、プラスチック等の樹脂、石膏、木材等により構成される。また、基材2は、平面形状のものばかりでなく、曲面を有しても良く、さらには、柔軟性又は可撓性があっても良い。塗装、印刷をする工程に先立ち、基材2の被装飾面2aは、清浄化処理が施される。基材2の材質により異なるが、通常実施されている各種の清浄化処理方法により行われる。
【0016】
<塗料層3>
基材2の清浄化処理が行われた後に、基材2の被装飾面2a上に塗装を行うことにより、塗料層3を設ける。塗料層3は、基材2の被装飾面2aを平滑化し、光沢を有するように処理される。塗料層3に使用する塗料は、粘度の低いものが用いられる。これにより、被装飾面2aは、塗料の表面張力によるメニスカス表面により平坦化される。
【0017】
<印刷要素4>
基材2の被装飾面2a上に塗料層3が設けられた後に、表面が平滑化された面の上に印刷により印刷要素4が設けられる。印刷要素4を構成するインキ又は塗料は、特に色彩を有する必要はない。被装飾面2aが曲面の場合の印刷は、パッド印刷法により印刷される。被装飾面2aが平面の場合の印刷は、スクリーン印刷等の通常の印刷方法でもよい。印刷または塗装後において、印刷要素4を構成するインキまたは塗料は、加熱、UV照射、又はインキ若しくは塗料の組成自体による固定化の働きにより固定化される。固定化されたインキまたは塗料は、後工程において金属被覆により冒されるのを十分避け得る組成のものである。印刷要素4は、図1に示されるように印刷部10において複数設けられていても良い。
【0018】
装飾体1の表面に光沢度の差により形成された微細模様を設けるにあたり、装飾体1の金属被膜層5が設けられる前の印刷部10は、金属被膜層5が設けられる前の非印刷部20、すなわち塗料層3の表面よりも表面粗さが粗く、かつ適度の表面粗さを有することが最終の微細模様を認識させるために極めて重要である。金属被膜層5が設けられる前の印刷部10が適度の表面粗さを得るにあたり、実施の形態1においては、塗料層3上の印刷要素4の表面粗さにより印刷部10を所定の表面粗さにする。印刷要素4は、例えばオフセット印刷により塗料層3の表面に設けられる。
【0019】
例えば、シリコンゴムから構成される印刷用ブランケットの表面を印刷要素4が載せられた印刷原版に押し付けることにより、印刷要素4が印刷用ブランケットの表面に転写される。印刷用ブランケットに転写された印刷要素4は、印刷用ブランケットが装飾体1の塗料層3の塗料層表面3aに押し付けられることにより、塗料層表面3aに転写される。この時、印刷要素4の上側表面14は、印刷用ブランケットの表面の凹凸が転写されており、塗料層表面3a及び印刷要素4の間の塗料層表面3bよりも面粗度が粗くされている。また、印刷要素4の側部15も印刷用ブランケットの表面の凹凸が転写されていてもよい。ただし、印刷要素4に使用されるインキ又は塗料の粘度が少なすぎると印刷要素4の表面の凹凸が平坦化されてしまうため、印刷要素4の上側表面14及び側部15と、周囲の塗料層表面3a、3bとの表面粗さの差が生じにくくなる。一方、印刷要素4に使用されるインキ又は塗料の粘度が大きすぎると、印刷要素4の上側表面14及び側部15に大きな波状紋が生じるため、所望の表面粗さが得られない。実験の結果、金属被膜層5の表面に微細模様を得るために必要なインキ又は塗料の粘度は、好ましくは15~100Pa・sである。一方、通常使用されるインキ又は塗料の粘度は、粘性係数μが10~500Pa・sである。
【0020】
また、上記のように粘度によって表面粗さを維持する代わりに、インキ又は塗料に微粒子の粉体を混入させても良い。これにより印刷要素4の表面に所望の表面粗さを得ることができる。なお、インキ等の粘度や微粒子の混入により得られる印刷要素4の表面の粗さは、好ましくはRa0.1~5μmとする。
【0021】
<金属被膜層5>
塗料層3の上に印刷要素4が設けられた後に、塗料層3及び印刷要素4の上に金属被膜層5が設けられる。金属被膜層5は、金属無電解メッキ、金属真空蒸着、金属イオンプレーティング、または電気金属メッキ等の方法にて設けられる。金属被膜層5に用いられる金属としては、Ti、Ni、Cu、Au、Ag、Pt、Rh、Pd等の装飾性のある金属が、装飾体1のデザインに応じて選択される。また、真空蒸着やイオンプレーティングによる場合には適当な色彩色素を併合して処理することにより、金属感が有り、しかも独特の色彩を有する装飾面を作成することができる。
【0022】
上記のように上側表面14及び側部15の面粗度が塗料層3の塗料層表面3aより粗い印刷要素4の表面に金属被膜層5が形成されることにより、上側表面14の上に形成された金属被膜層5の天面5a及び側部15の上に形成された金属被膜層5の側面5cも表面が粗くなる。これにより、金属被膜層5の天面5a及び側面5cは、周囲の塗料層表面3aの上に形成された金属被膜層5である地肌面5b、5dよりも光沢が低く見える。この光沢の低い部分を組み合わせて装飾模様とすることにより、微細模様を付した全体として金属感を有する装飾体を、コストを抑えて提供することができる。
【0023】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、実施の形態1に対し、印刷要素4を所定の配列にし、装飾体1の表面を見る角度により、装飾模様の見え方が変わるようにしたものである。以下実施の形態1に対する変更点を中心に説明する。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態2における、金属感を有する微細模様を付した装飾体1の断面の一例を示す模式図である。図3は、本発明の実施の形態2における、装飾体1の表面を垂直方向から見た模式図である。図3においては、金属被膜層5は明示されていないが、印刷要素4及び塗料層3の表面は、金属被膜層5により覆われている。図2において、金属被膜層5に覆われた各印刷要素4の間の距離を距離Lとしている。距離Lは、金属被膜層5に覆われた各印刷要素4の間の距離を代表的に表したものであり、装飾体1の断面を取る方向に応じ、例えば図3においては、距離L1及び距離L2に相当するものである。印刷要素4のそれぞれの大きさは、図3において横方向寸法A、縦方向寸法Bとなっている。図3は、装飾体1の表面を拡大して表した模式図であるため、金属被膜層5により覆われた各印刷要素4は視認可能な大きさに示されているが、実際の装飾体1を表面の垂直方向から見ると金属被膜層5により覆われた各印刷要素4は、通常の人が手に持って肉眼で観察しても視認できない程度の横方向寸法A、縦方向寸法Bに設定されている。横方向寸法A及び縦方向寸法Bは、例えば、1μm~4μmに設定される。
【0025】
そして、実施の形態2において各印刷要素4の間の距離L1及びL2は、例えば、印刷要素4の高さH以上の値となっている。なお、印刷要素4は、金属被膜層5に覆われているため、図3に示されるように高さHは塗料層3の上の金属被膜層5の表面から印刷要素4の上側表面14までの高さである。なお、金属被膜層5は、全体にほぼ均一に設けられているため、高さHは実質的に印刷要素4の塗料層表面3aからの高さ寸法と同じになる。また、印刷部10は、印刷要素4が占める面積よりも地肌面5bが占める面積が大きい。そのため、印刷部10を表面の垂直方向から見ると、印刷要素4の集合により構成される装飾模様は肉眼では視認できないか、又はきわめて薄く視認できる程度である。
【0026】
図4は、図3に示されている白抜き矢印30方向から斜めに装飾体1の表面を見た時の模式図である。すなわち、図3の横方向に、表面に対し斜め上から装飾体1の表面を見ている。また、図2においては、矢印8で示される角度から金属被膜層5に覆われた印刷要素4を見ていることになる。図4のように装飾体1の表面を斜め方向から見ると、金属被膜層5に覆われた印刷要素4の高さHにより、隣接する印刷要素4と重なる。すると、見ている方向に向かって印刷要素4と直列に並んでいる地肌面5bは、手前側にある金属被膜層5に覆われた印刷要素4の高さHにより隠され、見えなくなる。すると、印刷部10における、金属被膜層5に覆われた印刷要素4が占める面積は、見た目上増加し、地肌面5bの占める面積は、見た目上減少する。この時、重なっている複数の印刷要素4は視認しやすくなるため、金属被膜層5で覆われた印刷要素4の集合が形成している装飾模様が視認できるようになる。この時、金属被膜層5で覆われた印刷要素4の集合は、その金属被膜層5で覆われた天面5a及び側面5cが塗料層3の表面を覆っている地肌面5b、5dよりも光沢が低いため、光沢の低い装飾模様が視認できることになる。
【0027】
また、図2における、矢印8aで示される角度、すなわち矢印8よりも垂直に近い角度から金属被膜層5に覆われた印刷要素4を見ると、金属被膜層5に覆われた印刷要素4の間の地肌面5bが見える。地肌面5bが見えるものの、垂直よりも斜めに印刷要素4の集合を見ているため、見かけ上、印刷部10において金属被膜層5に覆われた印刷要素4の占める面積が増加している。よって、金属被膜層5に覆われた印刷要素4の間の距離Lの設定にもよるが、装飾模様は、装飾体1の表面に垂直な方向から見るよりは視認しやすくなる。
