(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】アルミニウム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 1/19 20060101AFI20220304BHJP
B23K 1/14 20060101ALI20220304BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220304BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220304BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20220304BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20220304BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
B23K1/19 A
B23K1/14 A
B23K1/00 S
C22C21/00 J
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
B23K35/14 F
C22C21/00 D
C22C21/00 E
(21)【出願番号】P 2018062781
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000157957
【氏名又は名称】株式会社UACJ金属加工
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
(72)【発明者】
【氏名】柳川 裕
(72)【発明者】
【氏名】八木田 泰裕
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-128168(JP,A)
【文献】特開2017-124429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦面を備えたベース部と、前記ベース部の前記平坦面に立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる被接合部材を準備し、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる心材と、Si:4.0~13.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり前記心材の片面上に積層されたろう材と、を備えたブレージングシートを準備し、
前記被接合部材の前記平坦面及び前記ブレージングシートの前記心材のうち少なくとも一方にフラックスを塗布し、
前記被接合部材と前記ブレージングシートとを、前記ベース部と前記心材とが前記フラックスを介して積層され、かつ、前記心材及び前記ろう材の両方と前記立設部とが対面するように配置して、前記立設部と前記心材との隙間の大きさが0.2mm以下である組立体を作製し、
前記組立体を加熱して前記ろう材を溶融させ、前記被接合部材と前記ブレージングシートとの隙間に溶融ろうを引き込んで前記被接合部材と前記ブレージングシートとをろう付する、
アルミニウム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記被接合部材は、Mg:0.40~1.0質量%を必須に含み、更に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、Fe:0.050~1.0質量%、Ti:0.050~0.20質量%、Zr:0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている、請求項1に記載のアルミニウム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記心材は、Mg:0.40~1.0質量%を必須に含み、更に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、Fe:0.050~1.0質量%、Ti:0.050~0.20質量%、Zr:0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている、請求項1または2に記載のアルミニウム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記フラックスとして、Csを含有するフラックスを塗布する、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記被接合部材と前記ブレージングシートとを、前記立設部が前記ろう材よりも突出するように配置して前記組立体を作製する、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記被接合部材は、前記ベース部の周囲に連なるテーパ面を有しており、前記テーパ面は、前記立設部から遠ざかるほど前記立設部の立設方向とは反対側に後退するように傾斜している、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム構造体の製造方法。
【請求項7】
平坦面を備えたベース部と、前記平坦面から立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる第1部材と、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材を介して前記第1部材の前記ベース部と前記立設部との両方に接合された第2部材と、を有し、
前記ベース部と前記第2部材との積層方向から視た平面視において前記第2部材と前記ベース部の前記平坦面とが重なっている領域の面積を100%とした場合に、当該領域内に存在する前記ろう材の面積率が70%以上であ
り、
前記第1部材の前記ベース部は前記平坦面の周囲に連なるテーパ面を有しており、前記テーパ面は、前記立設部から遠ざかるほど前記第2部材との隙間が大きくなるように傾斜している、アルミニウム構造体。
【請求項8】
平坦面を備えたベース部と、前記平坦面から立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる第1部材と、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材を介して前記第1部材の前記ベース部と前記立設部との両方に接合された第2部材と、を有し、
