(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】分割型摺動環の製造方法及び分割型摺動環用環体
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220304BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
F16J15/34 E
F16C17/04 Z
(21)【出願番号】P 2018195225
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸雄
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-040327(JP,A)
【文献】特開2002-013646(JP,A)
【文献】特開2003-160349(JP,A)
【文献】特開2005-074951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F16C 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルシールに用いられる分割型摺動環の製造方法であって、
円環状のリングの内周部又は外周部に、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を、前記リングの周方向に間隔をあけて2箇所に設ける切込溝形成工程と、
前記リングに対して径方向の外側又は内側から負荷を加え、前記切込溝を起点とした不規則な形状の分割面を両端に有する第1分割体と第2分割体に前記リングを分割する分割工程と
を備え、
前記切込溝形成工程では、前記切込溝の先端に、前記第1面の方に位置する第1曲率半径の第1湾曲部と、前記第2面の方に位置し、前記第1曲率半径よりも小さい第2曲率半径の第2湾曲部とを形成する、分割型摺動環の製造方法。
【請求項2】
前記第2面には、他の摺動環と摺接される摺接部が形成されている、請求項1に記載の分割型摺動環の製造方法。
【請求項3】
前記切込溝形成工程では、前記切込溝を前記リングの非対称位置に設ける、請求項1又は2に記載の分割型摺動環の製造方法。
【請求項4】
前記分割工程の前に、前記第1面の前記切込溝近傍に、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝を設ける補助溝形成工程を備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の分割型摺動環の製造方法。
【請求項5】
メカニカルシールに用いられる分割型摺動環の製造方法であって、
円環状のリングの内周部又は外周部に、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を、前記リングの周方向に間隔をあけて2箇所に設ける切込溝形成工程と、
前記第1面の前記切込溝近傍に、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝を設ける補助溝形成工程と、
前記リングに対して径方向の外側又は内側から負荷を加え、前記切込溝を起点とした不規則な形状の分割面を両端に有する第1分割体と第2分割体に前記リングを分割する分割工程と
を備える、分割型摺動環の製造方法。
【請求項6】
メカニカルシールに用いられる分割型摺動環を製造するための環体であって、
円環状のリングの内周部又は外周部の周方向へ間隔をあけた2箇所に設けられ、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を備え、
前記切込溝の先端に、前記第1面の方に位置する第1曲率半径の第1湾曲部と、前記第2面の方に位置し、前記第1曲率半径よりも小さい第2曲率半径の第2湾曲部とを有する、分割型摺動環用環体。
【請求項7】
メカニカルシールに用いられる分割型摺動環を製造するための環体であって、
円環状のリングの内周部又は外周部の周方向へ間隔をあけた2箇所に設けられ、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝と、
前記第1面の前記切込溝近傍に設けられ、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝と
を備える、分割型摺動環用環体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型摺動環の製造方法及び分割型摺動環用環体に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、回転軸と一体に回転する回転環と、シールカバーに固定された固定環とを備え、これらの摺接によってシール面が構成されている。回転環と固定環は、摺動によって摩耗すると、交換する必要がある。交換時、流体機械のモータの取り外しを不要とするために、回転環、固定環、及びシールカバーを周方向に2分割して構成した分割型メカニカルシールが知られている。しかし、回転環及び固定環を含む分割型摺動環では、組付時に分割面の位置合わせが不十分な場合、シール面(摺接面)に生じた段差から液漏れする虞がある。
【0003】
特許文献1には、分割面の位置合わせ精度の向上を目的とした分割型摺動環の製造方法が開示されている。この特許文献1では、円環状リングの内周部の対向位置にV字状の切込溝(ノッチ)を設け、リングの内側から外側へ負荷を加えることで、リングを第1分割体と第2分割体に分割している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の分割型摺動環では、第1分割体と第2分割体の両端に、切込溝を起点として破断された不規則な形状の分割面を備えるため、軸方向における位置合わせ精度を向上できる。しかし、特許文献1の製造方法では、分割面の周方向の変位が少ないため、位置合わせに関する精度向上について改良の余地がある。
