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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220304BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018022089
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019138764
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋介
(72)【発明者】
【氏名】北川 寛
(72)【発明者】
【氏名】土方 啓暢
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-141690(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111110(WO,A1)
【文献】特開平10-123093(JP,A)
【文献】Naoki TAKEDA et al.,Preparation and characterization of Ln9.33+x/3Si6-xAlxO26(Ln=La,Nd and Sm)with apatite-type structure and its application to potentiometric O2 gasu sensor,Sensors and Actuators B,2006年,Vol.115,pp.455-459
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオンの伝導性を有する固体電解質体(21)、及び前記固体電解質体を介する両側の表面(211,212)に一対に設けられた電極(22,23)を有するセンサ素子(2)と、
前記センサ素子を活性温度に加熱するためのヒータ(3)と、を備え、
前記固体電解質体を介して一対の前記電極の間に生じる起電力又は電流を検出するよう構成されたガスセンサ(1)において、
前記固体電解質体は、A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+z(ただし、A:La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群のうちの少なくとも一種の元素、T:Si及びGeの少なくとも一種の元素、M:B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素、x:-1.00~1.00、y:1.00~3.00、z:-2.00~2.00とし、Mのモル数に対するAのモル数の比率(A/M)が3.00~10.0とする。)の化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質によって構成されており、
前記ヒータの制御温度は、一対の前記電極のうちの検出ガス(g)に晒される検出電極(22)の中心位置(C)の表面温度が300~550℃の範囲内になるよう設定されており、
前記検出電極は、A x Zn 1-x y 1-y 4+x/2+y/2 (ただし、A:In、B:Re、x:0~0.1、y:0~0.1とする。)の化学式を有する電極材料を用いて構成されており、
前記起電力又は前記電流に基づき、前記検出ガスにおける酸素濃度の影響を受けず、前記検出ガスに含まれる、酸素分子を除く、酸素原子を含む特定ガスとしてのNO 2 の濃度を検出するよう構成されている、ガスセンサ。
【請求項2】
一対の前記電極のうちの、前記固体電解質体を介して前記検出電極とは反対側に設けられた電極は、大気電極(23)として大気に晒されており、
前記大気中の酸素濃度から決まる前記大気電極の電位と前記特定ガスの濃度から決まる検出電極の電位との差によって、前記固体電解質体を介して前記大気電極と前記検出電極との間に生じる起電力(E)を検出するよう構成されている、請求項に記載のガスセンサ。
【請求項3】
一対の前記電極のうちの、前記固体電解質体を介して前記検出電極とは反対側に設けられた電極は、大気電極(23)として大気に晒されており、
前記センサ素子は、所定の拡散抵抗下において前記検出電極に前記検出ガスが接触するよう構成されており、
前記大気電極と前記検出電極との間に電圧(F)が印加された状態で、前記特定ガスの濃度の変化に応じて、前記固体電解質体を介して前記検出電極と前記大気電極との間に生じる電流(I)を検出するよう構成されている、請求項に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記検出電極は、前記固体電解質体に積層された第1絶縁体(24A)によって形成された検出ガス室(25)内に配置されており、
前記第1絶縁体には、前記検出ガスを所定の拡散抵抗下において前記検出ガス室内へ導入するための拡散抵抗部(251)が設けられており、