前記ベース部と前記第2部材との積層方向から視た平面視において前記第2部材と前記ベース部の前記平坦面とが重なっている領域の面積を100%とした場合に、当該領域内に存在する前記ろう材の面積率が70%以上であり、
前記第1部材の前記立設部は前記第2部材よりも突出している、アルミニウム構造体。
【請求項9】
前記第1部材の前記ベース部は前記平坦面の周囲に連なるテーパ面を有しており、前記テーパ面は、前記立設部から遠ざかるほど前記第2部材との隙間が大きくなるように傾斜している、請求項8に記載のアルミニウム構造体。
【請求項10】
前記第1部材は、Mg:0.40~1.0質量%を必須に含み、更に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、0.050~1.0質量%、Ti:0.050~0.20質量%、Zr:0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている、
請求項7~9のいずれか1項に記載のアルミニウム構造体。
【請求項11】
前記第2部材は、Mg:0.40~1.0質量%を必須に含み、更に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、0.050~1.0質量%、Ti:0.050~0.20質量%、Zr:0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている、
請求項7~10のいずれか1項に記載のアルミニウム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム構造体は、熱伝導率が高い、軽量である等の種々の利点を活かし、機械用部品や熱交換器等の用途に使用されている。アルミニウム構造体は、アルミニウム合金からなる複数の部品を有している。これらの部品は、ろう付によって互いに接合されていることがある。
【0003】
この種のアルミニウム構造体の例として、特許文献1には、熱交換器本体と、カラーと、接続パイプとをろう付によって接合してなる熱交換器が記載されている。特許文献1の熱交換器においては、熱交換器本体に形成された接続筒体の外周部にカラーが嵌合され、更に、このカラーの内周部に接続パイプが嵌合されている。カラーは、接続筒体を収容する本体と、本体の先端に設けられ、熱交換器本体の外壁に沿って延出したつばと、を有している。カラーと熱交換器本体との間の隙間は、接続筒体の径方向の断面においてL字状を呈しており、この隙間にろう材が充填されている。
【0004】
アルミニウム合金からなる部品同士をろう付するに当たっては、部品同士の間に予めろう材とフラックスとを介在させ、加熱によってろう材を溶融させる方法を採用することができる。また、心材の片面または両面にろう材が積層された、いわゆるブレージングシートを用いて部品を作製し、この部品と他の部品とをろう付する方法も多用されている。フラックスとしては、例えば、フルオロアルミン酸カリウムなどのフッ化物系フラックスが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミニウム構造体において、各部品を構成するアルミニウム合金の化学成分は、当該部品に要求される機能を満足するように選択されている。例えば、アルミニウム構造体としての自動車用熱交換器等に組み込まれる部品は、熱交換器の軽量化を目的として比較的強度の高いアルミニウム合金から構成されていることがある。
【0007】
高強度のアルミニウム合金には、強度を向上させるために、比較的多量のMg(マグネシウム)が含まれていることがある。アルミニウム合金中のMg(マグネシウム)は、ろう付時にフッ化物系フラックスと反応しやすい。そのため、フラックスを用いてMgを含むアルミニウム合金からなる部品同士のろう付を行う場合、Mgとフラックスとの反応によってフラックスが消費され、ろう材表面の酸化皮膜が破壊されにくくなる。更に、この場合には、Mgとフラックスとの反応により、部品の表面に反応生成物が形成される。この反応生成物は、溶融ろうの流動性を低下させるおそれがある。
【0008】
このように、フッ化物系フラックスを用いてMgを含むアルミニウム合金からなる部品のろう付を行う場合には、Mgとフラックスとの反応によりろう付性の悪化を招きやすいという問題がある。特に、特許文献1に記載されたようなL字状の隙間にろう材を充填してろう付を行おうとする場合には、当該隙間内に気泡等の接合欠陥が形成されやすい。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、Mgを含むアルミニウム合金からなる部品同士の接合欠陥を低減することができるアルミニウム構造体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、平坦面を備えたベース部と、前記ベース部の前記平坦面に立設された立設部と、を有し、Mg(マグネシウム):0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる被接合部材を準備し、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる心材と、Si(シリコン):4.0~13.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり前記心材の片面上に積層されたろう材と、を有するブレージングシートを準備し、
前記被接合部材の前記平坦面及び前記ブレージングシートの前記心材のうち少なくとも一方にフラックスを塗布し、
前記被接合部材と前記ブレージングシートとを、前記ベース部と前記心材とが前記フラックスを介して積層され、かつ、前記心材及び前記ろう材の両方と前記立設部とが対面するように配置して、前記立設部と前記心材との隙間が0.2mm以下である組立体を作製し、
前記組立体を加熱することにより、前記被接合部材と前記ブレージングシートとの隙間に溶融ろうを引き込んで前記被接合部材と前記ブレージングシートとをろう付する、
アルミニウム構造体の製造方法にある。
【0011】