【0006】
本発明は、分割型摺動環の軸方向、周方向及び径方向の変位が多い分割面を分割体に形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様は、メカニカルシールに用いられる分割型摺動環の製造方法であって、円環状のリングの内周部又は外周部に、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を、前記リングの周方向に間隔をあけて2箇所に設ける切込溝形成工程と、前記リングに対して径方向の外側又は内側から負荷を加え、前記切込溝を起点とした不規則な形状の分割面を両端に有する第1分割体と第2分割体に前記リングを分割する分割工程とを備え、前記切込溝形成工程では、前記切込溝の先端に、前記第1面の方に位置する第1曲率半径の第1湾曲部と、前記第2面の方に位置し、前記第1曲率半径よりも小さい第2曲率半径の第2湾曲部とを形成する、分割型摺動環の製造方法を提供する。
【0008】
この分割型摺動環の製造方法によれば、リングに対して負荷を加えると、小さい第2曲率半径とした第2面の方に応力が集中し、第2面の方から第1面の方へ亀裂が生じる。亀裂はリングの軸方向、周方向及び径方向へ不規則に進むため、第1分割体と第2分割体に形成される分割面の軸方向、周方向及び径方向の変位が多い。よって、組付時、複雑な三次元形状の分割面によって第1分割体と第2分割体を正確に位置合わせできるため、調心精度を効果的に向上できる。その結果、分割型摺動環の摺接面での段差の発生を防止できるため、この分割型摺動環を用いたメカニカルシールの液漏れを効果的に抑制できる。
【0009】
前記第2面には、他の摺動環と摺接される摺接部が形成されている。つまり、切込溝の曲率半径は、摺接部を有する第2面の方を小さくしている。
【0010】
前記切込溝形成工程では、前記切込溝を前記リングの非対称位置に設ける。この態様によれば、第1分割体及び第2分割体の分割面の周方向の位置合わせを高精度に行えるため、調心精度を向上できる。
【0011】
前記分割工程の前に、前記第1面の前記切込溝近傍に、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝を設ける補助溝形成工程を備える。この態様によれば、負荷による亀裂が切込溝から補助溝に誘導されるため、複雑な三次元形状の分割面を第1分割体と第2分割体に確実に形成できる。
【0012】
本発明の第2態様は、メカニカルシールに用いられる分割型摺動環の製造方法であって、円環状のリングの内周部又は外周部に、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を、前記リングの周方向に間隔をあけて2箇所に設ける切込溝形成工程と、前記第1面の前記切込溝近傍に、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝を設ける補助溝形成工程と、前記リングに対して径方向の外側又は内側から負荷を加え、前記切込溝を起点とした不規則な形状の分割面を両端に有する第1分割体と第2分割体に前記リングを分割する分割工程とを備える、分割型摺動環の製造方法を提供する。
【0013】
この分割型摺動環の製造方法によれば、第1態様と同様に、軸方向、周方向及び径方向の変位が多い分割面を第1分割体と第2分割体に確実に形成できる。よって、組付時、複雑な三次元形状の分割面によって、第1分割体と第2分割体を正確に位置合わせできるため、調心精度を効果的に向上できる。その結果、分割型摺動環の摺接面での段差の発生を防止できるため、この分割型摺動環を用いたメカニカルシールの液漏れを効果的に抑制できる。
【0014】
本発明の第1態様に用いられる分割型摺動環用環体は、メカニカルシールに用いられる分割型摺動環を製造するための環体であって、円環状のリングの内周部又は外周部の周方向へ間隔をあけた2箇所に設けられ、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝を備え、前記切込溝の先端に、前記第1面の方に位置する第1曲率半径の第1湾曲部と、前記第2面の方に位置し、前記第1曲率半径よりも小さい第2曲率半径の第2湾曲部とを有する。
【0015】
本発明の第2態様に用いられる分割型摺動環用環体は、メカニカルシールに用いられる分割型摺動環を製造するための環体であって、円環状のリングの内周部又は外周部の周方向へ間隔をあけた2箇所に設けられ、前記リングの径方向に窪み、前記リングの軸方向の第1面から第2面にかけて貫通する切込溝と、前記第1面の前記切込溝近傍に設けられ、前記第1面から前記第2面に向けて窪み、前記リングの内周部から外周部にかけて貫通する補助溝とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、軸方向、周方向及び径方向の変位が多い複雑な三次元形状の分割面を、第1分割体と第2分割体の両端に確実に形成できるため、組付時、分割面を正確に位置合わせできる。よって、分割型摺動環の摺接面での段差の発生を防止できるため、この分割型摺動環を用いたメカニカルシールの液漏れを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る摺動環を用いた分割型メカニカルシールの平面図。
【
図6】切込溝形成工程の第1ステップを示す断面図。
【
図7A】分割工程による第2面側の亀裂を示す背面図。
【
図7B】分割工程による第1面側の亀裂を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1から