前記ヒータは、前記固体電解質体における、前記第1絶縁体が積層された側とは反対側に積層された第2絶縁体(24B)に埋設された発熱体によって構成されている、請求項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、例えば、車両等の内燃機関から排気される排ガスを検出ガスとして、検出ガスにおける酸素ガスの濃度又は特定ガスの濃度を検出するために用いられる。排ガス中のNOx等の特定ガスの濃度を検出するガスセンサにおいては、排ガスにおける酸素ガスを汲み出すためのポンプ電極と、ポンプ電極によって酸素ガスの濃度が調整された後の排ガスにおける特定ガスの濃度を検出するセンサ電極とが固体電解質体に設けられている。また、固体電解質体及び各電極は、ヒータによって酸素ガス及び特定ガスに対する活性を示す温度に加熱される。このような排ガスにおける特定ガスを検出するガスセンサとしては、例えば、特許文献1に示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-275215公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排ガスにおける特定ガスの濃度を検出する従来のガスセンサに用いられるセンサ電極は、酸素ガス及び特定ガスに対して触媒活性を有する。そのため、ポンプ電極を用いて、排ガスにおける酸素ガスの濃度を極力低くしないと、特定ガスの濃度を精度よく検出することができない。
【0005】
また、ポンプ電極による酸素ガスの汲み出しに変動が生じた場合には、酸素ガスの濃度が調整された後の排ガス中に残留する酸素ガスの濃度も変動する。この場合には、特定ガスの濃度を検出する精度が悪化するおそれがある。つまり、従来のガスセンサにおいては、排ガスにおける特定ガスの濃度を検出する精度は、ポンプ電極の性能による影響を受ける。
【0006】
従って、ガスセンサにおいて、排ガス(検出ガス)における酸素ガスの濃度の影響を受けずに、排ガスにおける特定ガスの濃度を精度よく検出するためには、更なる改善の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、検出ガスにおける酸素ガスの濃度の影響を受けずに、検出ガスにおける特定ガスの濃度を精度よく検出することができるガスセンサを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、酸素イオンの伝導性を有する固体電解質体(21)、及び前記固体電解質体を介する両側の表面(211,212)に一対に設けられた電極(22,23)を有するセンサ素子(2)と、
前記センサ素子を活性温度に加熱するためのヒータ(3)と、を備え、
前記固体電解質体を介して一対の前記電極の間に生じる起電力又は電流を検出するよう構成されたガスセンサ(1)において、
前記固体電解質体は、A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+z(ただし、A:La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群のうちの少なくとも一種の元素、T:Si及びGeの少なくとも一種の元素、M:B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素、x:-1.00~1.00、y:1.00~3.00、z:-2.00~2.00とし、Mのモル数に対するAのモル数の比率(A/M)が3.00~10.0とする。)の化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質によって構成されており、
前記ヒータの制御温度は、一対の前記電極のうちの検出ガス(g)に晒される検出電極(22)の中心位置(C)の表面温度が300~550℃の範囲内になるよう設定されており、
前記検出電極は、A x Zn 1-x y 1-y 4+x/2+y/2 (ただし、A:In、B:Re、x:0~0.1、y:0~0.1とする。)の化学式を有する電極材料を用いて構成されており、
前記起電力又は前記電流に基づき、前記検出ガスにおける酸素濃度の影響を受けず、前記検出ガスに含まれる、酸素分子を除く、酸素原子を含む特定ガスとしてのNO 2 の濃度を検出するよう構成されている、ガスセンサにある。
【発明の効果】
【0009】
前記一態様のガスセンサにおいては、A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zの化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質を固体電解質体として用いる。この固体電解質体は、300~550℃の低温域においても活性化され、酸素イオン(酸化物イオン、O2-)を伝導させる性質を有する。また、ガスセンサにおけるヒータの制御温度は、固体電解質体に設けられた検出電極の中心位置の表面温度が300~550℃の範囲内になるよう設定されている。
【0010】
検出電極の中心位置の表面温度が300~550℃の範囲内に加熱されることにより、固体電解質体における、検出電極と対向する位置の温度も、300~550℃の範囲内に近い温度の範囲内に加熱される。そして、300~550℃の低温域においては、検出電極に接触する検出ガスに含まれる酸素ガス(酸素分子)がほとんど分解されない。また、この低温域においては、検出ガスにおけるガス成分のうち、検出電極において分解されるガスのほとんどが特定ガスとなる状態を形成することができる。これにより、ガスセンサにおいては、検出ガスにおける特定ガスの濃度を検出するために、酸素ガスの濃度を調整する必要がなくなる。
【0011】
そのため、検出ガスから酸素ガスを汲み出すための電極を用いなくても、検出ガスにおける特定ガスの濃度を検出することが可能になる。そして、検出ガスにおける酸素ガスの濃度が変動した場合でも、この影響を受けずに、検出ガスにおける特定ガスの濃度を検出することができる。
【0012】
それ故、前記一態様のガスセンサによれば、検出ガスにおける酸素ガスの濃度の影響を受けずに、検出ガスにおける特定ガスの濃度を精度よく検出することができる。
【0013】
