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特許7034090材料の腐食除去が低減される金属表面の防食処理のための方法
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  • 特許-材料の腐食除去が低減される金属表面の防食処理のための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】材料の腐食除去が低減される金属表面の防食処理のための方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 15/00 20060101AFI20220304BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C23F15/00
C23C28/00 C
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018556915
(86)(22)【出願日】2017-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2017060229
(87)【国際公開番号】W WO2017186931
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】102016207431.8
(32)【優先日】2016-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】モール,アンナ フェレナ
(72)【発明者】
【氏名】ドレゲ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シャッツ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リットマイアー,マルク
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00-11/18
C23F 14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の防食処理のための方法であって、前記表面を、以下の水性組成物:
i)アルカリ性又は酸性洗浄剤組成物と、
ii)第一のすすぎ組成物、または、iii)前記ii)の代わりに選択される、第一のすすぎ組成物およびそれに続く第二のすすぎ組成物と、
iv)酸性転化組成物、または、v)前記iv)の代わりに選択される、酸性転化組成物およびそれに続く第三のすすぎ組成物と、
vi)(メタ)アクリレート系、及び/又はエポキシド系カソード電着コーティングを含む組成物と、に連続して接触させ、
前記アルカリ性又は酸性洗浄剤組成物、第一のすすぎ組成物、前記iii)が選択された場合における第二のすすぎ組成物、および前記v)が選択された場合における第三のすすぎ組成物の少なくとも1種が、少なくとも1種の式I
O-(CH-Z-(CH-OR (I)
の化合物を含み、
及びRは、それぞれ互いに独立してH又はHO-(CH-基(w≧2である)であり、x及びyは、それぞれ互いに独立して1~4であり、且つZは、S原子又はC-C三重結合であり、前記金属表面が裸鋼及び/又は亜鉛めっき鋼である、方法。
【請求項2】
前記洗浄剤組成物i)が、少なくとも1種の式Iの化合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度が、6~625mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度が、31~313mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一のすすぎ組成物、前記第二のすすぎ組成物及び/又は前記第三のすすぎ組成物が、少なくとも1種の式Iの化合物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度が、1~100mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度が、6~60mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記洗浄剤組成物i)が、アルカリ性である請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記洗浄剤組成物i)が、9.5以上のpHを有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第一のすすぎ組成物が、6~9の範囲のpHを有し、前記第二のすすぎ組成物が、7~9の範囲のpHを有し、前記第三のすすぎ組成物が、4~9の範囲のpHを有する請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記転化組成物が、チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウム化合物を含む不動態化組成物である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記不動態化組成物が、マンガンを含まないか、又は10mg/l未満のマンガンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記不動態化組成物が、銅イオン及び/又は銅イオンを遊離する化合物を含み、且つ/又は亜鉛イオン及び/又は亜鉛イオンを遊離する化合物を含む請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記不動態化組成物が、オルガノアルコキシシラン、並びに/又はその加水分解生成物及び/若しくは縮合生成物を含む請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種の式Iの化合物が、R及びRが、両方ともHである式Iの化合物と、R及びRが、それぞれ互いに独立してHO-(CH-基(w≧2である)である式Iの化合物との混合物である請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記R及びRが、両方ともHである式Iの化合物と、前記R及びRが、それぞれ互いに独立して、HO-(CH-基(w≧2である)である式Iの化合物との質量%における混合比が、0.5:1~2:1の範囲(2-ブチン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルとして計算した)である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記R及びRが、両方ともHである式Iの化合物と、前記R及びRが、それぞれ互いに独立して、HO-(CH-基(w≧2である)である式Iの化合物との質量%における混合比が、0.75:1~1.75:1の範囲(2-ブチン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルとして計算した)である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記R及びRが、両方ともHである式Iの化合物と、前記R及びRが、それぞれ互いに独立して、HO-(CH-基(w≧2である)である式Iの化合物との質量%における混合比が、1:1~1.5:1の範囲(2-ブチン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルとして計算した)である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種の式Iの化合物において、R及びRが、両方ともH又はHO-(CH-基であり、前記x及びyの合計が、2~5であり、Zが、C-C三重結合である請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種の式Iの化合物が、2-ブチン-1,4-ジオール及び/又は2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種の式Iの化合物が、2-ブチン-1,4-ジオールと、2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルとの混合物である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記金属表面が、裸鋼及び/又は亜鉛めっき鋼に加えて、アルミニウム又はアルミニウム合金をさらに含む請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の防食処理(anticorrosion treatment)のための方法、さらに、金属表面の防食処理における材料の腐食除去(corrosive removal)を低減するための水性組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
金属片(metal strip)及び金属部品の防食処理においては、例えば、車両構造において使用されるように、明らかに酸性又はアルカリ性範囲のpHである水性洗浄(cleaning)及び転化(conversion)溶液が使用される。
【0003】
洗浄において、前記酸性又はアルカリ性のpHは、第一に、前記金属表面から酸化物膜及び汚染物を除去する働きをする。続く酸性転化処理において、前記金属表面自体への前記酸化的プロトン攻撃により、転化コーティングを形成するために必要な金属カチオンが前記金属表面から溶解される(アノード金属溶解(anodic metal dissolution)として知られる)。
【0004】
言い換えれば、前記金属表面からの材料の腐食除去が生じる。そのような材料の腐食除去は、前記転化処理においてだけでなく、早ければ洗浄中にも、すなわち、前記金属表面自体が、酸化物膜及び汚染物質の除去後に攻撃される場合にも起こり得る。