図3は、本発明の第1実施形態に係る分割型摺動環を用いた分割型メカニカルシール(以下「メカニカルシール」と略す。)10を示す。
図2及び
図3に示すように、メカニカルシール10は、シール面45を構成するシート(回転環)20とワッシャ(固定環)30を備えており、これらが本発明の分割型摺動環である。
【0020】
まず、メカニカルシール10の概要について説明する。
【0021】
図2及び
図3に示すように、メカニカルシール10は、回転機械(例えば立軸ポンプ)のケーシング1の内部の液体(例えば揚水)が外部(大気側)に漏出することを防ぐために、ケーシング1における回転軸2が貫通される部分に配置される。
図2及び
図3では、メカニカルシール10の下側がケーシング1内に連通している。以下の説明では、
図2及び
図3において下側を内部側といい、
図2及び
図3において上側を外部側ということがある。
【0022】
メカニカルシール10は、シートホルダ12、シート20、及びワッシャ30を備え、これらがシールカバー50(封止液室52)内に配置されている。シールカバー50内には留め金60と押金70が更に配置され、シールカバー50の外部側の端がプレート75によって覆われている。
図2を参照すると、プレート75と押金70の間にはコイルスプリング83が配置されており、このコイルスプリング83によって、押金70を介してワッシャ30がシート20に向けて付勢されている。
【0023】
メカニカルシール10は、シート20とワッシャ30によって、ケーシング1内に連通した封止液室52から、大気に連通した回転軸2側(径方向内側)への液体の流出を防ぐインサイド型である。回転軸2が回転すると、シートホルダ12とシート20が回転軸2と一体に回転し、シールカバー50に固定されたワッシャ30に対してシート20が摺接する。シート20とワッシャ30の摺接部分により構成されるシール面45によって、封止液室52から回転軸2に向けた液体の流動を阻止する。
【0024】
図3を参照すると、回転軸2に対してシートホルダ12は、ケーシング1の近傍に位置するように配置され、セットボルト15によって固定されている。
【0025】
シート20は、シートホルダ12の外部側の取付凹部16に取り付けられている。シートホルダ12に対するシート20の周方向の回転は、取付凹部16に配置されたピン17によって規制されている。これにより、シート20は、シートホルダ12を介して回転軸2と一体に回転する。
【0026】
ワッシャ30は、シート20の外部側に位置するようにシールカバー50内に配置されている。
図2を参照すると、留め金60、押金70及びプレート75を貫通したドライブピン80によって、シールカバー50に対するワッシャ30の周方向の回転が規制され、シールカバー50に対するワッシャ30の軸方向の移動が許容されている。
【0027】
シールカバー50は、回転軸2が貫通される貫通孔51と、環状の封止液室52とを備える。
図3を参照すると、回転軸2に沿って貫通されたボルト55をボルト穴1aに締め付けることで、シールカバー50がケーシング1に固定されている。
【0028】
留め金60は、プレート75の内部側に配置されている。留め金60は、
図2を参照するとボルト63によってシールカバー50に固定され、
図3を参照するとボルト64によってプレート75に固定されている。
【0029】
押金70は、留め金60とワッシャ30の間に配置されている。留め金60を貫通したコイルスプリング83の一端が押金70に配置され、コイルスプリング83の他端がプレート75に配置されている。コイルスプリング83の付勢によって押金70は、ワッシャ30をシート20に向けて押圧(付勢)する。なお、
図1及び
図3中の符号73は、プレート75と押金70の間にコイルスプリング83を保持するためのボルトである。ボルト73は、組付時と分解時に用いられ、コイルスプリング83の付勢力がワッシャ30に加わらないように、プレート75に対して押金70を係着する。通常の使用時、ボルト73は取り外される。
【0030】
本実施形態のメカニカルシール10は、シートホルダ12、シート20、ワッシャ30、シールカバー50、留め金60、押金70、及びプレート75を、それぞれ周方向に2分割した全分割型である。つまり、シートホルダ12は、第1保持部材13Aと第2保持部材13Bを備える環状体である。シート20は、第1回転部材21Aと第2回転部材21Bを備える環状体である。ワッシャ30は、第1固定部材31Aと第2固定部材31Bを備える環状体である。シールカバー50は、第1カバー部材53Aと第2カバー部材53Bを備える環状体である。留め金60は、第1連結部材61Aと第2連結部材61Bを備える環状体である。押金70は、第1押圧部材71Aと第2押圧部材71Bを備える環状体である。プレート75は、第1プレート部材76Aと第2プレート部材76Bを備える環状体である。
【0031】
図1を参照すると、シートホルダ12を構成する保持部材13A,13Bは半円環状であり、これらの分割面14は、
図1において左右(第1方向)に延びている。シート20を構成する回転部材21A,21Bは半円環状であり、これらの分割面22は、
図1において概ね上下(第2方向)に延びている。ワッシャ30を構成する固定部材31A,31Bは半円環状であり、これらの分割面32は、
図1において概ね左右に延びている。シールカバー50を構成するカバー部材53A,53Bは半円環状であり、これらの分割面54は、
図1において上下に延びている。留め金60を構成する連結部材61A,61Bは半円環状であり、これらの分割面62は、
図1において上下に延びている。押金70を構成する押圧部材71A,71Bは半円環状であり、これらの分割面72は、
