(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】締付けボルトの締付けトルク特定装置と締付けトルク特定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/24 20060101AFI20220304BHJP
G01M 13/00 20190101ALI20220304BHJP
F16B 31/00 20060101ALI20220304BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G01L5/24
G01M13/00
F16B31/00 Z
B25B23/14 640W
(21)【出願番号】P 2018037940
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-069312(JP,A)
【文献】特開2006-337102(JP,A)
【文献】特開昭58-202781(JP,A)
【文献】特開平03-068834(JP,A)
【文献】特開2018-013361(JP,A)
【文献】中国実用新案第2602183(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00
G01L 5/24
G01M 13/00
F16B 31/00
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結体がワッシャーを介してナットにて締付けられている締付けボルトの締付けトルクを特定する、締付けボルトの締付けトルク特定装置であって、
前記被締結体を加振する加振手段と、
前記被締結体と前記ワッシャーの振動を測定する振動計と、
前記振動計による計測データを周波数成分に変換する変換プログラムが格納され、かつ、締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データが格納されているコンピュータと、を有
し、
前記コンピュータにおいて、前記ワッシャーの周波数のみが特定され、該ワッシャーの周波数が前記関係データに適用されて前記締付けボルトの締付けトルクが特定されることを特徴とする、締付けボルトの締付けトルク特定装置。
【請求項2】
被締結体がワッシャーを介してナットにて締付けられている締付けボルトの締付けトルクを特定する、締付けボルトの締付けトルク特定方法であって、
前記被締結体を加振する加振工程と、
前記被締結体と前記ワッシャーの振動を測定する、振動測定工程と、
前記振動測定工程にて測定された計測データを周波数成分に変換した後、ワッシャーの周波数を特定する、ワッシャー周波数特定工程と、
締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データを特定する、関係データ特定工程と、
前記関係データ特定工程にて特定されている前記関係データに対して、前記ワッシャー周波数特定工程にて特定された前記ワッシャーの周波数を適用することにより、前記締付けボルトの締付けトルクを特定する、締付けトルク特定工程と、を有することを特徴とする、締付けボルトの締付けトルク特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付けボルトの締付けトルク特定装置と締付けトルク特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の様々な構造物において、構成部材同士が締付けボルトにて締結されている場合に、継続的な振動等の影響でナットに緩みが生じ得る。従来、このナットの緩みを定量的に検知する方法が種々提案されている。その一つの方法は、ボルトに締め付けられているナットに導電性の磁石が取り付けられている絶縁性のナットキャップを被せ、出力端子から電線により電気的につながっている左側接点用端子及び右側接点用端子からなるねじ付きボルトキャップをボルトの先端に締付ける。そして、ナットの緩みから生じるナットの反時計回りの回転変位が発生した場合に、接点を開放することにより電気的導通を解除してナットの緩みを知らせる方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の方法は、ボルトの固有振動数がボルトの軸力の大きさによって変る特性を利用して、ボルトの軸力を求める方法である。具体的には、ボルトの固有振動数はハンマーなどによってボルトを打撃し、その時に発生する音や振動を測定し、その音や振動を周波数分析することによって求め、この周波数分析によって求められた固有振動数を、振動理論または実験的に得られるボルトの軸力と固有振動数の関係に対応づけて、ボルトの軸力を求めるものである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-26134号公報
【文献】特開2002-340710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のナットの緩みを知らせる方法は、ボルトに締め付けられているナットに対してナットキャップを被せることから、被せられたナットキャップの重量が締付けボルトとナットの重量に加算されて重量増となってしまうとともに、ナットキャップを被せることに起因して現状の締付けボルトとナットの状態を少なからず変化させてしまう恐れがある。そのため、現状のナットの緩みを正確に特定することが難しい。また、特許文献2に記載のボルトの軸力を求める方法も、ハンマーなどによってボルトを直接打撃することから、実際の締付けボルトの状態を変化させることは避けられず、従って、現状の締付けボルトの軸力を精度よく特定することが難しくなる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、既存の締付けボルトに直接接触することなく、従って高精度に現状の締付けボルトの締付けトルクを特定することのできる締付けボルトの締付けトルク特定装置と締付けトルク特定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定装置の一態様は、被締結体がワッシャーを介してナットにて締付けられている締付けボルトの締付けトルクを特定する、締付けボルトの締付けトルク特定装置であって、
