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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】めっき処理用治具及びめっき処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
C23C18/31 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018548587
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017034832
(87)【国際公開番号】W WO2018083914
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2016217676
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168551
【氏名又は名称】鋼鈑工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】特許業務法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 透
(72)【発明者】
【氏名】佐村 真樹
(72)【発明者】
【氏名】西崎 努
(72)【発明者】
【氏名】椎木 祐浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖雄
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-209877(JP,A)
【文献】特開2007-169757(JP,A)
【文献】特開2011-231347(JP,A)
【文献】特開昭62-033776(JP,A)
【文献】特開2001-003177(JP,A)
【文献】特開平11-256347(JP,A)
【文献】特開平08-041649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴槽内のめっき液中に、中心孔を有する円盤状の基板を浸漬させるためのめっき処理用治具であって、
前記基板の中心孔へ挿通される支持ロッドと、
前記支持ロッドを支持するとともに、前記支持した支持ロッドが自転することを抑制する自転抑制機構を備えた拘束部材と、
前記拘束部材を介して前記支持ロッドが取り付けられるカローセルと、
を含み、
前記自転抑制機構は、
前記支持ロッドに接触する接触部材と、前記接触部材を前記支持ロッドに対して押し付ける弾性部材を有する押し付け部材を含むことを特徴とするめっき処理用治具。
【請求項2】
めっき浴槽内のめっき液中に、中心孔を有する円盤状の基板を浸漬させるためのめっき処理用治具であって、
前記基板の中心孔へ挿通される支持ロッドと、
前記支持ロッドを収容凹部で着脱可能に支持するとともに、前記支持した支持ロッドが自転することを抑制する自転抑制機構を備えた拘束部材と、
前記拘束部材を介して前記支持ロッドが着脱可能に取り付けられるカローセルと、
を含み、
前記自転抑制機構は、
前記収容凹部に収容された前記支持ロッドを収容凹部側に押し付ける接触部材を含むことを特徴とするめっき処理用治具。
【請求項3】
前記拘束部材には、前記支持ロッドの周面の少なくとも一部が収容されるU字状の収容凹部が設けられ、
前記接触部材は、前記収容凹部に前記支持ロッドが収容された状態で前記弾性部材を介して当該支持ロッドに接触して押し付けられる請求項に記載のめっき処理用治具。
【請求項4】
前記押し付け部材を少なくともそれぞれ2つ具備し、
互いの前記接触部材が進退方向に関して対向するように配置されている請求項又は3に記載のめっき処理用治具。
【請求項5】
前記接触部材の頂部には、前記支持ロッドの脱着を促すガイド面が形成されてなる請求項~4のいずれか一項に記載のめっき処理用治具。
【請求項6】
前記接触部材の頂部の少なくとも一部には低摩擦処理が施されてなる請求項~5のいずれか一項に記載のめっき処理用治具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のめっき処理用治具と、
前記カローセルを回転させる回転機構と、