ヒータの制御による検出電極の中心位置の表面温度が300℃未満となる場合には、検出電極及び固体電解質体の温度が低すぎて、これらが活性化しないおそれがある。一方、ヒータの制御による検出電極の中心位置の表面温度が550℃超過となる場合には、検出電極及び固体電解質体の温度が高く、特定ガスの濃度の検出が、酸素ガスの濃度による影響を受けるおそれがある。
【0014】
ヒータの制御によって加熱される検出電極の一部は、300℃未満又は550℃超過となっていてもよい。また、ヒータの制御によって、検出電極の全体が300~550℃の範囲内になるようにすることができる。
【0015】
固体電解質体は、550℃を超える温度においても酸素イオンを伝導させる性質を有していてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【0017】
(配向性アパタイト型固体電解質)
配向性アパタイト型固体電解質の具体的な構成について説明する。
配向性アパタイト型固体電解質における「配向性」とは、固体電解質体が配向軸(結晶軸)を有しているという意味であり、配向軸は、一軸であっても二軸であってもよい。特に、配向性アパタイト型固体電解質は、c軸配向性を有していることが好ましい。
【0018】
前記化学式の「A」元素として挙げられた、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaは、正の電荷を有するイオンとなり、アパタイト型六方晶構造を構成し得るランタノイド又はアルカリ土類金属である元素である。この中でも、酸素イオンの伝導率をより高めることができる観点から、La、Nd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの少なくとも一種を用いることが好ましい。また、LaもしくはNdのいずれか、あるいは、Laと、Nd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの少なくとも一種との組み合わせの元素を用いることがさらに好ましい。
【0019】
前記化学式の「T」元素には、Si、Ge、又はSiとGeとの組み合わせの元素を用いることができる。
前記化学式の「M」元素は、気相中において、準安定な前駆体(後述するA2.00+xTO5.00+z)との反応により導入される。これにより、この前駆体をアパタイト構造に変化させるとともに、固体電解質における結晶を一方向に配向させることができる。
【0020】
9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zの化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質は、A2.00+xTO5.00+zの化学式を有する前駆体を、M元素を含有する気相中で加熱して、前駆体とM元素とを反応させて得ることができる。なお、この化学式の「A」は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群のうちの少なくとも一種の元素を示す。化学式の「T」は、Si及びGeの少なくとも一方を含む元素を示す。化学式の「x」は、-1.00~1.00の範囲内の数値を示し、化学式の「z」は、-2.00~2.00の範囲内の数値を示す。「M元素」とは、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素を示す。
【0021】
「M」元素としては、前駆体がアパタイト構造をとることになる1000℃以上の温度で気相となって、必要な蒸気圧を得ることができる元素であればよい。「必要な蒸気圧」とは、雰囲気中を気相状態で移動でき、前駆体の表面から内部に向って、粒内拡散して反応を進めることができる蒸気圧のことを示す。この観点から、「M」元素としては、例えばB、Ge、Zn、W、Sn及びMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素を挙げることができる。この中でも、高配向度や高生産性(配向速度)の点で、B、Ge及びZnのうちの少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0022】
「A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+z」の化学式における「x」は、配向度及び酸素イオンの伝導性を高めることができる観点から、-1.00~1.00であることが好ましく、0.00~0.70であることがより好ましく、0.45~0.65であることがさらに好ましい。前記化学式における「y」は、アパタイト型結晶格子における「T」元素の位置を埋めるという観点から、1.00~3.00であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1.00~1.62であることがさらに好ましい。前記化学式における「z」は、アパタイト型結晶格子内において電気的中性を保つという観点から、-2.00~2.00であることが好ましく、-1.50~1.50であることがより好ましく、-1.00~1.00であることがさらに好ましい。
【0023】
また、前記化学式において、「M」元素のモル数に対する「A」元素のモル数の比率(A/M)、言い換えれば、前記化学式における(9.33+x)/yの比率は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つという観点から、3.00~10.0であることが好ましく、6.20~9.20であることがより好ましく、7.00~9.00であることがさらに好ましい。
【0024】