前記被締結体を加振する加振手段と、
前記被締結体と前記ワッシャーの振動を測定する振動計と、
前記振動計による計測データを周波数成分に変換する変換プログラムが格納され、かつ、締付けボルトの締付けトルクと前記ワッシャーの周波数の関係データが格納されているコンピュータと、を有し、
前記コンピュータにおいて、前記ワッシャーの周波数のみが特定され、該ワッシャーの周波数が前記関係データに適用されて前記締付けボルトの締付けトルクが特定されることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、振動計にてワッシャーの振動を測定してワッシャーの周波数(例えば固有周波数)を特定し、この特定されたワッシャーの周波数を、締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データにインプットすることにより、ワッシャーの周波数から締付けボルトの締付けトルクを特定することができる。すなわち、本態様の締付けトルク特定装置は、ナットにも締付けボルトにも一切接触することなく現状の締付けボルトの締付けトルクを特定することから、現状の締付けボルトの締付けトルクを精度よく特定することができる。すなわち、現状の締付けボルトの緩みの程度といった定性的な判定ではなく、現状の締付けボルトの締付けトルクといった定量的な判定を高精度に行うことを可能とする。
【0009】
被締結体が例えば鋼材等の金属部材の場合とプラスチック部材とで、締付けボルトやナットも金属ナットおよび金属ボルトの組み合わせの場合と、プラスチックナットとプラスチックボルトの組み合わせの場合がある。本態様の締付けトルク特定装置が対象とするナットやボルトは、これら金属ボルト等とプラスチックボルト等、様々な材料からなるボルトとナットである。また、締付けボルトとナットの材料種に応じて、ワッシャーの材料種も変化することから、例えば金属製の締付けボルトとナットに対しては金属製のワッシャーが用いられ、プラスチック製の締付けボルトとナットに対してはプラスチック製のワッシャーが用いられることになる。また、金属製のワッシャーとしては、一般の炭素鋼の他、鉄やアルミニウムなど、様々な金属種が挙げられる。さらに、締付けボルトの呼び径(M10、M20等)に応じてワッシャーの大きさが変化する。
【0010】
ここで、被締結体(例えば、金属プレート等)を加振する加振手段には様々な形態があり、正弦波振動や方形波振動等を加振自在な加振器の他、被締結体をハンマー等で打撃すること(このようなハンマー打撃により、方形波振動を発生させることができる)、さらには、周辺環境から伝播される交通振動や工場にて生じた機械振動などを含めることができる。
【0011】
また、被締結体とワッシャーの振動を測定する振動計は、共通の振動計であってもよいし、被締結体とワッシャーにそれぞれ固有の振動計であってもよい。また、コンピュータには、例えば振動計によって計測された振動の時刻歴波形を周波数変換する変換プログラムが格納され、さらに、締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データが格納されている。この変換プログラムにより、振動計にて測定された被締結体とワッシャーの振動波形が周波数変換され、それぞれの周波数(例えば固有周波数)が解析される。締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データは予め特定されており、この関係データがコンピュータ内に格納されている。例えば、締付けボルトの締付けトルクを変化させながら、各締付けトルクの際のワッシャーの振動波形を測定し、これを周波数変換してワッシャーの周波数を特定することにより、締付けボルトの締付けトルクごとのとワッシャーの周波数が特定される。例えば、締付けトルクを示す座標と、ワッシャーの周波数を示す座標からなる二次元座標に締付けトルクごとのワッシャーの周波数をプロットとし、複数のプロットを繋ぐことにより、あるいは複数のプロットの近似曲線等を求めることにより、関係データ(関係グラフ)が特定できる。
【0012】
なお、加振手段によって被締結体を加振させ、この加振によってワッシャーを振動させることから、加振される振動に対してワッシャーが共振するような加振時の振動が設定されるのが好ましい。ワッシャーが共振することによってその振動が可及的に大きくなり、振動計によるワッシャーの振動測定が良好になる。
【0013】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定装置の他の態様は、前記コンピュータにおいて、前記ワッシャーの周波数のみが特定され、該ワッシャーの周波数が前記関係データに適用されて前記締付けボルトの締付けトルクが特定されることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、既に作成されている締付けトルクとワッシャーの周波数との関係データに対して、特定されたワッシャーの周波数を適用することにより、測定対象の締付けボルトの締付けトルクが特定される。
【0015】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定装置の他の態様は、前記振動計が、前記ワッシャーにレーザーを照射して反射レーザーを取得するレーザー振動計、もしくは、前記ワッシャーに装着される圧電素子のいずれか一種であることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、いずれの振動計ともにワッシャーに対して大きな重量の増加をもたらさないことから、ワッシャーのみの振動を特定することが可能になる。ワッシャーにレーザーを照射して反射レーザーを取得するレーザー振動計を用いる場合は、ワッシャーへの重量増加は全くないことから、ワッシャーのみの振動を特定することが可能になる。このレーザー振動計としては、レーザードップラー振動計が一例として挙げられる。一方、ワッシャーに装着される圧電素子を振動計とする場合、圧電素子(ピエゾフィルム)は極めて軽量であることから、ワッシャーへの重量増加は殆どなく、従ってワッシャーの振動を精度よく特定することが可能になる。また、圧電素子を振動計に適用する形態は、実際の現場への搬送性や良好な計測性の観点から実用的となる。例えば、被締結体の上で振動するワッシャーの振動を周波数変換することにより、例えばワッシャーと被締結体のそれぞれの周波数(例えば固有周波数)の双方が特定できる。そして、いずれか一方の周波数帯域が例えば経験則上分かっている場合には、解析にて求められた複数の周波数の中からワッシャーの周波数を特定することが可能になる。
