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特許7034040化合物、並びに麹菌Aspergillus oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物
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  • 特許-化合物、並びに麹菌Aspergillus  oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】化合物、並びに麹菌Aspergillus oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 2/00 20060101AFI20220304BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20220304BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C07K2/00 ZNA
C07K7/06
C12Q1/37
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018172785
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020045297
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591118775
【氏名又は名称】白鶴酒造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595125362
【氏名又は名称】株式会社ペプチド研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】吉矢 拓
(72)【発明者】
【氏名】山下 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】大東 功承
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】窪寺 隆文
(72)【発明者】
【氏名】明石 貴裕
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218494(JP,A)
【文献】Phaedria M. St. Hilaire, et al.,The substrate specificity of a recombinant cysteine protease from Leishmania mexicana: application of a combinatorial peptide library approach,Chembiochem,2000年,Vol. 1, No.2,pp.115-122,doi:10.1002/1439-7633(20000818)1:2<115::aid-cbic115>3.3.co;2-#
【文献】大東功承, 他7名,麹菌Aspergillus oryzae由来 酸性プロテアーゼの新規測定方法の開発,平成30年度 日本醸造学会大会講演要旨集,2018年09月10日,pp.12,講演No. 23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を少なくとも含み、かつ、N末端及びC末端にエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造を有することを特徴とする化合物:
-X-Arg-Y ・・・ 一般式(1)
前記一般式(1)中、XはLys及びArgのいずれかであり、XはIleであり、Yは、下記構造式(a)で表される:
【化1】
前記構造式(a)中、*1は前記一般式(1)におけるArgとの結合点を示し、*2はアミノ酸との結合点及びNHのいずれかを示し、mは1、2、3及び4のいずれかであり、ZはO、NH、N-C1-6アルキル、S及びCHのいずれかであり、cargoは発色団を示し、
前記cargoが、下記構造式(b1)~(b3)で表されるいずれかであり、
【化2】
前記構造式(b1)~(b3)中、波線は分子の残部との結合点を示す:
N末端及びC末端における前記エキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造が、N末端では、D型アミノ酸若しくはアミノ基がアセチル化された構造であり、C末端では、D型アミノ酸若しくはカルボキシル基がアミド化された構造である
【請求項2】
前記XがLysである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記mが、1及び2のいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の化合物。
【請求項4】
下記構造式(1)で表される請求項1から3のいずれかに記載の化合物。
【化3】
【請求項5】