【0005】
その結果、材料の過度の腐食除去により前記金属表面が不均一な形態を獲得し、それは沈着コーティング(deposit coating)、特に転化コーティングに移行され、これらもまた、ある程度の不均一性を有するという問題がある。次にこれは、続くコーティング、特にカソード電着コーティング(cathodic electrophoretic coating)の接着力、及びそれと関連する腐食防止の低下を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、先行技術の不利な点を回避し、材料の腐食除去が低減される金属表面の防食処理のための方法、さらに金属表面の防食処理における材料の腐食除去を低減するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載の方法、請求項20に記載の組成物、請求項21に記載の濃縮物、及び請求項22に記載の使用方法によって達成される。有利な実施形態が、いずれの場合にも従属請求項に記載される。
【0008】
本発明の金属表面の防食処理のための方法においては、前記表面を、以下の水性組成物:
i)アルカリ性又は酸性洗浄剤組成物(cleaner composition)、
ii)第一のすすぎ組成物(rinsing composition)、
iii)任意に第二のすすぎ組成物、
iv)酸性転化組成物(acidic conversion composition)、
v)任意に第三のすすぎ組成物、及び
vi)(メタ)アクリレート系、及び/又はエポキシド系CECを含む組成物、
と連続して接触させ、
前記組成物i)~v)の少なくとも1種が、少なくとも1種の式I
1O-(CH2x-Z-(CH2y-OR2 (I)
の化合物を含み、
1及びR2は、それぞれ互いに独立して、H又はHO-(CH2w-基(w≧2である)であり、x及びyは、それぞれ互いに独立して、1~4であり、且つZは、S原子又はC-C三重結合である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】裸鋼(CRS)上の溶液AについてのTAFEL提示の評価である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的のため、「水性組成物」は、溶媒/分散媒として、主に、すなわち50質量%を超える程度の水を含む組成物である。前記水性組成物は、好ましくは溶液であり、さらに好ましくは溶媒として水のみを含む溶液である。
【0011】
前記金属表面が、前記水性組成物i)~vi)と連続して接触させられるという事実は、このシーケンス(sequence)の前及び/又は後に、それが1種以上のさらなる組成物と接触させられることを排除しない。また、前記金属表面が、前記種々の組成物i)~vi)との接触の間に1種以上のさらなる組成物と、さらに接触させられることも排除されない。
【0012】
前記少なくとも1種の式Iの化合物は、金属表面上のファンデルワールス力によって吸着され、単分子で均一の高密度に充填された層が、前記表面上に形成される結果として、物理的腐食抑制剤(corrosion inhibitor)の機能を果たす。前記金属表面は、前記層によって、プロトン又は水酸化物イオンによる攻撃に対して物理的に遮蔽され、したがって、前記表面からの材料の腐食除去が、防止されるか、又は少なくとも低減される。
【0013】
第一の好ましい実施形態において、前記洗浄剤組成物i)が、少なくとも1種の式Iの化合物を含む。
【0014】
この場合、前記洗浄剤組成物i)中の前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度は、好ましくは6~625mg/lの範囲、特に好ましくは31~313mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である。
【0015】
第二の好ましい実施形態において、前記第一のすすぎ組成物ii)、前記第二のすすぎ組成物iii)及び/又は前記第三のすすぎ組成物v)が、少なくとも1種の式Iの化合物を含む。
【0016】
前記すすぎ組成物の1種以上における前記少なくとも1種の式Iの化合物の使用は、鋼(steel)及び/又は亜鉛めっき鋼(galvanized steel)上の錆び膜(rust film)の形成を低減するという利点を有する。
【0017】
ここで、前記第一のすすぎ組成物ii)中の、前記第二のすすぎ組成物iii)中の及び前記第三のすすぎ組成物v)中の前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度は、好ましくは1~100mg/lの範囲、特に好ましくは6~60mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である。
【0018】
第三の好ましい実施形態において、前記転化組成物iv)が、少なくとも1種の式Iの化合物を含む。