を含むことを特徴とするめっき処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき処理技術に関し、より詳細には中心孔を有する円盤状の基板をめっき浴槽内に浸漬してめっき被膜を基板上に形成するためのめっき処理用治具およびめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCや家電などに搭載されるHDD(ハードディスクドライブ)に用いられる磁気記録媒体は、その利便性の高さなどから需要が高く記録密度の著しい向上が図られつつある。
かような磁気記録媒体については、より高い記録密度を実現することが市場から継続して要求されており、そのため磁気記録媒体に用いられる円盤状の基板に対しても今まで以上に平滑性が高く傷の少ない高品質な基板が求められている。
【0003】
この円盤状の基板としては、例えばアルミニウム合金基板やガラス基板などが用いられている。このうちアルミニウム合金基板は、例えば次に示す工程などを経ることによって製造される。すなわち、先ず厚さ1~3mm程度のアルミニウム合金板をドーナツ状に打ち抜き加工して所望の寸法の基板に加工する。次いで、打ち抜かれた基板に対して端部の面取り加工などを施した後、砥石による研削加工を行い、さらにその後に基板表面に無電解NiPめっきを施すことなどが行われている。
【0004】
そして無電解NiPめっきにおいては、例えば特許文献1に示されるように、めっき処理用治具で複数の基板を保持し、これら基板を一括してめっき浴槽中へ浸漬させることが行われる。また、特許文献1にも開示されているとおり、基板表面にめっき被膜を効率よく成膜するため、めっき処理用治具を自転や公転をさせながら複数枚の基板に対して無電解NiPめっきを施すことも知られている。
【0005】
一方で上記しためっき治具をめっき浴槽内で自転や公転をさせる技術では、めっき治具の摺動部分から発生する摩耗粉によって基板表面にノジュールと呼ばれる欠陥を発生させることがある。
このノジュールが発生すると基板の品質が著しく低下するため、かようなノジュールを如何に抑制するかが重要となる。この点に関して特許文献1では、基板10の外周縁部を嵌め込む溝の断面をU字状とすることで、基板の外周縁部に発生しやすいノジュールを抑制可能であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-169757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のめっき処理用治具では以下に述べる課題があり、未だに改善すべき点があると言える。
すなわち、確かに特許文献1によれば、基板の外周縁部に起因するノジュールは抑制できる可能性はあるものの、めっき処理用治具の摺動部分から発生する摩耗粉については一切言及がない。このように特許文献1の構成では、めっき処理用治具の摺動部分から発生する摩耗粉によって別のノジュールが発生してしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は、かような課題を解決することを鑑みてなされたものであり、めっき浴槽中でめっき処理用治具が回転してもノジュールの発生が抑制可能なめっき処理用治具およびめっき処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるめっき処理用治具は、(1)めっき浴槽内のめっき液中に、中心孔を有する円盤状の基板を浸漬させるためのめっき処理用治具であって、前記基板の中心孔へ挿通される支持ロッドと、前記支持ロッドを支持するとともに、前記支持した支持ロッドが自転することを抑制する自転抑制機構を備えた拘束部材と、前記拘束部材を介して前記支持ロッドが取り付けられるカローセルと、
を含み、前記自転抑制機構は、前記支持ロッドに接触する接触部材と、前記接触部材を前記支持ロッドに対して押し付ける弾性部材を有する押し付け部材を含むことを特徴とする。
【0010】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるめっき処理用治具は、(2)めっき浴槽内のめっき液中に、中心孔を有する円盤状の基板を浸漬させるためのめっき処理用治具であって、前記基板の中心孔へ挿通される支持ロッドと、前記支持ロッドを収容凹部で着脱可能に支持するとともに、前記支持した支持ロッドが自転することを抑制する自転抑制機構を備えた拘束部材と、前記拘束部材を介して前記支持ロッドが着脱可能に取り付けられるカローセルと、を含み、前記自転抑制機構は、前記収容凹部に収容された前記支持ロッドを収容凹部側に押し付ける接触部材を含むことを特徴とする。