図1において上下に延びている。プレート75を構成するプレート部材76A,76Bは半円環状であり、これらの分割面77は、
図1において上下に延びている。
【0032】
この全分割型のメカニカルシール10では、留め金60からプレート75を取り外し、ケーシング1からシールカバー50を径方向外向きに取り外すことで、シート20とワッシャ30の取り外しと取り付けが可能である。よって、回転軸2の先端のモータを取り外すことなく、消耗部品であるシート20、ワッシャ30、及びコイルスプリング83等を交換できる。
【0033】
以下、本発明の分割型摺動環であるシート20とワッシャ30について、具体的に説明する。
【0034】
(シートの概要)
図2及び
図3に示すように、組付状態のシート20は、断面が概ね四角形状の円環状リングである。
図2及び
図3において上側に位置するシート20の端面の一部は、ワッシャ30との摺接によりシール面45を構成する摺接面(摺接部)20aである。
【0035】
シート20を構成する第1回転部材21Aと第2回転部材21Bは、回転軸2の軸方向から見て概ね半円環状に形成されている。回転部材21A,21Bの外周には、段部23がそれぞれ設けられている。シートホルダ12に形成された取付凹部16と段部23との間には、これらの間をシールするシール部材24が配置されている。このシール部材24の弾性力によって、回転部材21A,21Bが円環状に保持され、取付凹部16内にシート20がフローティング状態で保持されている。
図3を参照すると、回転部材21A,21Bの下側には、シートホルダ12のピン17が係止される係止溝25がそれぞれ設けられている。係止溝25へのピン17の係止によって、シートホルダ12に対するシート20の周方向の回転が規制され、シートホルダ12に対するシート20の軸方向の移動が許容される。
【0036】
(ワッシャの概要)
引き続いて
図2及び
図3を参照すると、組付状態のワッシャ30は、シート20よりも軸方向の寸法が長い円環状リングである。
図2及び
図3において下側に位置するワッシャ30の端面には、シート20に向けて突出する断面四角形状の凸部(摺接部)30aが設けられている。この凸部30aの先端面が、シート20との摺接によりシール面45を構成する摺接面30bである。
【0037】
ワッシャ30を構成する第1固定部材31Aと第2固定部材31Bは、回転軸2の軸方向から見て概ね半円環状に形成されている。固定部材31A,31Bの外周には、段部33がそれぞれ設けられている。シールカバー50と段部33との間には、これらの間をシールするシール部材34が配置されている。このシール部材34の弾性力によって、固定部材31A,31Bが円環状に保持され、シールカバー50内にワッシャ30が保持されている。
図2を参照すると、固定部材31A,31Bの外部側の端面には、周方向に間隔をあけて係止溝35がそれぞれ設けられている。ドライブピン80の先端の係止部81が係止溝35に係止されることで、ワッシャ30の周方向の回転が規制され、回転軸2の軸方向におけるワッシャ30の移動が許容される。
【0038】
回転軸2へのシート20とワッシャ30の組み付けは、以下のように行われる。
【0039】
まず、分割面22にグリスを塗布した第1回転部材21Aと第2回転部材21Bを回転軸2の外周に配置する。そして、第1回転部材21Aと第2回転部材21Bの軸方向、周方向及び径方向の位置を合わせて分割面22(摺接面20a)の段差を無くし、これらをグリスの粘着力によって一体化する。次に、分割面32にグリスを塗布した第1固定部材31Aと第2固定部材31Bを回転軸2の外周に配置し、これらをシート20上に載置する。そして、第1固定部材31Aと第2固定部材31Bの軸方向、周方向及び径方向の位置を合わせて分割面32(摺接面30b)の段差を無くし、これらをグリスの粘着力によって一体化する。
【0040】
分割面22,32が平坦な場合、分割面22同士及び分割面32同士の軸方向と径方向の位置合わせが困難である。組付後、回転部材21A,21B及び固定部材31A,31Bのうちの一方でも段差を有する場合、シート20とワッシャ30の摺接面20a,30b間に隙間が生じる。この場合、隙間を通してケーシング1の内部から外部へ液漏れが生じる。この問題を防止するために、本発明では、回転部材21A,21Bの分割面22及び固定部材31A,31Bの分割面32を高精度に位置合わせ可能とする。
【0041】
(シートとワッシャの詳細)
シート20を構成する回転部材21A,21Bは、
図4Aから
図4Cに示す環体(分割型摺動環用環体)26を2分割することで形成される。ワッシャ30を構成する固定部材31A,31Bは、
図5Aから
図5Cに示す環体(分割型摺動環用環体)36を2分割することで形成される。環体26,36は、セラミック、カーボン等の脆性材からなる円環状のリング27,37である。リング27には、前述した摺接面20aを含む端面、段部23、及び係止溝25が予め形成されている。リング37には、前述した摺接面30bを含む凸部30a、段部33、及び係止溝35が予め形成されている。
【0042】
リング27,37は、回転軸2の直径よりも大きい直径の内周部27a,37aを備える。この内周部27a,37aの対向位置の2箇所に切込溝40を形成し、リング27,37に対して径方向の外側から内側へ負荷Fを加えることで、切込溝40を起点としてリング27,37を破断し、回転部材21A,21Bと固定部材31A,31Bをそれぞれ形成する。
【0043】
図4Aから
図4C及び
図5Aから