【0019】
ここで、前記転化組成物iv)中の前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度は、1~100mg/lの範囲、好ましくは3~100mg/lの範囲、特に好ましくは30~100mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である。
【0020】
前記金属表面は、任意に、前記第一のすすぎ組成物ii)又は任意に前記第二のすすぎ組成物iii)との接触、及び前記転化組成物iv)との接触の間に、さらに水性酸洗い組成物(aqueous pickling composition)vii)と、続いて第四のすすぎ組成物(viii)と接触させられる。しかしながら、前記洗浄剤組成物i)と接触する前に、前記金属表面を水性酸洗い組成物vii)と、続いて第四のすすぎ組成物(viii)と接触させることも同様に可能である。
【0021】
前記酸洗い組成物vii)は、好ましくは、ホスホン酸塩、縮合リン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び/又は硫酸、塩酸、フッ化水素酸及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の鉱酸を含み、それは、特に好ましくは、硫酸、塩酸、フッ化水素酸及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の鉱酸を含み、非常に特に好ましくは硫酸を含む。
【0022】
さらなる実施形態において、前記酸洗い組成物vii)は、少なくとも1種の式Iの化合物を含む。
【0023】
この場合、前記酸洗い組成物(vii)中の前記少なくとも1種の式Iの化合物の濃度は、31~620mg/lの範囲、好ましくは31~310mg/lの範囲(2-ブチン-1,4-ジオールとして計算した)である。
【0024】
前記酸洗い組成物中の前記少なくとも1種の式Iの化合物の使用は、材料の腐食除去を特に効果的に低減するという利点を有する。
【0025】
前記洗浄剤組成物i)は、好ましくはアルカリ性であり、さらに好ましくは9.5以上のpHを有する。
【0026】
前記第一のすすぎ組成物ii)、前記第二のすすぎ組成物iii)及び前記第三のすすぎ組成物v)は、好ましくは2~10の範囲、さらに好ましくは3~10の範囲のpHを有する。
【0027】
前記第一のすすぎ組成物は、好ましくは弱酸性、弱アルカリ性又は中性である。それは、特に好ましくは6~9の範囲のpHを有する。
【0028】
前記第二のすすぎ組成物は、好ましくは弱アルカリ性又は中性である、それは、特に好ましくは7~9の範囲のpHを有する。
【0029】
第三のすすぎ組成物は、好ましくは4~9の範囲のpHを有し、それは、特に好ましくは弱酸性、弱アルカリ性又は中性である。それは、非常に特に好ましくは6~8の範囲のpHを有する。
【0030】
前記転化組成物iv)は、好ましくは、チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウム化合物を含む不動態化組成物(passivating composition)である。
【0031】
前記不動態化組成物iv)は、好ましくは実質的にマンガンを含まない。ここで、「実質的にマンガンを含まない」とは、前記不動態化組成物が、10mg/l未満のマンガンを含むことを意味する。
【0032】
前記チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウム化合物は、好ましくは対応するヘキサフルオロ錯体であり、非常に特に好ましくはヘキサフルオロジルコン酸塩(hexafluorozirconate)である。
【0033】
前記不動態化組成物iv)は、好ましくは銅イオン及び/又は銅イオンを遊離する化合物を含み、且つ/又は亜鉛イオン及び/又は亜鉛イオンを遊離する化合物を含む。
【0034】
また、前記不動態化組成物iv)は、好ましくはオルガノアルコキシシラン、並びに/又はその加水分解生成物及び/若しくは縮合生成物を含む。
【0035】
前記オルガノアルコキシシランは、好ましくは少なくとも1種のアミノ基を有する。それは、特に好ましくは、アミノプロピルシラノールに、及び/又は2-アミノエチル-3-アミノプロピルシラノールに加水分解され得る、この種のオルガノアルコキシシランであり、且つ/又はビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンである。
【0036】
前記不動態化組成物はまた、ポリマー及び/又はコポリマーも含み得る。
【0037】
好ましい実施形態において、前記少なくとも1種の式Iの化合物は、R1及びR2が、両方ともHである式Iの化合物と、R1及びR2が、それぞれ互いに独立してHO-(CH2w-基(w≧2である)である式Iの化合物との混合物である。
【0038】