本発明の他の態様は、平坦面を備えたベース部と、前記平坦面から立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる第1部材と、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材を介して前記第1部材の前記ベース部と前記立設部との両方に接合された第2部材と、を有し、
前記ベース部と前記第2部材との積層方向から視た平面視において前記第2部材と前記ベース部の前記平坦面とが重なっている領域の面積を100%とした場合に、当該領域内に存在する前記ろう材の面積率が70%以上であり、
前記第1部材の前記ベース部は前記平坦面の周囲に連なるテーパ面を有しており、前記テーパ面は、前記立設部から遠ざかるほど前記第2部材との隙間が大きくなるように傾斜している、アルミニウム構造体にある。
本発明のさらに他の態様は、平坦面を備えたベース部と、前記平坦面から立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる第1部材と、
Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材を介して前記第1部材の前記ベース部と前記立設部との両方に接合された第2部材と、を有し、
前記ベース部と前記第2部材との積層方向から視た平面視において前記第2部材と前記ベース部の前記平坦面とが重なっている領域の面積を100%とした場合に、当該領域内に存在する前記ろう材の面積率が70%以上であり、
前記第1部材の前記立設部は前記第2部材よりも突出している、アルミニウム構造体にある。
【発明の効果】
【0012】
前記アルミニウム構造体の製造方法においては、被接合部材の平坦面及びブレージングシートの心材のうち少なくとも一方にフラックスを塗布した後、被接合部材とブレージングシートとを前述のごとく配置することにより、組立体を作製する。組立体における被接合部材とブレージングシートとの間には、ベース部及び立設部に沿って隙間が形成される。この隙間は、被接合部材のベース部とブレージングシートとの積層方向の断面においてL字状を呈しており、立設部側及びベース部側の両方に開口を有している。
【0013】
前記の構成を有する組立体を加熱することにより、被接合部材とブレージングシートとのろう付を行う。ろう付の初期段階においては、まず、フラックスが溶融する。加熱によって溶融したフラックスは、被接合部材とブレージングシートとの隙間内に濡れ広がりながら、これらの表面に存在する酸化皮膜を破壊する。この際、未反応のフラックスが心材中のMgや被接合部材中のMgと反応することにより、ベース部と心材との間、及び、立設部と心材との間にMgとフラックスとの反応生成物が形成される。
【0014】
フラックスの溶融が始まった後、ブレージングシートのろう材が溶融する。このとき、前述したように、被接合部材の立設部及びブレージングシートの心材の表面に存在する酸化皮膜はフラックスによって破壊されている。そのため、心材上の溶融ろうは、立設部側の開口から被接合部材とブレージングシートとの隙間内に容易に進入することができる。
【0015】
また、前記組立体においては、立設部と心材との隙間の大きさ、つまり、立設部から心材までの距離が前記特定の範囲内となるようにブレージングシートが配置されている。これにより、立設部側の開口から隙間内に進入した溶融ろうを表面張力によって隙間の奥、つまりベース部側へ引き込むことができる。
【0016】
更に、被接合部材とブレージングシートとを前述のごとく配置することにより、両者の間に浸入した溶融ろうを、立設部側の開口からベース部側の開口へ向かって一方向に流動させることができる。そのため、Mgとフラックスとの反応生成物を溶融ろうの流動によって押し流し、隙間の外部へ容易に排出することができる。それ故、Mgとフラックスとの反応生成物によるろう付性の低下を抑制することができる。
【0017】
以上の結果、前記の態様の製造方法によれば、Mgを含むアルミニウム合金からなる部品を有するアルミニウム構造体において、部品同士の接合欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1における、アルミニウム構造体としての熱交換器の斜視図である。
【
図2】実施例1における、熱交換器の平面図である。
【
図6】実施例1における、アダプタの斜視図である。
【
図7】実施例1における、組立体の被接合部材近傍の一部断面図である。
【
図8】実施例1の組立体をろう付する際の、溶融ろうの流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前記アルミニウム構造体の製造方法において、被接合部材は少なくともベース部及び立設部を有していればよく、ベース部及び立設部以外の部分の形状は、特に限定されることはない。つまり、被接合部材は、ベース部の平坦面と、当該平坦面に連なる立設部の表面とによって構成される段部を有していればよい。この段部には、ブレージングシートが前記の態様で配置される。
【0020】
被接合部材は、ベース部の周囲に連なるテーパ面を有しており、テーパ面は、立設部から遠ざかるほど立設部の立設方向とは反対側に後退するように傾斜していてもよい。この場合には、被接合部材とブレージングシートとの隙間内を流動し、ベース部側の開口まで到達した溶融ろうがテーパ面に濡れ広がりやすくなる。そして、溶融ろうがテーパ面に濡れ広がることにより、被接合部材とブレージングシートとの隙間内の溶融ろうをベース部側の開口へ向かって吸い上げることができる。そのため、被接合部材とブレージングシートとの隙間内に存在する気泡や反応生成物が溶融ろうの流動によって隙間の外部へより排出されやすくなる。以上の結果、被接合部材と心材との接合欠陥をより低減することができる。
【0021】
被接合部材は、例えば6000系アルミニウム合金などの、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金から構成されている。被接合部材中のMg量を0.40質量%以上とすることにより、被接合部材の強度を向上させ、被接合部材を容易に軽量化することができる。被接合部材中のMgの含有量が0.40質量%未満の場合には、被接合部材の軽量化が難しくなる。
【0022】