「A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+z」の化学式の具体例としては、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+zなどを挙げることができる。ただし、配向性アパタイト型固体電解質はこれらのみに限定されない。
【0025】
配向性アパタイト型固体電解質の、ロットゲーリング法で測定した配向度であるロットゲーリング配向度は、0.6以上とすることが好ましく、0.8以上とすることがより好ましく、0.9以上とすることがさらに好ましい。配向性アパタイト型固体電解質のロットゲーリング配向度を0.6以上とするためには、A2.00+xTO5.00+zによって示される前駆体を単一相かつ高密度(相対密度80%以上)に調製することが好ましい。ただし、配向性アパタイト型固体電解質の製造方法は、この製造方法のみに限定されない。
【0026】
500℃における配向性アパタイト型固体電解質の酸素イオンの伝導率は、10-4S/cm以上とすることが好ましく、10-3S/cm以上とすることがより好ましく、10-2S/cm以上とすることがさらに好ましい。この酸素イオンの伝導率を10-4S/cm以上とするためには、ロットゲーリング配向度を0.6以上とすることが好ましい。
【0027】
配向性アパタイト型固体電解質の輸率は、0.80以上とすることが好ましく、0.90以上とすることがより好ましく、0.95以上とすることがさらに好ましい。この輸率を0.80以上とするためには、「A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+z」の純度を90%以上とすることが好ましい。
【0028】
(配向性アパタイト型固体電解質の製造方法)
配向性アパタイト型固体電解質の製造方法は、国際公開WO2016/111110公報に記載された内容を援用することができる。
【0029】
(電極)
一対の前記電極は、300~550℃の低温域においても、電子伝導性を有する電極材料から構成することが好ましい。一対の前記電極のうちの前記検出電極は、300~550℃の低温域においても、酸素分子を除く、酸素原子を含む特定ガスに対する触媒活性を有する電極材料から構成することが好ましい。
【0030】
検出電極は、300~550℃の低温域において、検出ガスにおける特定ガスとしてのNO、NO2、N2O、CO、H2O又はCO2に対する触媒活性を有する電極材料から構成することが好ましい。特に、検出電極には、NO2に対する触媒活性の選択性を有する電極材料として、W(タングステン)の酸化物を用いることができる。
【0031】
また、電極材料の耐熱性を向上させるために、検出電極には、Wと他の元素との化合物を用いることが好ましい。また、検出電極は、電極材料の昇華を抑え、電極材料の表面の塩基性を増加させるために、Zn(亜鉛)を含有することができる。なお、塩基性を増加させることによって、検出電極が酸性ガスを吸着しやすくすることができる。また、検出電極は、電極材料における電子伝導性を向上させるドナーを形成するために、Re(レニウム)を含有することができる。
【0032】
検出電極は、AxZn1-xy1-y4+x/2+y/2(ただし、A:In、B:Re、x:0~0.1、y:0~0.1とする。)の化学式を有する電極材料を用いて構成することができる。この場合には、検出電極が300~550℃における耐熱性を有し、NO2に対する触媒活性の選択性を有する検出電極を形成することができる。
【0033】
なお、AxZn1-xy1-y4+x/2+y/2の化学式の「A」及び「B」は、NO2に対する触媒活性の選択性を有すれば、それぞれn又はReとは異なる元素とすることもできる。
【0034】
一対の電極のうちの基準電極は、Pt、Pt合金(Ptと他の貴金属との合金)、ぺロブスカイト型酸化物などの電気伝導性酸化物等を用いて構成することができる。基準電極とは、固体電解質体を介して検出電極と対向する電極のことをいう。基準電極は、大気に晒される大気電極とすることができる。
【0035】
検出電極及び基準電極は、固体電解質体の表面に設けられた電極材料を、固体電解質体とともに焼結する場合には、電極材料中に、固体電解質体と同質の成分を含有していてもよい。一方、メッキ処理等を行って固体電解質体の表面に検出電極及び基準電極を形成する場合には、電極材料中に、固体電解質体と同質の成分を含有していなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態1にかかる、ガスセンサを示す断面図。
図2】実施形態1にかかる、内燃機関の配管にガスセンサが配置された状態を示す説明図。
図3】実施形態1にかかる、他のガスセンサを示す断面図。
図4】実施形態2にかかる、ガスセンサを示す断面図。
図5】実施形態2にかかる、図4のV-V断面図。
図6】実施形態2にかかる、図4のVI-VI断面図。
図7】実施形態3にかかる、ガスセンサを示す断面図。
図8】実施形態3にかかる、図7のVIII-VIII断面図。
図9】実施形態3にかかる、図7のIX-IX断面図。
図10】確認試験1にかかる、NO2の濃度の検出が、O2の濃度の変化の影響を受けるかについて確認した結果を示すグラフ。
図11】確認試験2にかかる、NO2の濃度を定量的に検出することができるかの確認をした結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
前述したガスセンサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のガスセンサ1は、図1に示すように、センサ素子2及びヒータ3を備える。センサ素子2は、酸素イオン(酸化物イオン、O2-)の伝導性を有する固体電解質体21と、固体電解質体21を介する両側の表面に一対に設けられた電極22,23とを有する。ヒータ3は、センサ素子2を活性温度に加熱するよう構成されている。ガスセンサ1は、固体電解質体21を介して一対の電極22,23の間に生じる起電力Eを検出するよう構成されている。なお、同図は、ガスセンサ1の主要部を概略的に示す。
