(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】3D印刷用カスタマイズチタン合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20220304BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220304BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
B22F1/00 R
(21)【出願番号】P 2018560799
(86)(22)【出願日】2017-05-09
(86)【国際出願番号】 US2017031691
(87)【国際公開番号】W WO2017200797
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2019-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-01
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519058147
【氏名又は名称】カーペンター テクノロジー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ヨルトン,チャールズ,エフ.
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】井上 猛
【審判官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104148658(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0040726(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0271336(US,A1)
【文献】特開2015-196254(JP,A)
【文献】2015 Annual Book of ASTM Standards,米国,ASTM International,2015年,Volume 10.04,799-804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで、以下の組成を有する、高強度Ti-6Al-4Vの等級5チタン粉末合金;
アルミニウム:6.3~6.7%
バナジウム:4.2~4.5%
鉄:0.25~0.4%
酸素:0.1~0.13%
窒素:0.02~0.05%
炭素:0.04~0.08%
水素:0~0.0125%
他の元素の合計:0~0.4%
チタン:残部。
【請求項2】
重量パーセントで、以下の組成を有する、高強度Ti-6Al-4Vチタン合金粉末を製造するために処方された出発棒材;
アルミニウム:6.44
バナジウム:4.28
鉄:0.20
酸素:0.09
窒素:0.04
炭素:0.05
水素:0.002
イットリウム:<0.001
チタン:残部。
【請求項3】
以下の元素の組み合わせ
:
アルミニウム
鉄
窒素
炭素
を、Ti-6Al-4Vの等級5チタン合金粉末または当該粉末を製造するために処方された出発棒材に加える工程を含
み、
上記合金粉末に対する、上記元素の重量パーセントが以下の通り:
アルミニウム:6.3~6.7%
鉄:0.25~0.4%
窒素:0.02~0.05%
炭素:0.04~0.08%
であり、上記合金粉末の酸素含有量が0.1~0.13重量%であり、かつ
上記棒材に対する、上記元素の重量パーセントが以下の通り:
アルミニウム:6.3~6.7%
鉄:0.15~0.30%
窒素:0.02~0.05%
炭素:0.04~0.08%
であり、上記棒材の酸素含有量が0.09重量%である、
Ti-6Al-4Vの等級5チタン合金粉末または当該粉末を製造するために処方された出発棒材の、3D印刷における最大再使用回数を可能にするために、酸素含有量を増加させずに、Ti-6Al-4Vの等級5チタン合金粉末または当該粉末を製造するために処方された出発棒材の強度を高める方法
。
【請求項4】
請求項1に記載の高強度Ti-6Al-4Vの等級5チタン粉末合金を、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融またはバインダージェット技術によって加工して3D印刷物を製造する工程を含む、3D印刷方法。
【請求項5】
3D印刷方法であって、
Ti-6Al-4Vチタン合金である再生粉末合金を、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融またはバインダージェット技術によって加工して3D印刷物を製造する工程を含み、
上記Ti-6Al-4Vチタン合金である再生粉末合金は、請求項1に記載の高強度Ti-6Al-4Vの等級5チタン粉末合金を、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融またはバインダージェット技術によって上記工程前に得られる、3D印刷方法。
【請求項6】
3D印刷方法であって、
Ti-6Al-4Vチタン合金を、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融またはバインダージェット技術によって加工して3D印刷物を製造する工程を含み、
上記Ti-6Al-4Vチタン合金は、請求項2に記載の高強度Ti-6Al-4Vチタン合金粉末を製造するために処方された出発棒材から調製される、3D印刷方法。
【請求項7】
請求項1に記載の高強度Ti-6Al-4Vの等級5チタン粉末合金と、
3D印刷機と、を含む3D印刷システム。
【請求項8】
上記3D印刷機は、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融をベースとしたシステムまたはバインダージェット技術をベースとしたシステムである、請求項
7に記載の3D印刷システム。
【請求項9】
請求項2に記載の高強度Ti-6Al-4Vチタン合金粉末を製造するために処方された出発棒材と、