被接合部材の強度をより高める観点からは、被接合部材中のMgの含有量を多くすることが好ましい。しかし、被接合部材中のMgの含有量が多くなると、ろう付中に、Mgとフラックスとの反応による反応生成物が多量に形成されやすくなる。その結果、ろう付性の低下を招き、ベース部と心材との間に気泡等の接合欠陥が形成されやすくなる。反応生成物によるろう付性の低下を回避する観点から、被接合部材中のMgの含有量は1.0質量%以下とする。同様の観点から、Mgの含有量を0.80質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
被接合部材を構成するアルミニウム合金は、Mg:0.40~1.0質量%を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。不可避的不純物としては、例えば、0.050質量%未満のMn(マンガン)、Si(シリコン)、Cu(銅)、Fe(鉄)等がある。
【0024】
被接合部材を構成するアルミニウム合金は、必須成分としてのMg以外に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、Fe:0.050~1.0質量%、Ti(チタン):0.050~0.20質量%、Zr(ジルコニウム):0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を更に含んでいてもよい。
【0025】
これらの元素は、被接合部材の強度を向上させる作用を有している。しかし、これらの元素の含有量が過度に多くなると、被接合部材の製造性の悪化を招くおそれがある。従って、これらの元素の含有量を前記特定の範囲とすることにより、被接合部材の製造性の悪化を回避しつつ強度を向上させることができる。その結果、アルミニウム構造体の軽量化をより容易に行うことができる。
【0026】
ブレージングシートは、心材と、心材の片面上に積層されたろう材と、を有している。ブレージングシートは、例えば、心材の片面にろう材が積層された片面ブレージングシートであってもよいし、心材の一方の面にろう材が積層され、他方の面に犠牲陽極材が積層された両面ブレージングシートであってもよい。また、例えば、心材とろう材との間に、これらとは異なる化学成分を有するアルミニウム合金からなる中間材が介在していてもよい。
【0027】
ブレージングシートの心材は、例えば6000系アルミニウム合金などの、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金から構成されている。心材中のMg量を0.40質量%以上とすることにより、ブレージングシートの強度を向上させ、ブレージングシートを容易に薄肉化することができる。その結果、アルミニウム構造体をより軽量化することができる。心材中のMgの含有量が0.40質量%未満の場合には、ブレージングシートの薄肉化が難しくなる。
【0028】
ブレージングシートの強度をより高める観点からは、心材中のMgの含有量を多くすることが好ましい。しかし、心材中のMgの含有量が多くなると、ろう付中に、Mgとフラックスとの反応による反応生成物が多量に形成されやすくなる。その結果、ろう付性の低下を招き、ベース部と心材との間に気泡等の接合欠陥が形成されやすくなる。反応生成物によるろう付性の低下を回避する観点から、心材中のMgの含有量は1.0質量%以下とする。同様の観点から、Mgの含有量を0.80質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
心材を構成するアルミニウム合金は、Mg:0.40~1.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。不可避的不純物としては、例えば、0.050質量%未満のMn、Si、Cu、Fe等がある。
【0030】
心材を構成するアルミニウム合金は、必須成分としてのMg以外に、Mn:0.050~1.3質量%、Si:0.10~1.0質量%、Cu:0.050~0.90質量%、Fe:0.050~1.0質量%、Ti:0.050~0.20質量%、Zr:0.050~0.50質量%のうち1種または2種以上を更に含んでいてもよい。
【0031】
これらの元素は、心材の強度を向上させる作用を有している。しかし、これらの元素の含有量が過度に多くなると、心材の製造性の悪化を招くおそれがある。従って、これらの元素の含有量を前記特定の範囲とすることにより、心材の製造性の悪化を回避しつつ強度をより向上させることができる。その結果、アルミニウム構造体の軽量化をより容易に行うことができる。
【0032】
心材を構成するアルミニウム合金は、必須成分としてのMg以外に、Zn(亜鉛):0.5~6.5質量%を更に含んでいてもよい。心材中に前記特定の範囲のZnを添加することにより、心材の耐食性をより向上させることができる。
【0033】
ブレージングシートにおける心材の片面には、ろう材が積層されている。ろう材は、Si:4.0~13.0質量%を含むアルミニウム合金から構成されている。ろう材を構成するアルミニウム合金は、Si:4.0~13.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。不可避的不純物としては、例えば、0.050質量%未満のMn、Si、Cu、Fe等がある。
【0034】
また、ろう材を構成するアルミニウム合金は、必須成分としてのSi以外に、Be(ベリリウム):0.0040~0.10質量%、Bi(ビスマス):0.010~0.30質量%、Li(リチウム):0.0040~0.10質量%のうち1種または2種以上を含んでいてもよい。ろう材中にこれらの元素を添加することにより、ろう材表面に予めフラックスを塗布することなく、ろう付加熱中にろう材表面の酸化皮膜を破壊することができる。そのため、フラックスの使用量をより低減し、Mgとフラックスとの反応生成物によるろう付性の低下をより確実に回避することができる。
【0035】
ろう材中に含まれるMgの含有量は、0.10質量%未満であることが好ましい。この場合には、ろう材中のMgとフラックスとの反応を抑制し、ひいては反応生成物の量をより低減することができる。その結果、Mgとフラックスとの反応生成物によるろう付性の低下をより確実に回避することができる。
【0036】
前記製造方法においては、前述の構成を有する被接合部材とブレージングシートとを準備した後、被接合部材の平坦面及びブレージングシートの心材のうち少なくとも一方にフラックスを塗布する。この際、必要に応じて、ブレージングシートのろう材にフラックスを塗布してもよい。また、ブレージングシートに被接合部材とは異なる部材を更に接合しようとする場合には、当該部材にフラックスを塗布することもできる。