【0038】
固体電解質体21は、A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zの化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質によって構成されている。ここで、化学式の「A」は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群のうちの少なくとも一種の元素を示す。化学式の「T」は、Si及びGeの少なくとも一種の元素を示す。化学式の「M」は、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素を示す。化学式の「x」は、-1.00~1.00の範囲内の数値を示し、化学式の「y」は、1.00~3.00の範囲内の数値を示し、化学式の「z」は、-2.00~2.00の範囲内の数値を示す。また、「M」のモル数に対する「A」のモル数の比率(A/M)は、3.00~10.0とする。
【0039】
ヒータ3の制御温度は、一対の電極22,23のうちの検出ガスgに晒される検出電極22の中心位置Cの表面温度が300~550℃になるよう設定されている。ガスセンサ1は、起電力Eに基づき、検出ガスgにおける酸素濃度の影響を受けず、検出ガスgに含まれる、酸素分子(O2)を除く、酸素原子(O)を含む特定ガスの濃度を検出するよう構成されている。
【0040】
以下に、本形態のガスセンサ1について説明する。
(内燃機関5)
図2に示すように、本形態のガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)5の排気系統の配管51内に配置されて、配管51内を流れる排ガスを検出ガスgとして、検出ガスg中の特定ガスを検出するものである。ガスセンサ1は、配管51内における、触媒52の配置箇所よりも上流側に設けることができ、配管51内における、触媒52の配置箇所よりも下流側に設けることもできる。また、ガスセンサ1を配置する配管は、排ガスを利用して内燃機関5が吸入する空気の密度を高める過給機の吸入側の配管とすることもできる。また、ガスセンサ1を配置する配管は、内燃機関5から排気通路に排気される排ガスの一部を、内燃機関5の吸気通路に再循環させる排気再循環機構における配管とすることもできる。
【0041】
また、ガスセンサ1は、燃料を用いて走行する一般的な車両の配管の他、ハイブリッド車両の配管等に配置することができる。また、本形態のガスセンサ1は、内燃機関5から排気される排ガス中の、酸素分子を除く、酸素原子を含む特定ガスの濃度を検出する用途に用いられる。
【0042】
(ガスセンサ1)
本形態のガスセンサ1は、酸素分子を除く、酸素原子を含む特定ガスとしてのNO2を検出する。NO2は、550℃を超える高温になると、NOに分解される性質を有する。そのため、ヒータ3によって固体電解質体21及び一対の電極22,23を加熱するための制御温度は、300~550℃の範囲内とし、検出ガスgに含まれるNO2がNOに分解されることを防ぐ。
【0043】
図1に示すように、本形態のガスセンサ1は、大気a中の酸素濃度から決まる大気電極23の電位と、検出ガスg中の特定ガスの濃度から決まる検出電極22の電位との差によって、固体電解質体21を介して大気電極23と検出電極22との間に生じる起電力Eを検出するよう構成されている。ガスセンサ1は、一対の電極22,23間に生じる起電力Eを検出する起電力検出回路41と、ヒータ3に通電を行う通電回路42とを有する。起電力検出回路41及び通電回路42は、センサコントロールユニット(SCU,電子制御装置)4に形成されている。
【0044】
なお、ガスセンサ1は、固体電解質体21を介して一対の電極22,23の間に生じる電流を検出するよう構成することもできる。この場合、固体電解質体21を介して一対の電極22,23の間には、電圧を印加することができる。
【0045】
(センサ素子2)
本形態の固体電解質体21は、La9.33+x[Si6.00-yy]O26.0+zの化学式を有する、ランタンシリケート系の配向性アパタイト型固体電解質によって構成されている。このランタンシリケート系の配向性アパタイト型固体電解質としては、例えば、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+z等を用いることができる。ランタンシリケート系の固体電解質は、酸素イオンの伝導性に異方性を有する。そのため、結晶粒の配向を行うことによって、ランタンシリケート系の固体電解質の酸素イオンの伝導性を高めることができる。
【0046】
図1に示すように、固体電解質体21は板形状に形成されている。一対の電極22,23は、固体電解質体21の第1の板面211に設けられ、検出ガスgに晒される検出電極22と、固体電解質体21の第2の板面212に設けられ、基準ガスとしての大気aに晒される大気電極23(基準電極)とからなる。第2の板面212は第1の板面211の反対側に位置する。大気電極23は、固体電解質を介して検出電極22と対向する位置に設けられている。固体電解質体21には、検出ガスgが検出電極22へ導かれる経路と、大気aが大気電極23へ導かれる経路とを分けるための絶縁性の部材24が配置される。
【0047】
本形態の固体電解質体21は、円盤形状に形成されている。そして、部材24は、円筒形状に形成されており、部材24の内周側に固体電解質体21が配置されている。