【0017】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定装置の他の態様は、前記被締結体と前記ワッシャーの振動を測定する振動計がそれぞれの振動の測定に固有の振動計からなり、
前記被締結体の振動を測定する前記振動計がピックアップからなり、
前記ワッシャーの振動を測定する前記振動計が、前記ワッシャーにレーザーを照射して反射レーザーを取得するレーザー振動計、もしくは、前記ワッシャーに装着される圧電素子のいずれか一種であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、被締結体の振動をピックアップにて計測し、ワッシャーの振動をレーザー振動計もしくは圧電素子にて計測することにより、双方の振動をより一層精度よく特定することが可能になる。実際に、被締結体の振動態様(振動の周波数や振動の大きさ等)とワッシャーの振動態様は異なることから、それぞれ個別の振動計にてそれぞれの振動を測定した方がより一層精度のよい振動測定が可能になる。その結果、それぞれの振動データに基づく周波数も解析にて精度よく求めることができ、ワッシャーの振動数を精度よく特定することができる。
【0019】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定方法の一態様は、被締結体がワッシャーを介してナットにて締付けられている締付けボルトの締付けトルクを特定する、締付けボルトの締付けトルク特定方法であって、
前記被締結体を加振する加振工程と、
前記被締結体と前記ワッシャーの振動を測定する、振動測定工程と、
前記振動測定工程にて測定された計測データを周波数成分に変換した後、ワッシャーの周波数を特定する、ワッシャー周波数特定工程と、
締付けボルトの締付けトルクとワッシャーの周波数の関係データを特定する、関係データ特定工程と、
前記関係データ特定工程にて特定されている前記関係データに対して、前記ワッシャー周波数特定工程にて特定された前記ワッシャーの周波数を適用することにより、前記締付けボルトの締付けトルクを特定する。
【0020】
本態様によれば、ナットにも締付けボルトにも一切接触することなく現状の締付けボルトの締付けトルクを特定することから、現状の締付けボルトの締付けトルクを精度よく特定することができる。
【0021】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定方法の他の態様は、前記振動測定工程において、
前記被締結体の振動と前記ワッシャーの振動の測定を、該ワッシャーにレーザーを照射して反射レーザーを取得することによる方法と、前記ワッシャーに圧電素子を装着して該圧電素子にて測定する方法のいずれか一種にて行うことを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、いずれの振動計ともにワッシャーに対して大きな重量の増加をもたらさないことから、現状の締付け状態の下で被締結体とワッシャーの双方を振動させることができ、この振動に関する測定された計測データを周波数変換することによって特定される被締結体とワッシャーの双方の周波数に基づいて、ワッシャーの周波数を特定することが可能になる。
【0023】
また、本発明による締付けボルトの締付けトルク特定方法の他の態様は、前記振動測定工程において、
前記被締結体の振動をピックアップにて測定し、
前記ワッシャーの振動の測定を、該ワッシャーにレーザーを照射して反射レーザーを取得することによる方法と、前記ワッシャーに圧電素子を装着して該圧電素子にて測定する方法のいずれか一種にて行うことを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、被締結体の振動をピックアップにて計測し、ワッシャーの振動をレーザー振動計もしくは圧電素子にて計測することにより、双方の振動をより一層精度よく特定することが可能になる。その結果、それぞれの振動データに基づく周波数も解析にて精度よく求めることができ、ワッシャーの振動数を精度よく特定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の締付けボルトの締付けトルク特定装置と締付けトルク特定方法によれば、既存の締付けボルトに直接接触することなく、従って高精度に現状の締付けボルトの締付けトルクを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1の実施形態に係る締付けトルク特定装置の一例を示す図である。
【
図2】コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】コンピュータの機能構成の一例を外部機器とともに示す図である。
【
図4】実施形態に係る締付けトルク特定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】振動計による計測データを示す図であって、(a)はレーザー振動計による計測データ(時刻歴波形)を示す図であり、(b)はピックアップによる計測データ(時刻歴波形)を示す図である。
【
図6】締付けトルク2.5Nmのときの振動計による計測データを周波数変換した周波数スペクトルであって、(a)はレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルであり、(b)はピックアップによる計測データの周波数スペクトルである。
【