【0037】
なお、ろう材中にBe:0.0040~0.10質量%及びBi:0.01~0.30質量%、Li:0.0040~0.10質量%、のうち1種または2種以上が含まれている場合には、フラックスを塗布することなく、ブレージングシートと被接合部材以外の部材とをろう付により接合することができる。
【0038】
フラックスとしては、Cs(セシウム)を含有するフラックスを使用することが好ましい。かかるフラックスとしては、例えば、フルオロアルミン酸セシウムなどのCs-Al-F系化合物を含むフラックスを使用することができる。Csを含有するフラックスは、フルオロアルミン酸カリウム等の従来多用されている非腐食性フラックスに比べてMgとの反応が起こりにくい。そのため、Csを含有するフラックスを使用することにより、Mgとフラックスとの反応生成物の量をより低減することができる。その結果、Mgとフラックスとの反応生成物によるろう付性の低下をより確実に回避することができる。
【0039】
フラックスは、全固形分を100質量%としたときに、13~58質量%のCsを含有していることが好ましい。この場合には、被接合部材と心材とのろう付性をより向上させることができる。
【0040】
被接合部材及びブレージングシートの少なくとも一方にフラックスを塗布した後、被接合部材とブレージングシートとを、ベース部と心材とがフラックスを介して積層され、かつ、心材及びろう材の両方と立設部とが間隔をあけて対面するように配置して、組立体を作製する。
【0041】
なお、心材は、立設部と局所的に当接していてもよいし、心材の全体が立設部から離隔していてもよい。しかし、心材の全体が立設部に密着している場合、つまり、被接合部材とブレージングシートとの隙間が立設部側に開口していない場合には、溶融ろうが当該隙間内に進入しにくいため、被接合部材とブレージングシートとのろう付を行うことができない。従って、心材の少なくとも一部を立設部から離隔して配置し、前記隙間を立設部側に開口させる必要がある。
【0042】
ブレージングシートを被接合部材の段部に配置する際、被接合部材の立設部とブレージングシートの心材との隙間の大きさ、つまり、立設部から心材までの距離は0.2mm以下とする。組立体における立設部と心材との隙間の大きさを0.2mm以下とすることにより、立設部側の開口から被接合部材とブレージングシートとの隙間内に進入した溶融ろうを、表面張力によってベース部側の開口へ向かって流動させることができる。その結果、溶融ろうを被接合部材と心材との隙間に充填することができる。被接合部材のベース部と心材との間の接合欠陥をより低減する観点からは、立設部と心材との隙間の大きさを0.15mm以下にすることがより好ましい。
【0043】
立設部と心材との隙間の大きさが0.2mmを超える場合には、前述の隙間に進入した溶融ろうに作用する表面張力が小さくなる。そのため、溶融ろうを立設部と心材との隙間の奥まで引き込み、ベース部と心材との隙間まで到達させることが難しい。それ故、この場合には、ベース部と心材との間に接合欠陥が生じやすくなり、ろう付性の低下を招くおそれがある。
【0044】
前述した組立体を作製するに当たっては、被接合部材とブレージングシートとを、立設部がろう材よりも突出するように配置してもよい。この場合には、ろう付の際に溶融ろうが立設部に突き当たり、立設部側の開口から被接合部材とブレージングシートとの隙間内に進入しやすくなる。そのため、隙間内に進入する溶融ろうの量をより多くし、被接合部材とブレージングシートとのろう付性をより向上させることができる。
【0045】
組立体のろう付を行う際の加熱温度は、例えば、585~620℃の範囲から適宜設定することができる。加熱温度が585℃未満の場合には、溶融ろうの流動性が低くなるため、ろう付性の悪化を招くおそれがある。加熱温度が620℃を超える場合には、ろう付加熱中に、被接合部材やブレージングシートの心材が局所的に溶融する、いわゆるエロージョンが発生し、ろう付不良となるおそれがある。ろう付を行う際の昇温速度は特に限定されることはないが、昇温中における組立体の不要な酸化を抑制するため、所定の加熱温度に到達するまでの昇温速度が速い方が好ましい。
【0046】
また、ろう付を行う際の雰囲気は、大気雰囲気であってもよいし、不活性ガス雰囲気であってもよい。ろう付加熱中における組立体の不要な酸化を抑制する観点からは、不活性ガス雰囲気中でろう付を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、窒素とアルゴンとの混合ガス等を使用することができる。また、不活性ガス雰囲気中でろう付を行う場合には、例えば、不活性ガス中の酸素濃度を100体積ppm以下、より好ましくは50体積ppm以下とすることが好ましい。
【0047】
このようにして組立体を加熱することにより、被接合部材とブレージングシートの心材との隙間内にろう材が引き込まれ、被接合部材とブレージングシートの心材とがろう付される。ろう付後のアルミニウム構造体においては、組立体における被接合部材が第1部材となり、ブレージングシートの心材が第2部材となる。
【0048】
つまり、組立体をろう付してなるアルミニウム構造体は、ベース部と、平坦面から立設された立設部と、を有し、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなる第1部材と、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材を介して第1部材のベース部と立設部との両方に接合された第2部材と、を有している。また、ベース部と第2部材との積層方向から視た平面視において第2部材とベース部の平坦面とが重なっている領域の面積を100%とした場合に、当該領域内に存在するろう材の面積率が70%以上となる。
【0049】
ろう材の面積率は、例えば、超音波映像装置を用いて取得したベース部と第2部材との間に存在するろう材の断層画像に基づいて算出することができる。即ち、超音波映像装置によって取得した断層画像においては、ベース部と第2部材との間にろう材が存在している部分と、ろう材が存在していない部分とが異なる明るさで表示される。そのため、ろう材が存在する部分とろう材が存在しない部分との境界が維持されるように断層画像を二値化した後、ろう材が存在している部分の面積を第2部材とベース部の平坦面とが重なっている領域の面積で除することにより、ろう材の面積率を算出することができる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