【0048】
また、図3に示すように、固体電解質体21は、有底円筒形状(コップ形状)に形成することもできる。この場合には、有底円筒形状の固体電解質体21の外周面に検出電極22を設け、有底円筒形状の固体電解質体21の内周面に大気電極23を設けることができる。また、検出電極22の表面には、多孔質のセラミック材料による保護層を設けることができる。同図は、ガスセンサ1の主要部を概略的に示す。
【0049】
図示は省略するが、ガスセンサ1は、センサ素子2を配管51等に取り付けるためのハウジング、ハウジングに取り付けられ、センサ素子2のガス検知部を覆う第1カバー、一対の電極22,23及びヒータ3をセンサコントロールユニット4に配線するための配線部、ハウジングに取り付けられ、配線部を覆う第2カバー等を備える。
【0050】
本形態の固体電解質体21の結晶粒は、結晶軸としてのc軸に配向されている。固体電解質体21においては、一対の電極22,23が対向する板厚方向に、平行な方向又は傾斜する方向に、固体電解質の結晶粒のc軸が向けられている。酸素イオンは、c軸の方向に沿って容易に移動することができる。
【0051】
検出電極22は、InxZn1-xRey1-y4+x/2+y/2(ただし、x:0~0.1、y:0~0.1とする。)の化学式を有する電極材料を用いて構成されている。この検出電極22は、300~550℃における耐熱性を有し、また、NO2(二酸化窒素ガス)に対する触媒活性の選択性を有する。つまり、この検出電極22は、検出ガスg中の特定ガスとしてのNO2に対して触媒活性を有する。また、この検出電極22は、NO2を吸着する性能及びNO2を分解する性能に優れる。
【0052】
大気電極23は、Ptを用いて構成されている。大気電極23は、電子伝導性を有する種々の電極材料によって構成することができる。
【0053】
図1に示すように、検出電極22が平板状に形成されているときには、検出電極22の中心位置Cとは、検出電極22の平面内の重心位置のことをいう。また、図3に示すように、検出電極22が筒状に形成されているときには、検出電極22の中心位置Cとは、検出電極22の軸線方向における周状の中心位置のことをいう。
【0054】
(ヒータ3)
図1に示すように、ヒータ3は、通電加熱を行って固体電解質体21及び一対の電極22,23を加熱するよう構成されている。ヒータ3は、通電を行った際にジュール熱を発生させる発熱体を用いて形成されている。本形態のヒータ3は、円筒形状の部材24における、固体電解質体21の周囲に配置されている。ヒータ3を構成する発熱体は、その抵抗値を大きくするために線状に近い状態に形成し、適宜蛇行する状態で配置することができる。また、ヒータ3は、固体電解質体21に対して所定の間隔を空けて積層することもできる。
【0055】
通電回路42によるヒータ3の制御温度は、ガスセンサ1によって特定ガスの濃度の検出を行うときの検出電極22の目標温度として設定することができる。検出電極22は、ヒータ3によって300~550℃の範囲内のうちの特定の温度に制御される。これに応じ、大気電極23、及び固体電解質体21における、検出電極22と大気電極23との間に挟持された部分も、特定の温度に近い温度に制御される。
【0056】
ヒータ3の発熱中心は、検出電極22の中心位置Cと対向する位置、又は検出電極22の中心位置Cと対向する位置の近傍に配置することができる。ヒータ3の発熱中心とは、ヒータ3を構成する発熱体の中心位置のことをいう。
【0057】
図3におけるガスセンサ1のヒータ3は、絶縁性のセラミックスの中心軸部30の回りに設けられた発熱体によって構成することができる。この場合のヒータ3の発熱中心とは、ヒータ3の軸線方向における周状の中心位置のことをいう。
【0058】
ヒータ3の制御温度、言い換えれば検出電極22の目標温度は、ヒータ3の発熱体への印加電圧、通電時間等を適宜変更して調整することができる。通電回路42は、PWM(パルス幅変調)等を行った交流電圧をヒータ3へ印加することができる。
【0059】
検出電極22の温度は、一対の電極22,23間のインピーダンス又はヒータ3の両端のインピーダンスを測定し、このインピーダンスの大きさに応じて求めることができる。また、検出電極22の温度は、温度検出素子等によって測定することも可能である。通電回路42は、検出電極22の温度のフィードバックを受けて、検出電極22の温度が目標温度になるよう、ヒータ3への通電量を調整することができる。
【0060】
(作用効果)
本形態のガスセンサ1においては、A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zの化学式を有する配向性アパタイト型固体電解質を固体電解質体21として用いる。この固体電解質体21は、300~550℃の低温域においても活性化され、酸素イオンを伝導させる性質を有する。また、ガスセンサ1におけるヒータ3の制御温度は、固体電解質体21に設けられた検出電極22の温度が300~550℃になるよう設定されている。
【0061】
検出電極22の中心位置Cの表面温度が300~550℃の範囲内に加熱されることにより、固体電解質体21における、検出電極22と対向する位置の温度も、300~550℃の範囲内に近い温度の範囲内に加熱される。そして、300~550℃の低温域においては、検出電極22に接触する検出ガスgに含まれる酸素ガス(酸素分子)がほとんど分解されない。また、この低温域においては、検出ガスgにおけるガス成分のうち、検出電極22において分解されるガスのほとんどが特定ガスとなる。これにより、ガスセンサ1においては、検出ガスgにおける特定ガスの濃度を検出するために、酸素ガスの濃度を調整する必要がなくなる。