麹菌Aspergillus oryzaeの酸性プロテアーゼの基質として用いられる請求項1から4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の化合物を基質として用いることを特徴とする麹菌Aspergillus oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の化合物を含有することを特徴とする麹菌Aspergillus oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌Aspergillus oryzae(A. oryzae)の酸性プロテアーゼの活性測定に用いる基質として有用な新規化合物(「新規合成ペプチドプローブ」と称することもある。)、並びに前記化合物を用いた麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒、みりんなどの醸造物において、麹の各種のプロテアーゼ活性は重要である。前記プロテアーゼのうち、ペプチド内のアミド結合を加水分解するエンド型プロテアーゼである麹の酸性プロテアーゼ(以下、「AP」と称することがある。)は、酒質に影響を与えるアミノ酸の多寡や固形物の溶解に直接関与することから原料利用率の指標になる。また、みりんなどの調味料系の醸造物においては、前記麹の酸性プロテアーゼ活性が呈味成分であるアミノ酸類の含有量に直結しており、最も重要な評価項目となる。
【0003】
従来の清酒、みりんなどの麹の酸性プロテアーゼの活性の測定方法としては、カゼインを基質としてフォーリン・チオカルト法に基づいた国税庁所定分析法(非特許文献1参照)が広く採用されている。しかしながら、この方法においては、麹の浸出液のようにアミノ酸が多く混在する試料では、そのまま測定することが困難であり、試料は予め透析して該アミノ酸を除去せねばならず、その透析に、例えば一昼夜などの長時間を要すること、またカゼインの溶解等、煩雑な操作を要すること、などの問題がある。
【0004】
一方、清酒の醸造において重要な麹の酵素としては、前記酸性プロテアーゼの他に、α-アミラーゼ(AA)、グルクアミラーゼ(GA)、酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP)がある。
これらの酵素の活性の測定方法は、以前は煩雑な国税庁所定分析法で行われていたものの、近年では簡便な測定キットが開発され、ほぼ100%この測定キットを用いた方法に置き換わっている。
【0005】
しかしながら、麹の酸性プロテアーゼの活性の測定方法については、長時間を要し、かつ煩雑な国税庁所定分析法に置き換わるような方法は未だ提供されていないのが現状である。
【0006】
したがって、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡易に、迅速かつ正確に測定することができる新たな技術の速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】第四回国税庁所定分析法注解、社団法人日本醸造協会、1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡易に、迅速かつ正確に測定することができる新規化合物、並びに前記酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、一般式(1)で表される構造を少なくとも含み、かつ、N末端及びC末端にエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造を有する化合物が、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼによって切断されることによって発色団を放出し、該発色団の発色を測定することによって、直接的に前記酸性プロテアーゼの活性を測定できることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見等に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表される構造を少なくとも含み、かつ、N末端及びC末端にエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造を有することを特徴とする化合物である。
-X-Arg-Y ・・・ 一般式(1)
前記一般式(1)中、XはLys及びArgのいずれかであり、XはIle及びMetのいずれかであり、Yは、下記構造式(a)で表される:
【化1】
前記構造式(a)中、*1は前記一般式(1)におけるArgとの結合点を示し、*2はアミノ酸との結合点及びNHのいずれかを示し、mは1、2、3及び4のいずれかであり、ZはO、NH、N-C1-6アルキル、S及びCHのいずれかであり、cargoは発色団を示す。
<2> 前記<1>に記載の化合物を基質として用いることを特徴とする麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法である。
<3> 前記<1>に記載の化合物を含有することを特徴とする麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定用組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡易に、迅速かつ正確に測定することができる新規化合物、並びに前記酸性プロテアーゼの活性測定方法及び活性測定用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、試験例1の一次スクリーニングにおいて蛍光強度を測定した結果を示す図である。
図2図2は、試験例2の酵素反応時間20分間、失活反応5分間の場合の発色反応試験の結果を示す図である(縦軸:発色値、横軸:AP力価、y=0.0023x、R2=0.9847)。
図3図3は、試験例3-1の国税庁所定分析法で得られる米麹のAP活性(縦軸)と、構造式(1)で表される化合物を用いた方法で得られる発色値(横軸)との相関関係を調べた結果を示す図である(y=453.99x、R2=0.9875)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、D型、L型の明記がないアミノ酸は、L型のアミノ酸を示す。