【0011】
さらに上記した()に記載のめっき処理用治具においては、(3)前記拘束部材には、前記支持ロッドの周面の少なくとも一部が収容されるU字状の収容凹部が設けられ、前記接触部材は、前記収容凹部に前記支持ロッドが収容された状態で前記弾性部材を介して当該支持ロッドに接触して押し付けられることが好ましい。
【0012】
また、上記した()又は(3)に記載のめっき処理用治具においては、(4)前記押し付け部材を少なくともそれぞれ2つ具備し、互いの前記接触部材が進退方向に関して対向するように配置されていることが好ましい。
【0013】
また、上記した()~(4)のいずれかに記載のめっき処理用治具においては、(5)前記接触部材の頂部には、前記支持ロッドの脱着を促すガイド面が形成されてなることが好ましい。
【0014】
また、上記した()~(5)のいずれかに記載のめっき処理用治具においては、(6)前記接触部材の頂部の少なくとも一部には低摩擦処理が施されてなることが好ましい。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるめっき処理装置は、上記した(1)~(6)のいずれかに記載のめっき処理用治具と、前記カローセルを回転させる回転機構と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カローセルに取り付けられる支持ロッドが自転抑制機構によって自転してしまうことが抑制されるため、支持ロッドとカローセルとの接続部位で生じ得る摩耗粉に起因して発生するノジュールを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】めっき処理用治具10とめっき処理装置100を示した図である。
図2】めっき処理用治具10のうち拘束部材12を示した図である。
図3】めっき処理用治具10の各側面を展開した展開図である。
図4】めっき処理用治具10における自転抑制機構のうち接触部材12bを説明するための模式図である。
図5】めっき処理用治具10における自転抑制機構のうち軸受部材12aを説明するための模式図である。
図6】めっき処理用治具10における拘束部材12に支持ロッド11が着脱される際の状態遷移の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。なお、以下の説明に用いる図面においては、便宜的にめっき処理用治具10に取り付けられたときの支持ロッド11が延びる方向をX方向とし、このX方向を基準として各図において説明に適した方向を適宜Y方向とZ方向に設定している。ただしこれらの方向はあくまでも説明の明瞭化という目的で設定されるものであり、本発明を不当に限定解釈するようなものではない。
【0019】
図1は、めっき処理用治具10とめっき処理装置100を示した図である。このうち図1(a)はめっき処理用治具10を含むめっき処理装置100の模式図であり、(b)はめっき処理用治具10を軸線方向から見た平面図であり、(c)は図1(a)における領域Pの部分拡大図であり、(d)は図1(c)のA-A断面図(YZ平面方向でスライス)である。これらの図に示すように、本実施形態におけるめっき処理装置100は、主として、めっき処理用治具10と、回転機構15、を含んで構成されている。
【0020】
めっき処理用治具10は、めっき浴槽20内のめっき液L中に、中心孔を有する円盤状の基板1を浸漬させるために用いられる。そして本実施形態のめっき処理用治具10は、支持ロッド11、拘束部材12、及びカローセル13を少なくとも含んで構成されている。
【0021】
ここで、基板1は、中心に円形の貫通孔(中心孔)を有するガラス製またはアルミニウムなどの金属製の材料で構成された円盤状の部材である。かような基板1は、厚みが0.3mm~2.0mm程度であり、一般的には直径が2 . 5 インチを超える基板にあっては主にアルミニウム製の基板が用いられ、2.5インチ以下のサイズでは主としてガラス製基板が用いられている。
【0022】