図7】締付けトルク12.5Nmのときの振動計による計測データを周波数変換した周波数スペクトルであって、(a)はレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルであり、(b)はピックアップによる計測データの周波数スペクトルである。
【
図8】締付けトルクとワッシャー周波数の関係グラフの一例を示す図である。
【
図9】第2の実施形態に係る締付けトルク特定装置の一例を示す図である。
【
図10】加振器による周波数帯を変化させた際の、締付けトルクとワッシャー周波数の関係グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、締付けボルトの締付けトルク特定装置と締付けトルク特定方法に関する各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[第1の実施形態]
<締付けトルク特定装置>
はじめに、
図1乃至
図3を参照して、本発明の第1の実施形態に係る締付けトルク特定装置について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る締付けトルク特定装置の一例を示す図である。また、
図2は、コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図であり、
図3は、コンピュータの機能構成の一例を外部機器とともに示す図である。
【0029】
図1に示すように、締付けトルク特定装置100は、被締結体Pに振動を付与する加振器10と、被締結体Pの振動を計測するピックアップ20と、被締結体Pを締結している締付けボルトBとナットNの間に介在するワッシャーWの振動を計測するレーザー振動計30と、ピックアップ20及びレーザー振動計30における計測データが入力されるコンピュータ50と、を有する。図示例の被締結体Pは、厚みの異なる2枚の金属プレートP1,P2からなるが、図示例以外の多様な被締結体Pであってもよい。2枚の金属プレートP1,P2をボルト締結することから、締付けボルトB、ナットN、及びワッシャーWの全ての部材が金属部材となるが、被締結体Pが例えば2つのプラスチック部材からなる場合は、締付けボルトB、ナットN、及びワッシャーWの全ての部材をプラスチック部材とすることができる。また、締付けボルトBにはM10、M12,M20といった様々な呼び径のものが存在し、各呼び径の締付けボルトBには固有の標準締付けトルクが設定されるとともに、適用されるワッシャーWの大きさも各呼び径の締付けボルトBに応じたものが適用される。
【0030】
締付けトルク特定装置100は、原則的に2つのフェーズに用いられる。第1のフェーズは、例えば試験室内において、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定するフェーズである。この場合、被締結体Pは試験体となり、この試験体である被締結体Pに対して、締付けボルトBの締付けトルクを種々変化させてワッシャーW等の振動を計測し、ワッシャーWの周波数(例えば固有周波数)を特定する。一方、第2のフェーズは、既設構造物における被締結体Pの締付けボルトBの締付けトルクを実際に評価するフェーズである。この場合、被締結体Pは既設構造物となる。従って、この既設構造物である被締結体Pに対して振動を付与し、ワッシャーWの周波数(例えば固有周波数)を特定し、この特定されたワッシャーWの周波数を第1のフェーズにて特定されている関係データに適用することにより、既設構造物である被締結体Pを締結している締付けボルトBの締付けトルクが特定される。このように、締付けトルク特定装置100が適用されるフェーズにより、被締結体Pは試験体となり、また既設構造物となる。
【0031】
加振器10は、様々な周波数帯の正弦波振動や方形波振動を選択して発生させることができ、例えば、1kHz乃至10kHzの間で周波数帯を変化させることができる。なお、自動的に振動を付与する図示例の加振器10の他に、加振手段として、検査員がハンマーにて被締結体Pに衝撃を付与することにより、低周波帯の方形波振動を付与してもよい。また、既設構造物における測定(上記する第2のフェーズ)において特に、既設構造物に伝播される交通振動を加振手段として利用してもよい。本実施形態では、実用性の高い加振器10を加振手段として適用する。なお、加振器10を磁歪素子と信号ジェネレータから構成してもよいし、加振器10にて発生する振動を被締結体Pに効果的に伝播させるべく、加振器10の頂部に所定重量の錘を載置してもよい。
【0032】
試験室内における被締結体Pでは、安定した平坦な基板上でワッシャーWの振動を測定することにより、ワッシャーWの周波数特性を精度よく特定することができる。このような観点から、下方の金属プレートP2を厚みのある金属プレートとし(例えば10mm程度の厚み)、この金属プレートP2を基板として、この上に相対的に薄い金属プレートP1(例えば5mm程度の厚みの金属プレート)を載置して相互にボルト締結し、試験体である被締結体Pを形成する。また、試験体である被締結体Pは、図示例のように2つの締付けボルトBで2つの金属プレートP1,P2同士を締付ける構成とするが、締付けボルトBの数は図示例に何等限定されるものではない。さらに、M10,M12等、呼び径の異なる締付けボルトを使用した試験を効率的に行うべく、2つの金属プレートP1,P2において、例えばM10用のボルト孔、M12用のボルト孔、M20用のボルト孔等、複数種の呼び径のボルト孔を開設しておいてもよい。
【0033】
被締結体Pの上面には、被締結体Pの振動を計測するピックアップ20が載置され、このピックアップ20にて被締結体Pの振動速度や振動加速度等に関する時刻歴データが測定される。ピックアップ20としては、例えば三軸加速度センサが適用できる。ピックアップ20には、信号増幅のためのセンサアンプ41が接続され、センサアンプ41はA/D変換機43に接続され、センサアンプ41にて増幅されたアナログ信号がA/D変換機43にてデジタル信号に変換された後、A/D変換機43が接続されるコンピュータ50に入力される。
【0034】