【0014】
(化合物)
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を少なくとも含み、かつ、N末端及びC末端にエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造を有する。
-X-Arg-Y ・・・ 一般式(1)
【0015】
前記一般式(1)中、Xは、Lys及びArgのいずれかである。
【0016】
前記一般式(1)中、Xは、Ile及びMetのいずれかである。
【0017】
前記化合物は、前記一般式(1)におけるXがLysであり、XがIleである態様が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)中、Yは、下記構造式(a)で表される。
【化2】
【0019】
前記構造式(a)中、*1は前記一般式(1)におけるArgとの結合点を示す。
【0020】
前記構造式(a)中、*2はアミノ酸との結合点及びNHのいずれかを示す。
【0021】
前記構造式(a)中、mは1、2、3及び4のいずれかである。
前記mとしては、1、2、3及び4のいずれかであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1及び2のいずれかが好ましく、2がより好ましい。
前記mの値が小さくなると、非酵素的な発色団の放出が生じることがあり、大きくなると、発色団の遊離に時間を要することがある。
【0022】
前記構造式(a)中、ZはO、NH、N-C1-6アルキル、S及びCHのいずれかである。
【0023】
前記N-C1-6アルキルにおけるC1-6アルキルは、炭素数1~6個の飽和直鎖状又は分岐鎖状炭化水素をいう。前記炭素数としては、1~6個であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1~3個が好ましい。
前記C1-6アルキルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、2-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、ネオヘキシル、3-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチルなどが挙げられる。
【0024】
前記構造式(a)中、cargoは発色団を示す。
前記cargoとしては、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼによる酵素反応、又は前記酵素反応に起因して生じる化学反応によって、前記化合物から切断・放出される発色団であれば、特に制限はなく、発色又は蛍光を発する物質の中から、目的に応じて適宜選択することができる。
前記cargoとしては、前記化合物から切断・放出される前には発色若しくは蛍光を有さないか、又は発色若しくは蛍光が非常に弱く、切断・放出された後に強い発色若しくは蛍光を発する物質が好ましい。
【0025】
前記cargoの具体例としては、例えば、特開2014-218494号公報に記載のcargoなどが挙げられ、より具体的には、p-ニトロフェノール(下記構造式(b1))、レソルフィン(下記構造式(b2))、4-メチルウンベリフェロン(下記構造式(b3))、フルオレセイン、TokyoGreen、ロドール、7-ヒドロキシクマリン、6-ヒドロキシクマリン、およびスコポレチン等のヒドロキシ基を有する発色若しくは蛍光物質がヒドロキシ基を介して分子の残部に結合しているものなどが挙げられる。これらの中でも、下記構造式(b1)~(b3)で表されるいずれかが好ましく、UV吸収で測定でき、一般的な分光光度計が適用できる点で、p-ニトロフェノール(下記構造式(b1))がより好ましい。
【化3】
前記構造式(b1)~(b3)中、波線は分子の残部との結合点を示す。
【0026】
前記N末端及びC末端におけるエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、D型アミノ酸、ブロック能を有する官能基などが挙げられる。前記ブロック能を有する官能基としては、例えば、N末端では、アセチル基、ベンゾイル基、メタンスルホニル基、メトキシカルボニル基、C末端では、アミド化などが挙げられ、より具体的には、N末端では、D型アミノ酸若しくはアミノ基がアセチル化された(アミノ基にアセチル基が結合した)構造、C末端では、D型アミノ酸若しくはカルボキシル基がアミド化された(カルボキシル基にアミノ基が結合した)構造などが挙げられる。
前記アミノ酸は、天然アミノ酸であってもよいし、非天然アミノ酸(「異常アミノ酸」と称することもある。)であってもよい。また、ブロック能を有する官能基を含むアミノ酸は、D型であってもよいし、L型であってもよい。
【0027】
本発明の化合物は、前記一般式(1)におけるXのN末端側、YのC末端側に更にアミノ酸を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
前記XのN末端側におけるアミノ酸の数としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1~10などが挙げられる。
前記YのC末端側におけるアミノ酸の数としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1~10などが挙げられる。