このうちアルミニウム製の基板1では、例えばアルミニウム素材から打抜いたサブストレートに所要の前処理を施した後、後述するNi-Pめっき液浴による無電解めっき処理を施して表面にNi-P合金被膜を形成し、さらにその上に強磁性の金属薄膜を積層することなどを経て磁気記録ディスク基板へと形成される。
【0023】
めっき浴槽20は、1又は複数のめっき処理用治具10を内包できる程度の大きさの金属製又は樹脂製の槽である。なお、めっき浴槽20としては、例えば上記した特許文献に開示された浴槽や他の公知の無電解めっき浴槽を適用することができる。なお、本実施形態でめっき浴槽20内に貯留されるめっき液Lは、公知のNi-Pめっき液が適用可能であり、一例として例えば硫酸ニッケル:20g/dm、次亜りん酸ソーダ:20g/dm、酢酸ソーダ:10g/dm、クエン酸ソーダ:10g/dmを含む水溶液などが例示できる。
【0024】
支持ロッド11は、基板1の中心孔へ挿通される棒状の部材である。この支持ロッド11は、図1に示すとおり、一対のカローセル13a、13bの間で1又は複数配置される。支持ロッド11の材質に特に制限はないが、例えば樹脂などが例示される。
なお、支持ロッド11は、上記した中心孔を介して基板1を支持するものであるが、さらに基板1の外周縁部近くの円周線上に所定間隔おきに配置される外周保持シャフト(特開2007-169757号公報などを参照)が支持ロッド11の周囲に配置されていてもよい。
【0025】
拘束部材12は、支持ロッド11を支持する機能を有する。本実施形態における拘束部材12は、一例として、支持ロッド11を把持するように断面がU字状の部材となっている。そして本実施形態の拘束部材12は、支持した支持ロッド11が自転することを抑制する自転抑制機構(後述)を備えている。この拘束部材12の材質に特に制限はないが、例えば樹脂などが例示される。そして図1に示すとおり、拘束部材12は、後述する位置決め突部12aを介して、U字状の開口部側(支持ロッド11が挿入される側の空間)が外周方向を向くように、支持ロッド11の本数に応じてカローセル13に1又は複数設置される。
【0026】
カローセル13は、拘束部材12を介して支持ロッド11が取り付けられる部材である。本実施形態のカローセル13は、外周に歯が形成された大型の円盤であり、支持ロッド11を横架状に支持可能なように対となって配置される。より具体的には図1に示すとおり、第1カローセル13aと第2カローセル13bが所定の間隔で対向配置され、この内部に1又は複数の支持ロッド11が横架状に配置される。このカローセル13の材質に特に制限はないが、例えば樹脂などが例示される。
【0027】
また、本実施形態のめっき処理装置100は、めっき処理用治具10をめっき浴槽20内に浸漬した状態で支持する吊り下げ装置14を含んでいてもよい。
図1に示すとおり、吊り下げ装置14は、カローセル13の両端を吊り下げ支持する機能を備えている。このとき、吊り下げ装置14は、カローセル13の両端に固定されず、後述する回転機構15によってカローセル13が回転することを阻害しない態様でカローセル13を支持することが好ましい。
【0028】
したがって図1に示すように、吊り下げ装置14で吊り下げられためっき処理用治具10に収容された複数の基板1は、それぞれ中心孔に支持ロッド11が挿通した状態でめっき浴槽20内のめっき液L中へ浸漬される。
そして複数の基板1がめっき液L中へ浸漬した後、めっき処理装置100の回転機構15を介してカローセル13が回転軸16を中心に回転することで、めっき液L内で支持ロッド11が公転することが可能となっている。
【0029】
かような回転機構15は、例えばモータ15aと伝達ギア15bとを含んで構成されている。このうちモータ15aは、公知の種々の電気モータを適用してもよい。また、伝達ギア15bはモータ15aからの動力をカローセル13に伝達し、これによりカローセル13が回転軸16を中心に回転することが可能となっている。
なお上述したとおり、カローセル13が回転軸16を中心に回転するときには、カローセル13に支持された支持ロッド11は回転軸16周りに公転することになる。
【0030】
次に、図2図5を用いて本実施形態における拘束部材12の自転抑制機構について詳述する。なお、図2(a)は拘束部材12の外観斜視図であり、(b)は側面図及び上面図である。また、図3は、拘束部材12を正面、側面、背面および上面から見た外観図である。また、図4は、拘束部材12の自転抑制機構のうち押し付け部材12bの構成を示す図である。また、図5は、拘束部材12の自転抑制機構のうち軸受12aを示す図である。