一方、ワッシャーWの振動を計測するためのレーザー振動計30が、鉛直支持部材31に対して昇降自在に装着され、所望の高さ位置にてレーザー振動計30が固定される。加振器10が加振することにより、被締結体Pが振動し、この被締結体Pの振動がワッシャーWを振動させる。従って、例えば被締結体PとワッシャーWが共振するように双方の剛性を調整したり、加振器10による振動の周波数帯を調整することにより、ワッシャーWの振幅を大きくすることができ、ワッシャーWの振動をより精度よく測定することが可能になる。
【0035】
被締結体Pとともに振動するワッシャーWに対してレーザー振動計30からレーザーLを照射し、ワッシャーWにて反射した反射レーザーをレーザー振動計30が取得する。レーザー振動計30としては、レーザードップラー振動計が適用できる。レーザー振動計30により、ワッシャーWの振動速度や振動加速度等に関する時刻歴データが測定される。レーザー振動計30には、信号増幅のためのコントローラ42が接続され、コントローラ42はA/D変換機43に接続され、コントローラ42にて増幅されたアナログ信号がA/D変換機43にてデジタル信号に変換された後、A/D変換機43が接続されるコンピュータ50に入力される。
【0036】
なお、締付けトルク特定装置100がピックアップ20を具備せず、振動計としてレーザー振動計30のみを有する形態であってもよい。レーザー振動計30にて測定された振動の時刻歴データは、被締結体Pの振動に起因するワッシャーWの振動の時刻歴データである。締付けトルク特定装置100にて特定したい要素はワッシャーWの周波数(例えば固有周波数)であるが、測定された振動の時刻歴データが被締結体Pの振動に起因するワッシャーWの振動の時刻歴データであることから、これを周波数成分変換した周波数帯域においては、被締結体Pに固有の周波数とワッシャーWに固有の周波数が一般に含まれる。被締結体PとワッシャーWの周波数帯が相違し、いずれか一方が例えば経験側上既知である場合は、複数の周波数帯からワッシャーWに固有の周波数を特定することが可能になる。従って、このような場合には、振動計としてレーザー振動計30のみを有する形態を適用できる。
【0037】
図2においてハードウェア構成の一例として示すように、コンピュータ50は、CPU(Central Processing Unit)501、RAM(Random Access Memory)502、ROM(Read Only Memory)503、NVRAM(Non-Volatile RAM)504、HDD(Hard Disc Drive)505、表示装置506、入力I/F507、出力I/F508を有しており、これらがバス509を介して相互に接続されている。
【0038】
ROM503には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM502は、プログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU501は、RAM502にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。NVRAM504には、各種の設定情報等が記憶される。HDD505には、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。例えば、ROM503には、入力された被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴データを周波数成分に変換する解析プログラムや、ワッシャーWの周波数を特定する(抽出する)プログラムが含まれる。また、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定する(作成する)プログラムが含まれる。さらに、既設構造物である被締結体PのワッシャーWの周波数を特定するとともに、この特定されたワッシャーWの周波数を関係データに適用することにより、既設構造物である被締結体Pを締結している締付けボルトBの締付けトルクを特定するプログラム等が含まれる。
【0039】
入力I/F507を介して、A/D変換機43にてデジタル信号に変換された被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴データが入力される。また、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データの作成に際して、繰り返し設定される締付けトルク値が随時入力され、コンピュータ50内では、入力された締付けトルク値ごとに、振動の時刻歴データやワッシャーWの周波数が対応する締付けトルク値に対して紐付けされた態様で格納される。
【0040】
出力I/F508には、無線LAN又は移動体通信網等において通信を行う際に必要となる、アンテナ等の電子部品が装着される。例えば、既設構造物に関する振動計測データや解析データ等が、管理棟にあるコンピュータに送信される。
【0041】
表示装置506には、被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴波形や、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データ、既設構造物である被締結体PのワッシャーWの周波数に関する特定値などが表示される。
【0042】
また、
図3において機能構成の一例として示すように、コンピュータ50は、外部機器であるピックアップ20やレーザー振動計30から送信される、被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴データが入力されるデータ入力部510を有する。また、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定するフェーズにおいて、データ入力部510には、設定されている締付けトルク値も振動の時刻歴データとともに入力される。例えば、<締付けトルク2.5Nmの時刻歴データ>のタイトルの下に、被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴データが入力される。また、既設構造物における被締結体Pの締付けボルトBの締付けトルクを実際に評価するフェーズにおいては、例えば、<橋梁○○、No.ピア、No.5ボルト>のタイトルの下に、被締結体PやワッシャーWの振動の時刻歴データが入力される。