前記アルミニウム構造体の製造方法の実施例について、
図1~
図8を用いて説明する。本例においては、アルミニウム構造体1としての熱交換器10の製造方法を説明する。本例の熱交換器10は、
図1に示すように、発熱体が搭載される発熱体搭載面11(
図3参照)と、発熱体を冷却するための冷媒を流通させる冷媒流路12(
図3参照)と、を備えたジャケット30と、ジャケット30に接合され、冷媒を循環させる循環装置の配管に冷媒流路12を接続するためのアダプタ20と、を有している。
【0051】
図3に示すように、ジャケット30は、一面が開口した箱状を呈するジャケット本体部31と、発熱体搭載面11を備えジャケット本体部31の開口を覆う蓋部32と、を有している。ジャケット本体部31と蓋部32との間には、冷媒流路12が形成されている。
【0052】
本例のアルミニウム構造体1における第1部材2はアダプタ20であり、第2部材3はジャケット本体部31である。つまり、アダプタ20は、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金から構成されている。
図4及び
図6に示すように、アダプタ20は、平坦面211を備えたベース部21と、平坦面211から立設された立設部22と、を有している。より具体的には、本例のアダプタ20は、具体的には、A6063合金から構成されている。
【0053】
ジャケット本体部31は、Mg:0.40~1.0質量%を含有するアルミニウム合金から構成されている。
図4に示すように、ジャケット本体部31は、ろう材4を介してアダプタ20のベース部21と立設部22との両方に接合されている。本例のジャケット本体部31は、具体的には、A6063合金から構成されている。
【0054】
図5に示すように、アダプタ20のベース部21とジャケット本体部31との積層方向から視た平面視においてジャケット本体部31とベース部21の平坦面211とが重なっている領域Sの面積を100%とした場合に、当該領域S内に存在するろう材4の面積率は70%以上である。
【0055】
以下、熱交換器10の構成及びその製造方法を詳説する。
図2及び
図3に示すように、熱交換器10のジャケット30は、ジャケット本体部31と蓋部32との積層方向から視た平面視において長方形状を呈している。
図3に示すように、ジャケット本体部31は、蓋部32に対面して配置された底壁部311と、底壁部311の周縁に配置され、蓋部32側へ突出した側壁部312と、側壁部312の端縁から外方へ延出した鍔部313と、を有している。図には示さないが、鍔部313は、ろう材4を介して蓋部32に接合されている。
【0056】
本例の熱交換器10における冷媒流路12は、ジャケット本体部31の底壁部311及び側壁部312と、蓋部32とによって囲まれた空間である。
図2に示すように、冷媒流路12は、ジャケット本体部31と蓋部32との積層方向から視た平面視において長方形状を呈している。
図3及び
図4ジャケット本体部31の底壁部311における、冷媒流路12の長手方向の両端には、冷媒流路12内に冷媒を供給し、または、冷媒流路12から冷媒を導出する冷媒導排口314が設けられている。本例の冷媒導排口314は、直径10.2mmの円形を呈している。
【0057】
また、
図3に示すように、本例の熱交換器10における発熱体搭載面11は、蓋部32の外表面に設けられている。
【0058】
図4及び
図6に示すように、アダプタ20は、平坦面211を備えたベース部21と、ベース部21の平坦面211から立設され、ジャケット本体部31の冷媒導排口314内に挿入された立設部22と、ベース部21及び立設部22を貫通する連通孔23と、を有している。本例の立設部22は直径10mmの円筒状を呈している。平坦面211は立設部22の周囲に配置されており、立設部22の立設方向から視た平面視において、幅2mmの円環状を呈している。
【0059】
本例のベース部21は、更に、平坦面211の周囲に連なるテーパ面212を有している。テーパ面212は、
図4に示すように、立設部22から遠ざかるほど第2部材3としてのジャケット本体部31との隙間が大きくなるように傾斜している。本例のテーパ面212は、立設部22の立設方向から視た平面視において、幅1mmの円環状を呈している。ベース部21の平坦面211、テーパ面212及び立設部22は、ろう材4を介してジャケット本体部31に接合されている。
【0060】
アダプタ20のベース部21には、循環装置の配管が接続される。配管から供給される冷媒は、2か所の連通孔23及び冷媒導排口314のうちいずれか一方から冷媒流路12内に流入し、冷媒流路12において発熱体と熱交換する。発熱体と熱交換した冷媒は、他方の連通孔23を介して熱交換器10の外部へ排出され、循環装置へ導かれる。
【0061】
本例の熱交換器10は、以下の方法により作製することができる。まず、アダプタ20となる被接合部材200と、ジャケット本体部31となるブレージングシート310とを準備する。アダプタ20となる被接合部材200は、例えば、A6063合金からなる素材に鍛造や切削などを適宜施すことにより作製することができる。なお、被接合部材200の形状は、アダプタ20と同一である。つまり、被接合部材200は、
図7に示すように、平坦面211と、平坦面211の周囲に連なるテーパ面212とを備えたベース部21と、ベース部21の平坦面211から立設された立設部22と、を有している。
【0062】
ジャケット本体部31となるブレージングシート310は、A6063合金からなる心材315と、Si:4.0~13.0質量%を含有するアルミニウム合金からなり心材315の片面上に積層されたろう材4と、を有している。本例のろう材4は、より具体的には、Si:10質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備えたアルミニウム合金から構成されている。
【0063】
前記の構成を有するブレージングシート310にプレス加工を施して、ジャケット本体部31と同一の形状に成形する。本例においては、底壁部311及び側壁部312によって構成される凹状部分の外側が心材315となり、内側がろう材4となるように、ブレージングシート310にプレス加工を施す。この際、底壁部311に、2か所の冷媒導排口314を形成する。
【0064】