【0028】
なお、図4は、図3の白抜き矢印30方向から、装飾体1の表面の法線に対し斜め方向から見ている図だが、図3の縦方向に向いている白抜き矢印31方向から見た場合においても、装飾体1の表面の法線に対し斜め方向の所定の角度から見れば図3に示されるのと同じように印刷要素4が重なって見える。また、図3の白抜き矢印32の方向から見た場合においても、装飾体1の表面の法線に対し斜め方向の所定の角度から見れば、印刷要素4が重なって見えるが、この場合は、印刷要素4間は斜め方向距離L3となり、白抜き矢印30及び白抜き矢印31の場合と較べて長い。
【0029】
図3において金属被膜層5に覆われた印刷要素4は、横方向の距離L1、縦方向の距離L2の間隔をおいて配置されている。横方向の距離L1及び縦方向の距離L2は、図2においてはLで示されているものである。横方向の距離L1及び縦方向の距離L2は、それぞれ等しくても良く、また、異なる値であっても良い。ただし、装飾体1の表面に平行な方向において、少なくとも1方向には所定の間隔を取っている必要がある。
【0030】
金属被膜層5に覆われた各印刷要素4間の距離L(横方向距離L1及び縦方向距離L2のうち少なくとも一方)は、遠いほど、装飾体1の表面の法線に対し大きい角度の斜め方向から見ないと隣接する金属被膜層5に覆われた印刷要素4が重ならない。逆に距離Lが近ければ、装飾体1の表面の法線に対し小さい角度の斜め方向から見るだけで隣接する金属被膜層5に覆われた印刷要素4が重なる。つまり、距離Lの寸法を調整することにより、金属被膜層5に覆われた印刷要素4が複数集合して形成している装飾模様を視認できる斜め方向の角度が調整できる。ただし、距離Lが小さすぎると、装飾体1の表面のほぼ垂直方向から視認できてしまうため、距離Lは金属被膜層5に覆われた印刷要素4の高さH以上の値を取ることが望ましい。印刷要素4の高さHは1~2μmを取ることが可能であるため、具体的には、横方向距離L1又は縦方向距離L2が高さH以上の値で1~4μmの範囲に設定することが望ましい。つまり、金属被膜層5に覆われた各印刷要素4間の横方向距離L1又は縦方向距離L2は、印刷要素4の高さH以上で高さHの4倍以下の範囲で設定することが望ましい。なお、金属被膜層5の厚さは0.1μm~2μmとすることができるため、金属被膜層5が設けられる前の各印刷要素4の間の距離は、金属被膜層5の厚さの2倍の寸法だけ距離を離して印刷すればよい。
【0031】
また、印刷部10は、異なる複数の距離Lが設定されている複数の領域を備えていても良い。距離Lが異なる領域があることにより、装飾体1の表面を見る角度に応じて印刷要素4が重なって見える部分とそうでない部分とができるため、見る角度により異なる装飾模様に見えることになる。
【0032】
図5は、図3に対して印刷要素4の縦方向距離L2を0にしたときの図である。図6は、図5に示されている白抜き矢印方向から斜めに装飾体1の表面を見た時の模式図である。実施の形態1において、印刷要素4は、例えば図5のように縦方向距離L2を0又は0に近い値にとり、印刷要素4が縦方向に隣接して配置してもよい。ただし、このとき、横方向距離L1は、所定の間隔だけ離れている。図5の白抜き矢印方向から斜めに装飾体1の表面を見ると、図6に示すように印刷部10aの地肌面5bは見えず、印刷部10aは全て金属被膜層5に覆われた印刷要素4で占められているように見える。この時、印刷部10aは、金属被膜層5に覆われた印刷要素4の集合により形成されている装飾模様が視認できる。なお、図5及び図6においては、縦方向距離L2を全て0にしているが、装飾模様の仕様により、部分的に縦方向距離L2を大きく取る部分を設けても良い。
【0033】
また、図3及び図5においては、印刷要素4は、装飾体1の表面の法線方向から見た際に四角形で表されているが、円形、楕円形、三角形、その他の形状であっても良い。印刷要素4の形状が、様々な形状を取ったとしても、印刷要素4の高さHと印刷要素4間の距離Lの値により、装飾体1の表面の法線方向に対し斜め方向から視認した際に印刷要素4が重なる様に配置することができる。
【0034】