【0043】
周波数成分変換部512には、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)プログラムが格納されており、データ入力部510に入力された振動の時刻歴データが高速フーリエ変換プログラムにて周波数成分変換され、被締結体PやワッシャーWの周波数ごとのスペクトルが特定される。なお、ピックアップ20にて測定された振動の時刻歴データは、被締結体Pに固有の時刻歴データとなる。一方、レーザー振動計30にて測定された振動の時刻歴データは、被締結体Pの振動に起因するワッシャーWの振動の時刻歴データであることから、これを周波数成分変換した周波数帯域においては、被締結体Pに固有の周波数とワッシャーWに固有の周波数が一般に含まれる。
【0044】
そこで、ワッシャー周波数特定部514では、周波数成分変換部512において作成されている2つの周波数解析データ、すなわち、ピックアップ20による測定に基づく周波数解析データと、レーザー振動計30による測定に基づく周波数解析データとを比較し、双方に共通する周波数帯のピーク値(被締結体Pの周波数)以外のピーク値をワッシャーWに固有の周波数であると特定することができる。
【0045】
試験室等にて締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定するフェーズにおいては、試験体における締付けボルトBの締付けトルクを、例えば、2.5Nmのケース、5Nmのケース、7.5Nmのケース、・・・・、15Nmのケースといった複数の締付けトルクケースごとに、試験体に振動を与えてその際の被締結体PとワッシャーWの振動を測定し、それぞれの周波数成分変換を経てワッシャーWの周波数を特定する。
【0046】
そこで、関係データ特定部516では、締付けボルトBの締付けトルクが2.5NmのケースにおけるワッシャーWの周波数は5000Hz,締付けトルクが10NmのケースにおけるワッシャーWの周波数は6000Hzといった具合に、締付けトルクごとのワッシャーWの周波数が特定される。このように、特定された締付けトルクごとのワッシャーWの周波数に基づいて、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データが特定される。関係データ格納部518は、関係データ特定部516にて特定された関係データを格納する。
【0047】
既設構造物における被締結体Pの締付けボルトBの締付けトルクを実際に評価するフェーズでは、既設構造物における被締結体Pに対して加振器10から振動を付与し、各振動計から入力された振動の時刻歴データがデータ入力部510に入力され、周波数成分変換部512にて周波数変換された後、ワッシャー周波数特定部514にてワッシャーWの周波数が特定される。
【0048】
締付けトルク特定部520は、ワッシャー周波数特定部514にて特定されたワッシャーWの周波数を読み込むとともに、関係データ格納部518から関係データを読み込み、読み込まれた関係データにワッシャーWの周波数を適用する。関係データは、例えば一次関数や二次関数などを含んでおり、ワッシャーWの周波数を関数に適用してこの周波数に対応した締付けボルトBの締付けトルク値を読むことにより、既設構造物における被締結体Pの締付けボルトBの締付けトルクを特定する。データ出力部522は、関係データや、特定された締付けボルトBの締付けトルクなどを画面上に出力したり、通信回線を介して例えば管理棟のコンピュータに送信したりする。
【0049】
<締付けトルク特定方法>
次に、
図4乃至
図8を参照して、本発明の実施形態に係る締付けトルク特定方法について説明する。ここで、
図4は、実施形態に係る締付けトルク特定方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、締付けトルク特定方法は、2つのフェーズに対応したフローを有する。第1のフェーズは、例えば試験室内において、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定するフェーズであり、この関係データを特定するまでのフローとなる。このフローを
図4の上段に示している。一方、第2のフェーズは、既設構造物における被締結体Pの締付けボルトBの締付けトルクを実際に評価するフェーズであり、この既設構造物における締付けトルクを特定するまでのフローとなる。このフローを
図4の下段に示している。
【0050】
まず、
図4の上段のフローチャートを参照して、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定するまでの方法を説明する。この関係データでは、種々の締付けトルクごとのワッシャーWの周波数を特定することを要する。そのため、ステップS600において、最初の締付けトルクの設定を行う。例えば、M10の締付けボルトBの標準締付けトルクが24.5Nmの場合に、その10%に相当する2.45Nmを締付けトルクに設定し、この締付けトルクの下で、被締結体Pの締付けを行う。この際には、
図1に示すように、ワッシャーWを介して締付けボルトBをナットNにて締付ける。
【0051】
ステップS602において、例えば加振器10を作動させて、試験体である被締結体Pを加振する(加振工程)。加振器10にて発生される振動には、正弦波振動や方形波振動がある。また、振動の周波数帯域も任意に設定できるが、被締結体Pの振動に対してワッシャーWが共振して大きな振幅で振動できるように、発生させる振動の周波数帯域を調整するのが好ましい。
【0052】
ステップS604において、ピックアップ20にて被締結体Pの振動速度等を測定し、レーザー振動計30にてワッシャーWの振動速度等を測定する(振動測定工程)。レーザー振動計30による振動測定は、ワッシャーWの外部に臨む表面にレーザー振動計30からレーザーを照射し、ワッシャーWの表面にて反射した反射レーザーをレーザー振動計30にて取得することにより行う。ここで、各振動計による計測データを