前記XのN末端側及びYのC末端側のアミノ酸の配列としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記XのN末端側及びYのC末端側のアミノ酸は、天然アミノ酸であってもよいし、非天然アミノ酸であってもよく、また、D型であってもよいし、L型であってもよい。
【0028】
本発明の化合物の好ましい態様としては、下記構造式(1)~(2)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性をより特異的に分析することができる点で、下記構造式(1)で表される化合物が好ましい。
【化4】
【化5】
【0029】
前記化合物は、塩の態様であってもよい。
前記塩としては、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼによる酵素反応系に影響を与えない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等の酸付加塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、もしくはアルミニウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリエチルアミン塩等の塩基付加塩などが挙げられる。これらの中でも、分取、凍結乾燥の容易性の点で、トリフルオロ酢酸塩が好ましい。
【0030】
本発明の化合物の製造方法としては、特に制限はなく、公知のペプチドの合成方法を適宜選択して製造することができる。
また、製造した化合物の同定方法としても、特に制限はなく、公知の分析方法を適宜選択することができる。
【0031】
本発明の化合物を用いると、後述する実施例の欄に示すように、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡便に、短時間で、再現性良く測定することができる。したがって、本発明の化合物は、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの基質として好適に用いることができる。
【0032】
(麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法)
本発明の麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法(以下、「酸性プロテアーゼの活性測定方法」と称することがある。)としては、上記した本発明の化合物を基質として用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
前記酸性プロテアーゼの活性測定方法では、酸性下で麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの作用により、基質である本発明の一般式(1)で表される化合物におけるArgとYとの間のアミド結合が加水分解され、遊離したアミノ基によって発色団が切断・遊離することによって増大する波長の吸光値を定量することによって、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を測定することができる。
【0034】
例えば、前記発色団としてp-ニトロフェノールを用いた場合は、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの作用により、一般式(1)で表される化合物におけるArgとYとの間のアミド結合が加水分解を通して、その後、p-ニトロフェノールの切断・遊離が起こり、アルカリ下で黄色の発色が起こる。前記発色の量は、分光光度計を用い、波長400nmでの吸収値を測定することで定量することができる。
【0035】
前記酸性プロテアーゼの活性測定方法で測定する試料としては、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼを含有すると考えられるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、米麹等の麹菌A. oryzaeの固体培養物の抽出液若しくは液体培養液、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの酵素剤を含有する溶液などが挙げられる。
【0036】
前記試料の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、試料が固体の場合には、一旦精製水又は適当な緩衝液に溶解又は懸濁させることが好ましい。また、必要に応じて、不溶物をろ過などの操作で除去してもよい。
前記試料の調製の温度や時間等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記酸性プロテアーゼの活性測定における基質は、例えば、本発明の一般式(1)で表される化合物を含有する溶液(以下、「合成基質溶液」と称することがある。)として用いることができる。
【0038】
前記合成基質溶液の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に懸濁した原液を調製し、これをもとにして、マッキルベイン緩衝液(pH3.0)などで希釈して、合成基質溶液とする方法などが挙げられる。
【0039】
前記試料と、前記合成基質溶液とを反応させ、発色を測定する試験(以下、「発色反応試験」と称することがある。)の条件としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