【0062】
そのため、検出ガスgから酸素ガスを汲み出すための電極を用いなくても、検出ガスgにおけるNO2の濃度を検出することが可能になる。そして、検出ガスgにおける酸素ガスの濃度が変動した場合でも、この影響を受けずに、検出ガスgにおけるNO2の濃度を検出することができる。
【0063】
それ故、本形態のガスセンサ1によれば、検出ガスgにおける酸素ガスの濃度の影響を受けずに、検出ガスgにおける特定ガスとしてのNO2の濃度を精度よく検出することができる。
【0064】
従来のガスセンサの固体電解質体は、イットリアが添加されたジルコニア等によって構成されている。そして、この固体電解質体による酸素イオンの伝導性を活性化させるためには、固体電解質体を600~650℃以上に加熱する必要がある。そして、固体電解質体に設けられた検出電極は、検出ガスg中の、酸素ガス、及び酸素原子を含有するNOx等の特定ガスを分解する。そのため、特定ガスの濃度を検出するためには、検出ガスg中の酸素ガスの濃度を極力低くする必要がある。
【0065】
一方、本形態のガスセンサ1の固体電解質体21は、酸素ガスが分解されない低温域において、酸素イオンの伝導性を有する。そのため、本形態のガスセンサ1は、この低温域において、検出ガスg中の特定ガスの濃度を検出することにより、酸素ガスの濃度(酸素分圧)の影響を受けずに、特定ガスの濃度を検出することができる。
【0066】
<実施形態2>
本形態のガスセンサ1は、図4図5及び図6に示すように、特定ガスの濃度の変化に応じて、固体電解質体21を介して検出電極22と大気電極23との間に生じる起電力E又は電流Iを検出するよう構成されている。
【0067】
本形態のセンサ素子2は、板状の固体電解質体21に積層された絶縁体240にヒータ3が形成された、積層タイプのものである。検出電極22は、固体電解質体21における、検出ガスgに晒される第1の板面211に配置されている。
【0068】
本形態のヒータ3は、固体電解質体21の第2の板面212に積層された絶縁体240に埋設された発熱体によって構成されている。絶縁体240は、アルミナ(酸化アルミニウム)等の絶縁性のセラミックスによって形成されている。なお、固体電解質体21の第1の板面211には、検出電極22を覆う保護層が形成されていてもよい。保護層は、セラミックスの多孔質体によって形成することができる。
【0069】
また、図4及び図6に示すように、絶縁体240には、大気aが導入される大気ダクト26が形成されている。大気ダクト26は、絶縁体240に形成された凹部242と、大気電極23が設けられた、固体電解質体21の第2の板面212との間に形成されている。
【0070】
本形態のセンサコントロールユニット4は、通電回路42の他に、固体電解質体21を介して検出電極22と大気電極23との間に生じる起電力E又は電流Iを検出する検出回路43を有する。
【0071】
本形態のセンサ素子2及びヒータ3は、一対の電極22,23が設けられた固体電解質体21に、ヒータ3が設けられた絶縁体240のグリーンシートを積層し、焼結することによって形成される。この焼結を行う前において、一対の電極22,23は、板状の固体電解質体21に、電極材料のペーストを印刷することによって形成することができる。また、焼結を行う前において、ヒータ3を構成する発熱体は、絶縁体240の一方のグリーンシートに、発熱体材料のペーストを印刷し、このペーストを絶縁体240の他方のグリーンシートとの間に挟み込むことによって形成することができる。また、絶縁体240における凹部242は、セラミックス材料のペーストを用いて形成することができる。
【0072】
本形態のガスセンサ1における、固体電解質体21、一対の電極22,23等のその他の構成は、実施形態1に示した構成と同様である。また、本形態においても、実施形態1の場合と同様の作用効果を得ることができる。さらに、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1に示した構成要素と同様である。
【0073】
<実施形態3>
本形態のガスセンサ1は、図7図9に示すように、特定ガスの濃度の変化に応じて、固体電解質体21を介して検出電極22と大気電極23との間に生じる電流Iを検出するよう構成されている。また、本形態のガスセンサ1は、検出電極22へ供給される検出ガスgの流量を制限し、大気電極23と検出電極22との間に、限界電流特性を生じさせる電圧Fを印加した状態において、特定ガスの濃度によって変化する電流Iを検出する構成を有する。
【0074】
本形態のセンサ素子2は、板状の固体電解質体21に積層された絶縁体24A,24Bに、検出ガス室25及びヒータ3が形成された、積層タイプのものである。検出電極22は、固体電解質体21に積層された第1絶縁体24Aによって形成された検出ガス室25内に配置されている。検出ガス室25は、第1絶縁体24Aに形成された凹部241と、検出電極22が設けられた、固体電解質体21の第1の板面211との間に形成されている。
【0075】
図7及び図8に示すように、第1絶縁体24Aには、検出ガスgを所定の拡散抵抗下において検出ガス室25内へ導入するための拡散抵抗部251が設けられている。拡散抵抗部251は、第1絶縁体24Aに形成されたピンホール等の貫通穴によって構成することができる。また、拡散抵抗部251は、第1絶縁体24Aに形成された貫通穴の内部又は表面に配置された、セラミックスの多孔質体によって構成することもできる。また、セラミックスの多孔質体は、貫通穴の全部又は一部に充填することができる。
【0076】