また、本例においては、被接合部材200及びブレージングシート310以外の部材を更に準備する。熱交換器10の蓋部32には、例えば、ジャケット本体部31となるブレージングシート310と同様の心材及びろう材を有するブレージングシートを使用してもよいし、アルミニウム合金のベア材を使用してもよい。
【0065】
次に、被接合部材200の平坦面211及びブレージングシート310の心材315のうち少なくとも一方にフラックス5を塗布する。本例において心材315にフラックス5を塗布する場合には、
図7に示すように、冷媒導排口314の周囲に塗布すればよい。フラックス5としては、例えば、フルオロアルミン酸セシウムなどのCs-Al-F系化合物を含むフラックスを使用することができる。また、フラックス5中のCsの含有量は、13~58質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0066】
その後、被接合部材200、ブレージングシート310及びその他の部材を所定の位置に配置して組立体100を作製する。組立体100を作製するに当たっては、被接合部材200とブレージングシート310とを、
図7に示すようにベース部21と心材315とがフラックス5を介して積層され、かつ、心材315及びろう材4の両方と立設部22とが対面するように配置する。
【0067】
本例においては、具体的には、被接合部材200の立設部22を冷媒導排口314に挿入することにより、被接合部材200を前記特定の配置でブレージングシート310に取り付けることができる。この際、立設部22は、
図7に示すように、ブレージングシート310のろう材4よりも蓋部32側に突出するように配置される。
【0068】
また、本例においては、立設部22の中心軸が冷媒導排口314の中央を貫くようにして被接合部材200をブレージングシート310に保持する。前述したように、本例の立設部22の直径は10mmであり、冷媒導排口314の直径は10.2mmである。それ故、本例の配置においては、立設部22と心材315との隙間の大きさdは0.1mmとなる。
【0069】
このようにして被接合部材200をブレージングシート310に取り付けることにより、
図7に示すように、被接合部材200とブレージングシート310との間に、断面形状がL字状を呈する隙間6が形成される。隙間6は、立設部22側と、ベース部21側との両側に開口している。
【0070】
図には示さないが、本例においては、更に、蓋部32となる部材と、ジャケット本体部31となるブレージングシート310のろう材4とを当接させる。
【0071】
以上により組立体100を作製した後、組立体100を加熱することによりろう付を行う。ろう付は、例えば、酸素濃度50体積ppm以下の窒素雰囲気中で行うことができる。また、ろう付は、例えば、組立体100の温度が450℃に到達してから600℃に到達するまでの時間が15分程度となるように組立体100を加熱した後、600℃の温度を3分間保持する加熱条件で実施することができる。
【0072】
前述の条件で組立体100を加熱すると、ろう材4の溶融よりも先にフラックス5が溶融する。加熱によって溶融したフラックス5は、被接合部材200とブレージングシート310との隙間6内に濡れ広がりながら、これらの表面に存在する酸化皮膜を破壊する。この際、未反応のフラックス5が心材315中のMgや被接合部材200中のMgと反応することにより、ベース部21と心材315との間、及び、立設部22と心材315との間にMgとフラックス5との反応生成物が形成される。
【0073】
フラックス5の溶融が始まった後、ブレージングシート310のろう材4が溶融する。このとき、被接合部材200の立設部22及びブレージングシート310の心材315の表面に存在する酸化皮膜は、フラックス5によって既に破壊されている。そのため、
図8に示すように、心材315上の溶融ろう40は、立設部22側の開口61から被接合部材200とブレージングシート310との隙間6内に容易に進入することができる。
【0074】
また、組立体100においては、立設部22と心材315との隙間6が前記特定の範囲内となるようにブレージングシート310が配置されている。これにより、立設部22側の開口61から被接合部材200とブレージングシート310との隙間6内に進入した溶融ろう40を、表面張力によって隙間6の奥、つまりベース部21側へ引き込むことができ(
図8、矢印401~403参照)。
【0075】
更に、被接合部材200とブレージングシート310とを前述のごとく配置することにより、両者の間に浸入した溶融ろう40を、矢印401~403に示すように、立設部22側の開口61からベース部21側の開口62へ向かって一方向に流動させることができる。そのため、Mgとフラックス5との反応生成物51を溶融ろう40の流動によって押し流し、隙間6の外部へ容易に排出することができる。それ故、Mgとフラックス5との反応生成物51によるろう付性の低下を抑制することができる。
【0076】
また、本例の被接合部材200は、ベース部21の周囲に連なるテーパ面212を有しており、テーパ面212は、立設部22から遠ざかるほど立設部22の立設方向とは反対側に後退するように傾斜している。そのため、ベース部21側の開口62まで到達した溶融ろう40がテーパ面212に濡れ広がることにより、被接合部材200とブレージングシート310の隙間6内の溶融ろう40をベース部21側の開口62へ向かって吸い上げることができる。これにより、被接合部材200とブレージングシート310の隙間6内に存在する気泡や反応生成物51が隙間6の外部へより排出されやすくなる。
【0077】
以上の結果、本例の製造方法によれば、Mgを含むアルミニウム合金からなる被接合部材200とブレージングシート310との接合欠陥を低減することができる。
【0078】
(実施例2)
本例は、被接合部材200及びブレージングシート310を構成するアルミニウム合金の化学成分、及び、ブレージングシート310と被接合部材200の立設部22との隙間の大きさdを変更する例である。なお、本例以降の実施例において使用する符号のうち既出の実施例において使用した符号と同一のものは、特に説明のない限り、既出の実施例において使用した符号と同一の構成要素等を示す。
【0079】
被接合部材200を構成するアルミニウム合金は、例えば、表1に示す化学成分(合金記号A1~A7)を有していてもよい。なお、表1中の記号「Bal.」は、残余成分であることを示す記号であり、記号「-」は、当該成分が含まれていない、または、不可避的不純物である、のいずれかを示す記号である。