前記発色反応試験における酵素反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2分間~60分間が挙げられる。これらの中でも、短時間で良好な測定結果が得られる点で、10分間超30分間未満が好ましく、20分間がより好ましい。
前記酵素反応におけるpH及び温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH3.0程度、40℃程度が好ましい。
【0041】
前記発色反応試験における失活反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2分間~5分間が挙げられる。これらの中でも、短時間で良好な測定結果が得られる点で、4分間超が好ましく、5分間がより好ましい。
前記失活反応におけるpH及び温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH7.0程度、100℃程度が好ましい。
【0042】
前記発色反応試験において、発色させる際のpHとしては、発色団に応じて適宜選択することができ、例えば、発色団として、p-ニトロフェノールを用いた場合には、pH10.0程度が好ましい。
【0043】
本発明の酸性プロテアーゼの活性測定方法は本発明の化合物を基質として用いるので、後述する実施例の欄に示すように、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡便に、短時間で、再現性良く測定することができる。
【0044】
(麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定用組成物)
本発明の麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定用組成物(以下、「酸性プロテアーゼの活性測定用組成物」と称することがある。)とは、上記した本発明の化合物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0045】
-化合物-
前記化合物は、上記した本発明の化合物である。
前記酸性プロテアーゼの活性測定用組成物は、前記化合物のみからなるものであってもよいし、後述するその他の構成を含むものであってもよい。
【0046】
-その他の構成-
前記酸性プロテアーゼの活性測定用組成物におけるその他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、測定する試料の調製に用いる精製水、緩衝液、合成基質溶液の調製に用いる有機溶媒、緩衝液、失活反応や発色反応の際にpHを調整するために用いるpH調整剤、酸性プロテアーゼの活性を測定する方法が記載された説明書などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の酸性プロテアーゼの活性測定用組成物は本発明の化合物を含むので、後述する実施例の欄に示すように、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡便に、短時間で、再現性良く測定することができる。
【実施例
【0048】
以下、試験例及び製造例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0049】
(試験例1:ペプチド配列のスクリーニング)
麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの基質に適したペプチド配列のスクリーニングを以下のようにして行なった。
【0050】
<一次スクリーニング>
-米麹からの粗酵素サンプルの調製-
米麹から粗酵素サンプルの調製は、国税庁所定分析法に拠った。即ち、米麹10gに50mLの0.5%NaCl、10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を加え、室温で3時間(もしくは5℃で一晩)粗酵素の抽出を行った後、ろ紙ろ過を行い、ろ液を粗酵素サンプルとした。
【0051】
-一次スクリーニング-
株式会社ペプチド研究所製の「FRETS25Xaa-シリーズ」を用いて、一次スクリーニングを行なった。
前記「FRETS25Xaa-シリーズ」は、蛍光基(Nma)と消光基(Dnp)をそれぞれD-Apr(D型の2,3-ジアミノプロピオン酸)とLysの側鎖に有するFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)タイプの消光性蛍光基質である(下記構造式参照)。なお、下記構造式中の「Xaa」にはCys以外の19種類の天然アミノ酸がそれぞれ導入されており、「Yaa」と「Zaa」にはそれぞれ性質の異なる5種類のアミノ酸の混合物(Yaaでは、Pro、Tyr、Lys、Ile、Asp、Zaaでは、Phe、Ala、Val、Glu、Arg)が導入されている。その結果、各Xaaシリーズは25種類(5×5)の基質混合物となっており、ライブラリー全体としては、475種類(19×25)の基質で構成されている。
【化6】
前記基質は、酵素によりD-Apr(Nma)とLys(Dnp)の間が切断されると、分子内のDnp基で消光されていたNma基の蛍光強度(λex=340nm、λem=440nm)が増加する。なお、酵素による切断の割合と蛍光強度の増加には正の相関が認められている。
【0052】
-測定-
前記「FRETS25Xaa-シリーズ」のそれぞれをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、pH3のマキルベイン緩衝液にて10μMに調製したものを基質液とした。
前記基質液190μLに、前記粗酵素サンプルを10μL加え、蛍光強度をマイクロプレートリーダーでトレースした。
結果を図1に示す。
【0053】