図5Cを参照すると、切込溝40は、リング27,37の径方向外側へ窪み、リング27,37の軸方向の第1面27c,37cから第2面27d,37dにかけて貫通している。リング27の第1面27cとは、係止溝25が形成された端面であり、リング27の第2面27dとは、第1面27cの反対側に位置し、摺接面20aを含むシート20の端面である。リング37の第1面37cとは、係止溝35が形成された端面であり、リング37の第2面37dとは、第1面37cの反対側に位置し、摺接面30bを含む凸部30aが突設されたワッシャ30の端面である。
【0044】
リング27,37の軸方向から見た切込溝40の形状は、概ねV字状である。より具体的には、切込溝40は、リング27,37の内側から外側に向けて次第に近づくように傾斜した一対の傾斜部40aと、一対の傾斜部40aの先端に設けられた曲面状の連続部40bとを備える。リング27,37の径方向における切込溝40の先端である連続部40bの曲率半径r1,r2は、第1面27c,37cの方と第2面27d,37dの方とで異なる。つまり、連続部40bは、第1面27c,37cの方に位置する第1曲率半径r1の第1湾曲部40cと、第2面27d,37dの方に位置する第2曲率半径r2の第2湾曲部40dとを備える。
【0045】
図4A及び
図5Aに最も明瞭に示すように、第1湾曲部40cの第1曲率半径r1は、第2湾曲部40dの第2曲率半径r2よりも大きい。これにより、負荷Fによる応力は、第1湾曲部40cよりも第2湾曲部40dに集中する。例えば、レーザ加工によって、リング27,37を貫通するように大きい第1曲率半径r1の第1湾曲部40cを形成した後、第1湾曲部40cの一部を削ることで、第2面27d,37d側に小さい第2曲率半径r2の第2湾曲部40dを形成する。これにより、第1面27c,37c側を第1曲率半径r1の第1湾曲部40cとし、第2面27d,37d側を第2曲率半径r2の第2湾曲部40dとした連続部40bが形成される。
【0046】
一対の傾斜部40a間の角度、つまりV字状の切込溝40の溝角度θ1は、5度よりも大きく180度よりも小さく設定され(5度<θ1<180度)、好ましくは30度よりも大きく150度よりも小さく設定される(30度<θ1<150度)。溝角度θ1を過度に小さくした場合、第1湾曲部40cと第2湾曲部40dの曲率半径r1,r2の差が無くなり、分割時に第1湾曲部40cと第2湾曲部40dの両方に応力が同時に作用し、第2湾曲部40dの方だけに応力を集中できない。一方、溝角度θ1を過度に大きくした場合、第1湾曲部40cの方に作用する応力が分散し、リング27,37が3以上に分割される虞がある。よって、切込溝40の溝角度θ1は、上記設定範囲内に形成することが好ましい。
【0047】
リング27,37の内周部27a,37aの半径をR1、リング27,37の径方向における内周部27a,37aから外周部27b,37bまでの寸法をd1、リング27,37の軸方向の長さ(第1面27c,37cから第2面27d,37dまでの厚み)をL1とすると、第1湾曲部40cの溝深さd2、第1湾曲部40cの第1曲率半径r1、及び第2湾曲部40dの長さL2は、以下のように設定される。
【0048】
第1湾曲部40cの溝深さd2とは、リング27,37の内周部27a,37aから第1湾曲部40cの頂部までの寸法である。この溝深さd2は、0.1mmよりも大きく0.5×d1よりも小さく設定され(0.1mm<d2<0.5×d1)、好ましくは1mmよりも大きく0.3×d1よりも小さく設定される(1mm<d2<0.3×d1)。溝深さd2を過度に浅くした場合、応力を集中させる切込溝40として機能しない。溝深さd2を過度に深くした場合、形成される分割面22,32の面積が過小になる。よって、第1湾曲部40cの溝深さd2は、上記設定範囲内に形成することが好ましい。
【0049】
第1湾曲部40cの第1曲率半径r1は、0.07mmよりも大きく半径R1よりも小さく設定され(0.07mm<r2<R1)、好ましくは0.6mmよりも大きく溝深さd2よりも小さく設定される(0.6mm<r1<d2)。第1曲率半径r1を過度に小さくした場合、第2湾曲部40dの第2曲率半径r2との差が無くなり、分割時に第1湾曲部40cと第2湾曲部40dの両方に応力が同時に作用し、第2湾曲部40dの方だけに応力を集中できない。第1曲率半径r1を過度に大きくした場合、第1湾曲部40cの方に作用する応力が分散し、リング27,37が3以上に分割される虞がある。よって、第1湾曲部40cの第1曲率半径r1は、上記設定範囲内に形成することが好ましい。
【0050】
第2湾曲部40dの第2曲率半径r2は、1μmよりも大きく10mmよりも小さく設定され(1μm<r2<10mm)、好ましくは10μmよりも大きく5mmよりも小さく設定される(10μm<r2<5mm)。第2曲率半径r2は可能な限り小さい方が好ましいが、第1湾曲部40cの形成後、1μm以下の第2湾曲部40dを形成することは技術的に困難である。第2曲率半径r2を過度に大きくした場合、第2湾曲部40dの第2曲率半径r2との差が無くなり、分割時に第1湾曲部40cと第2湾曲部40dの両方に応力が同時に作用し、第2湾曲部40dの方だけに応力を集中できない。よって、第2湾曲部40dの第2曲率半径r2は、上記設定範囲内に形成することが好ましい。
【0051】
第2湾曲部40dの長さL2とは、リング27,37の軸方向における第2湾曲部40dの形成領域の寸法である。この第2湾曲部40dの長さL2は、1mmよりも大きく0.8×L1よりも小さく設定され(1mm<L2<0.8×L1)、好ましくは0.1×L1よりも大きく0.5×L1よりも小さく設定される(0.1×L1<L2<0.5×L1)。長さL2を過度に短くした場合、応力を集中させる第2湾曲部40dとして機能しない。長さL2を過度に長くした場合、第1湾曲部40cが機能せず、リング27,37の周方向における第1面27c,37c側と第2面27d,37d側の破断位置の変位が過小になる。よって、第2湾曲部40dの長さL2は、上記設定範囲内に形成することが好ましい。