【0080】
【0081】
ブレージングシート310の心材315を構成するアルミニウム合金は、例えば、表2に示す化学成分(合金記号B1~B7)を有していてもよい。なお、表2中の記号「Bal.」は、残余成分であることを示す記号であり、記号「-」は、当該成分が含まれていない、または、不可避的不純物である、のいずれかを示す記号である。
【0082】
【0083】
ブレージングシート310のろう材4を構成するアルミニウム合金は、例えば、表3に示す化学成分(合金記号C1~C2)を有していてもよい。なお、表3中の記号「Bal.」は、残余成分であることを示す記号であり、記号「-」は、当該成分が含まれていない、または、不可避的不純物である、のいずれかを示す記号である。
【0084】
【0085】
前述の化学成分を備えたアルミニウム合金からなる被接合部材200とブレージングシート310とを作製する。この際、ブレージングシート310については、プレス加工の際に形成される貫通穴の直径を10.0mm、10.1mm、10.2mm、10.3mm、10.4mm及び10.5mmの中から選択する。これらの被接合部材200とブレージングシート310とを表4に示すように組み合わせ、実施例1と同様の方法により組立体100を作製する。組立体100における被接合部材200の立設部22とブレージングシート310との隙間の大きさdは、ブレージングシート310の冷媒導排口314の直径に応じて、表4に示す値となる。
【0086】
これらの組立体100を加熱してろう付を行うことにより、表4に示す24種の熱交換器10(試験体D1~D24)を作製することができる。
【0087】
試験体D1~D24における、アダプタ20(つまり、第1部材2)とジャケット本体部31(つまり、第2部材3)とのろう付性は、ベース部21とジャケット本体部31との間に介在するろう材4の面積率に基づいて評価することができる。ろう材4の面積率は、例えば、以下の方法により算出することができる。
【0088】
まず、超音波映像装置を用い、
図5に示すような、ベース部21と第2部材3との間に存在するろう材4の断層画像を取得する。次いで、得られた断層画像における、ろう材4が存在する部分とろう材4が存在しない部分との境界が維持されるように断層画像を二値化する。二値化後の断層画像において、ろう材4が存在している部分が比較的暗く、ろう材4が存在していない部分が比較的明るく表示されている場合には、暗く表示されている部分、つまり、ろう材4が存在している部分の面積を算出し、この面積をジャケット本体部31とベース部21の平坦面211とが重なっている領域Sの面積で除することにより、ろう材4の面積率を算出することができる。
【0089】
試験体D1~D24におけるベース部21とジャケット本体部31との間に介在するろう材4の面積率は、表4の「ろう材の面積率」欄に示すとおりである。また、表4の「ろう付性」欄には、ろう材4の面積率が80%以上の場合には記号「A」、70%以上80%未満の場合には記号「B」、70%未満の場合には記号「C」を記載した。ろう付性の評価においては、ろう材4の面積率が70%以上である記号「A」及び記号「B」の場合を、接合欠陥を十分に低減できているため合格と判定し、ろう材4の面積率が70%未満である記号「C」の場合を、接合欠陥が大きいため不合格と判定する。
【0090】
【0091】
表4に示す試験体D2~D5、D7~D8、D10~D11、D13~D24は、被接合部材200及びブレージングシート310を構成するアルミニウム合金の化学成分が前記特定の範囲内にある。また、これらの試験体を作製するに当たっては、ブレージングシート310と被接合部材200の立設部22との隙間の大きさdが0.2mm以下となるように両者が配置されている。それ故、ろう付の際に、ブレージングシート310と被接合部材200との隙間6内の溶融ろう40を一方向に流動させ、Mgとフラックス5との反応生成物51や気泡を隙間の外部へ排出することができる。その結果、ろう材4の面積率が70%以上となり、ろう付性を向上させることができる。
【0092】
試験体D1は、ブレージングシート310と被接合部材200の立設部22とが密着しているため、ろう付時に、ブレージングシート310と被接合部材200との隙間6内に溶融ろう40が進入しにくい。それ故、試験体D1は、ブレージングシート310と被接合部材200との隙間6に進入する溶融ろう40の量が不足し、両者のろう付をおこなうことができない。
【0093】
試験体D6は、ブレージングシート310と立設部22との隙間の大きさdが広すぎるため、ブレージングシート310と被接合部材200との隙間6内の溶融ろう40に作用する表面張力が小さい。そのため、ブレージングシート310と被接合部材200との隙間6内に進入した溶融ろう40がベース部21側の開口62まで引き込まれにくくなる。その結果、ろう材4の面積率の低下を招く。
【0094】
試験体D9は、ブレージングシート310の心材315中に含まれるMgの量が過度に多いため、ろう付時に形成されるMgとフラックス5との反応生成物51の量が多くなる。この反応生成物51によって溶融ろう40の流動性が低下し、溶融ろう40がベース部21側の開口62まで引き込まれにくくなる。その結果、ろう材4の面積率の低下を招く。
【0095】
試験体D12は、被接合部材200中に含まれるMgの量が過度に多いため、ろう付時に形成されるMgとフラックス5との反応生成物の量が多くなる。この反応生成物51によって溶融ろう40の流動性が低下し、溶融ろう40がベース部21側の開口62まで引き込まれにくくなる。その結果、ろう材4の面積率の低下を招く。
【0096】
なお、本発明に係るアルミニウム構造体1及びその製造方法の態様は、実施例1及び2に示した態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。例えば、実施例1及び2においては、アルミニウム構造体1としての熱交換器10を作製する例を示したが、熱交換器10以外のアルミニウム製品に本発明の製造方法を適用することもできる。
【符号の説明】
【0097】
1 アルミニウム構造体
100 組立体
2 第1部材
20 アダプタ
21 ベース部
211 平坦面
22 立設部
3 第2部材
310 ブレージングシート
315 心材
4 ろう材
40 溶融ろう
5 フラックス