図1の横軸は前記Xaaの各アミノ酸を示し、縦軸は蛍光強度を示す。図1に示されるように、前記Xaaのアミノ酸が、Arg、Glu、Ile、Metの場合に、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼによる切断をうけやすいことがわかった。
【0054】
-二次スクリーニング-
前記一次スクリーニングで麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼによる切断をうけやすいことがわかった、前記Xaaのアミノ酸が、Arg、Glu、Ile、Metの場合の水解断片をLC-MSで分析し、切断により多く生じている分子種を特定した。なお、水解断片は、酵素反応時間が10分間のものを分析した。
【0055】
その結果、前記Xaaのアミノ酸がArgの場合では、D-Apr(Nma)-GFIR、D-Apr(Nma)-GR、D-Apr(Nma)-GRIR、D-Apr(Nma)-GRDR、D-Apr(Nma)-GFDRの順に水解断片の量が多いことが確認された。
また、前記Xaaのアミノ酸がGluの場合では、D-Apr(Nma)-GFKEA、D-Apr(Nma)-GR、D-Apr(Nma)-GVKEA、D-Apr(Nma)-GAKEAの順に水解断片の量が多いことが確認された。
また、前記Xaaのアミノ酸がIleの場合では、D-Apr(Nma)-GR、D-Apr(Nma)-GFKIA、D-Apr(Nma)-GVKIA、D-Apr(Nma)-GEの順に水解断片の量が多いことが確認された。
また、前記Xaaのアミノ酸がMetの場合では、D-Apr(Nma)-GFKMA、D-Apr(Nma)-GR、D-Apr(Nma)-GVKMA、D-Apr(Nma)-GAKMAの順に水解断片の量が多いことが確認された。
【0056】
以上の結果から、GFIR(配列番号:1)、GR、GRIR(配列番号:2)、GRDR(配列番号:3)などのR(アルギニン)の右側で切れている断片が多いことがわかった。また、・・・KMAというパターンの断片も見られた。
なお、前記基質の構造式からわかるように、A(アラニン)の右側はF(フェニルアラニン)という情報しかないのに対し、R(アルギニン)の右側は種々のアミノ酸で切れていることから、FIR又はRIRという配列がより重要と考えた。
【0057】
(製造例1)
-化合物の設計-
上記試験例1の結果から、FIR又はRIRという配列が重要と考えられたが、F(フェニルアラニン)は溶解性が低く、ハンドリングの観点から、RIRを選択した。
ただし、R(アルギニン)が基質中に2箇所あると、最初のRの右側でも切断が起こり、ペプチドのN末端が露出し、その場合、アミノペプチダーゼの反応が起こり、発色団の遊離が起きることが懸念されたため、RをK(リジン)としたKIRを選択し、下記構造式(1)で表される化合物(Ac-D-Arg-Lys-Ile-Arg-Abu(Me,CO-pNP)-Pro-D-Arg-NH)を設計した。
下記構造式(1)で表される化合物は、前記Rの右側のペプチド結合を切断点とし、「R-発色団(本製造例では、p-ニトロフェノール(pNP))を有する異常アミノ酸(本製造例では、2,4ジアミノ酪酸(Abu)」という構成を有する。なお、前記異常アミノ酸の右側のアミノ酸は、前記試験例1の基質の配列を参考に、Proとした。また、前記構造式(1)で表される化合物のN末端及びC末端は、エキソペプチダーゼによる分解を防ぐために、D型アミノ酸であるD-Argを選択し、更にN末端はアセチル化、C末端はアミド化した。
【化7】
【0058】
-化合物の製造-
--Fmocアミノ酸ユニットの合成--
[Boc-A2bu(Ns)-OtBuの合成]
【化8】
THF-H2O(100mL-50mL)中、Boc-A2bu-OtBu・HCl(5.0g、16mmol)、2-ニトロベンゼンスルホニルクロリド(3.9g、18mmol)、炭酸カリウム(11g、80mmol)を室温で1時間反応させた後、タウリン(0.40g、3.2mmol),トリエチルアミン(0.45mL、3.2mmol)の水溶液を加えて更に室温で1.5時間撹拌した。反応液に酢酸エチル、水を加えて、有機層を飽和重曹水(×3)、1N塩酸(×2)、飽和食塩水(×2)で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。有機層を減圧下濃縮し、得られたオイルをそのまま次の工程で用いた(収量:7.7g)。
なお、Bocはtert-ブトキシカルボニル、tBuはtert-ブチル、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0059】
[TFA・H-A2bu(N-Me, Ns)-OHの合成]
【化9】
ジメチルホルムアミド(DMF)(100mL)中,Boc-A2bu(Ns)-OtBu(オイル 7.7g)、ヨウ化メチル(1.4mL、23mmol)、炭酸カリウム(3.1g、23mmol)を室温で1時間反応させた。反応液に酢酸エチル、水を加えて、有機層を飽和重曹水(×3)、1N塩酸(×2)、飽和食塩水(×1)で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。有機層を濃縮し、トリフルオロ酢酸(100mL)を加えて室温にて1.5時間撹拌した後、減圧下濃縮しジエチルエーテルにて沈澱化した。得られた沈澱を120mLの33%酢酸水(0.1%トリフルオロ酢酸含有)に溶かして、逆相HPLCにて精製した。目的物を含むフラクションを凍結乾燥し、掲題化合物を凍結乾燥粉末として得た(収量:6.0g、14mmol)。
【0060】
[Fmoc-A2bu(N-Me, Ns)-OHの合成]