【0052】
(分割型摺動環の製造方法)
シート20の回転部材21A,21Bと、ワッシャ30の固定部材31A,31Bとは、リング27,37に切込溝40を形成(切込溝形成工程)した後、リング27,37を2つに分割(分割工程)することで、製造される。前述のように、リング27には、摺接面20a、段部23、及び係止溝25が予め形成されている。また、リング37には、摺接面30bを含む凸部30a、段部33、及び係止溝35が予め形成されている。
【0053】
(切込溝形成工程の概要)
切込溝形成工程では、第1湾曲部40cと第2湾曲部40dを備える切込溝40を、リング27,37の内周部27a,37aの対向位置に形成する。具体的には、切込溝形成工程は、第1湾曲部40cを備える仮溝40’を形成する第1ステップ(
図6参照)と、仮溝40’に第2湾曲部40dを形成して切込溝40を完成させる第2ステップ(
図4C及び
図5C参照)とを備える。
【0054】
図6に示すように、第1ステップでは、上記設定範囲内で定められた溝深さd2及び第1曲率半径r1で、リング27,37の軸方向に貫通するように、内周部27a,37aの対向位置に第1湾曲部40cを備える仮溝40’をそれぞれ形成する。この仮溝40’の形成は、例えばレーザ加工によって行われる。第1ステップは、摺接面20a、段部23、及び係止溝25を備えるリング27を形成する工程、及び摺接面30bを含む凸部30a、段部33、及び係止溝35を備えるリング37を形成する工程と、同時に行ってもよい。
【0055】
第2ステップでは、仮溝40’の第2面27d,37d側を削り、第2曲率半径r2の第2湾曲部40dを形成する。この第2湾曲部40dの形成は、例えばレーザ加工によって行われる。これにより、第1面27c,37cの方を第1曲率半径r1の第1湾曲部40cとし、第2面27d,37dの方を第1曲率半径r1よりも小さい第2曲率半径r2の第2湾曲部40dとした切込溝40を形成する。
【0056】
リング27,37は焼成体からなる。リング27,37の焼成前に第2湾曲部40dを形成すると、焼成時の熱収縮によってリング27,37が破損する虞がある。よって、第1湾曲部40cを形成する第1ステップはリング27,37の焼成前に行い、第2湾曲部40dを形成する第2ステップはリング27,37の焼成後に行うことが、製造上の歩留まりを改善できる点で好ましい。但し、リング27,37の破損を防止できるならば、第1湾曲部40c及び第2湾曲部40dを含む切込溝40の形成工程を、リング27,37の焼成前又は焼成後に同時に行ってもよい。
【0057】
(分割工程の概要)
図4A及び
図5Aに示すように、分割工程では、リング27,37の径方向の対向位置に支持部材90と加圧部材(図示せず)を配置し、加圧部材によって負荷Fを加えることで、リング27,37を2分割する。詳しくは、リング27,37の径方向において、一対の切込溝40のうち、一方(下側)の形成位置の外周部27b,37bに支持部材90を配置し、他方(上側)の形成位置の外周部27b,37bに加圧部材を配置する。支持部材90はリング27,37の軸方向の長さL1以上の長さの支持面を有し、この支持面がリング27,37の軸方向に沿って配置される。この支持部材90にはリング27,37を配置する溝を設けてもよい。加圧部材はリング27,37の軸方向の長さL1以上の長さの押圧部を有し、この押圧部がリング27,37の軸方向に沿って配置される。
図4A及び
図5Aに矢印で示すように、支持部材90に近づく向きに加圧部材を移動させ、リング27,37に対して径方向の外側から内側に向けて負荷Fを加える。
【0058】
負荷Fによる応力は、異なる曲率半径r1,r2の湾曲部40c,40dのうち、小さい方の頂部に集中する。よって、小さい第2曲率半径r2の第2湾曲部40dの頂部Pを起点として、リング27,37に亀裂が生じる。この亀裂は、第2湾曲部40dの頂部Pから第2面27d,37dに沿って進むとともに、第2湾曲部40dの頂部Pから切込溝40を経て第1面27c,37cに沿って進む。
【0059】
図7Aに示すように、第2面27d,37d側の亀裂C1は、第2湾曲部40dの頂部Pから、支持位置(支持部材80が当接した部分)又は加圧位置(負荷Fが加わった部分)に向けて不規則(非直線状)に進む。切込溝40内の亀裂C2は、第2湾曲部40dの頂部Pから第1湾曲部40cに向けて不規則に進む。よって、亀裂C2は、第1湾曲部40cの頂部以外の部分に到達する。
図7Bに示すように、第1面27c,37c側の亀裂C3は、第1面27c,37c上に位置する第1湾曲部40cの縁と亀裂C2との交点(第1湾曲部40cの頂部以外の部分)から、支持位置又は加圧位置に向けて不規則に進む。
【0060】
これによりリング27,37は、切込溝40を起点として径方向外側へ不規則に破断され、2つに分割される。リング27の分割によって、シート20を構成する第1回転部材(第1分割体)21Aと第2回転部材(第2分割体)21Bとが形成される。リング37の分割によって、ワッシャ30を構成する第1固定部材(第1分割体)31Aと第2固定部材(第2分割体)31Bとが形成される。
【0061】
このように、第1面27c,37c側に生じる亀裂の起点と、第2面27d,37d側に生じる亀裂の起点とは、リング27,37の周方向の位置が異なる。よって、回転部材21A,21Bと固定部材31A,31Bの両端に形成される分割面22,32は、曲率半径を同一とした切込溝と比較して、軸方向、周方向及び径方向の変位が多い。つまり、回転部材21A,21Bは、不規則に変位した複雑な三次元形状の分割面22を備え、固定部材31A,31Bは、不規則に変位した複雑な三次元形状の分割面32を備える。
【0062】