ここで、前記R及びRが、両方ともHである式Iの化合物と、前記R及びRが、それぞれ互いに独立して、HO-(CH-基(w≧2である)である式Iの化合物との質量%における混合比は、0.5:1~2:1の範囲、好ましくは0.75:1~1.75:1の範囲、特に好ましくは1:1~1.5:1の範囲(2-ブチン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルとして計算した)である。
【0039】
前記少なくとも1種の式Iの化合物において、R1及びR2は、好ましくは両方ともH、又はHO-(CH22-基であり、x及びyの合計は、2~5であり、Zは、C-C三重結合である。
【0040】
前記少なくとも1種の式Iの化合物は、2-ブチン-1,4-ジオール及び/又は2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルであることがさらに好ましい。
【0041】
前記少なくとも1種の式Iの化合物は、特に好ましくは2-ブチン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの混合物であり、前記質量%における混合比は、0.5:1~2:1の範囲、好ましくは0.75:1~1.75:1の範囲、特に好ましくは1:1~1.5:1の範囲である。
【0042】
本発明の方法によって処理される金属表面は、好ましくは金属片又は金属部品、例えば、車両の車体の表面である。
【0043】
前記金属表面は、裸鋼、電解亜鉛めっき鋼(electrolytically galvanized steel)、及び/又は溶融亜鉛めっき鋼(hot galvanized steel)、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を含み得る。
【0044】
好ましい実施形態において、前記金属表面は、裸鋼及び/又は亜鉛めっき鋼に加えて、アルミニウム又はアルミニウム合金をさらに含む(マルチメタル性能(multimetal capability)として知られている)。
【0045】
アクリレート系、及び/又はエポキシド系CEC(カソード電着コーティング)の場合、本発明の方法は、前記コーティングの改善された接着性、及び改善された腐食保護(corrosion protection)の点で、有利であることが見出されている。
【0046】
その後、任意に上塗り(topcoat)が、カソード電着コーティングされた金属表面にさらに塗布される。
【0047】
本発明はさらに、金属表面の防食処理における材料の腐食除去を低減するための水性組成物であって、前記組成物が上記の少なくとも1種の式Iの化合物を含む水性組成物を提供する。
【0048】
さらに、本発明は、適切な溶媒及び/又は分散媒、好ましくは水による希釈、並びに任意にpHの調整によって 本発明の水性組成物が得られる濃縮物を提供する。
【0049】
前記希釈係数は、好ましくは1:10~1:10000の範囲、特に好ましくは1:50~1:200の範囲である。
【0050】
最後に、本発明はまた、本発明の方法によって処理されている前記金属表面の使用方法も提供する。
【実施例
【0051】
本発明は、以下の比限定的な実施例によって説明される。
【0052】
i)腐食電流密度(current density)の測定:
[測定原理:]
裸鋼及び亜鉛めっき鋼上の材料の腐食除去の低減を評価するため、DC法を用い、具体的には、電流密度電位(current density-potential)を測定した。
【0053】
ここで、前記系は、外部電位(external potential)の印加によって平衡状態から押し出される。
【0054】
前記腐食プロセスを考慮すると、前記アノード反応及びカソード反応が進行する結果として、アノードサブ電流(anodic subcurrent)及びカソードサブ電流(cathodic subcurrent)が得られる。前記金属表面で、負の電流は還元プロセスのために得られ、正の電流は酸化反応のために得られる。
【0055】
前記カソード底流はカソード反応を表す。4以上のpHで、前記酸素の還元が支配的である。前記アノード底流は、前記アノード反応又は前記金属の酸化に相当する。サブ電流密度-電位曲線(subcurrent density-potential curve)は:
【数1】
から算出され得る。
【0056】
電気的中性基準のため、アノードサブ電流及びカソードサブ電流は、特定の電位で等しい大きさである。この点が残留電位である。前記カソードサブ電流及びアノードサブ電流のための上記の式から、腐食電位Ecorr、及び腐食電流密度Icorrを測定することが最終的に可能であり、それらから、試料の腐食挙動に関して結論を出すことが可能である。Ecorrは、前記残留電位を表す。Icorrは、前記残留電位で等しい大きさである前記カソードサブ電流及びアノードサブ電流に相当する。
【0057】