【化10】
MeCN-H2O(50mL-50mL)中、TFA・H-A2bu(N-Me, Ns)-OH(6.0g、14mmol)、Fmoc-OSu(4.6g、14mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(5.9mL、35mmol)を室温にて25分撹拌した後、反応液に酢酸エチル、水を加えて、有機層を1N塩酸(×3)、飽和食塩水(×3)で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。有機層を濃縮、終夜乾燥し、白色の固体を得た(収量:7.1g、13mmol、純度99%以上(HPLC法)、分子量:観測値540.3、理論値540.1(M+H))。
【0061】
--構造式(1)で表される化合物の合成--
[Ac-D-Arg-Lys-Ile-Arg-A2bu(Me,CO-pNP)-Pro-D-Arg-NH2
Fmoc-A2bu(N-Me, Ns)-OHを用いつつ、0.3mmolのRink amide樹脂上にCHL/DIC-oxyma法で保護ペプチドを構築した後、DMF(10mL)中、ジアザビシクロウンデセン(0.36mL、2.4mmol)、メルカプトエタノール(0.21mL、3.0mmol)を加えて室温にて20分撹拌し、A2buの側鎖を脱保護した。得られた樹脂のうちの半分(0.15mmol)に塩化メチレン(8mL)とクロロぎ酸4-ニトロフェニル(0.15g、0.75mmol)を加えて室温にて撹拌した。得られた保護ペプチド樹脂に20mLのトリフルオロ酢酸カクテル(TFA/TIS/DMB/H2O=92.5/2.5/2.5/2.5)を加えて、室温にて1.5時間撹拌し、脱保護・脱樹脂した。樹脂を濾去した後、トリフルオロ酢酸溶液を濃縮し、ジエチルエーテルで粗ペプチドを固化・濾取した。最後に、得られた粗ペプチドを0.1%トリフルオロ酢酸水に溶かして、逆相HPLCにて精製した。目的物を含むフラクションを凍結乾燥し、掲題化合物を凍結乾燥粉末として得た(収量:93mg、純度99%以上(HPLC法)、分子量:観測値1145.6、理論値1145.7(M+H))。
【0062】
(製造例2:構造式(2)で表される化合物の合成)
出発物質をBoc-A2bu-OtBu・HClからBoc-A2pr-OtBu・HClに変更した以外は、前記製造例1と同様の工程にて合成を行い、下記構造式(2)で表される化合物を得た(収量:92mg、純度95%(HPLC法)、分子量:観測値1131.7、理論値1131.6(M+H))。
【化11】
【0063】
(試験例2:構造式(1)で表される化合物を用いた発色反応試験)
<酵素剤溶液の調整>
酵素剤は、天野エンザイム株式会社製Aspergillus oryzae由来の酸性プロテアーゼ酵素剤「プロテアーゼ M「アマノ」SD」(以下、「酵素剤」と表記)を使用した。前記酵素剤のAP力価が100U/mL、200U/mL、300U/mL、400U/mL、又は500U/mLとなるように滅菌水で希釈して酵素剤溶液とし、実験に使用した。
【0064】
<合成基質溶液の調整>
前記製造例1で得られた構造式(1)で表される化合物を2mMとなるようにDMSOに懸濁し、これを原液とした。その後、構造式(1)で表される化合物の濃度が500μMとなるように、前記原液をマッキルベイン緩衝液(pH3.0)で希釈し、合成基質溶液を調整した。
【0065】
<発色反応試験>
発色反応試験は、上記で調整した各酵素剤溶液及び500μMの合成基質溶液を使用し、以下のようにして行なった。なお、ブランクは滅菌水とした。
500μMの合成基質溶液50μLに対して、各酵素剤溶液及び滅菌水を50μL加え、pH3.0、40℃で、2分間、5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、又は60分間酵素反応させた。その後、酵素反応溶液に0.4M 炭酸ナトリウム溶液を15μL添加し、pH7.0とし、100℃で2分間、3分間、4分間、又は5分間失活反応させた。
化学反応終了後、0.4M 炭酸ナトリウム溶液を185μL添加し、pH10.0として発色反応させ、マイクロプレートリーダー(TECAN社製)にて波長400nmの吸光度(発色値)を測定した。
【0066】
上記発色反応試験の結果、酵素反応時間20分間、失活反応5分間の場合(以下、「最適条件」と称することがある。)に、最も短時間で良好な発色値とAP力価の直線性が得られることを確認した(図2参照)。
【0067】
(試験例3-1:国税庁所定分析法との相関性の確認-1)
<国税庁所定分析法>
米麹からの粗酵素抽出液の調製は、国税庁所定分析法により実施した。すなわち、麹菌Aspergillus oryzae由来の米麹10gに対して、pH5.0に調整した粗酵素抽出バッファー(0.01M酢酸緩衝液+0.5% NaCl)を50mL加え、常温で3時間(又は5℃で一夜)静置し、フィルター濾過し、粗酵素抽出液を得た。前記粗酵素抽出液について、国税庁所定分析法(第四回国税庁所定分析法注解、社団法人日本醸造協会、1993)に従って、AP活性を求めた。
【0068】
<構造式(1)で表される化合物を用いた方法>
前記試験例2において最も短時間で良好な発色値とAP力価の直線性が得られた、酵素反応時間20分間、失活反応5分間の条件で、試験例2と同様にして、発色反応試験を行なった。
【0069】
結果を図3に示す。図3に示されるように、国税庁所定分析法で得られるAP活性と、構造式(1)で表される化合物を用いた方法(以下、「合成ペプチド法」と称することがある。)で得られる発色値との間に、良好な直線性が確認できた。
【0070】
(試験例3-2:国税庁所定分析法との相関性の確認-2)