3D印刷機と、を含む3D印刷システム。
【請求項10】
上記3D印刷機は、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融をベースとしたシステムまたはバインダージェット技術をベースとしたシステムである、請求項
9に記載の3D印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願に対する相互参照〕
本出願は、米国特許仮出願第62/338,018号(出願日:2016年5月18日、発明の名称:3D印刷用カスタマイズチタン合金)の優先権を主張する。
【0002】
〔本発明の背景〕
<1.本発明の技術分野>
3D印刷技術は、ポリマーベース材料システムの主流の製造方法になり、コンピュータベース製造方法において変革をもたらしている。ポリマーベース3D製造の成長は、基本印刷技術および既存のポリマー処方から始まった。該製造が成長を遂げると、技術およびポリマー処方は相乗的に発展し、所望の性能を提供した。金属ベース3D印刷はまだ成熟していないが、急速に成長し始めている。金属印刷技術は主に、電子ビームによる粉末床印刷システム、レーザー直接溶融、およびバインダージェット技術に絞られる。成長が初期段階であるため、合金組成物をカスタマイズして、3D製造部品全体の性能を最適化することはほとんど行われていない。適用される合金の中で、チタン等の耐熱合金はこの点で最も開発が遅れている。
【0003】
<2.先行技術の説明>
(問題点)
チタン部品の3D製造方法の主要な3つの方法全てにおいて、主なコストドライバーは、チタン粉末のコストである。その結果、チタン粉末の効率的な使用は、本製品の市場拡張を成功させるために必須である。粉末床印刷方法は、粉末から構成される構成成分が積層されるビルドボックス(build box)を利用する。完了時、ビルドボックスは粉末で満たされ、製造された構成部品は粉末で満たされたボックス内にある。印刷後、固まっていない粉末(loose powder)を部品の周りから除去し、部品に最終作業を施す。ビルドボックス内の粉末のほんの一部のみが部品に組み込まれるため、かなりの高コストの粉末を再利用するのに大きなインセンティブがある。
【0004】
チタン合金に適用される主な3つの3D印刷方法のうち、電子ビームおよびレーザー溶融による直接融解技術はチタン部品の製造の多くで用いられているが、過剰のチタン粉末に関して、工程を通じて各サイクルでの酸素ピックアップが問題となっている。チタン部品の最も一般的な合金は、Ti-6Al-4Vであり、当該合金は酸素の最大許容含有量が0.2wt%である等級5である。よって、製造業者らは、粉末中の酸素含有量が可能な限り低い状態で開始し、酸素含有量が規格の限界を超える前に粉末の再使用回数を最大数にしたいと考えている。
【0005】
同時に、3D印刷されたTi-6Al-4V部品の顧客らは、機械的な引張強さを最大限にしたいと考えている。高強度のTi-6Al-4V部品を達成するための典型的なアプローチは、酸素含有量をTi-6Al-4Vの等級5規格の上限値近くまでに高めることである。その結果、酸素含有量は規格で許容される量をすぐに超えてしまい得るので、酸素含有量を高めることによって、再使用回数は最小数となる。このため、Ti-6Al-4Vの等級5の組成に匹敵し、初期酸素含有量が低いにもかかわらず、高強度を達成し、再使用回数が最大数となる、カスタマイズ(custom)Ti-6Al-4V粉末合金組成物が必要となっている。
【0006】
〔本発明の概要〕
(課題を解決するための手段)
Ti-6Al-4Vの等級5合金に対してASTM B348の等級5規格を検討すると、酸素とは別に、強度を高めるために使用し得る、合金規格における他の高強度化元素が存在する。
【0007】
表1は、Ti-6Al-4Vの等級5合金の標準組成規格を示す。酸素は容易であり、一般的に単元素として強度に対して最も効果があるので、酸素は強度を高めるのに一般的に使用されている。強度に影響を与える他の元素には、アルミニウム、鉄、窒素、および炭素が含まれる。これらの元素はそれぞれ、強度に対して好ましい結果を与える。これらの元素は、3D印刷工程によって大きく影響を受けず、これらの元素の組み合わせによって、酸素による高強度と同様の高強度を達成させることができる。
【0008】
〔発明の詳細な説明〕
表2は、初期酸素含有量が高くない合金において、組み合わせたときに所望の強度を与える、アルミニウム、鉄、窒素および炭素の組成範囲を有する、Ti-6Al-4Vチタン粉末合金の規格を示す。したがって、このTi-6Al-4V組成物で製造された、3D印刷されたTi-6Al-4V部品の基準強度は、高酸素Ti-6Al-4Vおよび等級5部品と類似するが、粉末の最大使用数に対して望ましい低酸素量である。再使用の結果、粉末が酸素をピックアップするので強度はさらに高まり、強度曲線全体が高くなり、製造コストがかなり下がる。
【0009】
【0010】
【0011】
以下の表は、高強度Ti-6Al-4V粉末を製造するために処方された出発棒材(starting bar stock)の化学分析結果を示す。
【0012】
【0013】
実験によって測定した、本出発原料の室温における引張特性を、ASTM B348の等級5に要求される最低限の特性と共に、下記表に示す。
【0014】
【0015】
表4に示すように、等級5製品の一般的な酸素含有量よりも酸素含有量がはるかに下回っているにもかかわらず、強化Ti-6Al-4Vの室温における引張特性は、ASTM B348の等級5規格に要求される特性を満たす。本出発材料の粉末への転換によって、本質的に延性に悪影響を及ぼさずに、高強度を与える酸素含有量の微増をもたらす。
【0016】
本発明は、現状考えられる最も実用的で好ましい実施形態にて記述される。また、本発明は、開示された各実施形態に限定されるものではないことが理解されるべきである。一方、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神およびその範囲内において多様な修飾および同等の改変の範囲をカバーすることが意図されている。