本形態のヒータ3は、固体電解質体21の第2の板面212に積層された第2絶縁体24Bに埋設された発熱体によって構成されている。第2の板面212は、固体電解質体21において、第1絶縁体24Aが積層された第1の板面211とは反対側に位置する。第1絶縁体24A及び第2絶縁体24Bは、アルミナ(酸化アルミニウム)等の絶縁性のセラミックスによって形成されている。
【0077】
また、図7及び図9に示すように、第2絶縁体24Bには、大気aが導入される大気ダクト26が形成されている。大気ダクト26は、第2絶縁体24Bに形成された凹部242と、大気電極23が設けられた、固体電解質体21の第2の板面212との間に形成されている。
【0078】
本形態のセンサコントロールユニット4は、通電回路42の他に、大気電極23と検出電極22との間に電圧Fを印加する電圧印加回路44と、固体電解質体21を介して検出電極22と大気電極23との間に生じる電流Iを検出する電流検出回路45とを有する。
【0079】
本形態のセンサ素子2及びヒータ3は、一対の電極22,23が設けられた固体電解質体21に、第1絶縁体24A、及びヒータ3が設けられた第2絶縁体24Bのグリーンシートを積層し、焼結することによって形成される。この焼結を行う前において、一対の電極22,23は、板状の固体電解質体21に、電極材料のペーストを印刷することによって形成することができる。また、焼結を行う前において、ヒータ3を構成する発熱体は、絶縁体24Bの一方のグリーンシートに、発熱体材料のペーストを印刷し、このペーストを絶縁体24Bの他方のグリーンシートとの間に挟み込むことによって形成することができる。また、第1絶縁体24Aにおける凹部241及び第2絶縁体24Bにおける凹部242は、セラミックス材料のペーストを用いて形成することができる。
【0080】
本形態のガスセンサ1においては、限界電流特性を利用して特定ガスの濃度を検出することにより、その検出精度を高めることができる。本形態のガスセンサ1における、固体電解質体21、一対の電極22,23等のその他の構成は、実施形態1に示した構成と同様である。また、本形態においても、実施形態1の場合と同様の作用効果を得ることができる。さらに、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1に示した構成要素と同様である。
【0081】
<その他の実施形態>
実施形態1~3において、ガスセンサ1は、NO2の濃度を検出する以外にも、NO、N2O、CO、H2O、CO2のうちのいずれかを特定ガスとして、この特定ガスの濃度を検出するよう構成することができる。この場合、検出電極22は、検出する特定ガスに対する触媒活性の選択性を有する電極材料から構成することができる。
【0082】
また、検出電極22は、NO、NO2、N2Oを含むNOxに対する触媒活性を有するものとすることもできる。この場合には、ガスセンサ1は、検出ガスgにおける特定ガスとしてのNOxを検出するNOxセンサとして機能する。このNOxセンサは、低温域において動作するものであり、酸素ガスの濃度の影響をほとんど受けずにNOxを検出することができる。
【0083】
<確認試験1>
本確認試験においては、実施形態1に示したガスセンサ1を用いて検出ガスgにおけるNO2の濃度を検出する際に、検出ガスgにおけるO2の濃度を変化させ、NO2の濃度の検出が、O2の濃度の変化の影響を受けるかについて確認した。
【0084】
大気電極23と検出電極22との間には、0.45Vの電圧を印加し、検出ガスgにおけるNO2の濃度は、200ppmとした。また、ヒータ3によって検出電極22を加熱する制御温度(目標温度)は、400℃とした。また、検出ガスgにおけるO2の濃度は、5~15体積%の間で変化させた。なお、検出ガスgにおける残部はN2とした。
【0085】
本確認試験において、検出ガスgにおけるNO2の濃度を検出した結果を図10に示す。同図において、検出ガスgにおけるO2の濃度を5~15体積%の間で変化させたときの検出ガスgにおけるNO2の濃度を示す電流密度[nA/cm2]は、681~710nA/cm2の間で若干変化したものの、ほとんど変化しなかった。この結果より、実施形態1に示したガスセンサ1によれば、NO2の濃度の検出が、O2の濃度の変化の影響をほとんど受けないことが確認された。
【0086】
<確認試験2>
本確認試験においては、実施形態3に示したガスセンサ1を用いて検出ガスgにおけるNO2の濃度を、定量的(リニヤ)に検出することができるかの確認をした。
【0087】
大気電極23と検出電極22との間には、0.45Vの電圧を印加し、ヒータ3によって検出電極22を加熱する制御温度(目標温度)は、400℃とした。また、検出ガスgにおけるNO2の濃度は、100~400ppmの間で変化させた。また、検出ガスgにおけるO2の濃度は10体積%とし、検出ガスgにおける残部はN2とした。
【0088】
本確認試験において、検出ガスgにおけるNO2の濃度を検出した結果を図11に示す。同図において、検出ガスgにおけるNO2の濃度を100~400ppmの間で変化させたときの、検出されるNO2の濃度を示す電流密度[nA/cm2]は、NO2の濃度が高くなるほど高く検出された。この結果より、実施形態3に示したガスセンサ1によれば、検出ガスgにおけるNO2の濃度を定量的に検出できることが確認された。
【0089】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。
【符号の説明】
【0090】
1 ガスセンサ
2 センサ素子
21 固体電解質体
22 検出電極
23 大気電極
3 ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11