前記試験例3-1において構造式(1)で表される化合物を用いていた点を、前記製造例2で得られた構造式(2)で表される化合物に代えた以外は同様にして、発色反応試験を行なった。
【0071】
その結果、構造式(2)で表される化合物を用いた場合では、p-ニトロフェノールの非酵素的遊離によるブランクの着色があったものの、国税庁所定分析法で得られるAP活性との間である程度の相関性が認められた。
【0072】
したがって、本発明の化合物を用いることにより、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性を簡易に、迅速かつ正確に分析することができることが確認された。
【0073】
(試験例4:中性プロテアーゼを用いた発色反応試験)
<酵素剤溶液の調整>
酵素剤は、天野エンザイム株式会社製Aspergillus oryzae由来の中性プロテアーゼ酵素剤「プロテアーゼ A「アマノ」SD」(以下、「酵素剤」と表記)を使用した。前記酵素剤の濃度が1%となるように滅菌水で懸濁し、原液とした。前記原液を50倍、100倍、500倍、又は1,000倍希釈して酵素剤溶液とし、実験に使用した。
【0074】
<合成基質溶液の調整>
前記試験例2の<合成基質溶液の調整>において、希釈に用いたマッキルベイン緩衝液(pH3.0)をマッキルベイン緩衝液(pH7.0)に代えた以外は同様にして、合成基質溶液を調整した。
【0075】
<発色反応試験>
前記試験例2における最適条件で、発色反応試験を行なった。
【0076】
上記発色反応試験の結果、中性プロテアーゼを用いた場合に得られる発色値は微弱であり、前記構造式(1)で表される化合物と、中性プロテアーゼとの間では反応が生じていないことがわかった。
【0077】
(試験例5:河内麹粗酵素抽出液を用いた発色反応試験)
<粗酵素抽出液の調製>
国税庁所定分析法に従い、白麹菌(Aspergillus kawachii)由来の米麹10gに対して、pH5.0に調整した粗酵素抽出バッファー(0.01M酢酸緩衝液+0.5% NaCl)を50mL加え、常温で3時間(又は5℃で一夜)静置し、フィルター濾過し、粗酵素抽出液を得た。
【0078】
<合成基質溶液の調整>
前記試験例2の<合成基質溶液の調整>と同様にして、合成基質溶液を調整した。
【0079】
<発色反応試験>
前記試験例2における最適条件で、発色反応試験を行なった。
【0080】
上記発色反応試験の結果、河内麹粗酵素抽出液を用いた場合には発色値の上昇が認められず、前記構造式(1)で表される化合物と、河内麹粗酵素抽出液との間では反応が生じていないことがわかった。
【0081】
以上の結果から、前記構造式(1)で表される化合物は、麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼに特異的に反応することが確認された。
【0082】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 下記一般式(1)で表される構造を少なくとも含み、かつ、N末端及びC末端にエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造を有することを特徴とする化合物である。
-X-Arg-Y ・・・ 一般式(1)
前記一般式(1)中、XはLys及びArgのいずれかであり、XはIle及びMetのいずれかであり、Yは、下記構造式(a)で表される:
【化12】
前記構造式(a)中、*1は前記一般式(1)におけるArgとの結合点を示し、*2はアミノ酸との結合点及びNHのいずれかを示し、mは1、2、3及び4のいずれかであり、ZはO、NH、N-C1-6アルキル、S及びCHのいずれかであり、cargoは発色団を示す。
<2> 前記XがLysであり、前記XがIleである前記<1>に記載の化合物である。
<3> 前記mが、1及び2のいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の化合物である。
<4> 前記cargoが、下記構造式(b1)~(b3)で表されるいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の化合物である。
【化13】
前記構造式(b1)~(b3)中、波線は分子の残部との結合点を示す。
<5> 前記N末端及びC末端におけるエキソプロテアーゼによる切断を防ぐ構造が、N末端では、D型アミノ酸若しくはアミノ基がアセチル化された構造であり、C末端では、D型アミノ酸若しくはカルボキシル基がアミド化された構造である前記<1>から<4>のいずれかに記載の化合物である。
<6> 下記構造式(1)で表される前記<1>から<5>のいずれかに記載の化合物である。
【化14】
<7> 麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの基質として用いられる前記<1>から<6>のいずれかに記載の化合物である。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の化合物を基質として用いることを特徴とする麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定方法である。
<9> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の化合物を含有することを特徴とする麹菌A. oryzaeの酸性プロテアーゼの活性測定用組成物である。
図1
図2
図3
【配列表】
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