シート20とワッシャ30の組付時には、三次元形状の分割面22,32によって、回転部材21A,21B同士及び固定部材31A,31B同士を正確に位置合わせできる。よって、回転軸2に対するシート20とワッシャ30の調心精度を効果的に向上できる。また、シート20とワッシャ30の摺接面20a,30bでの段差の発生を防止できる。そのため、このシート20とワッシャ30を用いたメカニカルシール10の液漏れを効果的に抑制できる。
【0063】
(第2実施形態)
図8は分割型摺動環(シート20)を形成する第2実施形態の環体26を示す。この
図8に示すように、第2実施形態では、第1実施形態と同様の切込溝40A,40Bを、リング27の軸線を中心として、リング27の非対称位置(つまり180度以外の角度位置)に設けた点で、第1実施形態と相違する。ワッシャの環体は、
図8に示すシート20の環体26と同様に製造される。
【0064】
内周部27aに切込溝40A,40Bを形成する角度位置、つまりリング27の軸線を中心とする切込溝40A,40Bの配置角度θ2は、リング27の内周部27aの半径R1と、回転軸2の半径R2とに基づいて設定される。具体的には、切込溝40A,40Bの間隔Iが回転軸2の直径(2×R2)以上になるように、配置角度θ2は設定される。切込溝40A,40Bの間隔Iとは、切込溝40A,40Bを形成する内周部27a上の2位置を直線で結んだ際の距離である。
【0065】
このように、非対称位置に切込溝40A,40Bを形成したリング27を分割する場合でも、第1実施形態と同様に、支持部材90と加圧部材はリング27の対向位置(180度の位置)に配置され、支持部材90に近づく向きに加圧部材が移動される。これにより、切込溝40A,40Bを起点として発生した亀裂が内周部27aから外周部27bに向けて進み、リング27が破断(分割)される。
【0066】
第1実施形態のように対向位置(対称位置)に設けた一対の切込溝40では、
図4Aのように分割面が平行に位置するため、組付時の上下方向の位置ズレを完全に無くすのは困難である。しかし、
図8の第2実施形態のように非対称位置に設けた切込溝40A,40Bでは、分割面が平行に位置しないため、上下方向の位置ズレを確実に防止できる。よって、このリング27によって形成した回転部材21A,21Bを回転軸2に配置する場合、これら分割面22の位置合わせを高精度に行えるため、調心精度を更に向上できる。
【0067】
(第3実施形態)
図9A,9Bは分割型摺動環(シート20)を形成する第3実施形態の環体26を示す。
図9Aに示すように、第3実施形態では、切込溝40の近傍に補助溝42を設けた点で、第1実施形態と相違する。ワッシャの環体は、
図9Aに示すシート20の環体26と同様に製造される。一対の切込溝40の配置角度θ2は、第2実施形態と同様に180度以外としてもよい。切込溝40は、第1実施形態と同様に、異なる曲率半径r1,r2の第1湾曲部と第2湾曲部を備える方が好ましいが、先端の曲率半径が一様な湾曲部(連続部)を備えていてもよい。
【0068】
図9Bを併せて参照すると、補助溝42は、係止溝25が形成された第1面27cに形成され、摺接面20aを含む第2面27dには形成されていない。補助溝42は、第1面27cから第2面27dに向けて窪み、内周部27aから外周部27bにかけて断面V字状に貫通している。
【0069】
内周部27a上に位置する補助溝42の内端は、切込溝40の形成位置上に配置されている。外周部27b上に位置する補助溝42の外端は、リング27の中心と切込溝40を結ぶ径方向の仮想線(図示せず)に対して、周方向に離れて配置されている。つまり、補助溝42は、前述の仮想線に対して傾斜している。本実施形態の補助溝42は、内周部27aから外周部27bに向けて右側へ傾斜した直線状であるが、逆向きに傾斜されてもよい。
【0070】
シート20の回転部材21A,21Bは、第1実施形態と同様の切込溝形成工程、補助溝形成工程、及び第1実施形態と同様の分割工程を、この順でリング27に施すことで製造される。補助溝形成工程では、例えば切削加工によって第1面27cに補助溝42が形成される。
【0071】
リング27を分割する場合、支持部材90と加圧部材が第1実施形態と同様に配置され、支持部材90に互いに近づく向きに加圧部材が移動される。これにより、切込溝40を起点として発生した亀裂が補助溝42に沿って進み、リング27が破断(分割)される。
【0072】
曲率半径が異なる第1湾曲部と第2湾曲部を備える切込溝40の場合、負荷Fによる応力が第2湾曲部の頂部に集中し、その頂部を起点として発生した亀裂が、第2面27dに沿って進むとともに、切込溝40の連続部を経て第1面27cに進む。第1面27c側の亀裂は、第1湾曲部から補助溝42の底(頂部)に沿って進む。第2湾曲部が位置する第2面27dの亀裂は、基本的には第2湾曲部の頂部から加圧位置に向かうが、第1面27c側の亀裂に誘導されて周方向に変位しながら進む。
【0073】
曲率半径が一様な湾曲部を備える切込溝40の場合、リング27の軸方向に沿った切込溝40の底(連続部)に応力が集中し、連続部を起点として発生した亀裂が補助溝42の底(頂部)に沿って進む。但し、補助溝42が無い第2面27dの亀裂は、第1面27c側の亀裂に誘導されつつ、不規則に変位しながら進む。
【0074】
このように、補助溝42を備えるリング27では、負荷Fによる亀裂が切込溝40から補助溝42に誘導されるため、形成される分割面22の軸方向、周方向及び径方向の変位が大きくなる。よって、回転部材21A,21Bを回転軸2に配置する際、複雑な三次元形状の分割面22によって、回転部材21A,21Bを高精度に位置合わせできるため、調心精度を向上できる。
【0075】
(第4実施形態)
図10は分割型摺動環(シート20)を形成する第4実施形態の環体26を示す。