図5に示す。
図5(a)は、レーザー振動計による計測データ(時刻歴波形)の一例を示す図であり、
図5(b)は、ピックアップによる計測データ(時刻歴波形)の一例を示す図である。
【0053】
図5に示す時刻例波形データは、M10の鉄ワッシャーを使用し、加振器10にて7kHzの正弦波振動を付与した際のデータである。
図5(a)、(b)ともに、横軸は時間をロット番号で示しており、図示例では、1単位が1/20000秒を示している。また、縦軸は、振動速度を電圧値(V)で示している。
【0054】
図5(a)に示すレーザー振動計30による時刻歴波形は、ワッシャーWの大きな振動の中に、被締結体Pの微動が含まれた複合波形を示しており、レーザー振動計30により、被締結体PとワッシャーWの双方の振動が測定されることが分かる。
【0055】
一方、
図5(b)に示すピックアップ20による時刻歴波形は、被締結体Pのみの振動波形を示しており、
図5(a)に示す複合波形における微動波形と周期が一致していることが分かる。
【0056】
なお、補足的に記載するが、ワッシャーWが鉄ワッシャー以外の、アルミワッシャーや一般の炭素鋼からなるワッシャー、さらにはプラスチックワッシャーの場合には、それぞれに比重が異なることから振動の態様(周期や縦軸の大きさ等)が変化する。また、加振器10にて付与される振動が正弦波振動でなくて方形波振動の場合においても、振動の態様が変化する。方形波振動の場合は、
図5(a)、(b)に示す時刻歴波形よりも微動数が少なくなり、例えば
図5(a)に示す時刻歴波形から多数の微動がフィルタリングされたよりシンプルな波形が得られる傾向にある。
【0057】
図4に戻り、次に、ステップS606において、被締結体PとワッシャーWの周波数成分変換を行う(ワッシャー周波数特定工程)。具体的には、周波数成分変換部512に格納されているFFTプログラムに
図5(a)、(b)に示す各時刻歴波形(データ)を適用して周波数成分変換することにより、各時刻歴波形を周波数成分に分解する。ここで、各振動計による計測データを周波数変換した周波数スペクトルの一例を示す。
図6は、締付けトルク2.5Nmのときの振動計による計測データを周波数変換した周波数スペクトルであって、
図6(a)はレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルであり、
図6(b)はピックアップによる計測データの周波数スペクトルである。また、以後の締結トルクを変更した際の別の締付けトルク12.5Nmのときの振動計による計測データを周波数変換した周波数スペクトルを
図7に示す。
図6と同様、
図7(a)はレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルであり、
図7(b)はピックアップによる計測データの周波数スペクトルである。
【0058】
ここでは、ステップS602において、加振器10を1000Hzで加振し、その結果を
図6,7に示している。なお、
図6、7においては、1000Hz未満の低振動帯域は被締結体PとワッシャーWのいずれの振動帯域にも相当しないことが経験則上分かっていることから、1000Hz未満にあるスペクトルピークは無視することにする。さらに、ワッシャーWの周波数帯域は5000Hz以上であることも経験則上分かっていることから、ワッシャーWの周波数の特定において5000Hz未満の周波数帯域は無視することにする。
【0059】
図6(a)、(b)を参照すると、いずれにも、1000Hzにスペクトルピークが存在するが、これは、加振器10を1000Hzで加振したことによる被締結体Pの周波数である。一方、
図6(a)に示すレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルでは、6200Hzにスペクトルピークが存在し、一方で、
図6(b)に示すピックアップによる計測データの周波数スペクトルでは、5000Hz以上の周波数帯域においてスペクトルピークは存在しない。そこで、
図4におけるステップS608において、双方の周波数スペクトルより、
図6(a)におけるスペクトルピーク6200Hzを、締付けトルク2.5NmのときのワッシャーWの周波数として特定する。
【0060】
ここで、参考までに、
図7(a)、(b)を参照して、別の締付けトルク12.5Nmのときの結果を示す。
図7(a)、(b)より、
図6(a)、(b)と同様に、1000Hzにスペクトルピークが存在している。そして、
図7(a)に示すレーザー振動計による計測データの周波数スペクトルでは、6600Hzにスペクトルピークが存在していることより、
図7(a)におけるスペクトルピーク6600Hzを、締付けトルク12.5NmのときのワッシャーWの周波数として特定する。
【0061】
図4に戻り、ステップS608において、締付けトルク2.5NmのときのワッシャーWの周波数が特定されたら、ステップS600に戻り、締付けトルクを例えば5Nmに変更して再設定し、以後、ステップS602乃至ステップS608を実行する。締付けトルクが12.5Nmに設定されたフローにおいては、既に
図7を参照して説明した通り、6600Hzが締付けトルク12.5NmのときのワッシャーWの周波数として特定される。
【0062】
締付けトルクを種々変化させながら
図4におけるステップS602乃至S608を実行することにより、ステップS610において、締付けボルトBの締付けトルクとワッシャーWの周波数の関係データを特定する(関係データ特定工程)。ここで、
図8は、締付けトルクとワッシャー周波数の関係グラフの一例を示す図である。この関係グラフは、M10の締付けボルトに対応する鉄ワッシャーに関する関係グラフの一例である。このケースでは、
図4に示すフローにて特定された締付けトルクごとのワッシャーWの周波数に関する各プロットが一次関数にて近似することができている。なお、各プロットの傾向により、二次関数等の曲線グラフにて関係グラフが作成される場合もある。
図8に示す関係データ(関係グラフ)が作成されることにより、