また、印刷要素4は、単独では視認できない、又は視認しにくいものであれば良く、大きさは限定されない。さらには、印刷要素4の上側表面14及び側部15の面粗度を調整し、例えば周囲の塗料層表面3a、3bとの面粗度の差を小さくすれば金属被膜層5により覆われた印刷要素4は単独で視認しにくくなる。これにより適宜印刷要素4の大きさを変更することもできる。
【0035】
また、印刷部10は、印刷要素4の間の距離L1、L2が異なる複数の領域により構成されても良い。さらには、印刷部10は、複数の大きさ(基材表面方向の大きさ)を備える印刷要素4により構成されても良い。印刷要素4の間の距離L1、L2及び印刷要素4の大きさを自由に調整することにより、所定の領域に設けられる複数の印刷要素4の配置密度を調整することができる。
【0036】
図7は、本発明の実施の形態2における、金属感を有する微細模様を付した装飾体1の断面の一例を示す模式図である。図7は、図1と異なり、ここでの印刷要素4は2つのインキ又は塗料が重なって構成されるものである。図1に示されている印刷要素4の高さは、例えば1~2μmであるが、図4の印刷要素4は、2つのインキ又は塗料が重なり、高さが高く構成されているため、印刷部10が有する凹凸の高低差が大きい。印刷部10の面積が小さい場合であって、印刷要素4の数量が少ない領域においても、凹凸が大きくすることができる。これにより、印刷部10を斜めから見たときに、装飾体1の表面に垂直方向からの角度がより小さい角度で、金属被膜層5により覆われた印刷要素4の重なるようにすることができる。
【0037】
図8及び図9は、本発明の実施の形態2における、印刷部10の断面の一例を示す模式図である。図3図7においては、印刷要素4の形状を矩形に表しているが、実際の印刷要素4は、厳密に矩形で無くとも良い。印刷要素4の立体的な形状は、例えば、略円錐台、略四角錐台のような、図の上から下に向かって広がる形状であっても良い。また、楕円体の一部を切り取った様な形状でも良い。これらの形状の場合であっても、例えば図8の印刷要素4a、4bのように、印刷部10を斜めから見たときに、装飾体1の表面に垂直方向からの角度が、小さいときは地肌面5bが見えて、大きいときには金属被膜層5に覆われた印刷要素4a、4bが重なるように見えるように配置されていればよい。つまり、地肌面5bが見える時には、図8に示されている矢印8aの角度で見ていることになる。また、印刷要素4a、4bが重なる様に見える時は、図8に示されている矢印8の角度で見ていることになる。また、図9の印刷要素4e~4hのように楕円体の一部を切り取った様な形状の場合であっても、印刷部10を斜めから見たときに、装飾体1の表面に垂直方向からの角度が、小さいときは地肌面5bが見えて、大きいときには金属被膜層5に覆われた印刷要素4e、4fが重なるように見えるように配置されていればよい。これらのように、印刷要素4a~4hが矩形では無い形状の場合であっても、印刷要素4a~4hの上側表面14及び側部15は表面粗さが塗料層3よりも粗くされている。そのため、図2に示された印刷要素4の場合と同様に、装飾体1の表面を見る角度により、周辺より光沢の低い装飾模様が視認できる。
【0038】
<効果>
実施の形態1~2に係る装飾体1は、基材2と、基材2の表面に塗布された塗料層3と、塗料層3の少なくとも一部の表面に印刷された複数の印刷要素4と、塗料層3と印刷要素4との表面を覆う金属被膜層5と、を備える。そして、印刷要素4の表面(印刷要素4の上側表面14及び側部15)は、表面粗さが塗料層3の表面(塗料層表面3a、3bに相当)よりも粗い。
このように構成されることにより、印刷部10の印刷要素4の上に形成された金属被膜層5は凹凸形状を有し、塗料層表面3a、3bに形成された金属被膜層5よりも表面粗さが粗くなっている。これにより、金属被膜層5が設けられた印刷要素4の表面(印刷要素4の上側表面14及び側部15)は、凹凸形状により光沢度が低くなり、金属の表面にエッチングを施したように見える。また、塗料層表面3a、3b上の金属被膜層5は、表面が平坦であるため印刷要素4の表面上に設けられた金属被膜層5の表面(天面5a及び側面5cに相当)と比較して光沢度が高い。これにより、エッチングを施したような装飾模様が付された全体として金属感を有する装飾体を、コストを抑えて提供することができる。
【0039】
また、金属被膜層5に覆われた印刷要素4は、基材2の表面に平行である少なくとも1方向において、隣の金属被膜層5に覆われた印刷要素4と間隔を持って配置され、複数集合して装飾模様を構成する。