図10に示すように、第4実施形態では、補助溝42の内端を切込溝40に対して周方向に間隔をあけて設けた点で、第3実施形態と相違する。補助溝42の内端と外端は、切込溝40に対して周方向の同じ方に間隔をあけて配置されている。補助溝42はリング27の径方向に延びている。
【0076】
(第5実施形態)
図11は分割型摺動環(シート20)を形成する第5実施形態の環体26を示す。
図11に示すように、第5実施形態では、リング27の中心と切込溝40を結ぶ径方向の仮想線(図示せず)に対して、補助溝42を平行に設けた点で、第3実施形態と相違する。補助溝42の内端と外端は、第4実施形態と同様に、切込溝40に対して周方向の同じ方に間隔に間隔をあけて配置されている。
【0077】
図10に示す第4実施形態、及び
図11に示す第5実施形態においても、ワッシャの環体は、シート20の環体26と同様に製造される。また、一対の切込溝40の配置角度θ2は、第2実施形態と同様に180度以外としてもよい。切込溝40は、第1実施形態と同様に、異なる曲率半径r1,r2の第1湾曲部と第2湾曲部を備える方が好ましいが、先端の曲率半径が一様な湾曲部(連続部)を備えていてもよい。そして、第4実施形態と第5実施形態の環体では、第3実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0078】
なお、本発明の分割型摺動環の製造方法及び分割型摺動環用環体は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0079】
例えば、切込溝40は、リング27,37の外周部27b,37bに設けてもよい。また、一方の切込溝40を内周部27a,37aに設け、他方の切込溝40を外周部27b,37bに設けてもよい。切込溝40の形成位置に拘わらず、リング27,37を分割する際の負荷Fは、外周部27b,37bに加えてもよいし、内周部27a,37aに加えてもよい。内周部27a,37aに負荷Fを加える場合、支持部材90も内周部27a,37aに配置する。
【0080】
支持部材90は、リング27,37に対して2以上配置してもよい。この場合、2以上の支持部材90の配置は、切込溝40と対応する位置に限られず、リング27,37を安定状態で配置できる構成であれば、必要に応じて変更が可能である。また、支持部材90の代わりに加圧部材を用い、リング27,37に対して2以上の位置から放射状に負荷Fを加えて、リング27,37を分割してもよい。
【0081】
第1湾曲部40cと第2湾曲部40dの形成は、レーザ加工に限られず、一面側と他面側とで異なる曲率の湾曲部を形成可能な方法であれば、必要に応じて変更が可能である。補助溝42の形成は、切削加工に限られず、第1面から第2面に向けて窪み、内周部から外周部にかけて貫通する溝を形成可能な方法であれば、必要に応じて変更が可能である。
【0082】
一対の切込溝40のうち、一方と他方の第1湾曲部40cの第1曲率半径r1は、上記設定範囲内で異なっていてもよいし、一方と他方の第2湾曲部40dの第2曲率半径r2は、上記設定範囲内で異なっていてもよい。係止溝25,35が形成された第1面27c,37cに第2湾曲部40dを形成し、摺接部20a,30aが形成された第2面27d,37dに第1湾曲部40cを形成してもよい。
【0083】
本発明の分割型摺動環は、シートホルダ12、シート20、ワッシャ30、シールカバー50、留め金60、押金70、及びプレート75の全てを周方向に2分割した全分割型メカニカルシールに限られず、シート20、ワッシャ30、及びシールカバー50だけを2分割したメカニカルシールに用いてもよい。また、シートホルダ12、シールカバー50、留め金60、押金70、及びプレート75を一体型(非分割)としたメカニカルシールに用いてもよいし、シート20及びワッシャ30のうちの一方も一体型(非分割)としてもよい。しかも、メカニカルシールの態様は、インサイド型に限られず、アウトサイド型であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…ケーシング
1a…ボルト穴
2…回転軸
10…メカニカルシール
12…シートホルダ
13A…第1保持部材
13B…第2保持部材
14…分割面
15…セットボルト
16…取付凹部
17…ピン
20…シート(分割型摺動環)
20a…摺接面(摺接部)
21A…第1回転部材(第1分割体)
21B…第2回転部材(第2分割体)
22…分割面
23…段部
24…シール部材
25…係止溝
26…環体(分割型摺動環用環体)
27…リング
27a…内周部
27b…外周部
27c…第1面
27d…第2面
30…ワッシャ(分割型摺動環)
30a…凸部(摺接部)
30b…摺接面
31A…第1固定部材(第1分割体)
31B…第2固定部材(第2分割体)
32…分割面
33…段部
34…シール部材
35…係止溝
36…環体(分割型摺動環用環体)
37…リング
37a…内周部
37b…外周部
37c…第1面
37d…第2面
40,40A,40B…切込溝
40’…仮溝
40a…傾斜部
40b…連続部
40c…第1湾曲部
40d…第2湾曲部
42…補助溝
45…シール面
50…シールカバー
51…貫通孔
52…封止液室
53A…第1カバー部材
53B…第2カバー部材
54…分割面
55…ボルト
60…留め金
61A…第1連結部材
61B…第2連結部材
62…分割面
63…ボルト
64…ボルト
70…押金
71A…第1押圧部材
71B…第2押圧部材
72…分割面
73…ボルト
75…プレート
76A…第1プレート部材
76B…第2プレート部材
77…分割面
80…ドライブピン
81…係止部
83…コイルスプリング
90…支持部材
r1…第1曲率半径
r2…第2曲率半径
F…負荷