各サブ電流は、Tafel直線としてプロットされる。ここで、前記電流の対数が、前記電位に対してプロットされ、直線を形成する。前記腐食電位Ecorr、及び前記腐食電流密度Icorrは、前記サブ電流の対数の交点から読み取られ得る。前記評価は、前記曲線の直線部分で実施される。
【0058】
前記腐食電流密度Icorrが小さいほど、錆びの発生の傾向が小さくなり、加工対象物(workpiece)に対する腐食攻撃が抑制され、その結果として、低減が大きくなる。
【0059】
[実験手順(experimental setup):]
TAFEL提示(TAFEL presentation)(図1を参照)として、前記電流密度-電位曲線を用いて、種々の水性溶液A~Eを比較した。
【0060】
A:高腐食性、アルカリ性マルチメタル洗浄剤
B:3.35g/lのホウ酸塩(B23として計算した)を含む、高腐食性、アルカリ性マルチメタル洗浄剤
C:62.5mg/lのブト-2-イン-1,4-ジオール(but-2-yne-1,4-diol)、及び50mg/lの2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルを含む、高腐食性、アルカリ性マルチメタル洗浄剤
D:脱イオン水
E:62.5mg/lのブト-2-イン-1,4-ジオール、及び50mg/lの2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルを含む、脱イオン水
【0061】
前記腐食電位は、経時的に変化する。本発明との関連で、保護される前記金属は、長時間にわたって、電解質に恒久的に曝される。したがって、常に前記測定は、即時(Icorr即時)、及び1時間後(Icorr1時間後)に実施した。
【0062】
全ての測定は、裸鋼上、及び溶融亜鉛めっき鋼上の両方で実施した。例として、TAFEL提示の評価を、裸鋼(CRS)上の溶液Aについて、図1に示す。このような方法で測定された値を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
[評価:]
溶液A~Cについての測定値、次いで溶液D及びEについての測定を比較した。防食特性に関して、絶対腐食電流密度Icorrだけでなく、特に、即時の測定と1時間後の測定との間の差(ΔIcorr)が重要であった。
【0065】
特に亜鉛めっき材料の場合、先行技術(溶液A及びB)と比較して、絶対腐食電流密度Icorr及び1時間の期間にわたる差ΔIcorrの両方が、本発明に従う溶液Cの場合に、より低いことが分かる。
【0066】
このことは、前記プロセス中及びプラントの稼動停止(downtime)中の両方で、使用されたブト-2-イン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの混合物の防食特性を実証する。さらに、前記混合物は、強アルカリ性pH範囲(溶液A~Cを参照)だけでなく、pH中性及び塩中性溶媒中(溶液D及びEを参照)でも効果を有する。後者の場合、有意により低い差Δが、注目に値する。
【0067】
ii)材料の腐食除去の測定:
[測定原理:]
材料の腐食除去は、金属の質量損失が、抑制剤の添加によって低減されるパーセンテージを示す。定義した試験プレートを、対応する試験溶液中に浸漬する。表面上の質量損失を、前後に重量測定法で測定する。
【0068】
[実験手順:]
初めに、前記試験プレートを石油スピリット(petroleum spirit)で洗浄した。洗浄後の残留炭素含有量は、10mg/m2未満であった。溶融亜鉛めっき鋼で作られ、各洗浄された105×190mm試験プレートの質量を分析天秤で測定した。質量の測定の直後に、前記試験プレートを、それぞれ適切な試験溶液を含む3リットルガラスビーカー中に吊り下げた。前記溶液を40mmの磁気撹拌子を用いて撹拌した。前記ガラスビーカーの底部での撹拌速度は、400rpmであった。
【0069】
3分後、各試験プレートを、いずれの場合にも、前記溶液から取り出し、蒸留水ですすぎ、圧縮空気を用いて乾燥した。続いて、各試験プレートの質量を再び前記分析天秤で測定した。
【0070】
上記(「腐食電流密度の測定」、「実験手順」で)の通り先行技術の前記水性溶液A、B、及び本発明に従う前記溶液Cを、腐食抑制剤を含む場合、及び含まない場合で並行して試験した。
【0071】
[評価:]
各試験プレートについて、測定した前記2点の質量間の差を計算する。抑制されていない溶液中(Mn;溶液A)、及び抑制されている溶液中(Mi;溶液B又はC)の溶融亜鉛めっき試験プレートの前記質量損失(材料の腐食除去)から、以下の式:
【数2】
に従う計算によって、腐食抑制剤の抑制効果を計算することが可能である。
【0072】
前記結果を表2に要約する。
【0073】
【表2】
【0074】
前記抑制指数は、前記加工対象物に対する攻撃が、前記抑制剤(複数可)によって低減され得るパーセンテージを示す。抑制されていない前記溶液Aと比較して、この抑制指数が高いほど、前記前処理プロセスにおける防食特性が大きい。
【0075】