このように構成されることにより、装飾体1の表面を垂直方向から見た時には、金属被膜層5に覆われた印刷要素4により構成された装飾模様が視認しにくく、装飾体1の表面の垂直方向に対して所定角度傾いた方向から見た際には、隣合った金属被膜層5に覆われた印刷要素4の間の地肌面5bが隠されて、金属被膜層5に覆われた印刷要素4により構成された装飾模様が視認できるようになる。エッチングを施したような装飾模様を付した全体として金属感を有する装飾体が得られるだけでなく、見る角度により、装飾模様が異なって見える装飾体が得られる。
【0040】
また、基材2の表面に平行である少なくとも1方向において、隣接する複数の金属被膜層5に覆われた印刷要素4の間の距離Lは、印刷要素4の塗料層3の表面からの高さH以上であり、高さHの4倍以下であっても良い。
このように構成されることにより、上記と同様に見る角度により装飾模様が異なって見える装飾体を確実に得ることができる。
【0041】
また、印刷要素4の基材2の表面に平行方向の大きさは、印刷要素4の塗料層3の表面からの高さH以下であってもよい。
このように構成されることにより、装飾体1の表面を垂直方向から見た時には、金属被膜層5の表面に装飾模様はより視認しにくくなる。なお、装飾体1の表面の垂直方向に対して所定角度傾いた方向から見た際には金属被膜層5に覆われた印刷要素4により構成された装飾模様が視認できる。
【0042】
また、印刷要素4が、複数のインキ層により構成されても良い。
このように構成されることにより、複数のインキの層により印刷要素4の高さを高くすることができる。この場合、金属被膜層5をした後においてこの印刷部10は、印刷要素4の数量が少ない領域においても、凹凸形状を大きくすることができる。これにより、金属被膜層5に覆われた印刷要素4は、基材2の表面に垂直方向から見た時には視認されにくく、垂直方向から所定の角度だけ斜め方向から見た時に装飾模様が見えるようにするのに有利である。
【0043】
また、複数の前記印刷要素が配置されている領域である印刷部10は、インキ層の数が異なる複数の領域を有していても良い。
このように複数の高さの異なる印刷要素4を設けることにより、金属被膜層5が設けられた後の印刷部10は、角度により見え方の異なる領域が形成される。さらには、印刷部10は、印刷要素4の間の距離L及び印刷要素4の大きさと併せて、印刷要素4の高さも変化させた複数の領域を設けても良い。このような構成により、装飾体1の表面に見る角度により変化のある装飾模様を形成することができる。
【0044】
また、複数の前記印刷要素が配置されている領域である印刷部10は、印刷要素4の間隔が異なる複数の領域を有しても良い。
これにより、金属被膜層5が設けられた後の印刷部10は、複数の見え方の異なる領域が形成されるため、見る角度により模様が変化する装飾模様を形成することができる。印刷部10の見る角度による装飾模様の見え方は、前述したように、印刷要素4の間の距離L及び印刷要素4の大きさの少なくとも一方を自由に調整することにより、変化させることができる。これにより、金属被膜層5が設けられた後の印刷部10は、変化のある微細装飾を施すことができ、微細装飾の形状の自由度も増すという効果が得られる。
【0045】
また、印刷要素4は、基材2の表面に平行な方向の寸法が1~4μmである。この範囲内で印刷要素4の大きさを調整しつつ、印刷要素4間の距離、印刷要素4の高さも併せて調整することができる。これにより、金属被膜層5の表面に、見る角度により変化のある微細装飾を施すことができ、微細装飾の形状の自由度も増すという効果が得られる。
【0046】
なお、金属被膜層5の厚さは、厚過ぎては金属被膜層5を設ける前の印刷部10の表面粗さの効果が削減されてしまい、また、薄過ぎては十分に金属被膜層5がゆきわたらないおそれがある。そのため、金属被膜層5の厚さは、0.1~2μm程度が好ましい。
【符号の説明】
【0047】
1 装飾体、2 基材、2a 被装飾面、3 塗料層、3a 塗料層表面、3b 塗料層表面、4 印刷要素、4a~4h 印刷要素、5 金属被膜層、5a 天面、5b 地肌面、5c 側面、5d 地肌面、8 矢印、8a 矢印、10 印刷部、10a 印刷部、14 上側表面、15 側部、20 非印刷部、30~32 白抜き矢印、A 高さ、L 距離、L1 (横方向)距離、L2 (縦方向)距離、L3 (斜め方向)距離、μ 粘性係数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9