上述したとおり、カローセル13に設置される拘束部材12は、カローセル13の回転に伴って支持ロッド11が回転軸16周りに公転したときに、支持ロッド11自身が拘束部材12内で回転(自転)してしまうことを抑制可能な自転抑制機構を含んでいる。
【0031】
図2に示すとおり、本実施形態における拘束部材12の自転抑制機構は、軸受12aと押し付け部材12bを含んでいる。
このうち、軸受12aは、図3及び5などにも示されるとおり、収容凹部12a、押し付け部材格納部12a、及び位置決め突部12aなどを含んで構成されている。この軸受12aの材質に特に制限はないが、例えば樹脂などで形成してもよい。
【0032】
収容凹部12aは、支持ロッド11の周面の少なくとも一部が収容可能な凹部であり、支持ロッド11が接触する底面は当該支持ロッド11の外周面に倣うようにU字状の曲面となっている。なお図3に示されるとおり、支持ロッド11が挿入される長さLは、支持ロッド11が拘束部材12で支持可能な限り特に制限はなく、カローセル13からの拘束部材12の高さを考慮して適宜設定してもよい。
【0033】
押し付け部材格納部12aは、後述する押し付け部材12bが収容される部位である。押し付け部材格納部12aは、本実施形態では収容凹部12aを挟むよう2ヶ所で互いに対向するように配置されている。また、図5に示すとおり、押し付け部材格納部12aには、押し付け部材12bが脱落しないように当該押し付け部材12bの移動をガイドするガイド溝12aが形成されている。
【0034】
さらに、押し付け部材格納部12aには、後述する取り付け部材12bが挿入される挿入孔12aが形成されている。このように本実施形態では挿入孔12aを介して取り付け部材12bが押し付け部材格納部12a内に配置されるため、押し付け部材12bを安定して押し付け部材格納部12a内に位置付けることが可能となっている。
【0035】
位置決め突部12aは、上記したカローセル13の予め規定された位置に拘束部材12を設置するためのガイドである。すなわち、カローセル13にも位置決め突部12aと対応する位置決め凹部(不図示)が形成されており、この位置決め凹部に位置決め突部12aを挿入することでカローセル13上における拘束部材12の位置が確定される。
【0036】
なお、本実施形態の位置決め突部12aは円柱状であるが、この態様に限られず例えば三角柱や四角柱、あるいは五角柱などの矩形状であってもよい。位置決め突部12aを矩形状とし、対応する位置決め凹部も矩形状とすることで、例えばU字状の開口部側が外周を向くなど拘束部材12の向きも自動的に確定することが可能となる。
【0037】
次に図2図4を用いて、上記した自転抑制機構のうち押し付け部材12bの詳細な構成について説明する。
まず図4に示すとおり、押し付け部材12bは、接触部材12b、弾性部材12b及び取り付け部材12bを含んで構成されている。
なお図4において、(a)は接触部材12bを示し、(b)は弾性部材12bを示し、(c)は取り付け部材12bを示し、(d)は接触部材12bをY方向側から見た図であり、(e)は取り付け部材12bをY方向側から見た図である。
接触部材12bは、収容凹部12aに収容された支持ロッド11に接触可能な部材である。この接触部材12bの材質に特に制限はないが、例えば樹脂などで形成してもよい。
【0038】
同図に示すとおり、接触部材12bにはネジ孔Mが形成されており、後述する取り付け部材12bのネジ部Nと螺合される。したがって、接触部材12bは、収容凹部12aに支持ロッド11が収容された状態で後述する弾性部材12bを介して当該支持ロッド11に接触して押し付けられることが可能となっている。
【0039】
さらに図2図3にも示されるとおり、本実施形態の拘束部材12は、押し付け部材12bを少なくとも2つ具備し、互いの接触部材12bが進退方向(図2におけるY方向)に関して対向するように配置されていてもよい。
また、図4に示されるとおり、本実施形態の接触部材12bの頂部tには、支持ロッド11の脱着を促すガイド面t1及びガイド面t2が形成されてなる。
【0040】