図4における試験室内での関係データを特定するまでのフローが終了する。
【0063】
ここで作成された関係データは、
図1に示すコンピュータ50に格納される。計測者は、既設構造物における実際の締付けボルトBの締付けトルクの特定に際して、このコンピュータ50を含む締付けトルク特定装置100を現地に持ち込んで、締付けトルクの特定を行う。具体的には、
図4の下段に示すフローに基づく特定方法を実行する。
【0064】
ステップS700において、加振器10にて所定の周波数帯の振動を発生させることにより、既設構造物の被締結体Pを加振する。そして、ステップS702において、ピックアップ20にて被締結体Pの振動速度等を測定し、レーザー振動計30にてワッシャーWの振動速度等を測定する。次に、ステップS704において、被締結体PとワッシャーWの周波数成分変換を行い、ステップS706において、ワッシャーWの周波数を特定する。
【0065】
ステップS708において、特定されたワッシャーWの周波数をコンピュータ50内に格納されている関係データに適用することにより、ステップS710において、測定対象の締付けボルトBの締付けトルクが特定される(締付けトルク特定工程)。
【0066】
本実施形態に係る締付けトルク特定方法によれば、既設構造物の被締結体Pにおける締付けボルトBの締付けトルクの特定に際して、この締付けボルトBに直接接触することがないことから、高精度に現状の締付けボルトBの締付けトルクを特定することが可能になる。
【0067】
[第2の実施形態]
<締付けトルク特定装置>
次に、
図9を参照して、本発明の第2の実施形態に係る締付けトルク特定装置について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る締付けトルク特定装置の一例を示す図である。締付けトルク特定装置200は、締付けトルク特定装置100におけるレーザー振動計30に代わって、ワッシャーWの表面に圧電素子60を振動計として貼り付けることにより構成されている。また、圧電素子60は抵抗が大き過ぎることから、インピーダンス変換機44を介してA/D変換機43に接続される。なお、その他の装置構成は、締付けトルク特定装置100と同様である。
【0068】
ピエゾフィルム60は、圧電効果を有するプラスチックである、PVDF(Poly Vinylidene DiFluoride)から形成され、超軽量のフィルムである。そのため、ワッシャーWの表面にピエゾフィルム60を貼着しても重量の増加は殆どなく、従って、被締結体Pが振動した際に、ほぼワッシャーWのみの振動を生じさせることができる。
【0069】
また、締付けトルク特定装置200は、ピエゾフィルム60をワッシャーWの表面に貼り付ける構成を有していることから、締付けトルク特定装置100に比べて既存構造物の締付けボルトBの締付けトルクの特定に際して現地に搬送し易く、また、現地での計測性も良好であることから、より実用的な装置である。締付けトルク特定装置200も、
図2に示すハードウェア構成を有し、
図3に示す機能構成を有する。
【0070】
[加振器による周波数帯が、締付けトルクとワッシャー周波数の関係データへ与える影響についての検証]
本発明者等は、加振器による周波数帯が、締付けトルクとワッシャー周波数の関係データに対して影響を与えるか否かについて検証を行った。本検証では、M10の締付けボルト用の鉄ワッシャーを用いて試験装置を作成し、加振器によって発生される振動の周波数を1kHz乃至10kHzで1kHzごとに変化させ、各周波数帯の振動を試験体である被締結体に付与し、
図4に示す締付けトルク特定方法を実行することにより、各周波数帯の振動における締付けトルクとワッシャー周波数の関係グラフを特定した。
図10に、検証結果を示す。
【0071】
図10より、加振器による周波数を1kHz乃至10kHzの間で変化させても、ほぼ同様の締付けトルクとワッシャー周波数の関係グラフが特定されることが検証されている。また、M10の締付けボルトの標準締付けトルクは24.5Nmであることから、この標準締付けトルク以下のトルク範囲において、ワッシャーの周波数はおよそ7000Hz程度になることが分かる。従って、ワッシャー自体を7000Hz程度の周波数帯で共振するように装置構成を調整することにより、締付けトルクの検出精度をより一層向上させることができると考えられる。
【0072】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0073】
例えば、ピエゾフィルムを貼着したワッシャーによれば、ピエゾフィルムの影響を受けずにワッシャーのみの振動を計測できることは第二の実施形態に係る締付けトルク特定装置にて説明した通りである。そこで、この第二の実施形態に係る締付けトルク特定装置への適用に好適なワッシャーを提供することができる。このワッシャーは、被締結体がワッシャーを介してナットにて締付けられている締付けボルト用のワッシャーであり、圧電素子が振動計として貼り付けられたものである。この振動検知用のワッシャーは、締結用ボルトとともに使用することにより、ボルトやナットの緩みによって締付けトルクが低下し、振動が変化する際の振動変化を検知する。そして、検知した振動変化に基づき、ボルトの締付け状態を特定し、監理することを可能にしたものである。
【0074】
このワッシャーは、例えば、トンネル内の上部に配設される器具のボルト締付け箇所や、橋梁などにおけるボルト締付け箇所等に利用できる。振動検知用のワッシャーを利用して振動を継続的に測定することにより、振動変化を検知した時点で何等かの異常が生じたことを瞬時に検知することができ、極めて有用である。つまり、通常発生する振動(例えば、車両の通行等に起因する振動)をワッシャーを介して計測し、この計測を継続的に行うことにより、締付けトルクに変化があった際には異常が生じたことを瞬時に特定することが可能になる。
【符号の説明】
【0075】
10:加振器(加振手段)、20:ピックアップ、30:レーザー振動計(レーザードップラー振動計)、50:コンピュータ、60:圧電素子(ピエゾフィルム)、100,200:締付けトルク特定装置、P:被締結体、B:締付けボルト、N:ナット、W:ワッシャー