先行技術に従う前記アルカリ性洗浄剤B、及び本発明に従う前記アルカリ性洗浄剤Cについて、前記抑制指数を比較すると、使用されたブト-2-イン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの混合物は、有意により高い抑制指数を有することが明確に分かる。
【0076】
iii)結論:
実証された有意により低い腐食電流密度、及び測定された有意により高い抑制指数の両方が、防食特性、及びさらにpH中性及びアルカリ性溶媒中での式Iの化合物、ここではブト-2-イン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの混合物による材料の損失における低減を確認する。
【0077】
前記材料の損失における低減は、前記プロセスにおいて亜鉛めっきをほとんど除去せず、その結果として、前処理プラントの対応する洗浄剤ゾーンにおける会合したリン酸亜鉛スラッジを減少させるために必要である。
【0078】
さらに、より高い抑制指数、及び1時間後の前記腐食電流密度における低い差は、特に、過酷な条件及びプラントの稼動停止の期間中のより良好な防食特性と相関する。錆び膜の形成が防止される。このような方法で、式Iの化合物は、プラントの稼動停止後であっても、関連する加工対象物を保護転化層で処理し続けることを可能にする。
iv)コーティングの接着性及び腐食保護の測定:
裸鋼(CRS)で作られた試験プレートを、いずれの場合にも、高腐食性、アルカリ性マルチメタル洗浄剤で、45℃で180秒間、主水(mains water)(第一のすすぎ組成物)で30秒間、及び脱イオン水(第二のすすぎ組成物)で20秒間、連続して噴霧した。続いて、それらを転化組成物(表3を参照)で、30℃(転化組成物A’;下記参照)、又は40℃(転化組成物B’及びC’;下記参照)で120秒間、その後、脱イオン水(第三のすすぎ組成物)で20秒間噴霧した。最後に、前記試験プレートを、圧縮空気を用いて乾燥し、アクリレート系CECでコーティングし、格子カッティング試験(lattice cutting test)、石衝撃試験(stone impact test)及びNSS試験を行なった。
【0079】
異なる転化組成物A’~C’を使用した。これにより3種のプロセスの変形例(variant)が得られる。これらを、以下の表3に詳細に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
前記転化組成物A’は、pH5.2で0.2g/lのジルコニウム、それぞれ0.1g/lの亜鉛及びマンガン、0.3g/lの総フッ化物、並びに30mgの遊離フッ化物を含む酸性水溶液である。
【0082】
一方、前記転化組成物B’は、pH4.9で0.1g/lのジルコニウム、0.4g/lの亜鉛、0.1g/lの総フッ化物、2mg/lの銅、及び30mgの遊離フッ化物を含み、3.1mg/lのブト-2-イン-1,4-ジオール、及び2.5mg/lの2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルをさらに含む酸性水溶液である。
【0083】
最後に前記転化組成物C’は、pH4.9で0.1g/lのジルコニウム、0.4g/lの亜鉛、0.1g/lの総フッ化物、5mg/lの銅、及び30mgの遊離フッ化物を含み、31mg/lのブト-2-イン-1,4-ジオール、及び25mg/lの2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルをさらに含む酸性水溶液である。
【0084】
いずれの場合にも、0及び40時間後に、格子カット試験(lattice cut test)を、BMW AA-0264(試験)及びDIN EN ISO2409(方法)に従って実施し、並びにBMW AA-0264、BMW AA-079(試験)及びDIN EN ISO20567-1 (方法)に従って、石衝撃試験を実施した(コーティングの接着性を測定するため)。さらに、中性条件(neutral condition)下でNSS試験を、504時間後及び1008時間後に、DIN EN ISO9227NSS(試験)及びd-DIN EN ISO4628-8(方法)に従って実施した(腐食保護を測定するため)。
【0085】
このような方法で測定した値を以下の表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
本発明に従うプロセス変形例2及び3の優れた結果が明確に分かる。ここで、ブト-2-イン-1,4-ジオール及び2-ブチン-1,4-ジオールビス(2-ヒドロキシエチル)エーテルの混合物の前記転化組成物への添加は、プロセス変形例1との比較から分かるように、特に石衝撃試験、さらにはNSS試験(504及び1008時間後の)について、極めて優れた改善につながる。
【0088】
前記混合物の濃度を増加することによって生じる、前記NSS試験(504及び1008時間後の)におけるさらなる改善が、同様に観察され得る。このことは、前記プロセス変形例3と前記プロセス変形例2との比較から分かる。
図1