このうちガイド面t1は、収容凹部12aに収容された支持ロッド11が接触する面である。図3からも明らかなとおり、頂部tは三角屋根状又は矢印状のごとき形状となっており、このガイド面t1は、頂部tの先端から支持ロッド11の周面に沿って、Y方向に関して先端が先細りとなるような傾斜した面となっている。
【0041】
一方でガイド面t2は、収容凹部12aに支持ロッド11が収容されるときに当該支持ロッド11が接触する面である。図3からも明らかなとおり、このガイド面t2も、頂部tの先端からY方向に関して先端が先細りとなるような傾斜した面となっている。なお、図4のとおり、本実施形態では、ガイド面t1とY軸とのなる角度αと、ガイド面t2とY軸とのなる角度αは、互いに等しい角度となっている。しかしながらこの形態に限られず、α≠αとなってα>αであってもよいし、α<αであってもよい。
【0042】
また、接触部材12bの頂部tの少なくとも一部には、低摩擦処理が施されていてもよい。換言すれば、ガイド面t1およびガイド面t2の少なくとも一方には、支持ロッド11の着脱を促進するように低摩擦処理が施されていてもよい。この低摩擦処理の具体例としては、種々の公知の処理が適用でき、例えばフッ素コーティング膜を別途施してもよいし、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング膜を別途施してもよい。
【0043】
また、図4に示すとおり、接触部材12bには、上述した押し付け部材格納部12a2のガイド溝12aに対応するガイド突起12bが形成されている。本実施形態では、ガイド溝12aに対応して、接触部材12bの隣り合う2つの側面にそれぞれガイド突起12bが形成されている。
【0044】
弾性部材12bは、上記した接触部材12bを支持ロッド11に対して押し付ける機能を有する。本実施形態における弾性部材12bの具体例としては、接触部材12bを支持ロッド11に対して押し付けることが可能であれば特に制限はないが、例えばバネやゴムなどが例示できる。そして弾性部材12bは、支持ロッド11が収容凹部12a内に収容された状態において、当該支持ロッド11を接触部材12bが押し付け続けられる程度のバネ定数を有していることが好ましい。
【0045】
そして本実施形態の弾性部材12bは、一方の端部が接触部材12bと接触するとともに、他方の端部が押し付け部材格納部12aに接触している。これにより、支持ロッド11が脱着される際に、弾性部材12bは、押し付け部材格納部12aを基端にして接触部材12bを押し出す作用を奏することができる。
【0046】
取り付け部材12bは、図3などに示されるとおり、押し付け部材格納部12aに格納される部位である。この取り付け部材12bの材質に特に制限はないが、例えば樹脂などで形成してもよい。上述のとおり本実施形態では、押し付け部材格納部12aに挿入孔12aが形成されるとともに、この挿入孔12aに取り付け部材12bが挿入される。また、取り付け部材12bの先端部はネジ部Nとなっており、接触部材12bの上記したネジ孔Mと螺合されることで一体化される。これにより、押し付け部材格納部12aに押し付け部材12bが格納され、さらにガイド溝12aとガイド突起12bとで押し付け部材12bが脱落することが防止されている。
【0047】
次に図6を用いて、支持ロッド11が拘束部材12の収容凹部12aに対して挿脱される際の状態遷移について説明する。なお図6(a)は支持ロッド11が収容凹部12aの外部にあるときを示し、(b)は支持ロッド11が収容凹部12aに挿入中のときを示し、(c)は支持ロッド11の収容凹部12aへの収容が完了したときを示す。
そして図6(b)に示されるとおり、支持ロッド11が拘束部材12の収容凹部12aに収容されるときは、支持ロッド11の挿入に伴って押し付け部材12の接触部材12bが外側に(一対の接触部材12bが互いに離間する方向に)スライド移動する。
【0048】
そして図6(c)に示されるとおり、支持ロッド11がさらに移動して収容凹部12a内に進入すると、弾性部材12bの作用で接触部材12bが支持ロッド11の外周面を押し付ける。これにより、収容凹部12a内で支持ロッド11は固定されることとなり、上述のとおりカローセル13が回転することで支持ロッド11が公転したとしても、収容凹部12a内で支持ロッド11が自転してしまうことが抑制される。
【0049】
一方で、例えばNi-Pめっき処理が完了して支持ロッド11から基板1を取り外す際などは、拘束部材12による拘束を解放して支持ロッド11をカローセル13から外す必要がある。このような場合には、図6(b)のとおり支持ロッド11が収容凹部12a内から離脱するに伴って押し付け部材12の接触部材12bが外側にスライド移動する。次いで図6(a)のとおり、支持ロッド11が収容凹部12a内から完全に離脱した後は、弾性部材12bの作用で接触部材12bが元の位置へ戻ることとなる。
【0050】
このように本実施形態では、カローセル13に設置された拘束部材12は、支持ロッド11を着脱自在に支持しつつ、自転抑制機構の作用によって支持ロッド11が収容凹部12a内で自転してしまうことを抑制している。
これにより、支持ロッドとカローセルとの接続部位で生じ得る摩耗粉に起因して発生するノジュールを抑制することが可能となる。
【0051】
なお上記で説明した実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。以下、本発明に適用が可能な変形例について説明する。
上記した実施形態では、接触部材12bの頂部tにはガイド面が形成されて三角屋根状又は矢印状のごとき形状となっていたが、ガイド面t2は支持ロッド11の周面と同様の曲面となっていてもよい。あるいは、接触部材12bの頂部tにガイド面は必須ではなく、適宜これを省略してもよい。
【0052】
また、上記で説明した実施形態は、頂部tは先端が先細りとなった三角屋根状又は矢印状のごとき形状となっている。ここで頂部tの先端は尖っていても良いが、先端にR部(アール部)を有する先丸形状となっていることがさらに好ましい。
すなわち、先端にR部(アール部)を有する形状とすることにより、支持ロッド11の装着がよりスムーズに行えるようになる。その結果、ディスク基板を装着した支持ロッド11を本願発明のめっき処理用治具10に装着する際に、ディスク基板同士やディスク基板とめっき処理用治具10が衝突して生ずるシャローピット(小さい凹み欠陥)の発生を抑制することが可能となる。
そのため、頂部tは先端にR部(アール部)を有する形状とすることがより好ましいものである。
なお上記R部(アール部)の大きさとしては特に制限されるものではないが、例えばR0.5~R5.0程度の大きさであれば好ましい。
【0053】
また、拘束部材12の自転抑制機構として、軸受12aと押し付け部材12bの例を説明したが、支持ロッド11の自転を抑制できれば他の構造を採用してもよい。例えば、軸受12aの収容凹部12a内に、支持ロッド11が圧入可能なように凹状のスポンジやゴムなどの個体弾性部材を配置し、この個体弾性部材内に支持ロッド11を圧入して自転を抑制する態様であってもよい。また、上記実施形態では、押しつけ部材12bを対向するように形成したが、自転を抑制できれば押しつけ部材12bは片側に1つだけ設ける構造を用いてもよい。
さらに、上記した実施形態では、拘束部材12は支持ロッド11を把持可能な断面がU字状の部材であったが、同様の作用効果が得られれば他の構造を用いてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、めっき処理用治具10の主とした材質を樹脂で形成したが、これに限られず、めっき処理した金属など他の材料を用いてもよい。
また、上記実施形態では、基板1の用途としてHDD向けの磁気ディスク(磁気記録媒体)を例にして説明したが、磁気ディスク以外の他の用途に適用してもよい。この場合、その用途に即してめっき浴槽内のめっき液が変更されることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明のめっき処理用治具およびめっき処理装置は、各種めっき処理される基板の製造に適しており、幅広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0056】
L めっき液
1 基板
10 めっき処理用治具
11 支持ロッド
12 拘束部材
12a 軸受
12b 押し付け部材
13 カローセル
13a 第1カローセル
13b 第2カローセル
14 吊り下げ装置
15 回転機構
15a モータ
15b 伝達ギア
16 回転軸
20 めっき浴槽
100 めっき処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6